変形可能な反射光学素子及びその駆動方法、光学系、並びに露光装置
【課題】設置が容易な機構を用いてかつ小さい力で、反射部材の反射面を種々の形状に変形可能とする。
【解決手段】照明光ILを反射するデフォーマブルミラー50であって、照明光ILを反射する凹面鏡よりなるミラー22と、ミラー22の反射面22dの裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24と、ミラーポスト24の先端部をミラーポスト24が延びる方向に交差する方向に変位させる荷重付与系58と、ミラーポスト24の先端部の変位を計測する位置センサ60と、を備える。
【解決手段】照明光ILを反射するデフォーマブルミラー50であって、照明光ILを反射する凹面鏡よりなるミラー22と、ミラー22の反射面22dの裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24と、ミラーポスト24の先端部をミラーポスト24が延びる方向に交差する方向に変位させる荷重付与系58と、ミラーポスト24の先端部の変位を計測する位置センサ60と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射面が変形可能な反射光学素子、この反射光学素子の駆動方法、その反射光学素子を有する光学系、及びこの光学系を備える露光装置に関する。さらに本発明は、その露光装置を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造工程の一つであるリソグラフィ工程においては、レチクル(又はフォトマスク等)に形成されているパターン、又は空間光変調器等で生成されるパターンを、投影光学系を介してフォトレジストが塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)の表面に転写するために、ステッパー等の一括露光型の露光装置、又はスキャニングステッパー等の走査露光型等の露光装置等が使用されている。
【0003】
これらの露光装置に搭載される投影光学系は、諸収差が所定の許容範囲内に収まるように組立調整が行われる。この際に、例えば歪曲収差や倍率誤差等の回転対称で、かつ低次数の収差成分が残存していても、これらの収差は投影光学系に装着されている通常の結像特性補正機構(例えば所定のレンズ及び/又はミラーの光軸方向の位置や傾斜角を制御する機構)によって補正することができる。これに対して、光軸上での非点収差(以下、センターアスと言う。)のような非回転対称な収差成分が残存している場合には、従来の通常の結像特性補正機構ではその補正は困難である。
【0004】
そこで、そのような非回転対称な収差成分を補正するために、投影光学系中の所定のミラーの側面の凸部をアクチュエータで微小量変形させることによって、そのミラーの反射面の形状を変形させるようにした補正機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この補正機構によれば、比較的小さい力でその反射面を変形させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の非回転対称な収差成分の補正機構は、投影光学系中のミラー側面の凸部を機械的に変形させていたため、その凸部の変形量とミラーの反射面の変形量との関係が複雑な関係にあった。そのため、その反射面を目標とする形状に高精度に変形させるのが困難であるとともに、その反射面を種々の複雑な形状に変形させるのが困難であった。
また、ミラーの反射面の形状を種々の形状に制御するためには、ミラー側面の凸部の数を増加することが好ましい。しかしながら、投影光学系の鏡筒の構造等から、ミラー側面の多数の凸部にそれぞれ変形機構を付加するのは困難であった。
【0007】
本発明の態様は、このような事情に鑑み、設置が容易な機構を用いて、反射光学素子の反射面を種々の形状に変形可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、変形可能な反射光学素子が提供される。この反射光学素子は、光を反射する反射部材と、その反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材と、その凸状の部材をその凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させる変位機構と、を備えるものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、複数の光学素子を含む光学系が提供される。この光学系は、本発明の変形可能な反射光学素子と、その反射光学素子のその変位機構を介してその凸状の部材を変位させ、収差を補正する制御装置とを備えるものである。
また、第3の態様によれば、露光光でパターンを照明し、その露光光でそのパターン及び投影光学系を介して基板を露光する露光装置において、本発明の光学系を備える露光装置が提供される。
【0010】
また、第4の態様によれば、反射光学素子の駆動方法が提供される。この駆動方法は、その反射光学素子が、本発明の複数組のその凸状の部材とその変位機構との組み合わせを備える反射光学素子で構成され、その複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応するその変位機構を介して変位させ、その反射部材の反射面を変形させる第1工程と、その少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じるその反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、その複数の凸状の部材のうち、その少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応するその変位機構を介して変位させる第2工程とを含むものである。
【0011】
また、第5の態様によれば、本発明の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材を、その凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させることによって、設置が容易な機構を用いてかつ小さい力で、その反射部材の反射面を種々の形状に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の一例の露光装置の本体部を示す断面図である。
【図2】図1中のデフォーマブルミラー50を示す断面図である。
【図3】図2のAA線に沿う断面図である。
【図4】(A)は図3中のX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63Xを示す断面図、(B)はミラーポスト24の支持方法の変形例を示す断面図である。
【図5】(A)はミラー裏面の入力荷重の第1の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図6】(A)はミラー裏面の入力荷重の第2の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図7】(A)はミラー裏面の入力荷重の第3の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図8】ツェルニケ係数で反射面の変形量を表す場合の誤差の一例を示す図である。
【図9】(A)はミラー裏面の複数の荷重点の一例を示す図、(B)はある荷重点に単位荷重をかけた状態を示す図、(C)は第1組の荷重セットを示す図である。
【図10】(A)は第1組の荷重セットとこれに対応するミラー反射面の変形量とを示す図、(B)は複数組の荷重セットを示す図である。
【図11】複数組の荷重セットの組み合わせから任意の反射面の変形量を得る方法の説明図である。
【図12】(A)は露光工程の準備工程の動作の一例を示すフローチャート、(B)は露光工程の一例を示すフローチャートである。
【図13】(A)は変形例のアクチュエータ及びバイアス部を示す断面図、(B)は変形例のミラーポストの支持方法を示す断面図である。
【図14】半導体デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例につき図1〜図12を参照して説明する。
図1は、本実施形態の露光装置EXの露光本体部を示す。露光装置EXは、一例としてスキャニングステッパーよりなる走査露光型の投影露光装置である。図1において、露光装置EXは、露光用の照明光IL(露光光)を発生する露光光源(不図示)と、照明光ILでレチクルR(マスク)を照明する照明光学系ILS(図1ではこの一部のみが表れている)と、レチクルRのパターンの像をウエハW(基板)の表面に形成する投影光学系PLとを備えている。さらに、露光装置EXは、レチクルRを保持して移動するレチクルステージ15と、ウエハWを保持して移動するウエハステージ32と、装置全体の動作を統括的に制御するコンピュータよりなる主制御系5(図2参照)とを備えている。
【0015】
以下、投影光学系PLのレチクルR側の部分光学系(後述の第1結像光学系G1)の光軸AX1に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面(本実施形態ではほぼ水平面)内で図1の紙面に平行にY軸を、図1の紙面に垂直にX軸を取って説明する。走査露光時のレチクルR及びウエハWの走査方向はY軸に平行な方向(Y方向)であり、レチクルRのパターン面及びウエハWの表面はXY面にほぼ平行である。また、X軸、Y軸、及びZ軸に平行な軸の回りの回転方向(傾斜方向)をθx方向、θy方向、及びθz方向とも呼ぶ。
【0016】
まず、投影光学系PL、レチクルステージ15、及びウエハステージ32を含む露光本体部は、フレーム機構によって支持されている。そのフレーム機構は、床面に設置されたフレームキャスタよりなるベース部材1と、ベース部材1の上面に設置された例えば3本(4本等でも可)の第1コラム2と、これらの第1コラム2の上面に例えば能動型の防振装置3A,3B(実際には3個又は4個配置されている)を介して設置された第2コラム4とを備えている。第2コラム4の底部に設けられた平板状の支持板部4aの中央のU字型の開口部に投影光学系PLが搭載されている。
【0017】
そのフレーム機構の近傍に設置された露光光源(不図示)は、ArFエキシマレーザ光源(発振波長193nm)であるが、その他にKrFエキシマレーザ光源(波長248nm)、又は固体レーザ(YAGレーザ若しくは半導体レーザ等)の高調波発生装置等も使用できる。その露光光源から射出された照明光ILは、照明光学系ILSに入射する。照明光学系ILSは、レチクルRのパターン面(下面)のX方向(非走査方向)に細長いスリット状の照明領域を照明光ILによりほぼ均一な照度分布で照明する。
【0018】
サブチャンバ14内に配置された照明光学系ILSは、例えば米国特許出願公開第2003/025890号明細書などに開示されるように、空間光変調器又は回折光学素子等を含む光量分布設定機構(不図示)、オプティカルインテグレータ(フライアイレンズ又はロッドインテグレータなど)等を含む照度均一化光学系(不図示)、レチクルブラインド等の可変視野絞り(不図示)、並びにレンズ11,13及びミラー12を含むコンデンサ光学系等を含んでいる。また、通常照明、2極照明、4極照明、又は輪帯照明等の照明条件に応じて、その光量分布設定機構が、照明光学系ILS内の瞳面(不図示)における照明光ILの光量分布を、光軸を中心とする円形領域、光軸を挟む2つの領域、光軸を挟む4つの領域、又は輪帯状の領域等でそれぞれ大きい光量となる分布に切り換える。
【0019】
レチクルRを通過した照明光ILは、投影光学系PLを介して、フォトレジスト(感光剤)が塗布された円板状の基板であるウエハ(半導体ウエハ)Wの表面の一つのショット領域のX方向に細長い露光領域に、レチクルRの照明領域内のパターンを投影倍率β(例えば1/4,1/5等)で縮小した像を形成する。本実施形態の投影光学系PLは反射屈折光学系である。投影光学系PLは、フランジ部44aによって支持板部4aに載置されている。照明光学系ILS及び投影光学系PLの照明光ILの光路はほぼ気密化され、これらの光路には、ほぼ真空紫外域の光に対して高透過率の気体(以下、「パージガス」と呼ぶ)であるドライエアー、窒素、又は希ガス(ヘリウム等)等が、供給用の配管20A等及び排気用の配管21A,21D等を介して供給されている。
【0020】
また、レチクルRは、レチクルホルダ(不図示)を介してレチクルステージ15の上面に保持され、レチクルステージ15はレチクルベース16のXY面に平行な上面に、Y方向に一定速度で移動可能に、かつX方向、Y方向、θz方向に変位可能な状態で載置されている。レチクルベース16は、第2コラム4の上端に固定されている。レチクルステージ15の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角はレーザ干渉計17によって計測され、この計測値及び主制御系5からの制御情報に基いて、リニアモータ等を含む駆動装置(不図示)がレチクルステージ15を駆動する。
【0021】
一方、ウエハWは、ウエハホルダ(不図示)を介してウエハテーブル31の上面に保持され、ウエハテーブル31はウエハステージ32の上面に固定されている。ウエハステージ32は、ウエハベース33のXY面に平行な上面にY方向に一定速度で移動可能に、かつX方向、Y方向にステップ移動可能に載置されている。ウエハベース33は、能動型の防振装置38A,38B等を介してベース部材1上に載置されている。ウエハステージ32の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角はレーザ干渉計34によって計測され、この計測値及び主制御系5からの制御情報に基いて、リニアモータ等を含む駆動装置(不図示)がウエハステージ32を駆動する。
【0022】
また、ウエハステージ32の内部には、ウエハテーブル31(ウエハW)のZ方向の位置(フォーカス位置)と、θx方向及びθy方向の傾斜角とを調整するためのフォーカス・レベリング機構が組み込まれている。投影光学系PLの下部側面に配置された投射光学系35Aと受光光学系35Bとから構成される斜入射方式の多点の焦点位置検出系(オートフォーカスセンサ)によって計測されるウエハWの複数の計測点でのフォーカス位置の情報に基いて、そのフォーカス・レベリング機構は、露光中に継続してウエハWの表面を投影光学系PLの像面に合焦させる。投射光学系35A及び受光光学系35Bは、投影光学系PLのフランジ部44aの底面に取り付けられたセンサーコラム36に取り付けられている。
【0023】
また、ウエハテーブル31の上部に、例えば米国特許第6,573,997号明細書等で開示されているシアリング干渉方式又はポイント・ディフラクション・干渉方式(PDI方式)の波面収差計測装置39が設けられている。波面収差計測装置39によって計測される投影光学系PLの波面収差の情報は図2の結像特性制御系6に供給される。結像特性制御系6では、通常の露光時には、例えば照明光ILの積算エネルギー等に基づいて、投影光学系PLの波面収差の変動量を逐次予測している。
【0024】
露光時には、不図示のアライメント系を用いてレチクルR及びウエハWのアライメントを行った後、ウエハステージ32をX方向、Y方向にステップ移動することで、ウエハWの露光対象のショット領域が露光領域の手前に移動する。その後、レチクルRの照明領域内のパターンの投影光学系PLによる像でウエハWの当該ショット領域を露光しつつ、レチクルステージ15及びウエハステージ32を介してレチクルRとウエハWとをY方向に投影光学系PLの投影倍率を速度比として同期移動する走査露光が行われる。そのステップ移動と走査露光とをステップ・アンド・スキャン方式で繰り返すことによって、ウエハWの全部のショット領域にレチクルRのパターンの像が露光される。
【0025】
次に、本実施形態の投影光学系PLの構成等につき詳細に説明する。図1において、反射屈折光学系からなる投影光学系PLは、レチクルRのパターンの第1中間像を形成する屈折型の第1結像光学系G1と、凹面鏡よりなるミラー22と2つの負屈折力のレンズL8,L9とから構成されて第1中間像とほぼ等倍の第2中間像を形成する第2結像光学系G2と、第2中間像からの光を用いてウエハW上にレチクルRのパターンの最終像を形成する屈折型の第3結像光学系G3と、デフォーマブルミラー50と、を備えている。デフォーマブルミラー50は、ミラー22を含み、ミラー22の反射面の形状を制御可能である。さらに、投影光学系PLは、第1結像光学系G1からの光を第2結像光学系G2に向かって偏向する反射面Aと、第2結像光学系G2からの光を第3結像光学系G3に向かって偏向する反射面Bとが形成された光路折り曲げ鏡FMを備えている。第1中間像及び第2中間像は、それぞれ反射面Aと第2結像光学系G2との間、及び第2結像光学系G2と反射面Bとの間に形成される。
【0026】
また、第1結像光学系G1及び第3結像光学系G3はZ軸に平行な光軸AX1を有し、第2結像光学系G2の光軸AX2は、光軸AX1と直交するように、かつY軸に平行に設定されている。更に、光路折り曲げ鏡FMの2つの反射面A,Bの交線(厳密にはその仮想延長面の交線)Cで光軸AX1と光軸AX2とが交差している。
第1結像光学系G1は、レチクルR側から順に、平行平面板L1、レンズL2,L3,L4,L5,L6,L7を配置して構成されている。第2結像光学系G2は、光の進行往路に沿ってレチクル側(即ち入射側)から順に、負のレンズL8及びL9と、ミラー22とを配置して構成されている。第3結像光学系G3は、光の進行方向に沿ってレチクル側から順に、レンズL10,L11と、開口絞りASと、レンズL12,L13とを配置して構成されている。開口絞りASの配置面は投影光学系PLの瞳面又はその近傍の面であり、ミラー22の反射面22dは、ほぼ第2結像光学系G2の瞳面の近傍に配置されている。すなわち、ミラー22の反射面22dは、投影光学系PLの瞳面とほぼ共役である。また、第1結像光学系G1及び第2結像光学系G2の瞳面(投影光学系PLの瞳面と共役な面)の近傍に、結像特性補正用の平行平面板を配置してもよい。なお、投影光学系PLの構成は任意である。
【0027】
本実施形態において、投影光学系PLを構成する全ての屈折光学素子(レンズ成分)の光学材料には合成石英又は蛍石(CaF2 結晶)を使用している。また、光路折り曲げ鏡FM及びミラー22は、一例として炭化ケイ素(SiC)或いはSiCとケイ素(Si)とのコンポジット材の反射面にアルミニウム等の金属膜、又は誘電体多層膜を被着することにより形成される。このとき、脱ガス防止のためにミラー22全体を炭化ケイ素等でコーティングすることが好ましい。また、ミラー22の材料としては、コーニング社のULE(Ultra Low Expansion:商品名)などの低膨張材料、又はベリリウム(Be)を用いても良い。ベリリウムを用いる場合には、ミラー22全体を炭化ケイ素等でコーティングすることが好ましい。
【0028】
また、第1結像光学系G1の平行平面板L1、レンズL2〜L7は、それぞれ輪帯状のレンズ枠42A,42B,42C,42D,42E,42F,42Gを介して円筒状の分割鏡筒41A,41B,41C,41D,41E,41F,41G内に保持され、分割鏡筒41A〜41Gは光軸AX1に沿って気密性を保持する状態で例えば対向するフランジ部(不図示)をボルト(不図示)で固定して連結されている。レンズ枠42B〜42G等には上記のパージガスを流通させるための複数の開口が形成されている(以下同様)。
【0029】
同様に、第3結像光学系G3のレンズL10,L11,L12,L13は、それぞれ輪帯状のレンズ枠42H,42K,42I,42Jを介して円筒状の分割鏡筒41H,44,41I,41J内に保持されている。開口絞りASは、分割鏡筒44,41Iに挟まれた分割鏡筒41K内に保持され、分割鏡筒41H,44,41K,41I,41Jは気密性を保持する状態で連結されている。そして、分割鏡筒44にフランジ部44aが設けられている。分割鏡筒41G,41H間に+Y方向に開口が設けられた円筒状の分割鏡筒43が連結され、分割鏡筒43内の突部に保持枠43aを介して光路折り曲げ鏡FMが固定されている。分割鏡筒41A〜41K,43,44より第1の部分鏡筒7が構成されている。
【0030】
また、図2の結像特性制御系6の制御のもとで、例えばレンズ枠42A〜42Eを駆動して、平行平面板L1、レンズL2〜L5をZ方向、θx方向、θy方向に微動することによって、投影光学系PLのディストーション及びコマ収差等の回転対称で比較的低次の収差を補正する回転対称な結像特性補正機構(不図示)が設けられている。このような回転対称な結像特性補正機構としては、例えば米国特許出願公開第2006/244940号明細書に開示されている機構を使用可能である。
【0031】
また、第2結像光学系G2のレンズL8,L9は、それぞれ保持枠46A,46Bを介して、円筒型の分割鏡筒45,41L内に保持され、ミラー22を含むデフォーマブルミラー50は、分割鏡筒41Lに連結されて保持されている。デフォーマブルミラー50は、投影光学系PLの結像特性としてのセンターアス等の非回転対称な収差及び高次の収差を含む波面収差を補正するための補正機構でもある。本実施形態では、その波面収差をツェルニケ(Zernike)多項式の係数(以下、ツェルニケ係数Ziという)で表すものとする。図2の結像特性制御系6は、通常の露光時には、予測される投影光学系PLの結像特性の変動量のうち、回転対称で比較的低次の収差を除く波面収差(例えば5次〜81次のツェルニケ係数Ziで表される収差)の情報を図2の収差制御系9に供給する。収差制御系9では、その波面収差を補正するようにデフォーマブルミラー50のミラー22の反射面を変形させる。収差制御系9には、デフォーマブルミラー50を駆動するための情報が記憶された記憶装置10が連結されている。
【0032】
デフォーマブルミラー50は、分割鏡筒41Lに連結されて、ミラー22がホールドブロック23を介して収納された円筒状の分割鏡筒47と、分割鏡筒47の+Y方向の開口を覆うように分割鏡筒47の端面に固定された仕切り板53と、仕切り板53の外面53aに設けられてミラー22の反射面を変形させる駆動系54と、仕切り板53に駆動系54を覆うように固定されたハウジング55と、を備えている。駆動系54は、ミラー22の裏面22eに連結された複数の棒状のミラーポスト24の先端にそれぞれX方向及びZ方向の荷重を付与する。本実施形態では、ミラーポスト24の先端にかかるX方向、Z方向の荷重にほぼ比例してその先端がX方向、Z方向に変位するため、その先端に対する荷重の付与はその先端を変位させることと等価である。
【0033】
図2に示すように、仕切り板53は複数のボルト40Aを介して分割鏡筒47に固定され、ハウジング55は複数のボルト40Bを介して仕切り板53に固定されている。また、図2のAA線に沿う断面図である図3に示すように、外形がほぼ円柱状のミラー22の側面に等角度間隔で3箇所の凸の保持部22a,22b,22cが形成され、保持部22a〜22cがそれぞれ分割鏡筒47の内面に固定されたホールドブロック23A,23B,23Cに保持されている。ミラー22は、3つのホールドブロック23A〜23Cによってキネマティックに安定に支持されている。なお、ホールドブロック23A〜23Cは、図1では代表的に一つのホールドブロック23で表されている。
【0034】
また、ミラー22の反射面22dとは反対側の面(裏面)22eに、ミラー22と一体的に複数の凸部25が形成され、複数の凸部25の先端部にそれぞれほぼY方向に伸びた棒状のミラーポスト24の連結部24a,24bが連結されている。
なお、凸部25は、ミラー22と一体的に形成せずに、凸部25をミラー22の裏面に螺合させたり、接着剤等で固定してもよい。
複数のミラーポスト24の円柱状の先端部24eは、それぞれ仕切り板53に設けられた開口53bを通して仕切り板53の外面53a側に突き出ている。ミラーポスト24は一例として金属製であり、ミラーポスト24は、先端部24eから連結部24a,24bまで一体的に形成されている。ミラー22の先端部24eと連結部24a,24bとの間に、先端部24eをX方向、Z方向に弾性変形によって容易に変位させるための直径が細くなった2箇所のヒンジ部24c,24d(図4参照)が形成されている。これによって先端部24eにX方向、Z方向に荷重を加えたときに先端部24eの変位が大きくなるため、後述のように位置センサ60によって先端部24eの変位を計測し、この変位から荷重を求める際の計測精度が向上する。なお、例えば先端部24eの変位をより高い分解能(精度)で計測する場合には、必ずしもヒンジ部24c,24dを設ける必要はない。
【0035】
また、仕切り板53の外面53aの各開口53bの近傍に、それぞれミラーポスト24の先端部24eにX方向及びZ方向への荷重を与えて先端部24eをX方向及びZ方向に変位させるX軸及びZ軸のアクチュエータ59X,59Zよりなる荷重付与系58と、ミラーポスト24の先端部24eにX方向及びZ方向への力(予圧又はバイアス力)を与えるX軸及びZ軸のバイアス部63X,63Zよりなるバイアス系62とが固定されている。複数のミラーポスト24に対応して設置された複数の荷重付与系58及びバイアス系62を含んで駆動系54が構成されている。本実施形態では、ミラーポスト24の先端部24eにX方向、Z方向への荷重を付与すると、テコの原理によって対応するミラー22の凸部25に大きい応力が作用し、この応力によってミラー22の反射面22dが点線B2で示すように変形する。この際に、予め複数のミラーポスト24の先端部24eにかかる荷重(又は先端部24eの変位)と反射面22dの変形量(例えば波面収差で表される)との変換関係の情報が求められており、この情報が記憶装置10に記憶されている。なお、ミラー22の裏面22eからミラーポスト24の先端部24eまでの高さは、一例として数10mmである。
【0036】
さらに、各ミラーポスト24の先端部24eの端面に2次元の格子パターン61が形成され、各先端部24eに対応する位置のハウジング55の内面にそれぞれその格子パターン61のX方向、Z方向への変位を計測する位置センサ60が固定されている。位置センサ60は、一例として格子パターン61に対応するパターンが形成された参照部材60a(図4(A)参照)を備えており、検出光を用いて参照部材60aに対する格子パターン61の変位を検出する光学式センサである。ただし、位置センサ60としては、静電容量式又は磁気式等の他の方式のセンサも使用可能である。複数の位置センサ60の検出信号は検出信号処理系57に供給される。検出信号処理系57では、位置センサ60で検出されるj番目(j=1,2,…)のミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への所定の基準位置(例えば可動範囲の中央の位置)からの変位ΔXMj,ΔZMjより、その先端部24eにかかるX方向、Z方向への荷重fXMj,fZMjを求め、このようにして求めた荷重の情報をアクチュエータ制御系56に供給する。
【0037】
収差制御系9は、結像特性制御系6から供給される補正対象の波面収差(ミラー22の反射面の目標変形量の情報)、及び記憶装置10の上記の変換関係の情報からj番目のミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への目標荷重fXTj,fZTjを算出し、算出された目標荷重fXTj,fZTjの情報をアクチュエータ制御系56に供給する。アクチュエータ制御系56は、検出信号処理系57から供給されるj番目のミラーポスト24の先端部24eの計測される荷重fXMj,fZMjがその目標荷重fXTj,fZTjとなるように、対応する荷重付与系58の動作を制御する。ミラーポスト24の個数をn(nは2以上の整数)とすると、各ミラーポスト24の先端部24eの変位(荷重が付与される方向)の自由度は2であるため、全体としてのミラー22の反射面の変形の自由度は2nとなる。
【0038】
図3に示すように、複数のミラーポスト24は、ミラー22の裏面22eの光軸上の位置を中心とする例えば16箇所(n=16)に配置されている。以下では、各ミラーポスト24の先端部24eが基準位置にあるときの先端部24eの中心を荷重点Pj(j=1,2,…,16)と呼ぶこととする。光軸上の荷重点はP8である。一例として、荷重点P2,P8はZ軸に平行な直線上に配置され、荷重点P6,P7,P8,P9,P10はX軸に平行な直線C3上に配置され、荷重点P1,P4,P8,P13,P16はZ軸に対して時計回りに30°回転した直線に平行な直線C1上に配置されている。また、荷重点P3,P5,P8,P12,P15はZ軸に対して反時計回りに30°回転した直線に平行な直線C2上に配置され、荷重点P8,P11を結ぶ直線は、X軸に平行な直線に対して時計回りに30°回転した直線である。また、荷重点P3,P5,P9,P10,P13,P14,P16は、荷重点P2,P8を結ぶ直線に関して荷重点P1,P4,P7,P6,P12,P11,P15と対称である。なお、ミラーポスト24の個数n(荷重点Piの個数n)及びその配置は任意である。
【0039】
ここで、図2の一つのミラーポスト24並びにこれに対応するX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63X等の構成につき図4(A)を参照して説明する。なお、Z軸のアクチュエータ59Z及びバイアス部63Zは、それぞれX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63Xをミラーポスト24の回りに90°回転した構成であるため、その説明を省略する。
【0040】
図4(A)において、ミラー22の裏面22eに正方形の角柱状の凸部25が形成され、ミラーポスト24の下端に、凸部25をX方向及びZ方向に挟む連結部24a及び24bが形成されている。連結部24a,24bには切り欠き部によってヒンジ部24a1等が設けられ、連結部24a,24bの先端を不図示の保持具で開いた状態で、その先端を凸部25の外面に移動して、その先端を閉じることによって、ミラーポスト24を連結部24a,24bを介して凸部25に連結できる。
【0041】
また、アクチュエータ59Xは、仕切り板53に固定されたベース部材66と、ベース部材66の側面にヒンジ部68aを介してZ軸に平行な軸の回りに所定の角度範囲内で回転可能に連結されたL字型の変位変換部68と、を有する。一例として変位変換部68とベース部材66とは金属よりなり、かつ一体的に形成されている。なお、変位変換部68を回転軸受けを介してベース部材66に連結してもよい。さらに、アクチュエータ59Xは、ベース部材66に固定されて変位変換部68の一方の端部68bをY方向に変位させるピエゾ素子又は超音波モータ等の駆動素子67と、変位変換部68のX方向に変位可能な他方の端部68cとミラーポスト24の先端部24eとを連結する棒状の連結部材69と、を有する。一例として金属製の連結部材69は、先端部24eにネジ部によって結合されており、変位変換部68の端部68cと連結部材69とはボルトによって結合されている。ミラーポスト24の先端部24eは、Z方向にも変位するため、連結部材69にはX軸に垂直な方向に可撓性を持つ直径が小さいヒンジ部69aが形成されている。
【0042】
また、バイアス部63Xは、仕切り板53に固定された支持部材64と、支持部材64の先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間に設けられて、先端部24eを支持部材64側に引く力を常時与えるコイルばね65と、を有する。なお、例えば駆動素子67の変位部と変位変換部68の端部68bとが結合されている場合には、バイアス部63X(バイアス系62)を省略することが可能である。
【0043】
アクチュエータ59X及びバイアス部63Xによって、ミラーポスト24の先端部24eを、点線で示す反時計回りに回転した状態A1と時計回りに回転した状態A2との間の任意の位置に変位させることができる。その変位(荷重)に応じて、テコの原理によってミラー22の凸部25に応力が作用する。このようにテコの原理を用いることによって、アクチュエータ59Xで発生する荷重が小さい場合でも、ミラー22には大きい応力を与えることができ、ミラー22の反射面を容易に大きく変形させることができる。
【0044】
なお、図4(B)に示すように、ミラー22の裏面22aの凸部25の周囲に所定の深さの溝部25Sを形成してもよい。これによって、ミラーポスト24の先端部24eに対するX方向(又はZ方向)への荷重(変位)が同じでも、ミラー22の凸部25にかかる応力が大きくなり、ミラー22の反射面の変形量を大きくできる場合がある。
次に、ミラー22の反射面22dに所望の変形量(変形分布)を与えるために、ミラー22の裏面22eの各荷重点Pj(ミラーポスト24の先端部24e)に付与する荷重の分布である入力荷重の例につき説明する。まず、ミラー反射面に、図5(C)に示すように(等高線の間隔は波長の0.001倍である。以下同様。)、5次のツェルニケ係数(Z5)で1λ(λは照明光ILの波長)に相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図5(A)に示す分布となる。図5(A)において、円周E1の半径は1kgf(1kg重)の荷重に対応しており、ベクトルE2は荷重点P4にかかる荷重の大きさ及び方向を表している(他の荷重点のベクトルも同様である)。また、この入力荷重は、図5(B)に示すように、ミラー22を保持するホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5(それぞれ大きさが4gf)の和(合力)が0で、かつ力E3,E4,E5によってミラー22に作用するモーメントの和(合モーメント)が0になるように設定されている。これによって、ミラー22の反射面を変形させた状態でも、ミラー22を光軸に垂直なX方向、Z方向に並進移動させる力、及びミラー22を光軸の回りに回転させるモーメントが作用しないため、ホールドブロック23A〜23Cによってミラー22を安定に保持できる。なお、ミラー22がホールドブロック23A,23B,23Cに対して横ずれを起こさないために、ホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5はそれぞれ0であることが好ましい。上述のようにホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5が生じるときでも、これらの力E3〜E5は、ホールドブロック23A〜23Cの保持力よりも十分に小さく抑えられているため、ミラー22が横ずれを起こすことはない。
【0045】
なお、図5(C)のミラー反射面の変形は、回転対称の結像特性の補正機構を用いてミラー22の屈折力及び傾斜角を補正することによって、容易に図5(D)に示すように光軸を中心とする変形に変換できる。従って、図5(C)のミラー反射面の変形量は図5(D)の変形量と実質的に等価である。
また、ミラー反射面に、図6(C)に示すように、10次のツェルニケ係数(Z10)で1λに相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図6(A)に示す分布となる。この入力荷重も、図6(B)に示すように、ミラー22に対する合力が0で、かつ合モーメントが0になるように設定されている。図6(C)のミラー反射面の変形量は、屈折力及び傾斜角を補正することで図6(D)の変形量と実質的に等価である。
【0046】
さらに、ミラー反射面に、図7(C)に示すように、14次のツェルニケ係数(Z14)で1λに相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図7(A)に示す分布となる。この入力荷重も、図7(B)に示すように、ミラー22に作用する合力が0で、かつ合モーメントが0になるように設定されている。図7(C)のミラー反射面の変形量は、屈折力及び傾斜角を補正することで図7(D)の変形量と実質的に等価である。
【0047】
このようにして、ミラー22の反射面22dに、5次から35次までのツェルニケ係数Zi(Z5〜Z35)でそれぞれ1λに相当する変形量を与えるために、ミラー22の裏面の荷重点Pjに合力が0で合モーメントが0となる最適な入力荷重を与えた場合の、反射面22dの形状誤差を図8に示す。図8において、横軸はツェルニケ係数Ziであり、縦軸はRMS(root mean square)(λ)で表した形状誤差である。
【0048】
次に、デフォーマブルミラー50を用いて投影光学系PLの波面収差を補正しながらウエハを露光する動作の一例につき図12(A)及び(B)のフローチャートを参照して説明する。まず、図12(A)の準備工程のステップ102において、図2の結像特性制御系6内の演算部では、ミラー22の裏面のn個の荷重点Pj(ミラーポスト24の先端部24e)にそれぞれX方向及びZ方向の単位荷重を付与した場合のミラー22の反射面の変形量の割合(レート)を、1次から81次までのツェルニケ係数Zi(i=1〜81)の変化量Za,b(a=1〜81,b=1〜2n)で表す。荷重の付与方法の自由度は2nであり、その変化量を行列で表すと次式が得られる。この行列は記憶装置10に記憶される。なお、変化量Za,bはコンピュータのシミュレーションで求めることも可能であるが、変化量Za,bは、実際に駆動系54から各荷重点Pjに単位荷重を付与したときに図1の波面収差計測装置39によって計測される波面収差の変動量から求めてもよい。
【0049】
また、説明の便宜上、ミラー22の裏面の荷重点Pjを図9(A)の荷重点P1〜P7として、図9(B)に示すように、ある一つの荷重点(例えばP7)にある方向の単位荷重を付与するものとする。
【0050】
次のステップ104において、図9(C)に示すように、その荷重点P7以外の複数の荷重点(例えば荷重点P1〜P6)に合力が0で合モーメントが0となるような方向と大きさの荷重を付与する。このように合力が0で合モーメントが0となるような荷重の分布を持つ1組の荷重を荷重セットと呼ぶ。図9(C)の荷重セットは第1の荷重セットLS1である。説明の便宜上、図9(A)の荷重点Pjが配置される直交座標系を(x,y)として、i番目の荷重点Piのx方向の座標をxi、y方向の座標をyi、荷重点Piに作用する荷重がx方向に対してなす角度をφiとする。このとき、荷重点Piに作用する荷重による原点の回りのモーメントmiは次のようになる。
【0051】
また、各荷重点Pjに2つの自由度で作用する荷重をfiとすると、全部で自由度が2nの荷重によるミラー22に対する合力(x方向の合力Fx、y方向の合力Fy)及び合モーメントMは次のように表される。
【0052】
このとき、i番目の荷重点Piに対する荷重が1のときに、式(12)の合力及び合モーメントが0となる組み合わせを求めるものとする。このために式(12)の左辺のFx,Fy,Mに0を代入すると次式が得られる。なお、fc,iは、i番目の荷重点Piの荷重が1のときの他の荷重点Pjの荷重である。
【0053】
式(13)を変形すると次式が得られる。
【0054】
【0055】
この式をベクトルFiについて解くことにより、荷重fc,iひいては第1の荷重セットLS1を求めることができる。しかしながら、nが3以上の整数であるとすると、行列Miは3行×(2n−1)列の非正則行列であり、逆行列を持たない。すなわち、行列Miにおいては、列数が行数よりも大きくなるため、解は無限通り存在する。このため、一例として、次のムーア・ペンローズ(Moore-Penrose)の一般逆行列を用いる。なお、行列MTiは行列Miの転置行列である。
M+i=MTi(MiMTi)-1 (15)
式(15)の一般逆行列を用いてベクトルFiを次のように表すものとする。
【0056】
式(16)で表されるベクトルFiは式(14)を満たし、かつ次式により定められるベクトルFiのノルムを最小にする解である。
【0057】
すなわち、式(16)で表されるベクトルFiは、i番目の荷重点Piに単位荷重を与えたときに、合力及び合モーメントが0になるように、かつ全体として最小の力となるように他の荷重点Pjに与えられる力(ステップ104で他の荷重点に付与される荷重)の解である。
【0058】
次のステップ106において、i番目の荷重点Piに単位荷重を与え、他の荷重点Pjに式(16)の荷重を与えたときのミラー22の反射面の変形量を、図10(A)に示すようにツェルニケ係数Ziの変化量Za,b(a=1〜81,b=i)に換算して求める。変化量Za,bは、図1の波面収差計測装置39による計測で求めてもよいが、式(10)に要素数が2nの荷重のベクトルFiを乗算して求めてもよい。次のステップ108において、その第1組の荷重セットLS1及び反射面の変形量は記憶装置10に記憶される。次のステップ110において、ステップ102〜108を繰り返すことによって、図10(B)に示すように、他の組の荷重セットLS2,LS3,…及びこれらの荷重セットに対応するミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Ziの変化量Za,b)が求められて、記憶装置10に記憶される。
【0059】
この場合、n個の荷重点Pjに対する荷重のかけ方には2n通りの自由度があるが、本実施形態では、ミラー22に対するX方向の合力(X方向の並進力)、Z方向の合力(Z方向の並進力)、及び光軸の回りの合モーメントがそれぞれ0であるという3つの条件が加わるため、互いに独立な荷重セットの組は(2n−3)通りとなる。これらの全部の荷重セットの荷重fa,b(a=1〜2n,b=1〜2n−3)を行列で表すと、下記の行列Wloadsetが得られる。
【0060】
また、各荷重セットに関してステップ106で求められるミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Ziの変化量Za,b)を行列で表すと、式(19)のツェルニケ感度レート行列Rset->Zが得られる。なお、ツェルニケ感度レート行列Rset->Zは、式(10)の行列RF->Zに式(18)の行列Wloadsetを掛けても得られる。このツェルニケ感度レート行列Rset->Zは記憶装置10に記憶される。これによって準備工程が終了する。
【0061】
【0062】
次に、本実施形態の露光装置EXにおいて、図12(B)の露光工程が開始されると、ステップ112において、レチクルステージ15にレチクルRがロードされ、ステップ114において、照明光学系ILSで照明条件が設定され、レチクルRのアライメントが行われる。次のステップ116でウエハテーブル31にフォトレジストが塗布された未露光のウエハWがロードされ、ウエハWのアライメントが行われる。次のステップ118で、結像特性制御系6は照明光ILの積算エネルギー等に基づいて投影光学系PLの結像特性の変動量を算出する。さらに、ステップ120において、結像特性制御系6は、その結像特性の変動量を補正するためのミラー22の反射面の目標変形量を算出し、算出結果を収差制御系9に供給する。次のステップ122において、収差制御系9は、その目標変形量を実現するために、ミラー22の裏面の複数のミラーポスト24の荷重点に付与する荷重を規定する各荷重セットLSi等の重みsi(i=1〜2n−3)を算出する。これは、図11に示すように、目標とする変形量をツェルニケ係数Ziで表したときに、その変形量を実現するための各荷重セットLS1,LS2等の重みa,b等を決定することを意味している。
【0063】
この場合、式(19)のツェルニケ感度レート行列Rset->Z及びその重みsiを要素とするベクトルSを用いると、ミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Z1〜Z81に換算した変形量Za(a=1〜81))を表すベクトルZは、次の式(20)及びこれと等価な式(21)を満たす。
【0064】
【0065】
式(21)をベクトルS(重みsi)について解くことができれば、各荷重セットLSiの重みが求められたことになる。ところが、式(21)中のツェルニケ感度レート行列Rset->Zは、81行×(2n−3)列の非正則行列であり、逆行列を持たない。また、行列Rset->Zにおいては、nが42より小さい通常の状態では、行数が列数よりも大きいため、厳密な解析解は存在せず、解には必ず誤差が存在する。そこで、本実施形態では、生成されるミラー22の面形状の誤差を最小にするように、複数の荷重セットの重みのベクトルSを算出する。そのために、次の対角行列WRMSを想定する。この対角行列の対角成分は、各ツェルニケ係数Ziから面形状の誤差(RMS(root mean square)で表される誤差)への変換係数である。
【0066】
そして、式(21)の両辺に左から式(22)の対角行列WRMSを掛けることによって、次式が得られる。
WRMSZ=WRMSRset->ZS (23)
【0067】
ここで、ツェルニケ係数ZiのRMSで表現した誤差を要素とするベクトルZRMS及び行列Rset->RMSを用いると、式(23)は次のようになる。
ZRMS=Rset->RMSS (24)
ただし、ベクトルZRMS及び行列Rset->RMSは次のように定義されている。
ZRMS≡WRMSZ (25)
Rset->RMS≡WRMSRset->Z (26)
式(21)はツェルニケ係数Ziを用いて表した式であるが、式(24)は、ツェルニケ係数ZiのRMSで表現した誤差を用いて表した式である。
【0068】
次に、式(26)の行列Rset->RMSに対して、ムーア・ペンローズの一般逆行列を適用すると、次式で表される行列R+set->RMSが得られる。なお、行列RTset->RMSは行列Rset->RMSの転置行列である。
R+set->RMS=(RTset->RMSRset->RMS)-1RTset->RMS (27)
【0069】
式(27)を式(24)に適用することによって、収差制御系9は、ベクトルS(重みsi)を次のように計算する。
S=R+set->RMSZRMS (28)
この式によって求めたベクトルSは、近似解であるため、ベクトルSを式(24)に代入すると左辺に次のような誤差eRMSが生じる。
ZRMS+eRMS=Rset->RMSS (29)
【0070】
誤差eRMSの各成分は、ツェルニケ係数Ziで表される面形状の誤差のRMSである。ムーア・ペンローズの一般逆行列の性質より、式(28)のベクトルSは、誤差eRMSの各成分の自乗和が最小になるように算出される。誤差eRMSの各成分の自乗和は、ミラー22の反射面の形状誤差のRMSの自乗であるため、式(28)からベクトルSを計算することによって、反射面の形状誤差(RMS)を最小にする複数の荷重セットLSiの重みsi(i=1〜2n−3)を算出できたことになる。
【0071】
次のステップ124において、収差制御系9は、ステップ122で求めた荷重セットLSiの重みsi(i=1〜2n−3)よりなるベクトルSと式(18)の行列Wloadsetとを用いて、次式からミラー22の裏面のn個のミラーポスト24の先端部24eにX方向、Z方向に加える荷重(又は先端部24eのX方向、Z方向への変位よりなる駆動量)fi(i=1〜2n)を算出する。荷重fiを成分とするベクトルがFである。これは、複数の荷重セットの加重和によって各ミラーポスト24に対する加重を算出することを意味している。
F=WloadsetS (30)
【0072】
次のステップ126において、収差制御系9は図2のアクチュエータ制御系56にその2n個の荷重fiを供給する。これによって、各ミラーポスト24の先端部24eにそれぞれX方向、Z方向に設定された荷重(ひいては変位)が付与され、その荷重がテコの原理によって応力としてミラー22に作用し、ミラー22の反射面22dは目標とする形状に変形される。従って、投影光学系PLの結像特性の変動量は、回転非対称な成分及び高次の成分を含めて高精度に補正されるため、レチクルRのパターンの像が投影光学系PLを介してウエハWの表面に高精度に形成される。
【0073】
この状態で次のステップ128において、照明光ILの照射が開始され、レチクルRのパターンの像がステップ・アンド・スキャン方式でウエハWの各ショット領域に露光される。その後、ステップ130で露光済みのウエハWのアンロードが行われ、次のステップ132で次のウエハへの露光を行う場合には、ステップ116〜130が繰り返される。そして、ステップ132で未露光のウエハがなくなったときに露光工程が終了する。この際に、投影光学系PLの結像特性が高精度に補正されているため、レチクルRのパターンの像を高精度にウエハWの各ショット領域に露光できる。
【0074】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態のデフォーマブルミラー50は、照明光ILを反射する凹面鏡よりなるミラー22と、ミラー22の反射面22dの裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24と、ミラーポスト24の先端部24eにミラーポスト24が延びる方向にほぼ直交するX方向及びZ方向に荷重を与えてその先端部24eをX方向及びZ方向に変位させる荷重付与系58(アクチュエータ59X,59Zよりなる変位機構)と、を備えている。
【0075】
本実施形態によれば、ミラー22の裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24の先端部24eに、そのミラーポスト24の長手方向(ほぼY方向)にほぼ直交する方向に荷重を与える(変位を与える)ことによって、テコの原理によって小さい荷重でミラー22の反射面22dを変形させることができる。また、ミラー22の裏面22eには、ミラーポスト24が個数が多い場合でもミラーポスト24と同じ個数の荷重付与系58を容易に設置できる。そして、ミラーポスト24の個数を多くすることで、ミラー22の反射面22dを種々の形状に容易に変形可能である。
【0076】
(2)また、デフォーマブルミラー50は、各ミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への変位を計測する位置センサ60を備えている。従って、先端部24eのX方向、Z方向への変位から先端部24eに与えられる荷重を計測できるため、この計測値をフィードバックすることによって、各ミラーポスト24の先端部24eに目標とする荷重(又は目標とする変位)を高精度に付与できる。
なお、各ミラーポスト24には、位置センサ60の代わりに荷重センサ(ロードセル等)を設けて、荷重を直接的に計測してもよい。
【0077】
(3)また、ミラー22の裏面には複数のミラーポスト24が設けられており、複数のミラーポスト24にそれぞれ荷重付与系58が設けられているため、ミラー22の反射面22dの変形の自由度が高い。なお、ミラー22の裏面には一つのミラーポスト24を設けるだけでもよい。
(4)また、各ミラーポスト24には、X方向、Z方向への荷重(変位)とともに、ミラーポスト24の長手方向にほぼ平行なY方向(ミラー22の裏面22eの法線方向)への荷重(変位)を与えてもよい。この場合には、ミラーポスト24の個数をnとすると、荷重方向(変位方向)の自由度が3nとなるため、ミラー22の反射面をより多くの自由度で変形できる。
【0078】
なお、各ミラーポスト24はミラー22の裏面の凸部25に連結されているが、例えば凸部25を高く形成することによって、凸部25の先端部に荷重付与系58から荷重を与えてその先端部を変位させてもよい。
(5)また、本実施形態の投影光学系PLは、レンズL8,L9及びミラー22(複数の光学素子)を含む反射屈折光学系において、それらの光学素子のうちのミラー22の反射面を変形可能なデフォーマブルミラー50を備えている。従って、投影光学系PLの結像特性の変動量(例えば非回転対称な収差及び高次の収差等)を補正するように、デフォーマブルミラー50によってミラー22の反射面を変形させることによって、投影光学系PLの結像特性を常に目標とする状態に維持できる。
【0079】
(6)また、本実施形態の露光装置EXは、照明光IL(露光光)でレチクルRのパターンを照明し、照明光ILでそのパターン及び投影光学系PLを介してウエハW(基板)を露光する露光装置において、投影光学系PLはデフォーマブルミラー50を備えている。従って、投影光学系PLの結像特性を常に目標とする状態に高精度に維持できるため、レチクルRのパターンの像を高精度にウエハWの各ショット領域に露光できる。
【0080】
(7)また、デフォーマブルミラー50がミラーポスト24と荷重付与系58(アクチュエータ59X,59Z)との組み合わせを複数備えている場合に、そのデフォーマブルミラー50を駆動するための本実施形態の駆動方法は、複数のミラーポスト24のうち、少なくとも一つの例えば荷重点P7のミラーポスト24を、当該ミラーポスト24に対応する荷重付与系58を介して荷重を与えて変位させ、ミラー22の反射面を変形させるステップ102を有する。さらに、その駆動方法は、その荷重点P7のミラーポスト24の変位によって生じるミラー22の位置変化を起こす力(X方向、Z方向の合力、及び光軸の周りの合モーメント)を補正するように、その荷重点P7のミラーポスト24とは異なる例えば荷重点P1〜P6のミラーポスト24をこれらに対応する荷重付与系58を介して荷重を与えて変位させるステップ104とを含んでいる。
【0081】
この駆動方法によれば、複数のミラーポスト24に荷重を与えても、ミラー22を全体として変位させる力が作用しないため、例えば3箇所のホールドブロック23A〜23Cによってミラー22を安定に保持できる。
なお、ステップ104では、ミラー22のX方向、Z方向の合力、及び光軸の周りの合モーメントのうちの少なくとも一つを補正するように荷重点P1〜P6のミラーポスト24を変位させてもよい。
【0082】
(8)また、その駆動方法は、例えば荷重点P7のミラーポスト24を複数の異なる条件(荷重に対応する変位量及び/又は変位方向)で変位させたときに生じるミラー22の位置変化を起こす力に関する情報(合力、合モーメント)を、その条件に応じて記憶するステップを有してもよい。この場合、ステップ102では、ミラー22の反射面の目標とする変形量に応じて、その複数の異なる条件の中から所定の条件を選択し、その荷重点P7のミラーポスト24を対応する荷重付与系58を介して変位させ、ミラー22の反射面を変形させてもよい。そして、ステップ104では、その所定の条件に対応するミラー22の位置変化を起こす力に関する情報に基づいて、その荷重点P7のミラーポスト24とは異なる例えば荷重点P1〜P6のミラーポスト24をこれらに対応する荷重付与系58を介して変位させてもよい。これによって、ミラー22の反射面の変形の自由度が向上する。
【0083】
なお、本実施形態では、以下のような変形が可能である。
まず、図4(A)のX軸のアクチュエータ59Xは、駆動素子67の変位を変位変換部68を介してミラーポスト24の先端部24eに伝えている。これに対して、図13(A)の第1変形例のX軸のアクチュエータ59XAで示すように、駆動素子67と同様の構成の駆動素子71からの荷重(変位)を連結部材69を介して直接にミラーポスト24の先端部24eに伝えてもよい。図4(A)に対応する部分に同一の符号を付した図13(A)において、仕切り板53に固定されたベース部材70にX方向に変位可能な先端部を持つ駆動素子71が固定されている。そして、その先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間にヒンジ部69aを有する連結部材69が配置されている。
【0084】
また、仕切り板53に固定された支持部材64と、支持部材64の先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間に設けられて、先端部24eを駆動素子71側に付勢する圧縮コイルばね65RとからX軸のバイアス部63XAが構成されている。これ以外の構成は、図4(A)のアクチュエータ59Xと同様であり、第1変形例のアクチュエータ59XAを用いても、ミラーポスト24の先端部24eにX方向への荷重(変位)を容易に与えることができる。なお、例えば駆動素子71の変位部とミラーポスト24とが結合されている場合には、バイアス部63XAを省略することが可能である。
【0085】
また、図4(B)の例では、ミラーポスト24はミラー22の裏面の凸部25に連結されていた。この他に、図13(B)の第2変形例の要部に示すように、ミラー22の裏面22eに断面形状がほぼ正方形の凹部22fを形成しておき、この凹部22fに連結される棒状のミラーポスト24Aの先端部24AeにX方向及びZ方向への荷重を与えて先端部24Aeを変位させてもよい。図13(B)において、棒状のミラーポスト24Aの下端にヒンジ部24Aa1を介してX方向に並んだ2つのロッドよりなる連結部24Aaが形成されている。その下端にはヒンジ部(不図示)を介してZ方向に並んだ2つのロッドよりなる連結部24Abも形成されている。
【0086】
図13(B)において、例えば連結部24Aa,24Abの先端部を狭くした状態でそれらの先端部を凹部22fに差し込んでから、それらの先端部を開くことによって、ミラーポスト24Aを連結部24Aa,24Abを介してミラー22の裏面22eに結合できる。また、ミラーポスト24Aにもヒンジ部24Ac,24Adが形成されているが、ヒンジ部24Ac,24Adも省略可能である。
なお、ミラーポスト24又は24Aの先端部24e,24Aeの断面形状は、円形状には限られず、先端部24e,24Aeの断面形状を例えば三角形状にして、その断面に3方向から変位を与えてもよい。さらに、先端部24e,24Aeの断面形状を例えば四角形などの正方形若しくは矩形形状、又は多角形状にして、その断面に複数方向から変位を与えてもよい。
【0087】
次に、上記の実施形態の露光装置EXを用いて半導体デバイス(電子デバイス)を製造する場合、この半導体デバイスは、図14に示すように、デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいてマスク(レチクル)を製作するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造するステップ223、露光装置EXによりレチクルのパターンをレジストが塗布された基板(感光基板)に露光する工程、露光した基板を現像してレジストパターンを形成する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0088】
言い換えると、このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置を用いて基板(ウエハ)上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成された基板を処理すること(ステップ224)とを含んでいる。この製造方法によれば、その露光装置では非回転対称な収差を含む諸収差を低減できるため、微細パターンを有するデバイスを高精度に製造できる。
【0089】
なお、本発明は、例えば米国特許出願公開第2007/242247号明細書、又は欧州特許出願公開第1420298号明細書等に開示されている液浸型露光装置の投影光学系の収差補正を行う場合にも適用することができる。また、本発明は、走査型の露光装置のみならず、一括露光型の露光装置(ステッパー等)等にも適用することができる。
【0090】
また、本発明は、波長数nm〜100nm程度の極端紫外光(EUV光)を露光光として用いる投影露光装置の投影光学系の収差補正を行う場合にも適用できる。露光光としてEUV光を用いる場合には、投影光学系は特定のフィルタ等を除いて複数のミラー(凹面鏡、凸面鏡、平面鏡等)から構成されるため、本発明の光学素子の保持装置は、その複数のミラーのうちの少なくとも1枚のミラーを保持するために使用可能である。
【0091】
また、本発明は、半導体デバイス製造用の露光装置への適用に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。更に、本発明は、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)をフォトリソグフィ工程を用いて製造する際の、露光装置にも適用することができる。
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0092】
EX…露光装置、R…レチクル、W…ウエハ、ILS…照明光学系、PL…投影光学系、6…結像特性制御系、9…収差制御系、22…ミラー(凹面鏡)、24…ミラーポスト、39…波面収差計測装置、47…分割鏡筒、50…デフォーマブルミラー、54…駆動系、58…荷重付与系、60…位置センサ、62…バイアス系
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射面が変形可能な反射光学素子、この反射光学素子の駆動方法、その反射光学素子を有する光学系、及びこの光学系を備える露光装置に関する。さらに本発明は、その露光装置を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造工程の一つであるリソグラフィ工程においては、レチクル(又はフォトマスク等)に形成されているパターン、又は空間光変調器等で生成されるパターンを、投影光学系を介してフォトレジストが塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)の表面に転写するために、ステッパー等の一括露光型の露光装置、又はスキャニングステッパー等の走査露光型等の露光装置等が使用されている。
【0003】
これらの露光装置に搭載される投影光学系は、諸収差が所定の許容範囲内に収まるように組立調整が行われる。この際に、例えば歪曲収差や倍率誤差等の回転対称で、かつ低次数の収差成分が残存していても、これらの収差は投影光学系に装着されている通常の結像特性補正機構(例えば所定のレンズ及び/又はミラーの光軸方向の位置や傾斜角を制御する機構)によって補正することができる。これに対して、光軸上での非点収差(以下、センターアスと言う。)のような非回転対称な収差成分が残存している場合には、従来の通常の結像特性補正機構ではその補正は困難である。
【0004】
そこで、そのような非回転対称な収差成分を補正するために、投影光学系中の所定のミラーの側面の凸部をアクチュエータで微小量変形させることによって、そのミラーの反射面の形状を変形させるようにした補正機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この補正機構によれば、比較的小さい力でその反射面を変形させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の非回転対称な収差成分の補正機構は、投影光学系中のミラー側面の凸部を機械的に変形させていたため、その凸部の変形量とミラーの反射面の変形量との関係が複雑な関係にあった。そのため、その反射面を目標とする形状に高精度に変形させるのが困難であるとともに、その反射面を種々の複雑な形状に変形させるのが困難であった。
また、ミラーの反射面の形状を種々の形状に制御するためには、ミラー側面の凸部の数を増加することが好ましい。しかしながら、投影光学系の鏡筒の構造等から、ミラー側面の多数の凸部にそれぞれ変形機構を付加するのは困難であった。
【0007】
本発明の態様は、このような事情に鑑み、設置が容易な機構を用いて、反射光学素子の反射面を種々の形状に変形可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、変形可能な反射光学素子が提供される。この反射光学素子は、光を反射する反射部材と、その反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材と、その凸状の部材をその凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させる変位機構と、を備えるものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、複数の光学素子を含む光学系が提供される。この光学系は、本発明の変形可能な反射光学素子と、その反射光学素子のその変位機構を介してその凸状の部材を変位させ、収差を補正する制御装置とを備えるものである。
また、第3の態様によれば、露光光でパターンを照明し、その露光光でそのパターン及び投影光学系を介して基板を露光する露光装置において、本発明の光学系を備える露光装置が提供される。
【0010】
また、第4の態様によれば、反射光学素子の駆動方法が提供される。この駆動方法は、その反射光学素子が、本発明の複数組のその凸状の部材とその変位機構との組み合わせを備える反射光学素子で構成され、その複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応するその変位機構を介して変位させ、その反射部材の反射面を変形させる第1工程と、その少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じるその反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、その複数の凸状の部材のうち、その少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応するその変位機構を介して変位させる第2工程とを含むものである。
【0011】
また、第5の態様によれば、本発明の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材を、その凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させることによって、設置が容易な機構を用いてかつ小さい力で、その反射部材の反射面を種々の形状に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の一例の露光装置の本体部を示す断面図である。
【図2】図1中のデフォーマブルミラー50を示す断面図である。
【図3】図2のAA線に沿う断面図である。
【図4】(A)は図3中のX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63Xを示す断面図、(B)はミラーポスト24の支持方法の変形例を示す断面図である。
【図5】(A)はミラー裏面の入力荷重の第1の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図6】(A)はミラー裏面の入力荷重の第2の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図7】(A)はミラー裏面の入力荷重の第3の例を示す図、(B)はミラーのホールドブロックに作用する力を示す図、(C)はミラー反射面の変形量の分布を示す図、(D)は屈折力及び傾斜角を補正した後の変形量の分布を示す図である。
【図8】ツェルニケ係数で反射面の変形量を表す場合の誤差の一例を示す図である。
【図9】(A)はミラー裏面の複数の荷重点の一例を示す図、(B)はある荷重点に単位荷重をかけた状態を示す図、(C)は第1組の荷重セットを示す図である。
【図10】(A)は第1組の荷重セットとこれに対応するミラー反射面の変形量とを示す図、(B)は複数組の荷重セットを示す図である。
【図11】複数組の荷重セットの組み合わせから任意の反射面の変形量を得る方法の説明図である。
【図12】(A)は露光工程の準備工程の動作の一例を示すフローチャート、(B)は露光工程の一例を示すフローチャートである。
【図13】(A)は変形例のアクチュエータ及びバイアス部を示す断面図、(B)は変形例のミラーポストの支持方法を示す断面図である。
【図14】半導体デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例につき図1〜図12を参照して説明する。
図1は、本実施形態の露光装置EXの露光本体部を示す。露光装置EXは、一例としてスキャニングステッパーよりなる走査露光型の投影露光装置である。図1において、露光装置EXは、露光用の照明光IL(露光光)を発生する露光光源(不図示)と、照明光ILでレチクルR(マスク)を照明する照明光学系ILS(図1ではこの一部のみが表れている)と、レチクルRのパターンの像をウエハW(基板)の表面に形成する投影光学系PLとを備えている。さらに、露光装置EXは、レチクルRを保持して移動するレチクルステージ15と、ウエハWを保持して移動するウエハステージ32と、装置全体の動作を統括的に制御するコンピュータよりなる主制御系5(図2参照)とを備えている。
【0015】
以下、投影光学系PLのレチクルR側の部分光学系(後述の第1結像光学系G1)の光軸AX1に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面(本実施形態ではほぼ水平面)内で図1の紙面に平行にY軸を、図1の紙面に垂直にX軸を取って説明する。走査露光時のレチクルR及びウエハWの走査方向はY軸に平行な方向(Y方向)であり、レチクルRのパターン面及びウエハWの表面はXY面にほぼ平行である。また、X軸、Y軸、及びZ軸に平行な軸の回りの回転方向(傾斜方向)をθx方向、θy方向、及びθz方向とも呼ぶ。
【0016】
まず、投影光学系PL、レチクルステージ15、及びウエハステージ32を含む露光本体部は、フレーム機構によって支持されている。そのフレーム機構は、床面に設置されたフレームキャスタよりなるベース部材1と、ベース部材1の上面に設置された例えば3本(4本等でも可)の第1コラム2と、これらの第1コラム2の上面に例えば能動型の防振装置3A,3B(実際には3個又は4個配置されている)を介して設置された第2コラム4とを備えている。第2コラム4の底部に設けられた平板状の支持板部4aの中央のU字型の開口部に投影光学系PLが搭載されている。
【0017】
そのフレーム機構の近傍に設置された露光光源(不図示)は、ArFエキシマレーザ光源(発振波長193nm)であるが、その他にKrFエキシマレーザ光源(波長248nm)、又は固体レーザ(YAGレーザ若しくは半導体レーザ等)の高調波発生装置等も使用できる。その露光光源から射出された照明光ILは、照明光学系ILSに入射する。照明光学系ILSは、レチクルRのパターン面(下面)のX方向(非走査方向)に細長いスリット状の照明領域を照明光ILによりほぼ均一な照度分布で照明する。
【0018】
サブチャンバ14内に配置された照明光学系ILSは、例えば米国特許出願公開第2003/025890号明細書などに開示されるように、空間光変調器又は回折光学素子等を含む光量分布設定機構(不図示)、オプティカルインテグレータ(フライアイレンズ又はロッドインテグレータなど)等を含む照度均一化光学系(不図示)、レチクルブラインド等の可変視野絞り(不図示)、並びにレンズ11,13及びミラー12を含むコンデンサ光学系等を含んでいる。また、通常照明、2極照明、4極照明、又は輪帯照明等の照明条件に応じて、その光量分布設定機構が、照明光学系ILS内の瞳面(不図示)における照明光ILの光量分布を、光軸を中心とする円形領域、光軸を挟む2つの領域、光軸を挟む4つの領域、又は輪帯状の領域等でそれぞれ大きい光量となる分布に切り換える。
【0019】
レチクルRを通過した照明光ILは、投影光学系PLを介して、フォトレジスト(感光剤)が塗布された円板状の基板であるウエハ(半導体ウエハ)Wの表面の一つのショット領域のX方向に細長い露光領域に、レチクルRの照明領域内のパターンを投影倍率β(例えば1/4,1/5等)で縮小した像を形成する。本実施形態の投影光学系PLは反射屈折光学系である。投影光学系PLは、フランジ部44aによって支持板部4aに載置されている。照明光学系ILS及び投影光学系PLの照明光ILの光路はほぼ気密化され、これらの光路には、ほぼ真空紫外域の光に対して高透過率の気体(以下、「パージガス」と呼ぶ)であるドライエアー、窒素、又は希ガス(ヘリウム等)等が、供給用の配管20A等及び排気用の配管21A,21D等を介して供給されている。
【0020】
また、レチクルRは、レチクルホルダ(不図示)を介してレチクルステージ15の上面に保持され、レチクルステージ15はレチクルベース16のXY面に平行な上面に、Y方向に一定速度で移動可能に、かつX方向、Y方向、θz方向に変位可能な状態で載置されている。レチクルベース16は、第2コラム4の上端に固定されている。レチクルステージ15の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角はレーザ干渉計17によって計測され、この計測値及び主制御系5からの制御情報に基いて、リニアモータ等を含む駆動装置(不図示)がレチクルステージ15を駆動する。
【0021】
一方、ウエハWは、ウエハホルダ(不図示)を介してウエハテーブル31の上面に保持され、ウエハテーブル31はウエハステージ32の上面に固定されている。ウエハステージ32は、ウエハベース33のXY面に平行な上面にY方向に一定速度で移動可能に、かつX方向、Y方向にステップ移動可能に載置されている。ウエハベース33は、能動型の防振装置38A,38B等を介してベース部材1上に載置されている。ウエハステージ32の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角はレーザ干渉計34によって計測され、この計測値及び主制御系5からの制御情報に基いて、リニアモータ等を含む駆動装置(不図示)がウエハステージ32を駆動する。
【0022】
また、ウエハステージ32の内部には、ウエハテーブル31(ウエハW)のZ方向の位置(フォーカス位置)と、θx方向及びθy方向の傾斜角とを調整するためのフォーカス・レベリング機構が組み込まれている。投影光学系PLの下部側面に配置された投射光学系35Aと受光光学系35Bとから構成される斜入射方式の多点の焦点位置検出系(オートフォーカスセンサ)によって計測されるウエハWの複数の計測点でのフォーカス位置の情報に基いて、そのフォーカス・レベリング機構は、露光中に継続してウエハWの表面を投影光学系PLの像面に合焦させる。投射光学系35A及び受光光学系35Bは、投影光学系PLのフランジ部44aの底面に取り付けられたセンサーコラム36に取り付けられている。
【0023】
また、ウエハテーブル31の上部に、例えば米国特許第6,573,997号明細書等で開示されているシアリング干渉方式又はポイント・ディフラクション・干渉方式(PDI方式)の波面収差計測装置39が設けられている。波面収差計測装置39によって計測される投影光学系PLの波面収差の情報は図2の結像特性制御系6に供給される。結像特性制御系6では、通常の露光時には、例えば照明光ILの積算エネルギー等に基づいて、投影光学系PLの波面収差の変動量を逐次予測している。
【0024】
露光時には、不図示のアライメント系を用いてレチクルR及びウエハWのアライメントを行った後、ウエハステージ32をX方向、Y方向にステップ移動することで、ウエハWの露光対象のショット領域が露光領域の手前に移動する。その後、レチクルRの照明領域内のパターンの投影光学系PLによる像でウエハWの当該ショット領域を露光しつつ、レチクルステージ15及びウエハステージ32を介してレチクルRとウエハWとをY方向に投影光学系PLの投影倍率を速度比として同期移動する走査露光が行われる。そのステップ移動と走査露光とをステップ・アンド・スキャン方式で繰り返すことによって、ウエハWの全部のショット領域にレチクルRのパターンの像が露光される。
【0025】
次に、本実施形態の投影光学系PLの構成等につき詳細に説明する。図1において、反射屈折光学系からなる投影光学系PLは、レチクルRのパターンの第1中間像を形成する屈折型の第1結像光学系G1と、凹面鏡よりなるミラー22と2つの負屈折力のレンズL8,L9とから構成されて第1中間像とほぼ等倍の第2中間像を形成する第2結像光学系G2と、第2中間像からの光を用いてウエハW上にレチクルRのパターンの最終像を形成する屈折型の第3結像光学系G3と、デフォーマブルミラー50と、を備えている。デフォーマブルミラー50は、ミラー22を含み、ミラー22の反射面の形状を制御可能である。さらに、投影光学系PLは、第1結像光学系G1からの光を第2結像光学系G2に向かって偏向する反射面Aと、第2結像光学系G2からの光を第3結像光学系G3に向かって偏向する反射面Bとが形成された光路折り曲げ鏡FMを備えている。第1中間像及び第2中間像は、それぞれ反射面Aと第2結像光学系G2との間、及び第2結像光学系G2と反射面Bとの間に形成される。
【0026】
また、第1結像光学系G1及び第3結像光学系G3はZ軸に平行な光軸AX1を有し、第2結像光学系G2の光軸AX2は、光軸AX1と直交するように、かつY軸に平行に設定されている。更に、光路折り曲げ鏡FMの2つの反射面A,Bの交線(厳密にはその仮想延長面の交線)Cで光軸AX1と光軸AX2とが交差している。
第1結像光学系G1は、レチクルR側から順に、平行平面板L1、レンズL2,L3,L4,L5,L6,L7を配置して構成されている。第2結像光学系G2は、光の進行往路に沿ってレチクル側(即ち入射側)から順に、負のレンズL8及びL9と、ミラー22とを配置して構成されている。第3結像光学系G3は、光の進行方向に沿ってレチクル側から順に、レンズL10,L11と、開口絞りASと、レンズL12,L13とを配置して構成されている。開口絞りASの配置面は投影光学系PLの瞳面又はその近傍の面であり、ミラー22の反射面22dは、ほぼ第2結像光学系G2の瞳面の近傍に配置されている。すなわち、ミラー22の反射面22dは、投影光学系PLの瞳面とほぼ共役である。また、第1結像光学系G1及び第2結像光学系G2の瞳面(投影光学系PLの瞳面と共役な面)の近傍に、結像特性補正用の平行平面板を配置してもよい。なお、投影光学系PLの構成は任意である。
【0027】
本実施形態において、投影光学系PLを構成する全ての屈折光学素子(レンズ成分)の光学材料には合成石英又は蛍石(CaF2 結晶)を使用している。また、光路折り曲げ鏡FM及びミラー22は、一例として炭化ケイ素(SiC)或いはSiCとケイ素(Si)とのコンポジット材の反射面にアルミニウム等の金属膜、又は誘電体多層膜を被着することにより形成される。このとき、脱ガス防止のためにミラー22全体を炭化ケイ素等でコーティングすることが好ましい。また、ミラー22の材料としては、コーニング社のULE(Ultra Low Expansion:商品名)などの低膨張材料、又はベリリウム(Be)を用いても良い。ベリリウムを用いる場合には、ミラー22全体を炭化ケイ素等でコーティングすることが好ましい。
【0028】
また、第1結像光学系G1の平行平面板L1、レンズL2〜L7は、それぞれ輪帯状のレンズ枠42A,42B,42C,42D,42E,42F,42Gを介して円筒状の分割鏡筒41A,41B,41C,41D,41E,41F,41G内に保持され、分割鏡筒41A〜41Gは光軸AX1に沿って気密性を保持する状態で例えば対向するフランジ部(不図示)をボルト(不図示)で固定して連結されている。レンズ枠42B〜42G等には上記のパージガスを流通させるための複数の開口が形成されている(以下同様)。
【0029】
同様に、第3結像光学系G3のレンズL10,L11,L12,L13は、それぞれ輪帯状のレンズ枠42H,42K,42I,42Jを介して円筒状の分割鏡筒41H,44,41I,41J内に保持されている。開口絞りASは、分割鏡筒44,41Iに挟まれた分割鏡筒41K内に保持され、分割鏡筒41H,44,41K,41I,41Jは気密性を保持する状態で連結されている。そして、分割鏡筒44にフランジ部44aが設けられている。分割鏡筒41G,41H間に+Y方向に開口が設けられた円筒状の分割鏡筒43が連結され、分割鏡筒43内の突部に保持枠43aを介して光路折り曲げ鏡FMが固定されている。分割鏡筒41A〜41K,43,44より第1の部分鏡筒7が構成されている。
【0030】
また、図2の結像特性制御系6の制御のもとで、例えばレンズ枠42A〜42Eを駆動して、平行平面板L1、レンズL2〜L5をZ方向、θx方向、θy方向に微動することによって、投影光学系PLのディストーション及びコマ収差等の回転対称で比較的低次の収差を補正する回転対称な結像特性補正機構(不図示)が設けられている。このような回転対称な結像特性補正機構としては、例えば米国特許出願公開第2006/244940号明細書に開示されている機構を使用可能である。
【0031】
また、第2結像光学系G2のレンズL8,L9は、それぞれ保持枠46A,46Bを介して、円筒型の分割鏡筒45,41L内に保持され、ミラー22を含むデフォーマブルミラー50は、分割鏡筒41Lに連結されて保持されている。デフォーマブルミラー50は、投影光学系PLの結像特性としてのセンターアス等の非回転対称な収差及び高次の収差を含む波面収差を補正するための補正機構でもある。本実施形態では、その波面収差をツェルニケ(Zernike)多項式の係数(以下、ツェルニケ係数Ziという)で表すものとする。図2の結像特性制御系6は、通常の露光時には、予測される投影光学系PLの結像特性の変動量のうち、回転対称で比較的低次の収差を除く波面収差(例えば5次〜81次のツェルニケ係数Ziで表される収差)の情報を図2の収差制御系9に供給する。収差制御系9では、その波面収差を補正するようにデフォーマブルミラー50のミラー22の反射面を変形させる。収差制御系9には、デフォーマブルミラー50を駆動するための情報が記憶された記憶装置10が連結されている。
【0032】
デフォーマブルミラー50は、分割鏡筒41Lに連結されて、ミラー22がホールドブロック23を介して収納された円筒状の分割鏡筒47と、分割鏡筒47の+Y方向の開口を覆うように分割鏡筒47の端面に固定された仕切り板53と、仕切り板53の外面53aに設けられてミラー22の反射面を変形させる駆動系54と、仕切り板53に駆動系54を覆うように固定されたハウジング55と、を備えている。駆動系54は、ミラー22の裏面22eに連結された複数の棒状のミラーポスト24の先端にそれぞれX方向及びZ方向の荷重を付与する。本実施形態では、ミラーポスト24の先端にかかるX方向、Z方向の荷重にほぼ比例してその先端がX方向、Z方向に変位するため、その先端に対する荷重の付与はその先端を変位させることと等価である。
【0033】
図2に示すように、仕切り板53は複数のボルト40Aを介して分割鏡筒47に固定され、ハウジング55は複数のボルト40Bを介して仕切り板53に固定されている。また、図2のAA線に沿う断面図である図3に示すように、外形がほぼ円柱状のミラー22の側面に等角度間隔で3箇所の凸の保持部22a,22b,22cが形成され、保持部22a〜22cがそれぞれ分割鏡筒47の内面に固定されたホールドブロック23A,23B,23Cに保持されている。ミラー22は、3つのホールドブロック23A〜23Cによってキネマティックに安定に支持されている。なお、ホールドブロック23A〜23Cは、図1では代表的に一つのホールドブロック23で表されている。
【0034】
また、ミラー22の反射面22dとは反対側の面(裏面)22eに、ミラー22と一体的に複数の凸部25が形成され、複数の凸部25の先端部にそれぞれほぼY方向に伸びた棒状のミラーポスト24の連結部24a,24bが連結されている。
なお、凸部25は、ミラー22と一体的に形成せずに、凸部25をミラー22の裏面に螺合させたり、接着剤等で固定してもよい。
複数のミラーポスト24の円柱状の先端部24eは、それぞれ仕切り板53に設けられた開口53bを通して仕切り板53の外面53a側に突き出ている。ミラーポスト24は一例として金属製であり、ミラーポスト24は、先端部24eから連結部24a,24bまで一体的に形成されている。ミラー22の先端部24eと連結部24a,24bとの間に、先端部24eをX方向、Z方向に弾性変形によって容易に変位させるための直径が細くなった2箇所のヒンジ部24c,24d(図4参照)が形成されている。これによって先端部24eにX方向、Z方向に荷重を加えたときに先端部24eの変位が大きくなるため、後述のように位置センサ60によって先端部24eの変位を計測し、この変位から荷重を求める際の計測精度が向上する。なお、例えば先端部24eの変位をより高い分解能(精度)で計測する場合には、必ずしもヒンジ部24c,24dを設ける必要はない。
【0035】
また、仕切り板53の外面53aの各開口53bの近傍に、それぞれミラーポスト24の先端部24eにX方向及びZ方向への荷重を与えて先端部24eをX方向及びZ方向に変位させるX軸及びZ軸のアクチュエータ59X,59Zよりなる荷重付与系58と、ミラーポスト24の先端部24eにX方向及びZ方向への力(予圧又はバイアス力)を与えるX軸及びZ軸のバイアス部63X,63Zよりなるバイアス系62とが固定されている。複数のミラーポスト24に対応して設置された複数の荷重付与系58及びバイアス系62を含んで駆動系54が構成されている。本実施形態では、ミラーポスト24の先端部24eにX方向、Z方向への荷重を付与すると、テコの原理によって対応するミラー22の凸部25に大きい応力が作用し、この応力によってミラー22の反射面22dが点線B2で示すように変形する。この際に、予め複数のミラーポスト24の先端部24eにかかる荷重(又は先端部24eの変位)と反射面22dの変形量(例えば波面収差で表される)との変換関係の情報が求められており、この情報が記憶装置10に記憶されている。なお、ミラー22の裏面22eからミラーポスト24の先端部24eまでの高さは、一例として数10mmである。
【0036】
さらに、各ミラーポスト24の先端部24eの端面に2次元の格子パターン61が形成され、各先端部24eに対応する位置のハウジング55の内面にそれぞれその格子パターン61のX方向、Z方向への変位を計測する位置センサ60が固定されている。位置センサ60は、一例として格子パターン61に対応するパターンが形成された参照部材60a(図4(A)参照)を備えており、検出光を用いて参照部材60aに対する格子パターン61の変位を検出する光学式センサである。ただし、位置センサ60としては、静電容量式又は磁気式等の他の方式のセンサも使用可能である。複数の位置センサ60の検出信号は検出信号処理系57に供給される。検出信号処理系57では、位置センサ60で検出されるj番目(j=1,2,…)のミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への所定の基準位置(例えば可動範囲の中央の位置)からの変位ΔXMj,ΔZMjより、その先端部24eにかかるX方向、Z方向への荷重fXMj,fZMjを求め、このようにして求めた荷重の情報をアクチュエータ制御系56に供給する。
【0037】
収差制御系9は、結像特性制御系6から供給される補正対象の波面収差(ミラー22の反射面の目標変形量の情報)、及び記憶装置10の上記の変換関係の情報からj番目のミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への目標荷重fXTj,fZTjを算出し、算出された目標荷重fXTj,fZTjの情報をアクチュエータ制御系56に供給する。アクチュエータ制御系56は、検出信号処理系57から供給されるj番目のミラーポスト24の先端部24eの計測される荷重fXMj,fZMjがその目標荷重fXTj,fZTjとなるように、対応する荷重付与系58の動作を制御する。ミラーポスト24の個数をn(nは2以上の整数)とすると、各ミラーポスト24の先端部24eの変位(荷重が付与される方向)の自由度は2であるため、全体としてのミラー22の反射面の変形の自由度は2nとなる。
【0038】
図3に示すように、複数のミラーポスト24は、ミラー22の裏面22eの光軸上の位置を中心とする例えば16箇所(n=16)に配置されている。以下では、各ミラーポスト24の先端部24eが基準位置にあるときの先端部24eの中心を荷重点Pj(j=1,2,…,16)と呼ぶこととする。光軸上の荷重点はP8である。一例として、荷重点P2,P8はZ軸に平行な直線上に配置され、荷重点P6,P7,P8,P9,P10はX軸に平行な直線C3上に配置され、荷重点P1,P4,P8,P13,P16はZ軸に対して時計回りに30°回転した直線に平行な直線C1上に配置されている。また、荷重点P3,P5,P8,P12,P15はZ軸に対して反時計回りに30°回転した直線に平行な直線C2上に配置され、荷重点P8,P11を結ぶ直線は、X軸に平行な直線に対して時計回りに30°回転した直線である。また、荷重点P3,P5,P9,P10,P13,P14,P16は、荷重点P2,P8を結ぶ直線に関して荷重点P1,P4,P7,P6,P12,P11,P15と対称である。なお、ミラーポスト24の個数n(荷重点Piの個数n)及びその配置は任意である。
【0039】
ここで、図2の一つのミラーポスト24並びにこれに対応するX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63X等の構成につき図4(A)を参照して説明する。なお、Z軸のアクチュエータ59Z及びバイアス部63Zは、それぞれX軸のアクチュエータ59X及びバイアス部63Xをミラーポスト24の回りに90°回転した構成であるため、その説明を省略する。
【0040】
図4(A)において、ミラー22の裏面22eに正方形の角柱状の凸部25が形成され、ミラーポスト24の下端に、凸部25をX方向及びZ方向に挟む連結部24a及び24bが形成されている。連結部24a,24bには切り欠き部によってヒンジ部24a1等が設けられ、連結部24a,24bの先端を不図示の保持具で開いた状態で、その先端を凸部25の外面に移動して、その先端を閉じることによって、ミラーポスト24を連結部24a,24bを介して凸部25に連結できる。
【0041】
また、アクチュエータ59Xは、仕切り板53に固定されたベース部材66と、ベース部材66の側面にヒンジ部68aを介してZ軸に平行な軸の回りに所定の角度範囲内で回転可能に連結されたL字型の変位変換部68と、を有する。一例として変位変換部68とベース部材66とは金属よりなり、かつ一体的に形成されている。なお、変位変換部68を回転軸受けを介してベース部材66に連結してもよい。さらに、アクチュエータ59Xは、ベース部材66に固定されて変位変換部68の一方の端部68bをY方向に変位させるピエゾ素子又は超音波モータ等の駆動素子67と、変位変換部68のX方向に変位可能な他方の端部68cとミラーポスト24の先端部24eとを連結する棒状の連結部材69と、を有する。一例として金属製の連結部材69は、先端部24eにネジ部によって結合されており、変位変換部68の端部68cと連結部材69とはボルトによって結合されている。ミラーポスト24の先端部24eは、Z方向にも変位するため、連結部材69にはX軸に垂直な方向に可撓性を持つ直径が小さいヒンジ部69aが形成されている。
【0042】
また、バイアス部63Xは、仕切り板53に固定された支持部材64と、支持部材64の先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間に設けられて、先端部24eを支持部材64側に引く力を常時与えるコイルばね65と、を有する。なお、例えば駆動素子67の変位部と変位変換部68の端部68bとが結合されている場合には、バイアス部63X(バイアス系62)を省略することが可能である。
【0043】
アクチュエータ59X及びバイアス部63Xによって、ミラーポスト24の先端部24eを、点線で示す反時計回りに回転した状態A1と時計回りに回転した状態A2との間の任意の位置に変位させることができる。その変位(荷重)に応じて、テコの原理によってミラー22の凸部25に応力が作用する。このようにテコの原理を用いることによって、アクチュエータ59Xで発生する荷重が小さい場合でも、ミラー22には大きい応力を与えることができ、ミラー22の反射面を容易に大きく変形させることができる。
【0044】
なお、図4(B)に示すように、ミラー22の裏面22aの凸部25の周囲に所定の深さの溝部25Sを形成してもよい。これによって、ミラーポスト24の先端部24eに対するX方向(又はZ方向)への荷重(変位)が同じでも、ミラー22の凸部25にかかる応力が大きくなり、ミラー22の反射面の変形量を大きくできる場合がある。
次に、ミラー22の反射面22dに所望の変形量(変形分布)を与えるために、ミラー22の裏面22eの各荷重点Pj(ミラーポスト24の先端部24e)に付与する荷重の分布である入力荷重の例につき説明する。まず、ミラー反射面に、図5(C)に示すように(等高線の間隔は波長の0.001倍である。以下同様。)、5次のツェルニケ係数(Z5)で1λ(λは照明光ILの波長)に相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図5(A)に示す分布となる。図5(A)において、円周E1の半径は1kgf(1kg重)の荷重に対応しており、ベクトルE2は荷重点P4にかかる荷重の大きさ及び方向を表している(他の荷重点のベクトルも同様である)。また、この入力荷重は、図5(B)に示すように、ミラー22を保持するホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5(それぞれ大きさが4gf)の和(合力)が0で、かつ力E3,E4,E5によってミラー22に作用するモーメントの和(合モーメント)が0になるように設定されている。これによって、ミラー22の反射面を変形させた状態でも、ミラー22を光軸に垂直なX方向、Z方向に並進移動させる力、及びミラー22を光軸の回りに回転させるモーメントが作用しないため、ホールドブロック23A〜23Cによってミラー22を安定に保持できる。なお、ミラー22がホールドブロック23A,23B,23Cに対して横ずれを起こさないために、ホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5はそれぞれ0であることが好ましい。上述のようにホールドブロック23A,23B,23Cに作用する力E3,E4,E5が生じるときでも、これらの力E3〜E5は、ホールドブロック23A〜23Cの保持力よりも十分に小さく抑えられているため、ミラー22が横ずれを起こすことはない。
【0045】
なお、図5(C)のミラー反射面の変形は、回転対称の結像特性の補正機構を用いてミラー22の屈折力及び傾斜角を補正することによって、容易に図5(D)に示すように光軸を中心とする変形に変換できる。従って、図5(C)のミラー反射面の変形量は図5(D)の変形量と実質的に等価である。
また、ミラー反射面に、図6(C)に示すように、10次のツェルニケ係数(Z10)で1λに相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図6(A)に示す分布となる。この入力荷重も、図6(B)に示すように、ミラー22に対する合力が0で、かつ合モーメントが0になるように設定されている。図6(C)のミラー反射面の変形量は、屈折力及び傾斜角を補正することで図6(D)の変形量と実質的に等価である。
【0046】
さらに、ミラー反射面に、図7(C)に示すように、14次のツェルニケ係数(Z14)で1λに相当する変形量を与える場合の入力荷重の一例は、図7(A)に示す分布となる。この入力荷重も、図7(B)に示すように、ミラー22に作用する合力が0で、かつ合モーメントが0になるように設定されている。図7(C)のミラー反射面の変形量は、屈折力及び傾斜角を補正することで図7(D)の変形量と実質的に等価である。
【0047】
このようにして、ミラー22の反射面22dに、5次から35次までのツェルニケ係数Zi(Z5〜Z35)でそれぞれ1λに相当する変形量を与えるために、ミラー22の裏面の荷重点Pjに合力が0で合モーメントが0となる最適な入力荷重を与えた場合の、反射面22dの形状誤差を図8に示す。図8において、横軸はツェルニケ係数Ziであり、縦軸はRMS(root mean square)(λ)で表した形状誤差である。
【0048】
次に、デフォーマブルミラー50を用いて投影光学系PLの波面収差を補正しながらウエハを露光する動作の一例につき図12(A)及び(B)のフローチャートを参照して説明する。まず、図12(A)の準備工程のステップ102において、図2の結像特性制御系6内の演算部では、ミラー22の裏面のn個の荷重点Pj(ミラーポスト24の先端部24e)にそれぞれX方向及びZ方向の単位荷重を付与した場合のミラー22の反射面の変形量の割合(レート)を、1次から81次までのツェルニケ係数Zi(i=1〜81)の変化量Za,b(a=1〜81,b=1〜2n)で表す。荷重の付与方法の自由度は2nであり、その変化量を行列で表すと次式が得られる。この行列は記憶装置10に記憶される。なお、変化量Za,bはコンピュータのシミュレーションで求めることも可能であるが、変化量Za,bは、実際に駆動系54から各荷重点Pjに単位荷重を付与したときに図1の波面収差計測装置39によって計測される波面収差の変動量から求めてもよい。
【0049】
また、説明の便宜上、ミラー22の裏面の荷重点Pjを図9(A)の荷重点P1〜P7として、図9(B)に示すように、ある一つの荷重点(例えばP7)にある方向の単位荷重を付与するものとする。
【0050】
次のステップ104において、図9(C)に示すように、その荷重点P7以外の複数の荷重点(例えば荷重点P1〜P6)に合力が0で合モーメントが0となるような方向と大きさの荷重を付与する。このように合力が0で合モーメントが0となるような荷重の分布を持つ1組の荷重を荷重セットと呼ぶ。図9(C)の荷重セットは第1の荷重セットLS1である。説明の便宜上、図9(A)の荷重点Pjが配置される直交座標系を(x,y)として、i番目の荷重点Piのx方向の座標をxi、y方向の座標をyi、荷重点Piに作用する荷重がx方向に対してなす角度をφiとする。このとき、荷重点Piに作用する荷重による原点の回りのモーメントmiは次のようになる。
【0051】
また、各荷重点Pjに2つの自由度で作用する荷重をfiとすると、全部で自由度が2nの荷重によるミラー22に対する合力(x方向の合力Fx、y方向の合力Fy)及び合モーメントMは次のように表される。
【0052】
このとき、i番目の荷重点Piに対する荷重が1のときに、式(12)の合力及び合モーメントが0となる組み合わせを求めるものとする。このために式(12)の左辺のFx,Fy,Mに0を代入すると次式が得られる。なお、fc,iは、i番目の荷重点Piの荷重が1のときの他の荷重点Pjの荷重である。
【0053】
式(13)を変形すると次式が得られる。
【0054】
【0055】
この式をベクトルFiについて解くことにより、荷重fc,iひいては第1の荷重セットLS1を求めることができる。しかしながら、nが3以上の整数であるとすると、行列Miは3行×(2n−1)列の非正則行列であり、逆行列を持たない。すなわち、行列Miにおいては、列数が行数よりも大きくなるため、解は無限通り存在する。このため、一例として、次のムーア・ペンローズ(Moore-Penrose)の一般逆行列を用いる。なお、行列MTiは行列Miの転置行列である。
M+i=MTi(MiMTi)-1 (15)
式(15)の一般逆行列を用いてベクトルFiを次のように表すものとする。
【0056】
式(16)で表されるベクトルFiは式(14)を満たし、かつ次式により定められるベクトルFiのノルムを最小にする解である。
【0057】
すなわち、式(16)で表されるベクトルFiは、i番目の荷重点Piに単位荷重を与えたときに、合力及び合モーメントが0になるように、かつ全体として最小の力となるように他の荷重点Pjに与えられる力(ステップ104で他の荷重点に付与される荷重)の解である。
【0058】
次のステップ106において、i番目の荷重点Piに単位荷重を与え、他の荷重点Pjに式(16)の荷重を与えたときのミラー22の反射面の変形量を、図10(A)に示すようにツェルニケ係数Ziの変化量Za,b(a=1〜81,b=i)に換算して求める。変化量Za,bは、図1の波面収差計測装置39による計測で求めてもよいが、式(10)に要素数が2nの荷重のベクトルFiを乗算して求めてもよい。次のステップ108において、その第1組の荷重セットLS1及び反射面の変形量は記憶装置10に記憶される。次のステップ110において、ステップ102〜108を繰り返すことによって、図10(B)に示すように、他の組の荷重セットLS2,LS3,…及びこれらの荷重セットに対応するミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Ziの変化量Za,b)が求められて、記憶装置10に記憶される。
【0059】
この場合、n個の荷重点Pjに対する荷重のかけ方には2n通りの自由度があるが、本実施形態では、ミラー22に対するX方向の合力(X方向の並進力)、Z方向の合力(Z方向の並進力)、及び光軸の回りの合モーメントがそれぞれ0であるという3つの条件が加わるため、互いに独立な荷重セットの組は(2n−3)通りとなる。これらの全部の荷重セットの荷重fa,b(a=1〜2n,b=1〜2n−3)を行列で表すと、下記の行列Wloadsetが得られる。
【0060】
また、各荷重セットに関してステップ106で求められるミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Ziの変化量Za,b)を行列で表すと、式(19)のツェルニケ感度レート行列Rset->Zが得られる。なお、ツェルニケ感度レート行列Rset->Zは、式(10)の行列RF->Zに式(18)の行列Wloadsetを掛けても得られる。このツェルニケ感度レート行列Rset->Zは記憶装置10に記憶される。これによって準備工程が終了する。
【0061】
【0062】
次に、本実施形態の露光装置EXにおいて、図12(B)の露光工程が開始されると、ステップ112において、レチクルステージ15にレチクルRがロードされ、ステップ114において、照明光学系ILSで照明条件が設定され、レチクルRのアライメントが行われる。次のステップ116でウエハテーブル31にフォトレジストが塗布された未露光のウエハWがロードされ、ウエハWのアライメントが行われる。次のステップ118で、結像特性制御系6は照明光ILの積算エネルギー等に基づいて投影光学系PLの結像特性の変動量を算出する。さらに、ステップ120において、結像特性制御系6は、その結像特性の変動量を補正するためのミラー22の反射面の目標変形量を算出し、算出結果を収差制御系9に供給する。次のステップ122において、収差制御系9は、その目標変形量を実現するために、ミラー22の裏面の複数のミラーポスト24の荷重点に付与する荷重を規定する各荷重セットLSi等の重みsi(i=1〜2n−3)を算出する。これは、図11に示すように、目標とする変形量をツェルニケ係数Ziで表したときに、その変形量を実現するための各荷重セットLS1,LS2等の重みa,b等を決定することを意味している。
【0063】
この場合、式(19)のツェルニケ感度レート行列Rset->Z及びその重みsiを要素とするベクトルSを用いると、ミラー22の反射面の変形量(ツェルニケ係数Z1〜Z81に換算した変形量Za(a=1〜81))を表すベクトルZは、次の式(20)及びこれと等価な式(21)を満たす。
【0064】
【0065】
式(21)をベクトルS(重みsi)について解くことができれば、各荷重セットLSiの重みが求められたことになる。ところが、式(21)中のツェルニケ感度レート行列Rset->Zは、81行×(2n−3)列の非正則行列であり、逆行列を持たない。また、行列Rset->Zにおいては、nが42より小さい通常の状態では、行数が列数よりも大きいため、厳密な解析解は存在せず、解には必ず誤差が存在する。そこで、本実施形態では、生成されるミラー22の面形状の誤差を最小にするように、複数の荷重セットの重みのベクトルSを算出する。そのために、次の対角行列WRMSを想定する。この対角行列の対角成分は、各ツェルニケ係数Ziから面形状の誤差(RMS(root mean square)で表される誤差)への変換係数である。
【0066】
そして、式(21)の両辺に左から式(22)の対角行列WRMSを掛けることによって、次式が得られる。
WRMSZ=WRMSRset->ZS (23)
【0067】
ここで、ツェルニケ係数ZiのRMSで表現した誤差を要素とするベクトルZRMS及び行列Rset->RMSを用いると、式(23)は次のようになる。
ZRMS=Rset->RMSS (24)
ただし、ベクトルZRMS及び行列Rset->RMSは次のように定義されている。
ZRMS≡WRMSZ (25)
Rset->RMS≡WRMSRset->Z (26)
式(21)はツェルニケ係数Ziを用いて表した式であるが、式(24)は、ツェルニケ係数ZiのRMSで表現した誤差を用いて表した式である。
【0068】
次に、式(26)の行列Rset->RMSに対して、ムーア・ペンローズの一般逆行列を適用すると、次式で表される行列R+set->RMSが得られる。なお、行列RTset->RMSは行列Rset->RMSの転置行列である。
R+set->RMS=(RTset->RMSRset->RMS)-1RTset->RMS (27)
【0069】
式(27)を式(24)に適用することによって、収差制御系9は、ベクトルS(重みsi)を次のように計算する。
S=R+set->RMSZRMS (28)
この式によって求めたベクトルSは、近似解であるため、ベクトルSを式(24)に代入すると左辺に次のような誤差eRMSが生じる。
ZRMS+eRMS=Rset->RMSS (29)
【0070】
誤差eRMSの各成分は、ツェルニケ係数Ziで表される面形状の誤差のRMSである。ムーア・ペンローズの一般逆行列の性質より、式(28)のベクトルSは、誤差eRMSの各成分の自乗和が最小になるように算出される。誤差eRMSの各成分の自乗和は、ミラー22の反射面の形状誤差のRMSの自乗であるため、式(28)からベクトルSを計算することによって、反射面の形状誤差(RMS)を最小にする複数の荷重セットLSiの重みsi(i=1〜2n−3)を算出できたことになる。
【0071】
次のステップ124において、収差制御系9は、ステップ122で求めた荷重セットLSiの重みsi(i=1〜2n−3)よりなるベクトルSと式(18)の行列Wloadsetとを用いて、次式からミラー22の裏面のn個のミラーポスト24の先端部24eにX方向、Z方向に加える荷重(又は先端部24eのX方向、Z方向への変位よりなる駆動量)fi(i=1〜2n)を算出する。荷重fiを成分とするベクトルがFである。これは、複数の荷重セットの加重和によって各ミラーポスト24に対する加重を算出することを意味している。
F=WloadsetS (30)
【0072】
次のステップ126において、収差制御系9は図2のアクチュエータ制御系56にその2n個の荷重fiを供給する。これによって、各ミラーポスト24の先端部24eにそれぞれX方向、Z方向に設定された荷重(ひいては変位)が付与され、その荷重がテコの原理によって応力としてミラー22に作用し、ミラー22の反射面22dは目標とする形状に変形される。従って、投影光学系PLの結像特性の変動量は、回転非対称な成分及び高次の成分を含めて高精度に補正されるため、レチクルRのパターンの像が投影光学系PLを介してウエハWの表面に高精度に形成される。
【0073】
この状態で次のステップ128において、照明光ILの照射が開始され、レチクルRのパターンの像がステップ・アンド・スキャン方式でウエハWの各ショット領域に露光される。その後、ステップ130で露光済みのウエハWのアンロードが行われ、次のステップ132で次のウエハへの露光を行う場合には、ステップ116〜130が繰り返される。そして、ステップ132で未露光のウエハがなくなったときに露光工程が終了する。この際に、投影光学系PLの結像特性が高精度に補正されているため、レチクルRのパターンの像を高精度にウエハWの各ショット領域に露光できる。
【0074】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態のデフォーマブルミラー50は、照明光ILを反射する凹面鏡よりなるミラー22と、ミラー22の反射面22dの裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24と、ミラーポスト24の先端部24eにミラーポスト24が延びる方向にほぼ直交するX方向及びZ方向に荷重を与えてその先端部24eをX方向及びZ方向に変位させる荷重付与系58(アクチュエータ59X,59Zよりなる変位機構)と、を備えている。
【0075】
本実施形態によれば、ミラー22の裏面22eに設けられた凸状のミラーポスト24の先端部24eに、そのミラーポスト24の長手方向(ほぼY方向)にほぼ直交する方向に荷重を与える(変位を与える)ことによって、テコの原理によって小さい荷重でミラー22の反射面22dを変形させることができる。また、ミラー22の裏面22eには、ミラーポスト24が個数が多い場合でもミラーポスト24と同じ個数の荷重付与系58を容易に設置できる。そして、ミラーポスト24の個数を多くすることで、ミラー22の反射面22dを種々の形状に容易に変形可能である。
【0076】
(2)また、デフォーマブルミラー50は、各ミラーポスト24の先端部24eのX方向、Z方向への変位を計測する位置センサ60を備えている。従って、先端部24eのX方向、Z方向への変位から先端部24eに与えられる荷重を計測できるため、この計測値をフィードバックすることによって、各ミラーポスト24の先端部24eに目標とする荷重(又は目標とする変位)を高精度に付与できる。
なお、各ミラーポスト24には、位置センサ60の代わりに荷重センサ(ロードセル等)を設けて、荷重を直接的に計測してもよい。
【0077】
(3)また、ミラー22の裏面には複数のミラーポスト24が設けられており、複数のミラーポスト24にそれぞれ荷重付与系58が設けられているため、ミラー22の反射面22dの変形の自由度が高い。なお、ミラー22の裏面には一つのミラーポスト24を設けるだけでもよい。
(4)また、各ミラーポスト24には、X方向、Z方向への荷重(変位)とともに、ミラーポスト24の長手方向にほぼ平行なY方向(ミラー22の裏面22eの法線方向)への荷重(変位)を与えてもよい。この場合には、ミラーポスト24の個数をnとすると、荷重方向(変位方向)の自由度が3nとなるため、ミラー22の反射面をより多くの自由度で変形できる。
【0078】
なお、各ミラーポスト24はミラー22の裏面の凸部25に連結されているが、例えば凸部25を高く形成することによって、凸部25の先端部に荷重付与系58から荷重を与えてその先端部を変位させてもよい。
(5)また、本実施形態の投影光学系PLは、レンズL8,L9及びミラー22(複数の光学素子)を含む反射屈折光学系において、それらの光学素子のうちのミラー22の反射面を変形可能なデフォーマブルミラー50を備えている。従って、投影光学系PLの結像特性の変動量(例えば非回転対称な収差及び高次の収差等)を補正するように、デフォーマブルミラー50によってミラー22の反射面を変形させることによって、投影光学系PLの結像特性を常に目標とする状態に維持できる。
【0079】
(6)また、本実施形態の露光装置EXは、照明光IL(露光光)でレチクルRのパターンを照明し、照明光ILでそのパターン及び投影光学系PLを介してウエハW(基板)を露光する露光装置において、投影光学系PLはデフォーマブルミラー50を備えている。従って、投影光学系PLの結像特性を常に目標とする状態に高精度に維持できるため、レチクルRのパターンの像を高精度にウエハWの各ショット領域に露光できる。
【0080】
(7)また、デフォーマブルミラー50がミラーポスト24と荷重付与系58(アクチュエータ59X,59Z)との組み合わせを複数備えている場合に、そのデフォーマブルミラー50を駆動するための本実施形態の駆動方法は、複数のミラーポスト24のうち、少なくとも一つの例えば荷重点P7のミラーポスト24を、当該ミラーポスト24に対応する荷重付与系58を介して荷重を与えて変位させ、ミラー22の反射面を変形させるステップ102を有する。さらに、その駆動方法は、その荷重点P7のミラーポスト24の変位によって生じるミラー22の位置変化を起こす力(X方向、Z方向の合力、及び光軸の周りの合モーメント)を補正するように、その荷重点P7のミラーポスト24とは異なる例えば荷重点P1〜P6のミラーポスト24をこれらに対応する荷重付与系58を介して荷重を与えて変位させるステップ104とを含んでいる。
【0081】
この駆動方法によれば、複数のミラーポスト24に荷重を与えても、ミラー22を全体として変位させる力が作用しないため、例えば3箇所のホールドブロック23A〜23Cによってミラー22を安定に保持できる。
なお、ステップ104では、ミラー22のX方向、Z方向の合力、及び光軸の周りの合モーメントのうちの少なくとも一つを補正するように荷重点P1〜P6のミラーポスト24を変位させてもよい。
【0082】
(8)また、その駆動方法は、例えば荷重点P7のミラーポスト24を複数の異なる条件(荷重に対応する変位量及び/又は変位方向)で変位させたときに生じるミラー22の位置変化を起こす力に関する情報(合力、合モーメント)を、その条件に応じて記憶するステップを有してもよい。この場合、ステップ102では、ミラー22の反射面の目標とする変形量に応じて、その複数の異なる条件の中から所定の条件を選択し、その荷重点P7のミラーポスト24を対応する荷重付与系58を介して変位させ、ミラー22の反射面を変形させてもよい。そして、ステップ104では、その所定の条件に対応するミラー22の位置変化を起こす力に関する情報に基づいて、その荷重点P7のミラーポスト24とは異なる例えば荷重点P1〜P6のミラーポスト24をこれらに対応する荷重付与系58を介して変位させてもよい。これによって、ミラー22の反射面の変形の自由度が向上する。
【0083】
なお、本実施形態では、以下のような変形が可能である。
まず、図4(A)のX軸のアクチュエータ59Xは、駆動素子67の変位を変位変換部68を介してミラーポスト24の先端部24eに伝えている。これに対して、図13(A)の第1変形例のX軸のアクチュエータ59XAで示すように、駆動素子67と同様の構成の駆動素子71からの荷重(変位)を連結部材69を介して直接にミラーポスト24の先端部24eに伝えてもよい。図4(A)に対応する部分に同一の符号を付した図13(A)において、仕切り板53に固定されたベース部材70にX方向に変位可能な先端部を持つ駆動素子71が固定されている。そして、その先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間にヒンジ部69aを有する連結部材69が配置されている。
【0084】
また、仕切り板53に固定された支持部材64と、支持部材64の先端部とミラーポスト24の先端部24eとの間に設けられて、先端部24eを駆動素子71側に付勢する圧縮コイルばね65RとからX軸のバイアス部63XAが構成されている。これ以外の構成は、図4(A)のアクチュエータ59Xと同様であり、第1変形例のアクチュエータ59XAを用いても、ミラーポスト24の先端部24eにX方向への荷重(変位)を容易に与えることができる。なお、例えば駆動素子71の変位部とミラーポスト24とが結合されている場合には、バイアス部63XAを省略することが可能である。
【0085】
また、図4(B)の例では、ミラーポスト24はミラー22の裏面の凸部25に連結されていた。この他に、図13(B)の第2変形例の要部に示すように、ミラー22の裏面22eに断面形状がほぼ正方形の凹部22fを形成しておき、この凹部22fに連結される棒状のミラーポスト24Aの先端部24AeにX方向及びZ方向への荷重を与えて先端部24Aeを変位させてもよい。図13(B)において、棒状のミラーポスト24Aの下端にヒンジ部24Aa1を介してX方向に並んだ2つのロッドよりなる連結部24Aaが形成されている。その下端にはヒンジ部(不図示)を介してZ方向に並んだ2つのロッドよりなる連結部24Abも形成されている。
【0086】
図13(B)において、例えば連結部24Aa,24Abの先端部を狭くした状態でそれらの先端部を凹部22fに差し込んでから、それらの先端部を開くことによって、ミラーポスト24Aを連結部24Aa,24Abを介してミラー22の裏面22eに結合できる。また、ミラーポスト24Aにもヒンジ部24Ac,24Adが形成されているが、ヒンジ部24Ac,24Adも省略可能である。
なお、ミラーポスト24又は24Aの先端部24e,24Aeの断面形状は、円形状には限られず、先端部24e,24Aeの断面形状を例えば三角形状にして、その断面に3方向から変位を与えてもよい。さらに、先端部24e,24Aeの断面形状を例えば四角形などの正方形若しくは矩形形状、又は多角形状にして、その断面に複数方向から変位を与えてもよい。
【0087】
次に、上記の実施形態の露光装置EXを用いて半導体デバイス(電子デバイス)を製造する場合、この半導体デバイスは、図14に示すように、デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいてマスク(レチクル)を製作するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造するステップ223、露光装置EXによりレチクルのパターンをレジストが塗布された基板(感光基板)に露光する工程、露光した基板を現像してレジストパターンを形成する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0088】
言い換えると、このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置を用いて基板(ウエハ)上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成された基板を処理すること(ステップ224)とを含んでいる。この製造方法によれば、その露光装置では非回転対称な収差を含む諸収差を低減できるため、微細パターンを有するデバイスを高精度に製造できる。
【0089】
なお、本発明は、例えば米国特許出願公開第2007/242247号明細書、又は欧州特許出願公開第1420298号明細書等に開示されている液浸型露光装置の投影光学系の収差補正を行う場合にも適用することができる。また、本発明は、走査型の露光装置のみならず、一括露光型の露光装置(ステッパー等)等にも適用することができる。
【0090】
また、本発明は、波長数nm〜100nm程度の極端紫外光(EUV光)を露光光として用いる投影露光装置の投影光学系の収差補正を行う場合にも適用できる。露光光としてEUV光を用いる場合には、投影光学系は特定のフィルタ等を除いて複数のミラー(凹面鏡、凸面鏡、平面鏡等)から構成されるため、本発明の光学素子の保持装置は、その複数のミラーのうちの少なくとも1枚のミラーを保持するために使用可能である。
【0091】
また、本発明は、半導体デバイス製造用の露光装置への適用に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。更に、本発明は、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)をフォトリソグフィ工程を用いて製造する際の、露光装置にも適用することができる。
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0092】
EX…露光装置、R…レチクル、W…ウエハ、ILS…照明光学系、PL…投影光学系、6…結像特性制御系、9…収差制御系、22…ミラー(凹面鏡)、24…ミラーポスト、39…波面収差計測装置、47…分割鏡筒、50…デフォーマブルミラー、54…駆動系、58…荷重付与系、60…位置センサ、62…バイアス系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する反射光学素子であって、
光を反射する反射部材と、
前記反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材と、
前記凸状の部材を前記凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させる変位機構と、
を備えることを特徴とする変形可能な反射光学素子。
【請求項2】
前記変位機構は、前記凸状の部材が延びる方向に直交する面内で、前記凸状の部材を互いに直交する2方向に変位させることを特徴とする請求項1に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項3】
前記変位機構は、前記凸状の部材を、前記凸状の部材が延びる方向にも変位可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項4】
前記変位機構は、前記凸状の部材の変位の自由度に応じた数のアクチュエータを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項5】
前記凸状の部材は、棒状部材であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項6】
前記凸状の部材が設けられる前記反射部材の前記裏面に凸部が形成され、
前記凸状の部材と前記裏面の凸部とを連結するクランプ部を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項7】
前記凸状の部材と前記変位機構との組み合わせを複数備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項8】
複数の光学素子を含む光学系において、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子と、
前記反射光学素子の前記変位機構を介して前記凸状の部材を変位させ、収差を補正する制御装置とを備えることを特徴とする光学系。
【請求項9】
前記反射光学素子は、前記凸状の部材と前記変位機構との組み合わせを複数備え、
前記制御装置は、前記収差を補正するために、前記複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させるとともに、前記少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じる前記反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、前記複数の凸状の部材のうち、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させることを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項10】
露光光でパターンを照明し、前記露光光で前記パターン及び投影光学系を介して基板を露光する露光装置において、
請求項8又は請求項9に記載の光学系を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項11】
前記光学系は前記投影光学系であることを特徴とする請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
反射光学素子の駆動方法であって、
前記反射光学素子は、請求項7に記載の反射光学素子で構成され、
前記複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させ、前記反射部材の反射面を変形させる第1工程と、
前記少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じる前記反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、前記複数の凸状の部材のうち、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させる第2工程とを含むことを特徴とする反射光学素子の駆動方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つの凸状の部材を複数の異なる条件で変位させたときに生じる前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報を、前記条件に応じて記憶する工程を有し、
前記第1工程は、前記反射部材の反射面の目標とする変形量に応じて、前記複数の異なる条件の中から所定の条件を選択し、前記少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させ、前記反射部材の反射面を変形させ、
前記第2工程は、前記所定の条件に対応する前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報に基づいて、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させることを特徴とする請求項12に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項14】
前記複数の異なる条件は、前記凸状の部材の変位量又は変位方向を含むことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項15】
前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報は、前記反射部材の光軸周りの回転力を含むことを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか一項に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項16】
前記第1工程は、前記複数の条件から選択された条件の重みを求めることを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか一項に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項17】
請求項10又は請求項11に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、を含むデバイス製造方法。
【請求項1】
光を反射する反射光学素子であって、
光を反射する反射部材と、
前記反射部材の反射面の裏面に設けられた凸状の部材と、
前記凸状の部材を前記凸状の部材が延びる方向に交差する方向に変位させる変位機構と、
を備えることを特徴とする変形可能な反射光学素子。
【請求項2】
前記変位機構は、前記凸状の部材が延びる方向に直交する面内で、前記凸状の部材を互いに直交する2方向に変位させることを特徴とする請求項1に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項3】
前記変位機構は、前記凸状の部材を、前記凸状の部材が延びる方向にも変位可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項4】
前記変位機構は、前記凸状の部材の変位の自由度に応じた数のアクチュエータを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項5】
前記凸状の部材は、棒状部材であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項6】
前記凸状の部材が設けられる前記反射部材の前記裏面に凸部が形成され、
前記凸状の部材と前記裏面の凸部とを連結するクランプ部を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項7】
前記凸状の部材と前記変位機構との組み合わせを複数備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子。
【請求項8】
複数の光学素子を含む光学系において、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の変形可能な反射光学素子と、
前記反射光学素子の前記変位機構を介して前記凸状の部材を変位させ、収差を補正する制御装置とを備えることを特徴とする光学系。
【請求項9】
前記反射光学素子は、前記凸状の部材と前記変位機構との組み合わせを複数備え、
前記制御装置は、前記収差を補正するために、前記複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させるとともに、前記少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じる前記反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、前記複数の凸状の部材のうち、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させることを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項10】
露光光でパターンを照明し、前記露光光で前記パターン及び投影光学系を介して基板を露光する露光装置において、
請求項8又は請求項9に記載の光学系を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項11】
前記光学系は前記投影光学系であることを特徴とする請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
反射光学素子の駆動方法であって、
前記反射光学素子は、請求項7に記載の反射光学素子で構成され、
前記複数の凸状の部材のうち、少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させ、前記反射部材の反射面を変形させる第1工程と、
前記少なくとも一つの凸状の部材の変位によって生じる前記反射部材の位置変化を起こす力を補正するように、前記複数の凸状の部材のうち、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させる第2工程とを含むことを特徴とする反射光学素子の駆動方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つの凸状の部材を複数の異なる条件で変位させたときに生じる前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報を、前記条件に応じて記憶する工程を有し、
前記第1工程は、前記反射部材の反射面の目標とする変形量に応じて、前記複数の異なる条件の中から所定の条件を選択し、前記少なくとも一つの凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させ、前記反射部材の反射面を変形させ、
前記第2工程は、前記所定の条件に対応する前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報に基づいて、前記少なくとも一つの凸状の部材とは異なる凸状の部材を、当該凸状の部材に対応する前記変位機構を介して変位させることを特徴とする請求項12に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項14】
前記複数の異なる条件は、前記凸状の部材の変位量又は変位方向を含むことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項15】
前記反射部材の位置変化を起こす力に関する情報は、前記反射部材の光軸周りの回転力を含むことを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか一項に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項16】
前記第1工程は、前記複数の条件から選択された条件の重みを求めることを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか一項に記載の反射光学素子の駆動方法。
【請求項17】
請求項10又は請求項11に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、を含むデバイス製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−106014(P2013−106014A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251158(P2011−251158)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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