説明

壁材固定装置および固定方法

【課題】非熟練作業者であっても、簡単かつ容易に作業ができ、一度に大量の補修が可能であって、仕上がりに不具合を生じさせない壁材固定装置を提供する。
【解決手段】本発明の壁材固定装置10は、壁面2に取り付けられている壁材4の固定を行う壁材固定装置10であって、壁材4から壁面2に到達する挿入孔5に投入可能な樹脂容器6と、樹脂容器6を破砕可能および圧縮可能の少なくとも一方であって、挿入孔5に挿入可能なアンカー7と、を備え、樹脂容器6は、樹脂61を封入している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間が経過して劣化することによって、壁面から浮いたり剥離しかかったりしている壁材を、壁面に再度固定する壁材固定装置であって、作業者の熟練度に係らず確実に固定作業を行える壁材固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国を始め、世界中には多くの建造物がある。集合住宅やビルなどの建造物は、その壁面にタイルやセラミックなどの壁材を備えている。これらの壁材は、タイルなどに代表されるように、複数の壁材として、壁面に取り付けられている。例えば、これらの壁材は、セメントや接着剤によって壁面に固定されている。
【0003】
しかしながら、これら複数の壁材は、固定されてからの時間経過によって、固定が弱まったり、衝撃などを起因としたりして、壁面から浮いた状態になったり剥離しかかったりすることがある。特に、集合住宅やビルなどには、多量の壁材が取り付けられており、風雨にさらされたり日光にさらされたりすることで、複数の壁材の一部やいずれかが浮いたり剥離しかかったりすることがある。
【0004】
このように、浮いたり剥離しかかったりしている壁材を放置することは、壁材の落下に繋がることになり非常に危険である。このため、浮いている壁材を固定することが行われている。この固定には、様々なやり方があるが、例えば、浮いている壁材に孔を開け(壁面にまで孔を貫通させる)、この孔にボルトなどを挿入して、壁材が固定される。
【0005】
このような壁材に穿孔した後で、ボルトなどで固定する固定装置や固定方法については、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
特許文献1に代表される技術は、浮きのある壁材に孔を開け、この孔の中にグリスガンを用いて接着剤を注入する。接着剤が注入された後で、アンカーピンがこの孔の中に挿入されて、アンカーピンの一部が拡張して孔の中で固定される。この固定によって、壁材が壁面に固定される。
【0007】
特許文献2に代表される技術は、特許文献1と同じように浮きのある壁材に孔を開け、この孔の中にグリスガンなどを用いて接着剤を注入する。接着剤が注入された後で、アンカーが孔の中に挿入される。このアンカーの挿入によって浮きのある壁材が壁面に固定されるようになる。このとき、外観を損なうことを防止するために、アンカーにはキャップが備えられており、このキャップによってアンカーの挿入によって生じる外観上の不具合が解消される。
【0008】
特許文献3に代表される技術は、特許文献2と同じように、浮きのある壁材を固定する際に生じうる外観上の不具合を解消する。特許文献3に開示される技術も、浮きのある壁材に孔を開け、孔の中に接着剤を注入する。接着剤が注入された後でアンカーが孔の中に挿入されて、壁材が固定される。このとき、アンカーの表面にアンカーを固定しつつ表面を覆うキャップが取り付けられる。このキャップの取り付けによって、外観上の不具合が解消される。
【0009】
特許文献4は、穿孔された孔に液漏れや注入不足が生じにくい接着剤の注入方法の技術を開示する。穿孔された孔の入り口から奥に向かってグリスガンなどによって接着剤を注入する場合には、奥まで接着剤が到達できなかったり、接着剤の内部に気泡ができてしまったりする。特許文献4は、このような問題を生じさせないようにするため、穿孔された孔の奥から入り口に向けて接着剤を注入する技術を開示している。
【0010】
以上のように、浮いたり剥離しかかったりしている壁材を、事後的に固定するために、壁材の外側から孔が穿たれた上で、接着剤とアンカーとによって、固定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−219970公報
【特許文献2】特開2007−120273号公報
【特許文献3】特開2007−9561号公報
【特許文献4】特開2007−2442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1から特許文献4に開示されるように、従来技術の浮いた壁材の固定装置や固定方法は、穿孔してできた孔に接着剤を注入し、接着剤が注入された後で、ボルトやアンカーを挿入して壁材を固定する。加えて、特許文献3のように、壁材に挿入されたボルトやアンカーが目立たないような工夫がなされていることが多い。
【0013】
しかしながら、従来技術の固定装置や固定方法は、(1)穿孔、(2)接着剤の注入、(3)ボルトやアンカーの挿入、(4)固定、という手順に沿って作業する必要があり、作業者にとっては非常に煩雑である。特に、(2)の接着剤の注入では、孔の中に均等に接着剤が行き渡らないこともあり、作業には熟練を要したり、熟練者で無い場合には、仕上がりに不具合が生じたりする。
【0014】
例えば、接着剤の注入において、孔の奥や途中に気泡や注入不足が生じることもある。注入不足が生じると、当然ながらアンカーやボルトの固定力が弱まる。このような注入不足を恐れて、孔の中に接着剤を入れすぎてしまう場合には、アンカーやボルトの挿入後に、壁材の表面に接着剤があふれてしまい、仕上がりの外観に悪影響をもたらす。
【0015】
また、一つの壁材に対する(1)〜(4)の作業を仕上げてから、別の壁材に対する(1)〜(4)の作業を仕上げる場合には、穿孔機械、接着剤の注入機器、アンカー挿入工具、アンカー固定工具と、作業手順に応じた工具を繰り返し取り替えなければならない。一方、複数の壁材のそれぞれに対して、(1)の作業、(2)の作業、(3)の作業、(4)の作業をまとめて行う場合には、工具の取替え回数は減少するが、孔に注入した接着剤が乾いてしまうなどの問題が生じる。これは、特許文献4に開示される接着剤の注入装置を用いる場合でも生じる問題である(あるいは、特許文献4に開示される接着剤の注入装置であっても、接着剤の注入量が多すぎたり少なすぎたりといった、作業ミスが生じることは回避困難である)。
【0016】
このように、(2)の接着剤の注入を主として、従来技術の固定装置や固定方法は、作業者の熟練を要するといった問題を有している。
【0017】
一方で、現在我が国だけでも多数の集合住宅やビルが存在し、かなりの数の建造物が経年劣化を生じさせている。このため、多くの建造物において、タイルなどの壁材の浮きや剥離が問題視されている。放置すれば重大な事故が起こりかねないからである。にもかかわらず、これらの浮きや剥離をしている壁材の補修にかけられる予算や人材が不足している現状がある。このような環境では、熟練作業者へ補修作業を依頼することが難しく、作業者の熟練度の成長を待っている時間もない。
【0018】
すなわち、低コストで作業が可能である非熟練作業者であっても、<1>容易に作業が可能であり、<2>作業能力による作業結果にばらつきがない作業が可能であり、<3>一度の作業で大量の壁材の補修を可能とする、<4>作業の仕上がりに不具合が無い、浮きや剥離のある壁材の固定装置や固定方法が求められている。
【0019】
本発明は、上記課題を解決し、非熟練作業者であっても、簡単かつ容易に作業ができ、一度に大量の補修が可能であって、仕上がりに不具合を生じさせない壁材固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題に鑑み、本発明の壁材固定装置は、壁面に取り付けられている壁材の固定を行う壁材固定装置であって、壁材から壁面に到達する挿入孔に投入可能な樹脂容器と、樹脂容器を破砕可能および圧縮可能の少なくとも一方であって、挿入孔に挿入可能なアンカーと、を備え、樹脂容器は、樹脂を封入している。
【発明の効果】
【0021】
本発明の壁材固定装置は、穿孔されてできた孔に、接着剤が封入された容器を投入するだけで、接着剤の注入作業が終了するので、非熟練作業者であっても、容易に作業が行える。
【0022】
加えて、生の接着剤ではなく接着剤を封入した容器を投入するだけなので、作業中に接着剤が乾いてしまうこともないので、例えば補修対象となっている壁材の全てを穿孔してから、その全てに接着剤の容器を投入し、その後で、全ての孔にアンカーを挿入することができる。すなわち、同一作業を全ての補修対象に行えるので、作業効率が高まる。
【0023】
また、穿孔する孔の体積および挿入するアンカーの体積の関係から、投入する接着剤の容器の体積を決定できるので、接着剤の注入が不足したり、多すぎたりすることもない。もちろん、接着剤を注入するのと異なり、容器は孔の奥に投入可能であるから、接着剤が孔の奥に到達できなかったり、気泡が生じたりする問題もない。
【0024】
これらの結果、仕上がりに不具合が生じることもない。
【0025】
本発明の壁材固定装置に基づく効果によって、壁材の補修作業が、非熟練作業者によっても行われるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1における建造物の外壁の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態を示す模式図である。
【図3】発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態1における樹脂容器への樹脂の封入を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1における樹脂容器の斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態の側面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における壁材固定装置の側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における壁材固定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の発明に係る壁材固定装置は、壁面に取り付けられている壁材の固定を行う壁材固定装置であって、壁材から壁面に到達する挿入孔に投入可能な樹脂容器と、樹脂容器を破砕可能および圧縮可能の少なくとも一方であって、挿入孔に挿入可能なアンカーと、を備え、樹脂容器は、樹脂を封入している。
【0028】
この構成により、壁材固定装置は、非熟練作業者による作業であっても、樹脂の注入に起因する作業ミスや作業不具合を生じさせない。
【0029】
本発明の第2の発明に係る壁材固定装置では、第1の発明に加えて、樹脂容器は、アンカーによる破砕および圧縮の少なくとも一方を受けることで、挿入孔内部であってアンカーの周囲に、封入している樹脂を拡散させる。
【0030】
この構成により、樹脂容器は、作業者の接触する取り扱いを受けずに、樹脂を挿入孔内部に拡散することができる。
【0031】
本発明の第3の発明に係る壁材固定装置では、第1または第2の発明に加えて、樹脂は、樹脂容器に封入されている状態では液状もしくはジェル状であり、樹脂容器から拡散することで硬化を開始する。
【0032】
この構成により、樹脂容器から漏出した樹脂は、アンカーを挿入孔に固定する。
【0033】
本発明の第4の発明に係る壁材固定装置では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、樹脂は、樹脂容器が挿入孔に投入される直前に、樹脂容器に封入される。
【0034】
この構成により、樹脂容器の中で樹脂が固まらない。また、接着力の強固な樹脂を、樹脂容器に用いることができるようになる。
【0035】
本発明の第5の発明に係る壁材固定装置では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、樹脂容器は、複数の異なる成分の樹脂を封入する。
【0036】
この構成により、樹脂による接着および固定強度が向上する。
【0037】
本発明の第6の発明に係る壁材固定装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、樹脂容器は、挿入孔の内径に対応可能であると共に挿入孔の奥に投入可能な外形を有する。
【0038】
この構成により、非熟練作業者であっても、樹脂の注入に代えて、樹脂を容器に封入した状態の樹脂容器によって樹脂を簡単に投入できる。
【0039】
本発明の第7の発明に係る壁材固定装置では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、樹脂容器の体積は、挿入孔の体積からアンカーの挿入部分の体積の差分に対応する。
【0040】
この構成により、作業者の熟練度に依存することなく、樹脂の注入量が多すぎたり少なすぎたりすることもない。
【0041】
本発明の第8の発明に係る壁材固定装置では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、樹脂容器は、カプセル形状およびチューブ形状の少なくとも一方を有する。
【0042】
この構成により、作業者は、様々な樹脂容器を選択することができる。
【0043】
本発明の第9の発明に係る壁材固定装置では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、アンカーが挿入孔に挿入されることで、挿入孔の内壁に拡張する拡張アンカーを更に備える。
【0044】
この構成により、壁材固定装置は、壁材の固定力を更に向上させることができる。
【0045】
本発明の第10の発明に係る壁材固定装置では、第9の発明に加えて、拡張アンカーは、アンカーの挿入によって拡張すると共に挿入孔の内壁に食い込む。
【0046】
この構成により、拡張アンカーは、アンカーと挿入孔(すなわち壁面)との固定力を強化できる。
【0047】
本発明の第11の発明に係る壁材固定装置では、第10の発明に加えて、拡張アンカーは、挿入孔の奥に近接する領域で、挿入孔の内壁に食い込む。
【0048】
この構成により、壁材固定装置は、壁材をより強固に固定できる。
【0049】
本発明の第12の発明に係る壁材固定装置では、第9から第11のいずれかの発明に加えて、拡張アンカーの内径の一部は、アンカーの直径よりも小さい。
【0050】
この構成により、アンカーの挿入によって拡張アンカーを挿入孔の内壁に対して拡張できる。
【0051】
本発明の第13の発明に係る壁材固定装置では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、アンカーは、樹脂容器を破砕可能な凸部、突出部および切削部の少なくとも一つを有する。
【0052】
この構成により、アンカーは、容易に樹脂容器を破砕できる。
【0053】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0054】
(実施の形態1)
【0055】
(全体概要)
まず、実施の形態1における壁材固定装置の概要について説明する。
【0056】
図1は、本発明の実施の形態1における建造物の外壁の模式図である。図1は、例えば、集合住宅やビルなどの外壁であって、タイルなどの複数の部材である壁材が取り付けられている状態を示している。一般的な建造物において良く見られる外壁である。
【0057】
外壁1は、建造物の外側に見られる一般的な外壁である。壁面2には、多数の壁材3(タイル、セラミックなど)が取り付けられている。図1では、見易さのために、複数の壁材の中の一つに符号「3」をつけている。このような複数の壁材3の中には、経年劣化や特殊要因によって壁面2から浮いたり剥離しかかったりしている壁材4が含まれることもある。図1では、白色で示している壁材4が、浮いたり剥離しかかったりしている壁材である。言い換えると、壁材4は、補修対象の壁材である。
【0058】
補修対象の壁材4は、外壁1のどこで発生するかは予測不能であり、ランダムな位置で発生する。このため、補修対象の壁材4を検出するには、全ての壁材3を検査することが必要である。また、図1に示されるように、ランダムな位置に補修対象の壁材4が発生するので、補修作業(壁材4を固定する作業)も煩雑になりがちである。このような状況からも、壁材4を固定する作業は、工具の切り替え回数や作業の切り替え回数が少ないことが要望される。実施の形態1の壁材固定装置は、後述のように工具の切り替え回数や作業の切り替え回数を削減できるので、図1に示される作業の実態に即している。
【0059】
図2は、本発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態を示す模式図である。なお、壁材固定装置10は、一体不可分に結合した装置や機器ではなく、複数の要素を有する装置であると把握されればよい。
【0060】
壁材固定装置10は、壁面2に取り付けられている壁材4を固定する。壁材固定装置10は、壁材4から壁面2に到達する挿入孔5に投入可能な(図2では、すでに挿入孔5に投入されている)樹脂容器6と、樹脂容器6を粉砕および圧縮の少なくとも一方が可能であって挿入孔5に挿入可能な(図2は、挿入孔5に挿入されている途中である)アンカー7を備える。また、樹脂容器6は、その内部に樹脂61封入している。なお、この樹脂61は、硬化することでアンカー7を挿入孔5に固定する接着剤である。すなわち、樹脂61は、接着剤として把握されても良い。
【0061】
壁材固定装置10は、挿入孔5に投入されている樹脂容器6を、アンカー7が破砕して挿入孔5内部に樹脂を拡散させて、樹脂の硬化によってアンカー7を固定させる。このアンカー7の固定によって、浮いたり剥離しかかったりしている壁材4を壁面2に固定する。
【0062】
なお、本明細書において用いる樹脂容器6の「破砕」とは、完全に破壊することだけを意味するのではなく、樹脂容器6の一部に亀裂を生じさせたり、樹脂容器6が予め備える樹脂61の漏出口を開口させたりなど、樹脂容器6が封入する樹脂61が漏出・拡散できる状態にすることを幅広く含む。
【0063】
図2から明らかな通り、壁材固定装置10は、一体不可分に連結された装置や機器ではなく、樹脂容器6およびアンカー7を中心たる要素とする要素同士の集合体である。もちろん、後述の通り、樹脂容器6およびアンカー7以外の要素を含むことを除外するものでもない。あるいは、アンカー7を押し込むハンマーやドライバーといった外部工具を、壁材固定装置10の必須要素とするものでもない。
【0064】
(動作手順)
次に、壁材固定装置10による壁材4の固定の動作手順について、図2、図3を用いて説明する。
【0065】
図3は、本発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態を示す模式図である。図3は、図2と同様に、挿入孔5を横断面として示している。
【0066】
(穿孔工程)
まず、図2、図3に示されるように、補修対象となる壁材4の表面から、壁材4を貫通すると共に壁面2に到達する挿入孔5が穿たれる。例えば、作業者がドリル等を用いて、壁材4の表面から所定の内径および所定の深さ(深さは、図2で示される横軸での挿入孔5の長さに相当する)まで穿孔する。このとき、図1に示されるように作業対象となっている外壁1には、複数の補修対象の壁材4が存在することもある。この場合には、作業効率を考慮して、作業者はまず全ての補修対象である壁材4に挿入孔5を穿孔する。
【0067】
なお、挿入孔5が穿たれた後で、挿入孔5に残ってしまいがちな削りカスを、取り除くことも好適である。
【0068】
(樹脂封入工程)
樹脂容器6は、樹脂を封入しており、投入工程によって挿入孔5に投入される。この樹脂容器6は、樹脂を封入しており、この樹脂が漏出することで、アンカー7が挿入孔5内部で固定される。
【0069】
ここで、樹脂容器6が工場などで製造される際に、樹脂が予め樹脂容器6に封入されても良い。ここで、樹脂は様々な成分を有する。アンカー7を挿入孔5に十分な強度で固定できると共に樹脂容器6内部で硬化をしにくい樹脂成分であれば、工場において予め樹脂が樹脂容器6に封入されれば良い。
【0070】
一方、樹脂容器6に封入される樹脂成分によっては、樹脂容器6の中で硬化しやすかったり、時間経過によって硬化した際の接着力が弱くなったりする場合には、樹脂は、壁材固定の作業現場において樹脂容器6に封入される。
【0071】
例えば、樹脂容器6から漏出した樹脂が、挿入孔5とアンカー7とを十分な強度で固定するためには、複数の種類の樹脂が封入されている必要がある場合がある。例えば、成分Aを有する樹脂と成分Bを有する樹脂とが混合することによって、樹脂が硬化する場合には、工場などで予め樹脂容器6に成分Aの樹脂と成分Bの樹脂とが封入されてしまうと、樹脂容器6の中で樹脂が固まってしまう。
【0072】
このように、樹脂の特性によっては、壁材固定の作業現場において、樹脂容器6が挿入孔5に投入される直前に、樹脂容器6に樹脂が封入されることも好適である。すなわち、空の樹脂容器6を作業現場に運搬し、作業現場においてこの樹脂容器6に複数の成分の樹脂が封入され、その樹脂容器6が挿入孔5に投入される。もちろん、樹脂容器6にアンカー7が取り付けられて、樹脂容器6とアンカー7とが合わせて挿入孔5に投入されても良い。
【0073】
このように、樹脂の特性に合わせて、(1)工場などで予め樹脂容器6に樹脂が封入され、樹脂を封入した樹脂容器6が作業現場に運搬される、(2)作業現場において、樹脂が樹脂容器6に封入されて使用される、のいずれかが適宜選択されれば良い。
【0074】
図4は、本発明の実施の形態1における樹脂容器への樹脂の封入を示す説明図である。作業現場において、樹脂容器6(複数の樹脂容器6が用いられる場合が多いので、図4に示されるように注入器65が、樹脂を樹脂容器6に注入する。この結果、作業現場で樹脂が樹脂容器6に封入される。複数の成分の樹脂が混合されてこの混合によって硬化する場合には、図4に示されるような封入工程は好適である。
【0075】
(投入工程)
次に、作業者は、挿入孔5に樹脂容器6を投入する。樹脂容器6は、その内部に樹脂を封入しており、封入されている状態では樹脂は硬化していない。外部の空気と触れることで樹脂は硬化する。樹脂容器6は、挿入孔5に投入しやすい形状と外形を有していればよい。
【0076】
作業者は、樹脂容器6を挿入孔5に投入する際には、挿入孔5の奥51に投入することが好ましい。後述の通り、樹脂容器6はアンカー7で破砕される際に奥51まで押し込まれやすいが、予め奥52に投入されていることで樹脂61が挿入孔5全体に拡がるからである。
【0077】
樹脂容器6は、アンカー7の固定(すなわち壁材4の固定)に最も重要な要素である樹脂61を封入している。従来技術の問題点で指摘した通り、挿入孔5に対する樹脂の注入作業が、もっとも面倒であり熟練を要する。生の樹脂を注入する場合には、注入不足、注入過多、気泡の発生、偏りなどが生じうるからである。また、作業者の手が汚れたりするなどの問題もあり、作業者の手などが汚れると、その汚れが外壁1に付いたりするので、仕上げ作業に余分な手間を発生させる。
【0078】
これに対して、実施の形態1における壁材固定装置10は、挿入穴5に生の樹脂ではなく、樹脂61を封入した樹脂容器6を投入するだけで済む。樹脂容器6は、当然ながら表面には樹脂61が付着しておらず、作業者は作業の際に自らの手を汚すことも無い(ということは、外壁1を汚すこともない)。また、樹脂容器6は、挿入孔6およびアンカー7の体積によって、その大きさが定まれば良い。さらには、この定まった大きさで樹脂容器6が用意されるので、作業者は、注入する樹脂の量を作業の中で判断したり検証したりする必要もない。このため、挿入孔5に樹脂容器6を投入するだけで済むので、注入量や注入状態に注意を払う必要がなくなって、作業効率の向上、作業時間の短縮、作業結果のばらつき減少が実現できる。
【0079】
また、樹脂容器6は、樹脂61を封入しているので、樹脂容器6を投入しただけでは、樹脂61が硬化しない。すなわち、作業者は、補修対象となる全ての壁材4の挿入孔5のそれぞれに樹脂容器6を投入する作業を一度に行うことができる。
【0080】
すなわち、作業者の作業工程において、穿孔工程に次いで、挿入孔5の全てに樹脂容器6が投入される。それぞれの作業が、壁材4の全てにまとめて行えることになるので、作業全体としても作業時間の短縮が図られる。もちろん、ある作業工程をまとめて行えることで、作業者は工具等の切り替え回数を減らすことができるので、非熟練作業者であっても、作業を実行できる。
【0081】
(漏出工程)
次に、作業者は、挿入孔5にアンカー7を挿入する。図2は、アンカー7の一部が挿入されただけの状態を示している。作業者は、挿入されたアンカー7を挿入孔5の奥51にまで押し込む。このとき、アンカー7は、樹脂容器6を置く51にまで押し込む。更に、アンカー7は、樹脂容器6に衝突して破砕させる。あるいは、樹脂容器6を圧縮する。樹脂容器6がアンカー7によって破砕されたり圧縮されたりすることで、樹脂容器6から樹脂61が漏出し、挿入孔5内部であってアンカー7の周囲に、封入している樹脂61が拡散する。
【0082】
図3は、樹脂容器6が破砕されて、樹脂容器6が封入していた樹脂61が挿入孔5の内部であって、アンカー7の周囲に拡散している状態を示している。
【0083】
樹脂61が拡散されることで、アンカー7と挿入孔5との間が充填される。更には、この樹脂61は空気に触れることで硬化する。樹脂61が硬化することで、アンカー7は、挿入孔5の内部で固定される。このアンカー7の固定によって、壁材4は、壁面2に固定されることになる。
【0084】
作業者は、この漏出工程もアンカー7を押し込むだけで行えるので(生の樹脂が注入されている場合と異なり、樹脂の拡散を均一にするなどの注意が少なくて済む)、作業効率も高いし作業時間も短くて済む。また、他の工程と同様に、補修対象の複数の壁材4の全てについてまとめて漏出工程を実施できるので、工具の切り替え回数も少なく、作業全体での効率もよくなる。
【0085】
以上のように、本発明の実施の形態1の壁材固定装置1は、作業効率を向上させ、作業時間を短縮し、仕上がりのばらつきや不具合を低減できるので、非熟練作業者でも確実に作業ができる。結果として、緊急の課題である壁材の補修を、低コストかつ短期間で行えることができるようになる。
【0086】
次に、各部の詳細について説明する。
【0087】
(挿入孔)
挿入孔5は、壁材4から壁面2に到達する孔であり、穿たれて設けられる。挿入孔5は、樹脂容器6およびアンカー7の挿入が可能な内径および深さを有している。この内径と深さは、補修対象となる壁材4の種類、大きさ、厚み、浮きや剥離状態によって定められれば良い。例えば、壁材4の厚み、浮きの状態によって強固な固定を必要とする場合には、直径や長さの大きなアンカー7を用いる必要がある。この場合には、挿入孔5の内径および深さは大きくされる必要がある。
【0088】
逆に、壁材4が薄く浮きも少ない場合には、直径や長さの小さなアンカー7を用いればよい。この場合には、挿入孔5の内径および深さは小さくて済む。このように挿入孔5は、実際に使用されるアンカー7や樹脂容器6の直径や長さに合わせた内径や深さを有していればよい。
【0089】
また、挿入孔5の容積は、最終的に樹脂容器6から拡散する樹脂61とアンカー7の体積の総和と同等になることが期待される。このことを考慮すると、補修対象となる壁材4の状態に基づいて、用いられるアンカー7と樹脂容器6の大きさは決定されることになる。すなわち、用いられるアンカー7と樹脂容器6の大きさに対応した穿孔機を用いれば、アンカー7と樹脂容器6とに相当する挿入孔5が確実かつ簡単に穿たれることになる。
【0090】
従来技術では、穿たれた挿入孔に応じて注入する樹脂の量を調整する必要があったのに対して、実施の形態1における壁材固定装置10は、体積が事前に明確である樹脂容器6を用いることになるので、挿入孔5の体積を調整するだけで(しかも、穿孔機で調整できるのでその調整も容易である)済む。
【0091】
このように、従来技術は、挿入孔に対して注入する樹脂量を調整するという熟練作業を必要としていたのに対し、実施の形態1における壁材固定装置10は、予め分かっている樹脂容器6に合わせて、挿入孔5を穿つだけで済むという発想である。結果として、作業者は挿入孔5を機械の自動化に従って正確に穿つだけで済む。
【0092】
なお、挿入孔5の断面形状は、円形でも楕円形でも角形や多角形でもよい。アンカー7が樹脂61によって固定されれば良いからである。
【0093】
(樹脂容器)
次に、樹脂容器6について説明する。
【0094】
樹脂容器6は、内部に樹脂61を封入している容器である。例えばカプセルのような形態のものが用いられる。図5は、本発明の実施の形態1における樹脂容器の斜視図である。樹脂容器6は、挿入孔5の内径に対応可能であると共に挿入孔5の奥51に到達できるように投入可能な外形および形状を有することが好ましい。図5では、樹脂容器6は、円柱形状を有しているが、円柱形状のみならず角柱形状であってもよい。要は、挿入孔5に投入容易であればよい。
【0095】
樹脂容器6は、その内部に樹脂61を封入して樹脂61の硬化を防止すると共に、アンカー7によって破砕あるいは圧縮されることで内部の樹脂61を拡散させる必要がある。加えて、運搬、保管、投入作業に耐用できる強度を有している必要もある。このため、樹脂容器6は、プラスチック、ビニール、塩ビなどの耐久性を有しつつも、アンカー7の押し当てによって破砕可能な素材で形成されていることが好ましい。
【0096】
また、樹脂容器6は、アンカー7の押し当てによって破砕される必要があるので、その端面62は、アンカー7の押し当てを受けやすいことが好ましい。例えば、図5に示されるように、樹脂容器6の端面62は、平面であることが好ましい。あるいは、樹脂容器6の端面62には、アンカー7の押し当てによって破砕されやすいように、切れ目や凹部などが予め設けられていることも好適である。加えて、作業者が樹脂容器6のいずれの端面から挿入孔5に投入するのが良いのかを、一目で判断できるように、対向する端面のそれぞれの色を異ならせたり、端面形状を異ならせたりすることもよい。
【0097】
樹脂容器6は、樹脂61を封入しているが、この樹脂61は、液状もしくはジェル状で封入されていることが好ましい。このような態様で封入されていることで、樹脂容器6が破砕された後で、樹脂61が容易に挿入孔5内部を拡散するようになるからである。
【0098】
樹脂容器6は、アンカー7の押しあてで破砕されると、封入している樹脂61を拡散させる。アンカー7の押し当てで破砕されるので樹脂容器6から漏出する樹脂61は、そのままアンカー7によって押し分けられるようにして挿入孔5内部を拡散する。アンカー7による拡散によって、結果的に樹脂61は、挿入孔5内部であると共にアンカー7の周囲に拡散するようになる。結果として、アンカー7と挿入孔5との空隙を、樹脂61が充填していくことになる。この樹脂61が硬化すると、アンカー7は、挿入孔5内部で固定される。アンカー7が固定されると、壁材4は壁面2に固定され、浮きや剥離のあった壁材4は、再び固定されて補修が終了する。
【0099】
樹脂61は、低コストで使いやすい素材を用いればよい。例えば、樹脂61として、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系、シリコン樹脂系、変性シリコーン系などが用いられる。これらの素材は、壁面2に壁材4を取り付けるのに用いられており、入手が容易でコストも低いからである。これらの素材を有する樹脂61は、樹脂容器6の内部に、液状もしくはジェル状で封入されている。また、既述の通り、複数の種類の樹脂が、樹脂容器6内部に封入されても良い。
【0100】
樹脂容器6の体積は、挿入孔5の容積からアンカー7の挿入部分の体積との差分に対応する。樹脂容器6は樹脂61を封入しているが、この樹脂61が挿入孔5内部で拡散してアンカー7を固定するからである。
【0101】
樹脂61の量が上述の差分より多い場合には、挿入孔5の入り口51より外にあふれ出してしまい仕上がりに不具合が生じる。この不具合を修正するために壁材4の表面処理を行うことになると、作業の手間とコストが上昇してしまうからである。
【0102】
逆に樹脂61の量が上述の差分より少ない場合には、アンカー7の固定が不十分となりうる。以上のように、樹脂61の量は、挿入孔5の容積とアンカー7の挿入部分の体積との差分に対応させることが必要である。
【0103】
樹脂61の量は樹脂容器6の体積で決まるので、樹脂61の量を調節するのは、樹脂容器6の体積で可能である(すなわち、樹脂61の量の調節は、樹脂容器6という固形状態の物体の体積で把握することができる)。従来技術のようにグリスガンを用いて樹脂を注入する工程では、どの程度の樹脂が注入されたかを判断するのは難しい。これに対して樹脂容器6の体積は予め決まっているのであるから、挿入孔5の容積とアンカー7の体積によって、簡単・確実に樹脂61の必要量が把握できる。すなわち、挿入孔5とアンカー7に基づいて、作業者は、樹脂容器6の種類を選択すればよい。あるいは逆の考え方では、樹脂容器6の体積とアンカー7の種類に基づいて、作業者は挿入孔5の容積(内径、深さ)を決定することでも良い。
【0104】
このように、壁材4の固定作業では、樹脂の量の調節がもっとも困難な作業であるが、樹脂容器6という固形物となっていることで、作業者は、(1)挿入孔5とアンカー7に合わせて樹脂容器6を選択する、もしくは(2)樹脂容器6とアンカー7に合わせて挿入孔5の形成を行う、ことだけで、この困難な作業に対応できる。この(1)、(2)の作業であれば、非熟練作業者でも可能であるので、多くの建造物で必要となる壁材の補修が行える。
【0105】
(樹脂容器の種類)
樹脂容器6は、破砕されることで樹脂を漏出させるカプセル形状を有するもの(図5はこのような樹脂容器を示している)だけでなく、その一部に樹脂61を漏出する口を備えており、圧縮を受けることで封入している樹脂61を漏出させるチューブ形状を有するものであってもよい。
【0106】
すなわち樹脂容器6がカプセル形状である場合には、アンカー7は、樹脂容器6を破砕して、封入している樹脂61を漏出・拡散させる。なお、先に述べた通り、破砕とは、樹脂容器6を完全に破壊することのみを含むのではなく、樹脂容器6の一部に切れ目や割れ目などが生じるなどして、封入している樹脂61が漏出・拡散する状態となることを幅広く含む。
【0107】
図6は、本発明の実施の形態1における壁材固定装置の使用状態の側面図である。図6(a)から図6(b)に変遷することで、樹脂容器6が破砕されて樹脂61がアンカー7の周囲に拡散する。図6に示される樹脂容器6は、カプセル形状を有している。アンカー7が樹脂容器6の端面に押し当てられることで、樹脂容器6が破砕されて、樹脂61が漏出・拡散することが分かる。
【0108】
一方、樹脂容器6がチューブ形状である場合には、アンカー7は、樹脂容器6を圧縮して(チューブを縮める)、樹脂容器6の口から封入している樹脂61を漏出・拡散させる。
【0109】
図7は、本発明の実施の形態1における壁材固定装置の側面図である。図7では、樹脂容器6は、チューブ形状を有している。樹脂容器6の端面であって挿入孔5の奥51に対向する端面は、封入している樹脂61が漏出しやすい漏出口63を有している。
【0110】
図7に示されるように、アンカー7が樹脂容器6の端面に押し当てられると、チューブ形状である樹脂容器6は圧縮されて縮む。この圧縮によって、漏出口63が開き、漏出口63を通じて封入されていた樹脂61が漏出する。樹脂61は、そのまま挿入孔5内部であってアンカー7の周囲に拡散する。
【0111】
(アンカー)
次に、アンカー7について説明する。
【0112】
アンカー7は、挿入孔5に挿入されて、壁材4を壁面2に固定する。
【0113】
アンカー7は、ボルト、ねじ、釘、など挿入孔5に挿入されて壁材4を固定できるものであればなんでも良い。また、アンカー7は、金属、合金などの素材で形成されれば良い。もちろん、市販品が用いられれば十分である。
【0114】
アンカー7は、樹脂容器6に対して、破砕および圧縮の少なくとも一方を行う。この破砕や圧縮によって、樹脂容器6が封入する樹脂61を挿入孔5内部に漏出させて拡散させる。このため、アンカー7は、壁材4の固定を行う機能に見合う形状や構造だけでなく、樹脂容器6を破砕したり圧縮したりするのに適した形状や構造を有していることも好適である。
【0115】
例えば、アンカー7は、樹脂容器6を破砕可能な凸部、突出部および切削部の少なくとも一つを有することも好適である。これらの部材を備えることで、アンカー7は、樹脂容器6の表面に傷を入れることが容易になり、樹脂容器6を簡単に破砕できる(あるいは、破砕しないまでも樹脂容器6に封入される樹脂61を漏出させることが容易にできる)。
【0116】
あるいは樹脂容器6がチューブ形状を有する場合には、アンカー7は、樹脂容器6を圧縮しやすいように平面な端面を備えていることも好適である。
【0117】
また、アンカー7は、挿入孔5内部で固定された上で、壁材4を壁面2に固定する役割を果たすので、アンカー7の長さは挿入孔5の深さに対応することが好ましい。図6、図7に示されるように、アンカー7は、挿入孔5の奥まで達すると、アンカー7の頭部71が挿入孔5の入り口を埋める。
【0118】
以上のように、実施の形態1における壁材固定装置10は、非熟練作業者であっても容易に作業可能であって、かつ確実に壁材4を固定させることができる。
【0119】
(実施の形態2)
【0120】
次に、実施の形態2について説明する。
【0121】
壁材固定装置10は、壁材4の固定において、アンカー7と樹脂容器6から拡散する樹脂61を用いる。実施の形態2における壁材固定装置10は、壁材4の固定力を上げるために、拡張アンカーを更に備える。
【0122】
図8は、本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。図2などと同様に、図8は、壁材固定装置10の使用状態を示している。図2などと同じ符号を付された要素は、実施の形態1で説明したものと同様である。
【0123】
壁材固定装置10は、実施の形態1で説明したものと同様に、挿入孔5に投入された樹脂容器6がアンカー7によって破砕や圧縮されて、樹脂61が挿入孔5内部に拡散して、壁材4を壁面2に固定する。ここで、実施の形態2の壁材固定装置10は、アンカー7が挿入孔5に挿入されることで、挿入孔5の内壁に拡張する拡張アンカー8を更に備えている。拡張アンカー8は、図8(b)のように、挿入孔5の内壁に食い込むようにして、アンカー7の挿入孔5における固定を強化する。
【0124】
ここで、拡張アンカー8の拡張とは、挿入孔5の内周に対して、その径が拡張することを意味する。
【0125】
拡張アンカー8は、アンカー7の先端に連結していてもよいし分離していても良い。すなわち、拡張アンカー8は、アンカー7と一体であって、アンカー7の先端に接続していても良い。あるいは、拡張アンカー8は、アンカー7と別体であっても良い。
【0126】
拡張アンカー8は、図8に示されるように、テーパー部81を有しており、このテーパー部81の存在によって、拡張アンカー8の内径の一部は、アンカー7の直径よりも小さくなっている。この拡張アンカー8の内径が小さくなっている部分にアンカー7が挿入されると、アンカー7の衝突によって拡張アンカー8がテーパー部81を外周に向けて拡張させる。
【0127】
拡張アンカー8が外周に向けて拡張すると、テーパー部81がそのまま挿入孔5の内壁に食い込むようになる。このとき、拡張アンカー8とアンカー7とが連結している場合には(拡張アンカー8はアンカー7に連結しているが、拡張アンカー8はアンカー7に対して移動可能である)、拡張アンカー8が内壁に食い込むことで、結果的にアンカー7も内壁への食い込みによる固定力を受けることになる。当然ながら、アンカー7および拡張アンカー8の周囲には、樹脂容器6から拡散した樹脂61が充填されることになる。この樹脂61の硬化も相まって、アンカー7は挿入孔5内部に強く固定される。
【0128】
あるいは、アンカー7と拡張アンカー8とが分離した別体である場合でも、拡張アンカー8とアンカー7とは樹脂61の硬化によって接続される。この接続によって、拡張アンカー8の内壁への食い込みによる固定力を、アンカー7は得ることができる。この場合も、アンカー7の挿入孔5に対する固定力は高い。
【0129】
また、図8に示される壁材固定装置10では、拡張アンカー8は、樹脂容器6の端面に接している。すなわち、拡張アンカー8は、樹脂容器6の破砕や圧縮を行いながら、挿入孔5の内壁に向けて拡張する。
【0130】
拡張アンカー8は、図9に示されるように樹脂容器6の外周に設けられておくことも好適である。図9は、本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。図8との対比として示されている。
【0131】
図9における拡張アンカー8は、樹脂容器6の外周に位置している。一例として樹脂容器6がその周囲に予め拡張アンカー8を備えた状態である。周囲に拡張アンカー8を備えて樹脂容器6が、作業者によって挿入孔5に投入される。他の例として、樹脂容器6と拡張アンカー8とは別体であり、作業者が挿入孔5に拡張アンカー8を投入してから、この内部に樹脂容器6を投入する。更に別の例として、作業者が挿入孔5に樹脂容器6を投入してから拡張アンカー8を投入する。
【0132】
このような構成や手順によって、図9に示されるように拡張アンカー8が樹脂容器6の外周に位置するようになる。
【0133】
図9に示されるように、拡張アンカー8が樹脂容器6の外周に位置することで、アンカー7が挿入される際の圧力で、拡張アンカー8の拡張と樹脂容器6の破砕とを一度に行える。一度に行えることで、アンカー7の挿入が困難となったり、拡張アンカー8の拡張に不具合が生じたりすることがない。
【0134】
拡張アンカー8は、アンカー7と同じく、金属や合金で形成されれば良い。また、拡張アンカー8が用いられる場合には、拡張アンカー8の体積をも考慮して、樹脂容器6の体積が決定されることが好適である。
【0135】
すなわち、挿入孔5の容積からアンカー7と拡張アンカー8の合計の体積を差分した堆積が、樹脂容器6の体積として相当する。もちろん、拡張アンカー8が内壁に食い込む体積を考慮する。
【0136】
また、図10に示される拡張アンカーであってもよい。図8などに示される壁材固定装置10は、挿入孔5が穿たれており、この挿入孔5に樹脂容器6が投入されている。このとき、樹脂容器6の周囲には、予め拡張アンカー8が挿入されている。図10における拡張アンカー8は、挿入孔5の奥52に近い部位で波形形状を有している。この拡張アンカー8は、挿入孔5に予め挿入されており、その後で樹脂容器6が投入されても良いし、拡張アンカー8と樹脂容器6とがセットされて(あるいは、最初から一体の部材)、セットされた部材が挿入孔5に投入されても良い。図10(a)は、これらの状態を示している。
【0137】
次にアンカー7が挿入孔5に挿入される。図10(b)は、このアンカー7が挿入孔5の奥52まで挿入された状態を示している。アンカー7が奥52まで挿入されると、アンカー7は、樹脂容器6を破砕して、樹脂容器6に収容されている樹脂61がアンカー7の周囲に広がる。この樹脂61によって、アンカー7が挿入孔5内部に固定される。
【0138】
また、アンカー7は、拡張アンカー8を挿入孔5の内壁に向けて拡張させる。拡張アンカー8は、波形形状を有しているので、この波形形状が挿入孔5の内壁に食い込むようになる。この結果、拡張アンカー8が挿入孔5に強く固定されることになる。アンカー7と拡張アンカー8とは、樹脂61によって接続固定されるので、拡張アンカー8によって、アンカー7の壁面への固定力が更に高まる。結果として壁材固定装置10による壁材4の固定力が高まって、その後の耐久性に好影響を与える。
【0139】
図10に示されるように、拡張アンカー8が波形形状を有することで、壁材固定装置10の固定力を更に上げることができる。波形形状である場合には、複数の部位で内壁に食い込むので、固定力がより高まるメリットがある。図10は、本発明の実施の形態2における壁材固定装置の側面図である。
【0140】
なお、図8〜図10等は側面図であるので、拡張アンカー8は、2つの部材からなっているように示されているが、実際には挿入孔5に挿入されるナットのような穴あきの単一部材である。もちろん、単一部材でなく複数の部材からなってもよい。
【0141】
以上の実施の形態2の壁材固定装置10は、拡張アンカー8の機能によって、壁材4の固定を更に強くすることができる。またこの場合も、実施の形態1の壁材固定装置10と同じく非熟練作業者による作業が可能である。更には、強い固定を得ることで、補修作業後の維持期間が長くなり、結果として補修コストを低減させることができる。
【0142】
(実施の形態3)
【0143】
次に実施の形態3について説明する。
【0144】
実施の形態3は、実施の形態1、2で説明された壁材固定装置10を用いた壁材固定方法について説明する。
【0145】
図11は、本発明の実施の形態3における壁材固定方法のフローチャートである。それぞれの工程が、壁材固定方法の工程要素である。
【0146】
まず、ステップST1にて、壁材4から壁面2に到達する挿入孔5を穿つ。ステップST1は、穿孔工程である。穿孔工程においては、実施の形態1、2で説明したように、作業者はドリル等を用いつつ、樹脂容器6、アンカー7の体積等を考慮した容積(内径と深さ)を有する挿入孔5を穿つ。
【0147】
次いで、ステップST2にて、挿入孔5に樹脂容器6を投入する。ステップST2は投入工程である。投入においては、作業者は、挿入孔5とアンカー7(場合によっては拡張アンカー8)の体積の差分を考慮して、この差分に最適な樹脂容器6を選択して投入する。なお、実際の作業では、アンカー7、拡張アンカー8および樹脂容器6の数種類の組み合わせが決まっており、作業者は、これら数種類の組み合わせから選択して作業を行う。
【0148】
なお、図4を用いて説明したように、樹脂の特性によっては、樹脂容器6をステップST2で挿入孔5に投入する前に、作業現場において樹脂を樹脂容器6に封入する樹脂封入工程(ステップST11)を経てもよい。樹脂の特性によっては(例えば複数の種類の樹脂の混合によって硬化する場合)、作業現場において樹脂容器6に樹脂が封入されて、樹脂の硬化前に樹脂容器6がステップST2にて挿入孔5に投入される。
【0149】
このように、予め用意された組み合わせに基づくことで、穿孔工程および投入工程における作業者の熟練度によるばらつきが防止される。
次にステップST3にて、作業者は、挿入孔5にアンカー7を挿入する。更に挿入したアンカー7の圧力によって、樹脂容器6を破砕したり圧縮したりする。これにより樹脂容器6から樹脂61を漏出させて拡散させる。このステップST3は、漏出工程である。樹脂容器6からの樹脂61の拡散については、実施の形態1、2で説明した通りである。この樹脂61の拡散後、樹脂61は硬化して、アンカー7を挿入孔5内部に固定する。
【0150】
次に、ステップST4にて、アンカー7が固定される(すなわち壁材が固定される)。ステップST4は、固定工程である。上述の通り、樹脂61の硬化によってアンカー7は固定される。また、実施の形態2で説明したように、拡張アンカー8を更に備える場合には、拡張アンカー8の拡張に基づいて、アンカー7すなわち壁材4が、より強固に固定される。
【0151】
各工程における詳細は、実施の形態1、2で説明した通りである。
【0152】
以上の工程は、作業者によって実行されるが、いずれも熟練作業を必要とせず、実施の形態1、2で説明された壁材固定装置10を用いることで実現する。
【0153】
また、仕上がりにおける不具合が防止され、仕上がりのばらつきも防止される。この結果、補修作業全体としてのコスト・作業時間が短縮され、補修後の維持期間も長くなって、我が国を初めとして各国で問題となっている、壁材の崩落防止を、集中的かつ短期間で行うことができる。
【0154】
本発明の壁材防止装置は、分離した要素の組み合わせであって、それぞれの要素(樹脂容器、アンカー)が別々に(別々の事業者から)供給される場合もその発明の範囲に含むものである。当然ながら、分離した要素が別々に供給される場合でも、これらを組み合わせて壁材を固定する作業を行う最終状態を、本発明の壁材防止装置は含む。言うまでなく、本発明の壁材固定方法は、別々に供給される要素を用いて、壁材を固定する作業を含む。
【0155】
なお、実施の形態1〜3で説明された壁材固定装置および壁財固定方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0156】
1 外壁
2 壁面
3 壁材
4 壁材
5 挿入孔
6 樹脂容器
61 樹脂
7 アンカー
8 拡張アンカー
10 壁材固定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に取り付けられている壁材の固定を行う壁材固定装置であって、
前記壁材から前記壁面に到達する挿入孔に投入可能な樹脂容器と、
前記樹脂容器を破砕可能および圧縮可能の少なくとも一方であって、前記挿入孔に挿入可能なアンカーと、を備え、
前記樹脂容器は、樹脂を封入している、壁材固定装置。
【請求項2】
前記樹脂容器は、前記アンカーによる破砕および圧縮の少なくとも一方を受けることで、前記挿入孔内部であって前記アンカーの周囲に、封入している樹脂を拡散させる、請求項1記載の壁材固定装置。
【請求項3】
前記樹脂は、前記樹脂容器に封入されている状態では液状もしくはジェル状であり、前記樹脂容器から拡散した樹脂は、硬化を開始する、請求項1又は2記載の壁材固定装置。
【請求項4】
前記樹脂は、前記樹脂容器が前記挿入孔に投入される直前に、前記樹脂容器に封入される、請求項1から3のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項5】
前記樹脂容器は、複数の異なる成分の樹脂を封入する、請求項1から4のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項6】
前記樹脂容器は、前記挿入孔の内径に対応可能であると共に前記挿入孔の奥に投入可能な外形を有する、請求項1から5のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項7】
前記樹脂容器の体積は、前記挿入孔の体積から前記アンカーの挿入部分の体積の差分に対応する、請求項1から6のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項8】
前記樹脂容器は、カプセル形状およびチューブ形状の少なくとも一方を有する、請求項1から7のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項9】
前記アンカーが前記挿入孔に挿入されることで、前記挿入孔の内壁に拡張する拡張アンカーを更に備える、請求項1から8のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項10】
前記拡張アンカーは、前記アンカーの挿入によって拡張すると共に前記挿入孔の内壁に食い込む、請求項9記載の壁材固定装置。
【請求項11】
前記拡張アンカーは、前記挿入孔の奥に近接する領域で、前記挿入孔の内壁に食い込む、請求項10記載の壁材固定装置。
【請求項12】
前記拡張アンカーの内径の一部は、前記アンカーの直径よりも小さい、請求項9から11のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項13】
前記アンカーは、前記樹脂容器を破砕可能な凸部、突出部および切削部の少なくとも一つを有する、請求項1から12のいずれか記載の壁材固定装置。
【請求項14】
壁面に取り付けられている壁材の固定を行う壁材固定方法であって、
前記壁材から前記壁面に到達する挿入孔を穿つ穿孔工程と、
前記挿入孔に樹脂容器を投入する投入工程と、
前記挿入孔にアンカーを挿入し、前記樹脂容器を破砕および圧縮の少なくとも一方により樹脂を漏出させる漏出工程と、を備え、
前記樹脂容器は、前記樹脂を封入している、壁材固定方法。
【請求項15】
前記樹脂容器は、前記アンカーによって破砕および圧縮の少なくとも一方を受けることで、前記挿入孔内部であって前記アンカーの周囲に拡散して、前記アンカーを前記挿入孔に固定する、請求項14記載の壁材固定方法。
【請求項16】
前記アンカーの挿入によって、拡張アンカーを、前記挿入孔の外周に拡張させる拡張工程を更に備える、請求項14又は15記載の壁材固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−184585(P2012−184585A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48248(P2011−48248)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(511058501)株式会社ハラヤマ産業 (1)
【Fターム(参考)】