説明

増殖因子の徐放性投与のためのヒドロゲル組成物

【課題】単純な混合技術によって均一な組成物として調製され得るポリペプチド増殖因子の徐放性処方物を提供すること。
【解決手段】ポリペプチド増殖因子の徐放性送達のための組成物および方法を開示する。本発明の組成物は、以下:少なくとも1つの正電荷領域を有する、治療有効量のポリペプチド増殖因子;生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;生理学的に受容可能な水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤;および水を含む、ヒドロゲルである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、増殖因子の制御された送達のための処方物に関する。特定の実施態様において、本発明は、虚血性組織の処置および/または創傷治癒のための血管形成増殖因子の徐放性(controlled release)送達に関する。
【0002】
ポリペプチド増殖因子は、細胞の成長および増殖を調節する。多数のヒト増殖因子が同定および特徴付けられている。単に例示のために、これらの増殖因子としては、以下が挙げられる:塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インシュリン様増殖因子(IGF−IおよびIGF−II)、神経増殖因子(NGF)、上皮増殖因子(EGF)およびヘパリン結合EGF増殖因子(HBEGF)。細胞成長および増殖を刺激するそれらの能力のために、増殖因子は、創傷治癒剤として使用されている。いくつかの増殖因子(例えば、bFGFおよびVEGF)は、強力な血管形成効果(すなわち、新たな毛細血管の成長を刺激する)を示す。これらの血管形成増殖因子は、虚血に関連する状態(例えば、冠状動脈疾患および末梢血管疾患)を処置するために使用されてきた。血管形成増殖因子を用いて虚血性組織を処置することにより、動脈の閉塞セグメントをバイパスし得る新たな血管が生成され、それにより、罹患した組織への血流を再確立する(時に、「生体バイパス(bio−bypass)」といわれる手順)。血管形成増殖因子はまた、創傷治癒を促進するために使用されてきた。
【0003】
増殖因子の使用における主なチャレンジは、罹患した領域に適切なレベルのバイオアベイラビリティーの薬物を提供して所望の臨床結果を達成する送達ビヒクルの開発である。それゆえ、特許文献1は、増殖因子を含有する比較的高い粘性のヒドロゲルを産生するための様々な薬剤の使用を開示する。しかし、本発明者らは、bFGFが強力な血管形成剤でありかつ創傷治癒剤において所望されるほかの生物学的活性を保有するという事実にもかかわらず、bFGFおよびヒドロキシエチルセルロースを含有するヒドロゲルの使用が、局所創傷治癒に指向されるヒト診断試行において所望の結果を生じることができないことを見出した。さらに、本発明者らは、血管形成の動物モデルにおけるbFGFおよびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(Pluronic)を含有するヒドロゲルの使用が、所望の血管形成応答を生じることができないことを見出した。
【0004】
ポリペプチド増殖因子の徐放性処方物の調製において遭遇した別の問題は、徐放性特徴を与えるために使用された賦形剤が、単純な混合技術によって増殖因子の均一な分散を調製することを困難にし得ることである。例えば、PDGFの局所処方物は、1%を超えるカルボキシメチルセルロースを使用して商業的に生産されてきた。このような濃度では、ポリペプチドの均一な分散を得ることは困難である。
【0005】
本発明の目的は、血管形成および/または創傷治癒を促進する速度で増殖因子を放出する、ポリペプチド増殖因子の徐放性送達のための処方物を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、そのような処置が必要な被験体において創傷治癒および/または血管形成を促進し得る制御された速度で、増殖因子を投与するための方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、単純な混合技術によって均一な組成物として調製され得るポリペプチド増殖因子の徐放性処方物を提供することである。
本発明のほかの目的は、以下の説明から明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,457,093号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明に従って、ポリペプチド増殖因子の徐放性送達のためのヒドロゲル組成物が提供され、この組成物は、以下を含む:
(a)正電荷の少なくとも1つの領域を有する、治療的に有効な量のポリペプチド増殖因子;
(b)生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)生理学的に受容可能な水混和性非イオン性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水。
本発明はまた、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) ポリペプチド増殖因子の徐放性送達のためのヒドロゲル組成物であって、以下:
(a)少なくとも1つの正電荷領域を含む、治療有効量のポリペプチド増殖因子;
(b)生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)生理学的に受容可能な水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水
を含む、ヒドロゲル組成物。
(項目2) 前記増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖因子およびヘパリン結合EGF様増殖因子から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目3) 前記増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子である、項目1に記載の組成物。
(項目4) 前記水混和性アニオン性ポリマーが、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリ(アクリル酸)から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目5) 前記水混和性アニオン性ポリマーが、ポリ(アクリル酸)である、項目1に記載の組成物。
(項目6) 前記水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤が、5,000Da〜約15,000Daの分子量を有する、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、項目1に記載の組成物。
(項目7) 前記アニオン性ポリマーが、前記組成物の約0.001重量%〜約1.0重量%の量で存在する、項目1に記載の組成物。
(項目8) 前記ポリ(アクリル酸)が、前記組成物の約0.001重量%〜約0.1重量%の量で存在する、項目5に記載の組成物。
(項目9) 前記ポリ(アクリル酸)が、前記組成物の約0.001重量%〜約0.01重量%の量で存在する、項目5に記載の組成物。
(項目10) 前記非イオン性ポリマー粘性制御剤が、前記組成物の約0.5重量%〜約25重量%の量で存在する、項目6に記載の組成物。
(項目11) 塩基性線維芽細胞増殖因子の徐放性投与のためのヒドロゲル組成物であって、以下:
(a)治療有効量の塩基性線維芽細胞増殖因子;
(b)約0.001重量%〜約0.1重量%の、生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)約0.5重量%〜約25重量%の、非イオン性の水混和性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水
を含む、ヒドロゲル組成物。
(項目12) 増殖因子の徐放性送達のための方法であって、該方法は、
このような増殖因子での処置を必要とする個体に、以下:
(a)少なくとも1つの正電荷領域を有する、治療有効量のポリペプチド増殖因子;
(b)生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)生理学的に受容可能な水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水
を含むヒドロゲル組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目13) 前記増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、血管内皮細胞増殖因子およびヘパリン結合EGF様増殖因子から選択される、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子である、項目12に記載の方法。
(項目15) 前記アニオン性ポリマーが、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリ(アクリル酸)から選択される、項目12に記載の方法。
(項目16) 前記非イオン性ポリマー粘性制御剤が、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、項目12に記載の方法。
(項目17) 前記アニオン性ポリマーが、前記組成物の0.001重量%〜1.0重量%の量で存在する、項目12に記載の方法。
(項目18) 前記非イオン性ポリマー粘性制御剤が、前記組成物の約0.5重量%〜約25重量%の量で存在する、項目12に記載の方法。
(項目19) 創傷治癒を促進するための方法であって、該方法は、このような処置を必要とする個体へ、以下:
(a)治療有効量の塩基性線維芽細胞増殖因子;
(b)約0.001重量%〜約0.1重量%の、生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)約0.5重量%〜約25重量%の、非イオン性の水混和性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水
を含む徐放性ヒドロゲル組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目20) 前記ヒドロゲル組成物が、デポー注射によって投与される、項目12に記載の方法。
(項目21) 前記ヒドロゲル組成物が、局所的に投与される、項目12に記載の方法。
(項目22) 徐放性増殖因子組成物を生成するための方法であって、該方法は、以下:
(a)生理学的に受容可能な、水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤;
(b)該増殖因子の該組成物からの制御された放出を与えるのに十分量の、生理学的に受容可能な、水混和性アニオン性ポリマー;および
(c)少なくとも1つの正電荷領域を有する、治療有効量のポリペプチド増殖因子
を水に分散させる工程を包含する、方法。
(項目23) 虚血を処置する方法であって、該方法は、虚血によって特徴付けられる状態に罹患している被験体における虚血性組織の領域に、以下:
(a)少なくとも1つの正電荷領域を有する、治療有効量の血管形成ポリペプチド増殖因子;
(b)生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマー;
(c)生理学的に受容可能な水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤;および
(d)水
を含む徐放性ヒドロゲル組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目24) 前記血管形成ポリペプチド増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子および血管内皮細胞増殖因子から選択される、項目23に記載の方法。
(項目25) 前記血管形成ポリペプチド増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子である、項目23に記載の方法。
(項目26) 前記増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子である、項目23に記載の方法。
(項目27) 前記水混和性アニオン性ポリマーが、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリ(アクリル酸)から選択される、項目23に記載の方法。
(項目28) 前記水混和性アニオン性ポリマーが、ポリ(アクリル酸)である、項目23に記載の方法。
(項目29) 前記水混和性の非イオン性ポリマー粘性制御剤が、約5,000Da〜約15,000Daの分子量を有する、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、項目23に記載の方法。
(項目30) 前記アニオン性ポリマーが、前記組成物の約0.001重量%〜約0.1重量%の量で存在する、項目23に記載の方法。
(項目31) 前記非イオン性ポリマー粘性制御剤が、前記組成物の約0.5重量%〜約25重量%の量で存在する、項目23に記載の方法。
(項目32) 前記処置される虚血性状態が、末梢血管疾患である、項目23に記載の方法。
(項目33) 前記処置される虚血性状態が、冠状動脈疾患である、項目23に記載の方法。
(項目34) 前記血管形成増殖因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子および血管内皮細胞増殖因子から選択される、項目32に記載の方法。
【0010】
本発明者らは、非イオン性ポリマー粘性制御剤と組み合わせてのアニオン性ポリマーの使用が、処方物の薬物放出特徴および生理学的特徴(すなわち、粘性)を独立して制御することを可能にすることを発見した。特に、本発明者らは、水混和性アニオン性ポリマーが、低濃度で使用される場合に、治療的に有効な放出を与えるために使用され得ることを発見した。好ましくは、水混和性アニオン性ポリマーは、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリ(アクリル酸)から選択される。ポリ(アクリル酸)は、総ヒドロゲル組成の0.001重量%〜0.01重量%ほどを構成する場合に、治療的に有効な放出速度を与える。この低濃度では、ポリ(アクリル酸)は、処方物の粘性における増加に有意には寄与しない。従って、特定の適用に使用するために生理学的に受容可能な非イオン性ポリマーを使用して所望の粘性を得ながら、所望の生物学的効果を得るために、ポリ(アクリル酸)を使用して、増殖因子の放出速度を至適化し得る。本発明に従う高度に粘性のヒドロゲルを生成し得るが、本発明者らは、高い粘性が、創傷治癒または血管形成における所望の生物学的効果を得るために必要ではないことを見出した。
【0011】
本発明の1つの実施態様において、虚血によって特徴付けられる状態を処置するための方法が提供され、ここで、本発明の組成物を使用して、虚血性組織に血管形成増殖因子(例えば、bFGFまたはVEGF)の徐放性投薬量を投与する。本発明は、例えば、冠状動脈疾患または末梢血管疾患を処置するために使用され得る。
【0012】
本発明の別の実施態様において、創傷治癒を促進するために方法が提供され、ここで、本発明の組成物を使用して、創傷部位に増殖因子の徐放性投薬量を投与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、虚血性ウサギ耳創傷治癒モデルにおける肉芽組織蓄積に対する本発明のbFGF含有ヒドロゲル処方物の効果のグラフ図である。
【図2】図2は、虚血性ウサギ耳創傷治癒モデルにおける上皮組織蓄積に対する本発明のbFGF含有ヒドロゲル処方物の効果のグラフ図である。
【図3】図3は、虚血性ウサギ耳創傷における肉芽組織裂孔に対する本発明のbFGF含有ヒドロゲル処方物の効果のグラフ図である。
【図4】図4は、虚血性ウサギ耳創傷における上皮組織裂孔に対する本発明のbFGF含有ヒドロゲル処方物の効果のグラフ図である。
【図5】図5は、0.4mg/mLのbFGFを含むゲル処方物からのbFGFの放出を図示する。A:10%Pluronic(登録商標)および0.8%CMC;B:10%Pluronic(登録商標)および0.001%Carbopol(登録商標);C:10%Pluronic(登録商標)。
【図6】図6は、4mg/mLのbFGFを含むゲル処方物からのbFGFの放出を図示する。A:10%Pluronic(登録商標)および0.8%CMC;B:10%Pluronic(登録商標)および0.001%Carbopol(登録商標);C:10%Pluronic(登録商標)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明の組成物は、正味の正電荷の少なくとも1つの領域を有するポリペプチド増殖因子の徐放性送達のために使用され得る。「正味の正電荷の少なくとも1つの領域」とは、ポリペプチド増殖因子が、正味の全体の正電荷を有するか、または増殖因子の組成物からの放出を減弱するような様式においてアニオン性ポリマーと相互作用し得る少なくとも1つの正に荷電したドメインを有することを意味する。単に例示の目的で、本発明の組成物における使用に適切な増殖因子として、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、155アミノ酸形態、154アミノ酸形態および146アミノ酸形態が挙げられるがこれらに限定されない)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF、189アミノ酸形態、165アミノ酸形態145アミノ酸形態、121アミノ酸形態および110アミノ酸形態が挙げられるがこれらに限定されない)、および血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヘパリン結合EGF様増殖因子(HB−EGF)を言及し得る。ヒトアミノ酸配列は、これらの増殖因子の全てについて公知である。VFGFおよびbFGFは、血管形成効果を示す(すなわち、新たな毛細血管の成長を促進する)増殖因子のクラスに属する。血管形成のプロセスは、創傷治癒の重要な成分である。さらに、これらのポリペプチドは、虚血によって特徴付けられる状態を処置するために使用されてきた。血管形成因子の虚血性組織への投与は、閉塞した動脈をバイパスし、そして罹患した組織へ血流を再確立し得る、新たな毛細管の形成を生じる。
ポリペプチド増殖因子は、治療的に有効な量で使用される。組成物において使用される増殖因子の特定の量は、特定の増殖因子、処置される状態、および投薬レジメとともに変動する。当業者は、増殖因子の適切な量を決定して、組成物において使用することができる。一般には、この量は、組成物の約0.01重量%から約5重量%まで変動し得る。
【0015】
本発明の組成物はまた、生理学的に受容可能な水混和性アニオン性ポリマーを含む。適切なポリマーとしては、例示の目的で、ポリ(アクリル酸)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギニン酸、およびヒアルロン酸が挙げられる。ポリ(アクリル酸)およびカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましいアニオン性ポリマーであり、ポリ(アクリル酸)が最も好ましい。使用されるアニオン性ポリマーは、約5,000Daから約5,000,000Daまでの分子量を有し得る。
【0016】
一般には、水混和性アニオン性ポリマーは、組成物の総重量に基づいて、約0.001%から約1%までの量で使用され得る。組成物において使用される水混和性アニオン性ポリマーの量は、使用される特定のポリマーに一部依存して変動し得る。アニオン性ポリマーの電荷密度は、放出速度における決定的な要因であり、比較的高い電荷密度(および、ポリペプチド増殖因子との付随するより強い相互作用)を有するアニオン性ポリマーは、処方物において低濃度で使用され得、そしてなお、放出速度にわたって有効な制御を提供する。例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、ポリ(アクリル酸)より低い負電荷の密度を有する。従って、ポリ(アクリル酸)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムよりかなり低い濃度で有効に使用され得る。
【0017】
ポリ(アクリル酸)を水混和性アニオン性ポリマーとして使用する場合、低濃度(すなわち、組成物の約0.001重量%〜約0.1重量%)でポリ(アクリル酸)を使用することが好ましい。驚くべきことに、本発明者らは、これらの低濃度でのポリ(アクリル酸)が、所望される生物学的応答を促進する速度で放出をもたらし得ることを見出した。より高いポリ(アクリル酸)濃度(すなわち、約1.0%ほど、これはまた、陽性の生物学的反応を生じる)は、炎症性応答と関連する事もまた見出された。さらに、より高い濃度では、ポリ(アクリル酸)は、組成物の粘性に寄与し得る。
【0018】
そのより低い電荷密度に起因して、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、好ましくは、いくらか高い濃度(組成物の総重量に基づいて、約0.1%から約1%まで)で使用される。
【0019】
本発明の組成物はまた、薬学的に受容可能な非イオン性ポリマー粘性制御剤を含む。非イオン性ポリマー粘性制御剤は、約5,000Da〜約15,000Daの分子量を有し得る。
【0020】
好ましい非イオン性ポリマー粘性制御剤は、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである。そのようなコポリマーは、重合化したエチレンオキシド単位のセグメントまたはブロック、および重合化されたプロピレンオキシド単位のセグメントまたはブロックからなる。これらは、本発明の組成物における使用に適切な分子量の範囲で市販されている。例えば、本発明者らは、Pluronic(登録商標)F−127の商標のもとで市販されている約12,600の分子量を有する、A−B−A型(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド)のブロックコポリマーを使用する。そのようなコポリマーは、温度とともにその粘度が上昇するという利点を提供する。従って、室温で比較的自由に流れ、そして混合によって容易に調製されるが、体温に曝露される場合に粘度を増加し、それによって組成物が所望の適用領域から流出することを避ける、本発明の組成物を調製し得る。
【0021】
使用されるポリマー粘性制御剤の量は、特定の適用についての所望の粘度に依存して、かなり変化し得る。本発明者らは、(増加した粘度は、放出速度を減少し得るが)増殖因子の満足な徐放を得ることは組成物の粘度に依存しないことを見出した。本発明の組成物は、室温において、自由に流れる液体から粘性のゲルまでにわたり得る。ポリマー粘性制御剤は、総組成物の約0.5重量%〜約25重量%、好ましくは5〜20%で存在し得る。いくつかの適用(例えば、局所的創傷治癒)について、増殖因子の処置領域からの移動を防ぐために、比較的高粘度が所望され得る。そのような適用のために、組成物が適用部位の同じ場所に残るように、十分な量の非イオン性ポリマー性粘度調節ポリマーを使用する。
【0022】
本発明の組成物はまた、通常の有効量での、他の従来の薬学的賦形剤および添加剤を含み得る。これらには、例えば、保存剤、抗微生物剤、緩衝剤、張度剤(tonicity agent)、界面活性剤、抗酸化剤、キレート剤およびタンパク質安定剤(例えば、糖類)が挙げられる。
【0023】
本発明の処方物は、成分を混合することによって、生成され得る。有利なことに、ストックゲル(stock gel)を、非イオン性ポリマー粘性制御剤を所望の濃度での単純な混合によって、生成し得る。次に、アニオン性ポリマーをストックゲル溶液中に溶解し、そして次に増殖因子の水溶液を、ゲル中に溶解する、そして/または、そのゲルを使用して、増殖因子を含有する凍結乾燥した粉末を再構成し得る。
【0024】
本発明の組成物は、個体(例えば、ヒトまたは他の哺乳動物)において創傷治癒を促進することにおいて有用である。本発明の組成物を用いて処置され得る創傷は、偶発的な損傷、外科的外傷または疾患プロセスによって生じる任意の創傷を含む。これらとしては、皮膚の創傷(例えば、熱傷創傷、切開性創傷、皮膚移植からのドナー部位創傷、潰瘍(床ずれ、静脈うっ血潰瘍および糖尿潰瘍を含む));眼部創傷(例えば、角膜潰瘍、放射状角膜切開術、角膜移植、エピケラトファキアおよび他の外科的に誘導される眼部創傷;ならびに内部創傷(例えば、内部外科的創傷および潰瘍)が挙げられる。
【0025】
創傷部位に対する組成物の適用は、創傷の型および組成物のコンシステンシーに依存して、種々の方法において実行され得る。比較的粘性の組成物の場合において、その組成物を、軟膏または傷薬の様式において適用し得る。より自由に流れる組成物の場合、その組成物を、注入によってか、滴剤(例えば、点眼剤)としてもまた、適用し得る。この組成物はまた、包帯材料(局所適用の場合)または移植材料(好ましくは生分解性移植材料)(内部創傷治癒のための適用の場合)に含浸させるために使用され得る。その組成物は、治療的投薬量を送達するために必要とされる場合、創傷治癒応答によって決定されるように、単回適用において、または複数適用において送達され得る。
【0026】
罹患した領域への血流を回復するために、血管形成性増殖因子(例えば、bFGFまたはVEGF)を含有する本発明の組成物を使用して、虚血によって特徴付けられる状態を処置し得る。そのような状態としては、冠状動脈疾患および抹消血管疾患が挙げられる。この組成物は、例えば、所望の領域中に注入することによってか、または移植片の使用によって、治療的用量を達成するために必要とされる場合、血管形成応答によって決定されるように、単回適用または複数回適用において、罹患組織に適用される。
【0027】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに例証するために提供され、そしていかなる方法によっても本発明の範囲を限定することを意図されない。
【実施例】
【0028】
(実施例)
以下の実施例において、使用したカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)は、70,000Daの分子量を有した。ポリ(アクリル酸)は、3,000,000Daの分子量を有した(Carbopol(登録商標)の商標で販売される)。ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーを、12,600の分子量を有するA−B−A型(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン)のコポリマー(Pluronic(登録商標)127の商標のもとで販売されている)として使用した。使用した塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は、組換え的に産生したヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(タンパク質の155アミノ酸形態をコードする遺伝子の発現産物)であった。
【0029】
(実施例1:ゲル処方物の調製)
(1. 11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのストック溶液の調製)
250mLのメスフラスコ中で、1mM EDTA(pH 6.0)を有する20mM クエン酸緩衝液中に28.125gのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンを溶解した。この溶液を、攪拌によって混合し、そしてポリマーが完全に溶解するまで、4℃の冷蔵庫中に配置した。
【0030】
(2. 0.9% CMCおよび11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのストックゲル溶液の調製)
ガラス瓶中で、上記のように調製した100mLの11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのストックゲル溶液中に、0.9gのカルボキシメチルセルロースナトリウムを溶解した。この溶液を攪拌によって混合し、4℃の冷蔵庫中に配置した。
【0031】
(3. 0.001%ポリ(アクリル酸)および11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンストックゲル溶液の調製)
ガラス瓶中で、上記のように調製した100mLの11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのストックゲル溶液中に、1mgのポリ(アクリル酸)を溶解した。この溶液を攪拌によって混合し、4℃の冷蔵庫中に配置した。
【0032】
(4. 10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8%カルボキシメチルセルロースナトリウム中の4.0mg/mLのbFGFゲル処方物の調製)
1本のバイアルの凍結乾燥したbFGF(7.2mg/)を、1.6mL(1.8mL総容量)のストックゲル溶液(0.9% CMCおよび11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)で再構成し、4.0mg/mL bFGF、10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8% CMCを有するゲル処方物を得た。この処方物を、粉末が完全に溶解するまで、攪拌によって混合した。
【0033】
(5. 10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8%CMC中の0.4mg/mLのbFGFゲル処方物の調製)
1本のバイアルの凍結乾燥したbFGF(7.2mg/バイアル)を、1.8mL(2.0mL総容量)の水で再構成した。1mLの再構成したbFGF溶液を、8.0mLのストックゲル溶液(0.9% CMCおよび11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)に添加し、0.4mg/mL bFGF、10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8% CMCを有するゲル処方物を得た。このゲル処方物を、粉末が完全に溶解するまで、攪拌によって混合した。
【0034】
(6. 10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.01%ポリ(アクリル酸)中の4.0mg/mLのbFGF処方物の調製)
調製手順は、ストックゲル処方物が、0.01%ポリ(アクリル酸)および11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンであった以外は、10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8% CMC中に、4.0mg/mLのbFGFゲル処方物の調製と同一であった。
【0035】
(7. 10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.01%ポリ(アクリル酸)中の0.4mg/mLのbFGFゲルの調製)
調製手順は、ストックゲル処方物が、0.01%ポリ(アクリル酸)および11.25%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンであった以外は、10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンおよび0.8% CMC中に、0.4mg/mLのbFGFゲル処方物の調製と同一であった。
【0036】
この実施例1に記載の手順を使用して、当業者は、種々の量の増殖因子、水に混和可能なアニオン性ポリマーおよび水に混和可能な非イオン性ポリマーを含む本発明の処方物を調製し得る。
【0037】
(実施例2:血管形成の促進)
雄性および雌性のSprague−Dawleyラット(225〜425g体重)を、イソフルランの吸入によって手短に麻酔した。腹部領域を、剃毛し、そして70%エタノールで清浄化した。18−ゲージ針または25−ゲージ針を使用して、実施例1に記載される手順によって生成された種々の投薬量のbFGFを含有するゲル処方物、およびbFGFを含まないコントロールゲル処方物を、腹部領域の正中線に沿って、皮下に注射した。イソフルランの吸入を中断したほとんど直後に、動物は、機敏であり、そして可動性であった。
【0038】
注入の5日後、動物を、二酸化炭素吸入またはフェノバルビタールの過剰用量によって安楽死させた。体重を記録し、そして腹部皮膚を、穏やかに切開し、そして反転し、腹部筋肉を曝露した。注入部位のすぐ周辺の組織を、血管形成、および炎症の存在または非存在について評価した。スコア付けのシステムは、以下のとおりである:
++++ 実質的血管形成
+++ 中程度の血管形成
+++ わずかな血管形成
+ 非常にわずかな血管形成
− 血管形成なし
I 炎症
5日間の血管形成試験の結果を以下の表に示す。
【0039】
bFGFゲル処方物の血管形成結果(5日間試験)
【0040】
【表1】


PAA=ポリ(アクリル酸)
CMC=カルボキシメチルセルロースナトリウム。
【0041】
(実施例3:創傷治癒の促進)
Thomas Mustoe博士(Division of Plastic Surgery and Departments of Surgery and Pathology,Northwestern University Medical School,Chicago)は、3つの主要な耳の動脈のうちの2つの外科的離断によって誘導した、ウサギの耳における虚血が、非常に厚い皮膚創傷の治癒障害を生じることを実証した(AhnおよびMustoe,Ann Plast Surg 24:17−23(1990))。この創傷は、その土台をなすインタクトな耳の軟骨によって固定されるので、創傷の閉合は、細胞浸潤によって生じ、そして物理的収縮によって生じない。公開された研究は、30μg/創傷までの用量で生理食塩水中で投与されたbFGFが、これらの創傷における肉芽組織または上皮組織の蓄積の刺激において効果的でないことを示した(Wuら、Growth Factors 12:29−35(1995))。放出持続性のゲル処方物中で送達されたbFGFの効果を、このモデルにおいて試験した。
【0042】
10%ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(Pluronic(登録商標)127)および0.001%ポリアクリル酸で処方された、2用量形態のbFGF(0.4mg/mLおよび4.0mg/mL)を、盲目様式のプラシーボコントロール(bFGFを含まない処方物)と共に試験した。各用量形態を、創傷あたり10μL(4μg/創傷および40μg/創傷のbFGF)で適用した。試験サンプルを、創傷を作製した日に一度適用した。組織学的評価を回復の7日後に行い、これには、肉芽組織および上皮組織の蓄積の定量化が含まれる(Wuら、1995)。bFGFに応答した、この創傷領域における肉芽組織(図1に示される)および上皮組織(図2に示される)の有意な蓄積が存在した。さらに、肉芽組織の裂孔(図3に示される)および上皮組織の裂孔(図4に示される)の点から測定した、この創傷の大きさは、本発明の処方物を使用したbFGF処置によって統計学的に有意な様式で減少した。図1〜4に示されるP値は、両側の不対t検定によって導かれた。以前の研究は、生理食塩水中に処方された30μg/創傷までのbFGFの用量は、このモデルにおいて効果的でないことを示している。
【0043】
(実施例4:bFGFのインビトロ放出) 種々のゲル処方物からのbFGFのインビトロ放出を、Franz拡散セル(Model FDC40015FC,Crown Bioscientific,Inc.,NJ)を32℃で使用して評価した。各セルは、ドナーチャンバーおよび受容チャンバーからなる。親水性膜(Nucleopore Track−Etch Membrane,Corning Separation Division,No.110609)を、ドナーチャンバーと受容チャンバーとの間にマウントした。この膜を、bFGを受容チャンバー内に通過させるが、有意な量のPluronic(登録商標)、Carbopol(登録商標)またはCMCナトリウムを全く通過させないように選択した。ゲル処方物を、ドナーチャンバー中に配置し、そして緩衝溶液(HBS−EP緩衝液[(BIA保証、Biacore AB,Uppsala,Sweden、0.01M HEPES(pH 7.4)、0.15M NaCl、3mM EDTA および0.05%Polysorbate 20を含む]中、100g/mlのヘパリン)を、受容チャンバーに配置した。サンプルを、種々の時間で受容チャンバーから採取し、そしてbFGF濃度を、BiaCore 2000装置(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を使用して測定した。次いで、放出した累積量および累積パーセントを計算し、そして結果を、それぞれ図5および図6に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21045(P2011−21045A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249223(P2010−249223)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【分割の表示】特願2000−568516(P2000−568516)の分割
【原出願日】平成11年9月3日(1999.9.3)
【出願人】(593215117)サイオス インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】