説明

塗装ブース循環水の処理方法及び装置

【課題】水系塗料を使用する塗装ブースであっても塗料捕集用循環水から塗料成分を簡便に分離抽出することができる塗装ブース循環水の処理方法を提供する。
【解決手段】塗装ブース1の塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加するステップと、アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離するステップと、濾液を中和するステップと、中和された濾液を塗料捕集用循環水として再利用するステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブース循環水を処理する方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中塗り塗装や上塗り塗装などのように塗装ガンによる噴霧塗装を行う塗装ブースにおいては、オーバースプレーした塗料を集約して処理するための処理装置が設けられている。従来の処理装置では、塗装ブース床のスノコ下にピットを設け、ブースの両側から水を流し続けることで、オーバースプレーした塗料をピットに捕集する(特許文献1の図3参照)。
【0003】
ところで、塗料捕集用水を循環させることでオーバースプレーした塗料を捕集する場合、塗料が有機溶剤系塗料であるときには、分散剤や沈降剤としての界面活性剤を用いて循環水中に塗料を分散または沈降させることで捕集し、循環水から塗料を分離抽出したのち清浄な水を循環水として再利用するが、元来有機溶剤は水に溶けないので分離抽出処理は比較的容易に行うことができる。
【0004】
しかしながら、近時多用されつつある水系塗料は循環水に溶解してしまうので、循環水を再利用する場合に塗料成分を分離抽出することは、有機溶剤系塗料に比べて困難である。
【0005】
たとえば、電着塗料の再生装置にも多用されている限外濾過装置(UF:高圧をかけて逆浸透膜により塗料成分を分離する装置)を用いれば循環水から塗料成分を分離抽出することは可能である(たとえば、特許文献2参照)が、限外濾過装置は高価で、しかもランニングコストも高いという欠点がある。電着塗料の再生装置に利用する場合は、電着塗料が同一であるために電着塗料を再生処理することができ、これがランニングコスト増を補って余りあるが、上塗り塗装ブースでは多様な塗料が使用されるので、塗料を再生することは現実的には困難であり、再生できるのは循環水のみである。多色の中塗り塗料を使用する中塗りブースについても同様の理由がある。したがって、限外濾過装置を塗装ブースの再生処理に使用するのは非現実的であった。
【特許文献1】特開2000−93860号公報
【特許文献2】特開平6−55134号公報
【発明の開示】
【0006】
本発明は、水系塗料を使用する塗装ブースであっても塗料捕集用循環水から塗料成分を簡便に分離抽出することができる塗装ブース循環水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の塗装ブース循環水の処理方法は、塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加するステップと、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離するステップと、前記濾液を中和するステップと、前記中和された濾液を塗料捕集用循環水として再利用するステップとを有することを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の塗装ブース循環水の処理装置は、塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加する手段と、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離する手段と、前記濾液を中和する手段と、前記中和された濾液を塗装ブースに戻す手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
水を溶媒とする水系塗料にアルカリ性電解水などのアルカリ性溶液を加えるとゲル化する。これは、水系塗料は、樹脂成分を溶媒である水に分散させるためにカルボン酸などの酸性の極性基を有するが、これにアルカリ性溶液を加えると、それまで分散していた樹脂粒子が膨潤(ゲル化)するからである。本発明では、このことを利用し、塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加する。これにより、循環水中で塗料成分がゲル化するので、次の濾過処理によって容易に塗料成分と水成分とに分離することができる。濾過されて残渣となった塗料成分は、濃縮/乾燥などののち廃棄処分されるが、濾過された濾液は塗料成分が含まれない水であることから、酸性溶液によって中和したのち循環水として再利用することができる。
【0009】
本発明によれば、限外濾過装置などの高価な濾過装置ではなく簡便かつ廉価な濾過装置を用いて塗料成分と水とを分離することができ、また水を再生することができる。
【発明の実施の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る塗装ブースを示す断面図であり、中塗り塗装ブースや上塗り塗装ブースの何れにも適用することができる。特に、水系塗料を使用する塗装ブースに適用すると本発明の効果がより発揮される。
【0011】
同図に示すように、本実施形態に係る塗装ブース1は、トンネル状に形成されたパネル11と、ピット12とにより構成され、その内部の天井面13に天井フィルタが設けられ、床面14に簀の子(すのこ)が設けられている。これら天井フィルタが設けられた天井面13と簀の子が設けられた床面14との間が塗装室15を構成する。
【0012】
天井面13とパネルの天井との間には給気装置からの調和空気を案内する給気ダクト及び整流室16が設けられており、この整流室16にて整流された調和空気は天井フィルタを通過して塗装室15へ下向きに吹き出される。
【0013】
床面14に設けられた簀の子の下のピット12は、オーバースプレーした塗料(飛散塗料)の捕集室17とされ、樋18からオーバーフローした水が捕集板19を流れる際にこの飛散塗料を補足してピット12に集約したのち、本発明に係る循環水処理装置へ送られる。これら樋18及び捕集板19は塗装ブース1の長手方向全域にわたって設けられており、塗装ブース1に被塗物が搬入されているときは常時樋18から循環水がオーバーフローして捕集板19をながれている。なお、同図では省略するが、この捕集室17には排気装置が設けられており、塗装室15を通過して捕集室17へ流下した調和空気は、熱回収されたのち系外へ排気される。
【0014】
同図において二点鎖線で示すBは、被塗物である自動車ボディであり、塗装台車に搭載された状態で、床面14に設けられたフロアコンベアにより塗装ブース内を定速度で搬送される。
【0015】
本実施形態に係る循環水処理装置2は、塗装ブース1の捕集室17に捕集されたオーバースプレー塗料を含んだ循環水が導かれる第1のタンク21と、この第1のタンク21にアルカリ性溶液を添加するアルカリ性溶液添加装置22と、第1のタンク21にてアルカリ性溶液が添加された、塗料含有循環水を濾過する濾過装置23と、濾過装置23にて分離された濾液が導かれる第2のタンク24と、この第2のタンク24に中和剤を添加する中和剤添加装置25と、第2のタンク24にて中和された濾液を塗装ブース1の樋18に戻す配管26及びポンプ27と、を有する。
【0016】
第1のタンク21には、塗装ブース1の捕集室17に捕集された塗料含有循環水が、たとえばポンプなどを用いて定期的又は連続的に送られるが、この塗装ブース1にて使用される塗料が水系塗料だけでなく有機溶剤系塗料である場合には、塗装ブース1の捕集室17にて、またはこの第1のタンク21にて、分散剤又は沈降剤としての界面活性剤を添加し、有機溶剤系塗料の塗料成分及び溶剤成分が循環水の中で凝集するのを防止することが望ましい。
【0017】
アルカリ性溶液添加装置22は、第1のタンク21に導かれた塗料含有循環水にアルカリ性溶液を添加するものであり、第1のタンク21に流入する塗料含有循環水の量に応じたアルカリ性溶液を供給する。これにより、循環水に含まれた水系塗料の塗料成分(樹脂成分)がゲル化する。すなわち、アルカリ性溶液を第1のタンク21に添加すると、循環水に溶解した水系塗料に含まれる酸性極性基、たとえばカルボキシル基COOHがアルカリ性溶液と結合し、これにより極性を失うので、それまで好適に分散していた塗料樹脂成分が膨潤し、その結果ゲル化する。
【0018】
アルカリ性溶液としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液、水酸化アンモニウムまたは有機塩基を含有する水溶液、アルカリ性電解水を例示することができる。特に化学物質を含有しないので循環水の再利用の観点から、本例に係るアルカリ性水溶液としてアルカリ性電解水が最も好ましい。アルカリ性電解水をアルカリ性溶液に使用すると、水の電気分解の際に同時に生成される酸性電解水を後述する中和剤として利用することができ、pH調整も不要で、かつ酸性電解水を廃棄することもない。
【0019】
また、ここで添加するアルカリ性溶液のpHは、8〜12であることが好ましい。pHが8未満であると本発明の効果が少なく、またpHが12を超えると中和剤の使用量やコストが増加することがある。
【0020】
第1のタンク21にてアルカリ性溶液が添加された循環水は、濾過装置23に送られ、ここで濾液と残渣に分離される。本例の濾過装置23は、布フィルタ又はメッシュサイズが20〜100程度の粗いステンレスメッシュフィルタを用いた濾過装置であり、このフィルタによってゲル化した水系塗料成分と、界面活性剤にて分散又は沈降した有機溶剤系塗料成分が残渣として分離される。
【0021】
分離された残渣は、種々の顔料が無作為に混合してなるので塗料として再生することは困難である。したがって、集約した残渣を濃縮し乾燥したのち、廃棄処理する。
【0022】
濾過装置23を通過した濾液には、水系塗料成分及び有機溶剤系塗料成分は殆ど含まれていないが、アルカリ性溶液を添加したことによりpHが8〜11の中〜強アルカリ性溶液となっている。これをそのまま塗装ブース1の循環水として再利用すると、捕集室17内に塗料成分が沈着し、その除去作業が困難になる等の問題があることから、第2のタンク24に一旦集約し、中和剤添加装置25により中和剤を添加して中和する。中和剤としては、特に限定されず、塩酸や硫酸などの強酸などを用いることができるが、既述したように酸性電解水を用いることで、安全性や排水処理性が著しく高くなる。なお、この第2のタンク24における中和は厳密な意味での中和ではなく、上述した問題が生じない程度の範囲でpHを7近傍に調整する程度のものでよい。
【0023】
第2のタンク24にて中和された濾液は、ポンプ27によって吸引され、配管26を介して塗装ブース1の樋18に戻される。
【0024】
以上のとおり、本実施形態に係る循環水の処理方法及び処理装置によれば、布フィルタ又はステンレスフィルタといった簡便な濾過装置のみを用いることにより、循環水に溶解した水系塗料成分を分離することができ、そして、濾液たる循環水を再利用することができる。特に、アルカリ性溶液としてアルカリ性電解水を用い、中和剤として酸性電解水を用いると、取り扱い上の安全性が著しく向上し、また時間が経てば普通の水に戻るので後処理等の必要もない。
【0025】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る循環水の処理装置を塗装ブースに適用した一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1…塗装ブース
11…パネル
12…ピット
13…天井面
14…床面
15…塗装室
16…整流室
17…捕集室
18…樋
19…捕集板
2…循環水の処理装置
21…第1のタンク
22…アルカリ性溶液添加装置
23…濾過装置
24…第2のタンク
25…中和剤添加装置
26…配管
27…ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加するステップと、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離するステップと、前記濾液を中和するステップと、前記中和された濾液を塗料捕集用循環水として再利用するステップとを有する塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
前記アルカリ性溶液は、アルカリ性電解水を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
前記アルカリ性溶液のpHは、8〜12であることを特徴とする請求項1または2記載の塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項4】
前記濾液を中和するステップにおいて、酸性電解水を主成分とする中和剤を用いることを特徴とする請求項2または3記載の塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項5】
前記残渣は、濃縮処理及び/又は乾燥処理したのち廃棄処理されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項6】
塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加する手段と、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離する手段と、前記濾液を中和する手段と、前記中和された濾液を塗装ブースに戻す手段と、を有する塗装ブース循環水の処理装置。
【請求項7】
前記アルカリ性溶液は、アルカリ性電解水を主成分とすることを特徴とする請求項6記載の塗装ブース循環水の処理装置。
【請求項8】
前記アルカリ性溶液のpHは、8〜12であることを特徴とする請求項6または7記載の塗装ブース循環水の処理装置。
【請求項9】
前記濾液を中和する手段は、酸性電解水を主成分とする中和剤を用いることを特徴とする請求項7または8記載の塗装ブース循環水の処理装置。
【請求項10】
前記残渣を濃縮処理及び/又は乾燥処理する手段を有することを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の塗装ブース循環水の処理装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−181503(P2006−181503A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378911(P2004−378911)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】