説明

塗装前処理方法及び塗装前処理装置

【課題】付着量が異なる鋼鈑種が混在する被処理物に対し化成被膜の付着量を均一にできる塗装前処理装置を提供する。
【解決手段】ボディ4と化成処理液とを接液させる処理室11と、化成処理液を貯留するタンク17と、ボディ4に化成処理液を接液させるシャワーノズル群13〜16と、ボディの鋼鈑種仕様を取得する情報読取装置27と、取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎にシャワーノズル群による化成処理液との接液時間を制御する制御装置28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディや部品の表面に電着塗装を施す前に行われる前処理方法及び塗装前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの下塗り塗装として電着塗装が一般的であるが、この電着塗装を施す前に、自動車ボディを洗浄したり化成被膜を形成したりする、いわゆる前処理が行われている。
【0003】
従来の電着塗装の前処理は、自動車ボディに付着した油分、鉄粉、塵埃などを除去する脱脂・洗浄工程と、清浄となったボディの表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成する表面調整・化成処理工程とで構成されている。
【0004】
ところで、自動車ボディや部品の鋼鈑種として、冷間圧延鋼材(SPC材)、合金化溶融亜鉛メッキ鋼材(GA材)、アルミニウム材などがボディの部位によって使い分けられることが少なくないが、このような異なる鋼鈑種が混在したボディを化成処理液が満たされた処理槽に浸漬すると、部位が違っても接液時間は殆ど同じになる。そして、接液時間が同じであるとき、化成被膜の付着量はGA材が最も多く、アルミニウム材が最も少なくなる傾向があり、鋼鈑種によって付着量が相違することが本発明者らによって確認されている。
【0005】
防錆能力を確保するためには化成被膜の付着量は1.5〜3.0g/mあれば充分とされており、異なる鋼鈑種が混在したボディを化成処理液に接液させる場合には、付着量が少ない鋼鈑種の付着量が上述した1.5〜3.0g/mになるように接液時間が設定されるが、こうすると付着量が多い鋼鈑種にはこれ以上の化成被膜が形成されてしまい、化成処理液の使用量が必要以上に増加し、また化成反応により生じる化成滓も増加して処理負荷が大きくなるといった問題があった。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、付着量が異なる鋼鈑種が混在する被処理物に対し化成被膜の付着量を均一にできる塗装前処理方法及び塗装前処理装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によれば、電着塗装前に、異なる鋼鈑種が混在する被処理物の表面に化成被膜を形成する塗装前処理方法において、前記被処理物の鋼鈑種仕様を取得するステップと、取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎に化成処理液との接液時間を制御するステップとを有することを特徴とする塗装前処理方法が提供される。
【0007】
また、電着塗装装置の前工程に設置される塗装前処理装置であって、被処理物と化成処理液とを接液させる処理室と、前記化成処理液を貯留する化成処理液貯留手段と、前記被処理物に前記化成処理液を接液させる接液手段と、被処理物の鋼鈑種仕様を取得する鋼鈑種仕様取得手段と、前記鋼鈑種仕様取得手段により取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎に前記接液手段による化成処理液との接液時間を制御する制御手段とを有することを特徴とする塗装前処理装置が提供される。
【0008】
本発明では、被処理物の鋼鈑種仕様を取得し、取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎に化成処理液との接液時間を制御するので、鋼鈑種が混在する被処理物に対しても化成被膜の付着量を均一にすることができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図、図2は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置の一実施形態を示す側面図、図3は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置に係る化成処理装置の一実施形態を示す装置構成図、図4は図3の制御装置に係る制御手順の一例を示すフローチャートである。
【0010】
図1及び図2に塗装工程のうち前処理〜電着工程の一例を示し、同図を参照して塗装ラインの前半を概説する。以下の説明では、ホワイトボディに付着した油分、鉄粉、塵埃等を除去する工程を脱脂洗浄工程Aと称し、その後にホワイトボディに化成被膜を形成する工程を化成処理工程Bと称し、化成被膜が形成されたボディに未乾燥の電着塗膜を形成する工程を電着工程Cと称し、その後にボディに付着した余分な電着塗料を洗い流す工程を電着水洗工程Dと称し、未乾燥の電着塗膜を焼き付けて乾燥させる工程を電着焼付工程Eと称する。
【0011】
まずプレス部品の組立を終了したホワイトボディは、車体組立ラインのドロップリフタ1により、それまでの台車から塗装ハンガ3に移載され、オーバーヘッドコンベア2により塗装ラインに搬送される。
【0012】
塗装ラインに搬入されたホワイトボディ4には、プレス油や溶接による鉄粉、その他塵埃などが付着しているので、化成処理を施す前に脱脂洗浄工程Aにてこれら油分、鉄粉及び塵埃が除去される。同図に示す例では、この脱脂洗浄工程Aは、主として油分を除去するための予備脱脂工程A1と本脱脂工程A2、及びこれら予備脱脂工程A1及び本脱脂工程A2で使用した脱脂液、ボディ4に付着した鉄粉や塵埃を除去する第1水洗工程A3および第2水洗工程A4から構成されている。
【0013】
図2に示すように予備脱脂工程A1はタンク5に貯留された脱脂液をポンプで汲み上げてノズル6からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、本脱脂工程A2は、脱脂槽7に収容された脱脂液にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では予備脱脂と本脱脂の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0014】
また、第1水洗工程A3はタンク8に貯留された工水をポンプで汲み上げてノズル9からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、第2水洗工程A4は、水洗槽10に収容された工水にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では第1水洗と第2水洗の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0015】
脱脂洗浄工程Aにより清浄となったホワイトボディ4の表面に化成被膜を形成するために化成処理工程Bが設けられている。本例の化成処理工程Bは化成被膜形成工程B1と、化成処理液による発錆を防止するための純水洗工程B2とから構成されている。
【0016】
特に本例では、化成処理液として、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液が用いられている。リン酸イオンを含有する化成処理は、ボディを構成する鉄、亜鉛、アルミニウムとのイオン交換による析出反応(化学的反応)で化成被膜が形成されるが、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有する化成処理液による化成処理は、化学的反応による被膜形成メカニズムではなく、コーディングのような物理的な作用により化成被膜が形成される。この種の化成処理液を用いると、リン酸亜鉛系化成処理液に比較して、化成スラッジ(反応生成物)が生じない点や、表面調整工程が不要である点などが有利となる。
【0017】
一例を挙げると、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びに、フッ素イオンを含有、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、重量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2〜5である化成処理液、若しくはこれにバナジウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンなどの防錆金属を添加した化成処理液、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、フッ素イオン、並びに、可溶性エポキシ樹脂を含有し、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、質量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、可溶性エポキシ樹脂は、樹脂100g当たり−NH及び/又は−NHを少なくとも0.1モル有し、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2.5〜4.5である化成処理液、6価クロムイオン2g/リットル以上、硫酸イオン20〜2000ppm、フッ素を400ppm未満、及びジルコニウムイオン及びチタニウムイオンから選ばれる1種又は2種のイオンを20〜1000ppm含有するpHが0.5〜2.0の化成処理液、若しくはこれにコロイダルシリカ、乾式シリカ、珪酸アルカリ金属塩の、1種又は2種以上のシリカゾルをその固形分濃度で1〜5g/リットルを含有する化成処理液などである。ただし、この化成処理液にのみ限定される趣旨ではなく、化学的反応に依らない物理的作用による化成皮膜が形成される化成処理液であればよい。
【0018】
なお、この種の化成処理液を用いてもSPC材、GA材、アルミニウム材などの鋼鈑種が異なると、同じ接液時間で処理した場合には、リン酸亜鉛系化成処理液と同様に、化成被膜の付着量はGA材が最も多く、アルミニウム材が最も少なくなる傾向がある。
【0019】
このため、本例ではボディ4を構成する鋼鈑種の部位に応じて化成処理液との接液時間を制御することでボディ全体として化成被膜を均一な付着量とする。
【0020】
この構成を図3に示す。同図に示す化成処理装置は、塗装ハンガに搭載されたボディ4が通過する処理室11を有し、この処理室11内でオーバーヘッドコンベア2のアップダウンに伴いボディ4もアップダウンする。同図には舟形の処理室11を示したが、要するにボディ4がアップダウンすることでボディ4が前傾斜又は後傾斜すれば良いので、舟形とは逆の山形の処理室としても良い。
【0021】
処理室11の底面11aは化成処理液が一箇所に集約されるように傾斜して形成され、ここに化成処理液を回収するための回収用配管12が設けられている。また、処理室11の入口側傾斜面、中央平行面及び出口側傾斜面のそれぞれには、塗装ハンガに搭載されたボディ4を取り囲むように、複数のシャワーノズルが取り付けられた配管が設置されている。図3において、入口側傾斜面に設置されたシャワーノズル群を13、そのノズルを13a、中央平行面に設置されたシャワーノズル群を14,15、そのノズルを14a,15a、出口側傾斜面に設置されたシャワーノズル群を16、そのノズルを16aとする。
【0022】
処理室11とは別に、上述した化成処理液を貯留するためのタンク17が設けられている。このタンク17には2系統の配管18,19が接続され、それぞれにポンプ20,21が設けられている。一方の系統の配管18は、ポンプ20を介して入口側傾斜面に設置されたシャワーノズル群13と出口側傾斜面に設置されたシャワーノズル群16に接続されている。そして、各シャワーノズル群13,16の基端には制御弁22,23が設けられている。また、他方の系統の配管19は、ポンプ21を介して中央平行面に設置されたシャワーノズル群14,15に接続されて、各シャワーノズル群14,15の基端には制御弁24,25が設けられている。
【0023】
ここで、入口側及び出口側傾斜面に設置されたシャワーノズル群13,16は、主としてボディ4の室内に多量の化成処理液を供給するための接液手段であり、ボディ4が傾斜状態になったときに洪水の如く化成処理液をボディ4の室内に供給することで、特にボディシルなどの袋構造体の内面へ化成被膜を形成する。そのため、この系統に用いられるポンプ20は吸引能力が大きいタイプが適している。
【0024】
これに対して、中央平行面に設置されたシャワーノズル群14,15は、主としてボディ4の外板に化成処理液を噴霧するための接液手段であり、ポンプ20に比べて吸引能力の小さいタイプで足りる。
【0025】
シャワーノズル群13〜16によりボディ4に噴霧された化成処理液は、処理室11の底面11aの最下面に集約され、上述した回収用配管12を介してタンク17へ戻される。この回収用配管12には回収される化成処理液に含まれた鉄粉や塵埃を除去するためのフィルタ26が設けられている。
【0026】
なお、シャワーノズル群13〜16から化成処理液を噴霧しない間でも、ポンプ20,21を作動し続けてタンク17内の化成処理液を循環させるための戻し配管及び電磁弁29,30が設けられている。
【0027】
本例で処理される各ボディ4には、その車両の仕様情報が格納された情報記憶器が所定の部位に搭載されており、この情報記憶器に格納された仕様情報にはそのボディを構成する鋼鈑種の情報も含まれている。たとえば、ボディの部位別に、SPC材、GA材、アルミニウム材の区別が可能とされている。
【0028】
処理室11の入口には、この情報記憶器に格納された仕様情報を取得するための情報読取装置27が設置され、この情報読取装置27で読み取られた情報は制御装置28に送出される。制御装置28では、情報読取装置27から送出された仕様情報から鋼鈑種に関する情報を抽出し、抽出された種類の仕様に応じて各制御弁22〜25に制御信号を送出する。
【0029】
この場合の仕様の分類は特に限定されないが、一例を挙げると、本例の塗装ラインに流されるボディのフード・ドア・トランクリッドにSPC材かGA材かアルミニウム材が使い分けられ、何れかの材質のボディ4が混在して流されるものとする。そして、処理室11の入口に到着したボディ4のフード・ドア・トランクリッドがGA材であるときは仕様X、SPC材であるときは仕様Y、アルミニウム材であるときは仕様Zとし、情報読取装置27で取得された情報からそのボディ4が仕様X〜Zのどれに該当するボディかを制御装置28にて判断する。ここでそのボディ4が仕様X(フード・ドア・トランクリッドがGA材)であるときは、化成被膜の付着量が相対的に最も多くなるので、主として外板に化成処理液を噴霧するシャワーノズル群14,15を利用して、予め経験的に求められた所定時間Txだけ化成処理液を噴霧する。同様に、そのボディ4が仕様Z(フード・ドア・トランクリッドがアルミニウム材)であるときは、化成被膜の付着量が相対的に最も少なくなるので、主として外板に化成処理液を噴霧するシャワーノズル群14,15を利用して、予め経験的に求められた所定時間Tz(>Tx)だけ化成処理液を噴霧する。また、そのボディ4が仕様Y(フード・ドア・トランクリッドがSPC材)であるときは、化成被膜の付着量が相対的に中間の量になるので、主として外板に化成処理液を噴霧するシャワーノズル群14,15を利用して、予め経験的に求められた所定時間Ty(Tz>Ty>Tx)だけ化成処理液を噴霧する。
【0030】
シャワーノズル群14,15を利用してボディ4の外板部への化成処理液の噴霧時間を制御するには、制御装置28から電磁弁24,25への指令信号により当該電磁弁24,25の開時間、さらに詳細には電磁弁24,25へ開信号を送出してから閉信号を送出するまでの時間(換言すれば閉信号の送出タイミング)を制御することにより達成することができる。詳細の制御手順は後述する。以上が化成被膜形成工程B1である。
【0031】
図1及び図2に戻り、化成被膜形成工程B1に続いて純水洗工程B2が設けられているが、この純水洗工程B2は、タンク31に貯留された純水をポンプで汲み上げてノズル32からボディ4に向かってミスト状に噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。この純水洗工程B2は、上述したとおり化成処理液のpHが2〜5と酸性であるときはこれにより電着工程までの間にボディに錆が発生するのを防止するためである。したがって、必要に応じて当該純水洗工程を省略したり噴霧量を減少させたりすることは可能である。
【0032】
純水洗B2の後には、電着工程C及び電着水洗工程Dが設けられている。特に本例の前処理塗装ラインでは、化成処理工程Bと電着工程Cとの間にボディ4のストレージ工程を省略して、昼休みや終業時であってもそのまま電着工程Cにボディを流すこととしている。これによっても、上述した純水洗工程B2に加えて、ボディ4の発錆が防止される。ただし、必要に応じてストレージ工程を設けることもできる。
【0033】
電着工程Cは、電着液の電気泳動作用によりボディ4の表面に電着塗膜を形成する工程であり、電着液が満たされた舟形の電着槽33を有し、塗装ハンガ3に搭載された状態でボディ4が電着液に浸漬され、電着槽33内の側壁及び低壁に設けられた複数の電極板(図示は省略する。)に高電圧を印加するとともにボディ4側をアースすることで電着塗装が施される。またこのとき、ボディ4の袋構造体の内部にも電着液が浸入するので袋構造体の内面にも電着塗膜が形成されることになる。なお、電着液としては上述したカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、電着液側をアースするとともにボディ4側に高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いても何ら差し支えない。
【0034】
電着工程Cに続いて、ボディ4に付着した余分な電着液を洗い流し、場合によってはこれを回収する電着水洗工程Dが設けられている。本例の電着水洗工程Dは工水を用いて水洗する前段の工程と、純水にて水洗する後段の工程とから構成され、図2には前段の工水洗浄工程のみを示す。この工水による水洗工程は、さらにフルディップ式水洗とシャワー式水洗とで構成され、工水が満たされた水洗槽34、工水が貯留されたタンク35、当該タンク35に貯留された工水をポンプで汲み上げてボディ4に向かって噴霧するノズル36を有している。また、このシャワー式工水水洗工程の直後には、図示は省略するが当該シャワー式工水水洗工程と同様に、純水を貯留するタンクと、当該タンクに貯留された純水をポンプで汲み上げてボディ4に向かってミスト状に噴霧するノズルを有する、純水洗工程が設けられている。
【0035】
電着水洗工程Dの後には、図1に示すように塗装ハンガ3に搭載されたボディ4を塗装台車に移載するためのドロップリフタ37が設けられ、ここで塗装台車に移載されたボディ4はフロアコンベア38により塗装乾燥炉39に搬入され、ここでたとえば170℃で20分間加熱されることにより、ボディ4に塗装された電着塗膜が硬化する。この塗装乾燥炉39が電着焼付工程Eに該当する。
【0036】
電着焼付工程Eの後には、昼休みや終業時のボディ4を一時的に溜めておくためのストレージ工程Fが設けられている。昼休みや終業時にあっては、ドロップリフタ1の前のボディ組立工程および電着焼付工程Eの後のシーリング工程Gは作業を中断する。これに対して、脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでは処理を中断すると品質に影響することが多いので、ボディ組立工程やシーリング工程Gが作業中断してもそのまま処理を続行する。このストレージ工程Fは、その間に処理されたボディ4を一時的に溜めておき、作業が再開されたときにシーリング工程Gにボディ4を供給するためのラインである。そのため、通常は脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでに在席するボディ数のストレージ能力とすることが好ましい。
【0037】
次に化成処理工程における処理手順を説明する。
脱脂洗浄工程Aを終えたボディ4が化成処理工程Bの処理室11の入口に到着すると、当該ボディ4に搭載された情報記憶器に格納された仕様情報を情報読取装置27により読み取る。このシーケンスは、たとえばボディ4が到着したことをリミットスイッチなどのセンサで検知し(図3のS1)、このリミットスイッチの作動を情報読取装置27の情報読取タイミングに利用する(図3のS2)ことにより達成することができる。
【0038】
情報読取装置27で読み取られた仕様情報は制御装置28に送出され、ここで車種判別される(図3のS3)。ここではボディ4の仕様が、上述したX,Y,Zの何れの仕様に該当するかを判別し、判別された仕様に応じた化成処理液の噴霧時間を制御装置28のメモリから抽出して、電磁弁22〜25、29〜30に送出する(図3のS4)。具体的には、電磁弁29及び30をそれまでの開から閉に作動させ、電磁弁22〜25をそれまでの閉から開に作動させる。これにより、タンク17内の化成処理液は、ポンプ20により入口側のシャワーノズル群13と出口側のシャワーノズル群16に供給され、主としてボディ4の室内に洪水状に供給され、アンダーボディの表面及び袋構造内面に化成被膜を形成させる。また、タンク内の化成処理液はポンプ21により中央平行部のシャワーノズル群14〜15に供給され、主としてボディ4の外板に化成被膜を形成する。
【0039】
このとき本例では、情報読取装置27で読み取られた仕様情報に応じて、シャワーノズル群14〜15のシャワー時間を制御する。すなわち、ボディの外板に化成被膜が形成され易い材料が使用されているときはシャワー時間を短くし、ボディの外板に化成被膜が形成され難い材料が使用されているときはシャワー時間を長くする。具体的には、電磁弁24〜25に送出した指令時間を制御装置28内のタイマーでカウントし、タイムアップしたらその電磁弁に閉指令を送出する(図3のS5)。
【0040】
これにより、ボディ4を構成する材料が化成被膜付着量が相違する異種材料で構成されていても、均一な化成被膜を形成することができる。
【0041】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0042】
たとえば、上述した実施形態では処理室11にて行うボディ4と化成処理液との接液はシャワー方式によったが、これをハーフディップ又はフルディップ方式により行って共通に化成被膜を形成し、その後に付着量調整用のシャワー方式による化成処理工程を設けても良い。
【0043】
また、図3及び図4に示す実施形態では、シャワーノズル群14及び15のみを鋼鈑種に応じて化成処理液の処理時間を制御するように構成したが、全てのシャワーノズル群13〜16について同様の制御を行うことも可能であるし、また何れか一つのシャワーノズル群のみを制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図である。
【図2】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置の一実施形態を示す側面図である。
【図3】本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置に係る化成処理装置の一実施形態を示す装置構成図である。
【図4】図3の制御装置に係る制御手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
A…脱脂洗浄工程
B…化成処理工程
C…電着工程
D…電着水洗工程
E…電着焼付工程
F…ストレージ工程
G…シーリング工程
4…自動車ボディ(被処理物)
11…処理室
13〜16…シャワーノズル群(接液手段)
17…タンク(化成処理液貯留手段)
20,21…ポンプ(接液手段)
27…情報読取装置(鋼鈑種仕様取得手段)
28…制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装前に、異なる鋼鈑種が混在する被処理物の表面に化成被膜を形成する塗装前処理方法において、前記被処理物の鋼鈑種仕様を取得するステップと、取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎に化成処理液との接液時間を制御するステップとを有することを特徴とする塗装前処理方法。
【請求項2】
前記化成処理液はジルコニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1記載の塗装前処理方法。
【請求項3】
前記被処理物と前記化成処理液との接液は、前記被処理物に前記化成処理液を噴霧することにより行われることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装前処理方法。
【請求項4】
前記被処理物と前記化成処理液との接液は、前記被処理物を前記化成処理液に浸漬させることにより行われることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装前処理方法。
【請求項5】
電着塗装装置の前工程に設置される塗装前処理装置であって、被処理物と化成処理液とを接液させる処理室と、前記化成処理液を貯留する化成処理液貯留手段と、前記被処理物に前記化成処理液を接液させる接液手段と、被処理物の鋼鈑種仕様を取得する鋼鈑種仕様取得手段と、前記鋼鈑種仕様取得手段により取得された鋼鈑種仕様に基づく部位毎に前記接液手段による化成処理液との接液時間を制御する制御手段とを有することを特徴とする塗装前処理装置。
【請求項6】
前記化成処理液はジルコニウムイオンを含むことを特徴とする請求項5記載の塗装前処理装置。
【請求項7】
前記化成処理液貯留手段は前記処理室とは別設され、前記接液手段は、前記処理室において前記被処理物に前記化成処理液貯留手段に貯留された化成処理液を噴霧する手段を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の塗装前処理装置。
【請求項8】
前記処理室の少なくとも一部において、前記被処理物は傾斜した状態で搬送されることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載の塗装前処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28544(P2006−28544A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205769(P2004−205769)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】