説明

外添型デポジットコントロール剤及びデポジットコントロール方法

【課題】デポジットの付着防止性に優れ、また疎水性かつ構造が複雑な製紙用具・製紙装置に対する濡れ性が充分であり、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を防止する。
【解決手段】(a1)及び/又は(a2)の重合体(A)を1〜30質量%、式(1)で表される化合物(B)を1〜30質量%含有する外添型デポジットコントロール剤。(a1)ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位から構成され、重量平均分子量5,000〜1,000,000。(a2)アミンとエピハロヒドリンを反応させて得られ、重量平均分子量が5,000〜1,000,000。


(式中、Rは炭素数7〜13の分岐一級アルコール残基、mはEO(オキシエチレン基)の平均付加モル数で4〜60、nはPO(オキシプロピレン基)の平均付加モル数で0〜20、mとnとのモル比100:0〜40:60)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外添型デポジットコントロール剤及びデポジットコントロール方法に関し、さらに詳しくは、パルプまたは紙の製造工程において、製紙用具または製紙装置へのデポジットの付着を抑制ないし防止することができる外添型デポジットコントロール剤、及びこの外添型デポジットコントロール剤を用いて、製紙用具または製紙装置(以下、製紙用具・製紙装置とも表記する)にデポジットが付着するのを抑制ないし防止するデポジットコントロール方法に関する。
なお、本発明においてデポジットとは、原料である木材に含まれている樹脂や脂肪酸等のピッチ、古紙及び損紙由来で混入する接着剤やラテックスなどの粘着性物質(スティッキー)、または紙を製造する際に加えられるサイズ剤などの添加剤などに由来する汚れの総称を言う。
【背景技術】
【0002】
パルプまたは紙の製造工程(製紙工程)において発生するデポジットは、ロールなどの製紙装置や紙に付着することにより品質や操業性に影響を与えたり、ワイヤーやフェルトなどの製紙用具を目詰まらせることにより搾水性の低下を引き起こしたりするなど、トラブルの原因となる。中でも、ワイヤーやフェルトは、疎水性樹脂であるポリエステルやナイロンなどが主な材質であるため、特にデポジットが付着しやすい。
【0003】
従来より、パルプまたは紙を製造する際のデポジットの凝集によるトラブル、あるいは紙や製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着によるトラブルを抑制ないし防止する目的で、デポジットコントロール剤が使用されている。デポジットコントロール剤は、パルプスラリーに添加する内添型デポジットコントロール剤と、製紙用具や製紙装置に接触させる外添型デポジットコントロール剤に大別される。内添型デポジットコントロール剤がパルプスラリー全量を処理するのに対して、外添型デポジットコントロール剤は任意の製紙用具または製紙装置の表面近傍のデポジットを選択的に処理することから、高いデポジット付着防止性が得られるうえ、薬剤使用量が少量で済み、パルプスラリー及び紙製品へ及ぼす悪影響がないなどの、多数のメリットが得られる。なお、本明細書において防止性は、抑制ないし防止する性能を意味する。
【0004】
外添型デポジットコントロール剤を用いたデポジットコントロール方法として、以下の方法が知られている。
(1)界面活性剤を外添することを特徴とする方法
(2)重合体を外添することを特徴とする方法
(3)界面活性剤と重合体を外添することを特徴とする方法
【0005】
外添型デポジットコントロール方法のうち、(1)界面活性剤を外添する方法としては、例えば、アルコキシポリオキシアルキレン脂肪酸エステルをフェルトに外添する方法が挙げられる(特許文献1を参照)。従来、デポジットの主成分は、ピッチと呼ばれる、パルプ原料である木材由来の脂肪酸などの低分子化合物であり、界面活性剤による洗浄除去が比較的容易であった。
しかし近年では、スティッキーと呼ばれる、古紙由来の高分子化合物を主成分とする疎水性のデポジットが増加傾向にある。特に粘着剤由来のアクリルゴムなどを主成分とするスティッキーは強粘着性であることから、界面活性剤による洗浄効果があまり期待できず、このような場合には、(2)重合体を外添する方法が有効である。
【0006】
(2)重合体を外添する方法としては、例えば、アクリルアミド単位を有する重合体を製紙用具・製紙装置に外添する方法が挙げられる(特許文献2を参照)。重合体は、デポジットのパルプ繊維への定着やデポジット表面の非粘着化などの効果により、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を防止する。
しかし近年では、例えばワイヤーのデザインが2重織や2.5重織から3重織へと移行しつつあること、フェルトの基布が多層構造化していることなど、製紙用具・製紙装置の構造が複雑化しており、抄造速度の高速化などとも相まって、製紙用具・製紙装置への外添型デポジットコントロール剤の接触が不均一となる傾向にある。特に重合体を単独で外添した場合、疎水性かつ構造が複雑な製紙用具・製紙装置に対する濡れ性が充分でないことから、局所的にデポジットが付着してしまい、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を防止する効果が充分でない。
【0007】
(3)重合体と界面活性剤とを外添する方法としては、例えば陽イオン性重合体と両性界面活性剤を製紙用具・製紙装置に外添する方法が挙げられる(特許文献3を参照)。
しかし、重合体による非粘着化効果を界面活性剤が阻害する傾向があるため、特にアクリルゴムなどを主成分とする粘着性のスティッキーが製紙用具・製紙装置へ付着するのを防止する効果は満足できるものではなく、更なる向上が求められていた。
【特許文献1】特開平5−78993号公報
【特許文献2】特開平11−81175号公報
【特許文献3】特開平7−126996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を充分に抑制ないし防止することができる外添型デポジットコントロール剤及びデポジットコントロール方法は開発されていないのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、デポジット、特にアクリルゴムなどを主成分とする粘着性物質(スティッキー)の付着防止性に優れ、また疎水性かつ構造が複雑な製紙用具・製紙装置に対する濡れ性が充分であり、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を充分に抑制ないし防止することができる外添型デポジットコントロール剤及びデポジットコントロール方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、下記の(a1)及び(a2)から選ばれる1種以上の重合体(A)を1〜30質量%含有し、下記の化合物(B)を1〜30質量%含有することを特徴とする。
【0011】
(a1)ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位70〜100モル%から構成され、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体。
(a2)アミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られ、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体。
【0012】
(B)下記の式(1)で表される化合物。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは炭素数7〜13の分岐一級アルコール残基、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、mはEOの平均付加モル数で4〜60、nはPOの平均付加モル数で0〜20、mとnとのモル比が100:0〜40:60である。)
【0015】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、重合体(A)が(a1)であり、(a1)がビニルアルコール単位及びビニルピロリドン単位から選ばれる1種以上の構成単位80〜90モル%から構成され、重量平均分子量が20,000〜300,000である重合体であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のデポジットコントロール方法は、本発明の外添型デポジットコントロール剤を含有する水溶液を、製紙用具または製紙装置の面積1000m2あたり、重合体(A)と化合物(B)との合計が0.02〜2gとなるように、製紙用具または製紙装置に外添することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、スティッキーなどのデポジットの付着防止性に優れ、また疎水性かつ構造が複雑な製紙用具・製紙装置に対する濡れ性が充分であるので、製紙用具・製紙装置へのデポジットの付着を充分に抑制ないし防止することができる。
【0018】
また、本発明のデポジットコントロール方法は、本発明の外添型デポジットコントロール剤の水溶液の所定量を製紙用具・製紙装置に外添するので、製紙用具・製紙装置に対して高いデポジット付着防止性が得られるうえ、薬剤使用量の低減によるコスト削減、パルプスラリー及び紙製品へ及ぼす悪影響が少ないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、下記の(a1)及び(a2)から選ばれる1種以上の重合体(A)(以下、(A)成分とも呼ぶ)を1〜30質量%含有し、下記の化合物(B)(以下、(B)成分とも呼ぶ)を1〜30質量%含有する。
【0020】
(a1)ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位70〜100モル%から構成され、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体(以下、(a1)成分とも呼ぶ)。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は、メタクリル又はアクリルを意味する。
(a2)アミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られ、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体(以下、(a2)成分とも呼ぶ)。
【0021】
(B)下記の式(1)で表される化合物(以下、(B)成分とも呼ぶ)。
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Rは炭素数7〜13の分岐一級アルコール残基、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、mはEOの平均付加モル数で4〜60、nはPOの平均付加モル数で0〜20、mとnとのモル比が100:0〜40:60である。)
【0024】
(A)成分
(A)成分のうち、まず(a1)成分について説明する。
(a1)成分は、ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位が70〜100モル%であり、好ましくは75〜95モル%であり、さらに好ましくは80〜90モル%である。ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位が70モル%未満の場合は、充分なデポジット付着防止性が得られない。
【0025】
(a1)成分は、単量体を重合し、必要に応じてさらに加水分解することにより得られる。具体的には、ビニルピロリドン単位や(メタ)アクリルアミド単位を構成単位とする重合体は、例えば(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することで得られる。また、ビニルアルコール単位を構成単位とする重合体は、例えば酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルを鹸化することで得られる。なお、重合や加水分解は既知の方法に従って行なうことができる。
【0026】
(a1)成分は、ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位に加えて、他の単量体由来の構成単位を30モル%以下の範囲で有していても良い。他の単量体としては、例えばスチレン、アルキル(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシアルキレン(メタ)アクリレート、オレフィン、(ポリ)オキシアルキレンアリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体;ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ビニルイミダゾリウム、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルアミンなどのアミン類、またはこれらアミン類を塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、ジエチル硫酸などで四級化した陽イオン性単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルスルホン酸、2−アクロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸、ヒドロキシプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸などの陰イオン性単量体またはその塩などが挙げられる。これら他の単量体は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
これらのうち、好ましくはスチレン、アルキル(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシアルキレン(メタ)アクリレート、オレフィン、(ポリ)オキシアルキレンアリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体;ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ビニルイミダゾリウム、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルアミンなどのアミン類、またはこれらアミン類を塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、ジエチル硫酸などで四級化した陽イオン性単量体であり、特に好ましくはスチレン、アルキル(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシアルキレン(メタ)アクリレート、オレフィン、(ポリ)オキシアルキレンアリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体である。
【0028】
また、(a1)成分は、その重量平均分子量が5,000〜1,000,000であり、好ましくは20,000〜300,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合は、充分なデポジット付着防止性が得られず、重量平均分子量が1,000,000を越える場合は、取扱いが困難となる。なお、(a1)成分の重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いて行なうことができる。
【0029】
(A)成分としては、(a1)成分が好ましく、さらに(a1)成分がビニルアルコール単位及びビニルピロリドン単位から選ばれる1種以上の構成単位80〜90モル%から構成され、かつ重量平均分子量が20,000〜300,000である重合体であることが好ましい。
【0030】
次に、(a2)成分について説明する。
(a2)成分は、アミンとエピハロヒドリンとを既知の方法により反応させることで得られる。アミンとエピハロヒドリンとの反応モル比は、30:70〜70:30が好ましく、40:60〜60:40がさらに好ましい。
【0031】
(a2)成分を得るために使用するアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、s−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジn−ブチルアミン、ジs−ブチルアミン、ジt−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、エチレンジアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルヘキシレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルN’,N’−ジヒドロキシエチルプロピレンジアミン、エチルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上を使用することができる。好ましくは炭素数1〜3のジアルキルアミンであり、具体的にはジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミンが挙げられ、更に好ましくはジメチルアミンである。アミンとエピハロヒドリンとを反応させるに際しては、上記のアミンに加えて、アンモニアなどを使用してもよい。
【0032】
(a2)成分を得るために使用するエピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上を使用することができる。好ましくはエピクロルヒドリンである。
【0033】
アミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られる(a2)成分としては、具体的にはジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジエチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジエチルアミノエチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミノプロピルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・エピブロモヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピブロモヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピブロモヒドリン重縮合物などが挙げられ、好ましくはジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物、更に好ましくはジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロルヒドリン重縮合物である。
【0034】
また、(a2)成分は、その重量平均分子量が5,000〜1,000,000であり、好ましくは20,000〜300,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合は、充分なデポジット付着防止性が得られず、重量平均分子量が1,000,000を越える場合は、取扱いが困難となる。なお、(a2)成分の重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いて行なうことができる。
【0035】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、(a1)及び(a2)から選ばれる1種以上の(A)成分を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、さらに好ましくは3〜10質量%含有する。外添型デポジットコントロール剤における(A)成分の含有量が1質量%未満の場合は、輸送コストが高くなることから経済的に不利であり、また(A)成分の含有量が30質量%を超える場合は、取扱いが困難となる。
【0036】
(B)成分
本発明の外添型デポジットコントロール剤に含まれる(B)成分は、式(1)中のRが炭素数7〜13の分岐一級アルコール残基であり、好ましくは炭素数8〜10の分岐一級アルコール残基であり、具体的にはイソオクチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、2−プロピルヘキシル基、2−エチルヘプチル基、イソデシル基、2−エチルオクチル基、2−ブチルヘキシル基、2−プロピルヘプチル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、2−メチルウンデシル基、イソトリデシル基、2−メチルドデシル基などが挙げられ、より好ましくはイソデシル基である。なお、(a1)成分のビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位が80モル%以上の場合は、分岐一級アルコール残基の炭素数が7〜10である(B)成分を選択するのが好ましい。
【0037】
(B)成分を示す式(1)中、EOはオキシエチレン基であり、mはEOの平均付加モル数で4〜60であり、好ましくは6〜50である。mが4未満の場合は、デポジットコントロール剤の原液外観が不良となり、mが60を超える場合は、充分な濡れ性が得られない。
【0038】
(B)成分を示す式(1)中、POはオキシプロピレン基であり、nはPOの平均付加モル数で0〜20であり、好ましくは0〜10である。nが20を超える場合は、デポジットコントロール剤の原液外観が不良となる。
【0039】
EOとPOとのモル比m:nは100:0〜40:60であり、好ましくは100:0〜70:30である。m:nが100:0〜40:60の範囲外である場合は、デポジットコントロール剤の原液外観が不良となる。なお、(B)成分中のEOとPOはブロック付加でもランダム付加でも、又はその混合のいずれで結合していてもよい。また、(B)成分は、1種単独または2種以上を使用することができる。
【0040】
(B)成分は、100ppm水溶液としたときの表面張力が60dyne/cm(25℃)以下であることが好ましく、50dyne/cm(25℃)以下であることが特に好ましい。なお、(B)成分の表面張力は、表面張力計を用いて測定することができる。
【0041】
(B)成分は、臨界ミセル濃度が100ppm(25℃)以上であることが好ましく、250ppm(25℃)以上であることが特に好ましい。なお、(B)成分の臨界ミセル濃度は、以下の方法によって求めることができる。(B)成分の濃度に対して表面張力をプロットすると、ある濃度以上で表面張力がほぼ一定値になる。そこで、高濃度域でほぼ一定値になっている部分に誤差が最小になるように直線を引き、また、低濃度域で表面張力が変化している部分にも同様に誤差が最小になるように直線を引く。これら直線の交点の濃度を、臨界ミセル濃度(ppm)とすることができる。
【0042】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、(B)成分を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、さらに好ましくは3〜10質量%含有する。外添型デポジットコントロール剤における(B)成分の含有量が1質量%未満の場合は、輸送コストが高くなることから経済的に不利であり、また(B)成分の含有量が30質量%を超える場合は、取扱いが困難となる。
【0043】
外添型デポジットコントロール剤
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、取扱いなどの観点から、典型的には水溶液などの液状の形態をとる液剤であり、例えば(A)成分と(B)成分とを同時又は異なるタイミングで水に混合し、溶解することにより調製することができる。溶解に使用する水は、本発明の効果を損なわない範囲で、アルコールなどの有機溶剤を含んでいても良い。
【0044】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、(A)成分及び(B)成分に加えて、必要に応じて他の重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料などを含有してもよい。
【0045】
本発明の外添型デポジットコントロール剤は、製紙用具・製紙装置に接触させることにより、製紙用具・製紙装置にデポジットが付着又は堆積するのを抑制ないし防止するものである。例えば、シャワー水などに外添型デポジットコントロール剤を添加して、製紙用具・製紙装置への散布、噴霧、浸漬などにより直接接触させることができる。
【0046】
本発明の外添型デポジットコントロール剤を外添する目的の製紙用具・製紙装置は、紙やパルプが直接または間接的に接触する用具や装置であり、典型的には、抄紙工程におけるワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートで用いられる用具や装置である。例えば、ワイヤー、フェルト、トランスファーベルト、シュープレス、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、フェルトロール、ピックアップロール、サクションロール、ペーパーロール、バッキングロール、リップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、カンバスなどが挙げられ、ワイヤーやフェルトに特に有効である。本発明の外添型デポジットコントロール剤を外添する抄紙機に制限はなく、例えば円網、長網、短網、コンビネーション、オントップ、ツインワイヤーなどが挙げられる。
【0047】
本発明の外添型デポジットコントロール剤を製紙用具・製紙装置に外添する方法としては、例えば抄紙機の稼動前または稼動中に、連続的にまたは間欠的に接触させる方法が挙げられるが、抄紙機の稼動中に連続的に接触させるのが好ましい。また、前記のように、本発明の外添型デポジットコントロール剤をシャワー水に添加して散布、噴霧、浸漬、接触させる方法が好ましいが、目的とする製紙用具・製紙装置以外のものに外添型デポジットコントロール剤を接触させることで、間接的に対象となる製紙用具・製紙装置に接触させても良い。
【0048】
本発明の外添型デポジットコントロール剤を添加するシャワー水などの水としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、井戸水など地下水、河川水または湖沼水などの表面水、工業用水などの新水、白水のいずれかまたはこれらを混合したものを使用することができるが、白水中の不純物と本発明の外添型デポジットコントロール剤との相互作用により充分なデポジットコントロール性が得られない場合がある点から、新水を使用するのが好ましい。
【0049】
本発明の外添型デポジットコントロール剤をシャワー水などに添加する場合の濃度は、例えば(A)成分と(B)成分の合計として0.1〜200ppmであり、好ましくは0.3〜100ppm、さらに好ましくは0.5〜50ppmである。濃度が上記範囲における下限値未満であれば、デポジットコントロール性が不充分となるおそれがあり、濃度が上記範囲における上限値を超える場合は、泡立ちが生じ易くなり、得られる紙の品質や操業性が低下するおそれがある。
【0050】
本発明の外添型デポジットコントロール剤を含有する水溶液(例えばシャワー水など)を製紙用具または製紙装置に外添するとき、製紙用具または製紙装置の面積1000m2あたり、(A)成分と(B)成分との合計が0.02〜2gとなるように、調整するのが好ましい。例えば、抄紙機のワイヤーやフェルトに外添型デポジットコントロール剤を外添するのであれば、抄紙機が100〜2000m/分(通常は500〜1500m/分)で湿紙を走行させているとすると、ワイヤーやフェルトの幅(湿紙が走行する方向に略直行する方向での長さであって、湿紙が接触する部分での長さ)1mあたり、(A)成分と(B)成分との合計が0.002〜4g/分となるようにワイヤーやフェルトに外添するのが好ましい。(A)成分と(B)成分との合計が上記範囲における下限値未満であれば、デポジットコントロール性が不充分となるおそれがあり、上記範囲における上限値を超える場合は、泡立ちが生じ易くなり、得られる紙の品質や操業性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明の外添型デポジットコントロール剤及びこれを用いたデポジットコントロール方法において、対象となるパルプの種類に制限はなく、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプなどの晒または未晒化学パルプ;砕木パルプやサーモメカニカルパルプなどの晒または未晒機械パルプ;新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙、雑古紙あるいは脱墨古紙などの古紙パルプ;マシン損紙、コート損紙などのブロークパルプが挙げられる。特に、スティッキーを多量に含有する古紙パルプを対象とすることが、本発明の効果をより顕著に発揮する点で好ましい。
【0052】
本発明の外添型デポジットコントロール剤及びこれを用いたデポジットコントロール方法は、酸性、中性及びアルカリ性条件下で行われる紙の製造工程に適用することができる。得られる紙の種類に制限はなく、例えば新聞用紙、上質紙やコート紙などの印刷用紙、PPC用紙や感熱紙原紙などの情報用紙、純白ロール紙や晒クラフト紙などの包装用紙、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙、食品容器原紙や塗工印刷用原紙などの雑種紙、ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙、白板紙や色板紙などの紙器用板紙、石こうボードや紙管原紙などの雑板紙などが挙げられる。
【0053】
本発明の外添型デポジットコントロール剤及びこれを用いたデポジットコントロール方法においては、他の添加剤を併用することもできる。例えば、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、柔軟剤、サイズ剤、染料、硫酸バンド、填料、他のデポジットコントロール剤、潤滑剤、剥離剤、洗浄剤、スライムコントロール剤、スケールコントロール剤、消泡剤、酸、アルカリなどの添加剤と併用することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例及び比較例で用いた(a1)成分1〜9を表1に、(a2)成分1〜4を表2に、(B)成分1〜12を表3に示す。
【0055】
(実施例1)
(1)デポジットコントロール剤の調製
(a1)成分1及び(B)成分1をイオン交換水に希釈混合し、表4に示すデポジットコントロール剤を得た。
【0056】
(実施例2〜11及び比較例1〜11)
表1及び表2に示す重合体及び表3に示す化合物を用いて、実施例1と同様に実施例2〜11及び比較例1〜11のデポジットコントロール剤を調製した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
各デポジットコントロール剤の評価項目と評価方法を以下に示す。実施例1〜11の評価結果を表4に、比較例1〜11の評価結果を表5に示す。
【0061】
(2)デポジット付着防止性
(イ)擬似デポジット溶液の調製
中しん原紙を抄造する抄紙機のプレスサクションボックスに付着した異物について、クロロホルムで抽出を行った。得られたクロロホルム抽出物溶液を濾過後、エバポレーターで濃縮した。クロロホルム抽出物は3g得られ、アクリルゴム、スチレン、ブタジエンなどが検出された。クロロホルム抽出物に50gのクロロホルムを加え溶解し、50gのエタノールを加え、激しく振とうしたものを擬似デポジット溶液として使用した。
【0062】
(ロ)デポジット付着防止性試験
ステンレス製ワイヤーを鋏で7cm×21cmの長方形に切り取り、短辺同士をステープラーでつなぎ合わせて高さ7cmの円筒状のテストピースを作製した。テストピースを105℃にて1時間乾燥後、デシケーター中で放冷し、秤量した(質量i)。500mLビーカー中に濾過水460gを入れ、恒温水槽中で40℃に昇温し、テストピースを入れた。回転速度500rpmで攪拌を開始し、直ちにデポジットコントロール剤138mg及び擬似デポジット溶液2gを添加し、30分攪拌を行った。攪拌終了後、テストピースを取り出し、水を切った後、105℃にて1時間乾燥させた。デシケーター内で放冷し、質量を測定した(質量ii)。質量ii−質量iがデポジット付着量となる。デポジット付着防止率を下式に従い算出した。
【0063】
デポジット付着防止率(質量%):
{(薬剤を添加しない場合のデポジット付着量−薬剤を添加した場合のデポジット付着量)/薬剤を添加しない場合のデポジット付着量}×100
【0064】
上記のデポジット付着防止率の値に基づき、デポジット付着防止性を以下の基準で評価した。
【0065】
◎:デポジット付着防止率が60%以上である。
○:デポジット付着防止率が40%以上60%未満である。
△:デポジット付着防止率が20%以上40%未満である。
×:デポジット付着防止率が20%未満である。
【0066】
(3)濡れ性
ナイロン6,6製の2mm×30mm×90mmの平板をテストピースとした。300mLビーカー中に濾過水300gを入れ、デポジットコントロール剤300mgを添加し、30分攪拌を行い、デポジットコントロール剤テスト水溶液を調製した。テストピースに対するデポジットコントロール剤テスト水溶液の接触角を接触角計を用いて25℃の恒温室で測定した。上記の接触角の値に基づき、濡れ性を以下の基準で評価した。なお、テストピースに対する純水の接触角は71°であった。
【0067】
◎:接触角が60°以下である。
○:接触角が60°を超え以上65°以下である。
△:接触角が65°を超え以上70°以下である。
×:接触角が70°を超える。
【0068】
(4)原液外観
デポジットコントロール剤を調製した直後の外観を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:透明である。
×:濁りがみられる。
【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
本発明の外添型デポジットコントロール剤に相当する実施例1〜11は、デポジット付着防止性が良好であった。特に、(A)成分として、(a1)成分を用いた実施例1〜8の方が(a2)成分を用いた実施例9〜11よりもデポジット付着防止性に優れる傾向がある。また、実施例1〜8のうち、(a1)成分がビニルアルコール単位及びビニルピロリドン単位から選ばれる1種以上の構成単位80〜90モル%から構成され、重量平均分子量が20,000〜300,000である実施例1,4,6は、この条件から外れる実施例2,3,5,7,8よりもデポジット付着防止性に優れる傾向がある。さらに、ビニルアルコール単位が80モル%以上である(a1)成分2を用いた実施例2,3においては、分岐一級アルコール残基の炭素数が10である(B)成分5を用いた実施例2の方が分岐一級アルコール残基の炭素数が13である(B)成分7を用いた実施例3よりもデポジット付着防止性に優れる傾向がある。
【0072】
これに対して比較例1は(a1)成分のビニルピロリドン単位が70モル%未満であるため、デポジット付着防止性が不良である。比較例2は(a2)成分の重量平均分子量が5,000未満であるため、デポジット付着防止性が不良である。比較例3は(a1)成分がビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位、(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる構成単位を含有していないため、デポジット付着防止性が不良である。比較例4は(B)成分のRが直鎖一級アルコール残基であるため、デポジット付着防止性が不良である。比較例5は(B)成分のRが二級アルコール残基であるため、デポジット付着防止性が不良である。比較例6は(B)成分のmが4未満であるため、原液外観が不良である。比較例7は(B)成分のmとnとのモル比が100:0〜40:60の範囲外であるため、原液外観が不良である。比較例8は(B)成分のRの炭素数が13を超えるため、デポジット付着防止性が不良である。比較例9は(B)成分のRが直鎖一級アルコール残基であるうえ、デポジットコントロール剤における含有量が1質量%未満であるため、デポジット付着防止性及び濡れ性が不良である。比較例10は(B)成分を含有しないため、濡れ性が不良である。比較例11は(A)成分を含有しないため、デポジット付着防止性が不良である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a1)及び(a2)から選ばれる1種以上の重合体(A)を1〜30質量%含有し、下記の化合物(B)を1〜30質量%含有することを特徴とする外添型デポジットコントロール剤。
(a1)ビニルアルコール単位、ビニルピロリドン単位及び(メタ)アクリルアミド単位から選ばれる1種以上の構成単位70〜100モル%から構成され、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体。
(a2)アミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られ、重量平均分子量が5,000〜1,000,000である重合体。
(B)下記の式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数7〜13の分岐一級アルコール残基、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、mはEOの平均付加モル数で4〜60、nはPOの平均付加モル数で0〜20、mとnとのモル比が100:0〜40:60である。)
【請求項2】
重合体(A)が(a1)であり、(a1)がビニルアルコール単位及びビニルピロリドン単位から選ばれる1種以上の構成単位80〜90モル%から構成され、重量平均分子量が20,000〜300,000である重合体であることを特徴とする請求項1に記載の外添型デポジットコントロール剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の外添型デポジットコントロール剤を含有する水溶液を、製紙用具または製紙装置の面積1000m2あたり、重合体(A)と化合物(B)との合計が0.02〜2gとなるように、製紙用具または製紙装置に外添することを特徴とするデポジットコントロール方法。

【公開番号】特開2010−138515(P2010−138515A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315113(P2008−315113)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(591247868)ニチユソリューション株式会社 (6)
【Fターム(参考)】