説明

夏ばての予防または改善用組成物及び飲食品

【課題】夏ばてを予防または改善するための組成物並びに飲食品を提供する。
【解決手段】水素分子を有効成分として含んでなる、夏ばての予防または改善用組成物並びに飲食品が提供される。本発明によれば、暑熱ストレス負荷状態における体重減少を抑えることができ、夏ばてに起因する食欲不振に伴う夏やせを予防または改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夏ばての予防または改善用組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
夏ばては、「暑気中り」、「夏負け」等とも呼ばれ、夏季の高温多湿条件下で生活することにより、自律神経系の乱れに起因する様々な症状、例えば食欲不振や倦怠感等が現れた状態を指す言葉である。このような状態では、食欲不振などにより体重・体力が低下し、いわゆる「夏やせ」の状態に陥ることが多い。
【0003】
例えば、非特許文献1には、31℃の高温環境下(暑熱ストレス負荷状態)で飼育したラットの体重増加が抑制されたことが記載されている。体重増加が抑制される原因については、摂餌量の低下や、暑熱ストレスによる代謝の低下など、複数の要因があると考えられる。例えば非特許文献1では、ラットの飼料効率(体重の増加に必要な餌の量)を調査しており、暑熱ストレス負荷状態で飼育したラットでは飼料効率が低下し、体重の増加により多くの餌が必要であることが記載されている。また、非特許文献2には、高温条件下における自律神経の乱れの原因として高温ストレスによる体温中枢の過負荷が挙げられており、それにより摂食中枢の機能低下が生じると記載されている。
【0004】
従来、夏季に生じる体調失調を克服するための飲食品としては、塩化ナトリウムを含有するスポーツドリンクのような、浸透圧が調整されたアイソトニック飲料や、経口補水液等がある。しかしながら、これらの飲食品は、発汗によって失われた水分や電解質を補うためのものであり、夏ばてや夏やせを改善するものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Suzuki et.al., Jpn. J. Vet. Sci., 45(3), p.331-338, (1983)
【非特許文献2】鷲塚昌隆他、薬理と治療、24(7), p,1469-1473,(1996)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、夏ばてを予防または改善するための組成物並びに飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、水素分子を有効成分として含んでなる、夏ばての予防または改善用組成物が提供される。該組成物は、好ましくは、体重減少の予防または改善用であり、または、好ましくは食欲減退の予防または改善用であり、または、好ましくは同化促進用である。
【0008】
本発明の他の側面から、水素分子を有効成分として含んでなる、夏ばての予防または改善用飲食品が提供される。該飲食品は、好ましくは、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または病者用食品である。また、該飲食品は、好ましくは、体重減少または食欲減退の予防または改善用の飲食品であり、或いは、同化促進用の飲食品である。
【0009】
該飲食品は、好ましくは飲料の形態であり、より好ましくは飲料水の形態である。該飲料水は、好ましくは、水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含み、また好ましくは、酸素分子を0〜1.0 ppmの濃度で含む。
【0010】
本発明の他の側面から、原料を脱気処理し、酸素分子濃度を0〜1.0 ppmに調整する工程と、脱気処理された原料に、水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含有させる工程と、
を具備する夏ばての予防または改善用飲食品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、夏ばてを予防または改善するための組成物並びに飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】水素含有水がラットの体重増加に及ぼす影響を示すグラフ。
【図2】水素含有水がラットの肝臓、腎臓及び脾臓の重量に及ぼす影響を示すグラフ。
【図3】水素含有水がラットの肝臓、腎臓及び脾臓の体重あたりの重量に及ぼす影響を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、水素分子を含有する組成物が、暑熱ストレスによる体重減少を抑える効果を有することを見出した。この効果は、夏ばての予防または改善に有効であると考えられるものであった。
【0014】
本発明の一つの側面から、水素分子を含有する夏ばての予防または改善用組成物が提供される。本発明に係る組成物は、水素分子の他に任意の成分を含むことができる。またその形態は、液体、懸濁液、ゲルなど任意の形態であってよく、特に液体の形態であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る組成物は、水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含むことが好ましく、0.1〜1.6 ppmの濃度で含むことがより好ましい。水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含むことにより、夏ばての予防または改善の効果を得ることができる。水素分子の濃度は、0.1 ppm未満であってもよいが、その場合は水素分子の濃度が低いため、本発明の効果を奏するために摂取することが必要な組成物量が大きくなる。また、水素分子の濃度が2 ppmを超えると、水素の飽和濃度を大幅に超えるため、組成物中に水素分子を保持できなくなる。
【0016】
夏季の猛暑など、暑熱ストレスが負荷された状態においては、体重の増加が抑制されることが知られているが、本発明に係る組成物は、暑熱ストレスによる体重減少を抑えることができる。
【0017】
また、本発明に係る組成物は、暑熱ストレスによる食欲の低下を抑え、食欲の減退を予防または改善することができる。
【0018】
またさらに、本発明に係る組成物は、同化を促進する効果を有し、暑熱ストレスによる消化吸収率の低下を抑制することができる。なお、同化は、生合成とも称される、生体高分子を構築する反応を意味するように意図される。
【0019】
本発明に係る組成物は、上記のような効果を有することにより、夏ばてのような暑熱ストレスが負荷された状態において、食欲不振などによって生じる夏やせを予防または改善することができ、結果として夏ばてを予防または改善することが可能である。
【0020】
本発明の他の側面において、水素分子を含有する夏ばての予防または改善用飲食品が提供される。
【0021】
本発明に係る飲食品は任意の形態の食品または飲料であってよく、好ましくは飲料の形態で提供される。飲料は、非アルコール飲料、アルコール飲料、茶飲料、乳飲料など、種々の飲料であってよく、ミネラルウォーターのような飲料水であってもよい。水素は無味無臭であるため、様々な飲食品に適用することが可能である。特に、水素を含有させても呈味をほとんど変化させないことから、ミネラルウォーターのような飲料水にも適用することができる。
【0022】
本発明に係る飲食品が飲料水である場合、該飲料水は鉱水に水素分子を含有させたものであることが好ましい。鉱水を使用することにより、鉱水に固有の優れた呈味を有する水素含有飲料を提供することができる。
【0023】
一般的に鉱水(いわゆるミネラルウォーター類)の呈味は、含有する無機イオン等の種類と量に起因するものであり、湧出地によって相違する。鉱水は味覚に影響を与える他の成分を含まないため、鉱水に機能性を付与する添加物は、呈味性や質感に影響を与えないものであることが好ましい。水素分子は、飲食水の呈味にほとんど影響を与えないことから、鉱水に機能性を付与する添加物として好適に用いることができる。
【0024】
一方、飲料水中に無機物が含まれることにより、嗜好性やその他食品加工の際に悪影響を与える可能性がある場合、例えば、無機イオンが他の溶解物に対して凝集や沈殿を生じるなど、外観に悪影響を与える可能性が危惧される場合には、水素分子を含有させる水として脱イオン水を用いることが好ましい。
【0025】
上記のような飲食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または病者用食品として提供されることができる。
【0026】
本発明に係る飲食品は、水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含むことが好ましく、0.1〜1.6 ppmの濃度で含むことがより好ましい。水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含むことにより、夏ばての予防または改善の効果を得ることができる。水素分子の濃度は、0.1 ppm未満であってもよいが、その場合は水素分子の濃度が低いため、本発明の効果を奏するために摂取することが必要な飲食品の量が大きくなる。また、水素分子の濃度が2 ppmを超えると、水素の飽和濃度を大幅に超えるため、飲食品中に水素分子を保持できなくなる。
【0027】
夏季の猛暑など、暑熱ストレスが負荷された状態においては、体重の増加が抑制されることが知られているが、本発明に係る飲食品は、暑熱ストレスによる体重減少を抑えることができる。
【0028】
また、本発明に係る飲食品は、暑熱ストレスによる食欲の低下を抑え、食欲の減退を予防または改善することができる。
【0029】
またさらに、本発明に係る飲食品は、同化を促進する効果を有し、暑熱ストレスによる消化吸収率の低下を抑制することができる。なお、同化は、生合成とも称される、生体高分子を構築する反応を意味するように意図される。
【0030】
本発明に係る飲食品は、上記のような効果を有することにより、夏ばてのような暑熱ストレスが負荷された状態における食欲不振などによって生じる夏やせを予防または改善することができ、結果として夏ばてを予防または改善することが可能である。
【0031】
水素分子を含有する飲料水は、原料となる飲料水に水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含有させることによって製造することができる。水素を含有させる方法は、これに限定されないが、水素の加圧、液体水素の添加、提供される飲料水への水素の微細気泡、水素吸蔵金属の添加、或いはアルカリ金属の直接溶解により発生する水素を利用する等の方法を用いることができる。
【0032】
水素分子を含有する飲食品は、原料に水素分子を直接溶解させることもできるが、水素分子を含有する水を用いて原材料を加工することにより製造することもできる。水素分子を含有する水は、単独で、或いは食品衛生上許容される配合物を混合して食品に加工することができる。
【0033】
本発明に係る組成物及び飲食品を摂取することにより、夏ばて、夏ばてによる食欲不振等に起因する摂食障害、及びそれに伴う夏やせ及び栄養失調状態などの種々の症状を、予防、治療、または改善することができる。本発明に係る組成物及び飲食品は、例えば、食欲の減退、代謝機能の低下または同化の低下による体重増加抑制や体重減少の抑制、食欲増加、食欲減退の抑制、倦怠感の軽減、食欲不振の治療、同化の促進、動物においては飼料効率の向上に有効である。
【0034】
本発明の組成物は、夏ばてを治療するための医薬としても提供されることができる。また、本発明の飲食品は、例えば、特に暑熱ストレスを受けやすい老齢者用の飲食品として提供されることもできる。或いは、夏ばて以外の原因による摂食障害を改善する効果を有する可能性もある。
【実施例】
【0035】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
ラットを25〜30℃の高温環境下で飼育し、水素分子を含有する水(以降、水素含有水と称する)を与え、体重の推移を調査した。
【0037】
30℃の室温は、東京都の夏季(7月〜9月)の平均気温並びに最高/最低気温とほぼ合致する温度である。この時期には夏ばてが多発し、暑熱ストレス負荷がかかっている状態であると言える。また、高温環境(暑熱ストレス負荷)状態でラットを飼育すると、体重の増加が抑制されることが知られており、例えば、Suzukiらによって、31℃の条件下でラットを飼育すると、体重増加が有意に抑制されることが示されている(K. Suzuki et.al., Jpn. J. Vet. Sci., 45(3), p.331-338, (1983))。
【0038】
<試験方法>
5週齢のSD系雄ラットを室温25〜30℃で飼育し、試験を行った。実施例のラット(n=7)には、脱イオン水に水素分子を1.5 ppmの濃度で溶解させた水素含有水を経口投与した。コントロールのラット(n=7)には、水素を含有しない脱イオン水を投与した。
【0039】
ラットを1週間順化飼育した後に投与を開始し、1日2回、体重(kg)あたり10mlの投与を2週間にわたって行った。
【0040】
ラットは、食餌が自由にできる環境で飼育し、1日1回、体重を測定し、平均値を算出した。
【0041】
また、試験開始から2週間後に血液を採取し、血液の生化学検査を行った。さらに、肝臓、右腎臓、脾臓の各組織の重量を測定し、体重あたりの重量%を算出した。
【0042】
<結果>
順化飼育中並びに投与期間中の体重の推移を図1に示した。投与開始7日目以降において、水素含有水を投与された実施例群は、コントロール群よりも体重が高く、体重の増加率がコントロール群より大きいことが示された。
【0043】
上述したように、コントロール群は体重の増加が抑制された状態であると考えられる。実施例群は、コントロール群と比較して体重が増加しており、このことから、水素含有水を投与することにより、高温条件下での体重減少が抑えられることが示された。
【0044】
また、血液の生化学試験の結果を表1に示した。
【表1】

【0045】
表1に示されるように、何れの血液検査指標においても、実施例群とコントロール群で有意な差は認められなかった。
【0046】
また、試験開始2週間後における、肝臓、右腎臓、脾臓の各組織の重量を図2に示した。さらに、試験開始2週間後における、体重あたりの各臓器の重量%を図3に示した。図2及び3に示されるように、何れの臓器においても、重量及び体重あたりの重量%は実施例群とコントロール群で有意な差は認められなかった。
【0047】
高温条件下のストレス負荷状態において、臓器に何らかの影響が生じた場合は、その重量が変化することが予想される。しかしながら、上記のように、何れの臓器においても、重量及び体重あたりの重量%は実施例群とコントロール群で有意な差が認められず、また、何れの血液検査指標においても、実施例群とコントロール群で有意な差は認められないことから、水素含有水は、高温条件下のストレス負荷状態において、他臓器への負担をかけることなく、体重減少を抑えることが可能であることが示された。
【0048】
体重増加が抑制される原因については、摂餌量の低下、或いは暑熱ストレスによる代謝の低下などの複数の要因があると考えられる。先述のSuzukiらは、暑熱ストレスを負荷されたラットにおいて飼料効率(体重を増やすのに必要な餌の量)が低下することを記載している。
【0049】
図1に示すように、水素含有水を投与されたラットは、コントロールと比較して体重が増加しており、摂餌量の増加、飼料効率低下の抑制が生じたことが示唆される。よって、水素含有水は、食欲低下を抑制する効果を有し、また、飼料効率の低下を抑制して同化を促進する効果を有することが示唆された。
【0050】
以上のように、本実施例では、水素含有水を投与することにより、高温条件下で飼育したラットの体重増加抑制が改善されたことから、暑熱ストレス負荷による体重の減少を抑制し、夏やせの改善に有効であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素分子を有効成分として含んでなる、夏ばての予防または改善用組成物。
【請求項2】
体重減少の予防または改善用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食欲減退の予防または改善用である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
同化促進用である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
水素分子を有効成分として含んでなる、夏ばての予防または改善用飲食品。
【請求項6】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または病者用食品である、請求項5に記載の飲食品。
【請求項7】
体重減少の予防または改善用である、請求項5または6に記載の飲食品。
【請求項8】
食欲減退の予防または改善用である、請求項5〜7の何れか一項に記載の飲食品。
【請求項9】
同化促進用である、請求項5〜7の何れか一項に記載の飲食品。
【請求項10】
飲料の形態である、請求項5〜9の何れか一項に記載の飲食品。
【請求項11】
飲料水の形態である、請求項5〜10の何れか一項に記載の飲食品。
【請求項12】
水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含むことを特徴とする、請求項5〜11の何れか一項に記載の飲食品。
【請求項13】
食品原材料に、水素分子を0.1〜2 ppmの濃度で含有する水を添加する工程を具備する、夏ばての予防または改善用飲食品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−254604(P2010−254604A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105161(P2009−105161)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】