説明

塗装ブース

【課題】 乾燥時間を加味した塗装作業時間を短縮し、塗装作業効率を著しく向上させ、また、作業場所を選ばず工場内のスペース効率を向上させ、環境基準をクリアし、水性塗料にも充分対応できる機能をもった塗装ブースを提供する。
【解決手段】 本塗装ブースは、直方体の塗装スペースの骨格を骨組部材1の底面を除く表面側をカバー部材8で覆うことにより、内部に塗装ルームが形成されている。カバー部材8の正面8aは、下から上にまくり上げられるようになっており、右側面8bには、排気開口部5と、その回りにフィルタ、排気ファン、排気ダクトが取付けられる排気手段取付枠6が設けられており、上面8eには、給気開口部とその回りに、乾燥機10を取付けるための乾燥機取付枠6が設けられている。塗装ブースと乾燥機10は、共に縦横に移動可能であるため、作業場所に拘束されず、スペース効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースに関し、より詳しくは、内部で塗装作業を行い得る塗装スペースを有し、外部との換気を行い得るように構成された塗装ブースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の塗装ブースとして、一般に乾式のバッフル式塗装ブースが知られている。このバッフル式塗装ブースは、前方を開放した矩形の箱形に形成され、箱形のブース本体内奥に、第1フィルタとしてのバッフル板が立設され、バッフル板の背後に第二フィルタが配設され、第二フィルタの背後に排気室が形成される。さらに、排気室の上部に排気ブロワが取り付けられ、排気ブロワの排気動作により、排気室、バッフル板、第二フィルタを通してブース本体内の空気を排気する。
ブース本体内で噴霧塗装ガンから塗料を噴霧して塗装を行う際、噴霧塗装ガンから噴霧されブース本体内に放散した塗装ミストをバッフル板(第一フィルタ)および第二フィルタを通して吸引して塗装ミストを捕集し、塗装ミスとの飛散を防止するようにしている。
また、従来の塗装ブースの形式としては、ブース内に渦巻き室を設け、その渦巻室で排気に渦巻きを生じさせ、その渦巻きにより空気と塗装ミストを分離させ分離した塗装ミストを水槽内に捕集する構造をなしたベンチュリー式ブースがある。
また、他の形式として、オイル循環式塗装ブースも知られている。
【0003】
ところで、例えば自動車の外板パネル等の鈑金作業に伴い、必ず塗装作業が行われる。そして、その塗装が施されるパネルの大きさとしては、1枚から2枚という作業パネルが全体の70〜80パーセントを占めている。
このような小さなパネルの作業においても有機溶剤の使用の制約や作業場所(環境)に制約がある。このような制約を満たすために、本格的に密閉した箱型をなし、鉄板や断熱材等を用いた本格的な塗装ブースを使用して作業が行われることが多い。
しかしながら、上記本格的な塗装ブースは、高価であり、1〜2枚のパネルの塗装には、経済性に欠ける。
このため、従来においては、ビニール材を使用した簡易型の塗装ブースを使用して塗装作業を行っているのが実情である。
上述した本格的な塗装ブースと簡易型の塗装ブースのいずれにおいても、殆ど固定式であり、場所的な制約を伴い、作業場所の有効活用という面で、不都合がある。
また、鈑金塗装の作業工程の面から見ると、パテやサーフェーサ塗布などの下地処理・調色作業・上塗り乾燥作業があり、従来の塗装ブースにおいては、乾燥作業に膨大な時間がかかってしまい、作業効率上、問題があった。
【0004】
また、近年、鈑金塗装業界における有機溶剤に関し、PRTR法(PollutantRelease and Transfer Register:化学物質排出把握管理推進法)・VOC対策(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物対策)・消防法等の観点から、自動車メーカの生産ラインのみならず、補修業界においても環境問題対策を講ずる必要がある。
このような背景から、使用材料も変遷がなされており、補修業界においては、溶剤使用率の低い低溶剤タイプや、キシレン・トルエンといった特定化学薬品の指定がなされた溶剤を削減すべく、それに代わる低溶剤タイプの塗料が市場に投入されてきている。
また、脱臭の問題、低溶剤の問題、上述したPRTR法問題、VOC対策の問題等々から、水性塗料が市場に多く投入され始めてきているので、補修業界、即ち、塗料のユーザ側においても、上記材料の変遷と共に、作業技術や作業環境の見直しが必要になってきている。
例えば、水性塗料を用いた場合には、乾燥が非常に遅いため、作業スピードが低下し、コストの上昇の要因となる。
【0005】
因みに、従来の塗装ブースとして、特許文献1にガソリンスタンドの敷地内で安全に車体鈑金塗装作業を行うことができる塗装ブースが提案されている。
即ち、特許文献1に記載のガソリンスタンド用車体鈑金塗装ブースは、鈑金塗装するための車体鈑金塗装スペースと、該車体鈑金塗装スペースの上方に設けられた天蓋部と、該天蓋部に設けられ且つ外気を該車体鈑金塗装スペースに取り入れるための防爆給気ファンと、該天蓋部に設けられた該防爆給気ファンによって取り入れられた空気を浄化するための給気フィルタと、該車体鈑金塗装スペースの側周面のいずれかの面に設けられ且つ該車体鈑金塗装スペース内の汚れた空気を浄化するための排気フィルタと、該排気フィルタの外側に設けられ該排気フィルタによって浄化された空気を貯留するための排気ボックスと、該排気ボックスに設けられ且つ該排気ボックス内の貯留された空気を外へ排気するための防爆排気ファンと、該防爆給気ファン及び該防爆排気ファンを制御するための制御盤と、を有するようにしたものである。
このように構成された塗装ブースによれば、車体鈑金塗装スペース内に浮遊するシンナー等の引火性ガス、可燃性ガス及び塗料等に引火するおそれがなく、作業環境も良好で、消防法を始めとして、VOC対策をも配慮したものと考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−342584
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の塗装ブースは、必ずしも安価ではなく、場所的な制約もあり、塗装作業効率がよいものではなく、延いては、塗装コストが高くならざるを得ない、という難点がある。
本発明は、上述した諸事情に鑑みてなされたもので、その第1の目的とするところは、乾燥時間を加味した塗装作業時間を短縮し、塗装作業効率を著しく向上させ得る塗装ブースを提供することにあり、第2の目的とするところは、作業場所を選ばず、工場内のスペースを有効に使うことができる塗装ブースを提供することにあり、第3の目的とするところは、作業者が環境基準をクリアした塗装ルーム内で安心して作業を行い得る塗装ブースを提供することにあり、第4に、近時増加傾向にある水性塗料・低溶剤塗料タイプの塗料にも十分に対応できる機能を備えた塗装ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1、第3および第4の目的を達成するために、内部で塗装作業を行い得る塗装スペースを有し、外部との換気を行い得るように構成された塗装ブースにおいて、
塗装スペースの骨格を形成する骨組部材と、
前記骨組部材に支持されて、少なくとも、周側面および天井面を覆って塗装ルームを形成する部材であって、前記天井面に給気開口部が形成され、前記側周面の一部に排気開口部が形成され、少なくとも側周面の一部が開放可能とされたカバー部材と、
前記給気開口部に離脱可能に連接される送風機能付きの乾燥機と、
前記排気開口部に、それぞれ設けられたフィルタ、排気ファンおよびダクトホースと、
を具備し、
前記塗装ルーム内に前記乾燥機により加熱された状態の外気を導入し、
前記排気ファンにより塗装ルーム内の空気を前記ダクトホースを介して外部に排出させ得るように構成したことを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成するために、前記骨組部材の下部にキャスタが取付けられ、床上を自在に移動し得るように構成したことを特徴としている。
請求項3に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成するために、前記骨組部材は、全体がほぼ直方体の塗装スペースを形成し、最外側の縦枠を形成する左右一対の骨組部材を前記カバー部材と共に、内側方向に接近および離間させ、塗装ルームを縮小または拡張させ得るように構成したことを特徴としている。
請求項4に記載の発明に係る塗装ブースは、上述の第1〜第4の目的を達成するために、前記縦枠を構成する前記最外側の骨組部材と、該骨組部材に平行状態で隣接する内側の骨組部材との間を、パンタグラフ機構で互いに連結させてなることを特徴としている。
請求項5に記載の発明に係る塗装ブースは、上述の第1〜第4の目的を達成するために、前記乾燥機は、別途建物の天井に縦横に配設されたガイドレールに沿って、縦横に移動可能とし、且つ上下方向にも昇降可能とし、所望位置で停止させ得るように構成したことを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成させるために、前記乾燥機は、アーム手段により上下方向に移動可能であると共に、前記アーム手段の先端側付近において水平軸および垂直軸を中心に回動可能であると共に、前記アーム手段の下部に設けられたキャスタにより、床上を移動可能とされ、反射区画体を有する筐体が前記給気開口部に当接され得るように構成したことを特徴としている。
請求項7に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成するために、前記乾燥機は、前記給気開口部に当接する前記筐体の背後もしくは送風手段の背後の吸気側の位置に除塵用のフィルタを配設してなることを特徴としている。
請求項8に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1、第3および第4の目的を達成するために、前記送風手段は、前記筐体の前記通気空間または前記所要の送風空間乃至所要の送風用間隙に突出するヒータ管の端子部を冷却しながら、塗膜に送風を与えるように構成してなることを特徴としている。
請求項9に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成するために、前記カバー部材の少なくとも一部は、半透明な合成樹脂製のシートからなり、隣接するシートとの間は、面ファスナを介して係合・離脱させ得るように構成してなることを特徴としている。
【0011】
請求項10に記載の発明に係る塗装ブースは、上述した第1〜第4の目的を達成させるために、被塗装対象の自動車を塗装ブースの周側面に停車させた状態で、または塗装ブース自体を前記自動車の被塗装面に相対する位置に移動させた状態で、前記カバー部材の一部をまくり上げ、前記自動車の被塗装面を前記カバー部材で囲い込み、前記被塗装面を前記塗装ルーム内に露出させた状態で前記塗装ルーム側で、塗装作業を行い得るように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、
内部で塗装作業を行い得る塗装スペースを有し、外部との換気を行い得るように構成された塗装ブースにおいて、
塗装スペースの骨格を形成する骨組部材と、
前記骨組部材に支持されて、少なくとも、周側面および天井面を覆って塗装ルームを形成する部材であって、前記天井面に給気開口部が形成され、前記側周面の一部に排気開口部が形成され、少なくとも側周面の一部が開放可能とされたカバー部材と、
前記給気開口部に離脱可能に連接される送風機能付きの乾燥機と、
前記排気開口部に、それぞれ設けられたフィルタ、排気ファンおよびダクトホースと、
を具備し、
前記塗装ルーム内に前記乾燥機により加熱された状態の外気を導入し、
前記排気ファンにより塗装ルーム内の空気を前記ダクトホースを介して外部に排出させ得るようにしたので、第1に、塗装ルーム内が適度に加熱、乾燥され、塗装後の塗料の乾燥が促進され、乾燥時間を加味した総塗装作業時間を短縮し、塗装作業効率を著しく向上させることができ、
第2に、塗装ルーム内は適度な流速および流量で外気を導入し、排気ファンとフィルタにより塗装ミストや溶剤などを外部に放出させることにより、作業者は、良好な作業環境の下で、特に、水性系塗装でも高品質、且つ効率的に行うことができ、
第3に、骨組部材と、カバー部材を本体とし、これに乾燥機と、換気手段を付設するという簡素な構成であるため、低価格で効率的な塗装ブースを提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、
前記骨組部材の下部にキャスタが取付けられ、床上を自在に移動し得るようにしたので、作業場所を選ぶことなく、特に、動かし難い被塗装対象の場合でも、その被塗装対象の場所に容易に移動して設置することができ、さらには工場内のスペースを有効に活用し得る塗装ブースを提供することができる。
請求項3に記載の発明によれば、
前記骨組部材は、全体がほぼ直方体の塗装スペースを形成し、最外側の縦枠を形成する左右一対の骨組部材を前記カバー部材と共に、内側方向に接近および離間させ、塗装ルームを縮小または拡張させ得るようにしたので、塗装作業を行わないときは、塗装ルームを縮小させることができ、また、被塗装対象物が小さなサイズのときも、折り畳むことで占有場所を縮小し得る塗装ブースを提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、
前記縦枠を構成する前記最外側の骨組部材と、該骨組部材に平行状態で隣接する内側の骨組部材との間を、パンタグラフ機構で互いに連結させるので、簡素な構成で、占有スペースの効率化を図り得る塗装ブースを提供することができる。
請求項5に記載の発明によれば、
前記乾燥機は、別途建物の天井に縦横に配設されたガイドレールに沿って、縦横に移動可能とし、且つ上下方向にも昇降可能とし、所望位置で停止させ得るように構成したので、塗装ブースが固定式でも移動式でも対応が可能であり、しかも重量物である乾燥機の重量を骨組部材に負担させないので、骨組部材の軽量化、低コスト化を実現可能な塗装ブースを提供することができる。
請求項6に記載の発明によれば、
前記乾燥機は、アーム手段により上下方向に移動可能であると共に、前記アーム手段の先端側付近において水平軸および垂直軸を中心に回動可能であると共に、前記アーム手段の下部に設けられたキャスタにより、床上を移動可能とされ、反射区画体を有する筐体が前記給気開口部に当接され得るように構成したので、塗装ブースが、固定式でも移動式でも対応が可能であり、さらには、乾燥機として、専ら塗膜の乾燥に用いられるものを流用することができ、その分、設備投資の費用を抑えることが可能であり、しかも重量物である乾燥機の重量を骨組部材に負担させないので、骨組部材の軽量化、低コスト化を実現可能な塗装ブースを提供することができる。
特に、請求項5および6に記載の発明に係る乾燥機は、水平移動および垂直移動が可能であるため、塗装時には給気開口部に当接して塗装ブースの内部と連通状態としておき、乾燥時には、給気開口部から引き離し、乾燥が必要な被塗装対象面に移動し且つ乾燥機の反射区画体を有する筐体(熱風射出部)を被塗装面に対し所定の距離を離して設置して乾燥することができ、乾燥時間を著しく短縮することができると共に換気用と乾燥用に兼用できるので、その分、設備コストを下げることができ、且つスペース効率も向上する。
【0014】
請求項7に記載の発明によれば、
前記乾燥機は、前記給気開口部に当接する前記筐体の背後もしくは送風手段の背後の吸気側の位置に除塵用のフィルタを配設してなるものを使用するので、外部から清浄な空気を給気開口部からフィルタを介して、導入することができ、塗膜面に外部からの塵埃が付着することによる塗膜の品質を損なうことが防止されると共に作業者の作業環境も良好に維持し得る塗装ブースを提供することができる。
請求項8に記載の発明によれば、
前記送風手段は、前記筐体の前記通気空間または前記所要の送風空間乃至所要の送風用間隙に突出するヒータ管の端子部を冷却しながら、塗膜に送風を与えるように構成してなるので、複数のヒータ管の各発熱部のより高温の発熱をもって、塗膜の広い面積をより短時間に乾燥させ得る塗装ブースを提供することができる。
請求項9に記載の発明によれば、
前記カバー部材の少なくとも一部は、半透明な合成樹脂製のシートからなり、隣接するシートとの間は、面ファスナを介して係合・離脱させ得るように構成したので、簡素で且つ安価な構成で、使い勝手のよい塗装ブースを提供することができる。
【0015】
請求項10に記載の発明によれば、
被塗装対象の自動車を塗装ブースの周側面に停車させた状態で、または塗装ブース自体を自動車の被塗装面に相対する位置に移動させた状態で前記カバー部材の一部をまくり上げ、前記自動車の被塗装面を前記カバー部材で囲い込み、前記被塗装面を前記塗装ルーム内に露出させた状態で前記塗装ルーム側で、塗装作業を行い得るように構成したので、被塗装対象の自動車が大型であっても、被塗装面をカバー部材で囲い込んで、塗装ルームの内部から、塗装作業を行うことで対応することができ、しかも塗装ミストを直接塗装工場内に放出することを抑止し得る塗装ブースを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る塗装ブースを説明する。
図1は、本発明に係る塗装ブースの第1の実施の形態の骨組部材を中心とした模式的構成を斜め上方から見た斜視図、図2は図1に示す塗装ブースの骨組部材等の模式的構成を真上から見た斜視図である。
図1、図2において、骨組部材1は、全体がほぼ直方体の塗装スペースを形成し、左右4本の縦枠1a、1b、1c、1dおよび1e、1f、1g、1hと、天井枠1i、1j、1k、1l、1m、1nと、横枠1o、1p、1q、1r、1sと、パンタグラフ機構2a、2bおよび2c、2dとから構成されている。
図1、図2においては、縦枠1a〜1dと天井枠1i〜1lと縦枠1e〜1gとは、それぞれ一体のものとして形成されているが、別部材として製作し、溶接、その他の手段で、接合してもよい。
【0017】
4つのパンタグラフ機構2a、2b、2c、2dは、骨組部材1の最外側の縦枠1a、1d、1e、1hとこれらにそれぞれ平行状態でそれぞれ隣接する内側の縦枠1b、1c、1f、1gとの間に、X字状に互いに連結されており、下端側と各縦枠1a〜1hとの各連結部は、互いに回動可能に連結されているのに対し、上端側と各縦枠1a〜1hとの連結部は、上下方向に摺動可能に連結されている。
最外側の骨組部材1である縦枠1a、1d、1e、1hと、これらと平行状態で隣接する内側の骨組部材である縦枠1b、1c、1f、1gとは、上記パンタグラフ機構の作用により、互いに接近する方向(内側方向)および離反する方向(外側方向)に平行状態を維持したまま、接近または離反する。
天井面には、給気開口部3が設けられ、その周囲部には、後述する送風機能付きの乾燥機10を取付けまたは当接するための乾燥機取付枠4が天井枠1jと1kとの間に設けられている。
また、塗装スペースの周側面の一部(図2においては上部)には、排気開口部5が設けられ、その周囲部には、後述するフィルタ、排気ファンおよびダクトホースを取付けるための排気手段取付枠6が、横枠1rと1sとの間に設けられている。
【0018】
各縦枠1a〜1hの下端には、キャスタ7が設けられており、床上等を自由に移動し得るように構成されている。
以上が塗装スペースの骨格を形成する骨組部材1の構成である。
次に、上記骨組部材1に、カバー部材8を掛けた状態の塗装ブースについて図5を参照しつつ説明する。
カバー部材8は、四つの周側面、即ち、正面8a、右側面8b、左側面8c、背面8dと天井面8eとから構成されている。カバー部材8の正面8aは、被塗装対象物、例えば、自動車が出入りできるように、上方にまくり上げ、落ちないように係止具(図示せず)が設けられている。
カバー部材8としては、厚手のビニール材を裁断、縫製、融着、接着鋲止めあるいは、面ファスナ等の手段により、接合あるいは成形される。図5において、正面8aおよび背面8dの四隅の太枠の矩形状部分は、厚手の不透明な補助カバー9となっている。
【0019】
補助カバー9の各下端部には、厚手のスカート部9aが設けられており、カバー部材8の下端部と設置面との間を閉塞し、内部の空気が漏れ難いようになっている。
また、補助カバー9は、隣接するカバー部材8aと8bおよびカバー部材8aと8cとの間が面ファスナで接合されているため、その接合部で空気の流入するのを阻止する役割を有している。
【0020】
次に、図3および図4を参照して、本発明の塗装ブースのスペースの有効活用について説明する。図3においては、塗装スペースは最大となっている。これに対して、図4においては、最外側の縦枠1dとその内側の縦枠1cと、最外側の縦枠1hとその内側の縦枠1g、との間を、内側に強く押して両者を接近させると、各縦枠間に設けられたパンタグラフ機構2bと2dの平行移動機能により互いに平行状態を維持しつつ、図4に示すようにカバー部材8が折り畳まれる。これにより塗装ブースは、内部の塗装面積が縮小されるが、これは、塗装ブースの占有空間を少なくして、スペース効率の一層の向上となる。
次に、図5と図6を用いて、本発明の塗装ブースに、送風機能付きの乾燥機の着脱機能について説明する。
図5に示す乾燥機10は、別途建物の天井に配設された一対の縦方向レール100aとこの縦方向レールに摺動可能に嵌合される横方向レール100bとによって支持されており、さらに、パンタグラフにより上下方向に支持され、所望の位置で、係止されるが、これによって、乾燥機は、上記ガイドレールに沿って、縦横に移動可能となっており、且つ上下方向にも昇降可能となっている。尚、乾燥機10の塗装ブースの乾燥機取付枠4への取付けは、必ずしもボルト・ナット等の緊締手段を用いて固定する必要はなく、両者の当接部に耐熱性のあるシーリング材を介在させ、乾燥機10をそのシーリング材を有する乾燥機取付枠4に当接させるように構成してもよい。
【0021】
図6は、乾燥機10を、移動スタンド手段によって塗装ブースの給気開口部に当接するようにした第2の実施の形態に係る斜視図である。
即ち、乾燥機の筐体部10aは、アーム手段11により、上下方向に移動可能であると共に、アーム手段11の先端側付近において、図には、現われない水平軸および垂直軸を中心に回動可能であると共に、アーム手段11の下部に設けられたキャスタ12により床上を移動可能とされ、反射区画体を有する筐体部10aが給気開口部3の乾燥機取付枠4に当接させるように構成してある。
乾燥機10は、給気開口部3に当接する筐体部10aの背後もしくは送風手段の背後の吸気側の位置に除塵用のフィルタを配設してあるため、送風により塗膜の品質を損なうことを有効に防止することが可能である。
また、送風手段は、筐体部10aの前記通気空間または所要の送風用空間乃至所要の送風用間隙に突出するヒータ管の端子部を冷却しながら、塗膜に送風を与えるように構成してある。このため、端子部の温度をより低温に冷却することが可能で、これにより発熱部の発熱温度をより高温にすることが可能となり、延いては、塗膜の乾燥時間をより短縮することが可能となる。
【0022】
ところで、本発明は、塗装ブースの内部(塗装ルーム)で塗装することが主であるが、例えば、自動車のサイドドア、フェンダ、トランク、バンパー、ボンネット等の一部の外表面が損傷した場合などにおいては、本塗装ブースの周側面(例えば、正面8a)に沿って自動車を停車させ、または塗装ブースを自動車の被塗装面側方に移動させた状態で正面8aのカバー部材をまくり上げ、自動車の被塗装面をカバー部材で囲い込み、被塗装面を塗装ルーム内に露出させた状態で塗装ルーム側で塗装作業を行えるように構成してある。この場合、塗装ブースの内部は、広いスペースが必要がないので、上述したように、最外側の枠を、内側方向に移動し、カバー部材を折畳んでおくことが、スペース効率上、好ましい。
尚、自動車の被塗装面をカバー部材8で囲い込む際、自動車と塗装ブースとの間に隙間が生じる可能性があるが、その場合、補助的なカバー部材を粘着テープ、面ファスナ、フック等により連接して、上記隙間を目張りするように、張り渡すことが望ましい。
カバー部材8は、周側面の一部、例えば、正面8aだけをまくり上げられるように構成してあるが、これに限らず、他の左・右側面、8b、8c、背面8dなども、開放可能にしておいてもよく、この場合は、各周側面間は、面ファスナやホックなどで互いに連接可能なように構成することもできる。
【0023】
上述のように構成された本発明の塗装ブースは、例えば、被塗装対象物を塗装ルーム内に移動し、または、塗装ブースを被塗装対象物まで移動し、塗装の準備をする。
そして、乾燥機10と排気ファン(図示せず)の回転起動させる。乾燥機10は、塗装中はヒータには通電しないか、小電力を供給し塗装ルーム内を換気状態にする。(いわゆるプッシュプル構造とする)。
塗装が完了した後、乾燥機10のヒータの供給電力を所定の値として、強力に塗膜を乾燥させる。塗膜の乾燥には、塗装工程によって異なるが、下処理(パテ・サーフェーサー)・調色作業・上塗り作業等において、適正な温度、乾燥時間が設定される。
いずれの乾燥工程においても、被塗装対象物を塗装ルーム内に置いた状態で迅速に乾燥作業が行えるので、従来装置に比べて大幅な作業効率の改善が見られる。
乾燥機10は、塗装作業終了後、給気開口部3から引離し、被塗装対象面近傍に筐体部(熱風吐出部)を配設し、直接被塗装面を乾燥させる。
因に、従来の本格的な塗装ブースと、本発明に係る簡易型の塗装ブースの能力について説明する。
【0024】
従来の本格的な塗装ブースの形状は一例として、高さ2500mm、幅4000mm奥行7000mmであり、この塗装ルームにおける一般的な給気ファンの容量は、340〜430m/分であり、排気ファンの容量は340〜430m/分となっている。
これに対し、本発明に係る塗装ブースの形状は、高さ2000mm、幅2600mm、奥行き2100mmである。
本発明に係る乾燥機10の給気ファンの容量は40〜44m/分、排気ファンの容量は、37〜55m/分であるが、上記従来の本格的塗装ブースの換気性能と比較しても差異はなく、むしろ風速においては、一般的には0.2〜0.4m/分であるのに対し、本発明に係る塗装ブース内における風速は、本格的なブースよりは、2〜3倍速くなっている。以上の点からみても、水性塗料等の蒸発の遅いタイプの塗料や、高沸点の液状タイプの塗料に対しても充分対応が可能であり、良好な効果を発揮することができる。
ところで、本発明に係る塗装ブースは、現場作業における作業場所としては、固定式ではなく、骨組部材の下部にキャスタが取り付けられており、また、乾燥機10を支持するスタンド式のアーム手段にもキャスタが取付けられており、さらには、乾燥機10を吊下げるタイプのものにあっては、ガイドレールによって縦横に移動可能になっているため、自由自在に塗装場所、乾燥場所を変えることが可能であるため工場内のスペースを有効に活用することができる。
【0025】
従来の塗装ブースは、下地処理工程が終了後、塗装場所に修理車を移動して上塗作業を行わなければならない、という不都合があったが、本発明に係る塗装ブースによれば、パネル1〜2枚程度の修理面積であれば、場所を選ばず、同じ場所で下地塗装から上塗り、そして乾燥作業まで行うことが可能となる。
このことは、鈑金塗装作業の大幅な効率化を実現することを意味し、同時に塗装に関連する機材の大幅なコスト低減にも寄与することになる。
また、本発明に係る塗装ブースは、送風機能を有する乾燥機が水平移動および垂直移動が可能であるため、乾燥機を、塗装時には給気開口部に当接して塗装ブースの内部と連通状態として換気用として使用し、乾燥時には、給気開口部から引き離し、乾燥が必要な被塗装対象面に移動し且つ乾燥機の反射区画体を有する筐体(熱風射出部)を被塗装面に対し所定の距離を離して設置して乾燥に使用することができ、乾燥時間を著しく短縮することができると共に換気用と乾燥用に兼用できるので、その分、設備コストを下げることができ、且つスペース効率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る塗装ブースの主として骨組部材の模式的構成を斜め上方から見た斜視図である。
【図2】図1に示す塗装ブースの骨組部材の模式的構成を真上から見た斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る塗装ブースの骨組部材にカバー部材を取付けた状態を真上から見た斜視図である。
【図4】図3の塗装ブースにおいて、最外側の縦枠をなす骨組部材をカバー部材と共に内側に移動して塗装ブースのサイズを小さく変形させた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の塗装ブースに、天吊型の乾燥機を装着した状態の第2の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の塗装ブースに、スタンド式の乾燥機を装着した状態の第3の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 骨組部材
1a、1b、1c、1d、1e、1g、1h 縦枠
1i、1j、1k、1l、1m、1n 天井枠
1o、1p、1q、1r、1s 横枠
2a、2b、2c、2d パンタグラフ機構
3 給気開口部
4 乾燥機取付枠
5 排気開口部
6 排気手段取付枠
7 キャスタ
8 カバー部材
8a 正面
8b 右側面
8c 左側面
8d 背面
8e 天井面
9 補助カバー
9a スカート部
10 乾燥機
10a 筐体部
11 アーム手段
12 キャスタ
100a 縦方向レール
100b 横方向レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で塗装作業を行い得る塗装スペースを有し、外部との換気を行い得るように構成された塗装ブースにおいて、
塗装スペースの骨格を形成する骨組部材と、
前記骨組部材に支持されて、少なくとも、周側面および天井面を覆って塗装ルームを形成する部材であって、前記天井面に給気開口部が形成され、前記側周面の一部に排気開口部が形成され、少なくとも側周面の一部が開放可能とされたカバー部材と、
前記給気開口部に離脱可能に連接される送風機能付きの乾燥機と、
前記排気開口部に、それぞれ設けられたフィルタ、排気ファンおよびダクトホースと、
を具備し、
前記塗装ルーム内に前記乾燥機により加熱された状態の外気を導入し、
前記排気ファンにより塗装ルーム内の空気を前記ダクトホースを介して外部に排出させ得るように構成したことを特徴とする塗装ブース。
【請求項2】
前記骨組部材の下部にキャスタが取付けられ、床上を自在に移動し得るように構成してなることを特徴とする請求項1に記載の塗装ブース。
【請求項3】
前記骨組部材は、全体がほぼ直方体の塗装スペースを形成し、最外側の縦枠を形成する左右一対の骨組部材を前記カバー部材と共に、内側方向に接近および離間させ、塗装ルームを縮小または拡張させ得るように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の塗装ブース。
【請求項4】
前記縦枠を構成する前記最外側の骨組部材と、該骨組部材に平行状態で隣接する内側の骨組部材との間を、パンタグラフ機構で互いに連結させてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装ブース。
【請求項5】
前記乾燥機は、別途建物の天井に縦横に配設されたガイドレールに沿って、縦横に移動可能とし、且つ上下方向にも昇降可能とし、所望位置で停止させ得るように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装ブース。
【請求項6】
前記乾燥機は、アーム手段により上下方向に移動可能であると共に、前記アーム手段の先端側付近において水平軸および垂直軸を中心に回動可能であると共に、前記アーム手段の下部に設けられたキャスタにより、床上を移動可能とされ、反射区画体を有する筐体が前記給気開口部に当接され得るように構成してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装ブース。
【請求項7】
前記乾燥機は、前記給気開口部に当接する前記筐体の背後もしくは送風手段の背後の吸気側の位置に除塵用のフィルタを配設してなることを特徴とする請求項5または6に記載の塗装ブース。
【請求項8】
前記送風手段は、前記筐体の前記通気空間または前記所要の送風空間乃至所要の送風用間隙に突出するヒータ管の端子部を冷却しながら、塗膜に送風を与えるように構成してなることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の塗装ブース。
【請求項9】
前記カバー部材の少なくとも一部は、半透明な合成樹脂製のシートからなり、隣接するシートとの間は、面ファスナを介して係合・離脱させ得るように構成してなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗装ブース。
【請求項10】
被塗装対象の自動車を塗装ブースの周側面に停車させた状態で、または塗装ブース自体を被塗装面に相対する位置に移動させた状態で、前記カバー部材の一部をまくり上げ、前記自動車の被塗装面を前記カバー部材で囲い込み、前記被塗装面を前記塗装ルーム内に露出させた状態で前記塗装ルーム側で、塗装作業を行い得るように構成したことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗装ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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