説明

塩化ビニルペースト用安定剤

【課題】
総揮発性有機化合物量に影響を及ぼす揮発性有機化合物を使用することなく、さらに2種以上のカルボン酸亜鉛を併用することにより、沈殿・分離などの問題のない、均一で透明な塩化ビニルペースト用安定剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
(a)カルボン酸が炭素数C11〜C22である、過塩基性カルボン酸バリウム塩の1種あるいは2種以上、(b)カルボン酸が炭素数C11〜C22である、塩基性カルボン酸亜鉛塩の2種以上、(c)沸点が250℃以上のグリコールエーテル系化合物の1種あるいは2種以上、(d)沸点が250℃以上の脂肪族または脂環族炭化水素系化合物の中から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする事で、安定剤組成物の液状安定性に優れると共に成形された塩化ビニルペースト製品から放出される総揮発性有機化合物量を低減できる塩化ビニルペースト用安定剤を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニルペースト用安定剤に関する。詳しくは、該安定剤を塩化ビニルペーストゾルに配合して得られたインテリア製品の揮発性有機化合物の発生を極めて低く抑えることができる液状化された塩化ビニルペースト用安定剤に関する物である。
【背景技術】
【0002】
ビニル壁紙、床材などのインテリア製品に用いられる塩化ビニルペーストゾルには塩化ビニル系樹脂を主成分として、可塑剤、充填剤、安定剤、発泡剤、さらに必要に応じて減粘剤、希釈剤、顔料、防黴剤等が配合されている。塩化ビニルペーストゾルをロータリースクリーン、コンマコーター、ロールコート、バーコートなどの塗布方法を用いて基材に塗工し、加熱成形加工することにより、壁紙や床材等の成形品を得ることができる。
【0003】
塩化ビニルペースト用の安定剤としては、一般的に安定剤をポリマー中に均一に分散させる観点から、安定剤成分であるカルボン酸亜鉛塩及び過塩基性カルボン酸バリウム塩等を炭化水素系、グリコールエーテル系に代表される揮発性有機溶剤に、均一且つ透明に溶解させたものが従来から広く使用されてきた。しかしながら、近年、シックハウス症候群の問題から環境や健康に害を与える恐れのある有機物質の室内への揮発が問題視されていることから、これらの問題を解決するために安定剤についても液状安定剤であって、揮発性成分を含まない塩化ビニルペースト用液状安定剤の開発が望まれている。
【0004】
例えば特許文献1には安定剤成分を分散させる目的で溶剤に可塑剤または可塑剤及びポリアルキレングリコールの利用が提案されているが、この方法では、亜鉛やバリウムなどの金属塩に炭素数11以上のカルボン酸を利用した場合には溶解性が不十分であり、沈殿・分離などの問題が生じる。
【0005】
また、特許文献2にはカルボン酸又はアルキルフェノールの金属塩に亜リン酸エステル化合物及びグリコールエーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などの混合溶剤を用いることが提案されているが、この方法では熱安定性向上の目的で配合している亜リン酸エステル化合物が、溶剤的な働きを行っているため、この場合も亜リン酸エステル化合物を配合から除き、さらに亜鉛やバリウムなどの金属塩に炭素数11以上のカルボン酸を利用した場合には溶解性が不十分であり、沈殿・分離などの問題が生じる。
【0006】
一方、揮発性有機化合物とは沸点が50℃〜250℃と比較的低い温度で蒸発する有機化合物であり、亜鉛やバリウムなどの金属塩に炭素数2〜10の低分子量カルボン酸を利用した場合、安定剤の分解により生成したカルボン酸が揮発性有機化合物となるため、低分子量カルボン酸を使用しない塩化ビニルペースト用液状安定剤の開発が望まれている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1及び特許文献2に提案された液状安定剤には、亜鉛やバリウムなどの金属塩に炭素数2〜10の低分子量カルボン酸が利用されており、より高い水準の総揮発性有機化合物量を目的とした場合、技術的課題を解決する手段としては不十分である。
【特許文献1】特開2005−307170号公報
【特許文献2】特許第3713270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の諸点を考慮し、総揮発性有機化合物量に影響を及ぼす揮発性有機化合物を使用することなく、さらに2種以上の塩基性カルボン酸亜鉛塩を併用することにより、沈殿・分離などの問題のない、均一で透明な塩化ビニルペースト用安定剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(a)過塩基性カルボン酸バリウム塩の1種あるいは2種以上、(b)塩基性カルボン酸亜鉛塩の2種以上、(c)沸点が250℃以上のグリコールエーテル系化合物の1種あるいは2種以上、(d)沸点が250℃以上の脂肪族または脂環族炭化水素系化合物の中から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする液状化された塩化ビニルペースト用安定剤は揮発性成分を含む有機溶剤を用いなくても、安定剤組成物の安定性に優れると共に、塩化ビニルペーストに配合した場合、成形された塩化ビニルペースト製品から放出される総揮発性有機化合物量を低減できるとの見知を得た。
【0010】
即ち本発明の要旨は、(a)カルボン酸が炭素数C11〜C22である過塩基性カルボン酸バリウム塩の1種あるいは2種以上、(b)カルボン酸が炭素数C11〜C22である塩基性カルボン酸亜鉛塩の2種以上、(c)沸点が250℃以上のグリコールエーテル系化合物の1種あるいは2種以上、(d)沸点が250℃以上の脂肪族または脂環族炭化水素系化合物の中から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする塩化ビニルペースト用安定剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塩化ビニルペースト用液状安定剤を用いれば、それを用いて成形された塩化ビニルペースト製品から放出される総揮発性有機化合物量を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の形態について詳細に説明する。
【0013】
過塩基性カルボン酸バリウム塩としては、例えば、過塩基性オレイン酸バリウム塩などが挙げられる。市販品としてHammond社製品PLASTISTAB2513などが挙げられるが好ましくは東邦化学TBC−125Vがより低揮発成分が少なく好ましい。液状安定剤の全量に対するこれらの過塩基性カルボン酸バリウム塩の重量比は、5〜30%が好ましい。この5%より少ないと加工時、充分な耐熱性を得ることができない。また30%を超えると沈殿・分離などの問題が生じる。
【0014】
塩基性カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸の例としては、例えば、ラウリン酸、パルミン酸、ミリスン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシステアリン酸、P−tert−ブチル安息香酸、3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、P−tert−オクチルサリチル酸等が挙げられる。液状安定剤の全量に対するこれらの塩基性カルボン酸亜鉛塩の重量比は、5〜70%が好ましい。5%未満では充分な発泡剤の分解促進効果が得られない。また70%を超えると沈殿・分離などの問題が生じる。
【0015】
沸点が250℃以上のグリコールエーテル系化合物の代表的なものとしては、例えば、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテル、トリエチレングリコールモノオレイルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノトリデシルエーテル、ジエチレングリコールモノオレイルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。液状安定剤の全量に対するこれらのグリコールエーテル系化合物の重量比は、1〜20%が好ましい。1%未満では沈殿・分離などの問題が生じる。また20%を超えると発泡体の色調が劣る。
【0016】
沸点が250℃以上の脂肪族または脂環族炭化水素系化合物としては、例えば、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、流動パラフィンなどが挙げられる。該脂肪族または脂環族炭化水素に該当する商品(市販品)としては、例えば、三光化学工業社製の流動パラフィンNo.70、松村石油社製モレスコホワイトMT−60、松村石油社製スモイルP−80三共油化工業社製ナフテックライトNV−330SP、新日本石油化学社製の日石ハイゾールSAS−296などが挙げられる。液状安定剤の全量に対するこれらの脂肪族または脂環族炭化水素の重量比は10〜60%が好ましい。10%未満では沈殿・分離などの問題が生じる。また60%を超えると発泡速度の低下を招く。
【0017】
本発明の液状安定剤の中には、必要に応じて、かつ本発明の目的を損なわない範囲で、他の添加剤を混合させることができる。他の添加剤としては、例えば、可塑剤、セル調整剤、減粘剤を挙げる事ができる。
【0018】
本発明の液状安定剤は塩化ビニル樹脂、可塑剤、発泡剤、充填剤、さらに必要に応じて希釈剤、減粘剤、セル調整剤、顔料、防黴剤等と混合され使用される。
【0019】
上記塩化ビニル樹脂としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などその重合方法には特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ウレタン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル三元共重合体などがあげられる。
【0020】
上記可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤(ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジデシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート等)、二塩基性酸系可塑剤(ジ−n−オクチルアジペート、ジイソノニルアジベート、ジイソデシルアジベート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ポリプロピレンセバケート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ−2−エチルヘキシルフマレート、ジオクチルマレート、ポリプロピレンセバケート等)、リン酸エステル系可塑剤(トリオクチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ−ジメチルフェニルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート)、ポリエステル系可塑剤、塩素化パラフィン系可塑剤、トリメリテート系可塑剤、ピロメリテート系可塑剤などがあげられる。
【0021】
上記発泡剤としては、熱分解型有機発泡剤が使用される。例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N‘−ジニトロペンタメチレンテトラミン、ジニトロソペンタメチレン、ベンゼンスルホニルホドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジンなどがあげられる。
【0022】
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、活性白土、クレー、シリカなどがあげられる。
【実施例】
【0023】
次に実施例によってこの発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例により限定を受けるものではない。
【0024】
実施例及び比較例
ここで述べる実施例1〜3は本発明の必須成分である過塩基性カルボン酸バリウム、塩基性カルボン酸亜鉛、グリコールエーテル系化合物、炭化水素系化合物を含有するものであり、また、比較例1〜3は本発明に該当しない組成を例にあげたものである。
【0025】
安定剤の製造方法は以下の通りである。表1に示す所定量のカルボン酸と酸化亜鉛を300ml三つ口フラスコ中に秤量し、混合攪拌しながら加熱を行い100℃で30分間反応させる。100℃〜120℃で減圧しながら反応水を十分留去した後、グリコールエーテル系化合物、炭化水素系化合物、過塩基性カルボン酸バリウムを混合し、透明な液状安定剤を得た。
【0026】
また、得られた液状安定剤を100ccの密栓付きガラスビンに入れ、低温(5℃)密閉系での経時安定性の状態を目視によって評価した。その結果を表1に示す。
【0027】
評価方法として、経時安定性は低温(5℃)密閉系での一ヶ月後の安定性を確認した(透明液体を初期のまま保っている;○、沈殿・分離が生じた;×)。
【0028】
【表1】

【0029】
表1における実施例1〜3の結果から明らかように、本発明の塩化ビニルペースト用安定剤は溶解性に優れ長期保存性が向上したのは明らかである。
【0030】
本発明の効果を評価する方法として、表2に示した化合物について揮発性の測定を行った。グリコールエーテル系化合物、炭化水素系化合物についてはそのままを評価し、カルボン酸亜鉛については分解物である酸の揮発性が問題となる事からこれらの揮発性を評価した。
【0031】
揮発性の測定はクロロホルム溶媒を用いて試料濃度を0.1%に調整した後、1μlを採取し、ガスクロマトグラフGC390B(GLサイエンス社製)を用い、温度50℃〜280℃を昇温速度10℃/分で得られたリテンションタイムの測定を行った。
【0032】
しかしながら、炭化水素系化合物については分子量分布があるのでリテンションタイムにおいても分布がある為、初めに検出されるリテンションタイムの測定を行った。
【0033】
評価は予め基準物質として安息香酸(沸点249.2℃)を同条件にて測定を行い、得られたリテンションタイムが安息香酸より早いと揮発性が高く、遅いと揮発性が低いと判断した。結果は表2に示す通りであった。表2から明らかなように、本発明に使用される各化合物はいずれも基準物質より遅く、低揮発性の点でも優れているものである。
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の塩化ビニルペースト用安定剤は、揮発性有機化合物を使用することなく液状で保存安定性に優れるものであり、これを配合して成形された塩化ビニルペースト製品は総揮発性有機化合物量の放出を低減できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボン酸が炭素数C11〜C22である、過塩基性カルボン酸バリウム塩の1種あるいは2種以上、
(b)カルボン酸が炭素数C11〜C22である、脂肪酸及び芳香族脂肪酸の塩基性カルボン酸亜鉛塩の2種以上、
(c)沸点が250℃以上のグリコールエーテル系化合物の1種あるいは2種以上、
(d)沸点が250℃以上の脂肪族または脂環族炭化水素の中から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする液状化された塩化ビニルペースト用安定剤。
【請求項2】
塩化ビニルペースト用安定剤に対する過塩基性カルボン酸バリウム塩の重量比が5〜30%、塩基性カルボン酸亜鉛塩の重量比が5〜70%、グリコールエーテル系化合物の重量比が1〜20%、脂肪族または脂環族炭化水素の重量比が10〜60%、であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニルペースト用安定剤。

【公開番号】特開2007−321117(P2007−321117A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155621(P2006−155621)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000184023)勝田化工株式会社 (5)
【Fターム(参考)】