説明

塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法

【課題】高力ボルトの設計耐力が適正であるかを正確に判断する、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、高力ボルトの摩擦接合部を締結した後、所定時間が経過した後の前記高力ボルトのクリープ応力が下記の式(1)(a、b:定数、t:時間)によって計算される、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法を提供する。
【数1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法に関し、より詳しくは、鋼構造物の摩擦接合に適用された高力ボルトの設計耐力が適正であるかを判断する塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に鋼構造物のボルト接合、特に摩擦力によって接合部材が連結される高力ボルトの場合、締結力損失量を予測することが必要となる。高力ボルトの締結力損失量が多い場合、鋼構造物の安全性が低下するという問題点があった。
【0003】
しかしながら、従来には高力ボルトの設計時に上述したような内容が反映されず、高力ボルトを効果的に設計することができなかった。したがって、高力ボルトの状態を正確に予測することができず、鋼構造物の安全点検および診断、補修補強、耐力算定に困難があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−093362号公報
【特許文献2】特開2007−301663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高力ボルトの設計耐力が適正であるかを正確に判断する、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高力ボルトの摩擦接合部を締結した後、所定時間が経過した後の前記高力ボルトのクリープ応力が下記の式(1)によって計算される、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法を提供する。
【数1】

ただし、a、b:定数、t:時間
【0007】
この際、前記所定時間は1000時間であることが望ましい。また、前記aおよびbは前記高力ボルトに塗布される無機質亜鉛塗装の厚さに基づいて決定されることが望ましい。また、前記所定時間の経過後の前記高力ボルトの締結力は下記の式(2)によって計算されることが望ましい。このとき、前記αは前記高力ボルトに塗布される無機質亜鉛塗装の厚さに基づいて決定されることが望ましい。
【数2】

ただし、
F(t):所定時間経過後の高力ボルトの締結力
Fo:初期高力ボルトの締結力
Cf:高力ボルトのスプリング定数
Ho:接合部材に塗布された塗装厚さ
Ac:接合部に影響を及ぼす塗装面積
t:時間
【発明の効果】
【0008】
本発明は、鋼構造物の摩擦接合に適用された高力ボルトの場合、設計耐力が適正であるか否かを確認することが困難であるという点を勘案するとき、鋼構造物の安全点検および診断、補修補強、耐力算定の基準を算定するにおいて効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】高力ボルト摩擦接合部の試験のための試験体を示す断面図である。
【図2】図1に示す高力ボルトに無機系亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体の塗装クリープを示すグラフである。
【図3】図1に示す高力ボルトに無機亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体の曲線回帰分析によって定量化された数式によるグラフである。
【図4】図1に示す高力ボルトに無機亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体の塗装クリープを反映した長期軸力予測数式と試験結果を比較したグラフである。
【図5】図1に示す高力ボルトに無機亜鉛塗装96μm、168μm、226μmを塗布した接合部試験体の塗装クリープを反映した長期軸力予測を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、高力ボルト摩擦接合部の試験のための試験体100を示す断面図である。図1を参照すれば、鋼構造物の高力ボルト130は一般ボルトとその性質が大きく異なる。一般ボルトは降伏強度が400N/mm2である材料であるが、本発明で言及する高力ボルト130の降伏強度は一般ボルトよりも最小2倍以上となる800N/mm2、1,000N/mm2、1,300N/mm2に該当する構造材料に関する。本発明で言及する摩擦接合設計方法において、2つ以上の接合部材締結方法も接合部材間の摩擦力によって締結する方法であって、一般高力ボルト130の締結方法であるボルトのせん断力に抵抗する耐力によって締結される過程とは設計方法自体が異なる。接合部に用いられた鋼板材質はSM490Aを用いた。
【0011】
摩擦接合によって締結された高力ボルト130は、締結過程において高力ボルト130に導入された軸力が、締結作業が完了した直後に、塗装されない接合部表面の場合は平均3〜5%程度、塗装された接合部表面は塗装の種類と厚さに応じて軸力低下がさらにひどく発生し、接合部に外力が作用しなくてもナットの緩み現象がなくても、時間の経過と共に極めて少しずつ減少するようになる。このようにボルト軸力が時間の経過と共に減少する現象を軸力弛緩(relaxation)という。ボルトに導入された軸力は、締結作業直後から3〜7日まで多少減少する傾向を示し、500時間程度が経過した後には軸力低下現象が止まって一定軸力を維持することを知ることができる。
【0012】
軸力弛緩が発生する主な原因は、ボルト締結直後に締結工具を除去した直後の弾性回復現象が大きい。さらに、追加的に、ねじ面、座面、接合材などにおける接触面粗度の表面不均等、形状誤差に起因する局部的な塑性変形や座面陥没、ボルト本体のクリープ現象などがあり得る。したがって、軸力低下に関係する接合部要素としては、接合材の表面処理、ワッシャーの有無、ボルト孔のクリアランス、締結軸力の大きさなどがある。
【0013】
このような複合要因によって発生した高力ボルト130の軸力低下原因を1つ1つ糾明することはできないが、ワッシャー、ボルト孔のクリアランス、締結軸力を等しくした場合、表面処理状態による長期軸力弛緩を計測によって予測できるようになる。また、接合表面に塗装が塗布された場合には、他の外的要因よりも遥かに速く塗装クリープが進行する。さらに、塗装の厚さが厚くなるほどクリープ現象はさらに大きくなり、クリープ現象が大きいほど締結された高力ボルト130の軸力は損失量が比例的に大きくなる。
【0014】
これを実現するために、接合部表面にそれぞれ塗装厚さが異なる試験体100を製作して長期軸力弛緩を発生させ、1,000時間経過後までの高力ボルト130のストレイン変化を計測した後、高力ボルト130のストレイン変化量は塗装のクリープ発生量と同じであるため、塗装に関するクリープ程度を算出し、塗装厚さ別、初期締結力の変化に関係なく締結後の高力ボルト130の軸力算定が可能となる。
【0015】
上述したような過程を実験的に糾明すれば、塗装クリープに関する予測数式を発明し、これを力の方程式に代入する過程を経れば、締結された接合部材の高力ボルト130の実際の締結力を確認することができる。
【0016】
塗装のクリープ現象のために鋼板に塗布された塗装システムは、無機系亜鉛塗装を基準として実行した。
【0017】
高力ボルト130ジョイント部に用いられたボルトはダクロ(DACRO)被膜TSボルトを用い、実際に測定された塗装厚さは96μm、168μm、226μmであった。このときの標準偏差はそれぞれ18〜20μmであった。
【0018】
それぞれの高力ボルト130ジョイント部試験体100において、高力ボルト130にストレインを確認できるようにボルト本体に2つの塑性ストレインゲージをそれぞれ付着した後、高力ボルト130締結直後からそれぞれの高力ボルト130ストレイン変化量を計測する。そして、計測された2つのストレイン平均値から接合部表面に塗布された無機亜鉛塗装のクリープ数式をMinitabプログラムを用いて曲線回帰分析模型を設定すれば、数式1のような形態の一般的な数式を導出することができる。
【0019】
クリープ数式を推論した後には、数式1を力の機能を用いた方程式に応用すれば、数式2のような高力ボルト130の長期軸力予測式が導出される。この過程は実施形態を参照しながらその過程を再び追跡することにし、高力ボルト130の長期軸力評価のための基本形は実験と回帰分析方法によって下記のように提示されることができる。
【0020】
【数1】

前記数式1において、a、bは定数である。長期軸力弛緩10%内外の基準となる無機質亜鉛塗装厚さ96μmを基準として1.75倍、2.3倍となる長期軸力弛緩に関する時間経過予測式の基本形は数式1、数式2のとおりであり、無機質亜鉛塗装クリープ定数aとbは表1のように実験結果によるクリープ定数を整理することができる。
【0021】
【表1】

【0022】
【数2】

【0023】
図2は、図1に示す高力ボルト130に無機亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体100の塗装クリープを示すグラフである。図3は、図1に示す高力ボルト130に無機亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体100の曲線回帰分析によって定量化された数式によるグラフである。図4は、図1に示す高力ボルト130に無機亜鉛塗装96μmを塗布した接合部試験体100の塗装クリープを反映した長期軸力予測数式と試験結果を比較したグラフである。図5は、図1に示す高力ボルト130に無機亜鉛塗装96μm、168μm、226μmを塗布した接合部試験体100の塗装クリープを反映した長期軸力予測を示すグラフである。
【0024】
図2〜図5を参照して、本発明の好ましい試験事例について説明する。
高力ボルト130接合部滑り表面に無機質亜鉛塗装96μm(標準偏差19μm)が適用された場合を考慮した高力ボルト130ジョイント部の長期軸力弛緩による無機質亜鉛塗装表面のクリープと軸力弛緩式は下記のとおりである。1,000時間まで無機質亜鉛塗装によって塗布された高力ボルト130ジョイント部に適用された実験結果、塗装のクリープ曲線は図2のとおりであり、塗装のクリープに関する回帰分析数式は数式3で決定され、このときのグラフは図3のとおりである。
【0025】
(数3)
Creep Strain(96)=1.0×10−4+3.0×10−5×log(t)
【0026】
上述したような塗装に関するクリープ数式である数式3を数式2に適用すれば、接合部に締結された後の長期軸力損失分を考慮した高力ボルト130の実際の軸力予測が可能となる。このとき、数式2のα値は1.0×10−4となる。
【0027】
数式2において、F(t)は確認しようとする高力ボルト130の締結力(kN)、Foは初期高力ボルト130に導入された締結力(kN)、Cfは高力ボルト130のスプリング定数、Hoは接合部材に塗布された塗装厚さ、Acは接合部に影響を及ぼす塗装面積、tは時間である。
【0028】
測定された塗装厚さは96μmと同じ経路であり、168μm、226μmであるときの塗装のクリープ数式を決定し、長期軸力損失量を考慮した軸力予測式はそれぞれ下記のとおりである。
【0029】
第2に、高力ボルト130滑り接合部に無機質亜鉛塗装168μm(標準偏差18μm)が適用された場合を考慮した高力ボルト130ジョイント部の長期軸力弛緩による軸力弛緩予測は、無機質亜鉛塗装表面のクリープ予測式から下記のように算定することができる。
【0030】
(数4)
Creep Strain(168)=2.0×10−4+4.0×10−5×log(t)
【0031】
上述したような塗装に関するクリープ数式である数式4を数式2に適用すれば、接合部に締結された後の長期軸力損失分を考慮した高力ボルト130の実際の軸力予測が可能となる。このとき、数式2のα値は2.0×10−4となる。
【0032】
無機質亜鉛塗装表面厚さ226μm(標準偏差22μm)を有する高力ボルト130ジョイント部の場合、次のように長期軸力弛緩による軸力予測が可能である。
【0033】
(数5)
Creep Strain(226)=3.0×10−4+4.5×10−5×log(t)
【0034】
上述したような塗装に関するクリープ数式である数式3を数式2に適用すれば、接合部に締結された後の長期軸力損失分を考慮した高力ボルト130の実際の軸力予測が可能となる。このとき、数式2のα値は3.0×10−4となる。
【0035】
上述したように塗装のクリープを考慮すれば、ボルト締結後の長期軸力によるボルト軸力の予測が可能であると判断される。塗装厚さによる塗装のクリープ挙動特性を把握するために、それぞれの試験体100に対する時間経過による結果を反映した高力ボルト130の長期軸力弛緩は、図5に示すように傾向を確認することができる。
【0036】
したがって、実験者は上述した実験内容に基づいて高力ボルト130のクリフ応力および残留締結力を計算することができる。また、実験者は上述した計算結果に基づいて鋼構造物の安全点検および診断、補修補強、耐力算定の基準を正確に算定することができる。
【符号の説明】
【0037】
100:塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの試験体
130:高力ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高力ボルトの摩擦接合部を締結した後、所定時間が経過した後の前記高力ボルトのクリープ応力は下記の式(1)によって計算される、塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法。
【数1】

ただし、a、b:定数、t:時間
【請求項2】
前記所定時間は1000時間である、請求項1に記載の塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法。
【請求項3】
前記aおよびbは前記高力ボルトに塗布される無機質亜鉛塗装の厚さに基づいて決定される、請求項1に記載の塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法。
【請求項4】
前記所定時間の経過後の前記高力ボルトの締結力は下記の式(2)によって計算される、請求項1に記載の塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法。
【数2】

ただし、
F(t):所定時間経過後の高力ボルトの締結力
Fo:初期高力ボルトの締結力
Cf:高力ボルトのスプリング定数
Ho:接合部材に塗布された塗装厚さ
Ac:接合部に影響を及ぼす塗装面積
t:時間
【請求項5】
前記αは前記高力ボルトに塗布される無機質亜鉛塗装の厚さに基づいて決定される、請求項4に記載の塗装表面のクリープ現象による軸力損失量を考慮した締結済み高力ボルトの長期軸力算定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−69825(P2011−69825A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213319(P2010−213319)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(595069594)韓国電力公社 (10)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ELECTRIC POWER CORPORATION
【Fターム(参考)】