説明

塩基配列自動解析装置

【課題】 検出の信頼性が高い塩基配列検出装置を提供するにある。
【解決手段】 塩基配列検出チップ21上に設けられ、チップカートリッジ上蓋112及びシール材24aにより薬液又はエアの流れる方向に沿って設けられた流路601と、流路601に沿って1つずつ複数設けられ、プローブが固定化される作用極501と、流路の内周面に作用極501の各々に対応して1つずつ複数設けられ、各々がチップ表面に平行な平面に位置するように配置された対極502と、流路601の内周面に作用極501の各々に対応して1つずつ複数設けられ、各々がチップ表面に平行な平面に位置するように配置された参照極503と、流路601の上流側から流路601内に薬液又はエアを送入する送入ポート116aと、流路の下流側から流路内の薬液又はエアを送出する送出ポートと、流路601内に試料を注入する試料注入口119からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基配列を検出する塩基配列検出装置を自動で制御し、測定信号を自動解析する塩基配列自動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、例えば、ハイブリダイゼーションのみを行う装置、このハイブリダイゼーションの後に挿入剤を添加した後の電気化学測定のみを行う装置、もしくは、ハイブリダイゼーションからバッファによる洗浄までを自動で行う装置は、それぞれ存在していた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−504910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したような装置を用いて測定を行った場合、各工程が終了すると、作業者は、サンプルを次の工程のための装置にマニュアルで移送する必要があるため、時間的に拘束される。また、工程間の移送に作業者が関与するため、各サンプル間のデータの再現性に乏しい、という問題があった。
【0005】
一方、反応を行わせるためのセル内の反応条件いかんにより測定結果が変動する問題もあった。複数の作用極を有する3電極系で測定する場合、各作用極での反応環境がまちまちで、検出結果にもばらつきがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電気化学反応特性の均一性が高く、検出の信頼性が高い塩基配列検出装置を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、反応から送液、測定までの自動で行うことができる塩基配列自動解析装置を提供することにある。
【0008】
この発明の一の観点によれば、
流路内における試料中の標的塩基配列と所定の塩基配列を有するプローブとの反応に基づき試料中の標的塩基配列を検出する塩基配列自動解析装置であって、
前記試料、薬液或いはエアが供給される流路が設けられる基板と、
前記流路内に設けられ、前記プローブが固定化されている作用極と、
前記流路中に設けられた対極と、
前記流路中に設けられた参照極と、
前記流路に連通する送入ポート及び送出ポートを有する部材と、
を備える塩基配列検出装置が装着され、
前記送入ポートに連通し、前記薬液或いは前記エアの前記流路への供給を制御する第1のバルブから構成され、前記送入ポートを介して前記流路に前記薬液或いは前記エアを供給する供給系と、
前記送出ポートに連通し、前記薬液或いはエアの前記流路からの供給を制御する第2のバルブ及び前記第2のバルブに連通され、前記流路から前記薬液或いは前記エア吸引するポンプから構成され、前記送出ポートを介して前記流路から前記試料、前記薬液或いは前記エアを排出する排出系と、
前記第1バルブ及び前記第2バルブ間に設けられ、前記第1バルブ及び前記第2バルブの切替に応じて前記供給系から前記薬液或いは前記エアを前記流路に対してバイパスして供給させるバイパス配管系と、
前記作用極及び前記対極との間に電圧を印加して前記作用極もしくは前記対極から電気化学信号を検出する測定部と、
を具備することを特徴とする塩基配列自動解析装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上詳述したように本発明によれば、電気化学反応特性の均一性が高まり、検出の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る塩基配列検出装置の全体構成を示す概念図。
【図2】同実施形態に係るチップカートリッジの構成の詳細を示す図。
【図3】同実施形態に係る上蓋固定ねじで固定する前の支持体とチップカートリッジ上蓋を示す図。
【図4】同実施形態に係る塩基配列検出チップを実装したプリント基板の詳細な構成を示す図。
【図5】同実施形態に係るセル及びセルに通じる薬液供給系統を示す図。
【図6】同実施形態に係るセルの変形例を示す図。
【図7】同実施形態に係るセル近傍の各構成要素のより詳細な構成を示す図。
【図8】同実施形態に係るセルの上面図。
【図9】同実施形態に係るセルの変形例の上面図。
【図10】同実施形態に係るセルの形状の変形例の断面図。
【図11】同実施形態に係るセルの形状の変形例の断面図。
【図12】同実施形態に係る検出用流路の変形例の上面図。
【図13】同実施形態に係るセルの構成の変形例を示す図。
【図14】同実施形態に係るシール材の構成の一例を示す図。
【図15】同実施形態に係る塩基配列検出チップ及びプリント基板の製造方法の工程断面図。
【図16】同実施形態に係る塩基配列検出チップの上面図。
【図17】同実施形態に係る送液系の具体的な構成の一例を示す図。
【図18】同実施形態に係る送液系を用いた塩基配列検出のための送液工程のフローチャートを示す図。
【図19】同実施形態に係る測定系の具体的な構成を示す図。
【図20】従来のポテンシオ・スタットの構成を示す図。
【図21】同実施形態に係る電圧特性を示す図。
【図22】従来のポテンシオ・スタットの電圧特性を示す図。
【図23】同実施形態に係るポテンシオ・スタットと従来のポテンシオ・スタットにおける対極に印加される電流/電圧特性曲線を示す図。
【図24】同実施形態に係るポテンシオ・スタットの変形例を示す図。
【図25】同実施形態に係るポテンシオ・スタットの変形例を示す図。
【図26】同実施形態に係るポテンシオ・スタットの変形例を示す図。
【図27】同実施形態に係るポテンシオ・スタットの変形例を示す図。
【図28】同実施形態に係る制御機構及びコンピュータの他の構成要素との関連性を示す概念図。
【図29】同実施形態に係る制御機構の詳細な構成の一例を示す図。
【図30】同実施形態に係る測定データ解析手法の一例を示す図。
【図31】同実施形態に係る型判定フィルタリング処理のフローチャートを示す図。
【図32】同実施形態に係る型判定処理の一例を示す図。
【図33】同実施形態に係る塩基配列検出装置を用いた塩基配列の自動解析手法のシーケンス図。
【図34】同実施形態に係るセルの構成の変形例を示す図。
【図35】本発明の第2実施形態に係る塩基配列自動解析装置の全体構成を示す図。
【図36】同実施形態に係るカセットの概観斜視図。
【図37】同実施形態に係るカセット上蓋の斜視図。
【図38】同実施形態に係るカセット下蓋の構成を示す図。
【図39】同実施形態に係るパッキンの斜視図。
【図40】同実施形態に係るパッキンの上面図。
【図41】同実施形態に係る基板上面図。
【図42】同実施形態に係るカセットの組立完成図。
【図43】同実施形態に係るカセットの組立完成図。
【図44】同実施形態に係るカセット側面の断面図。
【図45】同実施形態に係る流路の詳細を示す図。
【図46】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図47】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図48】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図49】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図50】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図51】同実施形態に係るパッキン先端形状の詳細な構成を示す図。
【図52】同実施形態に係るバルブユニットの全体構成を示す図。
【図53】同実施形態に係るバルブユニットの機能構成図。
【図54】同実施形態に係るノズル先端形状の詳細な構成を示す図。
【図55】同実施形態に係るパッキンとノズルの構成を示す図。
【図56】同実施形態に係るカセット装着動作時の塩基配列自動解析装置の構成の一例を示す図。
【図57】同実施形態に係るプローブユニットの詳細な構成を示す図。
【図58】同実施形態に係るプローブユニット及びバルブユニットの詳細な構成を示す図。
【図59】同実施形態に係るカセットの変形例を示す図。
【図60】同実施形態に係るカセットの変形例におけるカセット固定手法を説明するための図。
【図61】同実施形態に係る別のバルブユニットの一例を示す図。
【図62】同実施形態に係る別のバルブユニットの一例を示す図。
【図63】同実施形態に係る別のバルブユニットの一例を示す図。
【図64】同実施形態に係る別のバルブユニットの一例を示す図。
【図65】同実施形態に係る別のバルブユニットの機能構成例を示す図。
【図66】同実施形態に係る液揺動機構の一例を示す図。
【図67】同実施形態に係るシールが有る場合と無い場合のカセットの構成の一例を示す図。
【図68】同実施形態に係るシール検出動作を説明するための図。
【図69】同実施形態に係るカセット検出動作を説明するための図。
【図70】同実施形態に係る測定準備処理のフローチャートの一例を示す図。
【図71】同実施形態に係る電気的接続の有無の判別手法を説明するための図。
【図72】同実施形態に係る自動解析の動作のフローチャートを示す図。
【図73】同実施形態に係る制御機構と他の構成要素の機能ブロック図。
【図74】同実施形態に係るノズルとパッキンの組合せの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る塩基配列自動解析装置の全体構成を示す概念図である。図1に示すように、塩基配列自動解析装置1は、チップカートリッジ11(塩基配列検出装置)と、このチップカートリッジ11と電気的に接続される測定系12、チップカートリッジ11に設けられた流路とインタフェース部を介して物理的に接続される送液系13及びチップカートリッジ11の温度制御を行う温度制御機構14から構成される。
【0013】
これら測定系12、送液系13及び温度制御機構14は制御機構15により制御される。制御機構15は、コンピュータ16に電気的に接続されており、このコンピュータ16に備えられたプログラムにより、制御機構15が制御される。本実施形態では、チップカートリッジ11、測定系12、送液系13及び温度制御機構14を測定ユニット10と称する。
【0014】
チップカートリッジ11には、DNAプローブが固定化される塩基配列検出チップ21が実装されたプリント基板22が取り付けられて用いられる。
【0015】
以下の実施形態では、検出の目的とするDNAの塩基配列を標的塩基配列と呼ぶ。そして、この標的塩基配列とは相補性があり、この標的塩基配列と選択的に反応する塩基配列を標的相補塩配列と呼ぶ。この標的相補塩基配列を含むDNAプローブが塩基配列検出チップ21の作用極に固定化される。塩基配列検出チップ21のセル内に導入される試料(検体溶液)には、検査の対象となるDNAが含まれている。この検査の対象となるDNAの塩基配列を検体塩基配列と呼ぶ。
【0016】
この実施形態の塩基配列検出装置は、この検体塩基配列と標的相補塩基配列をハイブリダイゼーションさせ、その反応の有無をバッファ、挿入剤導入後にモニタリングすることにより、試料中に標的塩基配列が含まれているか否かを判別する。
【0017】
図2はチップカートリッジ11の詳細な構成を示す図であり、(a)は上面から見た図、(b)はA−A方向から見た図、(c)はB−B方向から見た部分透視断面図、(d)はチップカートリッジ11の一構成要素である支持体111を裏面から見た図を示している。
【0018】
チップカートリッジ本体110は、プリント基板22を下部側から支持する支持体111と、この支持体111とともにプリント基板22を上部側から挟み込み固定支持するためのチップカートリッジ上蓋112からなる。
【0019】
チップカートリッジ上蓋112の側部には2つの開口が設けられ、その開口のうちの1つにはインタフェース部113aが、他の1つにはインタフェース部113bが接続されている。これらインタフェース部113a及び113bは、送液系13とチップカートリッジ11のインタフェースとして機能する。
【0020】
これらインタフェース部113a及び113bの内部にはそれぞれ流路114a及び114bが設けられている。流路114aを介して、送液系13上流側からの薬液やエアをチップカートリッジ11内部に送入する。流路114bを介して、チップカートリッジ11内の試料、薬液及びエアを送液系13下流側に送出する。
【0021】
図2(a)乃至(c)では、流路114a及び114bは破線で示されている。これら流路114a及び114bは、インタフェース部113a及び113bからチップカートリッジ上蓋112内まで連通しており、さらにはセル115に通じている。セル115は、塩基配列検出チップ21とこの塩基配列検出チップ21に導入される各種溶液との電気化学反応を生じさせるために設けられる領域である。このセル115は、塩基配列検出チップ21が実装されたプリント基板22の四隅がこのチップカートリッジ11のチップカートリッジ上蓋112に基板固定ねじ25により固定化されている場合に、塩基配列検出チップ21とシール材24a、チップカートリッジ上蓋112に囲まれた閉空間領域で定められる。塩基配列検出チップ21を実装したプリント基板22がチップカートリッジ上蓋112に固定化された状態で、支持体111とチップカートリッジ上蓋112によりプリント基板22がシール材24aを挟んで保持される。さらに、上蓋固定ねじ117によりチップカートリッジ上蓋112が固定される。これにより、流路114aからセル115を介して流路114bまで連通した各種薬液やエアの注入・吐出経路が定められる。なお、塩基配列検出チップ21は、プリント基板22に封止樹脂23により封止されている。
【0022】
セル115の上面に位置するチップカートリッジ上蓋112には、送入ポート116a及び送出ポート116bが設けられている。送入ポート116aは、チップカートリッジ上蓋112の側面から底面まで貫通し、セル孔部115aでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送出ポート116bは、チップカートリッジ上蓋112の別の側面から底面まで貫通し、セル孔部115bでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送入ポート116aが流路114aに、送出ポート116bが流路114bに接続されることにより、流路114aとセル115,流路114bとセル115が連通する。
【0023】
プリント基板22表面であってセル115から離間した位置に、電気コネクタ22aが設定されている。電気コネクタ22aは、プリント基板22の基板本体のリードフレームと電気的に接続されている。また、この基板本体のリードフレームは、塩基配列検出チップ21の各種電極とリードなどにより電気的に接続されている。この電気コネクタ22aに測定系12の端子を接続することにより、塩基配列検出チップ21で得られる電気信号を、プリント基板22の所定の位置に設けられた所定の端子を介して、さらには電気コネクタ22aを介して測定系12に出力することができる。
【0024】
図2(d)に示すように、支持体111はコの字型をしており、中央に切り込み部111aが設けられている。この切り込み部111aはプリント基板22よりも小さく、塩基配列検出チップ21よりも大きな形状となっている。これにより、支持体111によるプリント基板22の支持機能を保ちつつ、塩基配列検出チップ21に支持体111を介さずに温度制御機構14を接して配置することができる。117aはねじ孔であり、上蓋固定ネジ117が固定される。
【0025】
塩基配列検出チップ21の温度を調節する温度制御機構14としては、例えばペルティエ素子が用いられる。これにより、±0.5℃の温度制御が可能である。DNAの反応は、室温に比較的近い温度範囲において行うのが一般的である。従って、ヒーターのみでの温度制御は安定性に乏しい。また、温度プロファイルにより、DNAの反応を制御する必要があるため、別に冷却機構が必要になってきてしまう。その点、ペルティエ素子は、電流の向きを変えることにより、加熱・冷却いずれも可能であるため、最適である。
【0026】
図3は上蓋固定ねじ117で固定する前の支持体111とチップカートリッジ上蓋112を示す図である。図3に示すように、チップカートリッジ上蓋112に、塩基配列検出チップ21が実装されたプリント基板22の四隅が基板固定ねじ25で固定されている。チップカートリッジ上蓋112には、シール材24aが一体化されている。従って、塩基配列検出チップ21上に、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112で囲まれたセル115が定められる。さらに、上蓋固定ねじ117で支持体111にチップカートリッジ上蓋112が固定されて用いられる。なお、基板固定ねじ25は、プリント基板22の裏面側から固定しても、表面側から固定してもよい。このように、チップカートリッジ上蓋112にプリント基板22を固定化することにより、塩基配列検出チップ21、シール材24a及びチップカートリッジ上蓋112の間の密着性を確実に保持することができる。
【0027】
図4は塩基配列検出チップ21を実装したプリント基板22の詳細な構成を示す図である。図4に示すように、プリント基板22上には、塩基配列検出チップ21が封止樹脂23により封止されている。塩基配列検出チップ21上には、作用極501が設けられている。この作用極501は、図4の矢印で示される薬液及びエアの流れる方向に沿って1つずつ設けられている。薬液及びエアの流れる方向は、チップカートリッジ上蓋112及びシール材24aにより塩基配列検出チップ21上の作用極501の周囲に矢印で示す方向に沿った空間を残して密閉することにより定められる。破線で示された領域は、シール材24aが配置される領域である。複数の作用極501は、この破線で示された領域に収まるように配置される。
【0028】
プリント基板22の端部には電気コネクタ22aが設置されている。塩基配列検出チップ21の作用極501と電気コネクタ22aは、プリント基板22表面に設けられたリードフレームなどにより電気的に接続されている。電気コネクタ22aには、測定系12の信号インタフェースを接続することにより、塩基配列検出チップ21の各電極と測定系12とを電気的に接続することができる。
【0029】
図5(a)は図2(a)に示すセル115及びセル115に通じる薬液供給系統をC−C方向から見た断面図、図5(b)はセル115近傍の上面図である。
【0030】
図5(a)に示すように、チップカートリッジ上蓋112の底面には、高さd42の流路状凸部112aが設けられている。そして、この流路状凸部112aには例えばスクリーン印刷などにより予めシール材24aが印刷され、シール材24aと一体的に形成されている。これにより、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112との位置決めを行うことなくセル115を定めることができ、セル115の組み立て工程が簡便になる。シール材24aは、流路状凸部112aと塩基配列検出チップ21との間に固定される。これにより、チップカートリッジ上蓋112と塩基配列検出チップ21の間に閉空間が定められる。この閉空間が試料や薬液とプローブとの電気化学反応を生じさせる反応室としてのセル115である。セル115の底面は塩基配列検出チップ21により定められる。セル115の側面はチップカートリッジ112に設けられた流路状凸部112a及びシール材24aの側部により定められる。セル115の上面はチップカートリッジ112のうち流路状凸部112aが設けられていない部位により定められる。これにより、セル孔部115a及び115b以外は密閉された閉空間が定められ、塩基配列検出チップ21と蓋120との液密が保持される。このセル115の高さは約0.5mm程度に設定される。ここでは0.5mm程度に設定しているがこの限りではなく、0.1mm〜3mmの範囲で設定するのが望ましい。
【0031】
セル115は、上面から見ると図5(b)に示すように細長の流路601が配置された形状をなす。図5(b)では、送入ポート116a側のセル孔部115aからセル孔部115bに向けて同じ路幅の1本の流路601が設けられている。この1本の流路601は、検出用流路601aと、ポート接続流路601b及び601c、流路接続流路601dからなる。
【0032】
検出用流路601aは、作用極501が配置される複数本の流路である。ポート接続流路601bは、セル孔部115aに最も近い検出用流路601aをセル孔部115aに接続する。ポート接続流路601cは、セル孔部115bに最も近い検出用流路601aをセル孔部15bに接続する。流路接続用流路601dは隣りあう検出用流路601aの端部同士を接続して複数の検出用流路601aに薬液又はエアが流れる方向を一方向に定める。これにより、ある検出用流路601aを流れた薬液又はエアは、流路接続用流路601dに流れ込み、さらに同じ方向に隣りあう別の検出用流路601aに流れる。また、流路601a〜601dのいずれも、同じ路幅及び断面を有しており、その路幅は0.5mm〜10mmが望ましい。
【0033】
図5(b)において、破線で囲まれ流路601が形成されていない領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられており塩基配列検出チップ21とシール材24aが接する領域である。流路601が形成されている領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられない領域である。
【0034】
送入ポート116a及び送出ポート116bは各々セル115の上面から上方に、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延びている。送入ポート116a及び送出ポート116bはさらにセル115の中心から互いに遠ざかる方向にその流路が折れており、流路114a及び114bにそれぞれ接続される。
【0035】
送出ポート116bは、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延び、さらにセル115の中心から遠ざかる方向にほぼ直角に折れているが、その折れ曲がり位置で2つの経路に分岐する。その一つの経路は、チップカートリッジ上蓋112の表面まで貫通し、試料注入口119に通じている。これにより、試料注入口119から注入された試料は、送出ポート116bを通ってセル115に導入される。試料注入口119と送出ポート116bの中心軸はほぼ一致しており、試料注入口119の口径は、送液ポート116bの口径よりも大きく設定されている。また、試料注入口119近傍に設けられ、蓋120により試料注入口119を塞ぐことができる。これにより、試料注入口119を利用せず、薬液を流路114aからセル115を介して流路114bに循環させる場合に薬液が試料注入口119から流出するのを防止することができ、薬液の経路を確保することができる。また、蓋120にはシール材121が設けられており、試料注入口119を密閉することにより、薬液のわずかな漏出を防止できる。図5(a)の例では特に示していないが、送出ポート116bから流路114bに接続される経路のみを残して試料注入口119への経路を完全に塞ぐような深さのシール材121を用いれば、試料注入口119側への薬液やエアの滞留を低減することができる。
【0036】
以上のような構成により、薬液は図5(a)の矢印で示される方向に、流路114a、送入ポート116a、セル115(流路601),送出ポート116b、流路114bの順に流れることができる。また、試料は、試料注入口119から注入され、矢印の方向に送出ポート116bを通ってセル115内に導入される。従って、試料は送出側から注入されることとなり、薬液の供給の流れと試料の注入経路が逆に設定されている。これにより、洗浄工程において、試料の洗浄効率を高めることができる。
【0037】
図5(c)は送入ポート116aと送出ポート116bと流路601との最適な位置関係を示す図である。送入ポート116aの外周はポート接続流路601bの外周と接している。また、送出ポート116bの外周はポート接続流路601cの外周と離れている。これにより、薬液やエア送入の際に送入ポート116aのポート隅近傍に生じやすい薬液残りやエア残りを低減することができるとともに、薬液や送出の際に送出ポート116bのポート隅で生じる送液速度のばらつきを低減することができ、エア残りなどを低減することができる。なお、同図の破線で示すように、ポート接続流と601bの外周に送入ポート116aの外周が重なることによりポート接続流路601bから送入ポート116aがはみ出した形状で形成されていても同様の効果を得られる。もちろん、送入ポート116aと送出ポート116bの流路601との位置関係は図5(c)に示したものに限定されない。送入ポート116a側は、ポート接続流路601bとの接続で、両者の外周が重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられ、送出ポート116b側も、ポート接続流路601cの接続で、両者の外周が接する場合、重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられる。
【0038】
図6(a)は図5(a)の破線で囲まれた部分の変形例であり、図6(b)は図6(a)のセル115を上面から見た概念図である。図6(a)に示すように、送入ポート116aはザグリ孔115dを有する。すなわち、送入ポート116aはザグリ孔115dに向けて口径が段階的に広がり、送入ポート116aの開口から離れた位置の口径はザグリ孔115dの口径に比べて小さくなっている。これを上面から見ると、図6(b)に示すような位置関係となる。ザグリ孔115dは送入ポート116aの口径dよりも大きな口径d11を有する。送入ポート116aの外周と流路601の内周はほぼ一致して配置されている。従って、ザグリ孔115dの外周の一部はセル115の領域からはみ出している。なお、ザグリ孔115dの外周は円形である必要は無く、図6(b)に示すように、直線115cと平行な方向の孔幅がそれに垂直な方向の孔幅よりも小さく設定されていてもよい。
【0039】
なお、この図6ではザグリ孔115dを送入ポート116aに設ける場合を示したが、送出ポート116bに同じようなザグリ孔を設けてもよい。
【0040】
このように、セル115の開口部にザグリ孔115dを設けることにより、セル115への導入口がロート状の形状になり、薬液や気泡を吸い出しやすく、薬液や気泡がセル115内に残りにくいという効果を有する。
【0041】
図7及び図8は、セル115の詳細な構成を示す図である。図7(a)はセル孔部115aと115bを結んだ直線で切断された断面図、図7(b)は塩基配列検出チップ21にチップカートリッジ上蓋112が固定される様子を示す図、図8はセル115の上面図である。
【0042】
図7(a)に示すように、検出用流路601aがほぼ等間隔に複数形成されている。図7(a)の左側に示される検出用流路601aの断面を奥側から手前側に薬液又はエアが流れる場合、中央の検出用流路601aはこれとは逆の方向、すなわち手前側から奥側に流れ、左側に示される検出用流路601aはさらにこれとは逆の方向、すなわち奥側から手前側の方向に流れる。このように、隣り合う検出用流路601aの薬液又はエアの流れる方向は逆向きとなる。
【0043】
これら検出用流路601aを薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な断面で切断すると、すべて同じ長方形の断面形状をなし、かつ電極配置も同一である。
【0044】
検出用流路601aの底面は塩基配列検出チップ21により定められる。検出用流路601aの各々の底面には作用極501がそれぞれ1つ形成されている。
【0045】
検出用流路601aの側面はチップカートリッジ上蓋112から凸設された流路状凸部112a及びシール材24aにより定められる。この流路側面、すなわち流路状凸部112aの側部には、流路底面から所定の高さにそれぞれ参照極503が固定されている。このように、複数の参照極503はチップ表面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極501が設けられている平面よりも高い平面に位置する。
【0046】
検出用流路601aの上面は流路状凸部112aが設けられていないチップカートリッジ上蓋112底面により定められる。この流路上面にはそれぞれ対極502が固定されている。このように、複数の対極502はチップ底面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極502や参照極503が設けられている平面よりも高い平面に位置する。
【0047】
このように、作用極501、対極502及び参照極503は、それぞれ異なる平面に三次元配置されている。
【0048】
シール材24aはチップカートリッジ上蓋112の流路状凸部112aに予め印刷等により固定化されている。従って、セル115を組み立てる際には、シール材24aが一体化したチップカートリッジ上蓋112を塩基配列検出チップ21に対して図7(b)の矢印に示す方向に押圧する。これにより、シール材24aを介してチップカートリッジ上蓋112と塩基配列検出チップ21の間に図7(a)に示すような周囲が密閉された流路601が定められる。
【0049】
図8に示すように、作用極501,対極502及び参照極503からなる3電極が各検出用流路601aに、薬液又はエアの流れる方向に等間隔に配置されている。この3電極は、それぞれ薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な平面に配置されている。
【0050】
なお、図8の例では、上面から見て作用極501,対極502及び参照極503の位置関係が流路の方向にかかわらず同じマトリクス状の配置を示したがこれに限定されない。図9に示すように、隣り合う検出用流路601aにおける流路断面の構造を薬液又はエアの流れる方向に沿って左右逆転させてもよい。この場合、いずれの検出用流路601aでも対極502は流れる方向に向かって流路の右側の側面に配置される。これにより、薬液又はエアの流れる方向にすべて同一形状の3電極配置が実現できる。作用極501及び対極502についても、断面で左右対称の位置に配置しない場合には、この参照極503と同じように隣り合う検出用流路601aにおいて左右逆転させた位置に配置されるようにできる。
【0051】
このように、同じ断面形状流路に薬液又はエアの流れる方向に沿ってそれぞれ1つずつ作用極501、対極502及び参照極503が3電極1組として設けられ、かつこれら3電極の位置関係が同じで流路形状も同じ構成となっている。作用極501から見れば、作用極501に対する流路底面、側面及び上面への距離、作用極501から対応する対極502、参照極503に対する位置関係が同じになっている。これにより、各3電極で検出される電気化学信号特性の均一性が向上する。その結果、検出の信頼性が向上する。
【0052】
ここでは、対極502、参照極503がそれぞれ対応する作用極501に対して分離された配置しているが、これに限定されるものではない。対極502もしくは参照極503が、あるいはそれらのいずれもが複数電極連結された構成となっていてもよい。その場合、それぞれの電極における各作用極から最も近傍の領域が対極や参照極として機能する。
【0053】
また、流路の断面形状は上述した図7(a)の構成に限定されない。流路の断面形状の変形例を図10に示す。
【0054】
図10に示すように、検出用流路601eは塩基配列検出チップ21を流路底面とし、その流路側面が流路状凸部112aの側面により定められている。この検出用流路601eは流路底面から高い位置ではその路幅が狭くなり、最も高い頂部で路幅が無くなるようになっている。すなわち、流路上面、あるいはセル上面と流路側面、あるいはセル側面との境界が明確に定められていない。その流路頂部近傍に対極502が固定され、対極502が形成される平面と作用極501が形成される平面との間に位置する平面に位置するように参照極503が流路側面の流路状凸部112cに固定されている。この流路断面形状の場合も、3電極の位置関係は図7(a)の場合と同じである。その他の構成は図7(a)と同じであるので詳細な説明は省略する。
【0055】
流路の断面形状の他の変形例を図11に示す。図11に示すように、流路状凸部112aの構成を含め、チップカートリッジ上蓋112の構成は図7(a)の場合と共通する。図7(a)と異なるのは、参照極503の配置である。この図10の例では、参照極503は流路上面、すなわちチップカートリッジ上蓋112に対極502と並んで配置されている。このように、対極502と参照極503を同一平面上に形成してもよい。
【0056】
図12は検出用流路601aの変形例を示す上面図である。図12の例では、作用極501、対極502及び参照極503が同じ流路断面に並んで配置されずに薬液又はエアの流れる方向に各々がずれた断面位置に配置され、かつ複数の対極502が配線502aにより、複数の参照極503が配線503aにより接続されている。作用極501、対極502及び参照極503はそれぞれ周期的に等間隔に配置されているが、対極502が形成されている断面と参照極503が形成されている断面は重なりを有しておらず、薬液又はエアの流れる方向に沿って交互に配置されている。上面から見ると作用極501と対極502はその一部が重なりを持ち、参照極503と対極502はその一部が重なりを持っている。
【0057】
これにより、同一断面に対極502及び参照極503を並べて配置する場合に比べて小さな領域にこれら対極502及び参照極503を配置することができ、流路断面を小さくできる。その結果、使用される薬液量を節約することができる。
【0058】
また、対極502はそれぞれ配線502aに接続されているため、この配線502aを所定の電位に保持することにより、複数の対極502が同一電圧に保持される。同様に、参照極503はそれぞれ配線503aに接続されているため、この配線503aを所定の電位に保持することにより、複数の参照極503が同一電圧に保持される。
【0059】
また、ここでは、作用極501、参照極503、対極502を同数としているが、必ずしもその限りではない。更に、作用極501、参照極503、対極502がずれた断面位置に配置する必要はない。また、周期的に等間隔である必要もない。
【0060】
図13(a)は流路を定める構成の変形例を示す図である。図12(a)のチップカートリッジ上蓋112は平坦な蓋底面を有しており、流路状凸部は設けられていない。シール材24bはシール材24aよりも厚く形成されている。また、チップカートリッジ上蓋112にシール材24bは予め固定化されていない。
【0061】
従って、図13(b)に示すように、チップカートリッジ上蓋112が塩基配列検出チップ21に固定化されておらず、セル組み立ての際に塩基配列検出チップ21上にシール材24bを載置した上で、チップカートリッジ上蓋112によりシール材24bを塩基配列検出チップ21とともに狭着固定することにより作用極501,対極502及び参照極503を取り囲む密閉空間が定められる。この密閉空間が流路601となる。対極502及び参照極503はチップカートリッジ上蓋112の底面に並んで同一平面上に配置される。この図13のセル115の場合、セル底面が塩基配列検出チップ21で定められ、セル側面はシール材24bのみにより定められ、セル上面はチップカートリッジ上蓋112の底面により定められる。
【0062】
図14はシール材24bの構成の一例を示す図である。図14に示すように、円形のシール材24bは流路601の形状に沿って表面側から裏面側に貫通する流路状空洞部分が設けられている。この空洞部分の側壁が流路壁として機能する。図5の例では、流路を定めるための流路状凸部112aとシール材24aの外周は円形の場合を示したが、流路601さえ定められれば外周形状はいかなる形状でもよく、図14のように長方形の外周であってもよい。
【0063】
図34は図13(a)の流路を定める構成のさらなる変形例を示す図である。図13(a)では、薬液又はセルの流れる方向に垂直な断面に作用極501が1つずつ設けられる構造となっており、流路に沿って作用極501が一次元的に配置される場合を示している。これに対して図34の例の場合、薬液又はセルの流れる方向に垂直な断面に作用極501が2つずつ設けられる構造となっており、流路に沿って作用極501が二次元的に配置される。このように、流路に沿ってある所定の数ずつ作用極501が設けられていてもよい。この場合、その同一断面位置の複数の作用極501の各々は、その断面に位置する対極502及び参照極503とそれぞれ対をなし、ポテンシオ・スタットの3電極対として機能する。
【0064】
次に、前述した塩基配列検出チップ21及びプリント基板22の製造方法について図15の工程断面図に沿って説明する。
【0065】
シリコン基板211を洗浄した後、シリコン基板211を加熱し、シリコン基板211表面に熱酸化膜212を形成する。シリコン基板211の代わりにガラス基板を用いてもよい。
【0066】
次に、基板全面にTi膜213を例えば50nmの膜厚で、次いでAu膜214を例えば200nmの膜厚でスパッタリングにより形成する。ここで、Au膜214はその結晶面方位が<111>配向になっていることが好ましい。次に、後に電極や配線となる領域を保護するようにフォトレジスト膜210をパターニングし(図15(a))、Au膜214及びTi膜213膜をエッチングする(図15(b))。本実施形態ではAu膜214のエッチングにはKI/I混合溶液を、TiのエッチングにはNHOH/H混合溶液を用いた。Au膜214のエッチングには、希釈した王水を用いる方法や、イオンミリングで除去する方法もある。Ti膜213のエッチングも、同様に、弗酸や、バッファード弗酸を用いてウェットエッチング処理する方法や、例えば、CF/O混合ガスによるプラズマを用いたドライエッチングによる方法も適用可能である。
【0067】
次に、フォトレジスト膜210を酸素アッシングにより除去する(図15(c))。フォトレジスト膜210の除去工程は、溶剤を用いたり、レジストストリッパを用いたり、また、これらと酸素アッシング工程を併用したりして行うことも可能である。
【0068】
次に、全面にフォトレジスト215を塗布し、電極部及びボンディングパッドを開口するようにパターニングする(図15(d))。その後、クリーンオーブン内で、例えば、200℃において、30分間ハードベイクを行う。ハードベイクの方法は、熱板を用いたり、また、処理条件も適宜変更可能である。ここでは、フォトレジスト膜215を保護膜として選択したが、フォトレジスト以外に、ポリイミド、BCB(ベンゾシクロブテン)等の有機膜を用いることも可能である。また、SiO、SiOやSiNのような無機膜を保護膜に用いても良い。その場合、電極部を保護するようにフォトレジストを開口してSiO等を堆積し、リフトオフ法により、電極部以外の領域を保護したり、もしくは、全面にSiN等を形成した後、電極部のみを開口するようにフォトレジスト膜215をパターン形成し、エッチングにより電極上のSiN膜等を除去し、最後にフォトレジスト膜215を剥離することにより形成してもよい。
【0069】
次に、ダイシングを行うことによりチップ化する。最後に、電極部表面を清浄化するため、CF/O混合プラズマによる処理を行う。これにより、塩基配列検出チップ21が得られる。そして、この塩基配列検出チップ21を電気コネクタ22aが実装されたプリント基板22上にマウントする。そして、塩基配列検出チップ21のボンディングパッドとプリント基板22上のリード配線とをワイヤボンディングにより接続する。その後、封止樹脂23を用いてワイヤボンディング部分を保護する。
【0070】
以上の工程により、塩基配列検出チップ21を実装したプリント基板22を作製することができる。
【0071】
作製された塩基配列検出チップ21の上面図を図16に示す。図16に示すように、チップ表面の中央近傍には、作用極501が複数設けられている。また、作用極501が形成される領域は、破線で示されるシール材24aの形成領域に収まるようにして用いられる。また、チップ周辺部にはボンディングパッド221が配置される。そして、作用極501の各々は、ボンディングパッド221に配線222で接続される。なお、この図16では示していないが、ボンディングパッド221の形成された周辺部分は前述の封止樹脂23により封止される。
【0072】
次に、送液系13の具体的な構成の一例を図17を用いて説明する。この送液系13は、チップカートリッジ11の流路114a側に設けられた供給系統と、流路114b側に設けられた排出系統に大別される。
【0073】
配管404の最上流には、エア供給源401が接続されている。このエア供給源401の下流側には、エア以外の薬液などが配管404を介してエア供給源401に逆流するのを防止する逆止弁402が設けられ、さらに下流側には2方電磁弁403(V)が設けられている。これにより配管404からチップカートリッジ11の方へ流れ込むエアの流量が制御される。
【0074】
配管414には、薬液の一つとしてのミリQ水を収容したミリQ水供給源411が接続されている。このミリQ水供給源411の下流側には、ミリQ水以外の薬液やエアなどがミリQ水供給源411に逆流するのを防止する逆止弁412が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁413(Vwa)が設けられている。この3方電磁弁413により、配管404と配管415の連通と、配管414と配管415の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁413の非通電時には配管404を配管415に連通させ、通電時には配管414を配管415に連通させる。これにより、配管415へのエアとミリQ水の供給切替が行える。
【0075】
配管424には、薬液の一つとしてのバッファ(緩衝液)を収容したバッファ供給源421が接続されている。このバッファ供給源421の下流側には、バッファ以外の薬液やエアなどがバッファ供給源421に逆流するのを防止する逆止弁422が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁423(Vba)が設けられている。この3方電磁弁423により、配管424と配管425の連通と、配管415と配管425の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁423の非通電時には配管415を配管425に連通させ、通電時には配管424を配管425に連通させる。これにより、配管425へのバッファの供給と、エアあるいはミリQ水の供給の切替が行える。
【0076】
配管434には、薬液の一つとしての挿入剤を収容した挿入剤供給源431が接続されている。この挿入剤供給源431の下流側には、挿入剤以外の薬液やエアなどが挿入剤供給源431に逆流するのを防止する逆止弁432が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁433(Vin)が設けられている。この3方電磁弁433により、配管434と配管435の連通と、配管425と配管435の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁433の非通電時には配管425を配管435に連通させ、通電時には配管434を配管435に連通させる。これにより、配管435への挿入剤の供給と、エア、ミリQ水あるいはバッファの供給の切替が行える。
【0077】
以上、エアや薬液の供給系統において、2方電磁弁403及び3方電磁弁413,423及び433を制御することにより、配管435を介してチップカートリッジ11に供給されるエアや、ミリQ水、バッファ及び挿入剤などの薬液の供給の切替を行い、また供給されるエアやこれら薬液の流量を制御することができる。
【0078】
配管435の上流側は前述した3方電磁弁433が連通し、その下流側は3方電磁弁441(Vcbin)が連通している。3方電磁弁441により、配管435が配管440及びバイパス配管446に分岐させることができる。3方電磁弁441は、非通電時には配管435をバイパス配管446に連通させ、通電時には配管435を配管440に連通させる切替を行う。また、3方電磁弁445は、非通電時にはバイパス配管446を配管450に連通させ、通電時には配管440を配管450に連通させる切替を行う。これら3方電磁弁441及び445により、各種薬液やエアなどの供給をバイパス配管446及び配管440に切替えることができる。
【0079】
配管440には、3方電磁弁441から見て下流側に向かって順に2方電磁弁442(V1in)、チップカートリッジ11、液センサ443、2方電磁弁444(V1out)、3方電磁弁445(Vcbout)が設けられている。2方電磁弁442側には、チップカートリッジ11の送入系統に相当する流路114aが連通し、2方電磁弁444側には、チップカートリッジ11の送出系統に相当する流路114bが連通している。これにより、チップカートリッジ11の送入系統に配管440を介して薬液やエアなどが供給され、チップカートリッジ11の送出系統からこれら薬液やエアなどを排出することができる。また、2方電磁弁442及び444により、この送液及び吐液の経路における薬液やエアなどの流量を制御することができる。また、液センサ443により、チップカートリッジ11に流れ込み、あるいはチップカートリッジ11から排出される薬液の流量をモニタすることができる。
【0080】
配管450には、3方電磁弁445から見て下流側に向かって順に2方電磁弁451(Vvin)、減圧領域452、2方電磁弁453(Vout)、送液ポンプ454、3方電磁弁455(Vww)が設けられている。2方電磁弁451及び453は、減圧領域452前後の経路における薬液やエアの逆流を防止する。また、送液ポンプ454はチューブポンプからなり、チップカートリッジ11から見て送出側(下流側)の排出系統に設けられている点が特徴である。すなわち、チューブポンプを用いることにより、薬液がチューブ壁以外の機構に接しないため、汚染防止の観点から好ましい。また、チップカートリッジ11への薬液やエアの供給及び排出を吸引動作により行うことにより、チップカートリッジ11内部での薬液とエアの置換が潤滑に行うことができるのみならず、万一の場合として配管に緩みが生じたり、もしくはチップカートリッジ11が配管440から外れたりした場合にも、液漏れが生じない。これにより、装置設置の安全性が向上する。
【0081】
もちろん、ポンプをチップカートリッジ11上流側の配管に設け、このポンプによりチップカートリッジ11にエアや薬液を押し出す構成としてもよい。また、ポンプは、チューブポンプに限ることなく、シリンジポンプ、プランジャポンプ、ダイアフラムポンプ、マグネットポンプ等を用いることもできる。
【0082】
3方電磁弁455は、非通電時には配管450を配管461に連通させ、通電時には配管450を配管463に連通させるように切替を行う。配管461には廃液タンク462が設けられ、配管463には挿入剤廃液タンク464が設けられている。これにより、挿入剤以外のミリQ水、バッファなどの薬液を3方電磁弁455の切替により廃液タンク462に導き、挿入剤を挿入剤廃液タンク464に導くことができる。これにより、挿入剤を分別回収することが可能となる。
【0083】
なお、各電磁弁の間は、テフロン(登録商標)チューブ等の配管で接続してもよいが本実施形態では、チップカートリッジ11に対してその上流側と下流側でそれぞれ電磁弁と流路を一体型構造としたマニフォールド構造で構成している。これにより、配管内の容量が少なくなることから、必要な薬液量を大幅に削減できる。また、配管内における薬液流れが安定するため、検出結果の再現性や安定性が向上する。
【0084】
この図17に示す送液系13を用いた塩基配列検出のための送液工程を図18のフローチャートを用いて説明する。
【0085】
まず、作用極501上に固定化されたDNAプローブと試料とのハイブリダイゼーション反応をセル115内で実行させる(s21)。このハイブリダイゼーション反応の実行では、例えばチップカートリッジ11の底面、すなわちプリント基板22の底面が45℃程度となるように温度制御機構14を制御し、例えば60分間保持する。
【0086】
このハイブリダイゼーション反応と並行して、薬液ラインの立ち上げを行う(s22)。具体的には、3方電磁弁441及び445を制御することによりバイパス配管446側を利用し、3方電磁弁433を通電させることで挿入剤供給源431から挿入剤を例えば10秒程度供給する。3方電磁弁455は通電させ、配管450からの挿入剤は挿入剤廃液タンク464に収容される。次いで、挿入剤とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。次いで、エアのみを配管435からバイパス配管446に導入する。この段階で廃液タンク462に廃液切替を行う。そして、バッファをバッファ供給源421からバイパス配管446に導入する。その後、ミリQ水とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。
【0087】
この薬液ラインの立ち上げが終了し、ハイブリダイゼーション反応が終了すると、配管内洗浄が行われる(s23)。配管内洗浄は、例えば温度制御機構14によりプリント基板22の温度を25℃程度とした上で、ミリQ水でバイパス配管446をパージした後、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入する。次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s24)。チップカートリッジ内洗浄は、薬液導入経路をバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管440に導入する。そして、液センサ443によりチップカートリッジ11内に水が充填されたことを確認した上で、導入経路をバイパス配管446に切り替える。
【0088】
次に、配管内バッファパージが行われる(s25)。配管内バッファパージでは、バッファとミリQ水が混合しないようにまずエアをバイパス配管446に導入する。次に、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しバイパス配管446に導入する。そして、バイパス配管446に設けられた液センサ447によりバイパス配管446がバッファで置換されたことを確認する。
【0089】
次に、チップカートリッジ内バッファ注入が行われる(s26)。チップカートリッジ内バッファ注入では、まずバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しチップカートリッジ11内に導入する。
【0090】
次に、チップカートリッジ11へのバッファ充填が行われる(s27)。バッファ充填では、液センサ443でチップカートリッジ11内の状態を監視しながらバッファをチップカートリッジ11に導入し、例えば60℃で30分間放置することにより、不要な試料の洗浄を行う(s28)。不要な試料の洗浄工程後、配管440からバイパス配管446に切り替え、ミリQ水を導入することにより配管内洗浄が行われる(s29)。この配管内洗浄では、さらにエアとミリQ水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。
【0091】
次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s30)。チップカートリッジ内洗浄では、バイパス配管446からチップカートリッジ11に切り替えられ、エアと水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。その後、液センサ443によりチップカートリッジ11内にミリQ水が充填されたことを確認した上でバイパス配管446に切り替えられる。
【0092】
次に、測定が開始される。測定では、まず配管内挿入剤パージが行われる(s31)。この配管内挿入剤パージでは、バイパス配管446にエアを導入しながら廃液を挿入剤廃液タンク464に切り替える。次に、エアと挿入剤を交互に例えば5秒程度ずつ繰り返しバイパス配管446に供給した後、バイパス配管446が挿入剤で置換されたかを液センサ447を用いて検出する。
【0093】
次に、チップカートリッジ11内挿入剤注入が行われる(s32)。この工程では、先ずバイパス配管446からチップカートリッジ11側に切り替えられた後、エアと挿入剤が交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入される。
【0094】
次に、液センサ443での監視の下、チップカートリッジ11への挿入剤充填が行われる(s33)。その後測定が行われる(s34)。
【0095】
測定が終了すると、バイパス配管446にミリQ水を導入し、次いでエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入した後エアで置換して配管内洗浄が行われる(s35)。
【0096】
最後に、バイパス配管446からチップカートリッジ11に置換してエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入し、チップカートリッジ11内をさらにエアで置換してチップカートリッジ内洗浄が行われ(s36)、一連の送液工程が終了する。
【0097】
このように、図17の送液系13を用いた図18に示した工程によれば、薬液の置換を効率的に行うため、薬液/エア/薬液/エアというように、配管内をエアと薬液が交互に流れるシーケンスを作って送液することができる。このような送液方法とすることにより、薬液交換において、古い薬液と新しい薬液の混合を最小限にすることが可能である。その結果、液交換の遷移状態が減り、最終的な電気化学特性の再現性を向上することができる。更に、薬液交換の効率化による、送液時間の短縮・薬液量の削減を実現することが出来る。また、このような薬液/エアシーケンス送液により、反応セル115内の薬液濃度を常に一定に保つことが出来るので、電流特性の面内均一性が向上、即ち検出の信頼性が向上する。
【0098】
また、セル115内への薬液充填の方法として、チップカートリッジ出口バルブとしての2方電磁弁444を閉じた状態で、チップカートリッジ下流側の配管440内を減圧状態にして(ポンプ454を動作させた状態で、2方電磁弁451を制御することにより、減圧領域452を減圧してから2方電磁弁453を制御して、減圧領域452の減圧状態を保つ)から、2方電磁弁444を開けることにより、チップカートリッジ反応セル115内に薬液を導入することができる。
【0099】
なお、この図18に示した送液のタイミングはほんの一例にすぎず、測定の目的、対象、条件などに応じて種々変更することができる。
【0100】
図19は、測定系12の具体的な構成を示す図である。この図19に示す測定系12は、対極502の入力に対して参照極503の電圧をフィードバック(負帰還)させることにより、セル115内の電極や溶液などの各種条件の変動によらずに溶液中に所望の電圧を印加する3電極方式のポテンシオ・スタット12aである。
【0101】
より具体的には、ポテンシオ・スタット12aは、作用極501に対する参照極503の電圧をある所定の特性に設定されるように対極502の電圧を変化させ、挿入剤の酸化電流を電気化学的に測定する。
【0102】
作用極501は、標的塩基配列とは相補的な標的相補塩基配列を有するDNAプローブが固定化される電極であり、セル115内の反応電流を検出する電極である。対極502は、作用極501との間に所定の電圧を印加してセル115内に電流を供給する電極である。参照極503は、参照極503と作用極501との間の電圧を所定の電圧特性に制御すべく、その電極電圧を対極502にフィードバックさせる電極であり、これにより対極502による電圧が制御され、セル115内の各種検出条件に左右されない精度の高い酸化電流検出が行える。
【0103】
電極間を流れる電流を検出するための電圧パターンを発生させる電圧パターン発生回路510が配線512bを介して参照極503の参照電圧制御用の反転増幅器512(OP)の反転入力端子に接続されている。
【0104】
電圧パターン発生回路510は、制御機構15から入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して電圧パターンを発生させる回路であり、DA変換器を備える。
【0105】
配線512bには抵抗Rが接続されている。反転増幅器512の非反転入力端子は接地され、出力端子には配線502aが接続されている。反転増幅器512の反転入力端子側の配線512bと出力端子側の配線502aは配線512aで接続されている。この配線512aには、フィードバック抵抗Rff及びスイッチSWからなる保護回路500が設けられている。
【0106】
配線502aは端子Cに接続されている。端子Cは、塩基配列検出チップ21上の対極502に接続されている。対極502が複数設けられている場合には、各々に対して並列に端子Cが接続される。これにより、1つの電圧パターンにより複数の対極502に同時に電圧を印加することができる。
【0107】
配線502aには、端子Cへの電圧印加のオンオフ制御を行うスイッチSWが設けられている。
【0108】
反転増幅器512に設けられた保護回路500により、対極502に過剰な電圧がかからないような構成となっている。従って、測定時に過剰な電圧が印加され、溶液が電気分解されてしまうことにより、所望の挿入剤の酸化電流検出に影響を及ぼすことが無く、安定した測定が可能となる。
【0109】
端子Rは配線503aにより電圧フォロア増幅器513(OP)の非反転入力端子に接続されている。電圧フォロア増幅器の反転入力端子は、その出力端子に接続された配線513bと配線513aにより短絡している。配線513bには抵抗Rが設けられており、配線512bの抵抗と、配線512aと配線512bの交点との間に接続されている。これにより、電圧パターン発生回路510により生成される電圧パターンに、参照極503の電圧をフィードバックさせた電圧を反転増幅器512に入力させ、そのような電圧を反転増幅した出力に基づき対極502の電圧を制御する
端子Wは配線501aによりトランス・インピーダンス増幅器511(OP)の反転入力端子に接続されている。トランス・インピーダンス増幅器511の非反転入力端子は接地され、その出力端子に接続された配線511bと配線501aとは配線511aにより接続されている。配線511aには抵抗Rが設けられている。このトランス・インピーダンス増幅器511の出力側の端子Oの電圧をV、電流をIとすると、V=I・Rとなる。この端子Oから得られる電気化学信号は制御機構15に出力される。作用極501は複数あるため、端子W及び端子Oは作用極501のそれぞれに対応して複数設けられる。複数の端子Oからの出力は後述する信号切替部により切り替えられ、AD変換されることにより各作用極501からの電気化学信号をデジタル値としてほぼ同時に取得することができる。なお、端子W及び端子Oの間のトランス・インピーダンス増幅器511などの回路は、複数の作用極501で共有してもよい。この場合、配線501aに複数の端子Wからの配線を切り替えるための信号切替部を備えればよい。
【0110】
この図19のポテンシオ・スタット12aを用いた測定系12の効果を従来のポテンシオ・スタットを用いた場合と比較して説明する。従来のポテンシオ・スタットを図20に示す。図20に示すように、従来のポテンシオ・スタット12a’の構成は、図19の示すポテンシオ・スタット12aとほぼ共通する。異なるのは、反転増幅器512に保護回路500が設けられていない点である。電圧パターン発生回路510の出力端子Iにおける電圧をVrefin、端子Cにおける電圧をV、端子Rの電圧をVrefoutとする。参照極503のフィードバックにより、Vrefout=R/R・Vrefinが成立する。
【0111】
この場合、電圧Vrefin、スイッチSWやSWのスイッチ切替状態、電圧Vc及び電圧Vrefoutの電圧特性やスイッチ切替状態の一例をポテンシオ・スタット12aについて示したのが図21、ポテンシオ・スタット12a’について示したのが図22である。
【0112】
図21で、(a)は電圧Vrefinの電圧波形、(b)はスイッチSWのスイッチ切替状態、(c)はスイッチSWのスイッチ切替状態、(d)は電圧Vの電圧波形、(e)は電圧Vrefoutの電圧波形である。
【0113】
図22で、(a)は電圧Vrefinの電圧波形、(b)はスイッチSWのスイッチ切替状態、(c)は電圧Vの電圧波形、(d)は電圧Vrefoutの電圧波形である。
【0114】
従来のポテンシオ・スタット12a’における測定手法を図22を用いて説明する。
【0115】
例えば図22(a)に示すように、時間tからtまで一定の電圧を与え、その後時間tに電圧0となるように線形的に電圧を減少させるような電圧パターンを電圧パターン発生回路510で発生させる。そして、例えば図22(b)に示すように、時間tから所定の時間経過した時間tにおいて、スイッチSWを閉じて対極502に電圧を付与する場合を想定する。この場合、測定の開始時、すなわちスイッチSWを閉じるまではスイッチSWが開いた状態となっている。
【0116】
反転増幅器512の利得は非常に大きいため、スイッチSWがONされフィードバックループが構成される前に、反転増幅器512の反転入力端子に多少の電圧が印加されていれば、反転増幅器512の出力は飽和状態となる。一方、電圧Vrefinが0Vでも、反転増幅器512の入力オフセット電圧のために飽和状態となる。この場合、入力オフセット電圧の反対の極性に飽和する。
【0117】
このように、反転増幅器512の出力電圧は反転増幅器512の電源電圧の近傍まで飽和状態となっている。従って、スイッチSWが閉状態となったとき、対極502に過剰な電圧が印加される。この過剰な電圧は、図22(a)の斜線で示した部分に相当する。この過剰電圧により、セル115内の溶液に電気分解などの意図しない電気化学反応が生じる。その結果、本来意図すべき電気化学反応の測定に悪影響を及ぼす。
【0118】
この従来のポテンシオ・スタット12a’の不都合を解消すべく、本実施形態のポテンシオ・スタット12aでは、保護回路500を用いる。本実施形態のポテンシオ・スタット12aの場合、測定を開始する前、すなわち時間tよりも前の初期状態では、電圧Vrefinを0V、スイッチSWを閉状態、かつスイッチSWを開状態とする。まず、時間tでスイッチSWを閉状態にする。この状態では、スイッチSWは未だ開状態であり、保護回路500は機能していない。反転増幅器512は常にフィードバックをかけた状態で用いられるので、対極502には過剰な電圧が印加されない。
【0119】
この時間tから所定の時間後の時間tで、スイッチSWを閉状態とし、保護回路500を機能させる。その後、時間tから電圧パターン発生回路510で発生させた電圧Vrefinを印加する。この電圧Vrefinにより、所望の電圧が参照極503に設定されるので、その応答は一次遅れの特性を持ち、対極502には過剰の電圧がかかることは無い。
【0120】
図23はポテンシオ・スタット12aと12a’における対極502に印加される電流/電圧特性曲線を示す図である。図23に示すように、従来のポテンシオ・スタット12a’の場合、電流及び電圧ともに大きくマイナスになる特性を持つのに対して、本実施形態のポテンシオ・スタット12aの場合、電圧がマイナスになっても電流が一定値におさまる。電圧がマイナスの値になると、セル115の溶液中の意図しない電気分解が進行してしまう。これにより、例えば電極に気泡が発生したり、電極の組成が変わってしまうなどの弊害があった。これに対して本実施形態の例のように保護回路500を設けることにより、意図しない電圧が対極502に印加されるのを防止することができるため、意図しない電気分解がセル115内の薬液中で生じるのを回避することができる。従って、所望の挿入剤の酸化電流検出に影響を及ぼすことがなく、安定した測定が可能である。
【0121】
図19に示す測定系12としてのポテンシオ・スタット12aの変形例を図24〜図27に示す。図24及び図25は測定系12として3電極方式のポテンシオ・スタットが用いられる例を、図26及び図27は測定系12として4電極方式のポテンシオ・スタットが用いられる例を示す。
【0122】
図24に示すポテンシオ・スタット12bは、図19に示すポテンシオ・スタット12aと基本的な構成は共通する。同一構成には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。ポテンシオ・スタット12bは、配線512aを含めて保護回路500が設けられていない点がポテンシオ・スタット12aと異なる。この保護回路500の代わりに、配線502aに抵抗Rが設けられている。このように、対極502側の反転増幅器512の出力に直列に抵抗Rを接続することにより、電気二重層容量により対極にかかる電圧は一次遅れとなる。これにより、セル115中の薬液に対する影響を少なくすることができる。
【0123】
図25に示すポテンシオ・スタット12cは、ポテンシオ・スタット12aや12bとは構成が若干異なる。このポテンシオ・スタット12cでは、電流検出抵抗Rを対極502側に設け、その検出電流を高入力インピーダンス差動アンプ520で電圧に変換する。以下、その構成をより詳細に説明する。
【0124】
図25に示すように、電極間を流れる電流を検出するための電圧パターンを発生させる電圧パターン発生回路510が配線512bを介して反転増幅器512(OP)の反転入力端子に接続されている。この配線512bには抵抗Rが接続されている。反転増幅器512の非反転入力端子は接地され、出力端子には配線512fが接続されている。反転増幅器512の出力端子と反転入力端子は保護回路500で接続されている。
【0125】
配線512fは端末Cへの電圧印加のオンオフ制御を行うスイッチSWが設けられている。また、配線512fには、交点512cで2つの配線521a及び521bに分岐している。配線521aは、高入力インピーダンス差動アンプ520のうちの増幅器522の非反転入力端子に接続されている。
【0126】
配線521bには、電流検出抵抗Rが設けられている。さらにこの配線521bは交点521dで配線502aと配線521eに分岐している。配線502aは端子Cに接続され、配線521eは高入力インピーダンス差動アンプ520における増幅器523の非反転入力端子に接続されている。
【0127】
参照極503側の端子Rから反転増幅器512の反転入力端子に電圧をフィードバックさせるための電圧フォロア増幅器513、配線513a及び513b、抵抗Rの構成は図19と共通する。
【0128】
作用極501側の端子Wは、配線501aにより接地される。
【0129】
高入力インピーダンス差動アンプ520は、電流検出抵抗Rを経ない配線521aからの出力と、電流検出抵抗Rを経た配線521eの出力の差動電圧を増幅して端子Oに出力する。増幅器522及び523の各々の反転入力端子は抵抗Rを有する配線522aで接続される。増幅器522の反転入力端子と出力端子は抵抗Rを有する配線522bにより接続される。増幅器523の反転入力端子と出力端子は抵抗Rを有する配線523aにより接続される。増幅器522の出力は抵抗Rを介して増幅器524の反転入力端子に接続される。増幅器523の出力は抵抗Rを介して増幅器525の非反転入力端子に接続される。増幅器524は抵抗Rを介して接地される。増幅器524の反転入力端子と出力端子は抵抗Rを有する配線522dにより接続される。増幅器524の出力端子は配線524bにより端子Oに接続される。
【0130】
このポテンシオ・スタット12cの場合、作用極501ではなく対極502側から酸化電流を検出する。
【0131】
このように、図25に示すようなポテンシオ・スタット12cを用いても、ポテンシオ・スタット12aと同様の効果を得ることができる。
【0132】
図26に示す4電極方式のポテンシオ・スタット12dの対極502側及び作用極501側の構成は図19のポテンシオ・スタット12aの構成と共通する。ポテンシオ・スタット12dの場合、2つの参照極5031及び5032からの電圧を高入力インピーダンス差動アンプ520を用いて差動増幅し、その出力電圧を対極502側の反転増幅器512にフィードバックさせる。このように、2つの参照極間の電位差を検出し、その値が所定の電圧特性となるように対極502からの供給電流を制御する。
【0133】
図26に示すように、参照極5031側の端子Rは、増幅器523の非反転入力端子に接続されている。参照極5032側の端子Rは増幅器522の非反転入力端子に接続されている。高入力インピーダンス差動アンプ520は、これら増幅器522及び523の各々の非反転入力端子の2つの電圧を差動増幅して出力する。その出力側には抵抗Rを介して配線512bに接続されている。
【0134】
このように、図26に示すポテンシオ・スタット12dを用いても、ポテンシオ・スタット12aと同様の効果を得ることができる。
【0135】
図27に示す4電極方式のポテンシオ・スタット12eは、図25に示すポテンシオ・スタット12cと基本的な構成は共通する。ポテンシオ・スタット12cと異なるのは、ポテンシオ・スタット12eは参照極取り出し電圧を2つにした点、その2つの電圧を差動増幅し、対極502側にフィードバックさせる点である。対極502側及び作用極501側の構成はポテンシオ・スタット12cと共通するので詳細な説明は省略する。なお、520’は前述した高入力インピーダンス差動アンプ520と同じ構成の高入力インピーダンス差動アンプである。
【0136】
図27に示すように、ポテンシオ・スタット12eは、2つの参照極5031側の端子Rと、参照極5032側の端子Rの出力をそれぞれ増幅器523の非反転入力端子及び増幅器522の非反転入力端子に接続する。前述の通り、高入力インピーダンス差動アンプ520はこれら2つの入力を差動増幅して出力する。その出力側には抵抗Rが接続され、この抵抗Rを介して配線512bに接続される。これにより、高入力インピーダンス差動アンプ520の出力が反転増幅器512の入力側にフィードバックされる。
【0137】
図28は制御機構15及びコンピュータ16の他の構成要素との関連性を示す概念図である。図28に示すように、コンピュータ16は、メインプロセッサ16aとインタフェース16bから構成される。このインタフェース16bを介してローカルバス17を通じて複数の制御機構15との間でデータの送受信を行うことができる。制御機構15は測定制御機構本体15aと、この測定制御機構本体15aにより取り扱われるデータを格納するデータメモリ15bから構成される。制御機構15は、測定ユニット10の各々に対して1つずつ設けられている。このように、複数接続された測定ユニット10を1つのメインプロセッサ16aに接続することにより、メインプロセッサ16aの負荷を軽減することができる。
【0138】
図29は制御機構15の詳細な構成の一例を示す図である。図29に示すように、測定制御機構本体15aは、ローカルバス17に接続された初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155を有する。
【0139】
初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155は、それぞれメインプロセッサ16aにより設定可能な初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作モードを格納する。これら初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作モードが設定されるとデータ測定動作が開始される。
【0140】
初期値、刻み値及び終了値は、電圧パターン発生回路510で発生させる電圧パターンの電圧値に相当する値を示しており、初期値から終了値まで刻み値毎にデジタル値として電圧パターンが設定される。例えば、時間tから時間tまで所定の波形の電圧パターンを生成する場合、時間tにおける電圧値は初期値に相当し、その時間tから測定時間間隔Δt毎に刻み値だけ電圧値が変動していき、このような電圧値が終了値まで刻み続けられる。
【0141】
セレクタ158は、初期値レジスタの出力値と加算器156の出力値のうち、測定開始時のみ初期値を選択して出力し、次データからは加算器156の加算結果を選択して出力する。このセレクタ158の出力値がタイミング発生器161からの出力信号に同期して測定系12の電圧パターン発生回路510に出力される。電圧パターン発生回路510は、セレクタ158からの出力値に相当する電圧値の電圧を発生させる。これにより、前述した図21(a)に示す電圧波形の電圧パターンを発生させることができる。
【0142】
加算レジスタ157は、セレクタ158の出力値をタイミング発生器161の出力信号に同期して一時格納する。
【0143】
加算器156は、初期値レジスタ151の初期値に刻み値レジスタ152の刻み値を加算してセレクタ158及び比較器159に出力する。加算レジスタ157に格納されている値は測定系12に出力される電圧値に相当するため、加算器156はその測定系12への出力電圧値に刻み値を加算した電圧値に相当する値を出力する。比較器159は、加算器156の加算結果と終了値レジスタ153からの終了値を比較し、加算結果が終了値を超えた場合にカウンタ160にカウントの終了を示す信号を出力する。
【0144】
カウンタ160は、インターバルレジスタ154からの測定時間間隔で定められた時間期間だけ動作設定レジスタ155からの動作設定モードに基づき、比較器159からカウントの終了を信号が入力されるまでクロックをカウントし続ける。動作設定モードには、例えば作用極の同時測定個数に応じて単独測定モード、4極設定モード、8極設定モードなどが設定可能である。例えば単独測定モードが設定されている場合、カウンタ160は測定時間間隔で定められた時間期間だけカウントをし、カウント値をタイミング発生器161に出力する。4極設定モードが設定されている場合、測定時間間隔を4分割した時間期間ごとにカウントして、カウント値をタイミング発生器161に出力する。このように、複数極設定モードが設定されている場合には、測定時間間隔をその極数分だけ分割した時間期間ごとにカウントする。
【0145】
タイミング発生器161は、クロックをカウントしながらカウンタ160からのカウント値の出力タイミングに同期してアドレス信号及び書込信号をデータメモリ15bに出力する。また、タイミング発生器161は、動作設定レジスタ155からの動作設定モードに応じて信号検出部162の信号切替部163を切り替える。
【0146】
信号切替部163には、測定系12の複数の作用極501の端子Oの各々に接続されている。複数の作用極501で同時に端子Oから挿入剤による電気化学信号が検出できるが、この信号切替部163により、複数の作用極501からの電気化学信号を選択的に検出することができる。
【0147】
信号検出部162は、タイミング発生器161により制御された信号切替部163で切り替えられた作用極501からの電気化学信号をAD変換してデータバス164を介してデータメモリ15bに出力する。これにより、データメモリ15bには、タイミング発生器161からの書込信号が入力されるごとにその書込信号ごとに与えられたアドレス位置にデータバス164からのデータを順次書き込むことができる。
【0148】
例えば単極設定モードの場合、測定時間間隔が10msecであれば、タイミング発生器161から書込信号及び1つのアドレスが10msecに1度データメモリ15bに出力されるとともに、信号検出部162からデータバス15bを介して電気化学信号のデジタル変換値が1つデータメモリ15bに出力される。
【0149】
4極設定モードの場合、測定時間間隔が10msecであれば、タイミング発生器161から書込信号および4つのアドレスが10msecに4度データメモリ15bに出力されるとともに、信号検出部162からデータバス15bを介して電気化学信号のデジタル変換値が4つシーケンシャルにデータメモリ15bに出力される。これにより、測定時間間隔ごとにほぼ同時に検出された電気化学信号をデータとして格納できる。
【0150】
なお、測定の精度を向上させるため、複数極設定モードの場合に、測定時間間隔を等間隔に分割したタイミングに同期させずに、複数の作用極501からの信号検出のタイミングを短縮することもできる。例えば、信号切替部163の切替信号を測定時間間隔の中のわずかな時間に複数生成することにより、測定時間間隔に左右されない測定精度を保持することができる。例えば測定時間間隔が10msecであれば、最初の9msecまでは切替信号を生成せず、9msecから10msecまでの1msecに4つの切替信号を生成して信号切替部163に出力するようにタイミング発生器161をプログラムしておく。これにより、4つの作用極501からの電気化学信号を1msec内に検出することができる。従って、測定時間間隔を長く設定してもそれによる測定時間間隔のばらつきが生じず、高い精度を保持できる。
【0151】
データメモリ15bに格納された測定データはコンピュータ16のメインプロセッサ16aにより読み出され、各種信号解析に用いられる。
【0152】
このように、測定された複数の電気化学信号をタイミング発生器161により測定時間間隔よりも短時間で切り替えて選択的に検出することで、作用極501の各々の信号をほぼ同時に測定することができる。
【0153】
次に、測定データに基づきコンピュータ16により信号解析を行う測定データ解析手法の一例を説明する。ここでは、ターゲットDNAのSNP位置の塩基がG型(ホモ型)か、T型(ホモ型)か、あるいはGT型(ヘテロ型)かを判定する型判定の解析手法を図30のフローチャートを用いて説明する。なお、図1や図28などでは特に示していないが、コンピュータ16のメインプロセッサ16aは、型判定フィルタリング、型判定処理、判定結果出力などを行うための複数の指令からなる解析プログラムを実行することにより、型判定フィルタリング、型判定処理、判定結果出力を実行する。また、前述した制御機構15の制御は、別途制御プログラムが設けられている。これら解析プログラムや制御プログラムは、コンピュータ16に設けられた記録媒体読取装置が記録媒体に格納された解析プログラムを読み取ることにより実行されてもよいし、コンピュータ16に設けられた磁気ディスクなどの記憶装置から読み出されて実行されてもよい。
【0154】
この測定データ解析を行う前提として、まず、検出の目的とされる標的塩基配列をSNP位置の塩基をA,G,C,Tとして4種類用意し、その標的塩基配列と相補的な塩基配列を有する標的相補DNAプローブを各種類について複数ずつ各作用極501に固定化させる。また、これら4種類の標的相補DNAプローブとは異なる塩基配列を有するDNAプローブ(以下、ネガティブコントロールと称する)を別の作用極501に複数固定化させる(s61)。なお、作用極501に固定化されるDNAプローブの種類は原則1つである。
【0155】
次に、上述した標的相補DNAプローブが固定化された塩基配列検出チップに検体DNAプローブを含む試料を注入してハイブリダイゼーション反応などを生じさせ(s62)、バッファによる洗浄、挿入剤の導入による電気化学反応を経て測定系12を用いて代表電流値を算出する(s63)。
【0156】
代表電流値とは、各DNAプローブのハイブリダイゼーション反応の発生を定量的に把握するために有効な数値を指し、一例としては、検出される信号の電流値の最大値(ピーク電流値)などが該当する。ピーク電流値の算出は、各作用極501上に固定化されたDNAプローブにハイブリダイゼーションした2本鎖DNAに結合した挿入剤からの酸化電流信号を測定し、その電流値のピークを得ることで導出される。ピーク電流値の検出には、挿入剤からの酸化電流信号以外のバックグラウンド電流を差し引くことにより行うのが望ましい。
【0157】
もちろん、信号処理の精度や目的に応じていかなる値を代表電流値と定めてもよいが、例えば酸化電流信号の積分値などが該当する。もちろん、電流値に限らず、電圧値、これら電流や電圧に対して数値解析処理を行った値などを代表値と定めることもできる。
【0158】
SNP位置の塩基をA,G,C,T型とした標的DNAに関する測定データ、すなわち代表電流値をそれぞれX、X、X、Xと定義し、ネガティブコントロールのDNAプローブの代表電流値をXと定義する。また、代表電流値は、各種別に応じて複数得られるので、それぞれを互いに識別すべく、1番目のXをXa1、2番目のXaをXa2、…というように定義する。
【0159】
また、SNP位置の塩基をA,G,C,T型としたターゲットDNAの得られる代表電流値の個数をn、n、n、n個、ネガティブコントロールについて得られる代表電流値の個数をn個と定義する。
【0160】
次に、得られた代表電流値X、X、X、X、Xのうち、明らかに異常なデータを除去すべく、型判定フィルタリング処理を実行する(s64)。
【0161】
この型判定フィルタリング処理のフローチャートを図31に示す。この図31の型判定フィルタリング処理は、X、X、X、X、Xについてそれぞれ別個に行われる。例えばXを例にとると、Xについて得られたn個の代表電流値のうち、明らかに異常なデータと思われる代表電流値をこの型判定フィルタリングで排除する。X、X、X、Xについても同様に行われる。
【0162】
なお、この図31の説明では、データ種別に応じて同様の処理が行われるため、Xのフィルタリングを例に説明する。
【0163】
具体的には、図31に示すように、まず測定グループまず測定グループの全測定データの設定、すなわちデータセットの設定を行う(s81)。例えばXであれば、Xa1、Xa2、…、Xanaをデータセットとして設定する。
【0164】
次に、これら測定データXa1、Xa2、…、XanaについてのCV値(以下、CV)を算出する(s82)。このCVは、測定データXa1、Xa2、…、Xanaの標準偏差を平均値で除算することにより得られる。そして、得られた値CVが10%、すなわち0.1以上か否かを判定する(s83)。
【0165】
10%以上であれば、測定データのうち最小値を除いたna−1個のデータセットのCV値(以下、CV)を算出する(s84)。10%未満であれば、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。
【0166】
CVを算出した後、CV≧2×CVか否かを判定する(s85)。この不等式が成立すれば、(s86)に進み、さらに測定データのうち最小値を除いたna−2個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。
【0167】
不等式が成立しなければ、最小値側ではなく最大値側に異常なデータがあると判定し、測定データのうち最大値を除いたna−2個のデータセットのCV値(以下、CV)を算出する(s87)。そして、CV≧2×CVが成立するか否かを判定する(s88)。成立すれば、さらに測定データのうち最大値を除いたna−3個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。成立しなければ、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。
【0168】
以上に示した型判定フィルタリングをX、X、X、Xについても行う。
【0169】
次に、得られた型判定フィルタリング結果を用いて型判定処理を実行する(s65)。この型判定処理の一例を図32のフローチャートを用いて説明する。なお、図32の例では、ターゲットDNAのSNP位置の塩基がG型か、T型か、あるいはGT型かを判定する型判定の場合を示している。また、この型判定処理は、大別して最大グループ判定アルゴリズム、2標本t検定アルゴリズムからなる。
【0170】
図32に示すように、まず各グループ毎の代表電流値の平均値を抽出する(s91)。グループとは、X、X、X、X、Xなど、標的塩基配列が異なるものは別グループ、標的塩基配列が一致するものは同一グループとする。(s64)で型判定フィルタリングにより明らかに異常なデータが排除された測定データが抽出される。もちろん、(s64)の型判定フィルタリング以外のフィルタリングにより以上データを排除した測定データを抽出してもよいし、何らフィルタリングを行わない測定データを抽出してもよい。なお、代表電流値の平均値ではなく、これら統計値から統計処理して得られた別の統計処理値を求めてもよい。
【0171】
標的DNAのSNP位置の塩基がA,G,C,Tの場合をそれぞれグループA〜T、ネガティブコントロールをグループNとして説明する。また、得られた平均値をX、X、X、X、Xそれぞれのグループについて、M、M、M、M、Mとする。
【0172】
次に、得られた平均値M、M、M、M、Mについて、最大はグループGの平均値Mか否かを判定する(s92)。最大であれば(s93)へ、最大でなければ(s97)に進む。
【0173】
(s97)では、平均値M、M、M、M、Mについて、最大はグループTの平均値Mか否かを判定する。最大であれば(s98)へ、最大でなければグループG、Tともに最大でないこととなり、判定不能として再検査が行われる。
【0174】
(s93)では、グループGの測定データXg1、Xg2、…と、グループNの測定データXn1、Xn2、…との間に差があるか否かを判定する。差があるか否かは、例えば2標本t検定が用いられる。具体的には、2標本T検定で求めた確率Pと有意水準αとの代表関係を比較し、
H0:P≧αならば、有意差無し(帰無仮説)
H1:P<αならば、有意差あり(対立仮説)
と判定する。有意水準αは、コンピュータ16を用いてユーザが設定できる。この(s93)の例では、グループGの測定データとグループNの測定データの値に差があるかというH1の設問を提起し、この設問に対し、これら2つのグループの間に差が無いと仮定するH0という仮説を設定する。そして、グループGの測定データの平均値MとグループNの測定データの平均値Mに2つのグループの差が要約されているとして、確率を求める。確率の算出は、グループGの統計値Xg1、Xg2、…とグループNの統計値Xn1,Xn2、…に基づき統計定数t、自由度φを算出し、t分布の確率密度変数の積分値から確率Pを求める。
【0175】
得られた確率Pについて、P≧αなら、H0を棄却できず、判定を保留する。すなわち、差が無いと判定する。P<αならH0を棄却し仮説H1を採用し、差があると判定する。
【0176】
このようにして判定結果が「差がある」と判定された場合には(s94)に進み、「差が無い」と判定された場合には判定不能として再検査される。
【0177】
(s94)では、グループGとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s95)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。
【0178】
(s95)では、グループGとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s96)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。
【0179】
(s96)では、グループGとグループTについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループG型と決定する。グループG型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループG型が平均値最大であるが、グループG型とグループT型に測定結果に差が無いからである。
【0180】
(s98)では、グループTとグループNについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s99)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。
【0181】
(s99)では、グループTとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s100)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。
【0182】
(s100)では、グループTとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s101)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。
【0183】
(s101)では、グループTとグループGについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループT型と決定する。グループT型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループT型が平均値最大であるが、グループT型とグループG型に測定結果に差が無いからである。
【0184】
以上の判定結果はコンピュータ16に設けられた図示しない表示装置に表示される(s66)。このような型判定アルゴリズムを用いることにより、ヘテロ型の判定をすることが可能となる。
【0185】
なお、図30〜図32では、G型、T型あるいはGT型のいずれに該当するかを判定する手法を示したが、A型,G型,C型,T型のうちのいずれか2つの型、あるいはそれらのヘテロの判定に適用できることはもちろんである。また、必ずしもA型,G型,C型,T型のグループの4種類について測定データを取得する必要は無く、SNPの考えられ得る2つの塩基に関する2グループのみについて取得するのみでもよいし、その2グループにネガティブコントロールの1グループを加えてもよい。
【0186】
前述した塩基配列検出装置を用いた塩基配列の自動解析手法について図33のシーケンス図を用いて説明する。
【0187】
図33に示すように、まずコンピュータ16を用いて自動解析のための自動解析条件パラメータの設定を行い、設定された自動解析条件パラメータに基づく自動解析の実行をコンピュータ16にユーザが指示する(s301)。自動解析条件パラメータは、制御機構15を制御するための制御パラメータである。制御機構15で用いられる制御パラメータは、測定系12を制御するための測定系制御パラメータ、送液系13を制御するための送液系制御パラメータ、温度制御機構14を制御するための温度制御機構制御パラメータからなる。
【0188】
測定系制御パラメータは、前述した図29に示す初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155に格納される入力設定パラメータであり、初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作モードからなる。
【0189】
送液系制御パラメータは、図17に示す電磁弁403,413,423,433,441,442,444,445,451,453,463を制御する電磁弁制御パラメータ、液センサ443,447を制御するセンサ制御パラメータ、ポンプ454を制御するポンプ制御パラメータを有する。これら電磁弁制御パラメータ、センサ制御パラメータ、ポンプ制御パラメータは、図18の(s22)〜(s36)に示すような一連の工程をシーケンシャルに実行するための条件として、制御対象の制御量、制御対象の制御タイミング、制御対象を制御する制御条件などをパラメータの詳細として含む。
【0190】
温度制御パラメータは、原則として送液系制御パラメータに付随して与えられるものである。すなわち、送液系制御パラメータを設定することにより、送液系13の動作に対応して温度制御パラメータが設定される。これにより、送液系13と連動した温度制御機構14の温度制御が可能になる。
【0191】
自動解析の実行により、自動解析条件パラメータは、制御機構15に送信される(s302)。制御機構15は、受信した自動解析条件パラメータのうち、測定系制御パラメータに基づき測定系12を制御し、送液系制御パラメータに基づき送液系13を制御し、温度制御機構制御パラメータに基づき温度制御機構14を制御する。また、制御機構15はこれら測定系12,送液系13及び温度制御機構14を制御するタイミングを各制御パラメータに含まれる制御タイミングや制御条件に基づき管理する。従って、制御のシーケンスはユーザにより設定された自動解析条件パラメータにより自由に定められるが、この図33では代表的な一例について説明する。
【0192】
なお、この自動解析とは別に、ユーザはチップカートリッジ11を用意する。これはまず所望のDNAプローブが作用極501に固定化された塩基配列検出チップ21が封止されたプリント基板22を基板固定ねじ25によりチップカートリッジ11の支持体111に固定化し、チップカートリッジ11への取り付けを行っている(s401)。そして、上蓋固定ねじ117によりシール材24aが一体化されたチップカートリッジ上蓋112と支持体111を固定化し、セル115が形成された状態で準備されている(s402)。チップカートリッジ11に対して、試料注入口119から試料を注入する(s403)。チップカートリッジ11を装置本体に装着して、開始操作を行うことにより、ハイブリダイゼーション反応(s21)が開始される。なお、注入する試料の容量は、セル115の容積よりも若干多い量にするのが望ましい。これにより、セル115内をエア残り無く試料で完全に充填することができる。
【0193】
制御機構15は、コンピュータ16から受信した測定系制御パラメータに基づき測定系のタイミングの制御を開始する(s303)。
【0194】
また、制御機構15は、コンピュータ16から受信した送液系制御パラメータに基づき送液系13の各構成要素を順次制御する(s304)。また、図33では特に図示しないが、この送液系13の制御と連動して、温度制御機構制御パラメータに基づき温度制御機構14の温度制御を行う。この制御により、送液系13は図18の(s21)〜(s36)(s34を除く)に示したハイブリダイゼーション反応を含む送液工程を自動実行する(s305)とともに、その送液工程で指定された温度に塩基配列検出チップ21が設定されるように温度制御機構14を自動制御する。
【0195】
制御機構15は、この送液工程の中途の(s34)の測定工程のタイミングに同期して測定系12に測定指令を行う(s305)。すなわち、送液工程の(s34)の測定工程のタイミングで、制御機構15の初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155に初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作設定モードを格納する。なお、前述の(s303)の測定系タイミング制御をこの(s305)と同時に行わせてもよい。
【0196】
測定系12は、この測定指令に基づき例えば電圧パターンを発生させて測定を行い(s306)、得られた測定信号は端子Oから制御機構15に出力される(s307)。制御機構15は、受信した測定信号を信号処理し、測定データとしてデータメモリ15bに格納する(s308)。この測定データは、コンピュータ16にローカルバス17を介して出力される(s309)。コンピュータ16はこの測定データを受信する(s310)。
【0197】
このようにして必要な測定データが得られると、コンピュータ16は測定データに基づき図31で示される(s64)の型判定フィルタリングを実行する。型判定フィルタリングが終了すると、フィルタリングされたデータに基づき図32に示される型判定処理を実行する(s65)。最後に、得られた判定処理結果をコンピュータ16に備え付けの表示装置に表示する(s66)。
【0198】
このように本実施形態によれば、作用極、対極及び参照極からなる3電極系のそれぞれに対して反応環境が均一となるため、薬液の流速が各電極上で一定であり、流路内における電気化学反応の均一性が向上し、その結果検出結果の信頼性が向上する。また、各作用極に対して対極及び参照極を異なる平面に配置することで、作用極に敷設密度を高くできる。また、DNAプローブを作用極501に固定化する際に、対極502や参照極503を汚染する心配が無い。
【0199】
また、検体DNA溶液をチップカートリッジ11に注入した後は、ハイブリダイゼーションから、バッファ溶液による非特異吸着DNAの洗浄、挿入剤の注入、電気化学測定、測定データの格納、測定データに基づく標的塩基配列の判定までを、自動で行うことができる。これにより、検出信号の再現性・検出精度を向上させ、結果導出までの時間を短縮できる。
【0200】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0201】
作用極501に固定化するプローブはDNAプローブとする場合を示したが、DNA以外の他の核酸からなるプローブでもよいし、核酸以外でも所定の塩基配列を有するプローブであればよい。
【0202】
コンピュータ16と制御機構15の処理の分担は上述したものに限定されない。例えば、測定系12、送液系13、温度制御機構14がコンピュータ16からの指令を解釈し各構成要素を実行するプロセッサを有していれば、制御機構15は省略されてもよい。この場合、図29に示すような制御機構15の機能はコンピュータ16が実行する。
【0203】
測定系12、送液系13、温度制御機構14のタイミングの管理は、これら測定系12、送液系13、温度制御機構14がタイミングを管理するプロセッサを有していれば、そのプロセッサの管理するタイミングに基づき各処理を実行する。この場合、コンピュータ16はこれら測定系12、送液系13,温度制御機構14に自動解析条件パラメータを送信すれば、タイミングを管理する必要が無い。
【0204】
また、コンピュータ16が測定系12、送液系13,温度制御機構14、制御機構15のタイミング制御を行ってもよい。
【0205】
また、試料注入口119は送出ポート116bに連通させる例を示したが、送入ポート116aに連通させるようにしてもよい。また、塩基配列検出チップ21上の作用極501やボンディングパッド221はTiやAuの積層構造で示したが、他の材料を用いた電極やパッドを用いてもよい。また、作用極501の配置は図16に示したものに限定されない。作用極501、対極502、参照極503の各々の電極数も図示したものに限定されない。
【0206】
また、送液系13は図17に示したものに限定されない。例えば、反応の種類に応じてエア、ミリQ水、バッファ、挿入剤以外の薬液や気体を供給する供給系を付加することにより、セル115内におけるより複雑な反応を実行させることができる。また、各配管同士の薬液やエアの供給経路、供給量の制御は、電磁弁以外で行ってもよい。図18に示した送液系13の動作はほんの一例にすぎず、反応の目的などに応じて種々変更することができる。
【0207】
また、図30〜図32では、この塩基配列自動解析装置1を型判定に用いる場合を示したが、ほんの一例にすぎず、他の解析目的に用いられてもよい。また、図33に示した自動化手法もほんの一例にすぎず、チップカートリッジ11、測定系12、送液系13,温度制御機構及び制御機構15の構成を種々変更することによりその自動化シーケンスも種々変更される。
【0208】
また、塩基配列検出チップ21とチップカートリッジ上蓋112側の関係を上下逆転させて用いてもよい。
【0209】
また、流路601a〜601dは図5(b)に示したような配置に限定されない。例えば検出用流路601aがセル孔部115aと115bを結んだ直線に平行に配列されるようにしてもよいし、各流路601a〜601dは直線ではなく曲線状の流路であってもよい。更に、送入ポート116a及び送出ポート116bが、セル底面に対して垂直に伸びている例を示したが、これに限定されるものではなく、セル底面に対して平行に伸びる構成になっていてもよい。
【0210】
(第2実施形態)
本実施形態は第1実施形態の変形例に係わる。本実施形態は、第1実施形態の図1に示した塩基配列自動解析装置1の構成の変形例に係わる。以下、本実施形態において特に言及しない構成については、第1実施形態と同様の構成であり、詳細な説明は省略する。
【0211】
図35は本実施形態に係る塩基配列自動解析装置700の全体構成を示す図である。この塩基配列自動解析装置700は、筺体701とコンピュータ16からなる。筺体701は、図1のチップカートリッジ11、測定系12、送液系13、温度制御機構14及び制御機構15の構成に相当する。
【0212】
筺体701の正面所定部位には2つのスライドステージ702a及び702bが設けられている。このスライドステージ702a及び702bの各々には、カセット装着溝792が設けられている。このカセット装着溝792にカセット703を配置することにより、スライドステージ702a及び702bに位置決めされてカセット703を配置することができる。具体的には、スライドステージ702a及び702bは筺体701に対して相対的に水平方向にスライドするように構成されている。このスライド動作は、スライド動作ボタン704a及び704bを用いて行うことができる。スライド動作ボタン704a及び704bを押すと、スライド指示信号が制御機構15に伝えられる。このスライド指示信号を受け、制御機構15は不図示のステージ駆動機構891を駆動させてスライドステージ702a、702bをスライドさせることができる。図73は制御機構15と各構成要素との機能ブロック図の一例を示してある。
【0213】
また、筺体701の正面の別の部位には、表示部893が設けられている。この表示部893には、制御機構15で検出されたカセット種類、カセット有無、シール有無、スライドステージ駆動状態(トレイのオープン/クローズの別)、カム回転状態(回転の有無など)、バルブユニット・プローブユニット駆動状態(ノズル・電気コネクタの位置決めの有無など)及び検査工程進捗状況などの情報を制御機構15からの指令に基づき表示することができる。
【0214】
スライドステージ702a及び702bが筺体701内に収容されている際にスライド動作ボタン704a及び704bが押されると、スライドステージ702a及び702bが筺体701内から図35の矢印の方向にスライドし、カセット装着溝792が筺体701からカセット703を取り出し、あるいはカセット703をカセット装着溝792に設置することができる。カセット703をカセット装着溝792に設置した後にスライド動作ボタン704a及び704bが押されると、スライドステージ702a及び702bは図35の矢印とは逆方向にスライドして筺体701内に収容される。
【0215】
筺体701内では、カセット703のノズル差込孔722及び723にノズル707a、707b、708a、708bが挿着され、かつ電気コネクタ用ポート724及び725に電気コネクタ730が挿着されて塩基配列検出動作が実行される。
【0216】
ノズル707a及び708aは、スライドステージ702a側のバルブユニット705aに設けられている。ノズル707b及び708bは、スライドステージ702b側のバルブユニット705bに設けられている。電気コネクタ730は、スライドステージ702aと702b双方のプローブユニット710a及び710bに設けられている。
【0217】
図57は電気コネクタ730を含むプローブユニット710aの構成の一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。例えばガラスエポキシ基板などからなるプローブユニット710aに、2つの電気コネクタ730が所定の間隔をおいて配置されている。電気コネクタ730の先端には、複数の凸状電極730aが基板714上のパッドと同じ配列によりマトリクス状に配置されており、これら各凸状電極730aが基板714上のパッドと接触することにより、基板714とプローブユニット710aとの電気的接続が確保される。また、電気コネクタ730内には配線が設けられており、各凸状電極730aと制御機構15がこの配線により電気的に接続される。
【0218】
図58はノズル707a、708a、電気コネクタ730などの駆動系とカセット703の側面図である。同図ではスライドステージ702a側の構成に着目しているが、スライドステージ702b側の構成も共通する。
【0219】
バルブユニット705aにはプローブユニット710aが一体的に形成され、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706aによりこれらバルブユニット705a及びプローブユニット710aが同時に駆動される。バルブユニット・プローブユニット駆動機構706aは制御機構15からの指示により駆動する。バルブユニット・プローブユニット駆動機構706aは、図58の矢印で示すように、昇降方向と水平方向の2つの駆動方向を有する。これにより、スライドステージ702a側のカセット703の上部に対してノズル707a、708a及び電気コネクタ703が水平方向に移動し、かつ降下することにより、ノズル707a及び708aがノズル差込孔722及び723に位置決めされ、かつ電気コネクタ703が電気コネクタ用ポート724及び725に位置決めされる。また、スライドステージ702b側も同様に、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706bを駆動することにより、ノズル707b及び708b、電気コネクタ703がそれぞれノズル差込孔722及び723、電気コネクタ用ポート724及び725に位置決めされる。これにより、送液系とカセット703内の流路が連通する。また、電気コネクタ730がカセット703のパッドに位置決めされ、パッドと電気コネクタ730が電気的に接続される。
【0220】
この状態で図示しない送液機構からノズル707a及び707bを介して薬液等を供給し、ノズル708a及び708bを介して薬液等を排出することができる。また、電気コネクタ730は測定系12にも電気的に接続されている。これにより、電気コネクタ730を通じて、基板714に電圧を印加し、電流を検知することにより、電気化学的測定を行うことができる。カセット703を筺体701内から取り出す場合には、スライド動作ボタン704a及び704bを押すことにより、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706a及び706bがバルブユニット705a及び705bを駆動して上昇させてからスライドステージ702a及び702bを図35の矢印の方向にスライドさせ、カセット703を取り出すことができる。
【0221】
ここでは、バルブユニット705と、プローブユニット710とを一体的に形成した例を示したが、必ずしもその限りではない。バルブユニット705とプローブユニット710を別々に形成し、別の昇降駆動機構により、昇降させても良い。また、ここでは、基板714に対して、プローブDNAが固定されている3電極系761と、パッド762及び763が同一面上に形成させている場合を示しているが、基板714に対して上面に3電極系761が形成されており、パッドが762及び763それに対して反対側の面に形成されている場合には、バルブユニット705はカセット703に対して上側に、そしてプローブユニット710は下側に設置されることになる。その場合には、必然的に、バルブユニット705とプローブユニット710は一体的に形成されるわけではなくなる。
【0222】
図35では図示しないが、塩基配列自動解析装置700内には、カセット703内の塩基配列検出チップからの電気信号を取り出し、あるいは信号を送るための測定系12や、温度制御機構14、制御機構15などが設けられている。そして、塩基配列自動解析装置700内の制御機構15はコンピュータ16に接続されている。
【0223】
図56はカセット703装着時の塩基配列自動解析装置700の構成の一例を示す図である。スライド動作ボタン704a及び704bを押すことによりスライドステージ702a及び702bが筺体701外方向にスライドして所定の深さの溝状のカセット装着溝792が筺体701外に現れる。このカセット装着溝792には、温調機構720、位置決めピン709a及び709b、カセット種類判別用ピン789が設けられている。
【0224】
温調機構720は例えばペルティエ素子が用いられる。位置決めピン709a及び709bに後述するカセット位置決め孔728a,728bが挿通し、かつ温調用窓部743に温調機構720が位置決めされるようにカセット703を装着する。このカセット装着状態では、マイクロスイッチ811がカセット703により押圧されることにより、カセット703が装着されていることを検知する。マイクロスイッチ811は制御機構15に接続されており、そのスイッチの切替状態は制御機構15で常時確認できる。
【0225】
図69はマイクロスイッチ811の検知動作を説明するための図である。図69(a)に示すように、スライドステージ702aのカセット装着溝792の表面にはマイクロスイッチ811が設けられている。このマイクロスイッチ811は、カセット703が装着されていない状態では、カセット装着溝792の表面から突出し、カセット装着により、図69(b)に示すようにカセット703によりマイクロスイッチ811は押し下げられる。この押し下げ動作をマイクロスイッチ811に接続された制御機構15が検知する。カセット703をカセット装着溝792から取り出すと、マイクロスイッチ811は溝表面から突出した図69(a)に示す状態に戻り、繰り返しカセット装着を検知することができる。
【0226】
また、このマイクロスイッチ811と同様の原理により、カセット種類判別用ピン789がその押し下げの有無を検知することにより、カセットの種類が判別される。カセット703にカセット種類判別用孔749が設けられている場合には、カセット装着によりカセット種類判別用ピン789を押し下げられず、カセット種類判別用孔749が設けられていない場合には、カセット703が装着されてもカセット種類判別用ピン789は押し下げられる。このカセット種類判別用ピン789の押し下げの有無を示す信号は制御機構15に出力される。制御機構15は、このピン押し下げの有無を示す信号に基づき、カセットの種類を判別できる。なお、カセット種類判別用ピン789の押し下げの程度を段階的に検知するセンサを設けておけば、複数のカセット種類を判別するようにすることもできる。この場合、カセット種類判別用孔749の深さを判別可能な押し下げ程度にあわせて調整して形成すればよい。
【0227】
カセット装着後、スライド動作ボタン704a及び704bを押すことによりスライドステージ702a及び702bが筺体701内方向(図56の矢印に示す方向)にスライドし、カセット703が筺体701内に収容される。
【0228】
図36はカセット703の概観斜視図である。カセット703は、カセット上蓋711、カセット下蓋712、パッキン713(シール部材)及び基板714からなる。カセット上蓋711及びカセット下蓋712の内表面同士を対向させ、かつこれらカセット上蓋711及びカセット下蓋712の間にパッキン713及び基板714を狭んだ状態で固定する。これによりカセット703が完成する。
【0229】
カセット上蓋711の外表面721から内表面729にかけて、断面が略円形のノズル差込孔722及び723が貫通して形成されている。このノズル差込孔722及び723の内径はノズル707及び708、送入及び送出ポート752及び753の外径よりも若干大きく設定されており、例えば3.2mm程度である。
【0230】
また、外表面721から内表面729にかけて断面が略長方形の電気コネクタ用ポート724及び725が貫通して形成されている。この電気コネクタ用ポート724及び725の各々には、後述する電気コネクタ730が挿着され使用される。
【0231】
また、外表面721には内表面729にかけてシール検出孔726が貫通して形成されている。このシール検出孔726は、シール750の有無の検出に用いられる。図67(a)はカセットへの試料注入時にシール750が貼付された状態を示す図、図67(b)はカセットに試料を注入した後にシール750が剥がされた状態を示す図である。シール検出孔726、電気コネクタ用ポート724及び725は、図67(a)の状態ではシール750により覆われ、図67(b)の状態ではシール750がなく露出している。図67(a)に示すように、シール750は、カセット703の外表面721のシール検出孔726の表面から電気コネクタ用ポート724及び725の表面にかけて貼付されている。カセット703には、シール750が貼付された状態で、試料を注入する。このようにすることにより、たとえ試料溶液が誤って電気コネクタポート724もしくは725上に滴下しても、シール750で被覆されているため、実際のポート724もしくは725内には液が侵入することがなく、電気的に短絡してしまう等の不具合を発生させる心配を生じない。そして、試料注入後に、シール750を剥がすという手順としている。
【0232】
図68はこのシール検出孔726のシールの有無を検出するための機構の一例を示す図である。図68に示すように、スライドステージ702aが筺体701内に収容された位置で、検出光通過孔702eとシール検出孔726を検出光が通過するように例えばLEDなどの検出光照射手段812及び例えばフォトセンサなどの検出光センサ813が配置されている。すなわち、スライドステージ702a収容時に検出光の光路上に検出光通過孔702eとシール検出孔726が位置するように、かつカセット703を挟んで検出光照射手段812及び検出光センサ813が対向して配置されている。
【0233】
これら検出光照射手段812及び検出光センサ813は、筺体701に固定配置されていてもよいし、検出光照射手段812のみ筺体701に固定配置され、検出光センサ813はスライドステージ702aに固定配置されていてもよい。また、検出光照射手段812及び検出光センサ813は制御機構15からの指示に基づき検出光を照射し、検出光を検出して検出信号を制御機構15に出力する。
【0234】
スライドステージ702aの溝表面から底面にかけて貫通形成された検出光通過孔702eとシール検出孔726を通過するように検出光を照射する。光検出センサ813は、検出光通過孔702eとシール検出孔726を通過した光を検出する。検出信号は制御機構15に伝えられる。
【0235】
シール750がカセット703に貼付された図67(a)の場合には、検出光はシール750によりしゃ断されて検出光センサ813で検出光を検出することはできない。シール750が剥がされた図67(b)の場合には、検出光はしゃ断されずに検出光センサ813で検出される。
【0236】
これにより、カセット703のシール750が剥がされているか否かを判別することができる。すなわち、シール750を剥がし忘れたままカセット703をステージ上にセットしても、ノズル707a、707b、708a及び707b、電気コネクタ730が降下してシール750に接触しないようになっている。
【0237】
図37はカセット上蓋711を内表面729側から見た斜視図である。
【0238】
内表面729側には、所定の深さでかつ基板714の断面形状とほぼ同じ断面形状を有する基板位置決め溝731が設けられており、この基板位置決め溝731の周囲は内表面729で囲まれている。基板位置決め溝731はノズル差込孔722及び723、電気コネクタ用ポート724及び725にオーバーラップして形成されている。基板位置決め溝731にあわせて基板714をはめ込むことにより、基板714をカセット上蓋711に位置決め配置することができる。基板位置決め溝731の深さは基板714の厚さとほぼ同じになるように形成されている。
【0239】
内表面729側で基板位置決め溝731にオーバーラップして、基板位置決め溝731よりもさらに深いパッキン位置決め溝732が設けられており、このパッキン位置決め溝732の周囲は基板位置決め溝731で囲まれている。パッキン位置決め溝732はノズル差込孔722及び723にオーバーラップして形成されている。パッキン位置決め溝732にあわせてパッキン713をはめ込むことにより、パッキン713をカセット上蓋711に位置決め配置することができる。パッキン位置決め溝732の基板位置決め溝731に対する深さは後述するパッキン本体751の厚さとほぼ同じになるように形成されている。従って、パッキン位置決め溝732の内表面729に対する深さは、パッキン本体751の厚さに基板714の厚さを加算した厚さとほぼ同じになるように形成されている。
【0240】
内表面729の周縁部には4つのねじ孔727a、727b、727c及び727dが設けられている。これらねじ孔727a〜727dにより、カセット上蓋711とカセット下蓋712をねじ止めできる。
【0241】
内表面729の周縁部には2つのカセット位置決め孔728a及び728bが設けられている。このカセット位置決め孔728a及び728bを、スライドステージ702a及び702bの上に設けられた2つの位置決め用ピンにあわせてカセット703を配置することにより、スライドステージ702a及び702bに対してカセット703を位置決め配置することができる。
【0242】
図38はカセット下蓋712を外表面741から見た上面図である。外表面741から内表面742にかけて温調用窓部743が貫通して形成されている。温調用窓部743の内表面742側には基板714が配置されるが、スライドステージ702a及び702b上に設けられた温調機構720に、基板714が温調用窓部743を介して接して配置されることにより、基板714をカセット下蓋712側から温度調整可能になっている。
【0243】
外表面741にはバーコード744が設けられている。このバーコード744には、バーコード情報によりカセット703の識別番号が記入されている。この識別番号の記入されたバーコード744をバーコード読取手段により読み取ることにより、カセット703を識別可能である。
【0244】
また、外表面741にはシール検出孔746が貫通して形成されている。また、カセット下蓋712のシール検出孔746は、カセット上蓋711とカセット下蓋712が止着された状態で、カセット上蓋711のシール検出孔726と通じる位置に形成されている。これにより、カセット上蓋711とカセット下蓋712が止着された際に、カセット上蓋711からカセット下蓋712にかけて貫通したシール検出孔726が設けられ、このシール検出孔726に対して検出光を照射することにより、シール750の有無を判別できる。
【0245】
外表面741の周縁部には4つのねじ孔747a、747b、747c及び747dが設けられている。これらねじ孔747a〜747dとカセット上蓋711に設けられた対応するねじ孔727a〜727dの各々をねじ止めすることにより、カセット下蓋712をカセット上蓋711に止着することができる。
【0246】
外表面741の周縁部には2つのカセット位置決め孔748a及び748bが設けられている。このカセット位置決め孔748a及び748bを、スライドステージ702a及び702bの上に設けられた2つの位置決め用ピンにあわせてカセット703を配置することにより、スライドステージ702a及び702bに対してカセット703を位置決め配置することができる。
【0247】
また、749はカセット種類判別用孔であり、この孔の有無により、カセットの種類を判別できる。なお、種類判別は、カセット種類判別用ピン789の押し下げの有無により自動で行うことができる。カセット種類判別用ピン789のピンの押し下げ状態は、制御機構15で検知される。なお、以下の例ではカセット種類判別用孔749が設けられたカセット703を用いて説明するが、カセット種類判別用孔749が設けられていないカセット703を用いても、判別されるカセットの種類が異なるのみで同様の測定が可能である。もしくは、カセット703の種類が異なることを表示部893に制御機構15が表示させて警告して、測定工程に進まないように設計しておくことも出来る。あるいは、カセット種類判別用ピン789は固定された固定ピンを用いて、カセット種類判別用孔749が設けられていないカセット703は装着できないようにすることにより、誤ったカセット703をセットしないようにすることも出来る。
【0248】
図39はパッキン713の斜視図である。パッキン713は、ほぼ長方形で所定の厚さを有し、その4隅が切欠いて形成されたパッキン本体751と、このパッキン本体751の主面上であって長辺の両端近傍に位置し、かつ短辺の中央近傍に設けられた円筒形状の送入ポート752及び送出ポート753からなる。送入ポート752及び送出ポート753の先端には開口部754及び755が設けられている。この開口部754及び755からパッキン本体751にかけて、送入ポート752及び送出ポート753の軸心には、パッキン本体751の主面に対して垂直な方向に流路756及び757が設けられている。パッキン本体751の裏面には、送入ポート752の形成位置から送出ポート753の形成位置にかけて折れ曲がり形状の溝758が形成されている。パッキン本体751の裏面はほぼ平坦な面を有している。溝758は、流路756及び757と接続している。流路756、流路757及び溝758の断面積はほぼ等しい。
【0249】
図40はパッキン713の上面図である。溝758は、流路756から流路757の方向に進んだ後に所定の曲率でカーブし、折り返して再度流路757から流路756側に進む、というように、流路756と流路757との間で複数回交互に進行するように形成されている。また、溝758の折り返し地点を所定の曲率のカーブとすることにより、折り返し地点のコーナーなどが設けられた場合に発生する薬液やエアの滞留を抑制できる。
【0250】
図41は基板714の上面図である。基板714の主面には、3電極系761、パッド762及び763が形成されている。また、3電極系761とパッド762、3電極系761とパッド763は、図示しない配線により接続されている。3電極系761は第1実施形態で示した作用極、対極及び参照極の組合せからなる電極であり、その作用極にはDNAプローブが固定化される。
【0251】
図41では、基板714にパッキン713の配置を重ねて示してある。764がパッキン配置位置、765は流路形成位置である。3電極系761は、パッキン配置位置764でかつ流路形成位置765にあわせて形成されている。これにより、パッキン713と基板714がカセット上蓋711及びカセット下蓋712に位置決めされた状態で狭着固定された際には、溝758と基板714表面により流路が形成され、かつその流路表面には3電極系761が露出した構成となる。すなわち、3電極系761上は、溝758により間隙が設けられ、この間隙により流路が形成される。また、この状態では、パッキン713と基板714とはシールが保持される。
【0252】
また、766と767は、カセット上蓋711及びカセット下蓋712に狭着固定された場合に電気コネクタ用ポート724及び725が配置される領域である。この電気コネクタ接続位置766及び767内に形成されたパッド762及び763には、電気コネクタ用ポート724及び725を通して電気コネクタ730が接触配置される。これにより、3電極系761と電気コネクタ用ポート724を通して配置された電気コネクタ730とを、あるいは3電極系761と電気コネクタ用ポート725を通して配置された電気コネクタ730とを導通させることができる。
【0253】
パッキン配置位置764は、DNAプローブが固定され、電気化学反応によりハイブリダイゼーションの有無を検出するセンサ領域として機能し、パッド762及び763は、基板714からカセット703外部に電気信号を取り出すための電気的接触領域として機能する。これらセンサ領域と電気的接触領域は離間して配置されている
図42及び図43はそれぞれカセット上蓋711側あるいはカセット下蓋712側から見たカセット703の組立完成図である。
【0254】
まず、カセット上蓋711の内表面729のパッキン位置決め溝732にあわせて、かつノズル差込孔722及び723に送入ポート752及び送出ポート753が挿通するように、パッキン713をパッキン位置決め溝732に嵌挿する。次に、基板714を、その主面、すなわち3電極系761、パッド762及び763が形成された面がカセット上蓋711側に向くように、基板位置決め溝731に位置決め配置する。次に、カセット下蓋712を、その内表面742がカセット上蓋711側に向くように、またねじ孔747a〜747d及びねじ孔727a〜727dの位置が対応するようにカセット上蓋711上に載置する。そして、ねじ孔747a〜747d及びねじ孔727a〜727dにねじ770a〜770dを螺挿する。これにより、カセット上蓋711及びカセット下蓋712が螺着され、かつカセット上蓋711及びカセット下蓋712間にはパッキン713及び基板714が狭着固定され、カセット703が完成する。この完成した状態では、ノズル差込孔722からノズル差込孔723にかけて、開口部754、流路756、溝758、流路757、開口部755の順に連通した流路が形成される。
【0255】
なお、これら図42及び図43では、ねじ止めによりカセット上蓋711及びカセット下蓋712を固定する例を示したが、これに限定されない。例えば凹凸の部材を用いた係着手法を用いてもよい。図59は係着固定によるカセット821の構成の一例を示す図である。図59に示すように、カセット上蓋822には、その両側部にその内壁から外壁にかけて3つずつ計6つ係着用孔824が貫通形成されている。一方、カセット下蓋823には、その両側部の内表面上に、爪状の係着用部材825が3つずつ計6つ突設されている。係着用部材825と係着用孔824以外の構成は図42や図43に示したカセット上蓋711及びカセット下蓋712の構成と共通するので詳細な説明は省略する。
【0256】
各係着用部材825と各係着用孔824が、例えば図60(a)の一点鎖線で示される位置に係合することにより、図60(b)に示すようにカセット上蓋822とカセット下蓋823が係着固定される。
【0257】
図44は図42及び図43の手順に従って完成したカセット703側面の断面図である。図44に示されるように、カセット703には、合計3種類の開口が設けられている。
【0258】
第1の開口は、パッキン位置決め溝732、ノズル差込孔722及び723により形成された開口である。この第1の開口により、パッキン713の突起部(ポート)に相当する位置に、ノズル707が装着し、薬液やエアを送入及び送出できるとともに、試料溶液をピペット等で注入することができる。
【0259】
第2の開口は、第1の開口と同一面であってかつパッキン713が固定される部分から離間して形成され、電気コネクタ用ポート724及び725により形成された開口である。この第2の開口には、基板714から装置本体との電気的接触を得るためのパッド762及び763が並んで形成されており、装置本体に設置されているプローブユニット(電気コネクタ730)が挿入される。これにより、基板714上のパッドと電気的接触を得ることができる。
【0260】
第3の開口は、第1及び第2の開口とは基板714を挟んで反対側の面に形成され、パッキン713が固定される部分の裏面に相当する位置、すなわち第1の開口の裏面に開口している。この第3の開口により、温度制御機構14が基板714の裏面に直接接触し、基板714の温度を制御することができる。
【0261】
より具体的には、ノズル差込孔722にはノズル707が矢印の方向に圧接され、また電気コネクタ用ポート724及び725の各々には電気コネクタ730が挿着される。基板714の裏面側、すなわち3電極系761が形成されていない側は、温調用窓部743により露出しており、この露出面に温調機構720が接触するようにカセット703が702上に載置される。これにより、裏面側から基板714を温調することができる。
【0262】
図45はカセット703の流路の断面図を示す。ノズル707及びノズル708をノズル差込孔722及び723に挿通し、かつパッキン713の送入ポート752及び送出ポート753に圧接させる。これにより、ノズル707及びノズル708と送入ポート752及び送出ポート753が連通する。この状態で、ノズル707から薬液又はエアを供給すると、パッキン713内に設けられた溝758と基板714により形成された流路を通ってノズル708からこれら薬液又はエアが送出される。
【0263】
図46〜図51はパッキン713のポート先端形状の詳細な構成を示す図である。
【0264】
図46はポート先端形状の第1の例である。送入ポート752及び送出ポート753の先端部分の開口部754及び755の内径rが流路756及び757の内径rに比較して段階的に、すなわち非連続に太く形成されている。パッキン713の材質はシリコンゴムで、硬度は例えば60程度である。パッキン713は、金型を用いた射出成形によりパッキン本体751、送入ポート752及び送出ポート753、さらには各流路を含め一体で作製される。658の深さg(流路の高さに相当する)は0.7mm程度、幅wは1mm程度である。送入ポート752及び送出ポート753の高さhは4mm程度、外径Rは3mm程度である。また、内径r及びrはそれぞれ例えばr=2mm程度、r=1mm程度である。また、内径r部分の深さhは例えば0.5mm程度である。パッキン本体751の厚さhは3mm程度である。パッキン713と基板714が密着する面は、鏡面仕上げをしておくことが望ましい。
【0265】
なお、以下の第2の例以降では特に言及しない限り材質、硬度、作製方法、寸法等は共通する。
【0266】
図47はポート先端形状の第2の例である。送入ポート752及び送出ポート753の先端部分の開口部754の内径rは1mm程度で一定であり、その外径がRから先端にいくに従い連続的に細くなっており、最先端では内径rとほぼ同じ外径Rとなっている。外径が細まる部分における外表面771のパッキン本体751主表面に対する角度は45°程度で、送入ポート752及び送出ポート753の先端から1mm程度までが外径が細まり、外表面771よりもパッキン本体751に近い外表面772では外径はほぼ一定である。なお、外表面772も先端に向けて若干細まるように例えば内表面773に対して1°程度の傾斜をつけてもよい。図46や図48〜図51の場合も同様である。
【0267】
図48はポート先端形状の第3の例である。送入ポート752及び送出ポート753の先端部分の内径が徐々に太くなり、かつ外径が徐々に細まる形状である。より具体的には、例えば半径a=0.5mm程度の半円の断面形状とする。
【0268】
図49はポート先端形状の第4の例である。送入ポート752及び送出ポート753の外径は一定であり、その内径が先端にかけて徐々に太く形成され、擂鉢形状をなす。より具体的には、送入ポート752及び送出ポート753の先端から0.75mm程度までの深さまでは、内径r(例えば1.4mm程度)から内径rまで徐々に連続的に細まり、それよりも深い位置では、一定の内径rをなす。また、内表面773に対して内径が太くなる位置の内表面774は15°程度傾斜している。このように、擂鉢状に内周を加工することにより、試料をピペット等で注入する際に、ピペットの先端が円滑に送入ポート752及び送出ポート753に注入でき、かつパッキン713とピペットとのシール性を高めることができる。したがって、試料の基板714上への導入が容易になる。
【0269】
図50はポート先端形状の第5の例である。送入ポート752及び送出ポート753は、先端にかけて内径及び外径ともにほぼ一定である。先端の外表面775は流路756及び757に対してほぼ垂直である。
【0270】
図51はポート先端形状の第6の例である。送入ポート752及び送出ポート753の基本構成は図50の例とほぼ同じであるが、その先端に、Oリング776が形成されている。
【0271】
なお、上記図46〜図51に示したポート先端形状の寸法は一例にすぎず、成形のしやすさ、基板714の大きさ等にあわせて適宜変更可能である。また、パッキン713の材質は、シリコンゴムのみならず、エラストマー、テフロン(登録商標)、ダイフロン、その他樹脂などでもよい。
【0272】
また、ポート先端は、必ずしもパッキン本体751の主表面に対して垂直に形成されている必要はなく、例えば主表面に対して所定の角度傾斜させて形成されていてもよい。また、パッキン本体751主表面に対して垂直に設けられ、その形成位置途中で折れ曲がり、パッキン本体751主表面に対して垂直でない方向に延びてもよい。
【0273】
図52はバルブユニット705の全体構成を示す図である。なお、この図52では、プローブユニット710の構成は省略して記載してある。バルブユニット705は、バルブボディ781及び782が連結固定して用いられる。バルブボディ781には2方電磁弁403、3方電磁弁413、423及び433が設けられており、またバルブボディ782には3方電磁弁441及び445が設けられている。バルブボディ781及び782は、例えばPEEK樹脂により作製される。なお、バルブボディ781及び782が別個に作製され、その両者をつなぎ合わせる場合には、その継ぎ目部分にはPTFEをパッキンとして使用する。したがって、バルブボディ781及び782の両者では、薬液に接する部分の材質はPEEK及びPTFEからなる。また、バルブボディ781及び782にはほぼ一定の断面形状の空洞が設けられている。この空洞は、後述する各電磁弁の間やパッキン713等との間を接続する配管として機能する。また、バルブボディ782に設けられた空洞には、ノズル707及びノズル708が連通している。これらノズル707及びノズル708はPEEK樹脂からなる。
【0274】
図61はバルブユニット705の変形例としてのバルブユニット831の構成の一例を示す図である。図52のバルブユニット705はフェースマウント型の電磁弁403、413、423、433、441及び445が用いられているが、これに代えて図61では埋め込み型の電磁弁832、833、834、835、836及び837が用いられている。これら電磁弁832、833、834、835、836及び837の機能は電磁弁403、413、423、433、441及び445と共通する。また、他の構成はバルブユニット705と共通する。
【0275】
図62は他の変形例に係るバルブユニット841の構成を示す図である。図52に示すように、電磁弁403、413、423及び433が設けられるバルブボディ781と電磁弁441及び445が設けられるバルブボディ782は別体であったが、これに代えて一体型のバルブボディ842に電磁弁403、413、423、433、441及び445を形成してもよい。
【0276】
図63は他の変形例に係るバルブユニット846の構成を示す図である。このバルブユニット846は、図52と同様に、2つのバルブボディ781及び782を備えているが、各バルブボディ781と782との間はチューブ847で接続されている。このチューブ847は、図17の配管435と同様に、3方電磁弁433と3方電磁弁441を連通する。このように、複数のバルブボディによりバルブユニットが構成される場合には、各バルブボディ同士をチューブなどで連通して用いてもよい。この場合、各バルブボディについて駆動機構を設けてもよい。
【0277】
図64は他の変形例に係るバルブユニット851の構成を示す図である。この変形例に係るバルブユニット851は、複数のバルブボディ852〜857の各々に電磁弁403、413、423、433、441及び445が設けられている。各バルブボディ852〜857は例えばPTFEシールにより連結固定されており、これにより図52に示すバルブユニット705と同様に機能する。各バルブボディ852〜857同士を図63のようにチューブ接続してもよい。
【0278】
図53は図52に示すバルブユニット705の機能構成図である。図52では、2方電磁弁403は省略して示してある。また、図17に示す送液系の構成と共通する構成には同一符号を付し、詳細な構成は省略して示してある。
【0279】
バルブボディ781及び782内には配管が設けられており、この配管により、3方電磁弁413、423及び433の間の薬液又はエアの流路が定まる。
【0280】
3方電磁弁413は、エアとミリQ水を切り換えて下流側の3方電磁弁423に供給する。3方電磁弁423は、バッファと3方電磁弁413からのエア又はミリQ水を切り換えて下流側の3方電磁弁433に供給する。3方電磁弁433は挿入剤と3方電磁弁423からのエア、ミリQ水又はバッファを切り換えて下流側のバルブボディ782に供給する。3方電磁弁441は、バルブボディ781からのエア又は薬液のノズル707への供給又はバイパス配管446を介した3方電磁弁445への供給を切り換える。3方電磁弁445は、3方電磁弁441からのエア又は薬液の供給又はカセット703からのノズル708を介した薬液又はエアの送出を切り換える。
【0281】
454は、カセット703の下流に配置される。例えば薬液毎、すなわち、ミリQ水、バッファ及び挿入剤ごとにポンプを設けた場合、3個のポンプを配置する必要があり、装置が大型化してしまう。また、カセット703の上流側にポンプを設置して、陽圧で液を流す場合、万一配管に漏れが生じた場合、溶液は、そこから漏れ出してしまう。それに対して、上記構成のように、送液ポンプ454をカセット703の下流側に設置し、引圧で液を流す。これにより、送液ポンプ454はすべての薬液に対して共通で1個でよい。また、万一配管に漏れが生じた場合、薬液は自然に送液されなくなり、しかも、配管の漏れ個所から液体が漏れ出すおそれもない。
【0282】
上記バルブユニット705において、カセット703内にバッファを送液するためには、3方電磁弁423、441、445、及び送液ポンプ454をONにすればよい。これにより、バッファが吸い上げられ、薬液はノズル707側に切り替わり、ノズル707からカセット703へ、さらにはカセット703からノズル708に吸い出され、3方電磁弁454を経由して廃液することができる。
【0283】
カセット703内にミリQ水を送液するためには、3方電磁弁423にかえて3方電磁弁413をONにすればよい。カセット703内に挿入剤を送液するためには、3方電磁弁423にかえて3方電磁弁433をONにすればよい。カセット703内にエアを供給するためには、3方電磁弁403をONにし、3方電磁弁413,423及び433のいずれもOFFにすればよい。
【0284】
上記バルブユニット705のバルブボディ781及び782内に設けられた空洞部分の配管の内部容量は、200μL程度である。本実施形態とは異なり各3方弁をチューブで接続して同じフローを構成する場合には、500μL程度の内部容量が必要であるが、これと比較すると大幅に試薬量を節減することが出来る。更に、バルブユニット705とカセット703間の内部容量も、本実施形態とは異なる例では100μL以上あるが、本実施形態では10μLと大幅に低減できる。このような構造により、試薬切換え後に、更に不本意にカセット703内を流れる溶液もしくは空気の量を大幅に減らすことができる。その結果、反応及び測定のばらつきを低減し、結果の再現性も大幅に向上する。
【0285】
図65はバルブユニット841の機能構成の変形例を示す図である。図53と共通する構成には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。この図65に示すバルブユニット841の機能構成では、カセット703内での反応効率及び反応均一性を向上させるために、カセット703内の薬液を揺動させる機構を導入している。
【0286】
バルブユニット841の上流側には、エアストップ弁としての2方電磁弁403を設け、かつ2方電磁弁403と3方電磁弁411の間のチューブ863には、薬液を揺動させる液揺動機構861が設けられている。また、バルブユニット841の下流側であって3方電磁弁445及び送液ポンプ454の間には、リーク用バルブ862が設けられている。液揺動機構861としては例えばピンチバルブが用いられる。これら2方電磁弁403、液揺動機構861及びリーク用バルブ862も、他の電磁弁と同様に、制御機構15からの指示に基づき駆動する。
【0287】
このバルブユニット841を用いた反応原理の一例を以下説明する。
【0288】
バルブユニット841内に、エアによる流路が通じているように設定する。具体的には、電磁弁413、423、433をOFF、すなわち薬液供給側を止めてエア供給側流路を開放する。また、電磁弁441及び445をON、すなわち流路をバイパス側からカセット703側に切り換える。さらには、電磁弁403をOFFにしてエア供給流路を閉鎖し、リーク用バルブ862をONにして流路の一端を開放するように設定する。これにより、エア側の流路は閉鎖され、リーク側は開放された状態になる。
【0289】
この状態で、液揺動機構861をON/OFF切替を行うと、液揺動機構861内のチューブの押しつぶしと開放を繰り返すことにより体積の変動が生じ、カセット内基板上への薬液が揺動される。液を揺動させる量は、ピンチバルブで用いるチューブの内径、チューブをつぶす幅、つぶし代を変化させることにより調整可能である。内径1mmのチューブを幅5mmつぶすことにより、約4μLの薬液を揺動させることができる。パッキン713と基板714で形成される基板714上の流路容積は約30μLであることから、流路容積のうちの約1割程度の薬液を揺動させることができる。
【0290】
このような薬液の揺動は、(1)ハイブリダイゼーション工程、(2)洗浄工程、(3)挿入剤供給工程などで行うのが有効である。(1)のハイブリダイゼーション工程で試料DNAを揺動させることにより、ハイブリダイゼーション効率を向上させ、ハイブリダイゼーション時間を短縮させることができる。また、(2)洗浄工程でバッファ液を揺動させることにより、非特異吸着DNAを引き剥がす効率を向上させることにより、洗浄時間を短縮させることができる。また、(3)挿入剤供給工程で挿入剤を揺動させることにより、挿入剤の濃度の均一性を向上させ、また挿入剤の吸着均一性も向上させることにより、信号のばらつき、S/N比を改善することができる。これら(1)〜(3)のすべての工程に薬液揺動工程を適用しても、一部の工程に適用しても、薬液揺動の効果が得られる。具体的には、例えば図18に示すフローチャートに沿って説明すると、(s21)、(s28)、(s33)で薬液揺動を実行するのが有効である。
【0291】
なお、この図65の例ではピンチバルブを用いる方法で説明したがこれに限定されない。図66は液揺動機構の変形例を示す図である。
【0292】
図66(a)は液揺動機構として偏心カム866を用いる例を示す。偏心カム866は略楕円の断面形状を有し、その中心から所定の距離に位置する偏心867を中心にカム回転機構892により回転させることができる。カム回転機構892は制御機構15により制御される。また、チューブ863は固定部材868及び可動部材869により挟んで保持されている。カム回転機構892による回転により、偏心867が図66(a)のようにカムの中心と可動部材869の間に位置するときには、偏心カム866は可動部材869から比較的離れて位置しているため、チューブ863は押しつぶされず開放されている。一方、偏心867が図66(a)とは逆にカムの中心が可動部材869とは反対側に位置するときには、可動部材869は偏心カム866により固定部材868に対して押し付けられ、チューブ863は固定部材868と可動部材869の間で押しつぶされた状態となる。偏心カム863が回転を繰り返すことにより、チューブ863がおしつぶされた状態とそうでない状態が繰り返され、その結果チューブ863内の薬液が揺動する。
【0293】
図66(b)は図66(a)のさらなる変形例である。図66(a)の偏心カム866の代わりに、複数の突起871が外周に設けられた略円筒形状の突起付カム870が用いられる。この突起付カム870の場合、その回転中に突起871の位置に応じてチューブ863が押しつぶされたりしなかったりする。突起871が可動部材869側に位置すると、可動部材869が固定部材868側に押されてチューブ863が押しつぶされ、突起871が可動部材869側の位置からずれるとチューブ863は押しつぶされなくなる。
【0294】
なお、その他にも、ペリスタポンプの内部回転機構を応用する例や、より高級には圧電素子を用いてよう配管内容積を変化させる方法や、シリンジポンプを用いる方法など、薬液を揺動する構成であれば他の構成を適用可能である。
【0295】
図54はノズル707先端形状の詳細な構成を示す図である。
【0296】
図54(a)〜(d)は先端形状の各種変形例を示している。ノズル先端形状は、パッキン713の先端の形状にあわせて適宜変更することが有効である。
【0297】
例えば図51に示すように、先端部分にOリング776が形成されたパッキン713を用いる場合には、図54(a)に示す構成が望ましい。図54(a)に示すように、外表面801が平坦で、流路802に対して垂直に形成されている。これにより、パッキン713とのシール性を良好に保ち、位置ずれに対する位置合わせ余裕が生じる。ノズル707の外径R=3mm程度、内径r=1mm程度である。
【0298】
また、例えば図46や図49のように、パッキン713に対してノズル707を突き刺すようにして使用する場合には、図54(b)に示す構成が有効である。図54(b)に示すように、内径は一定だが、所定の高さから先端部分にかけて外径が徐々に細まっている。したがって、その外表面803は流路802に対して例えば15°の傾斜をなす。これにより、図46や図49に示した送入ポート752及び送出ポート753の先端の太径の開口に差し込み確実にシールすることができる。但し、これらの組み合わせの場合には、パッキンとノズルの軸の位置合わせが厳密である。図49のパッキンに対して、図54(a)のノズルとの組み合わせでも充分気密性を保つことが出来、なおかつ位置合わせ余裕が出てくる。
【0299】
また、例えばパッキン713の先端が図50のように平坦な場合や、窪みがある場合には、図54(c)に示す構成が有効である。図54(c)に示すように、先端部分にはOリング804が形成されている。
【0300】
また、例えばパッキン713の先端が図47のように鋭角に形成され、ノズル707の内側でシール性を保持する場合には、図54(d)に示す構成が有効である。図54(d)に示すように、所定の高さまでは流路802の内径は一定で、先端にかけて連続的に太くなるように形成されている。
【0301】
なお、上記組合せに限られることはなく、パッキン713の送入ポート752及び送出ポート753の形状により、シール性や位置合わせ余裕という観点から、ノズル707の先端形状を適宜変更可能である。
【0302】
上記図54の例ではノズル707の形状について示したが、ノズル708についても同様に適用可能である。
【0303】
図55(a)はピペット791を用いた送出ポート753への試料注入動作を示す図である。同図では、パッキン713は図49の送出ポート753により示されている。同図に示すように、ピペット791は送出ポート753の内表面774に沿って流路757までその先端が延び、かつピペット791の外表面は送出ポート753の内表面とほぼ密着している。仮にノズル内表面とピペット外表面を完全に密着させてから試料注入を行わないと、試料が基板714に供給されない場合がある。また、密着の程度が低いと、試料は下方向に流れていかずに送出ポート753から上に漏れだしてしまう。そこで、図55(a)のような構成にずることにより、ほぼシールされた状態で試料を注入することができ、液漏れなどが低減する。
【0304】
図55(b)はノズル708を送出ポート753に対して圧接してシールした状態を示す図である。図55の例では、図49の送出ポート753先端形状と、図54(a)のノズル708の先端形状の組合せにより示してある。同図に示すように、送出ポート753の先端にノズル708の先端が圧接され、送出ポート753とノズル708がシールされている。この状態で、ノズル708側へ矢印の方向に薬液又はエアが移送される。
【0305】
この図55(b)のノズル708と送出ポート753の組合せは、パッキン上面とノズル下面が接してシールされる最適な構成であると考えられる。この図55(b)の組合せが最適である理由を図74のシールの組合せと比較して説明する。
【0306】
図74(a)は、ノズル901と送出ポート902のシール状態の断面図である。ノズル901の先端部分の開口部の内径は、その先端部分よりもバルブユニット705に近い根元の部分よりも段階的に大きく形成されている。この大きな内径の先端部分の差込孔901aに送出ポート902の先端が差し込まれてシールされる。ノズル705の外径は一定である。
【0307】
送出ポート902の先端は、その内径は一定であるが、その外径が先端にいくにつれて徐々に細まる形状をなすテーパ902aを有する。これらノズル901及び送出ポート902の組合せの場合、薬液は差込孔901aと送出ポート902の外周との間の間隙まで充填される。したがって、例えば図74(b)に示すように、ノズル901を上昇させることにより送出ポート902から離した際に、薬液が送出ポート902の外周のテーパ902aから流れ出し、周辺を汚染する危険性がある。DNAなどの塩基配列検査の場合、多少の汚染であっても誤判定を引き起こす可能性があるため、このような薬液の流出は問題である。
【0308】
特に、送出ポート902外壁とノズル901内壁との間は、薬液の流れに対して「影」になっている。最初に、送出ポート902内部にあるDNA溶液が吸い出されるときには、まずこの「影」の部分を充填してからノズルで吸い出される、という動きになる。その後、洗浄液等の試薬を送液することになるが、最初にDNA溶液が入り込んだ部分は、流れに対して「影」になってしまっているため、充分に希釈されることがない。すなわち、この「影」の部分は薬液が循環しにくい部分となっている。
【0309】
従って、検査終了後も、比較的高濃度のDNA溶液が貯留している可能性が高いため、汚染による問題は顕著に現れてしまう。更に、試薬には緩衝液を用いることが多く、検査後に水分が蒸発した際には、結晶化する恐れがある。この構成の場合、送出ポート902とノズル901とは、「線状」でのシールとなっている。結晶がシール線上に発生した際には、充分なシールが出来ず、リークしてしまう等の送液不良が発生してしまう。リークした場合には、液体により周辺が汚染されてしまうばかりでなく、電気系統がショートしてしまう等の障害を発生させかねない。
【0310】
図74(c)は別のシールの組合せの一例を示す図である。ノズル911は、図74(a)の送出ポート902と同様に、内径は一定であるが、その先端部分の外壁が先端にかけて徐々に細まるテーパ911aを有する。一方、送出ポート912は、外径は一定であるが、その先端に向けて徐々に内径が大きくなるテーパ912aを有する。送出ポート912に対してノズル911を降下させることにより、送出ポート912のテーパ912aにノズル911の先端が突き刺さり、ノズル911外周のテーパ911aとテーパ912aが接してシールされる。この場合、図74(a)の構成で想定されたような汚染物質の外部への漏出は生じないため、汚染問題は発生しないと考えられる。
【0311】
しかしながら、送出ポート912とノズル911の位置合わせ精度が非常に厳しくなる。多少でも送出ポート912とノズル911の軸がずれていると、送出ポート912内壁とノズル911との間のシールが充分でなくなるため、リークが生じ、その結果、送液が規定どおりに行なわれなくなるという問題がある。
【0312】
これら図74(a)〜(c)に記載の組合せに対して、図55(b)に示すように、ノズル708と送出ポート753の組合せを採用することにより、上記問題が生じない。
【0313】
ノズル708は、中心軸708dを有し、この中心軸708dから所定の距離に所定の内径の内壁708eを有している。さらに、ノズル708は、中心軸708dと略垂直な面であり、その表面が略平坦なノズル下面708cを有している。ノズル708の外壁はその外径は略一定である。
【0314】
送出ポート753は、中心軸753dを有し、この中心軸753dから所定の距離の所定の内径の内壁753cを有している。この内壁753cは、その中途から先端にかけて徐々に内径が大きくなるテーパ753aを有している。さらに、送出ポート753は、中心軸753dを略垂直な面であり、その表面が略平坦なポート上面753bを有している。ポート753の外壁はその外径が略一定である。なお、ノズル708の内壁708eの内径と送出ポート753の内壁753cの内径は、図55(b)のように略等しく形成されている。また、ノズル708の外壁と送出ポート753の外壁の各々の外壁も略等しく形成されている。
【0315】
このような構成によれば、送出ポート753の外壁には液が接することはなく、なおかつその内壁もテーパ753aを有するため、薬液が外部に漏出する恐れはなく、汚染を引き起こす心配はない。更に、送出ポート753とノズル708の軸合わせに関しても、あまり厳しい精度は求められず、ポート上面753bと、ノズル下面708cが充分に接している範囲であれば、シール性の問題は生じないため、送液も規定どおりに行なわれる。また、送出ポート753の内壁753cが先端部分でテーパ形状になっているため、ピペット791を用いて試料を注入する際にも、ピペット791先端を他の部分にぶつけたり接触させることなく、スムーズに挿入することが出来るため、不要な汚染等の不都合を発生させる心配がない。
【0316】
なお、図55(b)の例では、ノズル708と送出ポート753の組合せについて示したが、ノズル707と送入ポート752についても同様に適用可能である。また、ノズル707と送入ポート752の組合せの場合には、ノズル707は試料注入動作に用いられないため、図50に示す送入ポート752を図54(b)に組み合わせて用いてもよいし、図50に示す送入ポート752を図54(d)に示すノズル707に組み合わせて用いてもよい。
【0317】
本実施形態に係る塩基配列自動解析装置700を用いた自動解析の動作の概略を図72のフローチャートに沿って説明する。
【0318】
まず、16の操作画面上で、データ及び条件の入力を行う(s11)。次に、カセット703の送出ポート753に、図55(a)に示す要領でピペット791を用いて試料を注入する(s12)。次に、カセット703のカセット下蓋712の外表面741に貼付されたシール750を剥がす(s13)。このように、試料注入後にシール750を剥がすことにより、試料注入の際に誤って電気コネクタ730接続口に薬液が滴下され、ショートするなどの誤動作を防止することができる。
【0319】
次に、図56に示すように、スライドステージ702aを開いたトレイオープン状態で、カセット装着溝792にカセット703を装着する(s14)。次に、スライド動作ボタン704aのボタンを押してカセット703を筺体701内に収容し、トレイクローズ状態にする(s15)。この収容動作とともに自動でバルブユニット・プローブユニット駆動機構706a及び706bがノズル707a及び708a及びプローブユニット710を駆動し、送入ポート752及び送出ポート753にノズル707a及び708aを圧接し、両者間を液漏れや空気漏れが無いように密閉する(s16)。これにより、ノズル707a及び708aと送入ポート752及び送出ポート753との間に密閉された流路が確保される。同時に、電気コネクタ730とパッド762、763との間で電気的接触を確保する。
【0320】
これにより解析準備が整い、16の操作画面上でスタートボタンを押すなどして開始指示を行う(s17)。
【0321】
この開始指示を受けると、制御機構15は測定準備処理を実行する(s18)。測定準備処理の詳細については後述する。測定準備処理が終了すると、制御機構15は測定系12、送液系13及び温度制御機構14の各構成要素をコンピュータ16からの指示に基づき制御し、ハイブリダイゼーション、洗浄、信号検出などの一連の測定動作を行う(s19)。測定が終了すると、測定結果は制御機構15からコンピュータ16に送信され、解析され、解析結果がコンピュータ16の表示部に表示され終了する(s20)。この測定及び解析動作は第1実施形態に示したものと同じであるので詳細は省略する。
【0322】
図70は測定準備処理(s18)の一例のフローチャートを示す図である。この図70に示す測定準備処理(s18)は、(s19)の測定動作の前であれば、例えば(s17)の前の段階(例えば(s14)の前の段階)から実行され得る。
【0323】
まず、スライド動作ボタン704aのボタンを押してスライドステージ702aを引き出しトレイオープン状態にする(s181)。カセットを装着(s14)した後にカセット703を収容し、トレイクローズ状態にする(s182)。トレイクローズ状態を例えばステージ駆動機構891の駆動動作などにより検知した制御機構15は、マイクロスイッチ811の切替信号に基づきカセット装着の有無を判別する(s183)。カセット無しと判定された場合、アラート表示を表示部893に点灯させ(s184)、ステージ駆動機構891を駆動してスライドステージ702a又は702bをスライドさせてトレイオープン状態にし(s185)、表示部893にカセット入れ直し指示を表示する(s186)。
【0324】
カセット有無判別(s183)でカセット有りと判定された場合、制御機構15はシールの有無の判別を行う(s187)。シールの有無の判別は、検出光照射手段812から検出光を照射し、この検出光が検出光センサ813で検出できるか否かで判別する。シールが剥がれていない、すなわち検出光が検出されない場合には、(s184)のアラート表示に進み、トレイオープン状態にして(s185)カセット入れ直し指示を表示する(s186)。この場合、さらにシール剥がし指示をあわせて表示するのが望ましい。
【0325】
シールが剥がれている、すなわち検出光が検出光センサ813で検出された場合には、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706a又は706bを駆動してノズル707a及び708a又は707b及び708bを降下させると同時に電気コネクタ730を降下させてカセット703に位置決めする(s188)。
【0326】
制御機構15は、電気コネクタ730からの検出信号を検知し、プローブが接触したか、すなわち電気コネクタ730の各凸状電極703aと基板714上のパッド762及び763の各々とが確実に接触し、電気的接続が確実になされたかを判別する(s189)。
【0327】
接触していると判別した場合には測定準備処理(s18)を終了して測定を開始する(s19)。接触していないと判別した場合には、アラート表示を点灯させ(s184)、トレイオープン状態にし(s185)、カセット入れ直し指示を表示させる(s186)。この入れ直し表示とともに、入れ直しの理由として、電気コネクタ730の良好な接触が得られない旨の表示をあわせて行うことにより、基板714表面を清掃するなどの対策を講じることができる。
【0328】
なお、この図70では特に示さなかったが、カセット種類判別用ピン789の押し下げの程度を段階的に検知するセンサを設けておき、複数のカセット種類を判別する形態の場合、(s183)と(s187)との間に、カセット種類判別工程を付加してもよい。この場合、当該センサが検知した押し下げの程度は制御機構15でカセットの種類を示すデータに変換されて表示部893に表示される。このように、所望のカセット703であるか否かを測定開始前に確認することにより、誤った種類のカセット703を用いた測定を防止できる。
【0329】
図71は(s189)における電気的接続の有無の判別手法を説明するための図である。図71に示すように、予め基板714上のパッド762とパッド763を1つずつ、あわせて計4つのパッドを基板714内で短絡しておく。電気コネクタ730を基板714上に降下させると、電気コネクタ730側で端子Aと端子Bが、また端子Cと端子Dがそれぞれいずれも短絡していることを制御機構15が検出した場合には、制御機構15は電気コネクタ730とカセット703が確実に電気的に接続されていると判断できる。逆に、端子Aと端子Bの短絡、あるいは端子Cと端子Dの短絡のいずれかが制御機構15で検出できない場合には、制御機構15は電気コネクタ730とカセット703が電気的に接触が得られていないと判断できる。なお、プローブユニット710a、710bとバルブユニット705a、705bは一体で昇降移動するため、この電気的接続の有無の判別で、ノズル707a、707b、708a及び708bと送入及び送出ポート752及び753との機械的接触、すなわち気密性よく密着しているか否かの確認を同時に行うことができる。
【0330】
このように本実施形態によれば、ハイブリダイゼーションから、バッファ等による洗浄、挿入剤を添加した後の電気化学信号の検出などの一連の測定動作を自動的に、かつ安定的に行うことができる。
【0331】
また、本実施形態では、溶液注入及び排出のポートを一体型にしたパッキン713を用いている。すなわち、基板714側においては、基板714表面の電極の配列にあわせて、1次元的な流路を形成するための溝が設けられ、流路の両端においては、基板714側と反対側に、基板714表面に対して垂直に伸びる円筒状の送入ポート752及び送出ポート753を設け、これら送入ポート752及び送出ポート753から溶液を注入及び排出する。これら送入ポート752及び送出ポート753には、バルブユニット705のノズル707及び708が、シール性良く装着される。送入ポート752からは薬液又はエアが注入され、パッキン713と基板714の間の溝758で定められた流路を薬液又はエアが流れた後、もう一方の送出ポート753から薬液又はエアが排出される。また、送出ポート753は、基板714表面に試料を注入するための試料注入ポートも兼用している。図55(a)に示したように、ピペット791を用いて試料を注入する場合、ピペット791の先端を送出ポート753に差込み、ピペット791先端部分を送出ポート753の内壁である流路756にシールさせてから、ゆっくりとピペット791内の試料を押し出す。これにより、ピペット791内の試料は基板714上に無駄なく移動する。
【0332】
本実施形態以外の構成の場合、すなわち基板(チップ)上に平面状のパッキンを搭載し、カセット(チップカートリッジ)内に流路を形成する構成をとる場合には、カセット内の流路が長くない不必要な試薬量が多くなる。また、カセットに試料を注入する場合には、流路が基板上のみならずカセット内にも長く存在するため、基板以外の不要な部分に試料が流れ込み、無駄となってしまう。また、パッキンに対するカセットの密着性が難しく、パッキンとカセットとの間でリークが生じてしまい、送液の不具合が発生することが多い。本実施形態のような構成により、不必要な試薬量が少なくなり、またパッキン、基板及びカセットの密着性が高くなり、送液の安定性が増す。
【0333】
送入及び送出ポートに比較して基板上の流路の方が極端に大きい場合には、基板上の流路ではポートよりも圧力が下がり、薬液が沸騰しやすくなり、気泡が発生しやすくなる。この気泡は測定に悪影響を及ぼす。これに対して本実施形態では、流路756,溝758及び流路757にかけての流路をほぼ一定の断面積で、ほぼ一定の断面形状にする。これにより、圧力変動が少なく、薬液の沸騰を抑制でき、塩基配列の検出感度が高まる。
【0334】
また、本実施形態のバルブユニット705を用いることにより、測定に使用する試薬量を最小限に抑えることが可能となり、ランニングコストの低減が計れる。
【0335】
すなわち、例えばカセットや試験管など、検査部に試薬を導入する方法としては、金属製のニードルやノズルが用いられることが多い。その理由としては、ゴム製のキャップをニードルで貫通させて薬液を吸引もしくは排出する必要があるため、ゴムを貫通するための強度及び耐久性が要求されているためである。しかしながら、DNAや塩基配列の検出を行う際には、金属イオンは誤検出の原因となるため、使用できない。これに対してバルブユニット705はPEEKやPTFEなどにより形成されており、さらにパッキン713もシリコンゴムなどで形成されているため、金属部材が用いられない。したがって、誤検出を抑制することができる。
【0336】
また、通常、ニードルやノズルなど、検査部へのポートと、試薬切替のバルブとの間はチューブで接続されている。このため、検査には直接使用することの無いチューブ内の試薬量が多くなってしまう。また、チューブ取り付けはすべて手作業で行なうため、チューブの長さの管理が困難で、チューブ接続の安定性は高くない。その結果、バルブ間のチューブ内容積が装置毎に微妙に異なる可能性が出てきてしまう。従って、装置毎にバルブ切換えタイミングを調整する必要が生じてきてしまう。このように、試薬量の増大、送液の不安定性増大、バルブ切換えタイミング調整必要、などの問題が発生してしまう。これに対して本実施形態のようにバルブユニット705を用いることで、各バルブの間にチューブを用いる必要がなくなる。従って、チューブを用いることに起因する上記種々の問題を解消できる。すなわち、流路長を短くすることができ、必要試薬量を大幅に削減できる。また、バルブ間の容量を一定に保持できるため、バルブ切替タイミングを装置毎に調整する必要がなくなり、送液の安定性が向上する。
【0337】
このように、PEEKなどの樹脂によりノズルを作製し、かつこのノズルとバルブ、さらには配管を一体型にしたマニフォールド型のバルブユニットを用いることにより、上記課題を同時に解決できる。
【0338】
このように、本実施形態のバルブユニット705及びカセット703により、データの再現性が向上する。
【0339】
なお、本実施形態では図35に示す筐体701内に測定系12、送液系13、温度制御機構14及び制御機構15を配置する場合を示したが、これに限定されない。例えば測定系12、送液系13、温度制御機構14、制御機構15の一部を筐体701外に配置してもよいし、16を含めて筐体701内に配置してもよい。
【0340】
バーコード744はカセット下蓋712の外表面741に設けられる場合を示したが、これに限定されず、例えばカセット上蓋711の外表面721に設けられてもよい。
【0341】
流路756,流路757及び溝758は断面形状、断面積がほぼ等しい場合を説明したがこれに限定されない。例えば、流路756,流路757及び溝758にかけて最も細い部分の断面積に対して最も太い部分の断面積が約130%程度以内であれば望ましい。
【0342】
図55(b)では、パッキン先端形状とノズル先端形状の組合せの一例を示したが、前述したパッキン及びノズル先端形状の各種変形例のあらゆる組合せが可能であり、これにより、パッキン及びノズルのシール性を高めることができる。
【0343】
また、ノズル707,ノズル708,バルブボディ781及び782の材質としてPEEK及びPTFEを用いる場合を示したが、これに限定されず、例えばPFA、PC、PMMA、PPS、PBT、PCTFEのいずれかを用いてもよい。また、この他にも加圧により変形可能な樹脂であれば適用可能である
また、バルブボディ781は、3つのバルブ弁、あるいは4つのバルブ弁が設けられたマニフォールドとして示され、バルブボディ782は、2つのバルブが設けられたマニフォールドとして示されているが、マニフォールドのバルブの個数は上記したものに限定されない。少なくとも2つのバルブが設けられたマニフォールドや、少なくとも2つのバルブとノズル707及び708が連通した構成であればよい。
【0344】
また、カセット703とバルブユニット705の双方を最適化する実施形態として記載したが、これに限定されない。例えばカセット703のみを上記の通り最適化し、バルブユニット705にかえて従来のバルブ構成を用いても本実施形態の効果を奏するし、バルブユニット705を上記の通り最適化し、カセット703にかえて従来のカセット(チップカートリッジ)を用いても本実施形態の効果を奏する。
【0345】
また、基板714には作用極、対極及び参照極の組合せからなる3電極系761が形成される例を示したが、これに限定されない。例えば図7や図10、図11に示すのと同様に、パッキン713に対極及び参照極を形成しておき、基板714には作用極のみを配置してもよい。
【0346】
また、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706によりバルブユニット5を駆動させることによりカセット703のポート752及び753とノズル707及び708との位置決めを行う場合を示したが、これに限定されない。ポート752及び753とノズル707及び708との間を相対的に移動させるためのものであれば、バルブユニット・プローブユニット駆動機構706に代えてカセット703をバルブユニット705に対して駆動させて移動させるカセット駆動機構を用いてもよい。
【実施例1】
【0347】
上述した第1実施形態の塩基配列検出装置を用い、SNPs検出を行った例を以下説明する。ここでは、MxA−88位遺伝子のSNPs塩基配列が、G/G型であるかT/T型であるか、もしくはG/Tヘテロであるかを判別する場合に適用する。
【0348】
塩基配列検出チップの作用極501には、MxA遺伝子に相補的な配列を持つDNAプローブをあらかじめ固定化しておく。SNP位置の塩基をATGCと置換した4種類のプローブDNA断片と、全く異なる配列を持つDNA断片(ネガティブ・コントロールと呼ぶ)をそれぞれ別の電極(作用極501)上に固定化しておく。ここでは、N末端にシステインを修飾したそれぞれのプローブを200nLずつスポットして1時間放置することにより、Auからなる作用極501への固定化を行った。このようにして、準備した塩基配列検出チップ21が封止されたプリント基板22をチップカートリッジ11に装着しておくる
次に、SNP位置の塩基がG型であるターゲットとなるDNAを2xSSC−1mmol/L EDTA溶液に溶解した後、試料注入口119からピペット等を用いて、セル115内に注入する。ここで、試料溶液は、送出ポート116b側の試料注入口119から、セル115内に溶液を満たしながら送入ポート116a側に流れていく。送入ポート116aの外周は、シール材24aの内周に接する位置に形成されていることから、セル115内に気泡を残すことなく、完全に試料溶液をセル115内に充填することが出来る。
【0349】
次に、このチップカートリッジ11を装置本体(測定系12,送液系13,温度制御機構14)に装着し、コンピュータ16による装置プログラムを始動させることにより、以降の処理は、すべて自動的に行われる。
【0350】
ここでは、自動処理の内容を説明する。まず、45℃にて15分間反応(ハイブリダイゼーション)させる。その後、送液系13の電磁弁やポンプを制御することにより、0.2xSSC−1mmol/L EDTA溶液をセル115内に送液する。そして、セル115内にこの溶液を充填した状態で、55℃にて30分間保持することにより、塩基配列検出チップ21上の配列の異なる電極211,212に非特異吸着したDNAを洗浄する。次に、10μmol/Lのヘキスト33258溶液をセル115内に送液する。そして、セル115内に充填した状態で、測定系12により、各作用極501におけるヘキスト33258からの酸化電流を測定する。
【0351】
続いて、コンピュータ16は、解析プログラムにより、電流・電圧特性カーブから、ヘキストの酸化電流に相当する領域を抽出し、そのピーク電流値を各電極(作用極501)に対して導出する。更に、解析プログラムのアルゴリズムに従って型判定フィルタリングなどの統計処理を行い、ターゲットDNAの型判定を行う。得られた判定結果はコンピュータ16のディスプレイに表示される。その結果、プローブ配列がC型のプローブに相当する電極からの信号強度が最も大きく、ターゲットDNAのSNP位置の塩基配列はG型との判定が出来た。
【0352】
塩基配列検出チップ21面内における同一種の電極に対する電流値の均一性は、CV値で5%以内となった。その結果、SNPs検出の信頼性が従来方法に比べて向上した。
【実施例2】
【0353】
上述した第2実施形態の塩基配列検出装置を用い、SNPs検出を行った例を以下説明する。ここでは、MxA−88位遺伝子のSNPs塩基配列が、G/G型であるかT/T型であるか、もしくはG/Tヘテロであるかを判別する場合に適用する。
【0354】
基板714の作用極には、MxA遺伝子に相補的な配列を持つDNAプローブをあらかじめ固定化しておく。SNP位置の塩基をATGCと置換した4種類のプローブDNA断片と、全く異なる配列を持つDNA断片(ネガティブ・コントロールと呼ぶ)をそれぞれ別の作用極上に固定化しておく。ここでは、N末端にシステインを修飾したそれぞれのプローブを200nLずつスポットして1時間放置することにより、Auからなる作用極への固定化を行った。このようにして、準備した基板714をカセット703に装着しておく。
【0355】
次に、SNP位置の塩基がG型であるターゲットとなるDNAを2xSSC−1mmol/L EDTA溶液に溶解した後、送入ポート752からピペット791を用いて、溝758及び基板714で定まる流路(セル)内に注入する。
【0356】
次に、このカセット703をスライドステージ702に載置して筺体701内に収容し、コンピュータ16による装置プログラムを始動させることにより、以降の処理は、すべて自動的に行われる。
【0357】
ここでは、自動処理の内容を説明する。まず、45℃にて15分間反応(ハイブリダイゼーション)させる。その後、送液系13の電磁弁やポンプを制御することにより、0.2xSSC−1mmol/L EDTA溶液をセル内に送液する。そして、セル内にこの溶液を充填した状態で、55℃にて30分間保持することにより、基板714上の配列の異なる電極に非特異吸着したDNAを洗浄する。次に、10μmol/Lのヘキスト33258溶液をセル内に送液する。そして、セル内に充填した状態で、測定系12により、各作用極におけるヘキスト33258からの酸化電流を測定する。
【0358】
続いて、コンピュータ16は、解析プログラムにより、電流・電圧特性カーブから、ヘキストの酸化電流に相当する領域を抽出し、そのピーク電流値を各作用極に対して導出する。更に、解析プログラムのアルゴリズムに従って型判定フィルタリングなどの統計処理を行い、ターゲットDNAの型判定を行う。得られた判定結果はコンピュータ16のディスプレイに表示される。その結果、プローブ配列がC型のプローブに相当する電極からの信号強度が最も大きく、ターゲットDNAのSNP位置の塩基配列はG型との判定が出来た。
【0359】
基板714面内における同一種の電極に対する電流値の均一性は、CV値で3%以内となった。その結果、SNPs検出の信頼性が従来方法に比べて向上した。
【0360】
以上詳述したように本発明によれば、電気化学反応特性の均一性が高まり、検出の信頼性が向上する。
【0361】
また、別の本発明によれば、塩基配列検出及び検出したデータの解析までを含め自動で実行することができるため、データや測定の再現性が向上する。
【符号の説明】
【0362】
1…塩基配列検出装置、10…測定ユニット、11…チップカートリッジ、12…測定系、12a,12b,12c,12d,12e…ポテンシオ・スタット、13…送液系、14…温度制御機構、15…制御機構、16…コンピュータ、17…ローカルバス、21…塩基配列検出チップ、22…プリント基板、22a…電気コネクタ、23…封止樹脂、24a,24b…シール材、25…基板固定ねじ、110…チップカートリッジ本体、111…支持体、112…チップカートリッジ上蓋、112a…流路状凸部、113a,113b…インタフェース部、114a,114b…流路、115…セル、115a,115b…セル孔部、115c,115e,115f,115g,115h…直線、115d…ザグリ孔、116a…送入ポート、116b…送出ポート、117…上蓋固定ねじ、117a…ねじ孔、119…試料注入口、120…蓋、121…シール材、500…保護回路、501…作用極、502…対極、503…参照、510…電圧パターン発生回路、601…流路、601a…検出用流路、601b,601c…ポート接続流路、601d…流路接続流路、700…塩基配列自動解析装置、701…筺体、702a,702b…スライドステージ、703…カセット、704a,704b…スライド動作ボタン、705a,705b…バルブユニット、706a,706b…バルブユニット駆動機構、707a,707b…ノズル、708a,708b…ノズル、709a,709b…位置決めピン、711…カセット上蓋、712…カセット下蓋、713…パッキン、714…基板、720…温調機構、721…外表面、722,723…ノズル差込孔、724,725…電気コネクタ用ポート、726…シール検出孔、727a〜727d…ねじ孔、728a,728b…カセット位置決め孔、729…内表面、730…電気コネクタ、731…基板位置決め溝、732…パッキン位置決め溝、741…外表面、742…内表面、743…温調用窓部、744…バーコード、746…シール検出孔、747a〜747d…ねじ孔、748a,748b…カセット位置決め孔、750…シール、751…パッキン本体、752…送入ポート、753…送出ポート、754,755…開口部、756,757…流路、758…溝、761…3電極系、762,763…パッド、764…パッキン配置位置、765…流路形成位置、766,767…電気コネクタ接続位置、770a〜770d…ねじ、771,772,775…外表面、773,774…内表面、776…Oリング、781,782…バルブボディ、791…ピペット、792…カセット装着溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内における試料中の標的塩基配列と所定の塩基配列を有するプローブとの反応に基づき試料中の標的塩基配列を検出する塩基配列自動解析装置であって、
前記試料、薬液或いはエアが供給される流路が設けられる基板と、
前記流路内に設けられ、前記プローブが固定化されている作用極と、
前記流路中に設けられた対極と、
前記流路中に設けられた参照極と、
前記流路に連通する送入ポート及び送出ポートを有する部材と、
を備える塩基配列検出装置が装着され、
前記送入ポートに連通し、前記薬液或いは前記エアの前記流路への供給を制御する第1のバルブから構成され、前記送入ポートを介して前記流路に前記薬液或いは前記エアを供給する供給系と、
前記送出ポートに連通し、前記薬液或いはエアの前記流路からの供給を制御する第2のバルブ及び前記第2のバルブに連通され、前記流路から前記薬液或いは前記エア吸引するポンプから構成され、前記送出ポートを介して前記流路から前記試料、前記薬液或いは前記エアを排出する排出系と、
前記第1バルブ及び前記第2バルブ間に設けられ、前記第1バルブ及び前記第2バルブの切替に応じて前記供給系から前記薬液或いは前記エアを前記流路に対してバイパスして供給させるバイパス配管系と、
前記作用極及び前記対極との間に電圧を印加して前記作用極もしくは前記対極から電気化学信号を検出する測定部と、
を具備することを特徴とする塩基配列自動解析装置。
【請求項2】
前記流路に連通する送入ポート及び送出ポートを有する部材の前記送出ポートは、前記試料を前記流路に投入する為の試料投入口であることを特徴とする請求項1に記載の塩基配列自動解析装置。
【請求項3】
前記塩基配列検出装置は、前記対極に与える電圧パターンを発生させる電圧パターン発生回路と、前記参照極の電圧を前記対極にフィードバックするフィードバック回路と、前記電圧パターン発生回路と前記フィードバック回路のフィードバック電圧に基づき前記対極に与える電圧を増幅する増幅器、前記増幅器の入出力端子間に又は前記増幅器と前記対極との間に設けられた抵抗及び前記抵抗に供給される電流をオン・オフ制御するスイッチから成る保護回路から構成されることを特徴とする請求項1に記載の塩基配列自動解析装置。
【請求項4】
前記流路に連通する送入ポート及び送出ポートを有する部材は、シール部材であり、前記塩基配列検出装置は、前記シール部材を前記基板に固定するカートリッジ本体を更に具備し、前記シール部材は、パッキン本体とこのパッキン本体上に突出して設けられた第1及び第2の筒状部とを備え、この第1及び第2の筒状部は、各々前記送入ポート及び送出ポートを構成していることを特徴とする請求項1に記載の塩基配列自動解析装置。
【請求項5】
前記カートリッジ本体は、前記第1及び第2の筒状部が挿通される孔が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の塩基配列自動解析装置。
【請求項6】
前記第1及び第2の筒状部の先端は、擂り鉢に開口されていることを特徴とする請求項4に記載の塩基配列自動解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【公開番号】特開2011−99867(P2011−99867A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279181(P2010−279181)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【分割の表示】特願2007−293725(P2007−293725)の分割
【原出願日】平成15年7月23日(2003.7.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】