説明

塗装前処理方法及び塗装前処理装置

【課題】自動車ボディの外板部と内板部の電着塗装膜厚を均一にできる塗装前処理方法を提供する。
【解決手段】電着塗装前に被処理物である自動車ボディ4の表面に化成被膜を形成する塗装前処理方法において、自動車ボディに脱脂処理及び洗浄処理を施した後に化成処理液により化成処理を施す際に、自動車ボディの部位別に化成処理液に対する接液時間を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディや部品の表面に電着塗装を施す前に行われる前処理方法及び塗装前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの下塗り塗装として電着塗装が一般的であるが、この電着塗装を施す前に、自動車ボディを洗浄したり化成被膜を形成したりする、いわゆる前処理が行われている。
【0003】
従来の電着塗装の前処理は、自動車ボディに付着した油分、鉄粉、塵埃などを除去する脱脂・洗浄工程と、清浄となったボディの表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成する表面調整・化成処理工程とで構成されている。
【0004】
ところで、電着塗装は、自動車ボディを電着槽に浸漬して一定電圧を印加することで自動車ボディの表面(外板部及び内板部)に電着塗膜を形成するが、複雑な形状を有する自動車ボディにあっては、電極からの距離に応じて電着膜厚も相違する。すなわち、外板部と内板部との膜厚を均一にすることがきわめて困難であり、電極に近い外板面の膜厚が高くなる。このため、防錆品質上重要となる内板面の膜厚を一定以上確保しようとすると、必然的に外板面の膜厚が過多となるといった問題があった。
【非特許文献1】関敏郎監修,自動車工学全書19巻 自動車の製造法,初版,株式会社山海堂,昭和55年4月20日,195ページ〜196ページ
【発明の開示】
【0005】
本発明は、自動車ボディの外板部と内板部の電着塗装膜厚を均一にできる塗装前処理方法及び塗装前処理装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によれば、電着塗装前に被処理物である自動車ボディの表面に化成被膜を形成する塗装前処理方法において、前記自動車ボディに脱脂処理及び洗浄処理を施した後に化成処理液により化成処理を施す際に、前記自動車ボディの部位別に前記化成処理液に対する接液時間を制御することを特徴とする塗装前処理方法が提供される。
【0006】
また、電着塗装装置の前工程に設置される塗装前処理装置であって、被処理物である自動車ボディに脱脂処理及び洗浄処理を施す脱脂洗浄装置と、当該脱脂洗浄装置の後に設けられ、化成処理液が満たされて前記自動車ボディが浸漬される化成処理液槽と、当該化成処理液槽の前および/または後に設けられ、前記自動車ボディの特定部位に化成処理液を噴霧する化成処理液噴霧装置と、を有することを特徴とする塗装前処理装置が提供される。
【0007】
本発明では、化成処理液として、接液時間に相関して化成皮膜量が増加し、また化成皮膜量に相関して電気抵抗値が増加するものを用いる。そして、自動車ボディの部位別に化成処理液に対する接液時間を制御する。すなわち、電着膜厚を相対的に薄くしたい部位は化成処理液との接液時間を相対的に長くする。これにより、相対的に接液時間を長く制御した部位の化成皮膜量が相対的に多くなり、この部位の電気抵抗値が相対的に増加する。この結果、電着塗装を施した際の電着膜厚が相対的に薄くなる。
【0008】
これを自動車ボディの外板部と内板部に応用する。すなわち、従来の電着塗装では電極に近い外板部が内板部に比べて相対的に厚膜になる傾向であったものが、本発明では自動車ボディの外板部に対する化成処理液の接液時間を相対的に長くすることにより、外板部の電着膜厚を内板部の電着膜厚と等しくすることができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図、図2は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置の一実施形態を示す側面図、図3は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置に係る化成処理装置の一実施形態を示す装置構成図である。
【0010】
図1及び図2に塗装工程のうち前処理〜電着工程の一例を示し、同図を参照して塗装ラインの前半を概説する。以下の説明では、ホワイトボディに付着した油分、鉄粉、塵埃等を除去する工程及びその装置の総称を脱脂洗浄工程A又は脱脂洗浄装置Aと称し、その後にホワイトボディに化成被膜を形成する工程及びその装置の総称を化成処理工程B又は化成処理装置Bと称し、化成被膜が形成されたボディに未乾燥の電着塗膜を形成する工程及びその装置の総称を電着工程C又は電着塗装装置Cと称し、その後にボディに付着した余分な電着塗料を洗い流す工程及びその装置の総称を電着水洗工程D又は電着水洗装置Dと称し、未乾燥の電着塗膜を焼き付けて乾燥させる工程及びその装置の総称を電着焼付工程E又は電着乾燥炉28と称する。
【0011】
まずプレス部品の組立を終了したホワイトボディは、車体組立ラインのドロップリフタ1により、それまでの台車から塗装ハンガ3に移載され、オーバーヘッドコンベア2により塗装ラインに搬送される。
【0012】
塗装ラインに搬入されたホワイトボディ4には、プレス油や溶接による鉄粉、その他塵埃などが付着しているので、化成処理を施す前に脱脂洗浄工程Aにてこれら油分、鉄粉及び塵埃が除去される。図2に示す例では、この脱脂洗浄工程Aは、主として油分を除去するための予備脱脂工程A1と本脱脂工程A2、及びこれら予備脱脂工程A1及び本脱脂工程A2で使用した脱脂液、ボディ4に付着した鉄粉や塵埃を除去する第1水洗工程A3および第2水洗工程A4から構成されている。
【0013】
図2に示すように予備脱脂工程A1はタンク5に貯留された脱脂液をポンプで汲み上げてノズル6からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、本脱脂工程A2は、脱脂槽7に収容された脱脂液にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では予備脱脂と本脱脂の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0014】
また、第1水洗工程A3はタンク8に貯留された工水をポンプで汲み上げてノズル9からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、第2水洗工程A4は、水洗槽10に収容された工水にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では第1水洗と第2水洗の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。以上説明した脱脂洗浄工程Aを構成する装置が脱脂洗浄装置Aである。
【0015】
脱脂洗浄工程Aにより清浄となったホワイトボディ4の表面に化成被膜を形成するために化成処理工程Bが設けられている。本例の化成処理工程Bは第1化成被膜形成工程B1および第2化成皮膜形成工程B2と、化成処理液による発錆を防止するための純水洗工程B3とから構成され、表面調整工程は設けられていない。
【0016】
特に本例では、化成処理液として、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液が用いられている。
【0017】
リン酸イオンを含有する化成処理は、ボディを構成する鉄、亜鉛、アルミニウムとのイオン交換による析出反応(化学的反応)で化成被膜が形成されるが、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有する化成処理液による化成処理は、化学的反応による被膜形成メカニズムではなく、コーディングのような物理的な作用により化成被膜が形成される。この種の化成処理液を用いると、リン酸亜鉛系化成処理液に比較して、化成スラッジ(反応生成物)が生じない点や、表面調整工程が不要である点などが有利となる。
【0018】
一例を挙げると、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びに、フッ素イオンを含有、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、重量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2〜5である化成処理液、若しくはこれにバナジウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンなどの防錆金属を添加した化成処理液、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、フッ素イオン、並びに、可溶性エポキシ樹脂を含有し、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、質量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、可溶性エポキシ樹脂は、樹脂100g当たり−NH及び/又は−NHを少なくとも0.1モル有し、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2.5〜4.5である化成処理液、6価クロムイオン2g/リットル以上、硫酸イオン20〜2000ppm、フッ素を400ppm未満、及びジルコニウムイオン及びチタニウムイオンから選ばれる1種又は2種のイオンを20〜1000ppm含有するpHが0.5〜2.0の化成処理液、若しくはこれにコロイダルシリカ、乾式シリカ、珪酸アルカリ金属塩の、1種又は2種以上のシリカゾルをその固形分濃度で1〜5g/リットルを含有する化成処理液などである。ただし、この化成処理液にのみ限定される趣旨ではなく、化学的反応に依らない物理的作用による化成皮膜が形成される化成処理液であればよい。換言すれば、接液時間に相関して化成皮膜量が増加し、また化成皮膜量に相関して電気抵抗値が増加する化成処理液を用いることができる。
【0019】
図4(B)はリン酸イオンを含有する化学反応系化成処理液を用いて処理した場合の接液時間と化成皮膜量との関係を示すグラフであり、このタイプの化成処理液では標準接液時間(同図に示す例では120秒)までは接液時間に相関して化成皮膜量も増加するが、これを超えるとそれ以上化成皮膜量が増加しない。これに対して、同図(A)はジルコニウムイオンを含有する物理的付着系化成処理液を用いて処理した場合の接液時間と化成皮膜量との関係を示すグラフであり、リン酸イオン系化成処理液と同様に、標準接液時間(同図に示す例では60秒)までは接液時間に相関して化成皮膜量も増加し、さらに接液時間が長くなると化成皮膜量が増加し続ける。
【0020】
また、図5(B)はリン酸イオンを含有する化学反応系化成処理液を用いて処理した場合の化成皮膜量に対する被処理物の電気抵抗値及び電着膜厚の関係を示すグラフであり、化成皮膜量が増減しても電気抵抗値及び電着膜厚は変動しない。これに対して、同図(A)はジルコニウムイオンを含有する物理的付着系化成処理液を用いて処理した場合の化成皮膜量に対する被処理物の電気抵抗値及び電着膜厚の関係を示すグラフであり、化成皮膜量が増加すると被処理物の電気抵抗値も増加し、これに伴って電着膜厚が減少する。本実施形態では、これらの関係を利用して電着膜厚を制御する。詳細は後述する。
【0021】
図3に示す化成処理装置Bは、塗装ハンガに搭載されたボディ4が通過する処理槽11を有し、オーバーヘッドコンベア2のアップダウンに伴いボディ4もアップダウンするので、処理槽11に満たされた化成処理液にボディ4を浸漬することができる。これが図2に示す第1化成皮膜形成工程B1に相当する。なお、同図にはいわゆるフルディップ式処理槽11を示したが、ボディ4の下部のみを浸漬し、ボディ4の上部をシャワーするハーフディップ式や、ボディ4の全体をシャワー方式による化成処理を採用することも可能である。
【0022】
上述したジルコニウムイオンを含む化成処理液を用いた化成処理工程では、いわゆる化成スラッジが生じないので、処理槽11には特別なスラッジ除去装置を設ける必要がない。本例では、処理槽11内の化成処理液に含まれる塵埃を除去するとともに化成処理液の撹拌を目的として、フィルタ12,ポンプ13及び吐出ノズル14を有する循環配管15が設けられている。
【0023】
処理槽11にて消費される化成処理液は補給用化成処理液を貯留するタンク16aから所定のタイミングで補給される。
【0024】
第1化成皮膜形成工程B1である化成処理槽11に続いて第2化成皮膜形成工程B2が設けられている。この第2化成皮膜形成工程B2は、図3に示すようにタンク17に貯留された化成処理液をポンプ18で汲み上げてノズル19からボディ4に向かってミスト状に噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。これが本発明に係る化成処理液噴霧装置に相当する。ここで消費される化成処理液は補給用化成処理液を貯留するタンク16bから所定のタイミングで補給される。
【0025】
この化成処理液噴霧装置は、自動車ボディ4の主として外板部に化成処理液を噴霧する。これにより、その前の処理槽11においては自動車ボディ4の外板部と内板部との接液時間はほぼ等しいので、自動車ボディ4のうち外板部の化成処理液との接液時間が、内板部の接液時間に比べて相対的に長くなり、外板部に形成される化成皮膜量が相対的に多くなる。本例の化成処理液噴霧装置で噴霧する外板部としては、自動車ボディ4のうち、フェンダパネルの外板面、ドアアウタパネルの外板面、クォータパネルの外板面、フードアウタパネルの外板面、ルーフパネルの外板面、トランクリッドアウタパネルの外板面等、電着塗膜の膜厚が相対的に厚くなる部位である。
【0026】
また、処理槽11に自動車ボディ4を浸漬する第1化成皮膜形成工程B1で用いられる化成処理液の濃度と、ノズル19から自動車ボディ4に噴霧する第2化成皮膜形成工程B2で用いられる化成処理液の濃度とを相違させることもできる。高濃度の化成処理液の方が同じ接液時間であっても化成皮膜量が増加する。そして、図3に示すようにノズル19から噴霧された化成処理液を床面に形成された傾斜を利用してタンクに戻すとともに、処理槽11の出槽側で自動車ボディ4から滴下した化成処理液を処理槽11に戻すことにより、第1化成皮膜形成工程B1で用いられる化成処理液と第2化成皮膜形成工程B2で用いられる化成処理液とが混ざり合うのが防止でき、異なる濃度の化成処理液を連続して用いることができる。
【0027】
さらに、図6に示すように、ジルコニウムイオンを含む化成処理液を用いた化成処理を行うと、自動車ボディ4の材質の相違(鋼材A〜C)により化成皮膜量が相違することが知られているので、自動車ボディ4の材質を車種検出などの方法により検出し、材質が相違しても目的とする化成皮膜量を確保できるように化成処理液の噴霧時間(接液時間)を制御することもできる。
【0028】
また、第2化成皮膜形成工程B2の化成処理液噴霧装置を、第1化成皮膜形成工程B1の処理槽11の前段に設けてもよい。
【0029】
図2に戻り、化成被膜形成工程B2に続いて純水洗工程B3が設けられているが、この純水洗工程B3は、同図に示すようにタンク20に貯留された純水をポンプで汲み上げてノズル21からボディ4に向かってミスト状に噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。この純水洗工程B3は、上述したとおり化成処理液のpHが2〜5と酸性であるときはこれにより電着工程までの間にボディに錆が発生するのを防止するためである。したがって、必要に応じて当該純水洗工程を省略したり噴霧量を減少させたりすることは可能である。
【0030】
以上説明した化成処理工程Bを構成する装置が化成処理装置である。
【0031】
図1及び図2に戻り、純水洗B3の後には、電着工程C及び電着水洗工程Dが設けられている。特に本例の前処理塗装ラインでは、化成処理工程Bと電着工程Cとの間にボディ4のストレージ工程を省略して、昼休みや終業時であってもそのまま電着工程Cにボディを流すこととしている。これによっても、上述した純水洗工程B3に加えて、ボディ4の発錆が防止される。ただし、必要に応じてストレージ工程を設けることもできる。
【0032】
電着工程Cは、電着液の電気泳動作用によりボディ4の表面に電着塗膜を形成する工程であり、電着液が満たされた舟形の電着槽22を有し、塗装ハンガ3に搭載された状態でボディ4が電着液に浸漬され、電着槽22内の側壁及び低壁に設けられた複数の電極板(図示は省略する。)に高電圧を印加するとともにボディ4側をアースすることで電着塗装が施される。またこのとき、ボディ4の袋構造体の内部にも電着液が浸入するので袋構造体の内面にも電着塗膜が形成されることになる。なお、電着液としては上述したカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、電着液側をアースするとともにボディ4側に高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いても何ら差し支えない。
【0033】
電着工程Cに続いて、ボディ4に付着した余分な電着液を洗い流し、場合によってはこれを回収する電着水洗工程Dが設けられている。本例の電着水洗工程Dは工水を用いて水洗する前段の工程と、純水にて水洗する後段の工程とから構成され、図2には前段の工水洗浄工程のみを示す。この工水による水洗工程は、さらにフルディップ式水洗とシャワー式水洗とで構成され、工水が満たされた水洗槽23、工水が貯留されたタンク24、当該タンク24に貯留された工水をポンプで汲み上げてボディ4に向かって噴霧するノズル25を有している。また、このシャワー式工水水洗工程の直後には、図示は省略するが当該シャワー式工水水洗工程と同様に、純水を貯留するタンクと、当該タンクに貯留された純水をポンプで汲み上げてボディ4に向かってミスト状に噴霧するノズルを有する、純水洗工程が設けられている。
【0034】
電着水洗工程Dの後には、図1に示すように塗装ハンガ3に搭載されたボディ4を塗装台車に移載するためのドロップリフタ26が設けられ、ここで塗装台車に移載されたボディ4はフロアコンベア27により塗装乾燥炉28に搬入され、ここでたとえば170℃で20分間加熱されることにより、ボディ4に塗装された電着塗膜が硬化する。この塗装乾燥炉28が電着焼付工程Eに該当する。
【0035】
電着焼付工程Eの後には、昼休みや終業時のボディ4を一時的に溜めておくためのストレージ工程Fが設けられている。昼休みや終業時にあっては、ドロップリフタ1の前のボディ組立工程および電着焼付工程Eの後のシーリング工程Gは作業を中断する。これに対して、脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでは処理を中断すると品質に影響することが多いので、ボディ組立工程やシーリング工程Gが作業中断してもそのまま処理を続行する。このストレージ工程Fは、その間に処理されたボディ4を一時的に溜めておき、作業が再開されたときにシーリング工程Gにボディ4を供給するためのラインである。そのため、通常は脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでに在席するボディ数のストレージ能力とすることが好ましい。
【0036】
以上のとおり、本実施形態では、第1化成皮膜形成工程B1にて自動車ボディ4を処理槽11に全没させることで自動車ボディ4の外板部および内板部にほぼ等しい量の化成皮膜を形成した後、第2化成皮膜形成工程B2にて自動車ボディ4の主として外板部に化成処理液を噴霧することで当該外板部の化成皮膜量を相対的に増加させる。化成皮膜量が増加すると電着塗装における電気抵抗値が増加するので、同じ条件で電着塗装した場合に電着膜厚が薄くなる。したがって、従来の電着塗装では電極に近い外板部が内板部に比べて相対的に厚膜になる傾向であったものが、本例では外板部の電着膜厚を内板部の電着膜厚と等しくすることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液を用いることで、化成処理工程Bの前に表面調整工程が不要となり、また化成処理工程Bの後に工業用水による水洗工程も不要となって、化成処理工程を簡略化することができる。
【0038】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図である。
【図2】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置の一実施形態を示す側面図である。
【図3】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置に係る化成処理装置の一実施形態を示す装置構成図である。
【図4】化成処理液を用いて処理した場合の接液時間と化成皮膜量との関係を示すグラフである。
【図5】化成処理液を用いて処理した場合の化成皮膜量に対する被処理物の電気抵抗値及び電着膜厚の関係を示すグラフである。
【図6】被処理物の材質A〜C別の化成皮膜量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
A…脱脂洗浄工程
B…化成皮膜形成工程
B1…第1化成皮膜形成工程
B2…第2化成皮膜形成工程
C…電着工程
D…電着水洗工程
E…電着焼付工程
F…ストレージ工程
G…シーリング工程
4…自動車ボディ(被処理物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装前に被処理物である自動車ボディの表面に化成被膜を形成する塗装前処理方法において、前記自動車ボディに脱脂処理及び洗浄処理を施した後に化成処理液により化成処理を施す際に、前記自動車ボディの部位別に前記化成処理液に対する接液時間を制御することを特徴とする塗装前処理方法。
【請求項2】
前記化成処理液はジルコニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1記載の塗装前処理方法。
【請求項3】
前記自動車ボディの外板部の接液時間を、前記自動車ボディの内板部の接液時間に対して相対的に長く制御することを特徴とする請求項1又は2記載の塗装前処理方法。
【請求項4】
前記自動車ボディの全体を前記化成処理液に所定時間浸漬したのち、前記自動車ボディの主として外板部に前記化成処理液を噴霧することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗装前処理方法。
【請求項5】
前記自動車ボディの主として外板部に前記化成処理液を噴霧したのち、前記自動車ボディの全体を前記化成処理液に所定時間浸漬することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗装前処理方法。
【請求項6】
電着塗装装置の前工程に設置される塗装前処理装置であって、被処理物である自動車ボディに脱脂処理及び洗浄処理を施す脱脂洗浄装置と、当該脱脂洗浄装置の後に設けられ、化成処理液が満たされて前記自動車ボディが浸漬される化成処理液槽と、当該化成処理液槽の前および/または後に設けられ、前記自動車ボディの特定部位に化成処理液を噴霧する化成処理液噴霧装置と、を有することを特徴とする塗装前処理装置。
【請求項7】
前記化成処理液はジルコニウムイオンを含むことを特徴とする請求項6記載の塗装前処理装置。
【請求項8】
前記化成処理液噴霧装置は前記自動車ボディの主として外板部へ化成処理液を噴霧することを特徴とする請求項6又は7記載の塗装前処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−161092(P2006−161092A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353073(P2004−353073)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】