説明

多孔フィルムの製造方法

【課題】孔が従来よりも大きな多孔フィルムを製造する。
【解決手段】ポリマーが溶剤に溶解したポリマー溶液からなる液膜31を、多孔フィルム製造装置81のチャンバ82に配する。加湿機91からの加湿空気と、溶剤ガス生成機93からの溶剤ガスとを混合機95で混合して混合ガスをつくり、この混合ガスをチャンバ82の中に送り込む。これにより、液膜31の上に水滴を形成し、成長させて、配列させる。配列したら、第3送風機92から混合機95へ、加湿機91を介さずに空気を送るとともに、混合機95への溶剤ガスの供給を停止する。そして、液膜31からの溶剤を蒸発させ、液膜31の流動性が失われたら水滴を蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の孔を有する多孔フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学分野、電子分野、医療分野では、μmスケールの微細な孔が多数形成されて蜂の巣状の構造、すなわちハニカム構造をもつ多孔フィルムが用いられるようになってきている。このような多孔フィルムは、光学分野、電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化に寄与し、医療分野では、例えば細胞培養の場としての培養基材として用いられる。多孔フィルムの中でもポリマーで構成されたものは、可撓性があり、使用時での形状の自由度が大きいので、用途に関し、より広がりをみせている。
【0003】
ポリマーからなる多孔フィルムの製造方法としては、例えば、特許文献1のように、ポリマーが溶剤に溶解されたポリマー溶液を流延して液膜にし、この液膜に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を形成し、溶剤と水滴とを蒸発させる方法がある。このようないわゆる結露法では、結露によって生じた水滴が液膜に沈みこみ、その水滴が蒸発することにより水滴部分が孔となる。そして、この方法で得られるポリマーフィルムは、孔の大きさが数μmレベルの非常に微細なハニカム構造である。
【0004】
従来は、構造のさらなる微細化を求めて孔をより小さく形成する方向に多孔フィルムの製造方法が提案されてきたが、最近では、孔の最適なサイズが用途毎にあることが見いだされてきており、10μm〜数10μmレベルの孔が複数形成された多孔フィルムが望まれるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1を初めとする従来の多孔フィルムの製造方法では、10μm〜数10μmという大きなサイズの複数の孔を形成させることはできない。例えば、大きなサイズの孔になるように液膜を比較的厚く形成して水滴を大きく成長させようとしても、小さいうちに成長が止まってしまう。その結果、図11及び図12のように、得られるフィルム2は、フィルム面2aの法線方向に投影したときの孔3の径D1とフィルム面2aにおける孔3の開口径D2とがいずれも10μmに満たない程度に小さく、また孔の深さも浅く、孔3と孔3との中心間距離DCに対して孔3の径D1及び開口径D2が小さすぎてハニカム構造とはならない。
【0007】
このように水滴の成長が小さいうちに止まるのは、水滴が成長する間に、液膜のなんらかの性状が経時的に変化していくことに起因すると、本発明者らは考えた。そこで、水滴の成長が十分に進むまで、ポリマー溶液中が変化しないように、粘度をより低くしたポリマー溶液で液膜を形成するという方法が考えられる。粘度が低いポリマー溶液は、ポリマー濃度を低くすることでつくることができる。しかし、この方法では、液膜におけるポリマー量が少なすぎて、例えば近隣の水滴同士がつながってしまう等、形成される水滴の大きさがあまりに不揃いになってしまったり、水滴とはいえないような水膜が部分的に形成されたりすることがある。したがって、この液膜から溶剤と水滴とを蒸発させても、複数の孔が均一に形成された多孔フィルムとはならずに、図13のように不均一な凹凸があるフィルム6となってしまう。また、ポリマー濃度が低い液膜ほど蒸発させなければならない溶媒量が多くなってしまうので、環境への負荷も高くなってしまうという問題がある。
【0008】
さらに、水滴を大きくする場合ほど、液膜をより厚く形成しなければならない。ところが、液膜が厚いほど、水滴と溶剤とを蒸発させる間に、沈んだ水滴で形成されるはずの孔が形状を保持できずにハニカム構造の多孔フィルムが得られなくなってしまい、この場合にも図13のように不均一な凹凸をもつフィルム6となってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、10μm〜数10μmと従来よりも径が大きいにも関わらず、孔のサイズが均一であるハニカム構造の多孔フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の孔がフィルム面に形成された多孔フィルムの製造方法において、ポリマーが溶剤に溶解した溶液に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を形成させる水滴形成工程と、前記水滴が蒸発しないように前記溶液から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程と、水滴を蒸発させる水滴蒸発工程と、この溶剤蒸発工程前に前記溶剤が溶液から蒸発しないように、水滴形成工程の間に、溶液上に溶剤ガスを供給する溶剤ガス供給工程とを有することを特徴として構成されている。
【0011】
前記溶剤ガス供給工程では、以下の(1)〜(3)のいずれかひとつを実施することが好ましく、水滴形成工程では、加湿空気を溶液上に供給することが好ましい。
(1)溶液をチャンバ内に配して、前記溶剤ガスをチャンバの内部に送り込むことにより、溶液上に溶剤ガスを供給すること。
(2)溶液と溶剤ガスになる液体とをチャンバ内に配して、液体を前記チャンバ内で蒸発させることにより、溶液上に溶剤ガスを供給すること。
(3)溶液をチャンバ内に配して、溶液から蒸発した溶剤を溶剤ガスとして用いること。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔フィルムの製造方法によると、10μm〜数10μmと従来よりも径が大きいにも関わらず、孔のサイズが均一であるハニカム構造の多孔フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による多孔フィルムの平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】多孔フィルムの製造工程の説明図である。
【図4】液膜形成方法の概略図である。
【図5】本発明の第1の実施態様である多孔フィルム製造装置の概略図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】第2の実施態様である多孔フィルム製造装置の概略図である。
【図8】第3の実施態様である多孔フィルム製造装置の概略図である。
【図9】実施例7で得られた多孔フィルム10の光学顕微鏡写真である。
【図10】比較例1で得られた多孔フィルムの光学顕微鏡写真である。
【図11】従来の多孔フィルムの製造方法を用いた場合の多孔フィルムの平面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】従来技術により製造した場合のフィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2に示すように、多孔フィルム10は、一方のフィルム面(以下、第1表面と称する)10aに孔11が複数形成されてある。孔11は、図2のように、他方のフィルム面(以下、第2表面と称する)10bには貫通せずに第1表面10aに窪みとして形成される場合もあるし、多孔フィルム10を厚み方向で突き抜けるように第1表面10aから第2表面10bに貫通して形成される場合もある。
【0015】
複数の孔11は、フィルム面に沿って面状に分布するように形成されている。複数の孔11は、多孔フィルム10が蜂の巣状のいわゆるハニカム構造となるように形成されており、図2のように個々に独立していてもよいし、あるいはフィルム面に沿った方向で内部に連通路が形成されるように隣り合う孔11と孔11とが互いに非独立であってもよい。孔径をD1、互いに隣り合う孔11と孔11との中心間距離をDCとすると、D1<DCとなるように多孔フィルム10をつくると孔11が互いに独立した態様となるし、D1≧DCとなるように多孔フィルムをつくると、複数の孔11が非独立になって内部に連通路が形成される。
【0016】
孔11は、略一定の形状及びサイズであり、規則的に配列している。なお、この配列の態様と孔11のサイズとによっては、孔11による第1表面10aの個々の開口11aの形状は、図2のように円である場合もあるし、6角形等の多角形である場合もある。
【0017】
孔径D1は開口11aの径(以下、開口径と称する)D2よりも大きい。孔径D1が1μm以上120μm以下の範囲、開口径D2が1μm以上100μm以下の範囲というように、従来の多孔フィルムと比べて孔径D1及び開口径D2が大きいにも関わらず、D1、D2がそれぞれ一定である。また、厚みTは1μm以上200μm以下の範囲である。
【0018】
本発明によると、孔11の容積をV1、孔11の容積V1を含めた多孔フィルム10の体積をV2とするときに、100×V1/V2で求める空隙率(%)が30%以上80%以下の範囲となるように孔11を形成することができる。なお上記の体積V2とはすなわち、多孔フィルム10に孔11が形成されていないと仮定して第1表面10a及び第2表面10bとがともに平坦ないわゆる平膜である場合の体積に等しい。
【0019】
多孔フィルム10の製造工程について、図3を参照しながら説明する。図3の横軸は時間tを示す。図3に示すように、多孔フィルム10は、ポリマーが溶剤に溶解したポリマー溶液の液面に、雰囲気中の水分を結露させて目的とする大きさの水滴を形成する水滴形成工程21と、形成された水滴ができるだけ蒸発しないように、ポリマー溶液から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程22と、ポリマー溶液に沈んだ水滴を蒸発させる水滴蒸発工程23と、ポリマー溶液に含まれてある溶剤が蒸発しないようにポリマー溶液の液面上に溶剤ガスを供給する溶剤ガス供給工程24とを実施することにより製造する。
【0020】
水滴形成工程21は、ポリマー溶液の液面で、雰囲気中の水分を凝縮させて極微小な水滴を発生させる発生工程21aと、発生した水滴を成長させて大きくする成長工程21bと、所望の大きさに成長した複数の水滴がポリマー溶液の液面に規則的に並ぶように配列させる配列工程21cとからなる。図3においては、発生工程21aの開始時(以下、結露開始時と称する)をP1、成長工程21bの開始時(以下、成長開始時と称する)をP2、配列工程21cの開始時(以下、配列開始時と称する)をP3とする。
【0021】
図3では、発生工程21aから成長工程21bに、成長開始時P2で移行するように表すが、両工程の時間的境界は明確ではなく、発生工程21aが終了する前に成長工程21bが始まる場合のように両工程21a,21bが時間的に重なりあう。つまり、極微小な水滴を新たに発生させることと既に生じてある水滴が成長することとが同時に進行する時間がある。また、成長工程21bと配列工程21cとの時間的境界についても同様に、明確ではなく、成長工程21から配列工程21cに移行した後であっても、水滴が成長し続けてよい。
【0022】
次に、溶剤蒸発工程22を開始する。溶剤蒸発の開始時P4には、溶剤を蒸発させるためにポリマー溶液の温度を上昇させるので、この温度上昇により水滴形成工程21は終了する。しかし、水滴の成長が止まるまでには、多少なりとも時間を要するので、実際に水滴の成長が止まるタイミングは溶剤蒸発開始時P4以降となる。このように、配列工程21cと溶剤蒸発工程22との境界は明確ではない。この溶剤蒸発工程22では、ポリマー溶液の流動性がなくなる程度にまで溶剤を蒸発させる。ポリマー溶液の流動性がなくなったら、溶剤とともに水滴が蒸発するようにポリマー溶液の温度を上昇させて水滴蒸発工程23を始める。したがって、水滴蒸発開始時P5以降も、溶剤蒸発工程22を継続する。そして、水滴と溶剤とが蒸発すると多孔フィルム10が得られる。
【0023】
水滴形成工程21の間に実施する溶剤ガス供給工程24でポリマー溶液の液面上に供給する溶剤ガスは、ポリマー溶液に含まれる溶剤と同じ物質である。これを気体として供給することにより、ポリマー溶液からの溶剤の蒸発を抑制する。しかし、これは、溶剤がポリマー溶液から蒸発しないように見える、いわゆる見かけ上の非蒸発であり、ポリマー溶液の液面上に存在する溶剤ガスとポリマー溶液中の溶剤とが平衡関係にあればよい。つまり、このように溶剤ガスの圧力が飽和蒸気圧であるように維持されることが好ましく、飽和蒸気圧が維持されるように液面上の溶剤ガスの濃度を保持する。
【0024】
ただし、液面上に存在する溶剤ガスとポリマー溶液中の溶剤とは厳密な平衡関係ではなくてもよい。例えば、外部から新たな溶剤ガスを液面上の雰囲気に送り込むことができない場合には、外部空間と仕切るチャンバ内にポリマー溶液を収容し、ポリマー溶液からの溶剤の少量の蒸発を許容して、この蒸発により液面上の雰囲気に溶剤ガスを存在させてもよい。溶剤ガスをポリマー溶液自身から雰囲気中に供給することになるので、溶剤の蒸発がある程度まで進むまでは、上記のような平衡関係ではなくても十分な効果が得られる。また、平衡関係を超えて、液面上の溶剤ガスの圧力(以降、溶剤蒸気圧と称する)が飽和蒸気圧よりも大きな圧力となるように、溶剤ガスを供給してもよいが、溶剤蒸気圧が飽和蒸気圧よりも大きすぎると溶剤ガスがポリマー溶液の液面に凝縮してしまうことがあるので、飽和蒸気圧に達する程度が好ましい。
【0025】
溶剤ガス供給工程24を溶剤蒸発開始時P4まで実施することにより、ポリマー溶液における溶剤含有率が保持されるので、溶剤蒸発開始時P4までポリマー溶液の粘度が上昇することがない。これにより、水滴の成長が止むことなくさらに進みやすくなり、この結果、孔径D1と開口径D2とが従来よりも大きな多孔フィルム10を製造することができる。さらに、水滴の成長が均一にすすむので、形状及び大きさが均一な複数の孔を形成することができる。
【0026】
溶剤ガス供給工程24は、溶剤蒸発開始時P4までの水滴形成工程21の間、継続して実施することがもっとも好ましいが、成長工程21aの間だけ実施することにより、従来よりもサイズが大きな孔11をもつ多孔フィルム10を製造することはできる。さらに、配列工程21aで溶剤ガス供給工程24を実施すると、孔の形状がより均一で配列がより規則的な多孔フィルム10を得ることができる。
【0027】
多孔フィルム10の製造方法としては、容器に入れたポリマー溶液に対して水滴形成工程21と溶剤蒸発工程22と水滴蒸発工程23と溶剤ガス供給工程24とを実施する方法や、ポリマー溶液を支持体の上に塗布あるいは延展して薄膜状にし、支持体上の液膜に水滴形成工程21と溶剤蒸発工程22と水滴蒸発工程23と溶剤ガス供給工程24とを実施する方法がある。前者の方法では、容器に入れたポリマー溶液の液面に結露させて水滴を発生させる。このように、水滴形成工程21と溶剤蒸発工程22と水滴蒸発工程23と溶剤ガス供給工程24とは、ポリマー溶液の深さや厚みに関わらず実施してよい。
【0028】
図4に示すように、ポリマー溶液からなる液膜31の形成方法としては、矢線Aで示す一方向に支持体32を移動させ、移動している支持体32に、薄い膜状にポリマー溶液33を流すという流延方法がある。この他の方法としては、ポリマー溶液が比較的低粘度である場合に、静置した支持体上にポリマー溶液を流し、ポリマー溶液自身の濡れ広がりを利用する流延方法や、ポリマー溶液が濡れ広がりにくいほどの高粘度である場合に、支持体上にポリマー溶液を載せて、表面が平滑な平滑部材でそのポリマー溶液を延展させる流延方法等があり、いずれの方法でもよい。なお、この液膜31を形成する間は、支持体32及びポリマー溶液33の周りの雰囲気を、湿度を低く抑えた乾燥雰囲気としておくことが好ましい。
【0029】
液膜31を多孔フィルム10にするための第1実施態様では、図5及び図6に示す多孔フィルム製造装置を用いる。なお、図6では、図5に示す部材のうち一部のみを示す。多孔フィルム製造装置41は、液膜31が一方の面に形成されてある支持体32を収容するチャンバ42と、空気をチャンバ42の内部に送り込む空気供給部43と、溶剤ガスをチャンバ42の内部に送り込む溶剤ガス供給部44とを備える。
【0030】
空気供給部43は、空気をチャンバ42に案内するダクト47と、このダクト47に、空気を送り出す第1送風機48と、第1送風機48で送り出す空気の温度と湿度と風量とを制御する第1コントローラ49と、ダクト47を上下方向にシフトするシフト機構50とを有する。
【0031】
また、溶剤ガス供給部44は、溶剤ガスをチャンバ42に案内するダクト53と、このダクト53に、溶剤ガスを送り出す第2送風機54と、第2送風機54で送り出す空気の温度と湿度と風量とを制御する第2コントローラ55と、ダクト53を上下方向にシフトするシフト機構56とを有する。ダクト53には、液膜31の液面に沿う方向に伸びたスリット53aが複数形成されており、これらのスリット53aから溶剤ガスが流出する。なお、ダクト47にも同様に複数のスリット47aが形成されており、各スリット47aから空気が流出する。
【0032】
チャンバ42には、さらに、支持体32を下面から温度調整する温度調整部61が備えられており、この温度調整部61は、支持体32と接する上面の昇温と降温とのオン・オフ及びその設定温度を変化させる第3コントローラ62を有する。
【0033】
チャンバの上部には、排気のための排気口42aが形成されており、この排気口24aに設けられてあるバルブ24bによりその開閉と開度とが調整される。
【0034】
この多孔フィルム製造装置41を用いて、以下の方法で多孔フィルム10を製造する。まず、ダクト43から加湿された空気を流出して液膜31の上に供給することにより発生工程21aを開始する。このとき、液膜31上の雰囲気の露点が液膜31の液面温度よりも高くなるように、加湿空気の温度を第1コントローラ24により調整すると、水滴がより早く形成され、また発生する水滴の数をより多くすることができる。支持体32を介しての液膜31は、チャンバ42の内部雰囲気よりも、温度応答性がよいので、ダクト43からの空気の湿度を調整することに加えて、温度調整部61により支持体32を介して液膜31の温度を低下させるとよい。
【0035】
発生時における水滴25は極めて小さく、ひとつひとつは肉眼で認めることができないような大きさであり、その大きさは数nm〜数10nm程度である。次に、成長工程21bを実施して、このように極微小な水滴を大きくする。成長工程21bでは、ダクト47からの加湿空気の供給を続ける。
【0036】
成長工程21bでは、ダクト53から溶剤ガスを流出して液膜31の上に供給することにより溶剤ガス供給工程24を行う。溶剤ガスは、空気と混合された状態でチャンバ42に案内されてもよい。従来の製造方法では、水滴は、成長が抑制され、最終的には成長が止まって大きさが変化しなくなるが、溶剤ガスを供給する本発明によると、液膜31の露出面における粘度が上昇することない。これにより水滴を所望の大きさにまで成長させることができる。これは、液膜31の露出面における粘度の上昇が、溶剤ガスの供給により、抑止されるからである。このように、本発明では、液膜31の特に露出面の粘度上昇を抑えるように溶剤ガスを供給し、これにより水滴を所望の大きさにまで成長させることができる。水滴を大きく成長させることにより、孔径D1と開口径D2とがより大きな多孔フィルム10とすることができる。
【0037】
ダクト47とダクト53とは、チャンバ42の底部中央に配された液膜31の上方で加湿空気と溶剤ガスとが混じり合うように、チャンバ42の互いに対向する内壁面近傍に備えられる。スリット47aとスリット53aとの高さとは、各シフト機構50,56により独立して変えることができる。これにより、加湿空気と溶剤ガスとの各温度条件や風速等を調整せずとも、スリット47aとスリット53aとの上下方向での相対的位置を変えることにより、水滴の成長の速さを変えることができる。水滴の成長の速さを変えることにより、水滴の最終的な大きさを微調整しやすくなり、孔径D1と開口径D2との制御が容易になる。また、スリット47aとスリット53aとを上下方向での相対位置を変えることにより、加湿空気と溶剤ガスとの、液膜31の露出面及びその近傍における混合比を、加湿空気と溶剤ガスとの風量を変えることなく変化させることができる。
【0038】
次に、配列工程21cを実施する。この配列工程では、水滴が毛細管力によって引き合う。これにより、複数の水滴が、液膜31の液面に、より密に配される。この配列工程21cでは、空気振動を与えることにより、水滴が引き合うことをより促進させることができる。
【0039】
この配列工程21cの間にもダクト53から溶剤ガスを供給することが好ましい。これにより、水滴の並びが密になっても個々の水滴が変形したり互いに結合したりせずに、均一なサイズを保持した状態で規則的に液面に配されることになる。
【0040】
以上の溶剤ガス供給工程24では、液膜31の表面温度TSを−5℃以上30℃以下の範囲とし、雰囲気の露点TDを5℃以上30℃以下の範囲とすることが好ましく、さらに液膜の表面温度TSよりも雰囲気の露点TDが高くすることが好ましい。そして、チャンバ42に送る加湿空気の温度TAと溶剤ガスの温度TGは、ともに、5℃以上30℃以下の範囲とすることが好ましく、チャンバ42の雰囲気における溶剤ガスの圧力は0.01MPa以上0.1MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0041】
水滴が規則的に配列したら、ダクト53からの溶剤ガスの供給を停止し、湿度を水滴形成工程21における空気よりも低くした乾燥空気をダクト47からチャンバ42に案内する。そして、排気口42aを開状態にしてチャンバ42の内部雰囲気の湿度を低下させる。このように、乾燥空気を供給して湿度を低下させることにより液膜31から溶剤を蒸発する。供給する乾燥空気の温度は、水滴の蒸発を抑制するために、できるだけ低く保持することが好ましい。また、第3コントローラ62により液膜31の温度を水滴形成工程21よりも高くするが、その温度は、水滴の蒸発が抑えられる程度に低くする。
【0042】
溶剤の蒸発がすすむにつれて、液膜31を構成するポリマー溶液の粘度が上昇する。そして、液膜31の流動性がなくなったら、水滴を蒸発させ始める。液膜31の流動性がなくなったことは、液膜31を目視で観察して液膜31の表面のくもり度合いが変化しなくなったことをもって確認することができる。
【0043】
溶剤の他に、水滴を積極的に蒸発させるために、ダクト47からの乾燥空気の温度を溶剤蒸発工程22におけるよりも高くし、さらに、第3コントローラ62により液膜31の温度も溶剤蒸発工程22におけるよりも高くする。なお、この水滴蒸発工程23の間も、溶剤蒸発工程22と同様に、ダクト53からの溶剤供給は停止し、排気口42aからの排気を行う。
【0044】
以上のように水滴と溶剤とが蒸発して多孔フィルム10が得られるが、他の方法でも多孔フィルム10を製造することができる。例えば、図7に示すような多孔フィルム製造装置を用いてもよい。第2の実施態様である多孔フィルム製造装置71は、多孔フィルム製造装置41と同様に空気供給部43と温度調整部61とを、チャンバ72に備える。さらにこの多孔フィルム製造装置71は、容器73中の溶剤74を加熱して蒸発させて溶剤ガスにするために、容器73を下方から温度調整する温度調整部76が備えられており、この温度調整部76は、容器73と接する上面における昇温と降温とのオン・オフ及びその設定温度を変化させる第4コントローラ77を有する。
【0045】
この多孔フィルム製造装置71で多孔フィルムを製造する場合には、溶剤ガスの供給を、溶剤74を加熱して蒸発させることにより行う。この蒸発によりチャンバ72の内部に溶剤ガスが広がり、液膜31上に溶剤ガスが供給される。なお、溶剤74を入れた容器73に代えて、表面積が大きくなるように空隙が多数形成され、この空隙に溶剤を含ませた例えば弾性高分子の発泡体を用いてもよい。
【0046】
温度調整部76は温度調整部61を囲むように複数配することが好ましく、これにより液膜31上での溶剤ガスが飽和蒸気圧に達するまでの時間を短くして、水滴の成長速度を速めることができる他、均一なサイズを保持した状態で水滴を規則的に液面に配することができる。
【0047】
さらに、このチャンバ72の内部を上部空間と仕切る上板72cには、シフト機構(図示無し)が設けられ、このシフト機構により上板72cを下方にシフトすることにより、溶媒ガスをチャンバ72内により早く充満させることができる。また、この上板72cを液膜31の極近傍にまで近づけるように下方へ変位させることによりチャンバ72の内部容積を小さくすると、溶剤74を入れた容器73をチャンバ72の内部に配することなく、液膜31の中の溶剤の蒸発をある程度許容することにより、液膜31の近傍での溶剤ガス濃度を上昇させ、チャンバ72内部の雰囲気における溶剤ガスの圧力を飽和蒸気圧近くで保持することができるようになる。つまり、この場合には、液膜31からある程度の溶剤が蒸発することを許容し、これにより液膜31上に溶剤ガスを供給する。この溶剤ガスの供給は、液膜31上における溶剤ガスの濃度が、液膜31から溶剤が蒸発しなくなる程度の濃度になるまで実施する。そして、その程度に溶剤ガスの濃度が高まったら、以降液膜31から溶剤が蒸発しないようにその溶剤ガス濃度を保持してある。このように、本発明における溶剤ガスの供給とは、必ずしも外部からの供給に限られず、液膜31自体からの溶剤ガス供給も含まれる。溶剤蒸発工程のときにはこの上板72cを上方にシフトすることにより、溶媒の蒸発をより速くすすめることができる。
【0048】
第3の実施態様である図8の多孔フィルム製造装置81は、多孔フィルム製造装置24,71と同様に、温度調整部61を、チャンバ82に備え、また、このチャンバ82の上部には、排気口82aが形成されている、この排気口82aに設けられるバルブ82bにより排気口82aの開閉と開度とが調整される。
【0049】
この多孔フィルム製造装置81は、さらに、溶剤ガスと水蒸気との混合ガスをチャンバに供給する混合ガス供給部83を備える。この混合ガス供給部83は、溶剤ガスと水蒸気との混合ガスをチャンバ82に案内するダクト87と、溶剤ガスと水蒸気との混合ガスをつくってダクト87におくる混合ガス生成ユニット88とを備え、ダクト87には混合ガスを流出するスリット87aが形成される。混合ガス生成ユニット88は、加湿空気を生成するための加湿機91と、この加湿器91に空気を送り出す第3送風機92と、溶剤ガスを生成するための溶剤ガス生成機93と、この溶剤ガス生成機93に空気を送り出す第4送風機94と、加湿機91から案内されてくる加湿空気と溶剤ガス生成機93からの溶剤ガスとを混合して水蒸気と溶剤ガスとの混合ガスをつくる混合機95とを備える。
【0050】
加湿機91は、水96が貯留される水槽97を備え、溶剤ガス生成機93は、溶剤ガスになる液体の溶剤74が貯留される液槽102を備える。また、この混合ガス生成ユニット88は、第3送風機92からの空気を水96の中と混合機95とのいずれか一方に案内する第1の管104と、溶剤74の中に第4送風機94からの空気を導く第2の管106と、溶剤ガス生成機93と混合機95とを接続する第3の管107と、混合機95とダクト87とを接続して混合ガスをダクト87へ案内する第4の管108とを備える。
【0051】
第1の管104は、第3送風機92からの空気を水槽97に案内する第1分岐管104aを備え、第1分岐管104aが第1の管104から分岐する分岐位置には第1バルブV1が設けてある。第1分岐管104の下流端は水96の中に配される。第1バルブV1により、混合機95と水槽97とのいずれか一方に空気が送られるよう流路を切り替える。また、第1の管104の第1分岐管104aよりも下流側には、水槽97の水96の液面、すなわち水面よりも上の空間に下流端が配される第2分岐管104bが備えてある。この第2分岐管104bが第1の管104から分岐する分岐位置には第2バルブV2が設けられる。この第2バルブにより、第3送風機92の空気を水槽97に送り込むことなく混合機95へ案内することと、水槽97の上部空間にある加湿空気を混合機95へ案内することとの切り替えを行う。
【0052】
第3送風機92から混合機95には、乾燥空気と加湿空気とのいずれか一方が選択的に送られる。乾燥空気を混合機95に送る場合には、第1バルブV1及び第2バルブV2により、第3送風機92からの空気を水槽91を介さずに直接混合機95へ案内する。また、加湿空気を混合機95に送る場合には、第1,第2バルブV1,V2により流路を切り替え、第3送風機92からの空気を水96の中におくって、いわゆるバブリングを実施する。このようにして、水蒸気濃度が高められた空気が水面上の空間に溜まり、加湿空気を混合機95へ案内する。なお、水面上の空間における水蒸気の露点は、水96の温度を変化させることにより変えることができる。これにより、混合機95におくる加湿空気中の水蒸気濃度を変化させることができる。以上のようにして、乾燥空気と露点を制御された加湿空気との混合機95への送り込みを所定のタイミングで切り替える。
【0053】
第2の管106は、上流端が第4送風機94に接続し、下流端が溶剤74の液面よりも低く配される。これにより、第4送風機94からの空気を溶剤74の中におくって、バブリングを実施する。このようにして、溶剤ガスを発生させて空気の中に含ませる。そして溶剤ガスを含む空気は溶剤74の液面上の空間に溜まる。このとき、液面上の空間における溶剤ガスの露点は、溶剤74の温度を変化させることにより変えることができる。これにより、混合機95におくる溶剤ガスの濃度を変化させることができる。
【0054】
第3の管107は、上流端が液槽102における液面上に配され、下流端は混合機95に接続する。これにより、溶剤ガス生成機93の溶剤ガスを含む空気は、混合機95へ案内される。なお、溶剤ガスが空気に含まれた状態で混合機95へ案内される場合もあるし、溶剤74の種類によってはこれが空気の成分を吸収して溶剤ガスだけが混合機95へ案内されたりあるいは溶剤ガスと空気の一部成分との混合物が混合機95へ案内される場合もある。
【0055】
第3送風機92には、加湿機91または混合機95に送り出す空気の風量を制御する第5コントローラ108を、第4送風機94には、溶剤ガス生成機93に送り出す空気の風量を制御する第6コントローラ110を、それぞれ設けてある。第3送風機92からの空気を水槽97へ案内して加湿空気を混合機95へ送るときには、第5コントローラ108と第6コントローラ110との各風量制御により、混合機95での混合ガスにおける水蒸気と溶剤ガスとの割合を制御することができる。なお、第3送風機92と第4送風機94とのいずれか一方からの送風を実施すると、チャンバ82には、加湿空気または乾燥空気と、溶剤ガスとのいずれか一方のみを送ることができる。
【0056】
混合機95の混合ガスにおける水蒸気と溶剤ガスとの割合は、水96と溶剤74との温度を制御することや、混合機95の内部温度を制御することによっても調整することができる。水96の温度や溶剤74の温度を制御することで各槽97,102の空間の露点を制御できるし、また、混合機95の内部温度を制御することにより、溶剤ガスと水蒸気とのいずれか一方を凝縮させることができるからである。
【0057】
第4の管108は、上流端が混合機95に接続し、下流端はダクト87に接続する。これにより、混合機95からの混合ガスは、ダクト87のスリット87aからチャンバ82の内部へ出される。このようにして、チャンバ82の雰囲気中には、加湿空気、すなわち水蒸気を含んだ空気と、溶剤ガスとの両方が含まれるようになる。
【0058】
なお、ダクト87は、ダクト47,53と同様に、このダクト87を上下方向にシフトするシフト機構109を有する。
【0059】
この多孔フィルム製造装置81によると、多孔フィルム製造装置24,71と同じくらい確実に、しかもより簡易に、溶剤ガスと加湿空気とを送ることができるので、簡易かつ効果的に水滴を成長させることができる。
【0060】
水槽97は、水96の温度を調整する第1温度コントローラ(図示無し)と、水面上の上部空間の温度を調整する第2温度コントローラ(図示無し)とを備え、液槽102は、溶剤74の温度を調整する第3温度コントローラ(図示無し)と、液面上の上部空間の温度を調整する第4温度コントローラ(図示無し)とを備える。また、第1の管104と第3の管107にもそれぞれ管内温度を制御する第5,第6温度コントローラ(いずれも図示無し)が設けられ、混合機95にも第7温度コントローラが設けられる。第1,第3温度コントローラにより、水蒸気、溶剤ガスの露点を前述のように制御することができ、第2,第4,第5,第6コントローラにより、水蒸気と溶剤ガスとの温度を調整して混合ガスの温度が調整される。乾燥空気を混合機95におくる場合には、第5コントローラは乾燥空気の温度を制御する。また、第7コントローラにより、混合ガスの温度が調整される他、混合ガスにおける水蒸気と溶剤ガスとの割合も前述の通り変えることができる。
【0061】
第3の実施形態では、加湿空気を混合機95へ送る場合には、加湿機91と溶剤ガス生成機93とを混合機95にそれぞれ接続するが、これに代えて、加湿機91と溶剤ガス生成機93と直列に配し、溶剤ガス生成機93とチャンバ82に接続してもよい。例えば、加湿機91の下流に溶剤ガス生成機93を配し、この溶剤ガス生成機93を混合機95に接続する。この場合には、第3送風機92からの空気を加湿機91で加湿して、加湿空気をつくり、溶剤ガス生成機93で加湿空気に対して溶剤ガスを加え、混合ガスをつくる。そしてこの混合ガスがチャンバ82に送られる。なお、加湿機91と溶剤ガス混合機93との上下流関係を逆にして、溶剤ガス混合機93を加湿機91の上流に配しても同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、図5及び図7の第1送風機48と第1コントローラ49とを、図8の加湿機91と第3送風機92と第5コントローラ108とに代えてもよい。そして、図5の第2送風機54と第2コントローラ55とを、図8に示す溶剤ガス生成機93と第4送風機94と第6コントローラ110とに代えてもよい。
【0063】
[原料]
ポリマーとしては、疎水性のポリマーを用いる。なお、この疎水性ポリマーに両親媒性化合物を加えてもよい。両親媒性化合物は親水性をもつとともに親油性をもち、具体的には、親水基と疎水基をもつ化合物であり、これを用いることにより、ポリマー溶液の液面に水滴をより形成しやすくなる。
【0064】
そして、両親媒性化合物と併用される場合の疎水性のポリマーは、非水溶性の溶媒つまり疎水性の溶媒に溶解するものが好ましく、例えば、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、アガロース、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリスルホンなどが好ましい。生分解性を必要とする場合や、あるいは、コストや入手の容易さなどを考慮すると、ポリ−ε−カプロラクトンが特に好ましい。
【0065】
両親媒性化合物と併用される場合の疎水性ポリマーの他の例としては、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
【0066】
疎水性ポリマーとともに用いられる両親媒性の化合物としては、市販される多くの界面活性剤のようなモノマーの他に、二量体や三量体等のオリゴマー、ポリマーを用いることができる。両親媒性化合物と疎水性のポリマーとをともに用いる場合には、疎水性ポリマーの重量に対する両親媒性化合物の重量の割合を0.1%以上20%以下の範囲にすることが好ましい。
【0067】
ポリマー溶液の溶媒となる溶剤及び供給される溶剤ガスは、疎水性のポリマーを溶解させるものであれば、特に限定されない。例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。また、ポリマー溶液の溶媒となる溶剤と供給される溶剤ガスとは、互いに異なる化合物であってもよい。さらに、ポリマー溶液の溶媒となる溶剤及び供給される溶剤ガスは、2以上の化合物の混合物であってもよく、互いに異なる組成であってもよい。
【0068】
溶剤として互いに異なる2種以上の化合物を用い、その割合を適宜代えて用いることにより、水滴の成長速度、成長に要する時間等を制御することができる。この場合の溶剤ガスとしては、ポリマー溶液中の溶剤成分のうち、水滴形成工程で最も蒸発しやすいものを用いるとよい。
【0069】
ポリマー溶液は、有機溶媒100重量部に対し疎水性のポリマーが0.02重量部以上20重量部以下となるようにつくることが好ましい。そして、この重量濃度範囲で、溶液の流れやすさ、すなわち流動性を調整することが好ましい。
【0070】
ポリマー溶液については、その粘度を高くするほど結露で発生した水滴が移動しにくくなるとともにポリマー溶液自体が流れにくくなり、粘度を低くするほど水滴同士が結合して合体してしまいやすく孔径が不均一になる傾向があるとともに、流延溶液自体の流れやすくなる傾向がある。そこで、この粘度を0.1mPa・s以上50mPa・s以下の範囲とし、この範囲で溶液の流れやすさを調整することが好ましい。ポリマー溶液の流れやすさを調整することにより厚みTの調整と孔径Dの調整と、孔径差の調整とをすることができる。
【実施例1】
【0071】
ポリマー溶液33を以下の配合で調製した。
ポリブタジエン 1重量部
ジクロロメタン 100重量部
ポリエチレングリコオールとポリプロピレングリコオールとのブロックコポリマー
0.1重量部
【0072】
支持体32の上に上記のポリマー溶液33を載せたあと、ポリマー溶液33が濡れ広がるまで乾燥雰囲気下で自然放置した。このように形成した液膜31を支持体32に載せた状態で、多孔フィルム製造装置81を用いて水滴形成工程21と溶剤蒸発工程22と水滴蒸発工程23と、溶剤ガス供給工程24とを以下の条件で実施した。
【0073】
水滴形成工程21の発生工程21aでは、水槽97の水96の温度を25℃、水槽97内部の水面上の空間における露点を20℃とした。これにより、水槽97から出る加湿空気につき温度を25℃、露点を20℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は3分間とした。
【0074】
水滴形成工程21の成長工程21bでは、水96の温度を25℃、水槽97内部の水面上の空間における露点を17℃とした。これにより、水槽97から出る加湿空気につき温度を25℃、露点を17℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は10分間とした。
【0075】
水滴形成工程21の配列工程21cでは、水96の温度を25℃、水槽97内部の水面上の空間における露点を15℃とした。これにより、水槽97から出る加湿空気につき温度を25℃、露点を15℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は3分間とした。
【0076】
なお、発生工程21a〜配列工程21cの水滴形成工程21では、温度調整部61により、液膜31の液面温度を5℃に保持した。
【0077】
溶剤蒸発工程22では、水96の温度を25℃、水槽97内部の水面上の空間における露点を15℃とした。これにより、水槽97から出る加湿空気につき温度を25℃、露点を15℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は10分間とし、この間に溶剤の蒸発をすすめた。
【0078】
水滴蒸発工程23では、水96の温度を25℃、水槽97内部の水面上の空間における露点を15℃とした。これにより、水槽97から出る加湿空気につき温度を25℃、露点を15℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は3分間とし、この間に水滴と残っている溶剤とを蒸発させた。なお、この水滴蒸発工程23では、温度調整部61により、液膜31の液面温度を10℃に保持した。
【0079】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のすべての工程、すなわち発生工程21a〜配列工程21cで実施した。溶剤74はジクロロメタンである。液槽102における溶剤74の温度を15℃とした。液槽102から出る溶剤ガスにつき温度を25℃にした。この加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間は3分間とし、この間に水滴と残っている溶剤とを蒸発させた。
【0080】
得られた多孔フィルム10について、孔径D1と、孔11の配列を含めた均一性とにつき評価した。均一性については、多孔フィルム10の孔径D1を測定し孔径変動係数Xを算出し、この算出値を以下の基準に対応させて評価した。なお、孔径変動係数Xは、{(孔の径の標準偏差)/(孔の径の平均値)}×100で求める。
◎:孔径変動係数Xが5%以下である場合
○:孔径変動係数Xが5%より大きく10%以下である場合
×:孔径変動係数Xが10%より大きい場合
【0081】
孔径D1と均一性とに基づき、総合評価を以下の基準で実施した。各評価結果については表1に示す。
A:孔径D1が20μm以上であり、均一性が◎
B:孔径D1が10μm以上20μm未満であり、均一性が○
C:孔径D1が10μm以上20μm未満であり、均一性が×
D:孔径D1が10μm未満であり、均一性が×
【実施例2】
【0082】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のうち発生工程21aと成長工程21bとでのみ実施し、配列工程21cでは実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【実施例3】
【0083】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のうち成長工程21bと配列工程21cとでのみ実施し、発生工程21aでは実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【実施例4】
【0084】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のうち発生工程21aでのみ実施し、成長工程21bと配列工程21cとでは実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【実施例5】
【0085】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のうち成長工程21bでのみ実施し、発生工程21aと配列工程21cとでは実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【実施例6】
【0086】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のうち配列工程21cでのみ実施し、発生工程21aと成長工程21bとでは実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【実施例7】
【0087】
溶剤ガス供給工程24を、水滴形成工程21のすべての工程、すなわち発生工程21a〜配列工程21cで実施した。成長工程21bにおける加湿空気のチャンバ82の内部への供給時間を7分とした以外の条件は実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0088】
[比較例1]
溶剤ガス供給工程24を実施しなかった。その他の条件は、実施例1と同じである。そして、得られた多孔フィルム10に関して実施例1と同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例1〜3,5〜7で得られた多孔フィルム10は、孔径がいずれも10μm以上と従来の多孔フィルムに比べて大きく、さらに多孔フィルム10としての均一性に優れる。実施例4では均一性が実施例1,3に比べて劣る箇所が若干は認められたものの、孔径が10μ以上の孔11を形成することができた。例えば、図9に示す実施例7の多孔フィルム10は、図10に示す比較例1のフィルムと比べて孔が大きく、フィルムとしての均一性も非常に優れている。このように実施例及び比較例から、本発明によると、10μm〜数10μmの孔径をもつ孔が複数形成されたハニカム構造の多孔フィルムが得られることがわかる。
【符号の説明】
【0091】
10 多孔フィルム
11 孔
31 液膜
33 ポリマー溶液
41,71,81 多孔フィルム製造装置
43 空気供給部
44 溶剤ガス供給部
74 溶剤
76 温度調整部
83 混合ガス供給部
91 加湿機
93 溶剤ガス生成機
95 混合機
D1 孔径
D2 開口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔がフィルム面に形成された多孔フィルムの製造方法において、
ポリマーが溶剤に溶解した溶液に、雰囲気中の水分を結露させて水滴を形成させる水滴形成工程と、
前記水滴が蒸発しないように前記溶液から前記溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程と、
前記水滴を蒸発させる水滴蒸発工程と、
前記溶剤蒸発工程前に前記溶剤が前記溶液から蒸発しないように、前記水滴形成工程の間に、前記溶液上に溶剤ガスを供給する溶剤ガス供給工程とを有することを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記溶剤ガス供給工程では、前記溶液をチャンバ内に配して、前記溶剤ガスを前記チャンバの内部に送り込むことにより、前記溶液上に前記溶剤ガスを供給することを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記溶剤ガス供給工程では、前記溶液と前記溶剤ガスになる液体とをチャンバ内に配して、前記液体を前記チャンバ内で蒸発させることにより、前記溶液上に前記溶剤ガスを供給することを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記溶剤ガス供給工程では、前記溶液をチャンバ内に配して、前記溶液から蒸発した前記溶剤を前記溶剤ガスとして用いることを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記水滴形成工程では、加湿空気を前記溶液上に供給することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の多孔フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−235808(P2010−235808A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86165(P2009−86165)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】