説明

塩化ビニル系樹脂積層体およびその製造方法

【課題】塩化ビニル系樹脂組成物を用いて、成形加工性、特に共押出時の成形加工性に優れ、良好な機械特性を発現する多層塩化ビニル系樹脂積層体を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系樹脂積層体であって、高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上100%未満の値を有し、かつ各層中の塩化ビニル系樹脂の平均重合度と各層の厚み比とが、(P1×a+P2×b)/(a+b)≧800[式中、P1は(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、P2は(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、aは(A)層の全層に対する厚み比、bは(B)層の全層に対する厚み比である。]の関係を満たす塩化ビニル系樹脂積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組積層体およびその製造方法に関し、特に溶融粘度が低い塩化ビニル系樹脂組成物が有する良好な成形加工性と、溶融粘度が高い塩化ビニル系樹脂組成物の有する良好な機械特性とを互いに損なうことなく、優れた成形加工性と機械強度の両特性を有する塩化ビニル系樹脂積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂単独又は塩化ビニル系樹脂組成物を用いてなる押出成形品は、パイプ、平板(プレート)、シート等の分野で広く用いられている。このような分野では、生産性の向上(金型等の解体清掃のサイクル延長)のために溶融粘度の低い樹脂が望まれているが、溶融粘度は一般的に分子量が小さい方が低いのに対し、成形品の強度は、逆に分子量が大きい方が強いため、両特性の兼ね合いにより使用する塩化ビニル系樹脂の分子量を決めていた。
【0003】
そこで、分子量の大きさを変えずに溶融粘度を下げる手段として、樹脂中の低分子量成分を増大させる試みがなされている。例えば、塩化ビニルの重合途中で重合温度を変化させる方法が検討されている。しかし、この方法では、重合を安定して進める必要性から、急速に温度を変えることができないので、十分な量の低分子量成分を持つ塩化ビニル系樹脂を作製することが出来ない。
【0004】
また、分子量の大きさを変えずに、成形加工性の良い塩化ビニル系樹脂を得る方法として、例えば特許文献1に示された方法が提案されている。これは、通常の方法で重合した塩化ビニル系樹脂を種樹脂として、懸濁重合により再重合を行う二段階重合法により塩化ビニル系樹脂を製造する方法であり、ゲル化時間が早く、押出成形の生産性の高い塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供している。
しかしながら、この方法では、再重合を行う際に塩化ビニル系樹脂のモルフォロジー変化が生じ、ポロシティー(空隙率)が小さくなり、例えば可塑剤を用いるような軟質(透明)配合では可塑剤吸収にムラが生じ、得られた配合物を成形する際にブツやフィッシュアイが発生し外観不良や物性低下の原因となる恐れがある。
【0005】
また、塩化ビニル系樹脂成形品の生産性を向上するため、さまざまな安定剤や加工助剤等の添加剤が使用されているが、加工性の改良効果が不十分である、添加剤と塩化ビニル系樹脂のなじみが悪いために加工時に系外にはじき出される生産不良現象(メヤニ・プレートアウト)が起こる、など不具合があり生産性の改良効果が不十分であるのが実情である。
【0006】
ところで、塩化ビニル系樹脂組成物を、塩化ビニル系樹脂組成物あるいはその他の熱可塑性樹脂組成物と積層してなる方法は数多く提案されているが、積層体の製造方法には着目せず、(すなわち共押出法/熱ラミネーション法/コーティング法など)主に成形品の機械的特性等を改良する目的によるものが主である(例えば、特許文献2〜4参照)。一方、共押出成形性を改良する目的とする技術としては、例えば特許文献5に開示されている技術が知られているが、これは発泡層とスキン層との流動性の差に着目したものであり、本発明のように溶融粘度に着目したものではない。
【0007】
また、特許文献6などには押出成形時に潤滑液を注入することにより押出機の負荷を軽減し、さらにメヤニを除去する製造方法が提案されているが、表面への潤滑剤の残存により押出出口後の加工時や、成形品の取り扱い時に悪影響を及ぼす等の問題が残っていた。
【0008】
【特許文献1】特開平11−349761号
【特許文献2】特開2001−150611号
【特許文献3】特開平10−076614号
【特許文献4】特開平07−186340号
【特許文献5】特開平09−262920号
【特許文献6】特開平07−323459号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、本発明の課題は、塩化ビニル系樹脂組成物を用いて、成形加工性、特に共押出時の成形加工性に優れ、良好な機械特性を発現する多層塩化ビニル系樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系樹脂積層体であって、前記(A)層と(B)層の溶融粘度が特定の関係を有し、かつ(A)層および(B)層それぞれの塩化ビニル系樹脂の平均重合度と層厚とが特定の関係を有することにより、その課題を解決し得ることを見出した。
また、前記の塩化ビニル系積層体は、(A)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物および(B)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出し成形することにより、容易に製造し得ることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系樹脂積層体であって、
高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上100%未満の値を有し、かつ各層中の塩化ビニル系樹脂の平均重合度と各層の厚み比とが、式(1)
(P1×a+P2×b)/(a+b)≧800 (1)
[式中、P1は(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、P2は(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、aは(A)層の全層に対する厚み比、bは(B)層の全層に対する厚み比である。]
の関係を満たすことを特徴とする塩化ビニル系樹脂積層体、
(2)(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度(P2)が、(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度(P1)に対して100〜30%である上記(1)に記載の塩化ビニル系樹脂積層体、
(3)全層に対する(B)層の厚み比が5%以上80%以下である上記(1)または(2)に記載の塩化ビニル系樹脂積層体、
(4)JIS K 7127に基づいて得られたTDでの引張伸度が250%以上である上記1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体、
(5)(A)層および(B)層を形成する塩化ビニル樹脂組成物が、それぞれ塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、添加剤1質量部以上70質量部以下を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体、および
(6)(A)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物、および(B)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の溶融粘度差を持つ塩化ビニル系樹脂組成物を共押出しすることにより、溶融粘度が低い塩化ビニル系樹脂組成物が有する良好な成形加工性と、溶融粘度が高い塩化ビニル系樹脂組成物の有する良好な機械特性とを互いに損なうことなく、優れた成形加工性と機械強度の両特性を有する塩化ビニル系樹脂積層体を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂積層体、およびその製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含する。
本発明の塩化ビニル系樹脂積層体は、塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系樹脂積層体であって、
高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上100%未満の値を有し、かつ各層中の塩化ビニル系樹脂の平均重合度と各層の厚み比とが、式(1)
(P1×a+P2×b)/(a+b)≧800 (1)
[式中、P1は(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、P2は(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、aは(A)層の全層に対する厚み比、bは(B)層の全層に対する厚み比である。]
の関係を満たすことを特徴とする。
【0014】
<塩化ビニル系樹脂組成物>
本発明における塩化ビニル系樹脂には、塩化ビニル単独重合体のほか、塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体(以下、塩化ビニル系共重合体とする)、この塩化ビニル系共重合体以外の重合体に塩化ビニルをグラフト共重合させたグラフト共重合体などが含まれる。
これらの共重合体は、共重合体中の塩化ビニル単位以外の構成単位含有量が多くなると機械的特性が低下するので、塩化ビニル単位を60質量%以上含有するものが好ましく、より好ましくは80質量%以上含有するものである。上記の塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、分子中に反応性二重結合を有するものであればよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類;アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸フェニルなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−置換マレイミド類;などが挙げられ、これらは1種単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0015】
また、上記塩化ビニル系共重合体以外の重合体としては、塩化ビニルをグラフト共重合できるものであればよく、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート・一酸化炭素共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられ、これらは1種単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0016】
<(A)層>
(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる塩化ビニル系樹脂の好ましい平均重合度(分子量)の範囲は、目的とする成形品の必要特性によってさまざまであり、また後述する添加剤の種類および量により異なるが、下限としては800以上であればフィルムやシートなどのロール巻取り/巻き出しなどが必要とされるような用途に関して、引張強度や引張伸度などの機械強度に欠けすぎることがなく好適であり、さらに850以上であればより好ましく、900以上であればさらに好ましい。また、平均重合度の上限としては1800以下であれば加工性が著しく低下するなどの不具合を生じることがなく好適であり、1650以下であればさらに好ましく、1500以下であればより好ましい。また、異なる平均重合度の塩化ビニル系樹脂を混合することも可能であり、この場合、それぞれの塩化ビニル系樹脂の混合比率に応じた平均重合度の平均値を、その混合物の平均重合度として評価する。
【0017】
[溶融粘度]
(A)層の溶融粘度は、後述する測定方法による剪断速度100(1/sec)における溶融粘度が100(Pa・s)以上であることが好ましく、500(Pa・s)以上であることがより好ましい。また、上限値としては、5000(Pa・s)以下であることが好ましく、2500(Pa・s)以下であることがより好ましい。粘度が上記の範囲であれば押出製造時に加工しづらくなる、機械的強度に劣るなどの不具合を生じることがなく好適である。
溶融粘度を上記範囲に調整するための方法としては、可塑剤、滑剤、加工助剤などの種々添加剤により調整する方法、重合度を調整する方法などがあり、用途によって適宜選択すればよいが、添加剤のブリードアウトが問題になるような用途(食品包装フィルム等)では、添加剤を多量に加えることは望ましくないため、重合度により調整することが望ましい。
【0018】
[添加剤]
(A)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる添加剤は、通常塩化ビニル系樹脂組成物に用いられるものであれば特に限定されず、可塑剤、安定剤、加工助剤、衝撃改良剤、滑剤、防曇剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、充填剤、着色剤、無機粒子等を目的に応じて上記の特性を損なわない範囲で添加して良い。
これら添加剤の一部を例示すると、
可塑剤としては、種々のアルキル鎖長や分岐構造を持ったアルキル鎖を有するフタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、ポリエステル等のエステル類化合物が例示でき、
安定剤としては、2−エチルヘキシル酸、炭素数8〜22の高級脂肪酸、クエン酸、グルコン酸、ソルビン酸、安息香酸、イソデカン酸、ネオデカン酸などのカルシウム塩類、亜鉛塩類、カドミウム塩類、鉛塩類、マグネシウム塩類、バリウム塩類からなる金属石鹸系化合物、アルキル化もしくはエステル化スズのメルカプチド類、マレエート類、カルボキシレート類などのスズ系化合物が例示でき、さらにホスファイト系化合物、エポキシ化合物、βジケトン系化合物、含窒素化合物、ポリオール系化合物などと併用することも可能である。この中でエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などのエポキシ化植物油は安定剤としてだけでなく可塑剤としても有効に機能するため好ましく、
加工助剤としては、メチルメタクリレートやブチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルや、スチレンを含むコアシェル型ランダム共重合体が例示でき、
衝撃改良剤としてはメチルメタクリレートやブチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルや、スチレン、ブタジエン、シリコーンゴムを含むコアシェル型ランダム共重合体、塩素化ポリエチレンなどが例示でき、
滑剤としては流動パラフィン、ポリエチレンワックス等の炭化水素系化合物、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸系化合物、脂肪酸アミド系化合物、エステル系化合物、炭素数16以上の高級アルコール系化合物、炭素数12〜30の脂肪酸から誘導される金属石鹸などが例示でき、
防曇剤としては、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
紫外線吸収剤としてはヒンダートアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物等が例示でき、
帯電防止剤としては、脂肪酸アミン塩、アルキルリン酸エステル塩等のアニオン性化合物、アルキルアミン塩、アルキル第4級アンモニウム塩等のカチオン系化合物、アルキルベタイン化合物、アルキルイミダゾリン誘導体等の両性イオン化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル等の非イオン性化合物が例示でき、
酸化防止剤としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ジプロピレングリコール、合成イソパラフィン石油炭化水素、トリデシルアルコール、デヒドロ酢酸などが例示でき、
充填剤、無機粒子としてはタルク、クレイ、マイカ等のケイ酸塩、シリカ、酸化チタン等の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機化合物類と、木粉や繊維等の有機化合物類が挙げられ、
着色剤としてはアゾ系化合物、フタロシアニン系化合物等の有機顔料や、酸化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料、キノフタリロン系化合物等の染料等が例示できる。
本発明においては、この塩化ビニル系樹脂組成物は、成形加工性、得られる積層体の性能など観点から、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、これら添加剤の総量が1質量部以上70質量部以下の割合で含有していることが好ましい。目的とする用途に応じて添加剤の総量はこの範囲の中で適宜決定すればよいが、たとえば液体添加剤のブルームが問題になるような用途では、上限値として60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0019】
<(B)層>
(B)層を構成する塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる塩化ビニル系樹脂の平均重合度(分子量)の範囲の下限値は、(A)層の平均重合度に対して、30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。平均重合度がこの範囲であれば機械強度が劣り過ぎる等の不具合が生じづらく好適である。また、下限値は前記範囲中であれば特に規定はされないが、機械的強度の観点から平均重合度は600程度あることが好ましい。平均重合度の上限値は、(A)層の平均重合度に対して100%以下であり、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下である。平均重合度がこの範囲であれば成形加工性に劣りヤケ等の不具合を生じづらく、好適である。
【0020】
[溶融粘度]
(B)層の溶融粘度は、(A)層の溶融粘度の5%以上であることを要し、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上であれば、各層間の溶融粘度差が大きすぎて安定に加工できない等の不具合を生じづらく好適である。また、(B)層の溶融粘度は(A)層の溶融粘度の100%未満であることを要し、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の100%未満であれば、最外層の樹脂組成物が(A)層の樹脂組成物に比べ流動性に劣り共押出法における成形加工性が悪化してヤケ等の不良現象を引き起こす等が生じづらく、安定した製造を行うことができ好適である。
【0021】
[添加剤]
(B)層の樹脂組成物についても、(A)層と同様の添加剤を加えることができる。また、最外層であるため、表面機能を向上させるような添加剤がより効果的に機能する。ここで表面機能とは、防曇性、防滴性、耐侯性、意匠性、印刷適性、滑り性等の成型品として用いられる場合の機能の他に、押出加工時における流動性、熱安定性、金属剥離性等の機能も含む。表面機能に関連する添加剤の例は、滑剤、加工助剤、無機粒子、防曇剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤などが例示される。
これら添加剤の含有量についても(A)層の場合と同様に1質量部以上70質量部以下が好ましい。
【0022】
<積層体>
本発明の塩化ビニル系樹脂積層体は、前記(A)層と、その両側に少なくとも各1層の前記(B)層を最外層に有することを基本構成とする塩化ビニル系樹脂積層体である。そして、(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度をP1、(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度をP2、(A)層の全層に対する厚み比をa、(B)層の全層に対する厚み比をbとした場合、(P1×a+P2×b)/(a+b)の値(以下、P値とする。)が800以上であることを要す。
前記P値が800以上であれば、耐衝撃性、耐破断性等の機械強度に劣るなどの不具合を生じづらいため好適であり、該P値の上限は、成形加工性の観点から、通常1400程度であれば、加工時にヤケやメヤニ等の不良現象が起こりづらく、好適である。
また、全層に対する(B)層の厚み比は5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。厚み比の下限値が5%であれば加工性の改良効果が弱く加工不良を発生するなどの不具合が生じづらいため好適であり、また、この厚み比は80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。厚み比の上限値が80%であれば、機械強度に劣り破断や破壊等の不具合が生じづらいため、好適である。
【0023】
[層構成]
中間層と両側をはさむ最外層があればその間に何層あってもかまわない。例示すると、(B)/(A)/(B)でも、(B)/(機能層)/(A)/(B)でも、(B)/(機能層)/(A)/(機能層)/(B)でもかまわない。
また、上記のように両最外層として(B)層を形成するように共押出したのち、さらに後工程として公知の積層方法により遮光層、帯電防止層などの機能層等を追加してもかまわない。例示すると、最終的な層構成が(機能層)/(B)/(A)/(B)でも、(機能層)/(B)/(A)/(B)/(機能層)でもかまわない。
この積層体においては、(A)層と(B)層との溶融粘度に所定の差があることが肝要である。
溶融粘度の調整は前述した方法により所望の値を得ることが出来る。
また、積層体の厚みは、積層体の用途により異なるが、フィルムやシートとして用いられる際の下限値は5〜10μm程度であり、上限値は2〜5mm程度である。
【0024】
<製造方法>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物積層体の製造方法は、前記(A)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物、および前記(B)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする。
すなわち、所定の溶融粘度差を持った3層以上の樹脂組成物を共押出しすることによって、より溶融粘度が低く流動性の良い樹脂組成物を最外層に配置することで、中間層単体のみで押出しする際よりも樹脂圧力の上昇とそれに伴う樹脂温度の上昇を抑制することが可能であり、単層では短時間でヤケ、ブツ、メヤニ、ブリードアウト等を生じて加工困難であるような樹脂組成物を良好に加工することが可能になる。
具体的な製造方法として、各層の組成物の混合は、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機により混合する方法、又は押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダなどの混練機により混練する方法、あるいは混合機と混練機を組み合わせる方法や、あらかじめ混合せずに直接原料を押出機に投入して混練と押出を同時におこなう方法が挙げられる。押出方法は、スクリュ押出機、プランジャ押出機等の公知な押出方法を挙げられる。
共押出法での積層方法は、フィードブロック方式、マルチマニフォールド方式、スタックプレート方式等の公知な方法を取ることができる。この中で、特に層間の厚み精度が要求される用途においてはマルチマニフォールド方式が好ましく、成形加工性改良が求められる用途においてはダイ前で各層を合流させるフィードブロック方式が流動性の改良効果が大きいため好ましい。
溶融押出された樹脂組成物は、用途に応じてフラットダイやサーキュラーダイ、異型ダイ等の押出ダイにより賦形され、冷却ロール、水、空気等で冷却固化される。さらに、用途に応じて後工程として引取、サイジング、プレス、延伸等の工程をおこなうことも可能である。
また、共押出方により得られた積層体に、ドライラミネーション、溶剤ラミネーション、プレス、押出ラミネーション等の公知の手段により、さらに他の層を追加することも出来る。
【0025】
[外観]
本発明の積層体の成形加工性は、連続押出時のシート外観によって評価される。塩化ビニル系樹脂組成物を押出する際には、樹脂の劣化、分解による着色、ヤケコゲや添加剤のプレートアウトなどが発生するため、同一の押出量にて一定時間押出を続け、前述したような不具合が発生するかどうかを目視などにより確認することができる。
【0026】
[機械物性]
本発明の積層体の機械強度は、JIS K 7127に基づいて測定される。引張破断伸度により評価され、23℃環境下の引張試験において、特に軟質フィルム用途ではフィルムの引き取り(流れ)方向に直行する方向(TD)での引張破断伸度が、通常250%以上、好ましくは350%以上、さらに好ましくは450%以上である。23℃環境下での引張破断伸度が250%以上あればシートの巻取り時や巻き出し時、包装用途に用いられる場合は包装時などの工程の際にフィルムが破断するなどの不具合が生じにくい。また、好ましい引張破断伸度の上限値は特に設定されないが、十分な速度でフィルムを製造するためには600%程度あることが望ましい。
本発明の積層体において、23℃環境下の引張試験においての引張破断伸度を前記範囲とするためには、樹脂組成や製造方法を本発明で記載するように構成することが好ましく、より具体的な調整方法としては、例えば積層体を構成する塩化ビニル系樹脂の重合度を高める、添加剤としての可塑剤含有量を上げる、軟質成分を添加する、積層体をTDあるいはMDに対し延伸することなどが挙げられる。
【0027】
[用途]
本発明の積層体は、溶融粘度が低い塩化ビニル系樹脂組成物が有する良好な成形加工性と、溶融粘度が高い塩化ビニル系樹脂組成物の有する良好な機械特性とを互いに損なうことなく、優れた成形加工性と機械強度の両特性を有しており、硬質配合から軟質配合まで各種用途全般に好適であるが、特に色ヤケやブツ等の加工不良現象が問題となるような透明フィルム、シート類(食品包装用フィルム、容器包装用フィルム等)等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で使用した原料および添加剤は、下記のとおりである。
[塩化ビニル系樹脂]
・PVC1:平均重合度600(ヴィテック社製「PVC600」)
・PVC2:平均重合度800(ヴィテック社製「PVC800」)
・PVC3:平均重合度1030(ヴィテック社製「PVC1100」)
・PVC4:平均重合度1400(ヴィテック社製「PVC1400」)
[添加剤]
・可塑剤1:ジイソノニルアジピン酸可塑剤(田岡化学社製「DINA」)
・可塑剤2:ポリエステル系可塑剤;分子量2300(大日本インキ社製「W−360EL」)
・可塑剤3:混合アジピン酸系エステル可塑剤(ジェイプラス社製「C−388」)
・ESBO:エポキシ化大豆油(旭電化工業社製「O−130P」)
・安定剤:Ca/Zn系安定剤(旭電化工業社製「アデカスタブ593」)
【0029】
[製造方法]
(実施例1乃至4、比較例1乃至3)
表1に記した配合比率で計量された原料をヘンシェルミキサーに投入し、130℃にて5分間攪拌を行うことで、(A)層および(B)層用の均一な粉体の樹脂組成物を調製した。得られた(A)層、(B)層用の樹脂組成物をそれぞれφ40mm単軸押出機(L/D=20)、φ32mm単軸押出機(L/D=22)に投入し、140〜220℃の設定温度にて溶融混錬したのち、フィードブロックにて合流させ、幅150mm、リップギャップ0.7mmのフィッシュテール口金から共押出したのち、30〜40℃に温調されたキャストロールにて巻き取り、厚さ200μm、幅120mmの各積層シートを作製した。
(比較例4乃至5)
ヘンシェルミキサーによって調整された粉体樹脂組成物を、φ40mm単軸押出機(L/D=20)に投入し、フィードブロックを用いずに幅150mm、リップギャップ0.7mmのフィッシュテール口金から押出した以外は上記と同様に、厚さ200μm、幅120mmの単層シートを作製した。
各例で使用した樹脂組成物の溶融粘度、および各例で得られた積層シートの外観と機械強度を、以下に示す方法に従って求めた。その結果を表2に示す。
【0030】
[溶融粘度]
表1に示す樹脂組成物を180℃の金属ロールにて5分間圧縮混錬して得られた約500μmのシートを約5mm角に裁断し、高化式フローテスター(島津製作所社製キャピラリレオメータCFT−500C:キャピラリ径1.0mm/キャピラリ長10mm)にて、5分間予熱後に所定の加重を印加し、温度200℃における剪断粘度を剪断速度約5〜4000(1/sec)の範囲で4〜7点測定し、得られた粘度カーブから剪断速度100(1/sec)における溶融粘度を読みとった。
【0031】
[積層シートの外観]
前述の製造方法にて総吐出量10kg/時間の押出条件にて2時間製膜を続け、得られたシートを観察し、以下の基準で目視判定を行った。
○……薄黄色で透明性が良好
△……黄色味が強いが透明性は良好
×……赤く着色し透明性も悪い、またはヤケ・コゲ・ブツ等が発生して安定製膜が困難
【0032】
[積層シートの機械強度]
上記で得られたシートを5mm(MD;シートの流れ方向)×100mm(TD;シートの流れに直行する方向)の短冊状に切り出し、JIS K 7127に基づき、23℃環境下中に1時間放置後に、チャック間40mm、200mm/分の速度でV方向に引張試験を行い、破断時の伸び率(%)を測定し、以下の基準で判定した。
◎……450%以上
○……350%以上〜450%未満
△……250%以上〜350%未満
×……250%未満
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1および2より、本発明で規定される組成または比率の平均重合度、溶融粘度を有する積層シートは、成形加工性、機械強度に優れていた(実施例1乃至4)。これに対し、表裏層の溶融粘度が高い場合(比較例1、2)は加工性に劣り、表裏層の平均重合度と厚み比率が所定の値より外れる場合(比較例3)には機械強度に劣っていた。さらに、単層構成で表裏層を有さない場合(比較例4、5)は、機械強度または成形加工性のいずれかが劣っていた。
これより、本発明の製造方法によって製造された塩化ビニル系積層体は成形加工性および機械強度に優れたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の塩化ビニル系樹脂積層体は、溶融粘度が低い塩化ビニル系樹脂組成物が有する良好な成形加工性と、溶融粘度が高い塩化ビニル系樹脂組成物の有する良好な機械特性とを互いに損なうことなく、優れた成形加工性と機械強度の両特性を有しており、各種用途に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(A)層と、その両側に少なくとも各1層の塩化ビニル系樹脂組成物よりなる(B)層を最外層に有する塩化ビニル系樹脂積層体であって、
高化式フローテスターにより測定した剪断速度100(1/sec)での(B)層の溶融粘度が(A)層の溶融粘度の5%以上100%未満の値を有し、かつ各層中の塩化ビニル系樹脂の平均重合度と各層の厚み比とが、式(1)
(P1×a+P2×b)/(a+b)≧800 (1)
[式中、P1は(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、P2は(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度、aは(A)層の全層に対する厚み比、bは(B)層の全層に対する厚み比である。]
の関係を満たすことを特徴とする塩化ビニル系樹脂積層体。
【請求項2】
(B)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度(P2)が、(A)層の塩化ビニル系樹脂の平均重合度(P1)に対して30%以上100%以下である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂積層体。
【請求項3】
全層に対する(B)層の厚み比が5%以上80%以下である請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂積層体。
【請求項4】
JIS K 7127に基づいて得られたTDでの引張伸度が250%以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体。
【請求項5】
(A)層および(B)層を形成する塩化ビニル樹脂組成物が、それぞれ塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、添加剤1質量部以上70質量部以下を含有する請求項1乃至4のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体。
【請求項6】
(A)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物、および(B)層を形成する塩化ビニル系樹脂組成物を、共押出法により積層形成することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−253430(P2007−253430A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80013(P2006−80013)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】