説明

変換装置、及び計測装置

【課題】温度調整手段が別途不要で内部の温度調整対象を適温に制御可能な構成とすることで、使用環境温度が変化しても安定して高精度な計測結果が得られる計測装置を提供する。
【解決手段】デジタル処理回路での処理にかかるA/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合(時間ta,tbの割合)をアナログ回路の周囲温度の検出温度に基づいて変更し、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにてその周囲温度の温度制御を行うようにした。つまり、A/Dコンバータの動作不要な時間にA/Dコンバータ自身を温度調整手段として機能させることでその温度制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A/Dコンバータを備えた変換装置、及びその変換装置を備えた計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
A/Dコンバータを用いた計測装置においては、計測対象の計測より得たアナログ値を後段のデジタル処理回路にて扱えるように、アナログ回路を介して入力されるアナログ信号(アナログ値)をA/Dコンバータにてデジタル値に変換し、得られたデジタル値のデジタル処理回路での処理にて計測結果が得られるようになっている。
【0003】
ところで、アナログ信号が入力されるアナログ回路等においては、温度依存特性の大きい抵抗やコンデンサ等の電気部品を使用して構成されていることから、使用環境温度の影響を受けて計測したアナログ値が変化し、計測結果に違いが生じてしまう場合があった。そのため、使用環境温度の変化が大きい場所での本計測装置の使用は、精度の高い計測が行えなかった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1〜3等に示されているように、各種装置に加熱や冷却を行うための発熱体や熱交換器等の温度調整手段が備えられており、該温度調整手段にて温度調整対象が所望の温度となるように温度制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−276702号公報
【特許文献2】特開平10−294618号公報
【特許文献3】特開平10−170220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3のように発熱体や熱交換器等の温度調整手段が装置に別途備えられることで、部品点数や組付工数の増加、また温度調整手段を制御する制御回路も必要となる。これにより、装置の大型化や構成の複雑化、高コスト化を招くという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、温度調整手段が別途不要で内部の温度調整対象を適温に制御可能な構成とすることで、使用環境温度が変化しても安定して高精度な処理結果を得ることができる変換装置、及びその変換装置を備えた計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、外部からのアナログ信号をアナログ回路を介して入力し、該アナログ信号からアナログ値をA/Dコンバータにて周期的に取得してデジタル値に変換し、該デジタル値を後段のデジタル処理回路で処理して所定の処理結果を得る変換装置であって、前記A/Dコンバータは、A/D変換処理が可能な通常モードと、低消費電力モードである待機モードとを有するものであり、両モードの切り替えを制御する切替制御手段と、変換装置内部の温度調整対象の周囲温度を検出する温度検出手段とを備え、前記切替制御手段は、前記温度検出手段での温度調整対象の検出温度に基づいて前記デジタル処理回路での処理にかかる前記A/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合を変更し、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにて前記温度調整対象の温度制御を行うことをその要旨とする。
【0009】
この発明では、切替制御手段により、デジタル処理回路での処理にかかるA/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合が装置内部の温度調整対象の検出温度に基づいて変更され、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにて温度調整対象の温度制御が行われる。即ち、デジタル処理回路の処理時のA/Dコンバータの動作不要な時間において、消費電力が大きく発熱量の大きい通常モードと消費電力が小さく発熱量の小さい待機モードとの時間割合を変えることでA/Dコンバータ自身を温度調整手段として機能させ、装置内部のアナログ回路の周囲温度等を適温に制御することが可能となる。これにより、温度依存特性の大きい電気部品が用いられて構成されるアナログ回路において、そこから出力されるアナログ信号(アナログ値)に含まれる使用環境温度にかかる誤差が小さくなり、後段のA/Dコンバータ及びデジタル処理回路を経て得られる処理結果は精度の高いものとなる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、計測対象の計測より得たアナログ信号をアナログ回路を介して入力し、該アナログ信号からアナログ値をA/Dコンバータにて周期的に取得してデジタル値に変換し、該デジタル値を後段のデジタル処理回路で処理して前記計測対象の計測結果を得る計測装置であって、前記A/Dコンバータは、A/D変換処理が可能な通常モードと、低消費電力モードである待機モードとを有するものであり、両モードの切り替えを制御する切替制御手段と、計測装置内部の温度調整対象の周囲温度を検出する温度検出手段とを備え、前記切替制御手段は、前記温度検出手段での温度調整対象の検出温度に基づいて前記デジタル処理回路での処理にかかる前記A/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合を変更し、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにて前記温度調整対象の温度制御を行うことをその要旨とする。
【0011】
この発明では、上記と同様に、切替制御手段により、デジタル処理回路での処理にかかるA/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合が装置内部の温度調整対象の検出温度に基づいて変更され、温度依存特性の大きい電気部品が用いられて構成されるアナログ回路の周囲温度等の温度調整対象が適温に制御される。これにより、使用環境温度が変化しても安定して精度の高い計測結果が得られるものとなる。特に、この計測装置では安定して精度の高い計測結果が要求されることから、計測装置に適用する効果は大である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度調整手段が別途不要で内部の温度調整対象を適温に制御可能な構成とすることで、使用環境温度が変化しても安定して高精度な処理結果を得ることができる変換装置、及びその変換装置を備えた計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態における計測装置の構成を示すブロック図。
【図2】(a)(b)はA/Dコンバータの動作態様を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態の計測装置10を示す。計測装置10は、例えば高周波電源装置の電圧や電流、位相等を計測する装置であり、装置の電気的構成を大別すると、アナログ処理部10Aとデジタル処理部10Bとに分けられる。
【0015】
アナログ処理部10Aに備えられるアナログ回路11は、上記の高周波電源装置等においては高周波トランス、帯域フィルタ、オペアンプ(ともに図示略)等を備え、計測対象の計測より得たアナログ信号をそれらの回路を経てA/Dコンバータ12に出力する。
【0016】
アナログ処理部10Aとデジタル処理部10Bとの間に備えられるA/Dコンバータ12は、アナログ回路11から出力されたアナログ信号(アナログ値)から後段のデジタル処理回路13で処理可能なデジタル値への変換処理を行っており、該デジタル値を含むデジタル信号をデジタル処理回路13に出力する。
【0017】
本実施形態のA/Dコンバータ12は、A/D変換処理が可能な通常モードと、低消費電力モードである待機モードとを有し、制御回路14にて各モードの切り替えが適宜行われている。因みに、本実施形態のA/Dコンバータ12は、例えば通常モードでの消費電力が定格790[mW]、待機モードでの消費電力が定格15[mW]の仕様のものを用いている。待機モードでの消費電力は、通常モード時の2%程度の消費電力となっている。
【0018】
デジタル処理部10Bに備えられるデジタル処理回路13は、A/Dコンバータ12からのデジタル信号の入力を受け、そのデジタル信号に含まれるデジタル値を用いた所定演算処理に基づいて計測対象の計測結果を得る。得られた計測結果は、出力回路(図示略)を介して外部に出力される。デジタル処理回路13は、デジタル値の取得動作と、その取得したデジタル値から計測結果を得るための処理動作との切り替えが制御回路14にて行われる。
【0019】
制御回路14は、A/Dコンバータ12の通常及び待機モードの切り替えと、デジタル処理回路13での取得及び処理動作の切り替えとを同期させて制御している。因みに、図2(a)に示すように、デジタル値の取得に数十[μs]の時間t1、処理動作に十数[ms]の時間t2が予めそれぞれ設定されており、取得動作と処理動作とが交互に周期的に実施される。時間t1,t2は固定時間である。また、デジタル処理回路13でのデジタル値の取得のために設定された時間t1においては、A/Dコンバータ12においてもアナログ信号(アナログ値)の取得、A/D変換及び変換したデジタル値(デジタル信号)の出力を行う時間であり、この取得時間t1は通常モードとして動作している。
【0020】
ここで、前記アナログ回路11に備えられる高周波トランス、帯域フィルタ、オペアンプ等は、温度依存特性の大きい抵抗やコイル、コンデンサ(ともに図示略)等の電気部品を使用して構成されるため、該回路11で扱うアナログ信号(アナログ値)が周囲温度の影響を受け易いものとなっている。つまり、変換したデジタル値にも周囲温度に応じた誤差が含まれてしまい、計測結果の精度を低下させる要因となっている。従って、精度の高い計測結果を得るためには、アナログ回路11の周囲温度を略一定に保つ必要がある。
【0021】
そこで、本実施形態の計測装置10には、アナログ回路11の基板上若しくはその近傍に温度センサ15が備えられ、制御回路14は、その温度センサ15からの検出信号に基づいて、温度調整対象であるアナログ回路11の周囲温度の検出を行っている。そして、制御回路14は、その周囲温度の検出に基づいてA/Dコンバータ12のモード切り替え、即ち消費電力が大きく発熱量の大きい通常モードと、消費電力が小さく発熱量の小さい待機モードとの時間割合を変化させてA/Dコンバータ12での発熱量を制御する。つまり、A/Dコンバータ12を温度調整手段としても機能させ、温度調整対象のアナログ回路11の周囲温度が好適温度である目標温度に近似するように制御される。
【0022】
具体的には、制御回路14は、温度センサ15での検出温度(実温度)と、予め設定された目標温度との偏差に基づいて、次サイクルまでのA/Dコンバータ12の通常モード時間taと待機モード時間tbの時間割合を設定している(図2(a)参照)。ここで、デジタル処理回路13での処理時間t2においてはA/Dコンバータ12は動作不要な時間(待機時間)であるため、制御回路14はこの時間t2をA/Dコンバータ12のモード切り替えによる温度調整の時間として利用している。尚、この時間t2にてA/Dコンバータ12が通常モードを使用する際には、取得時間t1からその通常モードを連続させている。また、この時間t2にてA/Dコンバータ12が通常モードで動作することでデジタル信号の生成が行われるが、同時間t2にて処理動作を実施しているデジタル処理回路13にてA/Dコンバータ12からのデジタル信号の入力をキャンセルする等して対処している。
【0023】
また、目標温度については、例えば通常モード時間taを100%(=t2)とした時の発熱温度と、待機モード時間tbを100%(=t2)としたときの発熱温度との中間温度に設定されている。つまり、目標温度に対応した時間ta,tbの時間割合に対し、通常モード時間taが大であればA/Dコンバータ12の発熱量が大となってアナログ回路11の周囲温度が上昇し、通常モード時間taが小であればA/Dコンバータ12の発熱量が小となってアナログ回路11の周囲温度が下降する。因みに、本実施形態の温度センサ15による温度検出は、取得及び処理動作1サイクルよりも十分に長い例えば1[s]毎に行われ、制御回路14の温度調整制御も同じ1[s]毎に実施している。そして、所定周期毎の温度調整制御に基づいて、図2(b)に示すように、温度調整対象であるアナログ回路11の周囲温度(実温度)が目標温度に対して近似して推移するようになる。
【0024】
こうして、計測装置10の使用環境温度が変化してもアナログ回路11の周囲温度は略一定に保たれるため、アナログ回路11からのアナログ信号(アナログ値)に含まれるその温度にかかる誤差が小さくなり、それを変換したデジタル値においても温度にかかる誤差が小さくなる。そのため、本実施形態の計測装置10では、使用環境温度が変化しても安定して精度の高い計測結果が得られ、また使用温度範囲の拡大に繋がるものとなっている。
【0025】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)制御回路14により、デジタル処理回路13での処理にかかるA/Dコンバータ12の待機時間での通常モードと待機モードとの時間ta,tbの割合がアナログ回路11の周囲温度の検出温度に基づいて変更され、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにてその周囲温度の温度制御が行われる。即ち、デジタル処理回路13の処理時のA/Dコンバータ12の動作不要な時間において、消費電力が大きく発熱量の大きい通常モードと消費電力が小さく発熱量の小さい待機モードとの時間ta,tbの割合を変えることでA/Dコンバータ12自身を温度調整手段として機能させ、アナログ回路11の周囲温度が適温に制御される。これにより、温度依存特性の大きい電気部品が用いられて構成されるアナログ回路11において、そこから出力されるアナログ信号(アナログ値)に含まれる使用環境温度にかかる誤差が小さくなるため、後段のA/Dコンバータ12及びデジタル処理回路13を経ての計測結果についても誤差が小さく、精度の高い計測結果を得ることができる。特に、本実施形態のような計測装置10では安定して精度の高い計測結果が要求されることから、本装置10に適用する効果は大である。
【0026】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態で用いる取得時間t1や処理時間t2、温度検出(温度調整制御)の時間間隔、また各モードでの定格電力といった各種の数値は一例であり、これに限定されるものではない。
【0027】
・上記実施形態では、実温度と目標温度との偏差に基づくフィードバックにて各モード時間割合を設定したが、これに限定されるものではない。例えば、温度を上昇させる側と下降させる側とでそれぞれ各モードの時間割合を固定し、検出温度が上側のしきい値を超えると温度下降側の時間割合に、下側のしきい値を下回ると温度上昇側の時間割合に変更する態様としてもよい。
【0028】
・上記実施形態では、取得時間t1から通常モードを連続させ、残りの時間が待機モードとなるような各モードの配置としたが、各モードの配置態様はこれに限らず、例えば取得時間t1から通常モードが連続しなくてもよく、また通常モードと待機モードとが複数回切り替わるような態様としてもよい。
【0029】
・上記実施形態では、温度センサ15を用いてアナログ回路11の周囲温度の検出を行ったが、温度センサを別途用いず、所定のパラメータからの算出(推定)にて温度検出を行う構成としてもよい。
【0030】
・上記実施形態では、A/Dコンバータ12を備え、高周波電源装置の電圧や電流、位相等を計測する計測装置10に適用したが、その他の計測を行う計測装置に適用してもよい。また、計測装置以外でA/Dコンバータを備える装置(変換装置)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…計測装置(変換装置)、11…アナログ回路、12…A/Dコンバータ、13…デジタル処理回路、14…制御回路(切替制御手段、温度検出手段)、15…温度センサ(温度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのアナログ信号をアナログ回路を介して入力し、該アナログ信号からアナログ値をA/Dコンバータにて周期的に取得してデジタル値に変換し、該デジタル値を後段のデジタル処理回路で処理して所定の処理結果を得る変換装置であって、
前記A/Dコンバータは、A/D変換処理が可能な通常モードと、低消費電力モードである待機モードとを有するものであり、両モードの切り替えを制御する切替制御手段と、変換装置内部の温度調整対象の周囲温度を検出する温度検出手段とを備え、
前記切替制御手段は、前記温度検出手段での温度調整対象の検出温度に基づいて前記デジタル処理回路での処理にかかる前記A/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合を変更し、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにて前記温度調整対象の温度制御を行うことを特徴とする変換装置。
【請求項2】
計測対象の計測より得たアナログ信号をアナログ回路を介して入力し、該アナログ信号からアナログ値をA/Dコンバータにて周期的に取得してデジタル値に変換し、該デジタル値を後段のデジタル処理回路で処理して前記計測対象の計測結果を得る計測装置であって、
前記A/Dコンバータは、A/D変換処理が可能な通常モードと、低消費電力モードである待機モードとを有するものであり、両モードの切り替えを制御する切替制御手段と、計測装置内部の温度調整対象の周囲温度を検出する温度検出手段とを備え、
前記切替制御手段は、前記温度検出手段での温度調整対象の検出温度に基づいて前記デジタル処理回路での処理にかかる前記A/Dコンバータの待機時間での通常モードと待機モードとの時間割合を変更し、各モードの異なる電力消費に基づく発熱量の違いにて前記温度調整対象の温度制御を行うことを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−23460(P2012−23460A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158206(P2010−158206)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】