説明

塩化ビニルモノマーの製造方法

【課題】より低反応温度及び低圧力にて塩化ビニルモノマーを製造することができる塩化ビニルモノマーの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】2−クロロエタノールを脱水して塩化ビニルモノマーを製造する工程において、固体酸触媒による触媒反応により脱水を行う塩化ビニルモノマーの製造方法を提供する。ブレンステッド酸性を示す固体酸触媒を用いて、反応温度を160〜300℃とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学工業における塩化ビニルモノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂は、機械的強度、耐薬品性等に優れており、従来から配管材料、建築材料等の各種用途に用いられている。
このポリ塩化ビニル樹脂の製造原料である塩化ビニルモノマーは、従来、エチレンの直接塩素化法やオキシクロリネーション法によって合成された1,2−ジクロロエタンを熱分解することにより製造されてきた(特許文献1〜3参照)。
しかし、このような熱分解反応において、充分な反応効率を得るためには500℃、15気圧という高温高圧条件を要し、そのため高性能な設備が必要となり経済的ではないとともに、煩雑な工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−262682号公報
【特許文献2】特開平6−80593号公報
【特許文献3】WO2006/098466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、より低反応温度及び低圧力にて、より簡便に塩化ビニルモノマーを製造することができる塩化ビニルモノマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明を提供する。
(1)2−クロロエタノールを脱水して塩化ビニルモノマーを製造する工程において、固体酸触媒による触媒反応により脱水を行うことを特徴とする塩化ビニルモノマーの製造方法。
(2)前記固体酸触媒がブレンステッド酸性を示すものである(1)の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(3)前記ブレンステッド酸性を示す固体酸触媒が水素型ゼオライトである(2)の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(4)前記水素型ゼオライトが水素型モルデナイトである(3)の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(5)前記水素型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が10〜300である(3)又は(4)の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(6)前記水素型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が70〜110である(5)の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(7)反応温度が160〜300℃である(1)〜(6)のいずれか1つに記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
(8)反応温度が200℃〜290℃である(7)に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、より低反応温度及び低圧力にて、より簡便に塩化ビニルモノマーを製造することが可能となる。そのため、従来のような高性能な設備が不要であり、経済的である。さらに、簡易な工程で塩化ビニルモノマーを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の塩化ビニルモノマーの製造方法では、2−クロロエタノールを、固体酸触媒による触媒反応を利用して脱水する。
この方法で用いる2−クロロエタノールは、従来公知の任意の方法により製造したもののいずれをも用いることができる。例えば、水中に塩素を吹き込むことにより発生させた次亜塩素酸を、エチレンに付加させることにより製造したものを用いることができる。
2−クロロエタノールの純度は特に限定されず、公知の方法によって製造したものを、精製することなくそのまま用いてもよいが、効率的に塩化ビニルモノマーを製造するという観点から、好ましくは50〜100wt%、さらに好ましくは85〜100wt%のものが挙げられる。
【0008】
前記固体酸触媒としては、特に限定されるものではなく、当該分野で公知のいずれを使用してもよい。例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、硫化物などの金属塩;イソポリ酸、ヘテロポリ酸、複合酸化物、固定化スルホン酸、ゼオライト(amicite、アンモニウム白榴石、方沸石、バレル沸石、bellbergite、bikitaite、boggsite、brewsterite、brewsterite-Sr、brewsterite-Ba、菱沸石、灰菱沸石、ソーダ菱沸石、カリ菱沸石、chiavennite、斜プチロル沸石(-Na、-K、-Ca等)、コウルス沸石、ダキアルディ沸石、灰ダキアルディ沸石、ソーダダキアルディ沸石、エディントン沸石、剥沸石、エリオン沸石、ソーダエリオン沸石、カリエリオン沸石、灰エリオン沸石、faujasite(-Na、-Ca、-Mg等)、フェリエライト(-Mg、-K、-Na等)、ガロン沸石、gaultite、ギスモンド沸石、グメリン沸石(-Na、-Ca、-K等)、ゴビンス沸石、ゴナルド沸石、goosecreekite、gottardiite、重土十字沸石、輝沸石、灰輝沸石、ストロンチウム輝沸石、ソーダ輝沸石、カリ輝沸石、hsianghualite、kalborsite、濁沸石、白榴石、レビ沸石(−Ca、−Na等)、lovdarite、maricopaite、mazzite、merlinoite、中沸石、montesommaite、モルデナイト、mutinaite、ソーダ沸石、offretite、pahasapaite、partheite、paulingite(-K、-Ca等)、十字沸石(-Na、-K、-Ca等)、ポルクス石、roggianite、スコレス沸石、ステラ沸石、束沸石(-Ca、-Na等)、トムソン沸石、tschernichite、tschortnerite、ワイラケ沸石、weinebeneite、willhendersonite、湯河原沸石等)等及びこれらゼオライトの陽イオン交換部位に水素イオンが吸着したものを用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、ブレンステッド酸性を示すものが適している。また、容易に入手できることから、ゼオライト、特に、水素型ゼオライトが好ましい。水素型ゼオライトとしては、水素型モルデナイト、水素型フェリエライト、水素型ZSM−5型ゼオライト、水素型ベータゼオライト、水素型Y型ゼオライト等が好ましい。さらに好ましい水素型ゼオライトは、水素型モルデナイトである。
【0009】
触媒上で脱水により生成した塩化ビニルモノマーは、触媒上でさらに反応が進むと不均化を起こし、副生成物であるアレン又はメチルアセチレン等へ転化する。この反応は塩化ビニルモノマー3分子が結合して6員環を形成し、その後解裂して起こると考えられる。
この副反応を防ぐための手段として、固体酸触媒としてゼオライトを使用する場合には、ゼオライトの細孔内に6員環生成のための十分なスペースを与えないことが重要である。このような観点から、細孔内にスーパーケージと呼ばれる比較的大きい空間をもたないモルデナイトを用いることがより好ましく、特に水素型モルデナイトがさらに好ましい。
【0010】
また、この副反応を防ぐための別の手段として、塩化ビニルモノマーが離間して生成されることが好ましい。そのため、固体酸触媒上の酸密度が薄いものが好ましい。一方、酸密度を下げ過ぎると反応量が低下する傾向がある。
固体酸触媒として水素型ゼオライトを使用する場合には、水素型ゼオライト上の酸密度が薄いものが好ましい。一方、酸密度を下げ過ぎると反応量が低下する傾向がある。このような観点から、水素型ゼオライトのシリカ/アルミナ比は10〜300であることが好ましく、特に収率の観点からは70〜300が好ましく、70〜110がさらに好ましい。
【0011】
本発明の塩化ビニルモノマーの製造方法では、その反応形式は特に限定されず、任意の反応形式で行うことができる。例えば、固定床式(例えば、固定床気相流通式、固定床液相流通式)、流動床式(例えば、流動床気相流通式、流動床液相流通式)、移動床式(例えば、移動床気相流通式、移動床液相流通式)、懸濁床回分式、懸濁床連続式、攪拌槽式、気泡塔式等が実現し得る設備が挙げられる。なかでも、固定床気相流通式、固定床液相流通式及び攪拌槽式が適している。
反応温度は、副生成物の発生を抑えるため、160〜300℃が適しており、好ましくは200〜290℃、特に265〜275℃が好ましい。
反応時間は、反応形式等によって異なるが、固定床気相流通式であれば触媒との接触時間で0.1〜3秒程度が適しており、好ましくは0.5〜2秒程度である。攪拌槽式反応装置であれば、10〜120分間程度が適しており、好ましくは30〜60分間程度である。
【0012】
触媒量は反応形式によって異なるが、例えば固定床気相流通式であれば、1時間に反応する2−クロロエタノール100重量部に対して、10〜1000重量部程度使用することが適しており、さらに、50〜500重量部程度用いることが好ましく、攪拌槽式であれば2−クロロエタノール100重量部に対して、5〜100重量部程度使用することが適しており、さらに、10〜50重量部程度用いることが好ましい。
【0013】
原料として用いる2−クロロエタノールは、気体又は液体のいずれでもよいが、エタノールの脱水反応は、通常、気相で行われることから、気体のものが適している。例えば、2−クロロエタノールを気化器により気化させて用いることが好ましい。なお、2−クロロエタノールは、希釈せずに用いてもよいし、不活性ガスにより希釈して用いてもよい。希釈に用いる不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これら不活性ガスは単独又は2種以上を混合して用いることができる。希釈の程度は、特に限定されないが、効率的に塩化ビニルモノマーを製造するという観点から、希釈ガスの含有量を50wt%以下とすることが適しており、好ましくは25wt%以下、より好ましくは15wt%以下である。
反応は、常圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよい。例えば、常圧〜0.01MPa程度、好ましくは1〜0.1MPa程度が挙げられる。
【0014】
2−クロロエタノールの反応系への供給量又は供給速度は、例えば、触媒の容積、温度、圧力、2−クロロエタノールの性状等によって適宜調整することができる。例えば、液体及び気体で供給する場合のいずれにおいても、0.1〜10g/時程度が挙げられる。
反応によって得られた塩化ビニルモノマーは、当該分野で公知の方法により回収することができ、さらに精製してもよい。例えば、冷却による副生成物の液化分離のような方法が例示される。
また、回収及び精製することなく、そのまま以下の重合に付してもよい。
【0015】
このようにして得られた塩化ビニルモノマーは、重合に付すことにより、ポリ塩化ビニル樹脂として利用することができる。塩化ビニルモノマーの重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を利用することができる。例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。ポリ塩化ビニル樹脂の重合度は、特に限定されず、例えば、100〜5000程度が適しており、600〜1600程度が好ましい。
【0016】
以下に、本発明の塩化ビニルモノマーの製造方法の実施例を説明する。
反応は、流通式触媒反応装置を用い、触媒は石英製の直管(内径10mm)に充填したものを用いた。
反応ガスおよび反応液は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名GC−2010)、キャピラリーカラム(Agilent J&W社製、商品名DB−1、30m×0.25mm(内径)、膜厚1.0μm)水素炎イオン化検出器(FID)を用いて定量した。
2−クロロエタノール転化率及び塩化ビニルモノマー選択率を下式で算出した。
2−クロロエタノール転化率(%)
=(供給2-クロロエタノール量(mol)−検出2-クロロエタノール量(mol))
/供給2-クロロエタノール量(mol) × 100
塩化ビニルモノマー選択率(%)
=塩化ビニルモノマー量(mol)/(各生成物量(mol)×炭素数/2)
× 100
【0017】
実施例1
シリカ/アルミナ比240の水素型モルデナイト0.6gを内径10mmの石英製反応管に充填し、窒素中200℃で1時間熱処理した。その後、固体酸触媒を反応温度に昇温した。
気化させた2−クロロエタノールを流量1.0g/時及び窒素流量2500ml/時で、触媒層に通し、圧力0.1MPa、反応温度250℃の条件下にて反応させた。
反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率3.8%、塩化ビニルモノマー選択率50.9%であった。
【0018】
実施例2
シリカ/アルミナ比18の水素型モルデナイトを用い、反応温度を200℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率0.9%、塩化ビニルモノマー選択率61.4%であった。
【0019】
実施例3
反応温度を250℃とした以外は実施例2と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率1.8%、塩化ビニルモノマー選択率37.8%であった。
【0020】
実施例4
シリカ/アルミナ比90の水素型モルデナイトを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率7.5%、塩化ビニルモノマー選択率41.1%であった。
【0021】
実施例5
反応温度を270℃とした以外は実施例4と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率8.6%、塩化ビニルモノマー選択率39.6%であった。
【0022】
実施例6
反応温度を300℃とした以外は実施例4と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率6.0%、塩化ビニルモノマー選択率10.0%であった。
【0023】
実施例1〜6を比較すると、収率の観点からはシリカ/アルミナ比90の水素型モルデナイトが優れており、選択率の観点からはシリカ/アルミナ比240の水素型モルデナイトが優れていることが分かった。また反応温度に関しては、温度を上げると収率は上昇するが選択率は減少する傾向にあることが分かった。
【0024】
実施例7
シリカ/アルミナ比15の水素型Y型ゼオライトを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率13.8%、塩化ビニルモノマー選択率0.6%であった。
【0025】
実施例8
触媒としてγ−アルミナを用い、反応温度を350℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、反応経過時間1時間後において、2−クロロエタノール転化率30.0%、塩化ビニルモノマー選択率0.003%であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、より低い反応温度と圧力において、簡易な設備で塩化ビニルモノマーを製造することができる塩化ビニルモノマーの製造方法及び塩化ビニル樹脂を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−クロロエタノールを脱水して塩化ビニルモノマーを製造する工程において、固体酸触媒による触媒反応により脱水を行うことを特徴とする塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項2】
前記固体酸触媒がブレンステッド酸性を示すものである請求項1に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項3】
前記ブレンステッド酸性を示す固体酸触媒が水素型ゼオライトである請求項2に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項4】
前記水素型ゼオライトが水素型モルデナイトである請求項3に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項5】
前記水素型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が10〜300である請求項3又は4に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項6】
前記水素型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が70〜110である請求項5に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項7】
反応温度が160〜300℃である請求項1〜6のいずれか1つに記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。
【請求項8】
反応温度が200℃〜290℃である請求項7に記載の塩化ビニルモノマーの製造方法。

【公開番号】特開2012−214433(P2012−214433A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230565(P2011−230565)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】