説明

塩溶解性セラミック繊維組成物

本発明は、SiO 58〜67重量%、CaO 6〜34重量%、MgO 2〜8重量%、Al 0〜1重量%、B 0〜5重量%、NaO+KO 0〜3重量%、並びにTiO及びFeの中から選択される不純物が1重量%以下で含まれる高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物に関し、熱間線収縮率(1100℃/24時間維持)が3%以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が700ng/cmhr以上であるという特徴を有する。また、本発明は、公知された生分解性セラミック繊維と比較する時、人工体液に対する溶解度が顕著に向上し、体内の肺に吸入されても容易に溶解されて除去されることができ、人体に対する有害性が減少する効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温断熱材用塩溶解性セラミック繊維組成物に関し、より詳細には、塩溶解性に優れた高温断熱材用セラミック繊維組成物を組成するにあたって、綱目形成酸化物であるSiO、修飾酸化物であるCaO、MgO、そして中間酸化物であるAl、組成内で融剤(flux)及び綱目酸化物の役目を同時にするB、融剤の役目をするNaO、KOを適正の比率で含有させて、繊維組成物の人工塩類体液に対する溶解度を向上させた組成物に関する。また、融剤(flux)として含有されるB+NaO+KOの含量調節を通じて、高温耐熱性を維持しながらも、既存の塩溶解性セラミック繊維組成物に比べて塩類体液に対する溶解性(生分解性)が向上すると同時に、高温製造過程での生産収率が向上した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック繊維は、低い熱伝導率を有し且つ細くて長い形状を有していて、保温材、保冷材、断熱材、防音材、吸音材及びフィルタ材などの材料として使用されている。
【0003】
断熱材として、‘耐火性断熱材用繊維’は、通常、ミネラルウール(mineral wool)の使用温度600℃以上で使用されることができる耐火繊維を総称し、ASTMC982は、高温用繊維状ブランケット断熱材の高温での熱間収縮率を基準にして、タイプ1(type 1、732℃)からタイプ5(type 5、1649℃)に分類している。通常、繊維の「安全使用温度」は、当該温度で24時間維持時に、5%以下の熱間線収縮を有する温度に規定している。
【0004】
現在最も一般的に使用される耐火性断熱材用繊維は、Al−SiO(RCF−AS)系であり、この繊維の安全使用温度は、1100〜1260℃である。Al−SiO系繊維と関連して公知された従来の技術は、次の通りである。米国特許第2、873、197号及び米国特許第4、555、492号には、Al−SiO系組成に一定量のZrO成分を添加したAl−SiO−ZrO系(RCF−ASZ系)繊維が公知されていて、この繊維の安全使用温度が1430℃まで増加すると記述されている。
【0005】
米国特許第4、055、434号には、Al−SiO系組成にCaOとMgOの原料として最高16%のか焼白雲石(Burned Dolomite)を添加した繊維組成が公知されていて、この繊維は、760〜1100℃の耐熱温度を有するものと記述されている。米国特許第3、687、850号には、SiO、Al、RO、RO、Bで構成された繊維組成に酸を添加し、RO、RO、B成分を溶解させて製造したものであり、SiO76〜90%とAl4〜8%含量のシリカ繊維が結晶質の析出なしに1093℃の耐熱性を有すると記述されている。しかし、前述したような従来の耐火性断熱材用繊維を組成するにあたって、耐熱性及び酸に対する溶解特性は考慮されているが、人工体液のような塩類溶液に対する溶解特性は全く考慮されておらず、また、Al含量が4%以上と高いため、生理学的媒質に対して溶解度が低いという問題を引き起こすことがある。
【0006】
最近報告された資料によれば、生理学的媒質に対して溶解度が低い繊維は、破鎖された微細繊維状態で呼吸によって肺に吸入されて蓄積されると、人体に害を及ぼすこともあるという報告があった。したがって、生理学的媒質に対する溶解度を増加させて、有害性の可能性を最小化すると同時に、高温物性を満足させるための無機繊維組成に対する研究が最近活発に進行されている。
【0007】
生理学的な媒質で容易に溶解されるガラス繊維組成に対する公知技術は、次の通りである。例えば、CaO、P以外にも、CaF、ZnO、SrO、NaO、KO、LiOなどが含有された生吸収性(Bioabsorbable)ガラス繊維組成[米国特許第4、604、097号]、既存のソーダライムボロシリケート(Soda Lime Boro Silicate)ガラス繊維組成にPなどを添加した繊維組成[国際公開特許WO92/0781号]、ソーダライムボロシリケート(Soda Lime Boro Silicate)組成においてB量を増加させ、その他にNaOなどを添加した繊維組成[米国特許第5、055、428号]などがある。しかし、このような組成は、相対的にRO成分が多い組成領域で構成されていて、耐熱性が低いという短所があり、安全使用温度に対する言及がないか、または実際に350℃以下で使用される建築用断熱材に過ぎず、高温で使用可能な生分解性材料として使用するのに限界がある。
【0008】
また、高温で使用可能な耐火繊維として人工体液に対する溶解度に優れた繊維組成の例は、次の通りである。例えば、CaO、MgO、SiO、Al系組成を成している既存のミネラルウール組成において、Al含量を低減し、CaOとMgOの含量を増加させて、人工体液に対する溶解度と耐火特性を向上させた変形された繊維組成[国際公開特許WO87/05007号]、SiOとCaOに選択的にMgO、アルカリ酸化物、Al、ZrO、B、Feなどを添加した繊維組成[国際公開特許WO89/12032号]、SiO、CaO、MgO系においてAl量を低減し、使用温度が800℃〜1000℃になった繊維組成[国際公開特許WO93/15028号]などである。しかし、上記組成は、最高安全使用温度が815℃、1000℃(24時間維持時に5%以下の熱間線収縮率)に規定される分野に限定されて使用することができる繊維組成に過ぎない。また、上記のような繊維組成の場合には、融剤(flux)成分を含んでいないので、製造収率及び生分解性の性能低減は避けることができない。
【0009】
また、最高安全使用温度が1260℃であり、人工体液に対する溶解性に優れた繊維組成の例は、次の通りである。国際公開特許WO94/15883号では、SiO、CaO、MgO系にAlとZrOを添加し、残留のSiO含量が21.8mol%以上の繊維組成領域を規定しながら、SiO含量が70.04mol%、73.09mol%、78.07mol%と高い領域では、繊維化が難しい(未繊維物の含量が高い)、または不可能であることに言及している。国際公開特許WO97/16386号では、SiOの含量が高い領域でMgOとSiOを主成分とし、CaOが1%以下であり、その他の粘度調整剤としてAl、ZrO及びBを0〜2%添加した組成であって、1260℃で4.5%以下の熱間線収縮率を有する繊維化が容易な生分解性繊維組成が公開されているが、この領域の繊維製品は、平均繊維径が太く、且つ熱伝導率が高く、安全使用温度での熱間線収縮率も比較的高い(3%以上)。また、安全使用温度を上昇させるために過度なSiO含量を使用するので、本発明を通じて製造された繊維に比べて生分解性が顕著に低いという問題点があり、製造収率の減少、繊維製造時における粉じん増加、製品引張強度減少などの品質低下を避けることができない。
【0010】
以上では、現在までに開発されたセラミック繊維組成の代表的な例を例示して説明した。以上の従来技術を基礎にしてセラミック繊維組成上に要求される物性を整理して見れば、次の通りである。
【0011】
セラミック繊維組成物を繊維化する方法としては、圧縮空気または圧縮スチームで繊維化するブロイング(Blowing)工法と、高速で回転するシリンダーに溶融物を落下し、繊維化するスピニング(Spinning)工法などがある。スピニング工法またはブロイング工法によって繊維化するのに適した繊維組成の理想的な粘度は、20〜100ポアズ(poise)程度と低いか、または既存のSiO−Al系組成の粘度と類似しているか、若しくは差異が大きくないことが要求される。もし、繊維化温度で粘度が過度に高ければ、繊維直径は大きくなり、これと同時に太い未繊維物(Shot)も多くなる。一方、粘度が過度に低ければ、繊維が短くて細くなるだけでなく、微細な未繊維物(Shot)が多く生成される。一般的にガラス溶湯の粘度は、ガラス組成と温度によって左右されるので、適正な繊維化粘度を維持するためには、適正な組成設計が必要であり、高粘度組成の場合は、さらに高い温度で繊維化しなければならないので、繊維化温度の近くでは適切な粘度の制御が必要である。
【0012】
また、高温断熱を目的に使用されるセラミック繊維は、熱抵抗が大きくなければならないだけでなく、炉材のように繰り返し熱応力が加えられる場合にも、これに対する耐久性に優れていなければならないので、使用温度程度の熱に露出した後にも、このような物性の変化は少なくなければならない。セラミック繊維の使用温度は、その温度での収縮と関連している。繊維製品の収縮は、ガラス相である繊維組成の高温での粘度、製品使用中に熱に露出して生成、成長する結晶の種類と量、結晶析出温度、及び結晶が析出された後に残留するガラス相の高温粘度によって影響を受ける。高温で析出する結晶は、通常、ガラス相繊維の比重より高いので、結晶析出及び成長によって結晶界面で応力が発生するようになり、この応力によって繊維が切られるか、または変形が生じ、収縮が起きる。高温で結晶が析出されず、繊維がガラス相として存在する場合、繊維は、ガラスのように比較的低い温度で次第に粘度が低くなるので、収縮が増加する。また、結晶析出後に残留するガラス相の高温粘度が低い場合も、粘度流れ(Viscous Flow)による液相焼結及び変形によって繊維収縮が増加する。したがって、高温で低い収縮率を有する組成の繊維は、適切な結晶析出量と速度及び析出温度を有しなければならない。また、高温に露出したセラミック繊維の人工体液内での溶解度も変化が少なくなければならない。したがって、人工体液での溶解度が高いと同時に、溶融及び繊維化が容易であり、高温での熱間線収縮率が小さい組成の選択が重要である。
【0013】
また、ガラス面、ミネラルウール及びセラミック繊維は、発ガン物質として証明された石綿よりは人工体液に対して優れた溶解特性を有するので、現在まで人間に対する有害性が立証されたことはない。動物試験を通じた毒性学的な試験結果、繊維の人工体液に対する溶解度と動物試験の有害性とは一定の相関関係があるものと知られているが、100ng/cmhr以上の溶解速度定数(Kdis)値を有する繊維は、動物吸入試験で線維症(Fibrosis)または腫瘍(Tumor)を発生させないと報告されている[ウォルター・イーストン(Walter Eastes)ら著、「組成物からのインビトロでのガラス繊維の溶解速度の推定(Estimating in vitro glass fiber dissolution rate from composition.)」、Inhalation Toxicology誌、2000年、第12巻、第4号、第269〜280頁]。最近までに開発された生分解性繊維の溶解速度定数(Kdis)値は、300〜600ng/cmhr水準にとどまっているが、本発明では、セラミック繊維組成物の人工体液に対する溶解度基準値を700ng/cmhr以上に設定し、既存の生分解性セラミック繊維より人体に対する有害性を最小化できる繊維組成物を提供することにその目的がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第2873197号明細書
【特許文献2】米国特許第4555492号明細書
【特許文献3】米国特許第4055434号明細書
【特許文献4】米国特許第3687850号明細書
【特許文献5】米国特許第4604097号明細書
【特許文献6】国際公開特許WO92/0781号
【特許文献7】米国特許第5055428号明細書
【特許文献8】国際公開特許WO87/05007号
【特許文献9】国際公開特許WO89/12032号
【特許文献10】国際公開特許WO93/15028号
【特許文献11】国際公開特許WO94/15883号
【特許文献12】国際公開特許WO97/16386号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】ウォルター・イーストンら、「組成物からのインビトロでのガラス繊維の溶解速度の推定」、Inhalation Toxicology誌、2000年、第12巻、第4号、第269〜280頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、セラミック繊維が人体に吸入される場合にも人体に対する有害性を最小化させることができ、耐熱性など優れた熱的特性を有していて、高温で使用可能であり、既存の製造設備を活用しても容易に繊維を製造することができ、収率を向上させて、経済的な高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決する手段として、高温断熱材用無機繊維の主成分として使用される綱目形成酸化物(SiO)、修飾酸化物(CaO、MgO)、中間酸化物(Al)、綱目酸化物と融剤の役目を同時にするB及び融剤(NaO、KO)を適正の比率で調節し、繊維組成物を配合させることによって、高温物性に優れていて、且つ生分解性が向上したセラミック繊維を提供する。特にBとNaOの含量調節を通じて既存の生分解性セラミック繊維より溶解速度定数を顕著に向上させ、生産時に収率を向上させて、さらに経済的なセラミック繊維を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物によって製造された高温断熱材用生分解性セラミック繊維は、人工体液に対する溶解度が公知のセラミック繊維及び公知の生分解性セラミック繊維と比べて格別に向上し、体内の肺への吸入時にも容易に溶解されて除去されることができるので、人体に対する有害性を減少させることができる。また、優れた生分解性を有すると同時に、熱間線収縮率(1100℃、24時間維持)が3%未満であって、既存の高温断熱材が有する特性対比同等水準の熱的、機械的特性を有する。追加的に、適正量の融剤を含ませて、セラミック繊維の製造時に発生することがある未繊維物質の含量を低減し、生産収率を画期的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、SiO 58〜67重量%、CaO 26〜34重量%、MgO 2〜8重量%、Al 0〜1重量%、B 0〜5重量%、NaO+KO 0〜3重量%、並びにTiO及びFeのうち選択される不純物0〜1重量%が含まれた高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物に関し、1100℃での熱間線収縮率が3%以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が700ng/cm・hr以上であるという特徴を有する。
【0020】
以下、本発明の高温断熱材用生分解性セラミック組成物を詳しく説明する。
本発明によるセラミック繊維の主成分であるSiOは、全体繊維組成物のうち58〜67重量%含有されることが好ましい。SiO含量が58重量%未満なら、高温断熱材用セラミック繊維の一番基本的な物性である耐熱性が急激に弱化する現象が発生し、高温粘度減少によって未繊維化の比率が増加するので、生産性の低下をもたらす。一方、その含量が67重量%を超過する場合には、組成物の繊維化粘度が上昇し、繊維製造時に繊維直径が増加し、これと同時に、未繊維化物質(shot)の発生量が増加するようになり、そのため、物理的な特性である製品触感、引張強度などでも品質低下が発生する。
【0021】
また、本発明による高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物には、製造された繊維の人工体液に対する溶解度を優秀にするために、修飾酸化物であるCaOとMgOが一定含量で含有される。CaOは、全体繊維組成物のうち26〜34重量%含有されることが好ましい。もしその含有量が26重量%未満なら、繊維の人工体液に対する生分解性が減少する問題があり、34重量%を超過すれば、繊維製造時に析出される結晶量が増加するので、製造された繊維におけるSiOの含量が相対的に低くなり、高温安定性の問題、及び熱間線収縮率が大きくなるという問題がある。繊維の生分解性を増加させるために添加される他の修飾酸化物であるMgOは、全体繊維組成物に対して2〜8重量%含有されることが好ましく、より好ましくは、4〜7重量%含有されなければならない。もしMgOの含有量が2重量%未満なら、繊維の人工体液に対する生分解性が減少するか、または繊維製造時に混合アルカリ効果による結晶成長抑制効果が減少し、8重量%を超過すれば、ダイオプサイド(Diopside)とウォラストナイト(Wollastonite)の共融点領域に近くなり、繊維化粘度が上昇し、繊維溶融温度が低くなる問題がある。また、本発明の繊維組成物を組成するにあたって、MgO成分としては、純粋化合物の代わりに、白雲石、石灰石など比較的低価で購入が可能な原料を選択使用しても、本発明の目的効果を達成することができる。
【0022】
本発明では、中間酸化物としてAlを含有する。Alは、全体繊維組成物に対して0〜1重量%含有されることが好ましく、より好ましくは、0.1〜0.7重量%含有されなければならない。1重量%を超過すれば、繊維の人工体液に対する溶解度が減少すると同時に、耐熱温度が低下する問題がある。
【0023】
また、本発明の繊維組成物には、製造された繊維の人工体液に対する溶解性をさらに向上させるために、低融点ガラス形成酸化物であるB、NaO、KOまたはこれらが同時に追加的に含有されることができる。Bは、0〜5重量%、NaO+KOは、0〜3重量%範囲内でそれぞれ添加されることができ、好ましくは、B+NaO+KOの含量が0.1〜5重量%となるように添加することが好ましく、より好ましくは、0.1〜2.0重量%が添加されなければならない。特に、前述したBとNaOが添加されることによって、セラミック繊維の製造工程で繊維化粘度を低減し、生産性向上及び未繊維化の比率を低下させる役目をし、製品化された場合には、塩類人工体液に対する生分解性を向上させる効果がある。また、Bの場合、高温溶融時には、融剤の役目をして繊維化工程における劣比を低減し、セラミック繊維組成では、構造酸化物の役目をし、構造的安定性を維持させる。
【0024】
そして、本発明による繊維組成物の生分解性を向上させるためには、下記の一般式1を満足しなければならない。
【0025】
[一般式1]
1≦(MgO重量%)/(B及びNaOの合計重量%)≦23
【0026】
上記一般式1の構成成分重量比が1未満なら、繊維の耐熱性減少によって耐火断熱材としての使用が困難であり、構成成分重量比が23を超過すれば、繊維化粘度が上昇し、繊維径増加によって製造収率減少が誘発される。
【0027】
また、本発明による高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物には、TiO及びFeのような不純物が全体繊維組成物に対して1重量%以下に含有されることができる。前述した不純物は、上記繊維組成物を製造するために使用される原料の純度によって流入されることができるが、1重量%を超過して含まれる場合、上記繊維組成物成分の反応が阻害される問題があり、製造された繊維の物性が阻害されることがある。
【0028】
上記のような構成成分と含量が含まれた繊維組成物で製造された本発明によるセラミック繊維は、未繊維物質(shot)の含量が40%未満であり、繊維平均粒径が6μm以下であり、熱間線収縮率(1100℃、24時間維持)が3%以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が700ng/cmhr以上である。また、本発明によるセラミック繊維は、上記のような優れた特徴を有しながらも従来のセラミック繊維製造工程をそのまま使用して製造することができるので経済的である。
【0029】
一方、前述した本発明のセラミック繊維組成物を繊維化する方法としては、従来の方法であるブロイング法またはスピニング法を適用することができる。前述した繊維化方法を適用するにあたって、繊維組成物に要求される粘度範囲は、20〜100ポアズ(poise)である。溶融物の粘度は、温度と当該組成の関数として表現することができるところ、同一組成を有する溶融物の粘度は、温度に依存するようになる。繊維化時に、溶融液の温度が高い場合、粘度が低くなり、反対に繊維化温度が低い場合には、粘度が高くなり、繊維化に影響を与える。もし、繊維化温度での繊維組成物の粘度があまりにも低い場合には、生成された繊維の長さが短くて細いだけでなく、微細な未繊維物質(shot)が多く生成され、繊維化収率が低くなる。また、あまりにも高い場合にも、繊維の直径が大きい繊維が形成され、太い未繊維物質(shot)が増加する問題がある。したがって、適正な繊維化特性を把握するための方法として、製造された繊維の特性(繊維径、未繊維物質の含量)を既存RCF(Al−SiO系)と比べて測定することができる。
【0030】
〔実施例〕
以下、本発明による実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲が下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【0031】
[測定方法]
1.繊維平均粒径:電子顕微鏡を利用して1000倍以上の高配率で拡大し、500回以上繰り返し測定し、平均繊維径を測定した。
【0032】
2.未繊維物質の含量:ASTM C892によって未繊維物質の含量を測定した。すなわち、セラミック繊維を1260℃で5時間熱処理させた後、約10gの試料の重さ(W)を0.0001gまで正確に測定した。その後、30メッシュ篩に上記試料を入れ、ゴム棒を利用して押圧し、篩に通過させた。上記篩に通過されたものをさらに順に50メッシュ、70メッシュ篩に通過させた後、各篩に残った粒子の重さ(W)を測定した。その後、次の数式1を利用して未繊維物質の含量(W)を計算した。
【0033】
[数式1]
【数1】

【0034】
上記数式1で、Wは、未繊維物質の含量を示し、Wは、初期粒子の重さを示し、Wは、残った粒子の重さを示す。
【0035】
3.製造収率:一定時間出湯された溶融物総量のうち繊維化された総量の比率を、数式2を利用して計算した。
【0036】
[数式2]
製造収率(%)=[繊維化総量/時間]/[出湯溶融物総量/時間]
【0037】
4.熱間線収縮率:製造された高温耐火断熱材繊維の高温での物性は、通常、製造された繊維よりなる成形物の高温での長さ変化によって測定される熱間線収縮率で測定する。セラミック繊維の熱間線収縮率を測定するために、繊維をパッド(Pad)形態の試験片に製造した後、実験に使用した。まず、繊維220gを0.2%澱粉溶液で充分に解綿した後、300×200mm鋳型に注入し、解綿された繊維を均一にして面の偏差を少なくした後、鋳型の底を通じて排水することによって、パッドを製造した。上記パッドを50℃のオーブンで24時間以上充分に乾燥させた後、150×100×25mmの大きさで切断して試験片を製造し、白金またはセラミックなどの十分な耐熱性を有する材料を利用して測定点を表示した後、バーニアキャリパーを利用して測定点間の距離を精密に測定した。その後、上記パッドを炉(furnace)に位置させて、1100℃で24時間と168時間加熱した後、徐々に冷却させた。上記冷却された試験片の測定点間の距離を測定し、熱処理前後の測定結果を比較し、次の数式3を利用して線収縮率を計算した。
【0038】
[数式3]
【数2】

【0039】
上記数式3で、lは、試験片マーク間の最小距離(mm)を示し、lは、試験片マーク間の加熱後の長さ(mm)を示す。
【0040】
5.人工体液に対する溶解速度定数:製造された繊維の人工体液に対する溶解度を評価するために、下記のような方法で人工体液に対する溶解度を求めた。実験の具体的な方法は、ロウら(Law et al.)(1990)に詳細に描写されている。セラミック繊維の体内生分解性は、人工体液に対する繊維の溶解度を基準にして評価するが、上記溶解度を基準にした体内残留時間を比較した後、下記の数式4を利用して溶解速度定数(Kdis)を計算した。
【0041】
[数式4]
【数3】

【0042】
上記数式4で、dは、初期の平均繊維径を示し、ρは、繊維の初期密度、Mは、初期繊維の質量を示し、Mは、溶解されてから残った繊維の質量を示し、tは、実験時間を示す。初期繊維の質量は、比表面積を基準にして定量され、比表面積測定器(BET)を通じて測定した。
【0043】
繊維の溶解速度を測定するために使用した人工体液(ギャンブル溶液:Gamble solution)1Lに入っている組成成分の含量(g)を下記の表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明のセラミック繊維及び商用の無機繊維をプラスチックフィルタ支持台で固定された0.2μmポリカーボネートメンブレンフィルタ(polycarbonate membrane filter)間の薄い層の間に配置し、このフィルタの間に上記人工体液を濾過させて、溶解速度を測定した。実験が進行されるうちに続いて人工体液の温度を37℃、流量を135mL/日に調節し、CO/N(5/95%)ガスを利用してpHを7.4±0.1に維持させた。長期間に起きる繊維の溶解度を正確に測定するために、繊維を21日間浸出(leaching)させながら、特定間隔(1、4、7、11、14、21日)で濾過された人工体液に対し、誘導結合プラズマ分析法(ICP、Inductively Coupled Plasma Spectrometer)を利用して溶解されたイオンを分析した後、この結果を利用して上記数式4で溶解速度定数(Kdis)を求めた。
【0046】
[試験例1:未繊維物質及び製造収率]
下記の表2に示したような組成成分と含量を使用して通常の方法でセラミック繊維組成物を製造した後、既存のRCF系無機繊維の製造工程でセラミック繊維を製造した。製造されたセラミック繊維の繊維平均粒径、未繊維物質含量、製造収率を測定し、その結果を下記の表2に示した。
【0047】
下記の表2で、比較例1(Al−SiO系繊維)及び比較例4(Al−SiO−ZrO系繊維)は、既存の一般セラミック繊維の例であり、比較例5(Al−SiO−CaO−MgO−ZrO系繊維)は、既存に開発されてきた生分解性セラミック繊維の代表組成である。
【0048】
【表2】

【0049】
一般的に繊維平均粒径が大きく、且つ断面が粗い場合、断熱効果が減少するだけでなく、取り扱い時にひりつくという短所を有している。しかし、本発明の組成範囲で製造された繊維の平均粒径は、略3.7〜3.9μm水準で現われ、通常製造されている商用のセラミック繊維の平均6μmより小さいため、良質であると見られ、繊維平均粒径が小さいので、これを利用して製造された繊維は断熱効果に優れたものであると予想される。
【0050】
未繊維物質の含量を比較して見れば、本発明の開発組成の場合、28〜33%水準であって、既存のセラミック繊維である比較例1、4及び5の30〜40%水準と比べて、未繊維物質の含量が減少することが分かる。製造収率の側面でも、72〜80%水準であって、既存のセラミック繊維製造収率の52〜80%と比較した時、同等以上の水準を達成することができる。
【0051】
比較例2は、SiO、CaO、MgOの含量を本発明による組成範囲で組み合わせて製造したが、融剤であるB及びNaOを含ませない組成である。未繊維物質は、36%水準と増加し、製造収率は、63%水準で確認された。上記のように、融剤が含まれない場合には、高温繊維化粘度の上昇によって繊維化工程に不利に作用し、未繊維化物質の増加、製造収率の減少が発生することを確認することができる。
【0052】
[試験例2:熱間線収縮率及び生分解性]
下記の表3では、上記表2の実施例及び比較例と同一の繊維組成物それぞれの熱間線収縮率と人工体液に対する溶解速度定数(Kdis)値を測定して示した。
【0053】
【表3】

【0054】
上記表3に言及された実施例1〜5の組成で製造されたセラミック繊維は、1100℃の高温で24時間熱処理された場合、熱間線収縮率は、1.2〜1.5%水準であって、高温熱安定性基準水準である3%未満を達成し、上記温度で168時間長期間熱処理を進行した場合にも、熱間線収縮率は小幅増加するが、1.4〜1.8%水準の比較的低い熱間線収縮率を示した。既存セラミック繊維である比較例1、4及び5の場合にも、1100℃の高温で24時間熱処理した場合、熱間線収縮率が1.2〜2.1%水準であって、開発製品と同等の水準であった。
【0055】
また、通常、融剤であるBとNaOの添加によって高温耐熱性能が低下するものと知られているが、比較例2のように融剤を含まない製品も1.2〜1.5%の収縮率を示すことを確認することができ、本発明では、適切な融剤使用比率の調節を通じて、耐熱性能の低下を最小化することができた。
【0056】
上記表3に言及された比較例1、4は、既存RCF系繊維組成物であって、溶解速度定数が20ng/cmhr未満であり、繊維が粉じん形態で人体に吸入される場合に生分解性が非常に低いものと予想される。これとは異なって、本発明の繊維組成物は、溶解速度定数が720〜920ng/cmhrであって、体液での溶解度が急激に増加することが分かった。既存に生分解性繊維として開発された比較例5の組成の場合には、溶解速度定数が355ng/cmhr水準であって、一般的な生分解性要求条件は満足するが、本発明による組成と比べて1/2ないし1/3水準の溶解度を示しているだけである。
【0057】
また、比較例2の組成物は、本発明による組成のうち融剤(B及びNaO)だけを含まない組成である。この組成の溶解度定数は、650ng/cmhrであって、既存類似組成群で製造された繊維の溶解度定数である720〜920ng/cmhr水準に比べて減少することを確認することができる。このように、融剤であるB及びNaOは、セラミック繊維の生分解性の向上に効果的である。
【0058】
以上説明したように、本発明による実施例の組成物で製造されたセラミック繊維は、人工体液に対する優れた生分解性及び繊維化特性を有し、高い繊維化収率によって生産性が増加する。また、1100℃の高温で24時間熱処理時にも、低い線収縮率を有し、高温断熱材用に有用であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO 58〜67重量%、CaO 26〜34重量%、MgO 2〜8重量%、Al 0〜1重量%、B 0〜5重量%、NaO+KO 0〜3重量%、並びにTiO及びFeの中から選択される不純物が1重量%以下で含まれる高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物。
【請求項2】
+NaO+KOを0.1〜5重量%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物。
【請求項3】
+NaO+KOが0.1〜2.0重量%で含まれることを特徴とする、請求項2に記載の高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物。
【請求項4】
下記の一般式1を満足することを特徴とする、請求項1に記載の高温断熱材用生分解性セラミック繊維組成物:
[一般式1]
1≦(MgO重量%)/(B及びNaOの合計重量%)≦23。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維組成物で製造されたものであり、未繊維物質の含量が40重量%未満であり、繊維平均粒径が6μm以下である、高温断熱材用生分解性セラミック繊維。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維組成物で製造されたものであり、熱間線収縮率(1100℃/24時間維持)が3%以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が700ng/cm・hr以上である、高温断熱材用生分解性セラミック繊維。
【請求項7】
請求項5に記載のセラミック繊維を含む断熱材。
【請求項8】
請求項6に記載のセラミック繊維を含む断熱材。

【公表番号】特表2013−512169(P2013−512169A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541009(P2012−541009)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/KR2010/008129
【国際公開番号】WO2011/065698
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(507310879)ケーシーシー コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】