説明

変形性関節症の治療

本発明は一般的には、変形性関節症(OA)の治療及び/又は予防に関する。本発明によると、GM−CSFの拮抗薬は変形性関節症の治療に有効となりうる。GM−CSFの拮抗薬は限定しないが、GM−CSF又はGM−CSF受容体に特異的な抗体を含む。本発明は更に、特定の疾患モデルにおいて拮抗薬を試験するのに有用な、GM−CSFノックアウトマウスといった遺伝子導入動物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2008年12月22日に出願の米国仮特許出願第61/139,679号、及び2009年3月30日出願の米国仮特許出願第61/164,486号の利益を主張し、双方ともにその全体が引用によって組み込まれる。
【0002】
[本発明の分野]
本発明は一般的には、変形性関節症(OA)の治療及び/又は予防に関する。本発明によると、GM−CSFの拮抗薬は変形性関節症の治療に有効となりうる。GM−CSFの拮抗薬は限定しないが、GM−CSF又はGM−CSF受容体に特異的な抗体を含む。本発明は更に、特定の疾患モデルにおいて拮抗薬を試験するのに有用な、GM−CSFノックアウトマウスといった遺伝子導入動物を提供する。
【背景技術】
【0003】
変形性関節症(OA)は変性関節疾患とも知られ、老齢者及び肥満者において最も一般的な疾患である。OAは関節結合部の疾患であり、関節リウマチ(RA)と異なり、全身性疾患ではなく、通常は1又は数個の関節に発症する。疾患は関節の軟骨の全体的な破壊、その下層の骨の硬化、及び骨棘形成を引き起こし、動作の損失及び疼痛を引き起こす。最終的には、関節全体の置換が多くの場合に必要となる。
【0004】
OAは米国においてはこれまでに約2,100万人の人々に発症し、家庭医の外来の全体の25%を構成し、NSAID(non steroidal anti inflammatory drug:非ステロイド性抗炎症薬)の投薬の全体の50%を占める。疾患の進行を遅延又は停止する有用な治療は現在はなく、現行の薬剤は単に徴候を治療するのみである。疾患の発生頻度及び重症度は加齢とともに増加する。65歳で、60%の米国人が徴候性ではあるものの、80%がX線検査でのOAの形跡を示している。65歳での関節疾患の全体の65%がOAである。2006年には、米国で735,000名のOA関連の入院があった。
【0005】
現行のOA薬剤は疾患自体ではなくOAの徴候を治療する。OAの治療に通常用いられる薬剤はジアセレイン(diacerin)、ボルタレン、モービック、及びオルソテック(一般名:ジクロフェナク、ミソプロストール、メロキシカム)といった非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を含む。NSAIDは主として、中枢神経系(CNS)におけるプロスタグランジン合成を抑制することによって作用する経口用化合物である。他の通常用いられる薬剤は:ウルトラム(トラマドール)といった非麻薬性鎮痛薬と;セレブレックス及びアルコキシア(セレコキシブ、エトリコキシブ)といったCOX−2阻害薬と;デュラゲシク(デキストロプロポキシフェンフェンタニル)といった麻薬性鎮痛薬と;スパルツ、ヒアルガン、オルトビスク、及びシンビスク(Hylan G−F20)といったヒアルロン酸と;プレドニゾロン及びメチルプレドニゾロンといったコルチコステロイドと;を含む。OAに対する現在の治療は軟骨細胞移植といった組織工学を経た外科手術を不要にすることを目的とするが、これらの治療は最終段階のOAの治療にのみ適用可能である。OAの治療において考えられる他のアプローチは増殖療法を含み、ブドウ糖といった刺激物質が発症した関節に注入され、これによって急性の炎症反応を引き起こすが、組織、靱帯、腱、及び軟骨を強化し、治癒が期待される。このように、OAの治療に対する未対処で高い医療ニーズがある。
【0006】
一部のサイトカインは変形性関節症に関与することが知られている(Blomら、Current Drug Targets(2008)8:283)。IL−1、「破壊性(destructive)」サイトカイン、及びアナボリック成長因子である形質転換増殖因子β(TGFβ)といった、いくつかのサイトカインは、有望な創薬標的であると見なされる。
【0007】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、白血球増殖因子として機能するサイトカインである。GM−CSFは幹細胞を刺激して、顆粒球(好中球、好酸球、及び好塩基球)ならびに単球を産生する。単球は血行路を出て組織に移動し、マクロファージに成熟する。このように、GM−CSFは天然の免疫/炎症カスケードの一部であり、そこでは、少数のマクロファージの活性によって、感染症と戦うのに重要なプロセスである、数の増加が迅速に生じる。GM−CSFの活性形態は同質二量体として細胞外に見出される。特に、GM−CSFは関節リウマチ(RA)のような自己免疫障害における炎症性メディエータとして同定されてきており、炎症性サイトカイン、ケモカイン、及びプロテアーゼの産生を増加させることによって、最終的には関節破壊を引き起こす。
【0008】
国際公開第06/0234412号は変形性関節症のための多数のバイオマーカーを開示し、それらはプロテインマイクロアレイによって同定された。同定されたバイオマーカーのうちの1つがGM−CSFであり、4倍の発現増加がOAの組織で報告されている。しかしながら、GM−CSFが治療的介入の論点にもなりうるという指摘も示唆もなく、国際公開第06/0234412号に開示の技術で特定されるような、OAの組織における単なる4倍の発現増加も同様のことを示唆しない。関連のある静脈においては、Devalarajaら(米国特許出願公開20020141994A1)はコロニー刺激因子の拮抗薬での治療に好適な、有望で好適な指標の長いリストの中でOAについて大まかに述べている。指標のリストはアテローム硬化、敗血症、喘息、自己免疫疾患、骨粗鬆症、及び関節リウマチを含む。M−CSF及びG−CSFといった別のコロニー刺激因子の他、GM−CSFは、Devalarajaらで言及されているコロニー刺激因子のうちの1つである。実際に、Devalarajaらでは、GM−CSFを拮抗することがOAを罹患した対象を治療するのに好適な理由に関するデータ又は他の見識を含んでいない。
【発明の概要】
【0009】
本発明は最初に、GM−CSFがOAの治療用の有効な標的であることを実証する。この知見は新規であり、従来技術のいずれも、OAの治療におけるこのような介入の論点を合理的に教示、示唆、又は提供していない。従って、本発明は例えば、対象における変形性関節症の治療のための方法を提供し、当該方法は有効量のGM−CSF拮抗薬を前記対象に投与するステップを具えている。
【0010】
別の態様においては、本発明は対象における変形性関節症の予防のための方法を企図し、当該方法は有効量のGM−CSF拮抗薬を前記対象に投与するステップを具える。
【0011】
別の態様においては、本発明は変形性関節症に罹患した、あるいは変形性関節症に罹患したと疑われる対象において、細胞の成長及び/又は生存を活性化、増加、誘発することによって、GM−CSFの能力に拮抗することが可能なGM−CSF拮抗薬を含む組成物に関し、当該組成物は更に、1以上の薬理学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を含む。
【0012】
別の態様においては、本発明は変形性関節症の治療において有用なGM−CSF拮抗薬を含む組成物に関し、前記組成物は更に、以上の薬理学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を含む。
【0013】
本発明の特定の態様においては、GM−CSF拮抗薬はGM−CSFに特異的な抗体である。
【0014】
本発明の代替的な態様においては、GM−CSF拮抗薬はGM−CSF受容体に特異的な抗体である。
【0015】
他の態様においては、本発明は変形性関節症の治療の際の薬剤の調製におけるGM−CSF拮抗薬の使用に関する。
【0016】
他の態様においては、本発明は変形性関節症の治療用のGM−CSF拮抗薬を提供する。
【0017】
本明細書を通じて、文脈でそうではないことが要求されない限り、用語「具える(comprise)」、「有する(have)」及び「含む(include)」、ならびに「具える(comprises,comprising)」、「有する(has,having)」及び「含む(includes,including)」といった各々の変化形は、定まった要素若しくは数、又は要素若しくは数の群を包含することを意味するが、その他の要素若しくは数、又は要素若しくは数の群を排除しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、組織学的評点によって評価される別個の領域における関節の損傷についての定量的データを示す。実験の構成及び評点法は実施例2に記載されている。「Lat.」は外側の略語であり、「Med.」は内側の略語である。統計的解析はマンホイットニー(Mann−Whitney)を介して行われた。データは外側大腿骨(Lat.Femur;p=0.02)、外側脛骨(Lat.Tibia;p=0.003)、及び内側脛骨(Med.Tibia;p=0.001)、及び領域全体(平均;p=0.002)について統計学的に有意である。
【図2】図2は、コントロールの健常な膝の例示的な組織学的部分を示す。倍率は100倍である。軟骨の損傷、骨棘形成、滑膜炎、又は変形は見られない。Sは滑膜表層であり、Cは軟骨層である。
【図3】図3は、コラーゲン誘発型のOAのモデルにおけるC57/BL6マウスの左膝の例示的な組織学的部分を示す。個々の部分の倍率は図面に示されている。上の行の写真は軟骨の損傷、骨棘形成、及び滑膜炎が顕性であることを示す。Oは骨棘である。Sは滑膜表層である。下の行の写真は関節の変形が更に存在することを示す。
【図4】図4は、コラーゲン誘発型のOAのモデルにおけるGM−CSF−/−マウスの左膝の例示的な組織学的部分を示す。個々の部分の倍率は図面に示されている。示されるように、奇形及び/又は損傷がC57/BL6マウス(図3参照)と比べてかなり軽症であり、コントロールの健常マウス(図2参照)と同等である。Oは骨棘である。Sは滑膜表層である。
【図5】図5は、OAのマウスモデルにおける、GM−CSF抗体での治療学的処置の膝関節の組織学的評点を示す。「Lat.」は外側の略語であり、「Med.」は内側の略語である。結果は平均±標準偏差として表わされる。示されるように、抗GM−CSF抗体で治療したマウスは病気が少ない。
【図6】図6は、両足圧力差痛覚測定器(incapacitance meter)において後肢の重量分布を評価した実験結果を示す。データはグラフに示すように、OAの誘発後27日後から有意である(独立t検定)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明はGM−CSFがOAの治療用の有効な標的であることを実証する。この点において、本発明は一態様においては、GM−CSF拮抗薬を用いてOAの領域に予防的又は治療的な利点を引き起こす方法を提供する。
【0020】
本発明は、このような治療を必要とする対象への治療上有効な量のGM−CSF拮抗薬の投与を具える治療方法を提供する。「治療上有効な量(therapeutically effective amount)」又は「有効量(effective amount)」は本明細書中で用いられるように、所望の生物学的反応を誘発するのに必要なGM−CSF拮抗薬の量のことである。本発明によると、治療上有効な量は、変形性関節症を治療及び/又は予防するのに必要なGM−CSF拮抗薬の量である。
【0021】
「GM−CSF拮抗薬(GM−CSF antagonist)」は本明細書中で用いられるように、最も広範な意味でのGM−CSF拮抗薬を含み、GM−CSFの活性又は機能を抑制するか、あるいはその他の方法でGM−CSFの治療上の効果を発揮する任意の分子が含まれる。GM−CSF拮抗薬という用語は限定しないが、GM−CSFに特異的に結合する抗体、GM−CSFに特異的な抑制型の核酸、又はGM−CSFに特異的な小さな有機分子を含む。更に、GM−CSF拮抗薬という用語の意味の内部には、GM−CSF受容体に特異的に結合する抗体、GM−CSF受容体に特異的な抑制型の核酸、又はGM−CSF受容体に特異的な小さな有機分子がある。
【0022】
抑制型の核酸は限定しないが、アンチセンスDNA、三重鎖形成型のオリゴヌクレオチド、外部ガイド配列、siRNA、及びマイクロRNAを含む。有用な抑制型の核酸はGM−CSFをコードするRNAの発現を、コントロールと比較して少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、又は95パーセント低減する核酸を含む。抑制型の核酸及びそれらを産生する方法は当該技術分野で公知である。siRNAの設計ソフトウェアは入手可能である。
【0023】
GM−CSF又はGM−CSF受容体に特異的な小さな有機分子(SMOL)は、天然物のスクリーニング又は化合物ライブラリのスクリーニングを介して同定してもよい。一般的には、SMOLの分子量は500ダルトン未満であり、更に一般的には160ないし480ダルトンである。SMOLの他の一般的な特性は以下のうちの1以上である:
・分配係数logPが−0.4ないし+5.6の範囲にある
・モル屈折率が40ないし130である
・原子の数が20ないし70である
【0024】
概要については、「Ghoseら,J Combin Chem:7:55−68,1999」及び「Lipinskiら,Adv Drug Del Rev 23:3−25,1997」を参照のこと。
【0025】
好適には、本発明で用いるためのGM−CSF拮抗薬はGM−CSFに特異的であるか、あるいはGM−CSF受容体に特異的な抗体である。このような抗体はマウス抗体、ラット抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体といった任意の型であってもよい。「ヒト(human)」抗体又は機能的なヒト抗体のフラグメントは本明細書では、キメラ型ではない(例えば「ヒト化型(humanized)」ではない)もの、及び非ヒト種由来ではない(全体的又は部分的に)ものと定義される。ヒト抗体又は機能的な抗体フラグメントはヒトから得ることができるか、あるいは合成型のヒト抗体にできる。「合成型のヒト抗体(synthetic human antibody)」は、配列が全体的又は部分的に、既知のヒト抗体配列の分析に基づく合成配列からコンピュータ上で得られる抗体と定義される。ヒト抗体配列又はそのフラグメントのコンピュータ上での設計は、例えばヒト抗体又は抗体フラグメントの配列のデータベースを分析し、そこから得られるデータを用いてポリペプチド配列を作り出すことによって得られうる。ヒト抗体又は機能的な抗体フラグメントの別の例は、ヒト起源の抗体配列のライブラリから分離した核酸によってコードされるものである(すなわち、このようなライブラリはヒトの天然源から取出される抗体に基づいている)。
【0026】
「ヒト化抗体(humanized antibody)」又は機能的なヒト化抗体フラグメントは本明細書中においては:
(i)非ヒト源(異種性の免疫系を有する遺伝子導入マウス)から得られ、その抗体はヒトの生殖細胞系列の配列に基づいているもの;
あるいは
(ii)キメラ型のものであり、可変ドメインが非ヒト起源から得られ、定常ドメインがヒト起源から得られるもの;
あるいは
(iii)CDR移植型であって、可変ドメインのCDRが非ヒト起源由来である一方、可変ドメインの1以上のフレームワークがヒト起源であり、定常ドメインが(ある場合は)ヒト起源であるもの;
と定義される。
【0027】
「キメラ抗体(chimeric antibody)」又は機能的なキメラ抗体フラグメントという用語は本明細書中では、ある種属に見出される配列から得られるか、あるいはそれに対応する抗体の定常領域と、別の種属に見出される配列から得られる抗体の可変領域とを有する抗体分子と定義される。好適には、抗体の定常領域はヒトにおいて、例えばヒトの生殖系列細胞又は体細胞において見出される配列から得られるか、あるいはそれに対応し、抗体の可変領域(例えば、VH領域、VL領域、CDR領域、又はFR領域)は非ヒト動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、又はハムスターに見出される配列から得られる。
【0028】
本明細書中で用いられるように、結合特異性は絶対的特性ではなく相対的特性であるため、抗体が「特異的に結合する(bind specifically to,specifically binds to)」とは、このような抗体がある抗原(ここでは、GM−CSF、あるいは代替的にGM−CSF受容体)と1以上の関連抗原とを識別できる場合に、このようなある抗原に対して「特異的である(specific to/for)」こと、あるいはそれを「特異的に認識する(specifically recognize)」ことをいう。1以上の関連抗原は例えば、IL3、IL5、IL−4、IL13、又はM−CSFといった1以上の密接に関連する抗原であり、基準点として用いられている。ほとんどの一般的な形態においては(かつ、基準の定義が言及されていない場合)、「特異的な結合(specific binding)」は、例えば以下の方法のうちの1つによって定量される、対象の抗原と関連しない抗原とを識別する抗体の能力のことである。このような方法は限定しないが、ウエスタンブロット法、ELISA法、RIA法、ECL法、IRMA法、及びペプチドスキャン法を含む。例えば標準的なELISAアッセイを行うことができる。点数化は標準的な発色現像(例えば、ホースラディッシュペルオキシドを有する二次抗体、及び過酸化水素を有するテトラメチルベンジジン)によって行うことができる。特定のウェルにおける反応は、例えば450nmでの光学濃度によって点数化される。一般的なバックグラウンド(つまり、陰性反応)は0.1ODにでき、一般的な陽性反応は1ODにできる。このことは、陽性/陰性の差異は10倍を超えうることを表わす。一般的には、結合特異性の定量は単一の関連抗原を用いるのではなく、粉乳、BSA、又はトランスフェリンといった約3ないし5の関連しない抗原の組合せを用いることによって行われる。更に、「特異的な結合」は:その標的の抗原の異なる部分、例えばGM−CSF又はGM−CSF受容体の異なるドメイン又は領域か;あるいは、GM−CSF又はGM−CSF受容体の1以上の主要なアミノ酸残基又はアミノ酸残基の伸長部;を識別する抗体の能力に関連づけてもよい。
【0029】
更に本明細書中で用いられるように、「免疫グロブリン(Ig:immunoglobulin)」は本明細書中ではクラスIgG、IgM、IgE、IgA、又はIgD(又は任意のそのサブクラス)に属するタンパク質と定義され、総ての従来の既知の抗体及び機能的なそのフラグメントを含む。抗体/免疫グロブリンの「機能的なフラグメント(functional fragment)」は本明細書中では、抗原結合領域を保持する抗体/免疫グロブリンのフラグメント(例えば、IgGの可変領域)と定義される。抗体の「抗原結合領域(antigen−binding region)」は抗体の1以上の超可変領域、すなわち、CDR−1、CDR−2、及び/又はCDR−3領域に見出されるが、可変「フレームワーク(framework)」領域は更に、CDRのための骨格を提供すること等によって、抗原結合において重要な役割を担いうる。好適には、「抗原結合領域(antigen−binding region)」は少なくとも、可変軽鎖(VL鎖)のアミノ酸残基4ないし103、及び可変重鎖(VH鎖)のアミノ酸残基5ないし109を含み、更に好適にはVL鎖のアミノ酸残基3ないし107及びVH鎖のアミノ酸残基4ないし111を含み、特に好適なのは完全なVL鎖及びVH鎖である(アミノ酸位置が1ないし109のVL鎖及び1ないし113のVH鎖であり、番号は国際公開第97/08320号による)。本発明で用いるのに好適な免疫グロブリンのクラスはIgGである。本発明の「機能的なフラグメント」は:F(ab’)フラグメント;Fabフラグメント;scFv;又は、単一の免疫グロブリンの可変ドメイン若しくは単一ドメインの抗体ポリペプチド、例えば単一の重鎖の可変ドメイン若しくは単一の軽鎖の可変ドメインを含む構造;のドメインを含む。F(ab’)又はFabはCH1ドメインとCドメインとの間に生じるジスルフィドの分子間相互作用を最小化又は完全除去するように設計してもよい。
【0030】
本発明の抗体はコンピュータ上で設計され、合成的に産生される核酸によってコードされたアミノ酸配列に基づく組換え型の抗体ライブラリから得られうる。抗体配列のコンピュータ上での設計は、ヒトの配列データベースを分析し、かつそこから得られるデータを用いてポリペプチド配列を作り出すことによって得られる。コンピュータ上で産生された配列における設計及び取得方法は、例えば:Knappikら,J.Mol.Biol.296:57,2000;Krebsら,J.Immunol.Methods.254:67,2001;Rotheら,J.Mol.Biol.376:1182,2008;及び上述のKnappikらに2000年に交付された米国特許第6,300,064号;に記載されており、本明細書中ではその全体が引用によって組み込まれている。
【0031】
GM−CSFに特異的な任意の抗体が本発明で用いられうる。例示的な抗体は米国特許出願第11/914,599号に開示されており、その全体が引用によって組み込まれている。別の例示的な抗体は配列番号1に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列か、あるいは配列番号2に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含む抗体を含有する。更に別の例示的な抗体は:配列番号1に示したような重鎖の可変領域か;あるいは、配列番号2に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列;を含む抗体から得られる抗体を含む。更に別の例示的な抗体は:同一の特異性を有し;かつ/あるいは、配列番号1に示したような重鎖の可変領域を含むか、若しくは配列番号2に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含む抗体と同位置のエピトープと結合する;抗体を含む。更に別の例示的な抗体は配列番号1に示された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、あるいは少なくとも95%相同な重鎖の可変領域を含む抗体を含有する。更に別の例示的な抗体は配列番号2に示された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、あるいは少なくとも95%相同な軽鎖の可変領域を含む抗体を含有する。



【0032】
本発明で用いることができる代替的で例示的な抗体は、配列番号3に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列か、あるいは配列番号4に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含む抗体である。別の例示的な抗体は:配列番号3に示したような重鎖の可変領域か;あるいは、配列番号4に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列;を含む抗体から得られる抗体を含む。更に別の例示的な抗体は:同一の特異性を有し;かつ/あるいは、配列番号3に示したような重鎖の可変領域を含むか、若しくは配列番号4に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含む抗体と同位置のエピトープと結合する;抗体を含む。更に別の例示的な抗体は配列番号3に示された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、あるいは少なくとも95%相同な重鎖の可変領域を含む抗体を含有する。更に別の例示的な抗体は配列番号4に示された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、あるいは少なくとも95%相同な軽鎖の可変領域を含む抗体を含有する。

【0033】
本発明で用いることができる代替的で例示的な抗体は:




から選択されるH−CDR3配列を含む抗体である。
【0034】
好適には、配列番号5ないし16のうちのいずれか1つから選択されるH−CDR3配列を含む抗体は、更に以下のH−CDR1配列:


及び/又は以下のH−CDR2配列:


及び/又は以下のL−CDR1配列:


及び/又は以下のL−CDR2配列:


及び/又は以下のL−CDR3配列:


を含む。
【0035】
本発明で用いることができる代替的で例示的な抗体は、以下のL−CDR1配列:


及び/又は以下のL−CDR2配列:


及び/又は以下のL−CDR3配列:


及び/又は以下のH−CDR1配列:


及び/又は以下のH−CDR2配列:


及び/又は以下のH−CDR3配列:


を含む抗体である。
【0036】
好適には、前記抗体は配列番号22ないし27のCRDを総て含む。
【0037】
GM−CSF受容体はヘマトポイエチン受容体のサブファミリーのメンバーである。GM−CSF受容体はヘテロ二量体であり、αサブユニット及びβサブユニットからなる。αサブユニットはGM−CSFに対する特異性が高い一方、βサブユニットは他のサイトカイン受容体と共有であり、IL3及びIL5を含む。これは、β受容体サブユニットの更なる広範な組織分布に反映される。αサブユニットであるGM−CSFRαは主に、好中球、マクロファージ、好酸球、樹状細胞、内皮細胞、及び呼吸器系上皮細胞といった骨髄系細胞及び非造血系細胞に発現する。完全長GM−CSFRαはI型サイトカイン受容体のファミリーに属する400のアミノ酸のI型膜糖タンパク質であり、22のアミノ酸のシグナルペプチド(位置1ないし22)、298のアミノ酸の細胞外ドメイン(位置23ないし320)、位置321ないし345の膜貫通ドメイン、及び55のアミノ酸の短い細胞内ドメインからなる。シグナルペプチドは開裂して、378のアミノ酸のタンパク質として成熟型のGM−CSFRαを提供する。ヒト及びマウスのGM−CSFRαのcDNAクローンは入手可能であり、タンパク質レベルで受容体サブユニットの同一性が36%である。GM−CSFはαサブユニット単体と結合するが比較的親和性が低く(Kdが1ないし5nM)、βサブユニット単体とは全く結合しない。しかしながら、αサブユニット及びβサブユニットの双方の存在によって、高親和性のリガンド受容体の複合体が得られる(Kd>>100pM)。GM−CSFのシグナル伝達はGM−CSFRα鎖との初期結合、及び更に大きなサブユニットである共通のβ鎖との架橋結合を介して生じて、高親和性の相互作用が生じ、JAK−STAT経路をリン酸化する。
【0038】
GM−CSF受容体に特異的な任意の抗体は本発明で用いることができる。例示的な抗体は配列番号28ないし46のうちのいずれか1つに示されたH−CDR3配列のアミノ酸配列を含む抗体を含有する。別の例示的な抗体は配列番号28ないし46のうちのいずれか1つに示されたH−CDR3配列のアミノ酸配列を含む抗体から得られる抗体を含有する。更に別の例示的な抗体は:同一の特異性を有し;かつ/あるいは、配列番号28ないし46のうちのいずれか1つに示されたH−CDR3配列のアミノ酸配列を含む抗体と同一のエピトープに結合する;抗体を含む。更に別の例示的な抗体は、配列番号28ないし46のうちのいずれか1つに示されたH−CDR3配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、あるいは少なくとも95%相同なH−CDR3配列を含む抗体を含有する。





【0039】
特定の態様においては、本発明は対象における変形性関節症の治療のための方法を提供し、当該方法はGM−CSF拮抗薬を前記対象に投与するステップを具える。この文脈において用いられる「対象(subject)」はマウス又はラットといったげっ歯類、及びカニクイザル(学名:Macaca fascicularis)、アカゲザル(学名:Macaca mulatta)、又はヒト(学名:Homo sapienss)といった霊長類を含む任意の哺乳類のことである。好適には対象は霊長類であり、最も好適にはヒトである。
【0040】
特定の態様においては、本発明は変形性関節症に罹患した、あるいは変形性関節症に罹患したと疑われる対象において、細胞の成長及び/又は生存を活性化、増加、誘発することによって、GM−CSFの能力に拮抗することが可能なGM−CSF拮抗薬を含む組成物を提供し、当該組成物は更に、1以上の薬理学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を含む。本発明の抗GM−CSF抗体は変形性関節症におけるGM−CSFの任意の役割に拮抗することができる。
【0041】
別の態様においては、本発明における変形性関節症の予防のための方法を提供し、当該方法はGM−CSF拮抗薬を前記対象に投与するステップを具える。「予防(prophylaxis)」はこの文脈において用いられるように、疾病の進行を阻止するか、あるいは疾病の進行を遅らせることを目的とする方法である。
【0042】
特定の態様においては、本発明は変形性関節症の治療に有用なGM−CSF拮抗薬を含む組成物を提供し、当該組成物は更に1以上の薬理学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を含む。
【0043】
他の態様においては、本発明は変形性関節症の治療の際の薬剤の調製におけるGM−CSF拮抗薬の使用を提供する。
【0044】
他の態様においては、本発明は変形性関節症の治療用のGM−CSF拮抗薬を提供する。
【0045】
本発明の組成物は好適には、GM−CSF拮抗薬と薬学的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、変形性関節症の治療用の医薬組成物である。このような担体、希釈剤、及び賦形剤は当該技術分野で公知であり、当業者は本発明のGM−CSF拮抗薬で対象を治療するのに最も好適な剤形及び投与経路が分かるであろう。
【0046】
別の態様においては、本発明はGM−CSF−/−遺伝子型を有する遺伝子操作された哺乳類を提供する。特定の態様においては、前記哺乳類はマウスである。「ノックアウト(knock−out)」マウス(又は哺乳類)、特定の遺伝子を「破壊(disrupt)」したマウス(又は哺乳類)、及び「−/−遺伝子型(−/− genotype)」を有するマウス(又は哺乳類)という用語は本発明で互換的に用いられ、当該技術分野で理解されている。各々の動物は染色体の対立遺伝子の双方にある各々の遺伝子、本明細書ではGM−CSFが欠損している。
【実施例1】
【0047】
《GM−CSF−/−マウスの産生》
GM−CSF−/−マウスの産生は「Stanleyら(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:5592」に記載されている。簡潔に言うとキメラマウスは、破壊したGM−CSF遺伝子を有する129/OLA由来のES細胞(H−2b)をC57BL/6(H−2b)の宿主胚盤胞に微量注入することによって産生した。変異型のGM−CSF対立遺伝子の生殖系列の伝達物質は11の産生のためにC57BL/6マウスと交配し、実験で用いられるGM−CSF−/−マウス、GM−CSF+/−マウス、及びGM−CSF+/+マウスを産生するように交配したGM−CSF+/−マウスを提供した。GM−CSF遺伝子型の状態はtail DNAのPCR分析によって定量した。動物は標準的なげっ歯類の固形飼料と水とを適宜給餌され、おがくずを敷いたゲージに同一性別の同腹仔とともに収容した。双方の性別のマウスが8ないし15週齢で実験に供された。
【実施例2】
【0048】
《変形性関節症用の標的としてのGM−CSFの検証》
GM−CSF−/−マウスは、変形性関節症の実験モデルでC57/BL6マウス(例えば、Millsら,J Immunol 164:6166−6173,2000参照)と比較した。
【0049】
[方法]
マウス(群ごとにn=10)は2日前及び0日目に左膝にコラゲナーゼの関節内注射を受けた(Blomら,Arthritis Rheum 56:147−157,2007)。42日目にマウスは屠殺され、膝関節は収集、固定、脱灰され、パラフィンに埋込まれ、ミクロトームで7μmに切断した。スライドはサフラニンO(Safranin−O)/ファストグリーン(Fast Green)、ならびにヘマトキシリン(Haematoxylin)及びエオシン(Eosin)で染色し、関節の病態を実証した。調査した病態は軟骨の損傷、滑膜炎、骨棘形成、及び関節の変形を含む。
【0050】
軟骨の病態で用いられる評点法は以下の通りであった:

グレート
0 通常
1 不規則だが無傷
1.5 粗面を有し不規則
2 表面の細線維化
2.5 軟骨層における細胞の減少を伴う表面の細線維化
3 垂直方向の亀裂
3.5 分枝及び/又は水平方向の亀裂、層境界線(tidemark)の破壊
4 層境界線まで延在しない軟骨の損失
4.5 層境界線まで延在する軟骨の損失
5 層境界線を超えるが、骨まで延在しない軟骨の損失
5.5 骨まで延在する軟骨の損失
6 骨の損失/リモデリング/変形

ステージ
1 10%未満の領域の損傷
2 10ないし25%の領域の損傷
3 25ないし50%の領域の損傷
4 50ないし75%の領域の損傷
【0051】
グレードはステージと乗算して、評点を提供した。
【0052】
この評点法は臨床上及び実験上のOAにおいてOAの病理組織診断を評価する既知の方法に基づいている。「Pritzkerら,Osteoarthritis Cartilage 14:13−29,2006」参照。グレードは軟骨内へのOAの進行の深さとして定義されている。ステージは軟骨の合併症の水平範囲、すなわち軟骨が影響を受けている程度として定義されている。OAの重症度及び範囲の組合せの評価を表わすために、グレードをステージと乗算して、評点を提供して、評点全体を提供する。マウスにつき最大6の切片が評価された。
【0053】
[結果]
これらの関節の検査はGM−CSF−/−マウスがコントロールマウスよりも膝関節の病態が小さいことを示し、通常の変形性関節症の病態及び進行におけるGM−CSFの役割を示した。C57/BL6マウスで観察された病態は、軟骨層に対する重篤な損傷、骨棘形成、関節の変形、及び滑膜炎を含む。GM−CSF−/−マウスは骨棘形成又は関節の変形がなく、軟骨の損傷及び滑膜炎がかなり少ないことを示した。
【0054】
別個の領域での関節の損傷の定量的データは図1に示される。代表的な組織学的診断は図2(コントロールの健常な膝)、図3(C57/BL6の左膝)、及び図4(GM−CSF−/−の左膝)で示される。GM−CSF遺伝子欠損型マウスのコラーゲン誘発型のOAの病態はC57BL/6マウスと比較してわずかであった。
【0055】
まとめると、GM−CSF−/−マウスの膝関節の病態は、変形性関節症の実験モデルにおいて、C57/BL6マウスと比較して強く低減されることを示し、GM−CSFが変形性関節症の治療的介入のための薬剤標的であることを実証した。
【実施例3】
【0056】
《OAの治療におけるGM−CSF拮抗薬の治療上の有効性》
この実験においては、我々はGM−CSFに特異的なモノクローナル抗体を用いて、GM−CSF拮抗薬が変形性関節症を治療するのに有効となりうることを実証した。
【0057】
[コラーゲン誘発型のOAのマウスモデル]
0日目及び2日目に、C57BL/6マウスに1ユニットのVII型コラゲナーゼを右膝の関節内に与えて、関節不安定性を誘発した(Blomら(2004)Osteoarthritis Cartilage.12;627−35参照)。
【0058】
[抗GM−CSF抗体の治療]
20のマウスを無作為に2の群に分割した(1群につき10のマウス)。
群1(n=10):抗GM−CSF抗体(22E9)
群2(n=10):IgG2aアイソタイプのコントロール抗体
【0059】
マウスは6週の間、1回の治療及び1匹のマウスにつき250μgの抗GM−CSF抗体(22E9)、又はIgG2aアイソタイプのコントロール抗体で、週に3回腹腔内治療を行った。治療はOAの誘発4日前に開始された(予防)。言い換えると、マウスは4日前、2日前、0日目(最初のコラゲナーゼ注入の日)に治療され、その後6週の実験が終わるまで週に3回治療された。2週目、4週目、及び6週目にマウスは屠殺した。血漿は22E9に対する抗体成分及び免疫原性について検査される。コントロール抗体及び抗GM−CSF抗体の双方は、1mlにつき10ユニット未満の内毒素(Endotoxin)を含むように精製した。
【0060】
抗体22E9は例示的な抗GM−CSF抗体として用いた。22E9はIgG2aアイソタイプであり、ラットの抗マウスGM−CSFに特異的な抗体である。22E9はAbD Serotec社(ドイツ連邦共和国マーティンスリート、品番1023501)から購入した。例えばeBioscience社(米国カリフォルニア州サンディエゴ、品番14−7331)などの代替的な供給業者が存在する。
【0061】
[組織学的診断]
最終注入の6週後に、組織学的診断がマウスの膝関節で行われた。膝関節は収集、固定、脱灰され、パラフィンに埋込まれ、ミクロトームで7μmに切断した。スライドはサフラニンO/ファストグリーン、ならびにヘマトキシリン及びエオシンで染色し、関節の病態を実証した。調査した病態は軟骨の損傷、滑膜炎、骨棘形成、及び関節の変形を含んだ。
【0062】
実施例2と同一の評点法を軟骨の病態について用いた。グレードはステージと乗算して、評点を提供した。
【0063】
以下の評点法を滑膜炎で用いた(滑膜層評点法):
0 通常の関節と比較して変化がない
1 滑膜表層の肥厚及び一部の炎症細胞の侵入
2 滑膜表層の肥厚及び中程度の炎症細胞の侵入
3 重度の滑膜表層の肥厚及び最大に観察される炎症細胞の侵入
【0064】
[疼痛の測定]
OAのモデルで用いられる疼痛の指標は、両足圧力差痛覚測定器を用いて測定した特異な重量分布である。この機器は手術した後肢と反対側の手術していない後肢との間の重量分布の変化を測定する。マウスは実験前に3回、機器に環境順応させた。各々の後肢に掛かる重量が5秒間にわたって測定された。マウスごとに各々の時点で取られた3の別個の測定を平均した。測定は実験を通して週に2回行った。結果は(コラゲナーゼを注入した肢/コントロールの肢)×100で表した。
【0065】
[結果]
組織学的診断で分析した総ての領域(内側大腿骨を除く)、すなわち外側大腿骨、外側脛骨、及び内側脛骨について、抗GM−CSF抗体で治療したマウスに疾患が少ないという明らかな傾向があった。結果は図5に示す。
【0066】
重量分布の評価は、関節炎に関連する疼痛の測定で、27日目以降からコントロールのmAb治療群と比較して、抗GM−CSFのmAb治療群では関節炎の膝と異なる重量の顕著な変化を示した。結果は図6に示す。
【0067】
GM−CSF拮抗薬で治療したマウスの疾患はコントロール抗体で治療したマウスと比較すると少ないことを示した。GM−CSF拮抗薬で治療したマウスの疾患の最終段階では更に、コントロール抗体で治療したマウスと比較して疼痛が顕著に少ないことを示した。アイソタイプのコントロール抗体で治療したマウスの変形性関節症の徴候は、GM−CSFに特異的な抗体を受けたマウスと比較すると、顕著に増加することを示した。このことはGM−CSF拮抗薬がOAの治療に有効であることを実証する。
【実施例4】
【0068】
《配列番号1又は2を含むGM−CSFに特異的な抗体の治療上の有効性》
実施例3を反復する一方、GM−CSF拮抗薬として、配列番号1に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号2に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を用いる。マウス以外の別の種属、特にこの実験で用いた抗体が交差反応する種属を用いてもよい。好適にはこの実験で用いた動物種はラットである。
【0069】
アイソタイプのコントロール抗体で治療した動物の変形性関節症の徴候は、配列番号1に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号2に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を受けた動物と比較すると、顕著に増加することを示す。このことはOAの治療における抗体の有効性を実証する。
【実施例5】
【0070】
《配列番号3又は4を含むGM−CSFに特異的な抗体の治療上の有効性》
実施例3を反復する。GM−CSF拮抗薬として、配列番号3に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号4に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を用いる。マウス以外の別の種属、特にこの実験で用いた抗体が交差反応する種属を用いてもよい。好適にはこの実験で用いた動物種はラットである。
【0071】
アイソタイプのコントロール抗体で治療した動物、例えばラットの変形性関節症の徴候は、配列番号3に示したような重鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号4に示したような軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を受けた動物と比較すると、顕著に増加することを示す。このことはOAの治療における抗体の有効性を実証する。
【実施例6】
【0072】
《配列番号5ないし20を含むGM−CSFに特異的な抗体の治療上の有効性》
実施例3を反復する。GM−CSF拮抗薬として、配列番号5ないし16のうちのいずれか1つから選択されるH−CDR3配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を用いる。好適には、前記抗体は更に、配列番号16のH−CDR1配列、及び/又は配列番号17のH−CDR2配列、及び/又は配列番号18のL−CDR1配列、及び/又は配列番号19のL−CDR2配列、及び/又は配列番号20のL−CDR3配列を含む。マウス以外の別の種属、特にこの実験で用いた抗体が交差反応する種属を用いてもよい。好適にはこの実験で用いた動物種はラットである。
【0073】
アイソタイプのコントロール抗体で治療した動物、例えばラットの変形性関節症の徴候は、本実施例によるGM−CSFに特異的な抗体を受けた動物と比較すると、顕著に増加することを示す。このことはOAの治療における抗体の有効性を実証する。
【実施例7】
【0074】
《配列番号21ないし26を含むGM−CSFに特異的な抗体の治療上の有効性》
実施例3を反復する。GM−CSF拮抗薬として、配列番号22のL−CDR1配列、及び/又は配列番号23のL−CDR2配列、及び/又は配列番号24のL−CDR3配列、及び/又は配列番号25のH−CDR1配列、及び/又は配列番号26のH−CDR2配列、及び/又は配列番号27のH−CDR3配列を含むGM−CSFに特異的な抗体を用いる。好適には、前記抗体は配列番号22ないし27のCRDを総て含む。マウス以外の別の種属、特にこの実験で用いた抗体が交差反応する種属を用いてもよい。好適にはこの実験で用いた動物種はラットである。
【0075】
アイソタイプのコントロール抗体で治療した動物、例えばラットの変形性関節症の徴候は、本実施例によるGM−CSFに特異的な抗体を受けた動物と比較すると、顕著に増加することを示す。このことはOAの治療における抗体の有効性を実証する。
【実施例8】
【0076】
《GM−CSF受容体に特異的な抗体の治療上の有効性》
実施例3を反復するが、GM−CSF受容体に特異的なモノクローナル抗体を、GM−CSFに特異的なモノクローナル抗体の代わりに用いることが異なっている。
【0077】
GM−CSF拮抗薬として、配列番号27ないし45のうちのいずれか1つに示されたH−CDR3配列のアミノ酸配列を含むGM−CSF受容体に特異的な抗体を用いる。マウス以外の別の種属、特にこの実験で用いた抗体が交差反応する種属を用いてもよい。好適にはこの実験で用いた動物種はラットである。
【0078】
アイソタイプのコントロール抗体で治療した動物、例えばラットの変形性関節症の徴候は、本実施例によるGM−CSF受容体に特異的な抗体を受けた動物と比較すると、顕著に増加することを示す。このことはOAの治療における抗体の有効性を実証する。
【実施例9】
【0079】
《臨床試験》
臨床試験は膝の変形性関節症を罹患した成人患者で行う。プラセボをコントロールとした、無作為の二重盲検臨床試験の目的は:総合的な疼痛軽減における本発明のGM−CSF拮抗薬とプラセボとの間の比較上の差異と;診断された膝の変形性関節症(OA)を有する30名の患者の全検体におけるQOL(quality of life:生活の質)と;を定量することである。別の目的は有害事象、理学的検査、及び生命徴候によって定量されるような本発明のGM−CSF拮抗薬の安全性及び耐容性を定量することである。
【0080】
[方法]
40歳以上であり、1箇所以上の膝の変形性関節症と臨床上診断され、かつ、検査前の月に少なくとも15日間膝の疼痛が確認された30名の患者(約15名の成人男性と15名の成人女性)が本研究で登録されている。患者は治療上有効な量のGM−CSF拮抗薬あるいはプラセボを受ける(例えば、約6ヶ月間、2週ごとに1回)。
【0081】
WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index;Bellamyら,J Rheumatol 15(12):1833−40,1988)、及びSF−36v2のQOL測定尺度(Quality of Life instrument scales;ロードアイランド州リンカーンのQuality Metric Health Outcomes Solutions社)をこの研究で用いた。WOMACは疾患特異性であり、自己管理される健康状態の測定法である。WOMACは疼痛の領域における臨床上重要な徴候、凝り、ならびに臀部及び/又は膝の変形性関節症を有する患者における身体機能を調査する。指標は24の質問(疼痛が5問、凝りが2問、身体機能が17問)からなり、5分未満で完了できる。WOMACは、多様な治療介入(薬理学的、栄養学的、外科的、理学的療法等)の後の健康状態の臨床上重要な変化を検出するための有効性、信頼性、かつ感応性の高い手段である。WOMAC質問票は臀部又は膝の変形性関節症に対する治療介入の影響を評価するのに有効である。SF−36v2のQOL測定法は、質問が36問の多目的で短文式の健康調査である。SF−36v2のQOL測定法は、8の尺度の機能的健康及び健康尺度、ならびに精神心理学系の身体的及び精神的な健康の集約尺度及びオプションの健康効用指数を産生する。SF−36v2のQOL測定法は、特定の年齢、病気、又は治療群を標的とするものとは対照的な、汎用の測定法である。従って、SF−36v2は相対的な疾患の負荷と比較して一般的及び特異的な母集団の調査に有用であり、広範な異なる治療によって生じる健康上の利点を区別するのに有用であることが分かっている。SF−36v2は以下の健康の態様及び健康のサブセットの情報を産生する:身体的な健康(身体機能、身体的役割、全身の疼痛、及び一般的な健康からなる);及び精神的な健康(活力、社会的機能、感情的役割、及び精神的な健康からなる)。
【0082】
[結果]
〈全身の疼痛の変化〉
SF−36v2の全身の疼痛の改善は、本発明のGM−CSF拮抗薬で治療される患者において、プラセボと比較して統計学的に有意である。高い評点の方が、生成物を服用した後の疼痛が低いことを患者が感じていることを表わすため良好である。本発明のGM−CSF拮抗薬を受けた群においては、プラセボ群よりも統計学的的に有意な全身の疼痛の改善がある。
【0083】
〈身体的役割の評点の変化〉
プラセボと比較した本発明のGM−CSF拮抗薬の優れた効果は、身体的な健康による機能制限(身体的役割)の点で、8週、12週及び20週で統計学的に有意である。高い評点の方が、身体状態の改善と日常生活動作で受ける制限の低減とを患者が認知していることを表わすため良好である。本発明のGM−CSF拮抗薬を受けた群においては、プラセボ群よりも統計学的的に有意な身体的役割の改善がある。
【0084】
〈総合的なWOMAC評点の変化〉
本発明のGM−CSF拮抗薬で治療した群の総合的なWOMAC評点は、プラセボ群の総合的なWOMAC評点よりも統計学的に有意に良好である(低い評点の方が良好である)。
【0085】
〈WOMAC ADLの変化〉
日常生活動作における改善(WOMAC ADLの副評点として測定)は、本発明で治療した群の方が、プラセボ群よりも顕著である。本発明のGM−CSF拮抗薬を受けた群においては、プラセボ群よりも統計学的的に有意なWOMAC ADLの評点の改善があった(低い評点の方が良好である)。
【0086】
[結論]
臨床試験は、膝の変形性関節症を有する患者のQOLの改善における本発明のGM−CSF拮抗薬の有効性を示す。臨床試験の結果は更に、重篤な副作用が見出されなかったことから、生成物の安全性及び耐容性を示す。
【0087】
本発明のGM−CSF拮抗薬の有効性は更に、本発明のGM−CSF拮抗薬が交差反応する他の種属における(例えば、関節の運動を評価するためにウマでの)研究を通して、及び生体外での研究を用いて本発明のGM−CSF拮抗薬がIL−1誘発型のアグリカン分解を阻害する能力を定量し、軟骨細胞の培養のアッセイを行うことによって証明できる。
【0088】
当該技術分野の当業者は、本明細書中に記載の発明が、詳細に述べた以外の変形物及び変更物に影響しうることは理解されよう。本発明が総てのこのような変形物及び変更物を含むことは理解すべきである。本発明は更に、別個に、あるいは一括して本明細書中に引用したか、あるいは示したステップ、特徴、組成物及び化合物の総て、ならびに前記ステップ又は特徴の任意の2以上のいずれか及び総ての組合せを含む。
【0089】
[文献]
Bellamyら,J Rheumatol 15(12):1833−40,1988
Blomら,Arthritis Rheum 56:147−157,2007
Ghoseら,J Combin Chem:1:55−68,1999
Knappikら,J.Mol.Biol.296:57,2000
Krebsら,J.Immunol.Methods.254:67,2001
Lipinskiら,Adv Drug Del Rev 23:3−25,1997
Millsら,J Immunol 164:6166−6173,2000
Pritzkerら,Osteoarthritis Cartilage 14:13−29,2006
Rotheら,J.Mol.Biol.376:1182,2008


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における変形性関節症の治療のための方法であって、前記対象に有効量のGM−CSFの拮抗薬を投与するステップと具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記対象がヒトであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記対象がマウスであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記拮抗薬がGM−CSFに特異的な抗体であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記拮抗薬がGM−CSF受容体に特異的な抗体であることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−512815(P2012−512815A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541030(P2011−541030)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001672
【国際公開番号】WO2010/071924
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(591143869)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (9)
【氏名又は名称原語表記】The University of Melbourne
【Fターム(参考)】