多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物
【課題】多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法及びそれらを含む薬物伝達体に関するものである。本発明の多孔性中空シリカナノ粒子は、内部に広い中空を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のシリカナノ粒子は、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シルカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体として効果的に使われる長所を有する。
【解決手段】本発明は、多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法及びそれらを含む薬物伝達体に関するものである。本発明の多孔性中空シリカナノ粒子は、内部に広い中空を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のシリカナノ粒子は、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シルカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体として効果的に使われる長所を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に大きな中空を有するコア部を含み、外部のシリカセル部の気孔のサイズが制御されて、多量の薬物を持続的で安定的に放出することができる多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
制御放出技術(controlled release technology)を使った薬物伝達(drug delivery)技術は、1970年に始まって以来、急速な発展を繰り返えして現在多様な製品が販売されているか、開発中である。
【0003】
薬物伝達体(drug carrier)に関する研究は、最近には非経口システム(parenteral system)だけではなく、口(oral)、肺(pulmonary)、鼻(nasal)または目(ophthalmic)を通じる伝達のような多様な経口システム(non−parenteral system)分野でも活発になされている。しかし、現在まで知られた薬物伝達体は、そのサイズが大き過ぎて、粘膜(mucosal membrane)または体循環系(systemic circulation)を通じて目的組職(target tissues)に伝達しにくい。これにより、制御放出薬物伝達システムに使われる薬物伝達体としてナノサイズ粒子の製造技術が注目を浴びている。
【0004】
一方、最近生分解性高分子(biodegradable polymer)に基づいた多様な薬物伝達システムが研究されており、そのうち一部は商用化されている。最近開発されたゾルゲル(sol−gel)法に基づいた技術は、生物学的に活性を有する製剤を室温でシリカキセロゲル(silica xerogel)に導入し、前記のゲルマトリックスから内部に含有された製剤の放出様相を調節することができる新たな可能性を提示したことがある(S.B.Nicoll.,et al,In vitro release kinetics of biologically active transforming growth factor−β1 from a novel porous glass carrier,Biomaterial 18(1997)853−859など)。
【0005】
前記のようなゾルゲル技術は、安くて、簡便であり、かつ多用途に使われることができ、生産されたシリカキセロゲルは、無毒性の生体互換性物質という長所がある(P.Kortesuo.,et al,Silica Xerogel as as implantable carrier for controlled drug deliver evaluation of drug distribution and tissue effects after implantation,Biomaterial 21(2000)193−198)。
【0006】
前記のようなシリカキセロゲルシステムの多くの長所によって、ヘパリンのような多様な治療物質の制御放出伝達用の物質として前記システムに対する研究が進められている(M.S.Ahola.,et al,In vitro release of heparin from silica xerogels,Biomaterials 22(2001)2163−2170)。
【0007】
しかし、現在まで知られた大部分のシリカキセロゲルを利用したシステムは、内部に治療剤が捕獲(entrapment)または吸収されているか、または表面に化学的に治療剤が結合されている高分子から製造された伝達体である。したがって、このような技術は、製造過程で架橋剤の使用、温度及びpHなどの制御工程が必要であり、このような制御過程で搭載された薬物に副作用を誘発するおそれが大きくて、臨床学的利用が非常に制限される短所がある。
【0008】
このような問題を解決するために、多様な鋳型合成法(templateing method)などを使って内部に空き空間が形成されている多孔質の中空シリカ粒子(porous hollow silica particle)を製造し、これを薬物伝達体として使う方法を思うことができる(F.Caruso.,et al,Nanoengineering of inorganic and hybrid hollow spheres by colloidal templating,Science 282(1998)1111−1114)。
【0009】
しかし、現在まで知られた技術では、使われる鋳型(template)はナノレベルの中空粒子(nanosized hollow particle)を安定的に製造しにくい問題がある。また、ナノレベルの中空粒子を製造しても、そのような粒子内部の中空のサイズが非常に小さくて薬物の封入量が非常に低下するか、または中空部を包んでいるセル部の気孔のサイズ制御が難しく、これにより、薬物放出様相の制御が困って薬物伝達体として使われるには十分ではないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を考慮してなされたものであって、シリカナノ粒子内部に大きな中空を有するコア部を安定的に形成することができ、前記中空サイズの自在な制御が可能であり、また、多孔質シリカセル部の気孔のサイズが制御されて効果的な薬物放出様相を表わすことができる中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するための手段であって、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、表面作用基を有する多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子を提供する。
【0012】
本発明は、また前記課題を解決するための他の手段であって、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子を提供する。
【0013】
前記本発明の多孔性中空シリカナノ粒子で使われる生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上であることが望ましい。
【0014】
また、本発明の中空シリカナノ粒子は、直径が20nmないし250nmであることが望ましい。
【0015】
本発明は、また前記課題を解決するためのまた他の手段であって、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する第2段階と、シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階と、を含む中空シリカナノ粒子の製造方法を提供する。
【0016】
前記本発明の製造方法では、中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに実行しうる。
【0017】
前記本発明の製造方法で磁性ナノクラスターは、(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0018】
本発明は、前記課題を解決するためのさらに他の手段であって、前述した本発明による中空シリカナノ粒子と、前記ナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分を含む薬物伝達体と、を提供する。
前記本発明の薬物伝達体では、下記式(1)で計算される薬剤学的活性性分の封入比率が1%ないし100%であることを特徴とする。
【0019】
【数1】
【0020】
本発明は、また前記課題を解決するためのさらなる手段であって、前述した本発明による中空シリカナノ粒子及び薬剤学的に許容される担体を含む薬剤学的組成物を提供する。
前記本発明の薬剤学的組成物は、シリカナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分をさらに含みうる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔性中空シリカナノ粒子は、内部に広い中空(cavity)を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のシリカナノ粒子は、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シリカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体または薬剤学的組成物に効果的に使われる長所を有する。さらに、本発明では、前記のようなシリカナノ粒子を磁性ナノクラスターを鋳型として製造することによって、中空サイズの自在な制御が可能であるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例でポリエチレングリコールによって表面改質された中空シリカナノ粒子を製造した過程を表わす模式図である。
【図2】本発明の実施例の製造過程で製造されたそれぞれのナノ粒子を図示した模式図である。
【図3】実施例で製造された磁性ナノ粒子(3(a))、磁性ナノクラスター(3(b))、磁性体含有シリカ粒子(3(c))及び中空シリカナノ粒子(3(d))の透過電子顕微鏡(TEM)写真を表わす図面である。
【図4】(a)は本発明の実施例の製造過程の各段階の結果物のサイズ分布及びゼータ電位を表わす図面であり、(b)は本発明の実施例の製造過程のうちシリカナノ粒子内部で磁性体を除去する過程を表わす写真である。
【図5】本発明の実施例で製造された磁性体−含有シリカナノ粒子(a)及び中空シリカナノ粒子(b)に対するX線回折分析結果を表わす図面である。
【図6】本発明の実施例で製造された各結果物の赤外線分光(FT−IR)結果を図示したグラフであり、グラフのうちaは磁性ナノクラスター、bは磁性体−含有シリカナノ粒子、そして、cは中空シリカナノ粒子に対する赤外線分光分析結果を図示したグラフである。
【図7】本発明の実施例で製造された磁性体−含有シリカナノ粒子(a)及び中空シリカナノ粒子(b)の熱重量分析(TGA)結果を図示したグラフである。
【図8】本発明の実施例で製造された磁性ナノクラスター(MKs)(a)、磁性体−含有シリカナノ粒子(MSNPs)(b)、及び中空シリカナノ粒子(HSNPs)(c)のX線光電子スペクトル分析結果及びそれぞれのSiとFeとの構成比率を図示したグラフ(d)である。
【図9】本発明の実施例で製造された各粒子の窒素吸着/脱着量を図示したグラフである。
【図10】本発明の試験例で製造された薬物伝達体の時間別の薬物放出量を図示したグラフ(a)及び放出量反対数(semi−logarithmic)グラフ(b)である。
【図11】本発明の試験例で製造された抗癌剤−封入ナノ粒子の蛍光顕微鏡写真(a)及び遠心分離によって沈澱された抗癌剤−封入ナノ粒子の写真(b)及び水溶状に分散された状態の抗癌剤−封入ナノ粒子の写真(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、表面作用基を有する多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子(Porous Hollow Silica Nanoparticle;以下、“PHSN”または“HSNP”と称する場合がある)に関するものである。本発明のシリカナノ粒子は、内部に広い中空を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のPHNSは、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シリカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体として効果的に使われる長所を有する。
【0024】
以下、本発明の中空シリカナノ粒子をより詳しく説明する。
【0025】
本発明のシリカナノ粒子は、多孔質シリカセル部によって取り囲まれており、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部を含むことを特徴とする。この際、前記コア部は、40nmないし100nmの中空径を有することがより望ましい。本発明で使う用語「中空」は、殻をなす多孔質シリカ(多孔性シリカセル部)によって取り囲まれた内部の空き空間を意味する。本発明では、前記のようにシリカ粒子内部に大きな体積の中空を形成させることによって、薬物伝達体などとして使われる場合に、既存に比べて格段に向上した薬物封入効率を表わすことができる。前記中空径が1nm未満であれば、薬物封入効率が過度に低下して中空形成の意味が無くなるおそれがあり、100nmを超過すれば、中空のサイズが過度に大きくなって薬物放出挙動の制御が難しくなるおそれがある。
【0026】
本発明のシリカナノ粒子はまた、前述した中空コア部を取り囲む多孔質シリカセル部を含み、前記セル部に表面作用基が導入されていることを特徴とする。本発明では、前記のようにシリカセル部に表面作用基を導入するか、または前記作用基を通じて生体的合性高分子などを導入することによって、シリカセル部の気孔(細孔)のサイズを制御することができ、これにより、中空コア部及び/または気孔内に導入される薬物の放出速度を制御することができる。本発明のシリカナノ粒子に導入されることができる表面作用基の種類は、特別に限定されず、シリカセル部及び後述する生体的合成高分子との化学結合が可能であるものであれば、特別に制限されない。このような表面作用基の例には、−COOH、−CHO、−NH2 、−SH、−CONH2 、−PO3 H、−PO4 H、−SO3 H、−SO4 H、−OH、−NR4+X− 、−スルホン酸、−硝酸、−ホスホン酸、−スクシンイミジル基、−マレイミド基及び−アルキル基からなる群から選択される一つ以上である作用基が挙げられる。また、本発明で、前記のような表面作用基を有するシリカナノ粒子は、直径が10nmないし200nmであることが望ましい。前記直径が10nmより小さければ、気孔のサイズの調節が難しくなるおそれがあり、200nmを超過すれば、生体内への適用が難しくなるおそれがある。
【0027】
本発明はまた、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子に関するものである。本発明で、前記生体的合性高分子への表面改質は、前述したシリカセル部の表面作用基を介してなされうる。このような生体的合性高分子への表面改質を通じて、セル部の気孔のサイズの追加的な制御が可能である。
【0028】
本発明のシリカナノ粒子で、前記生体的合性高分子は、重量平均分子量が100ないし100,000であることが望ましい。前記重量平均分子量が100より小さければ、生体内で毒性を示すおそれがあり、100,000を超過すれば、応用が困るようになって望ましくない。本発明では、高分子の重量平均分子量が前述した範囲に属するとすれば、その具体的な種類は、特別に制限されない。本発明では、例えば、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上の生分解性高分子を使うことができ、ポリアルキレングリコールを使うことがより望ましい。前記ポリアルキレングリコールの望ましい例としては、ポリエチレングリコール(PEG)及び/またはモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)などが挙げられる。
【0029】
前記のような生体的合性高分子は、本発明でシリカ粒子の質量対比5%ないし50%の量で含まれることが望ましい。前記含量が5%より小さければ、シルカセル部の気孔のサイズの制御効果が十分ではないおそれがあり、50%を超過すれば、内部中空及び気孔のサイズが過度に低下するおそれがある。また、生体的合性高分子で表面改質された本発明のナノ粒子の中空コア部は、直径1nmないし100nmの中空を有することを特徴とし、この際、前記直径は、40nmないし100nmであることがより望ましい。前記直径が1nmより小さければ、中空形成自体の意義が下がるおそれがあり、100nmを超過すれば、中空のサイズが過度に大きくなって薬物放出挙動の制御が難しくなるおそれがある。また、前記のように生体的合性高分子で表面改質されたシルカセル部は、気孔のサイズ(pore size)が1Åないし100Åであることが望ましい。前記直径が1Åより小さければ、薬物などの放出効率が過度に落ちるおそれがあり、100Åを超過すれば、薬物などの放出速度制御が難しくなるおそれがある。さらに、前記で多孔質シリカセル部は、1nmないし50nm範囲の厚さを有することが望ましい。前記厚さが1nmより小さければ、薬物封入安定性が落ちるおそれがあり、50nmを超過すれば、薬物放出速度が過度に低下するおそれがある。また、前記生体的合性高分子で表面改質されたシリカナノ粒子は、直径が20nmないし250nmであることが望ましく、80nmないし250nmであることがより望ましい。前記シリカナノ粒径が80nmより小さければ、気孔のサイズの制御が難しくなるおそれがあり、250nmを超過すれば、生体への適用が難しくなるおそれがある。
【0030】
前述した本発明のシリカナノ粒子は、また表面に導入された組職特異的結合成分(tissue−specific binding substance)をさらに含みうる。本発明で使う用語『組職特異的結合成分』は、生体内の特定組職と特異的に結合することができる物質を意味し、このような物質を導入することによって、薬物伝達体を目的する部位により容易に到逹させうる。前記のような成分の例には、抗原、抗体、RNA、DNA、ハプテン(hapten)、アビジン(avidin)、ストレプトアビジン(streptavidin)、ニュートラビジン(neutravidin)、プロテインA、プロテインG、レクチン(lectin)、セレクチン(selectin)、放射線同位元素で標識された成分及び腫瘍マーカー(tumor marker)と特異的に結合することができる物質を含むが、これに制限されない。前記使われた用語『腫瘍マーカー』は、腫瘍細胞で発現及び/または分泌されるものであって、正常細胞ではほとんどまたは全然生産されない特定物質を意味する。当業界には、このような多様な腫瘍マーカーだけではなく、これらと特異的に結合することができる物質が公知されている。前記のような腫瘍マーカーは、下記表2に表われたように、作用機作によってリガンド、抗原、受容体及びこれらをコーディングする核酸に分類することができる。
【0031】
【表1】
【0032】
腫瘍マーカーがリガンドである場合には、前記リガンドと特異的に結合することができる物質を本発明のシリカナノ粒子に導入することができ、その例としては、前記リガンドと特異的に結合することができる受容体または抗体が挙げられる。本発明で利用可能なリガンド及びこれと特異的に結合することができる受容体の例としては、シナプトタグミンのC2(synaptotagminのC2)とフォスファチジルセリン、アネキシンV(annexinV)とフォスファチジルセリン、インテグリン(integrin)とその受容体、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)とその受容体、アンジオポエチン(angiopoietin)とTie2受容体、ソマトスタチン(somatostatin)とその受容体、バソインテスチナルペプチド(vasointestinal peptide)とその受容体などが挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0033】
また、腫瘍マーカーが抗原である場合、前記抗原と特異的に結合することができる物質を本発明によるシリカナノ粒子で導入することができ、このような物質としては、抗体が挙げられる。本発明で利用可能な抗原及びこれと特異的に結合する抗体の例としては、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen−大膓癌標識抗原)とハーセプチン(Genentech、USA)、HER2/neu抗原(HER2/neuantigen−乳房癌標識抗原)とハーセプチン、前立腺特異抗原(prostate−specific membrane antigen−前立腺癌標識抗原)とリツキサン(IDCE/Genentech、USA)などがある。
【0034】
腫瘍マーカーが受容体である代表的な例としては、卵巣癌細胞で発現される葉酸受容体がある。前記受容体と特異的に結合することができる物質(葉酸受容体の場合には、葉酸)が、本発明によるシリカナノ粒子で導入されることができ、その例としては、前記受容体と特異的に結合することができるリガンドまたは抗体が挙げられる。
【0035】
前述したように、抗体は、本発明において、特に望ましい組職特異的結合成分である。抗体は、特定対象とのみ選択的で安定的に結合する性質を有しており、Fc領域にあるリジンの−NH2 、システインの−SH、アスパラギン酸及びグルタミン酸の−COOHは、本発明のシリカナノ粒子への導入時に有用に利用されることができる。
【0036】
このような抗体は、商業的に入手するか、当業界に公知された方法によって製造することができる。前記のような抗体を収得するための方法の一例を挙げれば、下記のようである。すなわち、哺乳動物(例、マウス、ラット、山羊、ウサギ、馬または羊)を適量の抗原で1回以上免疫化させる。一定時間後、力価が適正レベルに至った時、哺乳動物の血清を回収する。回収した抗体は、所望の場合、公知された工程を用いて精製し、使用時まで冷凍緩衝された溶液に貯蔵することができる。このような方法の詳細な事項は、当業界によく知られている。
【0037】
一方、前記“核酸”は、前述したリガンド、抗原、受容体またはその一部分をコーディングするRNA及びDNAを含む。核酸は、当業界で知られたように、相補的な配列間に塩基対(base pair)を形成する特徴を有している。したがって、特定塩基配列を有する核酸は、前記に相補的な塩基配列を有する核酸を用いて検出することができる。これにより、前記リガンド、抗原、受容体をコーディングする核酸と相補的な塩基配列を有する核酸とを本発明によるシリカナノ粒子の組職特異的結合成分として利用することができる。核酸は、5’−及び3’−末端に−NH2 、−SH及び−COOHなどの作用基があり、このような作用基は、ナノ粒子への導入時に有用に利用されることができる。このような核酸は、当業界に公知された標準方法によって、例えば、自動DNA合成器(例、バイオサーチ、アプライドバイオシステムズなどから購入することができるもの)を使って合成することができる。その例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、文献(Stein et al.Nucl.Acids Res.1988,vol.16,p.3209)に記述された方法によって合成することができ、メチルホスホン酸オリゴヌクレオチドは調節されたガラス重合体の支持体を使って製造することができる(Sarin et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1988,vol.85,p.7448)。
【0038】
前述したような組職特異的結合成分は、本発明のシリカナノ粒子のセル部に含まれる表面作用基を介して導入されるか、生体的合性高分子によって表面改質された場合には、前記高分子内に特定結合領域を導入した後、前記領域を介して導入することもできる。この際、導入される結合領域の具体例は、導入される組職特異的結合成分の種類によって決定され、特別に限定されるものではなく、例えば、前述した表面作用基に対応する機能基などが挙げられる。
【0039】
本発明はまた、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する第2段階と、シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階と、を含む中空シリカナノ粒子の製造方法に関するものである。
本発明ではまた、前述した各段階を経た後で、中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに含むこともできる。
【0040】
以下、本発明の方法の各段階をより詳しく説明する。
【0041】
本発明の第1段階は、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する段階であり、これにより、前記前駆体の磁性ナノクラスターへの結合及び加水分解反応を誘導する。前記第1段階で磁性ナノクラスターは、本発明のナノ粒子の中空コア部を形成するための鋳型としての役割を果たす。本発明では、このように磁性ナノクラスターを鋳型として使うことによって、既存に比べて大きな中空をナノ粒子の内部に形成させることができ、また前記中空サイズの自在な制御が可能となるという長所を有する。
【0042】
このような磁性ナノクラスターを製造する方法は、特別に限定されず、例えば、下記に提示された方法を通じて製造可能である。
【0043】
すなわち、前記磁性ナノクラスターは、(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0044】
前記磁性ナノクラスターの製造方法で使われる磁性ナノ粒子を製造する方法も、特別に限定されず、例えば、(a)溶媒の存在下にナノ粒子前駆体及び有機性表面安定剤を反応させる段階と、(b)前記反応物を熱分解する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0045】
前記段階(a)は、有機性表面安定剤が含まれた溶媒にナノ粒子前駆体を投入してナノ粒子表面に有機性表面安定剤を配位させる段階である。
【0046】
この際、使われるナノ粒子前駆体の具体的な種類は、特別に限定されず、その例としては、金属と−CO、−NO、−C5 H5 、アルコキシド(alkoxide)またはその他の公知のリガンドが結合された金属化合物が挙げられることができ、具体的には、鉄ペンタカルボニル(iron pentacarbonyl、Fe(CO)5 )、フェロセン(ferrocene)、またはマンガンカルボニル(Mn2 (CO)10)などの金属カルボニル系列の化合物と、または鉄アセチルアセトナト(Fe(acac)3 )などの金属アセチルアセトナト系列の化合物など、各種の有機金属化合物を使用できる。また、ナノ粒子前駆体としては、金属とCl− 、またはNO3−などの公知された陰イオンと結合された金属イオンを含んだ金属塩を使うことができ、その例としては、塩化第二鉄(FeCl3 )、塩化第一鉄(FeCl2 )または硝酸鉄(Fe(NO3 )3 )などが挙げられる。もし、合金ナノ粒子及び複合ナノ粒子などを合成しようとする場合には、前記で言及した2種以上の金属の前駆体の混合物を使えば良い。また、本発明の段階(a)で使われる有機性表面安定剤の例としては、ハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム(alkyl trimethylammonium halide)、飽和または不飽和脂肪酸、トリアルキルホスフィンオキシド(trialkylphosphine oxide)、アルキルアミン(alkyl amine)、アルキルチオール(alkyl thiol)、アルキル硫酸ナトリウム(sodium alkyl sulfate)、及びアルキルリン酸ナトリウム(sodium alkyl phosphate)からなる群から選択された一つ以上が挙げられる。
【0047】
前記段階(a)で使われる溶媒は、ナノ粒子前駆体の表面に有機性表面安定剤が配位された錯化合物の熱分解温度に近接する高い沸点を有することが望ましく、このような溶媒の例としては、エーテル系化合物、ヘテロ環化合物、芳香族化合物、スルホキシド化合物、アミド化合物、アルコール、炭化水素及び/または水などが挙げられる。具体的に、前記溶媒は、オクチルエーテル(octyl ether)、ブチルエーテル(butyl ether)、ヘキシルエーテル(hexyl ether)、またはデシルエーテル(decyl ether)のようなエーテル系化合物と、ピリジン、またはテトラヒドロフランのようなヘテロ環化合物と、トルエン、キシレン、メシチレン、またはベンゼンのような芳香族化合物と、ジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホキシド化合物と、ジメチルホルムアミド(DMF)のようなアミド化合物と、オクチルアルコール、またはデカノールのようなアルコールと、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、またはヘキサデカンのような炭化水素、または水と、を使用できる。
【0048】
前記段階(a)の反応条件は、特別に制限されず、金属前駆体及び表面安定剤の種類によって適切に調節することができる。例えば、前記反応は、室温またはその以下の温度でも進行することができ、通常的には約30℃ないし200℃の範囲で加熱及び保持させることが望ましい。
【0049】
前記段階(b)は、ナノ粒子前駆体の表面に有機性表面安定剤が配位された錯化合物を熱分解してナノ粒子を成長させる段階である。この際、反応条件によって均一なサイズ及び形状のナノ粒子を形成することができ、前記熱分解温度は、金属前駆体及び表面安定剤の種類によって適切に調節することができる。望ましくは、約50℃ないし500℃に反応させることが適切である。前記段階(b)で製造されたナノ粒子は、公知の手段を通じて分離及び精製することができる。
【0050】
本発明の製造方法では、前記のように製造された磁性ナノ粒子及び前述した段階(1)ないし(4)の方法を使って磁性ナノクラスターを製造する。このような磁性ナノ粒子の具体的な種類は、前述したナノ粒子前駆体の種類によって決定され、特別に限定されるものではないが、金属物質(metal material)、磁性物質(magnetic material)、または磁性合金(magnetic alloy)であることが望ましい。前記で金属物質の例としては、Pt、Pd、Ag、Cu及びAuからなる群から選択された一つ以上が挙げられることができ、磁性物質の例としては、Co、Mn、Fe、Ni、Gd、Mo、MM’2 O4 、及びMx Oy (M及びM’は、それぞれ独立的にCo、Fe、Ni、Mn、Zn、Gd、またはCrを表わし、0<x≦3、0<y≦5)からなる群から選択されるものが一つ以上挙げられることができ、磁性合金の例としては、CoCu、CoPt、FePt、CoSm、NiFe及びNiFeCoからなる群から選択された一つ以上が挙げられる。
【0051】
本発明の方法で、前記磁性ナノ粒子を使って磁性ナノクラスターを製造する前記方法の具体的な条件を特別に限定しない。すなわち、本発明の磁性ナノクラスターは、クロロホルムのようなオイル状と、超純水のような水溶状と、ポリビニルアルコールのような両親媒性化合物を使って、この分野の通常のエマルジョン法を通じて製造可能である。また、前記磁性ナノクラスターの製造時には、オレイン酸カリウム(potassium oleate)またはオレイン酸ナトリウム(sodium oleate)のような石鹸と、エアゾール(登録商標) OT(aerosol OT)、コール酸ナトリウム(sodium cholate)またはカプリル酸ナトリウム(sodium caprylate)のような陰イオン性洗剤(anionic detergent)と、塩化セチルピリジニウム(cetylpyridinium chloride)、臭化アルキルトリメチルアンモニウム(alkyltrimethylammonium bromide)、塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)または臭化セチルジメチルエチルアンモニウム(cetyldimethylethylammonium bromide)のような陽イオン性洗剤と、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニオ−1−プロパンスルホネート(N−alkyl−N,N−dimethylammonio−1−propanesulfate)またはCHAPSのような双性イオン性洗剤(zwitterionic detergent)と、ポリオキシエチレンエステル(polyoxyethylene ester)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(polyoxyethylenesorbitan ester)、ソルビタンエステル(sorbitan ester)または各種のトリトン(triton)(例えば、TX−100またはTX−114)のような非イオン性洗剤の1種または2種以上の混合物のような適切な界面活性剤の存在下で実行される。このような界面活性剤は、水溶状とオイル状との間の表面張力(interfacial tension)を減少させて、エマルジョン内に分散されたオイル状または水溶状が熱力学的に安定した状態で存在できるようにする。
【0052】
本発明の第1段階では、前記のように製造された磁性ナノクラスター及びシルカセル部を形成するシリカ前駆体を適切な溶媒で混合することによって、前記前駆体のクラスターへの結合及び加水分解反応を進行させる。
【0053】
この際、使われる溶媒の種類は、特別に限定されず、この分野で公知された各種の水性及び有機溶媒を使用できるが、望ましくは、水とアルコールの混合溶媒を使う。前記混合溶媒のうち水は、添加されたシリカ前駆体の加水分解反応を進行させる役割を果たすが、この段階で、本発明の第2段階で縮合及びゲル化反応を進行させることができるヒドロキシル基がシリカ前駆体内の珪素原子に導入される。通常シリカ前駆体は、水によく溶解されないために、アルコールのような適切な有機溶媒と混合して使う。前記でアルコールは、水とシリカ前駆体の両者をいずれも溶解させることができ、これにより、水とシリカ前駆体とを均質に混合させて加水分解反応を進行させることができる。この際、水とアルコールとの混合比率は、特別に制限されるものではなく、この分野の当業者は、適切な混合比率を容易に選択することができる。
【0054】
本発明の第1段階で添加されるシリカ前駆体は、磁性ナノクラスター上にシリカセル部を形成することができれば、特別に限定されるものではないが、テトラメトキシシラン(tetramethoxy silane)及び/またはテトラエトキシシラン(tetraethoxy silane)のようなアルコキシシランを使うことが望ましく、このうちテトラエトキシシランを使うことが望ましい。本発明の第1段階では、前記アルコキシシランの使用量を調節して目的するセル部の厚さを制御することができるが、前記使用量は、この分野の当業者によって適切に選択されることができる。本発明の第1段階で、シリカ前駆体の加水分解反応を進行させる方法は、特別に限定されず、例えば、還流(reflux)条件下で撹拌させる一般的な方法で進行できる。また、本発明の第1段階では、酸性触媒(ex.HCl、CH3 COOHなど)または塩基触媒(ex.KOH、NH4 OHなど)などの適切な触媒を添加して、前記加水分解反応を促進させることもできる。
【0055】
本発明の第2段階は、前記加水分解されたシリカ前駆体の縮合を通じるゲル化反応を進行させて磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する段階であり、これを通じて、加水分解された前駆体は、クラスター表面にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して縮合及びゲル化される。
【0056】
前記縮合反応は、脱水縮合及びアルコール縮合反応に分類されることができる。脱水縮合反応時には、第1段階の加水分解反応時に前駆体に導入されたヒドロキシル基(OH)間の結合を通じてシロキサン結合を形成しながら、水が除去される。また、アルコール縮合反応時には、前記ヒドロキシル基とアルコキシ基(OR)との結合を通じてシロキサン結合を形成しながら、アルコールが除去される。このような縮合及びゲル化反応を進行させる方法は、特別に限定されず、例えば、混合物を適切な温度条件下で撹拌させることで実行される。
【0057】
本発明の第3段階は、シリカセル部が形成された粒子内部の磁性ナノクラスターを除去する段階である。この際、磁性ナノクラスターを除去する方法は、特別に限定されず、例えば、前記粒子を塩酸及び硫酸のような磁性体を溶かすことができる物質で処理する方法が挙げられる。本発明の第3段階では、また前記のような処理を通じて内部磁性体を除去した粒子を高温で焼成することで残存する有機物質を除去する段階をさらに実行しうる。
【0058】
本発明の第4段階は、前記第3段階で内部磁性体が除去されたシリカセル部に表面作用基を導入する段階である。すなわち、前述したシリカ前駆体(アルコキシシラン)の加水分解反応によって製造されたシリカ粒子の表面にはヒドロキシル基が残存するが、このような粒子の表面を前述した表面作用基を導入することができる前駆物質で処理することで、本発明の第4段階が実行される。前記のような前駆物質の具体的な種類は、特別に限定されず、導入しようとする表面作用基に対応する一般的な前駆物質を制限なしに使うことができる。例えば、アミノ基を導入しようとする場合には、前駆物質としてアミノアルキルアルコキシシランなどを使用できる。この際、使われる前駆物質の量は、特別に限定されないが、前記第3段階を経て粒子表面に導入されたヒドロキシル基の量の5%以上の表面作用基が導入されることができる量で使うことが望ましい。
【0059】
以上のような方法で製造された中空シリカナノ粒子は、この分野の一般的な分離及び/または精製方法を通じて分離されることができる。本発明ではまた、前述した各段階を経て中空シリカナノ粒子を製造した後で、中空シリカナノ粒子を生体的合成高分子で表面改質する第5段階をさらに含むことが望ましい。
【0060】
前記で、生体的合性高分子への表面改質方法は、特別に限定されず、例えば、前述したそれぞれの高分子に多孔性中空シリカナノ粒子のシリカセル部に存在する表面作用基と結合することができる各種の機能基を導入した後、これを介して生体的合成高分子を導入する方法が挙げられる。この際、導入されることができる機能基の種類は、特別に限定されず、この分野の当業者は、ナノ粒子の表面作用基の種類によって適切な機能基の種類を容易に選択することができる。ナノ粒子表面に存在することができる表面作用基の種類及び対応機能基とそれらの結合関係の代表的な例を説明すれば、下記表1に表わした通りである。
【0061】
【表2】
【0062】
前記のような機能基を生体的合性高分子で導入する方法も、特別に限定されず、例えば、導入しようとする機能基に対応する適切な架橋剤などの手段を使って自由に導入することができる。このような架橋剤の例としては、4−ジイソチオシアネートベンゼン(1,4−Diisothiocyanatobenzene)、1,4−フェニレンジイソシアネート(1,4−Phenylene diisocyanate)、1,6−ジイソシアナトヘキサン(1,6−Diisocyanatohexane)、4−(4−マレイミドフェニル)酪酸 N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(4−(4−Maleimidophenyl)butyric acid N−hydroxysuccinimide ester)、ホスゲン(Phosgene solution)、4−(マレイミド)イソシアン酸フェニル(4−(Maleinimido)phenyl isocyanate)、1,6−ヘキサンジアミン(1,6−Hexanediamine)、p−ニトロフェニルクロロフォーメイト(p−Nitrophenyl chloroformate)、N−ヒドロキシスクシンイミド(N−Hydroxysuccinimide)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1,3−Dicyclohexylcarbodiimide)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(1,1’−Carbonyldiimidazole)、3−マレイミド安息香酸 N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(3−Maleimidobenzoic acid N−hydroxysuccinimide ester)、エチレンジアミン(Ethylenediamine)、ビス(4−ニトロフェニル)炭酸(Bis(4−nitrophenyl)carbonate)、スクシニルクロリド(Succinyl chloride)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸(N−(3−Dimethylaminopropyl)−N’−ethylcarbodiimide Hydrochloride)、N,N’−炭酸ジスクシンイミジル(N,N’−Disuccinimidyl carbonate)、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(N−Succinimidyl 3−(2−pyridyldithio)propionate)及び/または無水コハク酸(sucinic anhydride)などが挙げられる。
【0063】
本発明はまた、前述した本発明によるシリカナノ粒子と、前記ナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔内に封入された薬剤学的活性成分と、を含む薬物伝達体に関するものである。前述したように、本発明のシリカナノ粒子は、既存公知されたナノ薬物伝達体と比べて格段に多量の薬剤学的活性成分の封入及び気孔のサイズの制御を通じる持続的で安定的な薬物放出が可能であるので、薬物伝達体として効率的に使われる。
【0064】
すなわち、前述したように、本発明では、ナノ粒子内部に大きな中空の形成が可能であり、必要によって前記中空サイズの自在な制御が可能である。したがって、本発明では、粒子が使われる状況によって封入される薬物の比率を自由に調節することができ、例えば、本発明の薬物伝達体は、下記式(1)で表示される封入比率が、1%ないし100%である。
【0065】
【数2】
【0066】
本発明の薬物伝達体内に導入されることができる薬剤学的活性成分の種類は、特別に制限されず、この分野で公知された各種の成分を使用できる。前記のような薬剤学的活性成分の例としては、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍壊死因子、エンドトキシン、リンホトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組職プラスミノゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識物質、界面活性剤、心血管系薬物、胃腸管系薬物及び神経系薬物からなる群から選択された一つ以上が挙げられる。前記で抗癌剤の具体例としては、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、タキソール(taxol)、プロカルバジン(procarbazine)、シクロフォスファミド(cyclophosphamide)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、エトポシド(etoposide)、タモキシフェン(tamoxifen)、ドキソルビシン(doxorubicin)、マイトマイシン(mitomycin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリカマイシン(plicamycin)、トランスプラチナ(transplatinum)、ビンブラスチン(vinblastin)及び/またはメトトレキサート(methotrexate)などが挙げられるが、これに制限されるものではない。前記のような薬第学的活性成分を本発明のシリカナノ粒子に導入する方法は、特別に限定されず、例えば、適切な溶媒内でナノ粒子及び薬剤学的活性成分をともに混合する方法などを使って導入することができる。
【0067】
また、前記本発明の薬物伝達体が適用可能な疾病の種類は、特別に限定されず、例えば、胃癌、肺癌、乳房癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵膓癌、膀胱癌、結腸癌及び/または子宮頸部癌などが挙げられる。しかし、本発明の薬物伝達体の用途は、前記疾病に限定されず、内部に含有される薬剤学的活性成分を多様に調節して、各種の用途として使われる。
【0068】
本発明はまた、前述した本発明による薬物伝達体と、薬剤学的に許容される担体と、を含む薬剤学的組成物に関するものである。
【0069】
本発明の薬剤学的組成物に封入されている薬剤学的活性成分及び前記組成物が適用される疾病の種類は、特別に限定されず、例えば、前述した薬物伝達体の場合と同一である。
【0070】
また、本発明の薬剤学的組成物に使われる担体の種類も、特別に制限されない。すなわち、前記担体は、医薬分野で通常使われる担体及びビヒクルを含み、具体的にイオン交換樹脂、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例、人血清アルブミン)、緩衝物質(例、多様な燐酸塩、グリジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物)、水、塩または電解質(例、硫酸プロタミン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム及び亜鉛塩)、膠質性シリカ、珪酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系基質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアリレート、ワックス、ポリエチレングリコールまたは羊毛脂などを含むが、これに制限されない。本発明の組成物はまた、前記成分の以外に潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、または保存剤などをさらに含みうる。
【0071】
本発明の一つの態様として、本発明による薬物伝達体または薬剤学的組成物は、非経口投与のための水溶性溶液で製造することができる。望ましくは、ハンクス溶液(Hank’s solution)、リンガー溶液(Ringer’s solution)または物理的に緩衝された塩水のような緩衝溶液を使用できる。水溶性注入(injection)懸濁液は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランのように懸濁液の粘度を増加させることができる基質を添加することができる。本発明の組成物の他の望ましい態様は、水性または油性懸濁液の滅菌注射用の製剤の形態であり得る。このような懸濁液は、適した分散剤または湿潤剤(例えば、ツイン80)及び懸濁化剤を使って、本分野に公知された技術によって剤型化することができる。滅菌注射用の製剤は、また無毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液)であり得る。使われるビヒクル及び溶媒としては、マンニトール、水、リンガー溶液及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。また、滅菌不揮発性オイルが通常の溶媒または懸濁化媒質として使われる。このような目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含んで刺激性の少ない不揮発性オイルは、そのいずれも使うことができる。
【0072】
[実施例]
以下、本発明による実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が、下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【0073】
実施例1
下記に提示された各段階を経てポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子を製造し、製造過程の模式図を図1に表わした。また、図2には、下記それぞれの段階で製造された結果物である表面にヒドロキシル基を有する中空シリカナノ粒子(図2のA)、表面にアミン基を有する中空シリカナノ粒子(図2のB)及びポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子(図2のC)の模式図を表わした。
【0074】
(1)磁性ナノ粒子の製造
12nmサイズのマグネタイト(Fe3 O4 )は、鉄トリアセチルアセトナト、ドデカン酸及びドデシルアミンを使って熱分解化学反応(thermal decomposition)を通じて合成した。具体的には、ベンジルエーテル溶媒20ml内に鉄トリアセチルアセトナト0.2mol、1,2−ヘキサデカンジオール1mol、ドデカン酸0.6mol及びドデシルアミン0.6molを添加し、引き続き、150℃で30分間加熱した後、290℃で30分間加熱して製造した。該製造された磁性ナノ粒子は、純粋なエタノールを用いて精製し、得られたマグネタイトの透過電子顕微鏡(TEM)写真を図3(a)に表わした。
【0075】
(2)磁性ナノクラスターの製造
前記(1)で収得された磁性ナノ粒子を使って、オイル状/水溶状エマルジョン(O/Wemulsion)方法で磁性ナノクラスター(以下、‘MKs’と称する)を製造した。具体的には、ポリビニルアルコール200mgを水溶状である超純水100mlに溶解させ、前記製造された磁性ナノ粒子5mgをオイル状であるクロロホルムに溶解させてエマルジョンを製造した。該製造されたエマルジョンを約6時間撹拌してオイル状を除去し、遠心分離を数回反復して不純物を除去して、一定サイズに凝集された高敏感度磁性ナノクラスターを製造した。このような方法で製造されたポリビニルアルコール(両媒性高分子)によって取り囲まれたMKsは、丸状を有することを透過電子顕微鏡(TEM)を通じて確認し、その結果を図3(b)に表わした。また、粒度分析器を通じて分析された前記MKsのサイズ分布は、45.3±5.9nmであり、非イオン性(non−ionic)ポリビニルアルコールで取り囲んだ結果、ゼータ電位は、0に近くに表われた。
【0076】
(3)シリカを利用したMKsのコーティング
前記(2)で収得されたMKsを超純水1ml、エタノール4ml及びアンモニア水0.1mlの混合物に再分散させ、引き続き、前記にTEOS(tetraethoxy silane)0.1mlをゆっくり注入してMKsをシリカでコーティングすることによって、内部にMKsを含むシリカナノ粒子(以下、‘MSNPs’と称する)を製造した。透過電子顕微鏡(TEM)を通じて製造されたMSNPsを検証した結果、シリカが磁性体(MKs)を完全に包んでいるということを確認し、その結果を図3(c)に表わした。前記のように製造されたMSNPsは、80.9±9.3nmのサイズ分布を表わした。また、前記MSNPsのゼータ電位は、−35.6±7.8mVとしてMKsに比べて負の値を表わしたが、これは、前記ゾルゲル過程中に発生したMSNPs表面上のヒドロキシル作用基に起因したものである。また、X線回折法(XRD)を用いて前記MSNPsの結晶性を確認した後、その結果を図5のaに表わした。
【0077】
(4)中空ナノシリカ粒子の製造
前記(3)で製造されたMSNPs 50mgを超純水5ml及び塩酸4mlの混合物に再分散させた。次いで、MSNPs内部のMKsが溶けながら焦茶色の溶液(図4(b)の(i))が明るい黄色(図4(b)の(ii))に変わることが観察された。MKsが完全に溶けた後、遠心分離を数回反復し、超純水で精製した。引き続き、前記を凍結乾燥し、300℃で焼成させることで有機物質を除去し、表面にヒドロキシル基を有する中空シリカナノ粒子(以下、‘HSNPs−OH’と称する)を製造した。該製造されたHSNPs−OHを透過電子顕微鏡(TEM)写真で確認した結果、粒子内部が完全に空になって球形の空洞(中空コア部)が形成されたことが分かり、その結果を図3(d)に表わした。HSNPs−OHのサイズ分布は、83.1±8.9nmであり、ぜータ電位は、−43.0±3.2mVであった(図4(a)参照)。
【0078】
(5)表面作用基の導入
前記(4)で製造されたHSNPs−OH 10mgと3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.05mlとを超純水内に70℃で12時間撹拌させ、遠心分離を数回反復して精製することによって、シリカ表面のヒドロキシル基をアミン基に置き換えた。表面にアミン基が導入されたHSNPs(以下、‘HSNPs−NH2’と称する)の場合、サイズ分布が、85.9±7.1nmであり、ゼータ電位は、−4.2±2.2mVであった。
【0079】
(6)生体的合性高分子への表面改質
前記(5)で製造されたHSNPs−NH2 を末端にカルボキシル基を有するポリエチレングリコール(PEG−diCOOH)を使って表面改質した。具体的には、ポリエチレングリコール0.05molをジオキサン10mlに入れて、活性化のために無水コハク酸(succinic anhydride)0.2mol、4−ジメチルアミノピリジン0.1mol及びトリエチルアミン0.1molを添加して、室温で24時間反応させた後で、フィルターで濾過し、カーボンテトラクロリドで精製した。その後、エチルエーテルで沈澱させ、真空状態で乾燥させて標準緩衝溶液を製造した。該製造された0.01molのカルボン酸エチル−ポリエチレングリコール標準緩衝溶液0.5mlにHSNPs−NH2 20mgを分散させ、0.2molのEDC/NHS(N−3−dimethylaminopropyl−N−ethylcarbodiimide hydrochloride/N−hydroxysuccinimide)を添加して4時間インキュベーションした。反応が進行しながらシリカセル部の表面でアミン基とポリエチレングリコールのカルボキシル基とが反応してアミド結合(O=C−N−H)が形成されることを赤外線分光法を通じて確認できた。未反応物質は、フィルター及び遠心分離を通じてフィルタリングし、ポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子(以下、‘HSNPs−PEG’と称する)を収得した。前記製造されたHSNPs−PEGのサイズ分布は、91.3±8.1nmであり、ゼータ電位は、1.3±3.2mVに表われた。
【0080】
試験例1
実施例のそれぞれの段階で目的する中空シリカナノ粒子が製造されたか否かを確認するために、X線回折法、赤外線分光法、熱重量分析法及びX線光電子スペクトルなどを使って試験を実行した。
【0081】
(1)X線回折分析
実施例1の(4)段階での酸処理及び焼成過程を通じてMSNPs内部の磁性体(MKs)が完全に除去されるかどうかを確認するために、X線回折分析を実行し、その結果を図5に表わした。図5のaは、内部に磁性体(MKs)を含有するシリカナノ粒子(MSNPs)の図面であり、図5のbは、酸処理及び焼成過程を経た後の粒子を表わす図面である。図5のa及びbから、磁性体(MKs)が除去される前には、シリケート及びスピネル構造の磁性ナノ粒子が存在したが、酸処理及び焼成後には、磁性ナノクラスター及び有機物質が存在しないということが分かり、これを通じて内部に磁性体が完全に除去されたということを確認できた。
【0082】
(2)赤外線分光分析
図6は、製造されたシリカ粒子の赤外線分光法(FT−IR)分析結果を表わす図面であって、図6のaはMKs、図6のbはMSNPs、図6のcはHSNPsに関する図面である。図6から、MKsが除去された後のシリカ粒子では、マグネタイトのFe−O結合(〜580cm−1)のピークが表われないということが分かり、これを通じて内部に磁性体が完全に除去されたということを確認できた。
【0083】
(3)熱重量分析
製造過程中に収得されたMSNPs及びHSNPsに対して熱重量分析法(TGA)を施行し、その結果を図7に表わした。図7(a)から分かるように、MSNPsの場合、260℃程度でドデカン酸及びポリビニルアルコールのような有機物が分解されながら、急な崩壊曲線を示すが、図7(b)で表われたように、300℃での焼成過程を経た場合、相対的に有機物含量が少ないことが分かった。これを通じても、MSNPs内部に磁性体が除去されたということを確認できた。
【0084】
(4)X線光電子スペクトル分析
X線光電子スペクトル(EDX)を通じて、本発明のHSNPsの製造過程で製造された各粒子の鉄含量を測定し、その結果を図8に表わした。図8(a)はMKs、図8(b)はMSNPs、図8(c)はHSNPsのEDX分析結果及びSiとFeとの構成比率を表わす図面である。図8に表われたように、MKsの場合、96.92±1.13%、MSNPsの場合、38.70±0.77%、そして、HSNPsの場合、2.86±0.46%の鉄含有量を表わした。
【0085】
試験例2
HSNPsコア部の中空(空洞)及びセル部のシリカ気孔(細孔)の体積を確認するために、BET法を用いて窒素吸着/脱着量を測定し、その結果を図9に表わした。図9に表われたように、HSNPs−PEGに吸着される窒素の量は、198.7cm3 /g以上で表われ、MSNPsに吸着される窒素の量は、92.7cm3 /gで表われた。また、改質前のシリカ粒子(HSNPs)より改質後の粒子(HSNPs−PEG)の窒素吸着量が少なく表われたが、これは中空サイズが表面のポリエチレングリコール分子によって縮まったためである。また、窒素吸着/脱着実験を通じて確認した結果、HSNPs−PEGの平均気孔のサイズは、約1.64nmであり、MSNPsの細孔サイズは、約2.3nmであったが、これもポリエチレングリコールで表面改質されながら気孔のサイズが縮まったためであると推測される。すなわち、ポリエチレングリコール分子は、シリカセル部の気孔のサイズを減らすと同時に、粒子内部の中空(空洞)のサイズも減少させることが分かった。
【0086】
試験例3
実施例の製造過程中に収得された3種の粒子(HSNPs−OH、HSNPs−NH2 及びHSNPs−PEG)10mgずつをそれぞれ抗癌剤(ドキソルビシン)5mgと標準緩衝溶液4ml内で混合して24時間反応させ、抗癌剤を導入した後、遠心分離で沈澱させた。このように抗癌剤を導入した後、その封入比率及び封入効率を下記式(2)及び式(3)によって計算し、その結果を表3に表わした。
【0087】
【数3】
【0088】
【数4】
【0089】
【表3】
【0090】
前記表1から分かるように、中空シリカナノ粒子が、表面作用基(アミン基)及び生体的合性高分子(ポリエチレングリコール)で改質されることによって、中空コア部及びセル部の細孔サイズが制御されて薬物(ドキソルビシン)の封入比率及び効率も変化された。
【0091】
引き続き、抗癌剤が搭載された各粒子を使って薬物放出試験を実行した。具体的には、抗癌剤−搭載粒子2mlを透析チューブで分散させ、標準緩衝溶液10mlに入れた。この状態で温度を37℃で保持しながら、赤外線吸光度測定器(UV−Vis spectrometer)を通じて480nmの波長で抗癌剤放出量を測定した。この際、抗癌剤−搭載粒子から抗癌剤の放出を誘導するために、室温で超音波(ultrasonication)処理し、放出された抗癌剤は遠心分離を通じて集めた。添付した図10は、表3に表われたそれぞれの封入比率及び効率を有するそれぞれの粒子の抗癌剤の放出様相を表わす図面である。具体的に、図10の(a)は、試験例で製造された薬物伝達体の時間別の薬物放出量を図示したものであり、(b)は、放出量反対数(semi−logarithmic)グラフである。また、それぞれの粒子の薬物放出様相を下記式(4)によって計算し、その結果を表4に整理した。
【0092】
【数5】
【0093】
前記式で、Xt 及びXinf は特定時間を表わし、tは薬物放出時間を表わし、infはinfiniteを意味(すなわち、物理的に含有薬物全体の放出が終了した時点を意味する)し、kは速度定数を表わす。
【0094】
【表4】
【0095】
前記図10及び表4から分かるように、HSNPs−OHの場合、一日に大部分の薬物が放出された。一方、HSNPs−NH2 の場合、HSNPs−OHより遅い放出速度を表わし、HSNPs−PEGの場合、前記二つの粒子の場合より確実に遅い放出様相を見せた。特に、HSNPs−PEGは、初盤に急激な放出様相を表わさなかった。坑癌剤の放出試験初日の放出速度は、HSNPs−OHが2.2956Ln%/dayであり、これはHSNPs−NH2 の放出速度である0.7108Ln%/dayに比べて3倍、HSNPs−PEGの放出速度である0.2270Ln%/dayに比べて10倍以上速い速度である。また、2日目以後の放出様相を見れば、HSNPs−PEGの場合、0次反応様相を見せ、放出速度は0.0636Ln%/dayでHSNPs−OHの放出速度である0.1040Ln%/dayに比べて少ない放出速度を表わした。このような結果から、本発明の中空シリカナノ粒子は、持続的な薬物の放出が可能であり、薬物伝達体として効果的に使われるということが分かる。さらに、抗癌剤が封入されたシリカ粒子の分散性を確認するために、抗癌剤であるドキソルビシンの蛍光性を用いて、蛍光顕微鏡で分析し、その結果を図11に表わした。図11から、ドキソルビシンを封入した粒子は、水溶状で安定的に分散されるということを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物に関連する分野に適用されうる。
【符号の説明】
【0097】
MKs:磁性ナノクラスター
MSNPs:磁性体−含有シリカナノ粒子
HSNPs:中空シリカナノ粒子
HSNPs−PEG:ポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に大きな中空を有するコア部を含み、外部のシリカセル部の気孔のサイズが制御されて、多量の薬物を持続的で安定的に放出することができる多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
制御放出技術(controlled release technology)を使った薬物伝達(drug delivery)技術は、1970年に始まって以来、急速な発展を繰り返えして現在多様な製品が販売されているか、開発中である。
【0003】
薬物伝達体(drug carrier)に関する研究は、最近には非経口システム(parenteral system)だけではなく、口(oral)、肺(pulmonary)、鼻(nasal)または目(ophthalmic)を通じる伝達のような多様な経口システム(non−parenteral system)分野でも活発になされている。しかし、現在まで知られた薬物伝達体は、そのサイズが大き過ぎて、粘膜(mucosal membrane)または体循環系(systemic circulation)を通じて目的組職(target tissues)に伝達しにくい。これにより、制御放出薬物伝達システムに使われる薬物伝達体としてナノサイズ粒子の製造技術が注目を浴びている。
【0004】
一方、最近生分解性高分子(biodegradable polymer)に基づいた多様な薬物伝達システムが研究されており、そのうち一部は商用化されている。最近開発されたゾルゲル(sol−gel)法に基づいた技術は、生物学的に活性を有する製剤を室温でシリカキセロゲル(silica xerogel)に導入し、前記のゲルマトリックスから内部に含有された製剤の放出様相を調節することができる新たな可能性を提示したことがある(S.B.Nicoll.,et al,In vitro release kinetics of biologically active transforming growth factor−β1 from a novel porous glass carrier,Biomaterial 18(1997)853−859など)。
【0005】
前記のようなゾルゲル技術は、安くて、簡便であり、かつ多用途に使われることができ、生産されたシリカキセロゲルは、無毒性の生体互換性物質という長所がある(P.Kortesuo.,et al,Silica Xerogel as as implantable carrier for controlled drug deliver evaluation of drug distribution and tissue effects after implantation,Biomaterial 21(2000)193−198)。
【0006】
前記のようなシリカキセロゲルシステムの多くの長所によって、ヘパリンのような多様な治療物質の制御放出伝達用の物質として前記システムに対する研究が進められている(M.S.Ahola.,et al,In vitro release of heparin from silica xerogels,Biomaterials 22(2001)2163−2170)。
【0007】
しかし、現在まで知られた大部分のシリカキセロゲルを利用したシステムは、内部に治療剤が捕獲(entrapment)または吸収されているか、または表面に化学的に治療剤が結合されている高分子から製造された伝達体である。したがって、このような技術は、製造過程で架橋剤の使用、温度及びpHなどの制御工程が必要であり、このような制御過程で搭載された薬物に副作用を誘発するおそれが大きくて、臨床学的利用が非常に制限される短所がある。
【0008】
このような問題を解決するために、多様な鋳型合成法(templateing method)などを使って内部に空き空間が形成されている多孔質の中空シリカ粒子(porous hollow silica particle)を製造し、これを薬物伝達体として使う方法を思うことができる(F.Caruso.,et al,Nanoengineering of inorganic and hybrid hollow spheres by colloidal templating,Science 282(1998)1111−1114)。
【0009】
しかし、現在まで知られた技術では、使われる鋳型(template)はナノレベルの中空粒子(nanosized hollow particle)を安定的に製造しにくい問題がある。また、ナノレベルの中空粒子を製造しても、そのような粒子内部の中空のサイズが非常に小さくて薬物の封入量が非常に低下するか、または中空部を包んでいるセル部の気孔のサイズ制御が難しく、これにより、薬物放出様相の制御が困って薬物伝達体として使われるには十分ではないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を考慮してなされたものであって、シリカナノ粒子内部に大きな中空を有するコア部を安定的に形成することができ、前記中空サイズの自在な制御が可能であり、また、多孔質シリカセル部の気孔のサイズが制御されて効果的な薬物放出様相を表わすことができる中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するための手段であって、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、表面作用基を有する多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子を提供する。
【0012】
本発明は、また前記課題を解決するための他の手段であって、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子を提供する。
【0013】
前記本発明の多孔性中空シリカナノ粒子で使われる生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上であることが望ましい。
【0014】
また、本発明の中空シリカナノ粒子は、直径が20nmないし250nmであることが望ましい。
【0015】
本発明は、また前記課題を解決するためのまた他の手段であって、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する第2段階と、シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階と、を含む中空シリカナノ粒子の製造方法を提供する。
【0016】
前記本発明の製造方法では、中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに実行しうる。
【0017】
前記本発明の製造方法で磁性ナノクラスターは、(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0018】
本発明は、前記課題を解決するためのさらに他の手段であって、前述した本発明による中空シリカナノ粒子と、前記ナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分を含む薬物伝達体と、を提供する。
前記本発明の薬物伝達体では、下記式(1)で計算される薬剤学的活性性分の封入比率が1%ないし100%であることを特徴とする。
【0019】
【数1】
【0020】
本発明は、また前記課題を解決するためのさらなる手段であって、前述した本発明による中空シリカナノ粒子及び薬剤学的に許容される担体を含む薬剤学的組成物を提供する。
前記本発明の薬剤学的組成物は、シリカナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分をさらに含みうる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔性中空シリカナノ粒子は、内部に広い中空(cavity)を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のシリカナノ粒子は、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シリカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体または薬剤学的組成物に効果的に使われる長所を有する。さらに、本発明では、前記のようなシリカナノ粒子を磁性ナノクラスターを鋳型として製造することによって、中空サイズの自在な制御が可能であるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例でポリエチレングリコールによって表面改質された中空シリカナノ粒子を製造した過程を表わす模式図である。
【図2】本発明の実施例の製造過程で製造されたそれぞれのナノ粒子を図示した模式図である。
【図3】実施例で製造された磁性ナノ粒子(3(a))、磁性ナノクラスター(3(b))、磁性体含有シリカ粒子(3(c))及び中空シリカナノ粒子(3(d))の透過電子顕微鏡(TEM)写真を表わす図面である。
【図4】(a)は本発明の実施例の製造過程の各段階の結果物のサイズ分布及びゼータ電位を表わす図面であり、(b)は本発明の実施例の製造過程のうちシリカナノ粒子内部で磁性体を除去する過程を表わす写真である。
【図5】本発明の実施例で製造された磁性体−含有シリカナノ粒子(a)及び中空シリカナノ粒子(b)に対するX線回折分析結果を表わす図面である。
【図6】本発明の実施例で製造された各結果物の赤外線分光(FT−IR)結果を図示したグラフであり、グラフのうちaは磁性ナノクラスター、bは磁性体−含有シリカナノ粒子、そして、cは中空シリカナノ粒子に対する赤外線分光分析結果を図示したグラフである。
【図7】本発明の実施例で製造された磁性体−含有シリカナノ粒子(a)及び中空シリカナノ粒子(b)の熱重量分析(TGA)結果を図示したグラフである。
【図8】本発明の実施例で製造された磁性ナノクラスター(MKs)(a)、磁性体−含有シリカナノ粒子(MSNPs)(b)、及び中空シリカナノ粒子(HSNPs)(c)のX線光電子スペクトル分析結果及びそれぞれのSiとFeとの構成比率を図示したグラフ(d)である。
【図9】本発明の実施例で製造された各粒子の窒素吸着/脱着量を図示したグラフである。
【図10】本発明の試験例で製造された薬物伝達体の時間別の薬物放出量を図示したグラフ(a)及び放出量反対数(semi−logarithmic)グラフ(b)である。
【図11】本発明の試験例で製造された抗癌剤−封入ナノ粒子の蛍光顕微鏡写真(a)及び遠心分離によって沈澱された抗癌剤−封入ナノ粒子の写真(b)及び水溶状に分散された状態の抗癌剤−封入ナノ粒子の写真(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、表面作用基を有する多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子(Porous Hollow Silica Nanoparticle;以下、“PHSN”または“HSNP”と称する場合がある)に関するものである。本発明のシリカナノ粒子は、内部に広い中空を含んで、既存の薬物伝達体として使われた各種の粒子に比べて格段に優れた薬物封入効率を表わす。また、本発明のPHNSは、表面作用基及び/または表面作用基を介して結合された生体的合性高分子によって多孔質シリカセル部の気孔のサイズが最適の範囲で制御され、これにより、持続的で安定的な薬物の放出が可能であるので、薬物伝達体として効果的に使われる長所を有する。
【0024】
以下、本発明の中空シリカナノ粒子をより詳しく説明する。
【0025】
本発明のシリカナノ粒子は、多孔質シリカセル部によって取り囲まれており、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部を含むことを特徴とする。この際、前記コア部は、40nmないし100nmの中空径を有することがより望ましい。本発明で使う用語「中空」は、殻をなす多孔質シリカ(多孔性シリカセル部)によって取り囲まれた内部の空き空間を意味する。本発明では、前記のようにシリカ粒子内部に大きな体積の中空を形成させることによって、薬物伝達体などとして使われる場合に、既存に比べて格段に向上した薬物封入効率を表わすことができる。前記中空径が1nm未満であれば、薬物封入効率が過度に低下して中空形成の意味が無くなるおそれがあり、100nmを超過すれば、中空のサイズが過度に大きくなって薬物放出挙動の制御が難しくなるおそれがある。
【0026】
本発明のシリカナノ粒子はまた、前述した中空コア部を取り囲む多孔質シリカセル部を含み、前記セル部に表面作用基が導入されていることを特徴とする。本発明では、前記のようにシリカセル部に表面作用基を導入するか、または前記作用基を通じて生体的合性高分子などを導入することによって、シリカセル部の気孔(細孔)のサイズを制御することができ、これにより、中空コア部及び/または気孔内に導入される薬物の放出速度を制御することができる。本発明のシリカナノ粒子に導入されることができる表面作用基の種類は、特別に限定されず、シリカセル部及び後述する生体的合成高分子との化学結合が可能であるものであれば、特別に制限されない。このような表面作用基の例には、−COOH、−CHO、−NH2 、−SH、−CONH2 、−PO3 H、−PO4 H、−SO3 H、−SO4 H、−OH、−NR4+X− 、−スルホン酸、−硝酸、−ホスホン酸、−スクシンイミジル基、−マレイミド基及び−アルキル基からなる群から選択される一つ以上である作用基が挙げられる。また、本発明で、前記のような表面作用基を有するシリカナノ粒子は、直径が10nmないし200nmであることが望ましい。前記直径が10nmより小さければ、気孔のサイズの調節が難しくなるおそれがあり、200nmを超過すれば、生体内への適用が難しくなるおそれがある。
【0027】
本発明はまた、直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部と、を含む多孔性中空シリカナノ粒子に関するものである。本発明で、前記生体的合性高分子への表面改質は、前述したシリカセル部の表面作用基を介してなされうる。このような生体的合性高分子への表面改質を通じて、セル部の気孔のサイズの追加的な制御が可能である。
【0028】
本発明のシリカナノ粒子で、前記生体的合性高分子は、重量平均分子量が100ないし100,000であることが望ましい。前記重量平均分子量が100より小さければ、生体内で毒性を示すおそれがあり、100,000を超過すれば、応用が困るようになって望ましくない。本発明では、高分子の重量平均分子量が前述した範囲に属するとすれば、その具体的な種類は、特別に制限されない。本発明では、例えば、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上の生分解性高分子を使うことができ、ポリアルキレングリコールを使うことがより望ましい。前記ポリアルキレングリコールの望ましい例としては、ポリエチレングリコール(PEG)及び/またはモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)などが挙げられる。
【0029】
前記のような生体的合性高分子は、本発明でシリカ粒子の質量対比5%ないし50%の量で含まれることが望ましい。前記含量が5%より小さければ、シルカセル部の気孔のサイズの制御効果が十分ではないおそれがあり、50%を超過すれば、内部中空及び気孔のサイズが過度に低下するおそれがある。また、生体的合性高分子で表面改質された本発明のナノ粒子の中空コア部は、直径1nmないし100nmの中空を有することを特徴とし、この際、前記直径は、40nmないし100nmであることがより望ましい。前記直径が1nmより小さければ、中空形成自体の意義が下がるおそれがあり、100nmを超過すれば、中空のサイズが過度に大きくなって薬物放出挙動の制御が難しくなるおそれがある。また、前記のように生体的合性高分子で表面改質されたシルカセル部は、気孔のサイズ(pore size)が1Åないし100Åであることが望ましい。前記直径が1Åより小さければ、薬物などの放出効率が過度に落ちるおそれがあり、100Åを超過すれば、薬物などの放出速度制御が難しくなるおそれがある。さらに、前記で多孔質シリカセル部は、1nmないし50nm範囲の厚さを有することが望ましい。前記厚さが1nmより小さければ、薬物封入安定性が落ちるおそれがあり、50nmを超過すれば、薬物放出速度が過度に低下するおそれがある。また、前記生体的合性高分子で表面改質されたシリカナノ粒子は、直径が20nmないし250nmであることが望ましく、80nmないし250nmであることがより望ましい。前記シリカナノ粒径が80nmより小さければ、気孔のサイズの制御が難しくなるおそれがあり、250nmを超過すれば、生体への適用が難しくなるおそれがある。
【0030】
前述した本発明のシリカナノ粒子は、また表面に導入された組職特異的結合成分(tissue−specific binding substance)をさらに含みうる。本発明で使う用語『組職特異的結合成分』は、生体内の特定組職と特異的に結合することができる物質を意味し、このような物質を導入することによって、薬物伝達体を目的する部位により容易に到逹させうる。前記のような成分の例には、抗原、抗体、RNA、DNA、ハプテン(hapten)、アビジン(avidin)、ストレプトアビジン(streptavidin)、ニュートラビジン(neutravidin)、プロテインA、プロテインG、レクチン(lectin)、セレクチン(selectin)、放射線同位元素で標識された成分及び腫瘍マーカー(tumor marker)と特異的に結合することができる物質を含むが、これに制限されない。前記使われた用語『腫瘍マーカー』は、腫瘍細胞で発現及び/または分泌されるものであって、正常細胞ではほとんどまたは全然生産されない特定物質を意味する。当業界には、このような多様な腫瘍マーカーだけではなく、これらと特異的に結合することができる物質が公知されている。前記のような腫瘍マーカーは、下記表2に表われたように、作用機作によってリガンド、抗原、受容体及びこれらをコーディングする核酸に分類することができる。
【0031】
【表1】
【0032】
腫瘍マーカーがリガンドである場合には、前記リガンドと特異的に結合することができる物質を本発明のシリカナノ粒子に導入することができ、その例としては、前記リガンドと特異的に結合することができる受容体または抗体が挙げられる。本発明で利用可能なリガンド及びこれと特異的に結合することができる受容体の例としては、シナプトタグミンのC2(synaptotagminのC2)とフォスファチジルセリン、アネキシンV(annexinV)とフォスファチジルセリン、インテグリン(integrin)とその受容体、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)とその受容体、アンジオポエチン(angiopoietin)とTie2受容体、ソマトスタチン(somatostatin)とその受容体、バソインテスチナルペプチド(vasointestinal peptide)とその受容体などが挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0033】
また、腫瘍マーカーが抗原である場合、前記抗原と特異的に結合することができる物質を本発明によるシリカナノ粒子で導入することができ、このような物質としては、抗体が挙げられる。本発明で利用可能な抗原及びこれと特異的に結合する抗体の例としては、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen−大膓癌標識抗原)とハーセプチン(Genentech、USA)、HER2/neu抗原(HER2/neuantigen−乳房癌標識抗原)とハーセプチン、前立腺特異抗原(prostate−specific membrane antigen−前立腺癌標識抗原)とリツキサン(IDCE/Genentech、USA)などがある。
【0034】
腫瘍マーカーが受容体である代表的な例としては、卵巣癌細胞で発現される葉酸受容体がある。前記受容体と特異的に結合することができる物質(葉酸受容体の場合には、葉酸)が、本発明によるシリカナノ粒子で導入されることができ、その例としては、前記受容体と特異的に結合することができるリガンドまたは抗体が挙げられる。
【0035】
前述したように、抗体は、本発明において、特に望ましい組職特異的結合成分である。抗体は、特定対象とのみ選択的で安定的に結合する性質を有しており、Fc領域にあるリジンの−NH2 、システインの−SH、アスパラギン酸及びグルタミン酸の−COOHは、本発明のシリカナノ粒子への導入時に有用に利用されることができる。
【0036】
このような抗体は、商業的に入手するか、当業界に公知された方法によって製造することができる。前記のような抗体を収得するための方法の一例を挙げれば、下記のようである。すなわち、哺乳動物(例、マウス、ラット、山羊、ウサギ、馬または羊)を適量の抗原で1回以上免疫化させる。一定時間後、力価が適正レベルに至った時、哺乳動物の血清を回収する。回収した抗体は、所望の場合、公知された工程を用いて精製し、使用時まで冷凍緩衝された溶液に貯蔵することができる。このような方法の詳細な事項は、当業界によく知られている。
【0037】
一方、前記“核酸”は、前述したリガンド、抗原、受容体またはその一部分をコーディングするRNA及びDNAを含む。核酸は、当業界で知られたように、相補的な配列間に塩基対(base pair)を形成する特徴を有している。したがって、特定塩基配列を有する核酸は、前記に相補的な塩基配列を有する核酸を用いて検出することができる。これにより、前記リガンド、抗原、受容体をコーディングする核酸と相補的な塩基配列を有する核酸とを本発明によるシリカナノ粒子の組職特異的結合成分として利用することができる。核酸は、5’−及び3’−末端に−NH2 、−SH及び−COOHなどの作用基があり、このような作用基は、ナノ粒子への導入時に有用に利用されることができる。このような核酸は、当業界に公知された標準方法によって、例えば、自動DNA合成器(例、バイオサーチ、アプライドバイオシステムズなどから購入することができるもの)を使って合成することができる。その例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、文献(Stein et al.Nucl.Acids Res.1988,vol.16,p.3209)に記述された方法によって合成することができ、メチルホスホン酸オリゴヌクレオチドは調節されたガラス重合体の支持体を使って製造することができる(Sarin et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1988,vol.85,p.7448)。
【0038】
前述したような組職特異的結合成分は、本発明のシリカナノ粒子のセル部に含まれる表面作用基を介して導入されるか、生体的合性高分子によって表面改質された場合には、前記高分子内に特定結合領域を導入した後、前記領域を介して導入することもできる。この際、導入される結合領域の具体例は、導入される組職特異的結合成分の種類によって決定され、特別に限定されるものではなく、例えば、前述した表面作用基に対応する機能基などが挙げられる。
【0039】
本発明はまた、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する第2段階と、シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階と、を含む中空シリカナノ粒子の製造方法に関するものである。
本発明ではまた、前述した各段階を経た後で、中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに含むこともできる。
【0040】
以下、本発明の方法の各段階をより詳しく説明する。
【0041】
本発明の第1段階は、磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する段階であり、これにより、前記前駆体の磁性ナノクラスターへの結合及び加水分解反応を誘導する。前記第1段階で磁性ナノクラスターは、本発明のナノ粒子の中空コア部を形成するための鋳型としての役割を果たす。本発明では、このように磁性ナノクラスターを鋳型として使うことによって、既存に比べて大きな中空をナノ粒子の内部に形成させることができ、また前記中空サイズの自在な制御が可能となるという長所を有する。
【0042】
このような磁性ナノクラスターを製造する方法は、特別に限定されず、例えば、下記に提示された方法を通じて製造可能である。
【0043】
すなわち、前記磁性ナノクラスターは、(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0044】
前記磁性ナノクラスターの製造方法で使われる磁性ナノ粒子を製造する方法も、特別に限定されず、例えば、(a)溶媒の存在下にナノ粒子前駆体及び有機性表面安定剤を反応させる段階と、(b)前記反応物を熱分解する段階と、を含む方法で製造可能である。
【0045】
前記段階(a)は、有機性表面安定剤が含まれた溶媒にナノ粒子前駆体を投入してナノ粒子表面に有機性表面安定剤を配位させる段階である。
【0046】
この際、使われるナノ粒子前駆体の具体的な種類は、特別に限定されず、その例としては、金属と−CO、−NO、−C5 H5 、アルコキシド(alkoxide)またはその他の公知のリガンドが結合された金属化合物が挙げられることができ、具体的には、鉄ペンタカルボニル(iron pentacarbonyl、Fe(CO)5 )、フェロセン(ferrocene)、またはマンガンカルボニル(Mn2 (CO)10)などの金属カルボニル系列の化合物と、または鉄アセチルアセトナト(Fe(acac)3 )などの金属アセチルアセトナト系列の化合物など、各種の有機金属化合物を使用できる。また、ナノ粒子前駆体としては、金属とCl− 、またはNO3−などの公知された陰イオンと結合された金属イオンを含んだ金属塩を使うことができ、その例としては、塩化第二鉄(FeCl3 )、塩化第一鉄(FeCl2 )または硝酸鉄(Fe(NO3 )3 )などが挙げられる。もし、合金ナノ粒子及び複合ナノ粒子などを合成しようとする場合には、前記で言及した2種以上の金属の前駆体の混合物を使えば良い。また、本発明の段階(a)で使われる有機性表面安定剤の例としては、ハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム(alkyl trimethylammonium halide)、飽和または不飽和脂肪酸、トリアルキルホスフィンオキシド(trialkylphosphine oxide)、アルキルアミン(alkyl amine)、アルキルチオール(alkyl thiol)、アルキル硫酸ナトリウム(sodium alkyl sulfate)、及びアルキルリン酸ナトリウム(sodium alkyl phosphate)からなる群から選択された一つ以上が挙げられる。
【0047】
前記段階(a)で使われる溶媒は、ナノ粒子前駆体の表面に有機性表面安定剤が配位された錯化合物の熱分解温度に近接する高い沸点を有することが望ましく、このような溶媒の例としては、エーテル系化合物、ヘテロ環化合物、芳香族化合物、スルホキシド化合物、アミド化合物、アルコール、炭化水素及び/または水などが挙げられる。具体的に、前記溶媒は、オクチルエーテル(octyl ether)、ブチルエーテル(butyl ether)、ヘキシルエーテル(hexyl ether)、またはデシルエーテル(decyl ether)のようなエーテル系化合物と、ピリジン、またはテトラヒドロフランのようなヘテロ環化合物と、トルエン、キシレン、メシチレン、またはベンゼンのような芳香族化合物と、ジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホキシド化合物と、ジメチルホルムアミド(DMF)のようなアミド化合物と、オクチルアルコール、またはデカノールのようなアルコールと、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、またはヘキサデカンのような炭化水素、または水と、を使用できる。
【0048】
前記段階(a)の反応条件は、特別に制限されず、金属前駆体及び表面安定剤の種類によって適切に調節することができる。例えば、前記反応は、室温またはその以下の温度でも進行することができ、通常的には約30℃ないし200℃の範囲で加熱及び保持させることが望ましい。
【0049】
前記段階(b)は、ナノ粒子前駆体の表面に有機性表面安定剤が配位された錯化合物を熱分解してナノ粒子を成長させる段階である。この際、反応条件によって均一なサイズ及び形状のナノ粒子を形成することができ、前記熱分解温度は、金属前駆体及び表面安定剤の種類によって適切に調節することができる。望ましくは、約50℃ないし500℃に反応させることが適切である。前記段階(b)で製造されたナノ粒子は、公知の手段を通じて分離及び精製することができる。
【0050】
本発明の製造方法では、前記のように製造された磁性ナノ粒子及び前述した段階(1)ないし(4)の方法を使って磁性ナノクラスターを製造する。このような磁性ナノ粒子の具体的な種類は、前述したナノ粒子前駆体の種類によって決定され、特別に限定されるものではないが、金属物質(metal material)、磁性物質(magnetic material)、または磁性合金(magnetic alloy)であることが望ましい。前記で金属物質の例としては、Pt、Pd、Ag、Cu及びAuからなる群から選択された一つ以上が挙げられることができ、磁性物質の例としては、Co、Mn、Fe、Ni、Gd、Mo、MM’2 O4 、及びMx Oy (M及びM’は、それぞれ独立的にCo、Fe、Ni、Mn、Zn、Gd、またはCrを表わし、0<x≦3、0<y≦5)からなる群から選択されるものが一つ以上挙げられることができ、磁性合金の例としては、CoCu、CoPt、FePt、CoSm、NiFe及びNiFeCoからなる群から選択された一つ以上が挙げられる。
【0051】
本発明の方法で、前記磁性ナノ粒子を使って磁性ナノクラスターを製造する前記方法の具体的な条件を特別に限定しない。すなわち、本発明の磁性ナノクラスターは、クロロホルムのようなオイル状と、超純水のような水溶状と、ポリビニルアルコールのような両親媒性化合物を使って、この分野の通常のエマルジョン法を通じて製造可能である。また、前記磁性ナノクラスターの製造時には、オレイン酸カリウム(potassium oleate)またはオレイン酸ナトリウム(sodium oleate)のような石鹸と、エアゾール(登録商標) OT(aerosol OT)、コール酸ナトリウム(sodium cholate)またはカプリル酸ナトリウム(sodium caprylate)のような陰イオン性洗剤(anionic detergent)と、塩化セチルピリジニウム(cetylpyridinium chloride)、臭化アルキルトリメチルアンモニウム(alkyltrimethylammonium bromide)、塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)または臭化セチルジメチルエチルアンモニウム(cetyldimethylethylammonium bromide)のような陽イオン性洗剤と、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニオ−1−プロパンスルホネート(N−alkyl−N,N−dimethylammonio−1−propanesulfate)またはCHAPSのような双性イオン性洗剤(zwitterionic detergent)と、ポリオキシエチレンエステル(polyoxyethylene ester)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(polyoxyethylenesorbitan ester)、ソルビタンエステル(sorbitan ester)または各種のトリトン(triton)(例えば、TX−100またはTX−114)のような非イオン性洗剤の1種または2種以上の混合物のような適切な界面活性剤の存在下で実行される。このような界面活性剤は、水溶状とオイル状との間の表面張力(interfacial tension)を減少させて、エマルジョン内に分散されたオイル状または水溶状が熱力学的に安定した状態で存在できるようにする。
【0052】
本発明の第1段階では、前記のように製造された磁性ナノクラスター及びシルカセル部を形成するシリカ前駆体を適切な溶媒で混合することによって、前記前駆体のクラスターへの結合及び加水分解反応を進行させる。
【0053】
この際、使われる溶媒の種類は、特別に限定されず、この分野で公知された各種の水性及び有機溶媒を使用できるが、望ましくは、水とアルコールの混合溶媒を使う。前記混合溶媒のうち水は、添加されたシリカ前駆体の加水分解反応を進行させる役割を果たすが、この段階で、本発明の第2段階で縮合及びゲル化反応を進行させることができるヒドロキシル基がシリカ前駆体内の珪素原子に導入される。通常シリカ前駆体は、水によく溶解されないために、アルコールのような適切な有機溶媒と混合して使う。前記でアルコールは、水とシリカ前駆体の両者をいずれも溶解させることができ、これにより、水とシリカ前駆体とを均質に混合させて加水分解反応を進行させることができる。この際、水とアルコールとの混合比率は、特別に制限されるものではなく、この分野の当業者は、適切な混合比率を容易に選択することができる。
【0054】
本発明の第1段階で添加されるシリカ前駆体は、磁性ナノクラスター上にシリカセル部を形成することができれば、特別に限定されるものではないが、テトラメトキシシラン(tetramethoxy silane)及び/またはテトラエトキシシラン(tetraethoxy silane)のようなアルコキシシランを使うことが望ましく、このうちテトラエトキシシランを使うことが望ましい。本発明の第1段階では、前記アルコキシシランの使用量を調節して目的するセル部の厚さを制御することができるが、前記使用量は、この分野の当業者によって適切に選択されることができる。本発明の第1段階で、シリカ前駆体の加水分解反応を進行させる方法は、特別に限定されず、例えば、還流(reflux)条件下で撹拌させる一般的な方法で進行できる。また、本発明の第1段階では、酸性触媒(ex.HCl、CH3 COOHなど)または塩基触媒(ex.KOH、NH4 OHなど)などの適切な触媒を添加して、前記加水分解反応を促進させることもできる。
【0055】
本発明の第2段階は、前記加水分解されたシリカ前駆体の縮合を通じるゲル化反応を進行させて磁性ナノクラスターにシリカセル部を形成する段階であり、これを通じて、加水分解された前駆体は、クラスター表面にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成して縮合及びゲル化される。
【0056】
前記縮合反応は、脱水縮合及びアルコール縮合反応に分類されることができる。脱水縮合反応時には、第1段階の加水分解反応時に前駆体に導入されたヒドロキシル基(OH)間の結合を通じてシロキサン結合を形成しながら、水が除去される。また、アルコール縮合反応時には、前記ヒドロキシル基とアルコキシ基(OR)との結合を通じてシロキサン結合を形成しながら、アルコールが除去される。このような縮合及びゲル化反応を進行させる方法は、特別に限定されず、例えば、混合物を適切な温度条件下で撹拌させることで実行される。
【0057】
本発明の第3段階は、シリカセル部が形成された粒子内部の磁性ナノクラスターを除去する段階である。この際、磁性ナノクラスターを除去する方法は、特別に限定されず、例えば、前記粒子を塩酸及び硫酸のような磁性体を溶かすことができる物質で処理する方法が挙げられる。本発明の第3段階では、また前記のような処理を通じて内部磁性体を除去した粒子を高温で焼成することで残存する有機物質を除去する段階をさらに実行しうる。
【0058】
本発明の第4段階は、前記第3段階で内部磁性体が除去されたシリカセル部に表面作用基を導入する段階である。すなわち、前述したシリカ前駆体(アルコキシシラン)の加水分解反応によって製造されたシリカ粒子の表面にはヒドロキシル基が残存するが、このような粒子の表面を前述した表面作用基を導入することができる前駆物質で処理することで、本発明の第4段階が実行される。前記のような前駆物質の具体的な種類は、特別に限定されず、導入しようとする表面作用基に対応する一般的な前駆物質を制限なしに使うことができる。例えば、アミノ基を導入しようとする場合には、前駆物質としてアミノアルキルアルコキシシランなどを使用できる。この際、使われる前駆物質の量は、特別に限定されないが、前記第3段階を経て粒子表面に導入されたヒドロキシル基の量の5%以上の表面作用基が導入されることができる量で使うことが望ましい。
【0059】
以上のような方法で製造された中空シリカナノ粒子は、この分野の一般的な分離及び/または精製方法を通じて分離されることができる。本発明ではまた、前述した各段階を経て中空シリカナノ粒子を製造した後で、中空シリカナノ粒子を生体的合成高分子で表面改質する第5段階をさらに含むことが望ましい。
【0060】
前記で、生体的合性高分子への表面改質方法は、特別に限定されず、例えば、前述したそれぞれの高分子に多孔性中空シリカナノ粒子のシリカセル部に存在する表面作用基と結合することができる各種の機能基を導入した後、これを介して生体的合成高分子を導入する方法が挙げられる。この際、導入されることができる機能基の種類は、特別に限定されず、この分野の当業者は、ナノ粒子の表面作用基の種類によって適切な機能基の種類を容易に選択することができる。ナノ粒子表面に存在することができる表面作用基の種類及び対応機能基とそれらの結合関係の代表的な例を説明すれば、下記表1に表わした通りである。
【0061】
【表2】
【0062】
前記のような機能基を生体的合性高分子で導入する方法も、特別に限定されず、例えば、導入しようとする機能基に対応する適切な架橋剤などの手段を使って自由に導入することができる。このような架橋剤の例としては、4−ジイソチオシアネートベンゼン(1,4−Diisothiocyanatobenzene)、1,4−フェニレンジイソシアネート(1,4−Phenylene diisocyanate)、1,6−ジイソシアナトヘキサン(1,6−Diisocyanatohexane)、4−(4−マレイミドフェニル)酪酸 N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(4−(4−Maleimidophenyl)butyric acid N−hydroxysuccinimide ester)、ホスゲン(Phosgene solution)、4−(マレイミド)イソシアン酸フェニル(4−(Maleinimido)phenyl isocyanate)、1,6−ヘキサンジアミン(1,6−Hexanediamine)、p−ニトロフェニルクロロフォーメイト(p−Nitrophenyl chloroformate)、N−ヒドロキシスクシンイミド(N−Hydroxysuccinimide)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1,3−Dicyclohexylcarbodiimide)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(1,1’−Carbonyldiimidazole)、3−マレイミド安息香酸 N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(3−Maleimidobenzoic acid N−hydroxysuccinimide ester)、エチレンジアミン(Ethylenediamine)、ビス(4−ニトロフェニル)炭酸(Bis(4−nitrophenyl)carbonate)、スクシニルクロリド(Succinyl chloride)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸(N−(3−Dimethylaminopropyl)−N’−ethylcarbodiimide Hydrochloride)、N,N’−炭酸ジスクシンイミジル(N,N’−Disuccinimidyl carbonate)、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(N−Succinimidyl 3−(2−pyridyldithio)propionate)及び/または無水コハク酸(sucinic anhydride)などが挙げられる。
【0063】
本発明はまた、前述した本発明によるシリカナノ粒子と、前記ナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔内に封入された薬剤学的活性成分と、を含む薬物伝達体に関するものである。前述したように、本発明のシリカナノ粒子は、既存公知されたナノ薬物伝達体と比べて格段に多量の薬剤学的活性成分の封入及び気孔のサイズの制御を通じる持続的で安定的な薬物放出が可能であるので、薬物伝達体として効率的に使われる。
【0064】
すなわち、前述したように、本発明では、ナノ粒子内部に大きな中空の形成が可能であり、必要によって前記中空サイズの自在な制御が可能である。したがって、本発明では、粒子が使われる状況によって封入される薬物の比率を自由に調節することができ、例えば、本発明の薬物伝達体は、下記式(1)で表示される封入比率が、1%ないし100%である。
【0065】
【数2】
【0066】
本発明の薬物伝達体内に導入されることができる薬剤学的活性成分の種類は、特別に制限されず、この分野で公知された各種の成分を使用できる。前記のような薬剤学的活性成分の例としては、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍壊死因子、エンドトキシン、リンホトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組職プラスミノゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識物質、界面活性剤、心血管系薬物、胃腸管系薬物及び神経系薬物からなる群から選択された一つ以上が挙げられる。前記で抗癌剤の具体例としては、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、タキソール(taxol)、プロカルバジン(procarbazine)、シクロフォスファミド(cyclophosphamide)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、エトポシド(etoposide)、タモキシフェン(tamoxifen)、ドキソルビシン(doxorubicin)、マイトマイシン(mitomycin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリカマイシン(plicamycin)、トランスプラチナ(transplatinum)、ビンブラスチン(vinblastin)及び/またはメトトレキサート(methotrexate)などが挙げられるが、これに制限されるものではない。前記のような薬第学的活性成分を本発明のシリカナノ粒子に導入する方法は、特別に限定されず、例えば、適切な溶媒内でナノ粒子及び薬剤学的活性成分をともに混合する方法などを使って導入することができる。
【0067】
また、前記本発明の薬物伝達体が適用可能な疾病の種類は、特別に限定されず、例えば、胃癌、肺癌、乳房癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵膓癌、膀胱癌、結腸癌及び/または子宮頸部癌などが挙げられる。しかし、本発明の薬物伝達体の用途は、前記疾病に限定されず、内部に含有される薬剤学的活性成分を多様に調節して、各種の用途として使われる。
【0068】
本発明はまた、前述した本発明による薬物伝達体と、薬剤学的に許容される担体と、を含む薬剤学的組成物に関するものである。
【0069】
本発明の薬剤学的組成物に封入されている薬剤学的活性成分及び前記組成物が適用される疾病の種類は、特別に限定されず、例えば、前述した薬物伝達体の場合と同一である。
【0070】
また、本発明の薬剤学的組成物に使われる担体の種類も、特別に制限されない。すなわち、前記担体は、医薬分野で通常使われる担体及びビヒクルを含み、具体的にイオン交換樹脂、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例、人血清アルブミン)、緩衝物質(例、多様な燐酸塩、グリジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物)、水、塩または電解質(例、硫酸プロタミン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム及び亜鉛塩)、膠質性シリカ、珪酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系基質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアリレート、ワックス、ポリエチレングリコールまたは羊毛脂などを含むが、これに制限されない。本発明の組成物はまた、前記成分の以外に潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、または保存剤などをさらに含みうる。
【0071】
本発明の一つの態様として、本発明による薬物伝達体または薬剤学的組成物は、非経口投与のための水溶性溶液で製造することができる。望ましくは、ハンクス溶液(Hank’s solution)、リンガー溶液(Ringer’s solution)または物理的に緩衝された塩水のような緩衝溶液を使用できる。水溶性注入(injection)懸濁液は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランのように懸濁液の粘度を増加させることができる基質を添加することができる。本発明の組成物の他の望ましい態様は、水性または油性懸濁液の滅菌注射用の製剤の形態であり得る。このような懸濁液は、適した分散剤または湿潤剤(例えば、ツイン80)及び懸濁化剤を使って、本分野に公知された技術によって剤型化することができる。滅菌注射用の製剤は、また無毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液)であり得る。使われるビヒクル及び溶媒としては、マンニトール、水、リンガー溶液及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。また、滅菌不揮発性オイルが通常の溶媒または懸濁化媒質として使われる。このような目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含んで刺激性の少ない不揮発性オイルは、そのいずれも使うことができる。
【0072】
[実施例]
以下、本発明による実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が、下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【0073】
実施例1
下記に提示された各段階を経てポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子を製造し、製造過程の模式図を図1に表わした。また、図2には、下記それぞれの段階で製造された結果物である表面にヒドロキシル基を有する中空シリカナノ粒子(図2のA)、表面にアミン基を有する中空シリカナノ粒子(図2のB)及びポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子(図2のC)の模式図を表わした。
【0074】
(1)磁性ナノ粒子の製造
12nmサイズのマグネタイト(Fe3 O4 )は、鉄トリアセチルアセトナト、ドデカン酸及びドデシルアミンを使って熱分解化学反応(thermal decomposition)を通じて合成した。具体的には、ベンジルエーテル溶媒20ml内に鉄トリアセチルアセトナト0.2mol、1,2−ヘキサデカンジオール1mol、ドデカン酸0.6mol及びドデシルアミン0.6molを添加し、引き続き、150℃で30分間加熱した後、290℃で30分間加熱して製造した。該製造された磁性ナノ粒子は、純粋なエタノールを用いて精製し、得られたマグネタイトの透過電子顕微鏡(TEM)写真を図3(a)に表わした。
【0075】
(2)磁性ナノクラスターの製造
前記(1)で収得された磁性ナノ粒子を使って、オイル状/水溶状エマルジョン(O/Wemulsion)方法で磁性ナノクラスター(以下、‘MKs’と称する)を製造した。具体的には、ポリビニルアルコール200mgを水溶状である超純水100mlに溶解させ、前記製造された磁性ナノ粒子5mgをオイル状であるクロロホルムに溶解させてエマルジョンを製造した。該製造されたエマルジョンを約6時間撹拌してオイル状を除去し、遠心分離を数回反復して不純物を除去して、一定サイズに凝集された高敏感度磁性ナノクラスターを製造した。このような方法で製造されたポリビニルアルコール(両媒性高分子)によって取り囲まれたMKsは、丸状を有することを透過電子顕微鏡(TEM)を通じて確認し、その結果を図3(b)に表わした。また、粒度分析器を通じて分析された前記MKsのサイズ分布は、45.3±5.9nmであり、非イオン性(non−ionic)ポリビニルアルコールで取り囲んだ結果、ゼータ電位は、0に近くに表われた。
【0076】
(3)シリカを利用したMKsのコーティング
前記(2)で収得されたMKsを超純水1ml、エタノール4ml及びアンモニア水0.1mlの混合物に再分散させ、引き続き、前記にTEOS(tetraethoxy silane)0.1mlをゆっくり注入してMKsをシリカでコーティングすることによって、内部にMKsを含むシリカナノ粒子(以下、‘MSNPs’と称する)を製造した。透過電子顕微鏡(TEM)を通じて製造されたMSNPsを検証した結果、シリカが磁性体(MKs)を完全に包んでいるということを確認し、その結果を図3(c)に表わした。前記のように製造されたMSNPsは、80.9±9.3nmのサイズ分布を表わした。また、前記MSNPsのゼータ電位は、−35.6±7.8mVとしてMKsに比べて負の値を表わしたが、これは、前記ゾルゲル過程中に発生したMSNPs表面上のヒドロキシル作用基に起因したものである。また、X線回折法(XRD)を用いて前記MSNPsの結晶性を確認した後、その結果を図5のaに表わした。
【0077】
(4)中空ナノシリカ粒子の製造
前記(3)で製造されたMSNPs 50mgを超純水5ml及び塩酸4mlの混合物に再分散させた。次いで、MSNPs内部のMKsが溶けながら焦茶色の溶液(図4(b)の(i))が明るい黄色(図4(b)の(ii))に変わることが観察された。MKsが完全に溶けた後、遠心分離を数回反復し、超純水で精製した。引き続き、前記を凍結乾燥し、300℃で焼成させることで有機物質を除去し、表面にヒドロキシル基を有する中空シリカナノ粒子(以下、‘HSNPs−OH’と称する)を製造した。該製造されたHSNPs−OHを透過電子顕微鏡(TEM)写真で確認した結果、粒子内部が完全に空になって球形の空洞(中空コア部)が形成されたことが分かり、その結果を図3(d)に表わした。HSNPs−OHのサイズ分布は、83.1±8.9nmであり、ぜータ電位は、−43.0±3.2mVであった(図4(a)参照)。
【0078】
(5)表面作用基の導入
前記(4)で製造されたHSNPs−OH 10mgと3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.05mlとを超純水内に70℃で12時間撹拌させ、遠心分離を数回反復して精製することによって、シリカ表面のヒドロキシル基をアミン基に置き換えた。表面にアミン基が導入されたHSNPs(以下、‘HSNPs−NH2’と称する)の場合、サイズ分布が、85.9±7.1nmであり、ゼータ電位は、−4.2±2.2mVであった。
【0079】
(6)生体的合性高分子への表面改質
前記(5)で製造されたHSNPs−NH2 を末端にカルボキシル基を有するポリエチレングリコール(PEG−diCOOH)を使って表面改質した。具体的には、ポリエチレングリコール0.05molをジオキサン10mlに入れて、活性化のために無水コハク酸(succinic anhydride)0.2mol、4−ジメチルアミノピリジン0.1mol及びトリエチルアミン0.1molを添加して、室温で24時間反応させた後で、フィルターで濾過し、カーボンテトラクロリドで精製した。その後、エチルエーテルで沈澱させ、真空状態で乾燥させて標準緩衝溶液を製造した。該製造された0.01molのカルボン酸エチル−ポリエチレングリコール標準緩衝溶液0.5mlにHSNPs−NH2 20mgを分散させ、0.2molのEDC/NHS(N−3−dimethylaminopropyl−N−ethylcarbodiimide hydrochloride/N−hydroxysuccinimide)を添加して4時間インキュベーションした。反応が進行しながらシリカセル部の表面でアミン基とポリエチレングリコールのカルボキシル基とが反応してアミド結合(O=C−N−H)が形成されることを赤外線分光法を通じて確認できた。未反応物質は、フィルター及び遠心分離を通じてフィルタリングし、ポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子(以下、‘HSNPs−PEG’と称する)を収得した。前記製造されたHSNPs−PEGのサイズ分布は、91.3±8.1nmであり、ゼータ電位は、1.3±3.2mVに表われた。
【0080】
試験例1
実施例のそれぞれの段階で目的する中空シリカナノ粒子が製造されたか否かを確認するために、X線回折法、赤外線分光法、熱重量分析法及びX線光電子スペクトルなどを使って試験を実行した。
【0081】
(1)X線回折分析
実施例1の(4)段階での酸処理及び焼成過程を通じてMSNPs内部の磁性体(MKs)が完全に除去されるかどうかを確認するために、X線回折分析を実行し、その結果を図5に表わした。図5のaは、内部に磁性体(MKs)を含有するシリカナノ粒子(MSNPs)の図面であり、図5のbは、酸処理及び焼成過程を経た後の粒子を表わす図面である。図5のa及びbから、磁性体(MKs)が除去される前には、シリケート及びスピネル構造の磁性ナノ粒子が存在したが、酸処理及び焼成後には、磁性ナノクラスター及び有機物質が存在しないということが分かり、これを通じて内部に磁性体が完全に除去されたということを確認できた。
【0082】
(2)赤外線分光分析
図6は、製造されたシリカ粒子の赤外線分光法(FT−IR)分析結果を表わす図面であって、図6のaはMKs、図6のbはMSNPs、図6のcはHSNPsに関する図面である。図6から、MKsが除去された後のシリカ粒子では、マグネタイトのFe−O結合(〜580cm−1)のピークが表われないということが分かり、これを通じて内部に磁性体が完全に除去されたということを確認できた。
【0083】
(3)熱重量分析
製造過程中に収得されたMSNPs及びHSNPsに対して熱重量分析法(TGA)を施行し、その結果を図7に表わした。図7(a)から分かるように、MSNPsの場合、260℃程度でドデカン酸及びポリビニルアルコールのような有機物が分解されながら、急な崩壊曲線を示すが、図7(b)で表われたように、300℃での焼成過程を経た場合、相対的に有機物含量が少ないことが分かった。これを通じても、MSNPs内部に磁性体が除去されたということを確認できた。
【0084】
(4)X線光電子スペクトル分析
X線光電子スペクトル(EDX)を通じて、本発明のHSNPsの製造過程で製造された各粒子の鉄含量を測定し、その結果を図8に表わした。図8(a)はMKs、図8(b)はMSNPs、図8(c)はHSNPsのEDX分析結果及びSiとFeとの構成比率を表わす図面である。図8に表われたように、MKsの場合、96.92±1.13%、MSNPsの場合、38.70±0.77%、そして、HSNPsの場合、2.86±0.46%の鉄含有量を表わした。
【0085】
試験例2
HSNPsコア部の中空(空洞)及びセル部のシリカ気孔(細孔)の体積を確認するために、BET法を用いて窒素吸着/脱着量を測定し、その結果を図9に表わした。図9に表われたように、HSNPs−PEGに吸着される窒素の量は、198.7cm3 /g以上で表われ、MSNPsに吸着される窒素の量は、92.7cm3 /gで表われた。また、改質前のシリカ粒子(HSNPs)より改質後の粒子(HSNPs−PEG)の窒素吸着量が少なく表われたが、これは中空サイズが表面のポリエチレングリコール分子によって縮まったためである。また、窒素吸着/脱着実験を通じて確認した結果、HSNPs−PEGの平均気孔のサイズは、約1.64nmであり、MSNPsの細孔サイズは、約2.3nmであったが、これもポリエチレングリコールで表面改質されながら気孔のサイズが縮まったためであると推測される。すなわち、ポリエチレングリコール分子は、シリカセル部の気孔のサイズを減らすと同時に、粒子内部の中空(空洞)のサイズも減少させることが分かった。
【0086】
試験例3
実施例の製造過程中に収得された3種の粒子(HSNPs−OH、HSNPs−NH2 及びHSNPs−PEG)10mgずつをそれぞれ抗癌剤(ドキソルビシン)5mgと標準緩衝溶液4ml内で混合して24時間反応させ、抗癌剤を導入した後、遠心分離で沈澱させた。このように抗癌剤を導入した後、その封入比率及び封入効率を下記式(2)及び式(3)によって計算し、その結果を表3に表わした。
【0087】
【数3】
【0088】
【数4】
【0089】
【表3】
【0090】
前記表1から分かるように、中空シリカナノ粒子が、表面作用基(アミン基)及び生体的合性高分子(ポリエチレングリコール)で改質されることによって、中空コア部及びセル部の細孔サイズが制御されて薬物(ドキソルビシン)の封入比率及び効率も変化された。
【0091】
引き続き、抗癌剤が搭載された各粒子を使って薬物放出試験を実行した。具体的には、抗癌剤−搭載粒子2mlを透析チューブで分散させ、標準緩衝溶液10mlに入れた。この状態で温度を37℃で保持しながら、赤外線吸光度測定器(UV−Vis spectrometer)を通じて480nmの波長で抗癌剤放出量を測定した。この際、抗癌剤−搭載粒子から抗癌剤の放出を誘導するために、室温で超音波(ultrasonication)処理し、放出された抗癌剤は遠心分離を通じて集めた。添付した図10は、表3に表われたそれぞれの封入比率及び効率を有するそれぞれの粒子の抗癌剤の放出様相を表わす図面である。具体的に、図10の(a)は、試験例で製造された薬物伝達体の時間別の薬物放出量を図示したものであり、(b)は、放出量反対数(semi−logarithmic)グラフである。また、それぞれの粒子の薬物放出様相を下記式(4)によって計算し、その結果を表4に整理した。
【0092】
【数5】
【0093】
前記式で、Xt 及びXinf は特定時間を表わし、tは薬物放出時間を表わし、infはinfiniteを意味(すなわち、物理的に含有薬物全体の放出が終了した時点を意味する)し、kは速度定数を表わす。
【0094】
【表4】
【0095】
前記図10及び表4から分かるように、HSNPs−OHの場合、一日に大部分の薬物が放出された。一方、HSNPs−NH2 の場合、HSNPs−OHより遅い放出速度を表わし、HSNPs−PEGの場合、前記二つの粒子の場合より確実に遅い放出様相を見せた。特に、HSNPs−PEGは、初盤に急激な放出様相を表わさなかった。坑癌剤の放出試験初日の放出速度は、HSNPs−OHが2.2956Ln%/dayであり、これはHSNPs−NH2 の放出速度である0.7108Ln%/dayに比べて3倍、HSNPs−PEGの放出速度である0.2270Ln%/dayに比べて10倍以上速い速度である。また、2日目以後の放出様相を見れば、HSNPs−PEGの場合、0次反応様相を見せ、放出速度は0.0636Ln%/dayでHSNPs−OHの放出速度である0.1040Ln%/dayに比べて少ない放出速度を表わした。このような結果から、本発明の中空シリカナノ粒子は、持続的な薬物の放出が可能であり、薬物伝達体として効果的に使われるということが分かる。さらに、抗癌剤が封入されたシリカ粒子の分散性を確認するために、抗癌剤であるドキソルビシンの蛍光性を用いて、蛍光顕微鏡で分析し、その結果を図11に表わした。図11から、ドキソルビシンを封入した粒子は、水溶状で安定的に分散されるということを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、多孔性中空シリカナノ粒子、その製造方法、それらを含む薬物伝達体及び薬剤学的組成物に関連する分野に適用されうる。
【符号の説明】
【0097】
MKs:磁性ナノクラスター
MSNPs:磁性体−含有シリカナノ粒子
HSNPs:中空シリカナノ粒子
HSNPs−PEG:ポリエチレングリコールで表面改質された中空シリカナノ粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、
表面作用基を有する多孔質シリカセル部とを含むことを特徴とする多孔性中空シリカナノ粒子。
【請求項2】
表面作用基は、−COOH、−CHO、−NH2 、−SH、−CONH2 、−PO3 H、−PO4 H、−SO3 H、−SO4 H、−OH、−NR4+X− 、−スルホン酸、−硝酸、−ホスホン酸、−スクシンイミジル基、−マレイミド基及び−アルキル基からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項3】
直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、
生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部とを含むことを特徴とする多孔性中空シリカナノ粒子。
【請求項4】
生体的合性高分子は、重量平均分子量が100ないし100,000であることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項5】
生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルイミド、ポリビニルピロリドン、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項6】
生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコールであることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項7】
生体的合性高分子は、ナノ粒子の質量対比5%ないし50%の量で含まれることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項8】
粒径は、20nmないし250nmであることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項9】
シリカセル部に導入された組職特異的結合成分をさらに含むことを特徴とする請求項1または3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項10】
磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、
シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターの表面にシリカセル部を形成する第2段階と、
シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、
シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階とを含むことを特徴とする中空シリカナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
第1段階の磁性ナノクラスターは、
(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、
(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、
(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、
(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造されることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
段階(1)の磁性ナノ粒子は、金属物質、磁性物質または磁性合金であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
金属物質は、Pt、Pd、Ag、Cu及びAuからなる群から選択された一つ以上であり、
磁性物質は、Co、Mn、Fe、Ni、Gd、Mo、MM’2 O4 、及びMxOy(M及びM’は、それぞれ独立的にCo、Fe、Ni、Mn、Zn、Gd、またはCrを表わし、0<x≦3、0<y≦5)からなる群から選択される一つ以上であり、
磁性合金は、CoCu、CoPt、FePt、CoSm、NiFe及びNiFeCoからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
シリカ前駆体は、アルコキシシランであることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし請求項8のうち何れか一項によるシリカナノ粒子と、
前記シリカナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分とを含むことを特徴とする薬物伝達体。
【請求項17】
下記式(1)で計算される薬剤学的活性成分の封入比率は、1%ないし100%であることを特徴とする請求項16に記載の薬物伝達体。
封入比率=(シリカナノ粒子内部の薬剤学的活性成分の重さ)/(シリカナノ粒子の重さ)×100 ……式(1)
【請求項18】
薬剤学的活性成分は、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍壊死因子、エンドトキシン、リンホトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組職プラスミノゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識物質、界面活性剤、心血管系薬物、胃腸管系薬物及び神経系薬物からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項16に記載の薬物伝達体。
【請求項19】
抗癌剤は、エピルビシン、ドセタキセル、ゲムシタビン、パクリタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、タキソール、プロカルバジン、シクロフォスファミド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エトポシド、タモキシフェン、ドキソルビシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、トランスプラチナ、ビンブラスチン及びメトトレキサートからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項18に記載の薬物伝達体。
【請求項20】
請求項1ないし請求項8のうち何れか一項による中空シリカナノ粒子と、薬剤学的活性成分とを、溶媒内で混合する段階を含むことを特徴とする薬剤学的活性成分の封入方法。
【請求項21】
請求項16による薬物伝達体と、
薬剤学的に許容される担体とを含むことを特徴とする薬剤学的組成物。
【請求項1】
直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、
表面作用基を有する多孔質シリカセル部とを含むことを特徴とする多孔性中空シリカナノ粒子。
【請求項2】
表面作用基は、−COOH、−CHO、−NH2 、−SH、−CONH2 、−PO3 H、−PO4 H、−SO3 H、−SO4 H、−OH、−NR4+X− 、−スルホン酸、−硝酸、−ホスホン酸、−スクシンイミジル基、−マレイミド基及び−アルキル基からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項3】
直径1nmないし100nmの中空を有するコア部と、
生体的合性高分子で表面改質された多孔質シリカセル部とを含むことを特徴とする多孔性中空シリカナノ粒子。
【請求項4】
生体的合性高分子は、重量平均分子量が100ないし100,000であることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項5】
生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルイミド、ポリビニルピロリドン、親水性ビニル系高分子及びこれらのうち2つ以上の共重合体からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項6】
生体的合性高分子は、ポリアルキレングリコールであることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項7】
生体的合性高分子は、ナノ粒子の質量対比5%ないし50%の量で含まれることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項8】
粒径は、20nmないし250nmであることを特徴とする請求項3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項9】
シリカセル部に導入された組職特異的結合成分をさらに含むことを特徴とする請求項1または3に記載の中空シリカナノ粒子。
【請求項10】
磁性ナノクラスター及びシリカ前駆体を混合する第1段階と、
シリカ前駆体を使って磁性ナノクラスターの表面にシリカセル部を形成する第2段階と、
シリカセル部内の磁性ナノクラスターを除去する第3段階と、
シリカセル部に表面作用基を導入する第4段階とを含むことを特徴とする中空シリカナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
中空シリカナノ粒子を生体的合性高分子で表面改質する第5段階をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
第1段階の磁性ナノクラスターは、
(1)磁性ナノ粒子を有機溶媒に溶解させてオイル状を製造する段階と、
(2)両親媒性化合物を水性溶媒に溶解させて水溶状を製造する段階と、
(3)前記オイル状及び水溶状を混合してエマルジョンを形成する段階と、
(4)前記エマルジョンからオイル状を分離する段階と、を含む方法で製造されることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
段階(1)の磁性ナノ粒子は、金属物質、磁性物質または磁性合金であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
金属物質は、Pt、Pd、Ag、Cu及びAuからなる群から選択された一つ以上であり、
磁性物質は、Co、Mn、Fe、Ni、Gd、Mo、MM’2 O4 、及びMxOy(M及びM’は、それぞれ独立的にCo、Fe、Ni、Mn、Zn、Gd、またはCrを表わし、0<x≦3、0<y≦5)からなる群から選択される一つ以上であり、
磁性合金は、CoCu、CoPt、FePt、CoSm、NiFe及びNiFeCoからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
シリカ前駆体は、アルコキシシランであることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし請求項8のうち何れか一項によるシリカナノ粒子と、
前記シリカナノ粒子の中空またはシリカセル部の気孔に封入された薬剤学的活性成分とを含むことを特徴とする薬物伝達体。
【請求項17】
下記式(1)で計算される薬剤学的活性成分の封入比率は、1%ないし100%であることを特徴とする請求項16に記載の薬物伝達体。
封入比率=(シリカナノ粒子内部の薬剤学的活性成分の重さ)/(シリカナノ粒子の重さ)×100 ……式(1)
【請求項18】
薬剤学的活性成分は、抗癌剤、抗生剤、ホルモン、ホルモン拮抗剤、インターロイキン、インターフェロン、成長因子、腫瘍壊死因子、エンドトキシン、リンホトキシン、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組職プラスミノゲン活性剤、プロテアーゼ阻害剤、アルキルホスホコリン、放射線同位元素標識物質、界面活性剤、心血管系薬物、胃腸管系薬物及び神経系薬物からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項16に記載の薬物伝達体。
【請求項19】
抗癌剤は、エピルビシン、ドセタキセル、ゲムシタビン、パクリタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、タキソール、プロカルバジン、シクロフォスファミド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エトポシド、タモキシフェン、ドキソルビシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、トランスプラチナ、ビンブラスチン及びメトトレキサートからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項18に記載の薬物伝達体。
【請求項20】
請求項1ないし請求項8のうち何れか一項による中空シリカナノ粒子と、薬剤学的活性成分とを、溶媒内で混合する段階を含むことを特徴とする薬剤学的活性成分の封入方法。
【請求項21】
請求項16による薬物伝達体と、
薬剤学的に許容される担体とを含むことを特徴とする薬剤学的組成物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−509404(P2010−509404A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549016(P2009−549016)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/KR2009/000123
【国際公開番号】WO2009/088250
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(506263491)インダストリー−アカデミック コーペレイション ファウンデイション, ヨンセイ ユニバーシティ (18)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/KR2009/000123
【国際公開番号】WO2009/088250
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(506263491)インダストリー−アカデミック コーペレイション ファウンデイション, ヨンセイ ユニバーシティ (18)
【Fターム(参考)】
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