説明

増幅装置及び増幅方法

【課題】増幅後の出力信号の劣化を抑えること。
【解決手段】信号分離部21は入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する。第1の信号生成部22は、第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を第1の信号に基づいて生成する。第1の合成部23は第1の信号と第1のキャンセル信号とを合成する。第1の増幅部24は第1の合成部23の出力信号を増幅する。第2の信号生成部25は、第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を第2の信号に基づいて生成する。第2の合成部26は第2の信号と第2のキャンセル信号とを合成する。第2の増幅部27は第2の合成部26の出力信号を増幅する。第3の合成部28は第1の増幅部24の出力信号と第2の増幅部27の出力信号とを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、増幅装置及び増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率な線形増幅装置の一つとして、LINC(Linear Amplification with Nonlinear Components)による飽和増幅器を用いた高周波増幅装置がある。図9は、従来の増幅装置を示すブロック図である。図9に示すように、増幅装置は、信号分離部1、デジタル/アナログ変換部(D/A:Digital to Analog Converter)2,12、低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)3,13、直交変調部(QMOD:Quadrature Modulator)4,14、増幅部5,15、局部発振部6及び合成部7を備えている。
【0003】
信号分離部1は入力端子8に接続されている。信号分離部1は、入力端子8から入力された、包絡線変動を伴う入力信号(Sin(t))を、その振幅に応じた位相差を有する信号対(Sc1(t),Sc2(t))に分離する。例えば、入力信号(Sin(t))は、振幅変調及び位相変調(角度変調)を伴う変調信号である。信号対(Sc1(t),Sc2(t))は、定包絡線となる定振幅の位相変調を伴う変調信号である。入力信号(Sin(t))及び信号対(Sc1(t),Sc2(t))は、いずれもベースバンド信号であってもよいし、中間周波数(IF:Intermediate Frequency)信号であってもよい。信号分離部1により、信号対(Sc1(t),Sc2(t))はディジタル信号として生成される。
【0004】
デジタル/アナログ変換部2,12は信号分離部1に接続されている。デジタル/アナログ変換部2は、信号分離部1の出力信号対(Sc1(t),Sc2(t))の一方の信号(Sc1(t))をアナログ信号に変換する。デジタル/アナログ変換部12は、信号分離部1の出力信号対(Sc1(t),Sc2(t))の他方の信号(Sc2(t))をアナログ信号に変換する。
【0005】
低域通過フィルタ3はデジタル/アナログ変換部2に接続されている。低域通過フィルタ3は、デジタル/アナログ変換部2の出力信号から、信号Sc1(t)の周波数帯域に対応する成分を抽出し、信号Sc1(t)の周波数帯域以外の周波数成分を抑圧する。低域通過フィルタ13はデジタル/アナログ変換部12に接続されている。低域通過フィルタ13は、デジタル/アナログ変換部12の出力信号から、信号Sc2(t)の周波数帯域に対応する成分を抽出し、信号Sc2(t)の周波数帯域以外の周波数成分を抑圧する。
【0006】
直交変調部4は低域通過フィルタ3に接続されている。直交変調部4は、局部発振部6から出力された高周波の発振信号(SL(t))を用いて、低域通過フィルタ3の出力信号を直交変調する。直交変調部4は、RF(Radio Frequency)信号である高周波信号対(S1(t),S2(t))の一方の信号(S1(t))を生成する。直交変調部14は低域通過フィルタ13に接続されている。直交変調部14は、直交変調部4と同様に、低域通過フィルタ13の出力信号を直交変調し、高周波信号対(S1(t),S2(t))の他方の信号(S2(t))を生成する。
【0007】
例えば、信号分離部1への入力信号(Sin(t))が次の(1)式で表されるとする。この場合、信号分離部1の出力信号対(Sc1(t),Sc2(t))及び直交変調部4の出力信号対(S1(t),S2(t))は次の(2)〜(6)式で表される。
【0008】
【数1】

【0009】
【数2】

【0010】
【数3】

【0011】
【数4】

【0012】
【数5】

【0013】
【数6】

【0014】
ただし、(1)〜(6)式において、a(t)はSin(t)の振幅変調分である。θ(t)はSin(t)の位相変調分(角度変調分)である。fcはSL(t)の周波数であり、S1(t)及びS2(t)のキャリア周波数である。amaxは、後述する一対の増幅部5,15の飽和出力レベルから設定される定数である。このように、信号分離部1、局部発振部6及び直交変調部4,14を含む構成により、Sin(t)の振幅に応じた位相差2×ψ(t)が生じるように位相変調が与えられた高周波の信号対S1(t),S2(t)が生成される。
【0015】
増幅部5は直交変調部4に接続されており、直交変調部4の出力信号(S1(t))を増幅する。増幅部15は直交変調部14に接続されており、直交変調部14の出力信号(S2(t))を増幅する。増幅部5と増幅部15とは並列に設けられており、増幅部5と増幅部15とで利得及び位相特性が略同じである。増幅部5,15の利得をGとすると、増幅部5の出力信号はG×S1(t)となり、増幅部15の出力信号はG×S2(t)となる。増幅部5,15は飽和増幅器として用いられる。
【0016】
合成部7は増幅部5,15に接続されている。合成部7は、増幅部5の出力信号(G×S1(t))と増幅部15の出力信号(G×S2(t))とを合成する。合成部7には出力端子9が接続されている。合成部7は、合成後の高周波信号(Sout(t))を出力端子9から出力する。例えば、直交変調部4の出力信号(S1(t))及び直交変調部14の出力信号(S2(t))の通過位相をφとすると、合成後の高周波信号(Sout(t))は次の(7)式で表される。
【0017】
【数7】

【0018】
(7)式に示すように、図9に示す増幅装置によれば、信号分離部1への入力信号Sin(t)を利得Gで増幅した高周波の出力信号Sout(t)を得ることができる。また、入力信号に対して高効率な線形増幅を行うことができる。
【0019】
このようなLINCによる飽和増幅器を用いた増幅装置として、次のような構成のものがある。入力信号を同相信号と直交信号とに分離し、同相信号及び直交信号のそれぞれについて上述したような方式で増幅した後、同相信号と直交信号とを再び直交加算するようにした増幅装置がある。また、増幅装置の出力信号をフィードバックして、信号分離部で分離された信号対の各信号の位相を補正するようにした増幅装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2007−150905号公報
【特許文献2】特開2004−260707号公報
【特許文献3】特開2007−174148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、従来の増幅装置では次のような問題点がある。従来の増幅装置にPSK(Phase Shift Keying)信号のようにキャリア極性が反転する信号を入力すると、信号分離部で生成されるディジタル信号対には、位相が180度反転する点が存在し、帯域幅が大幅に広くなる。しかし、ディジタル信号は、ナイキストの定理によりサンプリング周波数の半分の周波数までしか表現することができない。そのため、デジタル/アナログ変換部でアナログ信号に変換され、低域通過フィルタで折り返し成分が除去された信号には、大きなリンギングが生じてしまい、定包絡線の信号とは異なる信号になってしまう。
【0022】
図10及び図11に、従来の増幅装置への入力信号が2トーンである場合の出力信号対のコンステレーションの一例を示す。図10は、アナログ変換前の出力信号対のコンステレーションである。図11は、アナログ変換後に低域通過フィルタ(スムージングフィルタ)を通過した出力信号対のコンステレーションである。スムージングフィルタ通過後の出力信号対は、リンギングによる影響により振幅成分を持っている。そのため、アナログ変換後の出力信号対を増幅する際にAM/AM歪(振幅歪)やAM/PM歪(位相歪)の影響を受けると、合成後の高周波の出力信号が劣化して歪が発生してしまう。
【0023】
出力信号の劣化を抑えることができる増幅装置及び増幅方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
増幅装置は、信号分離部、第1の信号生成部、第1の合成部、第1の増幅部、第2の信号生成部、第2の合成部、第2の増幅部及び第3の合成部を備えている。信号分離部は入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する。第1の信号生成部は、第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を第1の信号に基づいて生成する。第1の合成部は第1の信号と第1のキャンセル信号とを合成する。第1の増幅部は第1の合成部の出力信号を増幅する。第2の信号生成部は、第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を第2の信号に基づいて生成する。第2の合成部は第2の信号と第2のキャンセル信号とを合成する。第2の増幅部は第2の合成部の出力信号を増幅する。第3の合成部は第1の増幅部の出力信号と第2の増幅部の出力信号とを合成する。
【発明の効果】
【0025】
この増幅装置及び増幅方法によれば、出力信号の劣化を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施例1にかかる増幅装置を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施例1にかかる増幅方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、実施例2にかかる増幅装置を示すブロック図である。
【図4】図4は、実施例2にかかる増幅装置の信号生成部を示すブロック図である。
【図5】図5は、実施例2にかかるキャンセル信号生成手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、不連続点における信号の波形を示す図である。
【図7】図7は、実施例2にかかる増幅装置におけるアナログ変換後にスムージングフィルタを通過した出力信号対のコンステレーションの一例を示す図である。
【図8】図8は、実施例3にかかる増幅装置を示すブロック図である。
【図9】図9は、従来の増幅装置を示すブロック図である。
【図10】図10は、従来の増幅装置におけるアナログ変換前の出力信号対のコンステレーションの一例を示す図である。
【図11】図11は、従来の増幅装置におけるアナログ変換後にスムージングフィルタを通過した出力信号対のコンステレーションの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この増幅装置及び増幅方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。増幅装置及び増幅方法は、増幅装置への入力信号を一対の信号に分離し、分離されたそれぞれの信号に対してリンギングのキャンセル信号を合成し、それぞれの信号を増幅した後に合成するものである。以下の各実施例の説明においては、同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0028】
(実施例1)
・増幅装置の説明
図1は、実施例1にかかる増幅装置を示すブロック図である。図1に示すように、増幅装置は信号分離部21、第1の信号生成部22、第1の合成部23、第1の増幅部24、第2の信号生成部25、第2の合成部26、第2の増幅部27及び第3の合成部28を備えている。信号分離部21、第1の信号生成部22、第1の合成部23、第2の信号生成部25及び第2の合成部26は、デジタルベースバンド処理部に含まれる。デジタルベースバンド処理部は、例えばDSP(Digital Signal Processor、ディーエスピー)、FPGA(Field Programmable Gate Array、エフピージーエー)またはCPU(Central Processing Unit、シーピーユー)などのプロセッサにより実現される。信号分離部21は入力端子29に接続されている。信号分離部21は、入力端子29に入力された入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する。
【0029】
第1の信号生成部22は信号分離部21に接続されている。第1の信号生成部22は第1の信号に基づいて第1のキャンセル信号を生成する。第1のキャンセル信号は、増幅装置において第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な信号である。第1の合成部23は信号分離部21及び第1の信号生成部22に接続されている。第1の合成部23は第1の信号と第1のキャンセル信号とを合成する。第1の増幅部24は第1の合成部23に接続されている。第1の増幅部24は第1の合成部23の出力信号を増幅する。
【0030】
第2の信号生成部25は信号分離部21に接続されている。第2の信号生成部25は第2の信号に基づいて第2のキャンセル信号を生成する。第2のキャンセル信号は、増幅装置において第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な信号である。第2の合成部26は信号分離部21及び第2の信号生成部25に接続されている。第2の合成部26は第2の信号と第2のキャンセル信号とを合成する。第2の増幅部27は第2の合成部26に接続されている。第2の増幅部27は第2の合成部26の出力信号を増幅する。
【0031】
第3の合成部28は第1の増幅部24及び第2の増幅部27に接続されている。第3の合成部28は第1の増幅部24の出力信号と第2の増幅部27の出力信号とを合成する。第3の合成部28には出力端子30が接続されている。第3の合成部28は合成後の信号を出力端子30から出力する。
【0032】
・増幅方法の説明
図2は、実施例1にかかる増幅方法を示すフローチャートである。図2に示すように、入力端子29に増幅対象の信号が入力されると、まず、信号分離部21は入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する(ステップS1)。次いで、第1の信号生成部22は第1の信号に基づいて第1のキャンセル信号を生成する(ステップS2)。次いで、第1の合成部23は第1の信号と第1のキャンセル信号とを合成して第3の信号を生成する(ステップS3)。次いで、第1の増幅部24は第3の信号を増幅して第4の信号を生成する(ステップS4)。
【0033】
一方、第2の信号生成部25は第2の信号に基づいて第2のキャンセル信号を生成する(ステップS5)。次いで、第2の合成部26は第2の信号と第2のキャンセル信号とを合成して第5の信号を生成する(ステップS6)。次いで、第2の増幅部27は第5の信号を増幅して第6の信号を生成する(ステップS7)。次いで、第3の合成部28は第4の信号と第6の信号とを合成する(ステップS8)。そして、一連の処理が終了する。第3の合成部28で生成された信号は出力端子30から出力される。
【0034】
実施例1によれば、入力信号から分離された信号にリンギングのキャンセル信号を合成してから増幅するので、増幅の際のAM/AM歪やAM/PM歪の影響を抑制することができる。従って、増幅装置から出力される高周波信号の劣化を抑えることができる。
【0035】
(実施例2)
・増幅装置の説明
図3は、実施例2にかかる増幅装置を示すブロック図である。図3に示すように、増幅装置は、第1の信号生成部として例えば信号生成部42、第1の合成部として例えば合成部43、第2の信号生成部として例えば信号生成部47及び第2の合成部として例えば合成部48を備えている。増幅装置は信号分離部41、第1の変換部として例えばデジタル/アナログ変換部(D/A)44、第1の抽出部として例えば低域通過フィルタ45、第1の増幅部として例えば増幅部46を備えている。増幅装置は、第2の変換部としてデジタル/アナログ変換部(D/A)49、第2の抽出部として例えば低域通過フィルタ50、第2の増幅部として例えば増幅部51及び第3の合成部として例えば合成部52を備えている。信号分離部41、信号生成部42、合成部43、デジタル/アナログ変換部44、信号生成部47、合成部48及びデジタル/アナログ変換部49は、デジタルベースバンド処理部に含まれる。デジタルベースバンド処理部は、例えばDSP、FPGAまたはCPUなどのプロセッサにより実現される。
【0036】
信号分離部41は入力端子53に接続されている。信号生成部42は信号分離部41に接続されている。合成部43は信号分離部41及び信号生成部42に接続されている。デジタル/アナログ変換部44は合成部43に接続されている。低域通過フィルタ45はデジタル/アナログ変換部44に接続されている。増幅部46は低域通過フィルタ45に接続されている。
【0037】
信号生成部47は信号分離部41に接続されている。合成部48は信号分離部41及び信号生成部47に接続されている。デジタル/アナログ変換部49は合成部48に接続されている。低域通過フィルタ50はデジタル/アナログ変換部49に接続されている。増幅部51は低域通過フィルタ50に接続されている。合成部52は増幅部46,51に接続されている。合成部52には出力端子54が接続されている。
【0038】
信号分離部41、デジタル/アナログ変換部44,49、低域通過フィルタ45,50、増幅部46,51及び合成部52については、図9を参照しながら背景技術として説明した増幅装置における信号分離部、デジタル/アナログ変換部、低域通過フィルタ、増幅部及び合成部と同様であるので、重複する説明を省略する。ただし、実施例2においては、デジタル/アナログ変換部44は合成部43の出力信号をアナログ信号に変換する。デジタル/アナログ変換部49は合成部48の出力信号をアナログ信号に変換する。増幅部46は低域通過フィルタ45の出力信号を増幅する。増幅部51は低域通過フィルタ50の出力信号を増幅する。
【0039】
信号生成部42は、信号分離部41の出力信号対(Sc1(t),Sc2(t))の一方の信号(Sc1(t))に基づいて、実施例1と同様、第1のキャンセル信号を生成する。第1のキャンセル信号は、例えば低域通過フィルタ45の出力信号に生じるリンギングを抑圧可能な信号である。合成部43は、信号分離部41の一方の出力信号(Sc1(t))と第1のキャンセル信号とを合成する。信号生成部42を含む、信号分離部41とデジタル/アナログ変換部44との間の構成については後述する。
【0040】
信号生成部47は、信号分離部41の出力信号対(Sc1(t),Sc2(t))の他方の信号(Sc2(t))に基づいて、実施例1と同様、第2のキャンセル信号を生成する。第2のキャンセル信号は、例えば低域通過フィルタ50の出力信号に生じるリンギングを抑圧可能な信号である。合成部48は、信号分離部41の他方の出力信号(Sc2(t))と第2のキャンセル信号とを合成する。
【0041】
・信号生成部の説明
図4は、実施例2にかかる増幅装置の信号生成部を示すブロック図である。信号生成部42(または信号生成部47)は、第1の検出部(または第2の検出部)として例えば遅延部61及び合成部62、第1の反転部(または第2の反転部)として例えば乗算部63及び遅延部64、第4の合成部(または第5の合成部)として合成部65、並びに第1の振幅調整部(または第2の振幅調整部)として乗算部66を備えている。
【0042】
遅延部61は信号生成部42(または信号生成部47)の入力端子67に接続されている。信号生成部42(または信号生成部47)の入力端子67は例えば信号分離部41に接続されている。合成部62は入力端子67及び遅延部61に接続されている。乗算部63は合成部62に接続されている。遅延部64は乗算部63に接続されている。合成部65は合成部62及び遅延部64に接続されている。乗算部66は合成部65に接続されている。乗算部66には合成部43(または合成部48)が接続されている。合成部43(または合成部48)には出力端子68が接続されている。出力端子68は例えばデジタル/アナログ変換部44(またはデジタル/アナログ変換部49)に接続されている。
【0043】
遅延部61は信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))を1サンプル時間遅延させる。合成部62は入力端子67からの入力信号(Sc1(t)またはSc2(t))と、これを遅延部61により1サンプル時間遅延させた信号とを合成し、信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))の1サンプル時間のディジタル信号系列の差を算出する。これにより、信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))の状態が変化するとワンショットパルスが発生するので、信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))の状態が変化したことを検出することができる。
【0044】
乗算部63は合成部62の出力信号に−1を掛けて合成部62の出力信号(第1の極性のワンショットパルス)の極性を反転する。遅延部64は乗算部63の出力信号(第2の極性のワンショットパルス)を1サンプル時間遅延させる。合成部65は合成部62の出力信号(第1の極性のワンショットパルス)と遅延部64の出力信号(第2の極性のワンショットパルス)とを合成する。
【0045】
乗算部66は合成部65の出力信号に、0よりも大きく0.5よりも小さい実数kを乗算して第1のキャンセル信号(または第2のキャンセル信号)を生成する(図5参照)。これにより、合成部65の出力信号の振幅がk倍になる。つまり、第1のキャンセル信号(または第2のキャンセル信号)の振幅は合成部65の出力信号の振幅のk倍となる。kの値は例えば0.25であってもよい。
【0046】
乗算部66から出力された第1のキャンセル信号(または第2のキャンセル信号)は、合成部43において、入力端子67からの入力信号(Sc1(t)またはSc2(t))と合成される。入力端子67と出力端子68との間には遅延部69が設けられている。遅延部69は、入力端子67からの入力信号(Sc1(t)またはSc2(t))を1サンプル時間遅延させる。遅延部69により、合成部43において第1のキャンセル信号(または第2のキャンセル信号)と入力端子67からの入力信号(Sc1(t)またはSc2(t))とを合成する際に両信号のタイミングが一致する。なお、図3では遅延部69が省略されている。
【0047】
・増幅方法の説明
実施例2にかかる増幅方法の全体の流れは、図2を参照しながら実施例1において説明した流れと同様であるので、重複する説明を省略する。
【0048】
・キャンセル信号生成手順の説明
図5は、実施例2にかかるキャンセル信号生成手順を示すフローチャートである。図5に示すように、信号生成部42(または信号生成部47)は、遅延部61及び合成部62により信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))の状態が変化したことを検出する(ステップS11)。次いで、信号生成部42(または信号生成部47)は、乗算部63及び遅延部64により、信号分離部41の出力信号(Sc1(t)またはSc2(t))の状態が変化したときに出力される第1の極性のワンショットパルスの極性を反転し(第2の極性のワンショットパルス)、1サンプル時間遅延させる(ステップS12)。次いで、信号生成部42(または信号生成部47)は、合成部65により第1の極性のワンショットパルスと第2の極性のワンショットパルスとを合成し、その合成信号に乗算部66により係数kを乗じて第1のキャンセル信号(または第2のキャンセル信号)を生成する(ステップS13)。
【0049】
・キャンセル信号の一例
図6は、不連続点における信号の波形を示す図である。図6に示すように、デジタル/アナログ変換部44(またはデジタル/アナログ変換部49)に入力される主信号の波形71に対して、符号72で示すような波形のキャンセル信号が生成される。波形71の主信号と波形72のキャンセル信号とを合成すると、符号73で示すような波形の合成信号が得られる。なお、図6に示す例では、キャンセル信号の振幅は主信号の振幅の例えば0.25倍となっている。この場合の、低域通過フィルタ45(または低域通過フィルタ50)で折り返し成分を除去した後の主信号の波形74、キャンセル信号の波形75、合成信号の波形76を図6に示す。低域通過フィルタ45(または低域通過フィルタ50)を通過した合成信号の波形76は、主信号の波形74に比べてリンギングが抑制されていることがわかる。
【0050】
・出力信号対のコンステレーションの一例(2トーン時)
図7は、実施例2にかかる増幅装置におけるアナログ変換後にスムージングフィルタ(低域通過フィルタ)を通過した出力信号対のコンステレーションの一例を示す図である。図7に示すように、実施例2では、従来の出力信号対のコンステレーション(図11参照)と比べて、リンギングの影響による振幅成分が抑制されているのがわかる。実施例2によれば、実施例1と同様の効果が得られる。なお、従来同様、直交変調部及び局部発振部を備えていてもよい。
【0051】
(実施例3)
・増幅装置の説明
図8は、実施例3にかかる増幅装置を示すブロック図である。図8に示すように、実施例3にかかる増幅装置は、実施例2にかかる増幅装置において、第1のFIR(Finite Impulse Response、有限インパルス応答)フィルタとして例えばFIRフィルタ81及び第2のFIRフィルタとして例えばFIRフィルタ82を備えている。FIRフィルタ81は信号生成部42及び合成部43の代わりに設けられている。FIRフィルタ82は信号生成部47及び合成部48の代わりに設けられている。信号分離部41、FIRフィルタ81、デジタル/アナログ変換部44、FIRフィルタ82及びデジタル/アナログ変換部49は、デジタルベースバンド処理部に含まれる。デジタルベースバンド処理部は、例えばDSP、FPGAまたはCPUなどのプロセッサにより実現される。
【0052】
FIRフィルタ81は、例えば低域通過フィルタ45の出力信号に生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する。FIRフィルタ82は、例えば低域通過フィルタ50の出力信号に生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する。
【0053】
図4に示す信号生成部42(または信号生成部47)において、入力端子67に入力される信号をScnとすると、遅延部61及び遅延部69の出力信号はScn-1となり、遅延部64の出力信号はScn-2となる。ただし、Tをサンプリング周期とすると、Scnは時刻nTにおける入力端子67への入力信号であり、Scn-1は時刻(n−1)Tにおける入力端子67への入力信号であり、Scn-2は時刻(n−2)Tにおける入力端子67への入力信号である。
【0054】
合成部62の出力信号はScn−Scn-1となる。乗算部63の出力信号は−(Scn−Scn-1)となり、遅延部64の出力信号は−(Scn-1−Scn-2)となる。合成部65の出力信号は[Scn−Scn-1−(Scn-1−Scn-2)]となる。これに係数kを掛けるので、乗算部66の出力信号は[Scn−Scn-1−(Scn-1−Scn-2)]×kとなる。合成部43の出力信号は[Scn−Scn-1−(Scn-1−Scn-2)]×k+Scn-1となる。従って、時刻nTにおける合成部43の出力信号をynとすると、次の(8)式で表される。
【0055】
【数8】

【0056】
この(8)式は、FIRフィルタを表す式と同様である。つまりFIRフィルタは、図4に示す構成と等価である。従って、(8)式より、FIRフィルタ81(またはFIRフィルタ82)に入力する現在の信号に対するタップ係数はkであり、1サンプル前の信号に対するタップ係数は(1−2k)であり、2サンプル前の信号に対するタップ係数はkである。k=0.25である場合、ynは次の(9)式で表される。
【0057】
【数9】

【0058】
また、実施例3にかかる増幅装置は、図9を参照しながら背景技術として説明した増幅装置と同様に、低域通過フィルタ45と増幅部46との間に直交変調部(QMOD)83、低域通過フィルタ50と増幅部51との間に直交変調部(QMOD)84、及び直交変調部83,84の間に接続された局部発振部85を備えている。その他の構成は実施例2と同様である。また、直交変調部83,84及び局部発振部85については、図9を参照しながら背景技術として説明した増幅装置における直交変調部及び局部発振部と同様であるので、重複する説明を省略する。実施例3によれば、実施例1と同様の効果が得られる。なお、実施例2と同様に、直交変調部及び局部発振部がなくてもよい。
【0059】
上述した実施例1〜3に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0060】
(付記1)入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する信号分離部と、前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を前記第1の信号に基づいて生成する第1の信号生成部と、前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成する第1の合成部と、前記第1の合成部の出力信号を増幅する第1の増幅部と、前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を前記第2の信号に基づいて生成する第2の信号生成部と、前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成する第2の合成部と、前記第2の合成部の出力信号を増幅する第2の増幅部と、前記第1の増幅部の出力信号と前記第2の増幅部の出力信号とを合成する第3の合成部と、を備えることを特徴とする増幅装置。
【0061】
(付記2)前記第1の信号生成部は、前記第1の信号の状態の変化を検出して第1の極性の信号を生成する第1の検出部と、前記第1の検出部の出力信号の極性を反転して第2の極性の信号を生成する第1の反転部と、前記第1の検出部の出力信号と前記第1の反転部の出力信号とを合成して前記第1のキャンセル信号を生成する第4の合成部と、を備えており、前記第2の信号生成部は、前記第2の信号の状態の変化を検出して第1の極性の信号を生成する第2の検出部と、前記第2の検出部の出力信号の極性を反転して第2の極性の信号を生成する第2の反転部と、前記第2の検出部の出力信号と前記第2の反転部の出力信号とを合成して前記第2のキャンセル信号を生成する第5の合成部と、を備えることを特徴とする付記1に記載の増幅装置。
【0062】
(付記3)前記第1のキャンセル信号の振幅を、0よりも大きく0.5よりも小さい倍率の振幅に調整する第1の振幅調整部を備えており、前記第2のキャンセル信号の振幅を、0よりも大きく0.5よりも小さい倍率の振幅に調整する第2の振幅調整部を備えていることを特徴とする付記2に記載の増幅装置。
【0063】
(付記4)前記第1の合成部と前記第1の増幅部との間に、前記第1の合成部の出力信号をアナログ信号に変換する第1の変換部と、前記第1の変換部の出力信号から前記第1の信号の周波数帯域に対応する成分を抽出する第1の抽出部と、を備えており、前記第2の合成部と前記第2の増幅部との間に、前記第2の合成部の出力信号をアナログ信号に変換する第2の変換部と、前記第2の変換部の出力信号から前記第2の信号の周波数帯域に対応する成分を抽出する第2の抽出部と、を備えることを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の増幅装置。
【0064】
(付記5)前記第1の信号生成部及び前記第1の合成部の代わりに、前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する第1のFIRフィルタを有し、前記第1の信号が前記第1のFIRフィルタを通過することによって前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成した信号が生成され、前記第2の信号生成部及び前記第2の合成部の代わりに、前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する第2のFIRフィルタを有し、前記第2の信号が前記第2のFIRフィルタを通過することによって前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成した信号が生成されることを特徴とする付記1に記載の増幅装置。
【0065】
(付記6)前記第1のFIRフィルタ及び前記第2のFIRフィルタに関し、kを0よりも大きく0.5よりも小さい実数であるとするとき、前記各FIRフィルタに入力する現在の信号に対するタップ係数がkであり、前記各FIRフィルタに入力する1サンプル前の信号に対するタップ係数が(1−2k)であり、前記各FIRフィルタに入力する2サンプル前の信号に対するタップ係数がkであることを特徴とする付記5に記載の増幅装置。
【0066】
(付記7)前記kは0.25であることを特徴とする付記6に記載の増幅装置。
【0067】
(付記8)入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離し、前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を前記第1の信号に基づいて生成し、前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成して第3の信号を生成し、前記第3の信号を増幅して第4の信号を生成し、前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を前記第2の信号に基づいて生成し、前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成して第5の信号を生成し、前記第5の信号を増幅して第6の信号を生成し、前記第4の信号と前記第6の信号とを合成することを特徴とする増幅方法。
【0068】
(付記9)前記第1の信号の状態の変化を検出して単一極性の第7の信号を生成し、前記第7の信号の極性を反転して1サンプル遅延させて第8の信号を生成し、前記第7の信号と前記第8の信号とを合成して前記第1のキャンセル信号を生成し、前記第2の信号の状態の変化を検出して単一極性の第9の信号を生成し、前記第9の信号の極性を反転して1サンプル遅延させて第10の信号を生成し、前記第9の信号と前記第10の信号とを合成して前記第2のキャンセル信号を生成することを特徴とする付記8に記載の増幅方法。
【符号の説明】
【0069】
21,41 信号分離部
22,42 第1の信号生成部
23,43 第1の合成部
24,46 第1の増幅部
25,47 第2の信号生成部
26,48 第2の合成部
27,51 第2の増幅部
28,52 第3の合成部
44 第1の変換部
45 第1の抽出部
49 第2の変換部
50 第2の抽出部
61,62 第1の検出部(第2の検出部)
63 第1の反転部(第2の反転部)
65 第4の合成部(第5の合成部)
66 第1の振幅調整部(第2の振幅調整部)
81 第1のFIRフィルタ
82 第2のFIRフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離する信号分離部と、
前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を前記第1の信号に基づいて生成する第1の信号生成部と、
前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成する第1の合成部と、
前記第1の合成部の出力信号を増幅する第1の増幅部と、
前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を前記第2の信号に基づいて生成する第2の信号生成部と、
前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成する第2の合成部と、
前記第2の合成部の出力信号を増幅する第2の増幅部と、
前記第1の増幅部の出力信号と前記第2の増幅部の出力信号とを合成する第3の合成部と、
を備えることを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
前記第1の信号生成部は、
前記第1の信号の状態の変化を検出して第1の極性の信号を生成する第1の検出部と、
前記第1の検出部の出力信号の極性を反転して第2の極性の信号を生成する第1の反転部と、
前記第1の検出部の出力信号と前記第1の反転部の出力信号とを合成して前記第1のキャンセル信号を生成する第4の合成部と、
を備えており、
前記第2の信号生成部は、
前記第2の信号の状態の変化を検出して第1の極性の信号を生成する第2の検出部と、
前記第2の検出部の出力信号の極性を反転して第2の極性の信号を生成する第2の反転部と、
前記第2の検出部の出力信号と前記第2の反転部の出力信号とを合成して前記第2のキャンセル信号を生成する第5の合成部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の増幅装置。
【請求項3】
前記第1のキャンセル信号の振幅を、0よりも大きく0.5よりも小さい倍率の振幅に調整する第1の振幅調整部を備えており、
前記第2のキャンセル信号の振幅を、0よりも大きく0.5よりも小さい倍率の振幅に調整する第2の振幅調整部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の増幅装置。
【請求項4】
前記第1の信号生成部及び前記第1の合成部の代わりに、前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する第1のFIRフィルタを有し、前記第1の信号が前記第1のFIRフィルタを通過することによって前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成した信号が生成され、
前記第2の信号生成部及び前記第2の合成部の代わりに、前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能なタップ係数を有する第2のFIRフィルタを有し、前記第2の信号が前記第2のFIRフィルタを通過することによって前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成した信号が生成されることを特徴とする請求項1に記載の増幅装置。
【請求項5】
前記第1のFIRフィルタ及び前記第2のFIRフィルタに関し、kを0よりも大きく0.5よりも小さい実数であるとするとき、
前記各FIRフィルタに入力する現在の信号に対するタップ係数がkであり、前記各FIRフィルタに入力する1サンプル前の信号に対するタップ係数が(1−2k)であり、前記各FIRフィルタに入力する2サンプル前の信号に対するタップ係数がkであることを特徴とする請求項4に記載の増幅装置。
【請求項6】
入力信号から第1の信号及び第2の信号を分離し、
前記第1の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第1のキャンセル信号を前記第1の信号に基づいて生成し、
前記第1の信号と前記第1のキャンセル信号とを合成して第3の信号を生成し、
前記第3の信号を増幅して第4の信号を生成し、
前記第2の信号を処理したときに生じるリンギングを抑圧可能な第2のキャンセル信号を前記第2の信号に基づいて生成し、
前記第2の信号と前記第2のキャンセル信号とを合成して第5の信号を生成し、
前記第5の信号を増幅して第6の信号を生成し、
前記第4の信号と前記第6の信号とを合成することを特徴とする増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−142770(P2012−142770A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293839(P2010−293839)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】