説明

塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。

【課題】
溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形で得られた成型品を良外観に塗装できる塗装成型品用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形によって成形され、成形後に塗装される成形品用の熱可塑性樹脂組成物であって、ゴム質重合体(ア)にシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)10〜50重量部、シアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなるビニル系共重合体(B)5〜30重量部、エポキシ基単量体(エ)と少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなる変性ビニル系共重合体(C)10〜50重量部、およびカルボキシル末端基量が11eq/t以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(D)10〜40重量部からなり、変性ビニル系共重合体(C)の含有量とポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量との間に下記(式1)の関係があり、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)およびポリブチレンテレフタラート樹脂(D)のいずれにも酸系官能基および/または酸性成分が残存していない塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
70≦カルボキシル末端基量(eq/t)×ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量(重量%)/変性ビニル系共重合体(C)含有量(重量%)×エポキシ基単量体(エ)の含有量(重量%)≦350・・・(式1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形によって成形され、成形後に塗装される成形品用の熱可塑性樹脂組成物に関するものである。具体的には、本発明は、特に加水分解特性に優れ、かつ耐衝撃性および成形加工性のバランスに優れた塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物に関するものである。また、本発明は、塗装密着性および塗装外観にも優れた塗装成形品を提供する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、耐衝撃性、機械的強度および成形加工性に優れていることから、家電製品や自動車向けの用途に幅広く利用されている。特に、自動車用途において、ABS樹脂は、優れた塗装性に注目し二輪カウルやラジエータグリルへの展開が図られている。しかしながら、自動車メーカーの複雑な形状追求により、薄肉形状品や多点ゲートによる溶融樹脂が交錯する部位が多箇所に含まれる成形品が増加し、塗装時の吸い込み痕跡、クラックおよびウェルドライン明確化等の外観不良が頻繁に発生する報告も増えてきている。また、塗料によっては、金属光沢感を出す目的や表層部の硬度を向上させる目的で、繊維状フィラー含有の塗料を用いる場合があるが、溶融樹脂が複数の異方向から交錯する部位(ウェルド部位という。)近辺では、繊維が潜り込むような配向をするためにさらにウェルドラインが明確に判り、外観不良として捉えられてしまうこともある。
【0003】
従来、ABS樹脂成形品の塗装に関しては、塗装特性であるストレスクラック防止や塗膜密着性を向上させる目的で、ゴム質グラフト共重合体やビニル系共重合体にあるシアン化ビニル化合物の量を調整した樹脂材料が使用されている(特許文献1参照。)。しかしながら、このような樹脂材料では、ウェルド部の塗装外観までは改良することができず、塗装外観としてはなお不十分であり、また、耐薬品性も十分とはいえない結果であった。
【0004】
そこで本発明者らは、耐薬品性向上の目的でABS樹脂に結晶性樹脂を混合することにより、塗装特性向上に生かすことを検討した。例えば、耐薬品性向上の目的で、ABS樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることが提案されている(特許文献2および特許文献3参照。)が、この場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂がメイン成分になってしまい、加水分解特性が十分でもなく、塗装密着性(熱可塑性樹脂への塗膜密着力)も十分とはいえなかった。また、これらの特許文献では、成形品ウェルド部位の塗装特性向上に関する新規知見については触れられていなかった。
【特許文献1】特開平6−016896号公報
【特許文献2】特開平1−138261号公報
【特許文献3】特開平4−239050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形で得られた成形品を良外観に塗装することができ、加水分解特性に優れ、かつ塗装密着性、耐衝撃性および成形加工性のバランスに優れた塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的の達成について鋭意検討した結果、ゴム含有グラフト共重合体、ビニル系共重合体、特定の変性ビニル系共重合体およびポリブチレンテレフタレート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を規定範囲内において用いることにより、溶融樹脂が複数の異方向から再び合流することを伴う射出成形で得られた成形品を良外観に塗装する際の塗装外観に優れ、かつ加水分解特性、塗装密着性、耐衝撃性および成形加工性のバランスに優れた塗装成型品用熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見いだし、本発明に到達した。
【0007】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物は、溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形によって成形され、成形後に塗装される成形品用の熱可塑性樹脂組成物であって、ゴム質重合体(ア)に少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)10〜50重量部、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなるビニル系共重合体(B)5〜30重量部、エポキシ基単量体(エ)と少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなる変性ビニル系共重合体(C)10〜50重量部、およびカルボキシル末端基量が11eq/t以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(D)10〜40重量部からなり、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+変性ビニル系共重合体(C)+ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)=100重量部において、変性ビニル系共重合体(C)の含有量とポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量との間に下記(式1)の関係があり、かつ変性ビニル系共重合体(C)以外のゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(D)のいずれにも酸系官能基および/または酸性成分が残存しないことを特徴とする塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物である。
70≦カルボキシル末端基量(eq/t)×ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量(重量%)/変性ビニル系共重合体(C)含有量(重量%)×エポキシ基単量体(エ)の含有量(重量%)≦350・・・(式1)
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(ア)5〜60重量部に、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%とからなる単量体混合物95〜40重量部をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体である。
【0008】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のビニル系共重合体(B)は、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%とからなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体である。
【0009】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の変性ビニル系共重合体(C)は、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%、これらと共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜50重量%およびエポキシ基単量体(エ)0.1〜10重量%からなる単量体混合物を共重合してなる変性ビニル系共重合体である。
【0010】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の射出成形時の成形樹脂温度は220〜280℃で、金型温度は30〜90℃で射出成形される。
【0011】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の塗装時に、繊維形状のフィラーを含有する塗料が用いられる。
【0012】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物は、それを射出成形し塗装することにより、塗装成形品とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形によって成形され、成形後に塗装される成形品用の熱可塑性樹脂組成物が得られる。具体的には、本発明によれば、特に加水分解特性に優れ、かつ耐衝撃性および成形加工性のバランスに優れた塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、本発明のこの塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物により上記射出成形で得られた成形品を塗装した場合、塗装密着性および塗装外観にも優れた性能を発現させることができる。
【0014】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物は、特に、塗装時に熱溶融樹脂が異方向から交差する部位の痕跡を隠蔽し、クレージングやクラック等の外観不具合を抑制する効果があるため、大型または格子形状の二輪カウルやラジエータグリル用途等に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の塗装成型品用熱可塑性樹脂組成物について、具体的に説明する。
【0016】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物には、必須成分として、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、エポキシ基単量体を含有する変性ビニル系共重合体(C)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(D)が含まれている。
【0017】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(ア)に、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)をグラフト重合してなるものである。
【0018】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(ア)としては、例えば、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴム等が例示され、具体的には、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレンージエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)、およびポリ(エチレン−アクリル酸エチル)等が挙げられる。これらのゴム質重合体(ア)は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでも、ゴム質重合体(ア)としては、耐衝撃性改善効果の点から、ポリブタジエンとスチレン−ブタジエン共重合ゴムが特に好ましく用いられる。
【0019】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(ア)は、ポリ(スチレン−ブタジエン)を含有することにより、耐薬品性が良好となる。耐薬品性の点から、ゴム質重合体(ア)におけるポリ(スチレン−ブタジエン)の含有量は、好ましくは20重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上である。
【0020】
このゴム質重合体(ア)の重量平均粒子径は、耐衝撃性、成形加工性、流動性および外観の点から、0.1〜2.0μmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.15〜1.5μmの範囲である。
【0021】
ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体(ア)含有量は、靱性と剛性のバランスから10〜50重量部が好ましく、より好ましくは20〜45重量部である。
【0022】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタアクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらのシアン化ビニル系単量体(イ)は、1種または2種以上用いることができる。
【0023】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体(ウ)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特にスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。これらの芳香族ビニル系単量体(ウ)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成する共重合可能な他のビニル系単量体(オ)としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドおよびN−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、アクリルアミド等の不飽和アミド、およびメタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(ア)5〜60重量部の存在下に、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%、および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%とからなる単量体混合物95〜40重量部をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体であることが好ましい。
【0026】
ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)の割合が1重量%未満では剛性と耐衝撃性が劣り、55重量%を超えると色調に劣る傾向を示す。シアン化ビニル系単量体(イ)の量は、より好ましくは5〜50重量%であり、さらに好ましくは10〜45重量%である。
【0027】
また、ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合が20重量%未満では成形性に劣り、85重量%を超えると耐衝撃性が劣る傾向を示す。芳香族ビニル系単量体(ウ)の量は、より好ましくは25〜80重量%であり、さらに好ましくは40〜80重量%である。
【0028】
また、ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成する共重合可能な他のビニル系単量体(オ)の割合が79重量%を超えると、耐衝撃性が劣る傾向を示す。共重合可能な他のビニル系単量体(オ)の量は、より好ましくは5〜75重量%であり、さらに好ましくは20〜75重量%である。
【0029】
ゴム含有グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、15〜80重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜70重量%の範囲である。グラフト率が15重量%未満では耐衝撃性が低下する場合があり、80重量%を超えると成形加工性が悪くなり成形品の外観にフローマーク等の不良が発生しやすくなる場合がある。
【0030】
ゴム含有グラフト共重合体(A)の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法を用いても良い。また、各単量体の仕込方法については特に制限はなく、初期一括仕込み、あるいは共重合体の組成分布の生成を抑えるために仕込み単量体の一部または全部を連続的または分割して仕込みながら重合してもよい。
【0031】
本発明で用いられるビニル系共重合体(B)は、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなるものである。シアン化ビニル系共重合体(B)における各単量体の構成比としては、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%、および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%であることが好ましい。
【0032】
ビニル系共重合体(B)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)の割合が1重量%未満では剛性と耐衝撃性が劣り、55重量%を超えると色調に劣る傾向を示す。シアン化ビニル系単量体(イ)の量は、より好ましくは5〜50重量部であり、さらに好ましくは10〜45重量部である。
【0033】
また、ビニル系共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合が20重量%未満では成形性に劣り、85重量%を超えると耐衝撃性が劣る傾向を示す。芳香族ビニル系単量体(ウ)の量は、より好ましくは25〜80重量%であり、さらに好ましくは40〜80重量%である。
【0034】
また、ビニル系共重合体(B)を構成する共重合可能な他のビニル系単量体(オ)の割合が79重量%を超えると、耐衝撃性が劣る傾向を示す。共重合可能な他のビニル系単量体(オ)の量は、より好ましくは5〜75重量%であり、さらに好ましくは20〜75重量%である。
【0035】
ここでのシアン化ビニル系単量体(イ)、芳香族ビニル系単量体(ウ)および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)としては、それぞれ、既述のゴム含有グラフト共重合体(A)で説明した各単量体(イ)、(ウ)および(オ)と同種のものを使用することができる。
【0036】
ビニル系共重合体(B)の粘度は、メチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.32〜1.8dl/gであり、さらに好ましくは0.33〜1.50dl/gである。
【0037】
ビニル系共重合体(B)の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合および溶液重合等のいずれの重合方法を用いても良い。また、各単量体の仕込方法については特に制限はなく、初期一括仕込み、あるいは共重合体の組成分布の生成を抑えるために仕込み単量体の一部または全部を連続的または分割して仕込みながら重合してもよい。
【0038】
本発明で用いられる変性ビニル系共重合体(C)は、エポキシ基単量体(エ)を有することが必要である。
【0039】
変性ビニル系共重合体(C)は、シアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を含む2種以上のビニル系単量体を共重合して得られる構造を有し、分子鎖中に官能基のエポキシ基を有するものである。この官能基の含有量は、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜5重量%である。この官能基の含有量が0.1重量%未満では耐衝撃性が発現せず、ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の分散性が悪くなる影響で塗装密着性の低下や塗装外観不良が発生することがある。また、この官能基の含有量が10重量%を超えると自己反応によるゲル化が発生し、塗装成形品にフローマーク等の外観不良が発生する問題を誘発することがある。
【0040】
変性ビニル系共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体(イ)の割合が1重量%未満では剛性と耐衝撃性が劣り、55重量%を超えると色調に劣る傾向を示す。シアン化ビニル系単量体(イ)の量は、より好ましくは5〜50重量部であり、さらに好ましくは10〜45重量部である。
【0041】
また、変性ビニル系共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体(ウ)の割合が20重量%未満では成形性に劣り、85重量%を超えると耐衝撃性が劣る傾向を示す。芳香族ビニル系単量体(ウ)の量は、より好ましくは25〜80重量%であり、さらに好ましくは40〜80重量%である。
【0042】
変性ビニル系共重合体(C)中に、官能基のエポキシ基を導入する方法については、特に制限されないが、通常、上記の官能基を有するビニル系単量体を共重合する方法、上記の官能基を有する重合開始剤または連鎖移動剤を用いて所定のビニル系単量体を共重合する方法などを例示することができる。
【0043】
上記の官能基を有するビニル系単量体、重合開始剤および連鎖移動剤の具体例は、下記のとおりである。ビニル系単量体の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびイタコン酸グリシジル等のエポキシ基を有する単量体が挙げられる。
【0044】
重合開始剤の例としては、γ,γ´−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)および過酸化サクシン酸等のカルボキシル基を有する開始剤や、α, α´−アゾビス(γ−アミノ−α, γ−ジバレロニトリル)およびp−アミノベンゾイルパーオキサイド等のアミノ基を有する開始剤が挙げられる。
【0045】
また、連鎖移動剤の例としては、メルカプトプロピオン、4−メルカプト安息香酸およびチオグリコール酸等のカルボキシル基を有する連鎖移動剤や、メルカプトメチルアミン、N−(β−メルカプトエチル)−N−メチルアミン、ビス−(4−アミノフェニル)ジスルフィドおよびメルカプトアニリン等のアミノ基を有する連鎖移動剤が挙げられる。
【0046】
変性ビニル系共重合体(C)を共重合する際の重合方法については、懸濁重合、塊状重合、乳化重合および溶液重合等の方法が好ましく用いられる。
【0047】
この変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度は、成形加工性および耐衝撃性の点から、0.2dl/g〜1.5dl/gの範囲であることが好ましい。還元粘度はより好ましくは0.4dl/g〜1.0dl/gの範囲である。変性ビニル共重合体(C)の還元粘度が0.2dl/g未満では、得られる塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性向上効果が十分でないことがあり、また1.5dl/gを超えると成形加工性が低下することがある。
【0048】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂(D)は、カルボキシル末端基量が11eq/t以上であることが必要である。カルボキシル末端基量が11eq/t未満では、流動性の悪化や衝撃性が発現しにくい。さらに、このカルボキシル末端基量が11eq/t未満では耐衝撃性が発現せず、ゴム含有グラフト共重合体(A)やビニル系共重合体(B)の分散性が悪くなる影響で、塗装密着性の低下や塗装外観不良が発生する。カルボキシル末端基量の好ましい上限値は50eq/t程度であり、より好ましくは45eq/t以下である。
【0049】
カルボキシル末端基量は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定することにより求めることができる。
【0050】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂(D)は、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−p−ターフェニレンジカルボン酸、および2,5−ピリジンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸あるいはそのエステル誘導体成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等、およびそれらの混合物などのジオール成分とからなる芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルである。
【0051】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂(D)は、0.5%のo−クロロフェノール溶液中、25℃の温度で測定した固有粘度が好ましくは0.4〜1.4であり、特に0.6〜1.2のものが好ましく用いられる。固有粘度がこの範囲内であれば、特に成形性と物性バランスに優れた塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物となり、成形工程で加工しやすい適切な材料となる。
【0052】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物において、ゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量は、10〜50重量部の範囲に設定する必要がある。ゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量が10重量部未満では耐衝撃性が不十分であり、50重量部を超えると成形加工性が不十分であり、塗装外観も悪化する。ゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量は、好ましくは15〜45重量部である。
【0053】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(B)の含有量は、5〜30重量部の範囲に設定する必要がある。ビニル系共重合体(B)の含有量が5重量部未満では成形加工性が不十分であり、塗装密着性も低下する一方で、30重量部を超えると耐衝撃性が不十分である。ビニル系共重合体(B)の含有量は、好ましくは5〜25重量部である。
【0054】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物において、変性ビニル系共重合体(C)の含有量は、10〜50重量部の範囲に設定する必要がある。変性ビニル系共重合体(C)の含有量が10重量部未満では耐衝撃性が発現せず、ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の分散性が悪くなる影響で塗装密着性の低下や塗装外観不良が発生する。一方で、変性ビニル系共重合体(C)の含有量が50重量部を超えると成形加工性が不十分である。変性ビニル系共重合体(C)の含有量は、好ましくは15〜40重量部である。
【0055】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタラート樹脂(D)の含有量は、10〜40重量部の範囲に設定する必要がある。ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量が10重量部未満では耐薬品性が不十分で、塗装時に吸い込み不具合が生じ、ウェルド部の外観も悪化する。一方で、ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量が40重量部を超えると加水分解特性が低下し、耐衝撃性は不十分になる。また、塗装密着性も十分とはいえない。ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量は、好ましくは15〜35重量部である。
【0056】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物においては、変性ビニル系共重合体(C)の含有量とポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量との間に、下記(式1)の関係があることが重要である。
70≦カルボキシル末端基量(eq/t)×ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量(重量%)/変性ビニル系共重合体(C)含有量(重量%)×エポキシ基単量体(エ)の含有量(重量%)≦350・・・(式1)
上記の(式1)の値が70未満では耐薬品性が劣り、ウェルド部の塗装外観が悪化する。また、上記の(式1)の値が350を超えると耐衝撃性および加水分解特性が低下する。上記の(式1)の値は、好ましくは75〜330であり、より好ましくは75〜300である。
【0057】
また、本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物においては、変性ビニル系共重合体(C)を除く、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)およびポリブチレンテレフタラート樹脂(D)のいずれにも酸系官能基および/または酸性成分が残存しないことが必要である。酸系官能基や酸性成分の存在で、変性ビニル系単量体(C)の効果が発現せず、ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の分散性が悪くなる影響で塗装密着性の低下や塗装外観不良が発生する。
【0058】
上記の酸系官能基としては、メタクリル酸、アクリル酸および無水マレイン酸などが挙げられる。また、上記の酸性成分としては、硫酸、硝酸、脂肪酸およびりん酸などなどが挙げられる。
【0059】
酸系官能基または酸性成分が残存する場合は、中和して中性からアルカリ性の状態に調整しておく必要がある。あるいは、アルカリ性成分等の添加剤導入で酸を中和する必要がある。
【0060】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じてヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系および含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系やアクリレート系等の熱安定剤、モノステアリルアシッドホスフェ−トとジステアリルアシッドホスフェ−トの混合物等のエステル交換抑制剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系およびサリシレート系等の紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系等の光安定剤等の各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマーおよび臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料等を添加することもできる。
【0061】
本発明の塗装成型品用熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては、バンバリーミキサー、ロールおよび単軸または多軸押出機などで溶融混練するなど種々の方法を採用することができる。塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分を溶融混練前に混合してから製造する方法でも、構成する各成分の一部を溶融混練中に、他の成分をサイドフィードさせて製造する方法でも良い。
【0062】
本発明の塗装成形品を構成する成形品は、複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形で得られるものである。この塗装成形品を構成する成形品の成形形態は問わない。具体的に、例えば、射出成形機ノズルから射出された塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の溶融樹脂が、金型ランナー内の一流路で流れた後、交差する複数の流路に分岐して進み、それぞれの成形品金型ゲート内から進入し、成形品内で溶融樹脂が交差し充填される場合や、ゲートから成形品金型に進入した溶融樹脂が、金型ゲート内に存在するホールやルーバーにより溶融樹脂が別れて再び交差するように充填される場合などがある。
【0063】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の射出成形設定条件や金型設定条件としては、塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物の賦型範囲を超えない条件が望ましいため、成形時樹脂温度は220℃〜280℃が好ましく、金型温度は30〜90℃が好ましい。成形温度が220℃より低い場合は成形加工性が悪く、クレージングなどの塗装外観悪化を発生させる場合がある。また、成形温度が280℃より高い場合は、熱可塑性樹脂の分解が発生して機械物性低下に繋がることも懸念される。金型温度が30℃より低い場合は成形加工性が悪く、クレージングなどの塗装外観悪化を発生させる場合があり、金型温度が90℃より高い場合では、離型性低下などの不具合に繋がる場合がある。
【0064】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を塗装する際に用いられる塗料は、アクリル系塗料、ウレタン系塗料およびエポキシ系塗料など一般的に使用される塗料を用いることができる。
【0065】
また、塗料に使用される顔料に制限はない。ただし、繊維形状のフィラーを含有する塗料を使用すると、明確に熱溶融樹脂が異方向から交差する部位の優れた外観効果を発現させる。
【0066】
塗膜厚みは、意図する外観が出せるように調整してもよい。通常、塗装膜厚み範囲は、20〜70μm程度である。
【0067】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物は、主に自動車用途として好適に用いられる。例えば、二輪カウルの場合、フロントを装飾するアッパーカウル、サイドを装飾するサイドカウルおよび走行路から跳ね上げた異物から車体を守るアンダーカウルなどが挙げられる。また、複数の異方向に分岐して再び合流するポイントが多い部品として、格子形状のラジエータグリルが挙げられるが、本発明の塗装成形品により良好な塗装外観が得られることが確認されている。
【実施例】
【0068】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物と塗装成形品について、さらに具体的に説明するため、以下に実施例を挙げるが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。ここで特にことわりのない限り、「%」は重量%であり、「部」は重量部を意味する。実施例中で用いた特性および物性の測定方法を、次に示す。
【0069】
(1)ゴム質重合体の重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484-490(1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法、即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率から累積重量分率50%の粒子径を求めた。
【0070】
(2)ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率
80℃の温度で4時間真空乾燥を行ったゴム含有グラフト共重合体(A)の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の温度の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を80℃の温度で4時間真空乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、下記式により算出した。ここでLは、グラフト共重合体のゴム含有量である。
・グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100
(3)アイゾット衝撃強さ(J/m)
ASTM D256(1988年度版、23℃、Vノッチ付き)に準拠して測定した。
【0071】
(4)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
ISO 179(1993年度版)に準拠して測定した。
【0072】
(5)メルトフローレート(g/10分)
ISO 1133(1997年度版、240℃、98N荷重)に準拠して測定した。
【0073】
(6)加水分解特性(シャルピー衝撃強さ)
シャルピー衝撃試片を、温度60℃、湿度95%RHの条件下で500時間経過後、温度23℃、湿度50%RHの条件下で3〜5時間状態調整し、ISO 179(1993年度版)に準拠して測定した。
【0074】
(7)加水分解特性(アイゾット衝撃強さ(J/m))
温度60℃、湿度95%RHの条件下で、アイゾット衝撃試片を500時間処理する。500時間経過後、温度23℃、湿度50%RHの条件下で3〜5時間状態調整し、ASTM D256(1988年度版、23℃、Vノッチ付き)に準拠して測定した。
【0075】
(8)塗装特性
(a)塗装密着性
240mm×70mm×2mmtの角板を成形温度240℃/金型温度35℃で作成し、その後に金属繊維を含有するアクリル系塗料にて膜厚が30〜40μmになるように塗装を行った。ゲート近辺と流動末端の2箇所について、JIS規格に準拠して、カッターで碁盤目(100マス:1mm間隔)に傷を入れて、塗装密着性評価を実施した。その密着状況を図1の指標を用いて4人で得点付けを実施し、その平均点(小数点第一位は四捨五入)でランク付けを行った。
【0076】
(b)角板塗装外観
240mm×70mm×2mmtの角板を成形温度240℃/金型温度35℃で作成し、その後に金属繊維を含有するアクリル系塗料にて膜厚が30〜40μmになるように塗装を行った。塗装後の角板表面を目視により観察し、塗装面のクレージング、クラック、色むらおよび光沢むら等の外観異常の有無を確認した。外観不良の例を図2に示す。
・外観異常あり:×
・外観異常なし:○
(c)ウェルド塗装外観
図3のように、2点の金型ゲートから進入した溶融樹脂が中央で交差してウェルド部を形成するダンベルを成形温度240℃/金型温度35℃で作成し、その後に金属繊維を含有するアクリル塗料にて膜厚が30〜40μmになるように塗装を行った。ウェルドの隠蔽効果を次の3段階にてランク付けを行った。
・ランク1:塗装前よりも明確にウェルドラインが目立つ(繊維配向の乱れも確認される)。
・ランク2:塗装してもウェルドラインは隠蔽できない。
・ランク3:塗装によりウェルドラインは隠蔽できる。
【0077】
(9)耐薬品性
成形温度250℃/金型温度60℃で作成した150mm×25mm×2.5mmtの試験片を、下記計算式で算出される歪みが1%となるように定スパン治具にセットし、当該試験片の表面中央部に保湿剤としてガーゼを敷き、試験液0.05mlをマイクロピペットで当該試験片の表面中央部に滴下し、滴下した時から割れるまでの時間を測定した。試験液には、ブレーキオイル(シーシーアイ(株)製「ゴールデンクルーザーブレーキフルードDOT4 GRADE3」)を使用した。
ε=[π・{L・(L−L’)}1/2]/(π・L’)・(T/2)・100
ε : 試験片歪み(%)
t : 試験片厚み(mm)
L : 試験片長さ(mm)
L’: たわみ時の試験片長さ(mm)
(参考例1)ゴム含有グラフト共重合体(A)の製造
(1)ゴム含有グラフト共重合体(A−1)の製造
窒素置換した反応器に、純水150部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部および重量平均ゴム粒子径が0.8μmとなるポリブタジエンラテックス50重量部を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン(35部)、アクリロニトリル(15部)および連鎖移動剤t−ドデシルメルカプタン混合物(0.2部)を4時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤クメンハイドロパーオキサイド(0.2部)およびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間掛けて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、続いて、このラテックスを硫酸で酸凝固後、水酸化ナトリウムで硫酸を中和し、洗浄濾過後、乾燥させて酸性成分が残存していないパウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A−1)を得た。このゴム含有グラフト共重合体(A−1)のグラフト率は39%であった。
【0078】
(2)ゴム含有グラフト共重合体(A−2)の製造
窒素置換した反応器に、純水150部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部および重量平均ゴム粒子径0.8μmとなるポリブタジエンラテックス50重量部を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン(35部)、アクリロニトリル(15部)および連鎖移動剤t−ドデシルメルカプタン混合物(0.2部)を4時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤クメンハイドロパーオキサイド(0.2部)およびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間掛けて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、続いて、このラテックスを硫酸で酸凝固後、硫酸を中和せずに洗浄濾過、乾燥させて酸性成分が残存しているパウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A−2)を得た。このゴム含有グラフト共重合体(A−2)のグラフト率は39%であった。
【0079】
(1)ゴム含有グラフト共重合体(A−3)の製造
窒素置換した反応器に、純水150部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部、重量平均ゴム粒子径が0.8μmとなるポリ(ブタジエン−スチレン)ラテックス25重量部および重量平均ゴム粒子径が0.8μmとなるポリブタジエンラテックス25重量部を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン(35部)、アクリロニトリル(15部)および連鎖移動剤t−ドデシルメルカプタン混合物(0.2部)を4時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤クメンハイドロパーオキサイド(0.2部)およびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間掛けて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、続いて、このラテックスを硫酸で酸凝固後、水酸化ナトリウムで硫酸を中和し、洗浄濾過後、乾燥させて酸性成分が残存していないパウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A−3)を得た。このゴム含有グラフト共重合体(A−3)のグラフト率は39%であった。
【0080】
(参考例2)ビニル系共重合体(B)の製造
(1)ビニル系共重合体(B)の製造
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、特公昭45−24151号公報の実施例1記載の水中でのラジカル重合方法で製造したアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部を、イオン交換水165部に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記の混合物質を反応系を攪拌しながら添加し、60℃の温度に昇温して重合を開始した。
[混合物質]
・スチレン:70部
・アクリロニトリル:30部
・t−ドデシルメルカプタン:0.05部
・2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4部
・脱イオン水:150部
具体的に、15分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、50分かけて100℃の温度まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄および乾燥を行ない、酸性成分が含有されていないビニル系共重合体(B)を得た。
【0081】
(参考例3)変性ビニル系共重合体(C)の製造
(1)変性ビニル系共重合体(C−1)の製造
スチレン76部、アクリロニトリル24部およびグリシジルメタクリレート0.3部をビニル系共重合体(B)と同重合方法で、ビーズ状の変性ビニル系共重合体(C)を得た。その変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度は、0.60dl/gであった。
【0082】
(2)変性ビニル系共重合体(C−2)の製造
スチレン76部、アクリロニトリル24部およびグリシジルメタクリレート0.1部をビニル系共重合体(B)と同重合方法で、ビーズ状の変性ビニル系共重合体(C)を得た。その変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度は、0.60dl/gであった。
【0083】
(参考例4)ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(D−1)
東レ(株)社製“トレコン”(登録商標)1100Sを用いた。カルボキシル基末端基量:42(eq/t)。酸系官能基:なし。
【0084】
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂(D−2)
東レ(株)社製“トレコン”(登録商標)1100Tを用いた。カルボキシル基末端基量:12(eq/t)。酸系官能基:なし。
【0085】
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂(D−3)
東レ(株)社製“トレコン”(登録商標)1200Sを用いた。カルボキシル基末端基量:27(eq/t)。酸系官能基:なし。
【0086】
(参考例5)塗料(E)
・塗料(E−1)
大日本塗料(株)プラニット♯1000(ブルーメタリック):金属繊維含有塗料
・塗料(E−2)
静清塗料(株)ソフレックスNo.5100(シルバーメタリック):金属フィラー塗料
(実施例1〜19)
上記の参考例1〜4で調製したゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、変性ビニル系共重合体(C)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(D)を表1、表2および表3に示した配合比で混合して、実施例1〜19の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた各熱可塑性樹脂組成物をベント付き30mmφ2軸押出機に投入し、溶融混練し、押出しを行うことによって、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物成形体を製造した。次いで、この熱可塑性樹脂組成物成形体を射出成形機(住友重機械工業(株)製、プロマット40/25)を用いて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃でアイゾッド衝撃強さ測定用試験片、およびシャルピー衝撃強さ測定用試験片を作成した。試験片は、上記条件で物性を測定し、結果を表1、表2および3に併せて示した。塗装外観を確認する際は図3のとおり、2点の金型ゲートから進入した溶融樹脂が中央で交差してウェルド部を形成するダンベルを、成形温度240℃/金型温度35℃で作成した。また、塗装特性試験の塗料は、参考例5に記載のものを使用した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
(比較例1〜7)
上記の参考例1〜4で調製したゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、変性ビニル系共重合体(C)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(D)を表24に示した配合比で混合して、実施例と同様の方法で得られた試験片について、各物性を測定し、その測定結果を表4に併せて示した。
【0091】
【表4】

【0092】
実施例1〜19の本発明の塗装成形品は、加水分解特性に優れ、かつ耐薬品性、耐衝撃性、塗装外観および成形加工性のバランスに優れたものであった。
【0093】
しかしながら、比較例1の塗装成形品は、耐衝撃性が発現せず、また塗装密着性や塗装外観などの性能が劣るものであった。式1の規定範囲外にある比較例2と3において、比較例2の塗装成形品はウェルド部の塗装外観が低下するものであり、比較例3の塗装成形品は耐衝撃性・加水分解特性が劣るものであった。ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)が規定範囲外にある比較例4と5において、比較例4の塗装成形品は耐衝撃性と加水分解特性が劣り、比較例5の塗装成形品は塗装外観が劣るものであった。変性ビニル共重合体(C)が規定範囲外にある比較例6と7において、比較例6の塗装成形品は成形加工性が劣り、比較例7の塗装成形品は耐衝撃性が発現せず、また塗装密着性や塗装外観などの性能が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物は、溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形で得られた成形品を良外観に塗装することができ、加水分解特性に優れ、かつ塗装密着性、耐衝撃性および成形加工性のバランスに優れており、塗装時に熱溶融樹脂が異方向から交差する部位の痕跡を隠蔽し、クレージングやクラック等の外観不具合を抑制する効果があるため、大型または格子形状の二輪カウルやラジエータグリル用途等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、塗装密着性試験を実施した際の評価指標を示す図である。
【図2】図2は、塗装での外観異常(クレージング、クラック)を示す図面代用写真である。
【図3】図3は、ウェルド部塗装評価を行う際の試験片を示す概略側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂が複数の異方向に分岐して再び合流することを伴う射出成形によって成形され、成形後に塗装される成形品用の熱可塑性樹脂組成物であって、ゴム質重合体(ア)に少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)10〜50重量部、少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなるビニル系共重合体(B)5〜30重量部、エポキシ基単量体(エ)と少なくともシアン化ビニル系単量体(イ)と芳香族ビニル系単量体(ウ)を共重合させてなる変性ビニル系共重合体(C)10〜50重量部、およびカルボキシル末端基量が11eq/t以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(D)10〜40重量部からなり、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+変性ビニル系共重合体(C)+ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)=100重量部において、変性ビニル系共重合体(C)の含有量とポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量との間に下記(式1)の関係があり、かつ変性ビニル系共重合体(C)以外のゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(D)のいずれにも酸系官能基および/または酸性成分が残存しないことを特徴とする塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
70≦カルボキシル末端基量(eq/t)×ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)含有量(重量%)/変性ビニル系共重合体(C)含有量(重量%)×エポキシ基単量体(エ)の含有量(重量%)≦350・・・(式1)
【請求項2】
ゴム含有グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(ア)5〜60重量部に、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%とからなる単量体混合物95〜40重量部をグラフト重合してなるゴム含有グラフト共重合体である請求項1記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ビニル系共重合体(B)が、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%および共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜79重量%とからなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体である請求項1または2記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
変性ビニル系共重合体(C)が、シアン化ビニル系単量体(イ)1〜55重量%、芳香族ビニル系単量体(ウ)20〜85重量%、これらと共重合可能な他のビニル系単量体(オ)0〜50重量%およびエポキシ基単量体(エ)0.1〜10重量%からなる単量体混合物を共重合してなる変性ビニル系共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
射出成形時の成形樹脂温度が220〜280℃で、金型温度が30〜90℃で射出成形される請求項1〜4のいずれかに記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
塗装時に、繊維形状のフィラーを含有する塗料が用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の塗装成形品用熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた塗装成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308676(P2008−308676A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126825(P2008−126825)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】