説明

多光子励起装置、及びその作製方法

【課題】局在プラズモンを利用した多光子励起装置において、多光子励起金により化合物内に生じせしめたエネルギーの金属消光による消失を低減し、エネルギー利用効率を向上させる。
【解決手段】少なくとも一表面に開口している複数の微細孔15を有する誘電体層12を含む基板13と、微細孔15に形成された複数の微細金属体14とを備える多光子励起装置を、微細金属体14の表面に結合した、一般式D−L−Aで表される複数の多光子励起複合化合物を有するように構成する。ここで、Dは照射光Pの光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系を有する多光子励起部、Aは微細金属体14と結合する結合部、Lは多光子励起部Dと結合部Aとを連結する連結基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光の光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系材料を利用する多光子励起装置、及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常有機化合物は、その励起エネルギーに相当する1個の光子エネルギーを吸収して励起され、1個の光子エネルギーがその励起エネルギーに満たない場合にはその1個の光子エネルギーを吸収しない。しかし、光の強度が非常に強い(光子密度が非常に高い)場合には、2個の光子エネルギーの和により励起状態を生じる2光子励起化合物がある。この性質を利用すると、光子密度が高い領域のみで励起状態をつくることができたり、また照射した光の波長よりも波長の短い(エネルギーの高い)光を取り出すことができたりする。しかしながら、2光子励起効率は通常非常に小さいので、より2光子励起効率が高い2光子励起化合物が求められていた。2光子吸収の起こり易さを示す2光子吸収断面積は、通常非常に小さく1GM(Goeppert Mayer:1GM=1×10−50cm・s・molecule-1・photon-1)程度である。しかし、近年数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す2光子励起化合物も見出されている。2光子吸収断面積の比較的大きい化合物の例は、例えば特許文献1および非特許文献1に記載または引用されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、局在プラズモンによる電場増強効果を利用して効率良く2光子励起を生じせしめる方法が教示されている。この電場増強効果の及ぶ領域は、局在プラズモンによる光閉じ込め効果により金属体のごく近傍に限られるため、連結基を介して2光子励起化合物を金属体に固定することにより2光子励起を生じせしめている。
【特許文献1】特開2008−203573号公報
【特許文献2】特開2008−170418号公報
【非特許文献1】稲垣由夫、秋葉雅温、レーザー研究 vol.31, 392-396 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2光子励起化合物等の多光子励起化合物(2以上の光子エネルギーを吸収し励起状態を形成する化合物)の近傍に金属体が存在する場合には、多光子励起化合物から金属体へエネルギー移動が起こり多光子励起化合物内のエネルギーが消失される、いわゆる金属消光の問題がある。金属消光が生じると電場増強効果によって多光子励起を効率よく生じせしめることができたとしても、多光子励起化合物内のエネルギーを金属体に奪われてしまうためエネルギーの利用効率が低下してしまう。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、金属消光を防止し、多光子励起化合物内に生じせしめたエネルギーを効率よく利用することを可能とする多光子励起装置およびその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る多光子励起装置は、
少なくとも一表面に開口している複数の微細孔を有する誘電体層を含む基板と、
微細孔内に充填された充填部と、充填部上に誘電体層表面より突出するように形成されかつ照射光に起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部とからなる複数の微細金属体とを備える多光子励起装置であって、
突出部の表面に結合した、下記一般式(I)で表される複数の多光子励起複合化合物を有することを特徴とするものである。
一般式(I):D−L−A
ここで、一般式(I)中、Dは照射光の光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系を有する多光子励起部を表し、Aは突出部と結合する結合部を表し、Lは多光子励起部と結合部とを連結する連結基を表す。
【0007】
ここで、局在プラズモンを誘起し得る「径」とは、光の照射に起因して局在プラズモンが生じる程度に微小な、誘電体層表面に平行な方向の突出部の最大長を意味するものとする。
【0008】
「多光子励起複合化合物」とは、多光子励起化合物の残基である多光子励起部と、金属体と結合する結合部と、多光子励起部および結合部を連結する連結基とが結合することにより形成される化合物を意味するものとする。
【0009】
「多光子励起」とは、基底状態からある励起状態に遷移するために必要なエネルギー(励起エネルギー)の1/nのエネルギーを持つn個の光子を同時に吸収して、当該励起状態に遷移することを意味するものとする。ここで、nは2以上の自然数である。例えば、励起エネルギーの半分のエネルギーを持つ光子を2つ同時に吸収して励起する場合には、2光子励起という。この場合、2光子励起において必要な光の波長は、通常の励起において必要な光の波長の2倍となる。
【0010】
さらに、本発明に係る多光子励起装置において、結合部は、硫黄原子によって突出部と結合する含硫黄結合部であることが好ましい。また、連結基は、脂肪族鎖からなる主鎖を有することが好ましい。
【0011】
そして、連結基は、下記一般式(II)で表される構造を含むことが好ましい。
一般式(II):−(G−T
ここで、一般式(II)中、Gは−C(=O)−、−O−、−NR−、−(N含有複素環)−、−S−、−SO−、−SO−、−P(=O)<、またはこれらの結合からなる2価もしくは3価の部分連結基を表し、Tは脂肪族基を表し、a、bおよびcはそれぞれ0から2の整数、1から100の整数および1から100の整数を表す。ここで、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。また、cが2以上の整数の場合には、それぞれのcについてGおよびT並びにaおよびbは同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
また、多光子励起部は、下記一般式(III)または一般式(IV)で表される化合物から導かれる残基であることが好ましい。
【0013】
一般式(III):
【化1】

【0014】
一般式(IV):
【化2】

【0015】
ここで、一般式(III)又は(IV)中、Yは、メチン基、メチレン基またはアミンを表す。これらのメチン基およびメチレン基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基および炭素原子数6〜18のアリール基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基でそれぞれ置換されていてもよい。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110、R111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、または炭素原子数6〜18のアリールアミノ基を表す。ここでR108〜R111について、上記に挙げた基は互いに連結して環を形成していてもよい。また、R101〜R111のいずれか1つは、前記連結基を形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。さらに、本段落に記載のアルキル基およびアルコキシ基は、一部不飽和結合を有していたりへテロ原子で置換されていたり分岐していたりしてもよい。そして、アリール基は多環芳香族炭化水素基も含むものである。
【0016】
さらに、多光子励起部は、多光子励起に起因して照射光の波長よりも短い波長の光を発するものであることが好ましい。
【0017】
そして、多光子励起部は、多光子励起により得たエネルギーの少なくとも一部を供与するエネルギー供与体として働くものであり、
突出部の表面に連結された、エネルギー供与体から供与されたエネルギーを受容するエネルギー受容体を有し、エネルギー供与体およびエネルギー受容体により光化学系複合体が形成されているように構成することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る多光子励起装置の作製方法は、
少なくとも一表面に開口している複数の微細孔を有する誘電体層を含む基板、および
微細孔内に充填された充填部と、充填部上に誘電体層表面より突出するように形成されかつ照射光に起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部とからなる複数の微細金属体を用意して、
上記一般式(I)で表される複数の多光子励起複合化合物を突出部の表面に結合させるものである。
【0019】
そして、本発明に係る多光子励起装置の作製方法において、
結合部は、硫黄原子を含む含硫黄結合部であり、
硫黄原子によって、連結基と突出部とを結合させることが好ましい。
【0020】
また、多光子励起部は多光子励起により得たエネルギーの少なくとも一部を供与するエネルギー供与体として働くものとし、
エネルギー供与体から供与されたエネルギーを受容するエネルギー受容体を突出部に連結して、エネルギー供与体およびエネルギー受容体からなる光化学系複合体を形成することができる。
【0021】
さらに、被陽極酸化物質に陽極酸化処理を施して、陽極酸化処理を施した陽極酸化面に開口を有する複数の微細孔を形成することにより、上記誘電体層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る多光子励起装置及びその作製方法は、多光子励起複合化合物の微細金属体への結合において、連結基を介して多光子励起を生じ得る多光子励起部を微細金属体の突出部に連結するように構成している。したがって、多光子励起部と微細金属体とを電子的に隔離させることができるため、金属消光の影響を低減することができる。これにより、多光子励起装置において、多光子励起複合化合物内の多光子励起部で生じせしめたエネルギーを効率よく利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0024】
「多光子励起部と連結基との複合化合物」
まず、本発明における多光子励起部、連結基および結合部の化合物Cd(以下、多光子励起複合化合物)について説明する。この多光子励起複合化合物Cdは、図1Aに示すように、複数の微細孔15にそれぞれ形成された複数の微細金属体14に結合部によって結合されて使用される。図1Bは、多光子励起複合化合物Cdが微細金属体14の突出部14bに結合している様子を示す概略断面図である。
【0025】
多光子励起複合化合物Cdは、照射光Pの光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系を有する多光子励起部Dと、突出部14bに結合する結合部Aと、多光子励起部Dと結合部Aとを連結する連結基Lとからなり、これらを用いて下記一般式(I)で表されるものである。
一般式(I):D−L−A
以下、多光子励起部D、連結基Lおよび結合部Aの詳細について説明する。
【0026】
まず、多光子励起部Dについて説明する。図1B中のDは、400nmより長波の波長における多光子吸収断面積が100GM以上である多光子励起化合物残基からなる多光子励起部を表す。本発明に係る多光子励起装置において、電場増強された近接場光(光子密度の高い光)のみに感応して機能を発揮する多光子励起部Dの作動原理については以下の通りである。ここで、多光子励起のうち具体的に2光子励起を例に説明するが、これに限られるものではない。
【0027】
通常有機化合物は、その励起エネルギーに相当する1個の光子エネルギーを吸収して励起され、1個の光子エネルギーがその励起エネルギーに満たない場合にはその1個の光子エネルギーを吸収しない。しかし、光の強度が非常に強い(光子密度が非常に高い)場合には、2個の光子エネルギーの和により励起状態を生じる2光子励起化合物がある。2光子励起の起こり易さを示す2光子吸収断面積は通常非常に小さく1GM(Goeppert Mayer:1GM=1×10−50cm・s・molecule-1・photon-1)程度であるが、近年、数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す物質も見出されている。このような物質を用いると光吸収帯が無い波長域の光でも、高出力レーザのように非常に強度が強い光を照射することにより、効率よく2光子励起を生じせしめることができる。
【0028】
例えば400nmに1光子の吸収極大波長を示し800nmには吸収帯が無い2光子励起化合物に、800nmの波長の高出力レーザを照射することによって、400nmの光を照射した場合に生じる励起状態に近い励起状態を作ることができる。もしこの2光子励起化合物が400nmの光で励起された場合に例えば430nmの蛍光を発するなら、800nmの光を吸収した場合にも430nmの蛍光を生じせしめることができる。さらに、430nmの光を吸収して460nmの蛍光を発する化合物が共存すれば、800nmの高出力レーザの照射により460nmの蛍光を生じせしめることができる。
【0029】
本発明においては光子密度が高い状態を、局在プラズモンにより電場増強された近接場光によって形成している。近接場光は、局在プラズモンが生じている突出部の径程度の領域にのみ生じる光である。したがって、この近接場光を利用することにより、突出部近傍の存在する2光子励起化合物のみを励起することが可能となる。
【0030】
本発明の目的に適合し得る程に効率よく2光子励起が起きるためには、2光子吸収断面積は、便宜上GMを単位として表すと、100GM以上あることが好ましく、さらに好ましくは1,000GM以上、特に好ましくは100,000GMないし1,000,000,000GMである。2光子吸収断面積の測定は、下記の非特許文献に記載された蛍光法またはZ-scan法により行うことができる。蛍光法については、C.Xu and W.W.Webb,Journal of The Optical Society of America,B,13,481(1996)に記載がある。またZ-scan法については、K.Kamada,K.Matsumoto,A.Yoshino,K.Ohta,Journal of The Optical Society of America,B,20,529(2003)や、P.Audebert,K.Kamada,K.Matsunaga,K.Ohta,Chemical Physics Letters,367,62(2003)に記載がある。
【0031】
また、2光子吸収波長領域は、400nmより長波が好ましく、500〜1100nmがより好ましい。多光子励起部Dは、多光子励起に起因して照射光の波長よりも短い波長の光を発するものであることが好ましい。このような場合には、多光子励起装置を光学素子や波長変換素子として利用することができる。
【0032】
400nmより長波における2光子吸収断面積が100GM以上の2光子励起化合物としては、公知の光吸収剤が挙げられ、例えば、上記[背景技術]の項で列挙した文献に記載されたものなどが挙げられる。具体的には、例えば、カルコン系化合物、ジベンジルアセトン系化合物、メロシアニン色素、チオピリリウム色素、ピリリウム色素、シアルキルアミノスチルベン化合物、アクリジニウム色素、キサンテン色素、チアゼン色素等の他、シアニン色素、スクアリウム色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、およびチオキサントン等を挙げることができる。
【0033】
また、その他の例として、アントラセン、フェナンスレン、ピレン等の多核芳香族化合物、アクリジン、カルバゾール、フェノチアジン等の多核ヘテロ芳香族化合物およびそれらの誘導体を挙げることができる。そして、これらの化合物から導かれる残基が多光子励起部Dとなる。
【0034】
さらに、下記の化学式3に示すようなキサンテン系色素の一種であるリサミン・ローダミンBスルホニルクロリド異性体混合物等も好ましい。ここで、XはClまたはOHである。
【0035】
【化3】

【0036】
そして、下記に示すような四重極子型化合物(化学式4および5)、双極子型(ドナー/アクセプター型)化合物(化学式6、7、8および9)、連結型化合物(化学式10および11)も好ましく、交差共役系を有する化合物であることが特に好ましい(非特許文献1)。ここで、交差共役系とは共役多重結合が3方に分岐した構造をいう。
【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
また、多光子励起部Dは、下記一般式(III)で表される双極子型化合物、又は一般式(IV)で表される交差共役型化合物から導かれる残基であることも好ましい。
【0046】
一般式(III):
【化12】

【0047】
一般式(IV):
【化13】

【0048】
ここで、一般式(III)又は(IV)中、Yは、メチン基、メチレン基またはアミンを表す。これらのメチン基およびメチレン基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基および炭素原子数6〜18のアリール基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基でそれぞれ置換されていてもよい。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110、R111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、または炭素原子数6〜18のアリールアミノ基を表す。ここでR108〜R111について、上記に挙げた基は互いに連結して環を形成していてもよい。また、R101〜R111のいずれか1つは、前記連結基を形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。さらに、本段落に記載のアルキル基およびアルコキシ基は、一部不飽和結合を有していたりへテロ原子で置換されていたり分岐していたりしてもよい。そして、アリール基は多環芳香族炭化水素基も含むものである。
【0049】
Yとして好ましいものは、無置換メチレン基(−CH−)、−NH−、又は−NR−(ここで、Rは炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数2〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜18のアリールスルホニル基)である。R101、R102として好ましいものは、水素原子、又は炭素原子数1〜6のアルキル基である。
【0050】
103、R104及びR105として好ましいものは、水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。R103、R104及びR105のうち2つが互いに連結して環を形成していても良い。特に好ましいものは水素原子である。
【0051】
106及びR107として好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、置換基を有していても良い。この置換基として好ましいものはヒドロキシル基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基である。R106及びR107として特に好ましくは炭素原子数1〜4の、無置換アルキル基またはヒドロキシ基で置換されたアルキル基である。
【0052】
108、R109、R110及びR111として好ましいものは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基であり、これらは互いに、もしくはR106又はR107と連結して環を形成していても良い。特に好ましくは水素原子、またはR106又はR107の少なくとも一つと連結して5〜6員環を形成するアルキル基である。
【0053】
また、多光子励起部Dは、親水性基(例えば、−OH、−COOH、−SOH等)を有することが好ましく、特に−SOHを有することが好ましい。これにより、この親水性基が周りの溶媒(特に水などの誘電率が高い溶媒)と相互作用することにより、連結基が屈曲して多光子励起部が微細金属体に接触することを防止することができる。
【0054】
下記の表1および表2は、それぞれ一般式(III)および(IV)で表される2光子吸化合物の具体例を示すものである。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。また、下記表においてMeはメチル基を、nPrはn−プロピル基をそれぞれ表す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
以上、多光子励起部Dを構成する残基の基となる多光子励起化合物の例を示したが、特に好ましい態様は、上記化学式3に示すようなキサンテン系色素および上記一般式(IV)で表される交差共役型化合物である。
【0058】
次に、連結基について説明する。連結基Lは、多光子励起部Dと結合部Aとを連結するための連結基であって、多光子励起部Dと突出部14b(微細金属体14)とを電子的に隔離するための連結基である。したがって、連結基Lは、π共役系である共役多重結合、すなわち不飽和結合と単結合が交互に連なってπ軌道が相互作用することにより電子が非局在化した分子構造における結合を含まないことが好ましい。
【0059】
また、連結基Lは、脂肪族鎖からなる主鎖を有することが好ましい。これにより、多光子励起部Dと突出部14b(微細金属体14)とを電子的により隔離することが可能となる。ここで、側鎖には、本発明の課題を解決しうる範囲で、二重結合や不飽和環状構造を有していてもよい。
【0060】
連結基は、共役多重結合を形成しないように、メチレン結合、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合を含む連結基であることが好ましい。また、これらの結合を2以上組み合わせてなる連結基であってもよい。これにより、多光子励起部Dの原子団と突出部14bとは直接共有結合によって結合しておらず、また共役系の結合によっても結合しておらず、多光子励起部Dの原子団と突出部14bとが、連結基Lによって電子的に隔離され所定距離をおいた状態を形成することが可能となる。
【0061】
或いは、連結基は、下記一般式(II)で表される構造を含むことが好ましい。
一般式(II):−(G−T
ここで、一般式(II)中、Gは−C(=O)−、−O−、−NR−、−(N含有複素環)−、−S−、−SO−、−SO−、−P(=O)<、またはこれらの結合からなる2価もしくは3価の部分連結基を表す。ここで、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。また、Tは脂肪族基を表す。脂肪族基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の構造を有し、炭素数1〜200、好ましくは1〜24、特に好ましくは2〜18であることが好ましい。そして、a、bおよびcは、それぞれ0から2の整数、1から100の整数および1から100の整数を表す。cが2以上の整数の場合には、それぞれのcについてGおよびT並びにaおよびbは同一であっても異なっていてもよい。そして、cは好ましくは1〜10、特に好ましくは1または2である。ここで、一般式(II)で表わされる連結基においても、共役多重結合を含まないことが好ましいのは言うまでもない。
【0062】
以上のような連結基を用いることにより、(1)多光子励起部Dと結合部Aとを電子的に絶縁することができ、多光子励起部Dの多光子励起状態が失活することを防ぐことが可能となる、(2)多光子励起部Dと結合部Aとの間の距離を調節するのに適した原材料を容易に調達することが可能となる、(3)多光子励起部Dおよび連結基L、並びに連結基Lおよび結合部Aの結合形成において反応性に富む原材料が利用できるため、高価な貴金属触媒を使用することなく容易かつ安価に、多光子励起部D、連結基Lおよび結合部Aの連結の合成を行うことが可能となる、といった効果が得られる。
【0063】
連結基の好ましい例としては、下記式(a)又は(b)で表されるエステル結合、下記式(c)〜(f)で表されるアミド結合、下記式(g)で表されるスルホンアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合などが挙げられる。ここで、下記に示す構造は左右逆でも構わない。
【0064】
【化14】

【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
ここで、式(c)〜(g)中Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。
【0068】
次に、結合部について説明する。結合部Aは、突出部14b(微細金属体14)に結合して、多光子励起複合化合物Cdを突出部14bに固定するためのものである。
【0069】
結合部Aは、基板13上に露出している微細金属体14の突出部14bと容易に結合させることができるように、硫黄原子によって突出部14bと結合する含硫黄結合部を有することが好ましい。これにより、含硫黄結合部に含まれる硫黄原子と金属体である突出部14bとの相互作用により、連結基Lと突出部14bとを自己組織的に結合させることができる。ここで、結合部は、金属体に対して硫黄原子と同様の自己組織性を有するものであれば、これに限られるものではない。このような自己組織性を有する結合部は、例えば、−S−M(MはH、アルカリ金属、アルキル基、アリール基、複素環基、S−R(Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。)を表す。)、−Se−M(Mは上記と同じ)等の置換基を挙げることができる。さらに、他の例として、−(−S−、−Se−、−S−S−、−Se−Se−、−S−Se−、−S−O−または−SO−S−を含む環構造)、>C=S、>C=Se、−<環>C=S、−<環>C=Se、>P−、O−P(−O)−等の置換基を挙げることもできる。ここで、「<環>C」はCを含む環構造を意味するものである。自己組織性を有する結合部は、特にジスルフィド類化合物から導かれる残基であることが好ましい。さらに、このように一般式(I)のAが−S−S−となる場合には、多光子励起複合化合物は、このジスルフィドの両端に連結基が結合し、それぞれの連結基の先に多光子励起部が結合しているような構造、つまりD−L−S−S−L’−D’のような構造を有することが好ましい。ここで、LとL’、DとD’はそれぞれ同一であっても、異なっていても構わない。
【0070】
以上の多光子励起部D、連結基Lおよび結合部Aの説明に基づいて、本発明に好適に用いられる多光子励起複合化合物Cdの具体例(例示化合物Cd−1〜Cd−30)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
ここで、下記表において、「多光子励起部D」の項目における(L)は、連結基Lが結合している多光子励起部Dの部分を表している。「連結基L」の項目における(D)および(A)は、それぞれ多光子励起部Dが結合している連結基Lの部分、および結合部Aが結合している連結基Lの部分を表している。「結合部A」の項目における(L)は、連結基Lが結合している結合部Aの部分を表している。また、「結合部A」の項目における「★」は、結合部A、連結基Lおよび多光子励起部Dを当該「★」の部分にさらに有する構造であることを表す。すなわち、ジスルフィド結合を中心に、両端に連結基Lおよび多光子励起部Dを有する対称構造の化合物を表す。
【0072】
また、下記表において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、nPrはn−プロピル基を、nHxはn−ヘキシル基をそれぞれ表している。
【0073】
さらに、表3は上記一般式(III)についての具体例を示している。
【0074】
そして、表4および表5は上記一般式(IV)についての具体例を示している。ここで、「R107」の項目におけるaは一般式(IV)の一方(例えば左側)のR107を表し、bは一般式(IV)の他方(例えば右側)のR107を表している。すなわち、R107についてaおよびbの区別がある場合には表に示す化合物は非対称な構造を有することを表し、その区別がなければ対称な構造を有することを表す。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
上記多光子励起複合化合物Cdを得る方法としては、特に限定されないが、化学的反応活性部位を有する多光子励起部Dを有する化合物と、それに対する化学的反応活性部位を有する結合部A(含硫黄結合部)を有する化合物とを化学的に反応させることによって、連結基Lを含む多光子励起複合化合物Cdを形成する方法がある。例えば、多光子励起複合化合物に反応性基(例えば、−COOH、−COOR、−COCl、−SO2Cl等の求電子基、又は−OH、−NHR等の求核基)を導入する。その後これらと反応して結合する反応性基を有する含硫黄結合部と反応させる方法が挙げられる。
【0081】
「多光子励起装置およびその作製方法」
<多光子励起装置およびその作製方法の第1の実施形態>
まず、本実施形態に係る多光子励起装置10の構成について説明する。図1Aおよび図1Bは、それぞれ本実施形態に係る多光子励起装置10の全体構成を示す概略断面図および微細金属体の突出部近傍の概略断面図である。本実施形態に係る多光子励起装置10は、照射光Pの照射により、マッシュルーム構造の微細金属体に局在プラズモンを生じせしめ、この局在プラズモンの電場増強効果により増強された近接場光によって多光子励起を生じせしめるものである。
【0082】
図1Aおよび図1Bに示すように、多光子励起装置10は、金属層11と、この金属層上に形成された、複数の微細孔15を有する誘電体層12と、微細孔15に充填された充填部14aとこの充填部14a上に誘電体層12表面より突出するように形成されかつ照射光Pに起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部14bとからなる複数の微細金属体14と、突出部14bに結合した前述の多光子励起複合化合物Cdとを備えている。
【0083】
基板13となる金属層11および誘電体層12は、被陽極酸化物質を陽極酸化することによって得られる多孔質酸化物質である。被陽極酸化物質を陽極酸化すると、表面からこの面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、陽極酸化皮膜12が生成される。このような陽極酸化被膜12については、特許文献2の段落[0037]〜[0043]および[0067]〜[0069]に記載されている。
【0084】
微細孔15は、本発明において微細金属体14を形成する場所となる。そして、微細孔15の断面形状、孔径や隣接する微細孔同士の配列ピッチは、陽極酸化条件により制御することができ、特に制限されるものではない。通常、互いに隣接する微細孔15同士のピッチWは10〜500nmの範囲で、また微細孔15の孔径は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。微細孔15は規則配列させてもよいし、させなくてもよい。
【0085】
微細金属体14は、微細孔を充填している充填部14aと誘電体層表面12sに突出している充填部上部の突出部14bとからなっている。微細金属体14は、突出部14bの径rが、局在プラズモンを誘起可能な大きさであればよいが、照射光Pの波長を考慮すると、突出部14bの径が10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。互いに隣接する突出部14b同士は離間されていることが好ましく、その平均離間距離は、数nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。平均離間距離が上記範囲内である場合は、局在プラズモン効果による電場増強効果を効果的に得ることができる。局在プラズモン現象は、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じる現象であるので、微細金属体14は、自由電子を有する任意の金属でよい。多光子励起装置10は、誘電体層表面12sに対して、突出部14bにおいて局在プラズモンを励起可能な波長の光を含む照射光Pが照射されるものであるので、多光子励起部Dの吸収波長と略一致する波長において局在プラズモンを生じる金属が好ましく、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。
【0086】
次に、本実施形態に係る多光子励起装置10の作製方法について説明する。この多光子励起装置の作製方法では、微細孔15を有する基板13と、微細孔15内に形成されたマッシュルーム構造の微細金属体14とを備える多光子励起装置10であって、マッシュルーム構造の微細金属体14の突出部14bが誘電体層表面12sに突出し、突出部14bに複数の多光子励起複合化合物が結合した構造の多光子励起装置10が作製される(図2)。多光子励起装置10の作製方法は、以下に示す微細孔15を有する基板13を形成する工程と、微細孔15に微細金属体14形成する工程と、微細金属体14の突出部14bに多光子励起複合化合物を結合する工程とに大別される。
【0087】
まず、被陽極酸化物質の一面から陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質を基に、微細孔15を有する陽極酸化皮膜12と非陽極酸化部分11とを形成する(特許文献2の段落[0037]〜[0043]を参照)。このようにして、微細孔15を有する陽極酸化皮膜12と非陽極酸化部分11とからなる多孔質酸化物質13を形成することができ、これが本実施形態に係る多光子励起装置の基板となる。次に、基板13の陽極酸化皮膜12の開口面12sに対して、メッキ処理を行うことで微細孔15をメッキ金属材料で充填していく(特許文献2の段落[0044]を参照)。そして、ある程度時間が経過すると微細金属体14の充填部14aが形成され、さらにメッキ処理を継続することでメッキ金属材料がアルミナ層の表面よりも突出するようになり微細金属体14の突出部14bが形成される(図2)。メッキ処理の継続時間を制御することにより、突出部14bの径rは適宜調整することができる。
【0088】
多光子励起複合化合物Cdの突出部14b(微細金属体14)への結合は、多光子励起複合化合物Cdを溶かした溶液に、上記で形成した突出部14bの表面を浸漬することにより自己組織的に実施することができる。その後、基板を取り出し上記溶媒と同じ溶媒で基板を洗浄し、必要であれば他の溶媒でさらに基板を洗浄し、最後に乾燥させることにより、多光子励起複合化合物Cdの突出部14bへの結合が完成する。このとき、乾燥させる直前に使用する溶媒は、揮発性の高い溶媒が好ましい。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る多光子励起装置10は連結基によって、多光子励起を生じ得る多光子励起部を微細金属体に連結している。したがって、多光子励起部と微細金属体とを電子的に隔離させることができるため、金属消光の影響を低減することができる。これにより、多光子励起装置において、多光子励起複合化合物内の多光子励起部に生じせしめたエネルギーを効率よく利用することが可能となる。
【0090】
さらに、本実施形態において前述した多光子励起複合化合物のうちCd−23やCd−24のように、多光子励起部が親水性基を有する場合には、より金属消光の影響を低減することができる。これは、この親水性基が周りの溶媒と相互作用することにより、連結基が屈曲して多光子励起部が微細金属体に接触することを防止できるためである。
【0091】
<多光子励起装置およびその作製方法の第2の実施形態>
まず、本実施形態に係る多光子励起装置30の構成について説明する。図3は、本実施形態に係る多光子励起装置30の全体構成を示す概略断面図である。多光子励起装置30は、第1の実施形態に係る多光子励起装置10とほぼ同様の構成であるが、突出部14bに多光子励起複合化合物Cdと、この多光子励起複合化合物Cdからエネルギーを受容するエネルギー受容体を含む化合物Ca(以下、受容体複合化合物)とが同時に結合している点で異なる。したがって、多光子励起装置30について、第1の実施形態と同様の要素についての説明は特に必要のない限り省略する。本実施形態に係る多光子励起装置30は、照射光Pの照射により、マッシュルーム構造の微細金属体局在プラズモンを生じせしめ、この局在プラズモンの電場増強効果により増強された近接場光によって多光子励起部に多光子励起を生じせしめ、この励起により蓄えたエネルギーをエネルギー受容体に移動させるものである。
【0092】
図3に示すように、多光子励起装置30は、金属層11と、この金属層上に形成された、複数の微細孔15を有する誘電体層12と、微細孔15に充填された充填部14aと充填部14a上に誘電体層12表面より突出するように形成されかつ照射光Pに起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部14bとからなる複数の微細金属体14と、突出部14bに結合した前述の多光子励起複合化合物Cdと、同様に突出部14bに結合した、この多光子励起複合化合物Cdからエネルギーを受容する受容体複合化合物Caとを備えている。ここで、多光子励起複合化合物Cdの多光子励起部は、照射光のエネルギーを吸収しそのエネルギーの少なくとも一部を供与するエネルギー供与体として働いている。そして、多光子励起複合化合物Cd中のエネルギー供与体と受容体複合化合物Ca中のエネルギー受容体とによってエネルギー移動を起こしうる光化学系複合体Ceが形成されている。
【0093】
受容体複合化合物Ca中のエネルギー受容体は、エネルギー供与体(多光子励起部)からエネルギーを受容するπ共役系を含む部分である。エネルギー受容体も共役多重結合を含まない連結基によって微細金属体に結合することにより、受容したエネルギーが金属消光することを防ぐことができる。エネルギー受容体の構造としては、エネルギー供与体からのエネルギー移動効率が高くなるように選択することが好ましい。また、受容体複合化合物Caの微細金属体への結合は、受容体複合化合物Caを溶かした溶液に、突出部14b(微細金属体14)の表面を浸漬することにより自己組織的に実施することができる。その具体的な方法は、多光子励起複合化合物Cdの結合方法と同様である。さらに、多光子励起複合化合物Cdおよび受容体複合化合物Caを溶かした溶液を用いることにより、多光子励起複合化合物Cdおよび受容体複合化合物Caを同時に突出部14bに結合させることもできる。
【0094】
図3のように、多光子励起装置30に照射光Pが照射されると、エネルギー供与体は、照射光Pの光エネルギーを吸収して励起され、電子を放出する。次いで放出された励起電子をエネルギー受容体が受け取って、電子の伝達、すなわち光エネルギーの移動が生じる。上記したように、本実施形態では、照射光Pを、突出部14bにおいて局在プラズモンを誘起される波長を含む光とすることにより、局在プラズモンによる突出部14b近傍での光の閉じ込め効果と突出部14b近傍における電場増強効果を得ることができる。従って、より照射光Pを、より長い間光化学系複合体Ce付近にとどめることができ、照射光Pを、より効率良く光化学系複合体Ceに吸収させることができる。特に、局在プラズモン共鳴波長においては、電場増強効果は100倍以上にもなることから、吸収効率を格段に向上させることが可能である。
【0095】
以上のように、本実施形態に係る多光子励起装置30も連結基によって、エネルギー供与体(多光子励起部)およびエネルギー受容体を微細金属体に連結している。したがって、エネルギー供与体およびエネルギー受容体と微細金属体とを電子的に隔離させることができるため、金属消光の影響を低減することができる。これにより、多光子励起装置において、多光子励起複合化合物内の多光子励起部に生じせしめたエネルギーを効率よく利用することが可能となる。
【実施例1】
【0096】
本発明に係る多光子励起装置の実施例、そして本発明に係る多光子励起装置を用いて行った波長変換測定の実施例を以下に示す。
【0097】
<多光子励起複合化合物の合成方法>
多光子励起複合化合物の合成例として、上記化合物Cd−21の合成方法を説明する。
シスタミン二塩酸塩(Cystamine dihydrochroride, Chemical Abstracts Registry Number: 56-17-7; Aldrich製試薬)39mg(170mmol)に、無水N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業製試薬)2ml、トリエチルアミン(和光純薬工業製試薬)0.96ml(6.94mmol)、および200mg(347mmol)のリサミン・ローダミンBスルホニルクロリド異性体混合物(Lissamine rhodaminB sulfonyl chroride mixed isomers:インビトロジェン製試薬 L−20)の無水N,N−ジメチルアセトアミド(9ml)溶液を加え、室温で5時間、次いで50℃で30分間撹拌した。冷却した1.5M塩酸に反応混合物を注入し、生じた沈殿を少量の冷却した1.5M塩酸で洗浄し、乾燥して83mg(収率39.6%)の化合物Cd−21を得た。
質量スペクトルは、m/zが+1233.59であり化合物Cd−21の構造と矛盾しなかった。エタノール溶液の吸収極大波長の光、および520nmの光で励起した場合の発光極大波長は、それぞれ562nm、および590nmであった。
【0098】
<実施例1>
上記多光子励起複合化合物Cd−21(色素部はローダミン6G型)を水:エタノール(1:1)混合液に溶かし、これに微細金属体表面を浸漬した。次いで、水:エタノール(1:1)混合液で微細金属体表面を洗浄し乾燥させた。そして、この装置の微細金属体表面に1050nmのレーザ光を照射したところ、570〜600nmという短波長の発光を観測することができた。
【0099】
<実施例2>
実施例1に示す化合物Cd−21溶液に、さらに化合物Cd−21の色素部を−CO−Phとした化合物を10倍モル添加した溶媒を作製した。そして、実施例1と同様に装置を作製し、また同様の測定を行った。この結果、1050nmのレーザ光照射により570〜600nmという短波長の発光を観測することができた。
【0100】
(比較例1)
化合物Cd−21を水:エタノール(1:1)混合液に溶かし、これを石英製の分光セルに入れ、実施例1と同様の測定を行った。この結果、1050nmのレーザ光照射による発光は観測することができなかった。
【0101】
(比較例2)
化合物Cd−21の溶液に微細金属体表面を浸漬することなしに、実施例1と同様の測定を行った。この結果、1050nmのレーザ光照射による発光は観測することができなかった。
【0102】
(比較例3)
誘電体プリズムの一面に金膜を備える、表面プラズモン電場増強装置を使用し、金膜表面にシランカップリング剤を介してアミノ基を修飾した。そして、このアミノ基にローダミン6G骨格を結合させた系を構築し、実施例1と同様の測定を行った。この結果、1050nmのレーザ光照射による発光は観測することができなかった。
【0103】
以上の実施例から、金属消光を防止し、多光子励起化合物内に生じせしめたエネルギーを効率よく利用できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る多光子励起装置は、生体物質を検出するバイオセンサとして利用することが可能である。例えば、被検出物質が多光子励起複合化合物の近傍に存在する場合、これらの間に相互作用が生じるため、多光子励起複合化合物の多光子励起効率が変化する。したがって、この多光子励起効率の変化に基づいて被検出物質の検出が可能となる。また、本発明に係る多光子励起装置は、多光子励起部が励起状態から基底状態へ戻る際に発光を伴う場合には、波長変換素子として利用することが可能である。さらに、本発明に係る多光子励起装置は、エネルギー移動を利用した人工光合成素子として利用することが可能である。多光子励起装置上に水分子を接触させて、光エネルギーを照射すると、表面に結合されている励起状態となった多光子励起複合物質または光化学系複合体により、接触している水分子が分解される。これにより、酸素及び/又は水素を発生させることができる。すなわち、本発明に係る多光子励起装置を用いて人工的に水から酸素を作り出すことができる。水分子は、通常の液体の水に含まれるものでもよいし、空気中等に含まれる水分子でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】第1の実施形態に係る多光子励起装置を示す概略断面図
【図1B】多光子励起装置の微細金属体近傍を示す概略図
【図2】多光子励起装置の微細金属体を有する基板を示す図
【図3】第2の実施形態に係る多光子励起装置を示す概略断面図
【符号の説明】
【0106】
10、30 多光子励起装置
12 誘電体層
12s 誘電体層の表面
13 基板
14 微細金属体
14a 充填部
14b 突出部
15 微細孔
Ca 受容体複合化合物
Cd 多光子励起複合化合物(エネルギー供与体)
Ce 光化学系複合体
A 結合部
D 多光子励起部
L 連結基
P 照射光
r 突出部の径
W 微細孔同士のピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一表面に開口している複数の微細孔を有する誘電体層を含む基板と、
前記微細孔内に充填された充填部と、該充填部上に前記誘電体層表面より突出するように形成されかつ照射光に起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部とからなる複数の微細金属体とを備える多光子励起装置であって、
前記突出部の表面に結合した、下記一般式(I)で表される複数の多光子励起複合化合物を有することを特徴とする多光子励起装置。
一般式(I):D−L−A
(上記式中、Dは前記照射光の光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系を有する多光子励起部を表し、Aは前記突出部と結合する結合部を表し、Lは前記多光子励起部と前記結合部とを連結する連結基を表す。)
【請求項2】
前記結合部が、硫黄原子によって前記突出部と結合する含硫黄結合部であることを特徴とする請求項1に記載の多光子励起装置。
【請求項3】
前記連結基が、脂肪族鎖からなる主鎖を有することを特徴とする請求項1または2に記載の多光子励起装置。
【請求項4】
前記連結基が、下記一般式(II)で表される構造を含むことを特徴とする請求項3に記載の多光子励起装置。
一般式(II):−(G−T
(上記式中、Gは−C(=O)−、−O−、−NR−、−(N含有複素環)−、−S−、−SO−、−SO−、−P(=O)<、またはこれらの結合からなる2価もしくは3価の部分連結基を表し、Tは脂肪族基を表し、a、bおよびcはそれぞれ0から2の整数、1から100の整数および1から100の整数を表す。ここで、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。また、cが2以上の整数の場合には、それぞれのcについてGおよびT並びにaおよびbは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記多光子励起部が、下記一般式(III)または一般式(IV)で表される化合物から導かれる残基であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の多光子励起装置。
一般式(III):
【化1】

一般式(IV):
【化2】

(一般式(III)又は(IV)中、Yは、メチン基、メチレン基またはアミンを表す。これらのメチン基およびメチレン基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基および炭素原子数6〜18のアリール基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基でそれぞれ置換されていてもよい。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110、R111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、または炭素原子数6〜18のアリールアミノ基を表す。ここでR108〜R111について、上記に挙げた基は互いに連結して環を形成していてもよい。また、R101〜R111のいずれか1つは、前記連結基を形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。さらに、本項に記載のアルキル基およびアルコキシ基は、一部不飽和結合を有していたりへテロ原子で置換されていたり分岐していたりしてもよい。そして、アリール基は多環芳香族炭化水素基も含むものである。)
【請求項6】
前記多光子励起部が、多光子励起に起因して前記照射光の波長よりも短い波長の光を発するものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の多光子励起装置。
【請求項7】
前記多光子励起部が、多光子励起により得たエネルギーの少なくとも一部を供与するエネルギー供与体として働くものであり、
前記突出部の表面に連結された、該エネルギー供与体から供与されたエネルギーを受容するエネルギー受容体を有し、
前記エネルギー供与体および前記エネルギー受容体により光化学系複合体が形成されていることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の多光子励起装置。
【請求項8】
少なくとも一表面に開口している複数の微細孔を有する誘電体層を含む基板、および
前記微細孔内に充填された充填部と、該充填部上に前記誘電体層表面より突出するように形成されかつ照射光に起因して局在プラズモンを誘起し得る径を有する突出部とからなる複数の微細金属体を用意して、
下記一般式(I)で表される複数の多光子励起複合化合物を前記突出部の表面に結合させることを特徴とする多光子励起装置の作製方法。
一般式(I):D−L−A
(上記式中、Dは前記照射光の光エネルギーを吸収して多光子励起を生じ得るπ電子共役系を有する多光子励起部を表し、Aは前記突出部と結合する結合部を表し、Lは前記多光子励起部と前記結合部とを連結する連結基を表す。)
【請求項9】
前記結合部が、硫黄原子を含む含硫黄結合部であり、
前記硫黄原子によって、前記連結基と前記突出部とを結合させることを特徴とする請求項8に記載の多光子励起装置の作製方法。
【請求項10】
前記多光子励起部を、多光子励起により得たエネルギーの少なくとも一部を供与するエネルギー供与体として働くものとし、
該エネルギー供与体から供与されたエネルギーを受容するエネルギー受容体を前記突出部に連結して、前記エネルギー供与体および前記エネルギー受容体からなる光化学系複合体を形成することを特徴とする請求項8または9に記載の多光子励起装置の作製方法。
【請求項11】
被陽極酸化物質に陽極酸化処理を施して、該陽極酸化処理を施した陽極酸化面に開口を有する複数の微細孔を形成することにより、前記誘電体層を形成することを特徴とする請求項8から10いずれかに記載の多光子励起装置の作製方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−156581(P2010−156581A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334142(P2008−334142)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】