説明

塗装方法

【課題】この発明は、塗装性に悪影響を及ぼすことなく、高い湿度を一定に保つことができ、さらに、塗料の歩留まりを向上することができる塗装方法に関する。
【解決手段】本発明の塗装方法は、被塗装物1が塗装空間2の搬入口3から該塗装空間2内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグDを噴霧可能な加湿装置4で65〜95%に加湿された塗装空間2内で、主溶媒として水が使用され、水と略同等の粘度を有する塗料5を塗装手段6により霧化して前記被塗装物1が塗装され、前記被塗装物1が前記塗装空間2の搬出口7から該塗装空間2外に搬出されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被塗装物に塗料を塗装するための塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装性を改善し、優れた塗膜を形成するために、有機溶媒を10〜30重量%含有する水性塗料を、気温15〜30度、相対湿度60〜90%の塗装雰囲気中で、片面当たりの塗布量10〜60g/mで塗布する塗装方法が考案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のように湿度を調節する際には、加湿器が有効な方法として使用されているが、被塗装物が塗装される塗装空間内を完全に外気と遮断することは困難であり、そのため常に湿度を60〜90%に保つことは容易ではなかった。また、水を沸騰させるスチーム式の加湿器や、超音波により水を微粒子に換え噴霧する超音波式の加湿器等があるが、水の粒径が大きく、これらが被塗装物等に接触すると、その表面に水滴が析出し、塗装性に悪影響を及ぼす可能性があった。さらに、これらの水滴が塗装空間内や周辺機器を錆びさせるという問題もあった。また、水を多孔質のゼオライト等に吸収させそこに風をあてて当該水を気化させる気化式の加湿器においては、前述のような問題は生じることはないが、加湿能力が低く、湿度を一定に保つことが困難であった。
【0005】
この発明は上記のような種々の課題を解決することを目的としてなされたものであって、塗装性に悪影響を及ぼすことなく、高い湿度を一定に保つことができ、さらに、塗料の歩留まりを向上することができる塗装方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の塗装方法は、塗装手段が具備されている塗装空間内を搬送手段によって搬送される被塗装物が搬入口から搬出口に向かって通過する過程で塗装される塗装方法において、前記塗装空間の内部が、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能な加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装手段が主溶媒として水が使用された塗料を霧化して前記被塗装物に塗装することを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の塗装方法は、前記塗装空間内部において、前記加湿装置にて加湿を行いながら、前記塗装空間外部に排気を行うことを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の塗装方法は、前記塗装空間外部への排気が、当該塗装空間の下方に設けられた排気口から行われることを特徴としている。
【0009】
請求項4記載の塗装方法は、前記加湿装置が前記塗装空間の上方に設けられることを特徴としている。
【0010】
請求項5記載の塗装方法は、搬送手段よって搬送される被塗装物が、塗装空間を通過する際に、該塗装空間内で塗装される塗装方法において、前記被塗装物が前記塗装空間の搬入口から該塗装空間内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気が行われる当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化して前記被塗装物が塗装され、前記被塗装物が前記塗装空間の搬出口から該塗装空間外に搬出されることを特徴としている。
【0011】
請求項6記載の塗装方法は、前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装されることを特徴としている。
【0012】
請求項7記載の塗装方法は、搬送手段に搬送される被塗装物が、塗装空間を通過する際に、該塗装空間内で塗装される塗装方法において、前記被塗装物が前記塗装空間の搬入口から前記塗装空間内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気される当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化すると共に、前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記被塗装物が塗装され、前記被塗装物が前記塗装空間の搬出口から該塗装空間外に搬出されることを特徴としている。
【0013】
請求項8記載の塗装方法は、前記搬入口、及び前記搬出口の開口高さが可変であることを特徴としている。
【0014】
請求項9記載の塗装方法は、前記塗装空間の湿度を70〜90%とすることを特徴としている。
【0015】
請求項10記載の塗装方法は、空調装置により前記塗装空間内の温度を15〜25度に調節しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の塗装方法によれば、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能な加湿装置で65〜95%に加湿された塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化して前記被塗装物が塗装される。これにより、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することにより、当該ドライフォグの粒径が小さいため、これが被塗装物や塗装空間内の装置等に直接接触したとしても、これらに水滴が付着することがなく、塗装性の低下や、該塗装空間内の装置等の腐食が問題となることがない。
【0017】
また、塗料を霧化して被塗装物を塗装する際には、該塗料が気化しやすく、塗料歩留まりが低下し、特に夏場等の気温が高くて湿度の低いような場合にはこれが著しいが、塗装空間の湿度を65〜95%にすることで、該塗料の気化を防止して歩留まりを向上させることができる。また、夏場等の気温が高い場合には、空気中の飽和水蒸気量が高く、湿度を高く保持することが困難ではあるが、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することで、当該ドライフォグが気化する際の気化熱により塗装空間内の気温を低下させることができ、当該塗装空間内の湿度の管理が容易になる。
【0018】
請求項2記載の塗装方法によれば、請求項1記載の塗装方法において、前記加湿装置にて加湿を行いながら、前記塗装空間外部に排気を行っている。これにより、塗装空間内の空気に対流が生じるので、塗装空間内の湿度を均一に保持することができるという利点がある。
【0019】
請求項3記載の塗装方法によれば、前記塗装空間外部への排気が、当該塗装空間の下方に設けられた排気口から行われている。これにより、塗装空間内の全体に空気の対流を生じさせることができるので、塗装空間内の湿度をより均一に保持することができるという利点がある。
【0020】
請求項4記載の塗装方法によれば、請求項1乃至3記載の塗装方法において、前記加湿装置が前記塗装空間の上方に設けられている。これにより、加湿装置から噴霧された平均粒径が1〜15μmのドライフォグは空気より重いため、塗装空間の上方から下方に当該ドライフォグが対流し、該塗装空間内を均一に加湿することができる。
【0021】
請求項5記載の塗装方法によれば、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気が行われる当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化して前記被塗装物が塗装される。これにより、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することにより、当該ドライフォグの粒径が小さいため、これが被塗装物や塗装空間内の装置等に直接接触したとしても、これらに水滴が付着することがなく、塗装性の低下や、該塗装空間内の装置等の腐食が問題となることがない。
【0022】
また、塗料を霧化して被塗装物を塗装する際には、該塗料が気化しやすく、塗料歩留まりが低下し、特に夏場等の気温が高くて湿度の低いような場合にはこれが著しいが、塗装空間の湿度を65〜95%にすることで、該塗料の気化を防止して歩留まりを向上させることができる。また、夏場等の気温が高い場合には、空気中の飽和水蒸気量が高く、湿度を高く保持することが困難ではあるが、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することで、当該ドライフォグが気化する際の気化熱により塗装空間内の気温を低下させることができ、当該塗装空間内の湿度の管理が容易になる。
【0023】
さらに、加湿装置が塗装領域の上方に設けられているので、加湿装置から噴霧された平均粒径が1〜15μmのドライフォグは空気より重いため、塗装空間の上方から下方に当該ドライフォグが対流し、該塗装空間内を均一に加湿することができる。そして、排気口が当該塗装領域の下方に設けられているので、塗装空間内の全体に空気の対流を生じさせることができ、塗装空間内の湿度を均一に保持することができるという利点がある。
【0024】
請求項6記載の塗装方法によれば、請求項1乃至5記載の塗装方法において、
前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装される。これにより、霧化された塗料のうち被塗装物に塗着されなかったものを回収することができるので、当該塗料の歩留まりを向上することができる。
【0025】
請求項7記載の塗装方法によれば、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気される当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化すると共に、前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記被塗装物が塗装される。これにより、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することにより、当該ドライフォグの粒径が小さいため、これが被塗装物や塗装空間内の装置等に直接接触したとしても、これらに水滴が付着することがなく、塗装性の低下や、該塗装空間内の装置等の腐食が問題となることがない。
【0026】
また、塗料を霧化して被塗装物を塗装する際には、該塗料が気化しやすく、塗料歩留まりが低下し、特に夏場等の気温が高くて湿度の低いような場合にはこれが著しいが、塗装空間の湿度を65〜95%にすることで、該塗料の気化を防止して歩留まりを向上させることができる。また、夏場等の気温が高い場合には、空気中の飽和水蒸気量が高く、湿度を高く保持することが困難ではあるが、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを使用することで、当該ドライフォグが気化する際の気化熱により塗装空間内の気温を低下させることができ、当該塗装空間内の湿度の管理が容易になる。
【0027】
また、加湿装置が塗装領域の上方に設けられているので、加湿装置から噴霧された平均粒径が1〜15μmのドライフォグは空気より重いため、塗装空間の上方から下方に当該ドライフォグが対流し、該塗装空間内を均一に加湿することができる。そして、排気口が当該塗装領域の下方に設けられているので、塗装空間内の全体に空気の対流を生じさせることができ、塗装空間内の湿度を均一に保持することができるという利点がある。
【0028】
さらに、前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装される。これにより、霧化された塗料のうち被塗装物に塗着されなかったものを回収することができ、当該塗料の歩留まりを向上することができる。
【0029】
請求項8記載の塗装方法によれば、請求項1乃至7記載の塗装方法において、前記搬入口、及び前記搬出口の開口高さが可変である。これにより、塗装空間に搬入される被塗装物の高さに応じて、搬入口、及び搬出口の開口高さを調節して、できるだけこれらの開口面積を小さくすることができ、塗装空間において作業者の意に反した空気の流入、若しくは流出を抑制することで、当該塗装空間内の湿度を一定に保持することができる。
【0030】
請求項9記載の塗装方法によれば、請求項1乃至9記載の塗装方法において、前記塗装空間の湿度を70〜90%とするものである。これにより、塗料を霧化して被塗装物を塗装する際には、該塗料が気化しやすく、塗料歩留まりが低下し、特に夏場等の気温が高くて湿度の低いような場合にはこれが著しいが、塗装空間の湿度を70〜90%にすることで、該塗料の気化を防止して歩留まりを向上させることができ、また、湿度管理が容易である。
【0031】
請求項10記載の塗装方法によれば、請求項1乃至10記載の塗装方法において、空調装置により前記塗装空間内の温度を15〜25度に調節しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装される。これにより、ドライフォグの気化熱による塗装空間内の気温の減少に加え、強制的に当該塗装空間内の気温を調節することにより、湿度の管理が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明における塗装方法の最良の実施形態について、以下に説明する。本発明に係る塗装方法は、図1、図2に示すように、被塗装物1が塗装空間2の搬入口3から該塗装空間2内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグDを噴霧可能な加湿装置4で65〜95%に加湿された塗装空間2内で、主溶媒として水が使用され、水と略同等の粘度を有する塗料5を塗装手段6により霧化して前記被塗装物1が塗装され、前記被塗装物1が前記塗装空間2の搬出口7から該塗装空間2外に搬出されるものである。
【0033】
そして、本発明に係る塗装方法は、例えば図1乃至4に示すような、塗装装置8を使用することができる。第1の実施形態に係る塗装装置8は、被塗装物1を搬送するための搬送手段9と、該被塗装物1を塗装するための塗装手段6と、該塗装手段6の周囲を覆い塗装空間2を形成する塗装室10と、から形成されている。そして、塗装手段6は、搬送手段9に搬送される被塗装物1が、塗装空間2を通過する際に、当該被塗装物1をスプレー方式により塗装可能となっている。
【0034】
前記搬送手段9としては、図1、図4に示すように、例えば、複数の回転ロール9aを具備することにより、被塗装物1を搬送可能なものや、その他にもベルトコンベア等を好適に使用することができる。前記塗装空間2は、複数の壁体を組合わせることにより、例えば図1に示すように、略直方体形状に形成された塗装室10内に形成されており、該塗装空間2において作業者の意に反した空気が流入、若しくは流出を抑制することができるようになっている。
【0035】
また、搬送手段9は、図2、図3、図4に示すように、塗装室10の相対向する側面10a、10bを貫通して設けられており、該搬送手段9によって搬送された被塗装物1が塗装室10の側面10aに形成された搬入口3から搬入され、該塗装室10内の塗装空間2で塗装された後、搬入口3と相対向する塗装室10の側面10bに形成された搬出口7から搬出される。また、塗装室10における搬入口3と搬出口7が形成された側面10a、10b以外の側面のうち一方の側面10cには該塗装室10内の塗装空間2のメンテナンス等のために外部から該塗装空間2内に進入可能なように、扉11等が設けられている。尚、搬送手段9の構成は、上述のもの以外にも周知の搬送手段9を適宜選択して使用することができ、また、塗装室10の形状も本実施形態のものに限定されるものではなく、変更することができる。
【0036】
ここで、被塗装物1としては、建築材料としての外壁パネルや、タイル、コンクリートブロック等を始めとした、種々の形状、及び材料からなる部材や、建築材料以外の部材にも適宜使用することができる。そのため、搬送手段9から塗装室10内の塗装空間2にこれらの被塗装物1が搬送される際に、多様な大きさの該被塗装物1に対応することができると共に、塗装空間2において作業者の意に反した空気の流入、若しくは流出を抑制するために、搬入口3や搬出口7の上方から開口高さを自動、若しくは手動にて調節することができるシャッター3a、7aが設けられている。
【0037】
前記塗料5としては、主溶媒として水が使用されると共に、水と略同等の粘度を有する水系塗料が好適に使用される。該塗料5には、アルコール系や、トルエン等の有機溶媒を始めとして界面活性剤、消泡材等の添加剤、アクリル系、シリコン系等の添加剤、更には、金属や2酸化ケイ素等の無機粒子等を目的に応じて添加することができる。
【0038】
前記塗装手段6は、図2、図3、図4に示すように、塗装室10の内部、若しくは該塗装室10の外部に設置され塗料5を蓄えるタンク(不図示)から供給された該塗料5を霧化して被塗装物1に塗着可能なスプレー式ノズル6aを複数具備するものが好適に使用される。そして、本実施形態においては、塗装室10の天井10dの略中央に、被塗装物1が搬送される方向と略垂直方向に塗装手段6をスライド自在なスライドレール12が設けられており、該スライドレール12から略鉛直方向に垂下がる逆T字型の支持部6bに複数のノズル6aが設けられるようにして、塗装手段6が形成されている。
【0039】
被塗装物1を塗装する際には、搬送手段9により搬送された該被塗装物1は塗装手段6等に取付けられたセンサー(不図示)により検知され、該塗装手段6の下方で一旦停止する。そして、塗装手段6は、スライドレール12に従ってスライドしながらそのノズル6aの先端から塗料5をスプレー状に霧化して被塗装物1に塗装を施す。その際には、ノズル6aの先端にその下方の被塗装物1を検知するためのセンサー(不図示)が設けられているので、当該被塗装物1が下方にある時にだけ該ノズル6aの先端から塗料5が噴射され、塗料5の歩留まりの低下を抑制している。そして、被塗装物1に所定量の塗料5が塗布された後に、当該被塗装物1は搬送手段9により搬出口7から塗装空間2外に搬出され、これと同時に搬送手段9により他の被塗装物1が搬入口3から塗装空間2内に搬入されるようにして、連続的に被塗装物1が塗装される。
【0040】
また、図2、図3、図4に示すように、被塗装物1を塗装する塗装手段6、及び搬送手段9の下方には、該塗装手段6から噴霧された塗料5のうち、被塗装物1に塗着しなかった該塗料5を回収するための回収ダクト13が設けられている。該回収ダクト13は、上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成されており、該回収ダクト13の傾斜面13aに付着した塗料5が該傾斜面13aの傾斜に従ってその底部13bにまで流れ落ちるので、該塗料5を効率的に回収することができる。さらに、回収ダクト13は、扉11が形成された塗装室10の手前側から奥側に向かって低くなるように勾配を有して設けられているので、前述のように傾斜面13aの傾斜に従って底部13bにまで流れ落ちた液滴を、さらに該回収ダクト13の勾配に従って流し、容器14等でこれを回収することができる。このように、回収ダクト13により前記塗料5を回収しながら、前記被塗装物1が塗装される。
【0041】
本実施形態のドライフォグDとは、平均粒径が1〜15μmの超微細な霧のことをいい、このように超微細なドライフォグDを使用することにより、該ドライフォグDが被塗装物1に衝突したとしてもこれが破裂せずにはね返るため、該被塗装物1の表面に水滴が生じることがなく、塗装性に影響を及ぼすことがない。また、塗装空間2の内壁や、その他の機器に水滴が付着して錆の発生による腐食が生じることがない。ここで、上記平均粒径は、ザウター平均粒子径であり、液滴の体積の総和と表面積の総和の比を求めたザウター平均により算出した値である。尚、ドライフォグDの平均粒径は5〜10μmであることがより好ましく、これにより被塗装物1の表面等により水滴が生じにくく、また、比較的安価な加湿装置4でもドライフォグDの発生が可能となる。
【0042】
そして、前述のようにドライフォグDを噴霧可能な加湿装置4は周知の装置を使用することができ、該加湿装置4には塗装室10外部の貯水タンク(不図示)から水を供給するための配管が接続されると共に、塗装空間2内の内壁や塗装手段6等に設けられた湿度計から出力された値を基に塗装室10外部に設置された制御部(不図示)により当該塗装空間2内の湿度を調節している。
【0043】
第1の実施形態に係る塗装装置8においては、図2、図3、図4に示すように、塗装室10内の塗装空間2における搬入口3が設けられた側面10aと、該側面10aと略垂直方向に隣接し扉11が設けられた側面10cとが形成する角部の天井10d付近に加湿装置4が設けられている。そして、塗装室10の側面10cに沿うようにして加湿装置4からドライフォグDが噴霧されている。また、塗装室10の奥側の側面10eにおける搬出口7側の下端部には、排気口15a、及び該排気口15aから強制排気を促すための排気ファン15bが設けられている。これにより、被塗装物1を塗装する際に、排気ファン15bを回転させ排気口15aから排気することで、加湿装置4によって噴霧されたドライフォグDを塗装空間2内において全体的に対流させることができ、当該塗装空間2内の湿度を均一に保つことができる。
【0044】
この際には、被塗装物1を塗装する際の塗装空間2内の湿度は、加湿装置4によって65〜95%、より好ましくは70〜90%に保持されていることが、塗料5の気化による該塗料5の歩留まり低下を抑制することができるため好ましい。
【0045】
第2の実施形態に係る塗装装置8は、図5、図6、図7に示すように、加湿装置4の位置と数、及び排気口15aの位置以外は第1の実施形態に係る塗装装置8と同様である。そして、第2の実施形態に係る塗装装置8は、2つの加湿装置4を搬入口3、及び搬出口7付近に設けている。具体的には、加湿装置4は、図5、図7に示すように、搬入口3、及び搬出口7の周囲であって、それらの高さ方向の略中央付近に、搬送手段9を挟んで一方側、及び他方側にそれぞれ設けられている。そして、これらの加湿装置4からは、図7に示すように、塗装室10を時計回り、若しくは反時計回りであって、噴霧されるドライフォグDが該搬入口3、及び搬出口7を幅方向に横切るように噴霧されている。これにより、被塗装物1を塗装する際に、加湿装置4から噴霧されるドライフォグDは、塗装空間2内を加湿すると共に、エアーカーテンの役割をするため、搬入口3、及び搬出口7から、該塗装空間2における作業者の意に反した空気の流入、若しくは流出を抑制することができる。
【0046】
また、塗装室10の奥側の側面10eの中央下端部には排気口15a、及び排気ファン15bがそれぞれ設けられている。ここで、図6に示すように、勾配を有するように設置された回収ダクト13における勾配下方側の正面に排気口15a、及び排気ファン15bが設けられている。そのため、被塗装物1を塗装する際に、この排気口15aから排気することで、回収ダクト13の傾斜面13aに従って流れる塗料5の液滴、及び、該回収ダクト13の勾配に従って流れる液滴の方向と、塗装空間2内の空気の流れと、が同じ方向となるため、塗料5の回収率を向上することができ、該塗料5の歩留まりを向上させることができる。
【0047】
第3の実施形態に係る塗装装置8は、図8、図9、図10に示すように、加湿装置4の位置以外は第2の実施形態に係る塗装装置8と同様である。そして、第3の実施形態に係る塗装装置8は、2つの加湿装置4が、天井10dの中心に点対称となるように、塗装空間2の角部の天井10d付近に対角状に配置されている。具体的には、図10に示すように、側面10aと側面10cとが形成する角部、及び側面10bと側面10eとが形成する角部の天井10d付近に配置されている。そして、被塗装物1を塗装する際には、それぞれの加湿装置4からは、図10に示すように、塗装室10を内時計回り、若しくは反時計回りにドライフォグDが噴霧されている。これにより、ドライフォグDを上方から下方に対流させることができ、塗装空間2内を均一に加湿することができる。
【0048】
以上のような、塗装装置8は一例であり、本実施形態のものに限定されるものではなく変更することができるのは勿論である。そして、上述の実施形態においては、加湿装置4の一方向からのみドライフォグDを噴霧しているが、2方向、若しくはそれ以上の方向から該ドライフォグDを噴霧することができ、該加湿装置4が設けられる位置も変更することができるのは勿論である。また、加湿装置4を2つ以上使用する場合には、該加湿装置4がそれぞれ側壁10a、10b、10c、10e付近に設けられ、且つ、噴霧されるドライフォグDの方向が、図7、図10に示す本実施形態のように、ドライフォグDの噴霧方向が塗装室10の時計回り、若しくは反時計回りとなっていることが、該ドライフォグDが対流しやすく塗装空間2内の湿度を均一に保持しやすく好ましいが、これに限定されるものではない。
【0049】
さらに、図11、図12、図13に示すように、上述の実施形態に係る塗装装置8において、塗装空間2内の温度を低下させるための空調装置16を塗装室10に設けることができる。該空調装置16としては、所定空間内の空気の温度を下げる周知の装置を使用することができる。また、冷気は高い位置から低い位置に対流するので、空調装置16は塗装室10の上方部分である天井10d付近に設けられることが好ましく、被塗装物1が塗装される際には、当該空調装置16によって塗装空間2内の温度を15〜25度に調節される。これにより、夏場の気温が高い時期等にも高い湿度を保持することが容易となり、また、塗料5自体の気化も抑制することができるので、当該塗料5の歩留まりをより向上することができる。
【0050】
具体的には、図11に示すように、第1の実施形態に係る塗装装置8に空調装置16を設置する場合には、側面10bと側面10cとの角部の天井10d付近に該空調装置16を設け、側面10bに沿うように冷風を送ることができる。また、図12に示すように、第2の実施形態に係る塗装装置8においては、側面10aと側面10cとの角部、及び側面10eと側面10bとの角部の天井10d付近に空調装置16を設け、それぞれ側面10c、及び10eに沿うように冷風を送ることができる。そして、図13に示すように、第3の実施形態に係る塗装装置8においては、側面10eと側面10aとの角部、及び側面10cと側面10bとの角部の天井10d付近に空調装置16を設け、それぞれ側面10a、側面10bのに沿うように冷風を送ることができる。その他にも、図14に示すように、第3の実施形態に係る塗装装置8における加湿装置4のドライフォグDの噴霧方向を塗装室10の反時計回りとして、さらに、それぞれの該加湿装置4の背後に空調装置16を設け、該ドライフォグDの噴霧方向と同方向に冷風を送風するようにしてもよい。
【0051】
尚、これらの空調装置16を設ける場所や、数は本実施形態のものに限定されるものではなく変更できるのは勿論である。また、冷風の方向は図11、図12、図13に示すように、加湿装置4から噴霧されるドライフォグDの噴霧方向、及び空調装置16からの冷風の方向が時計回り、若しくは反時計回りになっていることが、塗装空間2内の空気の対流を促進するので、当該塗装空間2内の湿度、及び温度を均一に保持することができるため好ましいが、これに限定されるものではない。
【0052】
そして、上記いずれの実施形態に係る塗装装置8においても、被塗装物1が塗装空間2の搬入口3から前記塗装空間2内に搬入され、ドライフォグDで加湿された塗装空間2内で、塗料5により塗装され、被塗装物1が塗装空間2の搬出口7から塗装空間2外に搬出される。そして、被塗装物1が塗装される際には、同時に回収ダクト13により塗料5が回収され、また、加湿と共に排気口15aから排気が行われるのである。
【0053】
以上のような塗装方法により被塗装物1に塗装を行うことにより、塗装性に悪影響を及ぼすことなく、高い湿度を一定に保つことができ、さらに、塗料の歩留まりを向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る塗装方法は、建築用材料だけでなく、例えば家具用木材、家電用部材等の種々の部材の塗装に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】塗装装置の全体斜視図
【図2】第1の実施形態に係る塗装装置の縦断面図
【図3】第1の実施形態に係る塗装装置の横断面図
【図4】第1の実施形態に係る塗装装置の上断面図
【図5】第2の実施形態に係る塗装装置の縦断面図
【図6】第2の実施形態に係る塗装装置の横断面図
【図7】第2の実施形態に係る塗装装置の上断面図
【図8】第3の実施形態に係る塗装装置の縦断面図
【図9】第3の実施形態に係る塗装装置の横断面図
【図10】第3の実施形態に係る塗装装置の上断面図
【図11】第1の実施形態に係る塗装装置に空調装置が取付けられた状態を示す上断面図
【図12】第2の実施形態に係る塗装装置に空調装置が取付けられた状態を示す上断面図
【図13】第3の実施形態に係る塗装装置に空調装置が取付けられた状態を示す上断面図
【図14】第3の実施形態に係る塗装装置に空調装置が取付けられたその他の例を示す上断面図
【符号の説明】
【0056】
1 被塗装物
2 塗装空間
3 搬入口
4 加湿装置
5 塗料
6 塗装手段
7 搬出口
8 塗装装置
9 搬送手段
10 塗装室
13 回収ダクト
15a 排気口
16 空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装手段が具備されている塗装空間内を搬送手段によって搬送される被塗装物が搬入口から搬出口に向かって通過する過程で塗装される塗装方法において、
前記塗装空間の内部が、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能な加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装手段が主溶媒として水が使用された塗料を霧化して前記被塗装物に塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記塗装空間内部において、
前記加湿装置にて加湿を行いながら、前記塗装空間外部に排気を行うことを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記塗装空間外部への排気が、当該塗装空間の下方に設けられた排気口から行われることを特徴とする請求項2記載の塗装方法。
【請求項4】
前記加湿装置が前記塗装空間の上方に設けられることを特徴とする請求項1乃至3記載の塗装方法。
【請求項5】
搬送手段よって搬送される被塗装物が、塗装空間を通過する際に、該塗装空間内で塗装される塗装方法において、
前記被塗装物が前記塗装空間の搬入口から該塗装空間内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気が行われる当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化して前記被塗装物が塗装され、前記被塗装物が前記塗装空間の搬出口から該塗装空間外に搬出されることを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方に向かって狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装されることを特徴とする請求項1乃至5記載の塗装方法。
【請求項7】
搬送手段に搬送される被塗装物が、塗装空間を通過する際に、該塗装空間内で塗装される塗装方法において、
前記被塗装物が前記塗装空間の搬入口から前記塗装空間内に搬入され、平均粒径が1〜15μmのドライフォグを噴霧可能で該塗装空間の上方に設けられた加湿装置で65〜95%に加湿され、且つ、前記塗装空間の下方に設けられた排気口から排気される当該塗装空間内で、主溶媒として水が使用された塗料を塗装手段により霧化すると共に、前記塗装手段の下方に設けられ上方から下方にかけて狭くなるようにテーパー状に形成された回収ダクトにより前記塗料を回収しながら、前記被塗装物が塗装され、前記被塗装物が前記塗装空間の搬出口から該塗装空間外に搬出されることを特徴とする塗装方法。
【請求項8】
前記搬入口、及び前記搬出口の開口高さが可変であることを特徴とする請求項1乃至7記載の塗装方法。
【請求項9】
前記塗装空間の湿度を70〜90%とすることを特徴とする請求項1乃至8記載の塗装方法。
【請求項10】
空調装置により前記塗装空間内の温度を15〜25度に調節しながら、前記塗装手段により前記被塗装物が塗装されることを特徴とする請求項1乃至9記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−17607(P2010−17607A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177588(P2008−177588)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】