説明

多価金属塩補給食品及びこれを用いた嚥下補助食品

【課題】 適度な粘性を有しており、かつ多価金属塩が沈殿しない上、糸引き性がない(充填適性のある)多価金属塩補給食品を提供する。他の目的は、ローメトキシルペクチン水溶液と上記多価金属塩補給食品を用いてみそ汁やスープを適度の堅さにゲル凝固させてこれを高齢者等の弱者がつるりと嚥下できるようにすると同時に、多価金属塩も一緒に補給できるようにした嚥下補助食品を提供する。
【解決手段】 冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させた糖液に多価金属塩を分散させ、これをパックしたことを特徴とする多価金属塩補給食品。ローメトキシルペクチン水溶液10〜30mlと多価金属塩補給食品3〜15mlとをワンタッチ注出容器の別異のポケットにそれぞれパックしたことを特徴とする嚥下補助食品。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な多価金属塩補給食品及びこれを用いた嚥下補助食品に関する。
【0002】
【従来の技術】従来からカルシウム分等の金属塩を補給するために、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の多価金属塩を粘性物中に分散された多価金属塩補給食品の開発が試みられている。多価金属塩は水に難溶であるが、粘性物中には沈殿することなく分散し、供食しやすい状態となるからである。例えば、特開平5−15319には、清水にキサンタンガムを加えて増粘させた溶液中に多価金属塩を分散させ、これを多価金属塩補給食品とすることが提案されている。しかしながら、上記提案の多価金属塩補給食品は、適度な粘性をしていて食用にふさわしく、また多価金属塩の沈殿がないという利点はあるものの、強い糸引き性があるため容器にパックが難しい(充填適性がない)という問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の目的は、適度な粘性を有しており、かつ多価金属塩が沈殿しない上、糸引き性がない(充填適性のある)多価金属塩補給食品を提供せんとするものである。また、歯が弱ったり、体力が低下している弱者は、粘性を有する食品を摂取すると誤嚥してしまうことがある。そこで、本発明の他の目的は、ローメトペクチン水溶液と上記多価金属塩補給食品を用いて、みそ汁やスープを適度のかたさにゲル凝固させてこれを弱者がつるりと軽く嚥下できるようにすると同時に、多価金属塩も一緒に補給できるようにした嚥下補助食品を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的は、(1)冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させた糖液に多価金属塩を分散させ、これをパックしたことを特徴とする多価金属塩補給食品、(2)製品に対して、冷水膨潤性澱粉を1〜5%、多価金属塩を3〜20%用いてなる(1)の多価金属塩補給食品、(3)ローメトキシルぺクチン水溶液10〜30mlと、(1)又は(2)の多価金属塩補給食品3〜15mlとをワンタッチ注出容器の別異のポケットにそれぞれパックしたことを特徴とする嚥下補助食品、によって達成される。
【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は特にことわりのない限り「質量%」を意味する。本発明において「多価金属塩」とは、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム等の人体に必要なニ価以上の金属塩をいい、未焼成卵殻粉、未焼成骨粉や焼成卵殻粉、焼成骨粉を含むものである。また、「冷水膨潤性澱粉」とは、例えば未ゼラチン化コーンスターチ由来の澱粉のように、冷水に添加すると迅速に膨潤し、水に分散して滑らかな粘稠ペーストを形成する澱粉をいう。
【0006】本発明の多価金属塩補給食品は、冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させた糖液に多価金属塩を分散させこれをパックしたものである。ここで「糖液」とは、ブドウ糖、ガラクトース、マルトース、ラクトース、デキストリンアルコール、トレハロース等の糖類が液状になっているものをいう。糖類が液状となっているものであるから、通常、糖固形分が約70%、水分が約30%からなるものである。本発明の上記補給食品において、糖液に冷水膨潤性澱粉を加えてこれを増粘させるのは、糖液に多価金属塩を分散させたとき、多価金属塩が沈殿するのを防止すると共に、糖液の糸引き性をなくし、これにより充填適性をよくするためである。糖液にこのような性質を与えるには、冷水膨潤性澱粉を用いることにより、はじめて可能となる。
【0007】冷水膨潤性澱粉の配合量は、製品に対して1〜5%が望ましい。これは後の試験例にも示すように配合量が1%未満であると糖液の粘度が不足するため分散した多価金属塩が沈殿しやすくなり、一方5%を越えると糖液の粘度が大きくなって糸引き性が生じ、糖液の充填適性がなくなってしまう傾向にあるからである。また、多価金属塩を製品に対して3〜20%となるように分散させるとよい。これはあまり多価金属塩の濃度が低くすぎるとその補給食品としての意義がなくなり、一方濃度が高すぎると後の試験例にも示すように、分散させた金属塩が沈殿してしまい、不適当だからである。冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させ、かつ多価金属塩を分散させた糖液は、合成樹脂や金属製の袋、缶等の容器に充填・密封することによりパックする。パックに当って、上記糖液は糸引き性がないので充填ミスやシール不良等の障害を起こすことなく確実にパックすることができる。
【0008】以上述べた多価金属塩補給食品を利用した本発明の嚥下補助食品は、ローメトキシルペクチン水溶液10〜30mlと、上述の多価金属塩補給食品3〜15mlとをワンタッチ注出容器の別異のポケットにそれぞれパックしたものである。ここで、「ローメトキシルペクチン」(以下、「LMペクチン」ともいう)」とは、エステル化度が50%以下のペクチンをいう。LMペクチンは多価の金属イオンと反応してゲル化し、みそ汁やスープ等の液状食品を凝固させて適度な堅さにして嚥下しやすくする役割をする。その水溶液のLMペクチン濃度は0.5〜20w/v%とするのが望ましい。これは濃度が薄すぎると液状食品を凝固させるのにこの溶液を多量に使用する必要があるため好ましくなく、またあまり濃すぎるものはLMペクチンが水に溶解しにくくなって実用的でないからである。LMペクチン水溶液は、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸等の酸剤を加えて酸性に調整した後、常温流通ができるように加工する。ここでLMペクチン水溶液を酸性に調整するのは、LMペクチンはあまり高温で加熱すると液状食品を凝固させる物性を失うので、その物性を失わせない温度条件で当該水溶液を無菌的にパックできるようにするためである。みそ汁やスープ等の液状食品は、通常一食当り100〜150mlであり、これを嚥下しやすい堅さに凝固させ、同時に多価金属塩も有効に補給できるようにするには、ワンタッチ注出容器にLMペクチン水溶液を10〜30ml、多価金属塩補給食品を3〜15mlパックするのが適当である。なお、LMペクチン水溶液と多価金属塩補給食品は、共に糸引き性がないため、ワンタッチ注出容器の別異のポケットに充填ミスやシール不良を起こすことなく確実にパックすることができる。本発明の嚥下補助食品は、みそ汁やスープの一食分に対してワンタッチ注出容器から1パック分ワンタッチで注出させ、これらを混合してしばらく放置すれば、嚥下に適した堅さにゲル凝固させることができる。そして、この凝固物は弱者が誤嚥することなくつるりと軽く嚥下することができると同時に、多価金属塩の補給ともなるものである。
【0009】以下、実施例と試験例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】実施例1還元水あめ92%に冷水膨潤性澱粉2%を加えて増粘させた糖液を仕上げ、これに炭酸カルシウム(試薬)6%を加えてよく攪拌して、炭酸カルシウムを分散させた糖液とした。この糖液を直径40mm高さ110mmの合成樹脂製容器に100mlずつ充填・密封したところ、糸引き性がないため充填ミスやシールミスもなくパックすることができた。得られた製品は、カルシウム補給食品として使用した。
【0010】実施例27w/v%LMペクチン水溶液Aにクエン酸を添加してそのpHを3.5に調整した後、80℃に過熱した。これとは別に、デキストリンアルコール89%に冷水膨潤性澱粉3%を加えて増粘させた糖液に仕上げ、これに炭酸カルシウム(試薬)8%を加えよく攪拌して、炭酸カルシウムを分散させた糖液Bを作成し、80℃に加熱した。次ぎに、図1及び図2に示す合成樹脂からなるワンタッチ注出容器1のポケット2にLMペクチン水溶液Aを20ml、またポケット2'には糖液Bを7mlそれぞれ充填・密封(パック)し、これを嚥下補助食品(製品)とした。なお、図1及び図2において、ポケット2は折曲線4を際にして左部と右部に分かれているが、この左部と右部は連通部7を介してつながっている。また製品を使用するときは容器1を折曲線4に沿って折り曲げると、突起3a、3aが破断し、その尖端部3が開口するようになっている。おわんに入れた80℃の出来たてのわかめのみそ汁100mlに、上記嚥下補助食品について、図3に示すようにワンタッチ注出容器を折り曲げることによって、ポケット中のLMペクチン水溶液Aと糖液Bを注出し、混合した後、後5分間放置したところゲル凝固した。この凝固物の温度は50℃であったが適度な堅さにゲル凝固しており、小サジですくって熱いまま患者に与えたところ、つるりと嚥下させることができた。
【0011】
【試験例】試験例1次ぎの5種類のサンプルを用意した。
テスト区1:実施例1で得られた糖液(還元水あめ92%、冷水膨潤性澱粉2%、炭酸カルシウム6%)
テスト区2:実施例2で得られた糖液B(デキストリンアルコール89%、冷水膨潤性澱粉3%、炭酸カルシウム8%)
対照区1:清水93.7%にキサンタンガム0.3%を加えて増粘させこれに炭酸カルシウム6%を分散させたもの(特開平5−15319のもの)
対照区2:実施例1で得られた糖液において冷水膨潤性澱粉を加えなかったもの(還元水あめ94%、炭酸カルシウム6%)
対照区3:実施例1で得られた糖液において冷水膨潤性澱粉の代わりに燐酸架橋澱粉(化工澱粉)を加えたもの(還元水あめ92%、化工澱粉2%、炭酸カルシウム6%)
各サンプルを5mlずつ試験管に入れて密栓し、20℃で7日間静置後、炭酸カルシウムの沈殿の有無を観察すると共に粘度と試験管からサンプルを受皿に注ぎ終えたときの糸引き性を観察したところ表1の結果が得られた。
【0012】
【表1】


表1より、冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させた糖液は多価金属塩の沈殿がなく、しかも糸引き性がないため充填適性があることが理解できる。
【0013】試験例2還元水あめに、表2に示す配合量(全体量に対する配合)の冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させ、これに全体量に対して6%になるように炭酸カルシウムを分散させ、冷水膨潤性澱粉の配合量の異なる7種類の糖液(サンプル)を試作した。各サンプルを5mlずつ試験管に入れて密栓し、試験例1と同様に20℃で7日間静置後、炭酸カルシルムの沈殿の有無を観察すると共に、粘度と糸引き性を観察したところ、表2の結果が得られた。
【0014】
【表2】


表2より、冷水膨潤性澱粉を1〜5%加えて増粘させれば分散させた多価金属塩の沈殿がなく、かつ糸引き性がないため充填適性があることが理解できる。
【0015】試験例3還元水あめに、全体量に対して3%になるように冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させ、これに表3に示す量の炭酸カルシウムを分散させ、炭酸カルシウムの配合量の異なる6種類の糖液(サンプル)を試作した。各サンプルを5mlずつ試験管に入れて密栓し、20℃で7日間静置後、炭酸カルシウムの沈殿を観察したところ表3の結果が得られた。
【0016】
【表3】


表3より、多価金属塩の濃度が20%以下なら、沈殿がないことが理解できる。
【0017】
【発明の効果】以上のべたように、本発明によれば多価金属塩が沈殿せず、かつ糸引き性がない(充填適性のある)多価金属塩補給食品を提供することができる。また、この食品とローメトキシルペクチン水溶液とをワンタッチ注出容器の別異のポケットにパックすれば、みそ汁等を適度の堅さにゲル凝固させてこれを弱者がつるりと嚥下でき、しかも多価金属塩が補給できる嚥下補助食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の嚥下補助食品をパックするためのワンタッチ注出容器の一実施例を示す斜視図
【図2】同容器の平面図
【図3】使用状態を示す斜視図
【符号の説明】
1.ワンタッチ注出容器
2.ポケット
2'.ポケット
3.尖端部
3a.突起
4.折曲線
7.連通部
A.LMペクチン水溶液
B.糖液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 冷水膨潤性澱粉を加えて増粘させた糖液に多価金属塩を分散させ、これをパックしたことを特徴とする多価金属塩補給食品。
【請求項2】 製品に対して、冷水膨潤性澱粉を1〜5%、多価金属塩を3〜20%用いてなる請求項2記載の多価金属塩補給食品。
【請求項3】 ローメトキシルペクチン水溶液10〜30mlと、請求項1又は請求項2の多価金属塩補給食品3〜15mlとをワンタッチ注出容器の別異のポケットにそれぞれパックしたことを特徴とする嚥下補助食品。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開2002−51733(P2002−51733A)
【公開日】平成14年2月19日(2002.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−242488(P2000−242488)
【出願日】平成12年8月10日(2000.8.10)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】