説明

変形センサシステム

【課題】ホイートストン・ブリッジ回路を用いることなく、外力を受けたか否かを高精度に判定することができる変形センサシステムを提供する。
【解決手段】外力を受けた場合に弾性変形し、弾性変形量に応じて電気抵抗が変化する弾性材からなる変形センサ12と、変形センサ12の電気抵抗R1、所定容量のコンデンサC1、および、増幅器22aにより構成される発振回路22と、発振回路22の発振周波数fをデジタル信号として計測する周波数カウンタ24と、変形センサ12が外力を受けていない場合に周波数カウンタ24により計測された発振周波数fを基準周波数f0として予め記憶する基準周波数記憶部25と、変形センサ12が外力を受けた場合に周波数カウンタ24により計測された発振周波数f1と基準周波数f0との差分Δfを算出する差分算出部26と、周波数の差分Δfに基づいて変形センサ12が外力を受けたか否かを判定する判定部27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、感圧センサ等に用いることができる変形センサシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、感圧センサとしては、例えば、実開平5−36331号公報(特許文献1)、特開平5−81977号公報(特許文献2)、特開平11−115678号公報(特許文献3)および特開2001−56259号公報(特許文献4)に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1および特許文献2に記載の感圧センサは、感圧導電性エラストマー部材の表面に圧力検出用凸部を形成し、その裏面側に電極を配置する構成からなる。この感圧導電性エラストマーは、無加圧時には絶縁性を示し、加圧時に内部の導電性粒子が互いに接近して電気抵抗値が次第に低下することに伴って導電性を示す材料からなる。つまり、圧力検出用凸部に圧力が付加された場合に、その表面と裏面との離間距離が短くなることにより、感圧導電性エラストマー部材が導電性を示すこととなる。そして、この絶縁性から導電性への変化を裏面側の電極により検出して、圧力の付加を検知するというものである。
【0004】
また、特許文献3に記載の感圧センサは、上側感圧インクと下側感圧インクとを備えており、無加圧時には両者は離間しており、加圧時に両者が接触してその間の電気抵抗が変化することにより、圧力の付加を検知するというものである。
【0005】
また、特許文献4に記載の感圧センサは、配線パターンが形成されている下側フィルムと、その下側フィルムに重ね合わさるように離間して配置され感圧抵抗が形成されている上側フィルムとを備えている。つまり、無加圧時には配線パターンと感圧抵抗とが離間しているので導通されず、加圧時に配線パターンと感圧抵抗とが接触することにより導通する。従って、導通することにより発生する電気信号に基づいて、圧力の付加を検知するというものである。
【0006】
つまり、上記特許文献1〜4は、何れも、電気抵抗を計測して圧力の付加を検知するものである。そして、電気抵抗を計測する方法として、一般に、ホイートストン・ブリッジ回路が適用される。
【0007】
しかし、ホイートストン・ブリッジ回路を適用して電気抵抗を計測する場合には、構成される回路に直流電流が流れることになる。そのため、計測対象の電気抵抗を形成する電極にて、分極が発生し、接触抵抗の増大、さらには、接触不良を引き起こすおそれがある。従って、分極の発生を防止する手段を講じる必要がある。
【0008】
また、ホイートストン・ブリッジ回路においては、計測抵抗および他に抵抗が直列接続されている。従って、回路に流れる電流は、印加電圧を両抵抗の総和で除算した値となる。このように、ホイートストン・ブリッジ回路においては、計測抵抗に直列接続される他の抵抗が必要となるため、回路に流れる電流が小さくなる。そして、回路に流れる電流が小さいほど、ノイズの影響を受けやすくなる。つまり、ノイズの影響を受けることにより、計測誤差が生じるおそれがある。
【0009】
ところで、電気抵抗の計測方法として、ホイートストン・ブリッジ回路の他に、発振回路を用いて、電気抵抗に応じた発振周波数を計測することにより行う方法が、特開2001−38089号公報(特許文献5)および特開昭60−164256号公報(特許文献6)に開示されている。
【0010】
特許文献5は、洗濯機における洗濯水の汚れ度合の判定するもので、この汚れ度合に応じて洗濯水の電気抵抗が変化することを利用したものである。また、特許文献6は、海水の塩分濃度に応じて電気抵抗が変化することを利用したものである。
【0011】
このように、発振回路を適用することで、回路に交流電流を流すことができる。これにより、ホイートストン・ブリッジ回路において問題であった分極の発生を抑制できる。さらに、ホイートストン・ブリッジ回路は、直流電流が流れることに加えて、計測抵抗に直列接続される他の抵抗を必要とする。これに対して、発振回路においては、交流電流であることに加えて、計測抵抗に直列接続される他の抵抗を必要としない。従って、回路を流れる電流が常に小さくなることを抑制でき、結果として、ノイズによる計測誤差を抑制できる。
【特許文献1】実開平5−36331号公報
【特許文献2】特開平5−81977号公報
【特許文献3】特開平11−115678号公報
【特許文献4】特開2001−56259号公報
【特許文献5】特開2001−38089号公報
【特許文献6】特開昭60−164256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来、コンデンサの精度が低いため、高精度な計測にコンデンサを用いることはできないと考えられていた。つまり、コンデンサの容量のばらつきに起因して、発振周波数にバラツキが生じるため、正確に計測できないと考えられていた。ところが、最近の技術進歩により、コンデンサの精度が飛躍的に高まってきた。例えば、コンデンサの精度が±0.1〜0.2%というものも存在する。そして、コンデンサの精度が±1〜2%程度のものであれば十分に安価に入手できる。このように、高精度なコンデンサの登場により、発振周波数を計測することにより電気抵抗を計測する方法を適用することができるようになってきた。
【0013】
しかし、コンデンサの精度が高まってきた現在においても、発振周波数を計測することにより電気抵抗を計測する方法では、以下のような問題が生じる。上述したように、発振回路においては、交流の電流が流れる。そのため、発振周波数は、計測対象の電極間における電気抵抗成分に加えて、電極間の容量成分を含むインピーダンスに応じた周波数となる。
【0014】
従って、特許文献5および6では、発振周波数に基づいて算出された電気抵抗とされているものには、実は、容量成分を含むものであり、正確なものではない。このように、発振回路を適用して、計測された発振周波数を用いて高精度に電気抵抗を計測することは困難である。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ホイートストン・ブリッジ回路を用いることなく、外力を受けたか否かを高精度に判定することができる変形センサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の変形センサシステムは、変形センサと、発振回路と、周波数カウンタと、基準周波数記憶部と、差分算出部と、判定部とを備えることを特徴とする。変形センサは、外力を受けた場合に弾性変形し、弾性変形量に応じて電気抵抗が変化する弾性材からなる。発振回路は、変形センサの電気抵抗、所定容量のコンデンサ、および、増幅器により構成される。周波数カウンタは、発振回路の発振周波数をデジタル信号として計測する。基準周波数記憶部は、変形センサが外力を受けていない場合に周波数カウンタにより計測された発振周波数を基準周波数として予め記憶する。差分算出部は、変形センサが外力を受けた場合に周波数カウンタにより発振周波数を計測し、計測された発振周波数と基準周波数との差分を算出する。判定部は、差分に基づいて、変形センサが外力を受けたか否かを判定する。
【0017】
つまり、本発明は、外力を受けた場合に弾性変形する変形センサが、外力を受けたか否かを判定することを目的としている。ここで、変形センサが外力を受けることで弾性変形すれば、変形センサの電気抵抗が変化する。そこで、この変形センサの電気抵抗が変化したことを検出することにより、変形センサが外力を受けたか否かを判定している。
【0018】
そして、変形センサの電気抵抗が変化したことの検出は、変形センサの電気抵抗を含んで構成される発振回路を用いて、その発振周波数を計測することにより行っている。具体的には、変形センサが外力を受けた場合に周波数カウンタにより計測された発振周波数(以下、「変形後周波数」と称する)と基準周波数との差分を算出し、この差分に基づいて変形センサが外力を受けたか否かを判定している。
【0019】
ここで、上述したように、特許文献5および6に、発振回路を用いて電気抵抗を計測する方法自体は開示されている。しかし、この発振回路による発振周波数は、計測対象の電極間における電気抵抗成分に加えて、電極間の容量成分を含むインピーダンスに応じた周波数である。従って、容量成分の影響により、計測される発振周波数は、電気抵抗成分のみによる発振周波数とは異なる。
【0020】
しかし、本発明によれば、外力を受けたか否かの判定に、変形後周波数と基準周波数との差分を用いている。これにより、容量成分による影響を低減することができる。つまり、変形後周波数と基準周波数との差分は、実質的に、変形前と変形後における変形センサの電気抵抗成分のみの差分に相当する。
【0021】
ここで、変形前と変形後の変形センサの電気抵抗成分のみの差分は、変形後の変形センサの電気抵抗の絶対値ではない。そして、変形センサが外力を受けたか否かを判定するために、変形後の変形センサの電気抵抗の絶対値は必要ではない。変形センサが外力を受けたか否かを判定するためには、変形センサの電気抵抗が変化したか否かを判定できればよいからである。従って、変形前と変形後の変形センサの電気抵抗成分のみの差分を用いることにより、高精度に、変形センサが外力を受けたか否かを判定できる。
【0022】
特に、変形センサの電気抵抗の変化が微小な場合には、より高い計測精度が要求される。このように、高精度を要求される場合には、本発明は非常に有効である。例えば、変形センサが受ける外力が小さいことにより変形センサの電気抵抗の変化が小さい場合や、大きな外力を受けたとしても電気抵抗の変化として微小にしか現れない構成からなる変形センサの場合などには、非常に有効である。
【0023】
さらに、発振回路を適用することで、回路に交流電流を流すことができる。これにより、ホイートストン・ブリッジ回路において問題であった分極の発生を抑制できる。さらに、ホイートストン・ブリッジ回路は、直流電流が流れることに加えて、計測抵抗に直列接続される他の抵抗を必要とする。これに対して、発振回路においては、交流電流であることに加えて、計測抵抗に直列接続される他の抵抗を必要としない。従って、回路を流れる電流が常に小さくなることを抑制でき、結果として、ノイズによる計測誤差を抑制できる。
【0024】
さらに、判定部において高精度且つ高速に演算処理を行うために、周波数カウンタによりデジタル化している。ここで、従来のホイートストン・ブリッジ回路において、デジタル化するために、AD変換器を用いていた。具体的には、ホイートストン・ブリッジ回路を適用する場合には、ブリッジ間電圧をAD変換した後、AD変換されたブリッジ間電圧に基づいて電気抵抗を算出していた。そのため、電気抵抗の計測分解能は、AD変換器の分解能となる。つまり、AD変換器の分解能が高いものを用いることで、計測分解能を向上することができる。しかし、AD変換器の分解能が高いほど、高価となる。例えば、16bitの分解能を持つAD変換器は、8〜10bitの分解能を持つAD変換器に比べて、極めて高価となる。つまり、低コスト化を図るためには、高分解能のAD変換器を用いることができない。
【0025】
一方、本発明のように、発振回路を適用する場合において、デジタル化するために、周波数カウンタを用いている。この周波数カウンタは、同程度の分解能のAD変換器に比べて非常に安価である。従って、計測分解能を高めたとしても、非常に安価にできる。近年、例えば、16bitなどの高分解能の周波数カウンタは、マイクロコンピュータに内蔵されたものもあり、極めて安価である。つまり、16bitのAD変換器と、16bitの周波数カウンタとを比較すると、価格差が非常に大きい。
【0026】
以上より、本発明によれば、高精度に、且つ、安価に、変形センサが外力を受けたか否かを判定することができる。
【0027】
また、本発明の変形センサシステムにおいて、変形センサは、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するゴム弾性材からなるとしてもよい。このゴム弾性材は、無変形時に電気抵抗が最も小さく、変形時に電気抵抗が大きくなる。ただし、無変形時に最も電気抵抗が小さいと言っても、この電気抵抗は、金属などの電気抵抗に比べて非常に大きい。これは、ゴム弾性材が、絶縁性の高いゴムからなるエラストマーなどにより構成されるためである。つまり、このゴム弾性材の最小電気抵抗は非常に大きい。従って、ゴム弾性材からなる変形センサが外力を受けて変形した場合に、変形前の電気抵抗に対して変形による電気抵抗の変化率が非常に小さくなる。そのため、特許文献5および6に記載されている発振回路を用いた電気抵抗の計測方法を適用した場合、インピーダンスの容量成分に起因する誤差が仮に小さいとしても、計測結果に大きな影響を及ぼすことになる。従って、本発明において、変形前と変形後の変形センサの電気抵抗成分のみの差分に相当するものを用いることにより、高精度に、変形センサが外力を受けたか否かを判定できる。
【0028】
また、変形センサが、上述した、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するゴム弾性材からなる場合には、さらに、以下のようにしてもよい。すなわち、変形センサは、外力を受け得る力受面を有するようにする。さらに、本発明の変形センサシステムは、力受面を挟むように離隔して複数配置される電極を備え、発振回路を構成する電気抵抗は、2個の電極間における変形センサの電気抵抗とする。
【0029】
このような構成からなる場合、2個の電極間における変形センサの電気抵抗は、無変形時に最も小さくなり、変形に応じて大きくなるように変化する。つまり、離隔して配置される2個の電極間における変形センサが外力を受けて変形した場合に、確実に電気抵抗が増加する。そして、変形センサが受ける外力が微小であっても、必ず、電極間の電気抵抗は増加する。従って、このような電気抵抗の増加に応じて、発振周波数が変化するため、確実に外力を受けたことを判定できる。
【0030】
ここで、例えば、変形センサのうち2個の電極の中央付近に外力を受けた場合には、電極間の電気抵抗としては、電極間を直線に結ぶ経路における変形センサの電気抵抗とはならない。この場合、電極間の電気抵抗は、電極間を自由に結ぶ経路(曲線などの迂回路を含む)のうち、最小の電気抵抗となる。つまり、この場合の電極間の電気抵抗は、外力を受けた部位の周囲を通過する経路における電気抵抗となると考えられる。そうすると、変形センサが外力を受けたとしても、電極間の電気抵抗は、それほど増加しないことになる。つまり、外力の大きさにもよるが、電極間の電気抵抗の変化は、微小となる場合が十分にある。このように、電極間の電気抵抗の変化が微小であるとしても、本発明によれば、高精度に変形センサが外力を受けたか否かを判定できる。
【0031】
また、上述において、本発明の変形センサシステムを構成する判定部は、外力を受けたか否かを判定するものとして説明した。このように、単に外力を受けたか否かのみならず、外力を受けた位置を判定したり、外力を受けたことに起因して力受面に生じる応力の相対値の分布を算出したり、外力を受けたことに起因して力受面の変形挙動を算出したりしてもよい。
【0032】
まず、判定部が、外力を受けた位置を判定する場合には、以下のようにするとよい。すなわち、電極は、3個以上からなり、判定部は、差分に基づいて力受面における外力を受けた位置を判定する。電極を3個以上としたことにより、電極間の経路として複数の経路を形成することができる。つまり、差分算出部は、複数の経路の電極間における電気抵抗の変化に相当する、変形後周波数と基準周波数との差分を算出できる。そして、外力を受けた位置によって、複数の経路の電極間それぞれにおける電気抵抗の変化への影響が異なる。この影響度に基づいて、外力を受けた位置を判定することができる。
【0033】
この場合、以下のようにするとよい。すなわち、変形センサシステムは、3個以上の電極の中から選択される2個の電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、発振回路を構成する電気抵抗は、スイッチにより順次切り替えて接続される2個の電極間における変形センサのそれぞれの電気抵抗であり、差分算出部は、変形センサが外力を受けた場合におけるそれぞれの発振周波数と基準周波数との差分をそれぞれ算出し、判定部は、算出されたそれぞれの差分に基づいて力受面における外力を受けた位置を判定する。これにより、確実に且つ容易に、力受面における外力を受けた位置を判定できる。
【0034】
また、判定部が、外力を受けたことに起因して力受面に生じる応力の相対値の分布を算出する場合には、以下のようにするとよい。すなわち、電極は、3個以上からなり、判定部は、差分に基づいて、力受面が外力を受けたことに起因して力受面に生じる応力の相対値の分布を算出する。電極を3個以上としたことにより、電極間の経路として複数の経路を形成することができる。つまり、差分算出部は、複数の経路の電極間における電気抵抗の変化に相当する、変形後周波数と基準周波数との差分を算出できる。そして、力受面に生じる応力によって、複数の経路の電極間それぞれにおける電気抵抗の変化への影響が異なる。従って、この影響度に基づいて、力受面に生じる応力の相対値の分布を算出することができる。
【0035】
この場合、以下のようにするとよい。すなわち、変形センサシステムは、3個以上の電極の中から選択される2個の電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、発振回路を構成する電気抵抗は、スイッチにより順次切り替えて接続される2個の電極間における変形センサのそれぞれの電気抵抗であり、差分算出部は、変形センサが外力を受けた場合におけるそれぞれの発振周波数と基準周波数との差分をそれぞれ算出し、判定部は、算出されたそれぞれの差分に基づいて、応力の相対値の分布を算出する。これにより、確実に且つ容易に、力受面に生じる応力の相対値の分布を算出できる。
【0036】
また、判定部が、外力を受けたことに起因して力受面の変形挙動を算出する場合には、以下のようにするとよい。すなわち、電極は、3個以上からなり、判定部は、差分に基づいて、力受面が外力を受けたことに起因して力受面の変形挙動を算出する。電極を3個以上としたことにより、電極間の経路として複数の経路を形成することができる。つまり、差分算出部は、複数の経路の電極間における電気抵抗の変化に相当する、変形後周波数と基準周波数との差分を算出できる。そして、力受面の変形挙動によって、複数の経路の電極間それぞれにおける電気抵抗の変化への影響が異なる。従って、この影響度に基づいて、力受面の変形挙動を算出することができる。
【0037】
この場合、以下のようにするとよい。すなわち、変形センサシステムは、3個以上の電極の中から選択される2個の電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、発振回路を構成する電気抵抗は、スイッチにより順次切り替えて接続される2個の電極間における変形センサのそれぞれの電気抵抗であり、差分算出部は、変形センサが外力を受けた場合におけるそれぞれの発振周波数と基準周波数との差分をそれぞれ算出し、判定部は、算出されたそれぞれの差分に基づいて、力受面の変形挙動を算出する。これにより、確実に且つ容易に、力受面の変形挙動を算出できる。なお、力受面の変形挙動は、力受面に生じる応力分布から求めることができるものであり、またその逆も同様である。つまり、力受面の変形挙動と、力受面に生じる応力分布とは、見方が異なるが、実質的に同意である。
【0038】
ここで、上述したゴム弾性材は、例えば、所定のゴムからなるエラストマーと、エラストマー中に略単粒子状態で、且つ、高充填率で配合されている球状の導電性フィラーとを有するものを用いるとよい。ここで、「略単粒子状態」とは、導電性フィラーの全質量を100質量%とした場合の50質量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子として存在していることをいう。また、「高充填率で配合」とは、導電性フィラーが最密状近い状態で配合されていることをいう。
【0039】
このように、導電性フィラーが、高充填率(最密状態に近い状態)で配合され、且つ、エラストマー中に一次粒子の状態で存在することにより、変形センサが無変形時に、導電性フィラーによる三次元的な導電パスが形成される。これに対して、変形センサの変形時には、変形センサが弾性変形する。そして、導電性フィラーが最密状態に近い状態で配合されているため、この弾性変形により、導電性フィラー同士が反発し合い、導電性フィラー同士の接触状態が変化する。その結果、無変形時における三次元的な導電パスが崩壊し、電気抵抗が増加する。つまり、当該ゴム弾性材は、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する性質を有することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の変形センサシステムによれば、ホイートストン・ブリッジ回路を用いることなく、外力を受けたか否かを高精度に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0042】
<第1実施形態>
(変形センサシステムの全体構成)
本実施形態の変形センサシステムの全体構成について図1および図2を参照して説明する。図1は、変形センサシステムの全体構成図である。図2(a)は、変形センサ12が押圧外力を受けていない状態(無負荷状態)における図1のA−A断面図である。図2(b)は、変形センサ12が押圧外力を受けた状態(負荷状態)における図1のA−A断面図である。
【0043】
図1に示すように、変形センサシステムは、センサ構造体10と、制御部20と、モニタ30とから構成される。
【0044】
センサ構造体10は、載置板11と、変形センサ12と、複数の電極対13a〜13hと、コネクタ14と、配線15とから構成される。載置板11は、図1および図2(a)(b)に示すように、矩形の平板状からなり、弾力性のある発砲材またはクッション材などからなる。すなわち、載置板11は、図2(b)に示すように、その上面(図2の上側面)を押圧された場合に、押圧部位が凹状に変形する。この載置板11は、例えば、平面の基盤上に配置される。
【0045】
変形センサ12は、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するゴム弾性材からなる。この変形センサ12は、矩形状、特に本実施形態においては正方形状の平板状に形成されている。さらに、変形センサ12は、載置板11よりも小さな正方形状からなる。そして、変形センサ12は、載置板11の上面のうち中央部に、載置板11に重ね合わさるように配置されている。
【0046】
ここで、変形センサ12の上面、すなわち、平板状の広がる面は、図2(a)(b)の下方への押圧外力を受け得る力受面12aをなす。つまり、変形センサ12の力受面12aが力受面12aの法線方向の押圧外力を受けた場合には、図2(b)に示すように、変形センサ12のうち当該押圧外力を受けた部位が図2(b)の下方側に向かって湾曲するように曲げ弾性変形する。さらに換言すると、力受面12aに押圧外力を受けた場合に、変形センサ12全体が曲げ弾性変形し得る領域となる。なお、変形センサ12のゴム弾性材の詳細については、後述する「変形センサ12の材料説明」の項目において説明する。
【0047】
電極対13a〜13hは、変形センサ12の周縁部(すなわち、力受面12aの周縁部)に、変形センサ12に接触した状態で固定された複数の電極であって、それぞれ離隔して配置された対の電極からなる。具体的には、電極対13a〜13hは、それぞれ、その端部が力受面12aの周縁部に接続され、この力受面12aの周縁部への接続点から外側に延びるように配置されている。さらには、電極対13a〜13hは、変形センサ12が受ける押圧外力の方向から見た場合に、力受面12aに対して重なり合わないように配置されている。
【0048】
つまり、これら全ての電極は、変形センサ12の力受面12aが押圧外力を受けた場合に変形センサ12のうち曲げ弾性変形する領域に配置されていない。従って、変形センサ12の力受面12aが押圧外力を受けた場合であっても、これらの電極が直接押圧外力を受けることがない。
【0049】
そして、これらの電極対13a〜13hは、具体的には、Y方向(図1の上下方向)に変形センサ12を挟むようにして離隔対向して配置された4つの電極対(8つの電極)からなる第1方向電極群と、X方向(図1の左右方向)に変形センサ12を挟むようにして離隔対向して配置された4つの電極対(8つの電極)からなる第2方向電極群とからなる。なお、X方向とY方向とは、相互に直交する方向である。第1方向電極群を構成する4つの電極対は、第1電極対13a、第2電極対13b、第3電極対13cおよび第4電極対13dである。そして、これらの電極対13a〜13dは、図1の左側から右側に向かって順に等間隔に配置されている。また、第2方向電極群を構成する4つの電極対は、第5電極対13e、第6電極対13f、第7電極対13gおよび第8電極対13hである。そして、これらの電極対13e〜13hは、図1の上側から下側に向かって順に等間隔に配置されている。
【0050】
コネクタ14は、後述する制御部20と電気的接続のための部材である。このコネクタ14は、載置板11の上面のうち図1の左下角部であって、変形センサ12の周縁部よりも外方に配置されている。つまり、コネクタ14は、変形センサ12に対して離隔した位置に配置されている。
【0051】
配線15は、一端が電極対13a〜13hを構成するそれぞれの電極に接続され、他端がコネクタ14に接続されている。そして、それぞれの配線15は、載置板11の上面であって、変形センサ12の周縁部の外方に配置されている。つまり、配線15は、電極同様、変形センサ12の力受面12aが押圧外力を受けた場合に変形センサ12のうち曲げ弾性変形する領域に配置されていない。従って、変形センサ12の力受面12aが押圧外力を受けた場合であっても、配線15が直接押圧外力を受けることがない。
【0052】
制御部20は、電源回路21と、発振回路22と、スイッチ23と、周波数カウンタ24と、基準周波数記憶部25と、差分算出部26と、判定部27と、出力部28とから構成される。この制御部20は、変形センサ12の力受面12aに押圧外力を受けたか否かを判定し、力受面12aにおける押圧外力を受けた位置、さらには、押圧外力を受けたことに起因して力受面12aに生じる応力の相対値の分布を算出する。そして、算出された情報を、モニタ30に表示する。すなわち、モニタ30には、変形センサ12の力受面12aに相当する面が表示されており、力受面12aに生じる応力の相対値の分布を種々の色を用いて表示したり、色の明暗を用いて表示したりする。つまり、最も応力の相対値が高い部位が、押圧外力を受けた位置として表示される。なお、制御部20の詳細は、後述する「制御部20の詳細説明」の項目において説明する。
【0053】
(変形センサ12の材料説明)
次に、変形センサ12に用いるゴム弾性材、すなわち弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する性質を有するゴム弾性材について、図3を参照して詳細に説明する。図3(a)は、無負荷状態における変形センサ12の断面模式図であり、図3(b)は、負荷状態における変形センサ12の断面模式図である。なお、図3(b)において、無負荷状態の変形センサ12の形状を破線にて示す。
【0054】
この変形センサ部12のゴム弾性材は、所定のゴムからなるエラストマー12bと、エラストマー中に略単粒子状態で、且つ、高充填率で配合されている球状の導電性フィラー12cとを有するものである。ここで、所定のゴムからなるエラストマー12b自体は、絶縁性を有している。また、「略単粒子状態」および「高充填率で配合」については、上述した意味である。
【0055】
そして、無負荷状態では、図3(a)に示すように、導電性フィラー12cの多くは、エラストマー12b中に一次粒子状態で存在している。また、導電性フィラー12cの充填率は高く、最密状態で配合されている。これにより、無負荷状態において、変形センサ12には、導電性フィラー12cによる三次元的な導電パスPsが形成されている。従って、無負荷状態では、変形センサ12の電気抵抗が小さくなる。ただし、無負荷状態における変形センサ12の電気抵抗は、例えば金属などに比べると非常に大きい。
【0056】
一方、図3(b)に示すように、変形センサ12の力受面12aに外力(例えば、押圧外力)を受けた場合(負荷状態)には、変形センサ12は弾性変形する。ここで、導電性フィラー12cは最密状態に近い状態で配合されているため、導電性フィラー12cが移動できるスペースがほとんどない。従って、変形センサ12が弾性変形すると、導電性フィラー12c同士が反発し合い、導電性フィラー12c同士の接触状態が変化する。その結果、無負荷状態において形成されていた三次元的な導電パスPsが崩壊し、変形センサ12の電気抵抗が増加する。
【0057】
ここで、変形センサ12において、エラストマー12bに対して導電性フィラー12cの配合量を増加させるにつれて、変形センサ12の電気抵抗は低下する。具体的には、所定量のエラストマー12bに導電性フィラー12cを配合していく場合を考えると、導電性フィラー12cの配合量が少ない状態では、変形センサ12の電気抵抗は大きな値を示す。すなわち、この場合の変形センサ12の電気抵抗は、導電性フィラー12cを配合していない状態におけるエラストマー12b自体の電気抵抗にほとんど等しい。
【0058】
そして、導電性フィラー12cの配合量を増加させて、その配合量が所定の体積分率に達すると、変形センサ12の電気抵抗が急激に低下して、絶縁体−導電体転移が起こる(第1変極点)。この第1変曲点における導電性フィラー12cの配合量(体積%)を、臨界体積分率という。また、さらに導電性フィラー12cの配合量を増加していくと、所定の体積分率から、変形センサ12の電気抵抗の変化量が小さくなり、電気抵抗の変化が飽和する(第2変極点)。この第2変極点における導電性フィラー12cの配合量(体積%)を、飽和体積分率という。このような変形センサ12の電気抵抗の変化は、パーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー12b中に導電性フィラー12cによる導電パスPs(図3(a)に示す)が形成されるためと考えられている。そして、無負荷状態にて導電パスPsを適切に形成することができるために、飽和体積分率が35体積%以上とする。
【0059】
また、他の視点によれば、変形センサ12全体の体積を100体積%とした場合に、導電性フィラー12cの充填率を30体積%以上65体積%以下とするとよい。この場合にも同様に、導電性フィラー12cが一次粒子の状態で存在し、且つ、最密状態に近い状態で配合されているので、無負荷状態にて導電パスPsを適切に形成できる。
【0060】
変形センサ12を形成するゴム弾性材の具体的な一例を以下に挙げる。まず、油展EPDM(住友化学社製「エスプレン(登録商標)6101」)85質量部と、油展EPDM(住友化学社製「エスプレン601」34質量部と、EPDM(住友化学社製「エスプレン505」)30質量部と、酸化亜鉛(共に白水化学工業社製)5質量部と、スチアリン酸(花王社製「ルナック(登録商標)S30」)1部と、パラフィン系プロセスオイル(日本サン石油社製「サンパー(登録商標)110」)20質量部と、をロール練り機にて素練りした。
【0061】
次に、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」)、平均粒子径約5μm、硫度分におけるD90/D10=3.2)270質量部を添加して、ロール練り機にて混合し、分散させた。さらに、加硫促進剤として、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学社製「ノクセラー(登録商標)PZ−P」)1.5質量部、テトラメチルチウラムジスルフィド(三新化学社製「サンセラー(登録商標)TT−G」)1.5質量部、2−メルカプトベンゾチアゾール(大内新興化学社製「ノクセラーM−P」)0.5質量部と、硫黄(鶴見化学工業社製「サンファックスT−10」)0.56質量部とを添加して、ロール練り機にて混合し、分散させて、エラストマー組成物を調整した。
【0062】
このエラストマー組成物のパーコレーションカープにおける臨界体積分率は、約43体積%、飽和体積分率は約48体積%であった。次に、エラストマー組成物を所定の大きさ(本実施形態では正方形板状)に成形して、所定温度でプレス加硫により変形センサ12を成形した。成形された変形センサ12におけるカーボンビーズの充填率は、変形センサ12の体積を100体積%とした場合の約48体積%であった。
【0063】
(変形センサ12の電気抵抗の変化について)
次に、上述したように成形された変形センサ12の電気抵抗の変化の特性について、図4および図5を参照して説明する。図4は、変形センサ12の電気抵抗の変化を説明する図である。図5は、変形センサ12の曲率Cに対する電気抵抗の変化の関係を示す図である。
【0064】
まず、図4に示すように、変形センサ12を長尺板状とし、その両端に電極13を配置した。この場合に、変形センサ12の中央部に押圧外力を付加して、変形センサ12全体が図4の下側に湾曲するように曲げ弾性変形する状態を考える。このとき、無負荷状態における変形センサ12の長手方向長さをLとし、負荷状態における変形センサ12の両端の離間距離をL1とし、LとL1との差を曲げ歪距離Sとした場合に、曲率C(%)は、以下の式(1)により定義する。
【0065】
【数1】

【0066】
そして、押圧外力を適宜変更して曲率Cを変化させた状態において、そのときの電極13間の電気抵抗を計測した。この結果は、図5に示すように、曲率Cが増加するに従って、電極13間の電気抵抗が増加している。このことから、変形センサ12の弾性変形量が大きいほど、電気抵抗が増加するということが言える。
【0067】
(制御部20の詳細構成)
次に、変形センサシステムにおける制御部20の詳細構成について、図1、図6および図7を参照して説明する。図6は、制御部20の回路およびブロック図である。図7は、判定部27による力受面12aに生じる応力の相対値の分布の算出について説明する図である。
【0068】
制御部20は、図6に示すように、電源回路21と、発振回路22と、スイッチ23と、周波数カウンタ24と、基準周波数記憶部25と、差分算出部26と、判定部27と、出力部28とから構成される。電源回路21は、図6に示すように、後述する発振回路22の増幅器22aの正電源端子に接続されており、直流電圧を印加する回路である。
【0069】
発振回路22は、第1電気抵抗R1、第2電気抵抗R2、第3電気抵抗R3、コンデンサC1、増幅器22aにより構成され、負帰還回路を形成している。つまり、発振回路22は、CR発振回路を構成している。そして、第2電気抵抗R2および第3電気抵抗R3は、予め設定された電気抵抗からなる。また、コンデンサC1は、予め設定された所定容量からなる。そして、第1電気抵抗R1は、変形センサ12の電気抵抗としている。
【0070】
具体的には、増幅器22aの正電源端子に電源回路21が接続されている。また、増幅器22aの反転入力端子と出力端子との間に、変形センサ12が介在するようにされている。すなわち、増幅器22aの反転入力端子に、それぞれのスイッチ23を介して、電極対13a〜13hの一方電極がそれぞれ接続されている。一方、増幅器22aの出力端子に、電極対13a〜13hの他方電極がそれぞれ接続されている。つまり、変形センサ12により負帰還回路を形成している。
【0071】
ここで、それぞれのスイッチ23は、電極対13a〜13hのそれぞれと増幅器22aの反転入力端子との間に介在している。そして、後述する差分算出部26の指令に従って、スイッチ23の何れか1個がオンすることができる。つまり、スイッチ23により、8個の電極対13a〜13hの中から選択される電極対を順次切り替えて、増幅器22aの反転入力端子に接続している。つまり、第1電気抵抗R1は、第1電極対13aから第8電極対13hまで、順次切り替えられている。従って、ここでいう第1電気抵抗R1は、第1電極対13a間における変形センサ12の電気抵抗、第2電極対13b間における変形センサ12の電気抵抗、・・・、第7電極対13g間における変形センサ12の電気抵抗、第8電極対13h間における変形センサ12の電気抵抗が、順次切り替えられている。
【0072】
また、増幅器22aの反転入力端子には、コンデンサC1が接続されている。このコンデンサC1の他方は、接地している。さらに、第2電気抵抗R2は、増幅器22aの非反転入力端子と出力端子との間に接続されている。また、第3電気抵抗R3の一方は、増幅器22aの非反転入力端子に接続され、他方は接地している。
【0073】
この発振回路22の発振周波数は、式(2)のようになる。すなわち、スイッチ23により接続される電極対13a〜13h間における変形センサ12の電気抵抗が変化した場合に、発振回路22の発振周波数fは変化する。
【0074】
【数2】

【0075】
周波数カウンタ24は、発振回路22の発振周波数fをデジタル信号として計測する。つまり、発振回路22により発振されるアナログ信号に基づいて、そのアナログ信号の周波数をデジタル信号として計測する。ここで、周波数カウンタ24は、高分解能のものであっても、非常に安価である。例えば、この周波数カウンタ24は、マイクロコンピュータなどに内蔵されたものを用いることもできる。
【0076】
基準周波数記憶部25は、変形センサ12が押圧外力を受けていない場合、すなわち無負荷状態の場合に、周波数カウンタ24により計測された発振周波数fを基準周波数f0として予め記憶する。この基準周波数f0は、電極対13a〜13h毎に記憶している。つまり、この基準周波数f0は、それぞれの電極対13a〜13h間における無負荷状態時の変形センサ12の電気抵抗R1に起因して決定される。
【0077】
差分算出部26は、スイッチ23を順次切り替えてオンさせる。そして、差分算出部26は、変形センサ12が押圧外力を受けた場合、すなわち負荷状態の場合に、周波数カウンタ24により計測されたそれぞれの発振周波数f(以下、この発振周波数を「変形後周波数f1」と称する)と、基準周波数f0との差分Δf(以下、「周波数の差分」と称する)を算出する。例えば、第1電極対13aに接続されるスイッチ23がオンしている場合について説明する。変形センサ12が押圧外力を受けることにより、第1電極対13a間における変形センサ12の電気抵抗R1が変化する。この電気抵抗R1の変化は、発振回路22の発振周波数fに影響を及ぼす。つまり、この変形後周波数f1は、第1電極対13aの基準周波数f0と異なる値となる。そして、第1電極対13aにおける変形後周波数f1と基準周波数f0との差分Δfが算出される。このように、他の電極対13b〜13hについても、同様に、それぞれの周波数の差分Δfが算出される。
【0078】
ここで、発振回路22の発振周波数fは、変形センサ12の電気抵抗R1に応じて変化することは上述したとおりである。ただし、発振回路22に流れるのは交流電流であるため、発振周波数fは、正確には、電極対13a〜13h間におけるインピーダンスに応じて変化する。つまり、発振周波数fは、電極対13a〜13h間における電気抵抗R1のみならず、容量成分の影響を受ける。従って、基準周波数f0および変形後周波数f1は、何れも、電極対13a〜13h間の容量成分の影響を受ける。しかし、差分算出部25により算出される周波数の差分Δfは、電極対13a〜13h間の容量成分の影響を小さくなる。従って、この周波数の差分Δfは、実質的に、電極対13a〜13h間それぞれの電気抵抗R1の変化量ΔRにほぼ比例する。
【0079】
つまり、差分算出部26は、それぞれの電極対13a〜13h間の変形センサ12の電気抵抗R1の変化量ΔRに相当する周波数の差分Δfx1〜Δfx4、Δfy1〜Δfy4を算出する。なお、図7に示すように、周波数の差分Δfx1、Δfx2、Δfx3、Δfx4は、それぞれ、電極対13a、13b、13c、13d間における変形センサ12の電気抵抗R1の変化量に相当する周波数の差分である。また、周波数の差分Δfy1、Δfy2、Δfy3、Δfy4は、それぞれ、電極対13e、13f、13g、13h間における変形センサ12の電気抵抗R1の変化量に相当する周波数の差分である。
【0080】
判定部27は、差分算出部26により算出された周波数の差分Δfに基づいて、変形センサ12が押圧外力を受けたか否かを判定する。そして、変形センサ12が押圧外力を受けたと判定された場合には、判定部27は、さらに、変形センサ12の力受面12aが押圧外力を受けたことに起因して力受面12aに生じる応力の相対値の分布を算出する。ここで、この応力の相対値の分布は、実質的に、力受面12aが押圧外力を受けたことに起因して変形する力受面12aの変形挙動に相当する。つまり、応力の相対値が大きい位置では、変形量が大きくなる。
【0081】
ここで、電極対13a〜13h間における変形センサ12の電気抵抗R1は、応力が生じる力受面12aの位置によって、その影響度が異なる。この影響度について、図8を参照して説明する。例えば、図8のP1に所定の押圧外力Fを受けた場合に、第2電極対13b間の電気抵抗R1の変化量は、P2に同一の押圧外力Fを受けた場合に第2電極対13b間の電気抵抗R1の変化量より小さくなる。これは、押圧外力Fの位置P1、P2が、第2電極対13bを構成する電極から遠いほど、電気抵抗R1の変化量として表れる影響度が小さいためである。すなわち、第2電極対13b間の電気抵抗R1の変化量に対応する周波数の差分Δfx2と押圧外力Fの位置P3との関係は、式(3)に示すように定義できる。
【0082】
【数3】

【0083】
つまり、式(3)によれば、第2電極対13bを構成する電極を結ぶ線分上においては、押圧外力Fの位置Pが第2電極対13bを構成する両電極の中間に位置する場合が、最も周波数の差分Δfx2が小さくなる。一方、第2電極対13bを構成する電極を結ぶ線分上において、押圧外力Fの位置Pが第2電極対13bを構成する何れかの電極付近に位置する場合が、最も周波数の差分Δfx2が大きくなる。そして、電極付近から両電極の中間位置までにおいては、ほぼ乗数的に変化している。つまり、押圧外力Fの位置Pが第2電極対13bを構成する電極から遠ざかれば遠ざかるほど、その周波数の差分Δfx2の変化幅が大きくなる。
【0084】
このように、変形センサ12の力受面12aに同一の押圧外力を受けたとしても、その位置によって、電極対13a〜13h間をそれぞれ接続した場合における周波数の差分Δfが異なる。そこで、この関係を係数化して、当該係数に検出された周波数の差分Δfを掛け合わせることで、算出された値が、何れの位置に押圧外力を受けた場合であっても、同一の押圧外力を受けたのであれば、同一の値とするように補間している。
【0085】
そこで、当該係数としては、X方向に並列された電極対13a〜13dに関する係数である第1係数Kx、および、Y方向に並列された電極対13e〜13hに関する係数である第2係数Kyを用いる。なお、第1係数Kxは、力受面12aの位置に応じたY方向に関する係数であり、第2係数Kyは、力受面12aの位置に応じたX方向に関する係数である。
【0086】
つまり、当該係数Kx、Kyは、変形センサ12の力受面12aの位置と、その位置に応力が生じた場合に接続される電極対13a〜13hに応じた周波数の差分Δfとの関係に応じた係数である。そして、第1係数Kxと第2係数Kyとを有する理由は、変形センサ12の力受面12aの位置が同一であっても、Y方向に対向配置された第1電極対13a〜第4電極対13dと、X方向に対向配置された第5電極対13e〜第8電極対13hとでは、それぞれ周波数の差分Δfが異なるためである。
【0087】
そして、力受面12aに生じる応力の相対値の分布の算出について、図7を参照して説明する。ここで、説明の容易化のため、図7の変形センサ12の力受面12aの所定位置Pにおける応力Fの相対値を算出する場合を例に挙げて説明する。また、上述した係数Kx、Kyのうち所定位置Pにおける第1係数はKxpとし、第2係数はKypとして、説明する。
【0088】
まず、変形センサ12の周縁部のうち、所定位置Pを通りY方向(図7の上下方向)に離隔した位置に、仮想第1方向電極対13xが対向配置されたと仮定する。そして、仮想第1方向電極13xが増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続されたと仮定した場合に、周波数の差分Δfx(v)を、式(4)に従って算出する。
【0089】
【数4】

【0090】
すなわち、仮想第1方向電極13xが増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場合における周波数の差分Δfx(v)は、所定位置Pを挟むように位置する隣接した第1方向電極群の電極対が増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場合の周波数の差分Δfに基づいて算出される。図7においては、この周波数の差分Δfx(v)は、第1電極対13aおよび第2電極対13bがそれぞれ増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場間のそれぞれの周波数の差分Δfx1、Δfx2に基づいて算出される。そして、第1電極対13aと第2電極対13bとの間は、線形補間により算出している。
【0091】
さらに、変形センサ12の周縁部のうち、所定位置Pを通りX方向(図7の左右方向)に離隔した位置に、仮想第2方向電極対13yが対向配置されたと仮定する。そして、仮想第2方向電極13yが増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続されたと仮定した場合に、周波数の差分Δfy(v)を、式(5)に従って算出する。
【0092】
【数5】

【0093】
すなわち、仮想第2方向電極13yが増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場合における周波数の差分Δfy(v)は、所定位置Pを挟むように位置する隣接した第2方向電極群の電極対が増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場合の周波数の差分Δfに基づいて算出される。図7においては、この周波数の差分Δfy(v)は、第5電極対13eおよび第6電極対13fがそれぞれ増幅器22aの反転入力端子と出力端子に接続された場間のそれぞれの周波数の差分Δfy1、Δfy2に基づいて算出される。そして、第5電極対13eと第6電極対13fとの間は、線形補間により算出している。
【0094】
そして、所定位置Pにおける力受面12aに生じる応力Fpの大きさを、式(6)に従って算出する。
【0095】
【数6】

【0096】
このようにして、変形センサ12の力受面12a全面について、力受面12aに生じる応力Fの相対値を算出する。
【0097】
そして、出力部28が、判定部27にて算出された力受面12aに生じる応力の相対値の分布をモニタ30に表示する。すなわち、モニタ30には、変形センサ12の力受面12aに相当する面が表示されており、力受面12aに生じる応力の相対値の分布を種々の色を用いて表示したり、色の明暗を用いて表示したりする。図1においては、力受面12aに生じる応力が大きいほど、明るい色となるように表示されている。つまり、モニタ30において明るく表示された位置が、力受面12aにおいて最も応力の相対値が高い部位となる。従って、この部位が、押圧外力を受けたと判定できる。
【0098】
<第2実施形態>
上記第1実施形態においては、発振回路22として、第1電気抵抗R1、第2電気抵抗R2、第3電気抵抗R3、コンデンサC1、増幅器22aにより構成した。この他に、発振回路222として、タイマーICを適用することもできる。この場合の発振回路222について、図9を参照して説明する。なお、第2実施形態における発振回路222のうち、第1実施形態における発振回路22と同一構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0099】
発振回路122は、図9に示すように、第1電気抵抗R1と、第2電気抵抗R4と、第3電気抵抗R5と、コンデンサC2と、タイマーIC「555」122aとから構成される。ここで、第1電気抵抗R1は、変形センサ12の電気抵抗としている。
【0100】
具体的には、タイマーIC122aのVcc端子に、電源回路21が接続されている。また、電極対13a〜13hの一方電極が、スイッチ23を介して、タイマーIC122aのTRIG端子およびTHRES端子に接続されている。電極対13a〜13hの他方電極は、タイマーIC122aのDISCH端子に接続されている。第2電気抵抗R4の一方は、タイマーIC122aのDISCH端子に接続され、第2電気抵抗R4の他方は、Vcc端子に接続されている。また、第3電気抵抗R5の一方は、Vcc端子に接続され、第3電気抵抗R5の他方は、OUT端子に接続されている。また、コンデンサC2の一方が、タイマーICのTRIG端子およびTHRES端子に接続され、コンデンサC2の他方は接地している。そして、タイマーIC122aのOUT端子から出力信号を周波数カウンタ24に出力している。
【0101】
この場合の発振回路122の発振周波数は、式(7)のようになる。すなわち、スイッチ23により接続される電極対13a〜13h間における変形センサ12の電気抵抗が変化した場合に、発振回路122の発振周波数fは変化する。
【0102】
【数7】

【0103】
このように、発振回路122に、タイマーIC122aを適用した場合に、上述した第1実施形態における効果と同様の効果を奏することができる。さらに、タイマーIC122aは、非常に安価であるため、低コスト化を図ることもできる。
【0104】
(その他)
なお、上記実施形態において、判定部27は、変形センサ12の力受面12aに生じる応力の相対値の分布を算出した。この応力の相対値の分布は、上述したように、変形センサ12の変形挙動に相当するものである。つまり、変形センサ12の変形挙動を算出するものに適用することもできる。この他に、判定部27は、変形センサ12が押圧外力を受けたか否かのみを判定することもできる。特に、少なくとも電極が2個あれば、変形センサ12が押圧外力を受けたか否かを判定することができる。また、判定部27は、変形センサ12の力受面12aにおける押圧外力を受けた位置を判定することもできる。この押圧外力を受けた位置は、力受面12aに生じる応力の相対値のうち最も高い部位と推定できる。なお、変形センサ12が受ける外力として、押圧外力の他に、引張外力などに適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の変形センサシステムは、感圧センサおよび荷重センサなどとして用いることができる。その他に、医療用ロボットや産業用ロボットなどの触覚センサとして用いることもできる。触覚センサの一例として、人間型ロボットの皮膚などに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】変形センサシステムの全体構成図である。
【図2】無負荷状態および負荷状態における図1のA−A断面図である。
【図3】変形センサ12のゴム弾性材を説明する図である。
【図4】変形センサ12の電気抵抗の変化を説明する図を示す。
【図5】変形センサ12の曲率Cに対する電気抵抗の変化の関係を示す。
【図6】制御部20の回路およびブロック図である。
【図7】判定部27による力受面12aに生じる応力の相対値の分布の算出について説明する図である。
【図8】力受面12aに生じる応力が力受面12aの位置に応じて受ける影響度について説明する図である。
【図9】第2実施形態の発振回路222を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
10:センサ構造体、 20:制御部、 30:モニタ、
11:載置板、
12:変形センサ、 12a:力受面、 12b:エラストマー、
12c:導電性フィラー、
13a〜13h:電極対、
13x:仮想第1方向電極対、 13y:仮想第2方向電極対、
14:コネクタ、 15:配線、
21:電源回路、
22、122:発振回路、 22a:増幅器、 122a:タイマーIC「555」、
C1、C2:コンデンサ、 R2、R3、R4、R5:電気抵抗、
23:スイッチ、 24:周波数カウンタ、25:基準周波数記憶部、
26:差分算出部、 27:判定部、 28:出力部、
Ps:導電パス、
Kx:第1係数、 Ky:第2係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力を受けた場合に弾性変形し、弾性変形量に応じて電気抵抗が変化する弾性材からなる変形センサと、
前記変形センサの前記電気抵抗、所定容量のコンデンサ、および、増幅器により構成される発振回路と、
前記発振回路の発振周波数をデジタル信号として計測する周波数カウンタと、
前記変形センサが前記外力を受けていない場合に前記周波数カウンタにより計測された前記発振周波数を基準周波数として予め記憶する基準周波数記憶部と、
前記変形センサが前記外力を受けた場合に前記周波数カウンタにより計測された前記発振周波数と前記基準周波数との差分を算出する差分算出部と、
前記差分に基づいて前記変形センサが前記外力を受けたか否かを判定する判定部と、
を備えることを特徴とする変形センサシステム。
【請求項2】
前記変形センサは、前記弾性変形量が増加するに従って前記電気抵抗が増加するゴム弾性材からなる請求項1に記載の変形センサシステム。
【請求項3】
前記変形センサは、前記外力を受け得る力受面を有し、
前記変形センサシステムは、前記力受面を挟むように離隔して複数配置される電極を備え、
前記発振回路を構成する前記電気抵抗は、2個の前記電極間における前記変形センサの前記電気抵抗である請求項2に記載の変形センサシステム。
【請求項4】
前記電極は、3個以上からなり、
前記判定部は、前記差分に基づいて前記力受面における前記外力を受けた位置を判定する請求項3に記載の変形センサシステム。
【請求項5】
前記変形センサシステムは、3個以上の前記電極の中から選択される2個の前記電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、
前記発振回路を構成する前記電気抵抗は、前記スイッチにより順次切り替えて接続される2個の前記電極間における前記変形センサのそれぞれの前記電気抵抗であり、
前記差分算出部は、前記変形センサが前記外力を受けた場合におけるそれぞれの前記発振周波数と前記基準周波数との差分をそれぞれ算出し、
前記判定部は、算出されたそれぞれの前記差分に基づいて前記力受面における前記外力を受けた位置を判定する請求項4に記載の変形センサシステム。
【請求項6】
前記電極は、3個以上からなり、
前記判定部は、前記差分に基づいて、前記力受面が前記外力を受けたことに起因して前記力受面に生じる応力の相対値の分布を算出する請求項3に記載の変形センサシステム。
【請求項7】
前記変形センサシステムは、3個以上の前記電極の中から選択される2個の前記電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、
前記発振回路を構成する前記電気抵抗は、前記スイッチにより順次切り替えて接続される2個の前記電極間における前記変形センサのそれぞれの前記電気抵抗であり、
前記差分算出部は、前記変形センサが前記外力を受けた場合におけるそれぞれの前記発振周波数と前記基準周波数との差分をそれぞれ算出し、
前記判定部は、算出されたそれぞれの前記差分に基づいて、前記応力の相対値の分布を算出する請求項6に記載の変形センサシステム。
【請求項8】
前記電極は、3個以上からなり、
前記判定部は、前記差分に基づいて、前記力受面が前記外力を受けたことに起因して前記力受面の変形挙動を算出する請求項3に記載の変形センサシステム。
【請求項9】
前記変形センサシステムは、3個以上の前記電極の中から選択される2個の前記電極を順次切り替えて接続するスイッチを備え、
前記発振回路を構成する前記電気抵抗は、前記スイッチにより順次切り替えて接続される2個の前記電極間における前記変形センサのそれぞれの前記電気抵抗であり、
前記差分算出部は、前記変形センサが前記外力を受けた場合におけるそれぞれの前記発振周波数と前記基準周波数との差分をそれぞれ算出し、
前記判定部は、算出されたそれぞれの前記差分に基づいて、前記力受面の変形挙動を算出する請求項8に記載の変形センサシステム。
【請求項10】
前記ゴム弾性材は、所定のゴムからなるエラストマーと、前記エラストマー中に略単粒子状態で且つ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーとを有する請求項2〜9の何れか一項に記載の変形センサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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