説明

塗装前処理剤およびそれを用いた塗装方法

【課題】脱脂、除錆を行うとともに、各工程での水洗いを省略でき、発錆し難い化成被膜を形成して、その上に設けられる塗膜との接着性や防錆性を向上させる塗装前処理剤を提供する。
【解決手段】鉄鋼部材1に付着した油脂、錆を除去するとともに、鉄成分と結合してりん酸鉄系化成被膜2を形成する塗装前処理剤であって、この塗装前処理剤は、りん酸、油脂系湿潤剤、酸食抑制剤、界面活性剤を有する除錆兼被膜形成剤15〜25重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、メタノールを有する脱脂強化剤0.1〜1.0重量%、水から構成される。りん酸鉄系化成被膜2には、相性のよい一般の塗膜3、4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、塗装前の鉄鋼部材に表面処理を施す塗装前処理剤およびそれを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電盤、制御盤などの筐体に用いられる鉄鋼部材には、塗装前に、一般的な脱脂−水洗い−除錆−水洗い−表面調整−化成処理−水洗い−湯洗い−エアブローによる乾燥の工程に従った前処理が行われている。薬剤では、脱脂剤、除錆剤、表面調整剤、化成処理剤が用いられ、表面調整剤以外の処理後には水洗いが必須となっていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このため、製品処理設備のみならず、付属設備として廃水処理設備が必要であった。また、特に除錆剤を用いる工程では、酸の影響を受けて廃水処理設備が錆び易く、設備メンテナンスに多大の時間と費用を要していた。酸−アルカリ中和凝集沈殿方式を用いると、更に費用が嵩んでいた。
【0004】
製品においては、合わせ目などを有する複雑な構造部分では、薬剤や水分が毛細管現象により残存し、発錆する可能性があり、品質の確保を困難としていた。また、製品の保管を前処理設備付近で行うと、発錆する可能性があるので、薬剤の影響を受けない保管場所を確保しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−174663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、脱脂、除錆、表面調整、化成処理を1つの薬剤で行い、各工程での水洗いを省略することのできる塗装前処理剤およびそれを用いた塗装方法を提供することにある。塗装前処理剤によって、脱脂、除錆、表面調整、化成処理を行うとともに、鉄鋼部材の表面に発錆し難い化成被膜を形成させ、この化成被膜の上に、下塗り塗膜や上塗り塗膜を形成させるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、実施形態の塗装前処理剤は、鉄鋼部材に付着した油脂、錆を除去するとともに、鉄成分と結合してりん酸鉄系化成被膜を形成する塗装前処理剤であって、除錆兼被膜形成剤15〜25重量%、脱脂強化剤0.1〜1.0重量%、水から構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例に係る塗装前処理剤を用いた塗装系を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
本発明の実施例に係る塗装前処理剤を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る塗装前処理剤を用いた塗装系を示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、配電盤、制御盤などの筐体に用いられる酸洗鋼板やSPCC材のような鉄鋼部材1には、膜厚数μmのりん酸鉄系化成被膜2が設けられている。これは、塗装前処理剤での処理時に形成される。りん酸鉄系化成被膜2の上には、下地に対し、高付着性、高防錆性を有し、油脂や錆が残存していても優れた塗膜性能を発揮する膜厚15〜80μm(標準20〜30μm)の下塗り塗膜3を設けられている。下塗り塗膜3の上には、下塗り塗料との相性がよく、商品価値としての美観を得るための膜厚15〜80μm(標準20〜30μm)の上塗り塗膜4が設けられている。
【0012】
次に、塗装方法について説明する。
【0013】
塗装前処理剤の成分を表1に示す。塗装前処理剤は、除錆兼被膜形成剤20重量%(15〜25重量%)、脱脂強化剤0.5重量%(0.1〜1.0重量%)、残り水から構成されている。( )内は、適用範囲である。除錆兼被膜形成剤には、りん酸6.75〜13.75重量%、油脂系湿潤剤、酸食抑制剤、界面活性剤が混合されており、例えば、(株)ケミコート社製ケミコート306(りん酸系鋼調整剤)を用いる。脱脂剤には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.008〜0.1重量%、メタノール0.003〜0.04重量%が混合されており、例えば、(株)ケミコート社製ケミコート5500(脱脂強化剤)を用いる。
【表1】

【0014】
このような塗装前処理剤の液温を常温(20℃)〜70℃(標準45〜55℃)に保ち、鉄鋼部材1を5〜90分間浸漬する。鉄鋼部材1表面に付着している油脂分などは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、メタノール、油脂系湿潤剤、界面活性剤などの作用により浮き上がり除去される。黒皮、赤錆などは、りん酸、油脂系湿潤剤、界面活性剤などの作用によりエッチングされながら除去されると同時に、鉄鋼部材1の鉄成分とりん酸が結合して、りん酸鉄系化成被膜2が形成される。
【0015】
この反応においては、液中の酸食抑制剤の作用によって除錆と化成被膜の生成以外に生じる必要以上の浸食が抑制されている。なお、油脂分や錆の状態により液温や処理時間を制御し、満遍なくりん酸鉄系化成被膜2が形成されるようにする。液温を例えば約45℃一定に保てば、除錆や被膜形成が安定して進行する。また、これらの作用には、りん酸の充填量が重要であり、実験により求めたものである。
【0016】
りん酸鉄系化成被膜2を形成した鉄鋼部材1は、従来のような水洗いや湯洗いを行わず、液槽から引き上げた後、エアブローでの簡易乾燥を行う。なお、エアブローを実施せず、合わせ目などに塗装前処理剤の液が残存するものを屋内常温で約2週間放置したが錆の発現は見られなかった。
【0017】
次に、例えば、スプレー塗装により下塗り塗膜3を形成する。塗料は一般的なものでよく、アルキド樹脂系では、例えば、関西ペイント社製TFラスタイト(改)を用いる。エポキシ樹脂系では、例えば、関西ペイント社製エポマリンプライマーGタイプや日本パーカライジング社製トリック1000を用いる。メラミン樹脂系では、例えば、関西ペイント社製TFアミラックタイプ2を用いる。TFラスタイト(改)やトリック1000では、油脂分や錆が残存していても、優れた付着性を示す。また、TFアミラックタイプ2では、上塗り機能もあるので、美観を同時に得ることができる。
【0018】
次に、下塗り塗膜3の乾燥後に、例えば、スプレー塗装により上塗り塗膜4を形成する。塗料は、下塗り塗料と相性のよい一般的なアルキド樹脂系、メラミン樹脂系、ウレタン樹脂系、硝化綿樹脂系、アクリル樹脂系から選定する。
【0019】
りん酸鉄系化成被膜2を設け、下塗り塗料と上塗り塗料にアルキド樹脂系を用いた塗膜3、4に対し、表2に示すような各種の試験を行った。結果を表3に示すが、初期物性試験、耐久性試験の塩水噴霧、耐湿、亜硫酸ガス、塩素ガスのいずれの試験においても良好な結果であった。
【表2】

【表3】

【0020】
上記実施例の塗装前処理剤によれば、塗装を行う前の鉄鋼部材1を浸漬することにより付着している油脂や錆類などを除去するとともに、素地の鉄とりん酸が結合してりん酸鉄系化成被膜2を形成し、塗装に適する表面状態とすることができる。塗装前処理剤は、りん酸6.75〜13.75重量%、油脂系湿潤剤、酸食抑制剤、界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.008〜0.1重量%、メタノール0.003〜0.04重量%、水から構成されており、処理後の水洗い、湯洗いを不要とし、塗装の処理工程と付属設備を大幅に削減することができる。また、りん酸鉄系化成被膜2の上に設けた塗膜3、4は優れた付着性、防錆性を有することができる。
【0021】
以上述べたような実施形態によれば、塗装前処理剤によって従来のような水洗い工程を不要とすることができる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1 鉄鋼部材
2 りん酸鉄系化成被膜
3 下塗り塗膜
4 上塗り塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼部材に付着した油脂、錆を除去するとともに、鉄成分と結合してりん酸鉄系化成被膜を形成する塗装前処理剤であって、
除錆兼被膜形成剤15〜25重量%、脱脂強化剤0.1〜1.0重量%、水から構成されることを特徴とする塗装前処理剤。
【請求項2】
鉄鋼部材に付着した油脂、錆を除去するとともに、鉄分と結合してりん酸鉄系化成被膜を形成する塗装前処理剤であって、
りん酸6.75〜13.75重量%、油脂系湿潤剤、酸食抑制剤、界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、メタノール、水から構成されることを特徴とする塗装前処理剤。
【請求項3】
除錆兼被膜形成剤15〜25重量%、脱脂強化剤0.1〜1.0重量%、水から構成される塗装前処理剤に鉄鋼部材を浸漬し、
この鉄鋼部材に付着している油脂、錆を除去するとともに、鉄成分と結合させてりん酸鉄系化成被膜を形成し、
このりん酸鉄系化成被膜の上に所定の塗料を塗布することを特徴とする塗装前処理剤を用いた塗装方法。
【請求項4】
りん酸6.75〜13.75重量%、油脂系湿潤剤、酸食抑制剤、界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、メタノール、水から構成される塗装前処理剤に鉄鋼部材を浸漬し、
この鉄鋼部材に付着している油脂、錆を除去するとともに、鉄成分と結合させてりん酸鉄系化成被膜を形成し、
このりん酸鉄系化成被膜の上に所定の塗料を塗布することを特徴とする塗装前処理剤を用いた塗装方法。
【請求項5】
前記塗装前処理剤の液温を一定に保ち、
所定時間浸漬させることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の塗装前処理剤を用いた塗装方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−36077(P2013−36077A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172412(P2011−172412)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】