説明

塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物

【課題】塩化ビニル製床材用のウレタン系接着剤において、充填剤としてきわめて重要な炭酸カルシウムを使用した系で、毒性の高い芳香族系有機溶剤を使用せず、かつ酢酸エチルに代表される脂肪酸アルキルエステル系溶剤に代わる、塗布貼り付けの際、析出物の発生という不具合が起きない有機溶剤の開発が求められていた。
【解決手段】本願発明は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと炭酸カルシウムと有機溶剤のジメチルカーボネートとからなる塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物とすることにより上記問題を解決した。このような構成をとることにより、接着性を損なわず、貼り付けした塩化ビニル製床材の端部から白色の結晶状析出物が生じる不具合を発生させないという顕著な効果を奏するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物、とくにジメチルカーボネートを使用した塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニル製のプラスチックタイルや長尺シート等の床材は、施工のしやすさ、歩行感の良さ、耐久性、汚れたときの清掃のしやすさなどの利点により、学校、病院、オフィスビル、マンション等建築物のモルタル、コンクリートあるいは木質板等の床下地を被覆する材料として広く使用されている。この塩化ビニル製の床材を施工する方法としては床下地に、エポキシ系、ゴム系、エマルション系、ウレタン系などの各種接着剤組成物を使用して貼り付ける方法が一般的である。中でもイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーからなる湿気硬化型の一液型ウレタン系接着剤組成物が、二液型エポキシ系接着剤に代表される二液型のように主剤と硬化剤を混合する手間がなく、混合不良による硬化不良の危険がなく、さらに硬化剤としてアミン化合物等の毒性を有する化合物を使用する必要がないため、作業性や安全性に優れていることより使用量が年々増加している。
【0003】
さて、塩化ビニル製床材用の接着剤組成物において、粘度を下げて塗布作業性を向上させる目的や、有機溶剤が揮発することにより粘着性を発現させる目的で、接着剤中のエポキシ樹脂やウレタン樹脂の溶解性に優れている点と、安価であるという点で、従来からトルエンやキシレン等の芳香族系の溶剤が多用されてきた。
しかしながら、芳香族系の溶剤は、直接的には作業者の健康を害し、間接的には大気中に放散することにより環境を汚染し、ひいては人や動植物の健康や生命などに被害を及ぼす原因となる。またトルエンやキシレンなどは居住空間に放散された場合、シックハウス症候群を起こす原因物質とされており、近年の安全意識の高まりの中で、トルエンやキシレン等の芳香族系の溶剤を使用しない接着剤組成物が強く望まれている。イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーからなる混気硬化型の一液型ウレタン系の塩化ビニル製床材用の接着剤組成物についても同様の要求がある。
【0004】
この改善策として、塩化ビニル系床材の接着剤の芳香族系の溶剤の代わりに、溶解性が良好で比較的低毒性であるという理由で、酢酸エチルや酢酸ブチル等の公知の酢酸エステル系溶剤を使用する方法がある。しかしながら、この酢酸エステル系溶剤を使用した接着剤に充填剤として一般的な炭酸カルシウムを配合したものを使用してコンクリート下地に塩化ビニル製床材を貼り付けた場合、希にではあるが、貼り付けた床材の端部の隙間から白色の結晶状物質が析出して、床面全体を見渡したとき、所々に白い斑点が見え、美観を著しく損なうという問題が生じてしまう。この解決策として炭酸カルシウム以外の充填剤を採用することも考えられるが、炭酸カルシウムは、(1)入手しやすく安価であること、(2)補強効果に優れていること、(3)含有水分量が比較的少なく貯蔵安定性の良好な接着剤を得やすいこと、(4)他の充填剤に比較して、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに分散しやすく、かつ粘度上昇も小さいため、作業性の良好な接着剤を得られること、などの多くの利点を有しきわめて有効で重要な充填剤であるため、ぜひとも使用したいのであるが、前記の理由で、炭酸カルシウムを使用できないということになると、接着剤の充填剤として使用できる種類が限定されてしまい、非常に困難な問題となる。
この原因は、コンクリート内部から滲出する水等の水分により、接着剤組成物中の炭酸カルシウムがイオン化し系がアルカリ性になり、下地と床材との間に残留している酢酸エステルが加水分解を受け酢酸が生じ、さらにその酢酸とカルシウムイオンが反応し、炭酸カルシウムより比重の小さな酢酸カルシウムが生じることにより、結晶物質が析出、成長するためと推察される。
このため、炭酸カルシウムを充填剤とした塩化ビニル系床材の接着剤としてこのような問題が生じることのないものを研究開発することが求められることになるが、これを解決する手段がなかったのが現状である。
【0005】
ところで、例えばジメチルカーボネートを溶媒の主成分とする有機溶剤タイプの接着剤が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。しかしながら、これは毒性や悪臭のないことと、被接着物を溶解しないことの効果を開示しているだけであり、どのような充填剤を添加できるのかなどについては何ら記載がなく、塩化ビニル系床材用接着剤としてどのような組成にすればよいのかなどについてまったく示唆するところがない。
【0006】
【特許文献1】特開平09-279110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、このような問題を解決して、大気中の水分(湿気)により硬化して、塩化ビニル製床材に対して、接着性を損なうことなく、貼り付けした塩化ビニル製床材の端部から白色の結晶状析出物が生じる不具合を発生させない塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解決すべく、研究を進めたところ、炭酸カルシウムを含有する接着剤組成物であっても、有機溶剤としてジメチルカーボネートを使用することにより、上記問題が発生しないことを見出し、本願発明に到達したものである。
すなわち、本願発明は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、炭酸カルシウムと、有機溶剤としてジメチルカーボネートとからなることを特徴とする塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物(以下、「塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物」を略して「ウレタン系接着剤組成物」ということがある。)に関するものである。
溶剤として使用するジメチルカーボネートは、単独で使用してもよいし、あるいは脂肪酸アルキルエステル系溶剤と芳香族系溶剤以外の有機溶剤と併用して使用することができる。前記有機溶剤としては、ケトン系溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤などがある。有機溶剤中のジメチルカーボネートの使用割合は、ジメチルカーボネートの作用を妨げない範囲であれば任意であるが、10質量%以上、50質量%未満の割合であることができる。
【0009】
炭酸カルシウムは、単独で使用しても、他の充填剤と併用して使用してよい。
また本願発明のウレタン系接着剤組成物には、硬化促進剤、可塑剤、揺変性付与剤、接着性付与剤、着色剤などの添加剤をさらに添加してもよい。
【0010】
以下に、本願発明で使用する成分について説明する。
【0011】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基が大気中の水分(湿気)と反応し、尿素結合を形成して架橋、硬化し、優れたゴム弾性物性を有する硬化物となるもので、本願発明におけるウレタン系接着剤組成物に硬化成分として配合させるものであり、有機ポリイソシアネートと活性水素含有化合物とを活性水素(基)に対してイソシアネート基過剰条件で反応させて得られるものである。
【0012】
有機ポリイソシアネートとしては、具体的には例えば、フェニレンジイソシアネート、ジフエニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフエニルメタンジイソシアネート等のジフエニルメタンジイソシアネート(MDI)類、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートあるいはこれらの混合物等のトルエンジイソシアネート(TDI)類、ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、およびこれらジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、二量体、三量体、または、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)などが挙げられ、これらは単独または2種以上を組合わせて用いることができる。これらのうち、硬化後の引張り接着性や耐水性などが優れている点で、芳香族ジイソシアネートが好ましく、よりさらにTDI類が好ましく、特に2,4−トルエンジイソシアネートが好ましい。
【0013】
前記活性水素含有化合物としては、高分子ポリオールや高分子ポリアミンの他、場合により使用する鎖延長剤としての、低分子ポリオール、低分子アミノアルコール、低分子ポリアミンなどが挙げられる。
【0014】
高分子ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオキシアルキレン系ポリオール、炭化水素系ポリオール、動植物系ポリオール、これらのコポリオール、またはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
高分子ポリオールの数平均分子量は、500以上、さらに1,000〜50,000、よりさらに1、000〜30,000、特に1,000〜20,000が好ましい。数平均分子量が500未満では、得られる硬化性組成物の硬化後の伸びなどのゴム弾性物性が悪化し、50,000を超えると、得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの粘度が高くなり過ぎ、作業性が悪くなるため好ましくない。
【0015】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、へキサヒドロオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸、酸エステル、または酸無水物等の1種以上と、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロへキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン等の低分子ポリアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール類の1種以上との脱水縮合反応で得られる、ポリエステルポリオールまたはポリエステルアミドポリオールが挙げられる。
また、例えば、低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、ε-カプロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーの開環重合で得られるラクトン系ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0016】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、前述のポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子ポリオール類とホスゲンとの脱塩酸反応、あるいは前記低分子ポリオール類とジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応で得られるものが挙げられる。
【0017】
ポリオキシアルキレン系ポリオールとしては、例えば、前述のポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類、低分子アミノアルコール類、ポリカルボン酸の他、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の低分子多価フェノール類の一種以上を開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物の1種以上を開環付加重合あるいは共重合(以下、「重合あるいは共重合」を(共)重合という。)させた、ポリオキシエチレン系ポリオール、ポリオキシプロピレン系ポリオール、ポリオキシブチレン系ポリオール、ポリオキシテトラメチレン系ポリオール、ポリ−(オキシエチレン)−(オキシプロピレン)−ランダムあるいはブロック共重合系ポリオール、さらに、前述のポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを開始剤としたポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートエーテルポリオールなどが挙げられる。また、これらの各種ポリオールと有機イソシアネートとを、イソシアネート基に対し水酸基過剰で反応させて、分子末端を水酸基としたポリオールも挙げられる。
ポリオキシアルキレン系ポリオールの1分子当たり平均アルコール性水酸基の数は2個以上、さらに2〜4個、特に2〜3個が好ましい。
【0018】
炭化水素系ポリオールとしては、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール等のポリアルキレンポリオール、塩素化ポリプロピレンポリオール、塩素化ポリエチレンポリオール等のハロゲン化ポリアルキレンポリオールなどが挙げられる。
【0019】
動植物系ポリオールとしては、例えば、ヒマシ油系ジオールなどが挙げられる。
【0020】
鎖延長剤としては、前記のポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子のポリオール類、ポリアミン類、アミノアルコール類の他、前述のポリオキシアルキレンポリオールで、数平均分子量が500未満の低分子量のもの、またはこれらの2種以上の混合物が例示される。
前記の活性水素含有化合物として挙げた化合物は1種または2種以上を組み合わせて使用することができるが、これらのうち、得られる硬化性組成物のゴム弾性物性や接着性が良好な点で、高分子ポリオールが好ましく、さらにポリオキシアルキレン系ポリオールとポリエステルポリオールが好ましく、ポリオキシプロピレン系ポリオールと、アジピン酸と低分子ポリオールからのポリエステルポリオールが最も好ましい。
【0021】
本願発明におけるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、一括仕込み反応法、多段階仕込み反応法のいずれでも合成できるが、プレポリマーの分子中にイソシアネート基を残す必要がある。有機イソシアネートのイソシアネート基と高分子ポリオール、場合により更に鎖延長剤等の活性水素含有化合物の活性水素(基)とのイソシアネート基/活性水素(基)の当量比は、1.1〜5.0/1.0が好ましく、更に1.2〜2.0/1.0が好ましい。このようにして得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基含有量は0.3〜10.0質量%が好ましく、特に1.0〜5.0質量%が好ましい。イソシアネート基含有量が0.3質量%未満の場合は、分子量が大きくなりすぎて粘度が増大し作業性が低下する。また、プレポリマー中の架橋点が少ないため、十分な接着性が得られない。イソシアネート基含有量が10.0質量%を超える場合は、硬化物がゴム弾性を失い脆いものとなるため好ましくない。
【0022】
本願発明におけるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの合成には、後述の硬化促進触媒としてあげた化合物と同様の、公知の触媒をウレタン化触媒として用いることができる。これらのうち金属有機酸塩や有機金属と有機酸との塩が好ましく、特にジブチル錫ジラウレートが好ましい。また、さらに公知の有機溶媒を用いることができるが、後述する理由と同様の理由で、脂肪酸アルキルエステル系溶剤と芳香族系溶剤は使用しないようにする。しかしながら合成後、加熱や減圧等の方法で、これらの有機溶剤を除去するならば、使用することも可能である。
【0023】
つぎに、炭酸カルシウムについて説明する。
炭酸カルシウムは、単独で使用しても他の充填剤と併用しても使用することができる。
本願発明において、炭酸カルシウムは前記(1)〜(4)の多くの利点により、きわめて重要な充填剤として使用するものであり、天然の炭酸カルシウムを粉砕して粉体状にした重質炭酸カルシウム、あるいは沈降炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムと称される微粉状の合成炭酸カルシウムなどが挙げられ、単独でまたは組み合わせて使用することができるが、入手の容易性、使いやすさ、安価などの点で、重質炭酸カルシウムが好ましい。
炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.1μm以上、さらに0.5〜100μm、特に0.5〜30μmが好ましい。0.1μm未満であるとイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに混合したとき分散性が悪く、かつ得られるウレタン系接着剤組成物の粘度も上がり作業性も悪いため好ましくない。
【0024】
炭酸カルシウムの使用量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100重量部に対して10〜500重量部が好ましく、さらに50〜300重量部が好ましい。使用量が10重量部未満では得られるウレタン系接着剤組成物の補強効果や増量効果に乏しく、500重量部を超えるとウレタン系接着剤組成物の粘度が上がり、作業性が悪くなるとともに、硬化物の伸びが低下し脆くなるため好ましくない。
【0025】
本願発明においては、炭酸カルシウム以外の充填剤と併用して用いることができる。炭酸カルシウム以外の充填剤としては、具体的に例えば、マイカ、カオリン、ゼオライト、グラファイト、珪藻土、白土、クレー、タルク、無水ケイ酸、石英、アルミニウム粉末、亜鉛粉末、炭酸マグネシウム、アルミナ等の無機粉末状充填剤、ゴム粉末、熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂の微粉末、ポリエチレン等の粉末などの有機系充填剤などが挙げられ、粒径0.1μm以上、さらに0.5〜100μmが好ましい。これらは単独あるいは2種以上を組合わせて炭酸カルシウムと併用して使用することができ、その使用量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100重量部に対して0〜300重量部が好ましい。
【0026】
つぎに、ジメチルカーボネートについて説明する。
本願発明において、ジメチルカーボネートはイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの溶解性に優れているため、これを硬化成分とするウレタン系接着剤組成物の有機溶剤あるいは希釈剤として使用し、得られるウレタン系接着剤組成物の粘度を下げ、塗布作業性を向上させるために使用するものであり、融点0.5℃、沸点90〜91℃の性質を有するものである。
有機溶剤としてジメチルカーボネートと、充填剤として炭酸カルシウムとを併用したとき、仮に炭酸カルシウムのアルカリによりジメチルカーボネートが加水分解を受けたとしても、生成するものが炭酸ガスとメチルアルコールであり、炭酸カルシウムと反応するものではないため、結晶状析出物発生の不具合を生じることのない塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物を得ることができる効果を奏するものである。
【0027】
本願発明においては、ジメチルカーボネート以外の有機溶剤(あるいは希釈剤)を、ジメチルカーボネートと併用することができる。ジメチルカーボネート以外の有機溶剤としては、まず前述の酢酸カルシウムや、プロピオン酸アルキルエステルを使用したときに析出の可能性があるプロピオン酸カルシウムなどの脂肪酸カルシウムの結晶状析出物の発生を防止する目的と安全上の目的で、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の酢酸アルキルエステル系溶剤、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のプロピオン酸アルキルエステル系溶剤などの脂肪酸アルキルエステル系溶剤、およびトルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤を使用しない必要がある。すなわち本願発明においてジメチルカーボネートと併用できる有機溶剤とは、脂肪酸アルキルエステル系溶剤と芳香族系溶剤を除いた溶剤を意味する。したがってジメチルカーボネートと併用できる有機溶剤としては、具体的に例えば,アセトン,メチルエチルケトン,2-ペンタノン、3-ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタンノン等のケトン系溶剤、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、あるいはこれら2種以上の混合物等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、あるいはこれら2種以上の混合物等の脂環式炭化水素系溶剤などを挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらのうち、毒性が低く、臭気の少ない点でケトン系溶剤とし環式炭化水素系溶剤が好ましく、特にメチルエチルケトンとエチルシクロヘキサンが好ましい。
前記ジメチルカーボネートと、これに併用するジメチルカーボネート以外の有機溶剤との合計の有機溶剤の使用量は、ジメチルカーボネートの作用を妨げない範囲であれば任意であるが、ウレタン系接着剤組成物中に、5〜80質量%となるように、さらに10〜60質量%となるように使用するのが好ましい。5質量%未満では得られるウレタン系接着剤組成物の粘度が上がり塗布作業性が悪化し、80質量%を超えるとイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの使用量が少なくなり、接着性が低下するとともに、有機溶剤の放散量が多くなるため好ましくない。
合計の有機溶剤中に占めるジメチルカーボネートの使用量割合は100質量%であってもよいが、コストが上がるなどの問題のため、他の有機溶剤と併用するのが好ましく、10質量%以上、50質量%未満の範囲、さらに20質量%以上、45質量%以下の範囲が好ましい。10質量%未満ではイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの溶解性が低下しウレタン系接着剤組成物が不均質になるため好ましくない。
【0028】
つぎに、本願発明において、接着剤組成物にさらに用いられる添加剤について説明する。
【0029】
本願発明における添加剤としては、硬化促進触媒、可塑剤、揺変性付与剤、接着性付与剤、着色剤などが挙げられる。
【0030】
本願発明において、硬化促進触媒は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と水分(湿気)との反応を速め、ウレタン系接着剤組成物の効果を促進させるために添加するものであり、たとえば、テトラ−n−ブチルチタネート等の金属のアルコキシド、オクチル酸第一錫、オクテン酸錫などの、亜鉛、錫、鉛、ジルコニウム、ビスマス、コバルト、マンガン、鉄等の金属とオクチル酸、オクテン酸、ナフテン酸等の有機酸との塩、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)等の金属キレート化合物、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属と有機酸との塩、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4、0〕ウンデセン−7(DBU)、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン(DABCO)、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の第3級アミン類、あるいはこれらのアミン類と有機酸との塩類などが挙げられる。これらは単独であるいは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち硬化を促進する効果が高い点で、金属キレート化合物や有機金属と有機酸との塩が好ましく、さらにジブチル錫ジラウレートが好ましい。
【0031】
前記硬化促進触媒は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100重量部に対して0〜10重量部使用するのが好ましい。
【0032】
可塑剤は、本願発明において接着剤組成物の粘度を下げ作業性を良好なものにするため、あるいは硬化後の物性を調節するために使用するものであり、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、ペンタエリスリトールエステル等のアルコールエステル類、塩素化パラフィン等のハロゲン化脂肪族化合物などの分子量500未満の低分子量可塑剤、ポリエーテルポリオールをアルキルエーテル化あるいはエステル化したポリエーテル類、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、水素添加ポリプテン等のオレフィン系重合体などの分子量500以上の高分子量可塑剤などが挙げられる。
【0033】
揺変性付与剤は、本願発明における接着剤組成物に揺変性を付与して、組成物を床下地に塗布施工したとき、床下地が傾斜していても流れないように、またくし目ごてを使用して塗布したとき、くし目の山が崩れないようにするためなどに使用するものであり、たとえば、微粉状シリカ、有機表面処理炭酸カルシウム等の無機系揺変性付与剤、有機ベントナイト、脂肪酸アマイド等の有機系揺変性付与剤などが挙げられ、これらのものの中から1種あるいは2種以上を適宜選択して添加することができる。これらのうち微粉状シリカが少量の配合で揺変性を付与できるため好ましい。
【0034】
本願発明において、前記揺変性付与剤の使用量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100重量部に対して1〜200重量部が好ましい。1重量部を下回ると揺変性付与効果がなくなり、200重量部を超えると得られる接着剤組成物の粘度が上がり作業性が悪化するため好ましくない。
【0035】
前記微紛状シリカとしては、例えば、石英、ケイ砂、珪藻土等を粉砕して微粉状にした天然シリカ、また、沈降法シリカ等の湿式法シリカ、フュームドシリカ等の乾式法シリカなどの合成シリカなどが挙げられる。また、これらシリカ粒子表面の性質としては、有機物で処理しない親水性のものと、粒子表面をジメチルジクロロシラン等の有機シラン化合物で処理した疎水性のものが挙げられる。粒子の大きさは、揺変性付与効果の大きな点で、平均(一次)粒子径が1〜1,000nm、さらに1〜100nm、特に5〜50nmのコロイダル(コロイド状)と呼ばれるものが好ましい。またBET比表面積(m/g)は、0.1以上、さらに20〜500、特に40〜500が好ましい。
これらのうち、揺変性付与効果が大きな点で、合成シリカで、親水性のコロイダルシリカが好ましい。
【0036】
接着性付与剤、着色剤は、それぞれ接着性向上、着色などのために、本願発明における接着剤組成物に配合して使用することができる。
【0037】
接着性付与剤としては、カップリング剤の他に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキルチタネ−ト類、有機ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
前記カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系、ジルコアルミネート系などの各種カップリング剤を挙げることができ、このうちシラン系カップリング剤が接着性に優れているので好ましい。
このシラン系カップリング剤としては、具体的には、メチルシリケート、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのアルコキシシリル基を含有する分子量500以下、好ましくは400以下の低分子化合物を挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上を組合せて使用できる。
【0039】
着色剤としては、酸化チタンや酸化鉄などの無機系顔料、銅フタロシアニンなどの有機系顔料、カーボンブラックなどが挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上を組合わせて使用できる。
【0040】
接着性付与剤、および着色剤の合計の配合量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100重量部に対して0〜100重量部であることが好ましい。
【0041】
本願発明は、上述の構成をとることにより、塩化ビニル製床材の接着剤として使用しても接着性を損なうことなく、貼り付けした塩化ビニル製床材の端部から白色の結晶状析出物が生じる不具合を発生させないという顕著な効果を奏するものである。
【0042】
以下に本願発明の実施例を示すが、本願発明がこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔合成例1〕
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながらポリヘキサメチレンアジペートグリコール(日立化成ポリマー社製、テスラック2461、数平均分子量2,000)180g、ポリオキシプロピレングリコール(三井武田ケミカル社製、Diol−3000、数平均分子量3,000)250g、ポリオキシプロピレントリオール(三井武田ケミカル社製、MN−4000、数平均分子量3,000)100g、および1,4−ブチレングリコール50gを仕込み、攪拌しながら、さらに2,4−トルエンジイソシアネート180gとジブチル錫ジラウレート0.07gを仕込み、70〜80℃で3時間加温し、滴定によるイソシアネート基含有量が理論値(2.8質量%)以下になった時点で反応を終了し、冷却してイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーP−1を合成した。
得られたイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーP−1は、滴定によるイソシアネート基含有量2.7質量%、常温で粘稠な流動性のない不透明物であった。
【0044】
〔実施例1〕
冷却装置および窒素シール管付き混練容器に、窒素ガスを流しながら合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーP−1を250g、ジメチルカーボネート250gおよび重質炭酸カルシウム450gを順次仕込み、内容物が均一になるまで攪拌、混練した。次いで親水性コロイダルシリカ10gと3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1gとジブチル錫ジラウレート0.05gとを仕込み、さらに内容物が均一になるまで、60℃以下で攪拌、混練した。次いで30〜100hPaで減圧脱泡し、容器に充填、密封して、ペースト状の一液型湿気硬化性ウレタン系接着剤組成物を調製した。
【0045】
〔実施例2〕
実施例1において、ジメチルカーボネート250g使用する代わりに、ジメチルカーボネート110gとメチルエチルケトン140gを使用した以外は同様にして、ペースト状の一液型湿気硬化性ウレタン系接着剤組成物を調製した。
【0046】
〔実施例3〕
実施例1において、ジメチルカーボネート250g使用する代わりに、ジメチルカーボネート75g、メチルエチルケトン100gおよびエチルシクロヘキサン75gを使用した以外は同様にして、ペースト状の一液型湿気硬化性ウレタン系接着剤組成物を調製した。
【0047】
〔比較例1〕
実施例1において、ジメチルカーボネートを使用しないで、代わりに酢酸エチル250gを使用した以外は同様にして、ペースト状の一液型湿気硬化性ウレタン系接着剤組成物を調製した。
【0048】
〔比較例2〕
実施例2において、ジメチルカーボネートを使用しないで、代わりに酢酸エチル110gを使用した以外は同様にして、ペースト状の一液型湿気硬化性ウレタン系接着剤組成物を調製した。
【0049】
上述の結果を次の表1に示す。
【表1】

【0050】
試験方法
〔臭気〕
JIS A 5536(2003)「床仕上げ材用接着剤」、5.3.1塗布性に準拠して接着剤組成物をくし目ごてで塗布した直後に、溶剤の臭いを嗅いで試験をした。
臭気が少ないものを○と評価した。
【0051】
〔析出物防止性〕
長さ30cm×幅30cm×厚さ5cmの大きさのモルタル板を水中に24時間浸漬した後取り出し、表面の水を綿布で拭き取り、次いで接着剤組成物を、くし目高さ2mmのくし目ごてを用いて塗布し、その上に市販の塩化ビニルシートを長さ20cm×幅20cmの大きさに切り取ったものを板面の中央の位置に貼り付けた。貼り付けた直後に、予め水を張って用意しておいたステンレス製のバットに、モルタル板の部分が水に浸るように静置し、その状態で14日間置いた後、塩化ビニルシートの端部付近における析出物の発生の有無を目視で観察した。
析出物の発生が認められないものを○、析出物の発生が認められるものを×と評価した。
【0052】
〔90度はく離接着強さ〕
JIS A 5536(2003)「床仕上げ材用接着剤」、5.3.3 90度はく離接着強さに準拠して、常態の90度はく離接着強さを測定した。なお、くし目ごては、くし目高さ2mmのものを用い、試験体の養生時間は48時間とし、接着強さが20N/25mm以上のものを○と評価した。
【0053】
上述のように、本願発明の塩化ビニル製床材用のウレタン系接着剤組成物は、炭酸カルシウムを使用しているにもかかわらず、臭気および90度剥離接着強さを低下させることなく析出物の発生をなくした優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、炭酸カルシウムと、有機溶剤としてジメチルカーボネートとからなることを特徴とする塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤として、ジメチルカーボネートと、脂肪酸アルキルエステル系溶剤と芳香族系溶剤以外の有機溶剤とを併用した請求項1に記載の塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸アルキルエステル系溶剤と芳香族系溶剤以外の有機溶剤が、ケトン系溶剤および脂環式炭化水素系溶剤よりなる群より選ばれる1種以上の溶剤である請求項2に記載の塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤中に占めるジメチルカーボネートの割合が10質量%以上、50質量%未満の割合であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物。
【請求項5】
さらに、添加剤を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の塩化ビニル製床材用ウレタン系接着剤組成物。

【公開番号】特開2006−22178(P2006−22178A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200406(P2004−200406)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】