説明

変速機

【課題】軸間距離を適度に小さくした新たな変速機を提供する。
【解決手段】第1回転体(高速回転体10)と第2回転体(低速回転体20)の間で動力を伝達する変速機である。第1回転体は、第1軸線13A回りに回転可能に支持され、第1軸線13Aに向く第1対向面11Aを有し、当該第1対向面11Aには、第1軸線13Aからずれた位置に連結部材(突起12)が設けられている。第2回転体は、第1軸線13Aに対し平行かつずれて配置された第2軸線23A回りに回転可能に支持されるとともに第1対向面11Aに対面する第2対向面12Aを有し、当該第2対向面12Aには、連結部材が係合するガイド(溝22)が設けられている。このガイドは、連結部材の位置に定点を有する移動円が定円の内側を転がったときにできる内サイクロイドに沿って延び、連結部材は、ガイドに対し、当該ガイドが延びる方向に沿って移動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな構成の変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、変速機としては、平歯車や、プーリとベルトからなる伝達機構など、種々のものが知られている。しかし、これらの変速機は、入力側と出力側の歯車やプーリの半径を足し合わせただけの軸間を確保する必要があり、適用する機械のレイアウトによっては、配置が難しいことがある。
【0003】
軸間距離を小さくしたい場合、内歯車と、この内歯車に噛み合う外歯車を用いた変速機を利用することも可能である。しかし、歯車は、ギヤ歯同士がぶつかる音が発生するため、適用する機械によっては、望ましくないことがある。
このような、軸間を適度に小さくすることができる変速機を検討している中で、本願の発明者は、サイクロイドの概念を用いた新たな変速機を発明するに至った。本発明に関連する変速機は特許文献としては見当たらず、サイクロイド減速機として特許文献1などの発明がいくつか知られているが、本発明とは全く異なる構成のものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−056984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した背景に基づきなされたものであり、軸間を適度に小さくすることができる新たな変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、第1回転体と第2回転体の間で動力を伝達する変速機であって、前記第1回転体は、第1軸線回りに回転可能に支持され、前記第1軸線に向く第1対向面を有し、当該第1対向面には、前記第1軸線からずれた位置に連結部材が設けられ、前記第2回転体は、前記第1軸線に対し平行かつずれて配置された第2軸線回りに回転可能に支持されるとともに前記第1対向面に対面する第2対向面を有し、当該第2対向面には、前記連結部材が係合するガイドが設けられており、前記ガイドは、前記連結部材の位置に定点を有する移動円が前記第2軸線を中心とする定円の内側を転がったときにできる内サイクロイドに沿って延び、前記連結部材は、前記ガイドに対し、当該ガイドが延びる方向に沿って移動可能であることを特徴とする。
【0007】
このような構成によると、第1回転体に回転力を入力すると、ガイドに係合している連結部材がガイドに力を伝え、第2回転体が回転する。第1回転体と第2回転体が回転すると、連結部材は、第2回転体に対し、ガイドが延びる方向に沿って移動していく。このとき、ガイドは、連結部材の位置に定点を有する移動円が第2軸線を中心とする定円の内側を転がったときにできる内サイクロイドに沿って延びているので、第1回転体の回転は、減速されて第2回転体に伝えられる。
逆に、第2回転体に回転力を入力すると、ガイドが、ガイドに係合している連結部材に力を伝え、第1回転体が回転する。第1回転体と第2回転体が回転すると、連結部材は、ガイドに対し滑るように移動していく。このとき、ガイドは、連結部材に対して内サイクロイドの関係にある線に沿って延びているので、第2回転体の回転は、増速されて第1回転体に伝えられる。
【0008】
このような新たな変速機によれば、第1軸線と第2軸線は、変速機の大きさの割には小さな軸間距離となる。そして、連結部材は、ガイドに係合してガイドに沿って移動可能であるため、歯車による変速機のように、ギヤ歯同士がぶつかることによる音も発生しない。
【0009】
前記した変速機においては、前記連結部材は、前記第1対向面上において、前記第1軸線から等距離の位置に複数配置され、前記ガイドは、前記第2対向面上において、複数の前記連結部材にそれぞれ対応して複数設けられた構成とすることができる。
【0010】
このように、連結部材とガイドを複数設けることにより、第1回転体と第2回転体の間の伝達力を大きくすることができる。
【0011】
複数の連結部材とガイドを有する変速機においては、複数の前記連結部材は、前記第1軸線の周りに、周方向に等角度間隔で配置されることが望ましい。このように、複数の連結部材が第1軸線の周りに、周方向に等角度間隔で配置されることで、第1回転体と第2回転体の間の伝達力の発生の仕方が周期的になり、なめらかな動力伝達が可能となる。
【0012】
本発明の変速機において、前記連結部材は、前記第1対向面から突出した突起であり、前記ガイドは、前記第2対向面に設けられた、前記突起が入り込む溝である構成とすることができる。
【0013】
そして、前記溝は、前記第1対向面から離れるにつれ幅が狭くなるように形成され、前記突起は、前記溝に入る先端部が略半球形の当接部材と、当該当接部材を前記溝に向けて付勢する付勢部材とを備えてなり、前記当接部材の先端部が、常時前記溝に当接する構成とすることができる。
【0014】
このように構成すると、当接部材が付勢部材によって溝に向けて付勢され、当接部材の先端部が常時溝に当接するので、溝と突起の間にガタがなくなり、作動音を抑制することができる。
【0015】
また、前記突起は、前記第1対向面に対して回転可能であり、かつ、前記溝に対して転動可能なローラである構成とすることができる。
【0016】
このように構成することで、連結部材である突起がガイドである溝の延びる方向に沿って移動するときに、ローラが溝に対して転がるので、小さい抵抗で移動することができる。これにより変速機の伝達ロスを小さくすることができる。
【0017】
また、前記連結部材は、前記第1対向面に対し回転可能に設けられるとともに、前記ガイドに係合してスライド移動可能なスライダである構成とすることができる。
【0018】
そして、前記したスライダを用いる態様においては、前記ガイドは、前記第2対向面から突出したレールである構成とすることができる。
【0019】
さらに、前記した変速機において、前記第2回転体は、前記第1軸線の方向に貫通する貫通孔を有し、当該貫通孔は、前記第1軸線の方向に沿って見て前記第1対向面とずれた部分を含む構成とすることができる。
【0020】
このように構成することで、第2回転体の貫通孔に、配線や配管などを通すことが可能となる。
【0021】
前記第1軸線と前記連結部材が設けられる位置との距離は、前記第1軸線と前記第2軸線の距離に等しく、前記ガイドは、前記第2軸線を通過し、前記第2軸線に直交する直線に沿って設けられた構成とするのが望ましい。
【0022】
このような構成、つまり、第1軸線と連結部材が設けられる位置との距離が第1軸線と第2軸線の距離に等しいことで、第1回転体と第2回転体の回転速度比が2:1となるような構成の場合、ガイドが直線的に延びることになるのでガイドの製造が容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、軸間を適度に小さくすることができる新たな変速機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る変速機の斜視図である。
【図2】(a)は、内サイクロイドを説明する図であり、(b)は、減速比が9/2の場合の内サイクロイド曲線を示す図である。
【図3】(a)は、低速回転体の正面図であり、(b)は、高速回転体の斜視図である。
【図4】一実施形態の変速機の動作を説明する図(a)〜(d)である。
【図5】減速比が3の場合の変速機の動作を説明する図(a)〜(d)である。
【図6】連結部材の第1の変形例を示す、変速機の断面図である。
【図7】連結部材の第2の変形例を示す、変速機の断面図である。
【図8】連結部材の第3の変形例を示す、高速回転体の斜視図(a)と、変速機の断面図(b)である。
【図9】連結部材の第4の変形例を示す、高速回転体の斜視図(a)と、低速回転体の正面図(b)と、変速機の断面図(c)である。
【図10】低速回転体に貫通孔がある形態を示す、変速機の正面図である。
【図11】低速回転体に貫通孔がある形態の変速機をロボットの関節に搭載した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る変速機1は、第1回転体の一例としての高速回転体10と、第2回転体の一例としての低速回転体20とを備えて構成されている。変速機1は、高速回転体10と低速回転体20の間で動力を伝達することが可能であり、高速回転体10と低速回転体20のいずれを駆動力の入力側とし、いずれを出力側としてもよい。すなわち、変速機1を減速機または増速機のいずれとしても用いることができる。以下の説明では、変速機1を減速機として使う場合を想定して説明する。
【0026】
高速回転体10は、本体部11およびシャフト13を有し、シャフト13が図示しないフレームなどにより回転可能に支持されている。本実施形態において、シャフト13の回転軸線を第1軸線13Aとする。図3(b)に示すように、本体部11は、第1軸線13Aに向く第1対向面11Aを有し、当該第1対向面11Aには、第1軸線13Aからずれた位置、具体的には、第1軸線13Aからrだけ離れた位置に連結部材の一例としての突起12が2つ設けられている。この突起12は、第1対向面11Aから突出した円柱形状で形成され、第1対向面11Aに固定されている。そして、2つの突起12は、第1軸線13Aから等距離の位置、すなわち、第1軸線13Aから半径rの円周上に等角度間隔(180度間隔)で設けられている。突起12が設けられる半径rの円は、変速機1の基礎的パラメータであり、本明細書においては、歯車の基準ピッチ円に倣って「基準ピッチ円」と呼ぶことにする。
【0027】
低速回転体20は、本体部21とシャフト23を有し、シャフト23が図示しないフレームなどにより回転可能に支持されている。本実施形態において、シャフト23の回転軸線を第2軸線23Aとする。第2軸線23Aは、高速回転体10の第1軸線13Aに対し平行かつずれた位置に配置されている。このずれ量、つまり、第1軸線13Aと第2軸線23Aの距離は、本実施形態のように減速比が2の場合、rと同じである。本体部21は、高速回転体10の第1対向面11Aに対向する第2対向面21Aを有している。そして、第2対向面21Aには、突起12が入り込んで係合する、ガイドの一例としての溝22が形成されている。溝22は、本実施形態においては、第2軸線23Aを通過し、第2軸線23Aに直交する直線に沿って設けられている。このように、溝22が直線になるのは、本実施形態のように減速比が2の場合である。溝22が直線であることで、ガイドとしての溝22の製造が容易となっている。
【0028】
突起12は、溝22に係合していることで、高速回転体10と低速回転体20が回転する時に、溝22に対し、溝22の延びる方向に沿って移動可能である。このときの移動がスムーズであるように、溝22は、突起12の直径より僅かに大きい程度に形成され、突起12に嵌合している。
【0029】
溝22は、突起12に対し、内サイクロイドの関係にある線に沿って延びている。内サイクロイドとは図2に示すように、定円(基準ピッチ円Cc)の内側を移動円(基準ピッチ円Cm)が転がって移動するときの、移動円上の定点Pが移動する軌跡(通常、曲線)である。すなわち、溝22は、詳しくいえば、突起12に定点Pを有する移動円が第2軸線23Aを中心とする定円の内側を転がったときにできる定点Pの軌跡である内サイクロイドに沿って延びている。
【0030】
図2(a)においては、低速回転体20の基準ピッチ円Ccの半径r=1としたときの、高速回転体10の基準ピッチ円Cmの半径r=1/3、r=1/4、r=1/5の3つの場合を例示している。これらの場合、定点Pは、それぞれ、移動円が定円の内側を1周する間に3回転、4回転、5回転して元の位置に戻る。そしてこれらは、変速機の減速比が、それぞれ、3、4、5の場合に相当する。
【0031】
突起12(連結部材)が定点Pに対応して一つある場合、溝22(ガイド)は、図2(a)に示したような三芒星、四芒星、五芒星・・などの星形の内サイクロイドが一つある(この星形の内サイクロイドを「一つの系のサイクロイド」と呼ぶことにする。)。定点Pが複数ある場合、複数の定点Pに対応して、複数の系の内サイクロイドが存在し、ガイドはこの複数の系の内サイクロイドに沿って設けられることになる。連結部材は、定点Pに対応して設けられ、その数は、溝22などのガイドが低速回転体20上に設けることができる限りで多い方が望ましい。連結部材が多いほど、大きな力を低速回転体20に伝達でき、また、動力伝達のムラが小さくなって滑らかな動力伝達が可能になるからである。
【0032】
内サイクロイドの形状は、図2(a)のような星形には限られず、r=1/2の場合には、定円の中心を通る直線となる。すなわち、本実施形態の溝22は、r=1/2の場合の内サイクロイドに沿った形状となっている。
【0033】
また、本発明の変速機の減速比は、自然数に限られず、分数とすることもできる。例えば、r=2/9の場合、つまり、減速比が9/2の場合、図2(b)に示したように、定円の内側を移動円が2周して、定点Pが元の位置に戻る。このような内サイクロイドに沿ってガイドを設けることによっても、本発明の変速機を構成することが可能である。この図2(b)のように、rの分子が2以上の場合には、移動円上の2つの定点P,P2を、一つの系の内サイクロイド上をトレースさせることが可能である。このように、移動円が定円の内側を複数回転して定点Pが元の位置に戻るようにする場合、一つの系の内サイクロイドに沿った1つの系のガイドを複数の連結部材で共用できるため、連結部材を多く設けることができて、伝達トルクを大きく、滑らかにすることができる。
【0034】
図2(b)のような分数の減速比としては、例えば、10/3(r=3/10)、8/3(r=3/8)、13/3(r=3/13)などが挙げられる。これは、基本の減速比を少しずらすことにより実現可能であるので、ずらす前の基本の減速比をRとした場合、n回転で定点を元の位置の戻そうとするのであれば、(R×n±1)/nの減速比とすることで、Rに近い減速比の、n回点で定点Pを元の位置に戻すことができる分数の減速比を算出することができる。このとき、n個の定点P,P1,・・・Pnに対応する連結部材を設けることができる。もっとも、これらに限らず、本発明の変速機は任意の分数の減速比とすることができる。
【0035】
本実施形態の変速機1を作動させると、図4(a)〜(d)のようになる、図4(a)のように、溝22に入った一つの突起12が右端にある状態で高速回転体10を時計回りに回転させると、その突起12が溝22に力を伝え、低速回転体20を回転させる。低速回転体20が高速回転体10とともに回転を始めると、図4(b)に示すように、突起12の一つは、溝22を滑りながら低速回転体20の第2軸線23A(中心)に向けて移動し、もう一つは、溝22を滑りながら第2軸線23Aから離れる方(外側)に向けて移動する。さらに、高速回転体10が時計回りに回転すると、図4(c),(d)に示すように、低速回転体20が高速回転体10の半分の角速度で時計回りに回転し、高速回転体10が半回転したところで、90度回転する(図4(d))。また、減速比が3の場合には、一例として、図5(a)〜(e)のように高速回転体110に突起12を設け、低速回転体120にr=1/3の内サイクロイドに沿った2つの系の溝122を設け、各突起12を各系の溝122に滑らせていくことで、動力の伝達が可能である。
【0036】
このように、本実施形態によれば、新たな構成による変速機1が実現できる。そして、この変速機1は、軸間距離が適度に小さく、軸間を大きく取ることができない機械にも適用することが可能となる。また、この変速機1は、動力伝達のために、歯車のようにギヤ歯を用いておらず、突起12が溝22の側壁に与える力を利用しており、突起12は溝22を滑っていくので、ギヤ歯が当たるような耳障りな音が発生しない。また、減速比が2である場合には、溝22が直線に沿っているので製造が容易である。
【0037】
本発明は、以上のような一実施形態に限られず、適宜変形して実施することが可能である。
例えば、前記実施形態においては、わかりやすさを重視して、シャフト13,23により高速回転体10または低速回転体20の回転を支持する例を示したが、高速回転体10および低速回転体20は、他の方法、例えば、外周を支持することにより回転を支持してもよい。
【0038】
また、前記実施形態においては、連結部材が2つ設けられる場合を説明したが、連結部材は1つであってもよい。
【0039】
さらに、前記実施形態においては、変速機1を減速機として用いる場合を想定して説明したが、低速回転体20を駆動力の入力側にして、増速機として用いてもよい。この場合には、溝22(ガイド)が突起12(連結部材)に力を与えて高速回転体10が回転することになる。
【0040】
また、第1対向面11Aおよび第2対向面21Aは、平面である必要はなく、曲面や、リブが設けられることで凹凸となった面であってもよい。また、第1対向面11Aは、第1軸線13Aに対し直交している必要はなく、連結部材とガイドの係合が確保される限り多少斜めであってもよい。
【0041】
また、前記実施形態においては、複数の突起12(連結部材)は、第1軸線13Aの周りに等角度間隔で配置されていたが、必ずしも等角度間隔ではなく、異なる角度間隔で配置されていてもよい。
【0042】
前記実施形態においては、突起12(連結部材)は、本体部11に対して固定されているものとして説明したが、連結部材は図6に示す第1の変形例のように構成してもよい。図6の変速機200は、連結部材とガイドの構成のみを変速機1に対し変更したもので、ガイドが延びる方向や減速比など他の構成は、変速機1と同じである。変速機200は、低速回転体220の第2対向面221Aに、高速回転体210の第1対向面211Aから離れるにつれ幅が狭くなるような側面222Aを有する溝222が形成されている。一方、高速回転体210には、突起として、先端部212Aが半球状の当接部材212と、当接部材212を溝222に向けて付勢する付勢部材の一例としてのコイルばね215が設けられている。このような構成により、コイルばね215は、当接部材212の先端部212Aを常時、溝222の側面222Aに当接させ、溝222と当接部材212の間に遊びが発生しないので、歯車でいうバックラッシをなくし、精密な回転や、静かな回転が可能となっている。なお、この形態において、コイルばね215を板バネにするなどして、当接部材と付勢部材を一体に構成してもよい。また、先端部212Aは、第1軸線13Aに直交する断面が円形であればよく、完全な半球形状である必要はない。
【0043】
また、図7に示す連結部材の第2の変形例においては、高速回転体310には、ピン315を固定し、このピン315に、ローラ312を回転可能に支持させている。これにより、ローラ312は第1対向面311Aに対して回転可能である。そして、ローラ312は、低速回転体320の溝322に入り込み、作動時に溝322に対して転動可能である。このようになっていることで、ローラ312が溝322に対し小さい抵抗で移動することができ、変速機300の伝達ロスを小さくすることができる。
【0044】
また、図8(a),(b)に示す連結部材の第3の変形例においては、高速回転体410には、連結部材として、第1対向面411Aに対して回転可能な、直方体形状のスライダ412が設けられている。そして、低速回転体420の溝422にスライダ412が係合して、溝422に対しスライダ412がスライド移動可能となっている。前記実施形態と異なり、円柱状の突起12ではなく、直尺形状の突起を利用しても本発明の変速機400を構成することが可能である。
【0045】
また、図9(a)〜(c)に示すように、高速回転体510には、連結部材として、第1対向面511Aに対して回転可能な、断面U字形状のスライダ512が設けられている。そして、低速回転体520には、スライダ412の内側壁512Aと嵌合して、スライダ412がスライド可能なレール522が、第2対向面521Aから突出して形成されている。このように、前記実施形態と異なり、ガイドとして溝を用いるのではなく、突出した形状のレール522を用いても、変速機500を構成することが可能である。
【0046】
さらに、図10に示したのは、第2回転体としての低速回転体620に、第2軸線623Aの方向に貫通する貫通孔625を設けた変速機600である。高速回転体610には、突起612が8つ設けてあり、低速回転体620の第2対向面621Aには、8つの突起612に対応して、8つの系の溝622が設けられている。低速回転体620の本体部621は、基準ピッチ円よりも小さく形成され、そのため、作動中に、突起612が溝622を外周側に向けて移動するときには、外側の端部から一旦外れ、再度、外側の端部から入り込むように移動する。
このように、本発明の変速機は、常時、連結部材とガイドの係合が少なくとも一つ確保されている限り、第2回転体に貫通孔625を設けることができ、また、一部の連結部材がガイドから一時的に離脱することを許容することで、第2回転体の外周の半径を適宜小さくすることが可能である。
【0047】
このように貫通孔625を設け、図10に例示したように、貫通孔625が第2軸線623Aの方向に沿って見て第1対向面611A(つまり、第1回転体)とずれた部分を含むことで、変速機600全体として見て、第2軸線623Aの方向に貫通する空間を確保することができる。そのため、この空間に、配線や配管を通すことが可能であり、配線や配管の空間を取りにくい機械において、本発明の変速機を有効に利用することができる。
【0048】
図11は、このような貫通孔625を有する変速機600をロボットの関節Aに搭載した例を示す断面図である。図11に示す関節Aは、一方のリンク701と他方のリンク702を相対的に回転させるものである。他方のリンク702は、モータ710が固定され、モータ710の出力軸711は高速回転体610に結合されている。低速回転体620はもう一つの減速機720に結合されており、ハーモニックドライブを用いた減速機720の出力部721が一方のリンク701と係合して一方のリンク701が回転できるようになっている。この関節Aにおいては、低速回転体620に貫通孔625があることで、関節Aの中央に空間ができ、配線750をこの空間(貫通孔625)を通すことで、配線750のレイアウトが容易となっている。
【0049】
以上に、本発明の具体的な変形例について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、本発明の趣旨に反しない限り適宜な変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 変速機
10 高速回転体
11 本体部
11A 第1対向面
12 突起
12A 第2対向面
13 シャフト
13A 第1軸線
20 低速回転体
21 本体部
21A 第2対向面
22 溝
23 シャフト
23A 第2軸線
212 当接部材
212A 先端部
222 溝
222A 側面
312 ローラ
315 ピン
322 溝
412 スライダ
422 溝
512 スライダ
522 レール
625 貫通孔
750 配線
Cc 基準ピッチ円
Cm 基準ピッチ円
P 定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と第2回転体の間で動力を伝達する変速機であって、
前記第1回転体は、第1軸線回りに回転可能に支持され、前記第1軸線に向く第1対向面を有し、当該第1対向面には、前記第1軸線からずれた位置に連結部材が設けられ、
前記第2回転体は、前記第1軸線に対し平行かつずれて配置された第2軸線回りに回転可能に支持されるとともに前記第1対向面に対面する第2対向面を有し、当該第2対向面には、前記連結部材が係合するガイドが設けられており、
前記ガイドは、前記連結部材の位置に定点を有する移動円が前記第2軸線を中心とする定円の内側を転がったときにできる内サイクロイドに沿って延び、
前記連結部材は、前記ガイドに対し、当該ガイドが延びる方向に沿って移動可能であることを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記連結部材は、前記第1対向面上において、前記第1軸線から等距離の位置に複数配置され、
前記ガイドは、前記第2対向面上において、複数の前記連結部材にそれぞれ対応して複数設けられたことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
複数の前記連結部材は、前記第1軸線の周りに、周方向に等角度間隔で配置されたことを特徴とする請求項2に記載の変速機。
【請求項4】
前記連結部材は、前記第1対向面から突出した突起であり、
前記ガイドは、前記第2対向面に設けられた、前記突起が入り込む溝であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項5】
前記溝は、前記第1対向面から離れるにつれ幅が狭くなるように形成され、
前記突起は、前記溝に入る先端部が略半球形の当接部材と、当該当接部材を前記溝に向けて付勢する付勢部材とを備えてなり、
前記当接部材の先端部が、常時前記溝に当接することを特徴とする請求項4に記載の変速機。
【請求項6】
前記突起は、前記第1対向面に対して回転可能であり、かつ、前記溝に対して転動可能なローラであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の変速機。
【請求項7】
前記連結部材は、前記第1対向面に対し回転可能に設けられるとともに、前記ガイドに係合してスライド移動可能なスライダであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項8】
前記ガイドは、前記第2対向面から突出したレールであることを特徴とする請求項7に記載の変速機。
【請求項9】
前記第2回転体は、前記第2軸線の方向に貫通する貫通孔を有し、当該貫通孔は、前記第2軸線の方向に沿って見て前記第1対向面とずれた部分を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項10】
前記第1軸線と前記連結部材が設けられる位置との距離は、前記第1軸線と前記第2軸線の距離に等しく、前記ガイドは、前記第2軸線を通過し、前記第2軸線に直交する直線に沿って設けられたことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−229770(P2012−229770A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99307(P2011−99307)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】