説明

塗装方法

【課題】塗膜における膨れや泡などの欠陥の発生を防止できるようにする。
【解決手段】塗装直後の塗膜4が未硬化の段階で、この塗膜4を火炎12または熱風13に曝すことによって、塗膜4に包み込まれたガスを熱膨張させ、この熱膨張したガスにより未硬化の塗膜4を破裂させて、このガスを塗膜4の外部に排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装方法に関し、たとえば鋳鉄管の内面に粉体塗装を施す場合のような塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管などとして用いられるダクタイル鋳鉄管を遠心鋳造した際には、管内面の防食のために粉体塗装などの塗装が施されることが一般的である(特許文献1)。
【0003】
しかし、遠心鋳造された鋳鉄管は、塗装が施される前に水圧を負荷して管体の健全性が検査されねばならず、その水分が微少なシワ等に浸透して残存することがある。粉体塗装を行う前に鋳鉄管は予熱されるが、浸透した水分が予熱によって水蒸気となり、その上に塗装が施されると、塗膜に、膨れ、泡、ピンホールなどの欠陥が生じる原因となる。
【0004】
図4において、1は鋳鉄管、2はその内周面、3はその外周面である。内周面2には、粉体塗装による塗膜4が形成されている。図4(a)は、鋳鉄管1の健全部に塗膜4を形成した場合を示す。しかし、図4(b)に示すように、鋳鉄管1の内表面に微少なシワなどが存在し、その部分に水圧試験時の水分が残存していた場合には、その上に粉体塗装による塗膜4を形成すると、この塗膜4がシワなどから発生する水蒸気6によって膨れあがり、膨れた状態のまま塗膜が硬化すると、上述の一般に「膨れ」と称されている欠陥7が発生することがあり、塗装面の外観を甚だ損なう原因となる。また、図4(c)に示すように膨れたものが硬化する前に破裂し、凹みとして残ると、一般に「泡」とか「ピンホール」と称される欠陥8が発生することとなり、外観を大きく損なうだけでなく、この欠陥8が鉄地表面にまで貫通する場合は防食性も大きく損なう原因となる。
【特許文献1】特開2003−11253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記したような問題点を解決して、塗膜における膨れや泡などの欠陥の発生を防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため本発明の塗装方法は、塗装直後の塗膜が未硬化の段階で、前記塗膜を火炎または熱風に曝すことによって、塗膜に包み込まれたガスを熱膨張させ、この熱膨張したガスにより未硬化の塗膜を破裂させて、このガスを塗膜の外部に排出させるものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすることで、塗装対象の不健全部から発生したガスを外部に排出させることができて、塗膜における膨れや泡などの欠陥の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1において、1は鋳鉄管、2はその内周面、3はその外周面である。4は内周面に形成された塗膜である。
鋳鉄管の内面防食に最も一般的に用いられる塗料はエポキシ樹脂系の粉体塗料であり、このエポキシ樹脂系の粉体塗料は、長期的な密着力と耐久性に優れているので、数十年に渡って供用される管路の防食に好適である。エポキシ樹脂系の粉体塗料を塗装する際には、たとえば鋳鉄管1を200℃前後に昇温し、その鋳鉄管1の表面に向けて、粉体塗料を、塗膜厚が300〜1000μmとなるよう散布する。これにより塗装直後にエポキシ樹脂粉体塗料の温度も200℃程度まで上昇する。エポキシ樹脂は熱硬化性の樹脂であるので、昇温によってゲル化し、流動性をもつことによって平滑な塗膜を形成することになるが、一定の時間が経過すると、温度が高い状態のままでも流動性を失い硬化する。
【0009】
鋳鉄管1の内周面2には、他の樹脂系の粉体塗料による塗膜を形成することもできる。たとえばポリエチレンなどの熱可塑性樹脂粉体塗料の場合は、一定の温度以上を保てば、その間塗膜は流動性を維持し、あるいは一旦温度が低下した場合でも再度昇温すれば塗膜に流動性を付与することができる。また溶剤を含む塗料、あるいは2液硬化反応型の塗料の場合は、溶剤が揮発するまで、あるいは硬化反応がある程度進むまでは塗料は流動性を持ち、その時間は、配合成分、配合比によって数分間から数10時間まで調整可能である。
【0010】
しかしながら、熱硬化性であるエポキシ樹脂粉体塗料が流動性を持つのは、ゲルタイムと呼ばれる時間の間のみであり、このゲルタイムは、温度が高くなるほど短くなる。塗膜のタレなどを防ぐため、エポキシ樹脂粉体塗料では、適正な被塗物温度においては、ゲルタイムは数10秒程度であることが多く、ゲルタイムが経過し一旦流動性を失った後には、再度流動性を付与することはできない。
【0011】
すなわち、鋳鉄管1の内周面2における上述のように水分が浸透した部位の表面にエポキシ樹脂粉体塗料を塗装すると、流動化した塗膜の下で水蒸気がガスとして発生し、塗膜に膨れが発生する。数10秒のゲルタイムの間にガスが塗膜から排出され、次いで塗膜が平滑化されると、良好な塗装面が得られる。しかし、ガスが排出されない場合、あるいはガスが排出されても塗膜が平滑化されるのに必要な時間がゲルタイムの範囲内で確保されない場合は、塗膜欠陥となってしまう。
【0012】
本発明においては、たとえば昇温した鋳鉄管1の内周面2に塗装した直後の塗膜4がまだ硬化していない段階で、鋳鉄管1の内面側すなわち塗膜4の表面側から、この塗膜4を、瞬間的に塗装時の管温よりも高温に曝して熱処理する。具体的には、たとえば、図示のように、バーナ11からの火炎12を、瞬間的に、たとえば1秒程度の間だけ、未硬化でゲル化した状態にある塗膜4に当て、この塗膜4を急激に加熱して一瞬の間だけ高温の状態にする。こうすると、もし鋳鉄管1に水分が浸透した部分が存在して、そこから水蒸気がガスとして発生し、このガスによって塗膜4に「膨れ」が形成されていても、このガスが瞬間的に数倍に熱膨張するので、その膨張圧が未硬化でゲル化した状態にある塗膜4の表面張力を越えると、「膨れ」の部分の塗膜4が破裂する。そして、この破裂によって凹み形状を呈する泡やピンホールが形成されるが、塗膜4はゲルタイムを終了するまでの流動性を持った状態にあるので、塗装のために鋳鉄管1を回転させていることによる遠心力や微振動によって塗膜が平滑化され、結果として良好な塗膜が得られる。
【0013】
粉体塗装によってすでに「泡」が形成されている部分も、同様にバーナ10で加熱すれば、塗膜4の流動により「泡」を効果的になじませることができる。
上記したバーナ11の火炎12を当てることに代えて、図2に示すように、塗膜4に熱風13を当てることによっても、同様に塗膜4を健全化することができる。鋳鉄管1に粉体塗装を施した場合には、熱風13の温度は400〜600℃程度が適当である。この熱風14は、同様に1秒程度の間だけ塗膜4に直接当てるようにする。
【0014】
なお、上記した1秒程度の間だけ高温に曝しても、塗膜4がこげたり変色したりすることはない。すなわち本発明によれば、塗膜4が高温によってこげたり変色したりせず、しかも「膨れ」や「泡」を解消できる温度条件および時間的条件によって、この塗膜4を加熱処理すればよい。
【0015】
本発明によれば、上記のように高温の火炎12や熱風13を不健全部の塗膜4に直接当てることで、塗膜4が流動性を持つ間に急激に加熱させてガスを膨張させることが必要である。これに対し、たとえば雰囲気温度を調整するようなヒータ(炉)を用いたのでは、不健全部から発生したガスを急激に加熱することができず、本発明のように塗膜4におけるガスの発生部に重点的に熱を供給する手法のような、上述の作用効果を期待することは困難である。つまり、雰囲気温度を調整するようなヒータでは、本発明と比べて間接加熱となるため、不健全部から発生したガスを塗膜の破裂に至るまで昇温するためには、ゲルタイム以上の時間を要することになってしまう。そうなると、塗膜4の流動性が無くなってしまって、凹凸を有した平滑性に乏しい状態になってしまう。しかし、本発明によれば、塗膜4における「膨れ」や「泡」などの欠陥の発生を、簡単な手法によって確実に防止することができる。
【0016】
なお、上記においては、鋳鉄管1の内面2に粉体塗装を施して塗膜4を形成した場合について説明したが、本発明の方法は、塗装対象や塗膜の種類を問わずに適用することができる。
【実施例】
【0017】
実施例1
口径200mm、管長5000mmの第1のダクタイル鋳鉄管と、口径150mm、管長5000mmの第2のダクタイル鋳鉄管との内面に、それぞれエポキシ樹脂粉体塗料を用いて塗装を行った。ダクタイル鋳鉄管の内表面は全面グラインダ研磨し、また6.0MPaの水圧を負荷して管体に異常が無いことを試験した第1のダクタイル鋳鉄管および第2のダクタイル鋳鉄管それぞれ400本ずつを供試管として準備した。内面の粉体塗装に使用した塗料は、ゲルタイムが100℃−200秒、200℃−70秒、400℃−2秒の、エピ−ビス系エポキシ樹脂粉体塗料であった。
【0018】
まず、供試管を加熱炉に連続投入し、全管一定の時間を掛けて管温210℃になるよう昇温し、加熱炉から連続的に排出し、排出の後10分以内に粉体塗装を行った。
【0019】
すなわち、粉体塗装時の管温は200℃±10℃であり、図3に示すように、鋳鉄管1の外面2か所を回転ローラー14で受けて水平方向に支持したうえで、この管1を60rpmで回転させ、管内にランス15を挿入して、目標塗膜厚600μmとなるよう粉体塗料を供給した。400本の供試管のうち、200本は、粉体塗装後そのまま常温放置で冷却した。これに対し、残りの200本は、管の片側から天然ガスバーナー16を用いて管1の内部に火炎17を吹き付け、管1の内面を2±1秒間高温雰囲気に曝した。ガスバーナー16による火炎17の吹き付けは管2本毎に行い、火炎に曝した管と曝さなかった管とを交互に製作した。火炎を吹き付けるタイミングは、ゲルタイムの間でなければ意味が無いので、粉体塗料供給後出来る限り早く、遅くとも30秒以内とした。
【0020】
火炎に曝した管200本と、曝さなかった管200本とについて、膨れ、泡、ピンホール(PH)の発生した本数をカウントした。その結果を、表1において、第1のダクタイル鋳鉄管と、第2のダクタイル鋳鉄管とに分けて示す。表1においては、カウントされた本数について、200本に対するパーセンテージをも併記した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示すように、口径200mmの第1のダクタイル鋳鉄管と、口径150mmの第2のダクタイル鋳鉄管との双方とも、火炎の吹き付けを行った場合の方が、吹き付けを行わなかった場合に比べて、膨れ、泡、ピンホール(PH)のいずれにおいても、発生率を低下させることが可能であった。
【0023】
実施例2
口径800mm、管長6000mmのダクタイル鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を用いて塗装を行った。このとき、ダクタイル鋳鉄管の内表面は全面グラインダ研磨し、また4.0MPaの水圧を負荷して管体に異常が無いことを確認したうえで、2.0MPaの水圧を10分間負荷して管の内表面に水分を充分に浸透させたもの120本を、供試管として準備した。
【0024】
使用した塗料は実施例1と同じもので、ゲルタイムが100℃−200秒、200℃−70秒、400℃−2秒のエピ−ビス系エポキシ樹脂粉体塗料であった。
【0025】
まず、供試管を加熱炉に連続投入し、全管一定の時間を掛けて管温210℃になるよう昇温し、加熱炉から連続的に排出し、排出の後5分以内に粉体塗装を行った。
【0026】
粉体塗装時の管温は200℃±20℃であり、管外面2か所を回転ローラーで受けて水平方向に支持したうえで、その管を40rpmで回転させ、管内にランスを挿入して、目標塗膜厚800μmとなるように粉体塗料を供給した。
【0027】
120本の供試管のうち、60本は、粉体塗装後そのまま常温放置で冷却した。これに対し、残りの60本は、管の片端側内面0〜500mmの範囲を、全周にわたって、天然ガスバーナーの火炎に、約3秒間すなわち管が2回転する間曝した。
【0028】
ガスバーナーによる火炎の吹き付けは管2本毎に行い、火炎に曝した管と曝さなかった管を交互に製作した。火炎を吹き付けるタイミングは実施例1と同じとした。
粉体塗装後そのまま常温放置で冷却した60本の管のすべてについての、管の片端側内面0〜500mmの範囲の全周に発生した膨れ、泡、ピンホール(PH)の総数と、火炎に曝した残りの60本の管のすべてについての、同範囲の全周に発生した膨れ、泡、ピンホール(PH)の総数とを数えた結果は、表2に示す通りとなった。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示すように、火炎の吹き付けを行った場合の方が、吹き付けを行わなかった場合に比べて、膨れ、泡、ピンホール(PH)のいずれにおいても、発生か所の数を低下させることが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の塗装方法を示す図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の塗装方法を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の塗装方法を示す図である。
【図4】従来の塗装方法による欠陥の発生状況を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 鋳鉄管
4 塗膜
11 バーナ
12 火炎
13 熱風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装直後の塗膜が未硬化の段階で、前記塗膜を火炎または熱風に曝すことによって、塗膜に包み込まれたガスを熱膨張させ、この熱膨張したガスにより未硬化の塗膜を破裂させて、このガスを塗膜の外部に排出させることを特徴とする塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212783(P2008−212783A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50879(P2007−50879)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】