説明

多価電解質沈殿物及びタンパク質の精製

多価電解質を例えば収集された細胞培養液のような細胞培養液に添加し、タンパク質・多価電解質複合体又は不純物と多価電解質の複合体を沈殿させることにより、タンパク質を単離し生成する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
米国特許法施行規則第1.53条第(b)項の下で出願された当該非仮出願は、出典明示によりここに全内容を援用する2007年1月22日出願の米国仮出願第60/886068号、及び2007年12月13日出願の米国仮出願第61/013446号について米国特許法第119条第(e)項の下の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明はタンパク質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質の大規模で経済的な精製はバイオテクノロジー産業にとって益々重要な問題となっている。一般に、タンパク質は、そのタンパク質に対する遺伝子を含む組換えプラスミドの挿入によって対象のタンパク質を生産するように操作された哺乳動物又は細菌の何れかの細胞株を使用して、細胞培養によって生産される。細胞株は生きている生物であるので、通常は動物の血清調製物から供給される増殖因子、糖、アミノ酸を含む複合増殖培地を与えなければならない。細胞に与えられた化合物の混合物からの、またヒト治療薬として使用するために十分な純度まで細胞自体の副産物からの所望のタンパク質の分離は大変なチャレンジとなる。
【0004】
組換え治療用タンパク質は、通常はマウスミエローマNS0及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む数種の哺乳動物宿主細胞株中において生産される(Anderson, D.C及びKrummen, L. (2002) Curr. Opin. Biotech. 13: 117-123;Chu, L.及びRobinson, D.K. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:180-187)。各細胞株には、細胞によって生産されるタンパク質の生産性と特徴について長所と短所がある。市販の生産細胞株の選択は、与えられる製品に必要とされる製品品質特性をもたらす能力と高生産性に対する必要性をしばしばバランスさせる。高力価プロセスをしばしば必要とする治療用組換えタンパク質の一つの重要なクラスはモノクローナル抗体である。幾つかのモノクローナル抗体は、その生物学的機能を誘発するためにFc領域を通して媒介されるエフェクター機能を必要とする。一例は、細胞表面CD20に結合しB細胞枯渇を生じるキメラモノクローナル抗体(Cartron等(2002) Blood 99: 754-758;Idusogie等(2000) J. Immunol. 164: 4178-4184)であるリツキシマブ(リツキサン(登録商標), Genentech社及びBiogen-Idec社)である。他の抗体、例えばヒト化抗VEGF (血管内皮増殖因子)抗体であるベバシズマブ(アバスチンTM, Genentech社)は、その活性に対してFcエフェクター機能を必要としない。
【0005】
発酵及び細胞培養技術の進歩は培養液中の標的タンパク質の力価を大きく増大させた。この上流の効率の増加は、細胞収集段階での下流処理の妨げとなった。細胞収集、又は収集された細胞培養液の清澄化は、バイオテクノロジーベースの生成物の略全ての下流の精製において重要なプロセスである。生成物が細胞の内部にある場合、細胞収集は、生成物抽出工程において、処理されることになる細胞の液体体積を減少させるために使用される。生成物が細胞外にある場合、細胞収集(cell harvesting)を使用して細胞及び細胞片から生成物を分離する。例えば、哺乳動物細胞培養物からの細胞外抗体の単離である(Anthony S. Lubiniecki編(1990) Large-Scale Mammalian Cell Culture Technology, Marcel Dekker; Hansjoerg Hauser, Roland Wagner編(1997) Mammalian Cell Biotechnology in Protein Production, Walter Gruyter Publishing)。
【0006】
細胞片からのタンパク質精製のための手順は、最初は、タンパク質の発現部位に依存する。あるタンパク質は細胞から廻りの増殖培地中に直接分泌させられる;他のタンパク質は細胞内に生成される。後者のタンパク質の場合、精製工程の第一工程は細胞の溶解を含み、これは、機械的剪断、浸透圧ショック、又は酵素処理を含む様々な方法によって行うことができる。かかる破壊は細胞の全内容物をホモジネート中に放出せしめ、またその小さいサイズのために除去が困難な細胞内断片をつくり出す。これらは一般に分画遠心又は濾過によって除去される。より小さいスケールでではあるが、細胞の自然死とタンパク質生産進行の過程での細胞内宿主細胞タンパク質の放出のため直接分泌されるタンパク質でも、同じ問題が生じる
【0007】
治療用抗体の精製中に、宿主細胞タンパク質、生成物変異体、宿主細胞DNA、低分子、プロセス関連汚染物質、内毒素及びウイルス粒子を含む不純物が除去されなければならない(Fahrner, R.L.等(2001) Biotechnol. Genet. Eng. Rev. 18:301-327)。使用される精製技術は、拡張可能で、効率的で、費用効率がよく、信頼性があり、最終生成物の厳密な純度の要求を満たさなければならない。現在の精製技術は典型的には直交分離モードを用いる複数のクロマトグラッフィー分離法を含む。典型的なプロセスは次の工程の幾つかを含むかも知れない:沈殿(米国特許第7169908号)、透析、電気泳動、限外濾過、アフィニティクロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィー。一般的なカラムクロマトグラフィー工程は効率的で信頼性があるが、一般に低生成物処理量(処理kg/h)である。モノクローナル抗体が更に広く使用されるようになったので、より効率的なプロセススケールの生産が必要である。
【0008】
クロマトグラフィー技術は、高度の精製を達成するためにタンパク質の化学的及び物理的性質を利用する。これらの化学的及び物理的性質は、典型的には、サイズ、等電点、電荷分布、疎水性部位及びリガンドに対する親和性を含む(Janson, J.C.及びL. Ryden (編) (1989) Protein Purification: Principles, High Resolution Methods and Applications. VCH Publishers, Inc., New York)。クロマトグラフィーの様々な分離モードは、イオン交換、 クロマトフォーカシング、ゲル濾過 (サイズ排除)、疎水性相互作用、逆相、及びアフィニティクロマトグラフィーを含む。陰イオン交換及び陽イオン交換クロマトグラフィーを含むイオン交換クロマトグラフィー(IEX)は、その正味の表面電荷の差によって分析物(例えばタンパク質)を分離する。IEXは細胞片及び他の不純物からの発現タンパク質の分離のための主要なツールである。今日、IEXは、タンパク質、ペプチド、核酸及び他の電荷生体分子の精製のために最も頻繁に使用されている技術の一つであり、高分解能及び高充填能での群分離をもたらす。該技術は、その荷電特性がほんの僅かに異なる分子種、例えば一つの荷電アミノ酸が異なる二つのタンパク質を、分離することができる。これらの特徴は、IEXを、精製プロトコルにおける捕捉、中間精製又は洗練(polishing)工程によく合致したものにし、該技術はマイクロスケールの精製及び分析からキログラムの生成物の精製まで使用される。
【0009】
クロマトグラフィー技術は信頼性があるが、容量と処理量が大規模な応用には問題となる場合がある。一般的なカラムクロマトグラフィー工程は効果的で信頼性があるが、一般には低生産量(処理kg/h)である。組換えタンパク質はより広く使用されるようになったので、より効果的なプロセススケールの生産が必要である。クロマトグラフィー工程の処理量は、典型的には対象タンパク質に対するクロマトグラフィー樹脂の能力によって制約される。カラムへのタンパク質の負荷が増加すると、対象タンパク質の不純物からの分解能がしばしば減少する。
【0010】
多価電解質は、可溶性複合体(Dellacherie, E.(1991) Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem. Prepr. 32(1):602)、無定形沈殿物(Mattiasson等(1998) Polym. Plast. Technol. Eng. 37(3):303-308;Clark等(1987) Biotech. Progress 3(4):241;Fisher等(1988) Biotechnol. Bioeng. 32:777;Shieh等(1991) Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem. Prepr. 32(1)606;Sternberg等(1974) Biochimica et Biophysica Acta 342:195-206;国際公開第2004/014942号)、又はコアセルベート(Wang等(1996) Biotechnol. Prog. 12:356-362;Veis, A.(1991) Am. Chem. Soc. Div. Polym. Chem. Prepr. 32(1) 596)の形態をとるタンパク質との複合体を形成することが知られている。抗原-ポリカチオン(ポリメタクリル酸)の存在下でのモノクローナル抗体のパパインタンパク質分解はFab断片を生じる(Dainiak等(2000) Analytical Biochem. 277:58-66)。
【0011】
タンパク質・多価電解質複合体はコアセルベートする。つまり、コアセルベート相が複合体の殆どを含み、他の相が平衡相である2つの区別される液相に分離する(Burgess, D.J. “Complex Coacervation: Microcapsule Formation”, Macromolecular Complexes in Chemistry and Biology, Dubin, P.L.等編(1994) Springer-Verlag, Berlin;Dubin等(1994) Sep. Purif. Methods 23:1-16)。タンパク質の多価電解質コアセルべーションは複雑なプロセスであり、広い範囲のタンパク質には有用ではない。タンパク質・多価電解質複合体中の分子間結合は静電気相互作用、水素結合及び疎水的力による(Cooper等(2005) Current Opinion in Colloid & Interface Science 10:52-78;Mattison等(1999) Macromol. Symp. 140:53-76)。タンパク質溶液への多価電解質の添加は、タンパク質・多価電解質複合体と大きなクラスターを生じせしめ、最終的にはコアセルベートさせ及び/又は沈殿物形成を生じせしめうることが知られているが、逆のプロセスが多価電解質の更なる添加時に現れ、そこではタンパク質の再溶解が生じ、タンパク質単離又は精製の試みが挫折させられうる(Carlsson等(2003) J. Am. Chem. Soc. 125:3140-3149)。多価電解質を使用するタンパク質の沈殿は、クロマトグラフィー分離に対して経済的に効率的な代替方法を提供する。この技術を使用して、溶液中の同様なレベルのタンパク質精製を達成するためにクロマトグラフィー技術の官能ケミストリーを利用できる。特に、沈殿工程の処理量は特定のクロマトグラフィー樹脂の能力によってもはや制限されないであろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、細胞培養液から誘導されたタンパク質の単離及び精製に関する方法を提供する。
本発明の一態様は、多価電解質, 例えばポリアニオン多価電解質を用いてタンパク質を沈殿させることによるタンパク質精製方法である。
本発明は、またポリカチオン多価電解質を用いて細胞培養液不純物を沈殿させることによるタンパク質精製方法を提供する。沈殿工程の後に陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、及び他の沈殿工程を続けてもよい。
【0013】
本発明の方法は抗体の精製のための非親和性方法を含む。
本発明の一態様は、抗体を精製する方法であって、
(a)収集された細胞培養液から抗体が誘導される抗体含有混合物の酸性度又は塩濃度を調節し;
(b)負に荷電した多価電解質を加えて、タンパク質・多価電解質沈殿物を形成し;
(c)タンパク質・多価電解質沈殿物を、タンパク質凝集物、タンパク質断片、宿主細胞タンパク質、インスリン、ゲンタマイシン、DNA、及び浸出プロテインAから選択される不純物から分離し;
(d)タンパク質・多価電解質沈殿物を単離し;
(e)タンパク質・多価電解質沈殿物を水溶液中に再懸濁させる
ことを含んでなる方法である。
【0014】
本発明の他の態様は、抗体を精製する方法であって、
(a)細胞培養液から抗体が誘導される抗体含有混合物の酸性度又は塩濃度を調節し;
(b)混合物に正に荷電したポリカチオン多価電解質を加えて、正に荷電したポリカチオン多価電解質と、タンパク質凝集物、タンパク質断片、宿主細胞タンパク質、インスリン、ゲンタマイシン及びDNAから選択される不純物を含む沈殿物を形成し;
(c)抗体含有混合物から沈殿物を分離する
ことを含んでなる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、次のものが続く収集された細胞培養液(HCCF)から精製したプロテインAプールの精製のためのプロセス工程を示す:左欄−陽イオン交換クロマトグラフィー (セファロースTMファーストフロー, SPSFF)と続く陰イオン交換クロマトグラフィー (QSFF);中央欄−QSFF;右欄−pH7でのポリビニルスルホン酸 (PVS)沈殿と続くQSFF。
【図2】図2は、次のものが続く収集された細胞培養液(HCCF)から精製したSPSFFプールの精製のためのプロセス工程を示す:左欄−QSFF;又は右欄−pH7でのPVS沈殿と続くQSFF。
【図3】図3は、HCCFからの抗体の直接捕捉及び精製のためのプロセス工程を示す:左欄−pH5でのPVS沈殿と、続くQSFFと次のSPSFF;又はpH7でのPVS沈殿と、続く右欄−pH7でのPVS沈殿と、続くQSFFと次のSPSFF。
【図4】図4は、3.0及び5.6mS/cm(プロテインAプール)、pH5でのPVS(1800Da)中のrhuMab2H7溶解度曲線を示す。mS=ミリジーメンス(伝導率の単位)
【図5】図5は、0.7、1.5、3.0及び4.7mS/cm(プロテインAプール)、pH7でのPVS(1800Da)中のrhuMab2H7溶解度曲線を示す。
【図6】図6は、0.8、及び1.5mS/cm(SPSFF捕捉プール)、pH7でのPVS(1800Da)中のrhuMab2H7溶解度曲線を示す。
【図7】図7は、pH5及び3.0mS/cm;及びpH7及び0.7mS/cm(HCCF)でのPVS(1800Da)中のrhuMab2H7溶解度曲線を示す。
【図8】図8は、抗CD20抗体2H7のpH5、5mS/cmでのPVS(1800Da)沈殿をPAA(1200及び8000Da)沈殿と比較する溶解度曲線を示す。
【図9】図9は、抗CD20抗体2H7のpH7、1.5mS/cmでのPVS(1800Da)沈殿をPAA(1200及び8000Da)沈殿と比較する溶解度曲線を示す。
【図10】図10は、1200から1100000Daの範囲の分子量のPAAを比較するpH7、1.5mS/cmでの抗CD20抗体(リツキシマブ)溶解度曲線を示す。
【図11】図11は、抗CD20rhuMab2H7に対する下流処理:(a)プロテインAで処理されたHCCF;(b)SPSFFで処理されたHCCF;(c)HCCFのPVS沈殿の結果をまとめた表を示す。
【図12】図12は、pH5.5及び5.1mS/cm;pH6.0及び3.0mS/cm;pH6.0及び5.5mS/cmでのPVS(1800Da)におけるApomab溶解度曲線を示す。
【図13】図13は、pH6.5及び1.5mS/cm;pH6.5及び3.2mS/cm;及びpH7.0及び0.7mS/cmでのPVS(1800Da)におけるApomab溶解度曲線を示す。
【図14】図14は、(左)PVSなし(0%)、(中央)0.1%PVS(w/v)、及び(右)1%PVS(w/v)を含むpH5.5のApomabのプロテインAプールを含むフラスコの写真を示す。
【図15】図15は、pH4及び2mS/cm;pH5及び1mS/cm;pH5及び2.4mS/cm;pH6及び0.5mS/cm;pH7及び0.5mS/cmでのPVS(1800Da)中での抗cMet溶解度曲線を示す。
【図16】図16は、CCFからのrhuMab2H7抗体の直接的捕捉及び精製のプロセス工程を示す。
【図17】図17は、左欄−Prosep vA、陽イオン交換クロマトグラフィー(セファロースTMファーストフロー,SPSFF)、次に陰イオン交換クロマトグラフィー(QSFF);右欄−ポリアルギニン沈殿、Prosep vA、SPSFF、次にQSFFが続く、収集された細胞培養液(HCCF)からのrhuMab2H7抗体の精製のプロセス工程を示す。
【図18】図18は、左欄−SPSFF、次にQSFF;右欄−ポリアルギニン沈殿、SPSFF、次にQSFFで、Prosep vA工程のない、図17のような収集された細胞培養液(HCCF)からのrhuMab2H7抗体の精製の同じプロセスを示す。
【図19】図19は、左欄−PVSでの抗体沈殿、次にQSFF;右欄−ポリアルギニン沈殿、PVSでの抗体沈殿、次にQSFFが続く、収集された細胞培養液(HCCF)からのrhuMab2H7抗体の精製のプロセス工程を示す。
【図20】図20は、110kDaのポリアルギニンでのrhuMab2H7CCF溶解度曲線を示す。
【図21】図21は、rhuMab2H7HCCF溶解度曲線−42kDaポリアルギニンを示す。
【図22】図22は、rhuMab2H7HCCF溶解度曲線−110kDaポリアルギニンを示す。
【図23】図23は、rhuMab2H7、抗CD22、rhuMab C2B8 HCCF溶解度曲線−42kDaポリアルギニンを示す。
【図24】図24は、rhuMab2H7、抗CD22、rhuMab C2B8 HCCF溶解度曲線−110kDaポリアルギニンを示す。
【図25】図25は、0.075w/v%の110kDaのポリアルギニンで凝集されたrhuMab2H7 CCFのPVS沈殿の溶解度曲線を示す。
【図26】図26は、負荷されたポリアルギニン沈殿HCCFから生成されたプロテインAプールでのSPSFFのブレークスルー曲線を示す。
【図27】図27は、負荷された沈殿されたポリアルギニンから生成されたHCCFでのSPSFFのブレークスルー曲線を示す。
【図28】図28は、2H7MAb、HCCF4−12%BT、MOPSバッファー、Syproルビー染色、2ugのHCCF負荷、5分、70℃、9秒暴露、2F/T実施7、SSミニ-カンでのRTインキュベーション、−70℃で即座に凍結した500μl(マイクロタイター)試料における抗体還元の阻害のゲル電気泳動を示す。
【図29】図29は、rhuMab C2B8プロテインAプール溶解度曲線−2.5kDaポリリジンを示す。
【図30】図30は、rhuMab C2B8プロテインAプール溶解度曲線−50kDaポリリジンを示す。
【図31】図31は、rhuMab C2B8HCCF溶解度曲線−50kDaポリリジンを示す。
【図32】図32は、rhuMab C2B8HCCF溶解度曲線−225kDaポリリジンを示す。
【図33】図33は、pH7及び12mS/cm伝導率での0.00%から0.20%のポリスチレンスルホネート(PSS)の1800Daから1132kDa試料でのヒト化抗CD20溶解度曲線を示す。
【図34】図34は、(フィルター面積当たりの抗体グラムで測定された)容量対各フィルター培地:A1HC、B1HC、C0HC、45CE、20CE、30CEに対する圧力低下のVmaxプロットを示す。
【図35】図35は、C0HC MILLISTAK+(登録商標)フィルター培地からの2H7−PVSタンパク質・多価電解質沈殿物の完全な再可溶化に達するのに必要なバッファーの容積にる収率に対する様々な流量の効果を示す。LMH=1時間当たり1平方メートル当たりのリットル、流量測定値。
【図36】図36は、C0HC MILLISTAK+(登録商標)フィルター(2H7−PVSタンパク質・多価電解質沈殿物)からのタンパク質の再可溶化に対する二つの範囲の流束(LMH中の再可溶化バッファーの流れ)の効果を示す。
【図37】図37は、インラインHCCF調整/PVS沈殿手順のプロセスの概略を示す。
【図38】図38は抗体回収収率連続原料調整/沈殿を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
その例を添付の構造及び式で例示する本発明の所定の実施態様を以下に参照する。本発明を列挙された実施態様と関連して説明するが、それらは発明をその実施態様に限定することを意図するものではないことが理解される。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定まる本発明の範囲内に含まれうるあらゆる代替物、変形態様、及び均等物をカバーすることが意図される。当業者であれば、本発明の実施において使用されうるここに記載のものと類似した又は均等な多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は記載される方法及び材料に決して限定されない。援用された文献、特許及び類似資料の一又は複数が、限定しないが、定義された用語、用語使用法、記載された技術等を含むこの出願と異なるか矛盾する場合には、この出願が優先する。
【0017】
定義
別の記載がない限り、ここで使用される次の用語及び語句は次の意味を有することが意図される:
HCCFとも標記される「収集された細胞培養液」なる用語は、遠心分離又は濾過を含む手段によって細胞が除去された原核又は真核細胞培養液を意味する。細胞培養は、制御された条件下で原核又は真核細胞が増殖せしめられるプロセスである。「細胞培養」なる用語は、動物細胞を含む多細胞真核生物又は細菌及び酵母を含む単細胞原核生物から誘導される細胞の培養を意味する。真核細胞培養は、哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、ハイブリドーマ、及び昆虫細胞を含む。 適切な細胞培養容器を用いて、分泌されたタンパク質は足場依存性細胞又は懸濁細胞株から得ることができる。哺乳動物細胞培養はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む。
【0018】
「微生物発酵」なる用語は、タンパク質のような化学物質を生産するように遺伝子操作されている細菌又は酵母の細胞培養を意味する。発酵はクローン化された細菌及び酵母並びに他の微生物を増殖させ、価値のあるタンパク質を生産するために使用される。これらの生物の細胞生産性及び増殖は、特定の増殖培地を供給し様々な環境因子(例えば、pH、温度、及び曝気)を制御することによって最大化される。細菌発酵液は大腸菌から誘導されうる。
【0019】
ここでの「抗体」なる用語は、最も広義に使用され、特にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片をカバーする。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラ又は他の種由来でありうる。
抗体は特定の抗原を認識しそれに結合することができる免疫系によって生産されるタンパク質である。(Janeway等(2001) “Immunobiology”, 5版, Garland Publishing, New York)。標的抗原は、一般的には複数の抗体上のCDRによって認識されるエピトープとも呼ばれる多くの結合部位を有する。異なったエピトープに特異的に結合する各抗体は異なった構造を有している。よって、一つの抗原が一を越える対応の抗体を有しうる。
【0020】
ここで使用される「抗体」なる用語は、また完全長免疫グロブリン分子又は完全長免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部位を含む分子、つまり対象の標的又はその一部の抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を意味する。ここに開示された免疫グロブリンは、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、及びIgA)、クラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスでありうる。免疫グロブリンは任意の種由来でありうる。しかしながら、一態様では、免疫グロブリンはヒト、マウス、又はウサギ由来である。
【0021】
「抗体断片」は、完全長抗体の一部、一般にはその抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')、及びFv断片;ダイアボディー(diabodies);線形抗体;Fab発現ライブラリーによって生産される断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、CDR(相補性決定領域)、ECD(細胞外ドメイン)、及び癌細胞抗原、ウイルス抗原又は微生物抗原、単鎖抗体分子に免疫特異的に結合する上記の何れかのエピトープ結合断片;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0022】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量で存在しうる自然に生じる可能な変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対している。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調整物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の抗体によって汚染されないで合成されうる点で有利である。「モノクローナル」との修飾詞は、実質的に均一な抗体集団から得られうるという抗体の特徴を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等(1975), Nature 256:495により記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作ることができる(米国特許第4816567号)。また「モノクローナル抗体」は、例えばClackson等, Nature 352:624-628(1991);及びMarks等(1991) J. Mol. Biol., 222:581-597に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0023】
有用なモノクローナル抗体は、特定の抗原決定基(例えば、癌細胞抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、タンパク質、ペプチド、炭水化物、化学物質、核酸又はその断片)に対する抗体の均一な集団である。対象の抗原に対するモノクローナル抗体(MAb)は、培養におおいて連続な細胞株による抗体分子の生産をもたらす当該分野で知られている任意の技術を使用して調製することができる。限定するものではないが、これらには、Kohler及びMilstein((1975) Nature 256:495-497)によって最初に記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor等(1983) Immunology Today 4:72)、及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole等(1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)が含まれる。かかる抗体はIgG、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む任意の免疫グロブリンクラス及びその任意のサブクラスのものでありうる。本発明に使用されるMAbsを生産するハイブリドーマはインビトロ又はインビボで培養されうる。
【0024】
本発明の方法に有用な治療用モノクローナル抗体には、トラツズマブ(ハーセプチン(登録商標), Genentech社, Carter等(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285-4289;米国特許第5725856号);抗CD20抗体、例えばキメラ抗CD20「C2B8」(米国特許第5736137号);リツキシマブ(リツキサン(登録商標))、オクレリツマブ、2H7抗体のキメラ又はヒト化変異体(米国特許第5721108号;国際公開第04/056312号)又はトシツモマブ(BEXXAR(登録商標));抗IL−8(St John等(1993) Chest, 103:932、及び国際公開第95/23865号);抗VEGF抗体、例えばヒト化及び/又は親和性成熟抗VEGF抗体、例えばヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1ベバシツマブ(アバスチン(登録商標), Genentech社, Kim等(1992) Growth Factors 7:53-64、国際公開第96/30046号、国際公開第98/45331号);抗PSCA抗体(国際公開第01/40309号);抗CD40抗体、例えばS2C6及びそのヒト化変異体(国際公開第00/75348号);抗CD11a(米国特許第5622700号;国際公開第98/23761号;Steppe等(1991) Transplant Intl. 4:3-7;Hourmant等(1994) Transplantation 58:377-380);抗IgE(Presta等(1993) J. Immunol. 151:2623-2632;国際公開第95/19181号);抗CD18(米国特許第5622700号;国際公開第97/26912号);抗IgE、例えばE25、E26及びE27(米国特許第5714338号;米国特許第5091313号;国際公開第93/04173号;米国特許第5714338号);抗Apo-2レセプター抗体(国際公開第98/51793号);抗TNF-α抗体、例えばcA2(レミケード(登録商標)、CDP571及びMAK-195(米国特許第5672347号;Lorenz等(1996) J. Immunol. 156(4):1646-1653;Dhainaut等(1995) Crit. Care Med. 23(9):1461-1469);抗組織因子(TF)(欧州特許第0420937B1号);抗ヒトα4β7インテグリン(国際公開第98/06248号);抗EGFR、キメラ化又はヒト化225抗体(国際公開第96/40210号);抗CD3抗体、例えばOKT3(米国特許第4515893号);抗CD25又は抗tac抗体、例えばCHI−621 SIMULECT(登録商標)及びZENAPAX(登録商標)(米国特許第5693762号);抗CD4抗体、例えばcM-7412抗体(Choy等(1996) Arthritis Rheum 39(1):52-56);抗CD52抗体、例えばCAMPATH-1H(Riechmann等(1988) Nature 332:323-337);抗Fcレセプター抗体、例えばGraziano等(1995) J. Immunol. 155(10):4996-5002におけるようなFcγRIに対するM22抗体;抗癌胎児抗原(CEA)抗体、例えばhMN-14(Sharkey等(1995) Cancer Res. 55(23Suppl): 5935s-5945s;乳房上皮細胞に対する抗体、例えばhuBrE-3、hu-Mc3及びCHL6(Ceriani等(1995) Cancer Res. 55(23):5852s-5856s;及びRichman等(1995) Cancer Res. 55(23 Supp): 5916s-5920s);大腸癌細胞に結合する抗体、例えばC242(Litton等(1996) Eur J. Immunol. 26(1):1-9);抗CD38抗体、例えばAT13/5(Ellis等(1995) J. Immunol. 155(2):925-937);抗CD33抗体、例えばHu M195(Jurcic等(1995) Cancer Res 55(23 Suppl):5908s-5910s 及びCMA−676又はCDP771;抗CD22抗体、例えばLL2又はLymphoCide(Juweid等(1995) Cancer Res 55(23 Suppl):5899s-5907s);抗EpCAM抗体、例えば17−1A(PANOREX(登録商標));抗GpIIb/IIIa抗体、例えばアブシキシマブ又はc7E3 Fab(REOPRO(登録商標));抗RSV抗体、例えばMEDI-493(SYNAGIS(登録商標));抗CMV抗体、例えばPROTOVIR(登録商標);抗HIV抗体、例えばPRO542;抗肝炎抗体、例えば 抗Hep B抗体OSTAVIR(登録商標);抗CA125抗体OvaRex;抗イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;抗αvβ3抗体VITAXIN(登録商標);抗ヒト腎細胞癌抗体、例えばch-G250;ING-1;抗ヒト17-1A抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒトメラノーマ抗体R24;抗ヒト扁平上皮癌(SF-25);及び抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、例えばSmart ID10及び抗HLA DR抗体Oncolym(Lym-1)が含まれる。
【0025】
有用なモノクローナル抗体には、限定されるものではないが、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、抗体断片、又はキメラヒト-マウス(又は他の種)モノクローナル抗体が含まれる。ヒトモノクローナル抗体は、当該分野で知られている数多くの技術の何れかによって作製することができる(Teng等(1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:7308-7312;Kozbor等(1983) Immunology Today 4:72-79;及びOlsson等(1982) Methods in Enzymology 92:3-16)。
【0026】
抗体はまた二重特異性抗体でありうる。二重特異性抗体は、一方のアームに第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖を、他方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を付与)を有しうる。この非対称構造は、二重特異性分子の半分だけにおける免疫グロブリン軽鎖の存在が容易な分離方法をもたらすので、望まれない免疫グロブリン鎖組合せからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にする(国際公開第94/04690号;Suresh等(1986) Methods in Enzymology, 121:210;Rodrigues等(1993) J. of Immunology 151:6954-6961;Carter等(1992) Bio/Technology 10:163-167;Carter等(1995) J. of Hematotherapy 4:463-470;Merchant等(1998) Nature Biotechnology 16:677-681)。二重特異性抗体を作製する方法は当該分野で知られている(Milstein等(1983) Nature 305:537-539;国際公開第93/08829号;Traunecker等(1991) EMBO J. 10:3655-3659)。かかる技術を使用し、二重特異性抗体をここに定義される疾患の治療又は予防においてADCとしての共役のために調製することができる。
【0027】
異なったアプローチ法によれば、所望の結合特異性(抗体-抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合させる。該融合タンパク質は免疫グロブリン重鎖定常ドメインを有し得、ヒンジ、C2、及びC3領域の少なくとも一部を有する。第一重鎖定常領域(C1)は、融合タンパク質の少なくとも一に存在する軽鎖結合に必要な部位を含みうる。免疫グロブリン重鎖融合物と、所望される場合には免疫グロブリン軽鎖をコードする配列を有する核酸を、別個の発現ベクター中に挿入し、適切な宿主生物中に同時形質移入する。これは、構築に使用される不等比の3つのポリペプチド鎖が最適な収率をもたらす実施態様において、3つのポリペプチド断片の相互割合の調節において多大なフレキシビリティをもたらす。しかしながら、不等比の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率になるか又は比が特に重要性を持たない場合、2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖のためのコード配列を一つの発現ベクターに挿入することができる。
ハイブリッド又は二機能性抗体を、生物学的に、つまり細胞融合技術によって、又は化学的に、特に架橋剤又はジスルフィド架橋形成試薬を用いて誘導することができ、全抗体又はその断片を含みうる(欧州特許出願公開第105360号;国際公開第83/03679号;欧州特許出願公開第217577号)。
【0028】
抗体は、癌細胞抗原、ウイルス抗原、又は微生物抗原に免疫特異的に結合する抗原又は腫瘍細胞又はマトリックスに結合する他の抗体の機能的に活性な断片、誘導体又はアナログでありうる。この点、「機能的に活性な」とは、その断片、誘導体又はアナログが、断片、誘導体又はアナログが誘導される抗体が認識したものと同じ抗原を認識する抗抗イディオタイプ抗体を誘導することができることを意味する。特に、例示的な実施態様では、免疫グロブリン分子のイディオタイプの抗原性は、抗原を特異的に認識するCDR配列のC末端であるフレームワーク及びCDR配列の欠失によって亢進されうる。どのCDR配列が抗原に結合するかを決定するために、CDR配列を含む合成ペプチドを、当該分野で知られている任意の結合アッセイ法、例えばBIAコアアッセイによる抗原との結合アッセイにおいて使用することができる(Kabat等, (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版, National Institute of Health, Bethesda, Md;Kabat等(1980) J. of Immunology 125(3):961-969)。
【0029】
他の有用な抗体は、抗体の断片、例えば限定するものではないが、可変領域、軽鎖定常領域及び重鎖のCH1ドメインを含み、抗体分子のペプシン消化によって生産されうるF(ab’)2断片、及びF(ab’)2断片のジスルフィド結合を還元することによって生産されうるFab断片を含む。他の有用な抗体は抗体の重鎖及び軽鎖二量体、又はその任意の最小断片、例えばFvs又は一本鎖抗体(SCAs)(例えば米国特許第4946778号;Bird (1988) Science 242:423-42;Huston等, (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;及びWard等(1989) Nature 334:544-54に記載)又は抗体と同じ特異性を有する任意の他の分子である。
ここでのモノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から誘導されたか又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か又は相同であり、鎖の残りが他の種から誘導されたか又は他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か又は相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限りそれらの抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;Morrison等(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855)。キメラ抗体は、異なった部分が異なった動物種から誘導されている分子、例えばマウスモノクローナルから誘導された可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域を有するものである(米国特許第4816567号;米国特許第4816397号)。キメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿等)から由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「プリマタイズ(primatized)」抗体を含む。
【0030】
ヒト及び非ヒト部分を共に含む、キメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、標準的な組換えDNA技術を使用して作製することができる(国際公開第87/02671号;欧州特許出願公開第184187号;欧州特許出願公開第171496号;欧州特許出願公開第173494号;国際公開第86/01533号;米国特許第4816567号;欧州特許出願公開第12023号;Berter等(1988) Science 240:1041-1043;Liu等(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443;Liu等(1987) J. Immunol. 139:3521-3526;Sun等(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218;Nishimura等(1987) Cancer. Res. 47:999-1005;Wood等(1985) Nature 314:446-449;及びShaw等(1988) J. Natl. Cancer Inst. 80 :1553-1559;Morrison (1985) Science 229 :1202-1207;Oi等(1986) BioTechniques 4 :214;米国特許第5225539号;Jones等(1986) Nature 321 :552-525;Verhoeyan等(1988) Science 239:1534;及びBeidler等(1988) J. Immunol. 141:4053-4060;これらの各々の全内容が出典明示によりここに援用される)。
【0031】
完全なヒト抗体は、内因性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子を発現することができないがヒト重鎖及び軽鎖遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを使用して生産することができる。トランスジェニックマウスは、選択された抗原、例えば本発明のポリペプチドの全て又は一部を用いて通常の態様で免疫される。抗原に対するモノクローナル抗体は、一般的なハイブリドーマ技術を使用して得ることができる。トランスジェニックマウスが有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子がB細胞分化中に再配列され、ついでクラススイッチ及び体細胞変異を受ける。よって、かかる技術を使用し、治療的に有用なIgG、IgA、IgM及びIgE抗体を生産することができる。ヒト抗体を生産するためのこの技術の概説としては、Lonberg及びHuszar (1995) Int. Rev. Immunol. 13:65-93;米国特許第5625126号;同第5633425号;同第5569825号;同第5661016号;同第5545806号を参照のこと。他のヒト抗体は市販元、例えばAbgenix社(Freemont, CA)及びGenpharm(San Jose, CA)から得ることができる。
【0032】
選択されたエピトープを認識する完全なヒト抗体は、「誘導(guided)選択」と称される技術を使用して生産されうる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全なヒト抗体の選択を誘導する。(Jespers等(1994) Biotechnology 12:899-903)。ヒト抗体はまたファージディスプレイライブラリーを含む当該分野で知られている様々な技術を使用して生産することができる(Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227:381 (1991);Marks等(1991) J. Mol. Biol. 222:581)。
抗体は、例えば抗体が、抗体ではない他のタンパク質(又はその一部、例えばタンパク質の少なくとも10、20又は50アミノ酸配列)のアミノ酸配列にN末端かC末端の何れかで共有結合(例えばペプチド結合)を介して融合した抗体の融合タンパク質、又はその機能的に活性な断片でありうる。抗体又はその断片は定常ドメインのN末端で他のタンパク質に共有結合されうる。
【0033】
抗体は、任意のタイプの分子の共有結合によって、かかる共有結合によって抗体がその抗原結合免疫特異性を保持できる限り、何れも修飾されるアナログ及び誘導体を含む。例えば、限定するものではないが、抗体のアナログ及び誘導体は、例えばグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質切断、細胞性抗体単位又は他のタンパク質への結合によって、更に修飾されているものを含む。数多くの化学的修飾の任意のものを、限定するものではないが、特異的化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの存在下での代謝合成等を含む既知の技術によって実施することができる。また、アナログ又は誘導体は一又は複数の非天然アミノ酸を含みうる。
【0034】
CD20抗体の例は次のものを含む:「C2B8」,今はリツキシマブ(リツキサン(登録商標)/MABTHERA(登録商標))(米国特許第5736137号);イットリウム−[90]標識2B8マウス抗体Y2B8又はイブリツモマブチウキセタン(ゼバリン(登録商標),Biogen Idec社、米国特許第5736137号);2B8(1993年6月22日に受託番号HB11388でATCCに寄託);マウスIgG2a「B1」,トシツモマブとも呼ばれ、場合によっては131Iで標識されてCorixaから市販されている「131I−B1」又は「ヨウ素I131トシツモマブ」抗体(BEXXAR(登録商標))(米国特許第5595721号);マウスモノクローナル抗体「1F5」(例えばPress等(1987) Blood 69(2):584-591及びその変異体、例えば「フレームワークパッチ(framework patched)」又はヒト化1F5(国際公開第2003/002607号,Leung,S.,ATCC寄託HB−96450);マウス2H7及びキメラ2H7抗体(米国特許第5677180号);2H7のヒト化変異体のオクレリズマブ及び他の2H7変異体(国際公開第2004/056312号;米国特許第5721108号);HUMAX−CD20TM(B細胞の細胞膜におけるCD20分子を標的とした完全なヒト高親和性抗体(Genmab, Denmark)。例えばGlennie及びvan de Winkel, (2003) Drug Discovery Today 8:503-510及びCragg等(2003) Blood 101: 1045-1052);国際公開第2004/035607号及び国際公開第2005/103081号に記載のヒトモノクローナル抗体(Teeling等,GenMab/Medarex);米国特許出願公開第2004/0093621号(Shitara等)に記載されたFc領域に結合した複合N-グリコシド結合糖鎖を有する抗体;CD20に結合するモノクローナル抗体及び抗原結合断片(国際公開第2005/000901号,Tedder等)、例えばHB20−3、HB20−4、HB20−25、及びMB20−11;CD20に結合する一本鎖タンパク質(米国特許出願公開第2005/0186216号;米国特許出願公開第2005/0202534号;米国特許出願公開第2005/0202028号;米国特許出願公開第2005/0202023号);CD20結合分子、例えば抗体のAMEシリーズ、例えばAME−133TM抗体(国際公開第2004/103404号;米国特許出願公開第2005/0025764号);及びFc変異を有するCD20抗体(国際公開第2005/070963号);CD20結合分子(国際公開第2005/016969号;米国特許出願公開第2005/0069545号);二重特異性抗体(国際公開第2005/014618号);ヒト化LL2モノクローナル抗体(米国特許出願公開第2005/0106108号);CD20に対するキメラ又はヒト化B−Ly1抗体(国際公開第2005/044859号;米国特許出願公開第2005/0123546号);=A20抗体又はその変異体、例えばキメラ又はヒト化A20抗体(それぞれcA20,hA20)及びIMMUN−106(米国特許出願公開第2003/0219433号);及びInternational・Leukocyte・Typing・Workshopから入手可能なモノクローナル抗体L27、G28−2、93−1B3、B−C1又はNU−B2(Valentine等(1987) In: Leukocyte Typing III, McMichael編, p. 440, Oxford University Press)。例示的なCD20抗体は、キメラ、ヒト化、又はヒトCD20抗体、例えばリツキシマブ、ヒト化2H7、キメラ又はヒト化A20抗体、例えばHUMAX−CD20TM、ヒトCD20抗体(Genmab)、及びCD20に結合する免疫グロブリン/タンパク質(Trubion Pharm社)を含む。
【0035】
「無傷」抗体は、抗原結合可変領域、並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそれらのアミノ酸配列変異体でありうる。
無傷抗体は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物学的活性を意味する一又は複数の「エフェクター機能」を有する。抗体エフェクター機能の例は、C1q結合性;補体依存性細胞傷害性;Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC);ファゴサイトーシス;細胞表面レセプター(例えばB細胞レセプター;BCR)のダウンレギュレーション等々を含む。
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、無傷抗体を様々な「クラス」にあてがうことができる。無傷抗体の5種の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらの幾つかは更に「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2に分けることができる。抗体の異なったクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なったクラスのサブユニット構造及び3次元構造はよく知られている。
【0036】
「アミノ酸配列変異体」なる用語は、天然配列ポリペプチドとはある程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。通常は、アミノ酸配列変異体は、天然抗体の少なくとも一のレセプター結合ドメインと、又は天然レセプターの少なくとも一のリガンド結合ドメインと少なくとも約70%の配列同一性を有し、好ましくは、それらはかかるレセプター又はリガンド結合ドメインと少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の配列相同であろう。アミノ酸配列変異体は、天然アミノ酸配列のアミノ酸配列内のある位置に置換、欠失、及び/又は挿入を有する。アミノ酸は一般的な名称、一文字及び三文字コードによって標示される。
「配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要ならばギャップを導入した後に同一であるアミノ酸配列変異体中の残基の百分率として定義される。アラインメントのための方法及びコンピュータプログラムは当該分野でよく知られている。一つのかかるコンピュータプログラムはジェネンテック社が著作した「Align2」であり、これは、1991年12月10日に合衆国著作権庁(Washington, DC 20559)に使用者用書類と共に出願されている。
【0037】
タンパク質発現及び生産
組換えタンパク質はベクターからDNAをクローニングし、当該分野で知られた方法によって発現される。本発明の多価電解質精製方法のためのタンパク質は、原核細胞、酵母、より高等の真核細胞のような適切な宿主細胞から生産することができる。この目的のための適切な原核生物は、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性微生物、例えば大腸菌のような腸内細菌科、例えば大腸菌(E. coli)、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)、セラチア、例えばセラチア・マルセセンス 、及び赤痢菌、並びに桿菌、例えばバチルス・スブチリス(B. subtilis)及びバチルス・リケニフォルミス(B. licheniformis)(例えば、1989年4月12日発行のDD266710に記載されたバチルス・リケニフォルミス41P)、シュードモナス、例えば緑膿菌及びストレプトマイセスを含む。一つの好ましい大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)、及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような他の株も適している。これらの例は限定ではなく例示的なものである。
【0038】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母のような真核微生物が、CD20結合抗体コード化ベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に使用されているものである。しかしながら、多くの他の属、種、及び株が一般的に利用でき、ここで有用であり、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クリュイベロミセス宿主(Kluyveromyces hosts)、例えばクリュイベロミセスラクチス(K. lactis)、クリュイベロミセス・フラギリス(K. fragilis)(ATCC12424)、クリュイベロミセス・ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16045)、クリュイベロミセス・ウィケラミイ(K. wickeramii)(ATCC24178)、クリュイベロミセス・ワルチイ(K. waltii)(ATCC56500)、クリュイベロミセス・ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36906)、クリュイベロミセス・テモトレランス(K. thermotolerans)、及びクリュイベロミセス・マルキシアナス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(欧州特許出願公開第402226号);ピシア・パストリス(Pichia pastoris)(欧州特許出願公開第183070号);カンジダ;トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許出願公開第244234号);アカパンカビ;シュワニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュワニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);及び糸状真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム(Tolypocladium)、及びアスペルギルス宿主、例えばアスペルギルス・ニダランス及びアスペルギルス・ニガーである。
【0039】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞真核生物から由来のものでありうる。非脊椎動物細胞の例には、植物及び昆虫細胞が含まれる。多くのバキュロウイルス株及び変異体、及びヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(幼虫(caterpillar))、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ)、及びカイコ等の宿主に対応する許容性昆虫宿主細胞が同定されている。種々のトランスフェクション用のウィルス株、例えばオートグラファ・カルフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異株、カイコNPVのBm-5株が公に入手でき、このようなウィルスは、本発明に係るウィルスとして、特に、ヨトウガ細胞のトランスフェクションのために使用することができる。
培養(組織培養)での脊椎動物細胞の増殖はルーチン作業となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40(COS−7)で形質転換させたサル腎CV1株;ヒト胚芽腎細胞株(293又は懸濁培養で増殖するようにサブクローン化された293細胞,Graham等(1977) J.Gen Virol.,36:59);ベビーハムスター腎細胞(BHK);チヤイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub等(1980) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216) Mather (1980) Biol. Reprod. 23:243-251;サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎細胞(MDCK);バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562);TRI細胞(Mather等(1982) Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68);MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝臓癌細胞(HepG2)である。
宿主細胞は、抗体生産のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘発し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に改変した通常の栄養培地で培養される。
【0040】
本発明の方法のための抗体を生産するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販増殖培地、例えばハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地(MEM)(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)、及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等(1979) Meth. Enz. 58:44, Barnes等(1980) Anal. Biochem. 102:255、米国特許第4767704号;同第4657866号;同第4927762号;同第4560655号;同第5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国特許再発行第30985号に記載された培地の何れかも宿主細胞に対する培養培地として使用できる。これらの培地の何れにも、ホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばMES及びHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシンTM薬)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常は存在する無機化合物として定義される)、及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含められうる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0041】
対象のタンパク質を含む収集された細胞培養液が一度得られれば、細胞によって生産される他のタンパク質からのその分離は、通常は、異なったクロマトグラフィー技術の組合せを使用して試みられる。これらの技術はタンパク質の混合物を、その]電荷、疎水性度、又はサイズに基づいて分離する。数種の異なったクロマトグラフィー樹脂をこれらの技術のそれぞれについて利用でき、関連した特定のタンパク質に対して精製スキームを精確に適合化することが可能になる。これらの分離方法の各々の本質は、タンパク質を長いカラムに沿って異なった速度で移動させ、それらがカラムを更に通過する際に増加する物理的分離を達成し、又は分離媒体に選択的に付着させ、ついで異なった溶媒によって差次的に溶離させることができることである。ある場合には、所望のタンパク質は、不純物が特異的にカラムに付着し、対象のタンパク質が付着しない、つまり対象タンパク質が「フロースルー」中に存在している場合に不純物から分離される。
【0042】
組換え技術を使用する場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔内に生成されるか、又は培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内に生産される場合、第1段階として、宿主細胞か又は溶菌断片の粒状屑を、例えば遠心分離又は限外濾過によって取り除く。例えば、抗体は大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される(Carter等(1992) Bio/Technology 10:163-167)。細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で、約30分以上かけて解凍しうる。細胞屑は遠心分離により除去することができる。抗体が培地中へ分泌されている場合、そのような発現系からの上清が、一般的には、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットを用いて最初に濃縮される。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記工程の何れかに含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性の汚染物の増殖を防止してもよい。
【0043】
細胞から発現されたタンパク質を精製するための伝統的な方法は、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びそれらの組合せを含む(Fahrner, R.L.等(2001) Biotechnol. Genet. Eng. Rev. 18:301-327)。プロテインAは、様々な支持体上に固定化されうるアフィニティリガンドとして一般的に使用され、発現したタンパク質を含む収集された細胞培養液(HCCF)の初期段階の濃縮を可能にする。プロテインAは、Fc領域を含む抗体のようなタンパク質のアフィニティクロマトグラフィーのための有用な吸着剤である。プロテインAは、抗体のFc領域に高親和性(ヒトIgGに対して約10−8M)をもって結合する黄色ブドウ球菌由来の41kDの細胞壁タンパク質である(Sulkowski, E. (1987) Protein Purification: Micro to Macro, pgs 177-195;Chadha等(1981) Preparative Biochemistry 11(4):467-482;Reifsnyder等(1996) J. Chromatography 753:73-80;米国特許第6127526号;同第6333398号)。プロテインAは、ガラス、シリカ、アガロース又はポリスチレンのような固相に固定されうる。固相は精製カラム又は分散粒子の不連続相、例えば孔制御ガラスカラム又は珪酸カラムであり得、又は固相への汚染物質の非特異的な付着を防止するように意図された試薬(例えばグリセロール)で被覆されうる(米国特許第6870034号)。Bioprocessing社から市販されているPROSEP ATMカラムは、グリセロールが被覆されたプロテインA孔制御ガラスカラムの例である。ここで考えられるカラムの他の例は、POROS50ATM(ポリスチレン)カラム又はrプロテインAセファロース・ファーストフローTM(アガロース)カラムを含む。プロテインAクロマトグラフィーのための固相は適切なバッファーで平衡化されうる。例えば、平衡バッファーは、25mMトリス、25mMのNaCl、5mMのEDTA,pH7.1でありうる。
【0044】
クロマトグラフィー媒体に固定された場合、プロテインAは、それが複合溶液中で抗体に選択的に結合でき、宿主細胞タンパク質及び低分子のような不純物を通過させるので、組換え抗体の精製のための技術を提供する。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等(1983) J. Immunol. Meth. 62: 1-13)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等(1986) EMBO J. 5: 15671575)。アフィニティリガンドが結合するマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がC3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)でのヘパリンセファロースTMクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術も、回収される抗体に応じてまた利用可能である。
【0045】
多価電解質
多価電解質は荷電単量体単位からなる水溶性ポリマーである。本発明の多価電解質の単量体単位は、酸性度(pH)に応じて水溶液中においてプロトン解離(イオン化)を受ける電解質(荷電官能性)を担持している。多価電解質の荷電官能性の例には、限定するものではないが、スルホン酸、リン酸、カルボン酸、及びアミン、及びそれらの各イオン:スルホネート、ホスホネート、カルボキシレート、及びアンモニウムが含まれる。解離は溶液のイオン強度及び電気伝導度に影響を及ぼす。
本発明の方法に有用な多価電解質は、約千(1000)ダルトン(Da)から約百万(1000000)ダルトンの範囲の分子量を有しうる。本発明の多価電解質は、広範囲の鎖長、すなわち約1200ダルトン(Da)から約百万(1000000)ダルトンの分子量範囲を持つが、あるタイプの反復単量体単位の混合物として使用されうる。混合物は狭い範囲でもよく、例えば1200Daから約2400Da、又は約4000Daから約8000Daでもよい。平均分子量及び分子量分布のプロファイルは、単量体単位のある重合条件下、例えば濃度、重合開始剤又は触媒、温度、又は時間によって制御されうる。多価電解質の平均分子量及び分子量分布のプロファイルはまた所定の調製用精製法の下で選択することもできる。
【0046】
負に荷電したアニオン性多価電解質と、正に荷電したカチオン性多価電解質を沈殿反応において使用することができる。溶液pHが特定の抗体のpIより低い場合、抗体は正に荷電する。これらの条件下で、カチオン性多価電解質は不純物を沈殿させ、対象の抗体を溶液中に残しうる。逆に、アニオン性多価電解質は抗体を沈殿させ、タンパク質・多価電解質沈殿物を形成し、溶液中に不純物を残す。本発明の方法に対する多価電解質の選択の他の因子は官能基安定性及び反応性、分子量、電荷密度及び鎖堅さを含む。
本発明の多価電解質はカチオン性及びアニオン性の双方に荷電した官能性を担持する多価両性電解質を含む。
【0047】
本発明のポリアニオン多価電解質の例には、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルスルホネート(PVS)、ポリスチレンスルホン酸(PSS,ポリ(4−ビニルベンゼンスルホネート金属塩))、ポリメタクリレート(PMA)、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホネート(PAMPS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、無水マレイン酸・スチレン共重合体(MAS,無水マレイン酸・ビニルメチルエーテル共重合体(MAVE)、ポリアスパルテート、ポリグルタメート、硫酸デキストラン、ペクチン、アルギネート、及びグリコサミノグリカン、例えば硫酸コンドロイチン、ヘパリン/ヘパラン硫酸;及びその全ての塩及び共重合体が含まれる。
【0048】
ポリアクリル酸(PAA)とポリビニルスルホン酸(PVS)、及びそのアニオンであるポリアクリレートとポリビニルスルホネートがそれぞれ本発明の方法のために有用な多価電解質である。PAAはPVSと類似の構造的性質を有している。双方ともポリマーであり、直鎖状炭素骨格を有している。該二つの多価電解質はその官能基において異なる。PVSは、約1のpKaを付与するスルホン酸官能基を有する。これに対して、PAAはカルボン酸官能基を有し約5のpKaを有する。PVSはサイズ排除によって1800Daの平均であると定量されている単一の分子量で入手でき、ここで、動的光散乱検出で、平均nは約10−20である。PAAは、平均nがそれぞれ約15−20及び100−120である1200及び8000を含む複数分子量で市販されている。PAA及びPVSはSigma−Aldrich社(St.Louis MO)、Polysciences社(Warrington, PA)、及びCarbomer社(San Diego, CA)から購入した。



【0049】
本発明の正に荷電したポリカチオン多価電解質の例には、ポリアルギニン(PLA、例えばポリ−L−アルギニン塩酸塩:Sigma−Aldrich P−4463,MW5−15kDa,P−7762 MW 15−70kDa,P−3892,MW>70kDa,CAS番号26982−20−7,及びポリ−L−アルギニンサルフェート,Sigma−Aldrich P−7637 MW15−50kDa,CAS番号26700−68−5);ポリリジン(例えばポリ−L−リジン塩酸塩 CAS番号:26124−78−7,Sigma−Aldrich:P−2658 MW15−30kDa,CAS番号26124−78−7,PLL,Jacobson,B.S.及びBranton,D.(1977)Science 195, 302)、ポリオルニチン(例えばポリ−L−オルニチン,Sigma−Aldrich P−2533 MW15−30kDa,CAS番号26982−21−8)、ポリビニルグアニジン(ポリ(ビニルグアニジン),米国特許第6087448号)、塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリ(臭化N−エチル−4−ビニルピリジニウム)、塩化ポリメチルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、及びポリヒスチジンが含まれる。


【0050】
モノクローナル抗体の精製における多価電解質沈殿
多価電解質沈殿を、精製中に抗体を不純物から分離するために使用することができる。これらの不純物には、宿主細胞不純物、例えばCHOタンパク質(CHOP)及び大腸菌タンパク質(ECP)、細胞培養成分、例えばインスリン、ゲンタマイシン、及びDNA、インプロセス不純物、例えば浸出プロテインA、及び生成物関連不純物、例えば抗体凝集物及び断片が含まれる。沈殿工程は既存のクロマトグラフィー分離法に対する代替となりうる。あるいは、タンパク質の多価電解質沈殿を、真核生物又は原核生物培養からの収集された細胞培養液(HCCF)から直接捕捉工程として、又は中間精製工程として使用することができる。また、多価電解質沈殿は、HCCFを含む細胞培養液を清澄化するタンパク質精製における清澄化工程として使用することができる。多価電解質は、原核又は真核細胞培養中で発現された抗体のようなタンパク質を含む混合物の速やかで効率的な清澄化、濃縮、沈殿、又は精製を可能にする凝集(flocculent)物質を細胞培養液中に形成しうる。本発明の多価電解質精製法は、遠心分離、濾過、及びクロマトグラフィー操作のような収集操作に取って代わりうる。本発明の多価電解質精製法は、抗体のようなタンパク質の精製において驚くべきかつ予期せぬ効果をもたらす。
【0051】
多価電解質沈殿に対して最適化される条件は、溶液pH、伝導率、バッファー、タンパク質濃度、多価電解質濃度、並びに攪拌の速度とタイプ、多価電解質の添加速度を含む。
沈殿は攪拌を伴う反応器において実施されうる。抗体プールのpH及び伝導率は、溶解度曲線から特定される最適条件に基づいてターゲット条件に調整されうる。多価電解質は添加され混合される。攪拌の速度とタイプは沈殿効率と沈殿する時間に影響しうる。沈殿が多価電解質の添加に続く。沈殿剤は濾過又は遠心分離を使用して上清から分離される。濾過が使用されるアニオン性多価電解質沈殿では、沈殿剤は洗浄バッファーを用いて洗浄される。抗体を含む沈殿剤はついで再懸濁させ、下流で処理されうる。インラインで、つまり攪拌槽を用いないで沈殿を実施することがまた可能であり、抗体プールを標的pHに調節し、ついで多価電解質を加えうる。濾過装置又は遠心機の何れかにインラインで実施されうるプールの希釈まで完全な沈殿は生じない。あるいは、抗体プールを標的pHに調節した後に、希釈がインラインで実施され、ついで、濾過装置又は遠心機の前に多価電解質がインラインで添加される。
【0052】
一例では、ヒト成長ホルモン(pI 5.2)は、pH7のバッファー中で結晶化又は沈殿すると、負に荷電し、よってカチオン性多価電解質と相互作用し又は複合体化する。同様に、9を越えるpIを持つモノクローナル抗体、例えばリツキシマブ及びトラスツズマブは、中性バッファー中でアニオン性多価電解質と複合体を形成しうる。タンパク質の正味電荷の推定値は、一度アミノ酸配列が公に利用可能なプログラムによって確認されれば、計算することができる。酸性タンパク質、つまり高含有量のアスパラギン酸(pKa 4.5)及びグルタミン酸(pKa 4.5)を有するタンパク質は、典型的には6から6.4より低いpIを有している。他方、塩基性タンパク質、つまり、高含有量のヒスチジン(pKa 6.2)、リジン(pKa 10.4)及びアルギニン(pKa 12)を有するタンパク質は、典型的には約7.5から8より大きいpIを有している。双方に対して、中性タンパク質、つまり典型的には同様な量の酸性及び塩基性アミノ酸残基を有するものは、中性であるpIを有している(pIは典型的には約6.5から7.4である)。
【0053】
網羅的なリストではないが、様々な治療用タンパク質のpIの幾つかの例は次の通りである:組換えヒトエリスロポエチン(pI 4);ドルナーゼアルファ,rhDNase(PULMOZYME(登録商標))(pI 5);エタネルセプト(ENBRELTM)(pI 5.1);インスリン(pI 5.4);顆粒球コロニー刺激因子(pI 5.5−5.9);TNFα(pI 5.6);フィブロラーゼ(pI 6.7);IL−1β(pI 6.9);組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(pI 6.5−8.5);オルソクローンOKT3(pI 6.7−7.2);第VIII因子(pI 7−7.6);ウシソマトトロピン(pI 7.4);インターロイキン2(pI 7.44);インスリン様増殖因子−1(pI 8.4)及びアプロチニン(pI 10.5)。
【0054】
アニオン性多価電解質沈殿法を、幾つかの例示的抗体(抗CD20 rhuMab2H7,rhuMab DR5 Apomab,及び抗cMet)に対する陽イオン交換(SPSFF)工程の代替として、またrhuMab2H7(オクレリツマブ)に対するプロテインA(Prosep vA)工程の代替として評価した。他の抗体、及び他のタンパク質は、ここに記載の多価電解質沈殿法によって精製することができる。溶解度曲線を使用して、該3種の抗体に対して効果的な又は最適な沈殿条件(pH、伝導率及びポリマー濃度)を特定した。多価電解質沈殿工程は、宿主細胞タンパク質、例えばチャイニーズハムスター卵巣タンパク質(CHOP)及び大腸菌タンパク質(ECP)、浸出プロテインA、低分子、例えばインスリン及びゲンタマイシン、並びに抗体断片及び凝集物を低減させる能力を証明した。多価電解質沈殿工程はCDC活性によって測定して2H7の生物活性に対して負の影響を有していなかった。多価電解質PVSは、陰イオン交換(QSFF)クロマトグラフィーを使用して1μg/mL未満のレベルまで沈殿タンパク質から除去した。
【0055】
様々な列のプロセス工程を図1−3のフロー図に示す。工程を組合せ、また省略して、タンパク質精製とプロセス効率に対するその効果を判断した。収集された細胞培養液(HCCF)からの発現タンパク質の精製のために現在当該分野で実施されている一つの標準的な方法は、図1の左欄に示されているように、3つのクロマトグラフィー工程:(1)プロテインA捕捉(Prosep vA)、(2)陽イオン交換(SPSFF)及び(3)陰イオン交換(QSFF)を使用する。精製を、プロテインA捕捉と直接続く陰イオン交換によって(中央欄、図1)試みた。陽イオン交換工程はpH7でのPVS沈殿工程で置き換えることができる(右欄、図1)。収集された細胞培養液は、プロテインA捕捉なしで、最初の陽イオン交換と直接続く陰イオン交換(左欄、図2)、又はpH7でのPVS沈殿と続く陰イオン交換(右欄、図2)によって処理されうる。多価電解質沈殿は、HCCFからの直接捕捉と、続く陰イオン交換、次の陽イオン交換クロマトグラフィー(図3)によって実施することができる。多価電解質沈殿はpH5(左欄、図3)及びpH7(右欄、図3)実施した。
【0056】
抗CD20抗体rhuMab 2H7に対する沈殿条件の選択
溶解度曲線を、ある範囲のイオン強度に対して、組換えヒト化抗CD20モノクローナル抗体rhuMab2H7について作成した。溶解度曲線は、沈殿後の上清中に残る残留タンパク質(パーセントとして表される)対PVSモル/抗体モルとして表されるPVSの濃度のプロットである。溶解度曲線は、プロテインAプールに対してpH5及びpH7(図4及び5)にて、pH7での直接捕捉工程として使用した場合、SPSFFプール(図6)に対して、またpH5及びpH7にてHCCF(図7)に対して、作成した。これらの曲線を使用して、調製用スケールの沈殿を実施するであろうpH、イオン強度及びPVS濃度を選択した。
【0057】
プロテインAプールの沈殿(図4及び図5)
PVS濃度を増加させた場合、溶液中に残る抗体の減少パーセント−C/Co、つまり溶液中の抗体濃度を全抗体で割ったものによって示されるように(図4)、pH5で即座の沈殿があった。C/Co(%)は、最初のタンパク質によって割った沈殿していないタンパク質の割合(%)である。C/Co(%)が0%である場合、完全な沈殿が生じた。
イオン強度を減少させることによって、大きなレベルの沈殿を達成することができた(4.7mS/cm対3.0mS/cm(ここで、mSは伝導率の単位ミリジーメンスである))。pH7では、有意な沈殿を達成するために希釈が必要であった(図5)。伝導率を減少させると、沈殿の増加があった。完全な沈殿が0.7mS/cmの伝導率で観察された。特定の伝導率では、一度最大レベルの沈殿が観察されたところで、更なるPVSの添加が沈殿剤を再溶解させた。
SPSFFプール(図6)及びHCCF(図7)の沈殿:同様な傾向がSPSFFプール及びHCCFで観察された。伝導率が減少すると、沈殿の増加があった。特定の伝導率では、一度最大レベルの沈殿が観察されたところで、更なるPVSの添加が沈殿剤を再溶解させた。
【0058】
多価電解質分子量の影響の評価
PVSをPAAと比較する溶解度曲線をまた作成した。溶解度曲線は、沈殿後の上清中に残る残留タンパク質(パーセントとして表される)対多価電解質モル/抗体モルとして表される多価電解質の濃度のプロットである。溶解度曲線は、pH5(図8)及びpH7(図9)で測定した抗CD20抗体(rhuMab−2H7,pI 9.0,150kDa)当たりの多価電解質の均等物の範囲にわたるPAA(1200及び8000Da)及びPVS(1800Da)に対するものである。PAAの分子量形態(8000Da)が高くなると、PAA(1200Da)及び(1800Da)PVS多価電解質の低分子量と比較してpH5及び5mS/cmの伝導率値でより多い沈殿が生じる(図9)。同様な傾向がpH7及び1.5mS/cmで観察された(図9)。より多い分子量8000DaのPAAは、低分子量1200DaのPAA及び1800DaのPVS多価電解質と比較してpH7及び1.5mS/cmの伝導率値でより大きな沈殿に至る。コンダクタンスの基本的な単位は以前にはmhoと呼ばれるシーメンス(S)である。伝導率の測定値は温度依存性である。伝導率値はmS/cmとして表される。双方の場合、より大きいPAA多価電解質は、多価電解質の更なる添加が沈殿剤を再溶解させる前に最大の沈殿を達成するために必要とされる多価電解質の濃度に関して狭い操作範囲を有していた。多価電解質の分子量の増加はより高い伝導率で沈殿を行わしめうる。
【0059】
pH7及び1.5mS/cmでの抗CD20抗体(リツキシマブ)沈殿に対する多価電解質分子量の効果を、1200Daから1100000Daの分子量範囲内のPAAで調査した(図10)。分子量の増加はこれらの条件下で沈殿を増加させた。pH7及び1.5mS/cmでは、35000Da(35kDa)より多い分子量のPAAが使用されるまで完全な沈殿は達成されなかった。
pH7及び12mS/cmでのヒト化抗CD20抗体の沈殿に対する多価電解質分子の効果を、1800Daから1132000Daの分子量範囲内のポリスチレンスルホネート(PSS)を用いてまた調査した(図33)。溶解度曲線を、この分子量範囲にわたるヒト化抗CD20抗体のPSS沈殿に対して作成した。分子量が増加すると、これらの条件下で沈殿が増加した。pH7及び12mS/cmでは、220000Da(220kDa)より大きい分子量を持つPSSが使用されるまで、完全な沈殿は達成されなかった。PSSの使用は、沈殿がより高い伝導率で実施されることを可能にし、完全な沈殿を達成するためにプールの伝導率/イオン強度を低下させる必要性を最小化する。
【0060】
不純物の除去に対する多価電解質分子量の効果を表1の条件下で測定し、下流の処理結果を表2に示す。沈殿工程後、PAA8000Daは、PAA1200Da又はPVSよりも高いレベルのチャイニーズハムスター卵巣タンパク質(CHOP)を有していた(表2)。QSFFプールにおいて、同様のCHOPレベルが、精製に使用される多価電解質の分子量に無関係に全てのプールに対して観察された。PAAの分子量は共に浸出プロテインA及び抗体断片を同様なレベルまで減少させたが、凝集物レベルには負の影響はなかった。
【0061】


【0062】
抗CD20抗体精製
多価電解質沈殿を陽イオン交換クロマトグラフィー工程の代替として最初に評価した。陽イオン交換工程の第一の機能は、宿主細胞不純物を減少させ、浸出タンパク質、ゲンタマイシン、DNAを除去し、存在するならば抗体凝集物を低減することである(図11)。インスリンは先のプテインA工程によって除去される。PVS沈殿工程はSPSFF工程と同様なレベルまでCHOPを低減させた。それはまた浸出プロテインA及び抗体断片を低減させた。SPSFF工程と同じ程度ではないが、沈殿工程においてゲンタマイシンの減少があった。DNAアッセイはPVSの存在下で機能しないので、沈殿工程におけるPVS除去は評価できなかった。沈殿工程の付加は抗体凝集物を増加させず、又はCDC活性によって測定される生物学的活性に影響を及ぼさなかった(図11及び表3)。
【0063】
よりチャレンジングな原料を提供するために、HCCFをSPSFFカラムで直接処理した。SPSFFプールは、最初の捕捉工程として使用した場合、プロテインAプールよりも4倍高いCHOPを有していた(図11)。断片%はまたプロテインA捕捉プロセスよりも高かった(9.24%対0.24%)。陽イオン交換工程で抗体と共に同時精製されるプロテアーゼは抗体の断片化を生じる可能性がある。PVS沈殿工程は断片を5.63%低減させた。CHOPは、沈殿工程のない場合71ng/mgと比較して、プロセスによって4.1ng/mgまで低減した。ゲンタマイシンはまた沈殿工程によって有意に低減した(146から8ng/mg)。インスリン及びDNAは最初のSPSFF捕捉工程によって低レベルまで減少させられたので、その排除は評価できなかった。コントロール実験(SPSFF−QSFF)における高い断片レベルは87%の減少したCDC活性を生じた(表3)。これに対して、PVS沈殿実験は100%CDC活性を有していた。
【0064】
PVS工程をまたHCCFからの直接捕捉工程として評価した。pH7でのPVS沈殿工程はインスリンを除去した(図11)。これに対して、pH5でのPVS沈殿工程だけがインスリンレベルを部分的に低下させた。pH7でのPVS沈殿はpH5での沈殿よりも3倍多い宿主タンパク質を除去した。疎水性相互作用のような直交クロマトグラフィー法との最終のSPSFF工程の置換は宿主細胞不純物を更に減少させうる。pH5での捕捉では、陽イオン交換工程において4.66%の抗体断片の増加があった。これはpH7の捕捉工程では生じなかった。これは、pH5では(SPSFF捕捉工程では更に)、酸性プロテアーゼが同時精製され、抗体断片の増加を生じたことを示唆しうる。沈殿工程の添加は、CDC活性によって測定した生物学的活性に影響を与えなかった(表3)。Qプールを、補体依存性細胞傷害性(CDC)アッセイを使用して生物学的活性/作用強度について分析した。このアッセイは、ヒト補体の存在下でWIL2−S細胞を溶解させるrhuMAb2H7の能力を測定することに基づく。
【0065】

【0066】
多価電解質の除去(再懸濁した抗体からの多価電解質の除去)をリボヌクレアーゼAの阻害に基づくFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイを使用して決定した。PVSはリボヌクレアーゼAの強力な阻害剤である。該アッセイは、一端に蛍光標識を、他端にクエンチャーを有するRNAアナログを使用する。RNAアナログが一度リボヌクレアーゼAによって切断されると、蛍光標識がクエンチャーから放出され、発光を生じる。PVSの存在はリボヌクレアーゼA活性を阻害し、蛍光発光を制限する。ついで、PVSの量を、試験試料からの観察蛍光を検量線と比較することによって決定することができる。全ての場合、PVSはQSFFクロマトグラフィーで1μg/μl未満まで除去された(表4)。
【0067】

【0068】
rhuMab DR5 Apomab精製
多価電解質沈殿プロセスを開発し、抗体rhuMab DR5 Apomab(pI 8.0,150kDa)の精製に適用した。デスドメイン含有レセプター-5(DR5)タンパク質は腫瘍壊死因子(TNF)レセプターファミリーのメンバーである(米国特許第6872568号;米国特許第6743625号)。標準的なクロマトグラフィープロセスはProsep vA、SPSFF及びQSFF樹脂を使用する。多価電解質沈殿プロセスを、問題のある宿主細胞タンパク質不純物グルタチオン−s−トランスフェラーゼ(GST)を除去するために改変した。Prosep vA工程は、0.4Mのリン酸カリウム、pH7での洗浄に対して、pH5、0.5MのTMACでの洗浄を有している。SPSFF工程は浅い勾配で溶離され、およそ12カラム容積のプール容積を付与する。PVS沈殿をSPSFF工程に対する代替として評価した。溶解度曲線を5.5から7.0のpH範囲に対して作成した。pHを増加させると、イオン強度を減少させるための希釈が完全な沈殿を達成するために必要とされた(図12及び13)。図12において、pHの増加に伴ってイオン強度を減少させるための希釈が完全な沈殿を達成するために必要とされた。pH5.5及び5.1mS/cmの伝導率で、完全な沈殿が観察された。しかしながら、pH6では、完全な沈殿を達成するためにプールを3mS/cmに希釈することが必要であった。図13において、pHの増加に伴ってイオン強度を減少させるための希釈が完全な沈殿を達成するために必要とされた。pH6.5で、完全な沈殿が1.5mS/cmで観察された。pH7では、完全な沈殿を達成するためにプールを0.7mS/cmに希釈することが必要であった。
【0069】
一度完全な沈殿が達成されると、更なるPVSの添加は沈殿剤を再溶解させた。この効果は図14に写真によって例証する。図14はApomab溶液のフラスコ中における0.1%PVS(w/v)の沈殿効果と、1%PVS(w/v)での再溶解を示す。溶解度曲線を使用して、表5に概略を記した沈殿条件を選択した。PVS沈殿はpH5.5とpH7.0の間で実施した。pHを増加させると、収率が僅かに減少したが、CHOP及び浸出プロテインA除去が改善された(表6)。これらのプールをついでQSFFカラムで処理し、コントロール実験と比較した(表6)。SPSFF工程又はPVS沈殿工程は、CHOPを<0.79ng/mgまで除去し、浸出プロテインAを<2ng/mgまで除去するのに必要であった。これに対して、SPSFF又は沈殿工程のないコントロール実験では17ng/mgのCHOPと4ng/mgの浸出プロテインAであった。PVS沈殿はまたGSTを、SPSFF工程と同じレベルまでではないが減少させる能力を実証した。
【0070】


【0071】
抗cMet精製
溶解度曲線をある範囲のpHにわたって抗cMetに対して作成し、限られた材料の入手性のためにイオン強度を選択した。溶解度曲線を、pH4−pH7に調節したプロテインAプールから作成した(図15)。これらの曲線を使用して、調製的スケールの沈殿が実施されうるpH、イオン強度及びPVS濃度を選択した。pH4と2mS/cmの伝導率で、抗cMetは、40より多いPVS:Abモル比で溶液から完全に沈殿した(図15)。pH5で、溶解度曲線は、1mS/cm及び2.4mS/cmの伝導率で得られた。より高い伝導率では、抗cMetは溶液から十分には沈殿しなかった。溶液伝導率を1mS/cmまで低下させることによって、抗cMetはより容易に溶液から沈殿した。この伝導率で、最大の沈殿が、100のPVS:Abモル比で生じた。100を越えるモル比では、多価電解質複合体が、おそらくは多価電解質電荷−電荷反発効果によって、溶解度を増加させた。pH4及びpH5、〜2mS/cmの伝導率での溶解度曲線の比較は、溶液対イオンによる静電遮蔽効果がバルク相分離が生じるpHに影響を及ぼし、溶液イオン強度の減少がpHの増加に応じて必要であることを示唆している。pH6及びpH7及び0.5mS/cmの溶液伝導率では、抗cMetは、試験したPVS濃度に対して十分には溶液から沈殿しなかった。21%(C/Co=.79)及び12%(C/Co=.88)の最大の沈殿がそれぞれpH6及びpH7で生じた。pH6及びpH7での抗cMetの溶解度曲線は類似のタンパク質pI8.3を持つ完全長ヒト化抗体と比較して顕著に異なっている。例えば、類似の条件、pH7.0及び0.7mS/cmの伝導率を使用して、Apomabはこれらの実験で同じR値を使用して完全に沈殿する(C/Co=0)。
【0072】
PVS沈殿を伴う抗cMet(pI 8.3,100kDa)の精製プロセスを、4種のクロマトグラフィー工程を使用する標準的プロセス、つまり、プロテインA捕捉工程と続く結合及び溶離モードで実施される二種の陽イオン交換工程とフロースルーモードで操作される最後の疎水性相互作用クロマトグラフィー工程と比較した(表7)。両方の陽イオン交換工程と疎水性相互作用工程を、PVS沈殿と続くフロースルーモードで実施される陰イオン交換クロマトグラフィーで置き換えた。pH4では、沈殿反応は高いイオン強度で実施することができた。しかしながら、pH5での沈殿は、より多くの宿主細胞不純物がこのpHで負に荷電され、よって溶液中に留まるので、より大きな不純物除去をもたらしうる。pH5.0、0.6mS/cmの伝導率及び100(0.1w/v%)のPVSモル比の条件を選択して、溶解度曲線から決定して抗体沈殿を最大化させた。抗cMetのPVS沈殿に対する回収収率はPVS:抗体ペレットの可溶化によって影響を受けた。PVS:抗体ペレットはゲル状であり、可溶化が困難であった。QSFF平衡バッファー中でのペレットの可溶化後には、溶液は粒状物で濁っていた。該溶液を、0.4μMの真空フィルターを使用して簡単に濾過し、清澄な溶液を得、これをQ-セファロース陰イオン交換クロマトグラフィーで処理した。
pH5、0.5mS/cm、及び0.1%PVS(w/v)で実施したPVS沈殿工程は、CM-セファロース工程と同様のレベルまでECPを減少させた(表7)。沈殿プロセスにおいて、浸出プロテインAの有意な減少又は%単量体の増加は観察されなかった。
【0073】

【0074】
沈殿物捕捉のための濾過条件の選択
細胞培養液中の生物学的汚染物質の除去に特に適した吸着剤濾材(濾過媒体)を有するデプスフィルターを本発明の方法において使用することができる。デプスフィルターは典型的には様々な粗生成物流体を清澄化する目的で、哺乳動物細胞培養から誘導される生物製剤の生産において使用されている。セルロースデプスフィルター、例えばMillipore社から市販されているMILLISTAK+(登録商標)フィルターは、水不溶性熱可塑性バインダーに内包された粒状吸着剤のような吸着剤物質の多孔性固定床を有している。得られた複合フィルターは一般的なデプスフィルターより小さい吸着剤粒子でより多い量の吸着剤を許容する。これらの複合フィルターは、堅く構造化されたセルロースデプス媒体の層を含み、例えばコロイド状粒子及び細胞片の保持又は全細胞及び大きな片の保持のような特定の用途に最適化されうる。それらは、単一のフィルターカートリッジ中に、例えば積層膜によって連続的等級の濾材を組み合わせている。かかるデプスフィルターは、含水生成物(タンパク質)流から少量の懸濁物質を除去するポリッシュ又は二次清澄化プロセスにおいて使用することができる。該フィルターはまたコロイド状汚染物質及び他の細胞片を除去することによって、滅菌濾過及びアフィニティクロマトグラフィーのようなより費用のかかる下流の分離プロセスを保護し又はその寿命を延長することもできる。また、かかるデプスフィルターは、微量の凝集タンパク質を除去することによってウイルス排除フィルターの保護にまた役立つ。
【0075】
ある種のデプスフィルターは、また哺乳動物細胞培養において一般的に見出されるある可溶性汚染物質、例えば核酸、宿主細胞タンパク質、脂質、界面活性物質等を様々な度合いで保持しうる。ある種の可溶性汚染物質に対するこの保持能は、デプスフィルター濾材の吸着特性に基づいている。デプスフィルターに典型的に使用される濾材には、微細なセルロース繊維(木材パルプ及び/又は綿誘導)、珪藻土、又は水溶性熱硬化性樹脂バインダーが含まれる(米国特許出願公開第2007/0193938号)。これらの複合体中の珪藻土(微量の様々な珪酸を含む天然形態のシリカ)は典型的には40−60重量%であり、コロイドサイズの生物学的物質、例えば細胞断片、細胞内小器官及び凝集タンパク質、並びに様々な可溶性生化学物質、例えばタンパク質、脂質及び核酸(DNA及びRNA)を吸着する。
【0076】
デプス濾過(深層濾過)をPVS抗体沈殿物のための捕捉工程として評価した。沈殿物の広いサイズ分布は、濾過を使用する沈殿物の捕捉に対する課題を提示する。各濾材を、通常のフロー濾過条件下で沈殿した抗体を用いて試験した。様々な孔径を有するデプスフィルター濾材を、沈殿物を十分に捕捉するその能力についてスクリーニングした。最適な濾材を、沈殿物を十分に捕捉するその能力に基づいて、また高容量まで充填されるその能力について選択した。Vmaxを使用して、フィルターにおける圧力低下を評価し、また最大容量を決定した。表8は評価した濾材を示している。評価したMILLISTAK+(登録商標)CE(セルロースのみ)シリーズの濾材は20CE、35CE及び45CEを含む。評価したMILLISTAK+(登録商標)HC(セルロース及び無機補助濾材)シリーズの濾材はC0HC、B1HC及びA1HC(Rathore等(Aug 1, 2004) BioPharm Intl.;米国特許出願公開第2007/0193938号)。MILLISTAK+(登録商標)フィルターカートリッジ及びシートはミリポア社(Bedford, MA)から入手できる。
【0077】
表8に示すように、20CE濾材は、35CE及び45CEと比較するとより開口している。20CEは5−10ミクロンの名目孔径範囲を有する一方、35CE及び45CEはそれぞれ2−4ミクロン及び0.8−2ミクロンの名目孔径を含んでいる。これらのシリーズの濾材を選択して、抗体(ヒト化2H7変異体)-PVS沈殿物の完全な捕捉を可能にする孔径範囲を絞り込んだ。20CE濾材は沈殿物の45%を捕捉する結果となり、35CEは48%の沈殿物を捕捉する結果となった。これに対して、45CEは97%の沈殿物を捕捉する結果となった。濾材のMillistak+HCシリーズは、Millistak+CEシリーズよりも密である。C0HC濾材は0.2−2ミクロンの名目孔径範囲を有する一方、B1HC及びA1HCはそれぞれ0.05−0.7ミクロン及び0.05−0.4ミクロンの範囲の密な孔径を有している。3種全部が沈殿物の99%を捕捉する結果となった。
【0078】

【0079】
図34は各濾材に対する容量(濾材面積当たりの抗体(2H7)グラムで測定)対圧力低下のVmaxプロットを示す(表8)。17psiの圧力限界を、フィルター汚れのための実験終了を示すように設定した。125g/mのターゲット容量を、フィルター汚れのない場合の実験終了を示すように設定した。A1HC及びB1HC濾材の双方とも17psiに達し、よって最も低い容量を与えた。A1HC濾材を使用する濾過の終わりの容量は40g/mであり、B1HC濾材を使用する濾過の終わりの容量は68g/mであった。C0HCは3.5psiの最大圧で125g/mの最終容量に達した。上述したように、20CE及び30CEは沈殿物の保持は50%未満であり、よってターゲット容量までにはならなかった。45CEは7psiの最大圧でターゲット容量に達した。
【0080】
デプスフィルターの再可溶化のための再可溶化条件の選択
多くの再可溶化方法を、デプスフィルターから捕捉抗体を回収するために評価した。このステップの目標は、高い抗体回収率を有するしっかりとした方法を開発することであった。評価した最初の方法は、高pHで高伝導率バッファーを使用する沈殿物からの抗体の再可溶化であった。高pH及び伝導率条件下で、抗体はあまり正ではなく、溶液中の多くのイオンがPVSと抗体を遮蔽し、それによって沈殿を防止する。8−8.5の範囲のpH及び〜6mS/cmの伝導率での50mMのトリス塩基/50mMの酢酸ナトリウムバッファーを用いて抗体を再可溶化した。バッファーをデプスフィルターに流し、得られたプールは抗体とPVSを含んでいた。抗体を完全に再可溶化するために必要とされるバッファーの流量及び容積のような可変量を評価した。デプスフィルターを通過するバッファーの再循環を、より濃縮されたプールを作製する方法としてまた評価した。
【0081】
図35は、C0HC MILLISTAK+(登録商標)フィルター濾材からの2H7−PVSタンパク質・多価電解質沈殿物を完全に再可溶化するのに必要なバッファーの容積によって収率に対する変動流量の効果を示す。52−130LMH(1時間当たり1平米当たりのリットル、流量測定)及び130−261LMHの範囲の流束は、同様の傾向を示しており、双方の曲線が600mlのバッファーで同様の最終収率を生じる。130LMHの流束での曲線は同じ傾向を示し、また600mlのバッファーで同様の収率を生じる。流量の変動はバッファー容積比に対して収率を改善しなかった。この方法を使用して得られた最も高い抗体濃度は1g/Lであった。
【0082】
デプスフィルターを通したバッファーの再循環を、潜在的により濃縮されたプールを生じうる方法として評価した。バッファーを含むリザーバは入口バッファー及び出口プール容器の双方となった。図36に示すように、二つの範囲の流束(LMHでの再可溶化バッファーの流れ)を試験して、2H7−PVSタンパク質・多価電解質沈殿物としてフィルターから我々のタンパク質の大部分を回収する最適な処理時間を決定した。130−261LMHの範囲の流束は、60分後の261−522LMHの範囲の流束と同じ84%の収率に達した。プール濃度によって、再循環法は、デプスフィルターを通したバッファーの単一通過と比較した場合、より濃縮されたプールを生じた。再循環法を使用して得られた最も高い抗体濃度は2g/Lであった。
【0083】
連続モードでの沈殿反応とデプス濾過捕捉の操作
PVS沈殿は溶液中の強くアニオン性のPVS分子とほんの僅かにカチオン性の抗体分子の間のイオン的相互作用に依存する。PVS沈殿に対して許容可能な範囲まで溶液の伝導率を低下させるためにタンパク質原料を希釈すると、原料容積の大きな増加を引き起こしうる。製造スケールでの可能な容積の制限を避けるために原料をインラインで調整するためのスキームを開発することが必要である。インライン希釈を使用して、混合のためのタンクを必要としないで原料流の伝導率を低下させることができる。調整した原料流にPVS流を一緒にすることによって、PVS・抗体沈殿がインラインで生じ、スケールを大きくする場合に大きな沈殿タンクの必要性を排除しうる。図37は、(i)PVS-MAb粒子凝集を促進するための長い滞留時間及び低い流体速度;(ii)高プロセス処理量を維持するためのインライン反応器の大きな断面積;及び(iii)ラボスケールの実施の目的での、インラインHCCF調整/PVS沈殿設定の概略を示す。
【0084】
PVS・抗体沈殿はPVS及び調整原料流のインライン混合時に直ぐに生じうる一方、PVS・抗体沈殿物粒子凝集プロセスは、流れの乱流、滞留時間、及び平均線流速度に非常に敏感である。低い攪拌滞留時間が、濾過材によって捕捉されるのに十分に大きい沈殿物粒子を形成するのに必要とされる試料粒子凝集に必要とされる。高流れ速度はPVS・Ab沈殿物が大きな凝集物を形成するのを防ぎ、濾材による捕捉が困難でありうる非常に小さい沈殿物粒子の流れをつくり出す。
インラインの連続原料調整/PVS沈殿パイプラインが、連続的に沈殿される原料流を処理する深層(デプス)濾過捕捉法と関連してラボスケールで設けられる。71%−60%の範囲の抗体回収収率が、図37に概略が示されたプロセスで観察され(抗体収率プロットは図38)、インラインPVS沈殿工程に対して9倍のCHOP排除である。
【0085】
カチオン性多価電解質沈殿条件の選択
溶解度曲線を、CCF及びHCCF中の二つの分子量のポリアルギニン(ポリ−L−アルギニン)を使用して作成した。溶解度曲線は、沈殿後の上清中に残った残留タンパク質(パーセントとして表される)対多価電解質重量(g)/溶液容量(mL)として表される多価電解質濃度のプロットである。
溶解度曲線は、ある範囲のイオン強度に対してrhuMab 2H7 CCF(図20)及びHCCF(通常、pH7)について作成した(図21及び22)。これらの曲線を使用して、調製用スケールの沈殿を実施するであろう最適なCHOP沈殿条件、すなわちイオン強度、ポリアルギニン濃度及び分子量を選択した。溶解度曲線はまた抗CD22及びrhuMab C2B8 HCCF(図23及び24)について作成して、沈殿技術の強さ及び一貫性を担保した。二つの沈殿工程、つまりカチオン性多価電解質沈殿と続くアニオン性多価電解質沈殿の抗体精製の実行可能性を評価するために、溶解度曲線を、0.075w/v%の110kDaポリアルギニンでのCCFの凝集から作成されたrhuMab HCCFのPVS沈殿に対して作成した(図25)。ポリアルギニン濃度が増加すると、上清中の残留CHOP(ng/mg)の減少によって示されるように、CHOP沈殿があった。最適なCHOP沈殿は0.2w/v%濃度のポリアルギニンで生じ、CHOPが22倍減少し、95%の収率であった。ポリアルギニン濃度の更なる増加は有意なCHOP減少を生じなかったが、収率には減少が見られた。
【0086】
CHOP沈殿は、rhuMab 2H7 HCCF溶解度曲線(図21及び22)に見られるように、多価電解質のイオン強度及び分子量の関数であると思われる。伝導率が減少すると、沈殿の増加があった。一般に、多価電解質の分子量の増加はCHOP沈殿に大きな影響を持っているようであった。同様な濃度のポリアルギニンでは、より高い分子量の多価電解質(110kDa)が、低分子量多価電解質(42kDa)と比較してより多くのCHOPを沈殿させた。特定の伝導率(3mS/cm以外)では、0.1w/v%を越えるポリアルギニンの添加は更なる有意なCHOPの減少を生じなかった。0.1w/v%濃度のポリアルギニンでは、10倍及び13倍のCHOP減少がそれぞれ42kDa及び110kD分子量に対して得られ、収率は双方の分子量に対して>95%であった。
【0087】
rhuMab 2H7、抗CD22、rhuMab C2B8 HCCF溶解度曲線に見られるように、同様な傾向が抗CD22及びrhuMab C2B8 HCCFで観察された(図23及び24)。0.1w/v%の110kDaポリアルギニンでの抗CD22 HCCFの沈殿は25倍のCHOP減少と95%の収率になった。rhuMab C2B8に対する最適なCHOP沈殿は、0.15w/v%濃度の110kDaポリアルギニンで生じ、これは、20倍のCHOP減少と95%の収率になった。
PVS濃度が増加すると、収率(%)の減少によって示される、試験したpH及び伝導率双方でのポリアルギニンで凝集させられた原料中における抗体の完全な沈殿があった(図25)。これは、試験した条件下での抗体のPVS沈殿に対するポリアルギニンの存在の最小の干渉を示している。pH7及び1.5mS/cmの伝導率では、最大レベルの沈殿が一度観察されると、更なるPVSの添加は沈殿剤を再溶解させた。
【0088】
rhuMab 2H7の下流処理
標準的なプロセスは、現在は3工程のクロマトグラフィー工程、つまりプロテインA捕捉工程と続く陽イオン及び陰イオン交換工程を使用する。PVSと続くQSFF工程での抗体沈殿で、CCFを0.075w/v%の110kDaポリアルギニンで凝集させ、HCCFを処理する工程をプロセスフローa)、表9)に示す。この凝集工程の主要な機能は、固形物(細胞片)を除去することによってCCFを清澄化し、それによって濁度を低減させ、CHOP及びDNAのような宿主細胞不純物を沈殿させることにある。ポリアルギニンは固形物及び細胞培養培地成分を凝集させることができ、CHOPを23480ng/mg(4倍の減少)まで減少させ、DNAを完全に除去した。110kDaポリアルギニンの濃度を0.2w/v%まで増加させると、溶解度曲線によって示して、22倍までのCHOP減少(図20)が得られた。凝集したHCCFのPVS沈殿はCHOPを更に212ng/mgまで低減させ、これはコントロールHCCF−PVSプール中のCHOPよりも有意に少なかった。コントロールHCCF−PVS−Qプールは、ポリ(Arg)HCCF−PVS−Qプールのほぼ2倍のCHOPを有していた。DNAアッセイはPVSの存在下では機能せず、沈殿工程におけるPVS除去は評価できない。全ての工程にわたる収率は、PVS沈殿工程を除いて95%を越えていた(表9)。PVS工程に対するこれらの低収率は、沈殿の機構と条件とは異なり、調製用スケールでの沈殿低順とハンドリングに起因しうる(図25)。SECによる単量体パーセント、インスリン及びゲンタマイシンはこれらのプールに対しては評価されなかった。
【0089】
下流プロセスに対する影響を研究するために、HCCFを0.1w/v%の110kDaポリアルギニンで沈殿させ、様々な精製スキームで取り上げた。抗体に対する収率は97%であり、CHOPは18倍減少させられ、DNAはポリアルギニン沈殿によって完全に除去された。インスリン及びゲンタマイシンはこの沈殿工程によっては排除されなかった。沈殿したHCCFを下流で処理する前に、ブレークスルー曲線を作成して、SPSFF樹脂の負荷容量に対するポリアルギニンの影響を評価した。双方の負荷に対して、ポリアルギニンはHCCF及び沈殿後プロテインAプールを沈殿させ、SPSFFに対する5%のブレークスルーが、コントロール(ポリアルギニン沈殿なし)と同様の樹脂1ml当たり60mgの抗体で生じた。これは、ポリアルギニンがSPSFFの結合能に負には影響を与えなかったことを示している(図26及び27)。
【0090】
標準的な抗体プロセス(プロセスフローb)、表9):ポリアルギニン沈殿HCCFを、プロテインAと続くイオン交換クロマトグラフィーで処理した。ポリアルギニン−プロテインAプールは、負荷減量中のCHOPレベルが非常に異なっていたとしても、コントロールプロテインAと同様なCHOPレベルを有していた。ゲンタマイシン及びインスリンはプロテインA工程によって低レベルまで減少した。CHOPは、沈殿工程のない307ng/mgと比較してSPSFFで3ng/mgまで490倍減少させられた。DNA、浸出プロテインA、インスリン及びゲンタマイシンもまたコントロールプロセス(プロテイン−SPSFF−QSFF)に匹敵する許容可能なレベルまでポリアルギニン−プロテインA−SPプロセスによって減少させられた(表9)。ポリアルギニン沈殿後のSPSFFプールにおいて不純物レベルは許容可能であるので、それらをQSFFで処理することは必要ではない。
【0091】
非親和性抗体精製プロセス(プロセスフローc),表9):ポリアルギニン沈殿HCCFを、SPSFFと続くQSFFによって処理した。沈殿後、SPSFFプールは、沈殿がない場合の6731ng/mgと比較して、63ng/mgのCHOP(76倍の減少)であった。SPSFFはインスリンを完全に除去し、ゲンタマイシンを部分的に減少させた。CHOP除去はポリアルギニン−SPプロセスにおいて良好であり、DNA、インスリン及びゲンタマイシンは、コントロールプロセス(SPSFF−QSFF)に匹敵した(図28)。ポリアルギニン沈殿後、SPSFFプールにおけるCHOPレベルはQSFFプールと同様であり、QSFF工程がこのプロセスにおいて重複していることを示唆している。
【0092】
沈殿/クロマトグラフィー2工程精製プロセス
ポリアルギニン沈殿HCCFをPVSによる抗体沈殿で処理し、ついでQSFFで処理した(プロセスフローd,表9)。PVSプールは、ポリアルギニン沈殿がない1517ng/mgと比較して49ng/mgのCHOP(99倍の減少)であった。PVS沈殿工程はインスリンを完全に除去し、ゲンタマイシンを部分的に減少させた。CHOP除去はポリアルギニン−PVSプロセスにおいて良好であり、DNA及びインスリン除去はコントロールプロセス(SPSFF−QSFF)に匹敵した。ゲンタマイシン除去は、QSFF工程の存在下において、コントロールプロセスにおけるより2倍少なかった。ポリアルギニン沈殿後、SPSFFプール中のCHOPレベルはQSFFプールと同様であり、QSFF工程がこのプロセスにおいて重複していることを示唆している。
【0093】

【0094】
抗体還元の阻害
rhuMAb 2H7を含むHCCFをポリアルギニンで処理し、ステンレス鋼製のミニ缶中に48時間保持し、試料を規則的な時間でサンプリングし、分析した。抗体は無傷で、抗体が10時間で還元し始めるコントロールとは異なり、ポリアルギニン沈殿HCCF中において全期間にわたって還元されなかった(図28)。ポリアルギニンは、他の負に荷電した不純物と共にそれらを沈殿させることによって抗体還元剤を阻害する。
【0095】
他のカチオン性多価電解質の評価
不純物の除去を更に向上させる沈殿条件の最適化は、他の多価電解質の使用並びに攪拌の速度及びタイプ、及び多価電解質添加速度のような他の条件の最適化を含みうる。他の塩基性ポリ(アミノ酸)のポリリジンを、ポリアルギニンとの最初の比較のために選択した。ポリアルギニンはそれにおよそ12.5のpKaを付与するグアニジウムカチオン官能基を有している。ポリリジンはそれにおよそ10.5のpKaを付与する官能基としてアミンカチオンを有している。ポリアルギニンとポリリジンの双方が複数の分子量で市販されている。
【0096】
rhuMab C2B8プロテインAプール溶解度曲線
正に荷電したポリカチオン多価電解質によるCHOP沈殿は、多価電解質のイオン強度及び分子量と相関する(図29及び30)。より低分子量のポリリジン(2.5kDa)は、3−12mS/cmの伝導率範囲ではCHOPを沈殿させなかった。しかしながら、50kDaのポリリジンは、それぞれ3mS/cm及び6mS/cmで、4倍及び2倍のCHOP減少を生じた。12mS/cmでは、有意なCHOP沈殿は観察されなかった。一般に、導電率が減少すると、CHOP沈殿に増加が見られ、多価電解質の分子量の増加はCHOP沈殿に影響を有していると思われた。より低い導電率では、最大のCHOP沈殿が一度得られると、ポリリジンの更なる添加が沈殿物の再可溶化を生じた。収率は試験した全ての条件に対して95%より多かった。
【0097】
rhuMab C2B8 HCCFプール溶解度曲線
同様な傾向が、rhuMab C2B8 HCCFで観察された(図31及び32)。3mS/cm及び6mS/cmの導電率では、50kDa及び225kDa双方のポリリジンは9倍のCHOP減少を生じた。しかしながら、有意なCHOP減少は、たとえ225kDaのポリリジンでも12mS/cmでは得られなかった。これは、高導電率でのCHOP沈殿が、イオンの干渉に打ち克つためにポリアルギニンのような高電荷の多価電解質を必要とすることを示している。収率は試験した全ての条件に対して90%より多かった。
溶解度曲線をポリアルギニンを使用して3種の抗体(rhuMab 2H7、抗CD22及びrhuMab C2B8)に対して作成した(図20−25,29−32)。CHOP沈殿は、多価電解質のpKa、分子量及び濃度、並びに溶液のイオン強度の関数であった。抗体の性質、例えば電荷密度及び等電点はまた抗体からの不純物の分離に所定の役割を果たしうる。CHOP及びDNAのような不純物は、多価電解質濃度及びイオン強度を操作することによって除去される。官能基、分子量、電荷密度及び疎水性のような多価電解質の性質を変化させうる。ポリアルギニンは、CCFにおいて凝集剤として、HCCFにおいて不純物沈殿剤として使用しうる。沈殿は導電率依存性である。10−25倍のCHOP除去が達成され、DNAは検出可能ではなかった(表9)。ポリアルギニンはSPSFFの結合能に負の影響は与えず、アニオン性多価電解質及び陽イオン交換樹脂を用いた抗体沈殿と適合性がある。HCCFへのポリアルギニンの添加はまたおそらくは他の不純物と共に還元剤を沈殿させることによりる抗体還元の阻害を含む驚くべき予期せぬ更なる利点を有している。
【実施例】
【0098】
本発明を例証するために、次の実施例を含める。しかしながら、これらの実施例は本発明を限定するものではなく、本発明を実施する方法を示唆するだけのものである。当業者ならば、記載された例示的な方法、プロトコル、プロセス、試薬、及び装置を本発明の代替方法を実施するように直ぐに適応化することも本発明の範囲にあることを理解するであろう。
【0099】
実施例1 プロテインAクロマトグラフィー
プロテインAカラムはProsep vA樹脂を使用し、これを、HCCF中に存在するrhuMab 2H7を精製するために使用した。カラム直径は2.5cmで、床高さは14cmであった。カラムは40CV/h(時間当たりのカラム容積)の流量で操作した。Prosep vAカラムは複数サイクル(2サイクル)実験した。平衡後、HCCFをカラムに充填し、rhuMab 2H7をカラムに保持した。ついで、カラムを、平衡バッファーと続いて洗浄バッファーと次に再び平衡バッファーで洗浄した。これらの洗浄が完了したところで、溶離バッファーをカラムに充填した。プール化を280nmでの吸光度(0.5OD)に基づいて開始し、2カラム容積後に終了させた。ついで、再生バッファーをカラムに適用した。バッファー組成及び相期間を表10に示す。
【0100】

【0101】
組換え宿主細胞から誘導された収集された細胞培養液 (HCCF)は、平衡バッファーと同じであり得る負荷バッファーを使用して平衡化固相に充填されうる。汚染されている調製物が固相を通って流れる際に、タンパク質が、固定化されたプロテインAに吸着され、他の汚染物質(例えばチャイニーズハムスター卵巣タンパク質CHOP(該タンパク質はCHO細胞で生産される))は固相に非特異的に結合しうる。続いて実施される次の工程は、中間洗浄工程において固相を洗浄することにより、固相、抗体及び/又はプロテインAに結合した汚染物質を除去することを含む。充填後、中間洗浄工程を開始する前に、固相を平衡バッファーで平衡化してもよい。中間洗浄バッファーは塩と更なる化合物を含み得、ここで更なる化合物は、(a)洗浄剤、例えばポリソルベート20又はポリソルベート80);(b)溶媒(例えばヘキシレングリコール);及び(c)ポリマー(例えばPEG)である。用いられる塩は対象のタンパク質に基づいて選択することができるが、好ましくは酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)である。組成物中の塩及び更なる化合物の量は、組み合わせた量が対象のタンパク質を実質的に除去することなく汚染物質を溶離させるような量である。かかる洗浄バッファー中の塩濃度は、約0.1から約2M、又は約0.2Mから約0.6Mの範囲であり得る。有用な洗浄剤濃度は約0.01から約5%、又は約0.1から1%、又は約0.5%であり、例えばここで洗浄剤はポリソルベートである。例示的な溶媒濃度は、約1%から40%、又は約5から約25%である。更なる化合物がポリマー(例えばPEG400又はPEG8000)である場合、その濃度は、例えば約1%から約20%、好ましくは約5%から約15%である。
【0102】
他の実施態様では、中間洗浄工程は、高濃度のバッファー溶液、例えば約0.8Mを越え、例えば約2Mまで、好ましくは約0.8Mから約1.5Mの範囲、最も好ましくは約1Mの濃度のバッファーの使用を含む。この実施態様では、バッファーは好ましくはトリスバッファー、例えば酢酸トリスである。中間洗浄バッファーのpHは約4から約8、又は約4.5から約5.5、又は約5.0である。他の実施態様では、pHは約7.0である。前の段落の中間洗浄工程に続いて、対象のタンパク質がカラムから回収される。これは通常は適切な溶離バッファーを使用して達成される。タンパク質は、例えば、低pH、例えば約2から約5の範囲、好ましくは約2.5から約3.5の範囲のpHを有する溶離バッファーを使用してカラムから溶離させることができる。この目的のための溶離バッファーの例はクエン酸塩又は酢酸塩バッファーを含む。プロテインA操作の溶離段階の間、任意の非特異的に結合したCHOPが対象のタンパク質と同時に溶離し得、生成物プールの純度を損なう。溶離段階の前にCHOPを除去するために、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用する中間洗浄工程を例えばCHOPを除去するために実施することができる(米国特許第6870034号;米国特許第6127526号;米国特許第6333398号)。
【0103】
実施例2 SPSFFクロマトグラフィー
陽イオン交換カラムは勾配溶離での結合及び溶離モードでSPセファロースファーストフロー(SPSFF)樹脂を使用した。SPSFFカラムは150cm/hの流速で操作した。全ての場合、床高さは30cmであった。中間クロマトグラフィープール(Prosep vA及びQSFFプール)を処理する場合、内径0.66cmのカラムを使用し、カラムに40g/Lまで充填した。HCCFを処理する場合、直径0.6−2.2cmのカラムを使用し、カラムに10−40g/Lまで充填した。全ての場合、負荷はpH5.0と約5.5mS/cmの伝導率に調整した。充填後、カラムをついで平衡バッファーと続く洗浄バッファーと次に再び平衡バッファーで洗浄した。これらの洗浄が完了したところで、rhuMab2H7を、15カラム容積にわたって50mM酢酸塩から350mM酢酸塩までの勾配で溶離させた。プール化を280nmでの吸光度(0.5OD)に基づいて開始し、終了させた。カラムを再生し、0.5Nの水酸化ナトリウムで衛生化し、0.1Nの水酸化ナトリウム中に保存した。バッファー組成及び相期間を表11に示す。
【0104】

【0105】
実施例3 陰イオン交換クロマトグラフィー
陰イオン交換カラムはQセファロースファーストフロー(QSFF)樹脂を使用し、フロースルーモードで操作した。QSFFカラムは150cm/hの流速で操作した。カラム直径は0.66cmで、床高さは20cmであった。カラムを平衡化し、pH8.0で充填した。rhuMab2H7抗体をカラムに流し、ついで平衡バッファーで洗浄した。プール化を280nmでの吸光度(0.5OD)に基づいて開始し、終了させた。カラムを再生し、0.5Nの水酸化ナトリウムで衛生化し、0.1Nの水酸化ナトリウム中に保存した。バッファー組成及び相期間を表12に示す。
【0106】

【0107】
実施例4a 陰イオン性多価電解質精製
抗体プールを表13に概略を記載したpH及び伝導率に調節した。HCCFを、1Mの酢酸でpH6に、WFI(洗浄のための水)で伝導率2.0mS/cmに調節した。 調整したHCCFにPVSをインラインで加え、20分の時間をかけて0.05w/v%の最終濃度にした。混合しながら、PVSを表13に概略を記載した最終濃度まで調整したプールに加えた。PVS沈殿プールを、Sorval R3−CB遠心機を使用して10℃で30分間、4000rpm(4657g)で遠心分離した。上清を除去し、ペレットを25mMのMOPS,pH7.1で洗浄した。該ペレットを50mMのトリス、50mMの酢酸塩,pH8.0(約6.5mS/cm)に再懸濁した。再懸濁したペレットをついでQSFFクロマトグラフィーで処理した。
【0108】
実施例4b 陽イオン性多価電解質精製
細胞培養液(CCF)沈殿: 不純物の沈殿を分子量110kDaのポリアルギニンを用いて実施した。ポリアルギニンを0.075w/v%の最終濃度に達するまで5分の時間をかけてバイオリアクター中のCCFに、100rpmで混合しながら加えた。ついで、凝集したCCFを10000gで遠心分離し、0.2μmフィルターで滅菌濾過した。
収集された細胞培養液(HCCF)沈殿: ポリアルギニン(ポリ−L−アルギニン)を、0.1w/v%の最終濃度に達するまで5分の時間をかけてバイオリアクター中のHCCFに、100rpmで混合しながら加えた。ついで、沈殿したHCCFを5000gで遠心分離し、0.2μmフィルターで滅菌濾過した。濾過した原料を異なった精製プロセスを通して処理した。
【0109】

【0110】
実施例5 タンパク質濃度の決定:
プール中の抗体濃度を、10mmの路長フローセルを備えた8453分光光度計(Agilent)を使用して、(光散乱に対する修正のため320nmの吸光度を減じて)280nmでの吸光度によって決定した。1.75ml/(mg cm)の吸光係数を用いた。抗体濃度を次の式を使用して計算した:

【0111】
実施例6 サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて、天然条件下でrhuMAb 2H7のサイズ不均一性をモニターした。アッセイではTSK−GEL G3000SWXLカラム(7.8mm×300mm,Tosohaas)を用いて凝集物、単量体、及び断片を分離した。カラムは、0.20Mのリン酸カリウム、0.25Mの塩化カリウム(pH6.2)の流動バッファーを用いて、0.3mL/分の流量で操作した。カラムは室温で操作した。試料を流動バッファーに希釈し、20μgを各試料について注入した。280nmでの吸光度を用いて凝集物、単量体及び断片のレベルをモニターした。
【0112】
実施例7 CHOP ELISA−Y:42
ヤギ抗CHOP抗体を用いる酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して、全てのプール中のCHOP濃度を定量した。ELISAでは、アフィニティ精製したヤギ抗CHOP抗体をマイクロタイタープレートウェルに固定した。プール試料の希釈物をウェル中でインキュベートし、ついでペルオキシダーゼ結合ヤギ抗CHOP抗体と共にインキュベートした。西洋わさびペルオキシダーゼ酵素活性を、比色シグナルを生じるo-フェニレンジアミンを用いて定量した。吸光度の読みがアッセイの範囲内になるように(5−320ng/ml)、試料をアッセイ希釈剤で連続希釈した。
【0113】
実施例8 プロテインA ELISA−Y:80
プロテイン−Aのレベルをサンドウィッチプロテイン−A ELISAによって決定した。ニワトリ抗ブドウ球菌プロテインA抗体をマイクロタイタープレートウェルに固定した。試料を0.2mg/ml抗体まで希釈し、ウェルに塗布した。プロテインAは、試料中に存在していれば、被覆抗体に結合する。結合したプロテインAを西洋わさびペルオキシダーゼ結合抗タンパク質抗体を用いて検出した。西洋わさびペルオキシダーゼ酵素活性は、比色シグナルを生じるo-フェニレンジアミンを用いて定量した。
【0114】
実施例9 インスリンELISA−Y:64
モルモット抗インスリンポリクローナル抗体を使用するELISAを用いて、全てのプール中のインスリン濃度を定量した。ELISAでは、アフィニティ精製した抗インスリン抗体をマイクロタイタープレートウェルに固定した。プール試料の希釈物をウェル中でインキュベートし、ついで西洋わさびペルオキシダーゼ結合モルモット抗インスリン抗体と共にインキュベートした。西洋わさびペルオキシダーゼ酵素活性を、テトラメチルベンジジンを用いて定量した。吸光度の読みがアッセイの範囲内になるように(0.094−3.000ng/mL)、試料をアッセイ希釈剤で連続希釈した。
【0115】
実施例10 ゲンタマイシンELISA−Y:81
競合的ELISAを用いて、全てのプール中のゲンタマイシン濃度を定量した。ゲンタマイシン-BSAに対するヤギポリクローナル抗体をマイクロタイタープレートウェルに固定した。ゲンタマイシンは抗体への結合に対してビオチン化ゲンタマイシンと競合した。結合したビオチン標識ゲンタマイシンの量を、西洋わさびペルオキシダーゼ-ストレプトアビジン及びo-フェニレンジアミン基質の添加によって検出した。吸光度の読みがアッセイの範囲内になるように(0.37−90ng/mL)、試料をアッセイ希釈剤で連続希釈した。
【0116】
実施例11 CHO DNA PCRアッセイ−Y:77
DNAを、CHO DNAのPCR増幅によって定量した。試料及びコントロールからのDNAを、QiagenのウイルスRNAミニキットを使用して最初に抽出した。プライマーとプローブを含んでいるPCRマスター混合物と共に抽出物と検量線をついで96ウェルプレート形態で市販の配列検出システム(Applied Biosystems)上に充填し、CHO DNAをリアルタイムPCRを使用して定量した。TaqMan(登録商標)PCRは、標的CHO DNA配列に特異的に設計されているプライマーとプローブを用いる。生成物増幅を、3’末端がクエンチャー色素によって抑制され5’末端にレポーター色素が標識されている蛍光発生プローブを使用して測定した。Taqポリメラーゼが標的DNAの増幅を開始し、プローブに達したところで、その5’ヌクレアーゼ活性がプローブを置換し、レポーター色素を放出する。レポーター色素がクエンチャー色素の近傍にもはやないので、レポーターが蛍光を発し、発光強度の増加が測定される。DNAが閾値(Ct)を越えて増幅したサイクル数を検量線に対して計算し、それに対して未知の試料濃度を定量する。
【0117】
実施例12 rhuMAb 2H7力価
rhuMAb 2H7力価を、補体依存性細胞傷害性(CDC)アッセイを使用して決定した。このアッセイは、ヒト補体の存在下でWIL2-S細胞を溶解するrhuMAb2H7の能力の測定に基づく。
【0118】
実施例13 PVSに対するリボヌクレアーゼA阻害アッセイ
PVSはリボヌクレアーゼAの強力な阻害剤である。該アッセイは、一端に蛍光標識を、他端にクエンチャーを有するRNAアナログを使用する。RNAアナログが一度リボヌクレアーゼAによって切断されると、蛍光標識がクエンチャーから放出され、発光を生じる。PVSの存在はリボヌクレアーゼA活性を阻害し、蛍光発光を制限する。ついで、PVSの量を、試験試料からの観察蛍光を検量線と比較することによって決定することができる。
【0119】
前記の説明は本発明の原理を例示するだけのものと考えられる。更に、数多くの変更と変化が当業者には直ぐに明らかになるので、本発明を上述の正確な構成及び示されたプロセスに限定することは望まれない。従って、あらゆる適切な変形例及び均等物が次の特許請求の範囲によって定まる本発明の範囲に入るものと考えることができる。
【0120】
本明細書及び次の特許請求の範囲において使用される場合、「含む」(comprise, comprising, include, including,及びincludes)なる語は述べられた特徴、整数、成分、又は工程の存在を特定するためのものであり、一又は複数の他の特徴、整数、成分、工程、又はその群の存在又は付加を妨げない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を精製する方法であって、
(a)抗体含有混合物の酸性度又は塩濃度を調節し、ここで、抗体は収集された細胞培養液から誘導され、収集された細胞培養液が哺乳動物細胞培養から誘導され;
(b)ポリビニルスルホン酸、ポリビニルスルホネート、ポリスチレンスルホン酸、及びポリアクリル酸から選択され、1.2から1100kDaの分子量を有する負に荷電した多価電解質を加えて、タンパク質・多価電解質沈殿物を形成し;
(c)タンパク質・多価電解質沈殿物を、タンパク質凝集物、タンパク質断片、宿主細胞タンパク質、インスリン、ゲンタマイシン、DNA、及び浸出プロテインAから選択される不純物から分離し;
(d)タンパク質・多価電解質沈殿物を単離し;
(e)タンパク質・多価電解質沈殿物を水溶液中に再懸濁させる
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
抗体が、モノクローナル抗体、抗体断片、及び融合タンパク質から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体が、抗CD20抗体、抗DR5抗体、及び抗CMET抗体から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗CD20抗体が2H7である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物細胞培養がチャイニーズハムスター卵巣細胞培養である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質が、プロテインA吸着剤へのタンパク質の固定により、収集された細胞培養液から誘導される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質が、収集された細胞培養液から陽イオン交換クロマトグラフィーにより誘導される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質が、収集された細胞培養液から直接捕捉される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
一を越える負に荷電した多価電解質が混合物に添加される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
負に荷電した多価電解質濃度が、タンパク質含有混合物中で0.01から1重量/容積%である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
タンパク質・多価電解質沈殿物がバッチモード又は連続モードで形成される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質・多価電解質沈殿物が遠心分離によって分離される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質・多価電解質沈殿物が濾過によって分離される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質・多価電解質沈殿物が深層濾過によって単離される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
タンパク質が、フィルターへの再可溶化バッファーの単一通過で再可溶化される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
タンパク質が、フィルターへの再可溶化バッファーの再循環により再懸濁される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
多価電解質が、陰イオン交換精製により、再懸濁されたタンパク質・多価電解質沈殿物から分離される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
抗体を精製する方法であって、
(a)抗体含有混合物の酸性度又は塩濃度を調節し、ここで、抗体は細胞培養液から誘導され、細胞培養液は哺乳動物細胞培養から誘導され;
(b)42から110kDaの分子量のポリアルギニン及び2.5から225kDaの分子量のポリリジンから選択される正に荷電したポリカチオン多価電解質を混合物に加えて、正に荷電したポリカチオン多価電解質と、タンパク質凝集物、タンパク質断片、宿主細胞タンパク質、インスリン、ゲンタマイシン及びDNAから選択される不純物を含む沈殿物を形成し;
(c)抗体含有混合物から沈殿物を分離する
ことを含んでなる方法。
【請求項19】
哺乳動物細胞培養がチャイニーズハムスター卵巣細胞培養である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
抗体が、モノクローナル抗体、抗体断片、及び融合タンパク質から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項21】
抗体が抗CD20抗体又は抗CD22抗体である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
抗CD20抗体が2H7である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
一を越える正に荷電したポリカチオン多価電解質が混合物に添加される請求項18に記載の方法。
【請求項24】
正に荷電したポリカチオン多価電解質濃度が、タンパク質含有混合物中で0.01から1重量/容積%である請求項18に記載の方法。
【請求項25】
沈殿物がバッチモード又は連続モードで形成される請求項18に記載の方法。
【請求項26】
沈殿物が遠心分離によって混合物から分離される請求項18に記載の方法。
【請求項27】
沈殿物が濾過によって混合物から分離される請求項18に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate


【公表番号】特表2010−516773(P2010−516773A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547346(P2009−547346)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/050747
【国際公開番号】WO2008/091740
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】