説明

多孔フィルムの製造方法及び装置

【課題】孔の大きさや深さや配列がより精緻に形成された多孔フィルムを製造する。
【解決手段】支持体12の第1面11に有機高分子化合物を含む溶液を載せて液膜を形成する。支持体12の第1面11には、溶液の濡れ広がりを防止するために、格子状の仕切部材が備えられる。支持体12の第2面13にはペルチェ素子16が複数配されてあり、各ペルチェ素子16は、個々に接続する駆動回路を介して温度制御回路により駆動を制御される。格子で囲まれたエリア毎に溶液と載せて、支持体12はエリア毎にペルチェ素子により独立して温度制御される。液膜を形成した後にペルチェ素子16により支持体12の温度を変化させて結露工程を始め、液膜上に水滴を形成する。水滴が形成されると支持体12の温度を変えて水滴の新たな発生を抑止し溶媒を液膜から蒸発させる。溶媒を蒸発させてから水滴が蒸発するように支持体12の温度を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の孔が形成された多孔フィルムの製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、それら分野に用いられるフィルムに対しては、構造をより微細に形成することが強く求められている。また、医療分野でも、微細は構造をもつフィルムが求められており、細胞培養の場となるフィルムや、血液ろ過膜として利用するフィルム等が提案されている。
【0003】
微細構造をもつフィルムとしては、微細な孔が多数形成され、μmスケールのハニカム構造をもつ多孔フィルムがある。このような多孔フィルムを製造する方法としては、所定のポリマーが疎水性有機溶媒に溶けている溶液を流延(キャスト)して、有機溶媒を蒸発させると同時に、キャストされた液の表面で結露させ、結露により生じた微小な水滴を蒸発させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような方法で製造される多孔フィルムは、微細構造の形成挙動から自己組織化膜と言われる。そして、孔の形成のための結露と溶媒の蒸発と水滴の蒸発とは、溶液のキャストにより形成された薄い液膜の温度とこの液膜に接触する空気の温度、湿度、風速、露点と、液膜が形成された支持体の温度とにより制御される(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−335949号公報
【特許文献2】特開2006−075254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔フィルムにおける孔の大きさや深さ、均一さ、配列等は、μmスケールで規則性をもつことが望まれ、また、好ましい態様は用途に応じて異なる。上記の特許文献1の製造方法では、例えば、水の上の液膜に対して高湿度空気を吹き付けることにより孔を形成し、高湿度空気の吹き付けにはエアポンプを用いている。しかし、この方法では、溶媒の蒸発に際しての潜熱による液膜の温度低下と、エアポンプによる空気の吹き付けであることから、水滴の発生と成長と液膜への入り込みの速度と入り込む深さ等の制御を精緻に実施することができず、多孔フィルムにおける孔の大きさや深さを所望の態様に形成することはできない。
【0005】
また、特許文献2の製造方法では、液膜に対して吹き付ける空気に加え支持体の温度をも製造条件としているが、支持体であるベルトの温度は、ベルトが巻きかけられて回転する2つの回転ローラにより制御されており、回転ローラの周面温度は、内部を流れる伝熱媒体により調整されている。この方法では、2つの回転ローラ間の搬送路における支持体の温度を切り替える等の精緻な制御はできない。したがって、水滴の発生と成長と液膜への入り込みの速度と入り込む深さ等の制御は、主に、吹き付ける空気によらざるを得ないので、この方法によっても、大きさや深さ、配列等の孔の態様が所望の態様となるようにコントロールできるとまではいえない。
【0006】
そこで、本発明は、多孔フィルムにおける孔の大きさや深さ、配列等の態様をより精緻に制御することができる製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、支持体の一方の面に、溶媒と有機高分子化合物とを含む液膜を形成し、この液膜上に結露させてから、前記溶媒と前記結露により生じた水滴とを蒸発させて、複数の孔を有する多孔フィルムを製造する方法において、他方の面にペルチェ素子が配された前記支持体を用い、前記液膜上で結露させる工程と、前記溶媒を蒸発させる工程と、前記溶媒が蒸発した後に前記水滴を蒸発させる工程と、を前記ペルチェ素子の駆動を制御することにより行うことを特徴として構成されている。
【0008】
上記の製造方法においては、支持体には前記ペルチェ素子が複数配されており、前記複数のペルチェ素子の駆動を独立して制御し、支持体の温度を位置に応じて独立に調節することが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の多孔フィルムの製造装置は、溶媒と有機高分子化合物とを含む液膜が一方の面に形成されるべき支持体と、前記支持体の他方の面に配されるペルチェ素子と、このペルチェ素子を駆動する駆動回路と、液膜上で結露させる工程、溶媒を液膜から蒸発させる工程、記溶媒が蒸発した後に水滴を蒸発させる工程の少なくともいずれかひとつを行うように、前記駆動回路を介して前記ペルチェ素子の駆動を制御する制御回路と、を備えることを特徴として構成されている。
【0010】
上記の製造装置においては、支持体の熱伝導率kと厚みLとが、100W/(m・K)≦k/L≦100000W/(m・K)を満たすことが好ましく、支持体の前記一方の面側に空気を送り出す送風手段が備えられることが好ましい。また、前記ペルチェ素子は前記支持体に複数配され、複数のペルチェ素子は、各ペルチェ素子に接続した前記駆動回路を介して、前記制御回路により独立して制御されることが好ましい。前記ペルチェ素子を冷却する水冷式冷却手段が備えられることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来の方法に比べて、液膜の温度をより一定に保つこと及びより敏速に変化させることができるので、水滴の発生と成長と液膜への入り込みの速度と入り込む深さ、配列等の態様を精緻に制御することができる。そのため、孔の大きさや深さや配列がより精緻に形成された多孔フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、多孔フィルムの製造装置の一部の分解図である。フィルム製造装置は、ポリマーと溶媒とを含む溶液からなる膜(以降、液膜と称する)が一方の面11に形成される支持体12と、この支持体12の他面13に配され支持体12の温度を所望の温度に保持あるいは変化させるペルチェ素子16と、溶液の濡れ広がりを防止する堰となる格子状の仕切部材17と、を備える。ペルチェ素子16は、支持体の温度制御を制御する温度制御部の一部であり、温度制御部については別の図面を用いて後述する。以降の説明では、支持体12の液膜が形成される一方の面11を第1面と称し、ペルチェ素子16が配される他方の面13を第2面と称する。
【0013】
仕切部材17と支持体12とは密着するように配され、液膜は仕切部材17の格子で囲まれるエリアに形成される。これにより、各エリア毎に多孔フィルムが製造される。
【0014】
複数のペルチェ素子16は支持体12の第2面13にマトリックス状に配される。各ペルチェ素子16は、プレート型モジュールであり、この内部に、複数のペルチェユニットが配されている。各ペルチェ素子16の大きさは、仕切部材17の格子で囲まれる各エリアの面積以上とされており、これにより、支持体12と仕切部材17とを密着させたときに、仕切部材17の格子で囲まれる支持体12の各エリアと各ペルチェ素子16とが重なる。そして、支持体12の各エリアは各ペルチェ素子16により独立に温度調節される。
【0015】
ただし、ペルチェ素子16の個々の大きさと配置及び仕切部材17はこの態様に限定されない。例えば、一枚の支持体12の上に一枚の多孔フィルムをつくる場合には、格子状の仕切部材17に代えて、格子が無く、四方を囲む枠のみをもつ枠部材を用いてもよい。このような場合には、図1に示すように複数のペルチェ素子16を配してもよいし、この枠部材と支持体とを重ねたときに枠部材に囲まれるエリアと重なるようなひとつのペルチェ素子を図1に示すペルチェ素子16に代えて用いてもよい。また、ペルチェ素子16の配し方は、必ずしもマトリックス状でなくともよい。
【0016】
支持体の温度をペルチェ素子により制御するために、液膜に吹き付ける風の温度や湿度、風速等で液膜の環境を制御する場合、及び、このような風での環境制御と伝熱媒体である流体により支持体の温度制御とを実施する場合に比べて以下の利点がある。
(1)水滴の発生のタイミングをより正確にコントロールすることができる。
(2)生じた複数の水滴をより均一に成長させることができる。
(3)水滴の成長を止めるタイミングをより正確にコントロールすることができる。
(4)溶媒の蒸発速度を液膜の位置によらずに均一にすることができる。
(5)水滴の蒸発のタイミングをより正確にコントロールすることができる。
【0017】
以上の利点は、本発明によると、大気の温度や液膜の潜熱による温度変化があっても、これらの温度変化により支持体の温度が変化しないようにすることができるし、また、これらの温度変化に関わらず支持体の温度を敏速に所望の温度に変化させることができるということに基づく。したがって、生じる水滴の大きさと液膜への入り込みの速度及び入り込みの深さ、配列は、各格子に囲まれたエリア内では均一となり、各エリアで得られる多孔フィルムは、孔の大きさや深さや配列が均一なものとなる。
【0018】
なお、支持体12の第2面13にはペルチェ素子16が密着するように配される。熱伝導をより効果的に為すためである。支持体12は、ペルチェ素子16の駆動に対してより速く応答することができるものであることが好ましい。具体的には、熱伝導率kと厚みLとが、100W/(m・K)≦k/L≦100000W/(m・K)を満たす支持体であることが好ましく、本実施形態では、この条件を満たすようなガラス板を支持体12として用いている。支持体12における熱伝導率kを厚みLで除した値k/Lは、200W/(m・K)以上80000W/(m・K)以下であることがより好ましく、500W/(m・K)以上60000W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。そして、支持体12の温度を変える場合には、0.005℃/秒以上の温度変化率で変えることが好ましく、このような温度変化率となるように、用いるべき支持体とペルチェ素子16との各選定、及びペルチェ素子16の駆動を行うことが好ましい。
【0019】
図2は支持体の温度を制御する温度制御部の構成を示すブロック図である。温度制御部21においては、各ペルチェ素子16にそれぞれ駆動回路23が接続されており、この駆動回路23からペルチェ素子16へ所定値の電流が所定の向きへ流され、これによりペルチェ素子16は、吸熱と発熱との駆動が制御される。そして、各駆動回路23は、温度制御回路24に接続し、この温度制御回路24により電流のオン・オフと電流値と電流の向きとが制御される。以上のようにして、各ペルチェ素子16は、それぞれに接続する駆動回路23を介して温度制御回路24により駆動を制御される。
【0020】
液膜上で結露させる工程すなわち液膜上に水滴を生じさせる工程(以下、結露工程と称する)と、生じた水滴が完全には蒸発しないように液膜に含まれる溶媒を蒸発させる工程(以下、溶媒蒸発工程と称する)と、溶媒が蒸発した後に水滴を蒸発させる工程(以下、水滴蒸発工程と称する)との少なくともいずれかひとつは、温度制御部21(図2参照)により実施することが好ましいが、これに加えて、送風手段により液膜に空気を送り、送る空気の温度と湿度と風速との制御を行うことがより好ましい。
【0021】
図3は、フィルム製造装置の概略図である。フィルム製造装置30は、支持体12と図2に示す温度制御部と、支持体12の第1面11(図1参照)側に空気を送り出すための送風部31と、を備える。なお、図3においては、温度制御部の駆動回路と温度制御回路とは図示を略す。
【0022】
送風部31は、支持体12の第1面側に空気を出す送風ダクト32とこの送風ダクト32に所定の温度と湿度との空気を所定の流量で送る送風機33と、送風機33の温度及び湿度と風量とを制御する送風制御回路34とを備える。送風ダクト32の送風口32aから出る空気の流速、すなわち風速は、送風機33からの風量調節により制御される。また、液膜の上方のエリアにおける露点は、主に、送風機33からの空気の温度と湿度との調節により制御される。なお、液膜の近傍に温湿度計(図示せず)を配して、この温湿度計と送風制御回路34とを接続し、温湿度計で検知された温度及び湿度の信号を送風制御回路34に送り、送られてきた信号に基づいて送風制御回路34が送風機33を制御することが好ましい。
【0023】
液膜の温度を非接触で測定する非接触温度測定手段を液膜の上方に配することが好ましい。そして、送風制御回路34と温度制御回路24(図2参照)との少なくともいずれか一方と、非接触温度測定手段とを接続し、液膜の温度調整をすることが好ましい。
【0024】
フィルム製造装置30の支持体12とペルチェ素子16と送風ダクト32とは、外部と仕切るチャンバ(図示為し)の内部に収容されることが好ましい。液膜の環境をより精緻に制御するため、及び、液膜から蒸発する溶媒が大気中に拡散することをふせぐためである。この目的から、液膜を形成する液膜形成工程と、水滴形成工程と、溶媒蒸発工程と、水滴蒸発工程とは、チャンバ内で実施している。ただし、これらのすべての工程は、必ずしもひとつのチャンバ内で実施されずともよく、例えば、互いに異なるチャンバで実施してもよい。なお、上記の工程と工程との間に他の工程を適宜実施することができる。
【0025】
なお、ペルチェ素子16の反支持体面側には、冷却機がそなえられることが好ましい。この冷却機は、ペルチェ素子16の支持体面側で吸熱し反支持体面側で放熱する場合に主に使用する。冷却機としては空冷式よりも水冷式のものの方がより好ましい。空冷式の冷却機であるとチャンバ内の空気の流れを乱して、水滴が好適に形成されなかったり、発生した水滴の配列を乱すことがあるからである。
【0026】
液膜は、ポリマーを溶媒に溶かした溶液を支持体に載せることで形成される。支持体上に載せるだけでは濡れ広がらないような高い粘度の溶液を使用する場合には、例えば、公知の方法で支持体の表面で溶液を延ばす流延処理を実施してもよい。一方、支持体上に載せるだけで自然に濡れ広がるような低い粘度の溶液を使用する場合には、このような流延処理は必要無い。流延処理を実施する場合には、支持体や溶液を冷やしているときであっても支持体上と支持体に載せた溶液上とで結露させないように、除湿環境下で流延処理を実施することが好ましく、支持体12の温度制御は、本実施形態ではペルチェ素子16の駆動により実施する。
【0027】
次に結露工程を実施する。液膜上に結露させるように支持体12の温度を制御する。支持体12の温度制御に加え、送風ダクト32からの空気の条件である温度と湿度と風速との制御を加えることがより好ましい。支持体12の温度をTS、雰囲気の露点をTDとするときに、0℃<TD−TSの条件を満たすように、支持体12の温度、または支持体12の温度と送風ダクト32からの空気の条件とを制御することがより好ましく、3℃≦TD−TS≦30℃の条件とすることがさらに好ましい。TD−TSが1℃以下であると、水滴が発生しにくいからである。このように、支持体12の温度をペルチェ素子の駆動により変えて結露工程を開始したり、結露工程を続けることにより、液膜上における水滴の発生のタイミング及び発生初期における水滴の大きさを従来の方法よりも精緻に制御することができる。また、各ペルチェ素子16は、独立して制御可能であるので、チャンバ内での雰囲気の条件が略均一であっても、仕切部材17の格子で囲まれた各エリア毎に結露条件を変えることができる。これにより、エリアに応じて、互いに異なるタイミングで水滴を発生させたり、水滴の発生初期における大きさを変えることができる。
【0028】
結露工程の後に溶媒蒸発工程を実施する。支持体12の温度を変えることにより、結露工程から溶媒蒸発工程へ移行させる。支持体12の温度の変化をペルチェ素子16により実施するので、支持体12の温度を敏速に変化させることができる。これにより、新たな水滴が液膜上に発生してしまうことを防止、すなわち新たな水滴が発生することを抑止することができる。溶媒蒸発工程の開始では、送風ダクト32からの空気の露点が結露工程における露点よりも高くなるように制御する。空気の露点を敏速に変化させることは難しいが、ペルチェ素子16により支持体12の温度を敏速に変化させるために、溶媒蒸発工程を開始した後にまで結露現象が続くことがなくなる。
【0029】
溶媒蒸発工程では、水滴が完全には蒸発しないように、より好ましくはできるだけ水滴の蒸発を抑えて溶媒だけを蒸発させるようにするように、支持体12の温度を調節し、加えて送風ダクトからの空気の条件を調節する。
【0030】
溶媒が液膜から蒸発している間に、個々の水滴は大きく成長するとともに液膜の中に入り込む。個々のペルチェ素子16の温度は独立して制御可能であるため、格子で囲まれるエリアによって水滴の大きさを変えることができる。
【0031】
溶媒蒸発工程では、0℃<TD−TS≦10℃の条件を満たすように支持体12の温度を制御することが好ましい。支持体12の温度制御に加えて、送風ダクト32からの空気の条件、すなわち温度、湿度、風速を制御することがより好ましい。TD−TSが0℃以下の場合には、水滴の成長が不十分で密な状態に形成せず、孔の形状や大きさ及び多孔フィルムにおける孔の配列が不均一となることがある。また、TD−TSが10℃よりも大きいと、水滴が局所的に厚み方向にも重なる等、孔の形状や大きさ及び多孔フィルムにおける孔の配列が不均一となることがある。
【0032】
次に、支持体12の温度をペルチェ素子16により変えることにより水滴蒸発工程を開始する。送風ダクト32からの空気の条件を変えるだけでは、水滴の成長はすぐには停止しないが、ペルチェ素子16を用いることにより水滴の成長の抑制することができ、水滴がより早く蒸発し始めることになる。
【0033】
水滴蒸発工程では、TS>TDの条件となるように支持体12の温度を制御することがより好ましい。支持体12の温度制御に加えて、送風ダクト32からの送風を実施することがより好ましい。この水滴蒸発工程は、水滴の蒸発を主たる目的としているが、溶媒蒸発工程で蒸発しきれなかった溶媒も蒸発させてもよい。
【0034】
送風ダクト32から出される空気の風速は、0.02m/秒以上2m/秒以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05m/秒以上1.5m/秒以下の範囲であり、最も好ましくは0.1m/秒以上0.5m/秒以下の範囲である。前記風速が0.02m/秒未満であると、水滴が細密に配列して形成されない場合があり、一方、前記風速が2m/秒を超えると、液膜の露出面が乱れたり、結露工程における結露が充分に進行しなかったりすることがある。
【0035】
以上のようにして支持体12の上で多孔フィルムが製造される。なお、本実施形態では、支持体12とペルチェ素子16とは密着するように重ねられた構成としているが、ペルチェ素子自体を支持体として用いることもできる。また、ペルチェ素子が内部に収容された支持体を、支持体12に代えて用いることもできる。
【0036】
図4は、本発明の多孔フィルムの概略図である。(A)は本発明により得られる多孔フィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図で、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図である。また、(D)は、別の多孔フィルムの断面図であるが、これの平面図は(A)と同様であるので略す。多孔フィルム51は、非常に多くの孔が密に形成されたフィルムである。孔52は、図4(A)に示すようにハチの巣状に多孔フィルム51の内部に形成される。孔52は、略一定の形状及びサイズであり、規則的に配列する。
【0037】
孔52は、図4(B)及び(C)に示すように、多孔フィルム51の両面を突き抜けるように形成される場合もあるし、(D)及び(E)の多孔フィルム61,71のように片面側に窪み62,72として形成される場合もある。窪み62,72が形成される場合には、(E)のように、多孔フィルム71の表面の開孔径AP1が、表面と平行な任意の断面での孔の径AP2よりも小さい場合がある。
【0038】
多孔フィルム61,71は、いずれも、窪み62,72のひとつひとつが独立して形成されているが、この態様に本発明は限定されない。例えば、本発明では、窪みが連なるように、つまり、隣り合う窪みの中心間距離Dが開孔径AP1または径AP2よりも小さくされた多孔フィルム(図示なし)もつくることができる。
【0039】
孔52及び窪み62,72の配列は、水滴の疎密の度合いや大きさ、形成する液滴の種類、乾燥速度、溶液の固形分濃度、水滴成長工程における水滴成長度合いに対する溶媒の蒸発のタイミング等によって異なるものとなる。本発明により製造される多孔フィルム51,61,71の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、厚みL1が0.05μm以上100μm以下の多孔フィルム51,61,71を製造する場合や、孔52の径D1が0.05μm以上100μm以下、隣りあう孔52の中心間距離L2が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム51を製造する場合に特に効果がある。
【0040】
本発明によると、支持体に複数のペルチェ素子を配し、各ペルチェ素子の駆動を独立して制御するので、多孔フィルム51,61,71をひとつの支持体の上で製造することができる。また、仕切部材を前述の枠部材に代えることにより、ひとつの液膜において、異なる大きさの水滴を形成したり、単位面積あたりの水滴の個数が異なるように水滴を形成することができる。これにより、孔の深さや大きさや密度が、ひとつの縁部から徐々に変化するようないわゆる傾斜材料をつくることができる。
【0041】
多孔フィルム51,61,71は疎水性の高分子化合物と両親媒性の低分子化合物とからなる。これにより、水滴をより均一な形状及び大きさに形成することができる。
【0042】
両親媒性の化合物は、(親水基の数):(疎水基の数)は0.1:9.9〜4.5:5.5であることがより好ましい。これにより、上記の製造方法において、より細かな水滴をより密に、液膜の上に形成することができる。(親水基の数):(疎水基の数)の比が上記範囲外である場合には、多孔フィルム51,61,71に形成される孔の大きさが大きくばらつき、すなわち不均一になることがある。この不均一さの程度は、具体的には、{(孔の径の標準偏差)/(孔の平均値)}×100で求める孔径変動係数(単位;%)が10%以上である。また、(親水基の数):(疎水基の数)の比が上記範囲外である場合には、孔の配列が不規則となる傾向がある。
【0043】
なお、両親媒性の化合物として、互いに異なる2種以上の化合物を用いることができる。2種類以上の化合物を用いることにより、後述する製造方法において、水滴の大きさと水滴を形成する位置とをより制御することができる。また、多孔層11の高分子化合物成分として、複数の化合物を用いることにより、同様の効果を得ることができる。
【0044】
第1ポリマーとして好ましい例は、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、セルロースアセテート、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体等である。
【0045】
液膜を形成すべき溶液の溶媒となる化合物は、疎水性かつ高分子化合物を溶解させるものであれば、特に限定されない。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼン、四塩化炭素、1-ブロモプロパンなど)、シクロヘキサン、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。これらのうち複数の化合物が溶媒として併用されてもよい。また、これらの化合物の単体又は混合物に、アルコール等が添加されたものを用いてもよい。
【0046】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の有機溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、1-ブロモプロパン等の臭素系炭化水素等が好ましく用いられる。これらは、互いに混合して用いられてもよい。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合有機溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0047】
溶媒として互いに異なる2種以上の化合物を用い、その割合を適宜代えて用いることにより、後述の水滴の形成速度、及び後述の塗膜への水滴の入り込みの深さ等を制御することができる。
【0048】
溶液については、溶媒100重量部に対し高分子化合物が0.02重量部以上30重量部以下とすることが好ましい。これにより、生産性良く高品質の多孔フィルム51,61,71を製造することができる。溶媒100重量部に対し高分子化合物が0.02重量部未満であると、溶液における溶媒割合が大きすぎて蒸発に要する時間が長くなるので、多孔フィルム51,61,71の生産性が悪くなり、一方、30重量%を超えると、結露で発生した水滴が液膜を変形させることができず、そのため不均一な凹凸が形成された多孔フィルム51,61,71になってしまうことがある。
【0049】
また、他の多孔フィルムの製造方法としては、次のような方法がある。ポリマーとこの良溶媒と貧溶媒とからなる溶液を支持体に載せて液膜を形成する。そして、この液膜を徐々に乾燥する。乾燥の際には、まず良溶媒を主として蒸発させて、良溶媒に対する貧溶媒の割合を徐々に増やしていく。これによりポリマーが析出し始め、孔が形成された多孔フィルムが製造される。このような製造方法においても、温度変化の敏速性が孔の形成に影響を与えるため、本発明をこのような多孔フィルムの製造方法に利用することができる。
【0050】
以上の製造方法により、従来の方法に比べて、液膜の温度をより一定に保つこと及びより敏速に変化させることができるので、水滴の発生と成長と液膜への入り込みの速度と入り込む深さ、配列等の態様を精緻に制御することができる。そのため、孔の大きさや深さや配列がより精緻に形成された多孔フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】多孔フィルムの製造装置の一部を示す分解図である。
【図2】支持体の温度制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】多孔フィルムの製造装置を示す概略図である。
【図4】(A)は多孔フィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図である。(D)は別の実施様態である多孔フィルムの断面図であり、(E)はさらに別の実施形態である多孔フィルムの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
12 支持体
16 ペルチェ素子
23 駆動回路
24 温度制御回路
51,61,71 多孔フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の一方の面に、溶媒と有機高分子化合物とを含む液膜を形成し、この液膜上に結露させてから、前記溶媒と前記結露により生じた水滴とを蒸発させて、複数の孔を有する多孔フィルムを製造する方法において、
他方の面にペルチェ素子が配された前記支持体を用い、
前記液膜上で結露させる工程と、
前記溶媒を蒸発させる工程と、
前記溶媒が蒸発した後に前記水滴を蒸発させる工程と、
を前記ペルチェ素子の駆動を制御することにより行うことを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記支持体には前記ペルチェ素子が複数配されており、
前記複数のペルチェ素子の駆動を独立して制御し、前記支持体の温度を位置に応じて独立に調節することを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項3】
溶媒と有機高分子化合物とを含む液膜が一方の面に形成されるべき支持体と、
前記支持体の他方の面に配されるペルチェ素子と、
前記ペルチェ素子を駆動する駆動回路と、
前記液膜上で結露させる工程、前記溶媒を前記液膜から蒸発させる工程、前記溶媒が蒸発した後に前記水滴を蒸発させる工程の少なくともいずれかひとつを行うように、前記駆動回路を介して前記ペルチェ素子の駆動を制御する制御回路と、
を備えることを特徴とする多孔フィルムの製造装置。
【請求項4】
前記支持体の熱伝導率kと厚みLとが、100W/(m・K)≦k/L≦100000W/(m・K)を満たすことを特徴とする請求項3記載の多孔フィルムの製造装置。
【請求項5】
前記支持体の前記一方の面側に空気を送り出す送風手段が備えられたことを特徴とする請求項3または4記載の多孔フィルムの製造装置。
【請求項6】
前記ペルチェ素子は前記支持体に複数配され、
前記複数のペルチェ素子は、各ペルチェ素子に接続した前記駆動回路を介して、前記制御回路により独立して制御されることを特徴とする請求項3ないし5いずれか1項記載の多孔フィルムの製造装置。
【請求項7】
前記ペルチェ素子を冷却する水冷式冷却手段が備えられることを特徴とする請求項3ないし6いずれか1項記載の多孔フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−73983(P2009−73983A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245647(P2007−245647)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】