説明

変位電流バイパス法による損失電流測定方法およびその損失電流測定回路

【課題】測定対象物の試料が大サイズであっても、ノイズの影響を受けることなく、高感度、高精度に損失電流を測定することが可能な変位電流バイパス法による損失電流測定回路およびその損失電流測定方法を提供する。
【解決手段】損失電流測定回路10は、光ファイバ11で接続された信号検出部20と変位電流バイパス部30からなり、2チャンネル信号発信器3からの電圧V1が課電される課電トランス2から試料1に流れる電流を信号検出部20で検出し、変位電流バイパス部30で検出信号から変位電流成分をキャンセルした損失電流をモニタ4へ出力する。信号検出部20は、試料1に直列接続の検出抵抗21、増幅器23及びE/O変換器24を有する。変位電流バイパス部30は、入力光を電気信号にするO/E変換器31、その出力端に接続された抵抗32、負極性余弦波による電圧V2の抵抗32への出力量を調整するバイパス抵抗33を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルの水トリー(water tree)劣化診断方法に適用できる損失電流測定方法およびその損失電流測定回路に関し、特に、架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(以下、CVケーブルという)の絶縁体中を流れる損失電流成分を高精度に測定できる変位電流バイパス法による損失電流測定方法およびその損失電流測定回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な電力ケーブルであるCVケーブルの主な劣化形態は、水トリー劣化である。この水トリー劣化は、CVケーブル絶縁体中に存在する水分と電界の作用により発生する絶縁体中の変質であり、この変質が時間の経過と共に増大することにより、CVケーブルの絶縁性能を低下させて絶縁破壊に至る場合がある。この水トリー劣化を診断するための劣化診断技術が検討されている。
【0003】
例えば、高電圧を発生する変圧器と試料(測定対象)のCVケーブルの間に変流器を接続し、更に標準コンデンサを変流器の変圧器側に接続し、変圧器からCVケーブルに高電圧の交流電圧を印加して、標準コンデンサに流れる電流と、CVケーブルに接続された変流器により検出されたケーブル絶縁体中を流れる電流とを、損失電流測定ブリッジに入力して検出電流中の変位電流成分(変位電流成分)を除去して損失電流成分のみを抽出し、更に、その損失電流中に含まれる第3高調波成分に基づいてCVケーブルの劣化を診断する劣化診断方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された従来の損失電流測定方法では、高電圧側に設けた変流器はリアクトルを応用しているため、CVケーブル等の試料の静電容量やその他の浮遊容量との組み合わせにより、CVケーブル、変流器を含む検出回路が共振現象を起こし、検出信号の周波数特性が変化して波形歪みを生じる。このため劣化信号の波形解析に誤差が生じる。更に、静電容量がCVケーブルの試料毎に変化、すなわち試料毎に共振周波数が変化するため、測定条件が試料毎に変わるという問題もある。
【0005】
このCVケーブル等の試料の静電容量やその他の浮遊容量に左右されない従来の劣化診断方法として、例えば、任意波形発生装置を用い、試料に流れる電流信号と、任意波形発生装置で作った変位電流と逆位相の信号を加算(合成)処理して試料に流れる電流から変位電流成分を打消すことにより、損失電流を検出する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
図6は、非特許文献1に記載された損失電流測定装置を示す。損失電流測定回路100は、非特許文献1の図2に示される原理に基づいて構成したものであり、この損失電流測定回路100と、二次巻線2bにCVケーブル等の試料1を接続し高電圧を発生する課電トランス2と、正弦波の交流電圧V1及び負極性余弦波の交流電圧V2を発生する2チャンネル信号発信器3と、損失電流測定回路100からの信号を観測及び処理するモニタ4との組み合わせにより、損失電流測定装置を構成している。
【0007】
損失電流測定回路100は、試料1の遮蔽層等の外側導電部に接続される入力部101と、入力部101に入力端が接続された増幅器102と、入力部101と接地間に接続された検出抵抗103と、入力部101と2チャンネル信号発信器3の交流電圧V2の出力端の間に接続されたバイパス抵抗104とを備える。
【0008】
図6において、2チャンネル信号発信器3は、交流電圧V1を課電トランス2の一次巻線2aに印加するとともに、交流電圧V2を損失電流測定回路100のバイパス抵抗104と抵抗103を介してアース間に印加する。
【0009】
交流電圧V1が課電トランス2の一次巻線2aに印加されると、その巻線比に応じた高電圧が二次巻線2bに発生し、その電圧は試料1の芯線に印加される。この電圧の印加にともない、二次巻線2b〜試料1〜検出抵抗103〜二次巻線2bの通電ループ5が形成され、試料1の水トリー劣化の度合いに応じて試料1の絶縁体部分を通して外側導電部に流れる電流iにより、検出抵抗103に電圧降下が生じる。一方、2チャンネル信号発信器3からの交流電圧V2は、バイパス抵抗104を介して検出抵抗103に印加される。
【0010】
試料1からの電流により検出抵抗103に生じた電圧と交流電圧V2とは、増幅器102の入力端において加算され、これにより試料1に流れる電流に対して変位電流成分が打ち消される。加算結果に対して増幅器102による増幅が行われ、その増幅出力がモニタ4により観測される。
【特許文献1】特開2004−354093号公報
【非特許文献1】平成17年電気学会全国大会2−S10(17〜20頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記非特許文献1に記載された従来の損失電流測定装置は、小サイズの試料に適用した場合には通電ループ5のループが小さいので、信号減衰や外部侵入ノイズの影響を受けることなく損失電流を高感度に測定することができる。しかし、実線路に布設されたCVケーブル試料に適用すると、損失電流測定回路の増幅器と課電圧の印加点との距離が離れるため、通電ループ5が大きくなり、信号減衰や外部侵入ノイズの影響を受けやすくなり、損失電流を高感度で測定することが期待できない。また、増幅器と課電圧の印加点を近接させるためには、厳重な安全対策が必要になるため、実用性に乏しい。
【0012】
従って、本発明の目的は、CVケーブル試料が大サイズであっても、信号減衰や外部侵入ノイズの影響を受けることなく、高感度、高精度に損失電流を測定することが可能な変位電流バイパス法による損失電流測定方法およびその損失電流測定回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、測定時に課電される測定対象物に検出抵抗を直列接続し、前記検出抵抗に流れる電流によって前記検出抵抗の両端に生じた電圧を増幅して検出信号として出力し、前記検出信号から変位電流成分を除去する信号をバイパス抵抗に印加して前記バイパス抵抗に流れた変位電流成分の除去信号を前記検出信号に重畳して損失電流を生成することを特徴とする変位電流バイパス法による損失電流測定方法を提供する。
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、測定時に課電される測定対象物に直列接続される検出抵抗と、前記検出抵抗に流れる電流によって前記検出抵抗の両端に生じた電圧を増幅して検出信号として出力する増幅部とを有する信号検出部と、
前記信号検出部からの前記検出信号から変位電流成分を除去する信号が印加されるバイパス抵抗を有し、前記バイパス抵抗に流れた変位電流成分の除去信号を前記検出信号に重畳して損失電流を生成する変位電流バイパス部とを備えたことを特徴とする変位電流バイパス法による損失電流測定回路を提供する。
【0015】
本発明の損失電流測定回路および損失電流測定方法によれば、測定対象物の形状にかかわらず信号検出部を測定対象物の近傍に設置することが可能になり、測定対象物と信号検出部の間の距離を短くできることにより信号減衰や外部ノイズの侵入が防止され、損失電流を高感度、高精度に測定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、測定対象物が大サイズであっても、信号減衰や外部ノイズの影響を受けることなく、高感度、高精度に損失電流を測定することが可能な変位電流バイパス法による損失電流測定回路およびその損失電流測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(変位電流バイパス法による損失電流測定装置の構成)
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る損失電流測定装置を示す。この損失電流測定装置は、二次巻線2bにCVケーブル等の試料1を接続し高電圧を発生する課電トランス2と、正弦波の交流電圧V1及び負極性余弦波の交流電圧V2を発生する2チャンネル信号発信器3と、損失電流を測定する損失電流測定回路10と、損失電流測定回路10からの信号を観測及び処理するモニタ4とを備える。
【0018】
損失電流測定回路10は、CVケーブルによる試料1及び課電トランス2に接続された信号検出部20と、信号検出部20及び2チャンネル信号発信器3に入力部が接続され、出力端にモニタ4が接続された変位電流バイパス部30とを備えて構成されている。信号検出部20の出力端と変位電流バイパス部30の入力端とは、光伝送媒体である光ファイバ11によって接続されている。
【0019】
2チャンネル信号発信器3は、正弦波による交流電圧V1をチャンネル1として出力し、負極性余弦波(−cosθ)による交流電圧V2をチャンネル2として出力する構成を有する。
【0020】
モニタ4は、観測波形を画面に表示するディスプレイのほか、入力信号をFFT(高速フーリエ変換)により処理する回路を備えている。
【0021】
(信号検出部の構成)
信号検出部20は、課電トランス2の二次巻線2bの高電位側に接続された高電位端Hと試料1の芯線に接続された低電位端Lの間に直列接続された検出抵抗21と、この検出抵抗21に並列接続されたアレスタ22と、高電位端H及び低電位端Lに一対の入力端が接続された増幅部としての増幅器23と、増幅器23の出力端に接続されたE/O変換器24と、増幅器23及びE/O変換器24の電子回路部に電源を供給するDC電源部25とを備える。
【0022】
検出抵抗21は、試料1に流れる電流iによって所定の電圧降下が得られる抵抗値に設定される。
【0023】
アレスタ22は、必要に応じて挿入する回路保護用素子である。アレスタ22は、非線形特性を有し、試料1の絶縁破壊等により検出抵抗21の両端に過大電圧(サージ)が発生したとき、検出抵抗21の両端の電圧が規定値内に納まるように抑制する。アレスタ22の動作開始電圧は、試料に流れる変位電流によって波形歪みが生じないように、検出抵抗21の両端に現れる検出電圧よりも十分に高く(例えば、2倍以上)、かつ、増幅器23の耐サージ電圧よりも低い値にする。
【0024】
増幅器23は、検出抵抗21の両端に生じた電圧を入力信号とし、この入力信号を所定のレベルに増幅して検出信号として出力する構成を有する。
【0025】
E/O変換器24は、増幅器23の出力信号(検出信号)を電気信号から光信号に変換し、この光信号を光ファイバ11へ出力する回路構成を有する。
【0026】
DC電源部25には、電源のための配線が不要で、移動性に優れ、外来ノイズの影響を受けないバッテリーが適している。
【0027】
(変位電流バイパス部の構成)
変位電流バイパス部30は、E/O変換器24からの光信号を電気信号に変換するO/E変換器31と、O/E変換器31の出力端と接地間に接続された抵抗32と、2チャンネル信号発信器3の交流電圧V2の出力端とO/E変換器31の出力端との間に接続された変位電流成分を除去する信号が印加されるバイパス抵抗33とを備える。
【0028】
O/E変換器31の出力信号は、抵抗32の両端に発生する。このうち、2チャンネル信号発信器3の出力信号をバイパス抵抗33と抵抗32の分圧比できまる信号が抵抗32に重畳される。このため、O/E変換器31の出力信号中の変位電流信号と同じ大きさにV2交流電圧を分圧すれば、変位電流の影響はなくなり、損失電流のみが検出される。
【0029】
(変位電流バイパス法による損失電流測定方法)
(第1の実施の形態の動作)
次に、図1の損失電流測定装置の動作について説明する。図1において、2チャンネル信号発信器3から課電トランス2の一次巻線2aに高電圧の交流電圧V1が印加されると、これにより二次巻線2bに発生した交流電圧は、信号検出部20の高電位端Hと接地間に印加される。この印加電圧により、電流iが、二次巻線2b〜検出抵抗21〜試料1の芯線〜試料1の遮蔽層等の外側導電部〜二次巻線2bを経由する通電ループ5で流れ、検出抵抗21に電圧降下が生じる。検出抵抗21の両端に生じた電圧は、増幅器23によって増幅され検出信号として出力された後、その増幅出力(検出信号)がE/O変換器24によって光信号に変換され、光ファイバ11へ出力される。
【0030】
変位電流バイパス部30では、信号検出部20からの光信号を光ファイバ11を介してO/E変換器31で受信して電気信号に変換し、これを検出信号Sdとして抵抗32に印加する。同時に、変位電流バイパス部30は、バイパス抵抗33を介して2チャンネル信号発信器3からの交流電圧V2を取り込み、抵抗32に印加する。
【0031】
課電電圧(V1)の波形を正弦波にした場合、変位電流は、理論的に余弦波(cosθ)であることが知られている。そこで、交流電圧V1の正弦波形に対して、負極性余弦波(−cosθ)による変位電流成分を除去する信号の交流電圧V2をバイパス抵抗33で出力調整し、このバイパス抵抗33に流れた変位電流成分の除去信号の電圧を試料1からの検出信号Sdに重畳することにより変位電流成分がキャンセルされ、損失電流のみが生成・検出される。この損失電流の信号は、モニタ4へ出力される。なお、バイパス抵抗33による出力調整は、変位電流バイパス部30の出力をモニタ4で観測しながら、変位電流波形のピーク位相(正弦波のゼロクロス位置)が0になるようにする。
【0032】
図2は、図1のモニタ4で観測された出力信号波形を示す。ここでは、課電電圧を1〜8kV/mmまで、1kVづつ上昇させて8点の測定を行って、1、2、3、4、5、6,7、8kV/mmのそれぞれに対応する波形41〜48を得た。図2から明らかなように、課電電圧を上昇させるにつれて損失電流が変化し、かつ波形歪が大きくなる傾向がわかる。
【0033】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態によれば、次の効果を奏する。
(イ)増幅器23を備える信号検出部20を課電トランス2及びCVケーブルの試料1の近くに設置できるため、試料1の直近での信号検出及び増幅が可能になる。この結果、課電トランス2〜検出抵抗21〜試料1〜接地〜課電トランス2の経路による通電ループ5が小さくなるため、外部ノイズの侵入を抑制することができる。外部ノイズは、通電ループ5の大きさ(インダクタンス)が大きいほど顕著になるが、本実施の形態は、従来に比べて通電ループ5が小さいため、外部ノイズの低減効果が高くなる。このため、ノイズ環境の悪い場所で測定を行っても信号検出を高感度に行うことができる。
(ロ)検出抵抗21による検出信号を試料1の近傍で増幅器23により増幅するため、その後の信号伝送の減衰による検出感度の低下を避けることができる。
(ハ)検出抵抗21により検出信号を検出するため、LとCによる共振現象による検出信号の歪みが生じないため、検出信号の周波数特性の変化を防止することができる。
(ニ)損失電流測定回路10を信号検出部20と変位電流バイパス部30の2つに物理的に分け、これらの間を電気的に絶縁して光伝送したことにより、従来の損失電流測定回路100に比べ、試料1の高電位端H側からの信号検出を容易かつ簡単に行うことができる。
(ホ)変位電流バイパス部30をモニタ4の近傍に設置できるため、モニタ4を使用しながらバイパス抵抗33の調整が行えるので、測定を効率的に進めることができる。
【0034】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る損失電流測定装置を示す。本実施の形態は、第1の実施の形態において、試料1と信号検出部20の配置を入れ換えて試料1の低電位側から信号を検出するとともに、信号検出部20と変位電流バイパス部30との接続をケーブル等による接続線13で接続したものであり、その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0035】
信号検出部20と変位電流バイパス部30を接続線13で接続した構成にともない、信号検出部20においては、第1の実施の形態からE/O変換器24及びDC電源部25aを用いず、変位電流バイパス部30においては、第1の実施の形態からO/E変換器31を用いない構成である。
【0036】
(第2の実施の形態の動作)
本実施の形態においては、2チャンネル信号発信器3から交流電圧V1が課電トランス2に印加されると、二次巻線2b〜試料1〜検出抵抗21〜二次巻線2bによる通電ループ5により電流iが流れ、検出抵抗21に電圧降下が生じる。検出抵抗21の両端に生じた電圧は、増幅器23によって増幅され検出信号として出力された後、その検出信号が接続線13を介して変位電流バイパス部30へ伝送される。
【0037】
変位電流バイパス部30では、信号検出部20からの検出信号を抵抗32に印加すると同時に、バイパス抵抗33を介して2チャンネル信号発信器3からの変位電流成分を除去する信号の交流電圧V2を取り込み、抵抗32に印加する。このとき、バイパス抵抗33の抵抗値、及び2チャンネル信号発信器3の交流電圧V2の出力を調整して、抵抗32に印加する交流電圧V2を調整し、このバイパス抵抗32に流れた変位電流成分の除去信号の電圧を試料1からの検出信号Sdに重畳することにより変位電流成分をキャンセルした損失電流のみを生成・検出する。この損失電流の信号は、モニタ4へ出力される。
【0038】
(第2の実施の形態の効果)
図4は、第2の実施の形態と図6に示した従来の損失電流測定装置との損失電
流の検出特性を示す。同図中、特性51は第2の実施の形態による課電電圧−損失電流特性、特性52は図6に示した従来の損失電流測定装置による課電電圧−損失電流特性である。
【0039】
図4を参照すると、第2の実施の形態による特性51では、損失電流は課電電圧の上昇に比例して増加する。これに対し、従来の特性52では、2μA(3.5kV課電)以下における電流値の電圧依存性が見られない。これは、従来の損失電流測定回路100の検出感度が悪く、外部ノイズレベルが高いためである。
【0040】
図4から明らかなように、図6の従来の損失電流測定装置と同様に試料1の低電位側から信号検出を行う構成にしながら、高感度に損失電流を測定することができる。これは、検出抵抗21及び増幅器23を試料1の近傍に設置できることにより、通電ループ5を小さくできるためである。その他の効果は、第1の実施の形態の(ロ)(ハ)及び(ホ)と同様である。
【0041】
[第3の実施の形態]
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る損失電流測定装置を示す。本実施の形態は、2チャンネル信号発信器3を用いない構成にしたものである。そのために、課電トランス2は三次巻線2cを有する構成とし、さらに三次巻線2cとバイパス抵抗33の間に積分器12を接続した構成にしたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0042】
積分器12は、課電トランス2への課電時に、三次巻線2cから出力される課電電圧位相情報を積分し、その積分結果をバイパス抵抗33に注入する構成を有している。
【0043】
(第3の実施の形態の動作)
図5の構成において、課電電圧は、図示しない任意の課電手段によって、課電トランス2の一次巻線2aに印加される。二次巻線2bに生じた交流の高電圧は、高電位端Hと試料1の低電位側との間に印加され、二次巻線2b〜検出抵抗21〜試料1の芯線〜試料1の遮蔽層等の外側導電部〜二次巻線2bを経由する通電ループ5により電流iが流れることにより、検出抵抗21に電圧降下が生じる。この検出抵抗21の両端に生じた電圧は、増幅器23で増幅されて検出信号として出力され、その検出信号がさらにE/O変換器24で光信号に変換されて変位電流バイパス部30に伝送される。
【0044】
同時に、課電トランス2の三次巻線2cから課電電圧位相情報が積分器12に入力され、積分が行われる。この積分器12の出力信号は、変位電流成分を除去する信号として変位電流バイパス部30のバイパス抵抗33に印加される。
【0045】
変位電流バイパス部30では、信号検出部20からの光信号をO/E変換器31により電気信号に変換し、これを検出信号Sdとして抵抗32に印加する。また、バイパス抵抗33を調整して積分器12から抵抗32に印加する出力電圧を調整し、この調整された変位電流成分の除去信号を検出信号Sdに重畳すると抵抗32を流れる変位電流成分をキャンセルする。これにより生成・検出された損失電流の信号は、モニタ4へ出力され、モニタ4により観測される。
【0046】
(第3の実施の形態の効果)
第3の実施の形態によれば、次の効果を奏する。
(イ)2チャンネル信号発信器3を省略できることにより、測定に伴う結線変更作業を少なくすることができる。
(ロ)電源電圧が歪んでいた揚合でも、三次巻線2c及び積分器12により、波形歪に追従した変位電流成分の除去信号が得られるため、第1の実施の形態に比べ、電源ノイズの影響を受けにくくすることができる。
その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0047】
なお、第3の実施の形態において、課電波形が正弦波以外の場合には、積分器12に代えて、「反転増幅器+微分器」の構成による回路を用いることができる。
【0048】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲内で種々な変形が可能である。
【0049】
例えば、上記各実施の形態において、光伝送を無線伝送に変更することができる。
【0050】
また、上記第1及び第3実施の形態においては、信号検出部20を課電トランス2と試料1の間に接続したが、第2の実施の形態のように、信号検出部20を図3に示す試料1と入れ換えてもよい。すなわち、試料1を課電トランス2に接続し、試料1と接地間に信号検出部20を接続することができる。
【0051】
また、DC電源部25は、バッテリーに代えて太陽電池等に置き換えることができ、これにより、屋外設備のオンライン用損失電流測定装置として使用できる。この場合、屋外設備のオンライン用損失電流測定装置を用いて、損失電流値の定期測定を行うことにより、その測定のトレンド情報の傾向から、絶縁劣化診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る損失電流測定装置の回路図である。
【図2】図1のモニタで観測された出力信号波形を示す波形図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る損失電流測定装置の回路図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態と従来の損失電流の検出特性を示す特性図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る損失電流測定装置の回路図である。
【図6】非特許文献1に記載された損失電流測定装置の回路図である。
【符号の説明】
【0053】
1 試料
2 課電トランス
2a 一次巻線
2b 二次巻線
2c 三次巻線
3 2チャンネル信号発信器
4 モニタ
5 通電ループ
10 損失電流測定回路
11 光ファイバ
12 積分器
13 接続線
20 信号検出部
21 検出抵抗
22 アレスタ
23 増幅器
24 E/O変換器
25 DC電源部
30 変位電流バイパス部
31 O/E変換器
32 抵抗
33 バイパス抵抗
100 損失電流測定回路
101 入力部
102 増幅器
103 抵抗
104 バイパス抵抗
H 高電位端
L 低電位端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定時に課電される測定対象物に検出抵抗を直列接続し、
前記検出抵抗に流れる電流によって前記検出抵抗の両端に生じた電圧を増幅して検出信号として出力し、
前記検出信号から変位電流成分を除去する信号をバイパス抵抗に印加して前記バイパス抵抗に流れた変位電流成分の除去信号を前記検出信号に重畳して損失電流を生成することを特徴とする変位電流バイパス法による損失電流測定方法。
【請求項2】
前記損失電流の生成は、負極性余弦波による除去信号を用いて前記変位電流成分を除去することを特徴とする請求項1に記載の変位電流バイパス法による損失電流測定方法。
【請求項3】
前記損失電流の生成は、前記課電を行う課電トランスから得た課電電圧位相情報を積分処理した除去信号を用いて前記変位電流成分を除去することを特徴とする請求項1または2に記載の変位電流バイパス法による損失電流測定方法。
【請求項4】
測定時に課電される測定対象物に直列接続される検出抵抗と、前記検出抵抗に流れる電流によって前記検出抵抗の両端に生じた電圧を増幅して検出信号として出力する増幅部とを有する信号検出部と、
前記信号検出部からの前記検出信号から変位電流成分を除去する信号が印加されるバイパス抵抗を有し、前記バイパス抵抗に流れた変位電流成分の除去信号を前記検出信号に重畳して損失電流を生成する変位電流バイパス部とを備えたことを特徴とする変位電流バイパス法による損失電流測定回路。
【請求項5】
前記変位電流バイパス部は、負極性余弦波による除去信号を用いて前記変位電流成分を除去することを特徴とする請求項4に記載の変位電流バイパス法による損失電流測定回路。
【請求項6】
前記変位電流バイパス部は、前記課電を行う課電トランスから得た課電電圧位相情報を積分処理した除去信号を用いて前記変位電流成分を除去することを特徴とする請求項4または5に記載の変位電流バイパス法による損失電流測定回路。
【請求項7】
前記信号検出部は、前記増幅部の出力を電気信号から光信号に変換する電気−光変換器を備え、
前記変位電流バイパス部は、前記信号検出部の前記電気−光変換器からの前記光信号を電気信号に変換する光−電気変換器を備え、
前記電気−光変換器と前記光−電気変換器との間を光伝送媒体で接続することを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の変位電流バイパス法による損失電流測定回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−256023(P2007−256023A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79628(P2006−79628)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】