説明

変性共役ジエン系共重合体、その製造方法、及び変性共役ジエン系共重合体組成物

【課題】低ヒステリシスロス性能及びウェットスキッド抵抗性能に優れ、かつこれらのバランスが良好で、優れた耐摩耗性及び高い破壊強度を有する変性共役ジエン系重合体組成物を得る。
【解決手段】共役ジエン系炭化水素とビニル芳香族炭化水素とからなる共役ジエン系共重合体の末端に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する変性基を有し、示差走査熱量測定(DSC)で温度間隔を0.2℃として測定したTg分布指数が、0.007以上である変性共役ジエン系共重合体及び当該変性共役ジエン系共重合体とシリカ系無機充填剤を含有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性共役ジエン系共重合体、その製造方法、及び変性共役ジエン系共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する社会的配慮から、自動車に対する省燃費化の要求が高まっている。
具体的には、自動車走行時に路面との抵抗が小さいタイヤ用の材料が求められており、特に路面と直接に接するタイヤトレッドにおいて、転がり抵抗の小さい材料が求められている。また、自動車の省燃費化と併せて、安全性への改善要求も強まっている。
上述したような省燃費化及び安全性改善の要求は、自動車のタイヤ性能に寄与する部分が大きく、タイヤ用ゴムの開発、及びタイヤ用ゴム組成物の改良検討がなされている。
例えば、自動車のタイヤ性能として、省燃費性向上のためにはヒステリシスロスの小さい材料、操縦安定性向上のためにはウェットスキッド抵抗の高い材料、耐久性向上のためには耐摩耗性と破壊強度に優れた材料が、それぞれ要求されている。
しかし、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗との関係、耐摩耗性とウェットスキッド抵抗との関係は、それぞれ背反関係にあるため、これらの要求性能をバランスよく有しながら、各々の性能を向上させたタイヤ用ゴム組成物の開発が重要となる。
タイヤ用ゴム組成物の改良方法としては、BR(ブタジエンゴム)やSBR(スチレンブタジエンゴム)のような原料ゴムの改良、シリカやカーボンブラック等の補強用充填剤、加硫剤、可塑剤等の構造やこれらを組み合わせた組成物の組成改良が行われている。
【0003】
前記補強用充填剤としては、従来、カーボンブラックが主流であったが、近年、カーボンブラックに代わって、シリカが注目されている。
例えば、特定構造のBRやSBRにシリカを補強用充填剤として配合して、タイヤ用ゴム組成物の混練条件を調整し、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスを改良する検討もなされている。
しかし、シリカ表面は親水性であるため、共役ジエン系ゴムとの親和性が低く、カーボンブラックに比べて分散性が悪くなるため、耐摩耗性や破壊強度に劣るという欠点を有している。
この欠点を改良するために、共役ジエン系ゴムの活性末端を、アルコキシシリル基を有する化合物で変性することで、ゴム中におけるシリカの分散性を改良し、さらにゴム分子末端のアルコキシ基とシリカ表面の水酸基を結合させることで、ヒステリシスロスを低減化する技術が検討されている。
例えば、特許文献1には、グリシドキシアルコキシシランを重合体活性末端に反応させて得られる変性共役ジエン系重合体が開示されており、特許文献2及び3には、アミノ基を含有するアルコキシシラン類を重合体活性末端に反応させて得られる変性共役ジエン系重合体、及びシリカとの組成物についての提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−233217号公報
【特許文献2】特開2001−158834号公報
【特許文献3】特開2003−171418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、更なる省燃費化の要求が高まってきており、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能を向上させ、かつこれらの性能のバランスに優れたタイヤ用ゴム組成物の開発が求められている。
そこで本発明は、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能に優れ、かつこれらのバランスに優れた変性共役ジエン系共重合体とその製造方法及び変性共役ジエン系共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アニオン重合開始剤を用いて重合した共役ジエン系共重合体の活性末端を、アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物で変性し、かつTg分布を調整して得られた変性共役ジエン系共重合体に、シリカ系無機充填剤を配合して、更に加硫物とした変性共役ジエン系共重合体組成物は、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能とのバランスに優れ、かつ高い耐摩耗性、破壊強度を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
〔1〕
共役ジエン系炭化水素とビニル芳香族炭化水素とからなる共役ジエン系共重合体の末端に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する変性基を有し、示差走査熱量測定(DSC)で温度間隔を0.2℃として測定したTg分布指数が、0.007以上である変性共役ジエン系共重合体。
〔2〕
前記ビニル芳香族炭化水素の含有量が20〜50質量%である前記〔1〕に記載の変性共役ジエン系共重合体。
〔3〕
前記〔1〕に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法であって、
(工程1)
炭化水素溶媒中、アニオン重合開始剤を用いて、ビニル芳香族炭化水素と、使用する全共役ジエン系炭化水素の全重量に対して0.40〜0.83の重量割合の共役ジエン系炭化水素を非等温重合する工程と、
(工程2)
前記(工程1)に続いて、当該(工程1)が重合反応ピーク温度に達する前、又は重合反応ピーク温度に達した時点で、かつ下記式により定義されるTcの温度で、前記(工程1)で使用しなかった共役ジエン系炭化水素を添加し、重合する工程と、
(a+15)≦Tc≦(b)
(a:工程1で反応を開始した反応器内の温度、b:工程1における反応器内の重合反応ピーク温度)
(工程3)
前記(工程2)で得られた共役ジエン系共重合体に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物を反応させる工程と、
を、有する変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
〔4〕
前記アニオン重合開始剤が、ポリビニル芳香族化合物、共役ジエン系炭化水素、及び有機リチウムを反応させて得られる多官能アニオン重合開始剤である前記〔3〕に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
〔5〕
前記(工程1)において、極性化合物をさらに添加する前記〔3〕又は〔4〕に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
〔6〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の変性共役ジエン系共重合体100質量部に対して、シリカ系無機充填剤を0.5〜300質量部を含有する変性共役ジエン系共重合体組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低ヒステリシスロス性能、ウェットスキッド抵抗性能に優れ、かつこれらのバランスが良好で、優れた耐摩耗性及び高い破壊強度を有する変性共役ジエン系重合体、その製造方法及び変性共役ジエン系重合体組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】熱流曲線とガラス転移温度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
〔変性共役ジエン系共重合体〕
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体は、共役ジエン系炭化水素とビニル芳香族炭化水素からなる共役ジエン系共重合体の活性末端に、アミノ基とアルコキシシリル基とを有し、示差走査熱量測定(DSC)で温度間隔を0.2℃として測定したTg分布指数が0.007以上である。
【0012】
(共役ジエン系炭化水素)
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体を構成する共役ジエン系炭化水素単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0013】
(ビニル芳香族炭化水素)
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体を構成するビニル芳香族炭化水素単量体としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0014】
(アミノ基、アルコキシシリル基)
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体は、共役ジエン系炭化水素とビニル芳香族炭化水素からなる共役ジエン系共重合体の末端が変性されており、アミノ基とアルコキシシリル基を有する変性基を有するものである。
共役ジエン系共重合体の活性末端を変性させる化合物としては、下記式(1)に示すような、1つ以上の窒素原子と2つ以上のアルコキシ基で置換されたシリル基を有する化合物や、その他の環状アザシラン化合物が挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
前記式(1)中、R、Rは、各々独立して炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基を示す。
は炭素数1〜20のアルキレン基を示す。
、Rは、炭素数1〜6の炭化水素基であって、隣接する2つのNとともに5員環以上の環構造をなす。R、Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
は、炭素数1〜20の炭化水素基、活性水素を持たないヘテロ原子で置換されている炭素数1〜20の炭化水素基又は3有機置換シリル基を示す。mは、2又は3の整数である。
なお、前記式(1)に示す化合物及び前記環状アザシラン化合物の具体例については、後述する。
【0017】
(Tg分布指数)
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体の示差走査熱量測定(DSC)で、昇温間隔を0.2℃として測定したTg分布指数が0.007以上である。
これにより低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れた加硫物が得られる。
本実施形態においてTg分布指数は0.007以上であり、好ましくは0.0085以上、より好ましくは0.0095以上である。
Tg分布指数が大きくなるほど、変性共役ジエン系共重合体のランダム共重合性が良好となり、Tgの均一な変性共役ジエン系共重合体が得られる。
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体においてTg分布指数は、DSC(示差走査熱量測定)測定時の昇温時0.2℃間隔の温度と熱流の変化から計算する。
具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定し、算出することができる。
Tg分布指数は、計算に用いる温度間隔が広くなるほど熱流差も大きくなり、Tg分布指数も大きくなる。かかる観点から、本実施形態においては、昇温時0.2℃間隔の温度と熱流の変化からTg分布指数を計算するものとした。なお、計算に使われる0.2℃間隔の熱流の差が大きければTg分布指数も大きくなり、Tg分布指数は様々な値をとり得ることになるため、Tg分布指数に理論上上限値は存在しない。
Tg分布指数が大きい場合、低ヒステリシスロス性能(省燃費性)とウェットスキッド抵抗性能が向上する。
Tg分布指数が小さい場合、変性共役ジエン系共重合体中に様々なTgをもつ共重合体が多く存在することになる。その結果、低ヒステリシスロス性能の指標である50℃のTanδが上がり燃費性が悪化する。同時にウェットスキッド抵抗性能の指標である0℃のTanδが下がりウェットスキッド抵抗性能が悪化する。
【0018】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体は、当該変性共役ジエン系共重合体中のビニル芳香族炭化水素の含有量が20質量%〜50質量%であることが好ましい。
ビニル芳香族炭化水素量が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れ、耐摩耗性、破壊強度においても実用上良好な特性を有する加硫物を得ることができる。
【0019】
〔変性共役ジエン系共重合体の製造方法〕
本実施形態における変性共役ジエン系共重合体の製造方法は、工程1〜工程3の製造工程を有する。
(工程1)
炭化水素溶媒中、アニオン重合開始剤、ビニル芳香族炭化水素及び共役ジエン系炭化水素を用いて、共役ジエン系共重合体を非等温重合する。工程1における共役ジエン系炭化水素の使用量は、当該工程1及び後述する工程2において用いる全共役ジエン系炭化水素との重量比において0.40〜0.83の割合である。
【0020】
<炭化水素溶媒>
炭化水素溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が用いられる。
【0021】
<ビニル芳香族炭化水素>
重合に用いるビニル芳香族炭化水素単量体としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられ、好ましい単量体としては、スチレンが挙げられる。
【0022】
<共役ジエン系炭化水素>
重合に用いる共役ジエン系炭化水素単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、好ましい単量体としては、1,3−ブタジエンが挙げられる。
なお、工程1の共役ジエン系炭化水素の使用量は、上述したように、当該工程1及び後述する工程2において用いる共役ジエン系炭化水素の合計量との重量比において0.40〜0.83の割合である。これにより、本実施形態の変性共役ジエン系共重合体を加硫物とした場合において、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れ、耐摩耗性、破壊強度においても満足できるものとなる。
【0023】
<アニオン重合開始剤>
アニオン重合開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert −ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、ベンジルリチウム等のモノ有機リチウム化合物挙げられる。
好ましくは、ポリビニル芳香族化合物、共役ジエン系炭化水素及び有機リチウムの3者を反応させてなる多官能アニオン重合開始剤を用いる。
【0024】
前記多官能アニオン重合開始剤の調製に用いるポリビニル芳香族化合物としては、例えば、o,m及びp−ジビニルベンゼン、o,m及びp−ジイソプロペニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,2−ビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,3,5−トリビニルナフタレン、2,4−ジビニルビフェニル、3,5,4’−トリビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,5,6−トリビニル−3,7−ジエチルナフタレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。特に、ジビニルベンセン、ジイソプロペニルベンゼンが好ましく、これらのo−,m−,p−の異性体の混合物であってもよい。工業的利用を行う場合には、これら異性体混合物を用いる方が経済的に有利である。
前記多官能アニオン重合開始剤の調製に用いる共役ジエン系炭化水素としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、好ましい単量体としては、1,3−ブタジエンが挙げられる。
前記多官能アニオン重合開始剤の調製に用いる有機リチウムとしては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert −ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、ベンジルリチウム等のモノ有機リチウム化合物挙げられ、好ましいモノ有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウムが挙げられる。
【0025】
前記多官能アニオン重合開始剤は、n−ブチルリチウム1モルに対してジビニルベンゼンを好ましくは0.01〜1.0モル、より好ましくは0.01〜0.5モルの範囲、1,3−ブタジエンを3〜200モルの範囲で反応させたものが好ましい。
【0026】
<非等温重合>
(工程1)における非等温重合とは、反応器内にアニオン重合開始剤を加えた後、反応器内の温度を一定に制御することなく、温度変化を伴いながら重合反応を行う重合方式である。
反応器内に加える炭化水素溶媒、ビニル芳香族炭化水素、共役ジエン系炭化水素、極性物質の添加順番と種類は、特に制限されるものではない。
反応器内の温度を任意の重合開始温度に制御した後、アニオン重合開始剤を反応器に加えて重合反応を開始する。
アニオン重合開始剤を反応器に加えた後は、重合反応による発熱反応で反応器内の温度がビニル芳香族炭化水素と共役ジエン系炭化水素の消費と共に上昇する。
この時、重合温度の制御は行わないが、任意の重合反応ピーク温度に達するための重合温度の制御は、特に制限されるものではない。
【0027】
共役ジエン系共重合体を製造する際の重合温度は、20℃〜120℃の範囲であり、好ましくは、30℃〜100℃の範囲である。
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン系炭化水素をランダムに共重合し、重合開始速度を調整して狭い分子量分布を得、共役ジエン系炭化水素のミクロ構造を調整するために、後述する極性化合物を添加してもよい。
【0028】
前記極性化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等のようなエーテル類、テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等のような第三級アミン化合物、カリウム−t−アミラート、カリウム−t−ブチラート等のようなアルカリ金属アルコキシド化合物、トリフェニルホスフィン等のようなホスフィン化合物等が挙げられる。
【0029】
(工程2)
上述した(工程1)に続いて、(工程1)が重合反応ピーク温度に達する前、又は重合反応ピーク温度に達した時点で、かつ下記式により定義されるTcの温度で、(工程1)で用いた共役ジエン系炭化水素の残量の共役ジエン系炭化水素の添加し、重合を行う。
(a+15)≦Tc≦(b)
(a:反応器内の反応開始温度、b:反応器内の重合反応ピーク温度)
反応器内の反応開始温度(a)が20℃〜50℃の範囲であり、反応器内の重合反応ピーク温度(b)が70℃〜120℃の範囲であることが好ましい。
なお、a:反応器内の反応開始温度とは、上述した(工程1)により反応を開始した時点での温度である。
b:反応器内の重合反応ピーク温度とは、上述した(工程1)における重合反応ピーク温度である。
(工程2)の重合温度としてTcを選択する方法は、反応速度の異なる原料を均一にランダム共重合させるために有効な重合方法の一つであり、(工程1)、(工程2)により、反応速度の速い共役ジエン系炭化水素を分割添加することにより、ランダム共重合性を良好なものとし、Tg分布指数を大きくする方法として有効である。
【0030】
(工程2)における重合温度:Tcが(a+15)未満である場合、反応器内の未反応共役ジエン系炭化水素と未反応ビニル芳香族炭化水素の残存量が多く、(工程2)により共役ジエン系炭化水素を追加添加して、均一にランダム共重合させるという効果を発揮できなくなるため、後述する(工程3)を経た後に得られる変性共役ジエン系炭化水素のTg分布指数が小さくなる。
(工程2)における重合温度:Tcが、(b)を超えた場合、反応ピーク温度を超えてから共役ジエン系炭化水素を添加することになり、ランダム共重合性を悪化させてTg分布指数が小さくなる。
上述したことから、後述する(工程3)を経た後に得られる変性共役ジエン系炭化水素のTg分布指数を大きくするには、(工程2)における重合温度を、(a+15)≦Tc≦(b)の範囲にすることが効果的である。
【0031】
(工程2)において、(工程1)の残量の共役ジエン系炭化水素をフィードする時の反応器内の温度(Tc)が、上述したように、(a+15)≦Tc≦(b)であると、本実施形態の変性共役ジエン系共重合体を加硫物としたとき、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れ、耐摩耗性、破壊強度においても優れた特性が得られる。
【0032】
(工程3)
上述した(工程2)で得られた共役ジエン系共重合体の活性末端に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物(変性剤)を反応させ、アミノ基とアルコキシシリル基を有する変性基を有する変性共役ジエン系共重合体を得る。
【0033】
<アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物(変性剤)>
上記式(1)で表される環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例を下記に示す。
例えば、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−3−メチルイミダゾリジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−3−エチルイミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、3−[3−(トリブトキシシリル)プロピル]−1−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリミジン、3−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−1−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリミジン、1−(2−エトキシエチル)−3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イミダゾリジン、(2−{3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]テトラヒドロピリミジン−1−イル}エチル)ジメチルアミン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(トリブトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(ジエトキシエチルシリル)プロピル]−3−(トリエチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジン、1−[4−(トリエトキシシリル)ブチル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン等が挙げられる。
これらの中でも1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−3−メチルイミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジンが好ましく用いられ、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジンがより好ましい。
【0034】
上記環状アザシラン化合物の具体例を下記に示す。
例えば、N−n−ブチル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、N−エチル−アザ−2,2−ジエトキシ−4−メチルシラシクロペンタン、N−アリル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、1−トリメチルシリル−2,2−ジメトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン等が挙げられる。
【0035】
<変性反応方法>
変性反応に用いる変性剤の添加タイミングについては、特に制限されるものではないが、(工程2)の重合反応温度、又は反応基内圧力がピークに達した後1分以内に添加するのが好ましい。反応時間についても特に制限されるものではないが、30秒以上反応させることが好ましい。反応温度については、50℃〜120℃の温度範囲で行うことが好ましく、50℃〜100℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
変性剤は、共役ジエン系共重合体の活性末端1モルに対して、好ましくは0.1当量〜5当量以下、より好ましくは0.5当量〜2.5当量以下用いる。
【0036】
〔変性共役ジエン系共重合体の構造〕
<ビニル結合量>
上述した(工程1)〜(工程3)により作製される本実施形態の変性共役ジエン系共重合体の、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は、特に限定されないが、10モル%以上70モル%以下であることが好ましく、25モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。
ビニル結合量が上記範囲内であると、加硫物とした際、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れ、耐摩耗性、破壊強度においても、実用上良好な特性が得られる。
【0037】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体の、共役ジエン結合単位中のビニル結合量が上記範囲にあり、共役ジエン系重合体のガラス転移温度が−45℃以上−15℃以下の範囲にあると、加硫物とした際、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスがより優れたものとなる。
【0038】
<ビニル芳香族炭化水素の含有量>
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体のビニル芳香族炭化水素の含有量は20〜50質量%であることが好ましい。
ビニル芳香族炭化水素の含有量は、分光光度計により測定でき、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0039】
<変性率>
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体は、後述するように、補強用充填剤としてシリカを配合し、かつ加硫物とした場合に、低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスに優れるものとするために、変性率、すなわち変性剤の官能基が反応している共重合体の含有量が75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
変性率は、変性成分と非変性成分を分離出来るクロマトグラフィーによって測定することができる。
測定方法としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で変性成分を吸着できるシリカ系カラムと変性成分を吸着しないポリスチレン系ゲルカラムを用いて、カラムに吸着しない標準ポリスチレンを内標として試料に添加して測定することで、得られたRIの差分から変性率を求めることができる。
具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0040】
〔変性共役ジエン系共重合体組成物〕
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物は、上述した変性共役ジエン系共重合体100質量部に対して、シリカ系無機充填剤を0.5〜300質量部含有する。
<シリカ系無機充填剤>
シリカ系無機充填剤とは、化学式SiO2、又はSi3Alを構成単位の主成分とする固体粒子のことをいい、例えばシリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質等が挙げられる。
また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤や、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤の混合物も使用できる。
【0041】
特に、シリカ及びガラス繊維が好ましい。
シリカとしては、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、合成ケイ酸塩系ホワイトカーボン、コロイダルシリカと呼ばれているもの等が使用できる。これらは粒径が0.01〜150μmのものが好ましい。
また、本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物において、シリカが分散し、シリカの添加効果を十分に発揮するためには、平均分散粒子径は0.05〜1μmが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5μmである。
【0042】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物におけるシリカ系無機充填剤の配合量は、変性共役ジエン系重合体100質量部に対し、0.5〜300質量部であり、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは20〜100量部である。
シリカ系無機充填剤の配合量が変性共役ジエン系重合体100質量部に対し0.5質量部以上であると、補強性充填剤としての機能を有効に発揮でき、300質量部以下であると、変性共役ジエン系重合体中において分散性が良好なものとなり、優れた加工性と、高い機械強度が得られる。
【0043】
本実施形態において、変性共役ジエン系共重合体とシリカ系無機充填剤を混合する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。
例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法等が用いられる。
上記の中でも、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機による溶融混練法が、生産性、良混練性の観点から好ましい。
また、変性共役ジエン系共重合体と、シリカ系無機充填剤は、同時に全量を混練してもよく、それぞれを複数回に分けて混練してもよい。
【0044】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物は、加硫剤を用いて加硫してもよい。
加硫剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が使用できる。
硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。
加硫剤の使用量は、通常は、変性共役ジエン系共重合体 100質量部に対し0.01〜20質量部が好ましく、より好ましくは、0.1〜15質量部の割合で用いられる。
【0045】
加硫に際して、加硫促進剤として、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒドーアミン系、アルデヒドーアンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等を、必要に応じて使用してもよい。
また、加硫助剤として、亜鉛華、ステアリン酸等を必要に応じて使用してもよい。
これらの加硫促進剤の使用量は、変性共役ジエン系重合体100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量部の割合で用いられる。
【0046】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物においては、加工性を改良するために、ゴム用軟化剤を配合してもよい。
前記ゴム用軟化剤としては、例えば、鉱物油又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好ましいものとして挙げられる。
一般にゴムの軟化、増容、加工性向上等の目的で用いられるプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30% を超えるものが芳香族系と呼ばれる。
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物に用いるゴム用軟化剤としては、ナフテン系及び/ 又はパラフィン系のものが好ましい。
前記合成軟化剤としては、例えば、ポリブテン、低分子量ポリブタジエン等が使用可能であるが、前記鉱物油系ゴム用軟化剤の方が良好な結果を与える。
【0047】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物においては、ゴム用軟化剤を配合する場合、ゴム用軟化剤の配合量は、変性共役ジエン系重合体100質量部に対して0〜100質量部が好ましく、より好ましくは10〜90質量部、さらに好ましくは30〜90質量部である。
ゴム量軟化剤の配合量が上記範囲であると、加工性が良好なものとなり、また、ブリードアウトを防止でき、表面にベタツキを生じることも防止できる。
【0048】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物においては、上述した変性共役ジエン系共重合体とは異なるゴム状重合体を、上述した変性共役ジエン系重合体と組み合わせて使用することができる。
このようなゴム状重合体としては、例えば、共役ジエン系重合体、又はその水添物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体、又はその水添物、非ジエン系重合体、天然ゴムが挙げられる。
具体的には、ブタジエンゴム、又はその水素添加物、イソプレンゴム、又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム、又はその水素添加物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物等のスチレン系エラストマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。
非ジエン系重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチエン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム等のオレフィン系エラストマー、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α ,β−不飽和ニトリル− アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
これらのゴム状重合体は、官能基を付与した変性ゴムであってもよい。
これらは、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
変性共役ジエン系共重合体に、上述した各種ゴム状重合体を組み合わせ、変性共役ジエン系共重合体組成物を得る場合、ゴム状重合体は、一般に変性共役ジエン系共重合体100質量部に対して1〜400質量部が好ましく、より好ましくは5〜200質量部、さらに好ましくは10〜100質量部の割合で使用される。
【0049】
本実施形態の変性共役ジエン系共重合体組成物には、発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、各種添加剤を配合することができる。
添加剤としては、軟化剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、滑剤等が挙げられる。
製品の硬さや流動性の調節のために、必要に応じて配合することができる軟化剤としては、流動パラフィン、ヒマシ油、アマニ油等が挙げられる。
充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤としては、公知の材料を適用できる。
【実施例】
【0050】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔分析方法〕
実施例及び比較例における試料の分析は、下記に示す方法により行った。
<(1)結合スチレン量>
試料をクロロホルム溶液とし、スチレンのフェニル基によるUV254nmの吸収により結合スチレン量(質量%)を測定した。測定装置としては、JASCO V−550を使用した。
【0052】
<(2)ブタジエン部分のミクロ構造(1,2−ビニル結合量)>
試料を薄膜にして、パーキンエルマージャパン(株)FT−IR Spectrum100を用い、1回反射ATR法(減衰全反射法:attenuated total reflection)で、赤外線スペクトルを600〜1000cm-1の範囲で測定し、所定の波数における吸光度を使い、ハンプトン法の計算式に従い、ブタジエン部分のミクロ構造を求めた。
【0053】
<(3)DSC>
DSC(示差走査熱量測定)においては、下記の装置を用いた。
メーカー名:パーキンエルマージャパン(株式会社)
商品名:Jade DSC
型番:520A18041401
試料を窒素雰囲気下で、30℃から−70℃に、−10℃/分の速度で冷却し、−70℃で10分間等温に保った後、−70℃から30℃に、+10℃/分の速度で昇温した。
前記昇温時0.2℃間隔での温度と熱流との変化から、ガラス転移温度Tgとガラス転移温度分布指数(Tg分布指数)を読み取った。
図1に熱流曲線の一例を示す。この熱流曲線(図1中、実線で示す)の接線3と、接線1、2との交点から1/2の点をガラス転移温度とした。
各温度における熱流の値から標準偏差を計算して、ガラス転移温度分布(図1中、破線で示す)を求め、ピーク値をTg分布指数とした。
標準偏差の計算例として、−26.37℃の熱流13.5829mW(A)、−26.17℃の熱流13.6069mW(B)、とした時の−26.37℃標準偏差(0.0120)は、[(A+B)/2]−Aとして求めた。
【0054】
<(4)分子量及び分子量分布>
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結して用いたGPCを使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線により分子量を求めた。さらに全ピーク面積に対する最低分子量ピーク面積の比を計算して分子量分布を計算した。
溶離液としてはテトラヒドロフラン(THF)を使用した。
カラムは、ガードカラム:東ソー TSKguardcolumn HHR−H、カラム:東ソー TSKgel G6000HHR、TSKgel G5000HHR、TSKgel G4000HHRを使用した。
オーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、RI検出器(東ソー製 HLC8020)を用いて分子量の測定を行った。
試料は20mLのTHFに対して10mgを溶解し、200μL注入して測定した。
【0055】
<(5)変性率>
シリカ系ゲルを充填剤としたGPCカラムに、変性した成分が吸着する特性を利用し、試料及び分子量5000の標準ポリスチレン(ポリスチレンはカラムに吸着しない)を含む試料溶液を用いて、前記ポリスチレン系ゲルカラムのGPCと、シリカ系カラム(ガードカラム:DIOL 4.6×12.5mm 5micron、カラム:Zorbax PSM−1000S、PSM−300S、PSM−60S、オーブン温度40℃、THF流量0.5ml/分)のGPC(東ソー製CCP8020シリーズ ビルドアップ型GPCシステム:AS−8020、SD−8022、CCPS、CO−8020、RI−8021)の両クロマトグラムを、RI検出器を用いて測定し、それらの差分よりシリカカラムへの吸着量を測定し変性率を求めた。
試料は、20mLのTHFに対して10mgを標準ポリスチレン5mgとともに溶解し、200μL注入して測定した。
具体的な手順としては、ポリスチレン系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、サンプルピーク面積をP1、標準ポリスチレンのピーク面積をP2とし、シリカ系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、サンプルピーク面積をP3、標準ポリスチレンのピーク面積をP4として、変性率(%)は[1−(P2×P3)/(P1×P4)]×100の計算式により算出した。
【0056】
〔多官能アニオン重合開始剤の調製〕
本実施例、比較例で用いた、多官能アニオン重合開始剤は、以下の方法により調製した。 内容積10Lの攪拌機とジャケットを有するオートクレーブを反応器として使用して、反応器内にシクロヘキサンとノルマルブチルリチウムを添加して洗浄した後、窒素置換を行い、シクロヘキサン4583g、ジビニルベンゼン47.4g、1,3ブタジエン500gを加え、反応器内の温度を40℃に維持した後、n−ブチルリチウム溶液341gを加えて90分間反応させ、反応器内の温度を80℃まで昇温させた。
その後、反応器内で2時間放冷して多官能触媒を調製した。
上記原料のn−ブチルリチウム溶液は、n−ブチルリチウム/シクロヘキサンの重量混合比20/80の溶液とした。
前記ジビニルベンゼンは、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、エチルベンゼン等を含有し、ジビニルベンゼン濃度が57質量%であるジビニルベンゼン混合物(新日鐵化学製)を用いた。
【0057】
〔変性共役ジエン系共重合体〕
実施例と比較例の重合反応は、以下の方法で行った。
内容積10Lの攪拌機とジャケットを有するオートクレーブを反応器として使用して、反応器内にシクロヘキサンとノルマルブチルリチウムを添加して洗浄した後、窒素置換を行い、下記表1に示す工程1〜工程3で、重合反応及び変性反応を行った。
前記n−ブチルリチウム溶液は、n−ブチルリチウム/シクロヘキサンの重量混合比20/80の溶液を使用した。
【0058】
〔実施例1〕
反応器内にシクロヘキサン4953g、スチレン200g、極性化合物として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン1.68g、1,3ブタジエン250gを加え、反応器内の温度を37℃に維持した後、多官能アニオン開始剤52.2gを加えて重合反応開始後、反応器内の温度が60℃に達した時に残りの1,3ブタジエン350gを反応器内に加えて更に重合反応を行った。
最終的に、反応器内の温度は82℃に達した。
重合反応終了1分後、反応器内に、変性剤として1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン1.48gを添加して、10分間の変性反応を行い、変性共役ジエン系重合体を得た。
【0059】
〔実施例2〜5〕、〔比較例1〜3〕
上述した〔実施例1〕と同様の重合方法により、下記表1に記載の工程と条件に従い、重合反応と変性反応を行い、変性共役ジエン系共重合体を得た。なお、表1中、工程1における極性化合物としては2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンを用い、工程3における変性剤としては、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンを用いた。
【0060】
〔変性共役ジエン系共重合体組成物〕
下記表1に示す変性共役ジエン系共重合体を原料ゴムとして、以下に示す配合でゴム組成物を得た。
変性共役ジエン系共重合体 70.0質量部
ポリブタジエンゴム(UBEPOL−150) 30.0質量部
シリカ(デグサ社製 Ultrasil VN3) 75.0質量部
カーボンブラック(N339) 5.0質量部
シランカップリング剤(デグサ社製Si69) 7.5質量部
S−RAEオイル
(ジャパンエナジー社製JOMOプロセスNC140) 37.5質量部
亜鉛華 2.5質量部
ステアリン酸 2.0質量部
老化防止剤
(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン) 2.0質量部
硫黄 1.7質量部
加硫促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフィンアミド)1.7質量部
加硫促進剤(ジフェニルグアニジン) 1.5質量部
合計 236.4質量部
【0061】
混練方法は以下の方法で行った。
温度制御装置を付属した密閉混練機(内容量0.3リットル)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数50/57rpmの条件で、原料ゴム、充填材(シリカ及びカーボンブラック)、有機シランカップリング剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸を混練した。
この際、密閉混合機の温度を制御し、排出温度(配合物)は155〜160℃でゴム組成物を得た。
ついで、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、シリカの分散を向上させるため再度混練した。
この場合も、混合機の温度制御により排出温度(配合物)を155〜160℃に調整した。
冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤を混練した。
その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫し、後述する方法により所定の物性を測定した。
物性測定結果を下記表1に示した。
【0062】
各物性の測定方法は以下の方法で実施した。
<(1)粘弾性パラメータ>
レオメトリックス・サイエンティフィック社製粘弾性試験装置「ARES」を用い、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。
0℃において周波数10Hz、歪み1%で測定したtanδをウェットスキッド性能の指標とした。指数値が大きいほどウェットスキッド性能が良好であることを示す。
また、50℃において周波数10Hz、歪み5%で測定したtanδを省燃費特性の指標とした。指数値が大きいほど省燃費性能が良好であることを示す。
<(2)引張強さ(破壊強度)>
JIS K6251の引張試験法により測定し、破断強度×破断伸び/2の値を破壊強度とした。
指数値が大きいほど破壊強度が良好であることを示す。
<(3)耐摩耗性>
アクロン摩耗試験機を使用し、荷重6ポンド、1000回転の摩耗量を測定し、指数化した。指数値の大きいほど耐摩耗性が優れることを示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、実施例1〜5の変性共役ジエン系共重合体組成物は、いずれも低ヒステリシスロス性能(省燃費性能)に優れ、ウェットスキッド抵抗性能に優れ、かつ低ヒステリシスロス性能とウェットスキッド抵抗性能のバランスが良好で、さらには耐摩耗性、破壊性能も高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の変性共役ジエン系共重合体とシリカ系無機充填剤からなる変性共役ジエン系共重合体組成物は、加硫組成物とした時に、タイヤトレッド、防振ゴム、ベルト、工業用品、履物、各種発泡体等として、産業上の利用可能性を有している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系炭化水素とビニル芳香族炭化水素とからなる共役ジエン系共重合体の末端に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する変性基を有し、
示差走査熱量測定(DSC)で温度間隔を0.2℃として測定したTg分布指数が、0.007以上である変性共役ジエン系共重合体。
【請求項2】
前記ビニル芳香族炭化水素の含有量が20〜50質量%である請求項1に記載の変性共役ジエン系共重合体。
【請求項3】
請求項1に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法であって、
(工程1)
炭化水素溶媒中、アニオン重合開始剤を用いて、
ビニル芳香族炭化水素と、使用する全共役ジエン系炭化水素の全重量に対して0.40〜0.83の重量割合の共役ジエン系炭化水素を非等温重合する工程と、
(工程2)
前記(工程1)に続いて、当該(工程1)が重合反応ピーク温度に達する前、又は重合反応ピーク温度に達した時点で、かつ下記式により定義されるTcの温度で、前記(工程1)で使用しなかった共役ジエン系炭化水素を添加し、重合する工程と、
(a+15)≦Tc≦(b)
(a:工程1で反応を開始した反応器内の温度、b:工程1における反応器内の重合反応ピーク温度)
(工程3)
前記(工程2)で得られた共役ジエン系共重合体に、アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物を反応させる工程と、
を、有する変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン重合開始剤が、ポリビニル芳香族化合物、共役ジエン系炭化水素、及び有機リチウムを反応させて得られる多官能アニオン重合開始剤である請求項3に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記(工程1)において、極性化合物をさらに添加する請求項3又は4に記載の変性共役ジエン系共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の変性共役ジエン系共重合体100質量部に対して、シリカ系無機充填剤を0.5〜300質量部を含有する変性共役ジエン系共重合体組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2012−102248(P2012−102248A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252240(P2010−252240)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000228109)日本エラストマー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】