説明

外燃機関

【課題】熱損失の一層の低減を図る。
【解決手段】作動媒体13が液体状態で流動可能に封入された管状の容器10と、容器10の一端側に形成され、容器10の外部から供給された熱で作動媒体13を加熱して蒸発させる加熱部15と、容器10のうち加熱部15よりも他端側に形成され、加熱部15で発生した作動媒体13の蒸気を冷却して凝縮させる冷却部19と、容器10の他端部に連通し、作動媒体13の蒸発と凝縮に伴う作動媒体13の体積変動によって生じる作動媒体13の液体部分の変位を機械的エネルギに変換して出力する出力部11とを備え、加熱部15内には、作動媒体13の加熱を促進する伝熱部材16が配置され、伝熱部材16内には、作動媒体13が流通可能な流路24が多数個形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動媒体の蒸発と凝縮によって作動媒体の液体部分を変位させ、作動媒体の液体部分の変位を機械的エネルギに変換して出力する外燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の外燃機関は、液体ピストン蒸気エンジンとも呼ばれ、管状の容器内に作動媒体を液体状態で流動可能に封入し、容器の一端部に形成された加熱部にて液体状態の作動媒体の一部を加熱して蒸発させ、容器の中間部に形成された冷却部にて作動媒体の蒸気を冷却して凝縮させ、この作動媒体の蒸発と凝縮とを交互に繰り返すことによって作動媒体の液相部分を周期的に変位(いわゆる自励振動)させ、この作動媒体の液相部分の自励振動を出力部にて機械的エネルギとして取り出すように構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1の従来技術では、加熱部において作動媒体が沸騰することなく冷却部側へ移動すると熱損失が発生してしまうことに鑑みて、図10(a)に示すように、加熱部15の内壁面に細溝50を設けている。
【0004】
すなわち、この細溝50による毛細管現象で、加熱部15の内壁面近傍だけに作動媒体13を導入し、加熱部15の内壁面近傍だけで作動媒体13を沸騰させることによって、温度勾配の影響を排除して作動媒体13を確実に沸騰させ、熱損失を低減している。
【特許文献1】特開2005−330883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の詳細な検討によると、上記従来技術では、図10(b)に示すように、細溝50が閉断面形状になっておらず、管状の容器の中心側に向かって開放されているので、沸騰した蒸気がその周囲の沸騰していない作動媒体13を細溝50の外に飛ばしてしまい、熱損失につながっていることがわかった。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、熱損失の一層の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、作動媒体(13)が液体状態で 流動可能に封入された管状の容器(10)と、
容器(10)の一端側に形成され、容器(10)の外部から供給された熱で作動媒体(13)を加熱して蒸発させる加熱部(15)と、
容器(10)のうち加熱部(15)よりも他端側に形成され、加熱部(15)で発生した作動媒体(13)の蒸気を冷却して凝縮させる冷却部(19)と、
容器(10)の他端部に連通し、作動媒体(13)の蒸発と凝縮に伴う作動媒体(13)の体積変動によって生じる作動媒体(13)の液体部分の変位を機械的エネルギに変換して出力する出力部(11)とを備え、
加熱部(15)内には、作動媒体(13)の加熱を促進する伝熱部材(16)が配置され、
伝熱部材(16)内には、作動媒体(13)が流通可能な流路(24)が多数個形成されていることを特徴とする。
【0008】
これによると、加熱部(15)に導入された液体状態の作動媒体(13)が多数個の流路(24)内で加熱され沸騰するので、温度勾配の影響を排除して作動媒体(13)を確実に沸騰させることができる。
【0009】
しかも、流路(24)が伝熱部材(16)内に形成されているので、流路(24)内で沸騰した作動媒体(13)の蒸気がその周囲の液相状態の作動媒体(13)を飛ばしてしまうことを防止できる。このため、上記従来技術に比べて熱損失を一層低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の外燃機関において、加熱部(15)に対して冷却部(19)と反対側には、加熱部(15)で発生した作動媒体(13)の蒸気を溜める蒸気溜め部(17)が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の外燃機関において、伝熱部材(16)は多孔質体であり、
流路(24)は、多孔質体(16)の内部に形成された細孔で構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の外燃機関において、多孔質体(16)は焼結金属であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の外燃機関において、焼結金属は、球状の金属粒子(25、30)同士の接合により形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の外燃機関では、請求項5に記載の外燃機関において、金属粒子(25、30)同士の接合は面接合になっており、
金属粒子(25、30)同士の接合面の直径(dj)は、金属粒子(25、30)の直径(d)の10%以上、50%以下になっていることを特徴とする。
【0015】
これにより、伝熱部材(16)における作動媒体(13)の流通性と伝熱性能とを両立できる。
【0016】
なお、ここでいう金属粒子(25、30)の直径(d)とは、金属粒子(25、30)のうち面接合することなく本来の球形状を有している部位で測った直径を意味するものである。
【0017】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の外燃機関において、伝熱部材(16)のうち加熱部(15)の内壁面との接触部位から加熱部(15)の内壁面に対して最も離れた部位までの寸法を金属粒子(25、30)の積層厚み(L)としたとき、
積層厚み(L)が、
【0018】
【数1】

【0019】
の関係を満たしていることを特徴とする。
【0020】
但し、
L :積層厚み
λ :前記金属粒子(25、30)の熱伝導率
T1:前記加熱部(15)の内壁面の温度
T3:前記冷却部(19)の内壁面の温度
η :前記伝熱部材(16)の空隙率
fg:潜熱
ε :前記作動媒体(13)の液体部分の変位の1周期のうち前記加熱部(15)内に液相状態の前記作動媒体(13)が入っている時間の割合
f :駆動周波数
これにより、流路(24)内の液相状態の作動媒体(13)を良好に蒸発させることができ、液体ピストン蒸気エンジンを高効率化できる(後述の図4を参照)。
【0021】
請求項8に記載の発明では、請求項5ないし7のいずれか1つに記載の外燃機関において、金属粒子(25)が銅で形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明では、請求項5ないし7のいずれか1つに記載の外燃機関において、金属粒子(30)は、金属で形成された基粒子(30a)と、基粒子(30a)よりも靭性の高い金属にて基粒子(30a)の表面を覆うように形成された保護層(30b)とを有することを特徴とする。
【0023】
これにより、作動媒体(13)の沸騰による金属粒子(30)のエロージョンを保護層(30b)によって良好に防止できる。
【0024】
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の外燃機関において、基粒子(30a)を形成する金属が銅であり、
保護層(30b)を形成する金属がニッケルであることを特徴とする。
【0025】
請求項11に記載の発明では、請求項1または2に記載の外燃機関において、伝熱部材(16)は、円柱状の伝熱材(31)を多数個平行配置することにより形成されており、
流路(24)は、伝熱材(31)同士の間に形成された細長形状の空間で構成されていることを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明では、請求項1ないし11のいずれか1つに記載の外燃機関において、加熱部(15)および冷却部(19)はともに、断面円形に形成されており、
加熱部(15)の内径は、冷却部(19)の内径よりも小さく設定されており、
容器(10)のうち加熱部(15)と冷却部(19)との間の部位は、内径が加熱部(15)から冷却部(19)に向かうにつれて徐々に大きくなるテーパ形状を有していることを特徴とする。
【0027】
これによると、加熱部(15)で蒸発した作動媒体(13)の蒸気が作動媒体(13)の液面(13a)を突き抜けることを防止できるので、作動媒体(13)の液面(13a)を良好に押し下げることができ、ひいては出力および効率を向上できる。
【0028】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図4に基づいて説明する。本実施形態は、本発明による外燃機関(液体ピストン蒸気エンジン)を、車両に搭載される発電装置に適用したものである。
【0030】
図1は本実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの概略構成を表す断面図であり、図1中の上下の矢印は液体ピストン蒸気エンジンの設置状態における上下方向を示している。
【0031】
本実施形態による液体ピストン蒸気エンジンは容器10と、出力部をなす発電機11とを有している。発電機11は、永久磁石が埋設された可動子(図示せず)をケーシング12内に収納しており、この可動子が振動変位することによって起電力を発生する。
【0032】
容器10は、作動媒体(本例では水)13が液体状態で流動可能に封入された円管状の圧力容器であり、中間部が下方側に位置し、両端部が上方に向かって延びる略U字状に形成されている。本例では、容器10をステンレスで形成している。
【0033】
発電機11は、略U字状の容器10の一端部に配置されており、容器10の他端部には、高温流体(本例では排気ガス)を加熱源として作動媒体13を加熱する加熱器14が配置されている。加熱器14は、熱伝導性に優れた材質(本例では、銅)で形成されている。
【0034】
加熱器14は、容器10の他端部を上方側から塞ぐ有底円筒状(コップ状)に形成されている。本例では、容器10の他端部を加熱器14内の中間部まで挿入しているが、容器10の他端部を加熱器14内の最奥部まで挿入するようにしてもよいし、容器10の他端部を加熱器14の開口端部に突き合わせて接続するようにしてもよい。
【0035】
加熱器14の内側に形成される空間のうち下方側の空間は、液体状態の作動媒体13を加熱して蒸発させる加熱部15を構成している。一方、加熱器14の内側に形成される空間のうち加熱部15の上方側に位置する空間は、作動媒体13の蒸気を溜める蒸気溜め部17を構成している。
【0036】
なお、加熱器14は、一体成形により形成してもよいし、複数個の分割体に分割して成形した後にこの複数個の分割体をネジ等の締結手段によって一体に締結することで形成してもよい。
【0037】
この加熱部15には、作動媒体13の加熱を促進する伝熱部材16が配置されている。この伝熱部材16の詳細は後述する。
【0038】
容器10のうち加熱器14よりも下方側に位置する部位の外周面には、車両のエンジン(内燃機関)を冷却する冷却水が循環する冷却器18が熱伝導可能に接触配置されている。容器10の内部空間のうち冷却器18の内側に位置する空間は、加熱部15で蒸発した作動媒体13の蒸気を冷却して凝縮させる冷却部19を構成している。
【0039】
発電機11のケーシング12内には、作動媒体13の液体部分から圧力を受けて変位するピストン20がシリンダ部21に摺動可能に配置されている。なお、ピストン20はシャフト22に連結されており、シャフト22のうちピストン20と反対側の端部には、一旦押し出されたピストン20を押し戻すように弾性力を発生させるコイルばね23が設けられている。なお、シャフト22には上述の可動子(図示せず)が連結され、シャフト22が振動変位することによって可動子も振動変位するようになっている。
【0040】
図2は図1のA部拡大図である。上述の伝熱部材16は、容器10の断面全体にわたって配置され、容器10の内壁面に周知の接合手段によって接合されている。そして、伝熱部材16内には、作動媒体13が流通可能な微細な流路24が多数個形成されている。
【0041】
本例では、伝熱部材16を焼結金属からなる多孔質体で形成し、この多孔質体16の内部に形成された細孔によって流路24を構成している。
【0042】
より具体的には、多孔質体16は、伝熱性能が高い金属(本例では、銅)によって球状に形成された金属粒子25同士をある程度潰して面接合させた構造になっている。球状の粒子25は、粒度分布が小さい均質な粒子である。本例では、この球状の粒子25を六方最密構造に充填している。
【0043】
なお、図2では、図示の都合上、球状の粒子25同士が点接合しているように示されているが、実際には、図3に示すように、球状の粒子25同士がある程度潰れた状態で面接合している。
【0044】
次に、上記構成における作動を説明する。加熱器14および冷却器18を動作させると、まず加熱器14により加熱部15内の液相状態の作動媒体13が加熱されて蒸発し、蒸気溜め部17内および加熱部15内に高温・高圧の作動媒体13の蒸気が蓄積されて、作動媒体13の液面13aを押し下げる。すると、作動媒体13の液体部分は、略U字状の容器10内をピストン20側に向かって変位して、ピストン20を押し上げる。このとき、コイルばね23は弾性圧縮される。
【0045】
次に、作動媒体13の液面13aが冷却部19まで下がり、冷却部19内に作動媒体13の蒸気が進入すると、この作動媒体13の蒸気が冷却器18により冷却されて凝縮するため、作動媒体13の液面13aを押し下げる力が消滅する。
【0046】
すると、作動媒体13の蒸気の膨張によって一旦押し上げられた発電機11側のピストン20はコイルばね23の弾性復元力により下降し、作動媒体13の液体部分が略U字状の容器10内を加熱部15側に向かって変位する。そして、容器10内の作動媒体13の液面13aが加熱部15まで上昇する。
【0047】
こうした動作は、加熱器14および冷却器18の動作を停止させるまで繰り返し実行され、その間、容器10内の作動媒体13は周期的に変位(いわゆる自励振動)して、発電機11の可動子13を上下動させることになる。
【0048】
つまり、作動媒体13の蒸気の発生と凝縮とが交互に繰り返し行われることによって、作動媒体13の液体部分が液体ピストンとして自励振動し、この液体ピストンの自励振動変位が出力として取り出される。
【0049】
本実施形態によると、微細な流路24を有する伝熱部材16を加熱部15の断面全体にわたって配置しているので、加熱部15に導入された液体状態の作動媒体13が微細な流路24内で加熱され沸騰する。このため、温度勾配の影響を排除して作動媒体13を確実に沸騰させることができる。
【0050】
しかも、微細な流路24は、球状の粒子25に囲まれて形成されているので、流路24内で沸騰した作動媒体13の蒸気が周囲の液相状態の作動媒体13を飛ばしてしまうことを防止できる。このため、上記従来技術に比べて熱損失を一層低減することができる。
【0051】
次に、伝熱部材16の一設計例を示す。まず、球状の粒子25の接合面の直径dj(図3)について説明する。接合面の直径djを小さくした場合、すなわち球状の粒子25同士の潰し量を小さくした場合には、流路24の流路面積が大きくなるので作動媒体13の流通性が良好である反面、球状の粒子25間の伝熱面積(接触面積)が小さくなるので伝熱性能が劣る。
【0052】
これとは逆に、接合面の直径djを大きくした場合、すなわち球状の粒子25同士の潰し量を大きくした場合には、球状の粒子25間の伝熱面積が大きくなるので伝熱性能が良好である反面、流路24の流路面積が小さくなるので作動媒体13の流通性が劣る。
【0053】
そこで、作動媒体13の流通性と伝熱性能とを両立するために、接合面の直径djを粒子25の直径dの10%以上、50%以下にするのが望ましい。より望ましくは、接合面の直径djを粒子25の直径dの1/4に設定するのがよい(dj=d/4)。
【0054】
なお、ここでいう粒子25の直径dとは、粒子25のうち、面接合することなく本来の球形状を有している部位で測った直径を意味するものである。
【0055】
次に、球状の粒子25の積層厚みL(図2)について説明する。ここで、球状の粒子25の積層厚みLとは、伝熱部材16のうち加熱部15の内壁面との接触部位(本例では、伝熱部材16の最外周部)から加熱部15の内壁面に対して最も離れた部位(本例では、容器10の中心線O上に位置する部位。以下、この部位を伝熱部材16の最低温部という。)までの寸法のことを意味するものである。
【0056】
因みに、加熱部15における容器10の内壁面から加熱部15の中心線Oまでの粒子25の積層個数をnとすると、粒子25の積層厚みLは次の数2のように近似することができる。
【0057】
(数2)
L=nd
加熱部15の内壁面の温度をT1、伝熱部材16の最低温部の温度をT2としたとき、球状の粒子25の伝熱量Qinは、次の数3で表される。
【0058】
【数3】

【0059】
ここで、λは粒子25の熱伝導率、Sは球状の粒子25間の伝熱面積(接触面積)である。本例では、dj=d/4としているので、球状の粒子25間の伝熱面積Sは次の数4で表される。
【0060】
【数4】

【0061】
一方、1周期中に球状の粒子25から流路24内の作動媒体13に与えられる熱量Qoutは、次の数5で表される。
【0062】
(数5)
Qout=Vhfgεf
ここで、Vは流路24内の作動媒体13の体積であり、hfgは潜熱であり、εは1周期のうち加熱部15内に液相状態の作動媒体13が入っている時間の割合であり、fは液体ピストン蒸気エンジンの駆動周波数である。
【0063】
このうち、流路24内の作動媒体13の体積Vは、次の数6で表される。
【0064】
【数6】

【0065】
ここで、ηは伝熱部材16の空隙率である。
【0066】
そして、次の数7に示すように、上述の伝熱量Qinと熱量Qoutは同じであるから、数2〜数7により次の数8が導かれる。
【0067】
(数7)
Qin=Qout
【0068】
【数8】

【0069】
図4(a)は、この数8をグラフに表したものであり、粒子25の積層厚みLが大きいほど、伝熱部材16の最低温部の温度T2が低下することがわかる。なお、図4(b)は、伝熱部材16の最低温部の温度T2と液体ピストン蒸気エンジンの効率との関係を示すグラフである。ここで、T3は冷却部19の内壁面の温度である。
【0070】
図4(b)からわかるように、伝熱部材16の最低温部の温度T2は、加熱部15の内壁面の温度T1と冷却部19の内壁面の温度温度T3の平均値以上であるのが望ましい。すなわち、伝熱部材16の最低温部の温度T2は、次の数9を満たすのが望ましい。
【0071】
【数9】

【0072】
よって、数8、数9により、次の数10が導かれる。
【0073】
【数10】

【0074】
したがって、粒子25の積層厚みLがこの数10を満たすように伝熱部材16を設計すれば、流路24内の液相状態の作動媒体13を良好に蒸発させることができ、液体ピストン蒸気エンジンを高効率化できる。
【0075】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、加熱部15の内径と冷却部19の内径とが同一になっているが、本第2実施形態では、図5に示すように、加熱部15の内径が冷却部19の内径よりも小さくなっており、容器10のうち加熱部15と冷却部19との間の部位がテーパー形状に形成されて内径が徐々に変化している。
【0076】
ここで、冷却部19の内径の設定については、特開2005−330884号公報に記載されているように、冷却部19の内半径を次の数11で表される低圧時熱浸透深さδと同一寸法又は略同一寸法に設定することで、冷却部19にて作動媒体13の蒸気を適切に凝縮させることができる。
【0077】
【数11】

【0078】
ここで、ωは、作動媒体13の自励振動の角周波数であり、aは、低圧時における作動媒体13の温度伝導率である。
【0079】
このように、加熱部15の内径の最適寸法と冷却部19の内径の最適寸法とが異なるため、本実施形態のように、加熱部15の内径が冷却部19の内径よりも小さくなる場合が起こりうるのである。
【0080】
図6は比較例であり、この比較例では、本実施形態と同様に加熱部15の内径を冷却部19の内径よりも小さくしているが、容器10のうち加熱部15と冷却部19との間の部位が階段状に形成されており、加熱部15と冷却部19との間で内径が容器10の急激に変化している点が本実施形態と異なる。
【0081】
この比較例によると、図6に示すように、加熱部15で蒸発した作動媒体13の蒸気が容器10の段差部で作動媒体13の液面13aを突き抜けてしまい、作動媒体13の液面13aをうまく押し下げることができない。その結果、液体ピストン蒸気エンジンの出力および効率が低下してしまう。
【0082】
これに対して、本実施形態では、容器10のうち加熱部15と冷却部19との間の部位がテーパー形状に形成されて内径が徐々に変化しているので、加熱部15で蒸発した作動媒体13の蒸気が作動媒体13の液面13aを突き抜けることなく、作動媒体13の液面13aを良好に押し下げることができる。その結果、液体ピストン蒸気エンジンの出力および効率を向上できる。
【0083】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、加熱部15が下方側から上方側に向かって延びているが、本第3実施形態では、図7に示すように、加熱部15が水平方向に向かって円形状に拡がっている。また、蒸気溜め部17は、加熱部15の上方側にて水平方向に拡がる円形状を有しており、加熱部15および蒸気溜め部17は、連通路20を介して互いに連通している。
【0084】
本実施形態では、伝熱部材16の上下両端部から上下方向中心部までの寸法が、上述した粒子25の積層厚みLになる。本実施形態においても、上記第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
さらに、本実施形態では、作動媒体13の蒸気が冷却器18により冷却されて凝縮して作動媒体13の液面14aが上昇すると、作動媒体13の液体部分が加熱部15の上壁面に衝突する。これにより、加熱部15内の作動媒体13が撹拌されて乱流が生じるので、加熱部15内の温度境界層を破壊することができ、ひいては、加熱器13の加熱効率を一層向上できる。
【0086】
(第4実施形態)
本第4実施形態は、上記各実施形態に対して、作動媒体13の沸騰によるエロージョン対策を施したものである。
【0087】
すなわち、上記各実施形態では、比較的脆い銅のみで形成された球状の粒子25によって伝熱部材16を形成しているので、沸騰した作動媒体13によって粒子25の表面がむしり取られるという、いわゆるエロージョンと呼ばれる現象が発生する。
【0088】
そこで、本実施形態では、図8に示すように、銅で形成された球状の基粒子30aの表面に、銅よりも靭性の高いニッケルなどの金属で形成された保護層30bをメッキなどの手段で覆うことで金属粒子30を形成し、この金属粒子30を焼結することで伝熱部材16を形成している。
【0089】
これにより、保護層30bが基粒子30aを保護するので、エロージョンを良好に防止できる。
【0090】
(第5実施形態)
上記各実施形態では、伝熱部材16を焼結金属からなる多孔質体で形成し、この多孔質体16の内部に形成された細孔によって流路24を構成しているが、本第5実施形態では、図9に示すように、円柱状の伝熱材31を多数個平行配置することにより伝熱部材16を形成し、伝熱材31同士の間に形成された細長形状の空間によって流路24を構成している。
【0091】
本実施形態においても、上記各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、容器10の全体が一本の管状に形成された、いわゆる単気筒型の液体ピストン蒸気エンジンに本発明を適用した例を示しているが、容器10のうち加熱器14および冷却器18側の部分が複数本の分岐管で構成され、容器10のうち残余の部分が一本の集合管で構成された、いわゆる複気筒型の液体ピストン蒸気エンジンに本発明を適用可能である。
【0093】
また、上記各実施形態では、容器10を1つのみ備える液体ピストン蒸気エンジンに本発明を適用した例を示しているが、容器10を複数個備え、複数個の容器10を1つの出力部で連結した液体ピストン蒸気エンジンに本発明を適用可能である。
【0094】
また、上記各実施形態では、本発明を発電装置の駆動源に適用した場合について説明したが、本発明の外燃機関は、発電装置以外の駆動源としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの概要を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】伝熱部材の拡大図である。
【図4】(a)は粒子の積層厚さと伝熱部材の最低温部の温度との関係を示すグラフであり、(b)は伝熱部材の最低温部の温度とエンジン効率との関係を示すグラフである。
【図5】第2実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの概要を示す断面図である。
【図6】比較例による液体ピストン蒸気エンジンの要部断面図である。
【図7】第3実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの要部断面図である。
【図8】第4実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの要部断面図である。
【図9】第5実施形態による液体ピストン蒸気エンジンの要部斜視図である。
【図10】(a)は従来技術による液体ピストン蒸気エンジンの加熱部の内部構成を示す斜視図であり、(b)は(a)の要部断面図である。
【符号の説明】
【0096】
10 容器
15 加熱部
16 伝熱部材
24 流路
25 金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動媒体(13)が液体状態で流動可能に封入された管状の容器(10)と、
前記容器(10)の一端側に形成され、前記容器(10)の外部から供給された熱で前記作動媒体(13)を加熱して蒸発させる加熱部(15)と、
前記容器(10)のうち前記加熱部(15)よりも他端側に形成され、前記加熱部(15)で発生した前記作動媒体(13)の蒸気を冷却して凝縮させる冷却部(19)と、
前記容器(10)の他端部に連通し、前記作動媒体(13)の蒸発と凝縮に伴う前記作動媒体(13)の体積変動によって生じる前記作動媒体(13)の液体部分の変位を機械的エネルギに変換して出力する出力部(11)とを備え、
前記加熱部(15)内には、前記作動媒体(13)の加熱を促進する伝熱部材(16)が配置され、
前記伝熱部材(16)内には、前記作動媒体(13)が流通可能な流路(24)が多数個形成されていることを特徴とする外燃機関。
【請求項2】
前記加熱部(15)に対して前記冷却部(19)と反対側には、前記加熱部(15)で発生した前記作動媒体(13)の蒸気を溜める蒸気溜め部(17)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の外燃機関。
【請求項3】
前記伝熱部材(16)は多孔質体であり、
前記流路(24)は、前記多孔質体(16)の内部に形成された細孔で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の外燃機関。
【請求項4】
前記多孔質体(16)は焼結金属であることを特徴とする請求項3に記載の外燃機関。
【請求項5】
前記焼結金属は、球状の金属粒子(25、30)同士の接合により形成されていることを特徴とする請求項4に記載の外燃機関。
【請求項6】
前記金属粒子(25、30)同士の接合は面接合になっており、
前記金属粒子(25、30)同士の接合面の直径(dj)は、前記金属粒子(25、30)の直径(d)の10%以上、50%以下になっていることを特徴とする請求項5に記載の外燃機関。
【請求項7】
前記伝熱部材(16)のうち前記加熱部(15)の内壁面との接触部位から前記加熱部(15)の内壁面に対して最も離れた部位までの寸法を前記金属粒子(25、30)の積層厚み(L)としたとき、
前記積層厚み(L)が、
【数1】

の関係を満たしていることを特徴とする請求項6に記載の外燃機関。
但し、
L :積層厚み
λ :前記金属粒子(25、30)の熱伝導率
T1:前記加熱部(15)の内壁面の温度
T3:前記冷却部(19)の内壁面の温度
η :前記伝熱部材(16)の空隙率
fg:潜熱
ε :前記作動媒体(13)の液体部分の変位の1周期のうち前記加熱部(15)内に液相状態の前記作動媒体(13)が入っている時間の割合
f :駆動周波数
【請求項8】
前記金属粒子(25)が銅で形成されていることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1つに記載の外燃機関。
【請求項9】
前記金属粒子(30)は、金属で形成された基粒子(30a)と、前記基粒子(30a)よりも靭性の高い金属にて前記基粒子(30a)の表面を覆うように形成された保護層(30b)とを有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1つに記載の外燃機関。
【請求項10】
前記基粒子(30a)を形成する金属が銅であり、
前記保護層(30b)を形成する金属がニッケルであることを特徴とする請求項9に記載の外燃機関。
【請求項11】
前記伝熱部材(16)は、円柱状の伝熱材(31)を多数個平行配置することにより形成されており、
前記流路(24)は、前記伝熱材(31)同士の間に形成された細長形状の空間で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の外燃機関。
【請求項12】
前記加熱部(15)および前記冷却部(19)はともに、断面円形に形成されており、
前記加熱部(15)の内径は、前記冷却部(19)の内径よりも小さく設定されており、
前記容器(10)のうち前記加熱部(15)と前記冷却部(19)との間の部位は、内径が前記加熱部(15)から前記冷却部(19)に向かうにつれて徐々に大きくなるテーパ形状を有していることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の外燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−167915(P2009−167915A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7263(P2008−7263)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】