説明

変圧器故障判定器

【課題】 巻線間短絡検出の精度向上を図る変圧器故障判定器を提供すること
【解決手段】 変圧器の鉄心を消磁する消磁部2と、その消磁部で鉄心が消磁された変圧器に交流電圧を印加し、その時の励磁電流に基づいて変圧器の巻線間短絡の有無を判定する故障判定部3と、故障判定部の判定結果を報知する報知部5と、を備えた故障判定器に組み込んで構成できる。故障判定部3は、変圧器に交流電圧を印加した際の励磁電流と交流電圧との位相差に基づいて変圧器の巻線間短絡の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器故障判定器に関するもので、例えば、柱上変圧器などの配電用変圧器における巻線間短絡の有無その他の故障検出を行う故障判定器に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所等の配電施設から家庭や工場に電力を配電する架空配電線路には柱上変圧器が設けられている。この柱上変圧器は、高圧配電線路に印加された交流6.6[kV]の高圧電力を、家庭や工場で利用可能な100[V]や200[V]の低圧電力に変成(変圧)する。かかる柱上変圧器が故障した場合、異常電圧や異常電流が生じ、保護回路によって電力の供給が切断される。
【0003】
そこで、配電線事故が発生した場合の事故点を特定するステップとして事故範囲を絞り込んだ後に、変圧器故障判定器(トランスチェッカー)を用いて個々の変圧器の故障判定を実施して変圧器の健全性を一つ一つ確認し、事故点を特定する方法が一般的となっている。
【0004】
この種の従来の変圧器故障判定器の動作原理は次の通りである。まず、内部で断線状態となった変圧器は、端子の電気抵抗が無限大、あるいはそれに非常に近い状態となっている。このような状態の変圧器の故障を検出するには、直流電圧を印加し、巻線抵抗を測定することにより可能となる。
【0005】
また、上記柱上変圧器における故障のうち、変圧器内部で生じた巻線間の短絡(レアショート:layer short、ターンショート:turn short)状態は、変圧器内部に閉回路が構築されている。このような状態の変圧器に交流電圧を印加すると、無負荷状態であっても大きな電流が流れる。この原理を利用してレアショート等の巻線間短絡を検出することが可能となる。一例としては、変圧器の二次側に200〜600Hzの周波数範囲の交流電圧を印加し、その励磁電流と所定の固定しきい値とを比較して巻線間短絡の有無を判定する技術が知られている(例えば、特許文献1)。これは、巻線間に短絡が生じると励磁電流が大きくなるといった特性を利用し、特に200〜600Hzの周波数範囲においてしきい値より励磁電流が小さい変圧器を正常な変圧器と、しきい値より大きい変圧器を巻線間が短絡している変圧器と判定する技術である。
【0006】
電力の配電設備において高圧カットアウトヒューズを溶断させる柱上変圧器の故障は、大半が巻線間短絡を伴う。従って、その初期判定において、異常な変圧器を正常と、または正常な変圧器を異常と誤判定すると、後の故障箇所の特定に影響し、現場作業における安全性、効率性に問題をきたしてしまう。従って、上述したような変圧器故障判定器による初期判定は非常に重要な役割を担っている。
【0007】
また、撤去済みの変圧器を再利用するにあたり、その健全性を容易かつ的確に判定する必要がある。従って、変圧器故障判定器による撤去品の良否判別も事故時の判定と同様に重要な役割となっている。
【0008】
特許文献1等に開示された従来の変圧器故障判定器は、あらかじめ設定した電流の大きさで変圧器の断線,巻線間短絡を検出する原理であるため、正常であってもその電流値を外れる特性を有する変圧器の場合には故障と判定されてしまうおそれがある。一つの例を図1に示す。容量の大きな変圧器は健全であっても励磁電流が大きく、容量の小さな変圧器がレアショートしたときの励磁電流と同じような電流値となることもある。この点に付き、これまでは、対象となる配電用変圧器の特性がメーカや世代に関係なく、その大半がある一定の範囲に収まっていたために大きな問題となることは少なかった。
【0009】
しかし近年になり、配電用変圧器の高効率化やメーカ別の多品目化などで、様々な特性の変圧器が出現してきた。たとえば、近年ではトップランナー変圧器のような高効率の変圧器が一般的になりつつある。また、配電効率の向上を図るべく三相3線式、三相4線式の変圧器も随時開発されている。さらには、従来品に比べて励磁電流値のレベルが大きく異なる変圧器の製作がされている。このような変圧器に従来の変圧器故障判定器を適用した場合、誤判定する場合もある。
【0010】
そこでかかる問題を解決するため、上記の固定されたしきい値判定に代わる簡単な判定処理で変圧器の巻線間短絡を迅速かつ確実に判定可能な短絡判定装置として、特許文献2に開示された発明が提案さている。この特許文献2に開示された変圧器故障判定器(短絡判定装置)は、変圧器の巻線に周波数の異なる交流電圧を順次印加する交流電源と、周波数の異なる交流電圧に対する変圧器の励磁電流を測定する電流測定部と、電流測定部で測定された励磁電流値の近似曲線を1階微分する1階微分計算部と、1階微分計算部による微分値が、正の場合短絡無し、負の場合短絡有りと判定する短絡判定部と、短絡判定部の判定結果を報知する判定報知部と、を備えている。
【0011】
この特許文献2に開示された変圧器故障判定器は、巻線間が短絡している変圧器と短絡していない正常な変圧器とで、周波数を掃引して交流電圧をかけた場合の励磁電流の軌跡が相異することを利用している。つまり、健全な変圧器は、巻線によるL成分と巻線の絶縁層部によるC成分,さらには巻線抵抗によるR成分とがあり、これらを合成したインピーダンス値は周波数に依存する。すなわち、低周波領域ではL成分が支配的になり、高周波領域ではC成分が支配的となる。その結果、正常な健全品の場合、周波数を徐々に上昇させると励磁電流の電流値は上昇する傾向を示す。これに対し、レアショート状態の変圧器は、内部に形成された短絡回路によりL成分をうち消す方向に作用するため、健全品と比較した場合L成分は小さくなる。このため、変圧器全体のインピーダンスは周波数に関係なくCが支配的となる。その結果、故障品の場合、周波数を徐々に上昇させると、電流値は低下する傾向となる。
【0012】
これらの健全な変圧器とレアショート状態の変圧器におけるそれぞれの励磁電流と周波数の関係を示すと、図2(a)のようになる。この図2(a)における事故品(1)と事故品(2)は、それぞれ、図2(b)に示す変圧器において、人為的に故障点を作ったものについて測定した結果である。事故品(1)は、一次側の(1)点でレアショートが発生したものであり、事故品(2)は二次側の(2)点でレアショートが発生したものである。
【0013】
従って、上記複数の周波数による交流電圧に対する複数の励磁電流値の近似曲線を励磁電流の軌跡とみなし、その近似曲線を1階微分することで、曲線が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを判定でき、巻線間短絡を1階微分処理といった容易な処理によって迅速かつ確実に判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第117509号
【特許文献2】特開平7−94341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように特許文献2に開示された変圧器故障判定器では、簡単な処理により変圧器の巻線間短絡を判定することが出来る。しかし、いろいろなパターンの事故を模擬した変圧器に対して周波数−励磁電流特性を計測したところ、多くの変圧器の励磁電流−周波数特性では、図3(a)に示すように、健全品は周波数が増加するにつれて励磁電流も増加し、事故品は減少の傾向を示したが、図3(b)に示すように、特定の変圧器の特定の事故パターンにおいて健全品と同じ傾向(一次1ターン短絡が健全品と同じように周波数の増加に伴い励磁電流も増加する傾向)を示すケースが確認された。このような特性を示した場合、事故品を健全品と判定することとなる。ごく一部の例外事例とは言え実用に供し得るためにはより検出精度の向上を図りたいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明に係る変圧器故障判定器は、(1)変圧器の故障の有無を判定する変圧器故障判定器であって、交流電圧を出力する交流電圧印加手段と、前記交流電圧印加手段で前記変圧器に交流電圧を印加し、その時の励磁電流と交流電圧との位相差に基づいて前記変圧器の巻線間短絡の有無を判定する故障判定部と、前記故障判定部の判定結果を報知する判定報知部と、を備えるようにした。
【0017】
健全変圧器に負荷を接続せずに電源を印加すると、入力コイルのみに電流が流れる。そのため、そのコイルの自己インダクタンス(L成分)により、変圧器は誘導性を示す。しかし実際には、自己インダクタンスとは別に鉄損供給のための有効電力(R成分)が存在するため、入力電圧と励磁電流の位相差は90°とはならない。実測の結果では40〜70°程度の位相差となっている。
【0018】
変圧器コイルはホルマール等の絶縁物を塗布した巻線が密接状態で巻かれているので、ごく小さな容量性負荷(C成分)が連続的に並列接続されていると見なすことが出来る。入力コイルに印加する電源周波数が小さい場合はこのC成分の影響は無視できるが、周波数が高くなるにつれ、影響が大きくなる。容量性負荷は誘導性負荷をうち消す作用があるため、健全変圧器に印加する電源の周波数が高くなると、力率が誘導性から容量性に変化していく。このため、周波数の増加と共に印加する交流電圧に対する励磁電流の位相は遅れから進みに変化する。
【0019】
これに対し、レアショート状態した変圧器では、内部にレアショートにより構成されている短絡巻線が存在するため、入力コイルの磁界をうち消す向きに磁界が発生する。このため、レアショート状態の変圧器にL成分はほとんど存在せず、印加電圧と励磁電流の位相角差はほとんど0となる。しかしながら、このような状態の変圧器は短絡巻線が鉄心の一部に存在するため、入力側コイルで発生した磁界の全てが短絡巻線に伝わらない(漏れ磁束が存在する)。50Hz等の商用周波領域における実測では電流は電圧に比べ0°〜30°遅れるという結果が得られている。また、この磁束漏れは周波数が高くなると増加する傾向にあり、周波数が高くなると発生する2次磁界が弱くなる。このことにより1次コイルのL成分は周波数が高くなるに従い増える傾向となる。周波数が更に高くなると健全変圧器同様、巻線の絶縁物によるCの影響が顕在化してくるため、交流電圧に対する励磁電流の遅れの程度が増加する。実測の結果、多くの変圧器では、2kHz付近に電圧−電流の位相差の変曲点が確認された。
【0020】
また、変圧器の種類によっては、上記の影響が少なく、レアショートの故障を生じた場合でも故障していない健全品と同様に周波数が高くなるにつれて励磁電流の位相の遅れの程度が減少したり、進みに変わるものもあるが、その場合でも、健全品のものに比べれば上述したレアショートの影響があり、位相差の遅れの程度が減少・進みに変換する際の変化量は小さくなる。
【0021】
このように、交流電圧と励磁電流の位相差は、故障していない健全品と、巻線短絡を生じている故障品とで差が現れるので、係る位相差に基づいて故障判定を行うことができる。そして、具体的な判定アルゴリズムとしては、以下のものを採ることができる。
【0022】
(2)前記故障判定部は、複数の異なる周波数の交流電圧を印加した際に得られた前記位相差の増加傾向にあるか減少傾向にあるかにより故障の有無を判定するものとすることができる。
【0023】
(3)前記故障判定部は、複数の異なる周波数の交流電圧を印加した際に得られた前記位相差の変化の大きさに基づいて故障の有無を判定するものとすることができる。複数の異なる周波数は、少なくとも2つの点があればよいが、サンプリングする箇所が3つ以上でも良い。
【0024】
(4)前記故障判定部は、商用周波領域の交流電圧を印加した際の前記位相差と設定されたしきい値とを比較することで故障の有無を判定するものとすることができる。
【0025】
(5)前記(4)の発明を前提とし、前記しきい値は複数設け、前記故障判定部の判定結果は、“故障有り”と“故障無し”に加えていずれかに特定できない“不明”を備えるとよい。これにより、誤判定をする確率が減少する。
【0026】
(6)前記変圧器の鉄心を消磁する消磁部を備え、前記消磁部で前記鉄心が消磁された前記変圧器に前記交流電圧印加手段で交流電圧を印加し、前記故障判定部で判定するようにするとよい。使用された変圧器の鉄心には残留磁束があり、その大きさや磁界の向きは一定ではない。残留磁束が大きい場合は、鉄心透磁率が低下し巻線インダクタンスが減少するため励磁電流は大きくなる。逆に、残留磁束が小さい場合は、鉄心透磁率が増加し巻線インダクタンスが増加するため励磁電流は小さくなる。鉄心の残留磁束のレベルは印加電圧を切るタイミング、その後の放置時間,鉄心サイズ等の諸条件により変圧器個々で異なるため、測定対象の変圧器鉄心の残留磁束は不明である。そこで、消磁部により変圧器(鉄心)の消磁を行い、鉄心の残留磁束を統一した条件(消磁)にした状態で、故障判定部による励磁電流の測定を行うことで、巻線間短絡の有無の判定を高精度に行える。
【0027】
(7)前記消磁部は、前記変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理手段と、飽和状態の前記変圧器に、逆の向きの飽和状態にするための直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、前記変圧器の鉄心が飽和状態になったことを検知する飽和検知手段と、前記初期処理手段で飽和された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記初期処理手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から遮断するまでに要した飽和させるネルギーを求める飽和エネルギー算出手段と、前記初期処理手段と同じ向きの直流電圧を印加し、その印加時に前記変圧器に加えるエネルギーを監視し、当該エネルギーが、前記飽和エネルギー算出手段で求めた前記飽和させるエネルギーの半分の値になった際に前記同じ向きの直流電圧の印加を遮断する制御手段と、を備えるとよい。
【0028】
この場合に、前記飽和エネルギー算出手段は、前記直流電圧の電圧値の積分値を求めるようにすることができる。また、前記飽和検知手段は、前記直流電圧印加手段により前記変圧器へ直流電圧を印加することで流れる励磁電流の電流値に基づいて飽和の有無を判断するものとすることができる。さらに前記直流電圧の電源は、電池とするとよい。上記の各手段は、実施形態では、制御部8(演算部2)の一機能(フローチャートの所定の処理ステップを実行する機能・プログラム)として実現される。初期処理手段は、実施形態では、直流電圧を一定時間印加する処理を行う機能であり、例えば、処理ステップS1を実行する機能により実現される。一定時間は、通常の使用状況下で取り得る残留磁束密度のいずれの場合も飽和するように、十分な時間とする。もちろん、あまり長いと、計測時間が長くなると共に無駄に電圧を印加して消費するので、適宜の長さに設定する。また、簡易な構成を採るために、実施形態では、一定時間印加しているが、飽和するか否かを監視し、飽和した場合に電圧の印加を停止するようにしてもよい。飽和検知手段は、実施形態では、励磁電流の電流値を監視し、急に増加した場合に飽和したと判定するようにした(処理ステップS4)が、他の手法を用いても良い。飽和エネルギー算出手段は、実施形態では、処理ステップS3を実行する機能により実現される。制御手段は、実施形態では、処理ステップS7〜S10を実行する機能により実現される。
【0029】
正または負の飽和状態にしておき、飽和エネルギー算出手段にて反対側の飽和状態になるまでに要するエネルギーを求める。その求めたエネルギー分だけ、初期処理の際に印加した直流電圧と同じ向きに直流電圧を印加すると、初期処理後の元の飽和状態に戻る。また、求めたエネルギーの半分のエネルギーを加えた際に直流電圧の印加を遮断すれば、正または負の一方の最大残留磁束密度の状態から他方の最大残留磁束密度の状態の中間地点で磁界の印加が停止されるため、残留磁束密度は0となり、消磁が行える。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、簡単な構成で変圧器の鉄心を消磁することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の課題を説明する図である。
【図2】本発明の課題を説明する図である。
【図3】本発明の課題を説明する図である。
【図4】本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な一実施形態を示す図である。
【図5】ヒステリシスカーブの一例を示す図である。
【図6】飽和検知の機能を説明する図である。
【図7】消磁部の機能・動作原理を示す図である。
【図8】消磁部の機能を説明する図である。
【図9】本発明の効果を説明する図である。
【図10】本発明の効果を説明する図である。
【図11】本発明の効果を説明する図である。
【図12】本発明に係る変圧器故障判定器の具体的な構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図4は、本発明に係る変圧器故障判定器の概略構成を示している。図4に示すように、変圧器の各相の端子に接続する測定用端子であるプローブ1を備え、このプローブ1に消磁部2と故障判定部3とを、切り替えスイッチSWを介して連携する。プローブ1に対し、それぞれ消磁部2と故障判定部3が切り替え式で接続され、検査対象物である変圧器の各相の端子に連携される。さらに、変圧器故障判定器は、マンマシンインタフェースとしての入力部4と、報知部5を備える。さらに、各部を動作させるための電源部6や、電圧・電流などを測定する測定回路7を備えている。
【0033】
入力部4は、電源のON/OFFや、各種のモードの設定や、測定開始等を指示するための操作スイッチ等がある。報知部5は、ブザーのように音声(音)による出力手段や、ランプ・ディスプレイなどの視覚による出力手段などがあり、判定結果を報知する。
【0034】
電源部6は、本実施形態では、電池を用いている。つまり、電源部6は、直流電源であり、CPUや各種の電子機器を駆動させるための電源電圧である。また、後述するように、直流電圧を用いた消磁を行う場合の電源にも利用する。具体的には、公称電圧1.2〜1.5[V]の電池(例えば、1.2[V]のニッケル水素電池)を4本直列に接続し、直列接続された電池全体の端子間電圧は5〜6[V]となり、出力は4〜5[W]程度となる。もちろん、この直列に接続する数は任意である。また、電池を並列接続して連続して、長寿命化を図るのも妨げない。また、出力電圧値を安定化させるため、後述するように、電池の出力に安定化回路(レギュレータ)を接続し、その安定化回路を介して出力し、3[V]程度の所定の直流電圧が出力されるようにしている。
【0035】
故障判定部3は、変圧器の所定の端子間に交流電圧を印加し、以下に示すアルゴリズムに従って故障の有無を判定し、その判定結果を、報知部5を介して出力する。また、係る交流電圧を印加するための正弦波の生成部(ワンチップ・マイコン等により実現でき、必要に応じてオペアンプ等で増幅する回路)等も備える。この故障判定部3の具体的な機能については、後述する。
【0036】
消磁部2は、故障判定部3における測定に先立ち、変圧器(鉄心)を消磁するためのものである。すなわち、通常に使用された変圧器の鉄心には残留磁束があり、その大きさや磁界の向きは一定ではない。その理由は、鉄心の残留磁束は、その直前の遮断時の電圧や極性に影響されるからである。従って、残留磁束が異なると、同一の電圧を印加したとしても係る電圧の印加に伴い流れる励磁電流値も異なるので、図3に示すように、測定結果は、測定を行うたびに変化してしまう。そのため、本実施形態では、係る残留磁束の影響を回避すべく初期状態を一定にするために、消磁部2で消磁するようにした。
【0037】
また、一般的に消磁は、一度変圧器にやや過励磁になる程度まで交番磁束(交流電圧)を印加し、徐々に磁束(電圧)の大きさを下げていく交流消磁が用いられる。この方法で消磁すると、確実に残留磁束を小さくさせることができるが、定格以上の電圧が必要となり装置自体が大がかりとなる。もちろん、係る構成を採るのも構わないが、本実施形態では、電源部6の直流電圧を利用し、直流消磁を行うようにした。これは、巻線抵抗,巻数を考慮すると、現在の配電用変圧器の多くは数V程度の直流電源で鉄心の磁束密度を飽和させることが可能である。このことを利用すれば、小さな電圧で消磁を行うことが可能となるので、変圧器故障判定器もコンパクトとなり、携帯可能となる。
【0038】
測定回路7は、変圧器の端子間電圧や、励磁電流などの電気的な特徴量を測定するもので、その測定結果は、消磁部2や故障判定部3に与えられ、各部における動作制御や、判定などに用いられる。
【0039】
次に、消磁の原理を説明しつつ、消磁部2の機能を説明する。よく知られているように、鉄心に用いられる強磁性材料の磁化曲線(BH曲線)は、図5に示すようなヒステリシスカーブのような特性となり、磁界の強さH[A/m]を増加させるに従い、磁束密度B[T]は飽和する。その後、磁界の強さを0に戻しても、磁束密度は0にならず、所定の値の残留磁束密度となる。そして、上述したように残留磁束密度は、その直前で磁界を印加した際の磁界の強さと向き(正負)により異なり、図5に示すように、いったん飽和させた状態で磁界の強さを0にした場合の残留磁束密度が、最も大きく、最大磁束密度Bmとなる。直流電圧を印加した場合、その電圧値に応じた磁界が加わるので、かかる直流電圧の電圧値を適度な値(数V程度)に設定することで、鉄心を飽和させることができる。
【0040】
このように磁気飽和させるために、演算部2は、電源部6から出力される直流電圧をプローブ1を介して変圧器の端子に印加する。変圧器に直流電圧を継続して印加させると、その変圧器の鉄心が飽和領域に達し、磁束が残留磁束として鉄心に残る。つまり、けい素鋼板やアモルファスは、大きな透磁率を有するので、これらを鉄心として作ったコイルの自己インダクタンスは大きな値を有する。そのため、このコイルに直流電源を印加させた場合、図6に示すように、励磁電流は時間をかけて徐々に大きくなる。そして、ある一定の電流値(起磁力)に達すると、見かけ上の透磁率は小さくなり自己インダクタンスも小さくなるため、励磁電流はほぼ瞬間的に巻線抵抗と電源電圧で決まる値に達する。換言すると、励磁電流を監視し、その値が急激に上昇したときが、鉄心が飽和したときと判定できる。
【0041】
また、同じ変圧器の場合、磁気飽和させない状況で外部磁界(H)をかけていた際に与えられたエネルギーが大きいほど、その外部磁界を印加する前後の残留磁束密度の差は、大きな値になる。従って、例えば正の飽和状態から負の飽和状態になるまでに加えたエネルギーを求め、その半分のエネルギーを逆向き(正の方向)に加えると、残留磁束は0になる。つまり、正の最大磁束密度Bmから、負の最大磁束密度−Bmになるのに必要なエネルギーの絶対値をEとすると、そのエネルギー(E)分だけ正の方向に外部磁界を印加して、外部磁界を0にすると、再び正の最大磁束密度Bmとなる。よって、その半分(50%)のエネルギー(0.5E)を加えた後に外部磁界を0にすると、“−Bm”と“Bm”の中間地点である“磁束密度=0”となり、消磁が完了する。
【0042】
上記の鉄心に加えるエネルギーに基づく残留磁束密度の制御は、具体的には、消磁部2内の演算部(CPU)が、図7に示す以下のアルゴリズムを実行することで行う。まず、消磁部2は、変圧器の鉄心を正の飽和状態にする(S1)。具体的には、電源部6から出力される電圧(正の直流電圧)をそのまま一定時間変圧器に印加することで、鉄心を飽和させる。つまり、鉄心のヒステリシスカーブ(B−H特性)の一例を示すと、図8のようになる。そして、係る正の直流電圧を印加する際の残留磁束は、上述したようにその大きさや磁界の向きがばらばらである。そこで、演算部2は、確実に飽和するために十分な時間(例えば1秒)だけ直流電圧を印加し(図8中(1)参照)、その後、電源を遮断する。これにより、鉄心に加わる磁界Hも0になり、最大残留磁束Bmとなる。このように、一度正の向きに飽和させることで、その直前の使用状態に基づく残留磁束の大きさ・磁界の向きのばらつきが解消され、同じ初期状態にすることができる。
【0043】
なお、例えば短絡しているような場合には、直流電圧の印加と共に大きな電流が流れるので、たとえ1秒でも係る状態が継続するのは好ましくない。そこで、この処理の実行時も励磁電流を監視し、電流値が急激に増加したり、所定の基準値を超えたりするなど、予め設定した停止条件場合を満たした場合には、遮断するようにすると良い。
【0044】
なおまた、本実施形態では、正の直流電圧を印加して正の飽和状態にするようにしたが、最初に負の直流電圧を印加し、負の飽和状態にするようよしても良い。その場合には、以下の説明における各処理ステップで印加する直流電圧の向きを逆にすればよい。この処理ステップS1を実行する機能が、初期処理手段に対応する。
【0045】
次に、消磁部2は、変圧器に負の直流電圧を印加し、鉄心を負の飽和状態にする。ここでは、処理ステップS1のように一定時間を印加するのではなく、励磁電流を監視し、飽和するまで所定の直流電圧を印加する。消磁部2は、プローブ1を介して変圧器に印加している直流電圧の電圧値の積算値である第1積算電圧値V1をリセットするとともに負の直流電圧を印加開始する(S2)。この第1積算電圧値V1は、バッファメモリ3に格納されるので、そのバッファメモリ3の値を0にする。
【0046】
消磁部2は、サンプリングタイムごとに現在の電圧値Viを取得し、バッファメモリ3に格納された第1積算電圧値V1を読み出し、現在の電圧値Viを足し込んで、新たな第1積算電圧値V1を求め、バッファメモリ3に上書きする(S3)。すなわち、負の直流電圧の印加により外部磁界を加えているが、そのとき変圧器(鉄心)に加えるエネルギーは、電圧値と電流値の積を時間積分することにより求めることができる。そして、本実施形態では、負の直流電圧の印加時並びに後述する正の直流電圧の印加時において、ともに同一のサンプリングタイムで一定間隔ごとに電圧値の現在値を取得することで、時間情報の取得を省略するようにした。もちろん、一定間隔ごとに取り込まない場合には、今回取得した電圧値の現在値に対し、前回の現在値の取得から今回の現在値の取得までの時間を乗算することで、その期間に加えたエネルギーに対応する値を求めることになる。なお、電圧値Viは、絶対値である。
【0047】
また、より正確に加えたエネルギーを求めるためには、磁化するために消費した励磁電流の電流値も積算するのが好ましいが、図6に示すように、積算しているほぼ全区間に渡り、電流値はほぼ0となるとともに、飽和して電流値が増加する領域では、鉄心を飽和させる磁化のために要する電力よりも巻き線での消費電力分が大きく影響することになる。そこで、電流値の積分をすると、かえって磁気飽和させるため要した正確なエネルギーを求めることができなくなるので、本実施形態では、電流値の積算は行わないようにした。そして、電圧の積分であれば電流の立ち上がりに大きく影響せず、鉄心の飽和に必要なエネルギーを算出することができる。なお、本実施形態では、電源部6に電池を用いているため、電圧値も徐々に低下する。この電圧の積算を行う処理ステップS3を実行する機能が、飽和エネルギー算出手段に対応する。
【0048】
次に、演算部2が、励磁電流が急激に増加したか否かを判断する(S4)。係る判断をする処理ステップを実行する機能が、飽和検出手段に対応する。励磁電流がほぼ0の状態で微増している区間(図6中、区間A)では、未飽和の状態であり、その区間は、処理ステップS4の分岐判断はNoのままであるので、負の直流電圧は継続して印加しつつ、励磁電流の監視を継続して行うとともにサンプリングタイムごとに電圧値の積算を行う。
【0049】
励磁電流が急激に増加する(図6中、“X”)と、処理ステップS4の分岐判断がYesとなり、鉄心が負の飽和状態になったと推定できる(図8中(3)参照)。この判断は、例えば、予めしきい値(例えば、5[A])を設定しておき、励磁電流の電流値がしきい値を超えたならばS4の分岐判断はYesとすることができる。また、前回の励磁電流の値を記憶しておき、今回の励磁電流との差が一定のしきい値以上となった場合に急増したと判定することができる。
【0050】
励磁電流が急激に増加したならば、消磁部2は、電源を遮断する(S5)。この電源の遮断は、最終的に変圧器に負の直流電圧が印加されず、励磁電流が巻線に流れなければよい。このように励磁電流が急激に増加したときに直流電圧の印加を遮断すると、逆起電力が発生し、その後徐々に電圧が低下して0に戻る(図8中(4)参照)。この逆起電力が0になったとき、鉄心には、図8に示すように、負の一定の残留磁束(負の最大磁束密度−Bm)が発生している。演算部2は、このように起電力が0になるのを待つ(S6)。
【0051】
次いで、消磁部2は、プローブ1を介して変圧器に印加している正の直流電圧の電圧値の積算値である第2積算電圧値V2をリセットするとともに正の直流電圧を印加開始する(S7)。この第2積算電圧値V2は、バッファメモリ3に格納されているので、そのバッファメモリ3の値を0にする。
【0052】
消磁部2は、サンプリングタイムごとに現在の電圧値Viを取得し、バッファメモリ3に格納された第2積算電圧値V2を読み出し、現在の電圧値Viを足し込んで、新たな第2積算電圧値V2を求め、バッファメモリ3に上書きする(S8)。そして、消磁部2は、求めた第2積算電圧値V2が、負の飽和状態にする際に要したエネルギーに対応する第1積算電圧値V1の半分であるか否かを判断する(S9)。
【0053】
S9でYesとなると(図8中(5)参照)、消磁部2は、電源を遮断する(S10)。この電源の遮断は、最終的に変圧器に負の直流電圧が印加されず、励磁電流が巻線に流れなければよい。この電圧の遮断により逆起電力が発生し、その後徐々に電圧が低下して0に戻る(図8中(6)参照)。処理ステップS10で電圧を遮断するまでに変圧器の鉄心に加えたエネルギーは、正の飽和状態から負の飽和状態にするのに要したエネルギーの半分であるので、この逆起電力が0になったときの残留磁束密度は、0になり消磁処理が完了する。なお、消磁の具体的な処理アルゴリズムは、上記のものに限ることはなく、各種のもので実現できる。
【0054】
次に、故障判定部3の具体的な機能を説明する。本実施形態の故障判定部3は、プローブ1を介して変圧器の所定相の端子間に交流電圧を印加し、そのときに流れる励磁電流と端子間電圧の位相差に基づき、変圧器内部で生じた巻線間の短絡の有無を判定する。すなわち、変圧器に交流電圧を印加した際の当該交流電圧と、励磁電流は、変圧器の状態に応じて所定の位相差が発生する。交流電圧に対する励磁電流の位相差(励磁電流位相差)は、励磁電流の位相が交流電圧よりも遅れたり(位相差は+)、進んだり(位相差は−)、ほぼ等しかったり(位相差は0)する。
【0055】
<商用周波領域の交流電圧印加時の励磁電流位相差に基づく判定>
図9に示すように、故障を生じていない健全品の場合、商用周波領域である50Hz(1番目)や100Hz(2番目)の交流電圧を印加した場合の励磁電流位相差は、40〜50°となり、励磁電流が電圧に対して遅れる。なお、図9(a)は、ある耐雷型柱上変圧器(10kWA)についての特性であり、図9(b)は、ある三相3線変圧器(10kVA)についての特性である。印加電圧は、いずれも3[V]とした。各種の変圧器について実測した結果では、50Hzの交流電圧を印加すると40〜70°程度の位相差となっている。
【0056】
一方、短絡を生じている変圧器は、その短絡を生じている端子間に交流電圧を印加した場合に、励磁電流の遅れはあまり見られず、0付近となる。図9に示した2つの変圧器では、位相差は±10°の範囲内に収まり、その他各種の変圧器について実装した結果では、多くの場合0〜30°程度の位相差であった。
【0057】
そこで、例えば50Hzのように商用周波領域の交流電圧を印加し、そのときの励磁電流位相差を求め、予め定めたしきい値(例えば35°や40°)と比較し、しきい値以上であれば健全品と判定し、しきい値未満であれば故障(短絡)と判定することができる。また、このように健全品(OK)と短絡(NG)のように、2つに弁別するのではなく、例えば、
0〜20°の遅れ:短絡
20〜50°の遅れ:不明(グレーゾーン)
50°以上の遅れ:健全
のように3つ、或いはそれ以上の判定区分に分けても良い。
【0058】
特に、本実施形態のように、前処理として消磁をすることで、変圧器間でのばらつきも小さくなり、多くの場合、20度未満の遅れの場合には、確実に短絡を生じていると判定することができる。また、不明を設けることで、誤判定の発生を防止することができる。また、このように、商用周波領域の1点の測定による判定で不明であっても、以下に示す別の判定ルールに従って正確に判定することができるので問題はない。
【0059】
<周波数の増加に伴う電流位相差の変化の状態に基づく判定(その1)>
また、周波数を徐々に高くしていった場合、健全品の励磁電流位相差はいずれの場合も減少傾向にある。つまり、当初の商用周波領域では、励磁電流は遅れていたが、周波数が高い領域では逆に励磁電流が進むことになる。
【0060】
一方、図9(a)のケースでは、短絡を生じていると、その短絡を生じている端子間に交流電圧を印加した場合に、励磁電流位相差は増加傾向にある。つまり、商用周波領域では励磁電流の遅れは見られないが励磁電流は徐々に遅れていく。ただし、図9(b)に示すように、短絡を生じている場合でも、励磁電流位相差が減少傾向に変化するものもある。
【0061】
従って、少なくとも、周波数を高くしていった場合の励磁電流位相差の変化が増加傾向にある場合には、故障(短絡)と判定することができる。係る判定は、異なる任意の2点の周波数(例えば、100Hzと1kHz)における励磁電流位相差をそれぞれ求め、その大小関係から故障ありを判定することができる。具体的には、1kHzの位相角の方が大きければ故障ありと判定する。このように2点による簡易な判定をすることで使用するメモリ容量も小さくするとともに短時間で判定することができるが、より正確な判定をするためには、3点或いはそれ以上のポイントで計測し、多くの計測結果に基づいて判定すると良い。また、低い周波数を100Hzとしたが、上述した商用周波領域の1点に基づく判定を行う場合、当該低い周波数と、1点に基づく判定に使用する周波数と同じにすると好ましい。
【0062】
<周波数の増加に伴う電流位相差の変化の状態に基づく判定(その2)>
図9(b)に示すように、短絡を生じている場合でも、周波数の増加に伴い励磁電流位相差が減少する傾向を示す変圧器が存在する。但し、係る変圧器における励磁電流位相差の周波数特性は、健全品の方が急激に減少する傾向にある。従って、周波数の増加に伴う励磁電流位相差の減少の傾きを求め、設定されたしきい値よりも傾きが大きい場合には、健全品と判定し、しきい値未満の傾きの場合には故障(短絡)有りと判定することができる。
【0063】
係る判定は、異なる任意の2点の周波数(例えば、100Hzと1kHz)における励磁電流位相差をそれぞれ求め、求めた2つの励磁電流位相差の差分を求め、その差分がしきい値を超えている場合には健全品と判定し、差分がしきい値未満の場合には故障ありを判定することができる。すなわち、2つの周波数が常に同じとすると、励磁電流位相差の差分は、周波数特性の傾きに比例するからである。上記の例では、サンプリングする2つの周波数は、上記のその1の判定のときに用いる周波数と同じにしているため、それぞれの判定をするために測定する励磁電流位相差も共通化されるため、処理が簡略化できる。また、図9(b)に示す例では、励磁電流位相差の減少の変化率、周波数は500Hz程度まで急激に変化しており、その後は徐々になだらかになる。従って、例えば、仮に2つの周波数を1.5kHzと3.0kHzとすると、健全品の方はすでに飽和しており故障品よりも変化は小さくなる。そして、このケースでは、100Hzと1kHzよりも、100Hzと500Hzのときの励磁電流位相差に基づいて判定した方が、健全品と故障品の差が顕著になるので、より容易かつ正確な判定を行うことができる。従って、より正確な判定を行うためには、変化の差がより顕著に現れる2つの周波数を設定すると良い。
【0064】
もちろん、よりたくさんの周波数についての励磁電流位相差を求め、それらに基づいて周波数の増加に伴い変化する励磁電流位相差の傾き(変化率)を求めると、より高精度な判定を行えるので性能の点では好ましい。
【0065】
故障判定部3は、上述した3つの判定の全て、或いはいずれか1つ或いは任意の2つを実行し、故障判定を行う。複数の判定アルゴリズムを実行する場合には、少なくとも1つの判定アルゴリズムで故障を検出した場合には、故障有りと判定する。また、複数の判定アルゴリズムを実行する場合、それらを並列で実行しても良いし、適宜の順で順次実行していっても良い。順次実行する場合、例えば、まず、最も簡単に判定が行える商用周波領域の1つの周波数(例えば100Hz(50Hz))の交流電圧を印加し、その時の励磁電流位相差を求め、その値から健全品/不明(グレー)/故障品のいずれかを判定し、グレー判定のもののみ次の複数の周波数の励磁電流位相差に基づく判定(その1及びまたはその2)を行うようにしても良い。このようにすれば、多くの場合、1回の励磁電流位相差の取得で故障判定をすることができ、グレー判定の場合でも、2つの周波数のうちの低い方の周波数(100Hz(50Hz))のときの励磁電流位相差は取得しているので、もう一方の高い方の周波数(例えば1kHz)の時の励磁電流位相差を求め、先に求めた100Hzの時の励磁電流位相差を用いて最終判定を行うことができるので、効率的である。
【0066】
また、説明が前後するが、励磁電流位相差は、例えば、一定のサンプリングタイムで測定回路7から印加する交流電圧の電圧値(瞬時値)と、その時に流れる励磁電流値(瞬時値)を取得し、それぞれリングバッファメモリ等に時系列に格納する。各値は、時間情報(タイムスタンプ)とともに格納する。これにより、交流電圧用のリングバッファメモリと、励磁電流用のリングバッファメモリにそれぞれ格納された電圧値(瞬時値)と電流値(瞬時値)の履歴から、交流電圧のゼロクロス点と励磁電流のゼロクロス点を抽出し、各値に関連づけられた時間情報から時間差を求め、位相差を求めることができる。また、サンプリングタイムは一定であるので、一方のゼロクロス点が格納されたメモリ領域と他方のゼロクロス点の格納されたメモリ領域の差に基づいて、位相差を求めてもよい。もちろん、これ以外の方法で求めることもできる。
【0067】
図10,図11は、代表機種の変圧器について、印加する交流電圧の周波数を変えたときに求められた励磁電流位相差を示すグラフ(励磁電流位相差の周波数特性)である。図10が健全品についての特性で、図11が短絡品についての特性である。また、本実施形態と同様に、前処理として消磁を行っている。
【0068】
図10に示すように、各サンプルの変圧器は、いずれも、商用周波領域の50Hzの時の励磁電流位相差は、40°〜65°の範囲に収まっており、商用周波領域に基づく第1判定条件で全て健全と判定できる。また、全てのサンプルで、周波数の増加に伴い、電圧に対して電流が進みとなり、比較的急な減少傾向にあることが確認できる。
【0069】
一方、図11に示すように、短絡を生じた全ての変圧器は、いずれも、商用周波領域の50Hzの時の励磁電流位相差は、0°〜20°の範囲に収まっており、商用周波領域に基づく第1判定条件で全て故障と判定できる。短絡を生じた変圧器の励磁電流位相差の周波数特性は、多くの変圧器において、おおむね2kHz付近までは電流が遅れる傾向(増加傾向)にあることが確認できる。また、励磁電流位相差の周波数特性が、高周波に行くに従って進む傾向(減少傾向)のものであっても、その変化は比較的なだらかであることがわかる。
【0070】
図12は、本実施形態のハードウェア構成の一例を示している。図4に示す概略構成のものに対応する部材は、同一符号を示している。また、消磁部2と故障判定部3は、ハードウェア構成では同一の部材で実現される。
【0071】
図に示すように、電源部6は電圧4.8〜6[V],出力4〜5[W]の乾電池等の直流で駆動する。汎用性,ランニングコストを考慮し、単3型のアルカリマンガン電池,ニッケル水素電池等の電池6aが使える構造とする。これらの電池6aの出力は安定化回路6bに与えられ、ここで3[V]の直流電圧を発生させる。
【0072】
この安定化回路6bの出力は、遮断スイッチ27,正負切替スイッチ24,直流・交流選択スイッチ28を介してプローブへ与えられる。また、印加電圧や、励磁電流等を測定する測定回路7も備えており、その測定回路7の出力はワンチップ・マイコン22に与えられる。各スイッチの切替制御は、ワンチップ・マイコン22の制御信号に基づいて行われる。遮断スイッチ27は、開閉する機能を持つため、FET等のスイッチ素子を利用子、高速に動作することができる。
【0073】
この遮断スイッチ27が閉じた場合、安定化回路6bの出力は、正負切替スイッチ24へ与えられる。ワンチップ・マイコン22は、消磁のために鉄心に直流電圧を印加する場合には、遮断スイッチ27を閉じ、鉄心が飽和状態になって電源を遮断する場合に遮断スイッチ27を開くように制御する。
【0074】
正負切替スイッチ24は、変圧器に印加する電圧の向き(正/負)の切替をするもので、スイッチの切替により、正極/負極側を反転するスイッチ回路である。この切替により、変圧器に正の直流電圧を印加して正の飽和状態にしたり、それとは逆向きの負の直流電圧を印加した負の飽和状態にしたりする。
【0075】
直流・交流切替スイッチ28は、プローブへ印加する際の電源の種類を切り替えるもので、図示する状態では、消磁のために直流電圧を印加するようになり、オペアンプ25側に接続された状態では、巻線間短絡検出のために交流電圧を印加するようになる。
【0076】
ワンチップ・マイコン(ワンチップ・CPU)22は、正弦波を生成し出力する機能(正弦波生成部22a)を備えるとともに、装置全体の制御を司るもので、図4に示した消磁部2と故障判定部3の機能を備える。また、正弦波生成部22aの出力は、オペアンプ25(電源電圧が±12[V])で増幅後、測定回路26経由で変圧器へ印加するようになっている。
【0077】
また、ワンチップ・マイコン22は、図示省略するケースの上面に設けた入力部たるスイッチ・操作ボタンからの入力信号を受け、所定の処理を実行し、その実行結果を出力信号として報知部たるインジケータ,ブザー等へ伝え、所定の報知(判定結果等)を行う。
【符号の説明】
【0078】
1 プローブ
2 消磁部
3 故障判定部
4 入力部
5 報知部
6 電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の故障の有無を判定する変圧器故障判定器であって、
交流電圧を出力する交流電圧印加手段と、
前記交流電圧印加手段で前記変圧器に交流電圧を印加し、その時の励磁電流と交流電圧との位相差に基づいて前記変圧器の巻線間短絡の有無を判定する故障判定部と、
前記故障判定部の判定結果を報知する判定報知部と、
を備えることを特徴とする、変圧器故障判定器。
【請求項2】
前記故障判定部は、複数の異なる周波数の交流電圧を印加した際に得られた前記位相差の増加傾向にあるか減少傾向にあるかにより故障の有無を判定するものであることを特徴とする請求項1に記載の変圧器故障判定器。
【請求項3】
前記故障判定部は、複数の異なる周波数の交流電圧を印加した際に得られた前記位相差の変化の大きさに基づいて故障の有無を判定するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の変圧器故障判定器。
【請求項4】
前記故障判定部は、商用周波領域の交流電圧を印加した際の前記位相差と設定されたしきい値とを比較することで故障の有無を判定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の変圧器故障判定器。
【請求項5】
前記しきい値は複数設け、前記故障判定部の判定結果は、“故障有り”と“故障無し”に加え“不明”を備えることを特徴とする請求項4に記載の変圧器故障判定器。
【請求項6】
前記変圧器の鉄心を消磁する消磁部を備え、
前記消磁部で前記鉄心が消磁された前記変圧器に前記交流電圧印加手段で交流電圧を印加し、前記故障判定部で判定するようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の変圧器故障判定器。
【請求項7】
前記消磁部は、
前記変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理手段と、
飽和状態の前記変圧器に、逆の向きの飽和状態にするための直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、
前記変圧器の鉄心が飽和状態になったことを検知する飽和検知手段と、
前記初期処理手段で飽和された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記初期処理手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から遮断するまでに要した飽和させるネルギーを求める飽和エネルギー算出手段と、
前記初期処理手段と同じ向きの直流電圧を印加し、その印加時に前記変圧器に加えるエネルギーを監視し、当該エネルギーが、前記飽和エネルギー算出手段で求めた前記飽和させるエネルギーの半分の値になった際に前記同じ向きの直流電圧の印加を遮断する制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載の変圧器故障判定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−214963(P2011−214963A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82705(P2010−82705)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】