説明

変速機のギヤシフト装置

【課題】シンクロ機構により確実に回転同期できるシリンダ駆動力を確保した上で、噛合ストロークの所要時間を短縮することで同期崩れに起因するギヤ鳴りを未然に防止できる変速機のギヤシフト装置を提供する。
【解決手段】変速スリーブ12を駆動する油圧シリンダ13のシリンダ室21内に大径ピストン22及び小径ピストン23を内外2重に配設し、大径ピストン22を連携スプリング25により油圧室24側に付勢すると共に小径ピストン23の外周にストッパ部23aを形成し、油圧室24内の油圧に応じて両ピストン22,23を連携作動させる。回転同期のためにスリーブ駆動に大きな駆動力を要する同期ストロークBでは両ピストン22,23を一体で作動させ、その後の要求駆動力が小の噛合ストロークCでは小径ピストン23のみを作動させて高い速度でスリーブ12を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機のギヤをシリンダ駆動で切り換えるギヤシフト装置に係り、詳しくはシリンダ内に摺動可能に配設したピストン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では運転操作の省力化などを目的として、トラックやバスにも自動変速機が採用されている。これら車両重量の大きな車両にトルクコンバータ式変速機を用いると、トルクコンバータの滑りに起因する燃費悪化や動力性能の低下が顕著になることを鑑みて、従来の機械式変速機をベースとした自動変速機が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
周知のように機械式変速機は、運転者のシフト操作に応じてシンクロ機構により回転同期させながら所望の変速段への切換を行う構造を採っている。この種の機械式変速機の一つである平行軸式変速機では、併設したカウンタ軸及び出力軸間に各変速段に対応して常時噛合式のギヤ列を設け、出力軸側の各ギヤを回転自在に支持すると共に、当該出力軸に対して回転規制したスリーブを各ギヤに併設して構成されている。
【0003】
入力軸に入力されたエンジン駆動力はカウンタ軸及び各変速段のギヤ列を経て伝達され、出力軸上の各ギヤを常に空転させている。そして、所望の変速段のスリーブをシンクロ機構により回転同期させながら対応するギヤに結合させると、当該変速段が達成されて所定ギヤ比をもって出力軸側に駆動力が伝達される。
上記特許文献1に記載の自動変速機ではこのような機械式変速機をベースとし、各変速段のスリーブにアクチュエータとして油圧シリンダや空圧シリンダなどを連結し、これらのシリンダでスリーブを駆動して変速段の切換を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−106226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、変速段を切り換える際に要するスリーブの駆動力は全ストロークにおいて均一ではなく、シンクロ機構の作動中に特に大きな駆動力が必要になり、また、このときの駆動力は変速機の油温などの要因によっても増減する。このため、如何なる条件でもシンクロ機構を正常に作動可能なようにアクチュエータの駆動力を確保する必要がある。上記特許文献1の技術のようにアクチュエータとして油圧シリンダや空圧シリンダを用いている場合、一般的にピストン径を増大して駆動力を確保する対策が講じられる。
ところが、ピストン径の増大はピストン速度の低下を引き起こし、この種のギヤシフト装置では、ピストン速度の低下は同期崩れによるギヤ鳴りという特有の問題を発生させる。
【0006】
即ち、図2は特許文献1などに記載されている変速機(但し油圧シリンダ13の構成を除く)の部分拡大断面図であり、詳しくは出力軸1c上の5速被動ギヤ10bのスリーブ12及びシンクロ機構15を部分的に示している。当該変速機1における変速過程は[発明を実施するための形態]で同図に基づき詳述しているため、ここでは概略説明にとどめる。
図2に示した変速段はシリンダ駆動によりスリーブ12を左方に移動させて達成されるが、このときのスリーブ12は、図中の(a),(b),(c)に相当する3種のストロークを経て移動する。まず、機構的な遊びに相当する予備ストロークAを経た後、同期ストロークBに移行してシンクロ機構15による回転同期が開始される。回転同期の完了により同期ストロークBが終了すると噛合ストロークCに移行し、この噛合ストロークC中でのスリーブ12の移動により、スリーブ12内周のスプライン部12aがギヤ10b外周のスプライン部16と噛合して変速段が達成される。
【0007】
従って、シンクロ機構15による回転同期の完了後に、スリーブ12はさらに噛合ストロークC分だけ移動してギヤ10b外周のスプライン部16と噛合する必要があり、その間に一旦完了した回転同期は次第に崩れて回転差を生じ、スプライン噛合時の回転差が大きい場合にはギヤ鳴りを生じる。よって、噛合ストロークCの所要時間は極力短い方が望ましいが、上記のようにピストン径を増大させたときには、ピストン速度と共にスリーブ12の移動速度が低下することから噛合ストロークCの所要時間が長引いてしまう。このため、特にオイル粘度が高い低油温時には、噛合ストロークC中に回転差が大きく増加してギヤ鳴りを発生させてしまうという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シンクロ機構により確実に回転同期できるシリンダ駆動力を確保した上で、噛合ストロークの所要時間を短縮することで同期崩れに起因するギヤ鳴りを未然に防止することができる変速機のギヤシフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、回転軸上でギヤを回転自在に支持して所定のギヤ比をもってエンジンからの駆動力を伝達して空転させると共に、回転軸に対して回転規制され且つ軸方向に摺動可能なスリーブを上記ギヤに併設し、シリンダの駆動によりスリーブをギヤ側に向けて摺動させて、スリーブをシンクロ機構によりギヤと回転同期させる同期ストローク、及び同期完了後にスリーブのスプライン部をギヤのスプライン部に噛合させる噛合ストロークを経て、スリーブをギヤに結合して所定変速段を達成する変速機のギヤシフト装置において、シリンダが、シリンダ室内に摺動可能に大径ピストンを配設し、大径ピストンに貫設したシリンダ孔内に摺動可能に小径ピストンを配設し、シリンダ室内の両ピストンの一側を圧力室として、圧力室側に大径ピストンを付勢手段で付勢する一方、シリンダ孔内から他側方に突出した小径ピストンの外周にストッパ部を設けて大径ピストンの他側面を当接可能とし、小径ピストンの他側をピストンロッドとしてシリンダ室内から外部に突出させてスリーブに接続して構成されたものである。
【0009】
請求項2の発明は、小径ピストンの受圧面積が、同期ストロークでスリーブの駆動に要する駆動力よりも小さく、且つ噛合ストロークでスリーブの駆動に要する駆動力よりは大きな駆動力を達成可能なように設定され、大径ピストンの受圧面積が、付勢手段の付勢力に抗しながら小径ピストンと協調することにより、同期ストロークでスリーブの駆動に要する駆動力よりも大きな駆動力を達成可能なように設定されたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように請求項1の発明の変速機のギヤシフト装置によれば、シリンダ室内に大径ピストン及び小径ピストンを内外2重に配設し、両ピストンをそれぞれ摺動可能として圧力室内の圧力を作用させ、大径ピストンを付勢手段により圧力室側に付勢すると共に、小径ピストンの外周に大径ピストンの他端面が当接可能なストッパ部を形成して両ピストンが連携作動するようにした。
所定変速段を達成すべくスリーブを摺動させたとき、シンクロ機構を作動させるために同期ストロークでは大きな駆動力を要するのに対し、スプライン部を噛合させる噛合ストロークではそれほど大きな駆動力は要求されない。このため、同期ストロークではシリンダの圧力室内の圧力が上昇し、付勢手段の付勢力に抗して大径ピストンが他側方に作動して他側面をストッパ部に当接させ、両ピストンが一体で作動することでスリーブの摺動に要する大きな駆動力を発生させることから、シンクロ機構による回転同期を確実に行うことができる。
【0011】
そして、同期完了により噛合ストロークに移行すると、圧力室内の圧力が低下して付勢手段により大径ピストンの作動が中止され、小径ピストンのみの作動によりスリーブの摺動が行われる。このとき圧力室内に供給される作動流体は小径ピストンの作動だけに用いられてスリーブを高い速度で駆動することから、噛合ストロークの所要時間を短縮化して同期崩れによる回転差が生じる以前に各スプラインを迅速且つ確実に噛合でき、もってギヤ鳴りを未然に防止することができる。
請求項2の発明の変速機のギヤシフト装置によれば、小径ピストンの受圧面積を、同期ストロークでの要求駆動力よりも小さく、且つ噛合ストロークでの要求駆動力よりは大きな駆動力を達成可能なように設定し、大径ピストンの受圧面積を、付勢手段に抗しながら小径ピストンと協調して同期ストロークの要求駆動力よりも大きな駆動力を達成可能なように設定した。
従って、同期ストロークでは大径ピストン及び小径ピストンの協調により、噛合ストロークでは小径ピストンのみの作動により、何れのストロークでもスリーブを確実に摺動できると共に、同期ストロークで要求される駆動力よりも小径ピストンの駆動力が小さくなるようにその受圧面積が設定されているため、噛合ストロークでスリーブを高い速度で駆動して確実にギヤ鳴りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態のギヤシフト装置が適用された変速機を示す全体構成図である。
【図2】5速被動ギヤのスリーブ及びシンクロ機構を示す図1の領域Eに相当する部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した変速機のギヤシフト装置を示す一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のギヤシフト装置が適用された変速機を示す全体構成図であり、ギヤシフト装置の説明に先立ち同図に基づき変速機の概略を述べる。なお、同図では左方が車両の前方に相当し、右方が車両の後方に相当する。
変速機1の入力軸1aにはクラッチ2を介してエンジン3の出力軸3aが接続され、クラッチ2にはアクチュエータとして油圧シリンダ4が接続されている。油圧シリンダ4の駆動によりクラッチ2は断接操作され、クラッチ2の断接状態に応じてエンジン3の駆動力が変速機1の入力軸1aに入力されるようになっている。変速機1は平行軸式変速機をベースとしており、入力軸1aと平行にカウンタ軸1bが回転自在に配設され、入力軸1aの回転が駆動ギヤ5及び被動ギヤ6を介してカウンタ軸1bに伝達されるようになっている。カウンタ軸1b上には3速駆動ギヤ7a、2速駆動ギヤ8a、1速駆動ギヤ9a、5速駆動ギヤ10aが固着されている。
【0014】
入力軸1aの右側には同軸上となるように出力軸1c(回転軸)が回転自在に配設され、出力軸1cの右端は、図示しないプロペラシャフトや差動装置を介して車両の駆動輪に接続されている。出力軸1c上には3速被動ギヤ7b、2速被動ギヤ8b、1速被動ギヤ9b、5速被動ギヤ10bが回転自在に支持され、各被動ギヤ7b〜10bはカウンタ軸1b側の対応する駆動ギヤ7a〜10aと噛合して常時噛合式のギヤ列をそれぞれ構成している。各被動ギヤ7b〜10bはカウンタ軸1b側の駆動ギヤ7a〜10aからエンジン駆動力を伝達され、上記クラッチ2の接続時には出力軸1c上で常時空転している。
出力軸1c上において入力軸1aの右端と3速被動ギヤ7bとの間、2速被動ギヤ8bと1速被動ギヤ9bとの間、及び5速被動ギヤ10bの右側には、それぞれハブ11が回転規制された状態で設けられている。各ハブ11上には回転規制され且つ軸方向に摺動可能なスリーブ12がそれぞれ配設され、これらのスリーブ12の軸方向への摺動に応じて所望の変速段が達成されるようになっている。
【0015】
即ち、左側のスリーブ12が中立位置から左方位置に摺動すると、出力軸1cと入力軸1aとの直結により第4速が達成されてエンジン駆動力がそのまま伝達され、中立位置から右方位置に摺動すると、出力軸1cと3速被動ギヤ7bとの結合により第3速が達成されてエンジン駆動力が第3速のギヤ比をもって伝達される。同様に、中央のスリーブ12の左方位置では2速被動ギヤ8bとの結合により第2速が達成され、右方位置では1速被動ギヤ9bとの結合により第1速が達成される。また、右側のスリーブ12の左方位置では5速被動ギヤ10bとの結合により第5速が達成される。
後に詳述するが、各スリーブ12にはアクチュエータとして油圧シリンダ13が接続され(代表として第5速を示す)、油圧シリンダ13の駆動によりスリーブ12が操作されるようになっている。
【0016】
各スリーブ12を入力軸1aや各被動ギヤ7b〜10bに結合する際には相互の回転を同期させる必要があり、そのために各スリーブ12にはシンクロ機構が設けられている。図2は5速被動ギヤ10bのスリーブ12及びシンクロ機構15を示す図1の領域Eに相当する部分拡大断面図であり、以下、第5速を例にとってシンクロ機構15の構成及び変速時の作動状態を述べる。
上記のように5速被動ギヤ10bは、出力軸1c上に回転自在に支持されると共にカウンタ軸1b側の5速駆動ギヤ10aと噛合しており、5速被動ギヤ10bの右側には出力軸1c上で回転規制されたハブ11が配設されている。上記スリーブ12はハブ11に対してスプライン部12a,11aを介して外嵌され、これによりスリーブ12はハブ11上で回転規制され且つ軸方向に摺動し得る。5速被動ギヤ10bの右側にはスプライン部16及びシンクロコーン部17が一体形成され、スプライン部16はハブ11外周のスプライン部11aと同形状をなしている。
【0017】
シンクロコーン部17にはシンクロリング18が回転自在に外嵌され、シンクロリング18の内周はシンクロコーン部17の外周に対し摩擦材を介して当接し、シンクロリング18の外周にはハブ11のスプライン部11aと同形状のスプライン部18aが形成されている。従って、図2中の(c)に示すようにハブ11上でスリーブ12が左方に向けて摺動すると、内周のスプライン部12aがシンクロリング18のスプライン部18a及び5速被動ギヤ10bのスプライン部16に順次噛合する。
ハブ11の外周とスリーブ12の内周との間には、周方向の等分3箇所にそれぞれシンクロキー19が介装され(図では1つのみ示す)、各シンクロキー19の左端はシンクロリング18の右側に形成された凹部18b内に当接している。各シンクロキー19は図示しないキースプリングにより常に外周側に付勢され、その外周側に形成されたカム凸部19aがスリーブ12のカム凹部12b内に嵌め込まれている。スリーブ12の左方への摺動に伴ってカム凸部19aとカム凹部12bとが係合すると、シンクロキー19はキースプリングを撓ませて内周側に僅かに変位しながらシンクロリング19を左方に押圧する。
【0018】
第5速への切換は以下の過程を経て行われる。まず、変速機1のニュートラル状態では、図2中の(a)に破線で示すようにハブ11上でスリーブ12が中立位置にあり、5速被動ギヤ10bやシンクロリング19に対してスリーブ12の相対回転が許容されている。このため、出力軸1c上で5速被動ギヤ10bが空転するだけでスリーブ12側には駆動力が伝達されていない。
そして、油圧シリンダ4の駆動によりクラッチ2を切断した上で、油圧シリンダ13を作動させてスリーブ12を左方に向けて操作する。機構的な遊びに相当する予備ストロークAを経た後、図2中の(a)に実線で示すようにカム凸部19aとカム凹部12bとの係合により各シンクロキー19がキースプリングを撓ませて内周側に変位しながらシンクロリング18を左方に押圧する。結果としてシンクロリング18と5速被動ギヤ10bのシンクロコーン部17との間に摩擦が生じ、カム凸部19aとカム凹部12bとの係合が継続する同期ストロークBの期間中において5速被動ギヤ10bの回転がスリーブ12の回転と同期する。
【0019】
図2中の(b)に示すように、同期ストロークBが終了した時点でカム凸部19aとカム凹部12bとの係合が解除され、各シンクロキー19がキースプリングを撓ませて内周側に変位して5速被動ギヤ10bとスリーブ12との回転同期が完了する。その後もスリーブ12は左方への摺動を継続し、図2中の(c)に示す噛合ストロークC中に、まず、その内周のスプライン部12aをシンクロリング18のスプライン部18aに噛合させ、その後に5速被動ギヤ10bのスプライン部16に噛合させる。これによりスリーブ12と5速被動ギヤ10bとが結合されて第5速が達成され、油圧シリンダ4でクラッチ2が接続されると、5速の駆動ギヤ10a及び被動ギヤ10bのギヤ比をもってエンジン駆動力が出力軸1c側に伝達される。
ここで、各ストロークA〜Cでスリーブ12を摺動させるために要する駆動力を検証すると、予備ストロークAでは、単にガタ詰めのためにハブ11上でスリーブ12を摺動させるだけのため、このときの要求駆動力は極めて小さい。また、噛合ストロークCでは、各スプライン部12a,16,18aを噛合させる際にシンクロリング18及び5速被動ギヤ10bを僅かに回転させるものの、それほど大きな駆動力は要求されない。
【0020】
これに対して同期ストロークBでは、キースプリングの付勢力とカム係合との拮抗により生じた摺動抵抗を利用して、シンクロリング18を左方に押圧してシンクロコーン部17との間に摩擦を発生させることにより回転同期作用を得ている。このため同期ストロークBでは、他のストロークA,Cに比較して格段に大きな駆動力を必要とする。
次に、以上の第5速への切換のためにスリーブ12を駆動する油圧シリンダ13の構成について説明する。
図2に示すように、油圧シリンダ13のシリンダ室21(二点差線で示す)内には、大径ピストン22及び小径ピストン23が内外2重に配設されている。大径ピストン22はシリンダ室21内で軸方向に摺動可能に配設され、大径ピストン22の中心に貫設されたシリンダ孔22a内に小径ピストン23が軸方向に摺動可能に配設されている。これらの大径ピストン22及び小径ピストン23によりシリンダ室21は左右に区画され、その右側の空間が油圧室24として機能し、油圧室24内に露出した両ピストン22,23の右端面がそれぞれ受圧面として機能する。油圧室24には油圧管路28を介して図示しない油圧ポンプが接続され、切換弁の切換に応じて油圧ポンプから油圧室24内には作動油が供給されて両ピストン22,23の受圧面にそれぞれ作用する。大径ピストン22の受圧面と油圧室24内の対向面との間には一対の連携スプリング25が配設され、これらの連携スプリング25は引張りばねとして機能して大径ピストン22を常に右方(油圧室24側)に付勢している。
【0021】
なお、連携スプリング25の形状や配置は上記に限ることはなく任意に変更可能である。例えば大径ピストン22の左側に圧縮ばねとして機能するように連携スプリング25を配設してもよいし、その本数を変更してもよい。
小径ピストン23は大径ピストン22のシリンダ孔22a内から左方に突出して外周に鍔状のストッパ部23aが形成され、小径ピストン23に対して大径ピストン22が左方に相対移動すると、大径ピストン22の左端面がストッパ部23aに当接するようになっている。ストッパ部23aの左側には小径ピストン23と同一径のピストンロッド26が一体形成され、ピストンロッド26の左端はシリンダ室21内から外部に突出してシフトフォーク27を介して上記スリーブ12に接続されている。
大径ピストン22は図示しないストッパにより右方への摺動を規制されて図中に示す位置をストローク右端とし、油圧室24内の油圧を受けて連携スプリング25の付勢力に抗しながら左方に摺動し得る。また、小径ピストン23も油圧室24内の油圧を受けて左方に摺動し得ると共に、そのストローク右端は上記のように大径ピストン22の左端面に対するストッパ部23aの当接により規制される。
【0022】
ここで、後述するように大径ピストン22及び小径ピストン23は、スリーブ12を駆動するときの各ストロークA〜Cに応じて連携して作動し、要求駆動力が小さな予備ストロークA及び噛合ストロークCでは主に小径ピストン23のみが作動し、要求駆動力が大きな同期ストロークBでは大径ピストン22及び小径ピストン23が一体となって作動する。このような両ピストン22,23の連携作動を実現するために、それぞれの受圧面積及び連携スプリング25の付勢力は以下の条件で設定されている。
即ち、小径ピストン23の受圧面積は、同期ストロークBで要求される駆動力よりも小さく、予備ストロークA及び噛合ストロークCで要求される駆動力よりは大きな駆動力を達成可能なように設定されている。また、大径ピストン22の受圧面積は、連携スプリング25の付勢力に抗しながら小径ピストン23と協調することで、同期ストロークBで要求される駆動力よりも大きな駆動力を達成可能なように設定されている。
【0023】
このため、油圧室24内への作動油供給により油圧が上昇すると、まず小径ピストン23が左方に摺動し、小径ピストン23のみではスリーブ12を駆動不能なとき(具体的には主に同期ストロークB中)には、さらに油圧室24内の油圧が上昇して連携スプリング25の付勢力に抗して大径ピストン22が左方に摺動し始める。そして、大径ピストン22の左端面が小径ピストン23のストッパ部23aに当接すると、両ピストン22,23が一体となって左方に摺動する。
なお、以上は変速機1の第5速に関わる構成を述べたが、他の変速段もギヤ比が相違するだけで共通の機構が採用されると共に、同様の油圧シリンダにより切換操作されるようになっている。
【0024】
次に、以上のように構成された油圧シリンダ13による第5速達成時のスリーブ12の駆動状態を説明する。
例えば変速段の切換は、予め設定されたシフトマップに基づき図示しない変速制御用コントローラにより実行される。当該コントローラにより第5速への切換判定が下されると、切換弁の切換に応じて油圧シリンダ13の油圧室24内に作動油が供給されて、大径ピストン22及び小径ピストン23の受圧面に油圧が作用し始める。
油圧が作用する直前では、図2の(a)に破線で示すようにスリーブ12は中立位置にあり、まず予備ストロークAにおいてスリーブ12が駆動される。油圧上昇による作動は連携スプリング25の作用で大径ピストン22よりも小径ピストン23が先行し、且つガタ詰めのための予備ストロークAで要求される駆動力は極めて小さく小径ピストン23のみで達成可能であることから、大径ピストン22を停止させたまま小径ピストン23のみが作動してスリーブ12を駆動する。このとき油圧室24内に供給される作動油は小径ピストン23の作動だけに用いられることから、小径ピストン23によるスリーブ12の駆動は高い速度で行われる。
【0025】
そして、予備ストロークAが終了して同期ストロークBに移行すると、図2中の(a)に実線で示すようにカム凸部19aとカム凹部12bとの係合により回転同期が開始される。回転同期によりスリーブ12の摺動に要する駆動力は急増して小径ピストン23の駆動力のみではスリーブ12を駆動不能になる。しかし、それに呼応して油圧室24内の油圧が上昇することから、連携スプリング25の付勢力に抗して大径ピストン22が左方に作動し始める。
大径ピストン22は小径ピストン23のストッパ部23aとの間の空走期間を経た後、その左端面をストッパ部23aに当接させて左方に押圧する。その後の両ピストン22,23は一体となって互いに協調しながら作動し、それぞれの受圧面に油圧を受けることによりスリーブ12の摺動に要する駆動力を達成する。同期ストロークB中の両ピストン22,23はこの作動状態を継続し、両ピストン22,23により生じた大きな駆動力によりスリーブ12が左方に駆動されて確実に回転同期が行われる。
【0026】
同期ストロークBが終了して噛合ストロークCに移行すると、図2中の(b)に示すようにカム凸部19aとカム凹部12bとの係合が解除されて回転同期が完了する。噛合ストロークCでは各スプライン部12a,16,18aを噛合させるだけのため、スリーブ12の摺動に要する駆動力は急減して油圧室24内の油圧が低下する。このため大径ピストン22は作動を中止して、その時点の位置で停止するか或いは連携スプリング25の付勢力でストローク右端に戻され、小径ピストン23のみが作動してスリーブ12を左方に駆動し続ける。
よって、上記した予備ストロークAと同じく噛合ストロークCでは、油圧室24内に供給される作動油が小径ピストン23の作動だけに用いられてスリーブ12が高い速度で駆動される。噛合ストロークCが終了した時点で各スプライン部12a,16,18aの噛合が完了して、第5速が達成される。
【0027】
以上のように本実施形態の変速機1のギヤシフト装置では、油圧シリンダ13のシリンダ室21内に大径ピストン22及び小径ピストン23を内外2重に配設し、両ピストン22,23をそれぞれ摺動可能として油圧室24内の油圧を作用させ、大径ピストン22を連携スプリング25により油圧室24側に付勢すると共に、小径ピストン23の外周に大径ピストン22の右端面が当接可能なストッパ部23aを形成して両ピストン22,23を連携作動させている。これにより、要求駆動力が小さな予備ストロークAや噛合ストロークCでは主に小径ピストン23のみが作動してスリーブ12を駆動する一方、要求駆動力が大きな同期ストロークBでは小径ピストン23に対し大径ピストン22が連携して作動してスリーブ12を駆動する。
従って、同期ストロークBでは、大径ピストン22及び小径ピストン23の作動により十分に大きな駆動力をスリーブ12に作用させることができ、これにより5速被動ギヤ10bとスリーブ12との回転差が大、即ち同期負荷が大きな条件であっても確実に回転同期することができる。そして、その後の噛合ストロークCでは、小径ピストン23のみの作動によりスリーブ12を高い速度で駆動し、もって噛合ストロークCの所要時間を大幅に短縮化できる。このため、噛合ストロークCでは、同期崩れによる回転差を生じる以前に各スプライン12a,16,18aを迅速且つ確実に噛合させてギヤ鳴りを未然に防止することができる。
【0028】
加えて、小径ピストン23のみによるスリーブ12の駆動は予備ストロークAでも実行され、予備ストロークAの所要時間も短縮化される。結果として全体の変速所要時間を短縮化でき、迅速な変速操作によりフィーリングを向上できるという効果も達成できる。
一方、このようにスリーブ12の摺動に要するストロークA〜C毎の駆動力に応じて自ずと油圧室24内の油圧が増減し、それに伴って常に適切なタイミングで両ピストン22,23の作動状態が切り換えられて要求駆動力が達成される。例えば本実施形態と同様の機能は、大径ピストン22及び小径ピストン23に個別に油圧室を設けて、各油圧室への作動油の供給をそれぞれ切換弁で制御しても実現可能ではある。しかし、この場合には油圧シリンダ13の構成が複雑になると共に、両切換弁を連携して制御する必要が生じ、しかも両切換弁の切換タイミングが不適切であると、各ストロークA〜Cに対応して両ピストン22,23を適切に作動できない場合もある。本実施形態によれば、これらの不具合を発生することなく、簡単な構成により安価なコストで実施できると共に、常に適切に両ピストン22,23を作動させて上記作用効果を確実に達成することができる。
【0029】
また、要求駆動力に応じて両ピストン22,23の作動状態が切り換えられる結果、スリーブ12は常に適切な駆動力を受けて摺動する。従って、過剰な駆動力を受けたスリーブ12が同期ストロークBで完全に回転同期しないまま噛合ストロークCに移行する事態が防止され、この要因によって生じるギヤ鳴りも未然に防止することができる。
さらに、ギヤ鳴りの防止により各スプライン部12a,16,18aへの負担が軽減されるため、結果として変速機1の信頼性や耐久性を向上することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では平行軸式変速機1をベースとし、シフトマップに基づき自動的に変速段を切り換えるギヤシフト装置に具体化したが、変速機1の構成や変速段の切換はこれに限らない。
【0030】
例えば所謂デュアルクラッチ式変速機に適用してもよい。デュアルクラッチ式変速機は周知であるため詳細は省略するが、奇数段と偶数段とに分けた歯車機構をそれぞれクラッチを介してエンジン側と連結し、一方の歯車機構のクラッチを接続して動力伝達しているとき、他方の歯車機構のクラッチを切断して次に予測される変速段に予め切り換えておき、変速タイミングになると両クラッチの断接状態を逆転させて他方の歯車機構による動力伝達を開始するものである。このようなデュアルクラッチ式変速機でも、上記変速機と同じくスリーブの摺動によりシンクロ機構を作動させて所望の変速段を達成しているため、上記実施形態の油圧シリンダ13を用いることで同様の作用効果を得ることができる。
また、例えばステアリングホイールに変速用のパドルスイッチを設け、運転者によるパドルスイッチ操作に応じて所望の変速段を達成する手動変速機のギヤシフト装置としても具体化できる。この場合でも、各変速段のスリーブ12の駆動に上記実施形態の油圧シリンダ13を適用すれば、同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
また上記実施形態では、変速機1の全ての変速段について2重ピストンを有する油圧シリンダ13を適用したが、必ずしもその必要はない。例えば、シンクロ機構15の同期負荷が大きくギヤ鳴りを生じる可能性が高い低ギヤ側の特定変速段のみに上記油圧シリンダ13を適用し、他の変速段については通常の油圧シリンダを適用してもよい。
また上記実施形態では、油圧シリンダ13によりスリーブ12を駆動したが、内外2重の大径ピストン22及び小径ピストン23を備えたシリンダであれば、油圧シリンダに限定されるものではなく、例えば作動流体としてエアを用いる空圧シリンダに具体化してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 変速機
3 エンジン
10b 被動ギヤ(ギヤ)
12 スリーブ
12a,16 スプライン部
13 油圧シリンダ(シリンダ)
15 シンクロ機構
21 シリンダ室
22 大径ピストン
22a シリンダ孔
23 小径ピストン
23a ストッパ部
24 油圧室(圧力室)
25 連携スプリング(付勢手段)
26 ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸上でギヤを回転自在に支持して所定のギヤ比をもってエンジンからの駆動力を伝達して空転させると共に、該回転軸に対して回転規制され且つ軸方向に摺動可能なスリーブを上記ギヤに併設し、シリンダの駆動により上記スリーブを上記ギヤ側に向けて摺動させて、該スリーブをシンクロ機構により上記ギヤと回転同期させる同期ストローク、及び同期完了後に上記スリーブのスプライン部を上記ギヤのスプライン部に噛合させる噛合ストロークを経て、上記スリーブを上記ギヤに結合して所定変速段を達成する変速機のギヤシフト装置において、
上記シリンダは、シリンダ室内に摺動可能に大径ピストンを配設し、該大径ピストンに貫設したシリンダ孔内に摺動可能に小径ピストンを配設し、上記シリンダ室内の両ピストンの一側を圧力室として、該圧力室側に上記大径ピストンを付勢手段で付勢する一方、上記シリンダ孔内から他側方に突出した小径ピストンの外周にストッパ部を設けて大径ピストンの他側面を当接可能とし、該小径ピストンの他側をピストンロッドとして上記シリンダ室内から外部に突出させて上記スリーブに接続して構成されたことを特徴とする変速機のギヤシフト装置。
【請求項2】
上記小径ピストンの受圧面積は、上記同期ストロークで上記スリーブの駆動に要する駆動力よりも小さく、且つ上記噛合ストロークで上記スリーブの駆動に要する駆動力よりは大きな駆動力を達成可能なように設定され、
上記大径ピストンの受圧面積は、上記付勢手段の付勢力に抗しながら上記小径ピストンと協調することにより、上記同期ストロークで上記スリーブの駆動に要する駆動力よりも大きな駆動力を達成可能なように設定されたことを特徴とする請求項1記載の変速機のギヤシフト装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219953(P2012−219953A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88160(P2011−88160)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】