説明

多列組合せ玉軸受

【課題】非常に大きなスラスト荷重が負荷されてもグリースによる良好な潤滑状態を維持して焼付きなどの不具合を防止することができる多列組合せ玉軸受を提供する。
【解決手段】玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50である少なくとも2列のアンギュラ玉軸受11が多列組合せされてなる多列組合せ玉軸受10であって、玉14の中心は、アンギュラ玉軸受11の幅中心CLに対して、背面側にオフセットされており、少なくとも1つのアンギュラ玉軸受11は、正面側に外輪12と内輪13間を密封するシール部材16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多列組合せ玉軸受に関し、特に、ラジアル荷重に比べて大きなスラスト荷重を負荷する用途、例えば、電動射出成形機用ボールねじサポート転がり軸受、あるいはダイカストマシン用ボールねじサポート転がり軸受、電動サーボプレス機用ボールねじサポート転がり軸受など、軸方向に大きな荷重を受けて回転する用途に適用される多列組合せ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品を製造する方法としては、射出成形による方法が一般的である。射出成形では成形材料がポリアミド(PA)・ポリフェニレンサルファイド(PPS)・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの熱可塑性樹脂の場合、軟化する温度に加熱したプラスチック(通常180〜450℃)に対し、射出圧を加えて金型に充填し成形する。この成形過程においては、型に充填されたプラスチックが固化するまで、型の内部圧力を保持する必要があり、「型締め」と称される。
【0003】
従来の射出成形機の型締めは、型締め力を与える方法として、油圧制御によるシリンダ駆動方式が主であった。しかし、最近では大量の油を用いず、環境にやさしく、省エネ性に優れる高トルクモータを用いた電動サーボ制御によるボールねじ駆動方式が開発・実用化され始めている。
【0004】
図9及び図10は、電動式の射出成形機101を示し、型締めユニット102と射出ユニット103を備える。型締めユニット102は、リアプラテン104、可動プラテン105および固定プラテン106を有し、可動プラテン105と固定プラテン106間に配置した金型107をリアプラテン104と可動プラテン105の間に配置した型締め機構108により、型開閉および型締めする。
【0005】
型締め機構108は、トグル構造を有し、型締め用モータ109によってリアプラテン104に軸支された型締め用ボールねじ110が駆動回転されると、クロスヘッド111が前後移動して伸縮し、これによって可動プラテン105が前後に移動する。型締め用ボールねじ110は、サポート軸受112によってリアプラテン104に軸支されている。
【0006】
また、可動プラテン105には、型成形後の製品を金型107から突き出すためのイジェクタピン140を作動させる駆動機構141が配置されている。この駆動機構141は、モータとボールねじとを備え、ボールねじのねじ軸をなすイジェクタ軸142を回転することでイジェクタピン140を移動させる。このイジェクタ軸用ボールねじはサポート軸受(図示せず)によって可動プラテン105に軸支されている。
【0007】
射出ユニット103はリアプレート113、可動プレート114およびフロントプレート115を有し、フロントプレート115のシリンダアセンブリ116中に配置された計量・射出用スクリュー117の基部が可動プレート114の前面(型締めユニット側)にサポート軸受118(スクリュースリーブ)を介して軸支されている。計量・射出用スクリュー117は、成形用の樹脂を計量し、溶融・混練するときに、可動プレート114に取付けられた図示しない計量用モータで駆動回転される。
【0008】
図10にも示すように、可動プレート114には、後面にボールナット120が固定されており、これに螺合された射出用ボールねじ121がリアプレート113に軸支され、射出機構122を構成している。射出用ボールねじ121は、サポート軸受123でリアプレート113に軸支され、リアプレート113に取付けられた射出用モータ124で駆動される。
【0009】
また、射出ユニット103には、駆動用モータ150によりボールねじ151を正回転あるいは逆回転させることで、シリンダアセンブリ116を固定プラテン106に対して前後進させるノズルタッチ機構153が設けられている。ノズルタッチ機構153は、シリンダアッセンブリ116に取り付けられている先端のノズル116aを所定の力で、固定プラテン106に取り付けられている金型107に押し付ける。このノズルタッチ用ボールねじ151は、サポート軸受(図示せず)で軸支されている。
【0010】
射出成形機101による射出成形手順としては、まず固形の樹脂ペレットを入れたホッパー160からシリンダアセンブリ116内にペレットを供給する。ペレットは、温められたシリンダアセンブリ116内で溶融され、計量・射出用スクリュー117の回転によって溶融した樹脂が撹拌されている。射出成形時には、射出用モータ124が正方向に駆動されて射出用ボールねじ121が正回転し、可動プレート114が前進してシリンダアセンブリ116内部の溶融樹脂が計量・射出用スクリュー117によって金型107内に射出される。この射出時の射出用ボールねじ121の回転速度は、内径50mmの軸受で毎分3000回転程度に達する。その後、毎分数回転の低回転速度で射出用ボールねじ121を回転させて一定時間、樹脂を押し出す圧力を保持する。
【0011】
また、計量用モータが駆動されて計量・射出用スクリュー117が回転し、新たに樹脂が計量・混練される。このとき射出・計量スクリュー117は、送り込む樹脂の圧力に押されて後退するが、射出用モータ124によって背圧が掛けられており、混練と溶融が十分に行われるようになっている。計量が終わった段階では、ノズル116aからの樹脂漏れを防止するために、射出用モータ124が逆転して射出・計量スクリュー117をわずかに後退させてサックバックが行われる。
【0012】
シリンダアセンブリ116から樹脂を金型107内に押し出す圧力は、製品によっては1000トンを超えるものもあり、射出用ボールねじ121及びサポート軸受123は、その圧力を受けることになる。また型締軸についても、この射出時の圧力に抗する力で金型107を締めておく必要があるため、型締め用ボールねじ110及びそのサポート軸受112にも大きな軸方向の力が負荷される。
【0013】
このような電動サーボ制御による射出成形機101の型締め用ボールねじサポート軸受112、イジェクタ軸用ボールねじサポート軸受、射出用ボールねじサポート軸受123、ノズルタッチ用ボールねじサポート軸受及び計量・射出用スクリュー支持軸受118では、ボールねじの回転支持と型締め時等における大きな軸方向荷重を負荷可能とするため、転動体として接触角40〜65°を有する大径玉を用い、大きな軸方向荷重を負荷した際の内外輪軌道面の面圧上昇を抑えて転がり疲れ寿命の延長を図った特殊な専用ボールねじサポート軸受が使用され始めている。
【0014】
また、内輪軌道及び外輪軌道を、軸受の軸方向における中心線に対して、冠形保持器のポケットの開口側に偏った位置に配置することで、ポケット開口側の軸受空間内に封入されたグリースを、玉、内外輪及び冠形保持器の回転により相互に接触させて各軌道及びポケット内に流し込み、グリースによる潤滑状況を改善して焼き付き寿命を延ばし、軸受性能の向上を図ったグリース封入軸受が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−183693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来、射出成形機101の各軸に適用されるボールねじサポート軸受としては、図11に示すように、複数のボールねじサポート用アンギュラ玉軸受201が組み合されてなる多列組合せ玉軸受200が、グリース潤滑されて使用されることが多い。各アンギュラ玉軸受201は、外輪202と、内輪203と、外内輪202、203間に接触角αで転動自在に配設された大径の玉204と、玉204を回動自在に保持する保持器205と、を備える。
【0017】
しかしながら、従来のボールねじサポート用アンギュラ玉軸受201によると、運転中にグリースが軸受201の外部に漏れて潤滑不良を起こし、早期に破損にいたる場合があった。このような早期の破損を防止するため、定期的にグリースを軸受201に補充することも可能であるが、軸受201の周辺部品にグリースを補充するための経路を備える必要があり、機構が複雑となる。また、補充したグリースも運転中に徐々に外部に漏れ出して機械周辺を汚してしまうという問題点があった。
【0018】
一般的によく使われる深溝玉軸受などでは、軸受の端面にシール部材を装着することで、グリースの飛散防止やグリース漏れによる早期損傷を防ぐ技術があるが、射出成形機101用のボールねじサポート軸受201は、高い負荷容量を確保するために玉204の径をできるだけ大きくする必要があり、玉204の両端のスペースが狭くなって、シール部材を装着し難い問題があった。
【0019】
また、特許文献1のグリース封入軸受では、内輪軌道及び外輪軌道がポケットの開口側にオフセットされているので、シール部材を装着するスペースが確保し難く、更に、転動体として大径玉を使用すると、軸受サイズ、特に、軸受幅が大きくなってしまう問題があった。本射出成形機用途では、大きな軸方向荷重に対応するため、少なくとも2列以上(標準的な仕様では3〜4列組合せ)の多列組合せで軸受を配置する必要があり、軸受の軸方向幅を大きくすることは射出成形機全体のスペース増につながるなどの不具合が生じる。
【0020】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、非常に大きなスラスト荷重が負荷されてもグリースによる良好な潤滑状態を維持して焼付きなどの不具合を防止することができる多列組合せ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に所定の接触角を持って配置された複数の玉と、前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、を備え、玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50である少なくとも2列のアンギュラ玉軸受が多列組合せされてなる多列組合せ玉軸受であって、
前記玉の中心は、前記アンギュラ玉軸受の幅中心に対して、背面側にオフセットされており、
少なくとも1つの前記アンギュラ玉軸受は、正面側に前記外輪と前記内輪間を密封するシール部材を備えることを特徴とする多列組合せ玉軸受。
(2) 前記保持器は、円環部と、前記円環部から円周方向に等間隔で軸方向に突出形成された複数の柱部と、を備える冠形保持器であり、
前記円環部は、前記アンギュラ玉軸受の背面側に配置されていることを特徴とする(1)に記載の多列組合せ玉軸受。
(3) 前記外輪の正面側の溝肩には、カウンターボア部が形成されると共に、前記シール部材が装着されることを特徴とする(1)又は(2)に記載の多列組合せ玉軸受。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多列組合せ玉軸受によれば、玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50である大径玉を有するアンギュラ玉軸受が多列組合せされてなる多列組合せ玉軸受において、玉の中心が、アンギュラ玉軸受の幅中心に対して、背面側にオフセットされているので、玉の正面側のスペースを広く確保することができ、このスペースに多くのグリースを封入して長期間に亘って良好な潤滑状態を維持し、焼付きなどの不具合を防止することができる。また、スペースが確保された正面側に外輪と内輪間を密封するシール部材の装着が可能となり、グリースの飛散防止による機械周辺部の汚染や、グリース漏れによる玉軸受の早期損傷を防止することができる。さらに、2列のアンギュラ玉軸受を背面組合せすることで、組合せ玉軸受の両側をシール部材でシールすることができ、外部へのグリース漏れが防止されて組合せ玉軸受の内部にグリースを保持しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多列組合せ玉軸受の断面図である。
【図2】図1に示すアンギュラ玉軸受の断面図である。
【図3】3列のアンギュラ玉軸受からなる多列組合せ玉軸受の断面図である。
【図4】3列のアンギュラ玉軸受からなる他の多列組合せ玉軸受の断面図である。
【図5】4列のアンギュラ玉軸受からなる多列組合せ玉軸受の断面図である。
【図6】4列のアンギュラ玉軸受からなる他の多列組合せ玉軸受の断面図である。
【図7】本発明の変形例に係るアンギュラ玉軸受の断面図である。
【図8】本発明の他の変形例に係るアンギュラ玉軸受の断面図である。
【図9】一般的な電動式射出成形機の正面図である。
【図10】一般的な電動式射出成形機の要部拡大図である。
【図11】従来の多列組合せ玉軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る多列組合せ玉軸受について図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態に係る多列組合せ玉軸受は、図9及び図10で説明した型締め用ボールねじサポート軸受、イジェクタ軸用ボールねじサポート軸受、射出用ボールねじサポート軸受、ノズルタッチ用ボールねじサポート軸受として組み付けられるものであるが、ここでは多列組合せ玉軸受のみ図示して説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の多列組合せ玉軸受10は、2列のアンギュラ玉軸受11A,11Bが背面組合せされて構成されている。図2にも示すように、各アンギュラ玉軸受11(11A,11B)は、内周面に外輪軌道12aを有する外輪12と、外周面に内輪軌道13aを有する内輪13と、外輪軌道12aと内輪軌道13aとの間に所定の接触角αを持って転動自在に配置される複数の玉14と、該玉14を転動自在に保持する冠形保持器15と、シール部材16と、を備える。
なお、以下の説明において、アンギュラ玉軸受11の幅方向において、玉14の中心に対して接触角αを表す線Lが外輪12を通過する側(図2において左側)の軸受端面側を背面側とし、その反対側の軸受端面側を正面側と言うものとする。
【0026】
本実施形態のアンギュラ玉軸受11では、内外径及び幅寸法がISO規格の標準軸受に相当する一方、玉14の玉径Daは、大きな軸方向荷重を負荷できるように、標準的な軸受と比較して大きく設定されており、玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50となっている。さらに、内輪、外輪の強度、保持器、シールの配置性などを考慮した場合、Da/B<0.9、Da/H<0.75が望ましい。また、接触角αも大きな値、例えば、40〜65°に設定されている。
【0027】
また、外輪12の背面側の溝肩12bは、外輪軌道12aが背面側において長くなるように、正面側の溝肩12cよりも径方向内側、本実施形態では、略玉14のピッチ円直径(P.C.D.)付近まで延出して形成されている。また、溝肩12cには、カウンターボア12dが内周面に形成される。このカウンターボア12dは、アンギュラ玉軸受11の組立時、玉14を挿入する際に必要な形状である。
【0028】
また、内輪13の正面側の溝肩13cは、内輪軌道13aが正面側において長くなるように、背面側の溝肩13bよりも径方向外側、本実施形態では、略玉14のピッチ円直径(P.C.D.)付近まで延出して形成されている。
【0029】
なお、外内輪12、13の溝肩12b、13cの高さを略玉14のピッチ円直径(P.C.D.)まで高くしたのは、大きな軸方向荷重が負荷されたとき、玉14が溝肩12b、13cに乗り上げないようにし(つまり、内外輪軌道と玉との弾性接触域が溝肩部エッジ部に干渉しない)、また、軸方向荷重に対する負荷容量をより大きくするためである。
【0030】
冠形保持器15は、円環部15aと、円環部15aから円周方向に等間隔で軸方向に突出形成された複数の柱部15bと、から構成され、各柱部15b間には、玉14の転動面の曲率半径より僅かに大きな曲率半径を有する球面状のポケットが複数個、円周方向に所定の間隔で形成されている。この冠形保持器15は、玉案内方式とされ、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂などの合成樹脂を射出成形することにより形成される。なお、冠形保持器15としては、他の案内方式であってもよく、また、金属製であってもよい。
【0031】
シール部材16は、アンギュラ玉軸受11の正面側に配置され、例えば、心材である金属板をゴムなどの弾性体によって覆って環状に形成されている。シール部材16の外周部は、外輪12の内周面の正面側端部に設けられた溝12eに圧入・固定され、シール部材16の内周部は、内輪13の外周面の正面側端部に設けられた溝13dに摺接して、アンギュラ玉軸受11の内部に封入されたグリースの流出を防止する。なお、シール部材16は、非接触型と接触型のいずれであってもよく、動トルクを小さくしたい場合には非接触型、グリースの密閉性を向上させたい場合には接触型とするなど、必要に応じて選択可能である。
【0032】
ここで、外輪12の内周面に形成された外輪軌道12a及び内輪13の外周面に形成された内輪軌道13aは、アンギュラ玉軸受11の幅方向の中心CLに対して、δだけ背面側にオフセットして形成されている。また、外輪軌道12a及び内輪軌道13aが背面側にオフセットされることで、玉14の中心も、アンギュラ玉軸受11の幅方向の中心CLに対して、δだけ背面側にオフセットされる(L1<L2)。これにより、高い軸方向負荷容量を確保するために玉14の直径を大径とすると、従来のアンギュラ玉軸受では、玉14の側方のスペースが狭くなり、シール部材16の装着がし難くなるのに対して、本実施形態のアンギュラ玉軸受11では、アンギュラ玉軸受11の正面側にシール部材16を装着するためのスペースを確保することができ、シール部材16の装着が可能となる。
【0033】
また、冠形保持器15の円環部15aは、アンギュラ玉軸受11の背面側に配置されており、アンギュラ玉軸受11は、玉14の背面側へのオフセットと協働して、正面側にスペースを確保することができ、また、冠形保持器15と干渉することなく、シール部材16を装着することができる。
【0034】
さらに、冠形保持器15は、玉14の中心が背面側にオフセットされて軸方向幅が狭くなった部分に円環部15aを配置するため、円環部15aの肉厚が薄くなり、冠形保持器15、特に円環部15aの剛性が小さくなる。しかし、射出成形機101のボールねじサポート用途で使用されるアンギュラ玉軸受11は、回転速度が最大でもdmN相当で25万以下(毎分3000回転程度)と低速であり、且つボールねじの動方向移動ストロークから回転数もせいぜい10〜20回転程度と小さいので、円環部15aの剛性が実質的に問題となることはない。従って、玉14の中心を背面側にオフセットし、外輪12の正面側にカウンターボア12dを設けることで、正面側に形成される内部スペースを大きくして、該スペースに多くのグリースを封入することができる。
【0035】
また、背面側においては、溝肩12bの内周面と円環部15aの外周面間、及び円環部15aの内周面と溝肩13bの外周面間の各径方向隙間Cが狭くなっているので、封入されたグリースの背面側への漏れが防止される。複数のアンギュラ玉軸受11が多列組合せ玉軸受10に組み付けられた後は、装着されたシール部材によって、グリース漏れが問題となることはないが、このように径方向隙間Cを狭くして背面側のグリース漏れを防止することで、アンギュラ玉軸受11単体での取扱いが容易となる。
【0036】
また、本実施形態のアンギュラ玉軸受11では、玉径の小さい軸受と比較して、設計的な関係から正面側の外輪内径(カウンターボア部内径De)が大きくなる。即ち、正面側の半径方向開口幅W((De−Di)/2、Di:内輪13の溝肩13cの外径)が大きくなるので、同じオフセット量とした場合、グリースを封入可能な空間容積が小径玉の軸受に比べて増加するメリットがあり、長期間に亘って良好な潤滑条件を維持するのに寄与する。
【0037】
このような2列のアンギュラ玉軸受11は、図1に示すように、背面組合せされて多列組合せ玉軸受10として組み付けられる。単体のアンギュラ玉軸受11では、正面側にのみシール部材16が配設されているが、2列のアンギュラ玉軸受11を背面組合せすることで、組合せ玉軸受10の両側をシール部材16でシールすることができ、外部へのグリース漏れが防止されて多列組合せ玉軸受10の内部にグリースを保持しておくことができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の多列組合せ玉軸受10によれば、玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50である大径の玉14を有するアンギュラ玉軸受11が多列組合せされてなる多列組合せ玉軸受10において、玉14の中心が、アンギュラ玉軸受11の幅中心CLに対して、背面側にオフセットされているので、玉14の正面側のスペースを広く確保することができ、このスペースに多くのグリースを封入して長期間に亘って良好な潤滑状態を維持し、焼付きなどの不具合を防止することができる。また、スペースが確保された正面側に外輪12と内輪13間を密封するシール部材16の装着が可能となるので、グリースの飛散防止による機械周辺部の汚染や、グリース漏れによる玉軸受11の早期損傷を防止することができる。
なお、Da/B>0.65、Da/H>0.65とすれば、更に軸方向荷重の負荷容量が増大し、玉14の溝肩12b、13cへの乗り上げを防止することができる。
【0039】
また、保持器は円環部15aと複数の柱部15bとを備える冠形保持器15であり、円環部15aがアンギュラ玉軸受11の背面側に配置されているので、アンギュラ玉軸受11の正面側にスペースを確保して、冠形保持器15と干渉することなく、シール部材16を装着することができる。
【0040】
更に、外輪12の正面側の溝肩12cにカウンターボア12dが形成されると共に、シール部材16が装着されるので、正面側にグリース封入スペースを確保することができ、アンギュラ玉軸受11内に多量のグリースを封入することができる。また、シール部材16によってグリースの漏えいを防止して、良好な潤滑状態を長期間維持することができる。
【0041】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、2列のアンギュラ玉軸受が背面組合せされた多列組合せ玉軸受について説明したが、本発明は、3列以上のアンギュラ玉軸受が多列組合せされたものにも適用することができる。また、必要に応じて、少なくとも一部の軸受間に、内輪間座及び外輪間座を設けた構成としてもよい。
【0043】
図3及び図4は、3列のアンギュラ玉軸受11(11A、11B、11C)が組合された多列組合せ玉軸受10を示し、アンギュラ玉軸受11A、11Bは、背面組合せで配列される一方、アンギュラ玉軸受11B、11Cは、並列組合せで配列されている。これにより、多列組合せ玉軸受10は、両方向からの軸方向荷重を負荷することができるとともに、一方側からの大きな軸方向荷重(図中、外輪に左方から右方に向かって作用する荷重)を負荷することができる。
【0044】
また、図3に示す多列組合せ玉軸受10は、両端のアンギュラ玉軸受11A、11Cにのみシール部材16を装着しており、中央のアンギュラ玉軸受11Bのシール部材16を省いても、グリースが外部に漏れることはない。一方、図4に示す多列組合せ玉軸受10は、中央のアンギュラ玉軸受11Bにもシール部材16を装着しており、この場合には、単独のアンギュラ玉軸受11(多列組合せ玉軸受10に組み付け前)での取扱い時に、グリースの漏れや、外部からのゴミの侵入を防ぐことができる。従って、中央に配置されるアンギュラ玉軸受11Bのシール部材16は、必要に応じて装着すればよい。
【0045】
図5及び図6は、4列のアンギュラ玉軸受11(11A、11B、11C、11D)が組合された多列組合せ玉軸受10を示し、アンギュラ玉軸受11A、11Bは、背面組合せで配列される一方、アンギュラ玉軸受11B、11C、11Dは、並列組合せで配列されている。これにより、多列組合せ玉軸受10は、両方向からの軸方向荷重を負荷することができるとともに、一方側からの大きな軸方向荷重(図中外輪に左方から右方に向かって作用する荷重)を負荷することができる。
【0046】
なお、図5及び図6の各アンギュラ玉軸受11は、いずれも内径(d)50mm、外径(D)110mm、軸方向幅(B)27mm、玉径(Da)19.050mm、であり、Da/B=0.71、Da/H=0.64に設定されている。
また、図5のアンギュラ玉軸受11は、玉15の接触角(α)を60°とし、冠形保持器15として、玉案内樹脂保持器を使用する一方、図6のアンギュラ玉軸受11は、玉15の接触角(α)を50°とし、冠形保持器15として、内輪案内銅合金保持器を使用している。
【0047】
また、上記実施形態では、外輪12の溝肩12cにカウンターボアが設けられているが、図7に示すように、内輪13の溝肩13bの外周面にカウンターボア13eが形成されてもよい。この場合、背面側にグリースを封入するスペースが形成され、封入グリース量が増大する。
【0048】
さらに、上記実施形態では、片持ちの冠形保持器15が使用されているが、保持器剛性が要求される場合には、図8に示すように、もみ抜き保持器や打抜き保持器などの両リングタイプの保持器17が用いられてもよい。両リングタイプの保持器17は、一対の円環部17a、17aと、一対の円環部17a、17a同士を軸方向に連結する複数の柱部17bと、によってポケット18が形成されている。
【符号の説明】
【0049】
10 多列組合せ玉軸受
11、11A、11B、11C、11D アンギュラ玉軸受
12 外輪
12a 外輪軌道
12b、12c 溝肩
12d カウンターボア
13 内輪
13a 内輪軌道
13b、13c 溝肩
13e カウンーボア
14 玉
15 冠形保持器(保持器)
15a、17a 円環部
15b、17b 柱部
16 シール部材
17 保持器
B 軸受幅
CL 幅中心
Da 玉径
H 断面高さ
α 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に内輪軌道が形成された内輪と、内径面に外輪軌道が形成された外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に所定の接触角を持って配置された複数の玉と、前記複数の玉を転動自在に保持する保持器と、を備え、玉径Da/軸受幅B>0.55、且つ玉径Da/断面高さH>0.50である少なくとも2列のアンギュラ玉軸受が多列組合せされてなる多列組合せ玉軸受であって、
前記玉の中心は、前記アンギュラ玉軸受の幅中心に対して、背面側にオフセットされており、
少なくとも1つの前記アンギュラ玉軸受は、正面側に前記外輪と前記内輪間を密封するシール部材を備えることを特徴とする多列組合せ玉軸受。
【請求項2】
前記保持器は、円環部と、前記円環部から円周方向に等間隔で軸方向に突出形成された複数の柱部と、を備える冠形保持器であり、
前記円環部は、前記アンギュラ玉軸受の背面側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多列組合せ玉軸受。
【請求項3】
前記外輪の正面側の溝肩には、カウンターボア部が形成されると共に、前記シール部材が装着されることを特徴とする請求項1又は2に記載の多列組合せ玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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