多出力電源回路の設計方法及び多出力電源回路の設計装置
【課題】少ない工数で高効率の電圧コンバータの組み合わせを探索できる多出力電源回路の設計方法及びその設計装置を提供する。
【解決手段】複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法は,入力電源(根)と複数の出力電源(葉)との間に電圧コンバータを有するツリー構造をランダムに生成する工程とそのツリー構造の多出力電源回路の電力効率を計算する工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良の電力効率を有するツリー構造を探索する。さらに,前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善を行う。改善工程を任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返す。
【解決手段】複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法は,入力電源(根)と複数の出力電源(葉)との間に電圧コンバータを有するツリー構造をランダムに生成する工程とそのツリー構造の多出力電源回路の電力効率を計算する工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良の電力効率を有するツリー構造を探索する。さらに,前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善を行う。改善工程を任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,多出力電源回路の設計方法及び多出力電源回路の設計装置に関し,特に,複数の電圧コンバータをツリー構造(木構造)にして単一の入力電源電圧から複数の出力電源電圧を生成する多出力電源回路の設計方法及びその設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模な半導体集積回路装置(LSI)は,異なるアーキテクチャーで生成された複数のマクロを組み合わせて構成されることと,省電力化の要請が高いこととから,多電源化される傾向にある。すなわち,LSIは,内部に複数の電源領域(電源ドメイン)を有し,それらの電源のオン,オフを制御することで無駄な電力消費をなくし省電力化を図っている。そのため,かかるLSIに多電源を供給する多出力電源回路が必要になる。
【0003】
多出力電源回路は,例えばシステム内の直流電源を入力電源とし,LSI内部の電源ドメインに対応する複数の出力電源を生成する。単一の入力電源から複数の出力電源を生成する多出力電源回路の構成手法の一つとして,1入力1出力の電圧コンバータ,例えばDC−DCコンバータを組み合わせる方法がある。1入力1出力のDC−DCコンバータとは,第1の電圧を有する入力直流電源から第1の電圧より低いまたは高い第2の電圧を有する出力直流電源を生成する電源変換回路である。
【0004】
LSIの省電力化に伴い,多出力電源回路の省電力化も要求されている。したがって,多出力電源回路は低電力,つまり入力電力に対して出力電力の比が高い(高効率)ことが要求される。一方で,多出力電源回路を構成するDC−DCコンバータの数も可能な限り少ないことも,省スペース化の要請から要求される。
【0005】
しかしながら,複数の出力電源を生成する電圧コンバータの組み合わせは,多数存在し,最適な組み合わせを探索する効果的な方法については未だ提案されていない。一般論として,電圧コンバータの考えられる全ての組み合わせについて消費電力を計算し,その中から消費電力が最も小さい組み合わせを探索する方法が考えられる。
【0006】
多電源を有する半導体装置のレイアウト方法については,以下の特許文献がある。この特許文献には,多電源を有する半導体装置のレイアウトを容易にする方法が開示されている。多電源を生成する多出力電源回路についての設計方法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−15018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の電圧コンバータの考えられる全ての組み合わせについて消費電力を計算して最適な組み合わせを探索する方法は,膨大な工数を要し好ましくない。特に,LSIの電源ドメインの数が増大するに伴い,必要な出力電源の数も増大し,考えられる組み合わせの数は天文数学的に増大する傾向にある。
【0009】
そこで,本発明の目的は,少ない工数で高効率の電圧コンバータの組み合わせを探索できる多出力電源回路の設計方法及びその設計装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法は,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出
力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有し,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返す。
【0011】
上記の多出力電源回路の設計方法によれば,探索工程ではとりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけツリー生成工程とコスト関数値生成工程を行い,さらに改善工程ではより少ない数の電圧コンバータからなる入力側ツリー構造についてより良いコスト関数値を有するツリー構造を見つける探索工程を行うので,少ない工数で改善されたコスト関数値を有する電圧コンバータの組み合わせを探索することができる。
【0012】
より好ましい態様によれば,前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力から前記多出力電源回路の電力を求める。
【0013】
さらに,コスト関数値は,上記の電力効率に前記電圧コンバータの数に基づく低減効率を加えた値であることが望ましい。このようなコスト関数値を指標にすることで,より高い電力効率に加えてより少ない電圧コンバータの組み合わせを探索することができる。
【0014】
改善工程でより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換えられても,コスト関数値生成工程にて出力電源から入力側に向かって計算で求められた各電圧コンバータの出力電流を無駄にすることなく多出力電源回路の電力効率または電力の計算に利用することができる。
【0015】
より好ましい態様によれば,前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成する。すなわち,複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと単一の入力電源との間の経由ノード電圧コンバータを,乱数などに基づいてランダムに発生する。
【発明の効果】
【0016】
少ない工数で高効率の電圧コンバータの組み合わせを探索できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】多出力電源回路の一例を示す図である。
【図2】多出力電源回路の定義について示す図である。
【図3】電圧コンバータの一例を示す回路図である。
【図4】多出力電源回路の設計方法の一例を示すフローチャート図である。
【図5】本発明者による実験結果を示す図である。
【図6】本実施の形態における多出力電源回路の設計方法を示すフローチャート図である。
【図7】本実施の形態における設計方法の解絞り込み工程S1のフローチャート図である。
【図8】経由電圧表作成工程S1−1による経由電圧表の一例を示す図である。
【図9】経由電圧表作成工程のフローチャート図である。
【図10】木生成工程を説明する図である。
【図11】木生成工程S1−2のフローチャート図である。
【図12】木生成工程S1−2のフローチャート図である。
【図13】木生成工程S1−2により生成される木の途中経過を示す図である。
【図14】コスト関数値計算工程の具体例を示す図である。
【図15】図7の反復回数判定工程S1-5を説明する図である。
【図16】解改善工程S2のフローチャート図である。
【図17】解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第1の例を示す図である。
【図18】解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第2の例を示す図である。
【図19】解改善工程による電力効率の改善例を示す図である。
【図20】本実施の形態の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0019】
図1は,多出力電源回路の一例を示す図である。図1には3種類の多出力電源回路PSC1,2,3が示されている。多出力電源回路PSC1は,入力電源電圧5Vから,出力電源電圧3.3V,3.3V,2.5V,1.3Vにそれぞれ電圧変換する電圧コンバータC1〜C4を有する。多出力電源回路PSC2は,入力電源電圧5Vから出力電源電圧3.3Vに電圧変換する電圧コンバータC1と,3.3Vから2.5Vに電圧変換する電圧コンバータC5と,2.5Vから1.3Vに電圧変換する電圧コンバータC6とを有する。そして,多電源電圧PSC3は,入力電源電圧5Vから出力電源電圧3.3Vに電圧変換する電圧コンバータC1と,3.3Vから2.5Vに電圧変換する電圧コンバータC5と,3.3Vから1.3Vに電圧変換する電圧コンバータC7とを有する。このように,1つの入力電源電圧5Vから4つの出力電源電圧を生成する多出力電源回路は,電圧コンバータのツリー構造(木構造)で構成することができ,そのとりうるツリー構造は複数存在する。
【0020】
図2は,多出力電源回路の定義について示す図である。図1に示したとおり,本実施の形態で設計される多出力電源回路PSCは,電力供給源である1つの入力電源電圧P0から,電源が供給されるLSI内の複数の電源領域(電源ドメイン)D1ないしD4に供給する出力電源電圧を生成する。そこで,多出力電源回路PSCでは,入力電源電圧P0を根と定義し,各電源ドメインD1〜D4への出力電源電圧を葉と定義し,根と葉の間に電圧コンバータCのツリー構造(木構造)が形成される。ツリー構造であるので,根から葉に向かって1つの枝から複数の枝に分かれることはあっても,複数の枝から1つの枝が形成されることはない。また,経由する電圧に応じて1つの枝から1つの枝が生成され,それらの継ぎ目に電圧コンバータが配置される。
【0021】
各電圧コンバータは,1つの入力電圧から1つの出力電圧を生成する電圧コンバータである。そして,多出力電源回路は,この電圧コンバータのツリー構造を有する。各電圧コンバータの消費電力は,出力電圧と出力電流の積により求められる。また,各電圧コンバータの効率は,出力の消費電力の,入力電圧と入力電流の積から求められる入力電力に対する比率である。
【0022】
図3は,電圧コンバータの一例を示す回路図である。いずれの電圧コンバータも直流電圧Vinから直流電圧Voutに電圧変換するDC−DCコンバータである。ステップダウンDC−DCコンバータCsdwnは,スイッチトS1,インダクタL,ダイオードD1,キャパシタC1,負荷抵抗RLからなり,負荷抵抗RLに出力電圧Voutが生成される。出力電圧Voutは入力電圧Vinより低い。スイッチS1がオンの時に,実線の電流によりLにエネルギーが蓄えられる。そして,スイッチS1がオフの時に,ダイオードD1は破線の電流のようにインダクタLに蓄積されたエネルギーを負荷RLに転流する。そして,スイッチS1のオンとオフの比率により出力電圧Voutの電位が制御される。キャパシタC1に電荷が蓄積され,出力電圧Voutの変動が抑えられる。
【0023】
一方,ステップアップDC−DCコンバータCsupも,スイッチトS1,インダクタL,ダイオードD1,キャパシタC1,負荷抵抗RLからなり,負荷抵抗RLに出力電圧Voutが生成される。出力電圧Voutは入力電圧Vinより高い。スイッチS1がオンの時に,実線の電流によりインダクタLにエネルギーが蓄えられる。そして,スイッチS1がオフの時に,ダイオードD1は破線の電流のようにインダクタLに蓄積されたエネルギーを負荷RLに転流する。そして,スイッチS1のオンとオフの比率により出力電圧Voutの電位が制御される。
【0024】
本実施の形態の多出力電源回路は,図3のようなDC−DCコンバータをツリー構造にしたものである。ただし,図3以外の電圧コンバータ回路でも本実施の形態の多出力電源
回路は構成可能である。
【0025】
図4は,多出力電源回路の設計方法の一例を示すフローチャート図である。この設計方法は,後述する本実施の形態の設計方法に対する比較例である。図4の多出力電源回路の設計方法では,設計装置であるコンピュータに,多出力電源回路PSCに要求される入出力データ10と,ツリー構造(木)を構成するDC−DCコンバータの効率特性データ12とが入力される。入出力データ10は,電力供給源の入力電圧5Vと,電源ドメインA〜Eそれぞれに要求される出力電圧と出力電流とを有する。さらに,DC−DCコンバータの効率特性データ12は,あらかじめ生成されたDC−DCコンバータa),b),c),d)(d)は図示せず)の複数の出力電流Ioutに対応する電力効率を有する。
【0026】
コンピュータは,与えられる入出力データ10から考えられる全てのツリー構造(木)14を生成する(Sa)。ツリー構造(木)は,図1に示した通りであり,図4に示されているツリー構造(木)20は,入力電源電圧P0を根とし,電源ドメインA〜Eを葉とし,入力電圧かから出力電圧に変換するDC−DCコンバータa),b),c),d)のツリー構造(木)が,根と葉との間に有する。木生成工程Saは,全てのツリー構造例(木)14を生成する。次に,コンピュータは,全てのツリー構造(木)14それぞれについて効率特性データ12を参照してコスト関数値の計算を行う(Sb)。コスト関数値とは,ツリー構造(木)14の入力電力に対する出力電力の比からなる多出力電源回路の効率である。このコスト関数値計算工程Sbは,全てのツリー構造(木)14について,電力効率のリスト16を生成する。最後に,最適木選択工程Scで,コンピュータは,全てのツリー構造(木)14の電力効率のリスト16から,最も効率が高いツリー構造(木)18を選択する。
【0027】
上記の多出力電源回路の設計方法は,次のような問題点を有する。図2に示した1階層のツリー構造(木)の場合において,電源ドメインD1〜D4それぞれに出力電力を生成する電圧コンバータCの組み合わせの数は,n個のものを分割つまりグループ化する方法の総数にあたる数を示すベル数(Bn)である。ベル数は,n=1,2,3〜10とすると,Bn=1,2,5,15,52,203,877,4140,21147,115975である。そして,複数の電源ドメインに出力電圧を生成するツリー構造(木)は,図4の20に示すとおり,電圧コンバータが1階層ではなく複数階層からなる。したがって,複数階層のツリー構造(木)の場合は,n=10の場合のベル数Bn=115,975以上の組み合わせになることは明らかである。
【0028】
参考までに,電圧コンバータによるツリー構造(木)が2階層の場合は,n=10で4,073,412通り,3階層の場合は,n=10で2,108,950,871通りになることは,数学的に容易に確かめられる。
【0029】
よって,図4のように,考えられる全てのツリー構造(木)14を生成し,それら全てのコスト関数値(例として電力効率または電力)を計算すると,膨大な工数を必要とする。将来のLSIは電源ドメインの数が増大する傾向にあり,例えば100個の電源ドメインに対する出力電源を生成することが必要になる。このように電源ドメインの数nが増大すると,ツリー構造(木)の組み合わせ数が飛躍的に増大し,図4の設計方法は現実的ではない。
【0030】
図5は,本発明者による実験結果を示す図である。図5のグラフは,入力電源電圧5V,出力電圧1.2Vであり,必ず3.3Vを経由し,葉の数が10個存在する多出力電源回路について,図4の設計方法の工程Sa,Sbにより考えられる全てのツリー構造(木)の電力効率を計算し,そのヒストグラムで出力したものである。横軸が電力効率,縦軸がツリー構造(木)の数である。図5の最も右側に分布されるツリー構造(木)が最も高
い電力効率を有する。
【0031】
図5に示されるとおり,考えられるツリー構造(木)の電力効率は,比較的高い領域(64%〜83%)内に分布していることが判明した。このことから,かならずしも考えられる全てのツリー構造(木)の電力効率(コスト関数値)を計算する必要はなく,ツリー構造(木)をランダムに生成し,その電力効率(コスト関数値)を計算し,より高い効率のツリー構造(木)を選択するようにしても,最も高い電力効率のツリー構造(木)と遜色のない電力効率を有するツリー構造(木)を探索することができることが理解できる。
【0032】
図5の分布によれば,効率80%以上83%以下のツリー構造の解が全体の9%を占めている。このことは,確率的には,1回のランダムに生成したツリー構造の効率が,最高効率(83%)より3%以内の効率(80%以上)を有する確率は9%である。よって,ランダム生成を2回行って得たツリー構造のうちより高い効率のツリー構造の解を選択すれば,そのツリー構造が最高効率(83%)から3%以内の効率(80%以上)を有する確率は,100%−91%×91%=17%になる。同様に,5回で36%,10回で61%,50回で99%,100回で99.99%,200回で99.999999%である。つまり,ランダムにツリー構造を生成し電力効率を計算する工程は,かならずしも全ての組み合わせの回数行う必要はなく,所定回数繰り返せば,最高効率から一定範囲内の効率を有するツリー構造(木)の解を探索することができる。
【0033】
図6は,本実施の形態における多出力電源回路の設計方法を示すフローチャート図である。図6に示したフローチャートは概略であり,個々の工程については後で詳述する。なお,ツリー構造は「木」で統一して称する。
【0034】
本実施の形態の設計方法によれば,設計装置であるコンピュータに,多出力電源回路PSCに要求される入出力データ10と,木を構成するDC−DCコンバータの効率特性データ12とが入力される。入出力データ10は,電力供給源の入力電圧P=5Vと,電源ドメインA〜Eそれぞれに要求される出力電圧と出力電流とを有する。さらに,DC−DCコンバータの効率特性データ12は,あらかじめ生成されたDC−DCコンバータa),b),c),d)(d)は図示せず)の複数の出力電流Ioutに対応する電力効率を有する。効率特性データ12は,あらかじめ実験またはシミュレーションにより各電圧コンバータの電力効率を測定または計算することで求めることができる。また,電圧コンバータであるDC−DCコンバータは,入力電圧を出力電圧に変換する変換回路であり,その入力電圧と出力電圧は,多出力電源回路の入力電源電圧以下で多出力電源回路の出力電圧以上である。図6の効率特性データ12には,各電圧コンバータの入力電圧と出力電圧のデータも含まれる。
【0035】
解絞り込み工程S1では,入出力データ10から入力電源電圧P0と複数の電源ドメインへの出力電源との間にランダムに木を生成し,その電力効率などのコスト関数を計算し,ランダムに生成した所定個の木のうちコスト関数が最も良い木を解の候補の木22として絞り込む。このランダム生成された木の数は,図5の実験結果から得た統計的な性質に基づき,考えられる全ての木の数より十分に少ない数であり,一方,コスト関数が最良値に近くなる確率が十分に高い数である。後述する実施の形態では,この数は電源ドメインの数が10の場合でも50〜100回程度である。
【0036】
候補の木は,例えば,図中の20に示されるとおりであり,入力電源電圧P0からなる根と,複数の電源ドメインへの出力電圧を葉とするツリー構造である。ツリー構造は,1つの枝(単一の入力電圧)から1つまたは複数の枝(単一の出力電圧)を生成する複数の電圧コンバータを有する。各電圧コンバータは,入力電源電圧または出力電圧のいずれかの電圧から出力電圧のいずれかの電圧に変換する電圧変換器である。よって,電圧コンバ
ータは,出力電圧からなる経由電圧の位置に配置される。
【0037】
解改善工程S2では,解絞り込み工程S1で絞り込まれた候補の木について,任意の電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側ツリー構造について,解絞り込み工程S1を行い,より良いコスト関数を持つ入力側ツリー構造を探索する。また,上記の任意の電圧を順次入力電源電圧に達するまで順次入力側にシフトしながら,それに基づく入力側ツリー構造の改善を繰り返す。その結果,最良のコスト関数を有する木24が検出される。
【0038】
図6の設計方法において,候補の木22の数はかならずしも1個である必要はない。比較的少ない数であれば複数個であってもよい。そして,複数個の候補の木22について,解改善工程S2をより入力側のツリー構造を改善し,最もコスト関数が良い木を探索することが望ましい。
【0039】
[解絞り込み工程S1]
図7は,本実施の形態における設計方法の解絞り込み工程S1のフローチャート図である。経由電圧表作成工程S1−1では,多出力電源回路の入力電圧から出力電圧に至るまでにDC−DCコンバータにより電圧変換されて生じる経由電圧の列を電源ドメインごとに乱数を用いて生成する。具体的方法は後に詳述する。そして,木生成工程S1−2では,経由電圧表作成工程S1−1により作成した経由電圧表の経由電圧の列を満たすような多出力電源回路を,乱数を用いて生成する。これについても,具体的方法は後で詳述する。両工程S1−1,S1−2の乱数を用いて生成することが,ランダムに木を生成することを意味する。
【0040】
次に,コスト関数値計算工程S1−3では,木生成工程S1−2で生成した木による多出力電源回路のコスト関数値を計算する。コスト関数値については後で詳述するが,例えば電力効率であり,または電圧コンバータの数の要因を電力効率に加えた値である。そして,最良木更新工程S1−4では,コスト関数値がより良い多出力電源回路に対する木を最良木として置き換える。そして,一定回数,例えば電源ドメイン数10の場合に50〜100回,上記の工程S1−1〜S1−4を繰り返す(S1−5)。
【0041】
[経由電圧表作成工程S1−1]
図8は,経由電圧表作成工程S1−1による経由電圧表の一例を示す図である。図9は,経由電圧表作成工程のフローチャート図である。図8の経由電圧表tbl[v,d]を参照しながら,図9のフローチャートに沿って経由電圧表作成工程S1−1を説明する。
【0042】
経由電圧作成工程S1−1では,図8に示されるとおり,多出力電源回路の入出力データ10と,電圧コンバータの効率特性データ12(図6参照)とから,経由電圧表tbl[v,d]を作成する。具体的には,図9の表作成工程S1−1−1では,表tbl[v,d]の縦に,多出力電源回路の各電源ドメイン名(A〜E)とその電圧(3.3V,2.5V,2.5V,2.5V,1.2V)を書き並べ、横にDC−DCコンバータの効率特性表12から各コンバータの入力電圧と出力電圧とを抽出して書き並べる。そして,表の横方向の電圧(5V,3.3V,2.5V,1.2V)は左から右にむけて降順に並べる。
【0043】
次に,確定マス埋め工程S1−1−2では,多出力電源回路の入力電圧(5.5V)の列にすべて○を書く(図8中30参照)。この入力電圧の枝は必ず存在するからである。また各行ごとに多出力電源回路の電源供給先の各電源ドメインA〜Eへの出力電圧と同じ経由電圧の列に○を書く(図8中32参照)。この経由電圧も必ず存在するからである。そして、各電源ドメインA〜Eへの出力電圧未満の経由電圧の列に×を書く(図8中34参照)。この経由電圧は存在する必要がないからである。
【0044】
最後に,ランダム選択工程S1−1−3では,乱数を用いて残りのマスに○か×を書き入れる(図8中36参照)。すなわち,前述の工程では確定している経由電圧のマスに○または×を書き入れた。そして,残りのマスに対応する経由電圧は存在しても存在しなくても良いので,ランダムに○または×を書き入れる。その結果,図8に示した経由電圧表tbl[v,d]が生成される。
【0045】
[木生成工程S1−2]
図10は,木生成工程を説明する図である。図10には,図8と同じ経由電圧表tbl[v,d]が示されている。この経由電圧表tbl[v,d]には,多出力電源回路を構成する電圧コンバータの入力電圧と出力電圧の存在箇所が○で示される。この表によれば,電源ドメインAの3.3Vは,入力電圧5Vから3.3Vを出力する電源コンバータにより生成され,電源ドメインBの2.5Vは,入力電圧5Vから経由電圧3.3Vを出力する電源コンバータと,さらに2.5Vを出力する電源コンバータにより生成される。他の電源ドメインC,D,Eも同様である。
【0046】
このように,多出力電源回路の入力電圧5Vを除いて○が存在する経由電圧は,何らかの電圧コンバータにより生成される必要がある。そして,同一の経由電圧の列に複数の○が存在する場合,その同一の経由電圧を生成する電圧コンバータは,複数の選択肢が存在する。例えば,経由電圧3.3Vの列には図中40で示されるとおり3つのマスに○がある。この3つの同一の経由電圧のグループ40は,5Vから3.3Vに変換する単一の電圧コンバータで生成することもできれば,2つの電圧コンバータまたは3つの電圧コンバータで生成することもできる。したがって,ランダムに必要な電圧コンバータを生成するためには,3つのマスの○のグループ40をランダムにグルーピングすればよいことになる。
【0047】
ただし,経由電圧2.5Vの列には4つのマスに○が存在する。しかし,グループ44は入力電圧5V,出力電圧2.5Vの電圧コンバータにより生成され,グループ42は入力電圧3.3V,出力電圧2.5Vの電圧コンバータにより生成される。よって,グループ42と44とは別のグループに分けて,それぞれでランダムにグルーピングしなければならない。さらに,電圧コンバータは,単一の入力電圧を単一の出力電圧に変換するので,グループ42において,その入力電圧を生成するグループ40の3つの○が異なるグループに分けられると,その出力側のグループ42も別々に分けられなければならない。
【0048】
図10の経由電圧表tbl[v,d]から木生成する一例を説明すると以下の通りである。まず,グループ40を,ランダムなグループ化により,電源ドメインA,Bに属する○と,電源ドメインCに属する○とでグループ化したとする。その結果,図10中の電圧コンバータ群40Cに示すとおり,電源ドメインA,Bのための電圧コンバータC1と,電源ドメインCのための電圧コンバータC2とが生成される。次に,グループ42についてランダム発生を考えると,グループ40が2つにグループ化されたため,電圧コンバータC1の出力側には電源ドメインBのための電圧コンバータC3が,電圧コンバータC2の出力側には電源ドメインCのための電圧コンバータC4がそれぞれ生成されなければならない。この場合,電圧コンバータ群42Cには電圧コンバータをランダムに発生する余地はない。また,グループ44についてランダム発生を考えると,電源ドメインDに属する○と電源ドメインEに属する○とを1つのグループにグループ化したとする。その結果,電圧コンバータ群44Cに示すとおり,電源ドメインD,Eのための電圧コンバータC5が生成される。最後に,経由電圧1.2Vを生成する電圧コンバータC6はランダムに発生する余地はなく,電圧コンバータC5の出力に電圧コンバータC6が生成される。
【0049】
以上のとおり,複数の経由電圧のうち入力電圧5V側から出力電圧3.3V〜1.2Vに向かって,同一経由電圧の列の○のグループをランダムにグループ化して,グループ化
された位置に電圧コンバータを生成すれば,ランダムな木を生成することができる。ただし,電圧コンバータが単一入力電圧から単一出力電圧を生成するという規制に基づいて,ランダム発生可能か否かを判断する必要がある。
【0050】
図10に示された多出力電源回路において,電圧コンバータ群40Cが単一の電圧コンバータにグループ化されたとすると,その出力側の電圧コンバータ群42Cは,ランダムにグループ化することが許される。このように,入力側の電圧コンバータのグループ化の影響を受けるのである。
【0051】
図11,12は,木生成工程S1−2のフローチャート図である。図11,12は同じフローチャートであり,それぞれの右側にフローチャートの各工程の説明が示されている。図11は前半の説明,図12は後半の説明が示されている。
【0052】
図13は,木生成工程S1−2により生成される木の途中経過を示す図である。図11,12のフローチャートを簡単に説明した後,具体例について図13を参照して説明する。
【0053】
図11,12のフローチャートは,図10の経由電圧表tbl[v,d]からランダムに木46を生成する処理フローを示す。図中の工程に沿って概略を説明する。
【0054】
工程S1-2-1では,作業用キュー Qv, Qd, Qd_tmpと初期木を作成する。
【0055】
(1)電圧作業キューQvは工程S1-1で作成した経由電圧表の横方向に書き並べてある電圧のうち入力電圧を除去したものを降順に並べたものである。
【0056】
(2)電源ドメイン作業キューQdは電源ドメイン名を書き並べた一つの集合のみが格納されたキューである。
【0057】
(3)電源ドメインテンポラリキューQd_tmpは何も格納されていないキューである。
【0058】
(4)初期木は,それぞれの電源ドメインの電源ドメイン名をラベルとして持った葉ノードが共通の親ノードを持つような木である。
【0059】
工程S1-2-2では,Qvから要素を一つ取り出しVとする。つまり,経由電圧を入力電圧側から順次取り出して以下の処理を行う。
【0060】
工程S1-2-3では,Qdから要素を一つ取り出しDとする。Qdは,入力電圧側から木が分岐した場合に,分岐した枝が再度合体せずにさらに分岐する性質を有するので,さらに分岐可能な集合を要素とする。
【0061】
工程S1-2-4では,集合Dを2つに分割する。すなわち,工程S1-1で作成した経由電圧表の経由電圧Vの列の○×に従い、集合Dを分割する。このとき、○である方を集めた集合をDo、×であるほうの集合をDxとする。よって,Doは,図10のグループ40,42,44に対応する。
【0062】
工程S1-2-5では,グルーピング生成を行う。すなわち,集合Doを漏れ重複なく部分集合に分割したもの(グルーピング)を一つ,乱数を使用して生成する。そのように分割された部分集合の集合をG(Do)とする。この工程が前述したランダムなグルーピング工程に対
応する。この集合G(Do)は,次のサイクルで電源ドメイン作業キューQdの要素になる。
【0063】
工程S1-2-6では,木変更(ノード挿入)を行う。つまり,集合G(Do)の各要素に共通の
親ノードを葉ノードの直上に挿入する。挿入された親ノードに電圧コンバータが配置されることになる。
【0064】
工程S1-2-7では,Qd_tmp に 集合G(Do)の要素とDxを追加する。
【0065】
工程S1-2-8では,作業用キューQdが空でなければ 工程S1-2-3 へ進む。
【0066】
工程S1-2-9では,Qd := Qd_tmp, Qd_tmp:=[] と更新する。
【0067】
工程S1-2-10では,作業用キューQvが空ではなければ,工程S1-2-2へ進む。
【0068】
上記の工程S1-2-9の更新によりQd := Qd_tmpとされ,次のフローチャートのサイクルでは,Qdの各要素についてグルーピングが行われる。つまり,グルーピングに基づいて親ノードが生成され,木の枝が分岐したことになるので,分岐した電源ノード群のなかでランダムなグルーピングをすることでさらに分岐するか否かが選択される。
【0069】
[木生成の具体例]
次に,図10の具体例を,図13を参照しながら,上記のフローチャートに沿って説明する。
【0070】
工程S1-2-1で,作業用キュー Qv, Qd, Qd_tmpと初期木を作成する。図10の具体例に
よれば,作業用キューQd:=[{A,B,C,D,E}],Qv:=[3.3V,2.5V,1.2V],Qd_tmp := [],初期
木は図13の(a)になる。
【0071】
[V=3.3Vのサイクル]
工程S1-2-2で,電圧キューQvから要素を一つ取り出してV:=3.3Vとする。その結果,Qv:=[2.5V,1.2V]となる。
【0072】
工程S1-2-3で,電源ドメインQdから要素を一つ取り出してD:={A,B,C,D,E}とする。そ
の結果,Qd:=[]となる。
【0073】
工程S1-2-4で,D={A,B,C,D,E}のうち,図10の経由電圧表の経由電圧V=3.3Vの列
で○であるのは電源ドメインA,B,C,×であるのは電源ドメインD,Eであるので,Do={A,B,C},Dx={D,E}の集合に分割される。
【0074】
工程S1-2-5で,集合Do={A,B,C} を,漏れ,重複なく部分集合にランダムに分割すると
,分割後の部分集合の集合は,例えば G(Do)={{A,B}, {C}}になる。
【0075】
そして,工程S1-2-6で, 図13(b)に示すとおり,葉ノードA,Bに共通の親ノードC1が,葉ノードCに親ノードC2がそれぞれ挿入される。つまり,図10のグループ40が分
割され,電圧コンバータC1,C2が生成されたことに対応する。
【0076】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{A,B}, {C}, {D,E}]となる。
【0077】
工程S1-2-8で,Qdが空になっているので工程S1-2-9へ進む。工程S1-2-9では, Qd:=Qd_tmp=[{A,B}, {C}, {D,E}], Qd_tmp:=[] と更新される。さらに,工程S1-2-10で,作業
用キューQvが空ではないので,工程S1-2-2へ進む。Qd=[{A,B}, {C}, {D,E}]は,図13
(b)の親ノードC1,C2による分岐により,電源ドメインは{A,B}, {C}, {D,E}に分岐され
たことを意味する。よって,以降のグルーピングはこれらの要素内で行われなければならない。
【0078】
[V=2.5Vのサイクル]
工程S1-2-2で,電圧キューQvから要素を一つ取り出してV:=2.5Vとし,Qv:=[1.2V]となる。
【0079】
工程S1-2-3で,電源ドメインQdから要素を一つ取り出してD:={A,B}とし,Qd:=[{C}, {D,E}]となる。
【0080】
工程S1-2-4で,D={A,B}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのは電源ドメ
インB,×であるのは電源ドメインAであるので,Do:={B},Dx:={A}となる。
【0081】
工程S1-2-5で,Do={B} のグルーピングは, G(Do)={{B}}のみになる。つまりランダ
ムに発生する余地はない。
【0082】
工程S1-2-6で,図13(c)のように葉ノードBの直上に親ノードC3が挿入される。
【0083】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}]になる。
工程S1-2-8では,Qdは空でないので工程S1-2-3に進む。
【0084】
次に,工程S1-2-3) Qdから要素を一つ取り出してD:={C}とし,Qd:=[{D,E}]となる。
【0085】
工程S1-2-4で,D={C}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのはC,×であるのは存在しないので,Do:={C},Dx:={}となる。
【0086】
工程S1-2-5で,Do={C} のグルーピングは, G(Do)={{C}}のみしか存在しない。つまりランダムにグルーピングすることはできない。
【0087】
工程S1-2-6で,図13(d)のように葉ノードCの直上に親ノードC4が挿入される。
【0088】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}, {C}, {}]となる。工程S1-2-8で,Qdは空でないので工程S1-2-3に進む。
【0089】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出してD:={D,E}とし,Qd:=[]となる。
【0090】
工程S1-2-4で,D={D,E}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのはD,E,×であるのは存在しないので,Do={D,E},Dx={}となる。
【0091】
工程S1-2-5で,Do={D,E} のランダムなグルーピングにより G(Do)={{D,E}}が選ばれ
たとする。つまりグループ44の2つの○が一つの集合にグルーピングされる。
【0092】
工程S1-2-6で,図13(e)のように葉ノードD,Eの直上に共通の親ノードC5が挿入さ
れる。
【0093】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}, {C}, {},
{D,E}, {}]となる。
【0094】
工程S1-2-8で,Qdは空なので工程S1-2-9に進み,Qd:=Qd_tmp=[{B}, {A}, {C}, {}, {D,E}, {}], Qd_tmp:=[] と更新される。工程S1-2-10で,作業用キューQvが空ではないの
で,工程S1-2-2へ進む。Qd=[{B}, {A}, {C}, {}, {D,E}, {}]は,図13(e)の親ノードC3による分岐により,電源ドメインは{A}, {B}, {C}, {D,E}に分岐されたことを意味する。よって,以降のグルーピングはこれらの要素内で行われなければならない。
【0095】
[V=1.2Vのサイクル]
以下ではV=1.2V について,木の更新が発生するかに注目して簡略化して説明する。
【0096】
工程S1-2-2で,Qvから要素を一つ取り出して,V:=1.2V,Qv:=[]となる。
【0097】
工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={B},Qd:=[{A}, {C}, {}, {D,E}, {}]となる。
【0098】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列の Bは×。よってDo:={}なので木の更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={B}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0099】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={A},Qd:=[{C}, {}, {D,E}, {}]となる。
【0100】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列のAは×。よってDo:={}なので木の
更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={A}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0101】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={C},Qd:=[{}, {D,E}, {}]となる。
【0102】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列のCは×。よってDo:={}なので木の
更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={C}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0103】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={},Qd:=[{D,E}, {}]となる
。
【0104】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,D:={}よりDo:={}なので、木の更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む。
【0105】
次に,工程S1-2-3で, Qdから要素を一つ取り出して,D:={D,E},Qd:=[{}]となる。
【0106】
工程S1-2-4で, D:={D,E}のうち,経由電圧表のV=1.2Vの列が○であるのはE,×で
あるのはDなので,Do:={E},Dx:={D}になる。
【0107】
工程S1-2-5で,グルーピングは{E}しかないので,G(Do)={{E}}になる。
【0108】
工程S1-2-6で,図13(f)のように葉ノードEの直上に親ノードC6が挿入される。
【0109】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:= [{}, {B}, {}, {A},
{}, {C}, {}, {}, {E}, {D}]となる。工程S1-2-8で,Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0110】
最後に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={},Qd:=[]となる。
【0111】
工程S1-2-4〜S1-2-7で,D:={}よりDo:={}なので、木の更新は発生しない。
【0112】
工程S1-2-8で,Qdは空なのでS1-2-9に進む。そして,工程S1-2-9で,Qd:=Qd_tmp=[{},
{B}, {}, {A}, {}, {C}, {}, {}, {E}, {D}, {}, {}], Qd_tmp:=[] と更新される。
【0113】
工程S1-2-10で,作業用キューQvが空なので,木生成工程S1-2は終了する。その結果,
図13(f)の木が完成する。この木は,図10の木46と同じである。
【0114】
以上の通り,図10で説明したランダムに親ノードを発生するアルゴリズムに基づく具体的な処理フローが,図11,12,13により明らかになった。そして,図13(b),(e)でランダムなグルーピングが行われている。
【0115】
[コスト関数値計算工程S1−3]
図7にもどり,木生成工程S1-2でランダムに生成した木に対応する多出力電源回路のコスト関数値の計算(S1-3)が行われる。コスト関数値の第1の例は,多出力電源回路の電力効率または消費電力である。電力効率なら高いほうが良く,消費電力なら低い方がよい。また,コスト関数の第2の例は,多出力電源回路の電力効率から電圧コンバータの数に応じた分所定のペナルティを減算した値である。多出力電源回路の消費電力に電圧コンバータの数に応じた分所定のペナルティを加算した値である。第2の例は,多出力電源回路の集積度も考慮に入れたコスト関数値である。
【0116】
第1の例のコスト関数値(多出力電源回路の電力効率または消費電力)を求める方法について説明する。まず,多出力電源回路の出力電圧を出力する電圧コンバータについて,その出力電圧と出力電流及び効率特性データ12の効率とから入力電力と入力電流を求め,さらに入力側の電圧コンバータの入力電力と入力電流を求める計算を多出力電源回路の入力にたどりつくまで繰り返す。最後に,多出力電源回路の入力電圧と入力電流による入力電力と,多出力電源回路の出力電力の和との比から,多出力電源回路の電力効率が求められる。
【0117】
図14は,コスト関数値計算工程の具体例を示す図である。図14を参照して,多出力電源回路の電力効率の求め方を説明する。まず,電源ドメインが要求する電圧と電流は,出力電圧を生成する出力端子側の電圧コンバータの出力電圧と出力電流に対応し,それらの積が電圧コンバータの電力に対応する。
【0118】
図14の左側の多出力電源回路PSC1は電圧コンバータC7,C8からなる。各電圧コンバー
タC7,C8の電力は,それぞれの出力電圧と出力電流の積であり,3.3W,2Wである。
そこで,電圧コンバータC7,C8の入力電力と入力電流は,次の通り求めることができる。
(入力電力)=(出力電圧)×{Σ(出力電流)}/(効率) (1)
(入力電流)=(入力電力)/(入力電圧) (2)
ここで,Σ(出力電流)は電圧コンバータの出力電流の和である。効率は効率特性データ12から得られる。そして,上記の電圧コンバータC7,C8は出力電流は1つしかない。
【0119】
その結果,両電圧コンバータC7,C8はそれぞれ入力電力3.5W,2.6Wと,入力電流710mA,520mAが求められる。これらの入力電流の和が多出力電源回路の入力電流になる。最後に,
多出力電源回路の電力効率は,以下のとおり求められる。
(多出力電源回路の効率)=Σ{(出力電圧)×(出力電流)}/(入力電圧)×(入力電流) (3)
ここで,Σ{(出力電圧)×(出力電流)}は,各電源ドメイン毎の{(出力電圧)×(出力電流)}の和である。
【0120】
つまり,図14の左側の多出力電源回路PSC1の例によれば,図示されるとおり,効率は86%になる。また,多出力電源回路の消費電力は,入力電力から出力電力の和を減算すると求められ,0.8Wである。
【0121】
同様に,図14の右側の多出力電源回路PSC2の例は,電圧コンバータC7とC9とで構成されている。多出力電源回路の入力電圧,出力電圧,出力電流は左側の例と同じである。電圧コンバータC9の電力は2Wであり,効率85%であるので,入力電力2.3W,入力電流は710mAである。よって,電圧コンバータC7の出力電流は1Aと710mAの合計の1710mAであり,その出力電圧は3.3Vである。よって,電圧コンバータC7の効率が94%であるので,その入力電力が6.0Wになる。最後に,多出力電源回路の効率は,図示される通り88%になる。また,多出力電源回路の消費電力は0.7Wである。つまり,図14の右側の多出力電源回路のほうが消費電力は小さく電力効率が良い。
【0122】
次に,第2の例のコスト関数値を求める方法について説明する。コスト関数値は,以下のように求められる。
(コスト関数値)=(多出力電源回路の効率)−(定数)×(多出力電源回路の電圧コンバータ数)
ここで,定数は,(所定%)以上の効率向上で電圧コンバータを1個増やすことを許容するかにより算出されるパラメータである。例えば,(定数)=(所定%)である。したがって,このパラメータ値に応じて,多出力電源回路の効率が良くても電圧コンバータの数が多い場合は,コスト関数値は悪くなる。つまり,このコスト関数値は,電圧コンバータの数に応じた減少効率が実際の電力効率に加算されている。このコスト関数値で最良の木を選別すれば,多出力電源回路の回路規模も考慮した選別を行うことができる。
【0123】
図7に戻り,最良木更新工程S1-4では,生成した木のコスト関数値がそれまでの最良解を上回れば,その木を最良解に置き換える。
【0124】
[反復回数判定工程S1−5]
図15は,図7の反復回数判定工程S1-5を説明する図である。図15に示した表は,図7の工程S1-1〜S1-4の反復回数に対応して,最も効率の良い木と誤差3%以内の効率の解を発見できる確率を示している。図5で説明したのと同じである。これによれば,反復回数を増やすことで確率を高くすることができる。反復回数50回で確率が99%になり,反復回数100回で確率が99.99%になる。よって,本実施の形態では,反復回数判定工程では,反復回数が50回または100回に達したら解絞り込み工程S1を終了する。
【0125】
[解改善工程S2]
以上で図6の解絞り込み工程S1が終了した。次に,絞り込まれた解である木の多出力電源回路の改善工程S2について説明する。
【0126】
図16は,解改善工程S2のフローチャート図である。解改善工程S2では,解絞り込み工程S1で絞り込まれた木に対応する多出力電源回路のうち,ある任意の経由電圧以前の入力側の木について解絞り込み工程S1を実行して,入力側の木を改善する。任意の経由電圧は,例えば,出力電圧に最も近い経由電圧から,順次入力側の経由電圧に変更することが望ましく,それぞれの入力側の木について解絞り込み工程S1を実行することが望ましい。任意の経由電圧以前の入力側の木は,全体の木よりも経由電圧表のマスの数が少ないので,解絞り込み工程S1自体が工数が少なくなり,さらにランダムに生成される木の数も少なくすることができる。よって,改善工程S2では,より少ない工数でよりコスト関数値が改善された多出力電源回路を探索することができる。
【0127】
図16のフローチャートによれば,解改善初期設定工程S2-0で,経由電圧表の経由電圧のうち入力側の経由電圧を抽出して,リストQの集合とする。図16の例では,経由電圧3.3V,2.5Vが抽出されリストQの集合の要素となっている。次に,木切断工程S2-1で,リス
トQから最も出力側に近い電圧を取り出し切断電圧Vcutとし(S2-1-1),切断電圧Vcut以
前の入力側とVcutより出力側とに切断する(S2-1-2)。そして,入力側について経由電圧表tbl2を再度生成する(S1-1)。つまり,経由電圧表のマスを入力電圧と出力電圧の部分を除いくマスの中に○×をランダムに発生する。
【0128】
図17は,解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第1の例を示す図である。この例は,切断電圧Vcut=2.5Vの例である。解絞り込み工程S1で絞り込まれた木は,親ノードC1,C2が3.3Vを出力し,親ノードC3,C4,C5が2.5Vを出力し,親ノードC6が1.2Vを出力する。そこで,切断電圧Vcut=2.5Vとすると,親ノードC3,C4,C5以前の入力側の木が再探索部分50
になり,それより出力側の木は固定部分52になる。そして,再探索部分50の木について○×をランダムに発生して修正された経由電圧表tbl2が生成される。ただし,図17の例では○×は変更されていない。出力電圧2.5Vの切断部分は,電源ドメインB',C',D',E'
と命名され,それぞれの出力電圧は2.5Vとして経由電圧表tbl2に反映されている。
【0129】
そして,修正された経由電圧表tbl2に基づいて,前述した解絞り込み工程S1(S1-1〜S1-5)が再度実行される。つまり,入力電圧5Vの次の経由電圧3.3Vの列の3つの○についてランダムにグループ化され,そのグループ化毎に次の経由電圧2.5Vの列の○についてランダムにグループ化される。そして,よりコスト関数値が改善された木が探索される。
【0130】
終了判定工程S2-6では,リストQの要素が空か否か判定され,空でなければ切断電圧決
定工程S2-1-1で次の要素Vcut=3.3Vを取り出し,木切断処理工程S2-1-2で新たに再探索部
分の木を切断する。
【0131】
図18は,解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第2の例を示す図である。この例は,切断電圧Vcut=3.3Vの例である。切断方法は図17で説明したとおりである。この第2
の例では,切断電圧Vcut=3.3V以前の入力側の木が再探索部分54になっている。この再
探索部分54について修正された経由電圧表tbl3に基づいて,解絞り込み工程S1(S1-1〜S1-5)が再度実行される。この工程では,入力電圧5Vの次の経由電圧3.3Vの列の3つの○についてランダムにグループ化される。そして,よりコスト関数値が改善された木が探索される。
【0132】
最後に,終了判定工程S2-6で,リストQの要素が空であることが確認され,解改善工程S2は終了する。
【0133】
図19は,解改善工程による電力効率の改善例を示す図である。この改善例は,図17の切断電圧Vcut=2.5Vの例である。切断電圧Vcut=2.5V以前の入力側の木が再探索部分50に,それより出力側の木が固定部分52になる。図中(A)が改善前のそれぞれの電力効率を示し,(B)が改善後の電力効率を示す。(A)の改善前では,再探索部分50の効率が80%,固定部分52の効率が90%,全体の効率が72%である。それに対して,(B)の改善後では,再探索部分50の効率が85%と改善され,固定部分52の効率は90%のままでも,全体の効率は76.5%に改善されている。
【0134】
解絞り込み工程S1のコスト関数値計算工程S1−3では,出力電圧と出力電流を各電源ドメインで要求されている電圧と電流とし,出力側の電圧コンバータから入力側に向かって各電圧コンバータの出力電圧,出力電流と効率から入力電流を求める計算を行った。上記の解改善工程S2では,任意の切断電圧より出力側の木を固定部分としているので,最初に行ったコスト関数値計算結果を固定部分で再利用することができ,再度計算する必
要はない。よって,改善工程S2では,切断電圧以前の入力側を再探索部分にして改善を行うので,コスト関数値計算工程でも工数を削減することができる。
【0135】
図20は,本実施の形態の効果を示す図である。図4の比較例と,図6の本実施の形態との比較が示されている。図4の比較例の場合は,全ての考えられる木を生成し最良のコスト関数値の木を選択しているので,最適解を検出することができるもののその計算量が膨大になる。一方,図6の本実施の形態では,所定数の木を生成して最良のコスト関数値の木を選択し,さらに入力側の一部分について再度探索を行うので,検出される木の多出力電源回路のコスト関数値は最適解とはある範囲内にしか入らないが,計算量を大幅に減らすことができる。例えば,電源ドメインが10個の場合,多出力電源回路が3段構成とすると,図4の比較例では考えられる木の数は2.11×109になるのに対して,図6の実施
の形態では数百に減らすことができる。
【0136】
以上説明した多出力電源回路の設計方法は,汎用コンピュータに多出力電源回路設計プログラムをインストールした多出力電源回路設計装置により実現可能である。かかる多出力電源回路設計装置は,入力データ,処理中のデータQd,Qv,Qdtmp,木のデータ,入出力
電圧,電流値と共に,図6,7,9,11,16に示されたフローチャートに基づく設計プログラムを格納するメモリ手段と,演算を行うCPUとで構成される。
【0137】
上記の実施の形態によれば,少ない工数で現実的に満足できる電力効率またはコスト関数値を有する多出力電源回路の設計を行うことができる。
【0138】
以上の実施の形態をまとめると,次の付記のとおりである。
【0139】
(付記1)
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有する多出力電源回路の設計方法。
【0140】
(付記2)
付記1において,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0141】
(付記3)
付記1において,
前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の
出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力に基づいて前記多出力電源回路の電力を求めることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0142】
(付記4)
付記3において,
前記コスト関数値は,前記電力効率に前記電圧コンバータの数に基づく低減効率を加えた値であることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0143】
(付記5)
付記1において,
前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0144】
(付記6)
付記5において,
前記ツリー生成工程では,複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと単一の入力電源との間の経由ノード電圧コンバータを,乱数に基づいてランダムに発生することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0145】
(付記7)
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計装置において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索手段と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善手段とを有する多出力電源回路の設計装置。
【0146】
(付記8)
付記7において,
前記改善手段が前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して前記改善を繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計装置。
【符号の説明】
【0147】
S1:探索工程(解絞り込み工程)
S2:解改善工程
20:生成されたツリー構造による多出力電源回路
【技術分野】
【0001】
本発明は,多出力電源回路の設計方法及び多出力電源回路の設計装置に関し,特に,複数の電圧コンバータをツリー構造(木構造)にして単一の入力電源電圧から複数の出力電源電圧を生成する多出力電源回路の設計方法及びその設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模な半導体集積回路装置(LSI)は,異なるアーキテクチャーで生成された複数のマクロを組み合わせて構成されることと,省電力化の要請が高いこととから,多電源化される傾向にある。すなわち,LSIは,内部に複数の電源領域(電源ドメイン)を有し,それらの電源のオン,オフを制御することで無駄な電力消費をなくし省電力化を図っている。そのため,かかるLSIに多電源を供給する多出力電源回路が必要になる。
【0003】
多出力電源回路は,例えばシステム内の直流電源を入力電源とし,LSI内部の電源ドメインに対応する複数の出力電源を生成する。単一の入力電源から複数の出力電源を生成する多出力電源回路の構成手法の一つとして,1入力1出力の電圧コンバータ,例えばDC−DCコンバータを組み合わせる方法がある。1入力1出力のDC−DCコンバータとは,第1の電圧を有する入力直流電源から第1の電圧より低いまたは高い第2の電圧を有する出力直流電源を生成する電源変換回路である。
【0004】
LSIの省電力化に伴い,多出力電源回路の省電力化も要求されている。したがって,多出力電源回路は低電力,つまり入力電力に対して出力電力の比が高い(高効率)ことが要求される。一方で,多出力電源回路を構成するDC−DCコンバータの数も可能な限り少ないことも,省スペース化の要請から要求される。
【0005】
しかしながら,複数の出力電源を生成する電圧コンバータの組み合わせは,多数存在し,最適な組み合わせを探索する効果的な方法については未だ提案されていない。一般論として,電圧コンバータの考えられる全ての組み合わせについて消費電力を計算し,その中から消費電力が最も小さい組み合わせを探索する方法が考えられる。
【0006】
多電源を有する半導体装置のレイアウト方法については,以下の特許文献がある。この特許文献には,多電源を有する半導体装置のレイアウトを容易にする方法が開示されている。多電源を生成する多出力電源回路についての設計方法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−15018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の電圧コンバータの考えられる全ての組み合わせについて消費電力を計算して最適な組み合わせを探索する方法は,膨大な工数を要し好ましくない。特に,LSIの電源ドメインの数が増大するに伴い,必要な出力電源の数も増大し,考えられる組み合わせの数は天文数学的に増大する傾向にある。
【0009】
そこで,本発明の目的は,少ない工数で高効率の電圧コンバータの組み合わせを探索できる多出力電源回路の設計方法及びその設計装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法は,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出
力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有し,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返す。
【0011】
上記の多出力電源回路の設計方法によれば,探索工程ではとりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけツリー生成工程とコスト関数値生成工程を行い,さらに改善工程ではより少ない数の電圧コンバータからなる入力側ツリー構造についてより良いコスト関数値を有するツリー構造を見つける探索工程を行うので,少ない工数で改善されたコスト関数値を有する電圧コンバータの組み合わせを探索することができる。
【0012】
より好ましい態様によれば,前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力から前記多出力電源回路の電力を求める。
【0013】
さらに,コスト関数値は,上記の電力効率に前記電圧コンバータの数に基づく低減効率を加えた値であることが望ましい。このようなコスト関数値を指標にすることで,より高い電力効率に加えてより少ない電圧コンバータの組み合わせを探索することができる。
【0014】
改善工程でより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換えられても,コスト関数値生成工程にて出力電源から入力側に向かって計算で求められた各電圧コンバータの出力電流を無駄にすることなく多出力電源回路の電力効率または電力の計算に利用することができる。
【0015】
より好ましい態様によれば,前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成する。すなわち,複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと単一の入力電源との間の経由ノード電圧コンバータを,乱数などに基づいてランダムに発生する。
【発明の効果】
【0016】
少ない工数で高効率の電圧コンバータの組み合わせを探索できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】多出力電源回路の一例を示す図である。
【図2】多出力電源回路の定義について示す図である。
【図3】電圧コンバータの一例を示す回路図である。
【図4】多出力電源回路の設計方法の一例を示すフローチャート図である。
【図5】本発明者による実験結果を示す図である。
【図6】本実施の形態における多出力電源回路の設計方法を示すフローチャート図である。
【図7】本実施の形態における設計方法の解絞り込み工程S1のフローチャート図である。
【図8】経由電圧表作成工程S1−1による経由電圧表の一例を示す図である。
【図9】経由電圧表作成工程のフローチャート図である。
【図10】木生成工程を説明する図である。
【図11】木生成工程S1−2のフローチャート図である。
【図12】木生成工程S1−2のフローチャート図である。
【図13】木生成工程S1−2により生成される木の途中経過を示す図である。
【図14】コスト関数値計算工程の具体例を示す図である。
【図15】図7の反復回数判定工程S1-5を説明する図である。
【図16】解改善工程S2のフローチャート図である。
【図17】解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第1の例を示す図である。
【図18】解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第2の例を示す図である。
【図19】解改善工程による電力効率の改善例を示す図である。
【図20】本実施の形態の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0019】
図1は,多出力電源回路の一例を示す図である。図1には3種類の多出力電源回路PSC1,2,3が示されている。多出力電源回路PSC1は,入力電源電圧5Vから,出力電源電圧3.3V,3.3V,2.5V,1.3Vにそれぞれ電圧変換する電圧コンバータC1〜C4を有する。多出力電源回路PSC2は,入力電源電圧5Vから出力電源電圧3.3Vに電圧変換する電圧コンバータC1と,3.3Vから2.5Vに電圧変換する電圧コンバータC5と,2.5Vから1.3Vに電圧変換する電圧コンバータC6とを有する。そして,多電源電圧PSC3は,入力電源電圧5Vから出力電源電圧3.3Vに電圧変換する電圧コンバータC1と,3.3Vから2.5Vに電圧変換する電圧コンバータC5と,3.3Vから1.3Vに電圧変換する電圧コンバータC7とを有する。このように,1つの入力電源電圧5Vから4つの出力電源電圧を生成する多出力電源回路は,電圧コンバータのツリー構造(木構造)で構成することができ,そのとりうるツリー構造は複数存在する。
【0020】
図2は,多出力電源回路の定義について示す図である。図1に示したとおり,本実施の形態で設計される多出力電源回路PSCは,電力供給源である1つの入力電源電圧P0から,電源が供給されるLSI内の複数の電源領域(電源ドメイン)D1ないしD4に供給する出力電源電圧を生成する。そこで,多出力電源回路PSCでは,入力電源電圧P0を根と定義し,各電源ドメインD1〜D4への出力電源電圧を葉と定義し,根と葉の間に電圧コンバータCのツリー構造(木構造)が形成される。ツリー構造であるので,根から葉に向かって1つの枝から複数の枝に分かれることはあっても,複数の枝から1つの枝が形成されることはない。また,経由する電圧に応じて1つの枝から1つの枝が生成され,それらの継ぎ目に電圧コンバータが配置される。
【0021】
各電圧コンバータは,1つの入力電圧から1つの出力電圧を生成する電圧コンバータである。そして,多出力電源回路は,この電圧コンバータのツリー構造を有する。各電圧コンバータの消費電力は,出力電圧と出力電流の積により求められる。また,各電圧コンバータの効率は,出力の消費電力の,入力電圧と入力電流の積から求められる入力電力に対する比率である。
【0022】
図3は,電圧コンバータの一例を示す回路図である。いずれの電圧コンバータも直流電圧Vinから直流電圧Voutに電圧変換するDC−DCコンバータである。ステップダウンDC−DCコンバータCsdwnは,スイッチトS1,インダクタL,ダイオードD1,キャパシタC1,負荷抵抗RLからなり,負荷抵抗RLに出力電圧Voutが生成される。出力電圧Voutは入力電圧Vinより低い。スイッチS1がオンの時に,実線の電流によりLにエネルギーが蓄えられる。そして,スイッチS1がオフの時に,ダイオードD1は破線の電流のようにインダクタLに蓄積されたエネルギーを負荷RLに転流する。そして,スイッチS1のオンとオフの比率により出力電圧Voutの電位が制御される。キャパシタC1に電荷が蓄積され,出力電圧Voutの変動が抑えられる。
【0023】
一方,ステップアップDC−DCコンバータCsupも,スイッチトS1,インダクタL,ダイオードD1,キャパシタC1,負荷抵抗RLからなり,負荷抵抗RLに出力電圧Voutが生成される。出力電圧Voutは入力電圧Vinより高い。スイッチS1がオンの時に,実線の電流によりインダクタLにエネルギーが蓄えられる。そして,スイッチS1がオフの時に,ダイオードD1は破線の電流のようにインダクタLに蓄積されたエネルギーを負荷RLに転流する。そして,スイッチS1のオンとオフの比率により出力電圧Voutの電位が制御される。
【0024】
本実施の形態の多出力電源回路は,図3のようなDC−DCコンバータをツリー構造にしたものである。ただし,図3以外の電圧コンバータ回路でも本実施の形態の多出力電源
回路は構成可能である。
【0025】
図4は,多出力電源回路の設計方法の一例を示すフローチャート図である。この設計方法は,後述する本実施の形態の設計方法に対する比較例である。図4の多出力電源回路の設計方法では,設計装置であるコンピュータに,多出力電源回路PSCに要求される入出力データ10と,ツリー構造(木)を構成するDC−DCコンバータの効率特性データ12とが入力される。入出力データ10は,電力供給源の入力電圧5Vと,電源ドメインA〜Eそれぞれに要求される出力電圧と出力電流とを有する。さらに,DC−DCコンバータの効率特性データ12は,あらかじめ生成されたDC−DCコンバータa),b),c),d)(d)は図示せず)の複数の出力電流Ioutに対応する電力効率を有する。
【0026】
コンピュータは,与えられる入出力データ10から考えられる全てのツリー構造(木)14を生成する(Sa)。ツリー構造(木)は,図1に示した通りであり,図4に示されているツリー構造(木)20は,入力電源電圧P0を根とし,電源ドメインA〜Eを葉とし,入力電圧かから出力電圧に変換するDC−DCコンバータa),b),c),d)のツリー構造(木)が,根と葉との間に有する。木生成工程Saは,全てのツリー構造例(木)14を生成する。次に,コンピュータは,全てのツリー構造(木)14それぞれについて効率特性データ12を参照してコスト関数値の計算を行う(Sb)。コスト関数値とは,ツリー構造(木)14の入力電力に対する出力電力の比からなる多出力電源回路の効率である。このコスト関数値計算工程Sbは,全てのツリー構造(木)14について,電力効率のリスト16を生成する。最後に,最適木選択工程Scで,コンピュータは,全てのツリー構造(木)14の電力効率のリスト16から,最も効率が高いツリー構造(木)18を選択する。
【0027】
上記の多出力電源回路の設計方法は,次のような問題点を有する。図2に示した1階層のツリー構造(木)の場合において,電源ドメインD1〜D4それぞれに出力電力を生成する電圧コンバータCの組み合わせの数は,n個のものを分割つまりグループ化する方法の総数にあたる数を示すベル数(Bn)である。ベル数は,n=1,2,3〜10とすると,Bn=1,2,5,15,52,203,877,4140,21147,115975である。そして,複数の電源ドメインに出力電圧を生成するツリー構造(木)は,図4の20に示すとおり,電圧コンバータが1階層ではなく複数階層からなる。したがって,複数階層のツリー構造(木)の場合は,n=10の場合のベル数Bn=115,975以上の組み合わせになることは明らかである。
【0028】
参考までに,電圧コンバータによるツリー構造(木)が2階層の場合は,n=10で4,073,412通り,3階層の場合は,n=10で2,108,950,871通りになることは,数学的に容易に確かめられる。
【0029】
よって,図4のように,考えられる全てのツリー構造(木)14を生成し,それら全てのコスト関数値(例として電力効率または電力)を計算すると,膨大な工数を必要とする。将来のLSIは電源ドメインの数が増大する傾向にあり,例えば100個の電源ドメインに対する出力電源を生成することが必要になる。このように電源ドメインの数nが増大すると,ツリー構造(木)の組み合わせ数が飛躍的に増大し,図4の設計方法は現実的ではない。
【0030】
図5は,本発明者による実験結果を示す図である。図5のグラフは,入力電源電圧5V,出力電圧1.2Vであり,必ず3.3Vを経由し,葉の数が10個存在する多出力電源回路について,図4の設計方法の工程Sa,Sbにより考えられる全てのツリー構造(木)の電力効率を計算し,そのヒストグラムで出力したものである。横軸が電力効率,縦軸がツリー構造(木)の数である。図5の最も右側に分布されるツリー構造(木)が最も高
い電力効率を有する。
【0031】
図5に示されるとおり,考えられるツリー構造(木)の電力効率は,比較的高い領域(64%〜83%)内に分布していることが判明した。このことから,かならずしも考えられる全てのツリー構造(木)の電力効率(コスト関数値)を計算する必要はなく,ツリー構造(木)をランダムに生成し,その電力効率(コスト関数値)を計算し,より高い効率のツリー構造(木)を選択するようにしても,最も高い電力効率のツリー構造(木)と遜色のない電力効率を有するツリー構造(木)を探索することができることが理解できる。
【0032】
図5の分布によれば,効率80%以上83%以下のツリー構造の解が全体の9%を占めている。このことは,確率的には,1回のランダムに生成したツリー構造の効率が,最高効率(83%)より3%以内の効率(80%以上)を有する確率は9%である。よって,ランダム生成を2回行って得たツリー構造のうちより高い効率のツリー構造の解を選択すれば,そのツリー構造が最高効率(83%)から3%以内の効率(80%以上)を有する確率は,100%−91%×91%=17%になる。同様に,5回で36%,10回で61%,50回で99%,100回で99.99%,200回で99.999999%である。つまり,ランダムにツリー構造を生成し電力効率を計算する工程は,かならずしも全ての組み合わせの回数行う必要はなく,所定回数繰り返せば,最高効率から一定範囲内の効率を有するツリー構造(木)の解を探索することができる。
【0033】
図6は,本実施の形態における多出力電源回路の設計方法を示すフローチャート図である。図6に示したフローチャートは概略であり,個々の工程については後で詳述する。なお,ツリー構造は「木」で統一して称する。
【0034】
本実施の形態の設計方法によれば,設計装置であるコンピュータに,多出力電源回路PSCに要求される入出力データ10と,木を構成するDC−DCコンバータの効率特性データ12とが入力される。入出力データ10は,電力供給源の入力電圧P=5Vと,電源ドメインA〜Eそれぞれに要求される出力電圧と出力電流とを有する。さらに,DC−DCコンバータの効率特性データ12は,あらかじめ生成されたDC−DCコンバータa),b),c),d)(d)は図示せず)の複数の出力電流Ioutに対応する電力効率を有する。効率特性データ12は,あらかじめ実験またはシミュレーションにより各電圧コンバータの電力効率を測定または計算することで求めることができる。また,電圧コンバータであるDC−DCコンバータは,入力電圧を出力電圧に変換する変換回路であり,その入力電圧と出力電圧は,多出力電源回路の入力電源電圧以下で多出力電源回路の出力電圧以上である。図6の効率特性データ12には,各電圧コンバータの入力電圧と出力電圧のデータも含まれる。
【0035】
解絞り込み工程S1では,入出力データ10から入力電源電圧P0と複数の電源ドメインへの出力電源との間にランダムに木を生成し,その電力効率などのコスト関数を計算し,ランダムに生成した所定個の木のうちコスト関数が最も良い木を解の候補の木22として絞り込む。このランダム生成された木の数は,図5の実験結果から得た統計的な性質に基づき,考えられる全ての木の数より十分に少ない数であり,一方,コスト関数が最良値に近くなる確率が十分に高い数である。後述する実施の形態では,この数は電源ドメインの数が10の場合でも50〜100回程度である。
【0036】
候補の木は,例えば,図中の20に示されるとおりであり,入力電源電圧P0からなる根と,複数の電源ドメインへの出力電圧を葉とするツリー構造である。ツリー構造は,1つの枝(単一の入力電圧)から1つまたは複数の枝(単一の出力電圧)を生成する複数の電圧コンバータを有する。各電圧コンバータは,入力電源電圧または出力電圧のいずれかの電圧から出力電圧のいずれかの電圧に変換する電圧変換器である。よって,電圧コンバ
ータは,出力電圧からなる経由電圧の位置に配置される。
【0037】
解改善工程S2では,解絞り込み工程S1で絞り込まれた候補の木について,任意の電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側ツリー構造について,解絞り込み工程S1を行い,より良いコスト関数を持つ入力側ツリー構造を探索する。また,上記の任意の電圧を順次入力電源電圧に達するまで順次入力側にシフトしながら,それに基づく入力側ツリー構造の改善を繰り返す。その結果,最良のコスト関数を有する木24が検出される。
【0038】
図6の設計方法において,候補の木22の数はかならずしも1個である必要はない。比較的少ない数であれば複数個であってもよい。そして,複数個の候補の木22について,解改善工程S2をより入力側のツリー構造を改善し,最もコスト関数が良い木を探索することが望ましい。
【0039】
[解絞り込み工程S1]
図7は,本実施の形態における設計方法の解絞り込み工程S1のフローチャート図である。経由電圧表作成工程S1−1では,多出力電源回路の入力電圧から出力電圧に至るまでにDC−DCコンバータにより電圧変換されて生じる経由電圧の列を電源ドメインごとに乱数を用いて生成する。具体的方法は後に詳述する。そして,木生成工程S1−2では,経由電圧表作成工程S1−1により作成した経由電圧表の経由電圧の列を満たすような多出力電源回路を,乱数を用いて生成する。これについても,具体的方法は後で詳述する。両工程S1−1,S1−2の乱数を用いて生成することが,ランダムに木を生成することを意味する。
【0040】
次に,コスト関数値計算工程S1−3では,木生成工程S1−2で生成した木による多出力電源回路のコスト関数値を計算する。コスト関数値については後で詳述するが,例えば電力効率であり,または電圧コンバータの数の要因を電力効率に加えた値である。そして,最良木更新工程S1−4では,コスト関数値がより良い多出力電源回路に対する木を最良木として置き換える。そして,一定回数,例えば電源ドメイン数10の場合に50〜100回,上記の工程S1−1〜S1−4を繰り返す(S1−5)。
【0041】
[経由電圧表作成工程S1−1]
図8は,経由電圧表作成工程S1−1による経由電圧表の一例を示す図である。図9は,経由電圧表作成工程のフローチャート図である。図8の経由電圧表tbl[v,d]を参照しながら,図9のフローチャートに沿って経由電圧表作成工程S1−1を説明する。
【0042】
経由電圧作成工程S1−1では,図8に示されるとおり,多出力電源回路の入出力データ10と,電圧コンバータの効率特性データ12(図6参照)とから,経由電圧表tbl[v,d]を作成する。具体的には,図9の表作成工程S1−1−1では,表tbl[v,d]の縦に,多出力電源回路の各電源ドメイン名(A〜E)とその電圧(3.3V,2.5V,2.5V,2.5V,1.2V)を書き並べ、横にDC−DCコンバータの効率特性表12から各コンバータの入力電圧と出力電圧とを抽出して書き並べる。そして,表の横方向の電圧(5V,3.3V,2.5V,1.2V)は左から右にむけて降順に並べる。
【0043】
次に,確定マス埋め工程S1−1−2では,多出力電源回路の入力電圧(5.5V)の列にすべて○を書く(図8中30参照)。この入力電圧の枝は必ず存在するからである。また各行ごとに多出力電源回路の電源供給先の各電源ドメインA〜Eへの出力電圧と同じ経由電圧の列に○を書く(図8中32参照)。この経由電圧も必ず存在するからである。そして、各電源ドメインA〜Eへの出力電圧未満の経由電圧の列に×を書く(図8中34参照)。この経由電圧は存在する必要がないからである。
【0044】
最後に,ランダム選択工程S1−1−3では,乱数を用いて残りのマスに○か×を書き入れる(図8中36参照)。すなわち,前述の工程では確定している経由電圧のマスに○または×を書き入れた。そして,残りのマスに対応する経由電圧は存在しても存在しなくても良いので,ランダムに○または×を書き入れる。その結果,図8に示した経由電圧表tbl[v,d]が生成される。
【0045】
[木生成工程S1−2]
図10は,木生成工程を説明する図である。図10には,図8と同じ経由電圧表tbl[v,d]が示されている。この経由電圧表tbl[v,d]には,多出力電源回路を構成する電圧コンバータの入力電圧と出力電圧の存在箇所が○で示される。この表によれば,電源ドメインAの3.3Vは,入力電圧5Vから3.3Vを出力する電源コンバータにより生成され,電源ドメインBの2.5Vは,入力電圧5Vから経由電圧3.3Vを出力する電源コンバータと,さらに2.5Vを出力する電源コンバータにより生成される。他の電源ドメインC,D,Eも同様である。
【0046】
このように,多出力電源回路の入力電圧5Vを除いて○が存在する経由電圧は,何らかの電圧コンバータにより生成される必要がある。そして,同一の経由電圧の列に複数の○が存在する場合,その同一の経由電圧を生成する電圧コンバータは,複数の選択肢が存在する。例えば,経由電圧3.3Vの列には図中40で示されるとおり3つのマスに○がある。この3つの同一の経由電圧のグループ40は,5Vから3.3Vに変換する単一の電圧コンバータで生成することもできれば,2つの電圧コンバータまたは3つの電圧コンバータで生成することもできる。したがって,ランダムに必要な電圧コンバータを生成するためには,3つのマスの○のグループ40をランダムにグルーピングすればよいことになる。
【0047】
ただし,経由電圧2.5Vの列には4つのマスに○が存在する。しかし,グループ44は入力電圧5V,出力電圧2.5Vの電圧コンバータにより生成され,グループ42は入力電圧3.3V,出力電圧2.5Vの電圧コンバータにより生成される。よって,グループ42と44とは別のグループに分けて,それぞれでランダムにグルーピングしなければならない。さらに,電圧コンバータは,単一の入力電圧を単一の出力電圧に変換するので,グループ42において,その入力電圧を生成するグループ40の3つの○が異なるグループに分けられると,その出力側のグループ42も別々に分けられなければならない。
【0048】
図10の経由電圧表tbl[v,d]から木生成する一例を説明すると以下の通りである。まず,グループ40を,ランダムなグループ化により,電源ドメインA,Bに属する○と,電源ドメインCに属する○とでグループ化したとする。その結果,図10中の電圧コンバータ群40Cに示すとおり,電源ドメインA,Bのための電圧コンバータC1と,電源ドメインCのための電圧コンバータC2とが生成される。次に,グループ42についてランダム発生を考えると,グループ40が2つにグループ化されたため,電圧コンバータC1の出力側には電源ドメインBのための電圧コンバータC3が,電圧コンバータC2の出力側には電源ドメインCのための電圧コンバータC4がそれぞれ生成されなければならない。この場合,電圧コンバータ群42Cには電圧コンバータをランダムに発生する余地はない。また,グループ44についてランダム発生を考えると,電源ドメインDに属する○と電源ドメインEに属する○とを1つのグループにグループ化したとする。その結果,電圧コンバータ群44Cに示すとおり,電源ドメインD,Eのための電圧コンバータC5が生成される。最後に,経由電圧1.2Vを生成する電圧コンバータC6はランダムに発生する余地はなく,電圧コンバータC5の出力に電圧コンバータC6が生成される。
【0049】
以上のとおり,複数の経由電圧のうち入力電圧5V側から出力電圧3.3V〜1.2Vに向かって,同一経由電圧の列の○のグループをランダムにグループ化して,グループ化
された位置に電圧コンバータを生成すれば,ランダムな木を生成することができる。ただし,電圧コンバータが単一入力電圧から単一出力電圧を生成するという規制に基づいて,ランダム発生可能か否かを判断する必要がある。
【0050】
図10に示された多出力電源回路において,電圧コンバータ群40Cが単一の電圧コンバータにグループ化されたとすると,その出力側の電圧コンバータ群42Cは,ランダムにグループ化することが許される。このように,入力側の電圧コンバータのグループ化の影響を受けるのである。
【0051】
図11,12は,木生成工程S1−2のフローチャート図である。図11,12は同じフローチャートであり,それぞれの右側にフローチャートの各工程の説明が示されている。図11は前半の説明,図12は後半の説明が示されている。
【0052】
図13は,木生成工程S1−2により生成される木の途中経過を示す図である。図11,12のフローチャートを簡単に説明した後,具体例について図13を参照して説明する。
【0053】
図11,12のフローチャートは,図10の経由電圧表tbl[v,d]からランダムに木46を生成する処理フローを示す。図中の工程に沿って概略を説明する。
【0054】
工程S1-2-1では,作業用キュー Qv, Qd, Qd_tmpと初期木を作成する。
【0055】
(1)電圧作業キューQvは工程S1-1で作成した経由電圧表の横方向に書き並べてある電圧のうち入力電圧を除去したものを降順に並べたものである。
【0056】
(2)電源ドメイン作業キューQdは電源ドメイン名を書き並べた一つの集合のみが格納されたキューである。
【0057】
(3)電源ドメインテンポラリキューQd_tmpは何も格納されていないキューである。
【0058】
(4)初期木は,それぞれの電源ドメインの電源ドメイン名をラベルとして持った葉ノードが共通の親ノードを持つような木である。
【0059】
工程S1-2-2では,Qvから要素を一つ取り出しVとする。つまり,経由電圧を入力電圧側から順次取り出して以下の処理を行う。
【0060】
工程S1-2-3では,Qdから要素を一つ取り出しDとする。Qdは,入力電圧側から木が分岐した場合に,分岐した枝が再度合体せずにさらに分岐する性質を有するので,さらに分岐可能な集合を要素とする。
【0061】
工程S1-2-4では,集合Dを2つに分割する。すなわち,工程S1-1で作成した経由電圧表の経由電圧Vの列の○×に従い、集合Dを分割する。このとき、○である方を集めた集合をDo、×であるほうの集合をDxとする。よって,Doは,図10のグループ40,42,44に対応する。
【0062】
工程S1-2-5では,グルーピング生成を行う。すなわち,集合Doを漏れ重複なく部分集合に分割したもの(グルーピング)を一つ,乱数を使用して生成する。そのように分割された部分集合の集合をG(Do)とする。この工程が前述したランダムなグルーピング工程に対
応する。この集合G(Do)は,次のサイクルで電源ドメイン作業キューQdの要素になる。
【0063】
工程S1-2-6では,木変更(ノード挿入)を行う。つまり,集合G(Do)の各要素に共通の
親ノードを葉ノードの直上に挿入する。挿入された親ノードに電圧コンバータが配置されることになる。
【0064】
工程S1-2-7では,Qd_tmp に 集合G(Do)の要素とDxを追加する。
【0065】
工程S1-2-8では,作業用キューQdが空でなければ 工程S1-2-3 へ進む。
【0066】
工程S1-2-9では,Qd := Qd_tmp, Qd_tmp:=[] と更新する。
【0067】
工程S1-2-10では,作業用キューQvが空ではなければ,工程S1-2-2へ進む。
【0068】
上記の工程S1-2-9の更新によりQd := Qd_tmpとされ,次のフローチャートのサイクルでは,Qdの各要素についてグルーピングが行われる。つまり,グルーピングに基づいて親ノードが生成され,木の枝が分岐したことになるので,分岐した電源ノード群のなかでランダムなグルーピングをすることでさらに分岐するか否かが選択される。
【0069】
[木生成の具体例]
次に,図10の具体例を,図13を参照しながら,上記のフローチャートに沿って説明する。
【0070】
工程S1-2-1で,作業用キュー Qv, Qd, Qd_tmpと初期木を作成する。図10の具体例に
よれば,作業用キューQd:=[{A,B,C,D,E}],Qv:=[3.3V,2.5V,1.2V],Qd_tmp := [],初期
木は図13の(a)になる。
【0071】
[V=3.3Vのサイクル]
工程S1-2-2で,電圧キューQvから要素を一つ取り出してV:=3.3Vとする。その結果,Qv:=[2.5V,1.2V]となる。
【0072】
工程S1-2-3で,電源ドメインQdから要素を一つ取り出してD:={A,B,C,D,E}とする。そ
の結果,Qd:=[]となる。
【0073】
工程S1-2-4で,D={A,B,C,D,E}のうち,図10の経由電圧表の経由電圧V=3.3Vの列
で○であるのは電源ドメインA,B,C,×であるのは電源ドメインD,Eであるので,Do={A,B,C},Dx={D,E}の集合に分割される。
【0074】
工程S1-2-5で,集合Do={A,B,C} を,漏れ,重複なく部分集合にランダムに分割すると
,分割後の部分集合の集合は,例えば G(Do)={{A,B}, {C}}になる。
【0075】
そして,工程S1-2-6で, 図13(b)に示すとおり,葉ノードA,Bに共通の親ノードC1が,葉ノードCに親ノードC2がそれぞれ挿入される。つまり,図10のグループ40が分
割され,電圧コンバータC1,C2が生成されたことに対応する。
【0076】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{A,B}, {C}, {D,E}]となる。
【0077】
工程S1-2-8で,Qdが空になっているので工程S1-2-9へ進む。工程S1-2-9では, Qd:=Qd_tmp=[{A,B}, {C}, {D,E}], Qd_tmp:=[] と更新される。さらに,工程S1-2-10で,作業
用キューQvが空ではないので,工程S1-2-2へ進む。Qd=[{A,B}, {C}, {D,E}]は,図13
(b)の親ノードC1,C2による分岐により,電源ドメインは{A,B}, {C}, {D,E}に分岐され
たことを意味する。よって,以降のグルーピングはこれらの要素内で行われなければならない。
【0078】
[V=2.5Vのサイクル]
工程S1-2-2で,電圧キューQvから要素を一つ取り出してV:=2.5Vとし,Qv:=[1.2V]となる。
【0079】
工程S1-2-3で,電源ドメインQdから要素を一つ取り出してD:={A,B}とし,Qd:=[{C}, {D,E}]となる。
【0080】
工程S1-2-4で,D={A,B}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのは電源ドメ
インB,×であるのは電源ドメインAであるので,Do:={B},Dx:={A}となる。
【0081】
工程S1-2-5で,Do={B} のグルーピングは, G(Do)={{B}}のみになる。つまりランダ
ムに発生する余地はない。
【0082】
工程S1-2-6で,図13(c)のように葉ノードBの直上に親ノードC3が挿入される。
【0083】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}]になる。
工程S1-2-8では,Qdは空でないので工程S1-2-3に進む。
【0084】
次に,工程S1-2-3) Qdから要素を一つ取り出してD:={C}とし,Qd:=[{D,E}]となる。
【0085】
工程S1-2-4で,D={C}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのはC,×であるのは存在しないので,Do:={C},Dx:={}となる。
【0086】
工程S1-2-5で,Do={C} のグルーピングは, G(Do)={{C}}のみしか存在しない。つまりランダムにグルーピングすることはできない。
【0087】
工程S1-2-6で,図13(d)のように葉ノードCの直上に親ノードC4が挿入される。
【0088】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}, {C}, {}]となる。工程S1-2-8で,Qdは空でないので工程S1-2-3に進む。
【0089】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出してD:={D,E}とし,Qd:=[]となる。
【0090】
工程S1-2-4で,D={D,E}のうち,経由電圧表のV=2.5Vの列で○であるのはD,E,×であるのは存在しないので,Do={D,E},Dx={}となる。
【0091】
工程S1-2-5で,Do={D,E} のランダムなグルーピングにより G(Do)={{D,E}}が選ばれ
たとする。つまりグループ44の2つの○が一つの集合にグルーピングされる。
【0092】
工程S1-2-6で,図13(e)のように葉ノードD,Eの直上に共通の親ノードC5が挿入さ
れる。
【0093】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:=[{B}, {A}, {C}, {},
{D,E}, {}]となる。
【0094】
工程S1-2-8で,Qdは空なので工程S1-2-9に進み,Qd:=Qd_tmp=[{B}, {A}, {C}, {}, {D,E}, {}], Qd_tmp:=[] と更新される。工程S1-2-10で,作業用キューQvが空ではないの
で,工程S1-2-2へ進む。Qd=[{B}, {A}, {C}, {}, {D,E}, {}]は,図13(e)の親ノードC3による分岐により,電源ドメインは{A}, {B}, {C}, {D,E}に分岐されたことを意味する。よって,以降のグルーピングはこれらの要素内で行われなければならない。
【0095】
[V=1.2Vのサイクル]
以下ではV=1.2V について,木の更新が発生するかに注目して簡略化して説明する。
【0096】
工程S1-2-2で,Qvから要素を一つ取り出して,V:=1.2V,Qv:=[]となる。
【0097】
工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={B},Qd:=[{A}, {C}, {}, {D,E}, {}]となる。
【0098】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列の Bは×。よってDo:={}なので木の更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={B}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0099】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={A},Qd:=[{C}, {}, {D,E}, {}]となる。
【0100】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列のAは×。よってDo:={}なので木の
更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={A}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0101】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={C},Qd:=[{}, {D,E}, {}]となる。
【0102】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,経由電圧表のV=1.2Vの列のCは×。よってDo:={}なので木の
更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={C}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0103】
次に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={},Qd:=[{D,E}, {}]となる
。
【0104】
工程S1-2-4〜S1-2-8で,D:={}よりDo:={}なので、木の更新は発生しない。このときG(Do)={},Dx={}になる。Qdは空ではないのでS1-2-3に進む。
【0105】
次に,工程S1-2-3で, Qdから要素を一つ取り出して,D:={D,E},Qd:=[{}]となる。
【0106】
工程S1-2-4で, D:={D,E}のうち,経由電圧表のV=1.2Vの列が○であるのはE,×で
あるのはDなので,Do:={E},Dx:={D}になる。
【0107】
工程S1-2-5で,グルーピングは{E}しかないので,G(Do)={{E}}になる。
【0108】
工程S1-2-6で,図13(f)のように葉ノードEの直上に親ノードC6が挿入される。
【0109】
工程S1-2-7で,Qd_tmpにG(Do)の各要素とDxを追加して,Qd_tmp:= [{}, {B}, {}, {A},
{}, {C}, {}, {}, {E}, {D}]となる。工程S1-2-8で,Qdは空ではないのでS1-2-3に進む
。
【0110】
最後に,工程S1-2-3で,Qdから要素を一つ取り出して,D:={},Qd:=[]となる。
【0111】
工程S1-2-4〜S1-2-7で,D:={}よりDo:={}なので、木の更新は発生しない。
【0112】
工程S1-2-8で,Qdは空なのでS1-2-9に進む。そして,工程S1-2-9で,Qd:=Qd_tmp=[{},
{B}, {}, {A}, {}, {C}, {}, {}, {E}, {D}, {}, {}], Qd_tmp:=[] と更新される。
【0113】
工程S1-2-10で,作業用キューQvが空なので,木生成工程S1-2は終了する。その結果,
図13(f)の木が完成する。この木は,図10の木46と同じである。
【0114】
以上の通り,図10で説明したランダムに親ノードを発生するアルゴリズムに基づく具体的な処理フローが,図11,12,13により明らかになった。そして,図13(b),(e)でランダムなグルーピングが行われている。
【0115】
[コスト関数値計算工程S1−3]
図7にもどり,木生成工程S1-2でランダムに生成した木に対応する多出力電源回路のコスト関数値の計算(S1-3)が行われる。コスト関数値の第1の例は,多出力電源回路の電力効率または消費電力である。電力効率なら高いほうが良く,消費電力なら低い方がよい。また,コスト関数の第2の例は,多出力電源回路の電力効率から電圧コンバータの数に応じた分所定のペナルティを減算した値である。多出力電源回路の消費電力に電圧コンバータの数に応じた分所定のペナルティを加算した値である。第2の例は,多出力電源回路の集積度も考慮に入れたコスト関数値である。
【0116】
第1の例のコスト関数値(多出力電源回路の電力効率または消費電力)を求める方法について説明する。まず,多出力電源回路の出力電圧を出力する電圧コンバータについて,その出力電圧と出力電流及び効率特性データ12の効率とから入力電力と入力電流を求め,さらに入力側の電圧コンバータの入力電力と入力電流を求める計算を多出力電源回路の入力にたどりつくまで繰り返す。最後に,多出力電源回路の入力電圧と入力電流による入力電力と,多出力電源回路の出力電力の和との比から,多出力電源回路の電力効率が求められる。
【0117】
図14は,コスト関数値計算工程の具体例を示す図である。図14を参照して,多出力電源回路の電力効率の求め方を説明する。まず,電源ドメインが要求する電圧と電流は,出力電圧を生成する出力端子側の電圧コンバータの出力電圧と出力電流に対応し,それらの積が電圧コンバータの電力に対応する。
【0118】
図14の左側の多出力電源回路PSC1は電圧コンバータC7,C8からなる。各電圧コンバー
タC7,C8の電力は,それぞれの出力電圧と出力電流の積であり,3.3W,2Wである。
そこで,電圧コンバータC7,C8の入力電力と入力電流は,次の通り求めることができる。
(入力電力)=(出力電圧)×{Σ(出力電流)}/(効率) (1)
(入力電流)=(入力電力)/(入力電圧) (2)
ここで,Σ(出力電流)は電圧コンバータの出力電流の和である。効率は効率特性データ12から得られる。そして,上記の電圧コンバータC7,C8は出力電流は1つしかない。
【0119】
その結果,両電圧コンバータC7,C8はそれぞれ入力電力3.5W,2.6Wと,入力電流710mA,520mAが求められる。これらの入力電流の和が多出力電源回路の入力電流になる。最後に,
多出力電源回路の電力効率は,以下のとおり求められる。
(多出力電源回路の効率)=Σ{(出力電圧)×(出力電流)}/(入力電圧)×(入力電流) (3)
ここで,Σ{(出力電圧)×(出力電流)}は,各電源ドメイン毎の{(出力電圧)×(出力電流)}の和である。
【0120】
つまり,図14の左側の多出力電源回路PSC1の例によれば,図示されるとおり,効率は86%になる。また,多出力電源回路の消費電力は,入力電力から出力電力の和を減算すると求められ,0.8Wである。
【0121】
同様に,図14の右側の多出力電源回路PSC2の例は,電圧コンバータC7とC9とで構成されている。多出力電源回路の入力電圧,出力電圧,出力電流は左側の例と同じである。電圧コンバータC9の電力は2Wであり,効率85%であるので,入力電力2.3W,入力電流は710mAである。よって,電圧コンバータC7の出力電流は1Aと710mAの合計の1710mAであり,その出力電圧は3.3Vである。よって,電圧コンバータC7の効率が94%であるので,その入力電力が6.0Wになる。最後に,多出力電源回路の効率は,図示される通り88%になる。また,多出力電源回路の消費電力は0.7Wである。つまり,図14の右側の多出力電源回路のほうが消費電力は小さく電力効率が良い。
【0122】
次に,第2の例のコスト関数値を求める方法について説明する。コスト関数値は,以下のように求められる。
(コスト関数値)=(多出力電源回路の効率)−(定数)×(多出力電源回路の電圧コンバータ数)
ここで,定数は,(所定%)以上の効率向上で電圧コンバータを1個増やすことを許容するかにより算出されるパラメータである。例えば,(定数)=(所定%)である。したがって,このパラメータ値に応じて,多出力電源回路の効率が良くても電圧コンバータの数が多い場合は,コスト関数値は悪くなる。つまり,このコスト関数値は,電圧コンバータの数に応じた減少効率が実際の電力効率に加算されている。このコスト関数値で最良の木を選別すれば,多出力電源回路の回路規模も考慮した選別を行うことができる。
【0123】
図7に戻り,最良木更新工程S1-4では,生成した木のコスト関数値がそれまでの最良解を上回れば,その木を最良解に置き換える。
【0124】
[反復回数判定工程S1−5]
図15は,図7の反復回数判定工程S1-5を説明する図である。図15に示した表は,図7の工程S1-1〜S1-4の反復回数に対応して,最も効率の良い木と誤差3%以内の効率の解を発見できる確率を示している。図5で説明したのと同じである。これによれば,反復回数を増やすことで確率を高くすることができる。反復回数50回で確率が99%になり,反復回数100回で確率が99.99%になる。よって,本実施の形態では,反復回数判定工程では,反復回数が50回または100回に達したら解絞り込み工程S1を終了する。
【0125】
[解改善工程S2]
以上で図6の解絞り込み工程S1が終了した。次に,絞り込まれた解である木の多出力電源回路の改善工程S2について説明する。
【0126】
図16は,解改善工程S2のフローチャート図である。解改善工程S2では,解絞り込み工程S1で絞り込まれた木に対応する多出力電源回路のうち,ある任意の経由電圧以前の入力側の木について解絞り込み工程S1を実行して,入力側の木を改善する。任意の経由電圧は,例えば,出力電圧に最も近い経由電圧から,順次入力側の経由電圧に変更することが望ましく,それぞれの入力側の木について解絞り込み工程S1を実行することが望ましい。任意の経由電圧以前の入力側の木は,全体の木よりも経由電圧表のマスの数が少ないので,解絞り込み工程S1自体が工数が少なくなり,さらにランダムに生成される木の数も少なくすることができる。よって,改善工程S2では,より少ない工数でよりコスト関数値が改善された多出力電源回路を探索することができる。
【0127】
図16のフローチャートによれば,解改善初期設定工程S2-0で,経由電圧表の経由電圧のうち入力側の経由電圧を抽出して,リストQの集合とする。図16の例では,経由電圧3.3V,2.5Vが抽出されリストQの集合の要素となっている。次に,木切断工程S2-1で,リス
トQから最も出力側に近い電圧を取り出し切断電圧Vcutとし(S2-1-1),切断電圧Vcut以
前の入力側とVcutより出力側とに切断する(S2-1-2)。そして,入力側について経由電圧表tbl2を再度生成する(S1-1)。つまり,経由電圧表のマスを入力電圧と出力電圧の部分を除いくマスの中に○×をランダムに発生する。
【0128】
図17は,解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第1の例を示す図である。この例は,切断電圧Vcut=2.5Vの例である。解絞り込み工程S1で絞り込まれた木は,親ノードC1,C2が3.3Vを出力し,親ノードC3,C4,C5が2.5Vを出力し,親ノードC6が1.2Vを出力する。そこで,切断電圧Vcut=2.5Vとすると,親ノードC3,C4,C5以前の入力側の木が再探索部分50
になり,それより出力側の木は固定部分52になる。そして,再探索部分50の木について○×をランダムに発生して修正された経由電圧表tbl2が生成される。ただし,図17の例では○×は変更されていない。出力電圧2.5Vの切断部分は,電源ドメインB',C',D',E'
と命名され,それぞれの出力電圧は2.5Vとして経由電圧表tbl2に反映されている。
【0129】
そして,修正された経由電圧表tbl2に基づいて,前述した解絞り込み工程S1(S1-1〜S1-5)が再度実行される。つまり,入力電圧5Vの次の経由電圧3.3Vの列の3つの○についてランダムにグループ化され,そのグループ化毎に次の経由電圧2.5Vの列の○についてランダムにグループ化される。そして,よりコスト関数値が改善された木が探索される。
【0130】
終了判定工程S2-6では,リストQの要素が空か否か判定され,空でなければ切断電圧決
定工程S2-1-1で次の要素Vcut=3.3Vを取り出し,木切断処理工程S2-1-2で新たに再探索部
分の木を切断する。
【0131】
図18は,解改善工程での木切断処理工程S2-1-2の第2の例を示す図である。この例は,切断電圧Vcut=3.3Vの例である。切断方法は図17で説明したとおりである。この第2
の例では,切断電圧Vcut=3.3V以前の入力側の木が再探索部分54になっている。この再
探索部分54について修正された経由電圧表tbl3に基づいて,解絞り込み工程S1(S1-1〜S1-5)が再度実行される。この工程では,入力電圧5Vの次の経由電圧3.3Vの列の3つの○についてランダムにグループ化される。そして,よりコスト関数値が改善された木が探索される。
【0132】
最後に,終了判定工程S2-6で,リストQの要素が空であることが確認され,解改善工程S2は終了する。
【0133】
図19は,解改善工程による電力効率の改善例を示す図である。この改善例は,図17の切断電圧Vcut=2.5Vの例である。切断電圧Vcut=2.5V以前の入力側の木が再探索部分50に,それより出力側の木が固定部分52になる。図中(A)が改善前のそれぞれの電力効率を示し,(B)が改善後の電力効率を示す。(A)の改善前では,再探索部分50の効率が80%,固定部分52の効率が90%,全体の効率が72%である。それに対して,(B)の改善後では,再探索部分50の効率が85%と改善され,固定部分52の効率は90%のままでも,全体の効率は76.5%に改善されている。
【0134】
解絞り込み工程S1のコスト関数値計算工程S1−3では,出力電圧と出力電流を各電源ドメインで要求されている電圧と電流とし,出力側の電圧コンバータから入力側に向かって各電圧コンバータの出力電圧,出力電流と効率から入力電流を求める計算を行った。上記の解改善工程S2では,任意の切断電圧より出力側の木を固定部分としているので,最初に行ったコスト関数値計算結果を固定部分で再利用することができ,再度計算する必
要はない。よって,改善工程S2では,切断電圧以前の入力側を再探索部分にして改善を行うので,コスト関数値計算工程でも工数を削減することができる。
【0135】
図20は,本実施の形態の効果を示す図である。図4の比較例と,図6の本実施の形態との比較が示されている。図4の比較例の場合は,全ての考えられる木を生成し最良のコスト関数値の木を選択しているので,最適解を検出することができるもののその計算量が膨大になる。一方,図6の本実施の形態では,所定数の木を生成して最良のコスト関数値の木を選択し,さらに入力側の一部分について再度探索を行うので,検出される木の多出力電源回路のコスト関数値は最適解とはある範囲内にしか入らないが,計算量を大幅に減らすことができる。例えば,電源ドメインが10個の場合,多出力電源回路が3段構成とすると,図4の比較例では考えられる木の数は2.11×109になるのに対して,図6の実施
の形態では数百に減らすことができる。
【0136】
以上説明した多出力電源回路の設計方法は,汎用コンピュータに多出力電源回路設計プログラムをインストールした多出力電源回路設計装置により実現可能である。かかる多出力電源回路設計装置は,入力データ,処理中のデータQd,Qv,Qdtmp,木のデータ,入出力
電圧,電流値と共に,図6,7,9,11,16に示されたフローチャートに基づく設計プログラムを格納するメモリ手段と,演算を行うCPUとで構成される。
【0137】
上記の実施の形態によれば,少ない工数で現実的に満足できる電力効率またはコスト関数値を有する多出力電源回路の設計を行うことができる。
【0138】
以上の実施の形態をまとめると,次の付記のとおりである。
【0139】
(付記1)
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有する多出力電源回路の設計方法。
【0140】
(付記2)
付記1において,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0141】
(付記3)
付記1において,
前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の
出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力に基づいて前記多出力電源回路の電力を求めることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0142】
(付記4)
付記3において,
前記コスト関数値は,前記電力効率に前記電圧コンバータの数に基づく低減効率を加えた値であることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0143】
(付記5)
付記1において,
前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0144】
(付記6)
付記5において,
前記ツリー生成工程では,複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと単一の入力電源との間の経由ノード電圧コンバータを,乱数に基づいてランダムに発生することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【0145】
(付記7)
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計装置において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索手段と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善手段とを有する多出力電源回路の設計装置。
【0146】
(付記8)
付記7において,
前記改善手段が前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して前記改善を繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計装置。
【符号の説明】
【0147】
S1:探索工程(解絞り込み工程)
S2:解改善工程
20:生成されたツリー構造による多出力電源回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有する多出力電源回路の設計方法。
【請求項2】
請求項1において,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項3】
請求項1において,
前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力から前記多出力電源回路の電力を求めることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項4】
請求項1において,
前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項5】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計装置において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索手段と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善手段とを有する多出力電源回路の設計装置。
【請求項1】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計方法において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成工程と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成工程とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索工程と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善工程とを有する多出力電源回路の設計方法。
【請求項2】
請求項1において,
前記改善工程を前記任意の出力電圧を順次入力側に移動して繰り返すことを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項3】
請求項1において,
前記コスト関数値生成工程では,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と前記出力電源を生成する出力ノード電圧コンバータの効率とに基づいて,当該出力ノード電圧コンバータに入力電圧を供給する入力側の電圧コンバータの出力電流を計算し,当該計算された出力電流と当該電圧コンバータの出力電圧及び効率とに基づいてさらに入力側の出力電流を求める計算を入力電源まで繰り返し,前記出力電源の消費電力の和と前記入力電源の消費電力との比率に基づいて前記多出力電源回路の電力効率をまたは前記入力電源の消費電力から前記多出力電源回路の電力を求めることを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項4】
請求項1において,
前記ツリー生成工程では,前記複数の出力電源をそれぞれ出力する複数の出力ノード電圧コンバータと,当該複数の出力ノード電圧コンバータと前記入力電源との間にランダムに挿入される複数の経由ノード電圧コンバータとを有するツリー構造を生成することを特徴とする多出力電源回路の設計方法。
【請求項5】
複数の電源ドメインに出力電源を供給する多出力電源回路の設計装置において,
入力電源を根と複数の出力電源を葉とそれぞれ定義し,前記入力電源の電圧から前記出力電源の電圧までの電圧のうち何れかの電圧を入力電圧及び出力電圧とする複数の電圧コンバータを前記根と葉との間に有するツリー構造をランダムに生成するツリー生成と,前記ランダムに生成したツリー構造を有する多出力電源回路の電力効率または電力を含むコスト関数値を,前記複数の電源ドメインの要求電圧及び要求電流と各電圧コンバータの効率とに基づいて計算するコスト関数値生成とを,とりうる全てのツリー構造の数より少ない回数だけ繰り返し,最良のコスト関数値を有するツリー構造を探索する探索手段と,
前記探索工程で見つけたツリー構造のうち任意の出力電圧を出力する電圧コンバータ以前の入力側の複数の電圧コンバータを有する入力側ツリー構造について,前記探索工程を再度行い,当該探索で検出されたより良いコスト関数値を有する入力側ツリー構造に置き換える改善手段とを有する多出力電源回路の設計装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図5】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図5】
【図17】
【公開番号】特開2013−8370(P2013−8370A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159304(P2012−159304)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【分割の表示】特願2008−65497(P2008−65497)の分割
【原出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【分割の表示】特願2008−65497(P2008−65497)の分割
【原出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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