説明

多孔体の製造方法

【課題】周期的構造を有する多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマーと溶剤とを含む溶液をポリマーフィルム36の表面36sに吐出する。表面36sには溶液21からなる塗布膜が形成する。塗布膜の膜厚が臨界厚以下になると、表面36s上では溶液の脱濡れが起こる。溶液の脱濡れにより、塗布膜は脱濡れ孔23aを有する脱濡れ体23となる。脱濡れ体23の表面23sに湿潤空気をあてる。脱濡れ体23から溶剤が蒸発する。表面23sには結露により水滴を形成する。脱濡れ体23の表面23sに乾燥空気をあてる。脱濡れ体23から溶剤、水滴が蒸発する。溶液の脱濡れによって形成した脱濡れ孔23aと水滴を鋳型とする第2孔とを表面に有する多孔体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種材料の表面に微細な凹凸を形成させる試みが各種なされている。例えば、特許文献1には、切削加工、研削加工、電解加工を含む機械加工、電気めっき、レーザ加工を含む電気的加工、電気分解、化学反応、微生物反応、拡散律速凝集を含む化学的加工、真空蒸着、リソグラフィー、イオンビーム加工、プラズマ加工を含むその他の加工、あるいは前記各加工方法を組合せた加工により、各種材料の表面に微細な凹凸を形成する方法が記載されている。更に、特許文献1では、材料表面に凹凸を周期的に形成することにより、高い撥水性が発揮されること、及び大きな周期構造と小さな周期構造とからなる多段周期構造により、極めて高い撥水性が発揮されることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−197017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法により材料表面に多段周期構造をつくることはできるものの、上記の加工に手間がかかる。また、材料表面に撥水性を発現させるためには、多段周期構造を設ける必要があるため、一定の加工精度が求められる。しかしながら、特許文献1に記載のように、精度が高い加工方法を用いる場合には、加工設備の規模が大きくなる一方、規模が小規模の加工設備を採用すると高い加工精度が得られない。
【0005】
本発明は、多段周期構造が形成される多孔体を容易に製造することができる多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多孔体の製造方法は、ポリマーと疎水性溶剤とを含む溶液を支持体の表面に塗布する塗布工程と、前記表面上で前記溶液を脱濡れさせる脱濡れ工程と、前記溶液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、前記表面上の前記溶液から前記溶剤を蒸発させて前記ポリマーを含む形成体をつくる溶剤蒸発工程と、前記形成体から前記水滴を蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記形成体に形成する水滴蒸発工程とを有することを特徴とする。
【0007】
前記塗布工程では、前記溶液の塗布厚みが、前記表面上で前記溶液の脱濡れが開始する臨界厚以下となるように塗布することが好ましい。前記塗布工程では、前記溶液の塗布厚みが、前記表面上で前記溶液の脱濡れが開始する臨界厚よりも厚くなるように塗布し、前記脱濡れ工程では、前記溶液の塗布厚みが前記臨界厚以下となるまで、前記溶液から前記溶剤を蒸発させることが好ましい。
【0008】
前記脱濡れ工程を、前記水滴形成工程の前に行ってもよいし、前記水滴形成工程の後に行ってもよい。また、前記表面における前記溶液の接触角が5°以上であることが好ましい。更に、前記塗布工程の前に、前記表面における前記溶液の接触角が5°以上となるように前記表面を加工する前処理工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶液の脱濡れによって形成され第1の周期で並ぶ第1の孔、及び第1の周期よりも小さい第2の周期で並ぶ水滴を表面に有する脱濡れ体を形成し、水滴を鋳型とする第2の孔を前記脱濡れ体に形成するため、従来の方法に比べ、凹凸構造が周期的に形成される多孔体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(多孔体製造工程)
図1に示すように、多孔体製造工程10は、脱濡れ体形成工程11と乾燥工程12とからなる。脱濡れ体形成工程11は、塗布工程16と結露工程17と水滴成長工程18とを有する。乾燥工程12は、溶剤蒸発工程19と水滴蒸発工程20とを有する。
【0011】
塗布工程16では、後述する支持体に溶液21を塗布し、支持体上には溶液21からなる塗布膜22が形成する。溶液21がなす塗布膜22の厚みが臨界厚THc以下である場合には、支持体上における溶液21の脱濡れが起こる。支持体上の溶液21からなる塗布膜22は、支持体上における溶液21の脱濡れにより、脱濡れ孔を表面に有する脱濡れ体23となる。
【0012】
臨界厚THcは、溶液21の密度をρ、重力加速度をg、溶液21の表面張力をγ、支持体における溶液21の接触角をθsとするときに、(式1)で表される。
【数1】

【0013】
結露工程17では、脱濡れ体23に湿った気体(以下、湿潤空気と称する)をあて、結露により、脱濡れ体23の表面に水滴を形成する。水滴成長工程18では、引き続き脱濡れ体23に湿潤空気をあて、脱濡れ体23の表面に形成した水滴を、所望の寸法になるまで成長させる。こうして、脱濡れ体形成工程11により、溶液21から、表面に水滴を有する脱濡れ体23を支持体上に形成することができる。
【0014】
溶剤蒸発工程19では、表面に水滴を有する脱濡れ体23に、乾いた気体(以下、乾燥空気)をあて、脱濡れ体23に含まれる溶剤を蒸発させる。水滴蒸発工程20では、引き続き表面に水滴を有する脱濡れ体23に乾燥空気をあて、水滴を蒸発させる。こうして、乾燥工程12により、水滴を鋳型として孔を脱濡れ体23に形成し、多孔体24を製造することができる。
【0015】
多孔体製造設備30は、図2に示すように、図示しない仕切り板により、第1エリア31〜第3エリア33に区切られる。各エリア31〜33にはローラ35a〜35eが設けられ、支持体として用いられるポリマーフィルム36は各ローラ35a〜35eに掛け渡される。図示しない駆動部により、ローラ35eは回転駆動する。ローラ35eの回転駆動により、ポリマーフィルム36は、ローラ35a〜35eにより案内されながら、第1エリア31〜第3エリア33を順次通過する。
【0016】
(ポリマーフィルム)
ポリマーフィルム36の形成材料としては、特に限定されるものではなく、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔体製造工程10における耐熱性を有するものであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、セルロースアシレート等のポリマーや、ガラス、ステンレス、その他金属等の無機材料等であってもよい。また、支持体としては、フィルムに限らず、板状のものでもよい。
【0017】
ポリマーフィルム36の表面36sには所定の表面加工が施され、溶液21の濡れ性が低いことが好ましい。表面36sの表面加工は公知の方法でよい。表面36sにおける溶液21の接触角θsは5°以上120°以下であることが好ましく、5°以上90°以下であることがより好ましい。接触角θsは、溶液21からなる液滴を表面36sに形成し、この液滴の形状から算出することができる。また、溶液21の接触角θsが120°を超えると、脱濡れ体に設けられる周期構造のオーダが大きくなるため好ましくない。一方、溶液21の接触角θsが5°未満であると、臨界厚TH0が小さくなる結果、脱濡れ体からの溶剤の蒸発によって、結露工程や水滴形成工程を行う前に脱濡れ体が固化してしまうため、好ましくない。
【0018】
なお、溶液の接触角θsに代えて、ポリマーフィルム36の表面36sと溶液21との界面張力をΓSLとし、表面36sと表面36s近傍の雰囲気との界面張力をΓSGとし、溶液21と表面36s近傍の雰囲気との界面張力をΓLGとするときに、(ΓSG−ΓLG−ΓSL)<0となるように塗布工程16(図1参照)を行ってもよい。例えば、表面36s近傍の雰囲気における溶剤の蒸気圧を低くすることにより、脱濡れは起こりやすくなり、表面36s近傍の雰囲気における溶剤の蒸気圧を高くすることにより、脱濡れは起こりにくくなる。このように、表面36s近傍の雰囲気における溶剤の蒸気圧を調節することにより、脱濡れの発生を制御することもできる。また、溶剤の蒸気圧に代えて、水の蒸気圧により調節してもよいし、両者の蒸気圧をそれぞれ調節してもよい。
【0019】
(第1エリア)
第1エリア31には塗布ダイ42が設けられる。塗布ダイ42は、図示しない配管を介して、溶液21を貯留するストックタンク(図示しない)と接続する。塗布ダイ42は溶液21を吐出する吐出口を有する。塗布ダイ42は、吐出口が表面36sと近接して対向するように配される。第1エリア31において、塗布ダイ42の下流側には、乾燥空気供給機45が設けられる。乾燥空気供給機45は、乾燥空気400を送り出す送風口45aと、乾燥空気400を吸引する吸引口45bと、図示しない送風コントローラとを有する。送風口45a及び吸引口45bは、第1エリア31を通過するポリマーフィルム36の表面36sと対向するように、乾燥空気供給機45に設けられる。乾燥空気供給機45に設けられた送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口45aから送り出される乾燥空気400の温度TA0、露点TD0、溶剤の凝縮点TR0などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0020】
(第2エリア)
第2エリア32には、湿潤空気供給機51〜53がポリマーフィルム36の走行方向に沿って並べられる。湿潤空気供給機51〜53は乾燥空気供給機45と同様の構造を有する。湿潤空気供給機51に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口51aから送り出される湿潤空気401の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。同様にして、湿潤空気供給機52〜53に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口52a、53aから送り出される湿潤空気401の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。なお、塗布膜22上に形成された水滴を一様に成長させる目的から、結露工程17(図1参照)を行う湿潤空気供給機51のすぐ下流側に、水滴成長工程18(図1参照)を行う湿潤空気供給機52、53を設けることが好ましい。
【0021】
(第3エリア)
第3エリア33には、乾燥空気供給機61〜64がポリマーフィルム36の走行方向に沿って並べられる。乾燥空気供給機61〜64は乾燥空気供給機45と同様の構造を有する。乾燥空気供給機61に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口61aから送り出される乾燥空気402の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。同様にして、乾燥空気供給機62〜64に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口62a〜64aから送り出される乾燥空気402の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0022】
次に、本発明の作用について説明する。図2に示すように、ローラ35eは回転駆動し、ポリマーフィルム36は第1エリア31〜第3エリア33を順次通過する。
【0023】
図示しないストックタンクに貯留する溶液21は塗布ダイ42へ送られる。溶液21は、塗布ダイ42に送られる前に、予めろ過されることが好ましい。これにより多孔体24への異物混入を防止することができる。ろ過は複数回実施することが好ましい。例えばろ過を2回実施するときには、上流側のろ過装置(図示しない)には、多孔体24の孔の径よりも大きな絶対ろ過精度(絶対ろ過孔径)をもつフィルタが備えられ、下流側のろ過装置(図示しない)には、多孔体24の空隙よりも小さな絶対ろ過精度をもつフィルタが備えられることが好ましい。
【0024】
図3に示すように、第1エリア31では、塗布ダイ42がポリマーフィルム36の表面36sに向けて溶液21を吐出口から吐出する。図3及び図4に示すように、吐出した溶液21は、溶液21の濡れ性が低い表面36s上で塗布膜22を形成する。塗布膜22の膜厚が臨界厚THc以下であるため、溶液21は、一旦は塗布膜22を形成するものの、その後、溶液21の脱濡れが起こる。表面36s上にて溶液21の脱濡れが起こると、図3及び図5に示すように、塗布膜22を形成する溶液21の流動により、塗布膜22は、脱濡れ孔23aを有する脱濡れ体23となる。なお、膜厚が均一の塗布膜22を形成する場合には、形成直後の塗布膜22の厚みを10μm以上とすることが好ましい。
【0025】
引き続いて、第1エリア31では、図2及び図5(b)に示すように、乾燥空気供給機45が、脱濡れ体23の表面23s全体に乾燥空気400を均一にあてる。乾燥空気400との接触により、脱濡れ体23に含まれる溶剤406が蒸発し、脱濡れ体23を構成する溶液の流動性は低下する。溶液の流動性が一定以下になることにより、脱濡れ孔23aの形成、成長が封じこめられる。
【0026】
第2エリア32では、図2に示すように、湿潤空気供給機51が、脱濡れ体23の表面23s全体に湿潤空気401を均一にあてる(図6(a)参照)。湿潤空気401との接触により、脱濡れ体23に含まれる溶剤406が蒸発し、結露によって水滴408が表面23s上に略一様に形成する(図6(b)参照)。引き続いて、湿潤空気供給機52、53は脱濡れ体23の表面23s全体に湿潤空気401を均一にあてる。湿潤空気401との接触により、脱濡れ体23に含まれる溶剤406は蒸発し、水滴408は所望の寸法となるまで略一様に成長しながら、脱濡れ体23に潜り込む(図6(c)参照)。
【0027】
第3エリア33では、図2に示すように、乾燥空気供給機61〜64が脱濡れ体23の表面23sに乾燥空気402をあてる。図6(d)に示すように、乾燥空気402との接触により、脱濡れ体23から水滴408が蒸発し、水滴408を鋳型とする孔が脱濡れ体23に形成する結果、本発明の多孔体24を得ることができる。なお、脱濡れ体23の中に溶剤406が残留している場合には、水滴408とともに溶剤406を蒸発させてもよい。
【0028】
多孔体24は、図7及び図8に示すように、脱濡れ体23における脱濡れ孔23aであった第1孔24a、及び水滴408を鋳型として形成された第2孔24bを有する。第1孔24aはサブミリオーダからミリオーダの周期で形成されることが好ましい。ここで「サブミリオーダからミリオーダの周期」とは、図7(c)に示すように、多孔体24の厚さ方向を含む多孔体24の断面上において、第1孔24aが形成されていない部分の長さL0と、第1孔24aが形成されている部分の長さL1とが、それぞれ0.1mm以上10mm以下であることを指す。
【0029】
第2孔24bは、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように形成される。図8(a)に示すように、第2孔24bは、略一定の形状及び寸法であり、規則的に配列する。そして、第2孔24bは、図8(b)及び図8(c)に示すように、多孔体24の両表面を突き抜けるように形成される場合もあるし、図8(d)の多孔体73のように片面側に窪み73bとして形成される場合もある。第2孔24bや窪み100aの配列は、水滴の疎密の度合いや大きさ、形成する液滴の種類、乾燥速度、溶液の固形分濃度、水滴成長度合いに対する溶剤の蒸発のタイミング等によって異なるものとなる。本発明により製造される多孔体24の形態は特に限定されるものではないが、例えば、多孔体24の厚みTH2が0.05μm以上100μm以下、第2孔24bの径D2が0.05μm以上100μm以下、隣接する第2孔24bの中心間距離P2が0.1μm以上120μm以下であるような多孔体を製造する場合に特に効果がある。
【0030】
ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定寸法の孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や6方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0031】
本発明の多孔体製造工程10(図1参照)では、多孔体24の第1孔24aを溶液21の脱濡れを利用して形成し、第2孔24bとを結露によって生じた水滴408を鋳型として形成する。したがって、本発明によれば、第1孔24a及び第2孔24bが異なる周期で配列する多孔体24を容易に製造することができる。
【0032】
また、第1孔24aの寸法は、脱濡れ体23をなす溶液の流動性の調節により制御可能であり、第2孔24bの寸法は、後述するΔTwにより、第1孔24aの寸法と独立して制御可能である。したがって、本発明によれば、異なる周期の凹凸構造をそれぞれ高い精度で形成することができる。
【0033】
以下、各工程における好ましい実施態様及び条件等について説明する。
【0034】
(塗布工程)
溶液21の脱濡れの開始後において、溶液21の流動性が一定値以上である場合には、脱濡れ孔23aは、表面36sに窪みとして形成した後、窪みの寸法L1(図7(c)は長くなるように成長し、または窪みの深さは深くなるように成長する(図9(a)〜(b)及び図10(a)〜(b)参照)。こうして、脱濡れ孔23aは表面36sが露呈する貫通孔となる(図9(b)〜(d)及び図10(b)〜(d)参照)。本発明における脱濡れ孔23aは、図10(a)に示すような窪みであってもよいし、図10(b)〜図10(d)に示すような貫通孔であってもよい。
【0035】
このように、脱濡れ孔23aを窪みとして形成するか、或いは貫通孔として形成するかは、脱濡れ孔23aの成長の進行度により決定することができる。脱濡れ孔23aの成長の進行度は、溶液21の脱濡れ開始後、溶液21の流動性が脱濡れ孔23aの形成や成長が封じ込められる程度になるまでの脱濡れ時間、表面36sにおける溶液21の接触角θsや、溶液21の粘度等により制御することができる。そして、脱濡れ時間が短くなる、接触角θsが小さくなる、または溶液21の粘度が高くなるにつれて、脱濡れ孔23aの成長の進行度は小さくなり、脱濡れ時間が長くなる、接触角θsが大きくなる、または溶液21の粘度が低くなるにつれて、脱濡れ孔23aの成長の進行度は大きくなる。
【0036】
第1エリア31(図3参照)では、図5(b)に示すように、溶液21の流動性が脱濡れ孔23aの成長が封じ込められる程度になるまで、乾燥空気400を脱濡れ体23にあてて脱濡れ体23から溶剤406の蒸発を行なうため、乾燥空気400の溶剤の凝縮点TR0と表面23sの温度TSの差ΔTsolv(=TR0−TS)の調節により、脱濡れ孔23aの成長の進行度を調節することができる。同様にして、接触角θs、溶液21の組成や温度の調節、或いはこれらの組み合わせにより、脱濡れ孔23aの成長の進行度を調節することができる。なお、脱濡れ体23から溶剤406が蒸発する環境下である場合には、脱濡れ体23に乾燥空気400をあてなくてもよい。
【0037】
なお、第1孔24aを窪みとして形成した場合には、多孔体24の表面24sのうち、窪みが形成されていない部分のみに第2孔24bを形成してもよいし、多孔体24の表面24s全体、すなわち窪みが形成されていない部分及び窪みが形成されている部分に第2孔24bを設けてもよい。そして、後述するΔTwの調節により、窪みが形成されていない部分のみに第2孔24bを形成することも可能である。
【0038】
上記実施形態では、脱濡れ孔23aの成長が封じ込められる程度の流動性を有する脱濡れ体23について結露工程17(図1参照)を行ったが、本発明はこれに限られず、脱濡れ孔23aの成長が封じ込められる前の脱濡れ体23に結露工程17(図1参照)や結露工程17及び水滴成長工程18を行ってもよい。なお、この場合には、乾燥空気供給機45を省略してもよい。
【0039】
上記実施形態では、塗布ダイ42を用いて溶液21をポリマーフィルム36に塗布したが、本発明はこれに限られず、ブレードコート、スピンコート、ディップコート、インクジェット印刷、その他公知の塗布方法であってもよい。
【0040】
(結露工程及び水滴成長工程)
第2エリア32(図2参照)では、図6(a)〜図6(c)に示すように、表面23s上にて水滴408の核形成及び核成長を行う。水滴408の核形成及び核成長の進行度は、湿潤空気401の露点TD1と表面23sの温度TSとの差ΔTw(=TD1−TS)により調節することができる。水滴408の核形成を行うためには、ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上20℃以下であることがより好ましい。水滴408の核成長を行うためには、ΔTwは0℃以上20℃以下であることが好ましく、0℃以上10℃以下であることがより好ましい。なお、上記実施形態では、湿潤空気供給機51からの湿潤空気401を用いて水滴408の核形成を行い、湿潤空気供給機52〜53からの湿潤空気401を用いて水滴408の核成長を行ったが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給機51〜52からの湿潤空気401を用いて水滴408の核形成を行い、湿潤空気供給機53からの湿潤空気401を用いて水滴408の核成長を行ってもよい。
【0041】
また、水滴408を鋳型とする目的から、脱濡れ体23をなす溶液の流動性が、水滴408の核形成、核成長を封じ込める程度になるまで、溶剤を蒸発することが好ましい。このため、溶剤の凝縮点TR1と脱濡れ体23の表面23sの温度TSとの差ΔTsolv(=TR1−TS)は、0℃未満であることが好ましい。
【0042】
第2エリア32における脱濡れ体23の表面23sの温度TSは−5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気401の露点TD1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気401の温度TA1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。
【0043】
上記実施形態では、湿潤空気401を脱濡れ体23にあてて、結露により水滴408を表面23sに形成したが、本発明はこれに限られず、インクジェットユニットを用いて、表面23sに水滴408を形成してもよい。インクジェットユニットは、インクジェットヘッド、ヘッド駆動部、コントローラを備え、一般的なインクジェットプリンタと同様な構造となっている。但し、インクの代わりに、多孔フィルムにおける孔の鋳型となる水滴を形成するため水が用いられる点で、一般的なインクジェットプリンタとは異なっている。インクジェットユニットにおける吐出方式は、ライン吐出方式、シリアル吐出方式の何れでもよい。
【0044】
(溶剤蒸発工程及び水滴蒸発工程)
第3エリア33(図2参照)では、水滴408の蒸発を行うため、表面23sの温度TSと乾燥空気402の露点TD2との差ΔTw(=TD2−TS)は0℃以下であることが好ましく、−30℃以上−5℃以下であることがより好ましい。乾燥工程14(図1参照)における表面23sの温度TSは10℃以上40℃以下であることが好ましい。乾燥空気402の露点TD2は10℃以下であることが好ましい。乾燥空気402の温度TA2は10℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0045】
上記実施形態では、塗布工程16(図1参照)において、膜厚が略一定の塗布膜22を形成したが、本発明はこれに限られず、ある部分の膜厚が臨界厚THcよりも薄く、他の部分の膜厚が臨界厚THcよりも厚くなるような膜厚分布を有する塗布膜を形成してもよい。これにより、第1孔と第2孔とが存在している領域、第1孔のみが存在している領域や第2孔のみが存在している領域が混在する多孔体を製造することもできる。このような膜厚分布を有する塗布膜を形成する方法として、例えば、凹凸に形成された先端が支持体表面に接触するブレードをスライドすることより、ブレードの先端の形状に応じた膜厚分布を有する塗布膜を支持体表面上に形成することができる。
【0046】
上記実施形態では、塗布工程16(図1参照)において、臨界厚THc以下の膜厚の塗布膜22を形成したが、本発明はこれに限られず、塗布工程16において、臨界厚THcよりも厚い膜厚の塗布膜22を形成してもよい。塗布膜22の膜厚が臨界厚THcよりも厚い場合には、ポリマーフィルム36の表面36s上において、吐出した溶液21の脱濡れが起こらずに、溶液21は塗布膜22を形成したままとなる。このような塗布膜22について、塗布膜22の膜厚が臨界厚THc以下となるまで乾燥空気400をあてて、塗布膜22から溶剤406を蒸発させる膜厚減少工程を行ない、塗布膜22から脱濡れ体23をつくってもよい。なお、塗布工程16でつくられ臨界厚THcより大きい膜厚の塗布膜22について、結露工程17を行った後に、膜厚減少工程を行ってもよい。
【0047】
上記実施形態では、溶液の脱濡れが起こりやすい、すなわち溶液の濡れ性が比較的低い表面を有する支持体を用いたが、本発明はこれに限られず、溶液の濡れ性が比較的高い表面を有する支持体を用いてもよい。このような支持体を用いる場合には、塗布工程16(図1参照)前に、前記表面における前記溶液の接触角が所定のものとなるように、支持体の表面を加工してもよい。また、前記溶液の接触角が均一となる面を支持体の表面全体に設けてもよいし、前記溶液の接触角がθaの面A、及び前記溶液の接触角がθb(<θa)の面Bを支持体表面上に設けてもよい。面Aでは、面Bに比べて、第1孔が形成されやすくなるため、面Aを設ける領域、その面Aのパターンを適宜調節することにより、多孔体の所望の領域に、所望のパターンの第1孔を設けることができる。
【0048】
本発明における多孔体とは、表面に孔又は窪みを有する物体を指す。したがって、本発明における多孔体は、ポリマーフィルム36から剥ぎ取られた多孔体24のみならず、表面36sに多孔体24を有するポリマーフィルム36をも含む。多孔体24のみを最終製品とする場合には、多孔体24とポリマーフィルム36とを分離するための分離装置を、第3エリア33の下流側に設けてもよい。多孔体24とポリマーフィルム36とを分離する方法としては、ポリマーフィルム36から多孔体24を剥ぎ取る方法の他、ポリマーフィルム36を溶剤により溶解する方法等がある。更に、第3エリア33と分離装置との間にカット装置を設け、多孔体24をポリマーフィルム36と共に切断してもよいし、分離装置よりも下流側にカット装置を設け、ポリマーフィルム36から分離された多孔体24を切断してもよい。また、表面に多孔体24を有するポリマーフィルム36を最終製品とする場合には、表面に多孔体24を有するポリマーフィルム36を所定のサイズに切断するカット装置を、第3エリア33の下流側に設けてもよい。
【0049】
(溶液)
本発明の多孔体製造工程10では、ポリマーが溶剤に溶解する溶液21を用いる。溶液におけるポリマーの濃度は、塗布膜22が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。ポリマーの濃度が0.01質量%未満であると、多孔体の生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、ポリマーの濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液の粘性が増大するため、塗布膜22の形成が困難となるため、好ましくない。
【0050】
溶液21の粘度は、1×10−4Pa・s以上1×10−1Pa・s以下であることが好ましい。溶液21の粘度が1×10−1Pa・sを超えると、孔の形成ピッチにばらつきが生じるため好ましくなく、溶液21の粘度が1×10−4Pa・s未満であると、溶液の21の高い流動性に起因して、水滴が連結してしまう結果、孔の径にばらつきが生じる点で好ましくない。
【0051】
(ポリマー)
多孔体の原料となるポリマーは、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔体を形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0052】
(溶剤)
溶液を調製するための溶剤としては、疎水性であって、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0053】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0054】
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0055】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0056】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(疎水性側鎖/親水性側鎖)は0.1:9.9〜4.5:5.5が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0057】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0058】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔体が得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0059】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0060】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0061】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0062】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0063】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0064】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0065】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0066】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0067】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0068】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0069】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0070】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0071】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0072】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0073】
(用途)
本発明の多孔体は、いわゆる網目状の多孔体であり、細胞培養の足場剤に用いる場合には、所定のパターン上にのみ細胞が培養することができる。また、このような網目状の多孔体は、伸びやすく、柔軟性に富むことから、曲面を被覆する、或いは可動部に被覆することが可能となる。したがって、本発明の多孔体は、三次元多孔体を形成することができる。そして、三次元多孔体を細胞培養の足場剤として用いることにより三次元培養も可能になる。
【0074】
また、本発明の多孔体は、第1孔がサブミリオーダからミリオーダの周期で形成され、第2孔がサブマイクロオーダからマイクロオーダの周期で形成されることから、良好な撥水性を発揮することができる。更に、親水性を有する支持体表面上に、疎水性を有する本発明の多孔体を設けることにより、第1孔から露呈する支持体表面からなる親水性領域と、多孔体からなる疎水性領域とを有する表面を有する多孔複合体を製造することができる。そして、多孔複合体において結露を防ぎたい部分がある場合には、結露を防ぎたい部分に疎水性領域を設け、結露させたい部分或いは、結露してもかまわない部分に親疎水性領域を設ければよい。
【実施例】
【0075】
(実験1)
多孔体製造設備30において、多孔体24を製造した。溶剤としてクロロホルムを、疎水性ポリマーとしてポリスチレンを、両親媒性ポリマーとして、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマーを用いて、溶液を調製した。溶液における疎水性ポリマーの濃度C1は、1mg/mLであり、溶液の表面張力γは27mN/mであり、溶液の粘度νは1mPa・sであった。
【0076】
支持体としてガラス板を用いた。ガラス板における溶液の接触角θsは20°であった。臨界厚THcは240μmであった。膜厚TH0が100μmの塗布膜となるように、ガラス板に溶液を塗布した。溶液の脱濡れが起こり、ガラス板上に脱濡れ体23が形成した。脱濡れ体23に乾燥空気400をあてて、脱濡れ孔23aの孔の成長を封じ込めた。次に、脱濡れ体23に湿潤空気401をあてて、結露工程17、水滴成長工程18を行った。第3に、脱濡れ体23に乾燥空気402をあてて、乾燥工程12を行ない、多孔体を得た。
【0077】
(実験2〜17)
各パラメータC1、γ、ν、θs、TH0、THc、TH0/THcを表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして多孔体を製造した。実験11〜13では、溶剤としてジクロロメタンを用いた。実験14〜17では、疎水性ポリマーとしてポリブタジエンを用いた。実験6〜9では支持体としてテフロン(登録商標)製の板を用い、実験10〜17では支持体としてPET製のフィルムを用いた。
【0078】
(評価)
実験1〜17において、以下の項目について評価した。
【0079】
1.脱濡れの有無について
溶液が支持体で脱濡れを起こしたか否かを、目視観察で行ない、以下基準に基づいて評価した。
○:支持体上で溶液の脱濡れが起こった。
×:支持体上で溶液の脱濡れが起こらなかった。
【0080】
2.被覆率について
得られた多孔体について被覆率HRを求め、以下基準に基づいて評価した。被覆率は、溶液を塗布した領域において、多孔体が占める面積である。
A:HRが0%より大きく30%未満であった。
B:HRが30%以上70%未満であった。
C:HRが70%以上100%未満であった。
−:脱濡れが起こらず、HRを測定できなかった。
【0081】
3.孔の径のばらつき評価について
得られた多孔体における孔の径のばらつきを以下基準で評価した。変動係数は、多孔体に形成した孔の径を測定し、径の標準偏差をX、径の平均値をYとするときに、X/Yで表される。
◎:変動係数が10%未満であった。
○:変動係数が10%以上15%未満であった。
△:変動係数が15%以上であった。
【0082】
表1に、実験1〜17における各パラメータC1、γ、ν、θs、TH0、THc、TH0/THc、及び評価結果を示す。表1において、評価結果に付された番号は、評価項目に付した番号を表す。また、Yは、径の平均値である。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、本発明により、多段周期構造を有する多孔体を製造できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】多孔体製造工程を示す説明図である。
【図2】多孔体製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】第1エリアの概要を示す斜視図である。
【図4】(a)は塗布膜の表面の部分拡大図である。(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図5】(a)は脱濡れ体の表面の部分拡大図である。(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図6】(a)は結露工程にて、脱濡れ体の表面に湿潤空気をあてる様子を示し、(b)は湿潤空気との接触により、脱濡れ体から溶剤が蒸発し、脱濡れ体の表面に水滴が形成する様子を示し、(c)は脱濡れ体から溶剤が蒸発し、表面に形成した水滴が成長しながら、脱濡れ体の内部にもぐりこむ様子を示す説明図である。(d)は、脱濡れ体と乾燥空気との接触により水滴が蒸発する様子を示す説明図である。
【図7】(a)は、多孔体の概要を示す平面図である。(b)は、(a)のb部拡大図であり、(c)は、(b)のc−c線断面図である。
【図8】多孔体の概要を示す平面図である。(a)は本発明に係る多孔体の要部を拡大した平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図、(c)は(a)のc−c線に沿う断面図であり、(d)は別の実施形態である多孔体の断面図である。
【図9】(a)は、窪み状の第1孔を表面に有する脱濡れ体の概要を示す平面図である。(b)は、(a)の第1孔が成長し、貫通孔となった第1孔を有する脱濡れ体について、(c)は、(b)の第1孔が成長し、より大きな寸法の第1孔を有する脱濡れ体について、(d)は、(c)の第1孔が成長した脱濡れ体の概要を示す平面図である。
【図10】(a)は、窪み状の第1孔を表面に有する脱濡れ体の概要を示す断面図である。(b)は、(a)の第1孔が成長し、貫通孔となった第1孔を有する脱濡れ体について、(c)は、(b)の第1孔が成長し、より大きな寸法の第1孔を有する脱濡れ体について、(d)は、(c)の第1孔が成長した脱濡れ体の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10 多孔体製造工程
11 脱濡れ体形成工程
12 乾燥工程
16 塗布工程
17 結露工程
18 水滴成長工程
19 溶剤蒸発工程
20 水滴蒸発工程
21 溶液
22 塗布膜
23 脱濡れ体
23a 脱濡れ孔
24 多孔体
24a 第1孔
24b 第2孔
36 ポリマーフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと疎水性溶剤とを含む溶液を支持体の表面に塗布する塗布工程と、
前記表面上で前記溶液を脱濡れさせる脱濡れ工程と、
前記溶液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、
前記表面上の前記溶液から前記溶剤を蒸発させて前記ポリマーを含む形成体をつくる溶剤蒸発工程と、
前記形成体から前記水滴を蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記形成体に形成する水滴蒸発工程とを有することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程では、前記溶液の塗布厚みが、前記表面上で前記溶液の脱濡れが開始する臨界厚以下となるように塗布することを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程では、前記溶液の塗布厚みが、前記表面上で前記溶液の脱濡れが開始する臨界厚よりも厚くなるように塗布し、
前記脱濡れ工程では、前記溶液の塗布厚みが前記臨界厚以下となるまで、前記溶液から前記溶剤を蒸発させることを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記脱濡れ工程を、前記水滴形成工程の前に行うことを特徴とする請求項3記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記脱濡れ工程を、前記水滴形成工程の後に行うことを特徴とする請求項3記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記表面における前記溶液の接触角が5°以上であることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記塗布工程の前に、前記表面における前記溶液の接触角が5°以上となるように前記表面を加工する表面加工工程を行うことを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−84014(P2010−84014A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254603(P2008−254603)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】