説明

多加水パン生地

【課題】水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈する多加水パン生地、及び、多加水パン生地を使用していながら、ねちゃつきのない良好な食感を有し、且つ、耐老化性に優れたパンを提供すること。
【解決手段】グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有し、好ましくは、さらにアルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することを特徴とする多加水パン生地、及び、該パン生地を加熱して得られたパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水量が通常のパン生地に比べて顕著に多い多加水パン生地に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの食感に対してさまざまな要求があるが、ソフト性としっとり感は最も多い要求である。一般的にソフトでしっとり感のあるパンを得るためには水の添加量(吸水量)を増加すればよい。
しかし、小麦粉100質量部に対し吸水量が70質量部以上となると、得られるパン生地は保型性を失い流動状となり、各種の成形を行うことが困難となる。
そのため、このような吸水量の多いパン生地(多加水パン生地)を用いて得られるパンはチャバタ等の特殊なパンに限定されている。
【0003】
そこで、多加水パン生地でありながら、従来の一般的な成形をおこなうことが可能な物性であるパン生地とするための発明が各種紹介されている。
たとえば、食物繊維や増粘安定剤等を使用する方法(例えば特許文献1〜3参照)や、微細小麦粉を使用する方法(例えば特許文献4参照)、あらかじめ糊化した小麦粉をパン生地に添加する方法(例えば特許文献5参照)、流動状を呈する多加水パン生地に固形物を大量に添加することで保型性を出し、成型可能な物性とする方法(例えば特許文献6参照)等が知られている。
【0004】
しかし、食物繊維や増粘安定剤等を使用する方法では、得られるパンがねちゃつきやすいという問題があり、また、微細小麦粉を使用する方法では、得られるパン生地が粘つき成形が難しいという問題があり、あらかじめ糊化した小麦粉をパン生地に添加する方法では、パン生地の伸展性が悪く良好な物性が得られにくく、また安定した製造が難しいという問題があった。さらに、多加水パン生地に固形物を大量に添加する方法では、食パンやテーブルロールなどの固形物を含有しない通常のパンが得られず、また、安定したボリュームのパンが得られないという問題があった。また、これらの方法で得られたパンは老化が早いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−320207号公報
【特許文献2】特開2004−187526号公報
【特許文献3】特開平10−179012号公報
【特許文献4】特開2004−194518号公報
【特許文献5】特開2000−245332号公報
【特許文献6】特開2005−102609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈する多加水パン生地、及び、多加水パン生地を使用していながら、ねちゃつきのない良好な食感を有し、且つ、耐老化性に優れたパンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定の乳化剤を使用することで、上記の従来技術の問題を解決可能であることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有することを特徴とする多加水パン生地を提供するものである。
また、本発明は、該多加水パン生地を加熱して得られた、ねちゃつきのない良好な食感を有し、且つ、耐老化性に優れたパンを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多加水パン生地は、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈し、また、本発明の多加水パン生地を使用して得られたパンは、腰持ちがよく、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有し、且つ、耐老化性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明の多加水パン生地について詳細に説明する。
本発明における多加水パン生地とは澱粉類100質量部に対し水を70〜150質量部、好ましくは70〜100質量部、さらに好ましくは70〜90質量部含むものである。
本発明の多加水パン生地に使用する水としては、特に限定されず、天然水や水道水などが挙げられる。
なお、本発明においては、上記水の含有量は、上記天然水や水道水に加え、下記のその他の原料中の水分も含有するものである。
【0010】
本発明の多加水パン生地に使用する澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉などの澱粉や、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられるが、本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
【0011】
本発明の多加水パン生地で使用するグリセリン有機酸脂肪酸エステルについて述べる。
通常の吸水量のパン生地、すなわち澱粉類100質量部に対し水を70質量部未満含むパン生地においては、グリセリンモノ脂肪酸エステルをはじめとする乳化剤は、パン生地中で澱粉と強く結合して複合体を形成することでその膨潤を抑制し、結果として余分な水がグルテン構造の生成に使われることでしっかりとした伸展性良好なグルテン構造を形成させる。そのため通常の吸水量のパン生地において乳化剤は、パン生地の物性の改良や、得られるパンの体積の増大やソフトな食感を得ることを目的として広く使用されてきた。
【0012】
しかし、多加水パン生地に使用した場合は、グルテン構造の形成に必要とする以上の剰余水分が発生するため、多加水パン生地に乳化剤を添加するとさらにべたつきの強い物性になってしまうことに加え、得られるパンもねちゃつきの激しいパンになってしまう。
しかし、このような多加水パン生地においても、数ある乳化剤の中でも、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを使用した場合のみが良好なグルテン構造が形成され、結果として良好な物性のパン生地が得られ、さらには良好な品質のパンが得られる。この効果は有機酸のみを添加しても、グリセリンモノ脂肪酸エステルのみを添加しても得られず、グリセリン有機酸脂肪酸エステルのみの効果である。よって、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有しない場合は本発明の効果は得られない。
【0013】
上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル等を使用することができるが、本発明では、これらの中でも、食感改良効果が高い点で、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、及び/又は、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルを使用することが好ましい。
【0014】
本発明の多加水パン生地における上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量は、多加水パン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.01〜2質量部、更に好ましくは0.05〜1質量部、最も好ましくは0.1〜0.5質量部である。上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量が0.01質量部未満では、グリセリン有機酸脂肪酸エステルの添加による改良効果が現れず、2質量部超では、得られるパンの風味が好ましくないものとなる問題や食感がねちゃつく等、乳化剤の悪影響が現れやすくなる。
また、本発明の多加水パン生地は、上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルに加え、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することが好ましい。アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することにより、ねちゃつきが少なく、口溶けが良好なパンを得ることができる。
【0015】
本発明で使用するアルギン酸とは、コンブやワカメに代表される褐藻類から抽出される、D−マンヌロン酸と、L−グルロン酸から構成される直鎖状の多糖類である。
また、本発明で使用するアルギン酸塩とは、褐藻類を希薄な酸性溶液で洗浄後、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を加え、加熱することにより水溶性のアルギン酸塩として得られるものである。
【0016】
上記アルギン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには鉄、スズ等の金属塩などが可能であるが、食品に用いることから食品添加物である塩を選んで使用し、好ましくは、水への溶解度が高いことから、ナトリウム塩が好ましい。
【0017】
本発明の多加水パン生地における上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の含有量は、多加水パン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.1〜3質量部、更に好ましくは0.2〜2.5質量部、最も好ましくは0.3〜2.0質量部である。上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の含有量が0.1質量部未満では、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の添加による改良効果が現れず、3質量部超では、得られるパンの食感が悪いものとなるおそれがある。
【0018】
本発明の多加水パン生地には、上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩以外の食物繊維を使用することができる。
上記食物繊維としては、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、ヘミセルロース、リグニン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリデキストロース、寒天、グルコマンナン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガムなどの水溶性食物繊維又は不溶性食物繊維、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、キャロットファイバー、トマトファイバー、バンブーファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大麦ファイバー、ライ麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、米ぬか、キチン、キトサン等の水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を共に含有する複合型食物繊維を挙げることができる。これらの食物繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0019】
中でも保水性が高いことに加え、水分含量の高い場合であっても、べとつきが少ないパン生地とすることができる点で、複合型食物繊維を使用することが好ましく、より好ましくは、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバーのうちの一種又は2種以上を使用することが好ましく、さらに好ましくは、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、コンニャクファイバーのうちの一種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0020】
上記パン生地における上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩以外の食物繊維の含有量は、上記パン生地における澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。
【0021】
本発明の多加水パン生地は、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類、全卵・卵黄・卵白・加塩全卵・加塩卵黄・加塩卵白・加糖全卵・加糖卵黄・加糖卵白・乾燥全卵・乾燥卵黄・凍結全卵・凍結卵黄・凍結卵白、凍結加糖全卵・凍結加糖卵黄・凍結加糖卵白・酵素処理全卵・酵素処理卵黄等の卵類、ゼラチン・ファーセルラン等の増粘安定剤、ステビア・アスパルテーム・スクラロース・アセスルファムカリウム等の甘味料、β−カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・醗酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチンなどのグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを挙げることができる。
【0022】
なお、上記油脂としては、例えば、ショートニング・マーガリン・バターなどの可塑性油脂組成物や、サラダ油・流動ショートニング・溶かしバターなどの流動状油脂組成物、また、粉末油脂などが挙げられる。また、油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
本発明の多加水パン生地における上記油脂の含有量は、多加水パン生地における澱粉類100質量部に対し、油脂純分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0023】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
本発明の多加水パン生地における上記糖類の含有量は、多加水パン生地における澱粉類100質量部に対し、固形分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、上記澱粉類100質量部に対して合計で100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0025】
次に、本発明の多加水パン生地の製造方法について述べる。
本発明の多加水パン生地は、多加水パン生地製造の際に、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを多加水パン生地中に均質に練込むことによって得ることができる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの多加水パン生地への添加方法は、例えば、粉末のグリセリン有機酸脂肪酸エステルを澱粉類とあらかじめ混合してから製パンする方法や、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂を製パン時に練り込む方法など、適宜選択可能であるが、よりパン生地中に均質に分散させることが可能な点で、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂を製パン時に練り込む方法に拠ることが好ましい。この場合、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂は、可塑性油脂組成物であることが好ましく該可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0026】
なお、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の多加水パン生地への添加方法については、該ゲル化剤を使用したゲルが熱不可逆性であること、及び、極めて高いゲル強度を有することから、粉末状で添加するよりも、あらかじめ水を使用してゲル化した状態で多加水パン生地に添加、混合することが好ましい。
なお、上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルと上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を同時に含有する油中水型乳化物又は水中油型乳化物の形態で添加、混合してもよい。
なお、本発明の多加水パン生地は、上記グリセリン有機酸脂肪酸エステル、さらには上記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を使用する以外は、一般的なパン生地の製造方法によって得ることができる。
【0027】
この場合、一般的な吸水量のパン生地(小麦粉100質量部に対し吸水量が70質量部未満であるパン生地)の製造方法によってもよいが、食物繊維や増粘安定剤等を使用する方法、微細小麦粉を使用する方法、あらかじめ糊化した小麦粉をパン生地に添加する方法(湯種法)等の一般的な多加水パン生地の製造方法によって得ることが好ましい。
【0028】
なお、食物繊維や増粘安定剤等を使用する方法を採る場合、特に食物繊維として複合型食物繊維を使用する場合は、膨潤に時間がかかるため、粉末状として添加するのではなく、あらかじめ水を吸水させて膨潤させた状態でミキシング途中にパン生地に添加することが好ましい。
また、生地物性を大きく変えることなく多加水パン生地を得るためには、水を2回以上に分けて添加、練り込む方法を採ることもできる。
この、水を2回以上に分けて添加、練り込む方法とは、同一出願人が特願2008−254211号として出願済みの多加水パン生地の製造方法であり、生地混捏時に、まず、水の一部を添加して均質な生地となるまで練り込み、好ましくは十分にグルテンが生成されるまで混捏して、その後、残余の水を1回〜数回に分けて添加、練り込みを行い、再び均質な生地とするものである。
【0029】
この、水の添加、練り込みが複数回であることによって、1回目に添加した水は穀粉類と十分に水和し、2回目以降に添加した水は、練り込む過程において、その水和した生地中に均質に分散することであたかも生地中に水が乳化するような形で取り込まれるため、良好な物性を保ったまま大量の水の添加(吸水)を行なうことができるものである。
【0030】
この水の添加、練り込みは、水を添加する際に添加する水が多いためにただ複数回に分けるのではなく、また、パン生地の粘弾性の調整のために複数回に分けるのでもなく、1回目において完全に練り込み、均質な生地とすることが必要である。
なお、この、水を2回以上に分けて添加、練り込む方法については、上記一般的な多加水パン生地の製造方法と組み合わせることももちろん可能である。
【0031】
次に、本発明のパンについて述べる。
本発明のパンは、上記の本発明の多加水パン生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱したものである。
上記成形は、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
【0032】
上記加熱とは、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
なお、焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー食品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150〜240℃で4〜40分、さらに好ましくは180〜230℃で8〜30分である。
また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180〜260℃で1〜10分、さらに好ましくは200〜250℃で2〜5分である。
【0033】
本発明のパンは、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する。また、水分含量の高いパン生地を使用していながら腰持ちが良好である。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0035】
<製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Aの製造>
パームスーパーオレインのランダムエステル交換油脂95質量部及びパームステアリン5質量部を均一に混合した混合油脂72.47質量部に、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル3質量部、60%トコフェロール0.01質量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部、香料0.02質量部を添加、混合、溶解した油相を60℃に保温した。一方、水19質量部からなる水相(1)を添加し、次いで糊化処理済みのヒドロキシプロピルエーテル化リン酸架橋デンプン(原料澱粉はタピオカ)5質量部を分散させた後、90℃で1分、蒸気を用いて殺菌処理したのち、コンビネーターを用いて急冷可塑化を行い、可塑性を有する、製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Aを得た。
【0036】
<製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Bの製造>
グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル3質量部に代えてレシチン3質量部を使用した以外は、上記製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Aと同様の配合・製法で、可塑性を有する、製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Bを得た。
【0037】
<ゲル組成物Aの製造>
塩化カルシウム(カルシウム含量27質量%)0.2質量部、ホエイパウダー(カルシウム含量0.6質量%、ナトリウム含量0.4質量%)3質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(固形分8質量%、固形分中のリン脂質の含有量4.89質量%、カルシウム含量0.35質量%、ナトリウム含量0.2質量%)5.5質量部を水67質量部に溶解した。さらに乳酸0.1質量部、食塩(ナトリウム含量39質量%)0.5質量部、乳糖10質量部を添加し、十分に撹拌して混合液を得た。
一方、パーム油12質量部に、アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、150mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s)0.3質量部、アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s)0.4質量部を添加、分散し、油相を調製した。
上記混合液に、上記油相を添加、乳化し水中油型組成物とし、これを掻取式熱交換器にて90℃で1分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却した。次いでイズミフードマシナリー製2段式ホモゲナイザーにて均質化後、ポリエチレン袋に密封し、20℃まで24時間かけて冷却し、ゲル組成物Aを得た。
【0038】
〔実施例1〕
強力粉70質量部、生イースト(水分含量70%)3質量部、上白糖3質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、以下のように本捏ミキシングを行なった。強力粉30質量部、食塩1.9質量部、上白糖15質量部、全卵(正味)(水分含量75%)10質量部、水9質量部を添加し、低速で3分、中速で4分ミキシングした。ここで、上記製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物A(水分含量19%)8質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、さらに水10質量部を添加し、低速で3分、中速で3分、高速で3分ミキシングして練り込みを行ない、澱粉類100質量部に対しグリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.24質量部、澱粉類100質量部に対し水を72質量部含有する多加水パン生地である本発明のテーブルロール生地を得た。
ここで、フロアタイムを25分とった後、55gに分割・丸めを行なった。分割・丸め時のテーブルロール生地はべたつかず、作業性は良好であった。次いで、ベンチタイムを25分とった後、バンズ成形し、展板に並べ、38℃、相対湿度80%で50分ホイロをとった後、190℃に設定した固定窯に入れ13分焼成して、本発明のパンであるテーブルロールを得た。
得られたテーブルロールは良好なボリュームを有し、腰持ちがよく、ソフトでしっとりしたねちゃつきのない良好な食感を示した。
得られたテーブルロールを袋に入れ20℃で3日間保管したが、ソフトでしっとりした食感を保持していた。
【0039】
〔実施例2〕
強力粉70質量部、生イースト3質量部、上白糖3質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、以下のように本捏ミキシングを行なった。強力粉30質量部、食塩1.9質量部、上白糖15質量部、全卵(正味)10質量部、水9質量部を添加し、低速で3分、中速で4分ミキシングした。ここで、上記製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物A8質量部、及び、食物繊維(シトリファイ100G:鳥越製粉製)2質量部を水18質量部で膨潤させておいた混合物20質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で4分ミキシングし、澱粉類100質量部に対しグリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.24質量部、澱粉類100質量部に対し水を80質量部含有する多加水パン生地である本発明のテーブルロール生地を得た。
ここで、フロアタイムを25分とった後、55gに分割・丸めを行なった。分割・丸め時のテーブルロール生地はべたつかず、作業性は良好であった。次いで、ベンチタイムを25分とった後、バンズ成形し、展板に並べ、38℃、相対湿度80%で50分ホイロをとった後、190℃に設定した固定窯に入れ13分焼成して、本発明のパンであるテーブルロールを得た。
得られたテーブルロールは良好なボリュームを有し、腰持ちがよく、実施例1で得られたテーブルロールよりも、さらにソフトでしっとりしたねちゃつきのない良好な食感を示した。
得られたテーブルロールを袋に入れ20℃で3日間保管したが、ソフトでしっとりした食感を保持していた。
【0040】
〔実施例3〕
上記ゲル組成物A(水分含量72%)5質量部を本捏ミキシングの最初から添加した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、澱粉類100質量部に対しグリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.24質量部、澱粉類100質量部に対し水を83.5質量部含有する多加水パン生地である本発明のテーブルロール生地、及び、本発明のパンであるテーブルロールを得た。
分割・丸め時のテーブルロール生地はべたつかず、作業性は良好であった。
また、得られたテーブルロールは実施例2で得られたテーブルロールとボリューム、腰持ちについては同等であったが、食感については、実施例2で得られた特徴に加え、口溶けが極めてよいという特徴を示した。
得られたテーブルロールを袋に入れ20℃で3日間保管したが、ソフトでしっとりした食感を保持していた。
【0041】
〔比較例1〕
実施例2の本捏ミキシング時に、製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Aに代えて製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物Bを使用した以外は実施例2と同様の配合・製法で、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有せず、澱粉類100質量部に対し水を83.5質量部含有する多加水パン生地である比較例のテーブルロール生地、及び、比較例のパンであるテーブルロールを得た。
分割・丸め時のテーブルロール生地はべたつきがあり、作業性は不良であった。
また、得られたテーブルロールは実施例2で得られたテーブルロールに比べボリューム、腰持ちが悪く、食感についても、実施例2で得られたテーブルロールに比べ、ねちゃつく不良な食感であった。
得られたテーブルロールを袋に入れ20℃で3日間保管すると、硬くなりソフト性の劣る食感となってしまっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有することを特徴とする多加水パン生地。
【請求項2】
さらにアルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することを特徴とする請求項1記載の多加水パン生地。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多加水パン生地を加熱してなるパン。