説明

塩化ビニル系樹脂およびその製造方法

【課題】主にバッテリーセパレーター用途に用いられ、粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル系樹脂を提供する。
【解決手段】懸濁重合法により得られる塩化ビニル系樹脂であって、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、メチルセルロース誘導体を0.1重量部以上0.3重量部以下、アニオン性界面活性剤を0.08重量部以上0.14重量部以下使用し、重合終了時点でカチオン性界面活性剤を添加することを特徴とし、得られる樹脂の粉体粒子径が24μm以上45μm以下の塩化ビニル系樹脂により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーセパレーター用途に好適な塩化ビニル系樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バッテリー(蓄電池)は、正極板、負極板、電解液などから構成されており、その持っている化学的エネルギーを、電気エネルギーとして取り出すことができ、また逆に外部から電気的エネルギーを与えると、元の形の化学的エネルギーとして蓄えることができる装置である。一般に、バッテリーは正極板と負極板の間に隔離板を挿入することで、両極板のショート(短絡)を防止しており、この隔離板はバッテリーセパレーターと呼ばれている。
【0003】
バッテリーセパレーターへ要求される性能としては、(1)陽極と陰極の短絡防止、(2)電解液の透過性(低電気抵抗)、(3)機械的強度(高強度)、等が挙げられる。
【0004】
従来からバッテリーセパレーターには、主に強化繊維が用いられており、ナイロン繊維、ポリスルフォンやポリエーテルスルフォンとポリ塩化ビニル混合重合体の繊維(特許文献1)、等が使用されている。しかし、樹脂の単価が高いことや、樹脂を有機溶剤で溶解分散し、得られた紡糸原液を湿式紡糸等で繊維賦形する為には多量の有機溶剤を必要とする問題がある。
【0005】
一方、汎用の塩化ビニル樹脂を熱で焼結させることにより焼結板としてバッテリーセパレーターを作成する方法がある。塩化ビニル樹脂を所望の厚みにコーティングし、加熱するだけでセパレーターを得ることが可能であり、塩化ビニル樹脂以外の配合剤や有機溶剤を全く必要としない為、経済上、環境上で大きなメリットがある。
【0006】
一般に、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂は、コーティングローター等を用いて所望の厚みにコーティングし、オーブン等で加熱する事により樹脂顆粒を焼結・融着させ、焼結板としてバッテリーセパレーターへと加工される。コーティングローター等には、ローターの回転方向に沿ってリブ溝が刻んであるのが一般であり、コーティングすることにより表面にリブ山が形成される。このバッテリーセパレーターのリブ山の存在により、正極板と負極板の間に電解液を保持する空間が形成され、陽極と陰極の短絡防止、電解液の透過性(低電気抵抗)を良好にすることができる。以上のことから、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂は、バッテリーセパレーターの外観や性能(短絡防止、電気抵抗)を良好にする目的で、欠損の少ないリブ山がコーティングされる性質(以下、粉体コーティング性)が一般に求められている。
【0007】
また、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂は、焼結性が優れることも求められている。焼結性が優れると、少ない熱量でも塩化ビニル樹脂の焼結が進行し、高い機械的強度のバッテリーセパレーターが得られる傾向になる。
【0008】
バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂としては、USOLIEKHIMPROM社のE−6642、株式会社カネカのPS−300等が使用されているが、これらよりも更に粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル樹脂の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平3−233856
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述したような課題を解決し、主にバッテリーセパレーター用途に用いられる、粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル系樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、分散剤としてメチルセルロース誘導体とアニオン性界面活性剤を用いて製造する塩化ビニル樹脂において、メチルセルロース誘導体のアニオン性界面活性剤による可塑化効果に着目し、アニオン性界面活性剤とメチルセルロースとの組み合わせのバランスを特定することで、焼結性が向上し、前述の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、
懸濁重合法により得られる塩化ビニル系樹脂であって、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、メチルセルロース誘導体を0.1重量部以上0.3重量部以下、アニオン性界面活性剤を0.08重量部以上0.14重量部以下使用し、重合終了時点でカチオン性界面活性剤を添加することを特徴とし、得られる樹脂の粉体粒子径が24μm以上45μm以下の塩化ビニル系樹脂である。ここで前記アニオン性界面活性剤はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであるのが好ましい。
【0012】
また、前記したカチオン性界面活性剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂スラリー100重量部に対して0.005〜0.5重量部であり、カチオン性界面活性剤の種類が、下記一般式(1)で示されるアルキルメチルアンモニウム塩であり、アルキル基の炭素数が8〜18であるのが好ましい。
[RmN+(CH3)n]X- (1)
(式中Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。m+n=4。1≦m≦3。1≦n≦3)
一方、本発明の製造方法は、上記した塩化ビニル系樹脂を製造する方法であって、塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、攪拌所要動力が0.45〜1.00kW/mの範囲内である塩化ビニル系樹脂の製造方法である。また、本発明の塩化ビニル系樹脂を用いて塩化ビニル系焼結板とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来品よりも焼結性が優れ、リブ山の欠損率の低いバッテリーセパレーター用途の塩化ビニル系樹脂を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
塩化ビニル系単量体の懸濁重合においては、アニオン性界面活性剤等の乳化剤は、一般的に用いられることが多いが、重合反応終了後の未反応の単量体の回収時の泡立ちが悪化する傾向になる為、多量に用いることは敬遠されてきた。
【0015】
一方、本発明者らは、分散剤としてメチルセルロース誘導体とアニオン性界面活性剤を用いて製造する塩化ビニル樹脂において、メチルセルロース誘導体のアニオン性界面活性剤による可塑化効果に着目し、アニオン性界面活性剤の使用部数を増加することにより、焼結性が向上することを見出した。しかし、単純にアニオン性界面活性剤を増加しただけでは、未反応の単量体回収時の泡立ちが悪化するだけでなく、アニオン性界面活性剤の乳化作用により樹脂の粒子径が小さくなり過ぎて粉体コーティング性が悪化し、バッテリーセパレーターへの加工時のリブ山の欠損が多くなる問題に直面した。
【0016】
そこで更なる検討を行い、重合反応中の攪拌所要動力を0.45〜1.00kW/mの範囲内で調整することにより、アニオン性界面活性剤を多く使用しても粒子径を所望の大きさ(24〜45μm)を確保できることを見出し、更に、有効なカチオン性界面活性剤を選択することにより、未反応の単量体回収時の泡立ちを抑制させることに成功し、本発明に至った。
【0017】
本発明に使用する重合機の形状には特に制限はなく、例えば、外部ジャケット又は内部ジャケットを有する重合器を用いることができる。重合機内の攪拌方法には特に制限はなく、例えば、ファウドラー翼、多段ファウドラー翼、パドル翼、多段パドル翼、ブルーマージン翼、アンカー翼、ループ翼、マックスブレンド翼、フルーゾーン翼等を使用することができる。また、バッフルも特に制限はなく、パイプバッフル、フィンガーバッフル、D型バッフル等を使用することができる。
【0018】
中でも、攪拌時の所要動力の大半を単量体を分散させるエネルギーに集中的に費やすことができる観点から、攪拌翼の構造としては、ブルーマージン翼が特に好ましい。本発明におけるブルーマージン翼は、例えば特開2001−31705号公報に記載された様な形状のものを用いることができる。
【0019】
本発明における攪拌所要動力とは、単位内容積当りの攪拌に要する動力を意味し、攪拌翼に取り付けたトルクメーターの値から算出した。すなわち、重合反応中のトルクメーターの値から、重合機が空の状態で攪拌翼を回した時のトルクメーターの値を差し引き、実効電力を乗じ、液容量で除すことにより、単位内容積当りの正味の攪拌所要動力を算出した。
【0020】
また、攪拌所要動力は次式により算出することもできる。
Pv=P/V=(NP・ρ・n・d)/(gc・V)
Pv :単位内容積当りの攪拌所要動力(kW/m
P :攪拌動力(kW)
V :液容量(m
NP:動力数、攪拌翼固定値であり、経験値を採用する。
例.ファウドラー翼・アンカー翼:1.5、
マックスブレンド翼・フルゾーン翼:2.5、
ループ翼・アンカー翼:1.0
ρ :液密度(kg/m
n :攪拌数(1/sec)
d :攪拌翼径(m)
gc :動力換算係数〔(kg・m)/(kg・sec)〕
また、攪拌所要動力の調整は攪拌数の変更によるのが一般的かつ現実的であり、本発明における攪拌所要動力の調整もこの方法により行なった。
【0021】
本発明の塩化ビニル系樹脂の粒子径は24〜45μmであることが好ましい。粒子径が24μm以上になると、樹脂の流動性が良好となり、リブ山の成型後、コーティングローターのリブ溝に樹脂が残留し難く、リブ山がきれいに形成される傾向になる点で好ましい。粒子径が46μm以上になると、樹脂の流動性が良くなり過ぎて形成したリブ山が崩れ、リブ山の欠損が多くなる不具合が生じる場合がある。また、粒子径が46μm以上になると、得られるバッテリーセパレーターの機械的強度が低下する傾向になる。粉体コーティング性と焼結性の観点から、粒子径は27〜34μmであることが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いられるアニオン性界面活性剤は、単量体100重量部当たり0.08〜0.14重量部程度用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤の種類としては、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸メチル、α−オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム、ナトリウム、アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが経済的な観点から好ましい。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
一般に、アニオン性界面活性剤の部数を増加すると、その乳化作用により得られる塩化ビニル系樹脂の粒子径が小さくなる傾向になる。所望の粒子径(24〜45μm)を確保する為には攪拌所要動力を調整する必要があり、一般に、アニオン性界面活性剤の使用部数が増える程、攪拌所要動力の低下幅は大きくなる。例えば、アニオン性界面活性剤0.06部、攪拌所要動力1.08kW/mの条件で、33μmの粒子径が得られている重合系において、同一粒子径(33μm)を維持したままでアニオン性界面活性剤を増加する為には、アニオン性界面活性剤0.08部の場合は大よそ0.90kW/m、アニオン性界面活性剤0.10部の場合は大よそ0.78kW/m、0.12部の場合は大よそ0.65kW/m、0.14部の場合は大よそ0.49kW/m、と調整する必要がある。
アニオン性界面活性剤の使用部数が0.08部以上になると焼結性が向上する点で好ましい。アニオン性界面活性剤の使用部数が0.14部を超えると、所望の粒子径を確保する為には重合攪拌数を大きく低下させる必要があり、重合発熱の除熱効率が低下する傾向になる点で好ましくない。
【0024】
本発明に用いられるメチルセルロース誘導体の使用部数は、単量体100重量部当たり0.1〜0.3重量部程度用いることが好ましい。この範囲内で重合を行うと、重合安定性が向上し、重合スケールや凝集物の量が低下する傾向になる点で好ましい。セルロース誘導体の種類に特に制限は無いが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0025】
本発明における塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体単独、または塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体(以下、「塩化ビニル系単量体」と略記する。)を重合して製造される。塩化ビニルと共重合可能な単量体は特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、更にはジアリルフタレート等の架橋性単量体等の、塩化ビニルと共重合可能な単量体が使用できる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニルとの混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0026】
本発明における未反応の単量体の回収とは、重合反応後の塩化ビニル系樹脂スラリーから未反応の塩化ビニル系単量体を取り除くことを意味する。
【0027】
本発明における重合反応後とは、重合機内圧が定常圧より1.5kg/cm低下した時点、または、重合転化率が75%に達成した時点、以降を意味する。
【0028】
塩化ビニル系樹脂スラリーから未反応の塩化ビニル系単量体を連続的に回収する方法としては、多孔板を有した多段式ストリッピング塔を用いることが知られている。すなわち、減圧下ストリッピング塔の最上段多孔板に被処理樹脂スラリーを供給し、最下段から蒸気を多孔板に通過せしめバブリングによる気液接触により未反応の塩化ビニル系単量体を減圧回収する方法である。
この処理方法においては、多孔板上の樹脂スラリーが下方からの蒸気のバブリングにより激しい泡立ちを生じる。その結果、発生した泡により、回収ラインの閉塞などの装置トラブルの原因や、泡に同伴され壁面に付着した塩化ビニル系樹脂が熱劣化によりスケールとなることによる品質悪化の問題が発生するため、該スラリー供給量を低下させて運転しなければならず、その結果、単位時間当たりの処理量が低下し生産性の低下を招く場合がある。このため泡立ちを抑える方法として、特開平6−107723号公報にスラリー液面上方に設置された別の噴射ノズルから水蒸気を該液面に噴射する方法や、特開昭53−114891号公報に塩化ビニル系樹脂の発泡を抑制する手段としてポリエーテル系消泡剤の使用が提案されているが、いずれの方法も充分でなく、特に本発明の様な高分子分散剤とアニオン性界面活性剤の併用により重合し得られた塩化ビニル系樹脂では良好な消泡対策は提案されていなかった。
【0029】
アニオン性界面活性剤の増量により回収時の泡立ちは更に悪化するので、アニオン性界面活性剤を増量する為には、回収工程における泡立ちを抑制する必要がある。
【0030】
検討の結果、アニオン性界面活性剤の消泡には、シリコン性界面活性剤、ポリエーテル性界面活性剤は充分ではなく、カチオン性界面活性剤が有効であることを見出した。本発明で用いるカチオン性界面活性剤としては、第1アミン塩、第2アミン塩、第3アミン塩、第4アンモニウム塩、ピリジニウム塩などがあげられる。その中でも第4アンモニウム塩、特に下記一般式(1)で示されるアルキルメチルアンモニウム塩が好ましい。
[RmN+(CH3)n]X- (1)
(式中Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。m+n=4、1≦m≦3、1≦n≦3)
更に、アルキルメチルアンモニウム塩の中でもアルキル基の炭素数が8〜18であるものが消泡効果が高く好ましい。具体的には、炭素数8のオクチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、炭素数10のデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、炭素数12のドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、炭素数14のテトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、炭素数16のヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、炭素数18のオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライドがあり、これらは単独または2種類以上組み合わせて使用できる。炭素数が7以下、19以上の場合、高価なため経済性の観点からも好ましくない。
本発明において、消泡効果のあるカチオン性界面活性剤を塩化ビニル系スラリーに有効に分散させるために水で希釈させ用いる。消泡剤の分散性と、該希釈液の高粘性による取り扱い上の容易性から消泡剤/水の重量希釈比率は水100重量部に対しカチオン性界面活性剤50〜1重量部位がよい。またカチオン性界面活性剤の添加量は塩化ビニル系樹脂スラリー100重量部に対しカチオン性界面活性剤0.005〜0.5重量部が使用できるが、0.01〜0.1重量部が品質上の問題なく、良好な消泡効果が得られるため好ましい。
【0031】
また、カチオン性界面活性剤の添加時期は、重合終了後の重合缶内に投入し均一分散させるが、重合終了後のストリッピング塔へ供給するまでであれば特に限定されず、たとえば重合終了後に払い出すブローダウンタンクやクッションタンク等のタンク類や、ストリッピング塔へ供給するライン中に投入する方法、ストリッピング塔の塔頂からスプレー散布する方法等が挙げられる。本発明でのストリッピング塔の運転条件は、被処理塩化ビニル系樹脂スラリーから残留塩化ビニル系単量体を回収するに充分な条件で得られた塩化ビニル系樹脂の品質に問題ない範囲の条件であり、通常、装置内温度70〜130℃、装置内滞留時間5〜25分、装置内圧力1Kg/cmG〜−0.3Kg/cmG、蒸気使用量は被処理塩化ビニル系樹脂1000Kg/hに対し80〜250Kg/hの条件が用いられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
I: 発泡性の評価
未反応の単量体回収時の発泡性は、回収工程における最大スラリー処理量で判定した。最大スラリー処理量は、未反応の単量体を回収するための、ストリッピング塔に設置されている覗き窓を観察し回収ラインへの泡飛散状態を見ながら決定した。すなわち塔径φ1200mm、塔長10000mm、多孔板段数7段、多孔板の口径φ1.5mmの覗き窓付きステンレス製ストリッピング塔の最下段より3Kg/cmGの飽和蒸気をスラリー中の塩化ビニル系樹脂1000Kg/hに対し100Kg/hの割合で吹き込むと共に、最上段の多孔板上に塩化ビニル系樹脂スラリーを供給し、最上段の多孔板面より上方700mmの位置に設置されている覗き窓まで発泡液面が上昇してきた状態を最大処理量とした。
最大処理量が7m/hr以下を×、7m/hr以上を○と判定した。
【0034】
II: 粉体粒子径の測定
レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置 MICROTRAC HRA X−100(日機装株式会社製)を用いて測定し、中位径の値を粒子径とした。
【0035】
<バッテリーセパレーター(焼結板)の作製手順>
以下に本発明で実施した実験室におけるバッテリーセパレーターの作製手順を記した。
縦30cm×横30cm×厚み3mmのガラス板上の、上端中央から5cmの箇所に、試験粉体12ccを置く。金属ヘラを用いて試験粉体を平滑に伸ばし、横5cm×縦8cmの逆三角形のサイズに試験粉体を整える。嵩比重が低い試験粉体は、流動性が良いので正確な逆三角形にはならないが、可能な限り近いサイズに整える。
【0036】
縦21cm×横11cmの長方形サイズの穴を空けた縦27cm×横17cmのプラスチック製の枠を、試験粉体の周りに置き、その上に平滑なコーティングローター、または、リブ溝(リブ幅2mm、底角度60度の溝、リブ間隔16mm)の入ったコーティングローターを、5cm/秒の速さで転がして、粉体をコーティングする。平滑なコーティングローターは、長さ37cm×直径1.9cm。リブ溝の入ったコーティングローターも、長さ37cm×直径1.9cm。
【0037】
作製したバッテリーセパレーターの厚みが450μm(下限430μm、上限470μm)になるように、コーティングする際のプラスチック製の枠は、厚みが370μm、420μm、470μm、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、のものを適宜用いた。
【0038】
コーティングする時は、試験粉体がプラスチック製の枠にかからないように、枠を置く位置を調整する。粉体が枠にかかると得られる焼結板の厚みが変わってしまう不具合が生じる。
【0039】
加熱条件は、粉体をのせたガラス板を熱風式ギアオーブン(YASUDA SEIKI製:No.102−SHF−77 GEER AGING OVEN)240℃で210秒間加熱。このとき、風量:HIGH、ダンパー:閉、回転:あり、とした。
試験粉体は、温度25℃、湿度30%の恒温恒湿室で24時間以上保管したものを用いた。いずれの評価も恒温恒湿室で実施した。
【0040】
<粉体コーティング性、焼結性の測定>
III: リブ山の欠損率(粉体コーティング性)
リブ溝(リブ幅2mm、底角度60度の溝、リブ間隔16mm)の入ったコーティングローターを用いて、試験粉体をコーティングし、熱風式ギアオーブン240℃で210秒間加熱して樹脂を焼結させることによりバッテリーセパレーターを作製し、リブ山の形成具合を精査に観察し、欠損しているリブの長さの合計を算出する。
【0041】
リブ山の欠損率=(欠損しているリブの長さの合計/全リブ山の長さの合計)×100[%]で算出。
【0042】
リブ山の欠損率が6%以下を○、6%を超えて12%以下を△、13%以上を×、と判定した。
【0043】
IV: 機械的強度(焼結板の亀裂発生間隔)
上記、平滑なコーティングローターを用いて作成したバッテリーセパレーターを縦方向に切断し、縦9cm×横1cmの短冊状の焼結板を作製する。両端を曲げて万力に挟み、1mm/秒の速度で幅を狭めて折り曲げたとき、焼結板に亀裂が発生し始める間隔を計測する。
【0044】
亀裂発生間隔が2.2mm以下を◎、2.2mmを超えて2.5mm以下を○、2.5mmを超えて4.0mm以下を△、4.1mm以上を×、と判定した。
【0045】
(実施例1)
ステンレス製重合機を脱気した後、塩化ビニル単量体100重量部(10トン)、脱イオン水160重量部、メチルセルロース(商品名:MC−90SH−30000)0.14重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名:DBS−60)0.12重量部、重合開始剤としてジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート0.03重量部を仕込んだ。その後、攪拌所要動力が0.65kW/mになるように攪拌数を調整し、外部ジャケットにより重合機内温を54℃に昇温して内温をこの温度に維持し、重合機内圧が定常圧より1.5kg/cm低下した時点で重合を停止し、塩化ビニル樹脂スラリーを得た。また、カチオン性界面活性剤として炭素数10の第4アンモニウム塩であるジデシルジメチルアンモニウムクロライド(商品名:サニゾールB−50)を用い、水100重量部に対しジデシルジメチルアンモニウムクロライド10重量部を均一希釈し、重合機内に塩化ビニル系樹脂スラリー100重量部に対しジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部の比率で投入し撹拌混合を行った。つぎに、このスラリーをストリッピング塔へ供給し、未反応の単量体を回収した。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0046】
(実施例2)
実施例1のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS−60)0.12重量部を0.08重量部に変更し、攪拌所要動力0.65kW/m3を0.90kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部を0.04重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0047】
(実施例3)
実施例1のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS−60)0.12重量部を0.10重量部に変更し、攪拌所要動力0.65kW/mを0.78kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部を0.05重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0048】
(実施例4)
実施例1のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS−60)0.12重量部を0.14重量部に変更し、攪拌所要動力0.65kW/mを0.49kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部を0.07重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0049】
(実施例5)
実施例1の攪拌所要動力0.65kW/mを0.98kW/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0050】
(実施例6)
実施例1の攪拌所要動力0.65kW/mを0.52kW/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0051】
(比較例1)
従来品であるUSOLIEKHIMPROM社のE−6642の評価結果を表1に示した。
【0052】
(比較例2)
実施例1のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS−60)0.12重量部を0.06重量部に変更し、攪拌所要動力0.65kW/mを1.08kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部をシリコン性界面活性剤(商品名:DB−110N)0.03重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0053】
(比較例3)
実施例1の攪拌所要動力0.65kW/mを1.08kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部をシリコン性界面活性剤(商品名:DB−110N)0.06重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0054】
(比較例4)
実施例1のジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部をシリコン性界面活性剤(商品名:DB−110N)0.06重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0055】
(比較例5)
実施例1のジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部をシリコン性界面活性剤(商品名:KM−68)0.06重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0056】
(比較例6)
実施例1のジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部をポリエーテル性界面活性剤(商品名:F244)0.06重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0057】
(比較例7)
実施例1のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS−60)0.12重量部を0.20重量部に変更し、攪拌所要動力0.65kW/mを0.32kW/mに変更し、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド0.06重量部を0.10重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。尚、重合発熱を安全に除熱する為の最低攪拌所要動力は0.32kW/mであり、その攪拌数では所望の粒子径を確保することができなかった。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0058】
(比較例8)
実施例1の攪拌所要動力0.65kW/mを1.08kW/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0059】
(比較例9)
実施例1の攪拌所要動力0.65kW/mを0.43kW/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で製造を行った。ストリッピング塔における最大スラリー処理量、及び得られた塩化ビニル系樹脂の評価結果を表1に示した。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁重合法により得られる塩化ビニル系樹脂であって、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、メチルセルロース誘導体を0.1重量部以上0.3重量部以下、アニオン性界面活性剤を0.08重量部以上0.14重量部以下使用し、重合反応終了後にカチオン性界面活性剤を添加することを特徴とし、得られる樹脂の粉体粒子径が24μm以上45μm以下の塩化ビニル系樹脂。
【請求項2】
アニオン性界面活性剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである、請求項1記載の塩化ビニル系樹脂。
【請求項3】
カチオン性界面活性剤の添加量が、塩化ビニル系樹脂スラリー100重量部に対して0.005〜0.5重量部であり、カチオン性界面活性剤の種類が、下記一般式(1)で示されるアルキルメチルアンモニウム塩であり、アルキル基の炭素数が8〜18である、請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂。
[RmN+(CH3)n]X- (1)
(式中、Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。m+n=4。1≦m≦3。1≦n≦3)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂を製造する方法であって、塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、攪拌所要動力が0.45〜1.00kW/mの範囲内である、塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂を用いて作製した塩化ビニル系焼結板。

【公開番号】特開2009−242678(P2009−242678A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92905(P2008−92905)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】