変位吸収用配管継手
【課題】構造の見直しと更なる工夫とにより、軸心方向変位ができないが耐食性に優れる材料を用いながらも、構造の複雑化、設置スペースの拡大、コスト高となること、漏れのおそれといった従来の問題を一掃できて、構造簡単で場所も取らず、漏れの問題も無い廉価なものとなる変位吸収用配管継手を実現して提供する。
【解決手段】軸心P方向の両端のそれぞれに配管接続部3,4を有する可撓性材料製の外筒1と、外筒1に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒2と、内筒2における流体流れ方向で上手側の一端を外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して変位吸収用配管継手Aを構成する。
【解決手段】軸心P方向の両端のそれぞれに配管接続部3,4を有する可撓性材料製の外筒1と、外筒1に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒2と、内筒2における流体流れ方向で上手側の一端を外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して変位吸収用配管継手Aを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位吸収用配管継手に係り、詳しくは、軸心方向の両端に配管接続部を有し、軸心方向及び軸心方向に対して交差する方向の変位を吸収するように構成されている変位吸収用配管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震に対処された戸建住宅やマンション、ビルといった免震構造物においては、配管亀裂や断裂といった損傷を防止すべく、上下水道やガス管等の建物と外部とを結ぶ配管類に関しても免震構造とすることが要求される。
【0003】
例えば、図12(a)に示すように、建物側配管27と、地面側配管28と、それらを繋ぐ変位吸収用配管継手20とを有して上下方向に延びる配管系Kにおいて、変位吸収用配管継手20の管本体部20Aがゴム等の弾性材から構成されている場合では、地震等による水平方向の動きには、図12(b)に示すように、変位吸収用配管継手20の屈曲による横変位によって吸収されるようになる。尚、図12において、20Bは配管接続部としてのフランジ、27B,28Bは各配管27,28の配管接続部としてのフランジである。尚、Xは建物側配管27の軸心、Pは変位吸収用配管継手20の軸心、Yは地面側配管28の軸心である。
【0004】
この場合、建物側配管27と地面側配管28との相対上下間隔Lが変わらないとしても、相対的な水平方向に距離Wで変動することになり、変位吸収用配管継手20の管本体部20Aが屈曲するだけでなくその軸心P方向の長さも変化(伸張)するが、その軸心P方向の長さ変動は、図12(b)に示すように、弾性材製の管本体部20Aが伸張変位することで吸収している。弾性材として代表的な材料であるゴム製配管の場合には、内面ゴムの劣化の点から腐食性の高い溶剤や廃液等の流体の移送手段としては適さない。
【0005】
そこで、耐薬品性、耐水性、耐熱性に優れるフッ素樹脂チューブを内筒とすることにより、腐食性の高い溶剤や廃液等の流体移送も行える配管を用いることが行われているが、この場合では、そのフッ素樹脂製内筒は材料特性上、軸心P方向に伸縮移動できないため、図13(a)に示す直線的に上下配管された通常状態から、地震等によって変位吸収用配管継手20が水平方向に距離W移動する状態に屈曲した場合の軸心方向変位は吸収されず、図13(b)に示すように、建物側配管27と地面側配管28との相対的な上下間隔の変動ΔLによって吸収されるしかなく、その場合にはいずれかの配管27,28に亀裂等の不都合を来たすおそれがあった。
【0006】
しかして、実際の配管系Kでは、特許文献1の図8等において開示されるように、一対の耐食性を有する管継手を一対用いて、例えばL字形に配管接続させることにより、水平方向と軸心方向との双方の変位を各変位吸収用配管継手の屈曲によって吸収させる手段、或いは、特許文献2において開示されるように、軸心方向に相対スライド移動自在な軸心方向伸縮管と可撓性ホースとを組合せた構造の配管系を用いることにより、耐食性を有する変位吸収用配管継手を実現させていた。
【特許文献1】特開2006−274802号公報
【特許文献2】特開2003−014179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、水平レベルを保つL型に配置する構造上、設置スペースが大きくなるとともに、2個の継手、継手どうしを接続するエルボ管、継手を所定高さ位置に据え付ける支持手段が必要であってコスト高となる不利があった。また、特許文献2の技術では、特許文献1の手段ほどの大きな設置スペースは必要ないものの、互いに構造の異なる2種の機構を持つ変位吸収用配管継手自体の構造が複雑になり、かなりのコスト高になるとともに、軸心方向伸縮管部位からの漏れのおそれを皆無にはし難いという問題が残っている。
【0008】
本発明の目的は、構造の見直しと更なる工夫とにより、軸心方向変位ができないが耐食性に優れる材料を用いながらも、構造の複雑化、設置スペースの拡大、コスト高となること、漏れのおそれといった従来の問題を一掃できて、構造簡単で場所も取らず、漏れの問題も無い廉価なものとなる変位吸収用配管継手を実現して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、変位吸収用配管継手において、軸心P方向の両端のそれぞれに配管接続部3,4を有する可撓性材料製の外筒1と、前記外筒1に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒2と、前記内筒2における流体流れ方向で上手側の一端を前記外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の変位吸収用配管継手において、前記一端固定手段Bが、前記内筒2の前記一端を、その一端側の前記配管接続部3とこの配管接続部3に連結される連結対象配管7の配管接続部7Aとの間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理することにより構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における前記一端固定手段Bによって前記外筒1に固定される箇所以外は、前記外筒1との間に径方向の間隙aが設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における他端側を前記外筒1の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてあることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における他端部の径を絞ってあることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記一端固定手段Bが存在する側が上に、かつ、他端が下となる上下向きに姿勢に設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2がフッ素樹脂製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、外筒が軸心方向に伸張変位することができるに対して内筒は軸心方向に伸張できないが、外筒と内筒とは相対移動可能に嵌合されているので、内筒における一端固定手段で外筒に固定されている箇所を除く部分は外筒に対して軸心方向に移動できることにより、不都合なく変位吸収用配管継手を変形させることができる。ゆえに、耐食性に富む材料製の内筒を用いても、可撓性を有する外筒は伸縮変位が可能であり、金属製継手に見られるような偏心時の内筒の外筒に対する相対後退移動が生ぜず、内装されている内筒の損傷無く変位吸収用配管継手の屈曲移動が可能になる。
【0017】
その結果、構造の見直しと更なる工夫とにより、軸心方向変位ができないが耐食性に優れる材料を用いながらも、構造の複雑化、設置スペースの拡大、コスト高となること、漏れのおそれといった従来の問題を一掃できて、構造簡単で場所も取らず、漏れの問題も無い廉価なものとなる変位吸収用配管継手を実現して提供することができる。この場合、請求項6のように、一端固定手段が存在する側が上となる上下向きとすれば、開放端となる内筒下端の伸縮移動が円滑化され、より安定的に動作する変位吸収用配管継手が得られる。また、請求項7のように、耐薬品性、耐水性、耐熱性に優れるように、内筒をフッ素樹脂製とする実用上の利点が大となる構成も選択できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、内筒にフランジ状に拡径処理された部分を形成して、その拡径処理部分(フランジ部)を連結対象配管の配管接続部との間で挟持保持する構成とされているので、専用の構成や部品を用いることなく経済的、合理的に一端固定手段を実現できるという利点が追加される。
【0019】
請求項3の発明によれば、一端固定手段以外の部分では内筒と外筒とに径方向の間隙が設けられているので、地震等による横変位が生じた際の内筒と外筒との相対移動が抵抗少なく円滑に行われるものとなり、内筒と外筒との摺動移動による傷付きや亀裂等の新たな問題のおそれを回避できるという利点がある。
【0020】
請求項4の発明によれば、内筒における他端側を外筒の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてあるので、横変位時(図2参照)に内筒先端が一端固定手段側に接近移動することによる外筒先端部内周面の露出部位を低減させることができるとともに、延長量(延長長さ)を所定量(所定長さ)以上にすれば、横変位した場合でも外筒内周面の露出が生じないようにすることが可能であって、より耐食性に優れる変位吸収用配管継手を提供することができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、内筒における他端部の径を絞ってあるので、横変位(図2参照)した後に元の状態に戻る際に、一端固定手段側に接近移動している内筒先端が外筒の内周面に引っ掛かることがなく、内筒が外筒に対して下方に円滑に摺動移動できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明による変位吸収用配管継手の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1,2は実施例1の、図3は実施例2の、図4は実施例3の、図5は実施例4の、図6は実施例5の、そして、図7は実施例6の変位吸収用配管継手をそれぞれ示す断面図、図8〜図11は内筒の各種形状を示す側面図である。また、図12,13は従来の変位吸収用配管継手の構造を示す作用図である。
【0023】
〔実施例1〕
実施例1による変位吸収用配管継手Aは、図1,図2に示すように、上下方向に向く縦軸心P方向の両端のそれぞれにフランジ(配管接続部の一例)3,4を有するゴム(可撓性材料の一例)製の外筒1と、外筒1に相対移動自在に内嵌されるフッ素樹脂(耐食性材料の一例)製の内筒2と、内筒2における上端(「流体流れ方向で上手側の一端」の一例)を外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して構成されている。
【0024】
外筒1は、円筒ゴム又は繊維材等の補強部材が内蔵される円筒ゴム等の弾性材(可撓性材料の一例)で成り、その上端部及び下端部には、外周溝5及び大径フランジ端6が形成されている。上フランジ3及び下フランジ4は、厚肉の鋼板材やステンレス材、アルミ合金材等の金属板、或いは合成樹脂板等の硬質部材で成る円環状のものであり、それぞれが対応する外周溝5,5に嵌合されて連結一体化されている。上下の外周溝5,5の間の外筒本体部1Aの径よりも、上下の大径フランジ端6の径の方が大きいが、これには限られない。
【0025】
フッ素樹脂製の内筒2は、外筒1に相対移動可能に内嵌される内筒本体2Aと、その上端に連続するフランジ部2Bとを有して外筒1に内嵌されており、その下端2aはほぼ外筒1の下端部に位置している。つまり、図8に示すように、フランジ付円筒状のフッ素樹脂チューブであり、腐食性の高い溶剤、廃液、薬液、洗浄液等のゴムでは耐えられない流体(液体)も移送できるものであり、耐食性を有する変位吸収用配管継手Aの実現に寄与している。
【0026】
図1,2において、7は上側の固定配管(例:建物側の配管)であって7Aは配管接続部としてのフランジであり、8は下側の固定配管(例:地中埋設配管)であって8Aは配管接続部としてのフランジである。上固定配管(連結対象配管の一例)7と変位吸収用配管継手Aとは、フランジ部2B及び大径フランジ端6を介装した状態でフランジ7Aと上フランジ3とをボルト・ナット(図示省略)を用いて連結固定されている。また、変位吸収用配管継手Aと下固定配管8とは、大径フランジ端6を介装した状態でフランジ8Aと下フランジ4とをボルト・ナット(図示省略)を用いて連結固定されている。図1に示す通常の状態では、上下の固定配管7,8、及び変位吸収用配管継手Aの各軸心は共通の縦軸心Pを有するストレートな姿勢(垂下姿勢)に維持されている。
【0027】
この場合は、変位吸収用配管継手Aと上固定配管7との連結によるフランジ部2Bの挟持保持により、内筒2の上端部を外筒1に相対移動不能に固定する手段となっている。つまり、一端固定手段Bは、内筒2の上端(一端の一例)を、上フランジ3(「その一端側の配管接続部」の一例)と上フランジ3に連結されるフランジ7A(「連結対象配管の配管接続部」の一例)との間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理すること、即ちフランジ部2Bの存在により構成されている。尚、フランジ部2Bと大径フランジ端6とを接着することで一端固定手段Bを構成するものでも良い。
【0028】
さて、地震等によって横方向の力が働くと、変位吸収用配管継手Aが図1に示すストレートな姿勢から屈曲変位し、上固定配管7の軸心Xと下固定配管8の軸心Yとが水平方向に位置ずれする偏心状態となって、図2に示すように、上側の固定配管7と下側の固定配管8とが相対的に横変位する。即ち、変位吸収用配管継手Aは横方向に屈曲するだけでなく、その軸心P方向に伸び変位することにもなる。
【0029】
この場合、ゴム製の外筒1の外筒本体部1Aが軸心P方向に弾性変形して伸張変位することができるに対して、非弾性の内筒2は軸心P方向に伸張できない。しかしながら、外筒本体部1Aと内筒本体2Aとは相対移動可能に嵌合されているので、外筒1に対して相対固定されているフランジ部2Bを除く部分、即ち、内筒本体2Aと外筒本体部1Aとが軸心P方向に相対移動することにより、不都合なく変位吸収用配管継手Aを変形させることができる。つまり、横変動後は、内筒2の下端2aと下固定配管8の上端との間隔が拡大されて、相対的に外筒1に対して内筒2が上に持ち上がったようになる(図2参照)。
【0030】
実施例1の変位吸収用配管継手Aでは、ゴム製外筒1の内側に、上端がフレア加工された下端ストレートな形状でPTFE等のフッ素樹脂製の内筒2を内装してあるので、地震等による偏心(横移動)時には内筒2が外筒1に対して上下方向(軸心P方向)にスライド移動し得るようになっている。故に、伸縮しない耐食性に富む材料製の内筒2を用いても、ゴム製(弾性材製)の外筒1は伸縮変位が可能であり、金属製継手に見られるような偏心時の内筒2の外筒1に対する相対後退移動が生ぜず、内装されている内筒2の損傷無く変位吸収用配管継手Aの屈曲移動が可能になっている。
【0031】
尚、横変位した場合には、図2に示すように、内筒2の下端2aが持ち上がって外筒1の下端部内周面が露出されて移送流体に晒される状態になるが、そのような状態は長く続かず、直ぐに図1に示す通常状態に戻るようになる。従って、移送流体が腐食性の高い溶剤や廃液等であっても、外筒1内周面との接触時間は極短いものであり、特に問題は生じないものとなっている。
【0032】
〔実施例2〕
実施例2による変位吸収用配管継手Aは、図3に示すように、実施例1による変位吸収用配管継手Aと内筒と一端固定手段Bとが異なるものである。即ち、内筒本体2Aの上端部には、外筒1に圧入内嵌される係止筒部9が形成され、内筒本体2Aにおけるそれ以外の部分は径方向に間隙を有して外筒1に内嵌(即ち、遊内嵌)されている。要するに、外筒1に圧入される係止筒部9が一端固定手段Bを構成している。従って、内筒2における一端固定手段Bによって外筒1に固定される箇所である係止筒部9以外は、外筒1との間に径方向の間隙が設けられている、という手段である。
【0033】
この実施例2による変位吸収用配管継手Aでは、係止筒部9と外筒1との嵌合状態が圧入によって保持されているので、上固定配管7と連結されない自由状態でも外筒1と内筒2とが分離せず一体のものとして扱える良さがある。尚、係止筒部9と外筒1との一体化状態をより確実化すべく、接着材を用いる等してそれら両者9,1を貼着させる構成を追加しても良い。図示は省略するが、実施例2の変位吸収用配管継手Aに水平方向の力が作用して横変位(図2参照)すると、内筒本体2Aにおける係止筒部9以外の大部分は外筒1と相対移動自在であり、軸心P方向の無理な力が内筒2には掛からず、従って問題なく変位が吸収できる構造となっている。横変位による内筒下端2aの持ち上がりによる外筒1下端部内周面の露出(移送流体に対して)に関しては、実施例1の場合と同様である。
【0034】
〔実施例3〕
実施例3による変位吸収用配管継手Aは、図4に示すように、内筒2の下端2aが下方に延長されている以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒本体2Aが下方に延びてその下端2aが外筒1の下端を通り越し、下固定配管8の中に入り込む延長部10が形成されるように延長されている。つまり、内筒2における流体流れ方向で下手側(他端側)である下端側を、外筒1の下端(他端)よりも流体流れ方向で下手側に延長させる手段である。
【0035】
このように内筒2を下方側(一端固定手段B存在側の反対側)に延長する構成を採れば、図示は省略するが、横変位時(図2参照)に内筒下端2aが持ち上がることによる外筒1下端部内周面の露出部位を低減させることができるとともに、延長量(延長長さ)を所定量(所定長さ)以上にすれば、横変位した場合でも外筒1内周面の露出が生じないようにすることが可能であり、より耐食性に優れる変位吸収用配管継手Aが実現できている。
【0036】
〔実施例4〕
実施例4による変位吸収用配管継手Aは、図5に示すように、内筒2下端部(他端部)の径を絞ってある以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒2の下端には、下端部を内側(径内側)に絞る逆フレア加工(絞り加工)により、孔部11aの径d2が内筒本体2Aの内径d1よりも小となる内向きフランジ11が形成されている。このように内筒2の下端を逆フレアさせて(絞って)内向きフランジ11を形成することのより、横変位(図2参照)した後に元の状態に戻る際に、持ち上がり移動している内筒下端2aが外筒1の内周面に引っ掛かることがなく、内筒2が外筒1に対して下方に円滑に摺動移動できる利点がある。
【0037】
〔実施例5〕
実施例5による変位吸収用配管継手Aは、図6に示すように、内筒2下端部(他端部)の径を絞ってある以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒2の内筒本体2Aを、下方側ほど径が小さくなるように徐々に径を絞るテーパ筒としてある。例えば、下端2aの内径がd1で、内筒2の上端内径をd2(d1<d2))とする。このように内筒2を下絞り状(先端窄まり状)とすることによる作用や効果は、実施例4の変位吸収用配管継手Aと同様である。尚、横変位に伴う外筒1と内筒2との軸心P方向の摺動移動に関しては、実施例4のものよりも本実施例5のもののほうが摺動抵抗が少なくなると考えらる。
【0038】
〔実施例6〕
実施例6による変位吸収用配管継手Aは、図7に示すように、第1内筒12と第2内筒13とで成る内筒2を有するものであり、その他の部分は実施例1による変位吸収用配管継手Aと基本的には同じである。第1内筒12は、実施例1による変位吸収用配管継手Aの内筒2における内筒本体2Aの内径がやや大きくなったものであって、第1フランジ部12Bと、外筒1に遊内嵌される第1内筒本体12Aとを有して構成されており、内筒12の下端12aはほぼ外筒1の下端に位置している。第2内筒13は、下固定配管8のフランジ8Aと下側の大径フランジ端6との間に介装される第2フランジ部1Bと、外筒1の下端部に圧入内嵌される上下長さの短い第2内筒本体13Aと、を有して構成されている。
【0039】
そして、第1内筒本体12Aの下端部は、所定の上下長さtに亘って第2内筒本体13Aに遊内嵌されており、これら第1及び第2内筒12,13は共にフッ素樹脂等の耐食性に富む合成樹脂材で形成されている。このような構成では、前述の上下長さ(両内筒12,13の重なり部分の長さ)tを適宜に設定することにより、横変位によって上固定配管7と下固定配管8とが水平方向にずれ動き、第1内筒2の下端12aが上方に持ち上がり移動しても、第1内筒本体12Aと第2内筒本体13Aとの嵌合状態を維持することが可能であり、従って、移送流体が直接外筒1の内周面に及ばないように設定することが可能であり、より好ましい変位吸収用配管継手Aを提供することができる。
【0040】
この第1内筒12と第2内筒13とで内筒2を構成する実施例6の変位吸収用配管継手Aに、実施例4や実施例5の構成を適用すればより好都合である。即ち、第1内筒本体12Aの下端部が内向きフランジとなるように逆フレア加工されるか、或いは下細まり(先窄まり)するテーパ加工されておれば、横変位した状態(図2参照)かれら通常状態に戻る際に、第1内筒本体12Aの下端12aが第2内筒本体13Aの上端に引っ掛かることが回避され、両円筒12,13どうしの円滑な摺動移動が行える利点が発揮される。
【0041】
〔その他の別実施例〕
内筒2の形状は、実施例1等で用いられるフランジ付ストレート形状(図8参照)の他、図9に示すように、内筒本体2Aが山部14と谷部15とを有する波形の筒(波筒)から成るものでも良い。他には、図10に示すように、その波形が捩られてネジ山部16とネジ谷部17とを有する螺旋波形の内筒本体2Aを有する内筒2でも良い。また、図11に示すように、外周にネジ状の溝18を有するスパイラル形状の内筒本体2Aを有する内筒2も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1による変位吸収用配管継手を含む配管系の断面図
【図2】図1の配管系に横変動が生じた場合の作用図
【図3】実施例2による変位吸収用配管継手の断面図(間隙)
【図4】実施例3による変位吸収用配管継手の断面図(内筒延長)
【図5】実施例4による変位吸収用配管継手の断面図(下端逆フレア)
【図6】実施例5による変位吸収用配管継手の断面図(テーパ)
【図7】実施例6による変位吸収用配管継手の断面図(下端二重内筒構造)
【図8】内筒の形状を示す側面図(ストレート)
【図9】内筒の第1別形状を示す側面図(波形)
【図10】内筒の第2別形状を示す側面図(傾斜波形)
【図11】内筒の第3別形状を示す側面図(スパイラル)
【図12】従来のゴム製変位吸収用配管継手を示し、(a)は通常時の断面図、(b)は横変動時の断面図
【図13】従来の金属製変位吸収用配管継手を示し、(a)は通常時の断面図、(b)は横変動時の断面図
【符号の説明】
【0043】
1 外筒
2 内筒
3 配管接続部
4 配管接続部
7 連結対象配管
7A 配管接続部
A 変位吸収用配管継手
B 一端固定手段
P 軸心
a 間隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位吸収用配管継手に係り、詳しくは、軸心方向の両端に配管接続部を有し、軸心方向及び軸心方向に対して交差する方向の変位を吸収するように構成されている変位吸収用配管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震に対処された戸建住宅やマンション、ビルといった免震構造物においては、配管亀裂や断裂といった損傷を防止すべく、上下水道やガス管等の建物と外部とを結ぶ配管類に関しても免震構造とすることが要求される。
【0003】
例えば、図12(a)に示すように、建物側配管27と、地面側配管28と、それらを繋ぐ変位吸収用配管継手20とを有して上下方向に延びる配管系Kにおいて、変位吸収用配管継手20の管本体部20Aがゴム等の弾性材から構成されている場合では、地震等による水平方向の動きには、図12(b)に示すように、変位吸収用配管継手20の屈曲による横変位によって吸収されるようになる。尚、図12において、20Bは配管接続部としてのフランジ、27B,28Bは各配管27,28の配管接続部としてのフランジである。尚、Xは建物側配管27の軸心、Pは変位吸収用配管継手20の軸心、Yは地面側配管28の軸心である。
【0004】
この場合、建物側配管27と地面側配管28との相対上下間隔Lが変わらないとしても、相対的な水平方向に距離Wで変動することになり、変位吸収用配管継手20の管本体部20Aが屈曲するだけでなくその軸心P方向の長さも変化(伸張)するが、その軸心P方向の長さ変動は、図12(b)に示すように、弾性材製の管本体部20Aが伸張変位することで吸収している。弾性材として代表的な材料であるゴム製配管の場合には、内面ゴムの劣化の点から腐食性の高い溶剤や廃液等の流体の移送手段としては適さない。
【0005】
そこで、耐薬品性、耐水性、耐熱性に優れるフッ素樹脂チューブを内筒とすることにより、腐食性の高い溶剤や廃液等の流体移送も行える配管を用いることが行われているが、この場合では、そのフッ素樹脂製内筒は材料特性上、軸心P方向に伸縮移動できないため、図13(a)に示す直線的に上下配管された通常状態から、地震等によって変位吸収用配管継手20が水平方向に距離W移動する状態に屈曲した場合の軸心方向変位は吸収されず、図13(b)に示すように、建物側配管27と地面側配管28との相対的な上下間隔の変動ΔLによって吸収されるしかなく、その場合にはいずれかの配管27,28に亀裂等の不都合を来たすおそれがあった。
【0006】
しかして、実際の配管系Kでは、特許文献1の図8等において開示されるように、一対の耐食性を有する管継手を一対用いて、例えばL字形に配管接続させることにより、水平方向と軸心方向との双方の変位を各変位吸収用配管継手の屈曲によって吸収させる手段、或いは、特許文献2において開示されるように、軸心方向に相対スライド移動自在な軸心方向伸縮管と可撓性ホースとを組合せた構造の配管系を用いることにより、耐食性を有する変位吸収用配管継手を実現させていた。
【特許文献1】特開2006−274802号公報
【特許文献2】特開2003−014179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、水平レベルを保つL型に配置する構造上、設置スペースが大きくなるとともに、2個の継手、継手どうしを接続するエルボ管、継手を所定高さ位置に据え付ける支持手段が必要であってコスト高となる不利があった。また、特許文献2の技術では、特許文献1の手段ほどの大きな設置スペースは必要ないものの、互いに構造の異なる2種の機構を持つ変位吸収用配管継手自体の構造が複雑になり、かなりのコスト高になるとともに、軸心方向伸縮管部位からの漏れのおそれを皆無にはし難いという問題が残っている。
【0008】
本発明の目的は、構造の見直しと更なる工夫とにより、軸心方向変位ができないが耐食性に優れる材料を用いながらも、構造の複雑化、設置スペースの拡大、コスト高となること、漏れのおそれといった従来の問題を一掃できて、構造簡単で場所も取らず、漏れの問題も無い廉価なものとなる変位吸収用配管継手を実現して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、変位吸収用配管継手において、軸心P方向の両端のそれぞれに配管接続部3,4を有する可撓性材料製の外筒1と、前記外筒1に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒2と、前記内筒2における流体流れ方向で上手側の一端を前記外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の変位吸収用配管継手において、前記一端固定手段Bが、前記内筒2の前記一端を、その一端側の前記配管接続部3とこの配管接続部3に連結される連結対象配管7の配管接続部7Aとの間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理することにより構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における前記一端固定手段Bによって前記外筒1に固定される箇所以外は、前記外筒1との間に径方向の間隙aが設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における他端側を前記外筒1の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてあることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2における他端部の径を絞ってあることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記一端固定手段Bが存在する側が上に、かつ、他端が下となる上下向きに姿勢に設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手において、前記内筒2がフッ素樹脂製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、外筒が軸心方向に伸張変位することができるに対して内筒は軸心方向に伸張できないが、外筒と内筒とは相対移動可能に嵌合されているので、内筒における一端固定手段で外筒に固定されている箇所を除く部分は外筒に対して軸心方向に移動できることにより、不都合なく変位吸収用配管継手を変形させることができる。ゆえに、耐食性に富む材料製の内筒を用いても、可撓性を有する外筒は伸縮変位が可能であり、金属製継手に見られるような偏心時の内筒の外筒に対する相対後退移動が生ぜず、内装されている内筒の損傷無く変位吸収用配管継手の屈曲移動が可能になる。
【0017】
その結果、構造の見直しと更なる工夫とにより、軸心方向変位ができないが耐食性に優れる材料を用いながらも、構造の複雑化、設置スペースの拡大、コスト高となること、漏れのおそれといった従来の問題を一掃できて、構造簡単で場所も取らず、漏れの問題も無い廉価なものとなる変位吸収用配管継手を実現して提供することができる。この場合、請求項6のように、一端固定手段が存在する側が上となる上下向きとすれば、開放端となる内筒下端の伸縮移動が円滑化され、より安定的に動作する変位吸収用配管継手が得られる。また、請求項7のように、耐薬品性、耐水性、耐熱性に優れるように、内筒をフッ素樹脂製とする実用上の利点が大となる構成も選択できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、内筒にフランジ状に拡径処理された部分を形成して、その拡径処理部分(フランジ部)を連結対象配管の配管接続部との間で挟持保持する構成とされているので、専用の構成や部品を用いることなく経済的、合理的に一端固定手段を実現できるという利点が追加される。
【0019】
請求項3の発明によれば、一端固定手段以外の部分では内筒と外筒とに径方向の間隙が設けられているので、地震等による横変位が生じた際の内筒と外筒との相対移動が抵抗少なく円滑に行われるものとなり、内筒と外筒との摺動移動による傷付きや亀裂等の新たな問題のおそれを回避できるという利点がある。
【0020】
請求項4の発明によれば、内筒における他端側を外筒の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてあるので、横変位時(図2参照)に内筒先端が一端固定手段側に接近移動することによる外筒先端部内周面の露出部位を低減させることができるとともに、延長量(延長長さ)を所定量(所定長さ)以上にすれば、横変位した場合でも外筒内周面の露出が生じないようにすることが可能であって、より耐食性に優れる変位吸収用配管継手を提供することができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、内筒における他端部の径を絞ってあるので、横変位(図2参照)した後に元の状態に戻る際に、一端固定手段側に接近移動している内筒先端が外筒の内周面に引っ掛かることがなく、内筒が外筒に対して下方に円滑に摺動移動できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明による変位吸収用配管継手の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1,2は実施例1の、図3は実施例2の、図4は実施例3の、図5は実施例4の、図6は実施例5の、そして、図7は実施例6の変位吸収用配管継手をそれぞれ示す断面図、図8〜図11は内筒の各種形状を示す側面図である。また、図12,13は従来の変位吸収用配管継手の構造を示す作用図である。
【0023】
〔実施例1〕
実施例1による変位吸収用配管継手Aは、図1,図2に示すように、上下方向に向く縦軸心P方向の両端のそれぞれにフランジ(配管接続部の一例)3,4を有するゴム(可撓性材料の一例)製の外筒1と、外筒1に相対移動自在に内嵌されるフッ素樹脂(耐食性材料の一例)製の内筒2と、内筒2における上端(「流体流れ方向で上手側の一端」の一例)を外筒1に相対移動不能に固定する一端固定手段Bと、を有して構成されている。
【0024】
外筒1は、円筒ゴム又は繊維材等の補強部材が内蔵される円筒ゴム等の弾性材(可撓性材料の一例)で成り、その上端部及び下端部には、外周溝5及び大径フランジ端6が形成されている。上フランジ3及び下フランジ4は、厚肉の鋼板材やステンレス材、アルミ合金材等の金属板、或いは合成樹脂板等の硬質部材で成る円環状のものであり、それぞれが対応する外周溝5,5に嵌合されて連結一体化されている。上下の外周溝5,5の間の外筒本体部1Aの径よりも、上下の大径フランジ端6の径の方が大きいが、これには限られない。
【0025】
フッ素樹脂製の内筒2は、外筒1に相対移動可能に内嵌される内筒本体2Aと、その上端に連続するフランジ部2Bとを有して外筒1に内嵌されており、その下端2aはほぼ外筒1の下端部に位置している。つまり、図8に示すように、フランジ付円筒状のフッ素樹脂チューブであり、腐食性の高い溶剤、廃液、薬液、洗浄液等のゴムでは耐えられない流体(液体)も移送できるものであり、耐食性を有する変位吸収用配管継手Aの実現に寄与している。
【0026】
図1,2において、7は上側の固定配管(例:建物側の配管)であって7Aは配管接続部としてのフランジであり、8は下側の固定配管(例:地中埋設配管)であって8Aは配管接続部としてのフランジである。上固定配管(連結対象配管の一例)7と変位吸収用配管継手Aとは、フランジ部2B及び大径フランジ端6を介装した状態でフランジ7Aと上フランジ3とをボルト・ナット(図示省略)を用いて連結固定されている。また、変位吸収用配管継手Aと下固定配管8とは、大径フランジ端6を介装した状態でフランジ8Aと下フランジ4とをボルト・ナット(図示省略)を用いて連結固定されている。図1に示す通常の状態では、上下の固定配管7,8、及び変位吸収用配管継手Aの各軸心は共通の縦軸心Pを有するストレートな姿勢(垂下姿勢)に維持されている。
【0027】
この場合は、変位吸収用配管継手Aと上固定配管7との連結によるフランジ部2Bの挟持保持により、内筒2の上端部を外筒1に相対移動不能に固定する手段となっている。つまり、一端固定手段Bは、内筒2の上端(一端の一例)を、上フランジ3(「その一端側の配管接続部」の一例)と上フランジ3に連結されるフランジ7A(「連結対象配管の配管接続部」の一例)との間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理すること、即ちフランジ部2Bの存在により構成されている。尚、フランジ部2Bと大径フランジ端6とを接着することで一端固定手段Bを構成するものでも良い。
【0028】
さて、地震等によって横方向の力が働くと、変位吸収用配管継手Aが図1に示すストレートな姿勢から屈曲変位し、上固定配管7の軸心Xと下固定配管8の軸心Yとが水平方向に位置ずれする偏心状態となって、図2に示すように、上側の固定配管7と下側の固定配管8とが相対的に横変位する。即ち、変位吸収用配管継手Aは横方向に屈曲するだけでなく、その軸心P方向に伸び変位することにもなる。
【0029】
この場合、ゴム製の外筒1の外筒本体部1Aが軸心P方向に弾性変形して伸張変位することができるに対して、非弾性の内筒2は軸心P方向に伸張できない。しかしながら、外筒本体部1Aと内筒本体2Aとは相対移動可能に嵌合されているので、外筒1に対して相対固定されているフランジ部2Bを除く部分、即ち、内筒本体2Aと外筒本体部1Aとが軸心P方向に相対移動することにより、不都合なく変位吸収用配管継手Aを変形させることができる。つまり、横変動後は、内筒2の下端2aと下固定配管8の上端との間隔が拡大されて、相対的に外筒1に対して内筒2が上に持ち上がったようになる(図2参照)。
【0030】
実施例1の変位吸収用配管継手Aでは、ゴム製外筒1の内側に、上端がフレア加工された下端ストレートな形状でPTFE等のフッ素樹脂製の内筒2を内装してあるので、地震等による偏心(横移動)時には内筒2が外筒1に対して上下方向(軸心P方向)にスライド移動し得るようになっている。故に、伸縮しない耐食性に富む材料製の内筒2を用いても、ゴム製(弾性材製)の外筒1は伸縮変位が可能であり、金属製継手に見られるような偏心時の内筒2の外筒1に対する相対後退移動が生ぜず、内装されている内筒2の損傷無く変位吸収用配管継手Aの屈曲移動が可能になっている。
【0031】
尚、横変位した場合には、図2に示すように、内筒2の下端2aが持ち上がって外筒1の下端部内周面が露出されて移送流体に晒される状態になるが、そのような状態は長く続かず、直ぐに図1に示す通常状態に戻るようになる。従って、移送流体が腐食性の高い溶剤や廃液等であっても、外筒1内周面との接触時間は極短いものであり、特に問題は生じないものとなっている。
【0032】
〔実施例2〕
実施例2による変位吸収用配管継手Aは、図3に示すように、実施例1による変位吸収用配管継手Aと内筒と一端固定手段Bとが異なるものである。即ち、内筒本体2Aの上端部には、外筒1に圧入内嵌される係止筒部9が形成され、内筒本体2Aにおけるそれ以外の部分は径方向に間隙を有して外筒1に内嵌(即ち、遊内嵌)されている。要するに、外筒1に圧入される係止筒部9が一端固定手段Bを構成している。従って、内筒2における一端固定手段Bによって外筒1に固定される箇所である係止筒部9以外は、外筒1との間に径方向の間隙が設けられている、という手段である。
【0033】
この実施例2による変位吸収用配管継手Aでは、係止筒部9と外筒1との嵌合状態が圧入によって保持されているので、上固定配管7と連結されない自由状態でも外筒1と内筒2とが分離せず一体のものとして扱える良さがある。尚、係止筒部9と外筒1との一体化状態をより確実化すべく、接着材を用いる等してそれら両者9,1を貼着させる構成を追加しても良い。図示は省略するが、実施例2の変位吸収用配管継手Aに水平方向の力が作用して横変位(図2参照)すると、内筒本体2Aにおける係止筒部9以外の大部分は外筒1と相対移動自在であり、軸心P方向の無理な力が内筒2には掛からず、従って問題なく変位が吸収できる構造となっている。横変位による内筒下端2aの持ち上がりによる外筒1下端部内周面の露出(移送流体に対して)に関しては、実施例1の場合と同様である。
【0034】
〔実施例3〕
実施例3による変位吸収用配管継手Aは、図4に示すように、内筒2の下端2aが下方に延長されている以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒本体2Aが下方に延びてその下端2aが外筒1の下端を通り越し、下固定配管8の中に入り込む延長部10が形成されるように延長されている。つまり、内筒2における流体流れ方向で下手側(他端側)である下端側を、外筒1の下端(他端)よりも流体流れ方向で下手側に延長させる手段である。
【0035】
このように内筒2を下方側(一端固定手段B存在側の反対側)に延長する構成を採れば、図示は省略するが、横変位時(図2参照)に内筒下端2aが持ち上がることによる外筒1下端部内周面の露出部位を低減させることができるとともに、延長量(延長長さ)を所定量(所定長さ)以上にすれば、横変位した場合でも外筒1内周面の露出が生じないようにすることが可能であり、より耐食性に優れる変位吸収用配管継手Aが実現できている。
【0036】
〔実施例4〕
実施例4による変位吸収用配管継手Aは、図5に示すように、内筒2下端部(他端部)の径を絞ってある以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒2の下端には、下端部を内側(径内側)に絞る逆フレア加工(絞り加工)により、孔部11aの径d2が内筒本体2Aの内径d1よりも小となる内向きフランジ11が形成されている。このように内筒2の下端を逆フレアさせて(絞って)内向きフランジ11を形成することのより、横変位(図2参照)した後に元の状態に戻る際に、持ち上がり移動している内筒下端2aが外筒1の内周面に引っ掛かることがなく、内筒2が外筒1に対して下方に円滑に摺動移動できる利点がある。
【0037】
〔実施例5〕
実施例5による変位吸収用配管継手Aは、図6に示すように、内筒2下端部(他端部)の径を絞ってある以外は実施例1による変位吸収用配管継手Aと同じである。即ち、内筒2の内筒本体2Aを、下方側ほど径が小さくなるように徐々に径を絞るテーパ筒としてある。例えば、下端2aの内径がd1で、内筒2の上端内径をd2(d1<d2))とする。このように内筒2を下絞り状(先端窄まり状)とすることによる作用や効果は、実施例4の変位吸収用配管継手Aと同様である。尚、横変位に伴う外筒1と内筒2との軸心P方向の摺動移動に関しては、実施例4のものよりも本実施例5のもののほうが摺動抵抗が少なくなると考えらる。
【0038】
〔実施例6〕
実施例6による変位吸収用配管継手Aは、図7に示すように、第1内筒12と第2内筒13とで成る内筒2を有するものであり、その他の部分は実施例1による変位吸収用配管継手Aと基本的には同じである。第1内筒12は、実施例1による変位吸収用配管継手Aの内筒2における内筒本体2Aの内径がやや大きくなったものであって、第1フランジ部12Bと、外筒1に遊内嵌される第1内筒本体12Aとを有して構成されており、内筒12の下端12aはほぼ外筒1の下端に位置している。第2内筒13は、下固定配管8のフランジ8Aと下側の大径フランジ端6との間に介装される第2フランジ部1Bと、外筒1の下端部に圧入内嵌される上下長さの短い第2内筒本体13Aと、を有して構成されている。
【0039】
そして、第1内筒本体12Aの下端部は、所定の上下長さtに亘って第2内筒本体13Aに遊内嵌されており、これら第1及び第2内筒12,13は共にフッ素樹脂等の耐食性に富む合成樹脂材で形成されている。このような構成では、前述の上下長さ(両内筒12,13の重なり部分の長さ)tを適宜に設定することにより、横変位によって上固定配管7と下固定配管8とが水平方向にずれ動き、第1内筒2の下端12aが上方に持ち上がり移動しても、第1内筒本体12Aと第2内筒本体13Aとの嵌合状態を維持することが可能であり、従って、移送流体が直接外筒1の内周面に及ばないように設定することが可能であり、より好ましい変位吸収用配管継手Aを提供することができる。
【0040】
この第1内筒12と第2内筒13とで内筒2を構成する実施例6の変位吸収用配管継手Aに、実施例4や実施例5の構成を適用すればより好都合である。即ち、第1内筒本体12Aの下端部が内向きフランジとなるように逆フレア加工されるか、或いは下細まり(先窄まり)するテーパ加工されておれば、横変位した状態(図2参照)かれら通常状態に戻る際に、第1内筒本体12Aの下端12aが第2内筒本体13Aの上端に引っ掛かることが回避され、両円筒12,13どうしの円滑な摺動移動が行える利点が発揮される。
【0041】
〔その他の別実施例〕
内筒2の形状は、実施例1等で用いられるフランジ付ストレート形状(図8参照)の他、図9に示すように、内筒本体2Aが山部14と谷部15とを有する波形の筒(波筒)から成るものでも良い。他には、図10に示すように、その波形が捩られてネジ山部16とネジ谷部17とを有する螺旋波形の内筒本体2Aを有する内筒2でも良い。また、図11に示すように、外周にネジ状の溝18を有するスパイラル形状の内筒本体2Aを有する内筒2も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1による変位吸収用配管継手を含む配管系の断面図
【図2】図1の配管系に横変動が生じた場合の作用図
【図3】実施例2による変位吸収用配管継手の断面図(間隙)
【図4】実施例3による変位吸収用配管継手の断面図(内筒延長)
【図5】実施例4による変位吸収用配管継手の断面図(下端逆フレア)
【図6】実施例5による変位吸収用配管継手の断面図(テーパ)
【図7】実施例6による変位吸収用配管継手の断面図(下端二重内筒構造)
【図8】内筒の形状を示す側面図(ストレート)
【図9】内筒の第1別形状を示す側面図(波形)
【図10】内筒の第2別形状を示す側面図(傾斜波形)
【図11】内筒の第3別形状を示す側面図(スパイラル)
【図12】従来のゴム製変位吸収用配管継手を示し、(a)は通常時の断面図、(b)は横変動時の断面図
【図13】従来の金属製変位吸収用配管継手を示し、(a)は通常時の断面図、(b)は横変動時の断面図
【符号の説明】
【0043】
1 外筒
2 内筒
3 配管接続部
4 配管接続部
7 連結対象配管
7A 配管接続部
A 変位吸収用配管継手
B 一端固定手段
P 軸心
a 間隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向の両端のそれぞれに配管接続部を有する可撓性材料製の外筒と、前記外筒に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒と、前記内筒における流体流れ方向で上手側の一端を前記外筒に相対移動不能に固定する一端固定手段と、を有して構成されている変位吸収用配管継手。
【請求項2】
前記一端固定手段が、前記内筒の前記一端を、その一端側の前記配管接続部とこの配管接続部に連結される連結対象配管の配管接続部との間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理することにより構成されている請求項1に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項3】
前記内筒における前記一端固定手段によって前記外筒に固定される箇所以外は、前記外筒との間に径方向の間隙が設けられている請求項1又は2に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項4】
前記内筒における他端側を前記外筒の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてある請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項5】
前記内筒における他端部の径を絞ってある請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項6】
前記一端固定手段が存在する側が上に、かつ、他端が下となる上下向きに姿勢に設定されている請求項1〜5の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項7】
前記内筒がフッ素樹脂製である請求項1〜6の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項1】
軸心方向の両端のそれぞれに配管接続部を有する可撓性材料製の外筒と、前記外筒に相対移動自在に内嵌される耐食性材料製の内筒と、前記内筒における流体流れ方向で上手側の一端を前記外筒に相対移動不能に固定する一端固定手段と、を有して構成されている変位吸収用配管継手。
【請求項2】
前記一端固定手段が、前記内筒の前記一端を、その一端側の前記配管接続部とこの配管接続部に連結される連結対象配管の配管接続部との間で被挟持可能となるようにフランジ状に拡径処理することにより構成されている請求項1に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項3】
前記内筒における前記一端固定手段によって前記外筒に固定される箇所以外は、前記外筒との間に径方向の間隙が設けられている請求項1又は2に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項4】
前記内筒における他端側を前記外筒の他端よりも流体流れ方向で下手側に延長させてある請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項5】
前記内筒における他端部の径を絞ってある請求項1〜3の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項6】
前記一端固定手段が存在する側が上に、かつ、他端が下となる上下向きに姿勢に設定されている請求項1〜5の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【請求項7】
前記内筒がフッ素樹脂製である請求項1〜6の何れか一項に記載の変位吸収用配管継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−47209(P2009−47209A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212250(P2007−212250)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
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