説明

境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルを生成する表面メッシュモデル生成装置、表面メッシュモデル生成方法およびコンピュータプログラム

【課題】少ない計算により、できるだけ均一な表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成する。
【解決手段】点群{ri}のデータからなる物体データ181と、表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデル183とを記憶する記憶装置180と、物体表面の内部に投影基準モデル183の中心を位置させた状態で、投影基準モデル183の各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の投影基準モデル183に略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出手段110と、各投影ベクトルViと、物体データが有する点群{ri}のうち、物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定手段130と、投影点決定手段130で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成するデータ生成手段150とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルを生成する表面メッシュモデル生成装置、表面メッシュモデル生成方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットその他の装置を操作するのに、人の脳波(脳内電流)を検出することで、人が動作を考えるだけで、ロボットその他の装置がその動作をするように制御する技術(BMI:Brain Machine Interface)が研究されている。BMIの分野では、脳内電流によって生成される電磁場を計算するために、一般的に人体頭部の3次元モデルを用いて電磁場を計算する境界要素法が用いられている。境界要素法により電磁場を計算するには、頭皮、頭蓋骨、脳などの頭部組織を、表面メッシュによりモデル化する必要がある。
【0003】
ところで、頭部組織は、特に脳の形状が複雑であるため、このための表面メッシュモデルの生成方法がいろいろと工夫されてきた。例えば、非特許文献1には、MRI(Magnetic Resonance Imaging)により得たデータを用いて頭部の表面メッシュモデルを生成する一つの方法が記載されている。この方法は、次の7つのステップを行って表面メッシュモデルを生成している。
【0004】
[ステップ1]
人間の頭部を水平面(人が立っている場合を想定する)で切断した複数の断面のデータから、当該断面の輪郭線を抽出する。
[ステップ2]
得られた複数の輪郭線を積層して、輪郭線による人の頭部の3次元モデルを生成する。
[ステップ3]
輪郭線上に節点を作り、隣接する輪郭線上の節点同士を接続することで、表面メッシュを生成し、表面メッシュによる頭部の3次元モデルを生成する。
[ステップ4]
ステップ3で得たモデルを膨脹させて滑らかな曲面に変形させる。
[ステップ5]
別途、準正多面体の表面メッシュモデルを生成する。
[ステップ6]
準正多面体の節点を、ステップ4で得た滑らかな曲面に投影する。
[ステップ7]
ステップ6で投影して得た表面メッシュモデルを、ステップ4で膨脹させたときと逆の変換をすることで、頭部の表面形状に倣った形状の表面メッシュモデルを得る。
【0005】
一般的に、表面メッシュモデルは、境界要素法による計算の精度および効率の観点から各要素(表面メッシュの要素)ができるだけ正三角形に近く、大きさが均一であることが望ましい。そのため、従来技術の方法では、ステップ3で一度3次元モデルを生成した後、ステップ4〜7の変形、投影などを行って表面メッシュ形状の改善を試みている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】本間三郎,「脳内電位発生源の特定」,日本評論社,p.29−33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した非特許文献1の方法では、元となるMRIのデータ(座標と、コントラストの情報を持つデータ)から、一度、頭部の表面メッシュモデルを生成するまでの作業が非常に煩雑であり、手間が掛かるという問題があった。そして、その複雑さから、最終的な頭部の表面メッシュモデルを生成するまでの計算の自動化が困難であった。
【0008】
また、従来の方法では、ステップ7で逆変換をすることで、表面メッシュの形状および大きさの均一性が崩れるとともに、ステップ7で逆変換をするときに、誤差が混入するために、できあがったモデルの形状再現性が悪いという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、少ない計算により、できるだけ均一な表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成することができる表面メッシュモデル生成装置、表面メッシュモデル生成方法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決する本発明は、境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成する表面メッシュモデル生成装置であって、物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データと、表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルとを記憶する記憶装置と、前記物体データで特定される物体表面の内部に前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出手段と、前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定手段と、前記投影点決定手段で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成するデータ生成手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような装置によれば、点群のデータからなる物体の表面に、球体メッシュモデルの節点を直接投影して、少ない工数で、大きさおよび形状が揃った表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成することができる。すなわち、従来は、点群のデータから、大きさおよび形状が不揃いな表面メッシュからなる仮の表面メッシュモデルを作成し、この表面メッシュモデルに球体メッシュモデルの節点を投影していたが、本発明の装置においては、仮の表面メッシュモデルを作成することなく、球体メッシュモデルの節点の物体の表面に対応する点から投影点piを決定し、この投影点piを節点として目的とする表面メッシュモデルを生成するので、効率的に表面メッシュモデルを生成することができる。
【0012】
なお、点riから投影点piを決定するときには、点riを投影点piとしてもよいし、点riの近傍の点、例えば、点riを投影ベクトルViに投影した点を投影点piとしてもよい。
【0013】
また、前記した装置においては、必要に応じ、前記投影点決定手段が決定した投影点piと前記節点niを結ぶ線分を所定割合で分割する当該線分上の点を、新たな節点niとして、新たな投影基準モデルを生成する更新投影基準モデル生成手段をさらに備え、前記投影点決定手段は、最初の投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定と、前記更新投影基準モデル生成手段により生成された投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定とを計2回以上実行して、前記データ生成手段が用いる最終的な投影点piを決定することが望ましい。
【0014】
このような装置によれば、最初の投影基準モデル(球体メッシュモデル)から、一度に点群データ上の物体の表面に節点を投影するのではなく、1回以上の仮投影を経て物体の表面に節点が投影される。そのため、物体の表面に凹部または凸部がある場合など、球体メッシュと物体の表面の向きが部分的に大きく異なる場合には、1回の投影では、表面メッシュの形状および大きさの均一性がとりにくいことがあるが、2回以上の投影を経ることで、投影方向が徐々に物体表面を向くようになり、物体の表面に凹部または凸部があっても、均一な形状および大きさで、物体の表面に対応する表面メッシュモデルを生成することができる。
【0015】
前記した装置においては、前記物体データは、点群{ri}のデータとして、前記物体を構成する複数の点riの空間座標と、当該各点riの属性である属性データidとを含み、前記投影点決定手段は、特定の属性の物体表面に対する節点niの投影点piを決定するときに、次の条件、(1)点riの属性データidが特定の値であること、(2)投影ベクトルViと各点riとの距離が所定値εの範囲内であること、を判定し、(1)および(2)を満たす点群{ri}の中で節点niまでの距離が最大または最小の点riを選択し当該点riから投影点piを決定するように構成することができる。
【0016】
このような構成によれば、物体データが、表面のデータのみでなく、内部要素を含む立体的形状を有し、また、各点riの属性(例えば、その点が、皮膚を意味するか、骨を意味するかなどの属性)を有する場合において、特定の属性に属する物体の表面の表面メッシュモデルを生成することができる。なお、節点niまでの距離が最大の点riを選択すれば投影基準モデルから遠い側の表面の表面メッシュモデルが生成され、節点niまでの距離が最小の点riを選択すれば投影基準モデルに近い側の表面の表面メッシュモデルが生成される。
【0017】
また、前記した装置においては、前記物体データは、点群{ri}のデータとして前記物体の表面に相当する点群{ri}のデータのみを含み、前記投影点決定手段は、前記投影ベクトルViと各点riの距離を計算し、最も近い点riから投影点piを決定するように構成することもできる。
【0018】
物体データが、点群{ri}のデータとして物体の表面に相当する点群{ri}のみのデータを含む場合には、この装置のように、より簡単に、投影点決定手段が、投影ベクトルViと各点riの距離を計算し、最も近い点riから投影点pi決定することで表面メッシュモデルを生成することができる。なお、ここで、点群{ri}のデータとして、物体の表面に相当する点群のみのデータを含むとは、点群{ri}で表される物体が、厚みを有さない場合を意味し、表面に相当する点群以外の点については、物体でないことを示すデータを有している場合などが相当する。そのため、属性データを形式上有していてもよく、物体表面に相当する点の属性データの値と、物体表面以外に相当する点の属性データの値とが異なる値となっている場合なども一例として挙げられる。
【0019】
前記した装置においては、前記投影ベクトル算出手段は、各節点niを構成要素として含む複数の表面メッシュの単位法線ベクトルを算出する単位法線ベクトル算出手段と、前記単位法線ベクトル算出手段が算出した複数の前記単位法線ベクトルの和または平均を算出することで、前記各節点niの投影ベクトルViを算出するベクトル和算出手段とを備えることができる。ここでの単位法線ベクトルに言う「単位」は、大きさが揃っていること、いわば規格化されていることを意味し、必ずしも大きさが1である場合には限定されない。
【0020】
そして、単位法線ベクトルの和または平均を算出する場合には、前記ベクトル和算出手段は、前記単位法線ベクトルに、当該単位法線ベクトルに対応する表面メッシュの面積を重みとして乗じて複数の単位法線ベクトルの和または平均を算出することが望ましい。このような構成により、節点niにおける投影基準モデルの表面に略直交する適切な方向を投影ベクトルとして算出できる。
【0021】
前記した装置においては、前記投影点決定手段による投影点piの決定後、節点niと、当該節点niに対応する投影点piの距離を計算し、最も当該距離が大きいまたは小さい節点niを選択するとともに、当該選択した節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交するベクトルを基準投影ベクトルVDとして算出する基準投影ベクトル算出手段をさらに備え、前記投影ベクトル算出手段は、前記基準投影ベクトル算出手段が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、前記基準投影ベクトルVDと平行にして再度設定し、前記投影点決定手段は、前記投影ベクトル算出手段により再度設定された投影ベクトルViに基づいて前記データ生成手段が用いる最終的な投影点piを決定する構成とすることができる。
【0022】
このような装置によると、仮に、投影基準モデル(球体メッシュモデル)を物体の外側に位置させた場合には、投影点piの決定後、節点niと当該節点niに対応する投影点piの距離が最も大きい節点niを選択すると、最も凹んだ節点niが選択され、距離が最も小さい節点niを選択すると、最も凸となった節点niが選択される。逆に、投影基準モデル(球体メッシュモデル)を物体の内側に位置させた場合には、投影点piの決定後、節点niと当該節点niに対応する投影点piの距離が最も大きい節点niを選択すると、最も凸となった節点niが選択され、距離が最も小さい節点niを選択すると、最も凹んだ節点niが選択される。そして、選ばれた節点を基準投影ベクトルVDとし、基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、基準投影ベクトルVDと平行にして再度設定すると、物体の形状が球体形状から遠い(倣っていない)部分について、投影ベクトルViが、およそ物体の表面に向くようになる。これにより、物体表面への投影回数が少なくても、生成された表面メッシュモデルの表面メッシュの大きさおよび形状が揃いやすくなる。
【0023】
そして、この装置においては、前記投影ベクトル算出手段は、前記基準投影ベクトル算出手段が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲外で、かつ、第1の所定距離より大きい第2の所定距離の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交するベクトルと、前記基準投影ベクトルVDとの合成により算出することが望ましい。
【0024】
このように構成することで、基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲外で第2の所定距離の範囲内の節点niから物体の表面へ向かう投影ベクトルViの向きの急変を抑えて、表面メッシュモデルの表面メッシュの大きさおよび形状を揃えやすくすることができる。
【0025】
前記した、複数回の投影により表面メッシュモデルを生成する装置においては、前記更新投影基準モデル生成手段により生成された投影基準モデルに対し、凹凸を緩和させるスムージング処理を行うスムージング手段をさらに備えることが望ましい。これにより、仮の投影点により形成される新たな投影基準モデルをなだらかな曲面形状からなるモデルとすることができ、次の投影に用いられる投影ベクトルの向きの急変(小さい範囲内にある節点ni間での投影ベクトルの向きの大きな違い)を抑制することができる。
【0026】
前記した各装置においては、前記球体メッシュモデルを計算し、前記記憶装置に記憶させる球体メッシュ生成手段をさらに備えていてもよい。すなわち、球体メッシュモデルは、既に用意されたデータを記憶装置に記憶させておくのでもよいし、本発明の装置により計算して記憶装置に記憶させるのでもよい。
【0027】
前記した課題を解決する本発明は、コンピュータを用いた方法として構成することもできる。すなわち、本発明は、記憶装置に物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データおよび表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルが記憶されたコンピュータを用いて境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成する表面メッシュモデル生成方法であって、前記物体データで特定される物体表面の内部に、前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出ステップと、前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定ステップと、前記投影点決定ステップで決定した投影点piを節点として表面メッシュのデータを生成するデータ生成ステップとを備えることを特徴とする。
【0028】
そして、この方法においては、前記投影点決定ステップが決定した投影点piと前記節点niを結ぶ線分を所定割合で分割する当該線分上の点を、新たな節点niとして、新たな投影基準モデルを生成する更新投影基準モデル生成ステップをさらに備え、最初の投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定と、更新投影基準モデル生成ステップにより生成された投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定を、前記投影ベクトル算出ステップおよび前記投影点決定ステップを順次繰り返し行うことにより計2回以上実行して、前記データ生成ステップが用いる最終的な投影点piを決定することが望ましい。
【0029】
また、前記した課題を解決する本発明は、コンピュータプログラムとして構成することもできる。すなわち、本発明は、記憶装置に物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データおよび表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルが記憶されたコンピュータにおいて境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成するコンピュータプログラムであって、前記物体データで特定される物体表面の内部に前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出手段、前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定手段、前記投影点決定手段で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成するデータ生成手段、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルを生成する表面メッシュモデル生成装置、表面メッシュモデル生成方法およびコンピュータプログラムによれば、少ない計算により、形状および大きさが比較的揃った表面メッシュモデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の表面メッシュモデル生成装置に入力されるデータおよびコンピュータの構成である。
【図2】物体の表面への節点niの投影を説明する図である。
【図3】第1実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置の構成を示すブロック図である。
【図4】球体メッシュモデルの例を示す図である。
【図5】投影ベクトルの算出方法を説明する図であり、(a)は、節点niの周囲の表面メッシュおよび各表面メッシュの単位法線ベクトルを示す、球体メッシュモデルに面した図であり、(b)は、節点niの周囲の表面メッシュおよび各表面メッシュの単位法線ベクトルを示す、球体メッシュモデルの断面図である。
【図6】物体に対する節点niの投影を説明する図である。
【図7】第1実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】(a)従来の方法で作成した頭部の表面メッシュモデルの一例と、(b)第1実施形態の装置で作成した頭部の表面メッシュモデルの一例である。
【図9】第2実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置での節点niの投影方法を説明する図である。
【図10】第2実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置の構成を示すブロック図である。
【図11】物体に対する段階的な節点niの投影を説明する図である。
【図12】第2実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置の動作を説明するフローチャートである。
【図13】第2実施形態での投影の各段階のモデルの一例を示す図である。
【図14】(a)第1実施形態の装置で作成した脳および脳幹の表面メッシュモデルの一例と、(b)第2実施形態の装置で作成した脳および脳幹の表面メッシュモデルの一例である。
【図15】第3実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置での節点niの投影方法を説明する図である。
【図16】第3実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置の構成を示すブロック図である。
【図17】(a)第1実施形態の装置で作成した脳の表面メッシュモデルの一例と、(b)第3実施形態の装置で作成した脳の表面メッシュモデルの一例である。
【図18】第4実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置での節点niの投影方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
本発明の基本的形態である、第1実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置100は、CPU2と、ROM3、RAM4および外部記憶装置5などの記憶装置を有するコンピュータからなり、RAM4にコンピュータプログラムが適宜読み込まれてCPU2で実行されることで実現されている。表面メッシュモデル生成装置100は、データの入出力のためのインタフェース6を有し、インタフェース6から物体データ181が入力されて、この物体データ181で特定される適宜な物体の表面に境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデル(三角形の表面メッシュからなる3次元モデルのデータ)を生成する装置である。
【0033】
一例として、本実施形態においては、物体データ181は、BMIで用いる頭皮、頭蓋骨、脳などの頭部組織のデータを例に挙げ、これらのデータは、MRIにより得られたMRIデータ189から生成する。MRIデータ189は、頭部の各水平断面における、各点の水分量がコントラスト(明度)として現れる画像データで、各水平断面において、画素位置およびコントラストに基づいて、各画素が頭皮、頭蓋骨、脳などのいずれの頭部組織に相当するか特定することができる。そこで、各画素位置に、いずれの頭部組織に属するかを属性データidとして付与していくと、水平断面の各画素について座標と頭部組織の属性データidを有するデータが得られ、この属性データidを付与したデータを積層すれば、x,y,zの3次元の各座標位置において頭部組織の属性データidを付与した物体データ181が得られる。すなわち、物体データ181は、各点riが、ri=[x,y,z,id]の内容を有したデータである。そして、物体データ181は、この点riの集合である点群{ri}からなるデータである。
【0034】
第1実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置100は、球体メッシュモデルから1回の投影で表面メッシュモデルを生成する装置である。この投影の概略を説明すると、図2に示すように、球体メッシュモデルである投影基準モデル183の中心Oを物体表面181Aの内側に位置させ、投影基準モデル183の各節点niを物体表面181Aに投影して投影点piを決定し、この投影点piを節点として表面メッシュモデルを生成するものである。本実施形態および以下の実施形態においては、図2に示したように、物体の外側に投影基準モデル183(球面メッシュモデル)が位置するようにして投影を行う場合を説明するが、投影基準モデル183(球面メッシュモデル)は、物体表面181Aの内側にあってもよい。
【0035】
図3に示すように、表面メッシュモデル生成装置100は、投影ベクトル算出手段110、投影点決定手段130、データ生成手段150および記憶装置180を備えている。
【0036】
記憶装置180は、前記した点群{ri}からなる物体データ181と、球体メッシュモデル182と、投影基準モデル183とを記憶している。球体メッシュモデル182は、一例を図4に示すように、球体表面に節点を規則的に配列した表面メッシュモデルであり、例えば、正20面体の表面メッシュモデルの各表面メッシュ(3角形)の1辺を2等分や3等分して新たな点を得て、この点を球面に投影することで新たな節点を増やしていくことで容易に生成することができる。本実施形態においては、球体メッシュモデル182は、既に作成したデータを記憶装置180に記憶してあることとするが、表面メッシュモデル生成装置100が、球体メッシュモデル182を計算し、記憶装置180に記憶させる公知の球体メッシュ生成手段を備えていてもよい。投影基準モデル183は、表面メッシュモデルの生成前にはデフォルト値として球体メッシュモデル182が記憶されている。
【0037】
投影ベクトル算出手段110は、物体データ181で特定される物体表面181Aの内部に投影基準モデル183の中心Oを位置させた状態で、投影基準モデル183の各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の投影基準モデル183に略直交する投影ベクトルViを算出する手段である。このために、投影ベクトル算出手段110は、単位法線ベクトル算出手段111と、ベクトル和算出手段112とを有している。
【0038】
単位法線ベクトル算出手段111は、各節点niを構成要素として含む複数の表面メッシュの単位法線ベクトルを算出する手段である。具体的には、図5(a)に示すように、一つの節点niは、4〜6個程度の表面メッシュMEiに属しており、図5(a)では、この表面メッシュMEiを例えばME1〜ME5とする。つまり、各表面メッシュME1〜ME5は、節点niを構成要素として有している。各表面メッシュME1〜ME5は、節点niの他に2つの節点を構成要素として有し、3つの節点により特定される平面の単位法線ベクトルnv1〜nv5を公知の計算方法で算出することができる。
【0039】
ベクトル和算出手段112は、単位法線ベクトル算出手段111が算出した複数の単位法線ベクトルnviの和または平均を算出することで、各節点niの投影ベクトルViを算出する手段である。本実施形態では、特に、節点niにおける投影基準モデル183の表面にほぼ直交する方向ベクトルを得るため、ベクトル和算出手段112は、単位法線ベクトルnviに、当該単位法線ベクトルnviに対応する表面メッシュMEiの面積を重みとして乗じて複数の単位法線ベクトルnviの平均を算出する構成とする。これにより、図5(b)に示すように、投影ベクトルViを算出することができる。
【0040】
投影点決定手段130は、各投影ベクトルViと、物体データ181が有する点群{ri}のうち、物体表面181Aに相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する手段である。具体的には、投影点決定手段130は、特定の属性の物体表面181Aに対する節点niの投影点piを決定するときに、次の条件
(1)点riの属性データidが特定の値であること
(2)投影ベクトルViと各点riとの距離diが所定値εの範囲内であること
を判定し、
(1)および(2)を満たす点群{ri}の中で節点niまでの距離が最大または最小の点riを選択し当該点riから投影点piを決定する手段である。ここでは、一例として、距離が最小の点riを選択することとする。
【0041】
投影点piの決定について、図6を参照しながらより詳しく説明する。図6においては、簡単に示すため、物体データ181および投影基準モデル183を2次元断面により表示している。図6に示すように、物体データ181は、格子点状に並んでおり、各点riが属性データidを有している。図では、属性データidの値の違いをマークの違いとして表している。一例として、属性データidの値が1の点riは、頭皮であり、属性データidの値が2の点riは、頭蓋骨であり、属性データidの値が3の点riは、脳であるとする。そして、ここでは、頭皮の外側表面の表面メッシュモデルを生成することとし、表面メッシュモデル生成装置100には、生成すべき組織の属性データidとして1(頭皮)が入力されたとする。
【0042】
このとき、まず、(1)の条件を満たすため、投影点決定手段130は、各点riについて属性データidの値を判定して、属性データidが1の点riのみに絞り込む。次に、(2)の条件を満たすため、絞り込まれた点riについて、投影ベクトルViとの距離diを計算し、この距離diが所定値ε以下の点riのみを選択する。例えば、点riを投影ベクトルViに下ろした足の点を点qiとし、点qiを原点からのベクトル、節点niを原点からのベクトル、点riを原点からのベクトル、(A,B)をベクトルAとベクトルBの内積とすれば、
【数1】

のようにして点qiが算出でき、点qiと点riの距離diは、
【数2】

であるから、これによりdiが所定値ε以下であるか否かを判定することができる。
【0043】
この2つの条件(1)、(2)により絞り込まれた点riについて、節点niからの距離が最小の点riを選択する。そして、この点riに対応する点qiを、投影点piとする。この手順を簡略化するため、絞り込まれた点riに対応する各点qiと節点niの距離を計算し、この距離が最小の点qiを投影点piと決定してもよい。
【0044】
データ生成手段150は、投影点決定手段130で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成する手段である。具体的には、表面メッシュモデルは、各節点の空間座標と、どの節点とどの節点を繋ぐかを特定したデータからなるので、投影点piのデータに、投影基準モデル183が有していた節点niと節点niの組合せのデータを組み合わせる(適用する)ことで、表面メッシュモデルのデータを生成する。
【0045】
以上のように構成された表面メッシュモデル生成装置100の動作(表面メッシュモデルの生成方法)について、図7のフローチャートを参照しながら説明する
表面メッシュモデル生成装置100は、記憶装置180に物体データ181および投影基準モデル183が記憶された状態で、コンピュータプログラムが実行され、属性データidが入力された上で、次の各ステップが実行される。
【0046】
まず、投影ベクトル算出手段110により、物体データ181で特定される物体表面181Aの内部に、投影基準モデル183の中心Oを位置させた状態で、投影基準モデル183の各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の投影基準モデル183に略直交する投影ベクトルViを算出する(S10、投影ベクトル算出ステップ)。このステップでは、前記したように、投影基準モデル183に略直交する投影ベクトルViを算出するために、単位法線ベクトル算出手段111により、各節点niを構成要素とする節点niの周囲の表面メッシュの単位法線ベクトルnviを算出し、ベクトル和算出手段112により、これらの周囲の表面メッシュの面積を重みとして乗じて単位法線ベクトルnviの重み付け算術平均を算出する。これにより、各節点niでの投影ベクトルViが決定される。
【0047】
次に、投影点決定手段130により、点群{ri}の各点riについて、入力された属性データidと一致するかを判定し、一致する点riのみに絞り込んだ点群{ri}のデータを生成する(S20、投影点決定ステップ)。
【0048】
そして、投影点決定手段130は、点riと投影ベクトルViの距離diを計算する(S30、投影点決定ステップ)。さらに、投影点決定手段130は、di<εを満たす点riの中で、節点niから最も近い点riを選択する(S40、投影点決定ステップ)。そして、投影点決定手段130は、この選択した点riから投影点piを決定する(S50、投影点決定ステップ)。具体的には、選択した点riから投影ベクトルViに下ろした足の点qiを投影点piとする。
【0049】
次に、投影点決定手段130は、すべての節点niについて投影点piの決定が終了したか否かを判定し、終了していない場合には(S60,No)、ステップS30に戻って他の節点niについての投影点piを決定し、終了している場合には(S60,Yes)、ステップS70に進む。
【0050】
ステップS70において、データ生成手段150は、投影点決定手段130が決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成する(S70、データ生成ステップ)。
【0051】
以上のようにして、本実施形態の表面メッシュモデル生成装置100によれば、点群{ri}のデータからなる物体表面181Aに、球体メッシュモデルの節点niを直接投影して、少ない計算で、大きさおよび形状が揃った表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成することができる。すなわち、従来のように、点群のデータから、大きさおよび形状が不揃いな表面メッシュからなる仮の表面メッシュモデルを作成する作業をすることなく、球体メッシュモデルの節点niの物体表面181Aに対応する点を投影点pi(表面メッシュモデルの節点)として決定するので、効率的に表面メッシュモデルを生成することができる。
【0052】
そして、従来の方法では、頭部の表面メッシュモデルを膨らませた後に投影し、この投影後に頭部形状の逆変換を行っていたことから、図8(a)に示すように、表面メッシュの三角形の形状が正三角形から遠い形状の部位が多かったが、本発明の装置および方法によれば、図8(b)に示すように、正三角形に近い、比較的均一な表面メッシュの形状および大きさで、表面メッシュモデルを生成することができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態においては、第1実施形態と異なる部分を中心に説明し、同じ部分については、図面に同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0054】
第2実施形態においては、球体メッシュモデルから複数回の投影を行うことにより、徐々に目的とする物体表面181Aの形状にモデルを近づける手法を利用した装置について説明する。この投影の概略を説明すると、図9に示すように、球体メッシュモデル182である投影基準モデル183から、物体表面181Aよりも手前側の面に投影基準モデル183の節点niを移動させ、この移動により得た新たな節点ni′からなる表面メッシュモデルを新たな投影基準モデル183として、次の投影を行って次の節点ni″へ移動させる。このようにして節点niを複数回、物体表面181Aに向けて移動させて得られた節点ni″から、最終的に物体表面181Aに投影点piを算出する。このような手法により、球体から徐々に物体表面181Aに向けて投影をするので、投影方向が、球面に垂直な方向から、物体表面181Aに垂直な方向へ向けて徐々に変化し、これにより物体表面181Aに凹部や凸部があった場合でも、局部的に崩れた表面メッシュができないようにしようとするものである。
【0055】
具体的に、第2実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置200は、図10に示すように、第1実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置100に加えて、更新投影基準モデル生成手段120とスムージング手段140を備えている。
【0056】
更新投影基準モデル生成手段120は、投影点決定手段130が決定した投影点piと投影前の節点niを結ぶ線分(図11における符号L1を参照)を所定割合で分割する当該線分上の点を、新たな節点ni(ni′)として、新たな投影基準モデル183を生成する手段である。具体的には、更新投影基準モデル生成手段120は、図11に示すように、節点niから新たな節点ni′を求めるに際し、節点niと投影点piの距離Dniの所定割合の距離Dni′を求め、投影点piからこの距離Dni′の点を選択して、新たな節点ni′とする。このときの所定割合の値は特に限定されず、90%や70%など、適宜な値を選択することができる。各節点niから新たな節点ni′をそれぞれ求め、得られた節点の集合{ni′}を節点とする新たな投影基準モデル183を生成する。
【0057】
そして、本実施形態においては、投影点決定手段130は、最初の投影基準モデル183に基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定と、更新投影基準モデル生成手段120により生成された投影基準モデル183に基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定とを計2回以上実行して、データ生成手段150が用いる最終的な投影点piを決定する。
【0058】
スムージング手段140は、更新投影基準モデル生成手段120により生成された新たな投影基準モデル183に対し、凹凸を緩和させるスムージング処理を行う手段である。このようなスムージング処理は、従来、複数の手法が知られており、本発明において、いずれの手法を用いるかは特に限定されない。このスムージング処理は、更新された投影基準モデル183に局部的な凹凸があると、隣接する節点niの投影ベクトルVi同士がかなり異なる方向を向くことがあるため、節点niの位置の違いによる投影ベクトルViの向きの変化を緩やかにするためのものである。いずれのスムージング手法を用いる場合においても、投影基準モデル183の凹凸が緩和されるのに伴い、表面メッシュの形状も若干均一化される。本実施形態においては、従来知られているスムージング処理の中でも、λ−μスムージングの手法を用いるのが望ましい。この手法は、表面メッシュの凹凸をノイズと考え、ある周波数成分のノイズをフィルタにより除去するものである。具体的には、下記の計算式および条件によりスムージングを行うことができる。
【数3】

【0059】
ここで、vは、i番目の節点座標ベクトルであり、nはスムージング回数のカウンタである。また、wijは、任意の重み関数である。この重み関数wijは、一例として、次式のように与えることができる。
【数4】

【0060】
この計算式で用いるパラメータの一例としては、下記の値を用いることができる。
pb=0.1
f(1)=−f(2)
λ=0.6314
μ=−0.67395
【0061】
スムージング処理の他の手法としては、ラプラスフィルタを用いたスムージング処理がある。これは、ある点iに接するN個の点群(j=1〜N)があるときに、
xi=(x1+x2+・・・+xN)/N
により新たな点xiを得る手法である。
【0062】
以上のような表面メッシュモデル生成装置200による表面メッシュモデルの生成方法について図12を参照しながら説明する。表面メッシュモデル生成装置200では、実行の際のパラメータとして、投影回数が入力される。図12に示すように、第1実施形態と同様にして、ステップS10〜ステップS60までを行い、ステップS60の判定において、すべての節点niについて投影点piの決定が終了したら(S60,Yes)、λ−μスムージングによるスムージング処理を行う(S63)。そして、投影回数cが上限値か否かを判定し、上限値になっていなければ(S65,No)、cをインクリメントして(S67)、ステップS30からの処理を繰り返す。一方、投影回数cが上限値になっていれば(S65,Yes)、最終的な投影点piが得られたということなので、ステップS70へ進んで表面メッシュモデルを作成する。
【0063】
以上のような動作により、表面メッシュモデル生成装置200によれば、物体表面181Aに局部的な凹凸がある場合であっても、正三角形に近い比較的均一な形状および大きさの表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成することができる。
【0064】
図13は、第2実施形態の表面メッシュモデル生成装置200により脳および脳幹の表面メッシュモデルを生成した例であり、球体メッシュモデルからの投影およびスムージングを4回繰り返した後、最後に物体表面181Aに節点niを投影することで得た表面メッシュモデルである。図14(a)に示すように、脳幹のような、局部的な凸形状の部分は、第1実施形態の表面メッシュモデル生成装置100では、表面メッシュが正三角形からかなり崩れた形状となってしまうが、図14(b)に示すように、第2実施形態の表面メッシュモデル生成装置200では、比較的、正三角形に近い形状の表面メッシュからなるモデルを生成することができる。
【0065】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態においては、第1実施形態と異なる部分を中心に説明し、同じ部分については、図面に同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0066】
第3実施形態においては、球体メッシュモデルから1回のみの投影を行うが、物体表面181Aに凹部や凸部があったとしても、第1実施形態よりも、改善された形状の表面メッシュにより表面メッシュモデルを生成しようとするものである。この投影の概略を説明すると、図15に示すように、物体表面181Aが、最も球体から外れた形状部分については、所定範囲(距離がA1以内)について、球体メッシュモデル182から、基準投影ベクトルVDと平行な方向を投影ベクトルViとし、それよりさらに外側の所定範囲(距離がA1〜A2)では、基準投影ベクトルVDと球体メッシュモデルに略直交するベクトルとの合成により投影ベクトルViを算出するようにしている。
【0067】
具体的に、第3実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置300では、図16に示すように、第1実施形態の表面メッシュモデル生成装置100の構成に加えて、基準投影ベクトル算出手段115を備えている。
【0068】
基準投影ベクトル算出手段115は、投影点決定手段130による投影点piの決定後、節点niと、当該節点niに対応する投影点piの距離を計算し、最も当該距離が大きいまたは小さい節点niを選択するとともに、当該選択した節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の投影基準モデル183に略直交するベクトルを基準投影ベクトルVDとして算出する手段である。本実施形態では、計算した距離が最も大きい節点niを選択することとする。
【0069】
そして、本実施形態において、投影ベクトル算出手段110は、基準投影ベクトル算出手段115が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離A1の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、基準投影ベクトルVDと平行にして再度設定する。また、投影ベクトル算出手段110は、基準投影ベクトル算出手段115が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離A1の範囲外で、かつ、第1の所定距離A1より大きい第2の所定距離A2の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の投影基準モデル183に略直交するベクトルと、前記基準投影ベクトルVDとの合成により算出するように構成されている。
【0070】
さらに、本実施形態において、投影点決定手段130は、投影ベクトル算出手段110により再度設定された投影ベクトルViに基づいてデータ生成手段150が用いる最終的な投影点piを決定する。
【0071】
このような構成により、図15に示すように、球体メッシュモデル182の各節点niから、一度、第1実施形態と同様の投影をした後、物体表面181Aまでの距離を計算し、この距離が最も大きい点Fを選択し、点Fに対応する節点niから点Fに向かうベクトルを基準投影ベクトルVDとする。そして、この基準投影ベクトルVDから第1の所定距離A1以内にある節点niに対しては、投影ベクトルViを基準投影ベクトルVDと平行にし、基準投影ベクトルVDから第1の所定距離A1より遠く第2の所定距離A2以内の節点niに対しては、基準投影ベクトルVDと、当該節点niにおける球体メッシュモデル182に略直交するベクトルとの合成により投影ベクトルViを算出する。この合成は、図15においては、単純な平均として示しているが、基準投影ベクトルVDから遠ざかるほど基準投影ベクトルVDの重みを小さくし、節点niにおける球体メッシュモデル182に略直交するベクトルの重みを大きくして、重み付け平均(または和)で2つのベクトルを合成するのが望ましい。これにより、投影ベクトルViの算出手法が切り替わる位置での投影ベクトルViの向きの急変を避けることができる。
【0072】
以上のような構成の表面メッシュモデル生成装置300によれば、凹部などがある物体表面181Aであっても1回の投影で比較的均一な大きさおよび形状の表面メッシュからなる表面メッシュモデルを生成することができる。例えば、図17(a)は、第1実施形態の表面メッシュモデル生成装置100により、脳の表面の表面メッシュモデルを生成したものを、下側から見たものであるが、脳の下側面の窪みの部分は、非常に小さいメッシュや、形が正三角形から崩れた表面メッシュが生成されている。しかし、図17(b)に示すように、本実施形態の表面メッシュモデル生成装置300によれば、脳の下側面も、比較的正三角形に近い、均一な大きさおよび形状の表面メッシュにより表面メッシュモデルを生成することができる。
【0073】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態においては、第1実施形態と異なる部分を中心に説明し、同じ部分については、図面に同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0074】
第4実施形態に係る表面メッシュモデル生成装置は、物体データ181が、点群{ri}のデータとして物体表面181Aに相当する点群{ri}のデータのみを含む場合であり、投影点piの取得を簡素化できる。そのため、第4実施形態では、この投影の点についてのみ説明する。
【0075】
ここで、物体データ181は、図18に示すように、例えば、第1実施形態の図6において、id=2だけの点riだけで、かつ、最も外側の点riだけの集合からなっているとする。図6におけるid=2以外の点は、例えば、id=0など、物体でないことを示すデータを持たせればよい。このような物体データ181を前提として、第4実施形態の表面メッシュモデル生成装置は、投影点決定手段130が、投影ベクトルViと各点riの距離diを計算し、最も近い点riから投影点piを決定する。
このように、点群{ri}が、そもそも物体の表面のみを示すようになっている場合には、投影ベクトルViからの距離が最も近い点riを選択して、この点riに基づいて投影点piを決定することで、簡易に表面メッシュモデルを生成することができる。
【0076】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく、適宜変形して実施することができる。
例えば、ベクトル和算出手段112は、重み付け平均を求めるのではなく、重みを付けない単なる平均を求めて投影ベクトルViを算出してもよいし、単なる和を求めて投影ベクトルViを算出してもよい。
【0077】
前記実施形態では、節点niの投影により選択された点riから投影点piを決定するに際し、点riから投影ベクトルViに下ろした足の点qiを投影点piとしたが、選択された点ri自体を投影点piとしてもよい。
【0078】
前記実施形態では、節点niの投影により点riを選択する際に、節点niから最も近い点を選択する場合を説明したが、最も遠い点を選択してもよい。この場合、例えば、第1実施形態の図6で、属性データidが1の組織を選択するならば、頭皮の内側の表面に対応する表面メッシュモデルが生成されることになる。
【0079】
第3実施形態においては、球体メッシュモデルの節点niから最も遠い点Fを選択して基準投影ベクトルVDを決定していたが、球体メッシュモデルの節点niから最も近い点を選択して基準投影ベクトルVDを決定してもよい。
【0080】
前記実施形態では、一例として人体の組織の表面の表面メッシュモデルを生成する場合について説明したが、他の物体の表面の表面メッシュモデルを生成することもできる。
【符号の説明】
【0081】
100 表面メッシュモデル生成装置
110 投影ベクトル算出手段
111 単位法線ベクトル算出手段
112 ベクトル和算出手段
115 基準投影ベクトル算出手段
120 更新投影基準モデル生成手段
130 投影点決定手段
140 スムージング手段
150 データ生成手段
180 記憶装置
181 物体データ
181A 物体表面
182 球体メッシュモデル
183 投影基準モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成する表面メッシュモデル生成装置であって、
物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データと、表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルとを記憶する記憶装置と、
前記物体データで特定される物体表面の内部に前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出手段と、
前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定手段と、
前記投影点決定手段で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成するデータ生成手段とを備えることを特徴とする表面メッシュモデル生成装置。
【請求項2】
前記投影点決定手段が決定した投影点piと前記節点niを結ぶ線分を所定割合で分割する当該線分上の点を、新たな節点niとして、新たな投影基準モデルを生成する更新投影基準モデル生成手段をさらに備え、
前記投影点決定手段は、最初の投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定と、前記更新投影基準モデル生成手段により生成された投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定とを計2回以上実行して、前記データ生成手段が用いる最終的な投影点piを決定することを特徴とする請求項1に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項3】
前記物体データは、点群{ri}のデータとして、前記物体を構成する複数の点riの空間座標と、当該各点riの属性である属性データidとを含み、
前記投影点決定手段は、
特定の属性の物体表面に対する節点niの投影点piを決定するときに、次の条件
(1)点riの属性データidが特定の値であること
(2)投影ベクトルViと各点riとの距離が所定値εの範囲内であること
を判定し、
(1)および(2)を満たす点群{ri}の中で節点niまでの距離が最大または最小の点riを選択し当該点riから投影点piを決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項4】
前記物体データは、点群{ri}のデータとして前記物体の表面に相当する点群{ri}のデータのみを含み、
前記投影点決定手段は、前記投影ベクトルViと各点riの距離を計算し、最も近い点riから投影点piを決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項5】
前記投影ベクトル算出手段は、
各節点niを構成要素として含む複数の表面メッシュの単位法線ベクトルを算出する単位法線ベクトル算出手段と、
前記単位法線ベクトル算出手段が算出した複数の前記単位法線ベクトルの和または平均を算出することで、前記各節点niの投影ベクトルViを算出するベクトル和算出手段とを備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項6】
前記ベクトル和算出手段は、前記単位法線ベクトルに、当該単位法線ベクトルに対応する表面メッシュの面積を重みとして乗じて複数の単位法線ベクトルの平均を算出することを特徴とする請求項5に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項7】
前記投影点決定手段による投影点piの決定後、節点niと、当該節点niに対応する投影点piの距離を計算し、最も当該距離が大きいまたは小さい節点niを選択するとともに、当該選択した節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交するベクトルを基準投影ベクトルVDとして算出する基準投影ベクトル算出手段をさらに備え、
前記投影ベクトル算出手段は、前記基準投影ベクトル算出手段が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、前記基準投影ベクトルVDと平行にして再度設定し、
前記投影点決定手段は、前記投影ベクトル算出手段により再度設定された投影ベクトルViに基づいて前記データ生成手段が用いる最終的な投影点piを決定することを特徴とする請求項1に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項8】
前記投影ベクトル算出手段は、前記基準投影ベクトル算出手段が算出した基準投影ベクトルVDから第1の所定距離の範囲外で、かつ、第1の所定距離より大きい第2の所定距離の範囲内にある節点niに対応する投影ベクトルViを、各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交するベクトルと、前記基準投影ベクトルVDとの合成により算出することを特徴とする請求項7に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項9】
前記更新投影基準モデル生成手段により生成された投影基準モデルに対し、凹凸を緩和させるスムージング処理を行うスムージング手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項10】
前記球体メッシュモデルを計算し、前記記憶装置に記憶させる球体メッシュ生成手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の表面メッシュモデル生成装置。
【請求項11】
記憶装置に物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データおよび表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルが記憶されたコンピュータを用いて境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成する表面メッシュモデル生成方法であって、
前記物体データで特定される物体表面の内部に、前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出ステップと、
前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定ステップと、
前記投影点決定ステップで決定した投影点piを節点として表面メッシュのデータを生成するデータ生成ステップとを備えることを特徴とする表面メッシュモデル生成方法。
【請求項12】
前記投影点決定ステップが決定した投影点piと前記節点niを結ぶ線分を所定割合で分割する当該線分上の点を、新たな節点niとして、新たな投影基準モデルを生成する更新投影基準モデル生成ステップをさらに備え、
最初の投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定と、更新投影基準モデル生成ステップにより生成された投影基準モデルに基づく投影ベクトルViによる投影点piの決定を、前記投影ベクトル算出ステップおよび前記投影点決定ステップを順次繰り返し行うことにより計2回以上実行して、前記データ生成ステップが用いる最終的な投影点piを決定することを特徴とする請求項11に記載の表面メッシュモデル生成方法。
【請求項13】
記憶装置に物体の表面を特定可能な点群{ri}のデータからなる物体データおよび表面メッシュが略球面状に配列された球体メッシュモデルからなる投影基準モデルが記憶されたコンピュータにおいて境界要素法の計算で用いる表面メッシュモデルのデータを生成するコンピュータプログラムであって、コンピュータを、
前記物体データで特定される物体表面の内部に前記投影基準モデルの中心を位置させた状態で、前記投影基準モデルの各節点niを通り、かつ、当該節点niの位置の前記投影基準モデルに略直交する投影ベクトルViを算出する投影ベクトル算出手段、
前記各投影ベクトルViと、前記物体データが有する点群{ri}のうち、前記物体の表面に相当し、かつ、各投影ベクトルViに最も近い点riを選択し当該点riから投影点piを決定する投影点決定手段、
前記投影点決定手段で決定した投影点piを節点として表面メッシュモデルのデータを生成するデータ生成手段、
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−133434(P2012−133434A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282718(P2010−282718)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】