説明

外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】誘導加熱あるいは通電加熱等の昇温速度の大きな合金化加熱装置で発生するめっき欠陥を、合金化加熱パタンを制御することによって抑制し、解決する外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき設備を用いて、該鋼板を大気に接触させることなく焼鈍した後、溶融亜鉛めっきを施し、次いで誘導加熱設備または通電加熱設備のいずれかあるいは両者を用いて加熱合金化する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、ワイピング後に開始する合金化加熱を起点とし、加熱を止める時点を終点とした鋼板加熱時間のうち、加熱開始から(100[Al]−11)秒以内は530℃以下にすることで、めっき欠陥のない、良好な外観を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る。ただし[Al]は浴中のAl濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は耐食性、塗装密着性等に優れ、建材、家電、自動車用鋼板として幅広く使用されている。
【0003】
近年、防錆を目的とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板の自動車用材料への使用頻度は非常に大きくなり、需要が急激に増えている。これに応えるために、生産ラインの新規設置といった設備投資はもちろんのこと、既存ラインの生産性効率向上を各社進めている。
【0004】
昨今、衝突安全性と軽量化の両立から、高張力鋼へのニーズが高く、PやSi、Mnなどを鋼中に添加して母材強度を高めた材料需要も高まっている。ただし、これらの添加元素は合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造における鉄と溶融亜鉛の合金化反応を遅延させ生産性を落とす。高張力鋼板の需要が高まっている現在、生産性の低下は非常に重要な問題となってきている。
【0005】
そこで近年、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の合金化ネック解消を目的に、合金化加熱工程の加熱方式を従来のガス加熱方式の設備から、誘導加熱や通電加熱を用いて昇温速度が50℃/s以上、10秒以内といった短時間急速加熱にて鋼板温度を高め、溶融亜鉛と母材の鉄との拡散合金化反応を促進して、生産性低下を回避する手段や設備を用いることが一般的になってきた。
【0006】
一方、近年、自動車の外面を形作るボディ外板に対しては、意匠性と見栄えの観点から加工性と加工後の美しさを厳しく要求されている。特に加工後の美しさは、塗装後の仕上がりに直接関わるため、傷や模様といった表面欠陥は商品価値を著しく落とす。
【0007】
外観品位に関してはこれまで多くの改善知見がある。例えば、(1)溶融亜鉛浴に生じるドロスやスカムによる外観品位の劣化、(2)焼鈍炉内で生じる鋼板表面の酸化物による不めっき、(3)鋼板の結晶の不ぞろいや添加元素の偏析等を主原因とした外観品位の劣化、等である。
【0008】
(1)については、特許文献1において、ドロスやスカムを除去することで問題を解消することが公知となっている。(2)については、例えば特許文献2や特許文献3においては、焼鈍炉内の雰囲気を制御することで、不めっきを回避することが公知となっている。(3)については、特許文献4や特許文献5においては、母材組織を制御することで外観を改善することが、特許文献6においては、熱延条件を適正化することで外観改善することが公知となっている。
これらはいずれも従来からある溶融亜鉛めっき設備で発生していた外観品位の劣化を改善しうる重要な知見である。
【0009】
しかし近年の生産性向上を目的とした合金化加熱工程の強化に伴い、新たな外観品位の低下が顕著となっている。図1はその一例であり、誘導加熱にて生じためっき欠陥である。この欠陥は、直径100μm〜1mm程度の円形または楕円形を呈しており、めっきが薄いというものである。欠陥の中心部分にはFe−Alの酸化物が観察される。コイル内でランダムに散発し、表裏や幅方向あるいは長手方向での規則性がない。合金化加熱工程がガス加熱では発生せず、誘導加熱や通電加熱に発生が限定され、かつ、合金化加熱工程の昇温速度が50℃/秒を超えるような昇温速度が大きい場合にのみ発生する。したがって、合金化加熱をしない溶融亜鉛めっきでは観察されない。鋼種依存性もなく、SiやPといった鋼中の易酸化性物質が酸化して引き起こす不めっきとは異なる。最近の高生産化、高速度化を目指したことで発生するようなこのような欠陥に対し、これまでなんら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−150322号公報
【特許文献2】特許第3897010号公報
【特許文献3】特開2007−31806号公報
【特許文献4】特開平7−228944号公報
【特許文献5】特開平6−88187号公報
【特許文献6】特開2007−169696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題に鑑み、生産性向上に寄与する加熱方式である誘導加熱や通電加熱起因で発生する外観の模様や疵を発生させない、外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、まず欠陥発生の条件を見極めた。その結果、誘導加熱や通電加熱方式の合金化加熱工程において、例えば50℃/秒を超えるような急速な昇温条件と530℃以上の合金化温度を与えると、欠陥が発生することを突き止めた。また、合金化加熱中に鋼板表面の任意の場所で、火花が出ることがあることも見出した。次に、原因を明らかにするため、欠陥が発生する直前での表面を観察した結果、酸化していないAlがFeAlの合金として濃化していることがわかった。
【0013】
分析の結果、FeAlの合金は溶融亜鉛めっき浴中で生成するトップドロスFe2Al5であった。そこで、次に溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を低めたところ、欠陥が減少し、高めると増加することを確認した。この結果から、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を下げることが有効であることを突き止めたものの、Al濃度は、鋼板が溶融亜鉛めっき浴に浸漬したときにバリア層と呼ばれるFe−Al−Znの三元合金層を形成し、合金化反応を制御する機能があるため、単純に溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を極端に低めたり高めたりすることは、操業性を著しく複雑にする。
【0014】
本発明者らは、前述した火花に着目し、火花の発生がAlの酸化反応であることを突き止めた。すなわち、溶融亜鉛めっき浴中に存在したFe2Al5が鋼板浸漬の際に溶融亜鉛とともに鋼板に付着し、その後の合金化加熱工程の誘導加熱や通電加熱による急速な昇温によって、誘導電流や通電の抵抗となり局部的に温度が上がることで、合金化加熱工程において、前述のFe2Al5のAlが大気と同じ合金化加熱工程での雰囲気中の酸素と酸化反応を起こしたものと推察した。
【0015】
次に、酸化現象であるならば、火花を起こすような急激な酸化を進めるような下限温度が存在するであろうこと、また、FeAlの量と欠陥の発生量との間に相関があるものと予測し、検討を重ねた。この結果、合金化加熱温度が530℃を超えると欠陥が発生すること、浴のAl濃度に関連した時間内だけ530℃以下に鋼板温度を維持すれば、欠陥が発生しないことを見出した。
【0016】
本発明は上記の知見に基づきなされたもので、本発明の要旨とするところは、
(1)溶融亜鉛めっき設備にて、該鋼板を大気に接触させることなく焼鈍した後、0.120〜0.160mass%のAlを含有する溶融めっき浴に鋼板を浸漬して溶融亜鉛めっきを施し、次いで誘導加熱設備または通電加熱設備のいずれかあるいは両者を用いて昇温し、合金化加熱する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、ワイピング後に開始する合金化加熱を起点とし、加熱を止める時点を終点とした鋼板加熱時間のうち、加熱開始から(100[Al]−11)秒以内は鋼板温度が530℃以下であることを特徴とする外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明は、高生産性操業下においても外観品位の維持・向上を可能としたものであり、産業への貢献はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】めっき欠陥の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のめっき欠陥を改善する530℃以下を維持する範囲を示す図である。
【図3】浴のAl濃度とZn−Fe合金層が成長するために要する時間との関係を示す図である。
【図4】実施例における加熱パタン図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず本発明において、昇温速度が50℃/秒以上といった急激な昇温速度を印加でき、かつ、昇温時間が10秒以内程度しか有さないような高生産性に寄与する誘導加熱設備または通電加熱設備を有している合金化加熱工程に実施することでその効果を最大限発揮できる。また本発明における昇温速度が、50℃/s未満で操業しても本発明の作用の発現上なんら問題がない。
【0020】
合金化加熱工程における鋼板温度は、合金化加熱時間が加熱開始から(100[Al]−11)秒以内は530℃以下であることが必要である。ここで合金化加熱時間の起点は、ワイピング後に引き続き加熱装置にて昇温を開始する時点とし、終点は、加熱が終了する地点とする。
後述の実施例にあるように、加熱開始から(100[Al]−11)秒以内が530℃以下であれば本発明におけるめっき欠陥を改良でき、(100[Al]−11)秒を越えた後に、530℃を超えるような鋼板温度を与えても本発明の効果発現になんら問題なく、合金化不足の状態に応じて、加熱を続行または再加熱することができる。またそのときに用いる加熱方法や昇温速度および加熱時間は、本発明になんら関係がない。
【0021】
むしろ、(100[Al]−11)秒を越えた後に、530℃を超える鋼板温度を確保することで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき組織は平衡状態図上δ1相単相域に到達し(出典:防錆管理、p409、51巻、2007年)、摺動性を悪化せしめるζ相を減らすことができる点でさらに好ましい。
【0022】
なお、合金化加熱時間の計測方法は、加熱装置の炉長と通板速度の関係から求めることができ、鋼板温度の実測は、接触式板温計、放射温度計など、従来の装置を使用することができる。
【0023】
図2には、530℃以下に保つことで欠陥が発生しない領域を、浴Al濃度([Al])と(100[Al]−11)の関係にて示した。ここで530℃の意味合いはAlが火花を出すような急激な酸化反応を起こすための下限温度であり、急激な酸化を進めるための活性化エネルギーと推察する。また530℃以下を維持するための時間が(100[Al]−11)秒以内であればめっき欠陥が発生しない理由は定かではないが、以下のように推察する。
【0024】
鋼板はAlを含む溶融亜鉛めっき浴に浸漬すると、鋼板表面に合金化反応を阻害するようなバリア層と呼ばれるFe−Alの金属間化合物が形成する。Zn−Fe合金化はこのバリア層の崩壊が始まると進行する。図3はバリア層の崩壊が終了してZn−Fe合金層の成長が始まる時間と浴のAl濃度の関係をプロットしたものである。浴Al濃度に対してほぼ(100[Al]−11)秒以内の相関を保って合金化が進行している。したがって、530℃以下を維持する時間を(100[Al]−11)秒以内とすることで欠陥が発生しない理由としては、Alが急激に酸化しない530℃以下の温度に維持しながら浴のAl濃度に応じた時間だけZn−Fe合金化を進行させることにより、浴中からめっき層に持ち込んだFe−Al合金が再溶解して、Zn−Fe-Al合金(FeZn13−Al、ZnFe7−Al)として取り込まれ、結果的に無害化されたものと推察する。
【0025】
ここでAl濃度は、浴を少量取り出して、塩酸や硝酸などの各種無機酸に溶解しICP発光分光分析や原子吸光分析などにて求めることができる。
【0026】
浴のAl濃度は0.120%以下ではそもそも浴中にFe−Al合金が生成しない(出典:鉛と亜鉛、p21、vol10、No6、1973)。0.160%を超えると、合金化の進行が遅く、例えばラインスピードを100mpm以上確保するような高生産性を維持できにくくなるため、0.160%以下とする。
【0027】
本発明では、鋼板の成分組成に関係なく効果が発揮されるので、低炭素、中炭素の高強度鋼板に限らず、極低炭素の高強度鋼板にも適用される。また、本件は溶融亜鉛めっき前の焼鈍炉の条件になんら影響されない。さらに、溶融亜鉛めっき浴の温度は従来から適用されている条件で良く、例えば、440℃〜480℃といった条件が適用できる。また、溶融金属としては、亜鉛主体であれば不可避的にPb、Cd、Ni、Fe、Al、Ti、Nb、Mg、Mn、等を含んでも良く、さらに、めっき層の品質等を向上するために、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Co、Alを所定量添加してもよい。このようにして溶融亜鉛めっき量は30〜200g/m2施すことにより、種々の用途に適用することができる。
【0028】
このようにして得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面に塗装性や溶接性、潤滑性、耐食性等を改善する目的で、必要に応じて各種の電気めっきやクロメート処理、潤滑性向上処理、りん酸塩処理、樹脂塗布処理、溶接性向上処理等を施すことができる。
次に、本発明の実施例を比較例とともにあげる。
【実施例】
【0029】
供試材は表1に成分を示す板厚0.8mmの冷延鋼板を用いた。表1の主要成分の他はAlが0.01〜0.08質量%,Nが0.002〜0.008質量%などの不可避的不純物およびFeである。尚、前述のように本発明においては鋼板の成分は表1に限定されない。溶融亜鉛めっき浴の組成は、0.12〜0.16%Al、0.03%Fe、残り亜鉛とした。浴温度は460℃とした。溶融めっきは、実施例、比較例ともに浴中の通板時間を3秒とし、N2ガスワイパーにて亜鉛の付着量を50g/mに調整した。合金化は誘導加熱方式または通電加熱方式の加熱設備を用いて昇温速度は35〜150℃/秒にて行った。合金化の加熱パタン図4に示す通りで実施した。
【0030】
評価は、めっき外観および摺動性を評価した。評価の外観は、目視観察にて図1のような欠陥の発生がなく、均一外観で自動車の塗装後外板に使用可能なものを○、図1のような欠陥が観察され、自動車外板として不適なものを×で評価した。摺動性は、ドロービード試験(出典:薄鋼板成型技術研究会編、プレス成型難易ハンドブック、第3版、p144、2007年)を実施し、押付け力荷重Pと引き抜き荷重Fの関係から算出される摩擦係数μ=F/2Pを求めることで評価した。摺動性の良好な材料では同じ押付け荷重Pに対して小さな荷重Fで引き抜けるため、摩擦係数μが小さいものほど摺動性に優れる指標となる。評価は、摩擦係数μ≦0.3を◎、0.3<μ≦0.4を○、0.4<μを×とした。結果を表2に示した。
【0031】
表2の本発明例は何れも、外観に優れた。また(100[Al]−11)秒を越えた後に、530℃を超える加熱パタンを取った実施例3、6、7、8は摺動性もさらに良化した。一方、比較例10〜13は、めっき欠陥が発生した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき設備にて、鋼板を大気に接触させることなく焼鈍した後、0.120〜0.160mass%のAlを含有する溶融めっき浴に鋼板を浸漬して溶融亜鉛めっきを施し、次いで誘導加熱設備または通電加熱設備のいずれかあるいは両者を用いて昇温し、合金化加熱する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、ワイピング後に開始する合金化加熱を起点とし、加熱を止める時点を終点とした鋼板加熱時間のうち、加熱開始から(100[Al]−11)秒以内は鋼板温度が530℃以下であることを特徴とする外観品位に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
ただし、[Al]:浴中のAl濃度(mass%)

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−156030(P2010−156030A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200(P2009−200)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】