説明

多分岐型超高分子量体を含有するスチレン系樹脂組成物の製造方法およびその組成物

【課題】ゲル化を抑制し、超高分子量の分岐状ポリスチレンおよび線状ポリスチレンからなるスチレン樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】超高分子量多分岐型スチレン系共重合体と線状重合体とを含有するスチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、スチレンを必須とするビニル系モノマーに、平均して1分子中にビニル基を2以上有し、分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体を、重量基準で50ppm〜5000ppm添加し、均一混合した後に、連続的に配置された重合反応器に供給して重合反応を進行させ、該共重合体と該ビニル系モノマーが重合して生じる超高分子量多分岐型共重合体と、該ビニル系モノマーが重合して生じる線状重合体とを含むスチレン系樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレンを含むエチレン性不飽和モノマーと一分子内に複数の二重結合を有する溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体とを均一混合した後に、連続的に重合反応器に供給する連続塊状重合法によって得られる多分岐型超高分子量成分と線状成分の混合物からなるスチレン系樹脂組成物の製造方法、この製造方法によって得られるスチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、安価で、透明性、成形性、剛性に優れた樹脂として、家庭用品、電気製品等の成形材料に広く用いられている。これらの成形品は、射出成形、或いはシートからの真空、圧空成形、さらには押出し機から樹脂をパリソンと呼ばれる筒状に押出し金型に挟み込んだ後に内部から圧縮エアー等を吹き込むブロー成形等の手段で得られる。また軽量および断熱性能を有する成形体を得るためには発泡成形等の技術も用いられる。これらの成形方法において、特に溶融延伸過程を有するシート成形、ブロー成形、発泡成形等の成形方法には、溶融時の歪み硬化性の高い素材の要求が高い。
【0003】
上記の成形方法における歪み硬化性の低い樹脂材料を用いた場合の問題点としては、シート成形では食品容器等の深絞り成形品に二次加工する際に、加熱溶融に伴うダレ現象で製品に厚みムラが生じやすく、また延伸性の不足による製品の割れ、破れ等が生じやくなること、ブロー成形ではパリソン形成時に歪み硬化性が低いとドローダウンを生じ成形が困難となる上、厚みムラによる製品強度のバラツキが大きいこと、さらに発泡成形では断熱性能を高めるため、発泡体の気泡を微小化、独立化させることが困難となる等の現象があげられる。
【0004】
溶融状態での歪み硬化性に代表される溶融粘弾性を制御する手段としては、スチレン系樹脂組成物に超高分子量成分を含有させる方法が有効であることが知られている。
【0005】
超高分子量成分を含有する樹脂組成物を得る方法としては、例えば特許文献1に記載された分子量が200万以上の成分を一定範囲内で含有するスチレン系重合体組成物がある。この組成物を得るためには、重合の前段において低温下で重合を進行させる方法やアニオン重合等で別途重合した超高分子量重合体をブレンドする方法が提案されているが、この方法では、生産性に劣ったり、別途重合した成分をブレンドする場合はコスト高となる等の問題点があった。
【0006】
上記の問題を回避するために、例えば特許文献2に記載された多官能ビニル化合物単位を含有する100万以上の分子量成分を一定範囲内で含有するスチレン系重合体などがあり、分岐型超高分子量成分を含有させるために芳香族ジビニル化合物に代表される芳香族多官能ビニル化合物を極少量、ビニル系単量体に添加し重合することが提案されている。しかし、この手段を連続塊状重合に応用すると長期の反応を継続した場合、重合反応器の壁面に存在する境膜と呼ばれる流動が停止している領域においてゲル化が進行するという問題点があり、上記を避けようとすると多官能芳香族ビニル化合物の添加量に制限を受け、望ましい超高分子量成分量を生成させることが困難であった。
【0007】
さらに、特許文献3には多官能重合開始剤を用いてスチレン系共重合体に分岐構造を有する超高分子量成分を含有させる方法が開示されているが、この方法ではスチレン系重合体全体が高分子量化しやすく、それを避けるために多量の連鎖移動剤を使用すると効果が不十分となる。また、特許文献4にも多官能芳香族ビニル化合物と連鎖移動剤を併用することでスチレン系樹脂の重合度を制御する方法が開示されているが、多官能開始剤を用いた場合と同様に効果を相殺する上に、連鎖移動剤としてメルカプタン類を用いると特有の臭気の問題点から使用範囲が制限されるという問題点が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭62−61231号公報
【特許文献2】特開平2−170806号公報
【特許文献3】特開平8−59721号公報
【特許文献4】特開2002−211413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、シート成形、発泡成形、ブロー成形等の成形加工時に溶融延伸過程を有する加工方法に最適な溶融特性を備えた、ゲル状物がなく、多分岐型超高分子量成分と線状成分とを含有するスチレン系樹脂組成物と、それを効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、超高分子量多分岐型スチレン系共重合体と線状重合体とを含有するスチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、スチレンを必須とするビニル系モノマーに、平均して1分子中にビニル基を2以上有し、分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体を、重量基準で50ppm〜5000ppm添加し、均一混合した後に、連続的に配置された重合反応器に供給して重合反応を進行させ、該溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体と該ビニル系モノマーが重合して生じる超高分子量多分岐型共重合体と、該ビニル系モノマーが重合して生じる線状重合体とを含むスチレン系樹脂組成物を得ることを特徴とするスチレン系樹脂組成物の製造方法である。
【0011】
上記製造方法において、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体としては、ジビニル化合物及びモノビニル化合物を必須とするモノビニル化合物を含む単量体を重合して得られ、下記式(a1)で表されるジビニル化合物由来のビニル基を構造単位中にモル分率として0.05〜0.50の範囲で含有し、その重量平均分子量における慣性半径(nm)と上記モル分率の比が1〜100の範囲内にあるものが好ましく挙げられる。また、式(a1)で表されるビニル基の他のビニル基を含めて、ビニル基を構造単位中に合計のモル分率として0.05〜0.50の範囲で含有し、その重量平均分子量における慣性半径(nm)と上記モル分率の比が1〜100の範囲内にあるものが好ましく挙げられる。
【化1】



(式中、R1はジビニル芳香族化合物に由来する芳香族炭化水素基を示す。)
【0012】
また、本発明は上記の製造方法によって得られる重量平均分子量が100万以上の多分岐状スチレン系重合体2.0〜20.0wt%と、重量平均分子量が10万〜50万の線状スチレン系重合体80.0〜98.0wt%とを含有する重量平均分子量が20万〜80万であることを特徴とする多分岐型超高分子量体を含有するスチレン系樹脂組成物である。好ましくは、上記の製造方法によって得られるスチレン系樹脂組成物は、重量平均分子量が100万以上の多分岐状スチレン系重合体3.5〜10.0wt%と、重量平均分子量が15万〜35万の線状スチレン系重合体90.0〜96.5wt%とを含有し、全体の重量平均分子量が25万〜70万であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続的に重合を進行させるスチレン系樹脂の製造方法において、分岐状の多官能ビニル化合物共重合体を使用することで、長期間の連続生産に適用してもゲル状の生成物を含有しないスチレン系樹脂組成物を生産することができる。さらに、本発明により得られる多分岐型超高分子量体と線状重合体からなるスチレン系樹脂組成物は、歪み硬化性に代表される溶融特性に優れ、シート成形においては二次加工時のダレ、厚みむら、ゲル状物による破れ、外観の悪化を抑制する。またブロー成形時のドローダウン、発泡成形時の破泡、気泡肥大化、連続気泡生成等の各種問題点を解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いる重合方法としては、スチレンを含むビニル系モノマーと溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体と、必要に応じて溶剤、重合触媒、連鎖移動剤等を均一混合した後に、直列および/または並列に配列された1個以上の反応器と未反応単量体等を除去する揮発分除去工程を備えた設備に連続的に単量体類を送入し、段階的に重合を進行させる所謂、連続塊状重合法が好適に用いられる。反応器の様式としては、完全混合型の槽型反応器、プラグフロー性を有する塔型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無いが、連続生産においてゲル状物の生成を抑制するためには、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体が未反応の状態で、反応器壁面の境膜中に高濃度に滞留する状態を発現させないことが重要であり、第一の反応器として完全混合型の槽型反応器を選択することが好ましい。
【0015】
本発明においては、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体は、重合溶剤等に溶解した状態で、必要に応じて上記の反応器の途中から添加することもできる。
【0016】
本発明に用いるスチレンを必須とするビニル系モノマー(以下、スチレン系モノマーともいう)は、スチレンが100%であってもよく、スチレンと他のビニル系モノマーを含む混合物であってもよい。他のビニル系モノマーとしては、スチレンと共重合可能なオレフィン性二重結合を有するものであればよく、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー類、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系モノマーや無水マレイン酸、フマル酸等のα,β−エチレン不飽和カルボン酸類、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のイミド系モノマー類が挙げられる。これらの他のビニル系モノマーは1種もしくは2種以上を併用して使用することもできる。そして、スチレンと他のビニル系モノマーの割合は、スチレン50〜100モル%、他のビニル系モノマー0〜50モル%であることが、スチレン系樹脂組成物の特性を生かすために好ましい。
【0017】
本発明に用いる溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体(以下、多官能ビニル化合物共重合体ともいう)は、スチレン系モノマーと共重合化されることで多岐に分岐された超高分子量のスチレン系樹脂を与えるものである。
【0018】
本発明に用いる多官能ビニル化合物共重合体は、特開2004−123873号公報、特開2005−213443号公報、WO2009/110453等に開示されている方法に準じて得ることができる。具体的には、ジビニル化合物とモノビニル化合物を必須とするモノビニル化合物から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を使用し、共重合させて、式(a1)で示される反応性のペンダントビニル基を有する共重合体を得るものである。さらに、上記特許文献に記載されるように末端にビニル基以外の他の末端基が導入されたものを使用することもでき、特にフェノキシメタクリレート末端変性されたものは(a1)以外にも架橋点として作用することが可能となるため好ましい。この場合は、末端の不飽和結合も(a1)に含めたモル分率として取り扱う。
【0019】
ここで、モノビニル化合物としては、スチレン等のモノビニル芳香族化合物が100%であってもよく、これと共重合可能な他のビニル系モノマーを含む混合物であってもよい。他のビニル系モノマーとしては、上記したようなモノマーが挙げられる。モノビニル化合物は、モノビニル芳香族化合物を25〜100モル%含むことが好ましい。また、モノビニル芳香族化合物以外の単官能エチレン性不飽和結合含有化合物から選ばれるその他のモノビニル化合物を使用する場合は、全単量体の50モル%以下、好ましくは10モル%以下使用することが好ましい。
【0020】
好ましいモノビニル化合物としては、スチレン、アルキルスチレン、フェニルスチレン等のモノビニル芳香族化合物が挙げられ、より好ましくはスチレン又はC1〜2のアルキルスチレンが挙げられる。ジビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等が好ましく挙げられる。
【0021】
多官能ビニル化合物共重合体の製造方法としては、例えば、ジビニル芳香族化合物、モノビニル芳香族化合物及び他のモノビニル化合物から選ばれる2種以上の化合物を、ルイス酸触媒、エステル化合物から選ばれる助触媒の存在下、カチオン共重合させることにより得ることができる。
【0022】
ジビニル化合物とモノビニル化合物の使用量は、本発明で使用される多官能ビニル化合物共重合体の組成を与えるように決められるが、ジビニル化合物を、好ましくは全単量体の10〜50モル%、より好ましくは30〜50モル%使用する。モノビニル化合物は好ましくは全単量体の90〜50モル%、より好ましくは70〜50モル%使用する。ここで、2−フェノキシエチルメタクリレートのようなカチオン重合においては末端変性剤として作用するものは単量体としては計算しない。
【0023】
多官能ビニル化合物共重合体の製造で用いられるルイス酸触媒としては、金属イオン(酸)と配位子(塩基)からなる化合物であって、電子対を受け取ることのできるものであれば特に制限なく使用できる。分子量及び分子量分布の制御及び重合活性の観点から、三フッ化ホウ素のエーテル(ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等)錯体が最も好ましく使用される。ルイス酸触媒は単量体化合物1モルに対して、0.001〜10モルの範囲内で用いるが、より好ましくは0.001〜0.01モルである。ルイス酸触媒の使用量が過大であると、重合速度が大きくなりすぎるため、分子量分布の制御が困難となるので好ましくない。
【0024】
助触媒としてはエステル化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。その中で、重合速度及び共重合体の分子量分布制御の観点から炭素数4〜30のエステル化合物が好適に使用される。入手の容易さの観点から、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルが好適に使用される。助触媒は単量体化合物1モルに対して0.001〜10モルの範囲内で使用するが、より好ましくは0.01〜1モルである。助触媒の使用量が過大であると、重合速度が減少し、共重合体の収率が低下する。一方、助触媒の使用量が過少であると、重合反応の選択性が低下し、分子量分布の増大、ゲルの生成等が生じる他、重合反応の制御が困難となる。
【0025】
本発明で使用する多官能ビニル化合物共重合体は上記のような製造方法で得ることができるが、単量体として使用するジビニル化合物のビニル基の一部は重合させずに残すことが必要である。そして、少なくとも平均して1分子中に2以上、好ましくは3以上のビニル基が存在するようにする。このビニル基は主として上記式(a1)で表わされる構造単位として存在する。そして、ビニル基の一部は重合させずに残すことにより架橋反応を抑制し、溶剤可溶性を与えることができる。ここで、溶剤可溶性とは、トルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であることをいい、具体的にはこれらの溶媒100gに、25℃において5g以上が溶解し、ゲルが発生しないことをいう。一方、ジビニル化合物の一部は2つビニル基が反応して架橋又は分岐することが必要であり、これにより分岐構造を有する共重合体とすることができる。このように、ジビニル化合物の一部については2つビニル基の一つは反応させ、一つは重合させずに残し、他の一部については2つビニル基を反応させることにより本発明で使用する多官能ビニル化合物共重合体を得ることができる。このような多官能ビニル化合物共重合体を得る重合方法は、上記のように公知であり、上記のようにして製造することができる。
【0026】
多官能ビニル化合物共重合体の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜70,000がより好ましい。1000より小さい場合は、芳香族ジビニル化合物を用いた場合と同様に連続重合におけるゲル化の進行抑制効果が小さくなり、連続重合において十分な効果を得られないため好ましくない。
【0027】
多官能ビニル化合物共重合体に導入されるジビニル化合物由来のビニル基を含有する上記式(a1)で表わされる構造単位を有するが、この構造単位(a1)のモル分率は、0.05〜0.50であることがよく、好ましくは0.1〜0.3である。0.05モルより少ない場合は、高分子量の多分岐状ポリスチレンが得られにくいため好ましくない。一方、0.50モルを超える場合は、多分岐状ポリスチレンの分子量が過度に増大し、ゲル化が起こりやすくなるため好ましくない。
【0028】
また、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体は、その慣性半径(nm)と上記構造単位(a1)のモル分率との比が1〜100の範囲にあることが好ましい。歪み硬化性を付与するための分岐型超高分子量成分をゲル化を伴わずに調整するためには、5〜70の範囲が更に好ましい。上記の比が100を超える場合は、ゲル化は進行しないが、高分子量の多分岐状ポリスチレンが得られにくいため好ましくない。一方、1より小さい場合は、多分岐状ポリスチレンの分子量が過度に増大し、ゲル化が起こりやすくなるため好ましくない。ここで、慣性半径は、実施例に記載した方法により測定される値である。
【0029】
ここで定義した慣性半径と二重結合の含有量を表わす指標である構造単位(a1)のモル分率の比は、分岐型超高分子量成分を構成する際に、核となる多官能化合物が重合反応溶液中でどのような広がりの中に、どれだけの反応点を有しているかを表す指標といえる。この比が小さ過ぎると、反応点が近傍にあり、ゲル化を引き起こしやすくなり、またこの比が大き過ぎると分岐型成分の高分子量化が困難となる。このような意味で、構造単位(a1)の他に重合性二重結合の含有基が存在する場合は、二重結合の含有基(ビニル基)の合計がモル分率として0.05〜0.50の範囲で、慣性半径(nm)と上記モル分率の比が1〜100の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
スチレン系単量体に対する多官能ビニル化合物共重合体の配合率としては、重量基準で50ppm〜5000ppmが好ましく、100ppm〜3000ppmがより好ましい。多官能ビニル化合物共重合体の配合率が50ppmより少ない場合は、本発明の十分な効果が得られにくいため好ましくない。一方、5000ppmを超える場合は、ゲルを生じる可能性がある。
【0031】
前記多官能ビニル化合物共重合体とスチレン系単量体とを重合させることにより、多官能ビニル化合物共重合体とスチレン系単量体との共重合体である多分岐型共重合体と、スチレン系単量体だけから生成する線状重合体との混合物である本発明のスチレン系樹脂組成物が得られる。スチレン系単量体として2種類以上の単量体を用いた場合は、線状重合体は共重合体となる。
【0032】
本発明により得られたスチレン系樹脂組成物のMwは、20万〜80万であることが好ましい。25万〜70万であることがより好ましい。Mwが20万未満では成形体の衝撃強度が不十分であり、Mwが80万よりも大きいと粘度が増大し、成形性が不十分になる。
【0033】
上記のようなスチレン系樹脂組成物中は、多分岐型共重合体と線状重合体を含むが、上記のようなMwを示すスチレン系樹脂組成物とすることにより、多分岐型共重合体はMwが100万以上の超高分子量となり、線状重合体は10万〜50万となる。そして、スチレン系樹脂組成物全体としてのMwは、上記範囲となる。そして、Mwが100万以上の多分岐状スチレン系重合体とMwが10万〜50万の線状スチレン系重合体の割合は2.0:98.0〜20.0:80.0であることが好ましい。これらの割合は、スチレン系単量体に対する多官能ビニル芳香族共重合体の配合割合や重合条件を調整することにより制御可能である。また、重量平均分子量が100万以上の多分岐状スチレン系重合体3.5〜10.0wt%と、重量平均分子量が15万〜35万の線状スチレン系重合体90.0〜96.5wt%とを含有することがより好ましい。
【0034】
重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶剤、有機過酸化物等の重合開始剤や脂肪族メルカプタン等の連鎖移動剤を使用できる。
【0035】
重合溶剤は重合反応での反応物の粘性を低下させるために、反応系に有機溶剤を添加してもよく、その有機溶剤は、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトニトリル、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0036】
特に多官能ビニル化合物共重合体の添加量を多くしたい場合には、ゲル化を抑制する観点からも有機溶剤を使用することが好ましい。これにより、先に示した多官能ビニル化合物共重合体の添加量を飛躍的に増量させることができ、ゲルが生じにくい。
【0037】
有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化を制御するという観点から、通常、単量体成分の合計量100重量部に対して、1〜50重量部であることが好ましく、5〜30重量部の範囲内であることがより好ましい。50重量部を超える場合は、生産性が著しく低下したり、鎖状スチレン系樹脂の分子量が過度に低下するため好ましくない。
【0038】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド、ジシナモイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイシプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、N,N'−アゾビスイソブチルニトリル、N,N'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、N,N'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、N,N'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、N,N'−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
連鎖移動剤はスチレン系樹脂組成物の分子量が過度に大きくなりすぎないように添加するもので、連鎖移動基を1つ有する単官能連鎖移動剤でも連鎖移動剤を複数有する多官能連鎖移動剤を使用できる。単官能連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸エステル類等が挙げられる。
【0040】
多官能連鎖移動剤としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール水酸基をチオグリコール酸または3−メルカプトプロピオン酸でエステル化したものが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。用いた測定方法は以下の通りである。
【0042】
(GPC測定法)
高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製HLC−8220GPC)、RI検出器、TSKgel GMHxl×2、溶媒THF、流速1.0ml/分、温度40℃にて標準ポリスチレン換算の平均分子量を測定した。得られたクロマトグラフを処理ソフトにて分割し、100万以上の重量平均分子量をもつピークを多分岐型共重合体の含有量とし、表1、2に記載した。尚、ピーク分割が不可能、もしくは不明瞭なものはその含有量を0として取り扱った。
【0043】
(二重結合定量法)
構造単位(a1)および末端変性剤由来の二重結合のモル分率は日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により構造を決定した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0044】
(慣性半径)
試料を0.5%のTHF溶液に調整した後、メンブランフィルターにてろ過し、ろ液についてGPC多角度光散乱法を用いて測定を行った。さらに、試料を0.2%THF溶液に調整後1日放置した。その後、THFを用いて4種類の濃度(0.02、0.05、0.10、0.12wt%)の溶液に希釈し、これらの溶液を用いてdn/dc測定を行い、得られたdn/dc値から試料の慣性半径を算出した。
【0045】
(ゲル状物の確認)
射出成形機を用いて180mm×180mm×3mmの平板を成形し、ゲル状物を含有する際に発生するゲート部分からの線状痕の有無を目視にて確認した。
【0046】
合成例1
(多官能ビニル化合物芳香族共重合体α)
ジビニジビニルベンゼン159.8g(40wt%)、エチルビニルベンゼン93.8g(5wt%)、スチレン223.2g(9wt%)、2−フェノキシエチルメタクリレート632.7g(46wt%)、トルエン1081gを3Lの反応器内に投入し、50℃で56.8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、6時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多官能ビニル化合物共重合体αを340.8g(収率:71.5wt%)得た。この多官能ビニル芳香族共重合体αのMwは8000で、ジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位(a1)および末端の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の二重結合を合わせたモル分率は0.20であった。また重量平均分子量における共重合体の慣性半径は6.4nmであった。
【0047】
合成例2
(多官能ビニル化合物共重合体β)
ジビニルベンゼン3320g(26wt%)、エチルビニルベンゼン1950g(9wt%)スチレン1096g(15wt%)、2−フェノキシエチルメタクリレート6311g(50wt%)、トルエン8650gを30Lの反応器内に投入し、50℃で354.8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、3時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多官能ビニル化合物共重合体βを5640g(収率:88.6wt%)得た。この多官能ビニル芳香族共重合体βのMwは8000で、ジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位(a1)および末端の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の二重結合を合わせたモル分率は0.37であった。また重量平均分子量における共重合体の慣性半径は3.1nmであった。
【0048】
合成例3
(多官能ビニル化合物共重合体γ)
ジビニルベンゼン159.8g(15wt%)、エチルビニルベンゼン93.8g(20wt%)、スチレン223.2g(8wt%)、2−フェノキシエチルメタクリレート632.7g(57wt%)、トルエン1081gを3Lの反応器内に投入し、50℃で56.8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、6時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多官能ビニル化合物共重合体γを340.8g(収率:71.5wt%)得た。この多官能ビニル芳香族共重合体γのMwは5000で、ジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位(a1)および末端の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の二重結合を合わせたモル分率は0.21であった。また重量平均分子量における共重合体の慣性半径は10.6nmであった。
なお、多官能ビニル化合物共重合体α、β及びγ中の構造単位(a1)のモル分率は、いずれも0.1〜0.2の範囲である。
【0049】
実施例1
直列に接続された内容積30Lの完全混合性を有する槽型反応器を2個とプラグフロー性を有する静的混合機を内蔵した内容積15Lの塔型反応器と予熱器と真空槽を有するフラッシュチャンバー型の揮発分除去設備を有した連続塊状重合設備にスチレン85重量部、エチルベンゼン15重量部、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体(α)0.06重量部を均一混合した後に15L/hrで連続的に送入した。第一の反応器は130℃、第二の反応器は140℃、第三の反応器は入口部を140℃、出口部が160℃となるように段階的に温度を上昇させた後、220℃に加熱した予熱器に移送し、圧力を8Torrに調整した予熱器の直下の真空槽に投入することで未反応単量体、溶剤を除去した後、真空槽からギアポンプにてストランド状に樹脂を抜き出しながらカットすることでスチレン系樹脂組成物を得た。この定常状態を保ったままで定常状態到達後、24時間、72時間、144時間後の樹脂組成物について分子量、ゲル状物の評価を実施した結果を表1に示す。
【0050】
実施例2
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりに多官能ビニル化合物共重合体(β)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例3
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりに多官能ビニル化合物共重合体(γ)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
実施例1における多官能ビニル芳香族共重合体(α)の添加量0.06重量部を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例5
スチレン70重量部、エチルベンゼン30重量部とし、実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の添加量0.06重量部を0.3重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例6
実施例1において、スチレンと共にt−ドデシルメルカプタン0.05重量部を加えた以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0055】
比較例1
多官能ビニル化合物共重合体(α)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして線状ポリスチレンを得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0056】
比較例2
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の添加量0.06重量部を0.001重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0057】
比較例3
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の添加量0.06重量部を1重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。
【0058】
比較例4
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりにジビニルベンゼン0.05重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。各時間における分子量、ゲル状物の評価結果を表1に示す。24時間ではゲル状物は観測されなかったが、72時間ではゲル状物が発生し、144時間ではゲル状物を多量に含有する状態となった。
【0059】
比較例5
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりにジビニルベンゼン0.025重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。72時間ではゲル状物が観測されなかったが、144時間ではゲル状物の発生が確認された。
【0060】
比較例6
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりにジビニルベンゼン0.05重量部を使用し、スチレンと溶剤のエチルベンゼンの比率をスチレン70重量部、エチルベンゼン30重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。
【0061】
比較例7
実施例1における多官能ビニル化合物共重合体(α)の代わりにジビニルベンゼン0.05重量部を使用し、t−ドデシルメルカプタン0.05重量部を加えた以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン樹脂組成物を得た。
【0062】
反応原料の使用量及びポリスチレン樹脂組成物の物性をまとめて表1〜2に示す。表中、架橋剤は多官能ビニル化合物共重合体又はジビニルベンゼン(DVB)を意味する。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量多分岐型スチレン系共重合体と線状重合体とを含有するスチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、スチレンを必須とするビニル系モノマーに、平均して1分子中にビニル基を2以上有し、分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体を、重量基準で50ppm〜5000ppm添加し、均一混合した後に、連続的に配置された重合反応器に供給して重合反応を進行させ、該溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体と該ビニル系モノマーが重合して生じる超高分子量多分岐型共重合体と、該ビニル系モノマーが重合して生じる線状重合体とを含むスチレン系樹脂組成物を得ることを特徴とするスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体が、ジビニル化合物及びモノビニル化合物を含む単量体を重合して得られ、未反応のビニル基を構造単位中にモル分率として0.05〜0.50の範囲で含有し、その重量平均分子量における慣性半径(nm)と上記モル分率の比が1〜100の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法によって得られるスチレン系樹脂組成物が、重量平均分子量が100万以上の多分岐状スチレン系重合体2.0〜20.0wt%と、重量平均分子量が15万〜35万の線状スチレン系重合体80.0〜98.0wt%とを含有する重量平均分子量が20万〜80万であることを特徴とするスチレン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−225866(P2011−225866A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78380(P2011−78380)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】