説明

変性石油樹脂の製造方法

【課題】 本発明は、遊離の無水マレイン酸が少なく色相の改善された変性石油樹脂の効率良い製造方法を提供する。
【解決手段】石油樹脂製造直後の溶融状態に、石油樹脂100重量部に対して0.01〜0.7重量部の無水マレイン酸を添加し、1〜40分反応させることを特徴とする変性石油樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離の無水マレイン酸が少なく色相の改善された変性石油樹脂の効率良い製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
石油樹脂としては、沸点範囲が20〜110℃のC5留分から得られる脂肪族石油樹脂、沸点範囲が140〜280℃のC9留分から得られる芳香族石油樹脂、C5留分とC9留分とを共重合して得られる脂肪族/芳香族共重合石油樹脂、ジシクロペンタジエン類を単独またはC5留分やC9留分と重合させるジシクロペンタジエン系石油樹脂等が知られている。
【0003】
これら石油樹脂の流動性などの改質方法として、無水マレイン酸と反応させる方法が提案され、変性された石油樹脂がトラフィックペイント用途などで用いられている(例えば、特許文献1〜5参照)。従来の変性石油樹脂は未反応の無水マレイン酸が流動性の悪化や発泡の原因となるため、未反応の無水マレイン酸の残留を抑えるために無水マレイン酸の変性方法に工夫がなされている。特許文献1及び3では、無水マレイン酸と反応し得られた変性炭化水素樹脂に減圧処理や不活性ガス接触処理または水洗処理を施して、遊離の無水マレイン酸を200ppm以下に低減させている。また特許文献2及び4では、200℃以上の温度で数時間反応させて遊離の無水マレイン酸を抑制している。しかし、これら特許文献1〜4で提案された無水マレイン酸による変性方法では、流動性や発泡性は改善されるものの、変性時の熱履歴などから石油樹脂の色相は変性前と同等、あるいは悪化している。特許文献5では、無水マレイン酸を添加しているものの色相改善効果については記載又は示唆されていない。
【0004】
即ち、無水マレイン酸変性では色相が同等以上に悪化し、色相が改善する知見は全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2732482号
【特許文献2】特許第2912408号
【特許文献3】特許第2928497号
【特許文献4】特表2004−502839号
【特許文献5】特開2006−206850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遊離の無水マレイン酸が少なく、効率よく、しかも色相が改善された変性石油樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、石油樹脂と無水マレイン酸とを、従来に比べて極めて短時間に、かつ限定した量を反応させることで、遊離の無水マレイン酸を抑えて効率良く、しかも色相の改善された変性石油樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、石油樹脂製造直後の溶融状態に、石油樹脂100重量部に対して0.01〜0.7重量部の無水マレイン酸を添加し、1〜40分反応させることを特徴とする変性石油樹脂の製造方法に関するものである。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明における石油樹脂とは、沸点範囲が20〜110℃のC5留分から得られる脂肪族石油樹脂、沸点範囲が140〜280℃のC9留分から得られる芳香族石油樹脂、C5留分とC9留分とを共重合して得られる脂肪族/芳香族共重合石油樹脂、ジシクロペンタジエン類を単独またはC5留分やC9留分と重合させるジシクロペンタジエン系石油樹脂等のあらゆる未水添石油樹脂である。中でも軟化点が50〜160℃、重量平均分子量Mwは500〜5000の石油樹脂が好ましい。
【0011】
石油樹脂の原料として用いるC5留分は特に限定はなく、例えばイソプレン、トランス−1,3−ペンタジエン、シス−1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等に代表される炭素数4〜6の共役ジオレフィン性不飽和炭化水素類;ブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテン等に代表される炭素数4〜6のモノオレフィン性不飽和炭化水素類;シクロペンタン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘキサン等の脂肪族系飽和炭化水素が挙げられる。
【0012】
石油樹脂の原料として用いるC9留分を構成する成分に特に限定はなく、例えばスチレン、そのアルキル誘導体であるα−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン及びそのアルキル誘導体等に代表される炭素数8〜10のビニル芳香族炭化水素類;ジシクロペンタジエン及びその誘導体等に代表される環状不飽和炭化水素類;その他炭素数10以上のオレフィン類、炭素数9以上の飽和芳香族類等が挙げられる。
【0013】
石油樹脂の原料として用いられるジシクロペンタジエン類としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン誘導体を挙げることができる。
【0014】
脂肪族/芳香族共重合石油樹脂におけるC5留分とC9留分の混合割合は特に限定するものではなく、すべての範囲の共重合石油樹脂が適応可能である。
【0015】
ジシクロペンタジエン系石油樹脂におけるジシクロペンタジエン類とC5留分またはC9留分の混合割合は、特に限定するものではなく、好ましくはジシクロペンタジエン類10〜90重量%、C5留分またはC9留分90〜10重量%、特に好ましくはジシクロペンタジエン類20〜80重量%、C5留分またはC9留分80〜20重量%である。
【0016】
本発明における石油樹脂の製造方法は特に制限はなく、例えば、前記原料の単独、または混合物に触媒を加え重合することにより製造できる。重合に用いる触媒としては、一般的にフリーデルクラフツ型触媒が使用でき、例えば三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素あるいはそのフェノール錯体、ブタノール錯体等が挙げられる。中でも三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素のフェノール錯体、三フッ化ホウ素のブタノール錯体が好ましい。重合温度は0〜100℃が好ましく、特に好ましくは0〜80℃である。また、触媒量及び重合時間は、原料油100重量部に対して触媒0.1〜2.0重量部で0.1〜10時間の範囲が好ましい。反応圧力は大気圧〜1MPaが好ましい。
【0017】
本発明は、前記石油樹脂に対して溶融状態にて無水マレイン酸と反応させることを特徴とする石油樹脂の製造方法である。石油樹脂の重合反応終了後に共存する溶媒や低分子化合物を留去した直後の溶融状態にある石油樹脂に、直ちに無水マレイン酸と反応させる方法である。重合反応直後の溶融状態ではなく一度単離した後反応させても本発明の効果は得られない。さらに、係る反応時の反応器内の酸素濃度が、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下であることが、反応時の石油樹脂の酸化、特に酸素による酸化を防止できるため好ましい。
【0018】
本発明で用いられる無水マレイン酸の使用量は、石油樹脂100重量部に対して0.01〜0.7重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部である。使用量が0.01重量部未満であると色相改善効果が無く、0.7重量部を越えると未反応の無水マレイン酸(遊離の無水マレイン酸)が増加し、配合時の相溶性が悪化し流動性に劣るため好ましくない。
【0019】
本発明の変性石油樹脂を反応させる温度としては、樹脂が溶融し攪拌可能な温度範囲であれば特に支障はなく、具体的には60℃〜250℃が好ましい。
【0020】
また、本発明の反応時間は1〜40分であり、好ましくは1〜30分、特に好ましくは1〜10分である。反応時間が1分未満では反応が完結せず、未反応の無水マレイン酸(遊離の無水マレイン酸)が発生し、逆に40分を超えると熱劣化を受けて樹脂色相が悪化する。
【0021】
本発明の製造方法で得られた変性石油樹脂は、遊離の無水マレイン酸が少なく色相の改善された変性石油樹脂であり、遊離の無水マレイン酸量は、0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下である。
【0022】
本発明の製造方法に従って無水マレイン酸を添加することにより、50重量%トルエン溶液として、ASTM D−1544−63Tに従って測定した色相が2〜4段階改善される。
【0023】
本発明の製造方法により得られた変性石油樹脂は、色相に優れること及び遊離の無水マレイン酸が少なく流動性に優れることから粘着テープ、粘着シート、両面粘着テープ、ラベル等の粘着剤向けやホットメルト型トラフィックペイント向けに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、変性石油樹脂の製造方法に関するものであり、遊離の無水マレイン酸が少なく色相の改善された変性石油樹脂の効率良い製造方法である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限を受けるものではない。尚、実施例、比較例において用いた原料樹脂、配合物、組成物の調製、分析、試験法は下記の通りである。
1.原料
(1)C5留分、C9留分、ジシクロペンタジエン留分の組成:表1、表2、表3
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
(2)無水マレイン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)
(3)クロロベンゼン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)
2.分析方法
(1)原料油の各成分の含有量:通常のガスクロマトグラフ法を用いて分析した。
(2)重量平均分子量:ポリスチレンを標準物質としゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
(3)軟化点:JIS K−2531(1960)(環球法)に準拠した方法で測定した。
(4)色相:50重量%トルエン溶液として、ASTM D−1544−63Tに従って測定した。
(5)酸価:JIS K−5902に従って測定した。
(6)遊離の無水マレイン酸:変性石油樹脂をトルエンに溶解させた後、水でマレイン酸として抽出して水相をイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0030】
実施例1
内容積2Lのガラス製オートクレーブに、原料油としてナフサの分解により得た表1に示した組成aのC5留分300gと、表2に示した組成のC9留分200gを仕込んだ(C5留分/C9留分=60/40重量%)。次に、窒素雰囲気下で30℃に調節した後、フリーデルクラフツ型触媒として三フッ化ホウ素フェノール錯体(ステラケミファ(株)三フッ化ホウ素フェノール)をC5留分とC9留分の混合物からなる原料油100重量部に対して、0.7重量部加えて2時間重合した。その後、苛性ソーダ水溶液で触媒を除去し、油相の未反応油を蒸留して脂肪族/芳香族共重合石油樹脂を得た。
【0031】
更に、酸素濃度が2ppmの窒素気流下でこの脂肪族/芳香族共重合石油樹脂100重量部に対して無水マレイン酸0.1重量部を180℃(溶融状態)、拡販回転数300rpmの条件下で2分間反応を行って変性石油樹脂を得た。変性石油樹脂の軟化点、色相、重量平均分子量、酸価、遊離の無水マレイン酸量について、表4に示した。
【0032】
実施例2〜8、比較例1〜7
実施例1に記載の製造方法で、原料の種類と仕込み比率、無水マレイン酸の量、反応時間を表4とする以外は同様の方法で、変性石油樹脂を得た。それぞれの変性石油樹脂の軟化点、色相、重量平均分子量、酸価、遊離の無水マレイン酸量について、表4に示した。
【0033】
実施例9
内容積2Lのガラス製オートクレーブに、クロロベンゼン250gとフリーデルクラフツ型触媒として三塩化アルミニウム(和光純薬工業(株))1.5gを仕込み、窒素雰囲気下で30℃に調節した。原料油としてナフサの分解により得た表1に示した組成のC5留分b500gを滴下して2時間重合した。その後、苛性ソーダ水溶液で触媒を濾別除去し、油相の未反応油を蒸留して脂肪族石油樹脂を得た。
【0034】
更に、酸素濃度が2ppmの窒素気流下でこの脂肪族石油樹脂に対して無水マレイン酸0.1重量部を180℃(溶融状態)、拡販回転数300rpmの条件下で2分間反応を行って変性石油樹脂を得た。変性石油樹脂の軟化点、色相、重量平均分子量、酸価、遊離の無水マレイン酸量について、表4に示した。
【0035】
比較例8
無水マレイン酸と反応を行わなかった以外は実施例9と同様に変性石油樹脂を調製した。
【0036】
比較例9
比較例1の石油樹脂を重合反応直後の溶融状態ではなく一度単離した。その後、酸素濃度が2ppmの窒素気流下で再溶解させて、この脂肪族/芳香族共重合石油樹脂100重量部に対して無水マレイン酸0.3重量部を180℃(溶融状態)、拡販回転数300rpmの条件下で5分間反応を行って変性石油樹脂を得た。変性石油樹脂の軟化点、色相、重量平均分子量、酸価、遊離の無水マレイン酸量について、表4に示した。
【0037】
【表4】

【0038】
実施例1〜4と比較例1、実施例5と比較例4、実施例6と比較例5、実施例7と比較例6、実施例8と比較例7、実施例9と比較例8との色相比較より、無水マレイン酸と反応させる前の石油樹脂と比べて、無水マレイン酸と反応後の変性石油樹脂では色相が顕著に改善された。
【0039】
また、無水マレイン量が0.7重量部より多い場合(比較例2)、遊離の無水マレイン酸が多量に残留し、反応時間が40分より長い場合(比較例3)では、色相が悪化する。
【0040】
さらに、比較例9の如く石油樹脂を重合反応直後の溶融状態ではなく一度単離し再溶解させて調製した変性石油樹脂は色相が顕著に悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油樹脂製造直後の溶融状態に、石油樹脂100重量部に対して0.01〜0.7重量部の無水マレイン酸を添加し、1〜40分反応させることを特徴とする変性石油樹脂の製造方法。
【請求項2】
石油樹脂が、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合石油樹脂、ジシクロペンタジエン石油樹脂からなる群より選ばれる1種以上の石油樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の変性石油樹脂の製造方法。
【請求項3】
無水マレイン酸を反応させる際の配合器内の酸素濃度が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変性石油樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−137072(P2011−137072A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297197(P2009−297197)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】