説明

壁体設置装置および壁体設置方法

【課題】 道路の工事占有範囲を極力少なくするとともに工期の短縮が可能な、立体交差のアプローチ部の擁壁等を施工する壁体設置装置および壁体施工方法を提供する。
【解決手段】 擁壁設置装置1を擁壁21の内側(向かい合う擁壁21同士の中央方向)に設置する。走行台車3を矢印F方向へ上昇させると、擁壁設置装置1の支持脚7は相対的に下方に移動する。走行台車3の上昇に伴い、支持脚7の先端が隙間27に挿入され地面29に接触する。この状態では、支持脚7が地面29に対して支持されるため、擁壁設置装置1の位置が固定される。擁壁21bをチェーンブロック31a、31bによって吊りあげる。次に擁壁21bを吊上げた状態で上段スライドアーム13と下段スライドアーム15とを同期させて伸長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事占有範囲を極力少なくし工期の短縮が可能な、例えば立体交差のアプローチ部の擁壁などの壁体設置装置および壁体設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交差点などの立体交差の工事には、部材の仮置き場や、部材を運搬するクレーン等の動作範囲など、広範囲の工事占有範囲を確保する必要がある。また、工事期間中は、工事車両等の通過や施工時の交通規制の影響で、深刻な渋滞が発生する恐れがある。したがって、短期間かつ交通規制などを最低限に抑えた施工方法が望まれている。
【0003】
また、特に立体交差のアプローチ部は、盛土などにより形成される場合があるが、アプローチ部の擁壁の設置についても、同様な問題が生じる。図12は、立体交差の施工状態を示す図であり、図12(a)は側面図、図12(b)は平面図である。
【0004】
道路71上に橋桁70が設置された後、その両側から立体交差のアプローチ部73が施工される。橋桁70の両脇には図示を省略した側壁が設けられる。アプローチ部73の両脇には、橋桁70の側壁と連続するような壁体が設置される。
【0005】
しかし、通常の方法で壁体を設置すると、アプローチ部73の周辺が工事領域75となるため、道路71の交通規制等を行う必要があり、工期もかかる。
【0006】
このような短期間かつ交通への悪影響を解消する方法としては、複数の分割体により構成され、互いに連結して折り畳むことが可能な構造の上部工を用い、折りたたんだ状態の上部工を橋脚上に設置し、橋脚上で上部工の分割体を展開して橋梁を施工する方法がある(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−176531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のような橋梁床版架設方法をアプローチ部に適用すると、上部工を折り畳める構造にするため、構造が複雑であり、また回転部が金属製であることから、橋梁の耐久性が悪く、工費がかさむという問題がある。また、折り畳まれた上部工を展開する際には、上部工の下方の交通規制を行う必要があり、橋梁の施工に伴う交通規制の緩和の効果は大きくないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、道路の工事占有範囲を極力少なくするとともに工期の短縮が可能な、立体交差のアプローチ部の擁壁等を施工する壁体設置装置および壁体施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、壁体を拡幅して設置する壁体設置装置であって、前記壁体を吊上げる保持手段と、前記壁体を側方へ移動させる移動手段と、を具備し、前記壁体の内側に設置され、前記壁体を拡幅することを特徴とする壁体設置装置である。
【0011】
一対の支持脚と、一対の前記支持脚にそれぞれ設けられる走行台車と、一対の前記支持脚を連結する架台と、を更に具備し、前記移動手段は、前記架台の両側方へスライド可能なアームであり、前記走行台車は前記支持脚に対して昇降可能であってもよい。この場合、前記保持手段は前記アームに設けられたチェーンブロックであり、前記アームは、両側方にそれぞれ上下方向に複数段設けられ、前記チェーンブロックは前記壁体の複数位置を吊り上げ可能であることが望ましい。
【0012】
第1のレールと、前記第1のレールよりも長い第2のレールと、前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行する台車と、前記台車を接合する梁と、前記梁に設けられたジャッキと、を更に具備し、前記移動手段は、前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行可能な複数の前記台車であり、前記保持手段は、前記第1の壁体を吊上げ可能な複数の前記ジャッキであってもよい。この場合、前記台車は、前記第1のレール上に少なくとも1つ設けられ、前記第2のレール上に少なくとも2つ設けられることが望ましく、また、前記第2のレールの長さは、前記第1のレールの長さよりも前記壁体の移動量に相当する長さだけ長いことが望ましい。
【0013】
第1の発明によれば、あらかじめ幅狭に設置された壁体を、壁体の内部から拡幅することができ、このため、立体交差近傍への他の大型クレーン等の設置や、クレーンの交換作業等が不要であるため、短納期に立体交差を施工することができる。
【0014】
また、一対の支持脚に設けられた走行台車を支持脚に対して昇降可能とすれば、隣接する壁体間は走行台車で移動可能であるとともに、拡幅作業時には支持脚を地面に対して固定することができる。また壁体の移動手段としてのスライドアームが複数段に設けられ、スライドアームに設けられたチェーンブロックで壁体の複数位置を吊り上げれば、壁体を安定して吊上げることができる。
【0015】
また、レールを設置してレール上に台車を走行させ、壁体を複数のジャッキで吊上げることで壁体を移動させれば、壁体を安定して移動させることができる。特に長いレール側に2つ以上の台車を設置すれば、装置を安定して走行させることができる。
【0016】
第2の発明は、底部を有する壁体を吊上げる保持手段と、前記壁体を側方へ移動させる移動手段とを具備し、前記壁体の内側に設置され、前記壁体を拡幅することを特徴とする壁体設置装置を用いて、壁体を拡幅して設置する壁体設置方法であって、拡幅予定の第1の壁体上に前記壁体設置装置を設置する工程(a)と、前記第1の壁体を前記保持手段で吊上げる工程(b)と、前記移動手段で前記第1の壁体を拡幅する工程(c)と、前記第1の壁体を吊り降ろす工程(d)と、を具備することを特徴とする壁体設置方法である。
【0017】
前記壁体設置装置は、一対の支持脚と、一対の前記支持脚にそれぞれ設けられる走行台車と、一対の前記支持脚を連結する架台と、を更に具備し、前記移動手段は、前記架台の両側方へスライド可能なアームであり、前記保持手段は前記アームに設けられたチェーンブロックであり、前記工程(b)は、前記チェーンブロックにより前記壁体の上方および下方を吊り上げ、前記第1の壁体を吊上げる工程であり、前記工程(c)は、前記アームをスライドさせて前記第1の壁体を拡幅する工程であり、前記工程(d)の後、前記走行台車で前記第1の壁体に隣接する第2の壁体上へ前記壁体設置装置を移動する工程(e)を更に具備してもよく、この場合、前記走行台車は前記支持脚に対して昇降可能であり、隣接するそれぞれの前記壁体の前記底部同士の間には隙間があり、前記工程(a)では、前記走行台車を前記支持脚に対して上昇させ、前記支持脚が前記第1の壁体前後の前記隙間に挿入され、前記壁体設置装置が固定されることが望ましい。
【0018】
前記壁体設置装置は、第1のレールと、前記第1のレールよりも長い第2のレールと、前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行する車輪と、前記車輪を接合する梁と、前記梁に設けられたジャッキと、を更に具備し、前記工程(a)では、前記第1の壁体の一方の側に隣接する未拡幅の第2の壁体の前記底部に前記第1のレールが設けられ、前記第1の壁体の他方の側に隣接する既に拡幅を終了した第3の壁体の前記底部に前記第2のレールが設けられ、前記工程(b)では、前記第1の壁体を前記ジャッキにより吊り上げる工程であり、前記工程(c)では、前記車輪を前記レール上に走行させて前記第1の壁体を拡幅する工程であってもよい。
【0019】
第2の発明によれば、あらかじめ幅狭に設置された壁体を、壁体の内部から拡幅することができ、このため、立体交差近傍への他の大型クレーン等の設置や、クレーンの交換作業等が不要であるため、短納期に立体交差を施工することができる。
【0020】
また、隣接する壁体の底部同士の間に隙間が設けられ、一対の支持脚に設けられた走行台車を支持脚に対して昇降可能とすれば、隣接する壁体間は走行台車で移動可能であるとともに、拡幅作業時には支持脚を隣接する壁体の底部同士の間に隙間から地面に対して固定することができる。また壁体の移動手段としてのスライドアームが複数段に設けられ、スライドアームに設けられたチェーンブロックで壁体の複数位置を吊り上げれば、壁体を安定して吊上げることができる。
【0021】
また、レールを設置してレール上に台車を走行させ、壁体を複数のジャッキで吊上げることで壁体を移動させれば、壁体を安定して移動させることができる。特に長いレール側に2つ以上の台車を設置すれば、装置を安定して走行させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、道路の工事占有範囲を極力少なくするとともに工期の短縮が可能な、立体交差のアプローチ部の擁壁等を施工する壁体設置装置および壁体施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態にかかる擁壁設置装置1について説明する。図1は、擁壁設置装置1を示す概略図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は平面図である。
【0024】
擁壁設置装置1は、主に走行台車3、車輪5、支持脚7、吊り架台9、吊り架台11、上段スライドアーム13、下段スライドアーム15等から構成される。
【0025】
擁壁設置装置1の両側には一対の支持脚7が設けられる。支持脚7は擁壁設置装置1の両側にさらにそれぞれ2本ずつ設けられる。すなわち、支持脚7は合計4本設けられる。一対の支持脚7の下端には走行台車3がそれぞれ設けられる。すなわち、一対の走行台車3には支持脚7がそれぞれ2本固定される。
【0026】
走行台車3には車輪5が設けられる。走行台車3の長さは擁壁設置装置1の長さよりも長く、図1(b)に示すように、走行台車3は擁壁設置装置1の前後方向に突出する。したがって走行台車3は擁壁設置装置1の転倒防止のための役割も有する。なお、詳細は後述するが、車輪5は走行台車3の突出部に位置する。すなわち、車輪5は、支持脚7と走行台車3との接合部よりも前後方向にそれぞれずれた位置に設けられる。
【0027】
支持脚7は吊り架台9、吊り架台11で接合される。すなわち、擁壁設置装置1の正面は門型形状をなす。吊り架台11には下段スライドアーム15が設けられる。吊り架台11の上方に設けられる吊り架台9には上段スライドアーム13が設けられる。上段スライドアーム13、下段スライドアーム15は、擁壁設置装置1の両側にそれぞれ設置される。なお、上段スライドアーム13、下段スライドアーム15の端部近傍には、図示を省略したチェーンブロックが設けられる。
【0028】
図2は、擁壁設置装置1のスライドアームの動作を示す図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図である。上段スライドアーム13及び下段スライドアーム15は、それぞれ擁壁設置装置1の両側方へ突出するようにスライドが可能である(図中矢印A方向)。スライドアームの伸長および収縮動作は、例えば図示を省略した油圧ジャッキ等が使用できる。
【0029】
図3は、擁壁設置装置1の走行台車3の動作を示す図である。走行台車3と支持脚7とは、完全に接合されておらず、走行台車3は支持脚7に対して昇降可能である。通常時には、支持脚7の下端は走行台車3内に収まる。この際、支持脚7と走行台車3とはその位置で固定される。走行台車3と支持脚7との固定は、ピンによる固定や、ジャッキ等による固定など種々の方法が適用できる。なお、前述の通り、車輪5は走行台車3の両端近傍に設けられ、支持脚7は車輪5の間に位置する。
【0030】
走行台車3と支持脚7との固定を解除し、走行台車3を支持脚7に対して上昇させると(図中矢印B方向)、支持脚7は走行台車3を貫通して走行台車3の下方に突出する。走行台車3の昇降動作は、走行台車3内に図示を省略したモータを設置し、支持脚7との間でラックピニオンギアなどにより行われてもよく、その他公知の種々の方法が適用できる。
【0031】
次に、壁体である擁壁の設置方法を説明する。図4は擁壁21の設置方法を示す図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のC部拡大図、図4(c)は図4(b)のD−D線断面図である。
【0032】
道路17と道路18との交差部には、公知の方法であらかじめ立体交差の橋桁19が設けられる。橋桁19の両脇のアプローチ部に該当する部位には擁壁21が並べて設置される。この際、図4(b)に示すように、擁壁21は互いに向かい合うように設置される。擁壁21の間隔は橋桁19の間隔よりも狭く、例えば門型クレーンを用いて、橋桁19の幅内のみを工事領域として、擁壁21を設置する。したがって、擁壁21の設置時に道路18等の交通規制を行う必要がなく、道路18と橋桁19との間は車両の通行を行いながら作業を行うことができる。
【0033】
図4(c)に示すように、擁壁21の断面形状は略L字状をなし、側部の上方には厚さが薄い高欄23が設けられる。高欄23は最終的にアプローチ部の側壁となる部位である。擁壁21の下方には側部と略垂直な底部25が設けられる。図4(b)に示すように、底部25の幅は擁壁21の幅よりもやや狭い。したがって、擁壁21を互いに接するように併設すると、底部25同士の間には隙間27が形成される。
【0034】
擁壁21同士の間隔は極めて狭いため、アプローチ部として使用するためには、通常、擁壁21の間隔を橋桁19の幅まで拡幅する必要がある。図5は、擁壁21の内側に擁壁設置装置1を設置した状態を示す図で、図5(a)は平面図、図5(b)は正面図、図5(c)は図5(a)のE−E線断面図である。
【0035】
まず、擁壁設置装置1を擁壁21の内側(向かい合う擁壁21同士の中央方向)に設置する。図5(b)に示すように、擁壁設置装置1は、互いに向かい合う擁壁21の幅よりも狭い。したがって擁壁設置装置1は、擁壁21の外側に出ることがなく、擁壁21の内側を移動することができる。このため、擁壁21の外側の交通規制を行うことなく作業を行うことができる。
【0036】
図5(a)は、擁壁21bを拡幅する前の状態を示す図であり、既に拡幅が行われた擁壁21aに隣接する擁壁21b上に擁壁設置装置1を設置した状態を示す図である。この場合、図5(c)に示すように、走行台車3は擁壁21bに隣接する擁壁21a、21c上に突出し、車輪5は、それぞれ擁壁21a、21c上に位置する。したがって、擁壁設置装置1は擁壁21b上には乗ることがない。なお、最端の擁壁21を最初に拡幅する際には、擁壁21aの位置が橋桁19の端部近傍となり、擁壁21の底部25に対応する受け部材等を設け、車輪5が受け部材上に位置すればよい。
【0037】
擁壁設置装置1の幅(支持脚7の前後方向の幅)は、擁壁21の幅と略一致する。したがって、擁壁21b上に擁壁設置装置1を設置した状態では、擁壁設置装置1の支持脚7は、擁壁21aの底部25aと擁壁21bの底部25bとの隙間27と、擁壁21bの底部25bと擁壁21cの底部25cとの隙間27との上方にそれぞれ位置する。なお、支持脚7の断面サイズは、隙間27よりも小さく、支持脚7は隙間27へ挿入可能な大きさである。
【0038】
また、図5(b)に示すように、擁壁設置装置1の高さは擁壁21の高さよりも高い。すなわち、上段スライドアーム13は擁壁21よりも高い位置に位置する。
【0039】
次に、走行台車3を上昇させる。図6は走行台車3を上昇させた状態を示す図で、図6(a)は図5(b)に対応する正面図、図6(b)は図5(c)に対応する断面図である。なお、図6(a)においては、手前側の擁壁21c、21dを透視した状態を示す図である。
【0040】
図6(a)に示すように走行台車3を矢印F方向へ上昇させると、図6(b)に示すように、擁壁設置装置1の支持脚7は相対的に下方に移動する(図中矢印G方向)。前述の通り、支持脚7は隙間27の上方に位置し、隙間27よりも断面形状が小さいため、走行台車3の上昇に伴い、支持脚7の先端が隙間27に挿入され地面29に接触する。走行台車3が擁壁21より離れると、擁壁設置装置1は支持脚7のみによって自立する。この状態では、支持脚7が地面29に対して支持されるため、擁壁設置装置1の位置が固定される。なお、擁壁設置装置1は擁壁21に対してやや下方に下がるが、この状態でも上段スライドアーム13は擁壁21よりも高い位置に位置する。
【0041】
次に、擁壁21を吊上げる。図7は、擁壁21bと擁壁設置装置1とをチェーンブロック31a、31bで吊りあげる工程を示す図である。
【0042】
まず、図7(a)に示すように、上段スライドアーム13を伸縮調整し、擁壁21bの上端上方に位置させる。上段スライドアーム13の端部にはチェーンブロック31aが設けられているため、チェーブロック31aを擁壁21bの高欄23上端部に接合する。
【0043】
同様に下段スライドアーム15の端部に設けられたチェーンブロック31bを擁壁21bの底部25に接合する。チェーンブロック31a、31bともに擁壁21bとの接合部から上段スライドアーム13、下段スライドアーム15との接合部までは略垂直な位置に接合される。
【0044】
次に、図7(b)に示すように、擁壁21bをチェーンブロック31a、31bによって吊りあげる(図中矢印H方向)。チェーンブロック31aとチェーンブロック31bとを同期させて吊りあげれば、擁壁21bをまっすぐに吊上げることができる。この際、擁壁21bのチェーンブロック31a、31bとの接合位置は、擁壁21bの重心(L字状の角部近傍)を挟むような位置となるため、擁壁21bを吊上げた状態で傾いたり倒れたりすることがない。したがって、擁壁21bの吊り上げ量はわずかで良い。擁壁21の吊り上げ量は例えば50cm程度である。
【0045】
次に擁壁21bを移動して拡幅する。図8は擁壁21の移動状態を示す図である。図8(a)に示すように、擁壁21bを吊上げた状態で上段スライドアーム13と下段スライドアーム15とを同期させて伸長させる(図中矢印I方向)。上段スライドアーム13および下段スライドアーム15の伸長長さは、例えば橋桁19の幅や既拡幅の擁壁21aの幅に合わせればよい。この際、擁壁21bの底部25は略水平に保たれるため、擁壁21bが地面や他の擁壁と接触することがない。なお、移動量としては、例えば片側1m〜2m程度である。
【0046】
次に、図8(b)に示すように、所定の位置で擁壁21bを吊り降ろす(図中矢印J方向)。この際、チェーンブロック31a、31bを同期させれば、擁壁21bが傾いたりせずにまっすぐに吊り降ろすことができる。
【0047】
擁壁21b設置後、チェーンブロック31a、31bを取り外し、上段スライドアーム13、下段スライドアーム15を元の状態に縮める。さらに、走行台車3を降下させ(支持脚7を上昇させ)、図5(b)の状態に戻す。その後、擁壁21bに隣接する未拡幅の擁壁21c上へ擁壁設置装置1を移動させる。この際、擁壁設置装置1は隙間27を乗り越える必要があるが、走行台車3が通過する隙間27には、あらかじめ受け部材等を設置し、底部25の上面との段差が小さくなるようにしておけばよい。なお、走行台車3の走行はモータによって行われてもよく、またはチェーンブロック等により行われてもよい。以上の作業を繰り返し、擁壁21の設置(拡幅)が終了する。
【0048】
すべての擁壁21の拡幅設置作業が完了した後、図9に示すように、擁壁21の内側に、軽量盛土33(または流動化土)を充填し、その上に砕石35を設け、上面をアスファルト37で舗装してアプローチ部の施工が完了する。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる擁壁設置装置1によれば、擁壁設置装置1が擁壁21の内側でのみ動作し、擁壁21の外側に突出しないので、擁壁21の拡幅幅以上に工事領域が必要なく、交通規制を最低限に抑えて設置作業を行うことができる。
【0050】
また、上段スライドアーム13、下段スライドアーム15の複数のアームによって擁壁21を吊り上げることができるため、擁壁21の重心を挟んで複数か所を吊上げることにより、擁壁21をまっすぐに吊上げることができ、擁壁21が傾いたり倒れたりすることがない。
【0051】
また、走行台車3が昇降可能であり、走行時には走行台車3で隣接する擁壁21上へ移動することができ、擁壁21の移動時には、支持脚7を地面に支持させることで擁壁設置装置1の位置を固定することができる。
【0052】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10は擁壁設置装置40を示す図であり、図10(a)は平面図、図10(b)は図10(a)のK−K線断面図である。図10(a)は、互いに向かい合って設置された擁壁の片側の拡大図であり、擁壁41aは既に拡幅が完了した擁壁であり、擁壁41bはこれから拡幅を行う擁壁であり、擁壁41cは擁壁41bに隣接する未拡幅の擁壁である。なお、擁壁41a、41b、41cの底部53a、53b、53cの幅は、擁壁側部の幅と略同一であるため、本実施の形態においては、底部53間に隙間は生じない。
【0053】
擁壁設置装置40は、主にレール43a、43b、走行台車45a、45b、45c、梁部47、48、ジャッキ49a、49b等から構成される。レール43aは、拡幅済みである擁壁41aの底部53a上に設けられる。レール43bは、擁壁41cの底部53c上に設けられる。レール43a、43bは互いに略平行に設けられ、レール43a、43bの長手方向は、擁壁41bの拡幅方向と一致する。
【0054】
レール43aはレール43bよりも長さが長い。すなわち、レール43a、43bの一方の端部は、未拡幅である擁壁41b、41cの底部53b、53cの内側端部の位置と略一致する。レール43a、43bの他方の端部は、それぞれ設置されている擁壁41a、41cのそれぞれの側部と底部との角部(L字状の角部)近傍まで延伸される。したがって、レール43aはレール43bよりも擁壁41aの移動量(すなわち拡幅量)に相当する長さだけ長い。
【0055】
レール43aは、底部53aの長さよりも長い分だけ底部53aの内側にはみ出す。はみ出したレール43aの下方には受台51が設けられる。受台51は底部53aと略同一厚さであるため、レール43aは同一面上に設置される。
【0056】
レール43a上には走行台車45a、45bが設置される。レール43b上には走行台車45cが設置される。走行台車45a、45b、45cには車輪55が設けられ、それぞれレール43a、43b上をレールに沿って移動可能である。走行台車45a、45cは、レール43a、43bそれぞれの底部内側の端部近傍に設けられる。走行台車45bは走行台車45aと所定の間隔をあけて設けられる。
【0057】
走行台車45a、45cはレール45に略垂直な方向の梁部47で連結される。走行台車45b、45cは、レール45に対して斜め方向の梁部48で連結される。梁部47上にはジャッキ49a、49bが設けられる。梁部48上にはジャッキ49cが設けられる。ジャッキ49a、49b、49cは例えばセンターホール油圧ジャッキである。
【0058】
図10(b)に示すように、ジャッキ49a、49bには棒状部材59が設置される。棒状部材59は略鉛直方向に設けられ、下端が底部53bに埋め込まれたナット部57と螺合し接合されている。棒状部材59はジャッキ49a、49bを貫通し、ジャッキ49a、49b上でナット61が固定されている。
【0059】
図11は擁壁41bを移動させる工程を示す図である。まず、走行台車45a、45b、45cを固定する。次いで、図11(a)に示すようにジャッキ49a、49b、49cを動作させて擁壁41bを吊上げる(図中矢印L方向)。この際、ジャッキ49a、49b、49cは同期しており、また、擁壁41bとの接合位置が3か所であり、かつ接合位置が一列ではないので、吊上げた際に擁壁41bが傾いたりすることがない。
【0060】
次に、図11(b)に示すように走行台車45a、45b、45cの固定を解除し、ジャッキ49で擁壁41bを吊上げた状態で、走行台車45を擁壁の外側(図中矢印M方向)へ移動拡幅する。拡幅が完了したら、走行台車45の走行を停止し、ジャッキ49で擁壁41bを吊り降ろす。以上により擁壁41bの移動設置が完了する。
【0061】
次に、擁壁設置装置40を撤去し、レール43aを擁壁41b上へ設置し、レール43bを擁壁41cに隣接する未拡幅の擁壁41c上へ設置する。以上の工程を繰り返し、擁壁41の拡幅設置が完了する。
【0062】
第2の実施形態にかかる擁壁設置装置40によれば、第1の実施の形態にかかる擁壁設置装置1と同様の効果を得ることができる。また、装置の構造が簡単であり装置も小型である。
【0063】
また、レール長さや梁長さを調整するのみで各種サイズの擁壁設置に使用することができる。
【0064】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
例えば、本発明の擁壁設置装置によれば、立体交差のアプローチ部の擁壁の拡幅設置のみではなく、一般の壁体の設置にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】擁壁設置装置1を示す図で(a)は正面図、(b)は平面図。
【図2】擁壁設置装置1のアームを伸長させた状態を示す図で(a)は正面図、(b)は平面図。
【図3】擁壁設置装置1を示す図で(a)は側面図、(b)は走行台車を上昇させた状態を示す側面図。
【図4】拡幅前の擁壁21が設置された状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のC部拡大図、(c)は(b)のD−D線断面図。
【図5】擁壁21の拡幅方法を示す図で、擁壁21上に擁壁設置装置1を設置した状態を示す図。
【図6】走行台車を上昇させた状態を示す図。
【図7】(a)は擁壁21とチェーンブロックとを接合した状態を示す図、(b)は擁壁21をチェーンブロックで吊上げた状態を示す図。
【図8】(a)はスライドアームを伸長して擁壁21を拡幅した状態を示す図、(b)は擁壁21を吊り降ろした状態を示す図。
【図9】擁壁21にアスファルト37を設けた状態を示す断面図。
【図10】擁壁設置装置40を示す図で(a)は平面図、(b)は(a)のK−K線断面図。
【図11】擁壁設置装置40で擁壁41を拡幅する工程を示す図で、(a)は擁壁設置装置40で擁壁41を吊上げた状態を示す図、(b)は擁壁41を拡幅移動させた状態を示す図。
【図12】従来の立体交差のアプローチ部を示す図。
【符号の説明】
【0067】
1、40………擁壁設置装置
3………走行台車
5………車輪
7………支持脚
9………吊り架台
11………吊り架台
13………上段スライドアーム
15………下段スライドアーム
17………道路
19………橋桁
21………擁壁
23………高欄
25………底部
27………隙間
29………地面
31………チェーンブロック
33………軽量盛土
35………砕石
37………アスファルト
41………擁壁
43a、43b………レール
45a、45b、45c………走行台車
47………梁部
48………梁部
49a、49b、49c………ジャッキ
51………受台
53………底台
55………車輪
57………ナット部
59………棒状部材
61………ナット
70………橋桁
71………道路
73………アプローチ部
75………工事領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体を拡幅して設置する壁体設置装置であって、
前記壁体を吊上げる保持手段と、
前記壁体を側方へ移動させる移動手段と、
を具備し、前記壁体の内側に設置され、前記壁体を拡幅することを特徴とする壁体設置装置。
【請求項2】
一対の支持脚と、
一対の前記支持脚にそれぞれ設けられる走行台車と、
一対の前記支持脚を連結する架台と、
を更に具備し、
前記移動手段は、前記架台の両側方へスライド可能なアームであり、前記走行台車は前記支持脚に対して昇降可能であることを特徴とする請求項1記載の壁体設置装置。
【請求項3】
前記保持手段は前記アームに設けられたチェーンブロックであり、
前記アームは、両側方にそれぞれ上下方向に複数段設けられ、前記チェーンブロックは前記壁体の複数位置を吊り上げ可能であることを特徴とする請求項2記載の壁体設置装置。
【請求項4】
第1のレールと、
前記第1のレールよりも長い第2のレールと、
前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行する台車と、
前記台車を接合する梁と、
前記梁に設けられたジャッキと、
を更に具備し、
前記移動手段は、前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行可能な複数の前記台車であり、
前記保持手段は、前記第1の壁体を吊上げ可能な複数の前記ジャッキであることを特徴とする請求項1記載の壁体設置装置。
【請求項5】
前記台車は、前記第1のレール上に少なくとも1つ設けられ、前記第2のレール上に少なくとも2つ設けられることを特徴とする請求項4記載の壁体設置装置。
【請求項6】
前記第2のレールの長さは、前記第1のレールの長さよりも前記壁体の移動量に相当する長さだけ長いことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の壁体設置装置。
【請求項7】
底部を有する壁体を吊上げる保持手段と、前記壁体を側方へ移動させる移動手段とを具備し、前記壁体の内側に設置され、前記壁体を拡幅することを特徴とする壁体設置装置を用いて、壁体を拡幅して設置する壁体設置方法であって、
拡幅予定の第1の壁体上に前記壁体設置装置を設置する工程(a)と、
前記第1の壁体を前記保持手段で吊上げる工程(b)と、
前記移動手段で前記第1の壁体を拡幅する工程(c)と、
前記第1の壁体を吊り降ろす工程(d)と、
を具備することを特徴とする壁体設置方法。
【請求項8】
前記壁体設置装置は、一対の支持脚と、
一対の前記支持脚にそれぞれ設けられる走行台車と、
一対の前記支持脚を連結する架台と、
を更に具備し、
前記移動手段は、前記架台の両側方へスライド可能なアームであり、
前記保持手段は前記アームに設けられたチェーンブロックであり、
前記工程(b)は、前記チェーンブロックにより前記壁体の上方および下方を吊り上げ、前記第1の壁体を吊上げる工程であり、
前記工程(c)は、前記アームをスライドさせて前記第1の壁体を拡幅する工程であり、
前記工程(d)の後、前記走行台車で前記第1の壁体に隣接する第2の壁体上へ前記壁体設置装置を移動する工程(e)を更に具備することを特徴とする請求項7記載の壁体設置方法。
【請求項9】
前記走行台車は前記支持脚に対して昇降可能であり、
隣接するそれぞれの前記壁体の前記底部同士の間には隙間があり、
前記工程(a)では、前記走行台車を前記支持脚に対して上昇させ、前記支持脚が前記第1の壁体前後の前記隙間に挿入され、前記壁体設置装置が固定されることを特徴とする請求項8記載の壁体設置方法。
【請求項10】
前記壁体設置装置は、第1のレールと、
前記第1のレールよりも長い第2のレールと、
前記第1のレールおよび前記第2のレール上を走行する車輪と、
前記車輪を接合する梁と、
前記梁に設けられたジャッキと、
を更に具備し、
前記工程(a)では、前記第1の壁体の一方の側に隣接する未拡幅の第2の壁体の前記底部に前記第1のレールが設けられ、前記第1の壁体の他方の側に隣接する既に拡幅を終了した第3の壁体の前記底部に前記第2のレールが設けられ、
前記工程(b)では、前記第1の壁体を前記ジャッキにより吊り上げる工程であり、
前記工程(c)では、前記車輪を前記レール上に走行させて前記第1の壁体を拡幅する工程であることを特徴とする請求項7記載の壁体設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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