説明

塗装鋼板の製造方法

【課題】新たな設備を設けることなく、かつ添加材の配合や塗料の粘度調整などを行わずに、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することができる、塗装鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】算術平均粗さRaが0.3μm以下の鋼板の表面に、塗料をロールコート法で塗布し、塗料を焼き付ける。このとき、塗料のチクソトロピックインデックスおよびフォードカップ粘度に応じて、塗料が塗布されてから塗料の焼き付けを開始するまでの時間(セッティングタイム)を調整する。具体的には、塗料のチクソトロピックインデックスをaとし、塗料のフォードカップ粘度をb(秒)とした場合に、式(1)[S>20a−15]および式(2)[S>0.6b−90]の両方が満たされるように、セッティングタイムS(秒)を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮮映性に優れる塗装鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
あらかじめ塗装されている塗装鋼板(プレコート鋼板)は、ユーザー側での塗装が不要なため、家電製品や内装材、器物、建材などの多くの用途において使用されている。これらの塗装鋼板は、ロールコート法(ロール塗装)により製造されることが多い。ロールコート法では、ピックアップロールおよびアプリケーターロールを用いて、鋼帯に塗料が塗布される。
【0003】
図1は、ロールコート法の一例(2ロールコーター;ナチュラル方式)を示す模式図である。この図に示されるように、ピックアップロール110は、塗料パン100内の塗料と接触しながら回転して、塗料を持ち上げる。ピックアップロール110上の塗料は、アプリケーターロール120に転写される。このとき、ピックアップロール110とアプリケーターロール120との間隔を制御することで、アプリケーターロール120に転写される塗料の厚みが調整される。厚みを調整されたアプリケーターロール120上の塗料は、バックアップロール130に支持されて搬送されている鋼帯140に転写される。塗料150を塗布された鋼帯140は、オーブン160に搬送されて焼き付けられる。塗膜170が形成された鋼帯140は、冷却後にコイルに巻き取られる。
【0004】
ロールコーターを用いた塗装では、ローピング(ロール目)と称される欠陥が生じやすい。ローピングは、ロールの回転方向の筋模様が鋼板に転写されることで発生する膜厚むらであり、外観不良の原因となる。特に、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することを目的とする場合、塗料のレベリング性の確保は必須であり、ローピングの発生は大きな問題となる。
【0005】
ローピングの発生を低減させる方法としては、ロール間の塗料溜り部の塗料を振動させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの方法では、塗料溜り部内の線材の振動により、ロール上の液膜の凹凸を分散させることで、ローピングの発生を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−126567号公報
【特許文献2】特開2009−233604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、鮮映性に優れた塗装鋼板(プレコート鋼板)を製造することを目的とする場合、塗料のレベリング性の確保は必須であり、ローピングの発生は大きな問題となる。上記特許文献に記載の技術は、ローピングの発生を低減させることはできるが、新たな設備を設ける必要があるため、簡単には採用することができない。そこで、新たな設備を設けずにローピングの発生を低減して、塗料のレベリング性を確保する方法について検討する。
【0008】
まず、塗料のレベリング性を確保するために、塗料にレベリング剤を添加することが考えられる。しかしながら、塗料にレベリング剤を添加すると、塗料が泡立ちやすくなり、泡に起因する外観不良(ハジキなど)が発生しやすくなるという問題が生じる。そのため、さらに消泡剤などを添加することになるが、レベリング剤および消泡剤のいずれも塗膜表面にブリードしやすいため、塗膜表面の機能(耐指紋性や潤滑性など)が低下してしまうおそれがある。また、レベリング剤などが不均一にブリードした場合は、さらなる外観不良(光沢ムラなど)が発生するおそれもある。このように、塗料にレベリング剤を添加することは、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造する上で好ましくない。
【0009】
また、塗料のレベリング性を確保するために、溶媒を添加して塗料の粘度を小さくすることも考えられる。しかしながら、塗料中の溶媒比率を高くすると、焼き付けの際にワキと称される外観不良が発生しやすくなるという問題がある。特に、塗装鋼板の鮮映性を高めるために塗膜中の顔料の配合量を多くしたい場合に、塗料の粘度を小さくするために、塗料中の溶媒比率を高くして顔料の濃度を希釈してしまうと、塗膜中の顔料の配合量を多くするためには塗料の塗布量(膜厚)を多くしなければならないため、ワキが発生しやすくなる。結果として、鮮映性を高めるために顔料の配合量を多くしたい場合に、塗料の粘度を調整しても、塗料のレベリング性の確保と外観不良(ワキ)の抑制とを両立することはできず、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、新たな設備を設けることなく、かつ添加材の配合や塗料の粘度調整などを行わずに、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することができる、塗装鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、塗料のチクソトロピックインデックスおよびフォードカップ粘度に応じてセッティングタイム(塗料が塗布されてから塗料の焼き付けを開始するまでの時間)を調整することで、既存の設備のみで鮮映性に優れた塗装鋼板を製造できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の塗装鋼板の製造方法に関する。
[1]表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下の鋼板を準備するステップと;前記鋼板の表面に塗料をロールコート法で塗布するステップと;前記鋼板に塗布された塗料を焼き付けて、塗膜を形成するステップとを有し;前記塗料を塗布してから前記塗料の焼き付けを開始するまでの時間S、前記塗料のチクソトロピックインデックスa、および前記塗料のフォードカップ粘度bが、以下の式(1)および式(2)の両方を満たす、塗装鋼板の製造方法。
S>20a−15 …(1)
S>0.6b−90 …(2)
(式中、Sは、前記塗料を塗布してから前記塗料の焼き付けを開始するまでの時間(秒);aは、B型回転粘度計を用いて測定される前記塗料のチクソトロピックインデックス(回転比6rpm/60rpm);bは、20℃の環境下でNo.4フォードカップを用いて測定される前記塗料のフォードカップ粘度(秒)である。)
[2]以下の式(3)により求められる前記塗膜の表面のD/I値は、90以上である、[1]に記載の塗装鋼板の製造方法。
D/I値={1−R(0.3)/Rs}×100 …(3)
(式中、Rsは、30°正反射光の強弱(%);R(0.3)は、正反射光のピーク角度の両脇30±0.3°の反射光の強弱(%)である。)
[3]前記式(1)のaの値は、1.2以上である、[1]または[2]に記載の塗装鋼板の製造方法。
[4]前記鋼板は、めっき鋼板またはステンレス鋼板である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装鋼板の製造方法。
[5]前記塗膜の膜厚は、3〜30μmの範囲内である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の塗装鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新たな設備を設けることなく、かつ添加材の配合や塗料の粘度調整などを行わずに、1コートで鮮映性に優れた塗装鋼板を容易に製造することができる。したがって、本発明によれば、既存設備および市販されている塗料を用いて、低コストで鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ロールコート法の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の塗装鋼板の製造方法は、1)鋼板(塗装原板)を準備する第1のステップと、2)塗料を鋼板の表面に塗布する第2のステップと、3)鋼板の表面に塗布された塗料を焼き付ける第3のステップとを有する。本発明の塗装鋼板の製造方法は、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造することができる。本明細書において「鮮映性」とは、光沢性と写像性とを合わせた性質であり、塗装鋼板の表面が鏡のように光を均等に反射する性質を意味する。
【0016】
1)第1のステップ
第1のステップでは、塗装原板となる鋼板を準備する。
【0017】
塗装鋼板の鮮映性を確保する観点から、塗装原板となる鋼板表面の算術平均粗さRa(以下「Ra」と略記することもある)は、0.3μm以下であることが好ましい。鋼板表面のRaが0.3μm超の場合、塗膜表面の平滑性も低下してしまい、鮮映性に優れた塗装鋼板を製造できないことがある。
【0018】
塗装原板となる鋼板の種類は、鋼板表面のRaが0.3μm以下であれば、特に限定されない。使用できる鋼板の例には、ステンレス鋼板、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Alめっき鋼板、溶融Al−Siめっき鋼板などが含まれる。
【0019】
塗装原板としてステンレス鋼板を使用する場合、ステンレス鋼板の鋼種や表面仕上げの種類などは、特に限定されない。ステンレス鋼板の鋼種の例には、SUS304、SUS430、SUS316などが含まれる。鋼板表面のRaが0.3μm以下の表面仕上げの例には、BA、2B、No.4などが含まれる。
【0020】
塗装原板としてめっき鋼板を使用する場合、めっき鋼板の下地鋼の種類は、特に限定されない。下地鋼の例には、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などが含まれる。良好なプレス成形性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などの深絞り用鋼板が下地鋼として好ましい。
【0021】
前述の通り、めっき鋼板のめっき層表面のRaは0.3μm以下であることが求められる。めっき層表面のRaが0.3μm以下のめっき鋼板は、例えば、溶融めっき鋼板または電気めっき鋼板の製造ラインにおいて、Raが0.2μm以下となるように研磨されたブライトロールをワークロールとするスキンパスミルにより、めっき鋼板を調質圧延することで製造できる。これにより、ブライトロールの光沢面が転写され、めっき層表面が光沢を有する平滑面に仕上げられる。調質圧延工程は、調圧油もしくは圧延油を使用するウェット圧延、またはこれらを使用しないドライ圧延で、伸び率0.5〜3%の範囲内で行われる。
【0022】
塗装原板となる鋼板は、耐食性および塗膜密着性を向上させる観点から、化成処理皮膜を形成されていてもよい。この場合、化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理皮膜の膜厚は、塗装原板の腐食の抑制および塗膜密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように膜厚を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、付着量が5〜500mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。
【0023】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で塗装原板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0024】
2)第2のステップ
第2のステップでは、第1のステップで準備した鋼板(塗装原板)の表面に塗料を塗布する。
【0025】
塗料のベースとなる樹脂の種類は、プレコート鋼板用の塗料に適用されうる樹脂であれば、特に限定されない。使用しうる樹脂の例には、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂もしくはベンゾグアナミン樹脂、およびこれらの樹脂をウレタン変性、シリコーン変性もしくはエポキシ変性した樹脂が含まれる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
塗料の溶剤の種類も、ベースとなる樹脂を溶解しうる溶剤であれば、特に限定されない。使用しうる溶剤の例には、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤などが含まれる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0027】
塗料のフォードカップ粘度は、50〜300秒の範囲内であることが好ましい。溶剤希釈によりフォードカップ粘度を50秒未満に調整した場合、鮮映性の低下に繋がるワキが発生しやすくなる。また、ロールコート法で塗料を塗布する場合は、ピックアップロールでの塗料の持ち上げ不足により鋼板への塗料の転写量(塗布量)が不足してしまうおそれもある。さらに、オーブン内での溶剤揮発量がオーブン排気量を越えてしまい、オーブンが爆発するおそれもある。一方、フォードカップ粘度が300秒超の場合、塗料を塗布する際に塗料の塗布量(膜厚)を高い精度で制御することが困難となり、鮮映性を十分に確保できなくなるおそれがある。塗料のフォードカップ粘度は、塗料中の溶媒の量を調整することで調整されうる。なお、本明細書において「塗料のフォードカップ粘度」とは、JIS K 5400−4.5に準拠して、20℃の環境下でNo.4フォードカップを用いて測定される塗料のフォードカップ粘度(秒)を意味する。
【0028】
塗料のチクソトロピックインデックス(以下「TI値」ともいう)は、塗装鋼板の鮮映性を高める観点から、1.2以上であることが好ましい。通常、塗料のTI値が1.2以上となるように着色顔料を塗料に配合しなければ、塗料中での顔料沈降や、色分れなどが発生しやすくなり、鮮映性に優れた塗装鋼板を安定して製造することは困難である。着色顔料としては、塗料や印刷インキなどに用いられている有機顔料や無機顔料などを配合することができる。使用できる着色顔料の例には、ペリレン系顔料、アンスラキノン系顔料、スレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料、インジゴ系顔料、銅フタロシアニン系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン系顔料、カーボンブラックなどが含まれる。これらの着色顔料は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。着色顔料の粒径は、塗膜表面への突き出しなどの鮮映性に影響を及ぼさない範囲であれば任意に設定することができる。なお、本明細書において「塗料のチクソトロピックインデックス(TI値)」とは、JIS K 5105−6−2に準拠して、B型回転粘度計を用いて測定される塗料のTI値(回転比6rpm/60rpm)を意味する。
【0029】
塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法、浸漬法などが含まれる。鋼帯に連続的に塗布する場合は、生産性の観点からロールコート法が好ましい。ロールコート法により塗布する場合、2ロール方式のロールコーターを使用してもよいし、3ロール方式のロールコーターを使用してもよい。また、アプリケーターロールが通板方向に対して正方向に回転するナチュラル方式で塗布してもよいし、アプリケーターロールが通板方向に対して逆方向に回転するリバース方式で塗布してもよい。
【0030】
塗料の塗布量は、特に限定されないが、第3のステップで焼き付けた後の乾燥膜厚が3〜30μmの範囲内となる量であることが好ましい。乾燥膜厚が3μm未満の場合、鮮映性を十分に発揮させることができない。一方、乾燥膜厚が30μm超の場合、焼き付ける際にワキが発生しやすくなる。
【0031】
3)第3のステップ
第3のステップでは、第2のステップで塗布された塗料を焼き付ける。このとき、第2のステップで塗料を塗布してから塗料の焼き付けを開始するまでの時間(以下「セッティングタイム」ともいう)が、以下の式(1)および式(2)の両方を満たすようにする。
S>20a−15 …(1)
S>0.6b−90 …(2)
【0032】
上記式(1)および式(2)において、Sは、塗料が塗布されてから塗料の焼き付けを開始するまでの時間(秒)である。aは、JIS K 5105−6−2に準拠して、B型回転粘度計を用いて測定される塗料のTI値(回転比6rpm/60rpm)である。bは、JIS K 5400−4.5に準拠して、20℃の環境下でNo.4フォードカップを用いて測定される塗料のフォードカップ粘度(秒)である。
【0033】
前述の通り、従来は、塗料の粘度を調整することで、塗料のレベリング性を確保することが試みられてきた。しかしながら、鮮映性に優れる塗装鋼板を製造するために、塗料中の顔料の配合量を多くした場合は、焼き付けの際にワキが発生しない程度に塗料の粘度を低下させ、塗料の粘度に応じたセッティングタイムを設定しても、塗料のレベリング性を確保できず、鮮映性に優れる塗装鋼板を製造することはできなかった。
【0034】
これに対し、本発明者は、様々な塗料を用いて検討した結果、塗料の粘度(フォードカップ粘度)だけでなくTI値も指標とすることで、塗料中の顔料の配合量を多くした場合であっても、塗料のレベリング性を確保する上で必要なセッティングタイムを算出できることを見出した。セッティングタイムが上記式(1)および式(2)の両方を満たす場合は、塗料中の顔料の配合量を多くした場合であっても、塗料を焼き付ける前に塗料が十分にレベリングしており、鮮映性(塗膜の平滑性)に優れる塗装鋼板を製造することができる。一方、セッティングタイムが上記式(1)および式(2)のいずれかを満たさない場合は、塗料が十分にレベリングする前に焼き付けられてしまうため、焼き付け条件に関係なく、鮮映性に優れる塗装鋼板を製造することはできない。
【0035】
セッティングタイムを調整する方法は、特に限定されない。たとえば、ロールコーターを用いて鋼帯に塗料を塗布する場合(ロールコート法)、セッティングタイムは、鋼帯がアプリケーターロールにより塗料を塗布されてから、最初のオーブンの入口に到達するまでにかかる時間(図1においてSで示す)である。この場合は、鋼帯の通板速度(ラインスピード)を制御することで、セッティングタイムを調整することができる。
【0036】
塗料の焼き付け条件(温度、時間)は、特に限定されず、第2のステップで塗布した塗料に応じて、溶剤をワクことなく蒸発させ、かつ正常に成膜できる範囲で適宜設定すればよい。通常は、最高到達板温200〜250℃で、30〜120秒間乾燥・焼き付ければよい。
【0037】
以上の手順により、塗料のレベリング性を確保した上で塗料を焼き付けて、鮮映性に優れる塗装鋼板を製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法は、塗料を入手した際に測定可能な塗料のTI値およびフォードカップ粘度から、鮮映性(塗膜の平滑性)を高める上でその塗料に最適なセッティングタイムを算出することができる。本発明の製造方法により製造された塗装鋼板は、鮮映性に優れており、ASTM E 430に準拠して測定されたD/I値(像鮮明度光沢度)は90以上となる(実施例参照)。
【0039】
以下、本発明について、実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0040】
1.塗装鋼板の作製
(1)塗装原板の準備
塗装原板として、表1に示す鋼板のコイル(板厚0.4mm)を準備した。
【表1】

【0041】
(2)塗料の調製
市販のクリア塗料および市販の顔料を用いて、以下の3種類の着色塗料を調製した。
[塗料No.1]
ポリエステル系クリア塗料(NP−30;中国塗料株式会社)にカーボンブラック(BlackC−T;長瀬産業株式会社)を配合して黒色クリア塗料を調製した。カーボンブラックの配合量は、ポリエステル系クリア塗料の固形分100質量部に対し、1質量部とした。
[塗料No.2]
ポリエステル系クリア塗料(フレキコート5100;日本ファインコーティングス株式会社)にカーボンブラック(#2650;三菱化学株式会社)を配合して黒色塗料を調製した。カーボンブラックの配合量は、ポリエステル系クリア塗料の固形分100質量部に対し、8質量部とした。
[塗料No.3]
ポリエステル系クリア塗料(NP−30;中国塗料株式会社)にキナクリドンレッド(UTCO−032レッド(NX);大日精化工業株式会社)を配合して赤色塗料を調製した。キナクリドンレッドの配合量は、ポリエステル系クリア塗料の固形分100質量部に対し、12質量部とした。
【0042】
調製した各塗料について、(a)TI値および(b)フォードカップ粘度を測定した。TI値は、JIS K 5105−6−2に準拠して、No.3ローターをセットしたB型粘度計(BM型;東京計器株式会社)を用いて、6rpmのときの粘度および60rpmのときの粘度を測定し、これらの粘度の比率(6rpm/60rpm)を算出して求めた。フォードカップ粘度は、JIS K 5400−4.5に準拠して、20℃の条件下でNo.4フォードカップを用いて測定した。
【0043】
また、各塗料について、(a)TI値および(b)フォードカップ粘度を以下の式(1)および式(2)に代入して、セッティングタイムSを算出した。
S>20a−15 …(1)
S>0.6b−90 …(2)
【0044】
各塗料についての、(a)TI値、(b)フォードカップ粘度およびセッティングタイムを表2に示す。
【表2】

【0045】
表2より、塗料No.1の黒色クリア塗料については、セッティングタイムを9.6秒超とすると、式(1)および式(2)の両方が満たされることがわかる。同様に、塗料No.2の黒色塗料については、セッティングタイムを27.6秒超とすると、式(1)および式(2)の両方が満たされることがわかる。また、塗料No.3の赤色塗料については、セッティングタイムを36.0秒超とすると、式(1)および式(2)の両方が満たされることがわかる。
【0046】
(3)塗装鋼板の作製
各種鋼板コイルを塗装設備に通板し、鋼板の表面に化成処理皮膜および塗膜を形成して、塗装鋼板(実施例1〜7、比較例1〜7;表4参照)を作製した。具体的には、鋼板表面をアルカリ脱脂した後、表3に示す組成のクロムフリー化成処理液をフッ素換算付着量が10mg/m、総金属付着量が8mg/mとなるように化成処理用ロールコーターで塗布し、最高到達板温100℃でオーブン乾燥し、化成処理皮膜を形成した。次いで、化成処理皮膜の上に塗料(塗料No.1〜3)を塗料塗装用ロールコーターでナチュラル方式で塗布し、最高到達板温230℃でオーブン乾燥し、乾燥膜厚10μmの塗膜を形成した。このとき、塗料を塗布してからオーブンに入るまでの時間(セッティングタイム)が所定の時間になるように、通板速度を調整した。
【表3】

【0047】
表3に示される各成分について、コロイダルシリカは、スノーテックスO(日産化学工業株式会社)を使用した。気相シリカは、レオロシール(株式会社トクヤマ)を使用した。タンニン酸は、Hiタンニン酸(大日本製薬株式会社)を使用した。ポリビニルアルコールは、ポバールJF−17(日本酢ビ・ポバール株式会社)を使用した。
【0048】
2.塗装鋼板の評価
(1)鮮映性試験
各塗装鋼板(実施例1〜7、比較例1〜7)から試験片を切り出し、各試験片についてASTM E 430に準拠して鮮映性試験を実施した。具体的には、各試験片の塗膜表面のD/I値(像鮮明度光沢度)を、像鮮明度光沢計(DGM−30;株式会社村上色彩技術研究所)を用いて測定した。D/I値は、以下の式で算出される。
D/I値={1−R(0.3)/Rs}×100
(式中、Rsは、30°正反射光の強弱(%);R(0.3)は、正反射光のピーク角度の両脇30±0.3°の反射光の強弱(%)を示す。)
【0049】
各試験片について、D/I値が95以上の場合は「◎」、90以上95未満の場合は「○」、80以上90未満の場合は「△」、80未満の場合は「×」と評価した。
【0050】
(2)耐傷付き性試験
各塗装鋼板から試験片を切り出し、各試験片についてJIS K 5400に準拠して塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0051】
(3)加工性試験
各塗装鋼板から試験片を切り出し、各試験片について加工性試験を実施した。具体的には、各試験片を塗膜が外側になるように2つ折りにし、この2つ折りにした部分の間に試験片と同じ厚さ(板厚0.4mm)の鋼板を2枚挟み込み、手動万力にて締め付けた。締め付けを終えた後、曲げ加工部にワレが認められるか否かを観察した。
【0052】
各試験片について、塗膜にワレが認められない場合は「◎」、細かなワレが認められる場合は「○」、かなりワレが認められる場合は「△」、著しくワレが認められる場合は「×」と評価した。
【0053】
(4)塗膜密着性試験
各塗装鋼板から試験片を切り出し、各試験片について塗膜密着性試験を実施した。具体的には、各試験片の塗装面にカッターナイフで切り込みを入れて、1mm角の碁盤目を100個形成した。次いで、碁盤目の部分にセロハンテープを貼り付け、瞬時にテープを引き剥がした。テープ剥離後、塗膜が剥離しているか否かを観察した。
【0054】
各試験片について、塗膜が剥離しなかった場合は「◎」、塗膜が剥離した碁盤目の数が1個の場合は「○」、塗膜が剥離した碁盤目の数が2〜10個の場合は「△」、塗膜が剥離した碁盤目の数が11個以上の場合は「×」と評価した。
【0055】
(5)評価結果
各塗装鋼板(実施例1〜7、比較例1〜7)の製造条件および評価結果を表4に示す。
【表4】

【0056】
実施例1〜7の塗装鋼板は、すべての評価項目について良好な評価が得られた。なお、表面粗度(Ra)のみが異なる塗装原板の実施例1の塗装鋼板と実施例5の塗装鋼板を比較すると、より表面粗度の小さい塗装原板を用いると、より鮮映性(像鮮明度光沢度)に優れる塗装鋼板を製造できることがわかる。
【0057】
これに対し、表面粗度(Ra)が0.3μm超の塗装原板を使用した比較例1〜3の塗装鋼板は、セッティングタイムを十分に確保しても、塗装原板の表面粗度の影響により、鮮映性(像鮮明度光沢度)について良好な評価が得られなかった。また、セッティングタイムが上記式(1)または式(2)のいずれかを満たしていない比較例4〜7の塗装鋼板は、セッティングタイムが不足しているため、塗料のレベリングが不十分なまま塗膜が形成されてしまい、鮮映性(像鮮明度光沢度)について良好な評価が得られなかった。
【0058】
なお、比較例1〜7の塗装鋼板においても、塗料の種類および焼き付け条件は特に問題がないため、塗膜硬度、加工性および塗膜密着性については、良好な評価を得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の製造方法により製造される塗装鋼板は、鮮映性に優れているため、例えば家電製品用のプレコート鋼板として有用である。
【符号の説明】
【0060】
100 塗料パン
110 ピックアップロール
120 アプリケーターロール
130 バックアップロール
140 鋼帯
150 塗料
160 オーブン
170 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下の鋼板を準備するステップと、
前記鋼板の表面に塗料をロールコート法で塗布するステップと、
前記鋼板に塗布された塗料を焼き付けて、塗膜を形成するステップと、を有し、
前記塗料を塗布してから前記塗料の焼き付けを開始するまでの時間S、前記塗料のチクソトロピックインデックスa、および前記塗料のフォードカップ粘度bが、以下の式(1)および式(2)の両方を満たす、塗装鋼板の製造方法。
S>20a−15 …(1)
S>0.6b−90 …(2)
(式中、Sは、前記塗料を塗布してから前記塗料の焼き付けを開始するまでの時間(秒);aは、B型回転粘度計を用いて測定される前記塗料のチクソトロピックインデックス(回転比6rpm/60rpm);bは、20℃の環境下でNo.4フォードカップを用いて測定される前記塗料のフォードカップ粘度(秒)である。)
【請求項2】
以下の式(3)により求められる前記塗膜の表面のD/I値は、90以上である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
D/I値={1−R(0.3)/Rs}×100 …(3)
(式中、Rsは、30°正反射光の強弱(%);R(0.3)は、正反射光のピーク角度の両脇30±0.3°の反射光の強弱(%)である。)
【請求項3】
前記式(1)のaの値は、1.2以上である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板は、めっき鋼板またはステンレス鋼板である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記塗膜の膜厚は、3〜30μmの範囲内である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−200795(P2011−200795A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70470(P2010−70470)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】