説明

塩化ビニル樹脂組成物およびその製造方法、塩化ビニル樹脂成形材料、成形品ならびに輸送機器用内装部材

【課題】塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られる成形品の難燃性を確保しつつ、成形時における組成物の金型への付着を効果的に抑制する。
【解決手段】(A)塩化ビニル樹脂に対し、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理した金属水酸化物粒子を特定の割合で配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物およびその製造方法、塩化ビニル樹脂成形材料、成形品ならびに輸送機器用内装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂の燃焼時における低発煙性および低発熱性を向上させる技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1には、輸送機器用途、特に航空機の内装部材として使用される樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂に水酸化物、モリブデン酸化合物などを添加することが記載されている。また、特許文献2には、航空機の内装部材等の輸送機器用途に好適な樹脂組成物として、塩化ビニル樹脂にモリブデン化合物、アルミニウムマグネシウム化合物等を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−299182号公報
【特許文献2】特開2007−262167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1記載の樹脂組成物について本発明者が検討したところ、金属水酸化物を添加した塩化ビニル樹脂組成物においては、金型の流面に組成物が付着しやすいことが明らかになった。また、金型流面に付着物が生じると、付着物が剥れ落ちて成形品の表面に付着して、外観品質を低下させる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述した成形時における組成物の金型への付着の発生原因を検討した。その結果、金属水酸化物と塩化ビニル樹脂とは比較的相溶性が低いと推察された。
また、金属水酸化物とモリブデン酸化合物とを併用した塩化ビニル樹脂組成物では、付着物が増加してしまうことが明らかになった。金属水酸化物とモリブデン酸化合物が共存する組成物では、金属水酸化物粒子とモリブデン酸化合物粒子とが隣接して存在しており、これらの粒子が結合して付着物となっていることが見出された。
そこで、金属水酸化物が配合される塩化ビニル樹脂組成物について、成形時の付着物を抑制すべくさらに検討したところ、表面をリン酸エステル処理した金属水酸化物粒子を塩化ビニル樹脂に対して特定の割合で配合することにより、組成物の金型への付着物を効果的に抑制し、難燃性と付着物の抑制効果とのバランスを効果的に向上できることを見出した。
【0006】
本発明によれば、
(A)塩化ビニル樹脂、および
(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子
が配合された塩化ビニル樹脂組成物であって、
前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対する前記(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子の配合量が4重量部以上30重量部未満である、塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
金属水酸化物により構成された粒子をリン酸エステルまたはその塩により表面処理することにより、前記リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子(B)を得る工程と、
(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、4重量部以上30重量部未満の前記(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を得る工程と、
を含む、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0008】
本発明においては、(A)塩化ビニル樹脂に対して、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子が特定の割合で配合される。このため、成形品の難燃性を確保しつつ、付着物の発生による外観品質の低下を効果的に抑制することができる。
【0009】
また、本発明によれば、前記本発明における塩化ビニル樹脂組成物を含む、塩化ビニル樹脂成形材料が提供される。
また、本発明によれば、前記本発明における塩化ビニル樹脂成形材料を成形してなる、成形品が提供される。
また、本発明によれば、前記本発明における塩化ビニル樹脂成形材料を成形してなる、輸送機器用内装部材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂に対してリン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を特定の割合で配合することにより、成形時の金型への付着物を効果的に抑制できるとともに成形品の難燃性に優れる塩化ビニル樹脂組成物が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態におけるリン酸エステル処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下において、各成分として一種類の化合物を単独で配合してもよいし、複数の化合物を組み合わせて配合してもよい。
本発明における塩化ビニル樹脂組成物は、以下の成分(A)および(B)が配合されたものである。
(A)塩化ビニル樹脂、
(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子
以下、各成分について説明する。
【0013】
はじめに、(A)成分である塩化ビニル樹脂とは、具体的には、−CH2−CHCl−で表される基を有するポリマーであり、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと他の重合性モノマーとの共重合体およびこれらを改質したもの等が挙げられる。また、塩素化ポリエチレン等の、塩化ビニル樹脂と類似する構造を有する塩素化ポリオレフィンを用いてもよい。
【0014】
塩化ビニルの単独重合体として、具体的には、塩素化度が56重量%程度である塩化ビニル樹脂が挙げられる。
塩化ビニル単独重合体を改質した樹脂として、具体的には、塩素化塩化ビニル樹脂等が挙げられる。塩素化塩化ビニル樹脂の塩素化度は、良好な発煙および発熱抑制効果を得る観点からは、たとえば60重量%以上、好ましくは63重量%以上である。また、良好な発煙および発熱抑制効果を得る観点からは、塩素化塩化ビニル樹脂の塩素化度は73重量%以下、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは68重量%以下である。
塩化ビニルと他のモノマーとの共重合樹脂として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル共重合体等が挙げられる。
(A)塩化ビニル樹脂は組成物中に単独でまたは二種以上組み合わせて配合できる。二種以上の組み合わせの例としては、上記塩化ビニル樹脂と上記塩素化塩化ビニル樹脂との混合樹脂が挙げられる。
【0015】
(A)塩化ビニル樹脂の数平均重合度は、成形時の熱安定性を向上させる観点から、たとえば400以上、好ましくは600以上である。また、成形時の取り扱い容易性の観点からは、(A)塩化ビニル樹脂の数平均重合度をたとえば1200以下、好ましくは1000以下とする。
【0016】
次に(B)成分について説明する。
本発明において、(B)成分として用いられる金属水酸化物粒子は、金属水酸化物(D)にリン酸エステル(E)またはその塩を用いて表面処理されたものである。
原料として用いられる金属水酸化物(D)の粒子の材料として、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物が挙げられる。
金属水酸化物の粒子形状については、特に制限はなく、たとえば球状、板状、繊維状等とすることができる。
塩化ビニル樹脂組成物の成形加工安定性の向上と、金属水酸化物粒子の凝集を抑制する観点からは、原料粒子の数平均粒子径を、たとえば0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上とする。このことにより、塩化ビニル樹脂組成物の粘度について、過度の上昇を抑制することが可能となり、押出成形などの成形加工の安定性を向上させることができ、また、金属水酸化物粒子の凝集による外観の劣化を確実に抑制することもできる。
また、さらに良好な発煙および発熱抑制効果を得る観点からは、数平均粒子径を、水酸化マグネシウムについてはたとえば10μm以下、好ましくは5μm以下とし、水酸化アルミニウムについてはたとえば20μm以下、好ましくは10μm以下とする。
【0017】
また、金属水酸化物粒子の表面処理に用いられるリン酸エステル(E)は、具体的には、以下の一般式(1)、(2)または(3)に示される有機リン酸エステル化合物であり、モノ−、ジ−およびトリ−エステルのいずれでもよい。
PO(OR1)OH2 (1)
PO(OR1)(OR2)OH (2)
PO(OR1)(OR2)(OR3) (3)
(上記一般式(1)〜(3)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1以上25以下の飽和または不飽和炭化水素基である。)
上記一般式(1)〜(3)において、R1、R2およびR3は、鎖状および環状のいずれでもよい。鎖状の場合、直鎖状であってもよいし、分岐鎖を有してもよい。また、R1、R2およびR3は、骨格鎖または環内にヘテロ原子を有してもよい。
成形時における組成物の金型への付着をさらに確実に抑制する観点からは、R1、R2およびR3の炭素数をたとえば5以上、好ましくは10以上とする。また、成形時における組成物の金型への付着をさらに安定的に抑制する観点からは、R1、R2およびR3の炭素数をたとえば30以下、好ましくは20以下とする。
R1、R2およびR3の具体例として、オレイル基、ステアリル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
また、(E)リン酸エステルの塩として、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルキル金属塩;アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0018】
ここで、粒子表面へのリン酸エステル(E)の導入量は、たとえば、赤外分光法(Infrared spectroscopy:IR)スペクトルにおいて、OHピークの高さで規格化したメチレンピーク(2920cm-1)高さ(単位phr:水酸化物100重量部に対するリン酸エステルの導入量)により実験的に算出される。
難燃性と付着物抑制とのバランスをさらに安定的に向上する観点からは、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子として、リン酸エステル(E)の導入量がたとえば8phr以下、好ましくは5phr以下のものを用いる。
また、付着物の発生をさらに確実に抑制する観点からは、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子として、リン酸エステル(E)の導入量がたとえば0.1phr以上、好ましくは0.5phr以上のものが用いられる。
【0019】
金属水酸化物粒子の表面処理は、たとえば湿式法により行われる。具体的には、溶媒中に金属水酸化物およびリン酸エステルを分散させる。これを加熱、ろ過した後、乾燥する。
分散に用いる溶媒の具体例として、水および有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒として、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の鎖状飽和炭化水素;
シクロヘキサン、シクロオクタン等の飽和環状炭化水素;
ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;
メタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0020】
なお、表面処理においては、(E)リン酸エステル中のリン酸基と(D)金属水酸化物の粒子との静電気的相互作用等が生じ、(E)リン酸エステルが粒子表面に導入される。
図1は、種々の溶媒を用いてリン酸エステル処理をおこなった結果を示す図である。図1は、金属水酸化物粒子に対し、以下のように溶媒の種類および金属水酸化物粒子100重量部に対するリン酸エステルの仕込量(単位phr)を変えてリン酸エステルを処理した結果を示す。
図1における処理条件および結果(導入量:検量線換算の表面処理量)を以下に示す。
金属水酸化物粒子:協和化学工業社製、キスマ5
リン酸エステル:堺化学工業社製Phoslex A−18
処理時間:2時間
(1)水中に分散、仕込8phr:導入量0.89phr
(2)水中に分散、仕込24phr:導入量2.4phr
(3)メタノール中に分散、仕込8phr:導入量5.2phr
(4)ヘキサン中に分散、仕込8phr:導入量7.2phr
図1より、分散に用いる溶媒の極性が低いほど、粒子表面に導入されるリン酸エステル量が増加することがわかる。このため、表面処理量をより確実に増加させる観点からは、ヘキサン等の非極性溶媒がさらに好ましく用いられる。
【0021】
また、湿式法における加熱条件は、たとえば30〜80℃程度の温度、1〜4時間程度の時間とする。さらに具体的には、(D)金属水酸化物の粒子を室温(20℃)にて所定の溶媒中に攪拌、分散させた後、(E)リン酸エステルを添加して攪拌混合する。その後、30〜60分程度かけて30〜80℃程度まで昇温し、そのまま1〜4時間程度攪拌する。
湿式法を用いることにより、処理効率をさらに向上させることができる。その後、必要に応じて所定の温度まで降温し、攪拌を停止し、ろ過、乾燥に供する。乾燥の際に、加熱してもよい。
また、他の表面処理方法として、スプレードライ法にて処理することもできる。
【0022】
表面処理における(E)リン酸エステルの添加量は、たとえばリン酸エステルの種類および溶媒の種類に応じて設定される。成形時における組成物の金型への付着を抑制する観点からは、たとえば上記湿式法の場合、(D)金属水酸化物100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは2重量部以上とする。また、良好な発煙抑制効果を得る観点からは、(D)金属水酸化物100重量部に対する(E)リン酸エステルの添加量を、たとえば10重量部以下、好ましくは8重量部以下とする。
また、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子は、金属水酸化物により構成された粒子に、金属水酸化物100重量部に対して0.5重量部以上10重量部以下のリン酸エステルまたはその塩を表面処理して得られたものであってもよい。こうすることにより、成形品の発煙性の点でより一層優れた構成とすることができる。
こうして得られた(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子は、表面に、たとえば(E)リン酸エステル由来のアルキルアルコール基を有する。(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子は、さらに具体的には、表面に、炭素数5以上30以下のアルキル基を有し、好ましくは炭素数10以上20以下のアルキル基を有する。
また、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子は、具体的には、表面の少なくとも一部が(E)リン酸エステル由来の基により被覆されている。組成物由来の付着物をさらに確実に抑制する観点からは、粒子表面全体が(E)リン酸エステル由来の基により被覆されていることが好ましい。
【0023】
(B)リン酸エステルまたはその塩を用いて表面処理された金属水酸化物の塩化ビニル樹脂組成物中の配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して4重量部以上、好ましくは6重量部以上とする。こうすることにより、良好な発煙および発熱抑制効果を得ることができる。また、成形時における組成物の金型への付着を抑制する観点、および成形品の強度をさらに高める観点からは、塩化ビニル樹脂100重量部に対する(B)リン酸エステルを用いて表面処理された金属水酸化物の配合量を30重量部未満、たとえば18重量部以下、好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下とする。
【0024】
また、本発明における塩化ビニル樹脂組成物には、さらに、(C)モリブデン化合物が配合されていてもよい。(C)モリブデン化合物を配合することにより、発煙性をさらに安定的に抑制させることができる。
(C)成分として用いられるモリブデン化合物として、具体例には、三酸化モリブデン等の酸化物;
二硫化モリブデン等の硫化物;および
モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム亜鉛、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩が挙げられる。
このうち、塩化ビニル樹脂の熱安定性を阻害しないという観点からはモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0025】
(C)モリブデン化合物の形状は、たとえば粒子状とする。その数平均粒子径は、組成物中にさらに均一に分散させる観点からは、0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上とする。また、成形品の黒斑等を抑制し、外観をさらに向上させる観点からは、(C)モリブデン化合物の平均粒子径を20μm以下、好ましくは10μm以下とする。
(C)モリブデン化合物の配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して3重量部以上、好ましくは5重量部以上とする。こうすることにより、充分な発煙抑制効果を安定的に得ることができる。また、成形時における組成物の金型への付着を抑制する観点からは、塩化ビニル樹脂100重量部に対する(C)モリブデン化合物の配合量をたとえば30重量部以下、好ましくは18重量部以下、さらに好ましくは15重量部以下、より一層好ましくは10重量部以下とする。
【0026】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物においては、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対する(B)リン酸エステルまたはその塩を用いて表面処理された金属水酸化物粒子および(C)モリブデン化合物の合計が、たとえば36重量部以下、好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下である。こうすることにより、塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られる成形品の製造安定性と難燃性のバランスをより一層安定的に向上させることができる。具体的には、成形時における組成物の金型への付着物を抑制しつつ、発熱および発煙特性を向上させることができる。また、たとえば塩化ビニル樹脂組成物押出成形によってシート成形する際には、吐出安定性の低下を抑制するとともに、得られるシートの機械物性の低下を抑制することが可能となる。また、たとえば成形されたシートを真空成形や圧空成形などの2次成形をする際の成形性を向上させることも可能となる。
【0027】
なお、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して(B)リン酸エステルまたはその塩を用いて表面処理された金属水酸化物粒子および(C)モリブデン化合物の配合量の合計の下限に特に制限はないが、難燃性と外観のバランスをさらに安定的に向上させる観点からは、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対する(B)成分および(C)成分の合計をたとえば7重量部以上、好ましくは10重量部以上とする。
【0028】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物において、(B)リン酸エステルまたはその塩を用いて表面処理された金属水酸化物粒子と(C)モリブデン化合物との組み合わせを、以下のようにしてもよい:
(B)成分:水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムを上記一般式(1)、(2)または(3)に示した有機リン酸エステル化合物にて表面処理して得られる金属水酸化物粒子であって、上記一般式(1)、(2)または(3)におけるR1、R2およびR3は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数5以上20以下の飽和または不飽和炭化水素基である。
(C)成分:モリブデン酸化合物
【0029】
さらに具体的には、以下の組み合わせが挙げられる。
(B)成分:水酸化マグネシウムをステアリルアシッドホスフェイトにて表面処理して得られる金属水酸化物粒子と(C)成分:モリブデン酸アンモニウムとの組み合わせ、
(B)成分:水酸化マグネシウムをオレイルアシッドホスフェイトにて表面処理して得られる金属水酸化物粒子と(C)成分:モリブデン酸アンモニウムとの組み合わせ、および
(B)成分:水酸化アルミニウムをステアリルアシッドホスフェイトにて表面処理して得られる金属水酸化物粒子と(C)成分:モリブデン酸カルシウムとの組み合わせ。
【0030】
本発明における塩化ビニル樹脂組成物には、上述した成分の他に、補強剤、加工性改良助剤、安定剤、滑剤、着色剤、充填剤、可塑剤などの塩化ビニル樹脂を成形する際に必要な添加剤を適宜配合することができる。
【0031】
次に、本発明における塩化ビニル樹脂組成物の製造方法を説明する。
本発明における塩化ビニル樹脂組成物の製造方法は、たとえば以下の工程を含む。
ステップ1:金属水酸化物(D)により構成された粒子をリン酸エステル(E)により表面処理することにより、リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子(B)を得る工程、および
ステップ2:(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、4重量部以上30重量部未満の(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を得る工程。
【0032】
ステップ2の塩化ビニル樹脂組成物を得る工程において、(C)モリブデン化合物をさらに配合してもよい。このとき、ステップ2において、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対してたとえば3重量部以上の(C)モリブデン化合物を配合する。
また、ステップ2において(C)モリブデン化合物を配合するとき、(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子および(C)モリブデン化合物の合計は、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対してたとえば36重量部以下、好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下とする。
また、ステップ2の(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を得る工程は、金属水酸化物100重量部に対して0.5重量部以上10重量部以下のリン酸エステルを添加する工程を含んでもよい。
また、本発明における塩化ビニル樹脂組成物を成形する方法に特に制限はなく、たとえば押出成形、カレンダー成形、圧縮プレス成形、射出成形などの方法が適用される。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、加工性に優れており、たとえば真空成形に好適に用いることができる。
【0033】
本発明における塩化ビニル樹脂組成物においては、金属水酸化物粒子をリン酸エステルまたはその塩により表面処理して用いることにより、金属水和物を塩化ビニル樹脂と併用する場合にも、金型への付着物の発生が効果的に抑制される。このため、金型への付着物がはがれ落ちて成形品に付着することが抑制されるため、成形品の外観品質を向上させることができる。よって、充分な難燃性を備えるとともに、成形品の製造安定性および製造歩留まりに優れた塩化ビニル樹脂が実現される。
この作用効果は、金属水和物をモリブデン化合物と併用する場合に顕著に発揮され、金属水和物とモリブデン化合物との結合物の金型への付着が効果的に抑制される。
また、本発明によれば、たとえば成形品の耐衝撃性の劣化を抑制することも可能となる。
【0034】
また、本発明における塩化ビニル樹脂組成物を用いることにより、充分な難燃性を有する成形品が得られるため、難燃性向上のためにアンチモン化合物を配合する必要がない。このため、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、取り扱いの容易性の点でも優れている。
【0035】
本発明における塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂成形材料として好適に用いられる。また、本発明における塩化ビニル樹脂成形材料は、上記本発明における塩化ビニル樹脂組成物を含む。
【0036】
また、本発明における成形品は、上記本発明における塩化ビニル樹脂成形材料を成形してなる。かかる成形品は、低発煙性および低発熱性の点で優れるとともに、表面の付着物が抑制されており、外観の点でも優れた構成である。このため、本発明における成形品は、たとえば航空機、船舶、車両などの輸送機器の部材として好適に用いられる。本発明における成形品は、とりわけ、航空機等の輸送機器の内装部材として好適である。本発明における成形品を内装部材として用いることにより、一般的な熱硬化性樹脂やエンジニアリングプラスチックを用いる場合に比べて、加工温度を低下させることができるため、真空成形等の二次成形が容易となる。また、着色が容易となる。また、製造コストを低減できる。また、本発明における成形品を内装部材として用いることにより、金属材料を用いる場合よりも軽量化できる。また、成形品の質感を向上させることができる。
また、本発明における成形品は、輸送機器以外に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0037】
(原料)
以下において、原材料として次のものを用意した。
塩化ビニル樹脂(A1):商品名:H516A、カネカ社製、塩素化度65%、重合度P(ピーバー)=600
塩化ビニル樹脂(A2):商品名:S1008、カネカ社製、塩素化度57%、重合度P(ピーバー)=800
モリブデン化合物(C1):モリブデン酸アンモニウム(商品名:KOMA−P、高南無機製)
水酸化物(D1):水酸化マグネシウム(商品名:KISUMA 5、協和化学工業社製)、数平均粒子径0.8μm
水酸化物(D2):水酸化アルミニウム(商品名:B103、日本軽金属製)、数平均粒子径8μm
リン酸エステル(E1):商品名:Phoslex A−18、堺化学工業製
リン酸エステル(E2):商品名:Phoslex A−8、堺化学工業製
(水酸化物の表面処理)
以下に水酸化物のリン酸エステル処理手順の一例を記載する。
1200mLのヘキサン中に、水酸化物(D1またはD2)を360g、リン酸エステル(E1またはE2)を28.8g加えて混合した。混合物を40℃にて2時間加熱した後、ろ過した。ろ過後の残渣を120℃にて6時間乾燥し、(B)成分であるリン酸エステルにて表面処理された金属水酸化物粒子を得た。
【0038】
(実施例1〜9、比較例1〜5)
塩化ビニル樹脂組成物を調製し、以下の方法で評価した。組成物の配合および評価結果を表1および表2に示す。なお、表1および表2中の「phr」とは、水酸化物100重量部に対するリン酸エステルの添加量(重量部)である。
【0039】
(i)金型付着量
表1に示した通りの原材料を秤量、混合して得られた配合物4kgをφ20押出機の先端にTダイ金型(流路面積80cm2)を接続し押出した。押出後、金型流路に付着した付着物を計量した。付着量の判定は100mg以下であれば合格、それを超えた場合は不合格とした。
【0040】
発熱性試験および発煙性試験で用いたサンプルは、表1および表2の割合で配合した組成物について、厚み1.8mmのプレートをロール練り・プレス法にて作製した成形品を用いた。評価方法は以下の通りである。
(ii)発熱性(THR:Total Heat Release)
ASTM(American Society for Testing and Materials) E906に準拠して、2分間におけるTHRをOhio State University Calorimeterで測定した。米国連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA)規格に準じて65kw・min/m2以下であれば合格、この値を越えた場合は不合格とした。
(iii)発熱性(HRR:Heat Release Rate)
ASTM E906に準拠して、5分間におけるPeak Heat Release RateをOhio State University Calorimeterで測定した。FAA規格に準じて、65kw/m2以下であれば合格、この値を越えた場合は不合格とした。
(iv)発煙性(Smoke Density)
ASTM E662−82に準拠して、NBS(National Bureau of Standards)発煙性試験機により4分後の最大煙濃度を測定した。FAA規格に準じて4分後の最大濃度が、200以下であれば合格、この値を超えた場合は不合格とした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1および表2より、実施例の組成物では、比較例に対し、成形時における組成物の金型付着量が効果的に低減されており、成形品の外観品質が優れていた。また、実施例の組成物では、発熱性および発煙性が充分に抑制されていた。
なお、実施例1〜9においては、塩化ビニル樹脂、リン酸エステルにて表面処理された金属水酸化物粒子およびモリブデン化合物を配合した例を示したが、モリブデン化合物を配合しない系においても、リン酸エステルにて表面処理された金属水酸化物粒子と塩化ビニル樹脂とを併用することにより、組成物の金型への付着を効果的に抑制できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化ビニル樹脂、および
(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子
が配合された塩化ビニル樹脂組成物であって、
前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対する前記(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子の配合量が4重量部以上30重量部未満である、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物において、さらに、(C)モリブデン化合物が配合された、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の塩化ビニル樹脂組成物において、前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対する前記(C)モリブデン化合物の配合量が3重量部以上である、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物において、
前記(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子が、金属水酸化物により構成された粒子100重量部に対して0.5重量部以上10重量部以下の前記リン酸エステルを表面処理したものである、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物において、前記(A)塩化ビニル樹脂の塩素化度が60重量%以上70重量%以下である、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物を含む、塩化ビニル樹脂成形材料。
【請求項7】
請求項6に記載の塩化ビニル樹脂成形材料を成形してなる、成形品。
【請求項8】
請求項6に記載の塩化ビニル樹脂成形材料を成形してなる、輸送機器用内装部材。
【請求項9】
金属水酸化物により構成された粒子をリン酸エステルまたはその塩により表面処理することにより、前記リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子(B)を得る工程と、
(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、4重量部以上30重量部未満の前記(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を得る工程と、
を含む、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法において、
塩化ビニル樹脂組成物を得る前記工程において、(C)モリブデン化合物をさらに配合する、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法において、
塩化ビニル樹脂組成物を得る前記工程において、前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して3重量部以上の前記(C)モリブデン化合物を配合する、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項9乃至11いずれか1項に記載の製造方法において、
(B)リン酸エステルまたはその塩にて表面処理された金属水酸化物粒子を得る前記工程が、前記金属水酸化物100重量部に対して0.5重量部以上10重量部以下の前記リン酸エステルまたはその塩を添加する工程を含む、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42752(P2011−42752A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192798(P2009−192798)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】