説明

変位計測装置

【課題】回転によって変位する被測定物の初期位置から計測方向への変位を正確に計測することができる変位計測装置を提供する。
【解決手段】被測定物に設けられ、初期位置において基準面と平行な延在方向に延びるように形成されたターゲット2と、センサ本体を備えかつターゲット2とセンサ本体との計測方向の距離を計測するセンサ部と、センサ部からの出力に基づいて被測定物の計測方向の変位を算出する演算部と、を有し、ターゲット2のセンサ本体に対向する計測面2aには、ターゲット2の回転による計測方向の変位誤差δを補償する補償面2cが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変位計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定物の変位を検出する計測装置が知られている。このような計測装置として、センサから被測定物に検出光を照射し、その反射光を受光して被測定物の振動を計測するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−167609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の計測装置では、回転状態で変位する被測定物の変位をセンサによって計測する際に、センサの計測方向への被測定物の変位を正確に計測することができないという課題がある。
例えば、架台等の支持構造体の台座に駆動装置等の振動発生源を固定すると、台座は振動発生源によって水平方向に加振される。すると、台座の加振方向の両端に配置され、鉛直方向下方に延びる脚部の先端部が、交互に鉛直方向上方に浮き上がるような振動が発生する。このとき、浮き上がった脚部の先端部は、反対側の接地した脚部の先端部を回転中心とする回転状態で浮上する。
【0005】
このような脚部の先端部の鉛直方向の浮き上がりの変位を計測するためには、次のような方法が考えられる。例えば、脚部の側面に水平方向に延びる板状のターゲットを取り付けて、ターゲットの計測面の鉛直方向上方にセンサを配置する。そして、変位を計測する計測方向を鉛直方向とするセンサにより、ターゲットの鉛直方向の変位を計測する。センサは、初期位置におけるターゲットまでの距離と、脚部が浮上した後のターゲットまでの距離とを計測し、これらの差を鉛直方向の浮き上がりの変位として計測する。
【0006】
しかし、脚部に固定されたターゲットは、支持構造体の加振方向の反対側の脚部の先端部を中心とする回転により浮上している。また、センサは鉛直方向を計測方向として、ターゲットの鉛直方向上方に配置されている。
そのため、脚部が浮上したときのターゲットの計測点は、初期位置におけるターゲットの計測点から、回転の半径方向に回転中心から遠ざかるようにずれてしまう。これにより、実際のターゲットの鉛直方向上方への変位よりも、計測されるターゲットの鉛直方向上方への変位の方が大きくなってしまう。
したがって、このような場合には、ターゲットの初期位置からセンサの計測方向である鉛直方向への変位を正確に計測することができず、被測定物である脚部の計測方向の変位の測定も不正確になる。
【0007】
そこで、この発明は、回転によって変位する被測定物の変位の計測において、被測定物の初期位置から計測方向への変位を正確に計測することができる変位計測装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の変位計測装置は、基準面上に回転中心を有する回転により前記基準面上の初期位置から浮上する被測定物の前記基準面に垂直な計測方向の変位を計測する変位計測装置であって、前記被測定物に設けられ、前記初期位置において前記基準面と平行な延在方向に延びるように形成されたターゲットと、センサ本体を備えかつ前記ターゲットと前記センサ本体との前記計測方向の距離を計測するセンサ部と、前記センサ部からの出力に基づいて前記被測定物の前記計測方向の変位を算出する演算部と、を有し、前記ターゲットの前記センサ本体に対向する計測面には、前記回転による前記計測方向の変位誤差を補償する形状の補償面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、被測定物が回転により基準面から浮上すると、ターゲットの計測面上のセンサ部による計測点が、回転中心から相対的に遠ざかるようにずれていく。このため、センサ部は、初期位置におけるターゲットの計測面の初期計測点よりも回転中心から遠い計測点とセンサ本体との距離を計測することになる。しかし、本発明では計測面に補償面が形成されている。そのため、被測定物の回転により計測点が初期計測点からずれた場合でも、センサ部により補償面上の計測点とセンサ本体との距離を計測することで、計測点の計測方向の変位の誤差(変位誤差)を補償することができる。これにより、初期計測点の計測方向の変位を正確に計測することができる。したがって、回転により基準面から浮上する被測定物の計測方向の変位を正確に測定することができる。
【0010】
また、本発明の変位計測装置は、前記変位誤差δと、前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点と前記回転中心とを結ぶ半径Rと、前記基準面から前記初期計測点までの高さHと、前記初期計測点から前記回転により前記計測点が前記延在方向にずれる変位Lとが、式(A)の関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
【数1】

【0012】
このように構成することで、センサ部による計測面上の計測点が、被測定物の回転により初期計測点からターゲットの延在方向に変位Lだけずれると、補償面上の計測点は変位誤差δ分だけセンサ本体から計測方向に遠ざかる。これにより、計測点とセンサ本体との計測方向の距離が、初期計測点とセンサ本体との計測方向の距離と略等しくなる。そのため、計測点が計測面上を回転中心から相対的に遠ざかるようにずれても、センサ部によってセンサ本体と補償面上の計測点との計測方向の距離を計測し、初期計測点の計測方向への変位を正確に測定することができる。したがって、補償面により、回転によるターゲットの計測方向の変位誤差δを補償することができる。
【0013】
また、本発明の変位計測装置は、前記変位誤差δと、前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点から、前記回転により前記計測点が前記ターゲットの前記延在方向にずれる変位Lとが、式(B)の関係を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数2】

【0015】
このように構成することで、センサ部による計測面上の計測点が、被測定物の回転により初期計測点からターゲットの延在方向に変位Lだけずれると、補償面上の計測点は変位誤差δ分だけセンサ本体から計測方向に遠ざかる。これにより、計測点とセンサ本体との計測方向の距離が、初期計測点とセンサ本体との計測方向の距離と略等しくなる。そのため、計測点が計測面上を回転中心から相対的に遠ざかるようにずれても、センサ部によってセンサ本体と補償面上の計測点との計測方向の距離を計測し、初期計測点の計測方向への変位を正確に測定することができる。したがって、補償面により、回転によるターゲットの計測方向の変位誤差δを補償することができる。
また、式(B)は式(A)の二次近似式であり、式(A)を用いる場合よりも補償面の形状をより簡略化し、ターゲットの製造を容易にすることができる。
【0016】
また、本発明の変位計測装置は、前記変位誤差δと、前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点から、前記回転により前記計測点が前記ターゲットの前記延在方向にずれる変位Lとが、式(C)の関係を満たすことを特徴とする。
【0017】
【数3】

【0018】
このように構成することで、センサ部による計測面上の計測点が、被測定物の回転により初期計測点からターゲットの延在方向に変位Lだけずれると、補償面上の計測点は変位誤差δ分だけセンサ本体から計測方向に遠ざかる。これにより、計測点とセンサ本体との計測方向の距離が、初期計測点とセンサ本体との計測方向の距離と略等しくなる。そのため、計測点が計測面上を回転中心から相対的に遠ざかるようにずれても、センサ部によってセンサ本体と補償面上の計測点との計測方向の距離を計測し、初期計測点の計測方向への変位を正確に測定することができる。したがって、補償面により、回転によるターゲットの計測方向の変位誤差δを補償することができる。
また、式(C)は式(A)の線形近似式であり、式(A)及び式(B)を用いる場合よりも補償面の形状をより簡略化し、ターゲットの製造を容易にすることができる。
【0019】
また、本発明の変位計測装置は、前記演算部は、前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点と前記回転中心とを結ぶ半径Rと、前記被測定物と前記回転中心とを結ぶ半径Rと、前記被測定物の前記計測方向の変位Lと、前記センサ部からの出力に基づく前記初期計測点の前記計測方向への変位Lと、が満たす式(D)の関係により、前記変位Lを算出することを特徴とする。
【0020】
【数4】

【0021】
このように構成することで、ターゲットの計測面の初期計測点の計測方向への変位から被測定物の計測方向の変位を算出することができる。
【0022】
また、本発明の変位計測装置は、前記補償面は、前記ターゲットの前記計測面を機械加工することにより形成されていることを特徴とする。
また、本発明の変位計測装置は、前記補償面は、前記ターゲットの前記計測面を塑性変形させることにより形成されていることを特徴とする。
【0023】
このように構成することで、ターゲットの計測面に所望の形状の補償面を形成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の変位計測装置によれば、回転状態で浮上する被測定物の初期位置から計測方向への浮き上がりの変位を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態における変位計測装置を示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】(a)及び(b)は、本発明の第一実施形態におけるターゲットの側面図である。
【図4】本発明の第一実施形態における支持構造体とターゲットとの位置関係を示す模式図である。
【図5】本発明の第一実施形態におけるターゲットであり、(a)は初期状態、(B)は回転状態を示す側面図である。
【図6】本発明の第一実施形態における計測誤差を縦軸、初期計測点から計測点までの変位を横軸として、計測誤差と変位との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第二実施形態における計測誤差を縦軸、初期計測点から計測点までの変位を横軸として、計測誤差と変位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各部材の関係を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
図1は、本実施形態の変位計測装置の概略構成を示す断面図である。図2は、図1の部分拡大図である。
【0027】
図1に示す変位計測装置1は、基準面BL上の初期位置に配置された支持構造体Sの脚部S1の、基準面BLに垂直な計測方向への変位を計測する装置である。変位計測装置1は、主に、支持構造体Sに設けられたターゲット2と、ターゲット2とセンサ本体3との距離を計測するセンサ部4と、センサ部4から出力された信号から支持構造体Sの脚部S1変位を算出する演算部5(図2参照)と、により構成されている。
【0028】
支持構造体Sには基準面BLと略平行に台座部S2が設けられている。台座部S2上には、例えば駆動装置等の振動発生源(図示省略)が配置されている。台座部S2の両側には、台座部S2を支持する脚部S1,S3が基準面と略垂直に設けられている。支持構造体Sの脚部S1には、センサ部4の測定対象物である板状のターゲット2が固定されている。ターゲット2は、変位計測装置1の被測定物である脚部S1の側面に固定されている。また、ターゲット2は、支持構造体Sが基準面BL上の初期位置に静止状態で配置された初期状態において、基準面BLと略平行な延在方向に、支持構造体Sの外側に向けて延びるように形成されている。
【0029】
支持構造体Sの外側には、脚部S1に隣接してセンサ部4が設けられている。
図2に示すように、センサ部4はセンサ本体3を備え、センサ本体3には演算部5が接続されている。センサ本体3としては、例えば光学式変位センサや渦電流センサ等、センサ本体3とターゲット2との距離を計測して、電気的な信号として演算部5に出力可能なものが用いられる。センサ本体3は、支持部材6によりターゲット2の計測面2aに対向する位置に固定されている。
【0030】
支持構造体Sの初期状態において、センサ本体3は、ターゲット2の計測面2aの初期計測点P0から基準面BLに略垂直な方向に離間した位置に配置されている。本実施形態では、この基準面BLに垂直な方向がセンサ部4の計測方向となっている。ここで、支持構造体Sのセンサ本体3と計測面2aとの距離は、脚部S1の浮き上がりの変位Lとセンサ本体3の測定範囲を考慮して決定する。
演算部5は、CPU等のICチップやメモリ等(図示省略)を備えている。演算部5のメモリには、センサ部4が出力した信号に基づくターゲット2の計測面2aの変位Lから、脚部S1の変位Lを算出可能な計算式等が記憶されている。
【0031】
図3(a)及び図3(b)は、ターゲット2の計測面2aの形状を示す側面図である。
図3(a)に示すように、本実施形態のターゲット2は、初期状態で基準面BLに略平行な延在方向に延びるように形成されている。ターゲット2は、例えば金属や樹脂等の材料をマシニングセンター等により機械加工することにより形成されている。
ターゲット2は、図3(b)に示すように、金属板等を塑性変形させることにより形成してもよい。また、ターゲット2は、ターゲット2の形状に対応する形状の型に材料を流し込んで形成してもよい。
【0032】
図3(a)に示すように、ターゲット2の計測面2aは、初期状態において基準面BLと略平行に設けられた平坦面2bを備えている。平坦面2bは、支持構造体Sの脚部S1の側面の固定部からセンサ部4による初期計測点P0まで形成されている。計測面2aの初期計測点P0から支持構造体Sの外側方向には、センサ本体3から計測方向に遠ざかるように傾斜する補償面2cが形成されている。
【0033】
図4は、支持構造体Sとターゲット2との位置関係を示す模式図である。図4に示す模式図では、説明を分かりやすくするため、補償面2cの図示を省略してターゲット2の平坦面2bを補償面2cの形成領域まで延長して表している。実際には、ターゲット2の計測面2aの初期計測点P0よりも支持構造体Sの外側方向に、図3に示すような補償面2cが形成されている。
【0034】
ここで、支持構造体Sは、図1に示すように、台座部S2が矢印F方向に加振されると、一方の脚部S1が基準面から回転状態で浮き上がる。このときの支持構造体Sの回転中心RCは浮き上がった脚部S1の反対側の脚部S3の先端部となる。このとき、図4に示すように、初期状態におけるターゲット2の計測面2a上の初期計測点P0は、支持構造体Sの回転によって、脚部S3の先端部(回転中心RC)を中心とする円弧CAに沿って変位する。そのため、初期計測点P0は、基準面BLに垂直な計測方向にセンサ本体3に近づくように変位すると共に、基準面BLに平行な方向に回転中心RCに近づくように変位する。
【0035】
センサ本体3は、初期状態においてターゲット2の初期計測点P0との距離を計測した位置に固定されている。そのため、ターゲット2の計測面2a上の計測点P1は、支持構造体Sの回転により、ターゲット2の初期計測点P0から見て回転中心RCから遠ざかる方向に相対的に移動する。そのため、ターゲット2の平坦面2bが初期計測点P0よりも支持構造体Sの外側に延長して形成されていた場合には、初期状態における初期計測点P0から計測方向への計測点P1の変位Lは、初期計測点P0の計測方向への変位Lよりも大きくなる。したがって、計測面2a上の初期計測点P0と実際の計測点P1との間には計測方向の変位誤差δが発生する。ここで、変位誤差δは、下記の式(A)の関係を満たしている。
【0036】
【数5】

【0037】
式(A)において、変位Lは、支持構造体Sの回転により計測点P1が初期計測点P0からターゲット2の延在方向へずれる変位である。半径Rは、センサ部4によるターゲット2の初期計測点P0と支持構造体Sの回転中心RCとを結ぶ半径である。高さHは、初期状態におけるターゲット2の初期計測点P0の基準面BLからの高さである。
【0038】
変位誤差δは、以下の手順により求めることができる。
図4に示すように、初期状態において半径Rと基準面BLとがなす鋭角を角度θとし、支持構造体Sの回転角度を角度θとする。また、支持構造体Sが角度θ回転したときの、初期計測点P0と計測点P1との基準面BLに平行な方向の距離を距離aとする。
このとき、下記の式(1)、式(2)及び式(3)の関係が成立する。
【0039】
【数6】

【数7】

【数8】

【0040】
式(1)〜式(3)から角度θ、角度θを消去すると、以下の式(4)の関係が得られる。
【0041】
【数9】

【0042】
また、式(1)及び式(2)から、計測誤差δ、変位L及び変位aは、以下の式(5)の関係を満たす。
【0043】
【数10】

【0044】
式(4)を式(5)に代入することで、計測誤差δ、変位L、半径R及び高さHが満たす上記の式(A)の関係が得られる。
【0045】
本実施形態では、図3に示すように、ターゲット2の計測面2aに、計測誤差δを補償する補償面2cが形成されている。すなわち、図4に示すように支持構造体Sが角度θ回転すると、図5(a)に示すように初期状態で基準面BLと略平行だったターゲット2の平坦面2b(ターゲット2の延在方向)が、図5(b)に示すように基準面BLに対して角度θだけ傾く。また、センサ部4による計測面2a上の計測点P1が、初期計測点P0から支持構造体Sの外側方向に、ターゲット2の延在方向と平行に変位Lだけ移動する。このとき、補償面2cは、平坦面2bから平行に伸ばした補助線と、センサ本体3と計測点P1とを結ぶ線と、の交点Xよりも、変位誤差δ分だけ、センサ本体3から遠ざかるように形成されている。
【0046】
すなわち、補償面2cは、平坦面2bの法線方向については、図3(a)及び図5(b)に示すように、計測面2a上の初期計測点P0から平坦面2b(ターゲット2の延在方向)と平行に変位Lだけ変位したときに、補償変位δ´だけセンサ本体3から遠ざかるように形成されている。
ここで、補償変位δ´と、計測誤差δと、角度θとは、下記の式(E)の関係を満たしている。
【0047】
δ´=δ/cosθ ・・・(E)
【0048】
また、式(E)と、式(2)及び式(4)から下記の式(A´)の関係が得られる。
【0049】
【数11】

【0050】
したがって、図3(a)に示すように、ターゲット2の計測面2aの補償面2cを機械加工により形成する際には、次のように形成することができる。例えばマシニングセンター等により、式(A´)に基づいて、初期計測点P0から平坦面2bに平行に変位Lだけ変位したときに、平坦面2bと垂直な方向に補償変位δ´だけ変位するように加工する。
また、図3(b)に示すように、板状のターゲット2を塑性変形させて計測面2aの補償面2cを形成する場合には、例えば式(A´)に基づいて型を製作して、板材をプレス加工することにより形成することができる。
また、補償面2cに対応する形状の型を形成し、型に材料を流し込んで補償面2cを有するターゲット2を形成してもよい。
【0051】
一方、図2に示す演算部5のメモリには、支持構造体Sの脚部S1の浮き上がり変位Lと、図4に示す回転中心RCと初期計測点P0とを結ぶ半径Rと、回転中心RCと脚部S1の先端部S1Bとを結ぶ回転半径である半径Rと、センサ部4によって計測したターゲット2の初期計測点P0の計測方向への浮き上がりの変位Lとが満たす下記の式(D)の関係が保存されている。
【0052】
【数12】

【0053】
式(D)の関係は、以下の手順により求めることができる。
図4に示すように、脚部S1の計測方向の変位Lと、脚部S1の先端部S1Bの回転の半径Rと、支持構造体Sの回転の角度θとは、下記の式(6)の関係を満たす。
【0054】
【数13】

【0055】
また、初期計測点P0の計測方向の変位Lと、初期計測点P0の回転の半径Rと、初期計測点P0の高さHと、初期状態での半径Rの角度θ及び支持構造体Sの回転の角度θは、下記の式(7)の関係を満たす。
【0056】
【数14】

【0057】
ここで、角度θは、初期状態においてターゲット2の初期計測点P0と支持構造体Sの回転中心RCとを結ぶ直線が基準面BLとなす鋭角であるので、角度θと、半径Rと、高さHとは、下記の式(8)の関係を満たす。
【0058】
【数15】

【0059】
式(8)と式(7)により、変位L、半径R、高さH、角度θは、下記の式(9)の関係を満たす。
【0060】
【数16】

【0061】
ここで、支持構造体Sの回転の角度θが十分に小さい範囲であれば、下記の近似式(10)の関係が成立する。
【0062】
【数17】

【0063】
近似式(10)を式(9)に適用し、式(6)に代入することで、上記の式(D)の関係を導くことができる。
【0064】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図1に示す支持構造体Sの台座部S2上に配置された振動発生源に振動が発生すると、台座部S2は矢印Fの方向に加振される。台座部S2が加振されると、加振方向に配置された一方の脚部S1の先端部S1Bが、基準面BL上の他方の脚部S3の先端部を回転中心RCとする回転により、基準面BLから浮き上がる。
【0065】
このとき、図4に示すように、ターゲット2のセンサ部4による計測点P1は、支持構造体Sの回転によって、計測面2a上を初期計測点P0からみて支持構造体Sの外側方向(回転中心RCから遠ざかる方向)に平坦面2bと平行に変位Lだけ相対的に変位する。また、支持構造体Sが角度θ回転すると、図5(b)に示すように、ターゲットの計測面2の平坦面2b(ターゲット2の延在方向)が基準面BLに対して角度θだけ傾いた状態となる。
【0066】
ここで、図6は、横軸を変位L、縦軸を変位誤差δとし、変位Lと変位誤差δとの関係を示すグラフである。例えば、半径Rが500mm、高さHが20mm、角度θが7.5度である場合には、図6に示すように、変位Lが最大で約7mm程度となる。このとき、図4に示すように、ターゲット2の計測面2aに補償面2cが形成されず、平坦面2bのみで形成されていた場合には、初期計測点P0の変位Lと計測点P1の変位Lとの間に約4.5mmの変位誤差δが生じる。この際の初期計測点P0の浮き上がりの変位Lは、約65.3mmであり、約6.9%の計測誤差δが生じてしまう。
【0067】
ここで、本実施形態では、図3(a)、図3(b)に示すように、ターゲット2の計測面2aの初期計測点P0から支持構造体Sの外側方向に、ターゲット2の回転による計測方向の変位誤差δを補償する補償面2cが形成されている。
すなわち、図5(b)に示すように、ターゲット2の計測面2aに、補償面2cが、計測点P1が初期計測点P0から平坦面2b(ターゲット2の延在方向)と平行に変位Lだけ変位したときに、平坦面2bと垂直な方向に補償変位δ´だけセンサ本体3から遠ざかるように形成されている。そのため、補償面2cは、初期計測点P0からみて基準面BLと平行に変位aだけ変位した計測点P1において、センサ部4の計測方向に、変位誤差δだけセンサ本体3から遠ざかる。これにより、支持構造体Sが角度θ回転したときに、初期計測点P0の基準面BLからの高さHと、計測点P1の基準面BLからの高さH´を略等しくすることができる。
【0068】
すなわち、支持構造体Sが角度θ回転したときに、センサ本体3と計測点P1との計測方向の距離が、センサ本体3と初期計測点P0との計測方向の距離と略等しくなる。そのため、計測面2a上の計測点P0が、支持構造体Sの回転によって回転中心RCから相対的に遠ざかるように移動しても、補償面2cにより、ターゲット2の計測方向の変位誤差δを補償することができる。したがって、センサ部4によってセンサ本体3と補償面2c上の計測点P1との距離を計測することで、初期計測点P0の計測方向への変位Lを正確に計測することができる。これにより、変位Lの計測誤差を0%に近い値とすることができる。
【0069】
センサ部4によって計測されたターゲット2の計測面2aとセンサ本体3との距離は、図2に示す演算部5に電気的な信号として出力される。そして、演算部5のCPUは、センサ部4からの出力に基づく初期計測点P0の計測方向への変位Lと、メモリに保存された上記の式(D)の関係とを用いて、支持構造体Sの脚部S1の先端部S1Bの浮き上がりの変位Lを算出する。このとき、変位Lが変位誤差δを含まない正確な変位であるため、脚部S1の先端部S1Bの基準面BLに垂直な計測方向の変位を正確に算出することができる。
【0070】
なお、角度θが約7.5度である場合には、近似式(10)による誤差は、補償面2cを形成しない場合の約0.3%である。したがって、近似式(10)を用いたとしても、十分に正確な変位Lを算出することができる。
【0071】
また、ターゲット2の計測面2aの補償面2cを機械加工により形成したり、板状のターゲット2を塑性変形させたり、あるいは材料を型に流し込んでターゲット2を形成することで、ターゲット2の計測面2aに所望の形状の補償面2cを形成することができる。
特に、マシニングセンター等を用いて機械加工することで、より精密な形状の補償面2cを形成することができる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の変位計測装置1によれば、基準面BL上に回転中心RCを有する回転によって浮上する支持構造体Sの脚部S1の変位Lの計測において、計測方向の変位誤差δを補償し、脚部S1の先端部S1Bの初期位置から基準面BLに垂直な計測方向への変位Lを正確に計測することができる。
【0073】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図1〜図5を援用し、図7を用いて説明する。本実施形態では補償面2cの形状が上述の第一実施形態で説明した変位計測装置1と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0074】
本実施形態では、第一実施形態で説明した式(A)に既知のパラメータである半径Rと高さHの数値を代入して二次近似することで、下記の式(B)を満たす変位誤差δを求める。
【0075】
【数18】

【0076】
あるいは、式(A)に既知のパラメータである半径Rと高さHの数値を代入して線形近似することで、下記の式(C)を満たす変位誤差δを求める。
【0077】
【数19】

【0078】
そして、第一実施形態度と同様に補償変位δ´を求める。次いで、補償面2cの形状を、図3(a)または図3(b)に示すように、初期計測点P0から平坦面2bに平行に変位Lだけ変位したときに、平坦面2bと垂直な方向に補償変位δ´だけ変位するように形成する。
【0079】
図7は、横軸を変位L、縦軸を変位誤差δとし、変位Lと変位誤差δとの関係を示すグラフである。図中、実線は二次近似による変位誤差δと変位Lとの関係を表し、破線は線形近似による変位誤差δと変位Lとの関係を表している。
第一実施形態と同様に、例えば、半径Rが500mm、高さHが20mm、角度θが7.5度である場合には、上記の式(B)及び式(C)は、それぞれ下記の式(B´)及び式(C´)で表される。
【0080】
δ=−0.007792・L+0.7052・L−0.002057 …(B´)
δ=0.6557・L+0.04296 …(C´)
【0081】
すなわち、本実施形態では、支持構造体Sが角度θ回転したときに、ターゲット2の計測面2aのセンサ部4による計測点P1が、式(B´)及び式(C´)を満たす変位誤差δだけ、センサ本体3から遠ざかるように、補償面2cが形成されている。
したがって、本実施形態で発生する計測方向の計測誤差は、図6に示す変位Lにおける第一実施形態の変位誤差δと、図7に変位Lにおける本実施形態の変位誤差δとの差分である。
【0082】
したがって、図6及び図7から、二次近似の場合における計測誤差の最大値は、約0.08mmとなる。また、線形近似の場合における計測誤差の最大値は、約0.0004mmとなる。
すなわち、ターゲット2の計測面2aに補償面2cを形成せず、平坦面2bのみで形成した場合に、約4.5mmの計測誤差が発生するのに対し、式(B)の二次近似による変位誤差δを補償するように補償面2cを形成することで、第一実施形態と同様に、計測誤差を0%に近づけることができる。また、式(C)の線形近似による変位誤差δを補償するように補償面2cを形成することで、計測誤差を約45分の1の約0.1mm以下に低減することができる。
【0083】
また、式(B)または式(C)の近似式を用いることで、第一実施形態と比較して補償面2cの形状を簡略化し、ターゲット2の製造を容易にすることができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態によれば、第一実施形態と同様に、回転状態で浮上する脚部S1の初期位置から計測方向への浮き上がりの変位Lを正確に計測することができる。加えて、ターゲット2の製造を容易にすることができる。
【0085】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施形態では、センサ部を構造体の外側に配置したが、センサ部は構造体の内側に配置してもよい。この場合には、脚部の内側の側面から構造体の内側に向けてターゲットを延在させ、ターゲットの計測面に上述の実施形態と同様の補償面を形成すればよい。
また、ターゲットの計測面の初期計測点の基準面からの高さは0であってもよい。この場合には、式(A)から高さHを消去することができる。
また、本発明の変位計測装置の被測定物は上述の支持構造体の脚部に限られず、回転状態で移動する様々な被測定物に適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1 変位計測装置、2 ターゲット、2a 計測面、2c 補償面、3 センサ本体、4 センサ部、5 演算部、BL 基準面、H 高さ、L,L,L 変位、P0 初期計測点、P1 計測点、R,R 半径、RC 回転中心、S1 脚部(被測定物)、δ 変位誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面上に回転中心を有する回転により前記基準面上の初期位置から浮上する被測定物の前記基準面に垂直な計測方向の変位を計測する変位計測装置であって、
前記被測定物に設けられ、前記初期位置において前記基準面と平行な延在方向に延びるように形成されたターゲットと、
センサ本体を備えかつ前記ターゲットと前記センサ本体との前記計測方向の距離を計測するセンサ部と、
前記センサ部からの出力に基づいて前記被測定物の前記計測方向の変位を算出する演算部と、を有し、
前記ターゲットの前記センサ本体に対向する計測面には、前記回転による前記計測方向の変位誤差を補償する形状の補償面が形成されていることを特徴とする変位計測装置。
【請求項2】
前記変位誤差δと、
前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点と前記回転中心とを結ぶ半径Rと、
前記基準面から前記初期計測点までの高さHと、
前記初期計測点から前記回転により前記計測点が前記延在方向にずれる変位Lとが、
式(A)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の変位計測装置。
【数1】

【請求項3】
前記変位誤差δと、
前記被測定物の前記初期位置における前記計測面上の前記センサ部による計測点である初期計測点から、前記回転により前記計測点が前記ターゲットの前記延在方向にずれる変位Lとが、
式(B)または式(C)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の変位計測装置。
【数2】

【数3】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−210398(P2010−210398A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56591(P2009−56591)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】